JP2020002022A - 1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルの製造方法 - Google Patents

1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルの製造方法 Download PDF

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健史 細井
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謙亮 廣瀧
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Abstract

【課題】1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを効率的に製造する方法を提供する。【解決手段】ラジカル開始剤もしくは光照射下、1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルを塩素化することにより、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと、高次塩素化物の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルとの混合物を得た後、得られた混合物に対し、水素を用いた加水素分解反応により、分離困難な副生物である1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルを1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルへ効率的に変換できる。また、当該1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを用いて、吸入麻酔薬として有用な1,2,2,2−テトラフルオロエチルジフルオロメチルエーテル(デスフルラン)を製造できる。【選択図】なし

Description

本発明は、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル、及び1,2,2,2−テトラフルオロエチルジフルオロメチルエーテル(デスフルラン)の製造方法に関する。
本発明の対象とする1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル(以下、本明細書で「ジクロロメチルエーテル」と言うことがある。)は、重要な医農薬中間体および代替フロン化合物であり、特に、吸入麻酔剤である「デスフルラン」の有用な前駆体として利用価値の高い化合物である。この化合物に関する製造例としては、1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルに対し、光塩素化を行い、目的とするジクロロメチルエーテルを得る方法が知られている(特許文献1、特許文献2及び特許文献3)。なお、特許文献3では、ジクロロメチルエーテルの製造方法の開示の他に、ジクロロメチルエーテルと共に副生する、高次塩素化物である1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテル(以下、本明細書で「トリクロロメチルエーテル」と言うことがある。)に対し、2−プロパノールの溶媒中、光照射の下で脱塩素化反応を行い、ジクロロメチルエーテルに変換させる方法も開示している。
本発明で記載する、1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルに対する塩素化反応において、副生する高次塩素化物(トリクロロメチルエーテル)をジクロロメチルエーテルに変換させながら、効率良く1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを製造する方法は知られていない。
なお、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは、吸入麻酔薬デスフルランを製造する為の原料として極めて重要である。すなわち、前記特許文献1〜3に開示通り、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルに対し、フッ化水素を反応させることにより吸入麻酔薬デスフルランが製造できる。
西独国特許2361058号明細書 特開平2−104545号公報 特開平6−087777号公報
1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを製造する方法に関し、これまで知られている方法は、実験室レベルで行うには有用な方法であり、中程度の収率でジクロロメチルエーテルを得ることができる(特許文献1、特許文献2及び特許文献3)。但し、原料の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルは、その反応性の高さから、該化合物の塩素化反応を行った場合、目的物(ジクロロメチルエーテル)と共に高次塩素化物(トリクロロメチルエーテル)や塩素化物の異性体が数多く副生するため、高純度の目的物を得ることが難しかった。ここで得られるトリクロロメチルエーテルは、前述した通り、光照射の下で脱塩素化反応を行いジクロロメチルエーテルへ誘導可能とは言え、トリクロロメチルエーテルの反応性は中程度であり、効率よくジクロロメチルエーテルを得るには至っていない。さらに、当該反応(光照射の下で脱塩素化反応)は反応溶媒として過剰に使用する2−プロパノール(沸点:82.6℃)は、ジクロロメチルエーテル(沸点:82.5℃)との沸点差がなく、反応後の双方の分離精製は非常に困難であり、その結果、収率の低下は避けられなかった(後述の比較例2参照)。
このように、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを効率的に製造できる方法が強く望まれていた。
本発明者らは、上記の問題点を鑑み、鋭意検討を行った。その結果、式[1]:
Figure 2020002022
で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルに、特定の条件の下、塩素(Cl)を反応させることで、目的物である、式[2]:
Figure 2020002022
で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと、
高次塩素化物である、式[3]:
Figure 2020002022
で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテル、を含む反応混合物を得、次いで、得られた反応混合物に対し加水素分解反応を行うことにより、反応混合物からトリクロロメチルエーテルのみを選択的にジクロロメチルエーテルへ誘導することが可能である知見を得た。これを利用することで、高い純度のジクロロメチルエーテルを高選択率で効率的に製造できる方法を新たに見出した。
塩素化反応で得られる前記混合物は、蒸留操作等の精製操作を行っても、ジクロロメチルエーテルとトリクロロメチルエーテルとの完全な分離は非常に困難であったところ、本発明者らは、前記混合物に対し加水素分解反応を行うことにより、高次塩素化物のトリクロロメチルエーテルのみを選択的に還元でき、その結果、混合物中のジクロロメチルエーテルの含有量を高めることができるといった、大変好ましい知見を得た。
なお、塩素化反応では、低次塩素化物である式[4]:
Figure 2020002022
で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルが生成することがあるが、蒸留操作により1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルを主成分とする留分は回収し、塩素化反応の原料として再利用することが可能である。
本発明によって1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを高い選択率で合成できることとなった為、この1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを用いてフッ素化反応を行うことで、吸入麻酔薬であるデスフルランが高い純度で製造できることとなった。デスフルランに直接誘導できる1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルの、本発明で開示する方法は工業的な製造方法として優位性は極めて高い。
すなわち、本発明は、以下の[発明1]〜[発明24]に記載する、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル及びデスフルランの効率的な製造方法を提供する。
[発明1]
以下の工程を含む、式[2]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルの製造方法。
第1工程:式[1]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルに、ラジカル開始剤の存在下または光照射下、塩素(Cl)を反応させることにより、
式[2]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと、
式[3]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルと、を含む混合物を得る工程。
第2工程:第1工程で得られた混合物に対し、受酸剤及び遷移金属触媒の存在下、水素(H)を用いて加水素分解反応を行うことにより、前記混合物に含まれる1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルを、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルへ変換する工程。
[発明2]
第1工程において、ラジカル開始剤または光照射が、有機過酸化物またはアゾ系ラジカル開始剤である、発明1に記載の製造方法。
[発明3]
第1工程において、光照射を、水銀灯、紫外線LED、有機EL、無機EL、紫外線レーザー、及びハロゲンランプからなる群より選ばれる少なくとも1種の光源を用いて行う、発明1または2に記載の製造方法。
[発明4]
第1工程において、塩素を反応させる際、反応後の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと、1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルとを含む混合物に、式[4]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルが生成物として含まれる、発明1乃至3の何れかに記載の製造方法。
[発明5]
第1工程において、塩素との反応で得られた前記混合物に対し、蒸留精製を行うことにより、該混合物から式[4]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルを分離除去する工程を更に含む、発明4に記載の製造方法。
[発明6]
分離除去した式[4]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルを回収し、第1工程の塩素化反応における出発原料として用いる、発明5に記載の製造方法。
[発明7]
分離除去した式[4]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルに対し、塩素(Cl)を反応させることにより、式[2]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを製造し、得られた1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを第2工程の出発原料として用いる、発明5に記載の製造方法。
[発明8]
