JP2020029418A - リポソームの製造法および安定化方法 - Google Patents

リポソームの製造法および安定化方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 外的な応力を加えることなく、自然に自己組織化する(自然に生成する)リポソームの製造方法を提供する。また、外的な応力を加えて製造した場合であっても、凝集を起こさないなどの経時的な安定性を有するリポソームの安定化方法を提供する。【解決手段】 リン脂質とN−アシルアルギニンアルキルエステル塩を混合して混合物を得る工程、前記混合物と水溶性溶媒とを接触させて水溶性混合物を得る工程、を含む、リポソームの製造方法を用いる。【選択図】 図1

Description

本発明は、リポソームの製造方法および安定化方法に関する。
リポソームは、ベシクルとも称され、脂質の2分子膜の親水性基側を水溶媒に向けて球状に閉じた構成を有している。この構造は、細胞や小器官などの生体膜の構造と基本的に同一のものであり、リポソームは、生化学の研究に必要不可欠なものとなっている。また、リポソームは、その内部に、親水性物質および親油性物質の双方を保持できるため、ドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用研究が盛んにおこなわれている。
リポソームは、その大きさや、2分子膜の積層性にもとづいて、以下のように分類されることが多い。多重膜リポソーム(Multilamellar vesicle:MLV、500nm〜10μm)、小さな一枚膜リポソーム(Small unilamellar vesicle:SUV、100nm以下)、大きな一枚膜ベシクル(Large unilamellar vesicle:LUV、100〜1000nm)などである。
また、これらの各種リポソームの製造方法としても多種多様のものが知られ、例えば、バンガム法、超音波処理法、有機溶媒注入法、界面活性剤除去法、逆相蒸発法、凍結解凍透析法などがあげられる(非特許文献1)。
しかし、これらの製造方法は、いずれもリン脂質と水溶性溶媒とを接触させ、外的な応力を加えることにより、リポソームを製造するものである。このため、製造工程が複雑になり、また、リポソームに保持させたい薬剤の有効性に影響を与える恐れがあった。また、このようにして製造したリポソームであっても、経時的な安定性が低く、時間の経過とともに、リポソーム同士が凝集するなどの問題があった。
また、特許文献1には、リン脂質とN−ココイルアルギニンエチルエステルピロリドンカルボン酸塩を用いたリポソームが開示されているが、安定性を維持するために、コレステロールまたはフィトステロール、並びに、ポリアミノ酸を必須成分として用いている。
WO2014/069631
A. D. Bangham, M. M. Standish, J. C. Watkins (1965), Mol. Biol., 13, 238.
本発明の1つの課題は、外的な応力を加えることなく、自然に自己組織化する(自然に生成する)リポソームの製造方法を提供することにある。
また、本発明の更なる課題は、外的な応力を加えて製造した場合であっても、凝集を起こさないなどの経時的な安定性を有するリポソームの安定化方法を提供することにある。
本発明の1つの態様は、リポソームを構成するリン脂質に、特定の界面活性剤を混合することにより、外的な応力を加えることなく、水と接触させるだけで、spontateoulyに(自然に)自己組織化し、リポソームを形成することを見出した。
また、本発明の他の態様は、リン脂質と特定の界面活性剤とを混合し、水と接触させた後に、外的な応力を加えてリポソームを製造した場合において、ステロールやポリアミノ酸等を必要とすることなく、安定なリポソームを得られることを見出した。
すなわち、本発明は、以下に示すものである。
[1]リン脂質と界面活性剤を混合して混合物を得る工程、前記混合物と水溶性溶媒とを接触させる工程、を含む、リポソームの製造方法。
[2]前記混合物と水とを接触させる際および/または接触させた後に、外的な応力を加える工程を有しない、[1]に記載の方法。
[3]リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロールおよびホスファチジン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]界面活性剤が、カチオン界面活性剤および/またはリゾレシチンである、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5]カチオン界面活性剤が、4級アンモニウム塩および/またはN−アシルアルギニンアルキルエステル塩である、[4]に記載の方法。
[6]水溶性溶媒以外の物質として、10〜99.9質量%のリン脂質と、0.1〜90質量%のN−アシルアルギニンアルキルエステル塩と、20質量%未満のステロールとを含有するリポソーム。
[7]リン脂質とN−アシルアルギニンアルキルエステル塩を混合して混合物を得る工程、前記混合物と水溶性溶媒とを接触させて水溶性混合物を得る工程、前記水溶性混合物に外的な応力を加える工程、を含む、リポソームの安定化方法。
