以下、図面等を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による燃料電池システム100の主要構成を示す概略構成図である。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1に対して発電に必要となる燃料ガス(アノードガス)及び酸化剤ガス(カソードガス)を供給し、燃料電池スタック1を車両走行用の電動モータ等の電気負荷に応じて発電させるシステムである。
燃料電池システム100は、燃料電池スタック1と、燃料電池スタック1にアノードガスを供給するアノード供給機構2と、燃料電池スタック1にカソードガスを供給するカソード供給機構3と、燃料電池スタック1から排出された燃料オフガス(アノードオフガス)及び酸化剤オフガス(カソードオフガス)を排気する排気機構4と、燃料電池スタック1から電力を取り出して動力を得る駆動機構(図示しない)と、から構成される。また燃料電池システム100は、システム全体の動作を制御するコントローラ5を備えている。
燃料電池スタック1はアノードガスとカソードガスの供給を受けて発電する。燃料電池スタック1は複数の燃料電池又は燃料電池単位セルを積層して構成され、発電源である個々の燃料電池は例えば固体酸化物型燃料電池(SOFC)である。
燃料電池スタック1には、アノード供給機構2からアノードガスが供給されるとともにカソード供給機構3からカソードガスが供給される。そして、電気化学反応後に生成されるアノードオフガスとカソードオフガスは、排気機構4を介して外部へ排出される。
アノード供給機構2は燃料供給通路20を備え、燃料供給通路20には、上流から順に、燃料タンク21と、ポンプ22と、インジェクタ23と、蒸発器24と、過熱器25と、改質器26とが設けられている。燃料供給通路20は、燃料電池スタック1のアノード極にアノードガスを供給するための通路であり、燃料タンク21と燃料電池スタック1内に形成されたアノード流路とを接続する。
燃料タンク21は、改質前の原燃料として、例えば、エタノールと水との混合物から成る液体燃料を貯蔵する。液体燃料は、燃料供給通路20のポンプ22によりインジェクタ23に供給され、インジェクタ23により所定噴射量に調節されて、蒸発器24に噴射供給される。
蒸発器24は、インジェクタ23から微粒化して噴射供給される液体燃料を加熱して、エタノールガス及び水蒸気からなる改質前燃料ガスを生成する。
過熱器25は、後述する排気燃焼器41からの燃焼ガスと改質前燃料ガスを熱交換することで、改質前燃料ガスを過熱する。
改質器26は、改質前燃料ガスを燃料電池スタック1に供給するために適切な状態とすべく改質する。例えば、改質器26は、図示しない改質用触媒によって改質前燃料ガスを水蒸気改質し、水素を主成分とするアノードガスを生成する。このように改質されたアノードガスは、高温状態のまま燃料電池スタック1のアノード流路に供給される。
次に、カソード供給機構3について説明する。
カソード供給機構3は、空気供給通路30を備え、空気供給通路30には、上流から順に、エアポンプ31と、分岐通路30Aと、熱交換器32とが設けられている。空気供給通路30は、燃料電池スタック1のカソード極にカソードガスとしての空気を供給するための通路であり、エアポンプ31と燃料電池スタック1内に形成されたカソード流路とを接続する。
エアポンプ31は、空気供給通路30の入口に設けられ、フィルタ(図示しない)を通じて外気(空気)を取り入れ、取り入れた空気を該空気供給通路30内に圧送する。
分岐通路30Aは、空気供給通路30におけるエアポンプ31の下流位置と燃料供給通路20における過熱器25の上流位置とを連結するように接続される。
分岐通路30Aにはスロットル33が設けられる。スロットル33は、コントローラ5により制御され、スロットル33の開度に応じて熱交換器32を介して燃料電池スタック1に供給される空気流量と、燃料供給通路20に供給される空気流量とを調整する。例えば、システム暖機時にエアポンプ31から燃料供給通路20に空気が供給され、燃料供給通路20に供給された空気は、過熱器25を介して改質器26に送られ、改質器26内で空気と燃料を燃焼し、燃焼ガスにより暖気が促進される。
熱交換器32は、エアポンプ31により供給される空気の少なくとも一部を、後述する排気燃焼器41で生成される燃焼ガスと熱交換させて加熱する装置である。熱交換器32により加熱された空気は燃料電池スタック1のカソード流路に供給される。
排気機構4は、排気燃焼器41を含み、燃料電池スタック1と排気燃焼器41とは、アノードオフガス通路42とカソードオフガス通路43により接続されている。また、排気燃焼器41は、当該排気燃焼器41で生成される燃焼ガスを外部に排出する燃焼ガス通路40と接続している。
アノードオフガス通路42は、一端が燃料電池スタック1のアノード流路出口に接続されるとともに、他端が排気燃焼器41に接続されている。アノードオフガス通路42は、燃料電池スタック1から排出される発電反応後のアノードオフガスを排気燃焼器41に送り出す通路である。
カソードオフガス通路43は、一端が燃料電池スタック1のカソード流路出口に接続されるとともに、他端が排気燃焼器41に接続されている。カソードオフガス通路43は、燃料電池スタック1から排出される発電反応後のカソードオフガスを燃料電池スタック1から排出されたカソードオフガスを排気燃焼器41に送り出す通路である。なお、カソードオフガス通路43の燃料電池スタック1のカソード流路出口(カソード極側出口)付近には、温度センサ401が設けられている。温度センサ401は、燃料電池スタック1から排出されるカソードオフガスの温度を検出し、検出値は信号としてコントローラ5に送られる。
排気燃焼器41は、燃料電池スタック1からアノードオフガス通路42及びカソードオフガス通路43を介して送られてきたアノードオフガス及びカソードオフガスを混合してその混合ガスを触媒燃焼させ、二酸化炭素や水を主成分とする燃焼ガスを生成する。排気燃焼器41で生成された燃焼ガスは、燃焼ガス通路40から分岐する分岐通路40A及び分岐通路40Bを介して燃料電池システム100の外部に排出される。
