以下、本発明の実施の形態による建設機械として、油圧ショベルを例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
ここで、図1ないし図12は本発明の実施の形態を示している。図1および図2に示すように、油圧ショベル1は、自走可能なクローラ式の下部走行体2と、移動手段となる下部走行体2上に旋回装置3を介して旋回可能に搭載された上部旋回体4と、上部旋回体4の前側に設けられ掘削作業等を行う多関節構造の作業装置5とを備えている。下部走行体2は、走行動作を行うための油圧モータ2Aを備えている。旋回装置3は、旋回動作を行うための油圧モータ3Aを備えている。なお、下部走行体2としてクローラ式を例示したが、ホイール式でもよい。
上部旋回体4は、旋回フレーム6上に設けられエンジン20等が収容された建屋カバー7と、運転席8を内包するキャブ9とを備えている。モニタ装置10は、運転席8の前方に位置して、キャブ9内に設けられている。モニタ装置10は、コントローラ41に接続されている。モニタ装置10は、コントローラ41からの信号を受信して、機械の稼動情報を表示する。図3に示すように、モニタ装置10は、作業装置5の速度を調整した場合に、その調整結果を表示する。モニタ装置10は、ボタン、タッチパネル等の入力装置を備えてもよい。この場合、モニタ装置10によって、コントローラ41の各種の処理を操作してもよい。操作装置11は、例えば操作レバー、操作ペダルからなり、運転席8の周囲に位置して、キャブ9内に設けられている。エンジン制御ダイヤル12は、エンジン20の目標回転数を設定するものであり、キャブ9内に設けられている。
作業装置5は、フロントアクチュエータ機構である。作業装置5は、例えばブーム5A、アーム5B、バケット5Cと、これらを駆動するブームシリンダ5D、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5Fとによって構成されている。作業装置5は、旋回フレーム6に取付けられ、シリンダ5D〜5Fを伸長または縮小することによって、俯仰の動作を行う。なお、図1には、バケット5Cを使用した場合を例示したが、バケット5C以外でもブレーカ等の各種アタッチメントを使用してもよい。
図2に示すように、操作装置11は、例えばキャブ9内の運転席8の両脇に設けられ、作業用および旋回用の操作レバー11Aを含んでいる。これらの操作レバー11Aは、任意の方向へ傾転操作されることで、作業装置5の駆動操作と、旋回装置3の旋回操作とを行う。また、操作装置11は、運転席8の前側に位置して、下部走行体2の走行操作を行うための操作レバー11Bおよび操作ペダル11Cも含むものである。
ゲートロックレバー13は、運転席8よりもキャブ9の出入口側に位置して、キャブ9内に設けられている。具体的には、ゲートロックレバー13は、運転席8の左横に配置されている。ゲートロックレバー13は、上下方向に傾転操作が可能である。ゲートロックレバー13が上がっている状態は、ロック状態であり、エンジン稼動中に操作装置11を倒しても車体が動作不能な状態である。一方、エンジン稼動中にゲートロックレバー13を下げると、車体の動作が可能となる。
次に、油圧ショベル1に搭載された、作業装置5等の動作を制御する油圧システムの構成について、図4を参照して説明する。
エンジン20は、旋回フレーム6に搭載されている。エンジン20は、例えばディーゼルエンジン等の内燃機関によって構成されている。ここで、エンジン20の作動はエンジンコントロールユニット21(以下、ECU21という)によって制御されている。ECU21は、例えばマイクロコンピュータによって構成されている。ECU21は、コントローラ41からのエンジン出力指令に基づいて、エンジン20の出力トルク、回転速度(エンジン回転数)等を制御する。
油圧ポンプ22(メインポンプ)は、エンジン20に機械的に接続されている。油圧ポンプ22は、エンジン20によって駆動される。油圧ポンプ22は、タンク23内に貯溜された作動油を加圧し、下部走行体2の油圧モータ2Aと、旋回装置3の油圧モータ3Aと、作業装置5のシリンダ5D〜5Fとに圧油として吐出する。このとき、シリンダ5D〜5Fは、油圧アクチュエータを構成している。シリンダ5D〜5Fは、油圧ポンプ22から吐出される圧油によって作動する。同様に、走行用の油圧モータ2Aおよび旋回用の油圧モータ3Aは、油圧ポンプ22から吐出される圧油によって作動する。
