<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照して説明する。
第1実施形態に係る付香用木材1は、酒類と接触させることによって酒類に香り付けを行う木材のことである。ここで、酒類は、酒類熟成用樽によって貯蔵及び熟成が行われる酒のことである。すなわち、酒類は、例えば、ウィスキー、ブランデー、ワイン、シェリー、日本酒等のことである。また、酒類熟成用樽は、酒類の貯蔵及び熟成に用いられる木製の樽のことである。以下では、一例として、酒類がウィスキーである場合について説明する。この場合、酒類熟成用樽は、ウィスキー熟成用樽である。ウィスキー熟成用樽は、ウィスキーの貯蔵及び熟成に用いられる樽のことである。
付香用木材1は、例えば、酒類熟成用樽の内面に用いられる木材である。この場合、付香用木材1は、酒類熟成用樽を形成する複数の板のうちの1つである。また、当該場合、付香用木材1は、ウィスキー熟成用樽に貯蔵されたウィスキーに対して、付香用木材1が有する面のうちウィスキーと接触している面から芳香成分を溶出する。その結果、酒類熟成用樽に貯蔵されたウィスキーは、甘く華やかな熟成香味を得る。ここで、芳香成分は、例えば、バニリン、アルデヒド類等のことである。
また、例えば、付香用木材1は、ウィスキーに浸漬される木材である。この場合、付香用木材1は、例えば、瓶詰めされたウィスキーに浸漬される木片である。当該場合も、付香用木材1は、付香用木材1が有する面のうちウィスキーと接触している面から芳香成分を溶出する。その結果、付香用木材1が浸漬されたウィスキーは、甘く華やかな熟成香味を得る。
また、付香用木材1として用いられる木材の種類は、如何なる種類であっても良い。例えば、当該木材の種類は、オーク材、ミズナラ材、クルミ材、ウォールナット材等である。以下では、一例として、当該木材の種類がオーク材である場合について説明する。また、当該木材は、木を切断することによって加工された材料(すなわち、板、木片等)に代えて、粉末状にした木を固めることによって成形された材料(すなわち、成形材)等の他の材料であってもよい。
このような付香用木材1は、表面の少なくとも一部がプラズマによって改質された木材である。換言すると、付香用木材1は、プラズマ処理が表面の少なくとも一部に行われた木材である。ここで、プラズマ処理は、プラズマを照射する処理のことである。例えば、付香用木材1は、付香用木材1が酒類熟成用樽の内面に用いられる木材である場合、付香用木材1の表面のうちの当該内面として配置される面にプラズマ処理が行われた木材である。また、例えば、付香用木材1は、ウィスキーに浸漬される木材である場合、付香用木材1の全表面にプラズマ処理が行われた木材である。これにより、付香用木材1の表面の少なくとも一部には、前述の芳香成分が生成されている。以下では、説明の便宜上、ある木材の表面のうちプラズマ処理を行う対象となる面のことを当該木材の処理対象面と称して説明する。
木材の処理対象面にプラズマ処理を行う方法は、火を用いて当該処理対象面に加熱処理を行う方法と比べて、プラズマが照射される当該処理対象面の温度、当該処理対象面へのプラズマの照射時間、当該処理対象面においてプラズマが照射される位置等の当該処理対象面へのプラズマの照射に係る条件を精度よく制御することが可能である。これにより、当該処理対象面にプラズマ処理を行う方法は、当該処理対象面において生成する芳香成分の量を、ウィスキーの製造者が所望する量に調整することができる。なお、ウィスキーの製造者は、酒類製造者の一例である。
すなわち、付香用木材1は、木材の処理対象面にプラズマ処理が行われたことによって、ウィスキーの製造者が所望する量の芳香成分が表面に生成されている木材である。
ここで、木材の処理対象面にプラズマ処理を行う従来の方法では、当該処理対象面に芳香成分を生成しようとした場合、水酸化ナトリウム水溶液のようなアルカリ溶液を当該処理対象面に浸潤させる必要があった。しかし、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液は、人体にとって有害である。このため、当該方法は、飲料であるウィスキーと接触させる当該処理対象面に対して用いることができなかった。
これに対し、付香用木材1は、アルカリ溶液と接触されることなく、プラズマ処理によって処理対象面が改質された木材である。このため、付香用木材1は、ウィスキーの製造者が所望する量の芳香成分をウィスキーに対して溶出させることができる。以下では、プラズマ処理によって木材の処理対象面を改質することによって付香用木材1が製造可能であることを説明する。
<芳香成分の生成方法、及び、生成された芳香成分の分析方法とその分析結果>
以下、図1を参照し、アルカリ溶液と接触させることなく、プラズマ処理によって木材の処理対象面を改質することにより、当該処理対象面に芳香成分を生成させる方法について説明する。また、図1を参照し、当該処理対象面に生成された芳香成分の分析方法とその分析結果について説明する。
図1は、プラズマ処理によって木材の処理対象面に芳香成分が生成されることを示す実験の手順の一例を示す図である。
以下では、説明の便宜上、図1に示したフローチャートの手順を実行する人を、試験者と称して説明する。また、以下では、芳香成分のうちのバニリンの生成を例に挙げて、芳香成分の生成について説明する。