燃焼ガス通路40は、排気燃焼器41で生成された燃焼ガスを外部に排出する通路であり、一端が排気燃焼器41に接続されるとともに、他端側は分岐通路40A及び分岐通路40Bに分岐している。分岐通路40Aは改質器26、過熱器25、蒸発器24を通って外気へ連通し、分岐通路40Bは熱交換器32を通って外気へ連通している。改質器26、過熱器25及び蒸発器24は、分岐通路40Aを通る燃焼ガスの熱との熱交換により加熱され、熱交換器32は、分岐通路40Bを通る燃焼ガスの熱との熱交換により加熱される。
次に、コントローラ5を説明する。
コントローラ5は、マイクロコンピュータ、マイクロプロセッサ、CPUを含む汎用の電子回路と周辺機器から構成され、特定のプログラムを実行することにより燃料電池システム100の制御のための処理を実行する。例えばコントローラ5は、以下で説明するシステム停止時における制御を実行する。
次に、図2〜図5を参照して、システム停止時の制御方法について説明する。なお以下の説明においては、カソードオフガスをカソードガスとは区別せずにカソードガスと称する。同様に、アノードオフガスもアノードガスと区別せずにアノードガスと称する。
図2は燃料電池システム100の停止時における燃料電池スタック1のカソードガスとしての空気の状態を説明する図である。燃料電池システム100においては、燃料電池スタック1を冷却する及びスタック温度を検出する等の理由から、システム停止後も燃料電池スタック1のカソード流路には定常運転時よりも小さい微量の空気が供給され続ける。なお「定常運転」とは、システム暖機後、駆動モータや補機等の電気負荷に対して所望の発電電力を燃料電池が発電できる運転状態のことを意味する。
上記のようにカソード流路に供給された空気は、カソードオフガス通路43を通って排気燃焼器41へと流入する。また、燃料電池システム100の停止時には、外気へ連通している燃焼ガス通路40(分岐通路40A及び分岐通路40B)を介して、微量の空気が排気燃焼器41へと流入することもある。
燃料電池システム100の停止直後には、アノードオフガス通路42の内部はアノードガスで満たされているが、燃料電池スタック1の温度の低下とともに、アノードガスは体積収縮する。アノードガスの体積収縮が起こると、図2に示すようにカソードオフガス通路43及び燃焼ガス通路40を介して排気燃焼器41へと流入した空気がアノードオフガス通路42に逆流する。燃料電池スタック1の温度が高い状態において、アノードオフガス通路42に流入した空気が燃料電池スタック1のアノード流路に到達すると、アノード極が酸化して、燃料電池スタック1が劣化してしまう。
本実施形態に係る燃料電池システム100においては、このような問題を解決すべく、システム停止後、所定時間が経過するごとに燃料電池スタック1に酸化防止用アノードガスを供給する。これにより、空気が燃料電池スタック1のアノード流路に到達する前にアノード流路にアノードガスが供給され、酸素を含む空気は排気燃焼器41側へと押し戻される。具体的には、以下に説明する酸化防止制御を実行する。なお、以下の制御はコントローラ5により実行される。
図3は、本実施形態における燃料電池システム100の酸化防止制御を説明するブロック図である。なお、本ブロック図に示す各演算部の機能は、コントローラ5を構成する各ハードウェア及びソフトウェア(プログラム)により実現される。
図3に示すように、コントローラ5は、カソード温度受信部B51と、温度低下代演算部B52と、体積収縮によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B53とを有している。
カソード温度受信部B51は、温度センサ401からのカソードガス温度の信号を受信する。なお、温度センサ401で検出される温度は、カソード流路出口付近のカソードガス温度であるが、燃料電スタック内部の温度と推定する。カソード温度受信部B51で受信された温度信号は温度低下代演算部B52に送られる。
図4(a)は燃料電池システム100の停止時における燃料電池スタック1の温度と時間の関係を示す図である。図4(a)に示すように、時刻t0において燃料電池システム100が停止されると、燃料電池スタック1の温度は時間の経過とともに徐々に低下する。
図3に戻り、温度低下代演算部B52には、カソードガスの温度信号及び前回検出時の温度が入力される。例えばシステム停止後、一定時間が経過した時刻t1において温度を検出した場合、図4(a)に示す温度検出時t1における燃料電池スタック温度T1及び前回温度検出時である燃料電池システム100の停止時t0における燃料電池スタック温度T0が入力される。また、時刻t1から一定時間が経過した時刻t2において温度を検出した場合は、図4(a)に示す温度検出時t2における燃料電池スタック温度T2及び前回の温度検出時t1における燃料電池スタック温度T1が入力される。
温度低下代演算部B52では、前回検出時の温度と今回検出された温度の信号値の差から、温度低下代ΔTを算出する。算出されたスタック温度低下代ΔTは体積収縮によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B53に送られる。
体積収縮によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B53では、まず、スタック温度低下代ΔTを前回の温度検出時からの経過時間Δtで除することで、スタック温度低下速度ΔT[K]/Δt[s]を算出する。例えば、時刻t2において温度を検出した場合、前回の温度検出時t1におけるスタック温度T1と時刻t2におけるスタック温度T2のスタック温度との差である温度低下代ΔT(1-2)を前回の温度検出時t1からの経過時間Δt(2-1)で除したスタック温度低下速度ΔT(1-2)/Δt(2-1)が算出される。次に、算出されたスタック温度低下速度ΔT/Δtに基づき必要なアノードガス供給量fを求め、該アノードガス供給量fに基づきアノード酸化防止用目標燃料流量Ffを算出する。以下、具体的な算出方法を説明する。
