JP2020000213A - ミオ−イノシトールの製造方法 - Google Patents

ミオ−イノシトールの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ミオ−イノシトールの発酵生産において、収率を向上させることができ、かつ少ない工程で高純度のミオ−イノシトールを得ることができる、ミオ−イノシトールの製造方法を提供することを課題とする。【解決手段】本発明のミオ−イノシトールの製造方法は、ミオ−イノシトール生産能を有する耐酸性微生物を、有機原料を含有するpH4.9以下の水性媒体中で培養する工程、及び生成したミオ−イノシトールを回収する工程を含む。【選択図】なし

Description

本発明は、ミオ−イノシトールの製造方法に関するものである。
ミオ−イノシトールは、ビタミンB群のひとつで、栄養食品、医薬品、飼料添加物など広範に利用されている。また、その水酸基を多く有する構造から、ポリウレタン等の種々のポリマー製造の原料としても期待されている。
従来、イノシトールは米糠やコーンスティープリカーなどに含まれるフィチン酸を加水分解することにより製造されてきた(特許文献1)。しかしながら、該方法には、原料中のミオ−イノシトール含有量が極微量であるため製造効率が非常に悪いことや、原料からのフィチン酸の抽出、加水分解反応、精製に至るまでに非常に多くの工程を要し、時間にも費用的にも負担が大きいことが問題となっている。
そこで近年は、微生物を用いてミオ−イノシトールを一般的な有機原料から生合成することが試みられている。
特許文献2には、ハロゲン化ピルビン酸に耐性を有するキャンディダ・ボイディニィ変異株を用いてイノシトールを発酵生産したことが記載されている。
特許文献3には、サッカロマイセス・セレビシエ由来INO1遺伝子を導入し、INM2活性を有する大腸菌由来suhB遺伝子の発現を増強した大腸菌を用いてイノシトールを発酵生産したことが記載されている。
特許文献4には、内在性のINO1遺伝子を過剰発現させ、サッカロマイセス・セレビシエ由来のINM2遺伝子を導入したメタノール資化性酵母ピキア・パストリスを用いて、メタノールを原料としてミオ−イノシトールを発酵生産したことが記載されている。
特開昭61−56142号公報 特開2000−41689号公報 国際公開2013−073483号 特開2011−55722号公報
一般に、微生物を用いたミオ−イノシトール発酵生産においては、種々の有機酸やグリセロール等の副生成物の生成が顕著である。そのため、依然として目的物であるミオ−イノシトールの収率向上や、精製負荷の軽減についての課題が存する。
かかる状況に鑑みて、本発明はミオ−イノシトールの発酵生産において収率を向上させることができ、かつ少ない工程で高純度のミオ−イノシトールを得ることができる、ミオ−イノシトールの製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、耐酸性微生物を用いて酸性条件下で発酵を行うことによって副生成物を抑制でき、上記課題を解決できることに想到した。
なお、従来、酸性条件下でミオ−イノシトール発酵生産を行うことが好ましいことに言
及した例はない。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]ミオ−イノシトール生産能を有する耐酸性微生物を、有機原料を含有するpH4.9以下の水性媒体中で培養する工程、及び生成したミオ−イノシトールを回収する工程を含む、ミオ−イノシトールの製造方法。
[2]前記水性媒体がpH4.2以下である、[1]に記載の製造方法。
[3]前記水性媒体がpH3.5以下である、[1]に記載の製造方法。
[4]前記培養工程における前記水性媒体の溶存酸素濃度が飽和溶存酸素濃度の50%以上である、[1]〜[3]に記載の製造方法。
[5]前記培養工程を行う培養容器内の圧力が0.02〜0.2MPaである、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]前記回収工程において、前記水性媒体中を冷却することによりミオ−イノシトールを結晶化させ、該結晶を回収する、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]前記回収工程において、エタノール存在下で冷却する、[6]に記載の製造方法。[8]前記回収工程において、水性媒体の冷却の前に、60〜80℃で1時間以上の加熱処理を行う工程、及び膜分離又は遠心分離により前記水性媒体から前記耐酸性微生物を分離する工程を含む、[6]又は[7]に記載の製造方法。
[9]前記有機原料が、グルコース、キシロース、スクロース、デンプン、廃糖蜜、グリセロール、リビトール、及びエリスリトールからなる群より選択される一種以上を含有する、[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]前記培養工程において水性媒体中の前記有機原料の濃度が10g/L以下に維持される、[1]〜[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]前記耐酸性微生物が、ミオ−イノシトール−1−リン酸シンターゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変されたものである、[1]〜[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]前記耐酸性微生物が、ミオ−イノシトール−リン酸ホスファターゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変されたものである、[1]〜[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]前記耐酸性微生物がサッカロミセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス属(Shizosaccharomyces)、キャンディダ(Candida)属、ピキア属(Pichia)、クルイヴェロマイセス属(Kluyveromyces)、ヤロウィア属(Yarrowia)、及びチゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)からなる群より選択される一種である[1]〜[12]のいずれかに記載の製造方法。
[14]前記水性媒体を中和する工程を含まない、[1]〜[13]のいずれかに記載の製造方法。
本発明の製造方法によれば副生物を抑制できるため、高収率かつ低コストで高純度のミオ−イノシトールを製造することができる。
ミオ−イノシトールの生合成経路を示す図である。 実施例1のpH3条件下における各種酵母の増殖の経時変化を示すグラフである。 ino1遺伝子発現増強用コンストラクトを示す図である。 inm2-2遺伝子発現増強用コンストラクトを示す図である。 実施例6のイノシトール蓄積量の経時変化を示すグラフである。 実施例6のクエン酸蓄積量の経時変化を示すグラフである。 実施例6のピルビン酸蓄積量の経時変化を示すグラフである。 実施例7の溶存酸素濃度の飽和溶存酸素濃度に対する割合の経時変化を示すグラフである。 実施例7のイノシトール蓄積量の経時変化を示すグラフである。 実施例10のイノシトール結晶中に含有されるタンパク質の重量
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<本発明の製造方法に用いる微生物>
本発明の製造方法には、ミオ−イノシトール生産能を有する耐酸性微生物を用いる。
本明細書において「耐酸性微生物」とは低pH条件下でも高い増殖能及び代謝能を有する微生物をいう。より具体的には、200mLの三角フラスコに調製したpH3のYPD培地(1% YEAST EXTRACT、2% HIPOLYPEPTON、2% グルコース)20mL中にて30℃で72時間、グルコースを枯渇させないように添加しながら180rpmの振とう速度にて旋回振とう培養させた時のOD660が、0時間で1としたときの相対値として5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上となる微生物をいう。
本発明では耐酸性微生物を用いることにより、低pH条件下でのミオ−イノシトール発酵が可能となり、その結果、副生物を抑制しながら、高収率かつ低コストでミオ−イノシトールを製造することができる。
本発明に用いる微生物は、耐酸性であれば特に限定されず、例えば、酵母、大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、アクチノバチルス(Actinobacillus)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、糸状菌等が挙げられる。
これらのうち、酵母がより好ましく、例えばサッカロミセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス属(Shizosaccharomyces)、キャンディダ(Candida)属、ピキア属(Pichia)、クルイヴェロマイセス属(Kluyveromyces)、ヤロウィア属(Yarrowia)、チゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)酵母等が挙げられる。さらにこれらのうち、キャンディダ属酵母がより耐酸性に優れるため好ましく、例えばキャンディダ・ボイディニィ(Candida boidinii)、キャンディダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)、キャンディダ・グラブラータ(Candida glabrata)等が挙げられ、キャンディダ・ボイディニィが特に好ましい。