試験者は、複数の試験片の中から、処理対象面にプラズマ処理を行う対象となる試験片を対象試験片として選択する。ここで、試験片は、プラズマ処理によって表面に芳香成分を生成させる試験片のことである。以下では、一例として、試験片が、American oak (Light toast)の板状の木片(1平方センチメートルの正方形状の木片、すなわちチップ)である場合について説明する。また、以下では、試験片が、予め火によって全表面がほぼ均一に焼かれた(すなわち、トースティングされた)木片である場合について説明する。当該場合、試験片の全表面の状態は、火による加熱処理が行われた後の酒類熟成用樽の内面とほぼ同じ状態である。また、当該場合、試験片の全表面の状態は、当該酒類熟成用樽のうち1回もウィスキーが貯蔵されていない当該酒類熟成用樽(すなわち、新品の当該酒類熟成用樽)の内面の状態とほぼ同じ状態である。なお、試験片は、当該板状の木片に代えて、他の種類の木材、他の形状の木材、他の大きさの木材等であってもよい。また、試験片は、予め火によって全表面がほぼ均一に焼かれた木片に代えて、火によって全表面のうちの少なくとも一部が焼かれていない木片であってもよい。
対象試験片を選択した後、試験者は、選択した対象試験片を、パルスアーク放電によって発生するプラズマを対象試験片に対して照射可能なプラズマ照射装置Xに取り付ける(ステップS110)。ここで、試験者は、対象試験片をプラズマ照射装置Xに取り付ける際、反応容器の素材であるステンレスへパルスアーク放電が照射されてしまうことを抑制するため、対象試験片を被覆しないように、プラズマ照射装置X内の空間に絶縁体をスペーサーとして充填する。当該絶縁体は、例えば、ポリ乳酸であるが、これに限られるわけではない。なお、プラズマ照射装置Xは、パルスアーク放電によって発生するプラズマに代えて、他の発生態様によって発生するプラズマを対象試験片に対して照射可能なプラズマ照射装置であってもよい。以下では、説明の便宜上、パルスアーク放電によって発生するプラズマを、単にプラズマと称して説明する。
ここで、プラズマ照射装置Xの仕様について説明する。図2は、プラズマ照射装置Xの仕様の一例を示す図である。例えば、プラズマ照射装置Xは、図2に示したように、内容積が15mLの耐圧硝子工業株式会社製の反応容器(材質がSUS316、最高使用圧力が30MPa、最高使用温度が200℃の反応容器)を有する。また、プラズマ照射装置Xは、パルスアーク放電を照射する電極として、ポリテトラフルオロエチレンによって被覆された銅電極を有する。また、プラズマ照射装置Xでは、当該電極と、取り付けられた対象試験片の表面との間の間隔は、2mmである。また、プラズマ照射装置Xは、電源として、株式会社末松電子製作所製MPC3000Cを有する。また、プラズマ照射装置Xの反応容器内温度は、室温である。また、プラズマ照射装置Xの反応容器内圧力は、大気圧である。なお、プラズマ照射装置Xの仕様は、パルスアーク放電によって発生するプラズマを、プラズマ照射装置Xに取り付けられた対象試験片に対して照射可能な他の仕様であってもよい。
プラズマ照射装置Xに対象試験片を取り付けた後、試験者は、プラズマ照射装置Xに設定されているプラズマの照射条件を、試験者が所望する照射条件に調整する(ステップS120)。ここで、プラズマの照射条件について説明する。当該照射条件は、プラズマ照射装置Xの銅電極に印加される電圧と、放電時間と、放電周波数(単位は、PPS;Pulse Per Second)とによって表される。以下では、一例として、当該電圧が13〜17kVである場合について説明する。この場合、当該照射条件は、放電時間と、放電周波数とによって表される。なお、当該電圧は、他の電圧の範囲であってもよい。すなわち、第1実施形態では、試験者は、ステップS120において、プラズマ照射装置Xに設定されている放電時間を試験者が所望する放電時間に調整するとともに、プラズマ照射装置Xに設定されている放電周波数を試験者が所望する放電周波数に調整する。これにより、プラズマ照射装置Xには、試験者が所望する放電時間と、試験者が所望する放電周波数とのそれぞれが設定される。
ここで、放電時間は、プラズマ照射装置Xがパルスアーク放電を発生させることによって対象試験片にプラズマを照射する時間のことである。放電周波数は、プラズマ照射装置Xに設定されている放電時間内においてプラズマ照射装置Xが単位時間あたりにパルスアーク放電を発生させる回数のことである。以下では、説明の便宜上、ステップS120においてプラズマ照射装置Xに設定された放電時間を対象放電時間と称して説明する。また、以下では、説明の便宜上、ステップS120においてプラズマ照射装置Xに設定された放電周波数を対象放電周波数と称して説明する。また、以下では、説明の便宜上、プラズマの照射条件のことを、単に照射条件と称して説明する。
次に、試験者は、ステップS110において対象試験片を取り付けたプラズマ照射装置Xと、プラズマ照射装置Xによるプラズマの照射条件とに基づいて、プラズマを照射し始めてから対象放電時間が経過するまでの間、対象放電周波数のパルスアーク放電を発生させ、対象試験片の表面のうち前述の銅電極側の面にプラズマを照射する(ステップS130)。すなわち、当該面は、対象試験片の処理対象面の一例である。なお、試験者は、ステップS130において、対象試験片の全表面にプラズマを照射してもよい。この場合、試験者は、プラズマ照射装置Xにおいて対象試験片の取り付け姿勢を変更しながら、プラズマの照射を繰り返し、当該取り付け姿勢を変更する毎にプラズマの照射を行うことによって、当該全表面にプラズマの照射を行う。