第1工程において、塩素との反応で得られた前記混合物を、精製操作を行わずにそのまま第2工程の出発原料として用いる、発明1乃至7の何れかに記載の製造方法。
[発明9]
第2工程において、受酸剤が、アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩またはカルボン酸塩である、発明1乃至8の何れかに記載の製造方法。
[発明10]
アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩またはカルボン酸塩が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明9に記載の製造方法。
[発明11]
第2工程において、遷移金属触媒が、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、
または、
該金属を含む金属化合物を担体に担持した金属化合物担持触媒である、
発明1乃至10の何れかに記載の製造方法。
[発明12]
担体が活性炭または金属酸化物である、発明11に記載の製造方法。
[発明13]
金属酸化物がアルミナ、ジルコニア、チタニア、クロミア、及びマグネシアからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明12に記載の製造方法。
[発明14]
第2工程において、加水素分解反応後の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを含む混合物を蒸留精製することにより、純度の高められた1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを得る工程を更に含む、発明1乃至13の何れかに記載の製造方法。
[発明15]
発明1乃至14の何れかに記載の方法により1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを製造し、次いで、当該1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルに対し、フッ化水素を反応させることにより、式[5]:
Figure 2020002022
で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジフルオロメチルエーテル(デスフルラン)を製造する方法。
[発明16]
反応を気相中で行う、発明15に記載の製造方法。
[発明17]
反応を触媒の存在下で行う、発明15または16に記載の製造方法。
[発明18]
触媒が四塩化スズ、二塩化スズ、四フッ化スズ、二フッ化スズ、四塩化チタン、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン、及び五フッ化アンチモンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、発明17に記載の製造方法。
[発明19]
触媒を共存させずに行う、発明15または16に記載の製造方法。
[発明20]
反応を液相中で行う、発明15に記載の製造方法。
[発明21]
液相中での反応を、−20℃〜+200℃の温度範囲で、かつ、0.1MPa〜4.0MPa(絶対圧。以下、本明細書で同じ)の圧力範囲で行う、発明20に記載の製造方法。
[発明22]
液相中での反応を、−20℃〜+40℃の温度範囲で、かつ、0.1MPa〜0.6MPaの圧力範囲で行う、発明20に記載の製造方法。
[発明23]
1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルに対するフッ化水素との反応を、液相中、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」を反応させることにより行う、発明15に記載の製造方法。
[発明24]
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」における有機塩基が、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン及び1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、発明23に記載の製造方法。
本発明の製造方法は、塩素化反応で副生する高次塩素化物に対し、加水素分解反応を行うことで目的物への変換が可能であり、効率的に1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルが製造できるという効果を奏する。また、当該1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを用いて、吸入麻酔薬として有用なデスフルランを製造できると言う効果を奏する。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
本発明は、式[1]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルに、ラジカル開始剤の存在下または光照射下、塩素(Cl)を反応させる工程と、得られた混合物に対する水素(H)を反応させる工程(以下、本明細書で「加水素分解工程」と言うことがある。)とを含む、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルの製造方法である。また、ここで得られた1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルに対するフッ素化反応により、式[5]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジフルオロメチルエーテル(デスフルラン)を製造する方法(なお、本明細書において、デスフルランを製造する工程を「第3工程」と言うときがある。)も含め、各化合物の関係を以下に示す。
Figure 2020002022
[第1工程]
最初に第1工程について説明する。第1工程は、式[1]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルに、ラジカル開始剤の存在下または光照射下、塩素(Cl)を反応させることにより、式[2]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと、式[3]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルと、を含む混合物を得る工程である。
出発原料の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルは公知の化合物であり、例えば、特開2009−286731号公報に記載の方法等により合成できる。
本工程の塩素化反応における塩素の供給量は、1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル1モルに対し、通常、1モルから6モルの範囲で行えば良いが、1.25モルから3モルが好ましく、1.5モルから2.5モルが特に好ましい。塩素の供給量に応じて反応基質の塩素化度は進行するため、塩素の供給量を適切に制御することで、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを効率的に得ることが可能である。
反応器に塩素を供給する場合、塩素は気体および液体のどちらであっても良いが、取扱いの容易さの観点から、気体であることが好ましい。塩素の供給方法は、反応液中に塩素を供給できる方法であればよく、特に限定されない。例として、塩素化反応開始前に一括で塩素を仕込む方法、塩素化反応中に断続的に塩素を供給する方法、塩素化反応中に連続で塩素を供給する方法などがある。なお、塩素化反応が激しすぎる場合、アルゴンや窒素等の不活性ガスで塩素を希釈して導入しても構わない。
本工程は、ラジカル開始剤の存在下または光照射下での塩素化反応により、1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルに対する塩素化反応の選択性をより向上させることができる。用いるラジカル開始剤の具体的な種類としては、有機過酸化物、アゾ系ラジカル開始剤等が挙げられる。有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、ケトンペルオキシド、ペルオキシケタール、ハイドロペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネートを例示できる。アゾ系ラジカル開始剤としては、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(略名“AIBN”)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩が挙げられる。
ラジカル開始剤を用いる場合、ラジカル開始剤の使用量は、式[1]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル1モルに対して通常0.01〜20モル%であり、好ましくは0.1〜10モル%、更に好ましくは0.5〜5モル%である。また、ラジカル開始剤は反応の進行状況を観察して、適宜追加することもできる。ラジカル開始剤の量が原料1モルに対して0.01モル%未満では反応が途中で停止しやすく、収率が低下する恐れがある。一方、20モル%を超える量は、経済的に好ましくない。
一方、本工程において光照射を行う場合、光源は水銀灯、紫外線LED、有機EL、無機EL、紫外線レーザー、ハロゲンランプからなる群より選ばれる少なくとも1種であるが、これらのうち水銀灯や紫外線LEDを用いて行うのが好ましい。
反応溶媒は、水、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、ハロゲン化炭化水素系、ハロゲン化炭化水素系、エーテル系、エステル系、アミド系、ニトリル系、スルホキシド系等が挙げられる。具体例としてはn−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの反応溶媒は、単独または組み合わせて用いることができる。
また、本工程は無溶媒で反応を行うこともできる。その中でも、反応を水の存在下で(水溶液中で)行うことは、蒸気圧の高い出発基質である式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル(沸点:38℃)や低次塩素化物である式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテル(沸点:63℃)の揮発を効果的に予防し、反応効率の向上が期待されるため、好ましい。
本工程における塩素化反応を行う際の水溶液や反応溶媒の使用量は、出発基質である式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル100質量部に対し、10質量部から1000質量部の範囲で行えば良く、中でも10質量部から500質量部が好ましく、特に25質量部から250質量部が好ましい。
温度条件は、−50から+80℃の範囲で行えば良く、通常は−20から+50℃が好ましく、−10から+25℃が特に好ましい。
反応圧力としては、通常、0.05MPa〜5.0MPaの範囲が好ましい。常圧(0.1MPa)から0.3MPa程度の微加圧の範囲が、より簡便であり、好ましい。なお、5.0MPaを超える圧力で反応を行うことも妨げられないが、あまり過剰な圧力条件は設備に負荷がかかる為、前記圧力範囲で行うのが好ましい。
反応に用いる容器については、塩素や副生する塩化水素に対する耐食性を有する石英ガラスやホウケイ酸ガラス等のガラス容器、またはテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)やポリテトラフルオロエチレン等の樹脂容器を好適に用いることができる。
反応時間は、通常は12時間以内であるが、採用したラジカル開始剤や光照射に起因した反応条件の違いにより、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、出発基質の消失を確認後、反応を終了することが好ましい。
