JP2020008391A - 密度測定方法および較正基準試料並びにその作製方法 - Google Patents
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そして、海洋の酸性化による生態系への影響を知る、あるいは、将来の海洋の酸性化の程度を予測するためには、有殻プランクトンにおける殻密度または骨格密度を正確に計測することが必要であると考えられる。
例えば、測定対象物のサイズが微小である場合には、X線CT装置におけるX線管として焦点径の小さいものを用いる必要がある。しかしながら、X線管の焦点径が小さくなるほど、発生するX線量は減少することから、得られる透過像のコントラストは低下してしまう。そのため、X線を長時間の時間の間照射することが必要となり、X線量の変動やエネルギースペクトルの変動によるアーチファクトの影響が増大する。
また、線硬化(ビームハードニング現象)が発生すると、X線が透過する総距離の違いによって、実際のものと異なる大きさの密度値が算出されてしまうなど、得られる密度推計値には常に不確実性が伴う、といった問題がある。
さらにまた、炭酸塩の殻密度の測定に用いられるもので、かつ微小サイズの測定対象物と形状やサイズが類似するファントムは存在しないのが実情である。また、ヒト用のアパタイトほか金属元素を混合したファントムは、大きさや元素組成に基づくX線吸収量の差などの理由から、炭酸塩の殻密度の測定には適用することはできない。
また、本発明は、再現性の高い測定結果を得ることのできる較正基準試料およびその作製方法を提供することを目的とする。
そして、カルサイトCT値と密度との間の相関関係を示す検量線データを炭酸カルシウム密度が異なる複数種の較正基準試料を用いて予め取得しておき、当該検量線データを利用することにより、測定対象物について得られたカルサイトCT値に基づいて密度を定量的に測定することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
炭酸カルシウムからなり、互いに密度が異なる複数種の較正基準試料の各々についてのカルサイトCT値と、当該複数の較正基準試料の各々の密度との相関関係を示す検量線データを予め取得しておき、
少なくとも一の較正基準試料および測定対象物の両者に同一のX線源からのX線を同時に照射することにより当該較正基準試料および当該測定対象物の各々の1次CT画像データを取得し、
測定対象物の1次CT画像データにおけるX線吸収量変動を較正基準試料の1次CT画像データに基づいて補正して2次CT画像データを取得し、
当該測定対象物の2次CT画像データに基づいて得られる当該測定対象物のカルサイトCT値を前記検量線データに対照することにより、当該測定対象物の密度を測定することを特徴とする。
このような場合には、前記低エネルギー成分減衰フィルタが、アルミニウム板よりなることが好ましい。
さらにまた、本発明の密度測定方法においては、前記X線源が、1μm以下の焦点径を有するマイクロフォーカスX線管により構成されることが好ましい。
さらにまた、本発明の密度測定方法においては、測定対象物が、炭酸カルシウムを主成分とする殻または骨格を持つ海洋生物における当該殻または骨格であることが好ましい。
また、本発明の較正基準試料は、粒子径が5μm以下である炭酸カルシウム粒子の粉末成形体からなることが好ましい。
純度が99.9%以上であって、粒子径が50μm以下である炭酸カルシウム粒子により構成された較正基準試料形成材料を圧縮成形して粒子径が5μm以下である炭酸カルシウム粒子の粉末成形体を得る成形工程を有し、
当該成形工程においては、較正基準試料形成材料を1.5〜10ton/cm2 の成形圧力で加圧することを特徴とする。
そして、カルサイトCT値の取得に際しては、較正基準試料および測定対象物の両者に同一のX線源からのX線が同時に照射されることにより、X線量の変動やエネルギースペクトルの変動によるアーチファクトの影響をキャンセルすることができるので、例えば有殻プランクトンのようにサイズが数百μm以下の微小な測定対象物であっても、殻密度の定量を高い確度で行うことができる。
図1は、本発明の密度測定方法において利用されるマイクロフォーカスX線CT装置の一例における構成の概略を示す模式図である。
このマイクロフォーカスX線CT装置は、X線を照射するX線源10と、測定対象物およびファントムを保持する保持部20と、測定対象物およびファントムを透過したX線を検出するX線検出器30とを備えている。なお、図1においては、便宜上、測定対象物Sのみが保持部20に保持された状態が示してある。
保持部20は、例えば鉛直方向に延びる軸を中心に回転自在とされた回転ステージにより構成されている。また、保持部20は、X線照射方向に移動可能に設けられており、X線源10との間の距離が調整されることにより、X線透過画像の拡大率が変更可能に構成されている。