次に、試験者は、ステップS130において処理対象面にプラズマが照射された対象試験片を、エタノールに浸漬する(ステップS140)。ここで、試験者は、ステップS140において、当該対象試験片を、アルコール度数が63%のエタノールに3日以上浸漬する。なお、当該エタノールの容量は、対象試験片の重量1gに対して50mlである。以下では、一例として、試験者が、ステップS140において、当該対象試験片を当該エタノールに3日浸漬した場合について説明する。これにより、ステップS140において、プラズマの照射によって当該対象試験片の処理対象面に生成されたバニリンが、当該対象試験片からエタノール中に溶出される。なお、当該エタノールのアルコール度数を63%とした理由は、酒類熟成用樽に貯蔵される前のウィスキーのアルコール度数がおよそ63%であるためである。これにより、エタノールに浸漬された対象試験片の処理対象面の状態は、ウィスキーが貯蔵された酒類熟成用樽の内面の状態とほぼ同じ状態となる。
次に、試験者は、ステップS140において対象試験片が浸漬されたエタノールと、対象試験片とのそれぞれを分析する(ステップS150)。具体的には、試験者は、当該エタノールに対象試験片から溶出したバニリンの溶出量を、高速液体クロマトグラフィーとガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)とのうちの少なくとも一方によって測定する。高速液体クロマトグラフィーによる当該溶出量の測定方法、及び、ガスクロマトグラフィー質量分析法による当該溶出量の測定方法のそれぞれは、既知の方法であるため、説明を省略する。また、試験者は、当該エタノールから取り出した対象試験片の処理対象面を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)によって撮像する。電界放出型走査電子顕微鏡による当該処理対象面の撮像方法は、既知の方法であるため、説明を省略する。
そして、試験者は、ステップS150において、測定したバニリンの溶出量と、対象放電周波数と、対象放電時間とを対応付けて表等に記録する。また、試験者は、ステップS150において、撮像した撮像画像と、対象放電周波数と、対象放電時間とを対応付けてノート等に記録する。
以上のような手順により、試験者は、アルカリ溶液と接触させることなく、プラズマ処理によって対象試験片の処理対象面を改質して当該処理対象面に芳香成分を生成させるとともに、当該処理対象面に生成された芳香成分の分析を行うことができる。
<試験片の分析結果>
以下、図1に示したフローチャートの手順によって、互いに異なる照射条件に基づいてプラズマ照射装置Xからプラズマが照射された複数の試験片の分析結果について説明する。以下では、当該複数の試験片の分析結果の一例として、図3に示した15個の試験片それぞれについての分析結果について説明する。図3は、15個の試験片のそれぞれと、15個の試験片のそれぞれにプラズマが照射された際の照射条件との対応関係の一例を示す図である。
図3に示した例では、例えば、15個の試験片のうちサンプル1−1は、プラズマが照射されていない試験片を示す。また、例えば、15個の試験片のうちサンプル1−2は、放電時間が5秒であり、放電周波数が4ppsである場合におけるプラズマ照射装置Xからプラズマが照射された試験片を示す。また、例えば、15個の試験片のうちサンプル1−10は、放電時間が30秒であり、放電周波数が50ppsである場合におけるプラズマ照射装置Xからプラズマが照射された試験片を示す。また、例えば、15個の試験片のうちサンプル1−15は、放電時間が10秒であり、放電周波数が250ppsである場合におけるプラズマ照射装置Xからプラズマが照射された試験片を示す。
ここで、図4は、図3に示した15個の試験片のそれぞれについて測定されたバニリンの溶出量の一例が記録された表である。図4に示した表では、例えば、当該15個の試験片のうちプラズマを照射していない試験片(すなわち、図3に示したサンプル1−1)について測定されたバニリンの溶出量は、0.792ppmである。また、当該表では、例えば、放電時間が5秒であり、放電周波数が4ppsである場合においてプラズマが照射された試験片(すなわち、図3に示したサンプル1−2)について測定されたバニリンの溶出量は、0.874ppmである。また、当該表では、例えば、放電時間が30秒であり、放電周波数が50ppsである場合においてプラズマが照射された試験片(すなわち、図3に示したサンプル1−10)について測定されたバニリンの溶出量は、1.054ppmである。また、当該表では、例えば、放電時間が10秒であり、放電周波数が250ppsである場合においてプラズマが照射された試験片(すなわち、図3に示したサンプル1−15)について測定されたバニリンの溶出量は、1.190ppmである。
なお、図4に示した表において、放電周波数が250ppsである場合において、30秒以上の放電時間でプラズマが照射された試験片について測定されたバニリンの溶出量が記録されていない理由は、当該試験片の一部がプラズマの照射によって燃えてしまい、他の試験片と同様の溶出試験が出来なかったからである。これは、試験片が薄過ぎたために起きた現象であると考えられる。