図4(b)は、燃料電池システム100の停止時のアノードガス体積Vaと時間tの関係を示す図である。ここでいうアノードガス体積Vaとは、改質器26より下流側における燃料供給通路20内、燃料電池スタック1のアノード流路内及びアノードオフガス通路42内のアノードガスの体積を合計したものである。システム停止前においては、燃料供給通路20、燃料電池スタック1のアノード流路及びアノードオフガス通路42はアノードガスで満たされている。従って、図4(b)に示すように、システムが停止されるt0より前においては、アノードガス体積Vaは、燃料供給通路20の改質器26より下流側における容積、燃料電池スタック1のアノード流路の容積及びアノードオフガス通路42の容積を合計した値(図4(b)におけるシステムアノード全容積)と等しい値となる。
図4(a)に示すように、時刻t
0において燃料電池システム100が停止され、燃料電池スタック1の温度が徐々に低下すると、燃料電池スタック1の温度の低下とともに、アノードガスの体積収縮が起こる。従って図4(b)に示すように、システム停止後、アノードガス体積Vaは徐々に小さくなる。ここで、アノードガスの体積Vaはアノードガスのモル数n、温度T、圧力Pを用いた状態方程式である以下の式(1)により表すことができる。
(ただし、式中、Rは気体定数を意味する)
従って、システム停止時またはアノードガスの前回供給時から一定時間が経過した時刻tにおけるアノードガスの体積収縮速度ΔVa[L]/Δt[s]は、スタックの温度低下速度ΔT[K]/Δt[s]を用いて以下の式(2)により求めることができる。なお、式(2)における圧力Pは、通常は標準大気圧とする。
ここで、体積収縮により、アノードガスの体積Vaが、燃料供給通路20の改質器26より下流側における容積と燃料電池スタック1のアノード流路の容積との合計値(図4(b)における燃料上流からスタックアノード出口間容積)よりも小さくなると、アノードオフガス通路42内にアノードガスが存在していない、即ち空気がアノード流路に到達した状態となる。従って本実施形態の制御方法では、アノードガスの体積Vaが燃料上流からスタックアノード出口間容積(図2のXで示される領域の容積)以下にならないように、上流側から燃料電池スタック1にアノードガスを供給する。
燃料電池スタック1に供給すべき改質後のアノードガスのモル数nrf、即ちアノードガス供給量fは、アノードガスの体積収縮ΔVa[L]の関数である以下の式(3)により求めることができる。なお、式(3)における圧力Pは、通常は標準大気圧とする。
インジェクタ23から実際に供給するアノードガス供給流量Ff[g/s]は、式(3)で求められたの改質後アノードガスのモル数nrf(アノードガス供給量)の関数(式(4))として求めることができる。
以上の通り、スタック温度Tとシステム停止時またはアノードガスの前回供給時からの経過時間Δtに基づき算出されるスタックの温度低下速度ΔT/Δtを用いて、アノードガスの体積収縮速度ΔVa/Δtを算出することができる。また、アノードガスの体積収縮速度ΔVa/Δtに基づき必要なアノードガス供給量f(アノードガスのモル数nrf)を算出することができる。そして算出されたアノードガス供給量fに基づき、アノードガス供給流量Ff[g/s]が決定される。なお、式(2)〜式(3)より、スタックの温度低下速度ΔT/Δtとアノードガス供給量fの関係を求めることができる。従って、スタックの温度低下速度ΔT/Δtとアノードガス供給量fの関係を予めグラフ化しておいて、該グラフによってスタックの温度低下速度ΔT/Δtから決定されるアノードガス供給量fに基づきアノードガス供給流量Ffを決定することができる。また、式(2)より、体積収縮速度ΔVa/Δtを、スタックの温度低下速度ΔT/Δtから求めることができる。従って、スタックの温度低下速度ΔT/Δtから推定される体積収縮速度ΔVa/Δtに基づきアノードガス供給量fを算出することもできる。
図3に戻り、体積収縮によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B53は、燃料電池スタック1の温度低下速度ΔT/Δtとアノードガス供給量fの関係を示すグラフを参照して、スタックの温度低下速度ΔT/Δtから必要なアノードガス供給量f[g]を求める。そして、アノードガス供給量fに基づきアノード酸化防止用目標燃料流量Ff[g/s]を算出する。なお、スタックの温度低下速度ΔT/Δtから推定される体積収縮速度ΔVa/Δtと、アノードガス供給量fとの関係を示すグラフから、体積収縮速度ΔVa/Δtに基づき必要なアノードガス供給量fを求めてもよい。
コントローラ5は、決定されたアノード酸化防止用目標燃料流量Ffに基づきインジェクタ23による燃料噴射量を調節する。インジェクタ23により、アノード酸化防止用目標燃料流量Ffのアノードガスが噴射されると、図4(b)のt1に示すようにアノードガス体積Vaが増加する。
所定時間Δtごとにアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B53で決定された上記のアノードガス供給流量Ffを噴射し、燃料電池スタック1にアノードガスを供給することで、酸素を含む空気がアノード流路に到達する前に、常に空気を排気燃焼器側へと押し戻すことができる。
なお、燃料電池システム100の定常運転時に必要な燃料流量に対して、アノード酸化防止用の燃料供給流量は非常に小さいため、アノード酸化防止に必要な最小の燃料供給流量まで流量を絞ることができないことがある。例えば、定置用燃料電池システムの都市ガス用燃料ポンプの供給流量は、最大流量に対して、1/10程度の流量までしか絞ることができない。本実施形態の車両用の燃料インジェクタ23を用いた場合、最大流量に対して1/40程度まで流量を絞ることができるが、さらに流量を小さくしたい場合、インジェクタ23の噴霧周期を長くする、即ち、噴射から噴射までのインターバルを長くすればよい。インジェクタ23の噴霧周期を長くすることで、1回の噴射流量を小さくするのと同様の効果を得ることができる。