X線検出器30は、例えばフラットパネル検出器により構成されており、測定対象物Sおよびファントムの形状および内部構造を反映したX線透過(X線減弱)の差が、例えば16ビットのグレースケールによる画像の濃淡として表わされたCT画像が得られる。
ここに、X線低エネルギー成分減衰フィルタ40の厚みは、X線低エネルギー成分減衰フィルタ40の構成材料のX線減弱係数などに基づいて設定することができる。X線低エネルギー成分減衰フィルタ40が例えば純アルミニウムよりなる金属フィルタである場合には、その厚みは例えば0.2mmである。
(1)測定対象物と同一の結晶構造の炭酸カルシウムからなること。
(2)測定対象物と形状や大きさが類似していること。
(3)内部の密度が一様(内部構造が均質)であること。
(4)炭酸カルシウム密度が既知であること。
例えば、炭酸カルシウム結晶(密度2.71)を適度な大きさに切り出したものがファントムとしての条件を満たす。
カルサイトファントムは、実質的に炭酸カルシウムのみからなることにより、均質性の高いものとして構成することができ、より正確に定量的な測定を行うことができる。
また、カルサイトファントムを構成する炭酸カルシウム粒子としては、粒子径が例えば5μm以下であるものが好ましい。本明細書において「炭酸カルシウム粒子の粒子径」とは、炭酸カルシウム粒子の最大投影面に外接する長方形の短径をいうものとする。
粒子径が5μm以下であることにより、撮影されるCT画像データの解像度よりもおおきな空隙の不均質性を可能な限り小さくすることができ所期のカルサイトファントムを確実に得ることができる。一方、炭酸カルシウム粒子の粒子径が過大である場合には、カルサイトファントムを成形すること自体が困難となる。
すなわち、先ず、較正基準試料形成材料として、粒子径が50μm以下であって純度が99.9%以上である例えばカルサイト結晶構造を有する超高純度炭酸カルシウム粒子を用意し、マイクロ天秤を用いて所定量に秤量する。ここに、較正基準試料形成材料の量は、造形すべきカルサイトファントムの厚みが例えば約1mmとなる量である。例えば、成形装置における粉末成形用ダイの型孔の内径寸法がφ13mmである場合には、超高純度炭酸カルシウム粒子の量は250〜300mgである。較正基準試料形成材料の量がこのように設定されることにより、最終的に得られるカルサイトファントムにおける密度の不均質性が生ずることを回避することができる。
成形工程においては、較正基準試料形成材料を粉末成形用ダイの型孔内に充填した後、粉末成形用ダイに対して振動を与える振動付与工程が行われることが好ましい。これにより、超高純度炭酸カルシウム粒子間の空隙を密にすることができ、得られるカルサイトファントムを均質なものとすることができる。振動付与工程に要する時間は、数分間程度である。
また、較正基準試料形成材料の加圧は、成形圧力を連続的に変更して行っても、多段階に変更して行ってもよい。成形圧力を多段階に変更して加圧を行う場合には、最終的に得られるカルサイトファントムにおける密度の不均質性が生ずることを確実に回避することができる。
成形圧力は、1.5〜10ton/cm2 の範囲内の大きさに設定される。成形工程は、較正基準試料形成材料に対する圧力が設定成形圧力となるまで徐々に加圧していき、設定成形圧力で所定時間の間加圧することにより行う。これにより、炭酸カルシウム粒子が圧縮により破壊されて粒子径が5μm以下の大きさとされた粉末成形体を得ることができる。
加圧時間は、例えば5〜15分間であることが好ましく、例えば10分間である。
カルサイトファントムの炭酸カルシウム密度は、例えば次のようにして測定することができる。すなわち、先ず、マイクログラム単位の重量が計測可能な天秤(マイクロ天秤)を用いて、作製したカルサイトファントム前駆体の重量を計測する。次いで、当該カルサイトファントム前駆体の体積を例えばマイクロフォーカスX線CTによって計測する。ここに、撮像の空間解像度は10μm以下とする。そして、カルサイトファントムの密度、炭酸カルシウム密度が計測された重量と体積とに基づいて計算によって求める。
本発明においては、互いに炭酸カルシウム密度の異なる複数種のカルサイトファントム前駆体を作製し、作製した複数種のカルサイトファントム前駆体の各々の炭酸カルシウム密度を測定する。
図4に、カルサイトファントム前駆体のCT画像データの一例を示す。図4の(a)に示すカルサイトファントム前駆体の炭酸カルシウム密度は2.30μg/μm3 、(b)に示すカルサイトファントム前駆体の炭酸カルシウム密度は2.00μg/μm3 、(c)に示すカルサイトファントム前駆体の炭酸カルシウム密度は1.93μg/μm3 である。スケールは300μmである。