油圧ポンプ22は、例えば斜板式または斜軸式の可変容量型油圧ポンプによって構成され、斜板または斜軸の傾転角に応じて容量が調整可能となっている。油圧ポンプレギュレータ24は、例えば斜板の傾転角を制御する傾転制御アクチュエータであり、油圧ポンプ22に設けられている。油圧ポンプ22から吐出される圧油は、制御弁30を含む油圧回路26に送られる。圧油は油圧回路26によって、その流量と方向を制御されて、油圧モータ2A,3A、シリンダ5D〜5Fに供給される。
エンジン20および油圧ポンプ22は、後述するコントローラ41によって制御される。コントローラ41は、例えば操作装置11の操作量、エンジン制御ダイヤル12の調整量、油圧ポンプ22の吐出圧等に基づいて、目標エンジン回転数および目標ポンプ流量を算出する。目標エンジン回転数は、ECU21に出力される。ECU21は、目標エンジン回転数に従って、エンジン20の燃料噴射量を制御する。目標ポンプ流量は、電流指示値に変換され、油圧ポンプ22用の電磁比例弁25に出力される。電磁比例弁25は、電流指示値に応じて、油圧ポンプレギュレータ24を駆動し、油圧ポンプ22の傾転角を変化させる。これにより、油圧ポンプ22の出力が制御される。
図5に、油圧ショベル1の油圧システムの一部分を示す。実際の油圧システムは、油圧モータ2A,3A、シリンダ5D〜5F毎に制御弁30および電磁弁40を備えている。
以降の説明を簡略化するために、操作対象の油圧アクチュエータはアームシリンダ5Eのみとする。また、電磁弁40は、アームシリンダ5Eが伸長するときの速度(伸長速度)を調整するものとする。
制御弁30は、油圧ポンプ22とアームシリンダ5Eとの間に位置して主管路31A,31Bの途中に設けられている。主管路31A,31Bは、油圧ポンプ22とタンク23をアームシリンダ5Eに接続する一対の油路である。制御弁30は、油圧パイロット式の方向制御弁によって構成され、一対の油圧パイロット部30A,30Bを備えている。制御弁30は、パイロット弁38からのパイロット圧によって、中立位置(c)から切換位置(a),(b)に切換えられる。
制御弁30は、操作装置11のパイロット圧に応じて、アームシリンダ5Eに圧油を供給する。具体的には、制御弁30は、スプール弁によって構成され、油圧パイロット部30A,30Bに供給される操作装置11のパイロット圧に応じて、スプール(図示せず)が移動する。これにより、制御弁30は、操作装置11のパイロット圧に応じて、弁開度となる開口面積が変化する。例えば操作装置11のパイロット圧が高く、制御弁30の開口面積が大きい場合、アームシリンダ5Eの動作速度は、速くなる。操作装置11のパイロット圧が低く、制御弁30の開口面積が小さい場合、アームシリンダ5Eの動作速度は、遅くなる。
高圧側のリリーフ弁32は、制御弁30よりも上流側(油圧ポンプ22側)に位置して主管路31A,31Bに接続されている。リリーフ弁32は、常時は閉弁している。リリーフ弁32は、油圧ポンプ22の吐出圧Pmがリリーフ圧を超えたときに開弁する。これにより、リリーフ弁32は、メインの油圧ポンプ22による圧油の最高吐出圧を設定し、これ以上の過剰圧をタンク側にリリーフする。
吐出圧センサ33は、制御弁30よりも上流側(油圧ポンプ22に近い側)に設けられている。吐出圧センサ33は、油圧ポンプ22の吐出圧Pmを検出する。吐出圧センサ33は、検出した吐出圧Pmをコントローラ41に出力する。
シリンダボトム圧センサ34は、アームシリンダ5Eのボトム側油室に接続して設けられている。シリンダボトム圧センサ34は、アームシリンダ5Eのボトム側油室の圧力であるシリンダボトム圧Pbを検出する。シリンダボトム圧センサ34は、検出したシリンダボトム圧Pbをコントローラ41に出力する。
シリンダロッド圧センサ35は、アームシリンダ5Eのロッド側油室に接続して設けられている。シリンダロッド圧センサ35は、アームシリンダ5Eのロッド側油室の圧力であるシリンダロッド圧Prを検出する。シリンダロッド圧センサ35は、検出したシリンダロッド圧Prをコントローラ41に出力する。