以上の酸化防止制御は、燃料電池スタック1の温度が、アノード極が酸化し得る温度であるアノード酸化防止温度Tmin以下になるまで行われる。燃料電池スタック1の温度がアノード酸化防止温度Tmin以下になると、コントローラ5は、酸化防止制御を終了する。
以上の通り、本実施形態では、システム停止後、燃料電池スタック1の温度がアノード酸化防止温度以下になるまでの間、アノードガスの体積Vaを適切な量に保つように制御する。即ち、アノードガスの体積Vaが、システムアノード全容積(容積A)と、燃料上流からスタックアノード出口間容積(容積B)との間の大きさに維持されるように、インジェクタ23の噴射最小流量と噴射周期と容積差A−Bを設定する。
図5は、本実施形態における燃料電池システム100の酸化防止制御を説明するフローチャートである。なお、以下の制御はいずれもコントローラ5により実行される。
ステップS110において、コントローラ50は、システム停止指令を受け付ける。例えば、車両のOFF操作が行われた場合、又は、燃料電池の発電停止が要求された場合等に、システム停止指令がコントローラ50に対して送信される。
コントローラ50は、時刻t0においてシステム停止指令を受け付けると、ステップS120において温度センサ401からのカソードガス温度の信号を受信する。
次にステップS130において、ステップS120において受信したカソードガス温度Txがシステム停止時である時刻t0において取得されたカソードガス温度T0か否かを判定する。システム停止時である時刻t0において取得されたカソードガス温度T0であると判定された場合、ステップS120に戻り、所定時間経過後に、再び温度センサ401からのカソードガス温度の信号を受信する。一方、システム停止時である時刻t0において取得されたカソードガス温度T0ではないと判定されると、ステップS140に進む。
ステップS140では、ステップS120において受信したカソードガス温度Txが、アノード酸化防止温度Tminよりも大きいか否かが判定される。カソードガス温度Txが、アノード酸化防止温度Tminよりも大きい場合、ステップS150に進む。一方、カソードガス温度Txがアノード酸化防止温度Tmin以下の場合、酸化防止制御を終了する。
ステップS150では、スタック温度低下代ΔTが算出される。具体的には、まず、ステップS120において前回受信したカソードガス温度Tx-1と、ステップS120において今回受信したカソードガス温度Txとの差である温度低下代ΔTxを算出する。
次にステップS160において、ステップS150で算出したスタックの温度低下代ΔTx及び今回の温度Txの受信時刻txから前回の温度Tx-1の受信時刻tx-1を引いた前回温度受信時からの経過時間tx−tx-1=Δtxに基づきスタックの温度低下速度ΔT/Δtを算出する。
次に、ステップS170において、まず、ステップS160で算出したスタックの温度低下速度ΔT/Δtとアノードガス供給量fの関係を示すグラフ(図3のB53参照)を参照して、必要なアノードガス供給量fを求める。次に、該アノードガス供給量fに基づき必要なアノードガス供給流量Ffを算出し、アノード酸化防止用目標燃料流量Ffとして設定する。なお、アノードガス供給量fは、スタックの温度低下速度ΔT/Δtから推定される体積収縮速度ΔVa/Δtとアノードガス供給量fの関係から求めてもよい。
続いてステップS180において、ステップS170で決定したアノード酸化防止用目標燃料流量Ffに基づき、インジェクタ23により燃料を噴射する。噴射が終了すると、ステップS120に戻り、所定時間経過後に再びカソードガス温度の信号を受信する。
上記の酸化防止制御は、ステップS140でカソードガス温度Txがアノード酸化防止温度Tmin以下であると判定されるまで繰り返し行われる。
上記した第1実施形態の燃料電池システム100によれば、以下の効果を得ることができる。
燃料電池システム100においては、システム停止後、燃料電池スタック1のアノード流路(アノード極)に酸化防止用アノードガスを供給する。酸化防止用のアノードガス供給量fは、燃料電池スタック1の温度と、燃料電池システム100の停止時または酸化防止用アノードガスの前回供給時からの経過時間とに基づき調節される。このように、燃料電池システム100においては、所定時間ごとに適切な流量の酸化防止用アノードガスがアノード流路に供給される。従って、燃料電池システム100の停止中に、アノードガスの体積収縮により排気燃焼器41を通じて酸素が逆流してアノード流路に到達することを防止するとともに、アノード流路及びアノードオフガス通路42に不必要な量のアノードガスを供給することを抑制できる。従って、燃料電池システム100の停止時における酸素の逆流によるアノード極の酸化劣化を防止しつつ、燃費の悪化を抑制することができる。
燃料電池システム100においては、システム停止後、スタックの温度低下速度またはスタックの温度低下速度から推定されるアノード極側出口と前記燃焼器との間のアノードガスの体積収縮速度に基づき酸化防止用アノードガスの供給量を調節する。従って、アノードガスの体積収縮により排気燃焼器41を通じて酸素が逆流してアノード流路に到達することをより確実に防止するとともに、アノード流路及びアノードオフガス通路42に不必要な量のアノードガスを供給することをより確実に抑制できる。
燃料電池システム100においては、カソード流路出口付近のカソードガス温度を検知して、燃料電スタック1内部の温度と推定している。このため、燃料電池スタック1の内部に温度センサ401を設置するスペースを設ける必要がなく、燃料電池スタック1の小型化、軽量化が可能となる。
燃料電池システム100においては、システム停止後、インジェクタ23を用いて燃料を噴射することで燃料電池スタック1のアノード流路に酸化防止用アノードガスを供給する。インジェクタ23は、都市ガス用燃料ポンプ等に比べ、少量の燃料を噴射することができる。従って、システム停止後に、アノード流路及びアノードオフガス通路42に不必要な量のアノードガスを供給することを抑制できる。