先ず、実体顕微鏡下において、作製したカルサイトファントム前駆体の中央部分からマイクロサージェリーメスを用いて長径最大300μmの大きさの粒子を切り出す処理を、作製した複数種のカルサイトファントム前駆体の各々について行い、これにより、数百ミクロンサイズの密度測定用のカルサイトファントムを得る。ここに、切り出す粒子(カルサイトファントム)のサイズは、ビームハードニング補正が可能な最大の厚さに一致する大きさである。
図1を参照して説明すると、同一のX線源10からのX線を、X線低エネルギー成分減衰フィルタ40を介して、カルサイトファントムおよび上述の炭酸塩基準試料(カルサイト結晶)の両者に同時に照射する。このとき、カルサイトファントムおよび炭酸塩基準試料の両者を保持する保持部20を回転させることにより、カルサイトファントムおよび炭酸塩基準試料の両者のX線透過像を全周方向から撮影する。これにより得られるカルサイトファントムおよび炭酸塩基準試料の各々についての一連のX線透過像に対して再構成処理を行うことにより、カルサイトファントムおよび炭酸塩基準試料の各々の1次CT画像データを取得する。
このようなアーチファクトによる影響は、カルサイトファントムおよび炭酸塩基準試料の両方に等しく生ずるものと予想される。このため、再構成処理においては、炭酸塩基準試料について得られた1次CT画像データにおける画素値を一定とする(平滑なものとする)ような補正を、カルサイトファントムについて得られた1次CT画像データに対しても同様に行う。これにより、カルサイトファントムの1次CT画像データにおけるX線のエネルギースペクトルの変動によるアーチファクトの影響を低減することができ、解像度の高い2次CT画像データを得ることができる。ここに、画素値が一定(画素値が平滑)とは、単位面積あたり(20ボクセル四方)のカルサイトファントム中心部分と外周部との平均画素値の差が2.5%未満の範囲内にあることをいう。
そして、カルサイトファントムおよび炭酸塩基準試料の各々について、X線透過像の撮影および再構成処理を同様にして繰り返して行うことにより、カルサイトファントムにおける所定数の断面層の2次CT画像データを取得する。
一般に、測定対象物の元素組成が均一であれば、ここで示される2次CT画像データの濃淡のコントラストはX線減弱係数と相関があり、測定対象物質の密度と同義である。本発明においては、測定対象物である海洋生物における殻または骨格を構成する主成分である炭酸カルシウム(CaCO3 )に着目し、空気とカルサイトとを基準物質とするX線減弱係数の比で表したカルサイトCT値を新たに定義する。
本発明において定義するカルサイトCT値は、下記式(1)によって表され、カルサイトファントムにおける任意の複数の断面層の2次CT画像データ(画像の濃淡)の各々から取得される値の平均値が、カルサイトファントムのカルサイトCT値(代表値)として用いられる。
式(1) カルサイトCT値=k×[(μsample −μair )/(μstd −μair )]
上記式(1)により得られるカルサイトCT値は、0(空気)〜1,000(炭酸カルシウム結晶)の数値範囲内の値であって、従って、測定対象物のカルサイトCT値は、当該数値範囲内の値で示される。
このような処理を複数種のカルサイトファントムの各々について行うことにより、各々のカルサイトファントムのカルサイトCT値を取得する。
式(2) カルサイトCT値=351.64×D+44.123
そして、例えば図1に示すマイクロフォーカスX線CT装置を用いて、上記と同様の方法により、測定対象物Sおよびカルサイトファントムの両者の複数の断面層の1次CT画像データを取得し、測定対象物の1次CT画像データに対する再構成処理をカルサイトファントムについて得られた1次CT画像データに基づいて行う。
次いで、測定対象物について得られた2次CT画像データに基づいて、測定対象物のカルサイトCT値を取得し、得られたカルサイトCT値を予め取得しておいた検量線データに対照することにより当該測定対象物Sの殻密度または骨格密度を求める。
また、カルサイトCT値の測定に際しては、測定対象物Sおよびカルサイトファントムの両者に同一のX線源10からのX線を同時に照射してX線透過画像を撮影することにより、X線量の変動やエネルギースペクトルの変動によるアーチファクトの影響をファントムについて得られたCT画像データに基づいてキャンセルすることができるので、例えば有殻プランクトンのようにサイズが数百μm以下の微小な測定対象物であっても、殻密度の定量を高い確度で行うことができる。