上記微生物は、野生株だけでなく、UV照射やNTG処理等の通常の変異処理により得られる変異株、細胞融合若しくは遺伝子組換え法などの遺伝学的手法により誘導される組換え株などのいずれの株であってもよい。
本発明において、「ミオ−イノシトール生産能」とは、微生物を培地中で培養したときに、該微生物がミオ−イノシトールを生成し、回収できる程度に培地中又は微生物内に蓄積することができる能力をいう。
ミオ−イノシトール生産能を有する微生物は、通常、ミオ−イノシトールの生合成に関与する酵素を、内在しているか組み換え等により付与されたものである。本発明に用いるミオ−イノシトール生産能を有する耐酸性微生物は、前述の耐酸性微生物を宿主として遺伝子工学的手法により作成することができる。
グルコースを出発物質または中間体として用いる場合のミオ−イノシトールの生合成経路について、図1を参照しながら説明する。
反応は、グルコースを出発原料として開始してもよいし、他の出発原料から適当な反応
で生成されたグルコースから開始してもよい。微生物が普遍的に有する代謝経路によりグルコースから変換されたグルコース−6−リン酸は、ミオ−イノシトール−1−リン酸シンターゼ(INO1)活性によりミオ−イノシトール−1−リン酸に変換される。次いで、ミオ−イノシトール−1−リン酸を基質として、ミオ−イノシトール−リン酸ホスファターゼ(INM)活性により、ミオ−イノシトールが生成する。
したがって、本発明に用いる耐酸性微生物は、INM活性及びINO1活性を有しているものであり、さらにはINM活性及び/又はINO1活性が非改変株と比較して増強するように改変されたものであることが好ましい。
宿主微生物がこれらの酵素活性を有するタンパク質を内在していない場合は、これらのタンパク質を発現するように外来遺伝子を導入すればよい。なお、ここで、「内在していない」とは、前記酵素活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を有しない場合、該遺伝子にコードされるタンパク質を実質的に発現しない場合等をいう。また、宿主微生物に前記タンパク質が内在している場合であっても、非改変株と比較して増強するように、外来遺伝子導入や組み換え等により改変を行ってもよい。
なお、酵母には通常、INM活性を有するタンパク質、及びINO1活性を有するタンパク質は内在する。
本発明において、「ミオ−イノシトールモノフォスファターゼ(INM)活性」とは、ミオ−イノシトール−1−リン酸を脱リン酸化してミオ−イノシトールに変換する反応を触媒する活性をいう。
INM活性を有するタンパク質をコードする遺伝子としては、特に限定されないが、多くの公知の生物由来の当該遺伝子を用いることができる。例えば、GenBank Accession Nos.ZP_04619988、YP_001451848等が挙げられる。
また、INM活性を有するタンパク質をコードする遺伝子としては、(a)配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA、又は(b)配列番号2のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%、特に好ましくは98%以上の同一性を有し、かつINM2活性を有するタンパク質をコードするDNAが、特に好ましく挙げられる。なお、INM2活性を有することは、当該タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞で発現させ、常法の酵素活性測定法により、非改変株と比べてINM2活性が上昇しているかどうかを調べることによって確認できる。
配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質は、INM2−2遺伝子がコードするタンパク質である。INM活性を担う遺伝子としてはINM1及びINM2が知られているが、本発明者らはキャンディダ・ボイディニィには2種類のINM2遺伝子(INM2−1及びINM2−2)が存することを見出し、さらに耐酸性微生物においてINM2−2遺伝子がコードするタンパク質の活性を増強すると、ミオ−イノシトール生産性が向上することを見出した。本発明の製造方法において、ミオ−イノシトール生産性向上のために、該タンパク質の活性を増強することが特に好ましい。
なお、本発明者らは同定したキャンディダ・ボイディニィのもう1種類のINM2遺伝子であるINM2−1遺伝子の塩基配列を配列番号3に、該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号4にそれぞれ示す。本発明において、このタンパク質の活性を増強させてもよい。
また、他の微生物や動植物由来の遺伝子を使用することもできる。配列番号1に示されるDNA配列とのホモロジー等に基づいてINM活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を
使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、INM活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類の遺伝子を用いてもよい。
本発明において、「ミオ−イノシトール−1−リン酸シンターゼ(INO1)活性」とは、グルコース−6−リン酸をミオ−イノシトール−1−リン酸に変換する反応を触媒する活性をいう。
INO1活性を有するタンパク質をコードする遺伝子としては、特に限定されないが、例えば、公知のGenBank Accession Nos.AB032073、AF056325、AF071103、AF078915、AF120146、AF207640、AF284065、BC111160、L23520、U32511等が挙げられる。特に、配列番号5で示されるキャンディダ・ボイディニィ由来のコード化領域ヌクレオチド配列を有するミオ−イノシトール−1−リン酸シンターゼ遺伝子を好適に用いることができる。
また、他の微生物や動植物由来の遺伝子を使用することもできる。配列番号5に示されるDNA配列とのホモロジー等に基づいてINO1活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、微生物や動植物等の染色体より単離し、塩基配列を決定したものなどを使用することができる。また、塩基配列が決定された後には、その配列に従って合成した遺伝子を使用することもできる。これらはハイブリダイゼーション法やPCR法により、プロモーターおよびORF部分を含む領域を増幅することによって取得することができる。なお、INO1活性の増強にあたっては、異なる微生物や動植物由来の複数種類の遺伝子を用いてもよい。
前述のINM2−2、INM2−1、又はINO1の各遺伝子がコードするタンパク質は、(a)配列番号2、4又は6のアミノ酸配列を有するタンパク質、又は(b)配列番号2、4又は6のアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%、特に好ましくは98%以上の同一性を有し、かつ所望の活性(すなわちINM2活性又はINO1活性)を有するタンパク質である。
また、本発明におけるINM2−2、INM2−1、又はINO1の各遺伝子がコードするタンパク質は、(b’)所望の活性(すなわちINM2活性又はINO1活性)を有する限りにおいて、配列番号2、4又は6のアミノ酸配列において、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加等を含む配列を有するタンパク質をコードする、変異体又は人為的な改変体であってもよい。ここで、「1または数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個を意味する。上記置換は保存的置換が好ましく、保存的変異とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換としては、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はT
rpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には宿主微生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
またINM2−2、INM2−1、又はINO1の各遺伝子は、(c)配列番号1、3又は5に示される塩基配列を有するDNA、又は(d)配列番号1、3又は5に相補的な塩基配列又は該配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、所望の活性(すなわちINM2活性又はINO1活性)を有するタンパク質をコードするDNAであってもよい。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%、好ましくは90%以上、より好ましくは95%、特に好ましくは98%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSさらに好ましくは、68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度、温度で、1回より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
本発明において「酵素活性が増強する」とは、野生株及び親株(本発明において特定された酵素のすべての細胞内の活性が増強されていない株)を含む非改変株に比べて、細胞内の酵素活性が上昇していることを意味し、非改変株が有していない酵素活性を有することも包含する。
