JP2019219334A - 染色された生物組織の脱色法 - Google Patents
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Abstract
Description
なかでも、ヘマトキシリン染色は、古くから使用されており、顕微鏡による形態観察を行う上で基本となる染色法である。ヘマトキシリン(Hematoxylin)は、酸化されるとヘマテイン(Hematein)と称される赤色を呈する分子となり、ヘマテインに金属イオン(アルミニウム、鉄および水銀など)が結合すると正に帯電した塩基性色素になる。ヘマテインと金属イオンの複合体は、組織・細胞内の負に帯電している部位、例えば、核酸の多い核などに結合し、当該部位を染色する。ヘマトキシリン染色は、ヘマテインに結合する金属イオンにより染色部位の色調を異にし、金属イオンがアルミニウムイオンの場合には青紫色に、鉄イオンの場合には黒褐色に染色される。
組織標本をHE染色したのちに、限られた組織標本からHE染色で得られた情報以外の新たな情報を免疫染色等で取得する必要が生じることがある。このような場合、同一の標本を免疫染色するにしても、所望の染色結果を得るためには、HE染色をいったん脱色し、その後所望の新たな染色法で再染色することが必要となる。HE染色において、エオジンによる染色は水和により脱色が可能である。他方、ヘマトキシリン染色については、例えば、アルコール処理による脱色方法(非特許文献1)や塩酸−アルコール処理による脱色方法(非特許文献2)などいくつか報告はある。しかしながら、現在報告されているいずれの方法においても、脱色の程度に問題があり、再染色に対するヘマトキシリン染色の影響を完全に除去することは難しいのが現状である。
同様に、膠原線維の染色法として一般的であるマッソントリクローム染色においては、細胞質は酸性フクシンで赤色に、核は鉄ヘマトキシリンで紫色に、膠原・基底膜はアニリンブルーで青色に染色され、3色で染め分けられるのが特徴である。酸性フクシンによる染色とアニリンブルーによる染色は水和による脱色が可能であるが、ヘマトキシリン染色については脱色・除去することが難しいため、2色で染め分けられているHE 染色と同じように、新たな染色法で新たな情報を得るために一度染色された組織標本を脱色・再染色することは難しいというのが現状である。
本発明は以上の知見すなわち、ヘマトキシリン・エオジン染色された標本やマッソントリクローム染色された標本を再染色が十分に行える程度まで脱色できることを見出したために完成された。
(1)カルボン酸とその塩を含むヘマトキシリンで染色された生物組織用脱色剤。
(2)前記カルボン酸がヒドロキシ基で置換されたカルボン酸であることを特徴とする上記(1)に記載の脱色剤。
(3)前記ヒドロキシ基で置換されたカルボン酸が、炭素数2〜10であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の脱色剤。
(4)前記ヒドロキシ基で置換されたカルボン酸がヒドロキシトリカルボン酸であることを特徴とする上記(3)に記載の脱色剤。
(5)前記ヒドロキシトリカルボン酸がクエン酸(2-ヒドロキシ-1, 2, 3-プロパントリカルボン酸)であることを特徴とする上記(4)に記載の脱色剤。
(6)さらにキレート剤を含む上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の脱色剤。
(7)前記キレート剤が鉄キレート剤であることを特徴とする上記(6)に記載の脱色剤。
(8)前記鉄キレート剤がEDTA(エチレンジアミン四酢酸)であることを特徴とする上記(7)に記載の脱色剤。
(9)ヘマトキシリン染色が、ヘマトキシリン・エオジン染色およびマッソントリクローム染色で使用されるヘマトキシリン染色であることを特徴とする上記(8)に記載の脱色剤。
(10)すくなくとも上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の脱色剤を含む、ヘマトキシリン染色された生物組織用脱色キット。
(11)ヘマトキシリン染色された生物組織用脱色方法であって、染色された標本を上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の脱色剤に浸漬することを含む、脱色方法。
(12)前記脱色剤がキレート剤を含まない場合であって、染色された標本を該脱色剤に浸漬する前、または浸漬した後にキレート剤に該標本を浸漬する、上記(11)に記載の脱色方法。
ヘマトキシリンは、酸化されると赤色のヘマテインとなり、ヘマテインは金属イオン(アルミニウム、鉄、銅および水銀など)が結合すると正に帯電した塩基性色素になる。ヘマテインと金属イオンとの複合体は、組織・細胞内の負に帯電している部位に結合し、当該部位を染色する。以上のヘマトキシリンによる染色性を利用して組織や細胞を染色する方法のことをヘマトキシリン染色法という(詳細については、例えば、Titford, Biotech Histochem. 80 73-78 2005などを参照のこと)。