なお、本工程において、塩素化反応で得られる1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル中に、高次塩素化物である式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルを含む混合物として得られるが、さらに、該混合物中に、低次塩素化物である式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルが生成していることが多い。この場合、通常の蒸留操作より、前記混合物から1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルを主成分として含む留分を分離除去することが可能である。また、高次塩素化物である、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルを主成分として含む留分についても分離可能であり、その結果、目的とする1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを主成分として含む留分が得られる。
また、回収した1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルを再利用する際は、本工程の原料である1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルと混合し、塩素化反応を行うことができる。また、回収した1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルに対し、再度塩素を反応させることで、目的物である式[2]で示す1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルへ誘導することも可能である。
本工程は、前述したように、塩素化後の反応混合物を蒸留等の精製操作を行うことにより、高い化学純度の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを得ることが可能であるが、高次塩素化物である式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルを完全に分離除去する為には、本工程で過度の精製操作を必要とする。そのため、本工程では、後述の実施例で示すように、塩素化後の混合物をそのまま次工程の加水素分解工程に供する実施態様が、製造に負荷がかからず好ましいと言える。
[第2工程]
第2工程は、第1工程で得られた1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと、高次塩素化物である1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルと、を含む混合物に対し、受酸剤及び遷移金属触媒の存在下、水素(H)を用いて加水素分解反応を行うことにより、前記混合物に含まれる1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルを、式[2]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルへ変換する工程である。
なお、本工程では、第1工程において蒸留操作を行って分離した各留分のうち、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと、1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルを含む留分に対しても、本工程の出発原料として加水素分解反応を行うことができる。
本工程の反応形態に特別な制限はないが、反応基質である式[3]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルに、水素を逐次的もしくは連続的に供給させて反応させることが好ましい。ここで言う「逐次的」とは、水素を、次々と間欠的(一定の時間を隔てることを指す)に反応系に試剤を加えることを意味する。
また、反応の速度を上げる目的、及び水素の反応効率を高める目的でオートクレーブ等の耐圧反応器を用いて反応させるのが好ましい。水素を反応させる際の反応圧力(ここで言う反応圧力とは、水素圧のことを言う。以下同じ)は、通常0.01〜4MPaであるが、好ましくは0.1〜3MPa、更に好ましくは0.3〜2MPaである。水素圧が4MPaを超えると、経済性、安全性そして設備設計上の観点から、メリットは少ない。
本工程は、反応を促進させるのを目的とし、反応系内にあらかじめ少量の受酸剤を加えて反応を開始させる。過塩素化物である式[3]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルの加水素分解反応が進行するにつれて、反応液中に塩化水素の酸成分が増えてくる為、触媒毒になりうる。受酸剤はこれらを速やかに中和するため、触媒失活が起こりにくくなり、速度の増大につながるものと考えられる。
受酸剤としては、塩化物イオンを効率的に低減できるものとして、アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩またはカルボン酸塩、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられるが、アルカリ金属の炭酸塩もしくは該金属の炭酸水素塩、またはアルカリ金属のカルボン酸塩が好ましい。アルカリ金属の炭酸塩や炭酸水素塩、またはアルカリ金属のカルボン酸塩の具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、ギ酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらのうち、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、酢酸ナトリウムまたは酢酸カリウムが好ましく、特に炭酸水素ナトリウムが好ましい。
受酸剤の添加量については、特に制限はなく、反応の進行を見計らいながら、当業者が適宜調整できるが、過塩素化物である式[3]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテル1モルに対して、通常、添加量は0.1〜10モルであり、好ましくは0.25〜7.5モル、更に好ましくは0.5〜5モルである。なお、これらは単独または1種以上を組み合わせて用いることができる。
本工程で用いる遷移金属触媒は、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、または、該金属を含む金属化合物を担体に担持した金属化合物担持触媒である。具体的には、パラジウム金属(0価)やロジウム金属(0価)や白金金属(0価)、またはパラジウム化合物、ロジウム化合物または白金化合物を担体に担持した前記化合物担持触媒を用いる。
前記の担体としては、活性炭または金属酸化物である。具体的には活性炭、アルミナ、ジルコニア、シリカ、ゼオライト、酸化マグネシウム、酸化チタン等が挙げられる。担持触媒における金属化合物は前記遷移金属の酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、臭化物、酸化物、水酸化物等の各種化合物が挙げられる。
遷移金属化合物の担持触媒は、含浸法等の従来公知の方法により各種調製することもできるが、各種のものが市販されているので、それらを用いるのが好適である。前述した遷移金属化合物の担持触媒のうち、入手容易性や経済性、反応性及び選択性の点から、カーボンまたはアルミナに担持したものが好ましい。例えば、エヌ・イーケムキャット社の5%パラジウムカーボンSTDタイプや5%ロジウムアルミナ粉末、そして2%白金カーボン粉末(含水品)を好適に用いることができる。
遷移金属触媒の使用量は、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと、1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルと、を含む混合物中の、1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテル100質量部に対して、金属量として、通常0.0001〜2.5質量部であり、好ましくは0.001〜1.5質量部、更に好ましくは、0.01〜0.5質量部である。2.5質量部を超えて用いても反応性に影響することはないが、生産性及び経済性の観点から、メリットは少ない。
本工程において、反応溶媒を用いることができる。反応溶媒は、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと、1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテル、それぞれに対して不活性なものであればよく、特に限定はされない。例えば、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ニトリル類、酸アミド類、アルコール類、エステル類、またはエーテル類等が挙げられる。これらのうち、原料や目的物の塩素化物に対する相溶性が良く、また、遷移金属触媒や受酸剤の分散性が高い、アルコール類が特に好ましい。
反応溶媒の具体的な例は、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、メチルシクロヘキサン、イソオクタン、n−デカン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチルニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、ホルムアミド、N−メチルピロリドン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシキシエタン、1,4−ジオキサンまたは置換テトラヒドロフラン等が挙げられる。
これらのうち、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、またはエチレングリコールが好ましく、メタノールまたはエタノールが特に好ましい。これらの反応溶媒は、単独または組み合わせのどちらでも用いることができる。
反応溶媒の使用量は、式[3]で示される1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテル100質量部に対して、通常1〜5000質量部であり、好ましくは10〜1000質量部、25〜500質量部が更に好ましい。
本反応において、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの、グラス容器、もしくはステンレスで製作した反応器を使用することができる。
反応温度は、通常、−20℃〜150℃、好ましくは0℃〜120℃、更に好ましくは25℃〜100℃の範囲である。反応完了後、反応器内の内容物は目的物である1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと他の有機物、触媒とを含む反応混合物であるが、該混合物から触媒を含まない液体成分を取り出し、さらに、その液体成分から蒸留等の操作によりジクロロメチルエーテルを高い化学純度で得ることができる。
なお、該反応混合物からの触媒の分離はろ過によるのが好ましい。また、通常、触媒は再使用できるため、反応器から内容物を移液する際に反応器内に残存させるのが効率的で好ましい。