目的の酵素活性を増強する方法としては、例えば、親株を変異剤によって処理する方法、該活性を有するタンパク質をコードする遺伝子のコピー数を高める方法、前記遺伝子や前記遺伝子のプロモーターを改変する方法などが挙げられる。さらに、これらの方法を複数組み合わせてもよい。
以下、目的の酵素活性が増強するように改変された株の具体的な作製方法について説明する。目的の酵素活性が増強された株は、親株をN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)やエチルメタンスルホン酸(EMS)等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理し、該活性が上昇した株を選択することによって得ることができる。
また、目的の酵素活性が増強された株は、該活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を用いて改変することによっても得ることができる。具体的には、前記遺伝子のコピー数を高めることによって達成でき、コピー数を高めることは、前記遺伝子を含むベクターで形質転換すること、または相同組換え法等の手法によって染色体上に該遺伝子を導入し、染色体上で多コピー化させることなどによって達成できる。
さらに、目的の酵素活性が増強された株は、染色体上またはプラスミドベクター上の該活性を有するタンパク質をコードする遺伝子に変異を導入することによって、前記遺伝子がコードするタンパク質1分子当たりの前記活性を増加させることによっても達成できる。
また、前記遺伝子の発現が増強された株は、染色体上またはプラスミドベクター上で前記遺伝子のプロモーターへ変異を導入すること、より強力なプロモーターへ置換することなどで前記遺伝子を高発現化させることによっても達成できる。
目的の酵素活性を有するタンパク質の発現ベクターは、前記タンパク質をコードする遺伝子を公知の発現ベクターに発現可能なように挿入すればよい。この発現ベクターで形質
転換することにより、目的の酵素活性が増強するように改変された株を得ることができる。あるいは、相同組換えなどによって、宿主微生物の染色体DNAに前記タンパク質をコードするDNAを発現可能なように組み込むことによっても目的の酵素活性が増強するように改変された株を得ることができる。なお、形質転換、相同組換えは当業者に知られた通常の方法に従って行うことができる。
染色体上またはプラスミド上に前記遺伝子を導入する場合には、適当なプロモーターを該遺伝子の5’−側上流に、より好ましくはターミネーターを3’−側下流にそれぞれ組み込む。このプロモーターおよびターミネーターとしては、宿主として利用する微生物中において機能することが知られているプロモーターおよびターミネーターであれば特に限定されず、前記遺伝子自身のプロモーターおよびターミネーターであってもよいし、他のプロモーターおよびターミネーターに置換してもよい。これら各種微生物において利用可能なベクター、プロモーターおよびターミネーターなどに関しては、例えば「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」などに詳細に記述されている。
本発明に用いる耐酸性微生物は、さらにピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)活性が非改変株と比較して減弱するように改変されていることが好ましい。これは、微生物発酵において副生成物として生じるエタノールがミオ−イノシトールの生成を妨げる傾向にあるところ、エタノール生合成に関与するPDCの酵素活性を減弱化することにより、ミオ−イノシトールの生産性をより向上させるためである。
本発明において、「ピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)活性」とは、ピルビン酸から二酸化炭素を除きアセトアルデヒドに変換する反応を触媒する活性をいう。
なお、酵母には通常、PDC活性を有するタンパク質は内在する。
キャンディダ・ボイディニィを宿主耐酸性微生物として用いる場合は、これに内在する、配列番号7で示されるコード化領域ヌクレオチド配列を有するPDC遺伝子でコードされるタンパク質の活性を減弱化することが好ましい。
本発明において「酵素活性が減弱する」とは、野生株及び親株(本発明において特定された酵素のすべての細胞内の活性が増強されていない株)を含む非改変株に比べて、細胞内の酵素活性が低下していることを意味し、活性が完全に消失していることも包含する。
具体的には、非改変株と比較して、同酵素の細胞当たりの分子数が低下していること、及び/又は、同タンパク質の分子当たりの機能が低下していることをいう。すなわち、「酵素活性が減弱する」という場合の「活性」とは、酵素の触媒活性に限られず、酵素タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)又は翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。なお、「タンパク質の細胞当たりの分子数が低下している」ことには、同酵素が全く存在していない場合が含まれる。また、「酵素の分子当たりの機能が低下している」ことには、同酵素の分子当たりの機能が完全に消失している場合が含まれる。酵素活性の減弱の程度は、酵素活性が非改変株と比較して減弱していれば特に制限されない。酵素活性は、例えば、非改変株と比較して、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に減弱してよい。
酵素活性が減弱するような改変は、例えば、同酵素をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成される。「遺伝子の発現が低下する」とは、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して減少することを意味する。「遺伝子の発現が低下する」とは、具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が低下すること、及び/又は、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が低下することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」とは、同遺伝子の細胞当たりの発現量が野生株や親株等の非改変株に対して低下していることを意味する。「遺伝子の発現が低下する」ことには、同遺伝子が全く発現していない場合が含まれる。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともいう。遺伝子の発現の低下の程度は、遺伝子の発現が非改変株と比較して低下して
いれば特に制限されない。遺伝子の発現は、例えば、非改変株と比較して、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のプロモーター、SD配列(RBS)、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の発現調節配列を改変することにより達成できる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上が改変される。また、発現調節配列の一部または全部を欠失させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、発現制御に関わる因子を操作することによっても達成できる。発現制御に関わる因子としては、転写や翻訳制御に関わる低分子(誘導物質、阻害物質など)、タンパク質(転写因子など)、核酸(siRNAなど)等が挙げられる。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のコード領域に遺伝子の発現が低下するような変異を導入することによっても達成できる。例えば、遺伝子のコード領域のコドンを、宿主においてより低頻度で利用される同義コドンに置き換えることによって、遺伝子の発現を低下させることができる。また、例えば、後述するような遺伝子の破壊により、遺伝子の発現自体が低下し得る。
また、酵素活性が減弱するような改変は、例えば、同酵素をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。「遺伝子が破壊される」とは、正常に機能する酵素を産生しないように同遺伝子が改変されることを意味する。「正常に機能する酵素を産生しない」ことには、同遺伝子から酵素が全く産生されない場合や、同遺伝子から分子当たりの機能(活性や性質)が低下又は消失した酵素が産生される場合が含まれる。
遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域の一部又は全部を欠損させることにより達成できる。さらには、染色体上の遺伝子の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。酵素活性の減弱が達成できる限り、欠失させる領域は、N末端領域、内部領域、C末端領域等のいずれの領域であってもよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、欠失させる領域の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、終止コドンを導入すること(ナンセンス変異)、あるいは1〜2塩基を付加または欠失するフレームシフト変異を導入すること等によっても達成できる(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997), Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 26 116, 20833-20839(1991))。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する配列は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。他の配列としては、コードされるタンパク質の活性を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子や目的物質の生産に有用な遺伝子が挙げられる。