図5は、図4に示した表に基づいて作成されたグラフの一例を示す図である。より具体的には、図5に示したグラフは、図4に示した表に基づいて、放電周波数毎に、放電時間の変化に対するバニリンの溶出量の変化をプロットしたグラフである。当該グラフの横軸は、放電時間を示す。また、当該グラフの縦軸は、ステップS150において測定されたバニリンの溶出量を示す。図5に示した曲線F0は、前述のサンプル1−1をアルコール度数が63%のエタノールに浸漬させた場合において、当該エタノール中に溶出したバニリンの溶出量を示す。なお、当該エタノールの容量は、サンプル1−1の重量1gに対して50mlである。サンプル1−1は、前述した通り、図3に示した15個の試験片のうちプラズマを照射していない試験片のことである。すなわち、曲線F0が示すバニリンの溶出量は、比較対象(又は基準)となる溶出量である。また、図5に示した曲線F1は、放電周波数が4ppsである場合における放電時間の変化に対するバニリンの溶出量の変化を示す。また、図5に示した曲線F2は、放電周波数が50ppsである場合における放電時間の変化に対するバニリンの溶出量の変化を示す。また、図5に示した曲線F3は、放電周波数が250ppsである場合における放電時間の変化に対するバニリンの溶出量の変化を示す。
ここで、図5に示したグラフの横軸における0〜10秒の区間では、曲線F1が示すバニリンの溶出量は、対象放電時間が長くなるにつれて増加している。ここで、前述した通り、試験片は、予め火によって全表面が均一に焼かれている。このため、試験片の全表面には、バニリンが予め含まれている。このことから、当該区間では、試験片の処理対象面に照射されたプラズマによって当該処理対象面から遊離したバニリンがエタノール中に溶出した結果、当該溶出量が増加したと考えられる。
また、図5に示した横軸の10〜30秒の区間では、曲線F1が示すバニリンの溶出量は、放電時間が長くなるにつれて減少している。当該区間では、当該横軸における0〜10秒の区間において試験片の処理対象面から遊離したバニリンが、当該処理対象面に照射されたパルスアーク放電によって分解されて減少した結果、当該溶出量が減少したと考えられる。
一方、図5に示した横軸の30〜180秒の区間では、曲線F1が示すバニリンの溶出量は、放電時間が長くなるにつれて、再び増加している。当該区間では、試験片の処理対象面に照射されたプラズマによって当該処理対象面に予め含まれていたバニリンが単位時間あたりに分解される量よりも、当該プラズマによって当該処理対象面においてリグニンからバニリンが単位時間あたりに生成される量の方が多くなった結果、当該溶出量が増加したと考えられる。また、図5に示したグラフでは、曲線F1が示すバニリンの溶出量は、当該横軸における全ての区間において、曲線F0が示すバニリンの溶出量よりも多くなっている。これはすなわち、試験者が、試験片の処理対象面にプラズマを照射することによって、試験片の表面に含まれるバニリンの量を、プラズマを照射しなかった試験片の表面に含まれるバニリンの量よりも多くすることができることを意味している。
また、図5に示した曲線F2が示すバニリンの溶出量の変化の傾向は、曲線F1が示すバニリンの溶出量の変化とほぼ同様の傾向である。ただし、図5に示したグラフにおいて、曲線F2が示すバニリンの溶出量は、当該グラフの横軸における全ての区間において、曲線F0及び曲線F1のそれぞれが示すバニリンの溶出量よりも多い。これはすなわち、プラズマ照射装置Xに設定される放電周波数を高くするほど、プラズマが照射された試験片の処理対象面においてリグニンから生成されるバニリンの量が増加することを意味している。また、これは、試験者が、当該放電周波数を調整することによって、当該処理対象面においてリグニンから生成されるバニリンの量を調整することができることを意味している。
このような図4及び図5の結果は、試験片の処理対象面に対して、何らかの溶液を浸潤させることなく、当該処理対象面にプラズマを照射することによって得られた結果である。このことから、プラズマを当該処理対象面に照射することによって当該処理対象面にバニリンを生成させる方法は、木材をアルカリ溶液と接触させることなく、プラズマ処理によって木材の処理対象面を改質することにより当該処理対象面に芳香成分を生成させる方法の一例であることが分かる。
以上のことから、プラズマ(第1実施形態において、パルスアーク放電によって発生するプラズマ)による木材の処理対象面の改質は、アルカリ溶液を用いずに、当該処理対象面に芳香成分(第1実施形態において、バニリン)を生成させることができることが分かる。そして、プラズマの照射条件と、プラズマが照射された当該処理対象面における単位面積あたりのバニリンの溶出量との相関関係を予め実験によって測定することにより、プラズマを照射した木材から当該木材に接触させた液体へのバニリンの溶出量を調整することができる。その結果、木材の処理対象面がプラズマによって改質された付香用木材1は、製造者が所望する量の芳香成分をウィスキーに対して溶出させることができる。
ここで、試験片の処理対象面にプラズマが照射された場合、当該処理対象面では、水分子とプラズマとの相互作用によって、ラジカルの生成、紫外線の放出、温度上昇、衝撃波の発生等の現象が生じる。当該場合、当該処理対象面においてバニリンが生成される理由は、これらの現象によって引き起こされているものと推定される。なお、当該温度上昇は、パルスアーク放電によって発生するプラズマの当該処理対象面への照射では、数百〜数千K程度の温度上昇である。