パイロットポンプ36は、エンジン20に機械的に接続されている。パイロットポンプ36は、エンジン20によって駆動される。パイロットポンプ36は、パイロット弁38を介して制御弁30の油圧パイロット部30A,30Bにパイロット圧を供給する。パイロットポンプ36の吐出側には、低圧側のリリーフ弁37が接続されている。リリーフ弁37は、パイロットポンプ36の最高吐出圧を設定し、これ以上の過剰圧を作動油タンク側にリリーフする。
パイロット弁38は、減圧弁型のパイロット操作弁である。パイロット弁38は、例えば油圧ショベル1のキャブ9内に設けられ、オペレータによって傾転操作される操作装置11(操作レバー11A)に設けられている。パイロット弁38は、そのポンプポートがパイロットポンプ36に接続され、タンクポートが作動油のタンク23に接続されている。また、パイロット弁38の出力ポートは、パイロット管路39A,39Bを介して制御弁30の油圧パイロット部30A,30Bに接続されている。
そして、パイロット弁38は、オペレータが操作装置11を傾転操作したときに、その操作量に対応したパイロット圧をパイロット管路39A,39Bを通じて制御弁30の油圧パイロット部30A,30Bに供給する。これにより、制御弁30は、図5に示す中立位置(c)から切換位置(a),(b)のいずれかに切換えられる。
パイロット弁38は、パイロット圧P1を検出するパイロット圧センサ38Aを備えている。パイロット圧センサ38Aは、パイロット管路39Aに接続され、パイロット管路39Aに供給されるパイロット圧P1を検出する。パイロット圧センサ38Aは、検出したパイロット圧P1をコントローラ41に出力する。
電磁弁40は、コントローラ41によって制御され、パイロット圧P1の調整が可能となっている。電磁弁40は、パイロット管路39Aの途中に設けられている。電磁弁40は、その弁開度に応じて、アームシリンダ5Eの伸長速度を調整する。
電磁弁40は、常時は開弁している。即ち、電磁弁40は、コントローラ41からの電流(減圧指令)が供給されない場合、図2に示す連通位置(d)に保持されている。そして、電磁弁40は、連通位置(d)に保持されている間、パイロット弁38から制御弁30の油圧パイロット部30Aに向けてパイロット圧P1が供給されるのを許す。このとき、制御弁30は、パイロット圧P1に応じて、切換制御させる。
また、電磁弁40は、コントローラ41からの電流が供給された場合、連通位置(d)から遮断位置(e)に向けて切換えられる。このとき、電磁弁40は、コントローラ41から供給される電流に応じて、弁開度が設定される。これにより、電磁弁40は、コントローラ41から供給される電流に応じて、制御弁30の油圧パイロット部30Aに供給するパイロット圧P1を調整(減圧)することができる。
コントローラ41は、例えばマイクロコンピュータによって構成されている。コントローラ41は、2つの記憶部42,43を備えている。一方の記憶部42は、例えば読み出し専用メモリ(ROM)によって構成され、図11に示す補正開始判定処理のプログラムと、図12に示す補正量演算処理のプログラムを記憶している。他方の記憶部43は、例えば不揮発性メモリによって構成され、パイロット減圧調整量としての補正量ΔPを記憶している。
コントローラ41は、記憶部42に記憶された補正開始判定処理および補正量演算処理のプログラムを実行する。コントローラ41は、電磁弁40にパイロット減圧指令としての電流指令値Iに応じた電流を供給し、電磁弁40の弁開度を調整する。これにより、コントローラ41は、電磁弁40を用いて、パイロット圧P1を調整する。図6に示すように、コントローラ41は、パイロット減圧制御部44と、パイロット減圧調整部45と、を備えている。
パイロット減圧制御部44は、油圧アクチュエータとなるアームシリンダ5Eの負荷と操作装置11の操作量とに基づいて、パイロット圧を減圧するための圧力指示値P2を演算する。パイロット減圧制御部44は、シリンダ推力演算部44Aと、開口面積演算部44Bと、圧力指示値演算部44Cとを備えている。