北太平洋に生息する動物プランクトンである浮遊性有孔虫(サイズ150μm程度)を18個体用意した。各個体の炭酸カルシウムを主成分とする殻を測定対象物とし、測定対象物の殻密度を1個体ごとに求めた。殻密度の測定は、図1に示すマイクロフォーカスX線CT装置において、較正基準試料として炭酸カルシウム密度が2.71であるカルサイトファントムを用い、以下に示す撮像条件で、測定対象物の各々の1次CT画像データを取得した。取得された測定対象物の1次CT画像データに対する再構成処理をカルサイトファントムについて得られた1次CT画像データに基づいて行った後、得られた2次CT画像データと、上記式(1)とに基づいて、カルサイトCT値を求めた。取得されたカルサイトCT値に基づいて、上記式(2)で示される検量線データから殻密度を求めた。
そして、以下に示す化学分析によって求められる殻密度を参考値としたとき、検量線データに基づいて測定された殻密度の値(測定値)と参考値との関係を調べた。結果を図6に示す。ここに、図6における横軸は参考値としての殻密度であり、縦軸は検量線データに基づいて取得される殻密度である。また、破線で示す直線は、測定値と参考値との誤差が0である理想曲線である。
参考値の取得にあっては、先ず、高分解能ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析計)によって、1個体ずつカルシウム含有量(重量)の定量を行い、得られたカルシウム重量から炭酸カルシウム重量(殻重量)を演算により求めた。また、上記において取得された測定対象物の2次CT画像データに基づいて、各々の測定対象物の殻体積を求めた。そして、取得された殻重量と殻体積とに基づいて、測定対象物の殻密度を1個体ごとに算出した(殻密度=殻重量/殻体積)。
X線管に対する印加電圧:80keV
X線管に対する印加電流:40μA
X線管の焦点径:0.8μm
X線管とX線検出器との間の距離(D1):374mm
保持部とX線検出器との間の距離(D2):371mm
X線管とX線低エネルギー成分減衰フィルタとの間の距離(D3):372.8mm
撮影回数(断面層の数):1200回
拡大率:126.94倍
撮影時間(X線照射時間):66分間
X線低エネルギー成分減衰フィルタ:材質:純アルミニウム、厚さ:0.2mm
20 保持部
30 X線検出器
40 低エネルギー成分減衰フィルタ
S 測定対象物
Claims (8)
- 主体として炭酸カルシウムからなる測定対象物の密度を測定する方法であって、
炭酸カルシウムからなり、互いに密度が異なる複数種の較正基準試料の各々についてのカルサイトCT値と、当該複数の較正基準試料の各々の密度との相関関係を示す検量線データを予め取得しておき、
少なくとも一の較正基準試料および測定対象物の両者に同一のX線源からのX線を同時に照射することにより当該較正基準試料および当該測定対象物の各々の1次CT画像データを取得し、
測定対象物の1次CT画像データにおけるX線吸収量変動を較正基準試料の1次CT画像データに基づいて補正して2次CT画像データを取得し、
当該測定対象物の2次CT画像データに基づいて得られる当該測定対象物のカルサイトCT値を前記検量線データに対照することにより、当該測定対象物の密度を測定することを特徴とする密度測定方法。 - 前記X線源と、前記測定対象物および前記基準設定物との間のX線照射経路上に、X線の低エネルギー成分を吸収する低エネルギー成分減衰フィルタが配置されることを特徴とする請求項1に記載の密度測定方法。
- 前記低エネルギー成分減衰フィルタが、アルミニウム板よりなることを特徴とする請求項2に記載の密度測定方法。
- 前記X線源が、1μm以下の焦点径を有するマイクロフォーカスX線管により構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の密度測定方法。
- 測定対象物が、炭酸カルシウムを主成分とする殻または骨格を持つ海洋生物における当該殻または骨格であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の密度測定方法。
- 請求項1乃至請求項5のいずれかの密度測定方法において用いられる較正基準試料であって、
実質的に純度が99.9%以上の炭酸カルシウムのみからなることを特徴とする較正基準試料。 - 粒子径が5μm以下である炭酸カルシウム粒子の粉末成形体からなることを特徴とする請求項6に記載の較正基準試料。
- 請求項7に記載の較正基準試料の作製方法であって、
純度が99.9%以上であって、粒子径が50μm以下である炭酸カルシウム粒子により構成された較正基準試料形成材料を圧縮成形して粒子径が5μm以下である炭酸カルシウム粒子の粉末成形体を得る成形工程を有し、
当該成形工程においては、較正基準試料形成材料を1.5〜10ton/cm2 の成形圧力で加圧することを特徴とする較正基準試料の作製方法。
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