また、図6は、ステップS150において撮像された撮像画像のうち放電周波数が50pps、放電時間が120秒という照射条件の下でプラズマ照射装置Xからプラズマが照射された試験片の処理対象面が撮像された画像の一例を示す図である。また、図7は、ステップS150において撮像された撮像画像のうち放電周波数が50pps、放電時間が480秒という照射条件の下でプラズマ照射装置Xからプラズマが照射された試験片の処理対象面が撮像された画像の一例を示す図である。また、図8は、プラズマが照射されていない試験片の表面が電界放出型走査電子顕微鏡によって撮像された撮像画像である。
図6〜図8を比較することにより、試験片の処理対象面には、パルスアーク放電の照射によって、細孔が形成されることが分かる。また、図5〜図7を比較することにより、パルスアーク放電の放電時間を長くすると、当該処理対象面に形成される細孔は、増加することが分かる。
このように、試験片にプラズマを照射した場合、試験片の表面に細孔が形成され、当該表面の表面積が増大する。当該表面積の増大に伴い、プラズマの照射によって発生するラジカルが単位時間あたりに当該表面にアタックする数は、増大する。その結果、当該場合、当該表面では、リグニンからバニリンが生成される数が増大すると考えられる。
<第2実施形態>
第2実施形態に係る付香用木材2は、付香用木材1当該同様に、処理対象面がプラズマによって改質された木材である。ただし、付香用木材2は、ウィスキーの貯蔵用に1回以上使用された後の木材である。
ウィスキーの貯蔵用に使用された後の木材は、表面に含まれている芳香成分をウィスキーに溶出する。芳香成分をウィスキーに溶出した後の木材は、新たにウィスキーの貯蔵用に使用したとしても、芳香成分をウィスキーに溶出する前の木材と比較して、溶出する芳香成分が少ない。
しかし、このようなウィスキーの貯蔵用に使用された後の木材は、プラズマ処理を行うことによって、表面に含まれる芳香成分を増加させることができる。
すなわち、付香用木材2は、ウィスキーと接触させられた後に、プラズマによって処理対象面が改質された木材である。換言すると、付香用木材2は、ウィスキーの貯蔵用に1回以上使用された後に、処理対象面にプラズマ処理が行われた木材である。これにより、付香用木材2の処理対象面には、芳香成分が再生成されている。その結果、付香用木材2は、付香用木材1と同様に、製造者が所望する量の芳香成分をウィスキーに溶出させることができる。
以下では、プラズマ処理によって、ウィスキーの貯蔵用に1回以上使用された後の木材の処理対象面を改質することによって付香用木材2が製造可能であることを説明する。
<芳香成分の再生成方法>
以下、アルカリ溶液と接触させることなく、プラズマ処理によって、ウィスキーの貯蔵用に1回以上使用された後の木材の処理対象面を改質することにより、当該処理対象面に芳香成分を再生成させる方法について説明する。以下では、一例として、第2試験片と第3試験片とのそれぞれの処理対象面に対してプラズマ処理を行った場合を例に挙げて、当該方法について説明する。
まず、第2試験片について説明する。
第2試験片は、第1実施形態において説明した試験片と同様に、American oak (Light toast)の板状の木片(1平方センチメートルの正方形の木片、すなわちチップ)である。また、第2試験片は、当該試験片と同様に、本実施例に用いた試験片は、予め火によって全表面がほぼ均一に焼かれた(すなわち、トースティングされた)木片である。また、第2試験片は、アルコール度数が63%のエタノールに3日間浸漬させた後、ウエス(例えば、キムワイプ(登録商標)等)でエタノール分を取り除き、乾燥機によって60℃で12時間乾燥させた木片である。このような第2試験片の全表面の状態は、ウィスキーの貯蔵用に1回以上使用された後の酒類熟成用樽の内面とほぼ同じ状態である。なお、上記において第2試験片を当該エタノールに浸漬させた時間である当該3日間は、あくまでも一例である。このため、試験者が第2試験片を当該エタノールに浸漬させる時間は、当該3日間に代えて、試験者が所望する他の時間であってもよい。
試験者は、例えば、図9に示した15個の第2試験片それぞれについて、図1に示したフローチャートの手順に従って、プラズマ処理によって第2試験片の処理対象面を改質して当該処理対象面に芳香成分を再生成させるとともに、当該処理対象面に再生成された芳香成分の分析を行うことができる。ただし、試験者は、当該フローチャートのステップS110の手順において第2試験片をプラズマ照射装置Xに取り付ける際、第2試験片を蒸留水に10秒間浸漬させてから表面の水気をウエス(例えば、キムワイプ(登録商標)等)によって取り除いてから、第2試験片をプラズマ照射装置Xに取り付ける。これにより、試験者は、第2試験片の表面に水気を含ませた状態を作り出し、当該状態を保持したまま、プラズマ照射装置Xに取り付けた第2試験片にプラズマを照射することができる。図9は、15個の第2試験片のそれぞれと、15個の第2試験片のそれぞれにプラズマが照射された際の照射条件との対応関係の一例を示す図である。