染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、例えば、遺伝子の部分配列を欠失し、正常に機能する酵素タンパク質を産生しないように改変した欠失型遺伝子を作製し、該欠失型遺伝子を含む組換えDNAで宿主を形質転換して、欠失型遺伝子と染色体上の野生型遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の野生型遺伝子を欠失型遺伝子に置換することによって達成できる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等
の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。欠失型遺伝子によってコードされるタンパク質は、生成したとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組み合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法などがある(米国特許第6303383号、特開平05-007491号)。
また、酵素活性が減弱するような改変は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
酵素活性が低下したことは、同酵素の活性を測定することで確認できる。
酵素活性が低下したことは、同酵素タンパク質をコードする遺伝子の発現が低下したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が低下したことは、同遺伝子の転写量が低下したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が低下したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT−PCR等が挙げられる(Molecular cloning(Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold spring Harbor (USA), 2001))。mRNAの量は、非改変株と比較して、例えば、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
酵素タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular cloning(Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold
spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量は、非改変株と比較して、例えば、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
上述の通り、宿主の耐酸性微生物に対して改変を行うことによって、ミオ−イノシトール生産能を有する、好ましくは該生産能が向上した微生物を作製することができる。
<本発明の製造方法>
本発明のミオ−イノシトールの製造方法は、本発明の耐酸性微生物を、有機原料を含有する水性媒体中で培養する工程(以下、「発酵工程」という)、及び生成したミオ−イノシトールを回収する工程(以下、「回収工程」という)を含む。
一般に、微生物を用いたミオ−イノシトール発酵生産においては、種々の有機酸やグリセロール等の副生成物の生成が顕著であり、目的のミオ−イノシトールの収量が低下したり、精製負荷が大きかったりする。それに対して、前述のとおり本発明では耐酸性に優れる微生物を用いるため、酸性水性媒体においても微生物の生育や発酵生産能が低下することがない一方、酸性条件下では副生成物の生成は抑制されるため、効率的にミオ−イノシトールを製造することができる。また、一般的な発酵法では微生物の生育が良好な中性領域に近づけるため発酵中に水性媒体に中和剤を添加する等してpH低下を抑制するところ、本発明の製造方法ではpH低下を抑制する必要がない。そして、発酵後は水性媒体から
ミオ−イノシトールを晶析により簡便に回収することができるため回収・精製負荷が小さい。そのため、製造工程全体の負荷を小さくすることができ、かつコスト削減にも寄与することができる。
本発明のミオ−イノシトールの製造方法を行うに当たっては、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものを直接用いてもよいが、発酵工程に先立ち、必要に応じて上記微生物を予め液体培地で培養したものを用いてもよい。すなわち、後述する種培養や本培養を行うことで、前述の耐酸性微生物を予め増殖させた後に、発酵工程を行うことができる。
なお、後述する種培養や本培養と、後述する発酵工程は、区別することなく、同時に行うこともできる。また、種培養または本培養した微生物を反応液中で増殖させながら、有機原料と反応させることによってミオ−イノシトールを生産させることもできる。
(種培養)
種培養は、本培養に供する耐酸性微生物を調製するために行うものである。種培養に用いる培地は、微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができるが、窒素源や無機塩などを含む培地であることが好ましい。ここで、窒素源としては、耐酸性微生物が資化して増殖できる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物等が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。
種培養においては、必要に応じて、前記培地に炭素源を添加してもよい。種培養に用いる炭素源としては、前記微生物が資化して増殖し得るものであれば特に限定されないが、通常、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、キシロース、アラビノース、スクロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセロール、マンニトール、イノシトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、キシロース、またはアラビノースが好ましく、特にグルコース、ガラクトース、スクロースまたはラクトースが好ましい。これらの炭素源は、単独で添加してもよいし、組み合わせて添加してもよい。
種培養は、一般的な生育至適温度で行うことができるが、好ましくは、耐酸性微生物において最も生育速度が速い温度で行う。具体的な培養温度としては、通常20℃〜40℃であり、25℃〜37℃が好ましい。特に、キャンディダ属酵母の場合は、通常20℃〜40℃であり、25℃〜35℃が好ましい。
種培養は、一般的な生育至適pHで行うことができるが、好ましくは耐酸性微生物において最も生育速度が速いpHで行う。具体的な培養pHとしては、通常pH2〜10であり、pH5〜8が好ましい。特に、キャンディダ属酵母の場合は、通常pH2〜10であり、pH2〜8が好ましく、pH3〜6がさらに好ましい。
また、種培養の培養時間は、一定量の微生物が得られる時間であれば特段の制限はないが、通常6時間以上96時間以下である。また、種培養においては、通気したり攪拌したりして、酸素を供給することが好ましい。
種培養後の微生物は、後述する本培養に用いることができるが、種培養については省略してもよく、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものを直接本培養に用いてもよい。また、必要に応じて、種培養を何度か繰り返し行ってもよい。
(本培養)
本培養は、後述するミオ−イノシトール生産反応に供する耐酸性微生物を調製するために行うものであり、主として微生物量を増やすことを目的とする。上述の種培養を行う場合は、種培養により得られた微生物を用いて本培養を行う。
本培養に用いる培地は、微生物の培養に用いられる通常の培地を用いることができるが、窒素源や無機塩などを含む培地であることが好ましい。ここで、窒素源としては、本微生物が資化して増殖できる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、培養時の発泡を抑えるために、培地には市販の消泡剤を適量添加しておくことが好ましい。
また、本培養においては、前記培地に炭素源を添加することが好ましい。本培養に用いる炭素源としては、前記微生物が資化して増殖し得るものであれば特に限定されないが、通常、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、キシロース、アラビノース、スクロース、デンプン、セルロース等の炭水化物;グリセロール、マンニトール、イノシトール、リビトール等のポリアルコール類等の発酵性糖質が用いられ、このうちグルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、スクロース、キシロース、またはアラビノースが好ましく、特にグルコース、ガラクトース、スクロースまたはラクトースが好ましい。これらの炭素源は、単独で添加してもよいし、組み合わせて添加してもよい。