シリンダ推力演算部44Aは、アームシリンダ5Eの負荷として、アームシリンダ5Eのシリンダ推力Fを算出する。シリンダ推力演算部44Aには、シリンダボトム圧センサ34によって検出されたシリンダボトム圧Pbと、シリンダロッド圧センサ35によって検出されたシリンダロッド圧Prとが入力される。シリンダ推力演算部44Aは、以下の数1の式に基づいて、シリンダボトム圧Pbとシリンダロッド圧Prとから、シリンダ推力Fを算出する。数1の式中で、Abはシリンダボトム受圧面積を示し、Arはシリンダロッド受圧面積を示している。
開口面積演算部44Bは、シリンダ推力Fと、操作装置11の操作量としてのパイロット圧P1とに基づいて、図7に示す特性マップM1を参照して、制御弁30の開口面積Sを算出する。パイロット圧P1が低い場合には、制御弁30の開口面積Sは小さくなる。パイロット圧P1が高い場合には、制御弁30の開口面積Sは大きくなる。シリンダ推力Fが小さい場合には、制御弁30の開口面積Sは小さくなる。シリンダ推力Fが大きい場合には、制御弁30の開口面積Sは大きくなる。
圧力指示値演算部44Cは、図8に示す特性マップM2を参照して、開口面積Sから油圧パイロット部30Aに供給するパイロット圧の圧力指示値P2を算出する。パイロット減圧制御部44は、シリンダ推力Fを保持するためのパイロット圧の圧力指示値P2を算出する。このとき、圧力指示値P2は、制御弁30の開口面積Sに対応した値になっている。制御弁30の開口面積Sが小さい場合には、圧力指示値P2は小さくなる。制御弁30の開口面積Sが大きい場合には、圧力指示値P2は大きくなる。即ち、圧力指示値P2は、開口面積Sが増加するに従って、連続的に増加する。
パイロット減圧調整部45は、操作装置11の操作量としてのパイロット圧P1と油圧ポンプ22の吐出圧Pmとに基づいて、パイロット減圧制御部44で求めた圧力指示値P2を調整するためのパイロット圧の補正量ΔPを求める。パイロット減圧調整部45は、操作装置11の操作量に基づいてアームシリンダ5E(油圧アクチュエータ)が動作を開始したことを判定し、油圧ポンプ22の吐出圧Pmに基づいてアームシリンダ5Eが終端位置に到達したことを判定する。パイロット減圧調整部45は、アームシリンダ5Eが動作を開始してから終端位置に到達するまでの動作時間T1を計測し、動作時間T1と予め決められた基準時間T0との時間差ΔTを減少させる補正量ΔPを求める。
パイロット減圧調整部45は、操作装置11の操作によってアームシリンダ5E(油圧アクチュエータ)が動作を開始してから終端位置に到達するまでの動作時間を計測する動作時間計測部45Aと、動作時間T1と基準時間T0との時間差ΔTを演算する減算部45Bと、時間差ΔTに基づいて補正量ΔPを求める補正量演算部45Cとを備えている。
動作時間計測部45Aは、アームシリンダ5Eの動作速度(伸長速度)に応じた動作時間T1を計測する。このとき、動作時間計測部45Aは、作業装置5を予め決められた初期姿勢とした状態から操作装置11を最大操作した場合に、アームシリンダ5Eが動作を開始してから終端位置に到達するまで動作時間T1を計測する。具体的には、動作時間計測部45Aは、パイロット圧P1に基づいてアームシリンダ5Eが動作を開始したことを判定し、油圧ポンプ22の吐出圧Pmに基づいてアームシリンダ5Eが終端位置に到達したことを判定し、操作装置11の操作によってアームシリンダ5Eが動作を開始してから終端位置に到達するまでの動作時間T1を計測する。
減算部45Bは、動作時間T1から予め決められた基準時間T0を減算し、時間差ΔT(ΔT=T1−T0)を求める。このとき、基準時間T0は、アームシリンダ5Eの基準となる動作速度に対応している。基準時間T0は、作業装置5の仕様によって決められている。基準時間T0は、例えば記憶部43に予め記憶されている。例えば作業装置5の仕様を変更したときには、基準時間T0は、異なる値に更新される。
補正量演算部45Cは、時間差ΔTを圧力に変換してパイロット圧の補正量ΔPを求める。具体的には、補正量演算部45Cは、図9に示す特性マップM3に基づいて、時間差ΔTをパイロット圧の補正量ΔPに変換する。
時間差ΔTが正の値の場合、動作時間T1が基準時間T0よりも大きく、アームシリンダ5Eの速度が遅い。この場合、補正量演算部45Cは、時間差ΔTの絶対値が小さくなるように、圧力指示値P2を増加させる補正値ΔPを算出する。