図9に示した例では、例えば、15個の第2試験片のうちサンプル2−1は、プラズマが照射されていない第2試験片を示す。また、例えば、15個の第2試験片のうちサンプル2−2は、放電時間が5秒であり、放電周波数が4ppsである場合におけるプラズマ照射装置Xからプラズマが照射された第2試験片を示す。また、例えば、15個の第2試験片のうちサンプル2−10は、放電時間が30秒であり、放電周波数が50ppsである場合におけるプラズマ照射装置Xからプラズマが照射された第2試験片を示す。また、例えば、15個の第2試験片のうちサンプル2−15は、放電時間が10秒であり、放電周波数が250ppsである場合におけるプラズマ照射装置Xからプラズマが照射された第2試験片を示す。
ここで、図10は、図9に示した15個の第2試験片のそれぞれについて測定されたバニリンの溶出量の一例が記録された表である。図10に示した表では、例えば、当該15個の第2試験片のうちプラズマを照射していない第2試験片(すなわち、図9に示したサンプル2−1)について測定されたバニリンの溶出量は、0.083ppmである。また、当該表では、例えば、放電時間が5秒であり、放電周波数が4ppsである場合においてプラズマが照射された第2試験片(すなわち、図9に示したサンプル2−2)について測定されたバニリンの溶出量は、0.072ppmである。また、当該表では、例えば、放電時間が30秒であり、放電周波数が50ppsである場合においてプラズマが照射された第2試験片(すなわち、図9に示したサンプル2−10)について測定されたバニリンの溶出量は、0.328ppmである。また、当該表では、例えば、放電時間が10秒であり、放電周波数が250ppsである場合においてプラズマが照射された第2試験片(すなわち、図3に示したサンプル2−15)について測定されたバニリンの溶出量は、0.474ppmである。
なお、図10に示した表において、放電周波数が250ppsである場合において、30秒以上の放電時間でプラズマが照射された第2試験片について測定されたバニリンの溶出量が記録されていない理由は、当該第2試験片の一部がプラズマの照射によって燃えてしまい、他の第2試験片と同様の溶出試験が出来なかったからである。これは、第2試験片が薄過ぎたために起きた現象であると考えられる。
図11は、図10に示した表に基づいて作成されたグラフの一例を示す図である。より具体的には、図11に示したグラフは、図10に示した表に基づいて、放電周波数毎に、放電時間の変化に対するバニリンの溶出量の変化をプロットしたグラフである。当該グラフの横軸は、放電時間を示す。また、当該グラフの縦軸は、ステップS150において測定されたバニリンの溶出量を示す。図11に示した曲線F4は、前述のサンプル2−1をアルコール度数が63%のエタノールに浸漬させて場合において、当該エタノール中に溶出したバニリンの溶出量を示す。なお、当該エタノールの容量は、サンプル2−1の重量1gに対して50ml重量である。サンプル2−1は、前述した通り、図9に示した15個の第2試験片のうちプラズマを照射していない第2試験片のことである。すなわち、曲線F0が示すバニリンの溶出量は、比較対象(又は基準)となる溶出量である。また、図11に示した曲線F5は、放電周波数が4ppsである場合における放電時間の変化に対するバニリンの溶出量の変化を示す。また、図11に示した曲線F6は、放電周波数が50ppsである場合における放電時間の変化に対するバニリンの溶出量の変化を示す。また、図11に示した曲線F7は、放電周波数が250ppsである場合における放電時間の変化に対するバニリンの溶出量の変化を示す。
ここで、図11に示したグラフの横軸における全ての区間において、曲線F5、曲線F6、曲線F7のそれぞれが示すバニリンの溶出量は、放電時間が長くなるにつれて増加している。また、当該グラフでは、曲線F5、曲線F6、曲線F7のそれぞれが示すバニリンの溶出量は、当該横軸における全ての区間において、曲線F4が示すバニリンの溶出量よりも多くなっている。これはすなわち、試験者が、第2試験片の処理対象面にプラズマを照射することによって、第2試験片の表面に含まれるバニリンの量を、プラズマを照射しなかった第2試験片の表面に含まれるバニリンの量よりも多くすることができることを意味している。従って、試験者は、プラズマを第2試験片の処理対象面に照射することによって、当該処理対象面にバニリンを再生成させることができる。
また、図11に示した曲線F6が示すバニリンの溶出量の変化の傾向は、曲線F5が示すバニリンの溶出量の変化とほぼ同様の傾向である。ただし、図11に示したグラフにおいて、曲線F6が示すバニリンの溶出量は、当該グラフの横軸における全ての区間において、曲線F5のそれぞれが示すバニリンの溶出量よりも多い。これはすなわち、プラズマ照射装置Xに設定される放電周波数を高くするほど、当該処理対象面においてリグニンから生成されるバニリンの量が増加することを意味している。また、これは、試験者が、当該放電周波数を調整することによって、当該処理対象面においてリグニンから生成されるバニリンの量を調整することができることを意味している。
このような図10及び図11の結果は、第2試験片の処理対象面に対して、何らかの溶液を浸潤させることなく、当該処理対象面にプラズマを照射することによって得られた結果である。このことから、プラズマを当該処理対象面に照射することによって当該処理対象面にバニリンを再生成させる方法は、木材をアルカリ溶液と接触させることなく、プラズマ処理によって、ウィスキーの貯蔵用に1回以上使用された後の木材の処理対象面を改質することにより当該処理対象面に芳香成分を再生成させる方法の一例であることが分かる。
次に、第3試験片について説明する。
