JP2019207789A - 触媒層用インク及び燃料電池の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】アイオノマーが担体の細孔内に存在する触媒層の形成が可能な触媒層用インクを提供する。【解決手段】触媒層用インクの製造方法は、繰り返し構造を有するポリマーを主鎖として酸性の官能基を有するアイオノマー、細孔を有する担体及び触媒を溶媒と混合して、燃料電池の触媒層用インクを製造する方法であって、前記触媒層用インク中の前記アイオノマーの結晶化度が2%以下である前記触媒層用インクを調製する。【選択図】図2

Description

本発明は、触媒層用インク及び燃料電池の製造方法に関する。
固体高分子電解質型の燃料電池は、イオン伝導性を有する固体高分子膜である電解質膜を2つの電極間に有する。この燃料電池では、アノードである一方の電極において、燃料として供給された水素ガスがプロトンと電子に分離する反応が生じる。プロトンは電解質膜を経由して他方の電極へ移動し、電子は外部回路を経由して他方の電極へ移動する。この電子の移動により外部回路では電流が発生する。一方、カソードである他方の電極では、酸素ガスが供給され、電解質膜から移動してきたプロトンと外部回路から移動してきた電子が酸素ガスと反応して水が生成される。
各電極には、水素ガス又は酸素ガスの反応が生じる触媒層が設けられている。触媒層では、メソポーラスカーボン等の細孔を有する担体によって、白金等の触媒粒子が担持されている。触媒作用を高めるため、触媒粒子は、通常は電解質膜と同類の電解質によって被覆されている。このような触媒層内で使用する電解質を、以下、アイオノマーという。
一般的に、触媒粒子の粒子径は担体の細孔の内径より小さいため、触媒粒子は、担体の外表面だけでなく細孔内部にも担持されている。よって、細孔内部の触媒粒子もアイオノマーによって被覆されると、触媒利用率が向上する(例えば、特許文献1参照。)。
特開2017−126514号公報
アイオノマーは、一般に繰り返し構造を有するポリマーを主鎖として、酸性の官能基を有する。例えば、代表的なアイオノマーの1つであるナフィオン(Nafion、登録商標)は、ポリテトラフルオロエチレンユニットを主鎖として、パーフルオロエーテルスルホン酸ユニットを側鎖として有する。
アイオノマーは、主鎖のポリマーが繰り返し構造を有するため、結晶化しやすい。アイオノマー、触媒及び担体を水、アルコール等の親水性溶媒と混合して触媒層用インクを調製したとき、各アイオノマー内の結晶化部を中心に分子同士が凝集し、酸性の官能基が外側に配列したコロイドが形成されやすい。その結果、アイオノマーが担体の細孔内部に浸入することが難しくなる。このような触媒層用インクを使用して形成された触媒層は、細孔内部の触媒粒子がアイオノマーによって被覆されにくくなるため、触媒利用率が低下する。
本発明は、アイオノマーが担体の細孔内に存在する触媒層の形成が可能な触媒層用インクを提供することを目的とする。
本発明に係る触媒層用インクの製造方法は、繰り返し構造を有するポリマーを主鎖として酸性の官能基を有するアイオノマー、細孔を有する担体及び触媒を溶媒と混合して、燃料電池の触媒層用インクを製造する方法であって、前記触媒層用インク中の前記アイオノマーの結晶化度が2%以下である前記触媒層用インクを調製する。
本発明に係る燃料電池の製造方法は、電解質膜の両面に触媒層を有する燃料電池の製造方法であって、繰り返し構造を有するポリマーを主鎖として酸性の官能基を有するアイオノマー、細孔を有する担体及び触媒を溶媒と混合して、前記燃料電池の触媒層用インクを調製するステップと、前記電解質膜の両面に前記触媒層用インクを塗布して前記触媒層を形成するステップと、を含み、前記触媒層用インクを調製するステップでは、前記触媒層用インク中のアイオノマーの結晶化度が2%以下である前記触媒層用インクを調製する。
本発明によれば、アイオノマーが担体の細孔内に存在する触媒層の形成が可能な触媒層用インクを提供できる。
一実施形態の燃料電池の構成を示す断面図である。 アイオノマーにより外表面及び細孔内の触媒粒子が被覆された担体の例を示す断面図である。 アイオノマーにより外表面の触媒粒子のみが被覆された担体の例を示す断面図である。
本発明の製造方法は、燃料電池の触媒層の形成に用いられる触媒層用インク及び燃料電池の製造方法である。
以下、本発明の触媒層用インク及び燃料電池の製造方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。以下に説明する構成は、本発明の一実施態様としての一例(代表例)であり、本発明は以下に説明する構成に限定されない。