ところで、本工程の目的物である1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルに1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルが含まれている場合、特開平2−104545号公報や特開平6−087777号公報に記載されているようなフッ素化条件(デスフルランが製造可能な一般的なフッ素化条件)を1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルに対して適用すると、デスフルランとは別に、1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルの部分的なフッ素化が進行した、1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロジフルオロメチルエーテルが得られる(参考例1)。この1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロジフルオロメチルエーテルは吸入麻酔薬であるデスフルランを製造する際、分離困難な不純物になり得る為(参考例2)、吸入麻酔薬であるデスフルランの製造工程を考慮した場合、本工程で開示したように、1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルを低減することは、大変好ましい態様と言える。
[デスフルランの製造方法(第3工程)]
次に、前記に記載の方法により製造した、式[2]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルに対し、フッ化水素を反応させることにより、式[5]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジフルオロメチルエーテル(デスフルラン)を製造する方法について説明する。
本工程では、液相中もしくは気相中でフッ素化反応を実施できるが、液相もしくは気相といった違いにより、反応条件が異なってくる。そこで、液相中もしくは気相中でフッ素化反応を行う場合について、それぞれ、順を追って説明する。
[液相中でフッ素化反応を行う場合]
本工程では、液相中でフッ素化反応を行う際、触媒を用いることができる。具体的には、四塩化スズ、二塩化スズ、四フッ化スズ、二フッ化スズ、四塩化チタン、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン、五フッ化アンチモン、塩化鉄(III)及び塩化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の触媒が利用できる。これらの触媒は単独、または組み合わせて使用することができる。中でも、四塩化スズ、二塩化スズ、四フッ化スズ、二フッ化スズの使用が好ましく、特に四塩化スズが好適に用いられる。
上記触媒を用いる際の使用量は、式[2]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル1モルに対し、0.01モル%〜20モル%であり、好ましくは0.05モル%〜10モル%であり、さらに好ましくは0.1モル%〜5.0モル%である。ルイス酸触媒を、20モル%を超える量を用いると、高沸点化合物からなるタール生成量は増加することがある。なお、液相中におけるフッ素化反応については、触媒を用いずに反応を行うこともできる。
液相中でフッ素化反応を行う際の、フッ化水素の使用量は、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル1モルに対し、0.1モルから100モルであり、好ましくは0.5モルから50モルであり、さらに好ましくは1モルから25モルである。フッ化水素量が0.1モル未満の場合は、反応における変換率が悪い。
また、フッ化水素量が100モルを超える量の使用、経済的な観点から好ましくない。
なお、本工程において、液相中でフッ素化反応を行う場合、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルに対し、フッ化水素を「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」として反応させることにより、目的物であるデスフルランを製造することも可能である。当該「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」は、有機塩基とフッ化水素を混合することで調製できる。なお、アルドリッチ社(Aldrich、2012−2014カタログ)から市販されている、「トリエチルアミン1モルとフッ化水素3モルとからなる錯体」または「ピリジン〜30%とフッ化水素〜70%とからなる錯体」を用いることもできる。
「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」における有機塩基は、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジン、4−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等が好ましく挙げられる。但し、これらに限定されず、有機合成において一般的に用いられる有機塩基も採用することができる。その中でもトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましく、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが特に好ましい。有機塩基は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
なお、前記「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」は、当該塩または錯体中に存在するフッ化水素が1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと反応を起こし、フッ素化反応が進行する。すなわち、当該塩または錯体中に含まれるフッ化水素は、単独のフッ化水素と同様、塩素原子をフッ素原子に置換するフッ素源として働く。従って、本工程において、「1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルに対し、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」を反応させる」という実施態様は、本工程における「1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルに対し、フッ化水素を反応させる」という実施態様に包含されるものとして扱う。
「有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体」の、有機塩基とフッ化水素のモル比
は、100:1〜1:100の範囲で用いれば良いが、50:1〜1:50が好ましく、25:1〜1:25が特に好ましい。
「有機塩基とフッ化水素とからなる塩または錯体」中に含まれるフッ化水素の使用量は、式[1]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル1モルに対し、0.1〜200モルであり、好ましくは0.5〜100モルであり、さらに好ましくは1〜50モルである。フッ化水素量が0.1モル未満の場合は、反応における変換率が悪い。また、フッ化水素量が200モルを超える量の使用は経済的な観点から好ましくない。
本工程において、液相中でフッ素化反応を行う場合、溶媒を用いることができる。溶媒としては、エーテル系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒、スルホキシド系溶媒等が挙げられる。
これらの反応溶媒の具体例としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−ペンタン、n−ノナン、n−デカン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
これらの中でも、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、プロピオニトリルおよびジメチルスルホキシドが好ましく、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリルが特に好ましい。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて使用することができる。
溶媒の使用量としては、特に制限は無いが、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル1モルに対して0.05L(リットル)以上使用すれば良く、通常は0.1〜20Lが好ましく、特に0.1〜10Lがより好ましい。
液相中でフッ素化反応を行う際の反応温度は、通常、−20℃から+200℃の範囲で行えば良く、−10から+150℃が好ましく、中でも0から+100℃が特に好ましい。
なお、本工程では、後述する特定の反応圧力との組み合わせとして、例えば、−40℃〜+80℃でフッ素化反応を行うこともできる。中でも、−30〜+60℃は好ましく、−20℃から+40℃は極めて好ましい温度範囲である。
液相中でフッ素化反応を行う際の圧力条件は、通常0.1MPaから4.0MPaの範囲、概ね0.1MPaから2.0MPaの範囲で行えば良く、0.1MPaから1.5MPaが好ましい。
なお、本工程では、後述する特定の反応温度との組み合わせとして、0.6MPa以下、具体的には0.1MPa〜0.6MPaの範囲でフッ素化反応を行うことは、デスフルランを製造する上で特に好ましく、0.1MPa〜0.3MPaが極めて好ましい。
更に、本工程では、液相中でフッ素化反応を行う際の反応温度及び反応圧力として、−20℃〜+40℃の温度範囲であって、かつ、0.1MPa〜0.3MPaの圧力範囲を採用することは、高い変換率でフッ素化反応が進行することは勿論のこと、反応基質や生成物(デスフルラン)のエーテル部位の開裂により生成する分解物の生成を避けることができる。すなわち、高い選択率でデスフルランを得ることを意味しており、この反応条件を採用することは、極めて好ましい態様と言える。
液相中でフッ素化反応を行うにあたり、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」を用いる場合は、温度範囲及び圧力範囲を、−10℃〜+150℃とし、かつ、0.1MPaから2.0MPaとすることで、同様に高い変換率でフッ素化反応が進行し、高い選択率でデスフルランを得ることが可能である。
[気相中でフッ素化反応を行う場合]
本工程では、気相中でフッ素化反応を行う際、触媒を用いることができる。具体的には、クロム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、マグネシウム、ジルコニウム及びアンチモンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物を金属酸化物もしくは活性炭に担持した金属化合物担持触媒である。また、前記金属化合物については、フッ化物、塩化物、フッ化塩化物、オキシフッ化物、オキシ塩化物、及びオキシフッ化塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属ハロゲン化物もしくは金属オキシハロゲン化物である。更に、前記金属酸化物が、アルミナ、ジルコニア、チタニア、クロミア、及びマグネシアからなる群より選ばれる少なくとも1種である。なお、前記担体をフッ素化したもの(例えば、フッ素化アルミナ等)についても触媒として使用できる。
これらの触媒のうち、クロム化合物が金属酸化物もしくは活性炭に担持した触媒が好ましい。
前記金属化合物を担体に担持したものを触媒として用いる場合、担持金属化合物は担体100質量部に対し0.1から100質量部であり、1から50質量部がより好ましい。なお、金属酸化物として用いるアルミナは、一般的にアルミニウム塩水溶液からアンモニアなどを用いて生じさせた沈殿を成型・脱水させて得られるアルミナである。通常、触媒担体用あるいは乾燥用として市販されているγ−アルミナが好ましく用いられる。