一方、時間差ΔTが負の値の場合、動作時間T1が基準時間T0よりも小さく、アームシリンダ5Eの速度が速い。この場合、補正量演算部45Cは、時間差ΔTの絶対値が小さくなるように、圧力指示値P2を減少させる補正値ΔPを算出する。
コントローラ41は、加算部46と、圧力・電流変換部47とを備えている。加算部46は、パイロット減圧制御部44から出力される圧力指示値P2に、パイロット減圧調整部45から出力される補正値ΔPを加算して、圧力補正値P3を算出する(P3=P2+ΔP)。圧力・電流変換部47は、圧力補正値P3をパイロット減圧指令となる電流指令値Iに変換する。具体的には、圧力・電流変換部47は、図10に示す特性マップM4に基づいて、圧力補正値P3から電流指令値Iを求める。このとき、圧力補正値P3が大きい場合には、電磁弁40の弁開度を大きくするために、電流指令値Iは小さくなる。圧力補正値P3が小さい場合には、電磁弁40の弁開度を小さくするために、電流指令値Iは大きくなる。
例えば、アームシリンダ5E(油圧アクチュエータ)の作動を制限しない場合、圧力補正値P3を高く設定することで、電流指令値Iが抑えられる。この場合、パイロット圧に制限はかからない。一方で、アームシリンダ5Eの作動を制限する場合、圧力補正値P3を徐々に低く設定していくことで、電流指令値Iが増加する。この場合、パイロット減圧用の電磁弁40が駆動され、電磁弁40は、パイロット圧P1を抑制する方向に動作する。この特性によれば、あるレバー領域まで減圧せずに、アームシリンダ5Eを作動させる。フルレバー操作に近付くに従って、アームシリンダ5Eの作動に影響を与えない範囲で、パイロット圧P1を徐々に絞る。これにより、燃費低減を図ることができる。
コントローラ41は、パイロット減圧調整部45によって算出した補正量ΔPを記憶部43に記憶する。コントローラ41は、パイロット減圧調整部45と記憶部43とのうちいずれかを選択して、加算部46に入力する選択スイッチ48を備えている。コントローラ41は、例えばコンピュータのような外部装置50が接続可能となっている。コントローラ41は、外部装置50からの開始トリガによって補正量ΔPを算出する。この場合、選択スイッチ48は、パイロット減圧調整部45を加算部46に接続する。それ以外の場合には、選択スイッチ48は、記憶部43を加算部46に接続する。このため、通常の使用状態では、コントローラ41は、記憶部43に記憶された補正量ΔPに基づいて、電流指令値Iを算出する。
次に、外部装置50からの開始トリガによって補正量ΔPを演算する場合について、図11および図12を参照して説明する。
パイロット圧の補正量ΔPの演算処理を実行する作業状況は、例えば機械組立直後が想定される。作業者が外部装置50から油圧ショベル1に搭載されたコントローラ41にアクセスして、補正量ΔPの演算処理を実行するための作業準備に入る。例えば、機械組立後に行われる試験のために普段から利用しているサービスツール(外部装置50)があれば、そのツールにフロント速度の補正メニューを追加しておき、外部装置50から開始ボタンを押下して、補正を実行させる。
図11は補正開始判定処理のフローチャートを示している。作業者が外部装置50から例えばシリアル通信、CAN通信によってコントローラ41にアクセスし、パイロット減圧調整部45の処理が作動する。
ステップS1で、外部装置50による開始トリガが有効であるか否かを判定する。開始トリガは、例えば外部装置50から受信した開始ボタンの押下情報である。モニタ装置10にタッチパネル操作によって補正量ΔPの演算を開始する場合には、開始トリガは、モニタ装置10の表示装置の操作情報である。開始トリガが有効である場合には、ステップS1で「YES」と判定し、ステップS2に遷移する。
ステップS2では、機械に異常が無いか否かを判定する。例えば各種センサ(吐出圧センサ33、パイロット圧センサ38A、シリンダボトム圧センサ34、シリンダロッド圧センサ35)に断線や短絡が生じている場合、または、機械自体に重大な異常がある場合には、正確なフロント速度(アームシリンダ5Eの速度)を測定することができない可能性がある。このため、機械に故障が無いことを、補正量ΔPの演算を開始するための条件の1つとしている。機械に異常がないときには、ステップS2で「YES」と判定し、ステップS3に遷移する。