(燃料電池)
本発明の製造方法によって製造される燃料電池は、単セル構造を有する燃料電池であってもよいし、スタック構造を有する燃料電池であってもよい。
図1は、燃料電池の基本単位である燃料電池セルの構成例を示している。
図1に示す燃料電池セル10は、水素ガスと酸素ガスの供給を受けて発電する固体高分子電解質型燃料電池である。燃料電池セル10は、図1に示すように、2つのセパレータ3と、2つのセパレータ3間に設けられた膜電極接合体4とを有する。セパレータ3は、燃料電池セル10に供給されるガスを膜電極接合体4へ流す流路を有する。燃料電池セル10がスタック構造である場合、セパレータ3は、隣り合うセル間を電気的に接続する。
膜電極接合体4は、図1に示すように、電解質膜1と、2つの電極2と、を有する。
電解質膜1は、プロトン供与性の固体高分子電解質の膜である。電解質膜1には、後述する電極2において使用可能な電解質と同様の電解質を使用することができる。
2つの電極2は、電解質膜1の両面にそれぞれ設けられる。一方の電極2はアノードであり、燃料極とも呼ばれる。他方の電極2はカソードであり、空気極とも呼ばれる。アノードである電極2では、セパレータ3を介して供給された水素ガス(H)から電子(e)とプロトン(H)を生成する反応が生じる。電子は外部回路を経由してカソードである電極2へ移動する。この電子の移動により外部回路では電流が発生する。プロトンは電解質膜1を経由してカソードである電極2へ移動する。カソードである電極2では、セパレータ3を介して酸素ガス(O)が供給され、外部回路から移動してきた電子により酸素イオン(O2−)が生成される。酸素イオンは、電解質膜1から移動してきたプロトン(2H)と結合して、水(HO)になる。
各電極2は、図1に示すように、触媒層21とガス拡散層22を有する。ガス拡散層22は、各電極2に供給された水素ガス又は酸素ガスを電極2に均一に拡散する目的で、必要に応じて設けることができる。ガス拡散層22としては、例えばカーボン繊維等の導電性、ガス透過性及びガス拡散性を有する多孔性繊維シート、発砲金属、エキスパンドメタル等の多孔性の金属板を用いることができる。
(触媒層)
触媒層21は、電解質膜1に隣接して設けられる。触媒層21は、触媒、担体及びアイオノマーを含み、触媒によって上述した水素ガス及び酸素ガスの反応を促進する。触媒層21では、粒子状の触媒が担体に担持され、アイオノマーによって担体及び触媒が被覆されている。担体及び触媒は、少なくとも一部がアイオノマーによって被覆されていればよいが、触媒利用率の向上の観点からは、被覆される領域が大きいほど好ましい。ガスとの反応性を高める観点からは、触媒を被覆するアイオノマーの層は薄い方が好ましい。
(触媒)
触媒としては、水素ガス又は酸素ガスの触媒作用を有するのであれば特に限定されないが、例えば白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、タングステン(W)、鉛(Pb)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)、ガリウム(Ga)及びアルミニウム(Al)等の金属、これら金属の混合物、合金等が挙げられる。なかでも、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性等を向上させる観点から、白金、白金を含む混合物又は合金が好ましい。触媒が合金からなる場合、合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、その他の金属の含有量を10〜70原子%とすることができる。
触媒の平均粒子径は、特に限定されないが、触媒利用率及び担体での担持性の向上の観点からは、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1〜20nmである。
触媒の平均粒子径は、X線回折における触媒粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径として求めることができる。また、触媒の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)又は走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)より観察したn個の触媒粒子の粒子径の平均値として求めることもできる。nは、例えば200〜300とすることができる。
(担体)