ヘマトキシリン染色法には、様々な変法が存在するが、本明細書においては、ヘマテイン+金属イオンが組織の特定の部位に結合し、当該部位を発色させる染色法であれば、すべてヘマトキシリン染色法とする。また、本明細書中、「ヘマトキシリン染色」とは、ヘマトキシリン染色法による染色のことを意味する。
ヘマトキシリン染色は、他の染色と同時に行われることも多く、例えば、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)やマッソントリクローム染色などを挙げることができるが、このようなヘマトキシリン染色以外の染色が併存する標本等であっても、ヘマトキシリン染色された部分については、本発明の脱色剤により、脱色が可能である。
第1の実施形態で使用されるカルボン酸は、脂肪族カルボン酸(鎖式および環式のいずれも含む)および芳香族カルボン酸のいずれであってもよい。当該カルボン酸の炭素数は、特に限定はされず、例えば、2〜20、好ましくは2〜8であり、より具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、トリカルバリ酸(1,2,3-プロパントリカルボン酸)、フェニル酢酸などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
また、第1の実施形態で使用されるカルボン酸は、ヒドロキシ基で置換されたヒドロキシカルボン酸であってもよく、この場合、複数のカルボキシ基および/または複数のヒドロキシ基を有していてもよい。例えば、乳酸およびマンデル酸のようなヒドロキシモノカルボン酸、リンゴ酸および酒石酸などのヒドロキシジカルボン酸、クエン酸(2-ヒドロキシ-1, 2, 3-プロパントリカルボン酸)、イソクエン酸、ヒドロキシクエン酸およびヒドロキシアコニット酸などのヒドロキシトリカルボン酸などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ヒドロキシ基で置換されたカルボン酸でより好ましい形態は、ヒドロキシトリカルボン酸で、その中でもクエン酸が最も好ましい。 第1の実施形態で使用されるカルボン酸塩は、使用するカルボン酸が形成し得る塩であれば、特に限定されず、カルボン酸の種類に応じて、例えば、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩を挙げることができ、より好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩およびカルシウム塩などを挙げることができる。
第2の実施形態の脱色方法(以下「本発明の脱色方法」とも記載する)は、従来の脱色法(例えば、アルコールによる脱色法や塩酸−アルコール法など)よりも簡便に短時間に完全に脱色ができるという点で優れている。そのため、ヘマトキシリン染色された標本、例えば、パラフィン切片などの標本からヘマトキシリン染色を脱色し、再度、同一の標本を免疫組織化学染色などの他の染色法で染色する際にも、ヘマトキシリン染色の影響を従来法よりも大幅に低減させることが可能である。
脱色対象物を、本発明の脱色剤に浸漬(浸すまたは漬ける)した状態にしておくことで、ヘマトキシリン染色の脱色が進行する。脱色対象物を本発明の脱色剤に浸漬しておく時間および温度などは、脱色対象物によって異なるが当業者であれば、予備的な実験等によって容易に選択することができる。例えば、ヘマトキシリン染色標本であれば、4℃〜40℃、好ましくは、20℃〜37℃程度の条件で、数分〜数時間、好ましくは10分〜5時間程度、より好ましくは10分〜1時間程度、当該標本を脱色剤に浸漬すればよい。浸漬している間、標本は静置状態であってもよい。
本発明のキットには、ヘマトキシリン染色の脱色方法や構成試薬等の取り扱い上の注意などが記載された使用説明書が含まれていてもよく、または、当該使用方法を掲載したウェッブサイトなどの情報が記載された情報書面等が含まれていてもよい。使用説明書は、CDやDVDなどの記録媒体に記録されて添付されてもよい。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、本実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
HE染色された生物組織標本(マウスの精巣、卵巣)における核のヘマトキシリン染色の脱色を行った。
まず、HE染色された生物組織標本(図1A)をキシレンに浸漬し、カバーグラスを剥離させた。得られた組織切片をDWに浸漬し水和させた。その後、10 mMのクエン酸緩衝液(pH 4.0)に標本を浸漬させ、室温(24℃程度)で、30分間静置した。