また、燃料電池システム100においては、システム停止後、インジェクタ23を用いて所定時間ごとに燃料を噴射し、燃料電池スタック1のアノード流路及びアノードオフガス通路42に酸化防止用アノードガスを供給する。このように、インジェクタ23により燃料を噴射供給する場合において、噴射周期(噴射から噴射までの間隔)を長くすることで、実質的に1回の噴射流量を小さくするのと同様の効果を得ることができる。これにより、システム停止後にアノード流路に不必要な量のアノードガスを供給することを抑制できる。
なお、本実施形態では、システム停止後、所定時間Δtごとに燃料電池スタック1のアノード流路(アノード極)に酸化防止用アノードガスを供給しているがこれに限らない。空気がアノード流路に到達しない時間の範囲内であれば、酸化防止用アノードガスの供給間隔時間を任意に定めることができる。例えば1回目と2回目のアノードガスの供給間隔時間と、2回目と3回目のアノードガスの供給間隔時間が異なっていてもよい。また、スタックの温度低下速度ΔT/Δtとアノードガス供給量fの関係を示すグラフに基づき、適量のアノードガス供給流量Ffで間隔を空けずに、アノードガスを連続的に供給し続けてもよい。
また、本実施形態では、スタックの温度低下速度ΔT/Δtとアノードガス供給量fの関係から求まるアノードガス供給量fに基づきアノード酸化防止用目標燃料流量Ffを決定しているが、スタックの温度低下速度からアノード酸化防止用目標燃料流量Ffを直接決定してもよい。即ち、式(2)〜(4)に基づき、スタックの温度低下速度ΔT/Δtとアノードガス供給流量Ffの関係を予めグラフ化しておいて、スタックの温度低下速度ΔT/Δtからアノード酸化防止用目標燃料流量Ffを直接決定することもできる。
また、本実施形態では、式(2)及び式(3)における圧力Pを標準大気圧としたが、圧力Pは圧力センサ等で外気を測定し、実測値を用いてもよい。この場合、圧力の実測値Pに基づき、スタックの温度低下速度ΔT/Δtとアノードガス供給量fの関係を示すグラフを補正する。例えば、高地においては、圧力Pは小さくなるため、スタックの温度低下速度ΔT/Δtを横軸、アノードガス供給量fを縦軸に取ったグラフにおける傾きは小さくなる。一方、低地においては、圧力Pは大きくなるため、上記のグラフの傾きも大きくなる。このように、外気の圧力の実測値Pによりアノードガス供給量fを補正するため、圧力の影響も考慮したより正確なアノードガスの必要供給量を設定できる。これにより、燃料電池システム100の停止時に、アノードガスの体積収縮により排気燃焼器41を通じて酸素が逆流してアノード流路に到達することをより確実に防止できるとともに、システム停止後にアノード流路に不必要な量のアノードガスを供給することをより確実に抑制できる。
(第2実施形態)
図6〜図10を参照して、第2実施形態の燃料電池システム100を説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図6は燃料電池システム100の停止時における酸素ガスの拡散を説明する図である。システム停止後、排気燃焼器41へと流入したカソードガスとしての空気は、酸素ガスの拡散現象によってもアノードオフガス通路42に逆流する。酸素濃度がアノード酸化濃度に達した酸素含有ガスがアノード流路に流入すると、アノード極が酸化して、燃料電池スタック1が劣化してしまう。
第2実施形態に係る燃料電池システム100においては、酸素ガスの拡散によるアノード極の酸化を防止するために、アノード流路出口における酸素含有ガスの酸素濃度が、アノード酸化濃度に到達しないように燃料電池スタック1に酸化防止用アノードガスを供給する。これにより、アノード流路出口における酸素含有ガスの酸素濃度がアノード酸化濃度に到達して、アノード極が酸化してしまうことを防止する。具体的には、以下に説明する酸化防止制御を実行する。なお、以下の制御はコントローラ5により実行される。
図7は、第2実施形態における燃料電池システム100の酸化防止制御を説明するブロック図である。なお、本ブロック図に示す各演算部の機能は、コントローラ5を構成する各ハードウェア及びソフトウェア(プログラム)により実現される。
図7に示すように、コントローラ5は、カソード温度受信部B51と、酸素拡散によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B54とを有している。
カソード温度受信部B51は、温度センサ401からのカソードガス温度の信号を受信する。第2実施形態における燃料電池システム100においては、温度センサ401は燃料電池システム100の停止時及び酸化防止用アノードガスの供給時にカソードガス温度を検出するように制御される。なお第1実施形態と同様に、温度センサ401で検出される温度は、燃料電池スタック1内部の温度と推定する。カソード温度受信部B51受信された温度信号は酸素拡散によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B54に送られる。
酸素拡散によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B54には、カソード温度受信部B51から送られるカソードガスの温度信号(燃料電池スタック1の温度)及びシステム停止時または酸化防止用アノードガス供給時の時刻tが入力される。例えばシステム停止時t0に検出されたスタック温度T0及び時刻t0が入力される。また、時刻t1においてアノードガスを供給した場合、t1におけるスタック温度T1及び時刻t1が入力される。
酸素拡散によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B54では、燃料電池スタック温度T及びシステム停止時またはアノードガスの前回供給時からの経過時間Δtに基づき、アノード酸化防止用目標燃料供給流量Ffを算出する。以下、具体的な算出方法を説明する。
図8は、アノードガス(水素ガス)とカソードガス(空気)間の相互拡散係数Dと温度との関係を示す図である。図8に示す通り、温度が高いほど、相互拡散係数Dは大きくなる。ここで、酸素と水素間の相互拡散係数Dは、スタック温度T[K]に基づき、以下の式(5)から求めることができる。なお、式(5)における圧力P[Pa]は、通常は標準大気圧とする。また、本実施形態においては、m