また、前記発酵性糖質を含有する澱粉糖化液、糖蜜なども使用され、前記発酵性糖質がサトウキビ、甜菜、サトウカエデ等の植物から搾取した糖液であるものが好ましい。
これらの炭素源は、単独で添加してもよいし、組み合わせて添加してもよい。
前記炭素源の使用濃度は特に限定されないが、微生物の増殖を阻害しない範囲で添加するのが有利であり、培養液に対して、通常0.1〜10%(W/V)、好ましくは0.5〜5%(W/V)の範囲内で用いることができる。また、増殖に伴う前記炭素源の減少にあわせ、炭素源を追加で添加してもよい。
また、本培養は、一般的な生育至適温度で行うことが好ましい。具体的な培養温度としては、通常20℃〜40℃であり、25℃〜37℃が好ましい。特に、キャンディダ属酵母の場合は、通常20℃〜40℃であり、25℃〜35℃が好ましい。
また、本培養は、一般的な生育至適pHで行うことが好ましい。具体的な培養pHとしては、通常pH2〜10であり、pH5〜8が好ましい。特に、キャンディダ属酵母の場合は、通常pH2〜10であり、pH2〜8が好ましく、pH3〜6がさらに好ましい。
ただし、本培養を発酵工程と同時に行う場合は、pH4.9以下で行い、pH4.2以下で行うことが好ましく、pH3.5以下で行うことがより好ましい。また、pH1以上で行うことが好ましく、pH2以上で行うことがより好ましく、pH2.5以上で行うことがさらに好ましい。
また、本培養の培養時間は、一定量の微生物が得られる時間であれば特段の制限はないが、通常6時間以上96時間以下である。また、本培養においては、通気したり攪拌したりして、酸素を供給することが好ましい。
本培養後の微生物は、後述するミオ−イノシトール生産反応に用いることができるが、培養液を直接用いてもよいし、遠心分離、膜分離等によって微生物を回収した後に用いてもよい。
(発酵工程)
発酵工程では、上述のミオ−イノシトール生産能を有する微生物を酸性水性媒体中で、有機原料に作用させることにより、ミオ−イノシトールを生産させる。この発酵工程で起こる反応を、以下、「ミオ−イノシトール生産反応」という。
ここで、酸性水性媒体とは、発酵工程におけるミオ−イノシトール生産反応を行う水溶液のことであり、後述するように窒素源、無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。当該水性媒体中で、耐酸性微生物と有機原料とを反応させることによりミオ−イノシトール生産反応を行うことができる。本明細書において、酸性水性媒体とは、通常pH4.9以下であって反応容器に含まれる液体全てを意味する。
水性媒体としては、例えば、微生物を培養するための培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよいが、反応液は窒素源や無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。ここで、窒素源としては、耐酸性微生物が資化してミオ−イノシトールを生成させうる窒素源であれば特に限定されないが、具体的には、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マンガン、鉄、亜鉛、銅等の金属塩が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、反応時の発泡を抑えるために、反応液には市販の消泡剤を適量添加しておくことが好ましい。
本発明のミオ−イノシトールの製造方法で用いる有機原料としては、耐酸性微生物が資化してミオ−イノシトールを生産し得るものであれば特に限定されず、いわゆる一般的な糖質を用いることができる。
具体的には、グリセルアルデヒド等の炭素数3の単糖(トリオース);エリトロース、トレオース、エリトルロース等の炭素数4の単糖(テトロース);リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、デオキシリボース、キシルロース、リブロース等の炭素数5の単糖(ペントース);アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース、フコース、フクロース、ラムノース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等の炭素数6の単糖(ヘキソース);セドヘプツロース等の炭素数7の単糖(ヘプトース);スクロース、ラクトース、マルトース、トレハノース、ツラノース、セロビオース等の二糖類;ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース等の三糖類;フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナオリゴ糖などのオリゴ糖類;デンプン、デキストリン、セルロース、ヘミセルロース、グルカン、ペントサン等の多糖類;グリセロール、マンニトール、リビトール等のポリアルコール類等が挙げられる。
上述した糖質の中でも、グルコース、キシロース、スクロース、デンプン、廃糖蜜、グリセロール、リビトール、及びエリスリトールからなる群から選ばれる少なくとも一種がより好ましい。これらは、原料の入手が容易であり、また安価であるためである。
なお、本発明のミオ−イノシトールの製造方法で用いる有機原料には、1種類の糖が単独で含有されていてもよいし、2種類以上の糖が含有されていてもよい。
本発明のミオ−イノシトールの製造方法で用いる有機原料は、前記糖質を含んでいれば
特に制限されないが、例えば、1種類以上の前記糖質を水に溶解して水溶液としたもの、1種類以上の前記糖質を構成成分として含む植物体またはその一部を糖質まで分解したもの、1種類以上の前記糖質を構成成分として含む植物体またはその一部から糖質を抽出したもの等を用いることができる。具体的には、後述するようなリグノセルロース分解原料、スクロース含有原料、デンプン分解原料等が挙げられる。
本発明のミオ−イノシトールの製造方法で用いる有機原料は、必要に応じて水等で希釈して糖質の濃度を下げて用いてもよいし、濃縮して糖質の濃度を高めて用いてもよい。
本発明のミオ−イノシトールの製造方法における有機原料中に含まれる糖質の濃度としては、有機原料の由来や、含有する糖質の種類等によって大きく変動するため、特に限定されないが、発酵生産プロセスおよび化学変換プロセスの生産性を考慮して、通常0.1質量%以上、好ましくは2質量%以上であり、また、通常80質量%以下、好ましくは70質量%以下である。ただし、糖質を2種類以上含む場合は、その合計の濃度を示す。
好ましい有機原料として、リグノセルロース分解原料が挙げられる。
リグノセルロースとは、構造性多糖のセルロース、ヘミセルロース、及び芳香族化合物の重合体のリグニンから構成される有機物である。リグノセルロースは、通常、食用にはできず、通常であれば廃棄、焼却処理をされるものが多いため、安定して供給でき、資源を有効利用できる点で好ましい。
リグノセルロース分解原料としては、バガス、コーンストーバー、麦わら、稲わら、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、ササ、ススキ等の草本系バイオマスや、廃木材、オガ粉、樹皮、古紙等の木質系バイオマス等を好適に用いることができる。中でも、バガス、コーンストーバー、麦わらが好ましい。
上述のリグノセルロース分解原料から有機原料を得る方法は、特に限定されないが、例えば、リグノセルロースに対して必要に応じて前処理を施した後、酵素、酸、亜臨界水、超臨界水等による加水分解、または熱分解を行う方法等が挙げられる。
また、好ましい有機原料として、スクロース含有原料が挙げられる。
また、スクロースは、細胞中にスクロースを蓄積できる植物に含まれ、以下、このような植物のことを「スクロースを含む植物」という。スクロースを含む植物としては、サトウキビ、テンサイ、サトウカエデ、オウギヤシ、ソルガム等の砂糖の原料として使用されるもの等が挙げられ、中でも、サトウキビ、テンサイが好ましい。
スクロースを含む植物から有機原料を得る方法は、特に限定されないが、例えば、当該植物を粉砕した後に圧搾または浸出を行う方法等が挙げられる。本発明のミオ−イノシトールの製造方法においては、このようにして得られたスクロースを含む植物の搾汁(例えば、サトウキビの場合はケーンジュース)、粗糖、廃糖蜜等も有機原料として用いることができる。
また、好ましい有機原料として、デンプン分解原料が挙げられる。
また、デンプンは、細胞中にデンプンを蓄積できる植物に含まれ、以下、このような植物のことを「デンプンを含む植物」という。デンプンを含む植物としては、キャッサバ、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦、甘藷、サゴヤシ、米、クズ、カタクリ、緑豆、ワラビ、オオウバユリ等が挙げられ、中でも、キャッサバ、トウモロコシ、馬鈴薯、小麦が好ましい。
デンプンを含む植物から有機原料を得る方法は、特に限定されないが、例えば、当該植物から抽出したデンプンを加水分解する方法等が挙げられる。
前記有機原料の水性媒体中の濃度は特に限定されないが、一般的な発酵法に比べて低糖度で行うことが好ましく、具体的には有機原料に含まれる糖質の濃度換算で、水性媒体に対して、通常0.1g/L以上、好ましくは1g/L以上であり、一方、通常10g/L以下、好ましくは5g/L以下である。このような濃度範囲とすることで、菌体増殖の抑制と各種有機酸等の副産物の生成を低減化することによりミオ−イノシトールを効率的に生成することが可能となる。また、ミオ−イノシトールの生産反応の進行に伴う前記有機原料の減少に合わせて、有機原料を断続的に少量ずつ追加してもよい。