担体としては、細孔を有する導電性の多孔性金属化合物を用いることができる。多孔性金属化合物としては、例えばメソポーラスカーボンが挙げられる。メソポーラスカーボンとしては、例えばケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)等のカーボンブラック、複数層のグラフェンシートが積層されてメソポーラスが形成された構造を有するカーボン等が挙げられる。また、多孔性金属化合物としては、例えばPtブラック、Pdブラック、フラクタル状に析出させたPt金属、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W等の酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、炭窒化物等が挙げられる。なかでも、分散性が良好で表面積が大きく、触媒の担持量が多い場合でも高温での粒子成長が少ない観点からは、メソポーラスカーボンが好ましい。
担体の平均粒径は、特に限定されないが、触媒粒子の担持性を高める観点からは、10〜100nmが好ましい。
担体の平均粒径は、触媒の平均粒子径と同様にして、TEM又はSEMにより求めることができる。
担体の細孔の平均孔径は、特に限定されないが、触媒粒子を細孔内にも担持する観点からは、2〜20nmが好ましい。
担体のBET比表面積は、多くの触媒粒子を担持する観点から、50m/g以上が好ましく、500m/g以上がより好ましく、700m/g以上がさらに好ましい。一方、担体のBET比表面積は、均一に触媒粒子を担持する観点から、1500m/g以下が好ましく、1300m/g以下がより好ましく、1000m/g以下がさらに好ましい。したがって、担体のBET比表面積は、50〜1500m/gが好ましく、500〜1300m/gがより好ましく、700〜1000m/gがさらに好ましい。
上記担体のBET比表面積は、窒素吸着法により測定される。
担体に担持された触媒の質量は、触媒と担体を合わせた質量(100質量%)に対して、通常1〜99質量%とすることができ、触媒活性及び担持性の向上の観点からは、10〜90質量%が好ましく、20〜80質量%がより好ましい。
(アイオノマー)
アイオノマーは、触媒層21中で使用するプロトン供与性の固体高分子電解質である。アイオノマーは、繰り返し構造を有するポリマーを主鎖として、酸性の官能基を有する。酸性の官能基としては、酸性を示す官能基であれば特に限定されず、例えばスルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基等が挙げられ、なかでもプロトン伝導性の観点から、スルホン酸基が好ましい。アイオノマーによるプロトン伝導のメカニズムとしては、酸性の官能基によって親水性のコアが形成され、コア内に水分子が局在したクラスターのネットワークが形成されて、この親水性のネットワークをプロトンが移動するモデルが提唱されている。
触媒層21に使用できるアイオノマーとしては、例えば酸性の官能基を有するフッ素系ポリマー、酸性の官能基を有する炭化水素系ポリマー等のイオン交換性ポリマーが挙げられる。触媒層21に使用するアイオノマーは、電解質膜1で使用される電解質と同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
酸性の官能基を有するフッ素系ポリマーとしては、パーフルオロスルホン酸ポリマー等が挙げられる。パーフルオロスルホン酸ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ユニットと、パーフルオロスルホン酸ユニットと、を有する。パーフルオロスルホン酸ポリマーとしては、市販品も使用することができる。使用できる市販品としては、例えばナフィオン(Nafion:登録商標、DuPont社製)、アクイヴィオン(Aquivion:登録商標、Solvay社製)、フレミオン(Flemion:登録商標、旭硝子社製)、アシプレックス(Aciplex:登録商標、旭化成社製)等が挙げられる。
以下は、パーフルオロスルホン酸ポリマーの例示化合物(1)〜(3)であるが、これらに限定されない。例示化合物(1)及び(2)は、それぞれナフィオン(登録商標)及びアクイヴィオン(登録商標)である。例示化合物(3)は、3M社が提案するアイオノマーである。
Figure 2019207789
酸性の官能基を有する炭化水素系ポリマーとしては、例えば酸性の官能基を有する芳香族ポリマー、酸性の官能基を有する脂肪族ポリマー等が挙げられる。