触媒(金属化合物担持触媒)を調製する方法は限定されないが、例えば、γ−アルミナを担体とした場合を例に挙げると、クロム、チタン、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、マグネシウム、ジルコニウム及びアンチモンからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む可溶性化合物を、水、エタノール、アセトン等の溶媒に溶解させて得られた
溶液にγ−アルミナを含浸する、もしくは該溶液をγ−アルミナにスプレーした後、乾燥させる。その後、フッ化水素などのフッ素化剤により、部分的にまたは完全に担体をフッ素化させ、フッ素化アルミナとすることで触媒は調製される。触媒の調製の最終段階では、フッ素化反応の反応温度以上の温度でフッ化水素を流通させることが好ましい。従って、通常は200から500℃、中でも300から400℃で好適に処理される。
可溶性化合物としては、水、エタノール、アセトン等の溶媒に溶解する該当金属の酸化物または塩であれば特に限定されないが、例えば硝酸塩、塩化物、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩などが挙げられる。具体的には、硝酸クロム、三塩化クロム、三酸化クロム、重クロム酸カリウム、硝酸マンガン、塩化マンガン、二酸化マンガン、硝酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸コバルト、塩化コバルト、硝酸鉄、塩化鉄などを用いるのが好ましい。これらの化合物は水和物であっても良く、その金属の価数は任意の価数であって良い。何れの方法で調製した触媒も、使用の前に所定の反応温度以上の温度で予めフッ化水素などのフッ素化剤で処理し、反応中の触媒の組成変化を防止することが有効である。
担体として用いる活性炭は、木材、木炭、椰子殻炭、パーム核炭、素灰等を原料とする植物系、泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭等を原料とする石炭系、石油残滓、オイルカーボン等を原料とする石油系または炭化ポリ塩化ビニリデン等の合成樹脂系がある。これら市販の活性炭から選択し使用することができ、例えば、瀝青炭から製造された活性炭(三菱化学カルゴン製BPL粒状活性炭)、椰子殻炭(日本エンバイロケミカルズ製G2c、G2x、GS3c、GS3x、C2c、C2x、X2M、三菱化学カルゴン製PCB)等が挙げられるが、これらに限定されない。形状、大きさも通常粒状で用いられるが、球状、繊維状、粉体状、ハニカム状等反応器に適合すれば通常の知識範囲の中で使用することができる。本発明において使用する活性炭は比表面積の大きな活性炭が好ましい。活性炭の比表面積ならびに細孔容積は、市販品の規格の範囲で十分であるが、それぞれ400m/gより大きく、0.1cm/gより大きいことが望ましい。またそれぞれ800〜3000m/g、0.2〜1.0cm/gであればよい。さらに活性炭を担体に用いる場合、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性水溶液に常温付近で10時間程度またはそれ以上の時間浸漬するか、活性炭を触媒担体に使用する際に慣用的に行われる硝酸、塩酸、フッ酸等の酸による前処理を施し、予め担体表面の活性化ならびに灰分の除去を行うことが好ましい。
また、反応中に酸素、塩素、フッ素化または塩素化炭化水素などを反応器中に供給することは触媒寿命の延長、反応率、反応収率の向上に有効である。本発明にかかる触媒が、反応により活性を失った際には、再び活性化させることが可能である。すなわち、失活した触媒は、高められた温度で酸化性物質、例えば、酸素、空気、塩素などと接触させることで再活性化することができる。その時の処理温度は、200から550℃であり、中でも300から500℃が好ましい。200℃未満では未活性化の状態のままであり、50℃を超えると触媒が変性して活性を得ることができない場合がある。
気相中でフッ素化反応を行う際の反応温度は特に限定されないが、100から500℃であり、100から400℃が好ましく、100から350℃がさらに好ましい。反応温度が500℃を超える場合は、分解生成物が生成し、目的物の選択率が低下することがあるので好ましくない。
気相中でフッ素化反応を行う際の、反応領域へ供給する1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル:フッ化水素のモル比は、反応温度に影響を受けるが、通常1:2から1:50であるが、1:4から1:20が好ましく、1:5から1:15がより好ましい。フッ化水素が少ないと反応の変換率は低下し、目的物の収率が低下することがある。
気相中でフッ素化反応を行う際の、反応領域へ供給する1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは、反応に関与しない窒素、ヘリウム、アルゴンなどのガスと共に供給することができる。また、同様にフッ化水素を共存させることもできる。このようなガスは、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル1モル当たり100モル以下の比率とし、20モル以下が好ましい。また、反応に関与しないガス類は、使用しなくても構わない。
気相中でフッ素化反応を行う際の反応圧力としては、通常0.1〜6.0MPaの範囲であるが、本工程における好ましい圧力範囲については、好ましくは0.1〜3.0MPa、より好ましくは0.1〜1.5MPaの範囲である。圧力を設定する場合、系内に存在する原料などの有機物が、反応系内で液化しないような条件を選ぶことが望ましい。
気相中でフッ素化反応を行う際の接触時間は、標準状態において、通常0.1から200秒、好ましくは3から100秒である。接触時間が短いと反応率が低下し、接触時間が長すぎると副反応が起こるので好ましくない。なお、気相中、フッ化水素を流通させることでフッ素化反応を進行させることが可能であるが、このような流通形式では、触媒の保持方法は固定床、流動床、移動床等、いずれの形式でもかまわないが、固定床で行うのが簡便であり、好ましい。
本工程における反応容器については、ステンレス鋼(SUS)の様な材質でできた耐圧反応容器やフッ化水素に対する耐食性能を有するテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)やポリテトラフルオロエチレン等の樹脂にて内部がライニングされた耐圧反応容器を用いて反応を行うことが好ましい。
本工程における反応時間は、通常は12時間以内であるが、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと使用したフッ化水素の使用量に起因した反応条件の違いにより、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、出発基質が殆ど消失した時点を反応の終点とすることが好ましい。
なお、本発明は、フッ素化反応の初期段階において、ジクロロメチルエーテルのうち、塩素原子の一つがフッ素化された、式[6]:
Figure 2020002022
で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロフルオロメチルエーテル(以下、本明細書で「クロロフルオロメチルエーテル」と言うことがある。)が生成した時点で一度反応を停止させたのち、続けてフッ素化反応を行うことで、デスフルランを高選択的に得ることもできる。
但し、作業の効率性という観点から、1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロフルオロメチルエーテルに対する単離精製を行わずに反応を進めるのが、特に好ましい態様と言える。
フッ素化反応が終了した後、ルイス酸触媒の回収はデカンテーション、蒸留、濾過、再結晶等の操作により行うことができる。これらのうち、デカンテーションが最も簡便かつ効率的である為、好ましく用いられる。回収したルイス酸触媒には、原料の式[2]のジクロロメチルエーテル、クロロフルオロメチルエーテル、目的物のデスフルラン、そして反応試剤のフッ化水素が一部含有する場合もあるが、これらをルイス酸触媒から単離精製をせずにそのまま、フッ素化反応における原料として再利用することが可能である。また、ルイス酸触媒の回収再利用を重ねることにより、反応性の低下が見られた場合は、回収触媒へ新規なルイス酸触媒を別途添加して反応を行うことも可能である。
フッ化水素を使用する本工程に関し、ルイス酸触媒を一度でも供した場合、ルイス酸の配位子の一部がフッ素化され、塩素原子がフッ素原子に置換される場合もあるが、回収・再利用を行う場合には特段の影響はなく、そのまま反応に用いることができる。
触媒回収工程における使用可能な容器材質は、フッ化水素等に対する耐食性能を有するステンレス鋼(SUS)または、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)やポリテトラフルオロエチレン等の樹脂にて内部がライニングされた器具を用いることが好ましい。
本工程において、前述したように、原料であるジクロロメチルエーテルやクロロフルオロメチルエーテルへのフッ素化反応を出来る限り進行させる、すなわち、これらの化合物が殆ど消失するのを確認しながら反応を行うことは、デスフルランを効率的に得るための好ましい態様と言えるが、その一方で、反応後、デスフルラン中に、ジクロロメチルエーテルやクロロフルオロメチルエーテルが残存する場合がある。この場合、未反応のジクロロメチルエーテルやフルオロクロロメチルエーテルは、デスフルランの精製操作においてそれぞれ回収可能であり、それらを再びフッ素化反応の出発原料として再利用できる。
本工程における精製操作は、蒸留、活性炭処理、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の操作があり、何れの方法でも高い化学純度で精製することが可能であるが、これらのうち、蒸留操作が最も簡便かつ効率的である為、好ましく用いられる。蒸留操作を行う際、フッ素化反応の反応液をそのまま蒸留精製に供することも可能であるが、必要に応じ、水洗浄等の後処理を行うことにより、反応に使用したフッ素化剤を除去した後、得られる反応粗体をそのまま蒸留に用いても構わない。また、蒸留操作については、後述する理論段数、還流比でもって「分別蒸留」(fractional distillation)(なお、ここで言う「分別蒸留」について、「蒸留」または「精密蒸留」と言うことがある)を行うのが好ましい。
蒸留を行うことで、デスフルラン中のジクロロメチルエーテルやフルオロクロロメチルエーテルを分離・除去することが可能となる。蒸留搭の段数は、反応で副生する不純物等の低減の度合いに応じて変わるが、例えば、2以上、50以下であればよい。中でも、3以上、40以下が好ましく、5以上、30以下がより好ましい。
蒸留塔に充填する充填物としては、規則性充填物、不規則性充填物の何れも利用できる。規則性充填物としては、通常用いられるもので良く、例えば、スルザーパッキング、メラパック、テクノパック、フレキシパック等が挙げられる。不規則性充填物としては、通常用いられるもので良く、例えば、ヘリパック、ラシヒリング、ディクソンパッキング等が挙げられる。還流比は0.5〜20.0、好ましくは0.5〜15.0、より好ましくは0.5〜10.0である。
蒸留における使用可能な容器材質は、フッ化水素等に対する耐食性能を有するステンレス鋼(SUS)または、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)やポリテトラフルオロエチレン等の樹脂にて内部がライニングされた蒸留容器を用いることが好ましい。ただし、後処理操作により酸を除去した反応粗体を蒸留する場合は、通常のホウケイ酸ガラスの蒸留容器を用いても構わない。
後処理は、反応終了液に対して通常の精製操作を実施することにより、目的とするデスフルランを高収率で得ることができる。目的物は、必要に応じて、活性炭処理、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、さらに高い化学純度品へ精製することができる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これらの実施態様に限られない。