ミオ−イノシトール生産反応の間、常に上記濃度範囲とする必要はないが、全反応時間の50%以上、好ましくは80%以上の時間において、上記濃度範囲にすることが望ましい。
ミオ−イノシトール生産反応中の酸性水性媒体は、副生物の生成を抑制する観点から、pH4.9以下であり、好ましくはpH4.2以下、さらに好ましくはpH3.5以下である。また、好ましくはpH1以上であり、より好ましくはpH2以上であり、さらに好ましくはpH2.5以上である。かかる条件下で発酵することにより、前述の通り微生物の生育や発酵生産能を低下させることなく、かつ副生成物の生成を抑制しながら、効率的にミオ−イノシトールを生成・回収することができる。
なお、ミオ−イノシトール生産反応の間、常にpH4.9以下に維持することが好ましい。通常は、ミオ−イノシトール発酵の進行に伴ってpHが上昇することは起こりにくく、水性媒体の酸性度がpH4.9を上回ることはない。
水性媒体のpHは、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸、酢酸等の有機酸、それらの混合物等を添加すること、または二酸化炭素ガスを供給すること、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のアルカリによって調整することができる。
ミオ−イノシトール生産反応に用いる微生物の微生物量は、特に限定されないが、湿重量として、通常1g/L以上、好ましくは10g/L以上、より好ましくは20g/L以上であり、一方、通常700g/L以下、好ましくは500g/L以下、さらに好ましくは400g/L以下である。
ミオ−イノシトール生産反応の時間は、特に限定はないが、通常1時間以上、好ましくは3時間以上であり、一方、通常300時間以下、好ましくは200時間以下である。
ミオ−イノシトール生産反応の温度は、用いる前記微生物の生育至適温度と同じ温度で行うことができ、具体的な培養温度としては、通常20℃〜40℃であり、25℃〜37℃が好ましい。特に、キャンディダ属酵母の場合は、通常20℃〜40℃であり、25℃〜35℃が好ましい。
ミオ−イノシトール生産反応の間、常に上記の温度範囲とする必要はないが、全反応時間の50%以上、好ましくは80%以上の時間において、上記温度範囲にすることが望ましい。
ミオ−イノシトール生産反応は、通気せずに酸素を供給しない嫌気的雰囲気下で行ってもよいが、通気は攪拌を行い好気的雰囲気下で行うことが好ましい。
具体的には、酸素移動速度として、通常は0mmol/L/h以上、好ましくは10mmol/L/h以上、より好ましくは20mmol/L/h以上であり、一方、通常200mmol/L/h以下、好ましくは150mmol/L/h以下、さらに好ましくは100mmol/L/h以下である。
また、溶存酸素濃度(DO)が、飽和溶存酸素濃度の、通常は50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。
ミオ−イノシトール生産反応の間、常に上記の好気的条件の範囲とする必要はないが、全反応時間の50%以上、好ましくは80%以上の時間において、上記条件を満たすこと
が望ましい。
なお、前述のように溶存酸素濃度を高めるためには、例えば発酵中の発酵中の発酵槽内圧力を正となるように制御すればよい。該制御には、例えば、給気圧を排気圧より高くすればよい。発酵槽内圧力として、具体的には、ゲージ圧(大気圧に対する差圧)で、好ましくは0.02〜0.2MPa、より好ましくは0.05〜0.1MPaとすることが挙げられる。
本発明のミオ−イノシトールの製造方法は、特段の制限はないが、回分反応、半回分反応もしくは連続反応のいずれにも適用することができる。本発明においては水性媒体が酸性であるため、雑菌による混入リスクが低減化されている点においても優れる。
(回収工程)
本発明のミオ−イノシトールの製造方法は、上記のミオ−イノシトール生産反応によりミオ−イノシトールが生成し、通常は微生物がこれを分泌し、水性媒体中に蓄積させることができる。蓄積したミオ−イノシトールは、常法に従って、水性媒体から回収する。回収工程は、具体的には、例えば、発酵後の水性媒体を60〜80℃で1時間以上の加熱処理を行う。これによりまず晶析液中のタンパク質濃度が下がり高純度の結晶を得られやすくなる。その後、膜分離、遠心分離、ろ過等により微生物を分離・除去する。その後、水性媒体を冷却して冷却晶析する。これにより高純度のミオ−イノシトールを回収することができる。ここで冷却晶析はエタノール存在下で行うと、高収率にミオ−イノシトールが得られるので析出効率の観点から好ましい。再結晶の際のエタノール濃度は、水性媒体全体に対して通常は20〜80v/v%、好ましくは30〜70v/v%、より好ましくは40〜60v/v%である。また、冷却晶析の際の冷却は、通常0〜20℃、好ましくは2〜15℃、より好ましくは4〜10℃にまで下げることにより行われる。
本発明においては水性媒体が酸性であるため、回収工程におけるタンパク質除去のための加水分解が容易となる点においても優れる。
得られたミオ−イノシトールは、種々のポリマー製造の原料として用いることができ、その他様々な有用化学品へ誘導可能である。
例えば、ミオ−イノシトールを原料としてポリカーボネート等の樹脂を製造する方法は、国際公開16/098898号、特開2016−117899号公報、特開2017−206508号公報等の記載に従って行うことができる。
以下、具体的な実験例をあげて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の態様にのみ限定されない。
<実施例1>各種酵母の耐酸性試験
以下の手順にて、表1に記載の各酵母株の耐酸性能を評価した。
各酵母株のフリーズストックから一白金耳分をYPD寒天培地に植菌し、3日間、30℃にて静地培養することで生育してきた菌体を、試験管に調製した3mLのYPD培地に植菌し、30℃、180rpm、24時間旋回振とう培養した。得られた培養液を200mLの三角フラスコに調製したpH3(HCl添加によりpH調製)のYPD培地20mLにOD660=1.0となるように植菌し、30℃、180rpm、72時間、グルコース枯渇が起きないよう適宜添加しながら旋回振とう培養した。
菌体増殖の経時変化を図2に示す。評価した酵母株はいずれもpH=3という酸性条件において増殖能を有することが確認されたが、中でも特にCandida属酵母の増殖能が高いことが確認され、極めて高い耐酸性能を有することが示された。またSaccharomyces cerevisiae S288C及びPichia pastrisがCandida属酵母の次に高い耐酸性能を示し、Kluyverom
yces属酵母、Saccharomyces cerevisiae KA311Aの順に増殖能が低下した。
<実施例2>ミオ−イノシトール分泌生産性Candida boidiniiの作製
まず自然界から単離されたCandida boidinii MCB1を初発菌としたランダム変異スクリーニングによりイノシトール分泌生産株MCB2を取得した。ランダム変異導入は、EMS(エチルメタンスルホン酸)による突然変異処理により実施した。スクリーニングは、ランダム変異導入した菌株をYPD寒天培地に塗布して出現したコロニーを別途調製したイノシトーリ要求性酵母Saccharomyces cerevisiae ATCC34893をあらかじめ塗布した表2に示した寒天培地上にレプリカすることで、レプリカしたコロニー周りのSaccharomyces cerevisiae ATCC34893の生育が確認されたコロニーを単離することで実施した。
なお、MCB1は、2018年4月13日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号:292-0818、住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、国内寄託がなされ、受託番号NITE P−02682が付与されている。
上記の手法にて取得されたイノシトール分泌生産株MCB2を基株として化学的変異原を用いた突然変異処理法により、イノシトール生産性が向上した変異株を育種した。MCB2を4-ニトロキノリン-1-オキシド(NQO)にて処理することでMCB6を取得した。さらに、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)処理によりMCB7を、2度のNQO処理によりMCB13を取得した後、UV処理によりMCB23を取得した。さらに、MCB23のNQO処理によりMCB27を取得した後、NTG処理によりMCB32を、NQO処理によりMCB37を、NTG処理によりMCB38を取得した。上記高生産株のスクリーニングは、変異処理した菌体を適当に希釈してYPD寒天培地に塗布し、出現したコロニーを単離し、YPD培地3mLにて30℃、24時間前培養した後、表3に示した組成のMIS2培地30mLを含む200mL三角フラスコに0.75mL植菌し、30℃、160rpmの条件下で136時間培養し、蓄積したイノシトール量を定量することで選抜した。
なお、MCB38は、2018年4月13日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号:292-0818、住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、国内寄託がなされ、受託番号NITE P−02683が付与されている。
<実施例3>Candida boidinii内在性INO1遺伝子発現増強株の作製