本発明により、外的な応力を加えることなく、自然に自己組織化する(自然に生成する)リポソームの製造方法を提供することができる。
また、本発明により、外的な応力を加えて製造した場合であっても、凝集を起こさないなどの経時的な安定性を有するリポソームの安定化方法を提供することができる。
本発明の方法により製造したリポソームの顕微鏡写真である。 本発明の方法により製造したリポソームの経時安定性を示す図である。
<用いる物質>
本発明に用いられるリン脂質としては、脂質2分子膜を形成するものであれば特に限定はないが、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロールおよびホスファチジン酸等を上げることができる。これらの中でも、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンが好ましく、ホスファチジルコリンがより好ましい。
リン脂質のアルキル基としては、2本鎖のものが好ましいが、2本のアルキル鎖が同一の長さであるか、異なる長さであかは問わない。リン脂質の具体例としては、例えば、ホスファチジルコリンを例にとると、大豆レシチン、卵黄レシチン等の天然のホスファチジルコリン;1−ステアロイル−2−オレイル−ホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレイルホスファチジルコリン等を挙げることができる。
本発明に用いる界面活性剤としては、リン脂質と混合した後に水溶性溶媒と接触させることによりリポソームを製造することができるものであれば特に制限はないが、例えば、リゾレシチンやカチオン界面活性剤があげられる。これらの中でも、カチオン界面活性剤が好ましい。カチオン界面活性剤としては、例えば、4級アンモニウム塩を上げることができ、この中でも、1鎖型の4級アンモニウム塩が好ましい。4級アンモニウム塩のアルキル鎖長としては、C12〜C18のものを挙げることができる。4級アンモニウム塩の塩としては、例えば、塩酸塩、臭酸塩等を挙げることができる。
また、他のカチオン界面活性剤としては、N−アシルアルギニンアルキルエステル塩を好ましい例として挙げることができる。N−アシルアルギニンアルキルエステル塩のアシル基としては、リポソームを形成できるものであれば特に制限はないが、例えば、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレイル基、ココイル基などを挙げることできる。また、N−アシルアルギニンアルキルエステル塩のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を挙げることができる。さらに、N−アシルアルギニンアルキルエステル塩の塩としては、例えば、塩酸塩、臭酸塩、ピロリドンカルボン酸塩などを挙げることができる。
本発明に用いられる水溶性溶媒としては、水を挙げることができ、水中に水溶性成分が溶解したものも水溶性溶媒として用いることができる。水溶性成分としては、水に溶解するものであれば特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、グリセリン、ソルビトール等のポリオール、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、リン酸などの塩を挙げることができる。
本発明のリポソームの原料としては、コレステロールやフィトステロールなどのステロール類はリン脂質および界面活性剤の全質量に対して20質量%未満とすることが好ましい。ステロール類を20質量%未満とすることにより、安定なリポソームを得ることができる。
<リポソームの製造方法>
本発明においてリン脂質および界面活性剤を自然に自己組織化させてリポソームを製造する方法としては、まずリン脂質と界面活性剤を混合する。これらを混合するには、例えば、クロロホルムやメタノール、エタノール等の有機溶媒にリン脂質と界面活性剤を溶解して混合することが挙げられる。その後、有機溶媒を蒸発させ、リン脂質と界面活性剤との均一な混合物を得る。その後、この混合物に水などの水溶性溶媒を接触させる。水溶性溶媒を接触させる際は、特に外的な応力を必要とせず、前記混合物に水溶性溶媒を静かに接触させる(注ぐ)こととなる。
この際に、はじめは、前記混合物から水溶性溶媒が接触した部分から、「ミエリン」と呼ばれる脂質2分子膜がチューブ状に閉じた構造物が伸長し始める。
そして、時間の経過とともに、ミエリンの先端が膨らみ、その後ちぎれてリポソームを形成することとなる(図1参照)。
このようにして、リン脂質および界面活性剤を自然に自己組織化させてリポソームを製造することができる。この場合、製造されたリポソームは、自己組織化されているため、非常に安定なものとなる。この場合に製造されるリポソームは、MLVとなる可能性が大きい。
<リポソームの安定化方法>