第3試験片は、第1実施形態において説明した試験片と同様に、American oak (Light toast)の板状の木片(1平方センチメートルの正方形の木片、すなわちチップ)である。また、第3試験片は、当該試験片と同様に、本実施例に用いた試験片は、予め火によって全表面がほぼ均一に焼かれた(すなわち、トースティングされた)木片である。また、第3試験片は、アルコール度数が63%のエタノールに3日間浸漬させた後、ウエス(例えば、キムワイプ(登録商標)等)でエタノール分を取り除き、乾燥機によって60℃で12時間乾燥させた木片である。このような第3試験片の全表面の状態は、ウィスキーの貯蔵用に1回以上使用された後の酒類熟成用樽の内面とほぼ同じ状態である。なお、上記において第3試験片を当該エタノールに浸漬させた時間である当該3日間は、あくまでも一例である。このため、試験者が第3試験片を当該エタノールに浸漬させる時間は、当該3日間に代えて、試験者が所望する他の時間であってもよい。
試験者は、例えば、図12に示した9個の第3試験片それぞれについて、図1に示したフローチャートの手順に従って、プラズマ処理によって第3試験片の処理対象面を改質して当該処理対象面に芳香成分を再生成させるとともに、当該処理対象面に再生成された芳香成分の分析を行うことができる。図12は、9個の第3試験片のそれぞれと、9個の第3試験片のそれぞれにプラズマが照射された際の照射条件との対応関係の一例を示す図である。なお、試験者は、ステップS130において、第3試験片をプラズマ照射装置Xに取り付けた後、1mlピペッターで蒸留水1mlを第3試験片の処理対象面に滴下した。
図12に示した例では、例えば、9個の第3試験片のうちサンプル3−1は、プラズマが照射されていない第3試験片を示す。また、例えば、9個の第3試験片のうちサンプル3−2は、放電時間が120秒であり、放電周波数が4ppsである場合におけるプラズマ照射装置Xからプラズマが照射された第3試験片を示す。また、例えば、9個の第3試験片のうちサンプル3−9は、放電時間が480秒であり、放電周波数が50ppsである場合におけるプラズマ照射装置Xからプラズマが照射された第3試験片を示す。
ここで、図13は、図12に示した9個の第3試験片のそれぞれについて測定されたバニリンの溶出量の一例が記録された表である。図13に示した表では、例えば、当該9個の第3試験片のうちプラズマを照射していない第3試験片(すなわち、図12に示したサンプル3−1)について測定されたバニリンの溶出量は、0.119ppmである。また、当該表では、例えば、放電時間が120秒であり、放電周波数が4ppsである場合においてプラズマが照射された第3試験片(すなわち、図12に示したサンプル3−2)について測定されたバニリンの溶出量は、0.161ppmである。また、当該表では、例えば、放電時間が480秒であり、放電周波数が50ppsである場合においてプラズマが照射された第3試験片(すなわち、図12に示したサンプル3−9)について測定されたバニリンの溶出量は、0.161ppmである。
図14は、図13に示した表に基づいて作成されたグラフの一例を示す図である。より具体的には、図14に示したグラフは、図13に示した表に基づいて、放電周波数毎に、放電時間の変化に対するバニリンの溶出量の変化をプロットしたグラフである。当該グラフの横軸は、放電時間を示す。また、当該グラフの縦軸は、ステップS150において測定されたバニリンの溶出量を示す。図14に示した曲線F8は、前述のサンプル3−1をアルコール度数が63%のエタノールに浸漬させて場合において、当該エタノール中に溶出したバニリンの溶出量を示す。サンプル3−1は、前述した通り、図13に示した9個の第3試験片のうちプラズマを照射していない第3試験片のことである。すなわち、曲線F8が示すバニリンの溶出量は、比較対象(又は基準)となる溶出量である。また、図14に示した曲線F9は、放電周波数が4ppsである場合における放電時間の変化に対するバニリンの溶出量の変化を示す。また、図14に示した曲線F10は、放電周波数が50ppsである場合における放電時間の変化に対するバニリンの溶出量の変化を示す。
ここで、図14に示したグラフの横軸における全ての区間において、曲線F9が示すバニリンの溶出量は、対象放電時間が長くなるにつれて増加している。また、当該グラフでは、曲線F9が示すバニリンの溶出量は、当該横軸における全ての区間において、曲線F8が示すバニリンの溶出量よりも多くなっている。これはすなわち、試験者が、第3試験片の処理対象面にプラズマを照射することによって、第3試験片の表面に含まれるバニリンの量を、プラズマを照射しなかった第3試験片の表面に含まれるバニリンの量よりも多くすることができることを意味している。従って、試験者は、プラズマを第3試験片の処理対象面に照射することによって、当該処理対象面にバニリンを再生成させることができる。
また、図14に示したグラフの横軸の120〜480秒の区間では、曲線F10が示すバニリンの溶出量は、放電時間が長くなるにつれて減少している。当該区間では、当該横軸における0〜120秒の区間において第3試験片の処理対象面に再生成されたバニリンが、当該処理対象面に照射されたプラズマによって分解されて減少した結果、当該溶出量が減少したと考えられる。