[調製例1;塩化クロムをアルミナに担持した触媒の調製例]
896gの特級試薬CrCl・6HOを純水に溶かして3.0Lとした。この溶液に粒状アルミナ400gを浸漬し、一昼夜放置した。次に濾過してアルミナを取り出し、熱風循環式乾燥器中で100℃に保ち、さらに一昼夜乾燥した。得られたクロム担持アルミナは、電気炉を備えた直径4.2cm、長さ60cmの円筒形SUS316L製反応管に充填し、窒素ガスを約20mL/分の流量で流しながら300℃まで昇温し、水の流出が見られなくなった時点で、窒素ガスにフッ化水素を同伴させ、その濃度を徐々に高めた。充填されたクロム担持アルミナのフッ素化によるホットスポットが反応管出口端に達したところで反応器温度を350℃に上げ、その状態を5時間保ち触媒の調製を行った。
[調製例2;ピリジンとフッ化水素とからなる錯体の調製例]
攪拌機、圧力計を備えた1000mLステンレス鋼(SUS)製オートクレーブ反応器にピリジン158.2g(2mol、1当量)を量り取り、ドライアイスにて冷却した。その後、発熱に注意しながらフッ化水素200.0g(10mol、5当量)を内温20℃以下にてゆっくりと滴下した。滴下終了後、室温にて1時間攪拌することにより、ピリジン・フッ化水素錯体(モル比、ピリジン:フッ化水素=1:5)を調製した。
[実施例1]
Figure 2020002022
冷却管コンデンサーと温度計を備えたホウケイ酸ガラスの反応容器にポリテトラフルオロエチレンの攪拌子を入れ、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル400g(3.0mol、1.0当量)、そして水400gを量り取った。冷却下、反応器の外側より100Wの高圧水銀ランプ(ウシオ電機株式会社製)にて紫外線を照射しながら、塩素355g(5.0mmol、1.7当量)を発熱に注意しながら、12時間かけて導入した。塩素導入後、未反応分の塩素は窒素を用いてパージし、さらに水層を二相分離にて除去することで、反応粗体563gを得た。得られた反応粗体をガスクロマトグラフィーによる分析へ供すると、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルは未検出、式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルは34.3%、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは58.1%、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは3.7%、その他は3.9%であった。この反応粗体を理論段数30段の蒸留塔を用いて分留すると、初留分として式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルを79.5%含有する留分を210g得た。次いで、主留分として式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを91.1%含有する留分を292g得た。さらに、後留として式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルを94.0%含有する留分を30.5g得た。
[物性データ]
・式[1]1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル:
H−NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm):3.72 (3H, s), 5.28 (1H, dq, J=60.0, 3.2Hz)
19F−NMR(400MHz,CDCl,CFCl)δ(ppm):−84.33 (3F, s), −146.04(1F, d, J=60.7Hz)
・式[2]1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル:
H−NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm):6.05 (1H, dq, J=54.2, 3.2Hz) 7.27(1H, 1S)
19F−NMR(400MHz,CDCl,CFCl)δ(ppm):−83.68 (3F, s), −148.66(1F, d, J=54.8Hz)
・式[3]1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテル:
H−NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm):6.10 (1H, dq, J=52.7, 3.2Hz)
19F−NMR(400MHz,CDCl,CFCl)δ(ppm):−83.38 (3F, s), −148.06(1F, d, J=52.2Hz)
・式[4]1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテル:
H−NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm):5.57 (2H, dd, J=9.5, 9.9Hz), 5.73 (1H, dq, J=59.4, 3.2Hz)
19F−NMR(400MHz,CDCl,CFCl)δ(ppm):−83.91 (3F, s), −152.60(1F, d, J=57.7Hz)
[実施例2]
Figure 2020002022
冷却管コンデンサーと温度計を備えたホウケイ酸ガラスの反応容器にポリテトラフルオロエチレンの攪拌子を入れ、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル208g(1.58mmol、1.0当量)を量り取った。冷却下、反応器の外側より紫外線2W−LEDランプ(オプトコード株式会社製)にて紫外線を照射しながら、塩素224g(3.16mol、2.0当量)を発熱に注意しながら、20時間かけて導入した。塩素導入後、未反応分の塩素は窒素を用いてパージし、反応粗体300gを得た。得られた反応粗体をガスクロマトグラフィーによる分析へ供すると、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルは未検出、式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルは8.1%、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは71.9%、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは15.1%、その他は4.9%であった。
[実施例3]
Figure 2020002022
冷却管コンデンサーと温度計を備えたホウケイ酸ガラスの反応容器にポリテトラフルオロエチレンの攪拌子を入れ、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテル10g(76mmol、1.0当量)、AIBN60mg(0.37mmol、0.0049当量)、そして1,4−ビストリフルオロメチルベンゼン20gを量り取った。加熱還流下、塩素8.0g(113mmol、1.5当量)を発熱に注意しながら、4時間かけて導入した。塩素導入後、得られた反応粗体をガスクロマトグラフィーによる分析へ供すると、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルは未検出、式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルは46.1%、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは44.8%、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは2.9%、その他は6.2%であった。
[実施例4]
Figure 2020002022
冷却管コンデンサーと温度計を備えたホウケイ酸ガラスの反応容器にポリテトラフルオロエチレンの攪拌子を入れ、実施例1にて回収した式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテル77g(462mmol、1.0当量)、水51gを量り取った。冷却下、反応器の外側より100Wの高圧水銀ランプ(ウシオ電機株式会社製)にて紫外線を照射しながら、塩素22g(310mmol、0.67当量)を発熱に注意しながら、4時間かけて導入した。塩素導入後、未反応分の塩素は窒素を用いてパージし、反応粗体86gを得た。得られた反応粗体をガスクロマトグラフィーによる分析へ供すると、式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルは28.4%、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは62.6%、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは6.7%、その他は2.3%であった。
[実施例5]
Figure 2020002022
圧力計、温度計保護管、挿入管、そして攪拌モーターを備えた500mLステンレス鋼製オートクレーブ反応器内に、実施例2で得られた混合物から90.0g、遷移金属触媒としてエヌ・イーケムキャット社製の5%白金カーボン粉末(54%含水品)3.8g(0.448mmol)、20%酢酸ナトリウム水溶液171.9g(419mmol)、そして1−ヘキサノール168.9gを量り取った。次いで、室温で、挿入管より1.20MPa(絶対圧)の水素を5時間導入した。反応後、反応液を19F−NMRにより測定したところ、トリフルオロメチル基を基準とした組成は、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルは未検出、式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルは7.7%、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは84.4%、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは未検出、その他は7.9%であった。濾過にて触媒除去後、反応液を二相分離することで有機層を回収した。この有機層を理論段数10段の蒸留塔を用いて分留を試みたところ、目的物である式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを主成分として93.9%含む留分を41.4g得た。
[実施例6]
Figure 2020002022
圧力計、温度計保護管、挿入管、そして攪拌モーターを備えた100mLステンレス鋼製オートクレーブ反応器内に、実施例1で得られた式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルを主成分に持つ留分3.0g(13mmol)、エヌ・イーケムキャット社製の5%パラジウムカーボン粉末(50%含水品)200mg(0.047mmol)、重曹3.2g(38mmol)、そしてエタノール7.9gを量り取った。次いで、室温で、挿入管より1.20MPa(絶対圧)の水素を27時間導入した。反応後、反応液を19F−NMRにより測定したところ、トリフルオロメチル基を基準とした組成は、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルは12.5%、式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルは未検出%、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは80.8%、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは未検出%、その他は6.7%であった。