ステップS3では、エンジン回転数が規定値以上であるか否かを判定する。フロント速度は、エンジン出力が高い状態で測定することが望ましい。このため、エンジン回転数をハイアイドルにしているかどうかを判定する必要がある。従って、エンジン回転数の規定値は、例えば、車体が高出力を出すために必要な回転数(ハイアイドルの回転数)を設定する。エンジン回転数が規定値以上であるときには、ステップS3で「YES」と判定し、ステップS4に遷移する。
ステップS4では、作動油温度が規定値の範囲内に収まっているか否かを判定する。作動油温度が過度に低温状態または高温状態にあると作動油の粘度が影響し、圧力特性が変化する可能性や、低温状態と高温状態を防止する観点から車体出力を制限する制御が働く可能性がある。このため、ステップS4では、作動油温度の温度条件を判定している。作動油温度が規定値の範囲内にあるときには、ステップS4で「YES」と判定し、ステップS5に遷移する。
ステップS5では作業装置5が初期姿勢か否かを判定する。フロント速度の調整対象がアーム5Bである場合は、初期姿勢はアームダンプエンドの姿勢である。例えばフロント速度の調整対象がブーム5Aである場合は、初期姿勢はブーム下げエンドの姿勢である。フロント速度の調整対象がバケット5Cである場合は、バケットダンプエンドの姿勢である。ステップS5は、例えば作業者による目視確認によって行われる。各シリンダ5D〜5Fに角度センサを取り付ければ、コントローラ41によって作業装置5の姿勢を自動的に判定することが可能となる。作業装置5が初期姿勢であるときには、ステップS5で「YES」と判定し、ステップS6に遷移する。
ステップS6では、フロント速度を最高速で計測するために、操作装置11の操作量が最大(フルレバー操作)か否かを判定する。フルレバー操作か否かは、例えば操作装置11からのパイロット圧P1が規定値以上であるか否かによって判断する。例えばフロント速度の調整対象がアーム5Bであれば、アーム5B用の操作装置11の操作量を判定する。フロント速度の調整対象がブーム5Aであれば、ブーム5A用の操作装置11の操作量を判定する。フロント速度の調整対象がバケット5Cであれば、バケット5C用の操作装置11の操作量を判定する。操作装置11の操作量が最大であるときには、ステップS6で「YES」と判定し、ステップS7に遷移する。
このように、ステップS1〜S6の全てで条件成立の場合、即ちステップS1〜S6の全てで「YES」と判定した場合には、ステップS7で、補正量ΔPの調整開始フラグF1を有効にする。一方、ステップS1〜S6のいずれかで条件非成立の場合、即ちステップS1〜S6のいずれかで「NO」と判定した場合には、ステップS8で、補正量ΔPの調整開始フラグF1を無効にする。
次に、パイロット減圧調整部45が実行する補正量演算処理の内容について、図12を参照して説明する。図12は、補正量演算処理のフローチャートを示している。
ステップS11では、調整開始フラグF1を判定する。調整開始フラグF1が有効であれば、ステップS11で「YES」と判定し、ステップS12に遷移する。ステップS12では、補正量演算処理の条件が整っているから、アームシリンダ5Eの動作が開始される。このため、アームシリンダ5Eの動作時間T1の計測を開始する。
続くステップS13では、油圧ポンプ22の吐出圧Pmが規定値Pm0以上か否かを判定する。アームシリンダ5Eが作動を開始してから、終端位置まで到達した場合には、アームシリンダ5Eに高負荷が作用し、油圧ポンプ22の吐出圧Pmが増大する。そこで、油圧ポンプ22の吐出圧Pmが規定値Pm0以上になった場合、アームシリンダ5Eが終端位置まで到達したと判断することができる。アームシリンダ5Eが最伸長位置である終端位置に到達した場合、油圧ポンプ22の吐出圧Pmが増大して、リリーフ弁32が開弁する。このため、規定値Pm0は、例えばリリーフ弁32のリリーフ圧付近の値に設定されている。油圧ポンプ22の吐出圧Pmが規定値Pm0未満(Pm<Pm0)の場合には、アームシリンダ5Eが終端位置に到達していない状態なので、ステップS14に遷移する。油圧ポンプ22の吐出圧Pmが規定値Pm0以上(Pm≧Pm0)である場合には、ステップS15に遷移する。