次に、外的な応力を加えてリポソームを安定化する方法について説明する。まず、本発明において、外力を加えてリポソームを製造する方法としては、リン脂質と界面活性剤を混合する。これらを混合するには、例えば、クロロホルムやメタノール、エタノール等の有機溶媒にリン脂質と界面活性剤を溶解して混合することが挙げられる。その後、有機溶媒を蒸発させ、リン脂質と界面活性剤との均一な混合物を得る。その後、この混合物に水などの水溶性溶媒を接触させる。次に、水と接触させた前記混合物を、振とう、ボルテックスミキサー、攪拌、超音波照射等により外的な応力を加えて、リポソームを製造する。この場合、振とう、ボルテックスミキサー、攪拌によって得られるリポソームは、MLVとなる可能性が大きく、超音波照射により得られるリポソームは、SUVとなる可能性が大きい。
このようにして得られたリポソームは、いずれも安定性が高く、特定の界面活性剤を併用することにより、リポソームの安定化を図ることができる。
いか、実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の試料を用いてリポソームを自然に自己組織化して製造した。
リン脂質:大豆レシチン(商品名:エピクロン200、ルーカスマイヤー社製)
界面活性剤:N−ミリストイルアルギニンエチルエステル塩酸塩(MAE・HCl)(味の素社製)
大豆レシチンとMAE・HClをクロロホルムに溶解して混合し、真空デシケーター中でクロロホルムを留去し、試料として混合物を得た。この試料を光学顕微鏡用のスライドグラスに採取し、80μmのスペーサーを介してカバーグラスを配置した。スライドグラスとカバーグラスの隙間から蒸留水を投入して、試料と蒸留水を接触させた。時間経過に伴う試料と蒸留水の接触面を光学顕微鏡により観察した。結果を図1に示す。
図1では、試料中のMAE・HCl濃度を0、5、7質量%に変化させ、蒸留水と接触後1、3、6、12時間後の試料の様子を示す。蒸留水と接触後1時間後では、いずれの濃度の場合も、試料と蒸留水との接触面からミエリンが成長している様子が観察された。そして、MAE・HCl濃度が0質量%の場合は、ミエリンの先端が6時間後になってようやく膨らみ始めるのに対し、5質量%では3時間、7質量%では1時間ですでにミエリンの先端が膨らみ始めていることが明確に観察された。そして、蒸留水と接触後12時間後において、MAE・HCl濃度が0質量%の場合はミエリンのふくらみは観察されるもののリポソームの生成は観察されず、一方MAE・HCl濃度が5質量%および7質量%においては、球状のリポソームが生成していることが明確に観察された。
よって、リン脂質にMAE・HClを混合することにより、自然に自己組織化してリポソームが生成することが分かった。
大豆レシチンとMAE・HClをクロロホルムに溶解して混合した後、クロロホルムを留去し、10質量%のMAE・HClを含む試料を得た。試料をサンプル管(内径1.3cm、容量3ml)に約0.3g取り、蒸留水を加えて試料が3質量%になるように調製後、Bath型の超音波照射装置(BRANSONIC社製、model 220、100W、50〜55kHz)にサンプル管を入れ、超音波照射した。超音波照射により試料溶液は半透明の状態となり、SUVが生成したものと判断した。
同時に、比較対象として、MAE・HClを含まない試料も同様にして調製した。
次に、得られたSUVの試料について透過率の経時変化を観察した。結果を図2に示す。
図2において、超音波照射直後の透過率を1.0とし、経時的な透過率の変化を観察した。その結果、MAE・HClを10質量%含む試料においては、21日間(3週間)保存しても透過率の変化がなかったのに対し、MAE・HClを含まない試料においては、超音波照射直後から透過率の減少が起こっていることが分かった。ここで、透過率が減少するのは、SUV同士が合一し、リポソームの安定性が悪くなっていることを示す。
したがって、リン脂質にMAE・HClを混合することにより、外的な応力を加えてリポソームを製造した場合において、リポソームを安定化させることが可能となることが分かった。

Claims (7)

  1. リン脂質と界面活性剤を混合して混合物を得る工程、前記混合物と水溶性溶媒とを接触させる工程、を含む、リポソームの製造方法。
  2. 前記混合物と水とを接触させる際および/または接触させた後に、外的な応力を加える工程を有しない、請求項1に記載の方法。
  3. リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロールおよびホスファチジン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 界面活性剤が、カチオン界面活性剤および/またはリゾレシチンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. カチオン界面活性剤が、4級アンモニウム塩および/またはN−アシルアルギニンアルキルエステル塩である、請求項4に記載の方法。
  6. 水溶性溶媒以外の物質として、10〜99.9質量%のリン脂質と、0.1〜90質量%のN−アシルアルギニンアルキルエステル塩と、20質量%未満のステロールとを含有するリポソーム。
  7. リン脂質とN−アシルアルギニンアルキルエステル塩を混合して混合物を得る工程、前記混合物と水溶性溶媒とを接触させて水溶性混合物を得る工程、前記水溶性混合物に外的な応力を加える工程、を含む、リポソームの安定化方法。
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