[実施例7]
Figure 2020002022
触媒をエヌ・イーケムキャット社製の2%白金カーボン粉末(54%含水品)255mg(0.012mmol)を用いた他は、実施例6と同じ条件下で反応を行った。反応後、反応液を19F−NMRにより測定したところ、トリフルオロメチル基を基準とした組成は、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルは未検出、式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルは未検出、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは85.7%、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは未検出、その他は14.3%であった。
[実施例8]
Figure 2020002022
触媒をエヌ・イーケムキャット社製の5%ロジウムアルミナ粉末29mg(0.014mmol)を用いた他は、実施例6と同じ条件下で反応を行った。反応後、反応液を19F−NMRにより測定したところ、トリフルオロメチル基を基準とした組成は、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルは未検出、式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルは未検出%、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは96.5%、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは0.6%、その他は2.9%であった。
[実施例9]
Figure 2020002022
圧力計、温度計保護管、挿入管、そして攪拌モーターを備えた300mLステンレス鋼製オートクレーブ反応器内に、別途調製して得られた式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルを主成分に持つ留分30g(127mmol)、エヌ・イーケムキャット社製の2%白金カーボン粉末(54%含水品)2.55g(0.12mmol)、20%酢酸ナトリウム水溶液57.3g(140mmol)、そして1−ヘキサノール81gを量り取った。次いで、室温で、挿入管より1.20MPa(絶対圧)の水素を12時間導入した。反応後、反応液を19F−NMRにより測定したところ、トリフルオロメチル基を基準とした組成は、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルは0.1%、式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルは未検出、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは92.0%、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは2.1%、その他は5.8%であった。濾過にて触媒除去後、反応液を二相分離することで有機層を回収した。この有機層を理論段数10段の蒸留塔を用いて分留を試みたところ、目的物である式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを主成分として97.6%含む留分を得た。
[実施例10]
Figure 2020002022
ドライアイス冷却下、圧力計を備えた100mLステンレス鋼(SUS)製オートクレーブ反応器にポリテトラフルオロエチレンの攪拌子を入れ、実施例5で得られた式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを主成分に持つ留分から10.0g(49.8mmol)、フッ化水素3.65g(183mmol)、四塩化スズ0.20g(0.77mmol)をそれぞれ量り取り、24℃まで昇温することで反応を開始した。昇温後、反応圧力を0.6MPa付近でコントロールするため、副生する塩化水素はコンデンサーを通して系外へ除去しながら反応を9時間行なった。反応後全ての反応液を氷水へ吸収させることで反応を停止した。2相分離により得られた有機物をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、デスフルランを91%にて得た。
次に、実施例2に記載の塩素化反応、実施例5に記載の加水素分解反応を複数回行うことにより、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを300g調製し、以下の実施例10〜実施例14の原料に用いた。
[実施例11]
Figure 2020002022
攪拌機、圧力計、そして冷却コンデンサーを備え付けた500mLオートクレーブ反応容器(SUS製)へ上式に示す1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル201g(1.00mol、1.00当量)、そして四塩化スズ2.61g(10.0mmol、1.0mol%)を量り取った。氷浴にて冷却後、フッ化水素49.8g(2.49mol、2.5当量)を一括で仕込み、急な発熱に注意しながら20℃まで徐々に昇温した。次いで、0.1MPa付近(大気圧)の反応圧を維持するため副生する塩化水素は冷却コンデンサーを通して系外に除去しながら12時間の反応を行った。その後、全ての反応液を氷水へ吸収させることで反応を停止した。二相分離により得られた有機物は163gであり、有機物の回収率は97.0%であった。また、得られたデスフルランの純度は93.3%であった。
[実施例12]
Figure 2020002022
圧力計と冷却コンデンサーを備え付けた100mLオートクレーブ反応容器(SUS製)にポリテトラフルオロエチレンの攪拌子を入れ、上式に示す1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル20g(99.5mmol、1.00当量)、そして五塩化アンチモン0.36g(1.20mmol、1.2mol%)を量り取った。氷浴にて冷却後、フッ化水素8.8g(440mmol、4.4当量)を一括で仕込み、急な発熱に注意しながら15℃まで徐々に昇温した。次いで、0.1MPa付近(大気圧)の反応圧を維持するため副生する塩化水素は冷却コンデンサーを通して系外に除去しながら6時間の反応を行った。その後、全ての反応液を氷水へ吸収させることで反応を停止した。二相分離により得られた有機物は8.0gであり、有機物の回収率は47.9%であった。また、得られたデスフルランの純度は96.9%であった。
[実施例13]
Figure 2020002022
電気炉を備えた円筒形反応管からなる気相反応装置(SUS316L製、直径2.5cm・長さ40cm)に触媒として前記調製例1で調製した触媒を100mL充填した。約10mL/分の流量で窒素ガスを流しながら、反応管の温度を180℃に上げ、フッ化水素を約0.1g/分の速度で1時間にわたり導入した。次いで、原料である1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル(91.9GC%)を約0.1g/分(接触時間25秒)の速度で反応管へ供給開始した。反応開始1時間後には反応は安定したので、反応器から流出するガスを水中に吹き込んで酸性ガスを除去した後、生成物をガスクロマトグラフィーにて分析した。得られたデスフルランの純度は88.8%であった。
[実施例14]
Figure 2020002022
攪拌機、圧力計、そしてコンデンサーを備えた500mLステンレス鋼(SUS)製オートクレーブ反応器へ上式に示す1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル39.9g(199mmol、1当量)量り取り、ドライアイスにて冷却した。冷却下、前記調整例2で得たピリジン・フッ化水素錯体(モル比、ピリジン:フッ化水素=1:5)71.0g(396mmol、1.99当量)を発熱に注意しながら導入した後、120℃まで昇温することで反応を開始した。昇温後、反応圧力を1.8MPaでコントロールするため、副生する塩酸はコンデンサーを通して系外へ除去しながら、反応を15時間行った。反応後、全ての反応液を氷水へ吸収させることで反応を停止した。二層分離により得られた有機物は27.1gであり、有機物の回収率は81.1%であった。また、目的物であるデスフルランは90.2%であった。
[比較例1]
Figure 2020002022
触媒をエヌ・イーケムキャット社製の5%プラチナアルミナ粉末55mg(0.014mmol)を用い、さらに、受酸剤を用いない他は実施例6と同じ条件下で反応を行った。反応後、反応溶媒であるエタノールを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルは未検出%、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは1.3%、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは96.2%、その他は2.5%であった。
[比較例2]
Figure 2020002022
冷却管コンデンサーと温度計を備えたホウケイ酸ガラスの反応容器にポリテトラフルオロエチレンの攪拌子を入れ、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテル1.0g(4.2mmol、1.0当量)、そして2−プロパノール3.0g(50mmol、1.2当量)を量り取った。その後、反応器の外側より紫外線2W−LEDランプ(オプトコード株式会社製)を照射しながら、10時間、室温にて攪拌した。反応後、反応溶媒である2−プロパノールと副生成物のアセトンを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルは未検出、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは69.5%、式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルは未検出、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは0.1%、その他は30.4%であった。この反応粗体を理論段数10段の蒸留塔を用いて分留を試みたが、反応溶媒の2−プロパノール(沸点:82.6℃)と目的物の式[2]で示す1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテル(沸点:82.5℃)の沸点は非常に近く完全な分離は困難であった。
[比較例3]
Figure 2020002022
冷却管コンデンサーと温度計を備えたホウケイ酸ガラスの反応容器にポリテトラフルオロエチレンの攪拌子を入れ、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテル1.0g(4.2mmol、1.0当量)、そして2−ヘキサノール3g(29mmol、6.9当量)を量り取った。その後、反応器の外側より紫外線2W−LEDランプ(オプトコード株式会社製)を照射しながら、6時間、室温にて攪拌した。反応後、反応溶媒である2−ヘキサノールと副生成物の2−ヘキサノンを除いた場合の各成分のガスクロマトグラフィー組成は、式[1]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルは未検出、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは2.2%、式[4]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルは未検出、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは96.5%、その他は1.3%であった。溶媒として2−ヘキサノールを用いた場合は、ほぼ原料回収であった。