aは酸素質量数[g/mol]、m
bは水素質量数[g/mol]であり、式中のσは衝突断面積[cm
2]、ωは衝突積分を意味する。
アノードオフガス通路42内の酸素ガス濃度Co
2は、拡散係数Dを用いた拡散方程式である以下の式(6)で表すことができる。なお、式(6)におけるxは、排気燃焼器41からのアノードオフガス通路42の中心距離(図6参照)である。
また、燃料電池スタック1のアノード流路出口における酸素分圧Po
2[Pa]は、排気燃焼器41からアノード流路出口までの距離をL(図6参照)とすると、酸素質量数m
a[g/mol]、気体定数R、燃料電池スタック1の温度T[K]、時間t[s]を用いて、以下の式(7)で表すことができる。
従って、式(6)の拡散方程式に基づき、式(7)から、アノード流路出口における酸素分圧Po2[Pa]と時間t[s]の関係を求めることができる。
図9は、燃料電池スタック1の温度Tを一定とした場合のアノード流路出口における酸素分圧Po2[Pa]と時間t[s]の関係を示す片対数グラフ(酸素分圧片対数グラフ)である。図9に示すように、アノード流路出口における酸素分圧Po2は、時間tの経過とともに大きくなる。即ち、アノード流路出口における酸素濃度の値は時間の経過とともに大きくなる。アノード流路出口における酸素分圧Po2が所定の値を超えると、酸素含有ガスがアノード酸化濃度に達して、アノード極が酸化してしまう。
また、式(5)〜式(7)より、酸素分圧Po2は温度の増加関数として表される。従って、燃料電池スタック1の温度Tが減少すると、図9における酸素分圧Po2の曲線は下にシフトする。
酸素拡散によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B54では、以下に説明する方法により、アノードガスを供給する所定時間Δt[s]と、アノード酸化防止用目標燃料供給流量Ff[g/s]を決定する。
酸素拡散によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B54では、まず、システム停止時t0における燃料電池スタック1の温度T0に基づき決定される酸素分圧片対数グラフから、アノード酸化濃度に達するような酸素分圧Po2に到達するまでの時間Δtmaxが推定される。次に、アノード酸化濃度に達するまでの時間Δtmaxを超えない範囲でアノードガス供給予定時刻t1までの所定時間Δt[s]を決定する。ここで決定された所定時間Δtが経過するごとにアノードガスが供給されることになる。
続いて、酸素拡散によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B54は、システム停止時t0における燃料電池スタック1の温度T0に基づき決定される酸素分圧片対数グラフを参照して、時刻txにおいてどれだけの供給量のアノードガスを供給すればよいかを算出する。即ち、システム停止時t0からアノードガス供給予定時刻txまでの所定経過時間Δtに基づき、アノードガス供給予定時刻txにおけるアノードガス供給量f[g]を決定する。アノードガス供給量fとしては、システム停止時t0における燃料電池スタック1の温度T0に基づき決定される酸素分圧片対数グラフを参照して、例えばアノード流路出口における酸素分圧Po2をゼロにするような量のアノードガス供給量fが算出される。
所定経過時間Δtが経過して、アノードガスが供給された後は、アノードガス供給時txにおける燃料電池スタック1の温度Txに基づき決定される酸素分圧片対数グラフを参照して、時刻txから時間Δtだけ経過した後の時刻tx+1においてどれだけの供給量のアノードガスを供給すればよいかを算出する。即ち、前回のアノードガス供給時t1からアノードガス供給予定時刻tx+1までの所定経過時間Δtに基づき、アノードガス供給予定時刻tx+1におけるアノードガス供給量fを決定する。
続いて、算出されたアノードガス供給量fに基づき、アノード酸化防止用目標燃料供給流量Ff[g/s]を決定する。
このように酸素拡散によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B54では、まず、システム停止時t0における燃料電池スタック1の温度T0に基づきアノードガス供給予定時刻までの所定時間Δtを決定する。次に、所定時間Δtが経過するごとに、アノードガスの前回供給時からの経過時間Δt及び燃料電池スタック1の温度Tに基づきアノード酸化防止用目標燃料流量Ffを算出する。
コントローラ5は、決定されたアノード酸化防止用目標燃料流量Ffに基づきインジェクタ23による燃料噴射量を調節する。アノードガス供給予定時刻tまでの時間Δtが経過すると、インジェクタ23により、アノード酸化防止用目標燃料流量Ffのアノードガスが噴射され、アノード流路出口における酸素含有ガスの酸素濃度は減少する。
このように、酸素拡散によるアノード酸化防止用目標燃料流量演算部B54で決定された上記のアノードガス供給流量Ffを噴射し、燃料電池スタック1にアノードガスを供給することで、アノード流路出口における酸素含有ガスの酸素濃度がアノード酸化濃度に到達することを防止できる。
以上の酸化防止制御は、燃料電池スタック1の温度が、アノードが酸化し得る温度であるアノード酸化防止温度以下になるまで行われる。燃料電池スタック1の温度がアノード酸化防止温度以下になると、コントローラ5は、酸化防止制御を終了する。
なお、燃料電池スタック1の温度は、時間の経過とともに低下するので、酸素分圧片対数グラフにおける酸素分圧Po2の曲線は時間とともに下方向にシフトする。従って、時刻t0において決定された所定時間Δtは、時間が経過してもアノード酸化濃度に達するまでの時間Δtmaxを超えることはない。このため、システム停止時t0に所定時間Δtを決定してしまえば、アノードガスの供給間隔(=Δt)がアノード酸化濃度に達するまでの時間Δtmaxを超えてしまう恐れは無い。
図10は、第2実施形態における燃料電池システム100の酸化防止制御を説明するフローチャートである。なお、以下の制御はいずれもコントローラ5により実行される。