酸性の官能基を有する芳香族ポリマーとしては、例えばスルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、スルホン化ポリエーテルスルホン(SPES)、スルホン化ポリフェニルスルホン(SPPSU)、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリエーテルイミド、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスチレン等が挙げられる。
以下は、酸性の官能基を有する芳香族ポリマーの例示化合物(11)〜(13)であるが、これらに限定されない。例示化合物(11)はSPEEK、例示化合物(12)はSPES、例示化合物(13)はスルホン化ポリエーテルイミドである。
Figure 2019207789
酸性の官能基を有する脂肪族ポリマーとしては、例えばポリビニルスルホン酸、ポリビニルリン酸等が挙げられる。
アイオノマーのイオン交換容量(IEC:Ion Exchange Capacity)は、プロトン伝導性の向上の観点からは、0.6meq/g以上であることが好ましく、0.9meq/g以上がより好ましく、1.2meq/g以上がさらに好ましい。また、アイオノマーのイオン交換容量は、吸水時の寸法安定性の観点からは、3meq/g以下であることが好ましく、2.5meq/g以下がより好ましく、2meq/g以下がさらに好ましい。よって、アイオノマーのイオン交換容量は、0.6〜3meq/gが好ましく、0.9〜2.5meq/gがより好ましく、1.2〜2meq/gがさらに好ましい。
担体がメソポーラスカーボンである場合、アイオノマー(I)に対する担体(C)の質量比(I/C)は、イオン伝導性を高める観点から、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.2以上であり、さらに好ましくは0.3以上である。一方、質量比(I/C)は、触媒を被覆するアイオノマーの厚みを抑えて、触媒活性を高める観点から、好ましくは2以下であり、より好ましくは1.5以下であり、さらに好ましくは1.1以下である。したがって、質量比としては、0.1〜2が好ましく、0.2〜1.5がより好ましく、0.3〜1.1がさらに好ましい。
触媒層21の厚みは、特に限定されないが、触媒層21の触媒性能及び触媒層21の形成性の観点から、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上がより好ましい。一方、ガス拡散性の観点からは、触媒層21の厚みは、50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。したがって、触媒層21の厚みは、0.1〜50μmが好ましく、1〜20μmがより好ましい。
上述した燃料電池セル10の触媒層21は、触媒層用インクを調製するステップと、調製した触媒層用インクを電解質膜1の両面に塗布して触媒層21を形成するステップと、を経て製造することができる。
(触媒層用インクの製造方法)
触媒層用インクを調製するステップでは、アイオノマー、細孔を有する担体及び触媒を溶媒と混合する。溶媒としては、水、アルコール等のプロトン性極性溶媒が使用され得る。すべての材料を溶媒と混合してもよいし、担体と触媒を混合した後、さらにアイオノマーと溶媒を添加して混合してもよい。例えば、担体としてメソポーラスカーボンを使用し、触媒として白金を使用する場合、メソポーラスカーボンを純水中に分散させ、この分散液中に硝酸を添加する。さらに、ジニトロジアミン白金塩水溶液を添加した後、エタノールを添加して加熱することにより還元する。これにより、外表面及び細孔の内部に白金粒子を担持したメソポーラスカーボンが得られる。次いで、アイオノマーと溶媒を混合して撹拌し、触媒粒子を担持した担体の分散液と混合することで、触媒層用インクが得られる。
触媒層用インクを調製するステップでは、触媒層用インク中のアイオノマーの結晶化度が2%以下である触媒層用インクを調製する。
触媒層用インク中のアイオノマーの結晶化度は、アイオノマーのサイズ拡大の要因となるコロイド形成を抑える観点からは低いことが好ましい。具体的には、アイオノマーの結晶化度は、1.5%以下が好ましく、より好ましくは1.0%以下であり、さらに好ましくは0%である。
アイオノマーは、主鎖のポリマーが繰り返し構造を有することから、結晶化しやすい。例えば、ナフィオン(登録商標)は、等価質量(EW:equivalent weight)によっても異なるが、結晶化度が3〜12%であることが知られている(Kenneth A. Mauritz and Robert B. Moore、「State of Understanding of Nafion」、Department of Polymer Science, The University of Southern Mississippi、July 19, 2004、Chemical Reviews, 2004, Vol. 104, No. 10,4535-4585)。