[参考例1]
Figure 2020002022
ドライアイス冷却下、圧力計を備えた100mLステンレス鋼(SUS)製オートクレーブ反応器にポリテトラフルオロエチレンの攪拌子を入れ、上式に示す[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテル5.0g(21.2mmol)、フッ化水素8.5g(425mmol)、五塩化アンチモン329mg(1.1mmol)をそれぞれ量り取り、自然昇温後、室温から80℃の温度にて8時間攪拌を行った。反応後、0.90MPaの反応圧力を開放し、反応液を水洗後、二相分離により得られた有機物をガスクロマトグラフィーにより測定したところ、1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロジフルオロメチルエーテルを90%にて得た。
[物性データ]
1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロジフルオロメチルエーテル:
H−NMR(400MHz,CDCl)δ(ppm):5.96 (1H, dq, J=53.4, 2.8Hz)
19F−NMR(400MHz,CDCl,CFCl)δ(ppm):−28.93(1F, d, J=86.8Hz),−29.95(1F, d, J=92.8Hz), −83.41 (3F, s), −146.75(1F, d, J=54.8Hz)
[参考例2]
Figure 2020002022
実施例2で得られた反応粗体200gを用い、理論段数15段の蒸留塔により蒸留精製を行ったところ、主留分の組成は、式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは91.9%、式[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは4.9%、その他は3.2%であった。ドライアイス冷却下、冷却コンデンサーと圧力計を備えた200mLステンレス鋼(SUS)製オートクレーブ反応器にポリテトラフルオロエチレンの攪拌子を入れ、前記の蒸留精製により得られた塩素化物(前記主留分)77.1g(384mmol、1当量)、フッ化水素23.0g(1.15mol、3.0当量)、五塩化アンチモン5.7g(19.2mmol、5mol%)をそれぞれ量り取り、室温まで自然昇温後、80℃まで加熱した。次いで、0.6MPa付近の反応圧を維持するため副生する塩化水素は冷却コンデンサーを通して系外に除去しながら6時間の反応を行った。反応後、0.60MPaの反応圧力を開放し、反応液を水洗後、二相分離により得られた有機物56.6gをガスクロマトグラフィーにより測定したところ、目的物である式[5]のデスフルランは90.8%、反応中間体の式[6]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロフルオロメチルエーテルは0.5%、1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロジフルオロメチルエーテルは3.8%、未反応の原料である式[2]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは未検出、また未反応の[3]の1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルは0.6%であった。この反応粗体を理論段数15段の蒸留塔により蒸留精製を行ったところ、得られた37.4gの主留分の組成は、式[5]のデスフルランは97.0%、1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロジフルオロメチルエーテルは2.8%、その他0.2%であった。
本発明で対象とする1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルは、医薬、農薬の中間体、及び代替フロン化合物であり、特に吸入麻酔剤デスフルランの重要前駆体として有用である。

Claims (24)

  1. 以下の工程を含む、式[2]:
    Figure 2020002022
    で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルの製造方法。
    第1工程:式[1]:
    Figure 2020002022
    で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルメチルエーテルに、ラジカル開始剤の存在下または光照射下、塩素(Cl)を反応させることにより、
    式[2]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと、
    式[3]:
    Figure 2020002022
    で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルと、を含む混合物を得る工程。
    第2工程:第1工程で得られた混合物に対し、受酸剤及び遷移金属触媒の存在下、水素(H)を用いて加水素分解反応を行うことにより、前記混合物に含まれる1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルを、1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルへ変換する工程。
  2. 第1工程において、ラジカル開始剤または光照射が、有機過酸化物またはアゾ系ラジカル開始剤である、請求項1に記載の製造方法。
  3. 第1工程において、光照射を、水銀灯、紫外線LED、有機EL、無機EL、紫外線レーザー、及びハロゲンランプからなる群より選ばれる少なくとも1種の光源を用いて行う、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 第1工程において、塩素を反応させる際、反応後の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルと、1,2,2,2−テトラフルオロエチルトリクロロメチルエーテルとを含む混合物に、式[4]:
    Figure 2020002022
    で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルが生成物として含まれる、請求項1乃至3の何れかに記載の製造方法。
  5. 第1工程において、塩素との反応で得られた前記混合物に対し、蒸留精製を行うことにより、該混合物から式[4]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルを分離除去する工程を更に含む、請求項4に記載の製造方法。
  6. 分離除去した式[4]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルを回収し、第1工程の塩素化反応における出発原料として用いる、請求項5に記載の製造方法。
  7. 分離除去した式[4]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルクロロメチルエーテルに対し、塩素(Cl)を反応させることにより、式[2]で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを製造し、得られた1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを第2工程の出発原料として用いる、請求項5に記載の製造方法。
  8. 第1工程において、塩素との反応で得られた前記混合物を、精製操作を行わずにそのまま第2工程の出発原料として用いる、請求項1乃至7の何れかに記載の製造方法。
  9. 第2工程において、受酸剤が、アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩またはカルボン酸塩である、請求項1乃至8の何れかに記載の製造方法。
  10. アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩またはカルボン酸塩が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、酢酸ナトリウム及び酢酸カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項9に記載の製造方法。
  11. 第2工程において、遷移金属触媒が、ロジウム、パラジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属、
    または、
    該金属を含む金属化合物を担体に担持した金属化合物担持触媒である、
    請求項1乃至10の何れかに記載の製造方法。
  12. 担体が活性炭または金属酸化物である、請求項11に記載の製造方法。
  13. 金属酸化物がアルミナ、ジルコニア、チタニア、クロミア、及びマグネシアからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項12に記載の製造方法。
  14. 第2工程において、加水素分解反応後の1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを含む混合物を蒸留精製することにより、純度の高められた1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを得る工程を更に含む、請求項1乃至13の何れかに記載の製造方法。
  15. 請求項1乃至14の何れかに記載の方法により1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルを製造し、次いで、当該1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルに対し、フッ化水素を反応させることにより、式[5]:
    Figure 2020002022
    で表される1,2,2,2−テトラフルオロエチルジフルオロメチルエーテル(デスフルラン)を製造する方法。
  16. 反応を気相中で行う、請求項15に記載の製造方法。
  17. 反応を触媒の存在下で行う、請求項15または16に記載の製造方法。
  18. 触媒が四塩化スズ、二塩化スズ、四フッ化スズ、二フッ化スズ、四塩化チタン、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン、及び五フッ化アンチモンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項17に記載の製造方法。
  19. 触媒を共存させずに行う、請求項15または16に記載の製造方法。
  20. 反応を液相中で行う、請求項15に記載の製造方法。
  21. 液相中での反応を、−20℃〜+200℃の温度範囲で、かつ、0.1MPa〜4.0MPa(絶対圧)の圧力範囲で行う、請求項20に記載の製造方法。
  22. 液相中での反応を、−20℃〜+40℃の温度範囲で、かつ、0.1MPa〜0.6MPa(絶対圧)の圧力範囲で行う、請求項20に記載の製造方法。
  23. 1,2,2,2−テトラフルオロエチルジクロロメチルエーテルに対するフッ化水素との反応を、液相中、「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」を反応させることにより行う、請求項15に記載の製造方法。
  24. 「有機塩基とフッ化水素からなる塩または錯体」における有機塩基が、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン及び1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項23に記載の製造方法。
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