しかしながら、図14に示したグラフでは、曲線F10が示すバニリンの溶出量は、当該横軸における全ての区間において、曲線F8が示すバニリンの溶出量よりも多くなっている。これはすなわち、試験者が、第3試験片の処理対象面にプラズマを照射することによって、第3試験片の表面に含まれるバニリンの量を、プラズマを照射しなかった第3試験片の表面に含まれるバニリンの量よりも多くすることができることを意味している。
このような図13及び図14の結果は、第3試験片の処理対象面に対して、何らかの溶液を浸潤させることなく、当該処理対象面にプラズマを照射することによって得られた結果である。このことから、プラズマを当該処理対象面に照射することによって当該処理対象面にバニリンを再生成させる方法は、木材をアルカリ溶液と接触させることなく、プラズマ処理によって、ウィスキーの貯蔵用に1回以上使用された後の木材の処理対象面を改質することにより当該処理対象面に芳香成分を再生成させる方法の一例であることが分かる。
ここで、図11及び図14に示したバニリンの溶出量の変化は、横軸を放電回数に直したグラフによって表すこともできる。ここで、放電回数は、放電周波数に放電時間を乗じて得られる数である。図15は、放電回数の変化に対するバニリンの溶出量の変化を表すグラフの一例を示す図である。図15に示したグラフの横軸は、放電回数を示す。当該グラフの縦軸は、バニリンの溶出量を示す。当該グラフに示した丸いプロットは、図11に示した表に含まれているバニリンの溶出量についてのプロットである。当該グラフに示した三角のプロットは、図14に示した表に含まれているバニリンの溶出量についてのプロットである。
図15に示したように、丸いプロット及び三角のプロットそれぞれが示すバニリンの溶出量は、図15に示したグラフの横軸における0〜10000回の区間において、放電回数が増えるにつれて増加している。一方、当該溶出量は、当該横軸における10000〜25000回の区間において、放電回数が増えるにつれて減少している。これは、試験者が、第2試験片及び第3試験片を用いた場合、放電回数を調整することによって、エタノールへのバニリンの溶出量を調整することができることを意味している。
<エタノールへのアルデヒド類の溶出>
ここで、図1に示したステップS150の分析において、高速液体クロマトグラフィーによって前述の第2試験片が3日間浸漬されたエタノール中から検出された芳香成分について説明する。エタノール中に溶出していた芳香成分には、バニリンに加えて、アルデヒド類が含まれていた。
図16は、高速液体クロマトグラフィーによってエタノール中から検出された芳香成分の一例を示す図である。図16に示したピークPK1〜ピークPK6のそれぞれは、エタノール中から検出された芳香成分を示す。ピークPK1は、バニリンを示す。ピークPK2は、シリングアルデヒドを示す。ピークPK3は、シナピルアルデヒドを示す。ピークPK4は、コニフェリルアルデヒドを示す。ピークPK5は、エラジックアシッドを示す。ピークPK6は、4-ビニルグアイアコールを示す。
このように、プラズマを第2試験片の処理対象面に照射した場合、当該処理対象面には、バニリンに加えて、アルデヒド類が生成されることが分かる。
図17は、放電周波数毎に、放電時間の変化に対するアルデヒド類の溶出量の変化をプロットしたグラフである。ここで、当該溶出量は、第2試験片から測定された全種類のアルデヒド類の溶出量の総和である。以下では、説明の便宜上、当該総和を、全アルデヒド類溶出量と称して説明する。すなわち、図17は、換言すると、放電周波数毎に、放電時間の変化に対する全アルデヒド類溶出量の変化をプロットしたグラフである。
図17に示したように、全アルデヒド類溶出量は、各放電周波数のそれぞれにおいて、放電時間が長くなるにつれて増加している。これはすなわち、プラズマを木材の処理対象面に照射することによって当該処理対象面にバニリンを生成(又は再生成)させる方法は、木材をアルカリ溶液と接触させることなく、プラズマ処理によって木材の処理対象面を改質することにより当該処理対象面にバニリン以外の芳香成分も生成させることができることを示している。
なお、上記において説明した付香用木材1、付香用木材2のうちいずれか一方又は両方は、酒類熟成用樽に含まれてもよい。換言すると、酒類熟成用樽は、付香用木材1、付香用木材2のうちいずれか一方又は両方を用いて形成されてもよい。
また、上記において説明した付香用木材1、付香用木材2のうちいずれか一方又は両方を用いた酒類の製造方法は、付香用木材1、付香用木材2のいずれか一方又は両方に酒類を接触させることである。これにより、当該製造方法は、付香用木材1、付香用木材2のいずれか一方又は両方と接触した酒類を、熟成香味を有する酒類となることができる。
以上のように、実施形態に係る付香用木材(上記において説明した例では、付香用木材1、付香用木材2)は、表面がプラズマによって改質された木材である。これにより、付香用木材は、製造者が所望する量の芳香成分を酒類に対して溶出させることができる。
また、付香用木材は、オーク材である、構成が用いられてもよい。
また、付香用木材は、酒類への付香用木材である、構成が用いられてもよい。
また、付香用木材は、酒類の貯蔵用に1回以上使用された後の木材である、構成が用いられてもよい。
また、付香用木材では、酒類は、ウィスキーである、構成が用いられてもよい。
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない限り、変更、置換、削除等されてもよい。