ステップS14では、動作時間T1が最大計測時間Tmaxを経過(T1>Tmax)したか否かを判定する。このとき、最大計測時間Tmaxは、動作時間T1として許容可能な最大時間が設定されている。例えば動作時間T1の計測途中で操作装置11の操作量を減少させた場合、油圧ポンプ22の吐出圧Pmの挙動が変わる。この場合、ステップS13による動作時間T1の計測終了の判定ができなくなる。そこで、動作時間T1が最大計測時間Tmaxよりも長い場合(T1>Tmax)、ステップS13で「YES」と判定し、補正量演算処理を終了する。動作時間T1が最大計測時間Tmaxよりも短い場合(T1≦Tmax)、ステップS14で「NO」と判定し、ステップS13に戻る。
ステップS15では、アームシリンダ5Eが終端位置に到達した状態なので、動作時間T1の計測を停止する。この場合、動作時間T1は、アームシリンダ5Eを初期位置から終端位置まで移動させたときにかかった時間である。従って、動作時間T1は、性能指標となるフロント速度に対応している。なお、初期位置は、作業装置5の初期姿勢に対応した位置である。
続くステップS16では、動作時間T1と基準時間T0とが一致(T1=T0)しているか否かを判定する。動作時間T1と基準時間T0とが一致している場合(T1=T0)、ステップS16で「YES」と判定する。この場合、補正量ΔPを演算する必要がないため、そのまま処理を終了する。動作時間T1と基準時間T0とが一致せず、これらに差異がある場合(T1≠T0)、ステップS16で「NO」と判定し、ステップS17に遷移する。
ステップS17では、補正量ΔPを算出する。具体的には、図9に示す特性マップM3を参照して、パイロット減圧調整量として、動作時間T1と基準時間T0との時間差ΔT(ΔT=T1−T0)の吸収が可能な補正量ΔPを算出する。具体的には、アームシリンダ5Eの速度が遅く、時間差ΔTが正の値になる場合には、補正量演算部45Cは、圧力指示値P2を増加させる補正値ΔPを算出する。アームシリンダ5Eの速度が速く、時間差ΔTが負の値になる場合には、補正量演算部45Cは、圧力指示値P2を減少させる補正値ΔPを算出する。このとき、動作時間T1および時間差ΔTは、調整結果に含まれる。動作時間T1およびT時間差ΔTは、モニタ装置10に表示される。なお、動作時間T1および時間差ΔTは、外部装置50を通じて、作業者に通知してもよい。
かくして、本実施の形態によれば、コントローラ41は、アームシリンダ5E(油圧アクチュエータ)の負荷と操作装置11の操作量とに基づいてパイロット圧を減圧するための圧力指示値P2を演算するパイロット減圧制御部44と、操作装置11の操作量と油圧ポンプ22の吐出圧Pmとに基づいてパイロット減圧制御部44で求めた圧力指示値P2を調整するための補正量ΔPを求めるパイロット減圧調整部45と、を備えている。
また、パイロット減圧調整部45は、操作装置11の操作量に基づいてアームシリンダ5E(油圧アクチュエータ)が動作を開始したことを判定し、油圧ポンプ22の吐出圧Pmに基づいてアームシリンダ5Eが終端位置に到達したことを判定し、アームシリンダ5Eが動作を開始してから終端位置に到達するまでの動作時間T1を計測し、動作時間T1と予め決められた基準時間T0との時間差ΔTを減少させる補正量ΔPを求める。
このとき、パイロット減圧調整部45は、操作装置11の操作によってアームシリンダ5E(油圧アクチュエータ)が動作を開始してから終端位置に到達するまでの動作時間T1を計測する動作時間計測部45Aと、動作時間T1から基準時間T0を減算して時間差ΔTを求める減算部45Bと、時間差ΔTに基づいて補正量ΔPを求める補正量演算部45Cとを備えている。
例えば時間差ΔTが正の値の場合、動作時間T1が基準時間T0よりも大きく、アームシリンダ5Eの速度が遅い。この場合、パイロット減圧調整部45は、時間差ΔTの絶対値が小さくなるように、圧力指示値P2を増加させる補正値ΔPを算出する。これにより、制御弁30の油圧パイロット部30Aに供給されるパイロット圧が増加する傾向となるから、制御弁30の開口面積Sが増加傾向となり、アームシリンダ5Eの速度が上昇する。