ino1遺伝子発現増強株の作製は、MCB38を基株として実施した。まず遺伝子導入した際の選択マーカーを開発した。選択マーカーとして、その変異がウラシル要求性として形質に現れるura3遺伝子を利用した。MCB38を常法に従い5-FOA(5-フルオロオロチン酸)含有YPD寒天培地に塗布し、30℃で3日間培養し、生育してきたコロニーを選抜することでura3遺伝子に変異が導入されたウラシル要求性変異株MCB50を取得した。
Candida boidinii内在性ino1遺伝子(配列番号5)は、独自に解析したCandida boidinii MCB1のゲノム配列情報からSaccharomyces cerevisiaeのino1遺伝子とのホモロジー解析により同定した。ino1遺伝子の遺伝子発現増強用コンストラクトは、クローニングベクターpBluescript II SK(+)のマルチクローニングサイト中のSacI/XhoI制限酵素サイトに比較的強い恒常発現プロモーターとして知られているACT1遺伝子プロモーター配列(配列番号9)、その下流にino1遺伝子配列を配置、さらにその下流にアルコールオキシダーゼAOD1 遺伝子terminator(配列番号10)を配置したino1遺伝子発現カセットと、その3’側隣接部位にura3遺伝子除去によるマーカーリサイクルのための相同配列としてSP配列(配列番号11)を両末端に付加したura3遺伝子発現カセット(配列番号12)を配置し、
さらにこれら両末端にleu2遺伝子座位へ導入するための相同領域としてleu2遺伝子の上流1500bp(配列番号13)、下流1500bp(配列番号14)を付与することで作製した。具体的には、pBluescript II SK(+)のNotI/SpeI制限酵素サイト内に遺伝子合成(Genscript社)した上記ino1遺伝子発現カセットを挿入したpACT1pro-ino1を作製した。別途5’末端側にSacIサイト、3’末端側にNotIサイトを付与した形で遺伝子合成したleu2遺伝子上流1500bp配列をSacI/NotI制限酵素にて処理し、同様に制限酵素処理したpACT1pro-ino1と連結させることでpΔleu2up-ACT1proino1を作製した。一方で、pBluescript II SK(+)のSpeI/EcoRI制限酵素サイト内に遺伝子合成(Genscript社)した上記SP配列を両末端に付与したura3遺伝子発現カセットを挿入したpURA3を作製した。別途5’末端側にEcoRIサイト、3’末端側にXhoIサイトを付与した形で遺伝子合成したleu2遺伝子下流1500bp配列をEcoRI/XhoI制限酵素にて処理し、同様に制限酵素処理したpURA3途連結させることでpURA3-Δleu2downを作製した。さらに、作成したpURA3-Δleu2downをSpeI/XhoIにて制限酵素処理し、同様に処理したpΔleu2up-ACT1proino1と連結することでino1遺伝子発現増強用コンストラクトpΔleu2::ACT1proino1-URA3を作製した(図3)。
Ino1遺伝子発現増強株は以下のように作成した。まず、E.coli DH5αを用いて大量にクローニングしたino1遺伝子発現増強用コンストラクトpΔleu2::ACT1proino1-URA3をSacI/XhoIにて制限酵素処理することで直鎖上にし、得られた断片を用いて上述のウラシル要求性変異株MCB50を形質転換した。得られた形質転換株をYeast Synthetic Drop-out Medium
Supplements without uracil(SIGMA-ALDRICH社)を含有するSD寒天培地(0.67% Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids(Difco社)、2% グルコース、2% 寒天)に塗布し、本寒天プレート上にてコロニーを形成したクローンをMCB59と名付けた。なお、MCB59はロイシン要求性を示した。
<実施例4>Candida boidinii内在性INM2−2遺伝子発現増強株の作製
Candida boidinii MCB1のゲノム配列解析によりS. cerevisiaeのinm2と相同性を有する2種の遺伝子inm2-1(配列番号3)、inm2-2(配列番号1)の内、inm2-2遺伝子のみ発現増強した株を作製した。Inm2-2遺伝子発現増強用コンストラクトは、クローニングベクターpBluescript II SK(+)のマルチクローニングサイト中のNotI/XhoI制限酵素サイトに比較的強い恒常発現プロモーターとして知られているグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼTDH3遺伝子プロモーター配列(配列番号15)、その下流にinm2-2遺伝子配列を配置、さらにその下流にアルコールオキシダーゼAOD1 遺伝子terminator(配列番号10)を配置したinm2-2遺伝子発現カセットと、その3’側隣接部位にleu2遺伝子発現カセット(配列番号16)を配置し、さらにこれら両末端にピルビン酸デカルボキシラーゼ(pdc1)遺伝子座位へ導入するための相同領域としてpdc1遺伝子の上流1500bp(配列番号17)、下流1500bp(配列番号18)を付与することで作製した。具体的には、pBluescript II SK(+)のNotI/EcoRV制限酵素サイト内に遺伝子合成(Genscript社)した上記pdc1上流1500bpと3’末端側で連結したinm2-2遺伝子発現カセットを挿入したpΔpdc1up-TDH3proinm2-2を作製した。そこに別途5’末端側にEcoRVサイト、3’末端側にSalIサイトを付加した形で遺伝子合成したleu2遺伝子プロモーターを含むleu2遺伝子上流1500bpからleu2遺伝子までをEcoRV/SalIにて制限酵素処理し、同様に制限酵素処理したpΔpdc1up-TDH3proinm2-2と連結させることでpΔpdc1up-TDH3proinm2-2-Leu2(up1500)を作製した。さらに、別途5’末端側にSalIサイト、3’末端側にXhoIサイトを付与する形で遺伝子合成したleu2遺伝子ターミネーターを含むleu2遺伝子下流1500bpに連結されたpdc1遺伝子下流1500bpをSalI/XhoIにて制限酵素処理し、同様に制限酵素処理したpΔpdc1up-TDH3proinm2-2-Leu2(up1500)と連結させることでinm2-2遺伝子発現増強用コンストラクトpΔpdc1:: TDH3proinm2-2-Leu2を作製した(図4)。
inm2-2遺伝子増強株は以下のように作製した。まず、E.coli DH5αを用いて大量にクローニングしたinm2-2遺伝子発現増強用コンストラクトpΔpdc1:: TDH3proinm2-2-Leu2を各
々NotI/XhoIにて制限酵素処理することで直鎖上にし、得られた断片を用いて上述のロイシン要求性ino1遺伝子発現増強株MCB64を形質転換した。得られた形質転換株をYeast Synthetic Drop-out Medium Supplements without leucine(SIGMA-ALDRICH社)を含有するSD寒天培地(0.67% Yeast Nitrogen Base w/o Amino Acids(Difco社)、2% グルコース、2% 寒天)に塗布し、本寒天プレート上にてコロニーを形成したクローンをMCB79と名付けた。
なお、MCB79は、2018年4月13日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号:292-0818、住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、国内寄託がなされ、受託番号NITE P−02684が付与されている。
<実施例5>MCB79由来イノシトール高分泌生産性Candida boidiniiの作製
上記にて取得されたイノシトール生合成強化株MCB79を基株として化学的変異原を用いた突然変異処理法により、イノシトール高分泌生産性変異株を育種した。MCB79をN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)処理することによりMCB208を取得した。MCB208のNTG処理によりMCB216を取得した後、さらに2度のNTG処理を加えることでMCB225を取得した。上記高生産株のスクリーニングは、変異処理した菌体を適当に希釈してYPD寒天培地に塗布し、出現したコロニーを単離し、YPD培地3mLにて30℃、24時間前培養した後、表3に示した組成のMIS2培地30mLを含む200mL三角フラスコに0.75mL植菌し、30℃、160rpmの条件下で136時間培養し、蓄積したイノシトール量を定量することで選抜した。
なお、MCB225は、2018年4月13日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(郵便番号:292-0818、住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、国内寄託がなされ、受託番号NITE P−02687が付与されている。
<実施例6>酸性条件下におけるイノシトール高分泌生産変異株MCB225の5L Jar培養
MCB225の凍結菌から一白金耳分をYPD寒天培地に植菌し、3日間、30℃にて静地培養することで生育してきた菌体を、試験管に調製した3mLのYPD培地に植菌し、30℃、300rpmの条件下で、6時間培養した。得られた培養液を三角フラスコに調製した100mLのYPD培地にOD660=0.1となるように植菌し、30℃、160rpmの条件下で、24時間培養した。得られた培養液を5L発酵槽に調製した2Lの表4に示した組成のYPI培地にOD660=0.5となるように植菌し、培養温度30℃、撹拌回転数500rpm、通気量2 L/min、pH3.0、背圧0.05MPaに制御して培養を24時間継続した。なお、培養4時間後以降に60%グルコースを6.25g/hrの流加速度にて定速フィードした。