クエン酸緩衝液で処理した標本は、DWまたはPBSに浸漬し、クエン酸緩衝液と置換したのち、脱色の状態を顕微鏡にて観察した(図1B)。
脱色前には染色されていた核が完全に脱色されたことが確認できた。なお、マウスの大脳、食道、肝臓、肺、腎臓由来の標本についても同様に脱色できることを確認している。
マッソントリクローム染色された生物組織標本(イヌの肺)の脱色を行った。
まず、マッソントリクローム染色された生物組織標本(図2A)をキシレンに浸漬し、カバーグラスを剥離させた。得られた組織切片をDWに浸漬し水和させた。その後、10 mMのクエン酸緩衝液(pH 4.0)に標本を浸漬させ、室温(24℃程度)で、30分間静置した。次いで、1 mM EDTA水溶液中に標本を浸漬させ、室温で30分間静置した。
脱色結果を図2Bに示す。鉄ヘマトキシリンで染色された核を含め、ヘマトキシリン染色されていた部位が、完全に脱色されたことが確認できた。
マッソントリクローム染色された物組織標本(イヌの肺)の脱色をクエン酸緩衝液とEDTAを同時に処理する方法で行った。
マッソントリクローム染色された生物組織標本(図3A)をキシレンに浸漬し、カバーグラスを剥離させた。得られた組織切片をDWに浸漬し水和させた。その後、1 mM EDTAを含む10 mMのクエン酸緩衝液(pH 4.0)に標本を浸漬させ、室温(24℃程度)で、1時間静置した。
脱色結果を図3Bに示す。鉄ヘマトキシリンで染色された部位は、一部脱色されたことが確認できた。
マッソントリクローム染色された生物組織標本(イヌの肺)(図4A)を上記2.に記載の方法で脱色した後(図4B)、次のようにHE染色を行った。
パラフィン包埋された生物組織標本を脱パラフィン処理後、マイヤーヘマトキシリン溶液中に5分間浸漬し、流水により発色を行った。次に水溶性エオジン溶液中に30秒間浸漬し染色後、脱水・透徹処理を行った。
その結果、新たなHE染色により、組織中の細胞の核および細胞質が明瞭に染色されることが確認できた(図4C)。
マッソントリクローム染色された生物組織標本(イヌの肺)(図5A)を上記2.に記載の方法で脱色した後(図5B)、次のようにPASおよびHE染色の二重染色を行った。
過ヨウ素酸水溶液に浸漬後、流水により洗浄した。次にシッフ試薬溶液で染色し、亜硫酸水で洗浄し、流水洗浄をした。その後、マイヤーヘマトキシリンで核染色を行い、脱水・透徹処理を行った。
その結果、組織中の細胞の核および気管上皮の杯細胞中の多糖類を明瞭に観察することが確認できた(図5C)。
HE染色された生物組織標本(マウスの卵巣)(図6A)を上記1.に記載の方法で脱色した後(図6B)、抗αSMA(alpha smooth muscle Actin)抗体およびDAPIで二重染色を行った。
αSMA/DAPI染色は次のように行った。
賦活化処理後、ブロッキング行い、1次抗体(抗αSMA抗体)を生物組織標本上に一晩のせ、4℃で静置した。次に、蛍光2次抗体とDAPIを生物組織標本上にのせ、室温で1時間静置し、染色を行った。
その結果、組織中の細胞の核卵胞を取り囲むαSMA陽性細胞の存在が明瞭に確認できた(図6C)。
Claims (12)
- カルボン酸とその塩を含むヘマトキシリンで染色された生物組織用脱色剤。
- 前記カルボン酸がヒドロキシ基で置換されたカルボン酸であることを特徴とする請求項1に記載の脱色剤。
- 前記ヒドロキシ基で置換されたカルボン酸が、炭素数2〜10であることを特徴とする請求項1または2に記載の脱色剤。
- 前記ヒドロキシ基で置換されたカルボン酸がヒドロキシトリカルボン酸であることを特徴とする請求項3に記載の脱色剤。
- 前記ヒドロキシトリカルボン酸がクエン酸(2-ヒドロキシ-1, 2, 3-プロパントリカルボン酸)であることを特徴とする請求項4に記載の脱色剤。
- さらにキレート剤を含む請求項1ないし5のいずれかに記載の脱色剤。
- 前記キレート剤が鉄キレート剤であることを特徴とする請求項6に記載の脱色剤。
- 前記鉄キレート剤がEDTA(エチレンジアミン四酢酸)であることを特徴とする請求項7に記載の脱色剤。
- ヘマトキシリン染色が、ヘマトキシリン・エオジン染色およびマッソントリクローム染色で使用されるヘマトキシリン染色であることを特徴とする請求項8に記載の脱色剤。
- すくなくとも請求項1ないし9のいずれかに記載の脱色剤を含む、ヘマトキシリン染色された生物組織用脱色キット。
- ヘマトキシリン染色された生物組織用脱色方法であって、染色された標本を請求項1ないし9のいずれかに記載の脱色剤に浸漬することを含む、脱色方法。
- 前記脱色剤がキレート剤を含まない場合であって、染色された標本を該脱色剤に浸漬する前、または浸漬した後にキレート剤に該標本を浸漬する、請求項11に記載の脱色方法。
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