一方、時間差ΔTが負の値の場合、動作時間T1が基準時間T0よりも小さく、アームシリンダ5Eの速度が速い。この場合、パイロット減圧調整部45は、時間差ΔTの絶対値が小さくなるように、圧力指示値P2を減少させる補正値ΔPを算出する。これにより、制御弁30の油圧パイロット部30Aに供給されるパイロット圧が減少する傾向となるから、制御弁30の開口面積Sが減少傾向となり、アームシリンダ5Eの速度が低下する。
従って、操作装置11の操作量と油圧ポンプ22の吐出圧Pmとを検出するだけで、アームシリンダ5Eの速度を調整することができる。また、アームシリンダ5Eを短時間動作させるだけで必要な調整量を求めることができる。このため、短時間の調整作業によって、アームシリンダ5Eの速度を調整することができる。この結果、組立直後のキャリブレーション工数を低減できると共に、作業時間を短縮することができる。
さらに、例えばブームシリンダ5D、アームシリンダ5E、バケットシリンダ5Fのような油圧アクチュエータ毎に速度を調整することができる。このため、油圧ポンプ22の吐出圧Pmを調整する場合に比べて、作業装置5が備える複数の油圧アクチュエータの動作速度を、所望のバランスに調整することができる。
また、油圧ショベル1は、パイロット減圧調整部45によって求めた補正量ΔPを記憶する記憶部43を備えている。これに加え、コントローラ41は、パイロット減圧制御部44によって演算された圧力指示値P2と記憶部43に記憶された補正量ΔPとに基づいて電磁弁40を制御する。このため、パイロット減圧調整部45によって補正量ΔPを求めた後は、記憶部43に記憶された補正量ΔPに基づいて、油圧アクチュエータであるアームシリンダ5Eの速度を所望の値に調整することができる。
また、パイロット減圧調整部45は、基準時間T0が変更された場合に、変更された基準時間T0を用いて、補正量ΔPを求める。このとき、基準時間T0は、アームシリンダ5Eの基準となる動作速度に対応している。例えばアームシリンダ5Eの交換によって、アームシリンダ5Eの使用が変更された場合には、基準時間T0も変更される。この場合、作業者は、外部装置50を操作することによって、パイロット減圧調整部45を動作させて、補正量ΔPを求める。これにより、交換後のアームシリンダ5Eに応じて、アームシリンダ5Eの速度を調整することができる。
また、油圧ショベル1は、コントローラ41に接続されたモニタ装置10を備えている。これに加え、コントローラ41は、外部装置50からの開始トリガに基づいてパイロット減圧調整部45を動作させて、モニタ装置10に調整結果を表示させる。調整結果は、例えば油圧アクチュエータ(アームシリンダ5E)の速度に対応した動作時間T1と、補正される時間差ΔTとが含まれる。作業者は、モニタ装置10を目視することによって、アームシリンダ5Eの速度調整が完了したことを把握することができる。
なお、前記実施の形態では、外部装置50を操作することによって、補正量演算処理を実行する場合を例に挙げて説明した。本発明はこれに限らず、外部装置50ではなく、例えば油圧ショベル1に予め搭載されたモニタ装置10を操作することによって、補正量演算処理を実行してもよい。
前記実施の形態では、コントローラ41がアームシリンダ5Eの伸長速度を調整する場合を例に挙げて説明した。本発明はこれに限らず、コントローラ41は、アームシリンダ5Eの縮小速度を調整してもよい。この場合、パイロット管路39Bに電磁弁(図示せず)が設けられ、コントローラ41は、この電磁弁を制御することによって、アームシリンダ5Eの縮小速度を調整する。また、コントローラは、ブームシリンダの速度を調整してもよく、バケットシリンダの速度を調整してもよい。
前記実施の形態では、建設機械としてクローラ式の油圧ショベル1を例に挙げて説明した。本発明はこれに限らず、油圧ポンプで駆動する油圧アクチュエータを備えた建設機械であればよい。このため、本発明は、例えばエンジンと電動機によって油圧ポンプを駆動させるハイブリッド式の油圧ショベルに適用してもよく、電動機によって油圧ポンプを駆動させる電動式の油圧ショベルに適用してもよく、ホイールローダ等の各種の建設機械に適用してもよい。