上述の培養にて得られた培養液を5L発酵槽に調製した2Lの表5に示したMIS3培地にOD660=20となるように植菌し培養を開始した。培養条件は、培養温度30℃、撹拌回転数800rpm、通気量4L/min、背圧0.05MPa、制御pHは3.0、4.0、5.0に設定し136時間培養を継続した。なお、初期仕込みグルコースが消費され、発酵液中のグルコース濃度が10 g/Lを下回った時点で、その直前の糖消費速度と同速度の糖が流加されるように60%グルコース溶液をフィードすることでグルコース濃度が10g/L以下になるようにフィード速度を調整した。
イノシトール、クエン酸、及びピルビン酸蓄積量の経時プロファイルを図5〜7にそれぞれ示した。培養終点におけるイノシトール蓄積濃度、対糖収率は、制御pH3.0が72.4 g/L、37.8%、制御pH4.0が72.8g/L、35.6%とほぼ同様の値を示したのに対し、制御pH5.0においては、より低いpH条件下にてほとんど蓄積が確認されなかったクエン酸やピルビン酸
といった有機酸やアラビトール等の副産物の蓄積が顕著であり、イノシトール蓄積濃度56.3g/L、対糖収率25.3%とイノシトール生産性の低下が確認された。以上より、低pH下でのイノシトール発酵生産の有効性が確認された。
<実施例7>各溶存酸素濃度値におけるイノシトール発酵生産
MCB225の凍結菌から一白金耳分をYPD寒天培地に植菌し、3日間、30℃にて静地培養することで生育してきた菌体を、試験管に調製した3mLのYPD培地に植菌し、30℃、300rpmの条件下で、6時間培養した。得られた培養液を三角フラスコに調製した100mLのYPD培地にOD660=0.1となるように植菌し、30℃、160rpm、24時間培養した。得られた培養液を、5L発酵槽に調製した表4に示した組成のYPI培地2LにOD660=0.5となるように植菌し、培養温度30℃、撹拌回転数500rpm、通気量2 L/min、pH3.0、背圧0.05MPaに制御して培養を24時間継続した。なお、培養4時間後以降に60%グルコースを6.25g/hrの流加速度にて定速フィードした。
上述の培養にて得られた培養液を、5L発酵槽に調製した表5に示したMIS3培地2LにOD660=20となるように植菌し、培養を開始した。培養条件は、培養温度30℃、背圧0.05MPa、制御pH3.0、通気撹拌条件は、(i) 0.2vvm、400rpm、(ii) 0.25vvm、400rpm、又は(iii) 2vvm、800rpmに設定し207時間培養を継続した。なお、初期仕込みグルコースが消費され、発酵液中のグルコース濃度が10 g/Lを下回った時点で、その直前の糖消費速度と同速度の糖が流加されるように60%グルコース溶液をフィードすることでグルコース濃度が10g/L以下になるようにフィード速度を調整した。
各条件での培養における、溶存酸素濃度(DO)の飽和溶存酸素濃度に対する割合(%)の推移を図8に、イノシトール蓄積量の経時プロファイルを図9にそれぞれ示した。
前記DOの割合は、(i) 0.2vvm、400rpm設定時は20%弱を推移し、(ii) 0.25vvm、400rpm設定時は、50%弱を推移し、(iii) 2vvm、800rpm設定時は約90%付近を推移した。培養終点におけるイノシトール蓄積濃度、及び対糖収率は、(i) 0.2vvm、400rpmでは、57.5 g/L、25.4%であったのに対し、(ii) 0.25vvm、400rpmでは、64.0 g/L、26.3%、(iii) 2vvm、800rpmでは、82.4 g/L、32.2%であり、高通気撹拌条件下にて溶存酸素濃度を高めることでイノシトール発酵生産効率が向上することが確認された。
<実施例8>冷却晶析法による発酵液からのイノシトール結晶回収
イノシトール含有発酵液からのイノシトール結晶回収は以下のように実施した。まず、発酵液を一度遠心分離(8000rpm、5min、4℃)にて予め大体の菌体を除去した後、0.22μmのフィルター(Corning Filter System)にて濾過した。その後、得られた発酵液上清をエバポレーター(40℃、30hPa)にて200g/Lのイノシトール濃度になるまで濃縮した。この200g/Lイノシトール含有濃縮発酵液上清100mLを4℃にて48時間保冷することで粗結晶を生成させ、さらに50mLの99.5%エタノールにて3回結晶を洗浄後、60℃にて乾燥させることで回収率76%にて15.2gのイノシトール白色結晶を得た。本結晶の純度は、99.3%であった。
<実施例9>エタノール添加条件下における冷却晶析法による発酵液からのイノシトール結晶回収
上記調製した200g/Lイノシトール含有濃縮発酵液上清10mLに等量(10mL)の99.5%エタノールを添加し、4℃で24時間撹拌させ、粗結晶を生成させ、さらに5mLの99.5%エタノールにて3回結晶を洗浄後、60℃にて乾燥させることで回収率95%にて1.9gのイノシトール白色結晶を得た。
<実施例10>発酵液の熱処理による残存タンパク質除去
上記イノシトール結晶中に含有される発酵液由来タンパク質の除去のため、酸性条件下にて発酵液を熱処理することでタンパク質加水分解を実施した。上記濃縮発酵液を1N HCl
条件下60℃および80℃にて5時間処理した条件におけるイノシトール結晶中に含有されるタンパク質の重量を図10に示した。熱処理をしなかった条件においては、1kgのイノシトール結晶当たり1639mgのタンパク質が含有されていたのに対し、1N HCl条件下60℃で処理した条件においては778mgまでタンパク質が低減化し、80℃で処理した条件においては676mgと約6割のタンパク質が除去可能であることが確認された。以上より培養液を酸性条件下にて熱処理することで効果的にイノシトール結晶中の不純物であるタンパク質を除去可能であることが示された。
本発明によれば、グルコースやガラクトースなどの一般的な有機原料から、副生物を抑制しながら効率的かつ低コストで高純度のミオ−イノシトールを製造することができため、産業上の利用可能性が高い。

Claims (14)

  1. ミオ−イノシトール生産能を有する耐酸性微生物を、有機原料を含有するpH4.9以下の水性媒体中で培養する工程、及び生成したミオ−イノシトールを回収する工程を含む、ミオ−イノシトールの製造方法。
  2. 前記水性媒体がpH4.2以下である、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記水性媒体がpH3.5以下である、請求項1に記載の製造方法。
  4. 前記培養工程における前記水性媒体の溶存酸素濃度が飽和溶存酸素濃度の50%以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
  5. 前記培養工程を行う培養容器内の圧力が0.02〜0.2MPaである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
  6. 前記回収工程において、前記水性媒体中を冷却することによりミオ−イノシトールを結晶化させ、該結晶を回収する、請求項1〜5の何れか一項に記載の製造方法。
  7. 前記回収工程において、エタノール存在下で冷却する、請求項6に記載の製造方法。
  8. 前記回収工程において、水性媒体の冷却の前に、60〜80℃で1時間以上の加熱処理を行う工程、及び膜分離又は遠心分離により前記水性媒体から前記耐酸性微生物を分離する工程を含む、請求項6又は7に記載の製造方法。
  9. 前記有機原料が、グルコース、キシロース、スクロース、デンプン、廃糖蜜、グリセロール、リビトール、及びエリスリトールからなる群より選択される一種以上を含有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
  10. 前記培養工程において水性媒体中の前記有機原料の濃度が10g/L以下に維持される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
  11. 前記耐酸性微生物が、ミオ−イノシトール−1−リン酸シンターゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変されたものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
  12. 前記耐酸性微生物が、ミオ−イノシトール−リン酸ホスファターゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変されたものである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
  13. 前記耐酸性微生物がサッカロミセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス属(Shizosaccharomyces)、キャンディダ(Candida)属、ピキア属(Pichia)、クルイヴェロマイセス属(Kluyveromyces)、ヤロウィア属(Yarrowia)、及びチゴサッカロミセス属(Zygosaccharomyces)からなる群より選択される一種である請求項1〜12のいずれか一項に記載の製造方法。
  14. 前記水性媒体を中和する工程を含まない、請求項1〜13のいずれか一項に記載の製造方法。
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