ステップS210において、コントローラ50はシステム停止指令を受け付ける。
コントローラ50は、時刻t0においてシステム停止指令を受け付けると、ステップS220において温度センサ401からのカソードガス温度の信号を受信する。
次にステップS230において、ステップS220において受信したカソードガス温度Txが、アノード酸化防止温度Tminよりも大きいか否かが判定される。カソードガス温度Txが、アノード酸化防止温度Tminよりも大きい場合、ステップS240に進む。一方、カソードガス温度Txがアノード酸化防止温度Tmin以下の場合、酸化防止制御を終了する。
次にステップS240において、ステップS220において受信したカソードガス温度Txが、システム停止時の温度T0であるか否かが判定される。システム停止時の温度T0であると判定された場合、ステップS250に進む。一方、システム提示の温度T0ではないと判定された場合、ステップS260に進む。
次にステップS250において、システム停止時の温度T0から決定される拡散係数Dに基づく酸素分圧Po2と時間Δtの関係を示すグラフを参照して、アノードガスを供給する所定時間Δt[s]を決定する。即ち、まず、時刻t0におけるスタック温度T0から決定される酸素分圧片対数グラフに基づき、アノード酸化濃度に達するような酸素分圧Po2に到達するまでの時間Δtmaxを推定する。次に、Δtmaxを超えない範囲でアノードガスを供給する所定経過時間Δt[s]を決定する。
ステップS260では、ステップS220で受信した燃料電池スタック1の温度Txから決定される拡散係数Dに基づく酸素分圧Po2と時間tの関係を示すグラフを参照して、所定時間Δt経過後の時刻tx+1に供給すべきアノードガス供給量f[g]を算出する。即ち、燃料電池スタック1の温度T及びシステム停止時またはアノードガスの前回供給時からの経過時間Δtに基づき、アノードガス供給量fを算出する。続いて、算出したアノードガス供給量fに基づき、アノード酸化防止用目標燃料流量Ff[g/s]を決定する。
次にステップS270において、ステップS250で決定したアノード酸化防止用目標燃料流量Ffに基づき、インジェクタ23の噴射量を調節する。アノードガス供給予定時刻tx+1までの所定時間Δtが経過した後、アノード酸化防止用目標燃料流量Ffに基づきインジェクタ23により燃料を噴射する。噴射が終了すると、ステップS220に戻り、噴射終了時のカソードガス温度Tx+1の信号を受信する。
上記の酸化防止制御は、ステップS230でカソードガス温度Tがアノード酸化防止温度Tmin以下であると判定されるまで繰り返し行われる。
上記した第2実施形態の燃料電池システム100によれば、以下の効果を得ることができる。
燃料電池システム100においては、システム停止後、燃料電池スタック1のアノード流路(アノード極)に酸化防止用アノードガスを供給する。コントローラ5は、燃料電池システム100の停止時またはアノードガスの前回供給時の燃料電池スタック1の温度Tから決定される拡散係数Dに基づく酸素分圧方対数グラフを参照して、アノードガス供給予定時刻までの時間Δt及び必要なアノードガス供給量fを算出する。そして算出されたアノードガス供給量fに基づき、アノード酸化防止用目標燃料供給流量Ffが決定され、アノードガス供給量fが調節される。このように、燃料電池システム100の停止時またはアノードガスの前回供給時の燃料電池スタック1の温度Tまたは温度Tから決定される拡散係数Dと、燃料電池システム100の停止時またはアノードガスの前回供給時からの経過時間Δtとに基づき、適切な流量のアノードガスがアノード流路に供給される。従って、燃料電池システム100の停止時に、酸素ガスの拡散によりアノード流路出口における酸素含有ガスの酸素濃度がアノード酸化濃度に到達して、アノード極が酸化劣化することを防止しつつ、燃費の悪化を抑制することができる。
なお、カソード流路出口付近のカソードガス温度を検知して、燃料電スタック1内部の温度と推定していることによる効果は第1実施形態と同様である。
また、燃料の噴射にインジェクタ23を用いていることによる効果、及び噴射周期(噴射から噴射までの間隔)を長くすることで、実質的に1回の噴射流量を小さくできる点も、第1実施形態と同様である。
なお、本実施形態では、所定時間Δtごとにアノードガスを供給しているが、これに限らない。アノードガス供給予定時刻tまでの時間Δtを、アノード酸化濃度に達するまでの時間Δtmaxを超えない範囲で毎回任意に決定し、毎回任意に決定された経過時間Δtに基づき必要な供給量のアノードガスを算出して供給するようにしてもよい。
また、本実施形態では、燃料電池スタック1の温度Tと、燃料電池システム100の停止時またはアノードガスの前回供給時から今回の供給予定時までの経過時間Δtに基づき、アノードガス供給量fを調節しているが、アノードガス供給量fは一定にし、供給時間(タイミング)のみを制御してもよい。例えば、燃料電池スタック1の温度Tからアノード酸化濃度に達するまでの時間Δtmaxを推定し、アノード酸化濃度に達するまでの時間Δtmaxが経過する前に毎回決まった流量のアノードガスを供給するように制御してもよい。このように毎回一定流量のアノードを供給する場合、アノードガスの供給時間(タイミング)のみを算出すればよく、より簡易な制御方法でアノード極が酸化劣化することを防止しつつ、燃費の悪化を抑制することができる。
また、本実施形態では、式(5)における圧力Pを標準大気圧としたが、圧力Pは圧力センサ等で外気を測定し、実測値を用いてもよい。この場合、圧力の実測値Pに基づき、酸素分圧Po2と時間tの関係を示すグラフ(酸素分圧片対数グラフ)を補正する。例えば、高地においては、圧力Pは小さくなるため、拡散係数Dが大きくなり、図9の酸素分圧片対数グラフにおける酸素分圧Po2の曲線は、酸素分圧Po2の上昇速度がより大きくなる方向に補正される。即ち、アノード酸化濃度に達するまでの時間Δtmaxは短くなる。一方、低地においては、圧力Pは大きくなるため、図9のグラフにおける酸素分圧Po2の曲線は、酸素分圧Po2[Pa]の上昇速度がより小さくなる方向に補正される。即ち、アノード酸化濃度に達するまでの時間Δtmaxは長くなる。このように、外気の圧力の実測値によりアノードガス供給量fを補正するため、圧力の影響も考慮したより正確なアノードガスの必要供給量を設定できる。これにより、燃料電池システム100の停止時に、酸素ガスの拡散によりアノード流路出口における酸素含有ガスの酸素濃度がアノード酸化濃度に到達して、アノード極が酸化劣化することをより確実に防止できるとともに、システム停止後にアノード流路に不必要な量のアノードガスを供給することをより確実に抑制できる。
(第3実施形態)
図11を参照して、第3実施形態の燃料電池システム100を説明する。なお、第1実施形態及び第2実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図11は、第3実施形態における燃料電池システム100の酸化防止制御を説明するフローチャートである。第3実施形態においては、第1実施形態と同様の制御により算出された体積収縮によるアノードガス供給量と、第2実施形態と同様の制御により算出された酸素拡散によるアノードガス供給量のうち、大きい方をアノードガス供給量として用いる。なお、以下の制御はいずれもコントローラ5により実行される。
ステップS211において、コントローラ50は、システム停止指令を受け付ける。
コントローラ50は、時刻t0においてシステム停止指令を受け付けると、ステップS221において温度センサ401からのカソードガス温度の信号を受信する。
次にステップS231において、ステップS221において受信したカソードガス温度Txが、アノード酸化防止温度Tminよりも大きいか否かが判定される。カソードガス温度Txが、アノード酸化防止温度Tminよりも大きい場合、ステップS241に進む。一方、カソードガス温度Txがアノード酸化防止温度Tmin以下の場合、酸化防止制御を終了する。
次にステップS241において、ステップS221において受信したカソードガス温度Txが、システム停止時の温度T0であるか否かが判定される。システム停止時の温度T0であると判定された場合、ステップS251に進む。一方、システム提示の温度T0ではないと判定された場合、ステップS261に進む。
次にステップS251では、第2実施形態と同様に、システム停止時の温度T0から決定される拡散係数Dに基づく酸素分圧Po2と時間Δtの関係を示すグラフを参照して、アノードガスを供給する所定時間Δt[s]を決定する。即ち、アノード酸化濃度に達するまでの時間Δtmaxを超えない範囲でアノードガスを供給する所定時間Δt[s]を決定する。
ステップS261では、第2実施形態と同様に、ステップS220で受信した燃料電池スタック1の温度Txから決定される酸素分圧Po2と時間tの関係を示すグラフを参照して、所定時間Δt経過後の時刻tx+1に供給すべき第1の酸化防止用アノードガス供給量f1を算出する。
次にステップS121に進み、コントローラ50は、所定時間Δt[s]経過後の時刻tx+1において、温度センサ401からのカソードガス温度Tx+1の信号を受信する。
ステップS151に進み、ステップS221において受信したカソードガス温度TxとステップS121において受信したカソードガス温度Tx+1との差である温度低下代Tx−Tx+1=ΔTを算出する。
次にステップS161において、ステップS151で算出したスタックの温度低下代ΔT及びステップS121における温度Tx+1の受信時刻tx+1からステップS221における温度Txの受信時刻txを引いた前回温度受信時からの経過時間tx+1−tx=Δtに基づきスタックの温度低下速度ΔT/Δtを算出する。
次に、ステップS171において、第1実施形態と同様に、ステップS161で算出したスタックの温度低下速度ΔT/Δt(または体積収縮速度ΔVa/Δt)とアノードガス供給量fの関係を示すグラフ(図3のB53参照)を参照して、供給すべき第2の酸化防止用アノードガス供給量f2を求める。
ステップS300において、ステップS261で算出されたき第1の酸化防止用アノードガス供給量f1と、ステップS171で算出された第2の酸化防止用アノードガス供給量f2を比較し、大きい方を酸化防止用アノードガス供給量fとする。そして該酸化防止用アノードガス供給量fに基づき必要なアノードガス供給流量Ffを算出し、アノード酸化防止用目標燃料流量Ff[g/s]とする。
ステップS310において、ステップS300で算出されたアノード酸化防止用目標燃料流量Ffに基づきインジェクタ23により燃料を噴射する。噴射が終了すると、ステップS221に戻り、噴射終了時のカソードガス温度の信号を受信する。
上記の酸化防止制御は、ステップS231でカソードガス温度Txがアノード酸化防止温度Tmin以下であると判定されるまで繰り返し行われる。
上記した第3実施形態の燃料電池システム100によれば、以下の効果を得ることができる。
燃料電池システム100においては、まず、酸素の拡散係数D及びシステム停止時またはアノードガスの前回供給時からの経過時間に基づき、第1の酸化防止用アノードガス供給量f1を算出する。次に、システム停止時またはアノードガスの前回供給時からの温度低下速度に基づき第2の酸化防止用アノードガス供給量f2を算出する。そして、第1の酸化防止用アノードガス供給量f1と、第2の酸化防止用アノードガス供給量f2のうち大きい方を酸化防止用アノードガス供給量fとしている。即ち、酸素拡散による酸素の逆流を抑制するために算出された酸化防止用アノードガス供給量と、体積収縮による酸素の逆流を抑制するために算出された酸化防止用アノードガス供給量のうち大きい方を酸化防止用アノードガス供給量としている。これにより、より確実にアノード極が酸化劣化することを防止できる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
なお、いずれの実施形態においても、燃料電池スタック1のカソード流路出口付近のカソードガス温度を燃料電池スタック1の温度と推定しているが、必ずしもこれに限らない。例えば、燃料電池スタック1の内部に温度センサ401を設けて、燃料電池スタック1の温度を直接検知してもよい。