また、主鎖のポリマーは疎水性を示し、酸性の官能基は親水性を示す。水、アルコール等の親水性溶媒中では、アイオノマー分子は凝集し、各アイオノマー分子のポリマーが配向して結晶化した疎水性部分の周囲に親水性部分が配列して、例えば直径10nm前後の比較的大きなサイズのコロイドが形成される傾向がある。コロイドの形成によってサイズが大きくなったアイオノマーは、溶媒中で担体の細孔の内部まで浸入することが難しく、担体の外表面を被覆するにとどまる。
これに対し、触媒層用インク中で2%以下の低い結晶化度を有するアイオノマーは、結晶化が抑えられるため、上記コロイドが形成されにくい。アイオノマー分子自体は担体の細孔よりもサイズが小さいため、担体の細孔の内部までアイオノマーが浸入することができ、触媒層用インク中のアイオノマーは、担体の外表面だけでなく細孔内部にも存在する。このような触媒層用インクを用いて形成された触媒層では、担体の外表面だけでなく細孔内部に担持された触媒もアイオノマーによって被覆される。担体の外表面に担持された触媒に加えて細孔内部の触媒の触媒作用も得られるため、触媒利用率が向上する。
アイオノマーの結晶化度は、X線回折法により測定できる。具体的には、試料にX線を照射し、得られる回折情報(広角X線回折図形または広角X線回折プロファイル)から、非晶に由来する散乱領域と結晶に由来する散乱領域とに分ける。そして、全散乱強度に対する結晶に由来する散乱強度の比を、結晶化度として計算する。
(触媒層用インクの調製例1)
ある実施の形態において、結晶化度が2%以下のアイオノマーを含む触媒層用インクは、主鎖であるポリマーの繰り返し構造が非対称構造を有するアイオノマーを用いることにより、調製される。主鎖のポリマーの繰り返し構造が対称構造を有するアイオノマーは、ポリマー部分が配向して結晶化しやすいが、非対称構造を有するポリマーは、立体的に配向が阻害されやすく、結晶化しにくい。よって、ポリマーが非対称構造を有し、結晶化度が2%以下のアイオノマーを使用することにより、触媒層用インク中のアイオノマーの結晶化度を2%以下に調整することができる。
ポリマーが非対称構造を有するアイオノマーは、ポリマーの繰り返し構造の一部に置換基を導入することにより得られる。ポリマーの繰り返し構造に置換基を導入する方法としては、例えば、置換基を導入しない通常のモノマーと置換基を導入したモノマーとを重合させてポリマーを生成する、置換基の導入位置が異なる複数種類のモノマーを重合させてポリマーを生成する等の方法が挙げられる。置換基としては、例えば水素、ハロゲン、アルキル基、芳香環等が挙げられる。立体構造的に配向を阻害する観点からは、分岐を有する置換基、芳香環等の立体的にかさ高い置換基又はo−メチルスチレン等のように非対称構造を有する置換基が好ましい。
例えば、ポリテトラフルオロエチレンに由来する繰り返し構造(CFCFのポリマーを有する例示化合物(1)を生成する場合、4つのフッ素原子の一部がイソプロピル基に置換され、かつイソプロピル基の置換位置が異なる複数種類のテトラフルオロエチレンを重合させる。これにより、(CFCFの繰り返し単位中のフッ素原子の一部がイソプロピル基に置換され、かつその置換位置が繰り返し単位ごとに異なる非対称構造のポリマーユニットを有するパーフルオロスルホン酸ポリマーが得られる。
アイオノマーのポリマー部分の結晶化を抑える観点からは、多官能基を有するモノマーを重合させて、ポリマー間が架橋されたアイオノマーを使用することにより、アイオノマーの結晶化度が2%以下の触媒層用インクを調製してもよい。
(触媒層用インクの調製例2)
ある実施の形態において、非晶性のアイオノマーを用いることにより、結晶化度が2%以下のアイオノマーを含む触媒層用インクが調製され得る。非晶性のアイオノマーとは、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)において融点は観測されないが、ガラス転移点は観測されるアイオノマーをいう。
非晶性のアイオノマーは、結晶化度が0%又は0%付近である。よって、非晶性のアイオノマーを使用することにより、触媒層用インク中のアイオノマーの結晶化度を2%以下に調整することができる。非晶性のアイオノマーとしては、PTFEユニットが比較的短鎖でDSCにおいて結晶性ピークを示さない、つまり融点が観測されない非晶性のパーフルオロスルホン酸ポリマー等が挙げられる。EWが低いほど、結晶化度も下がるため、結晶化度が2%以下となるときのEWを有するアイオノマーを、非晶性のアイオノマーとして選択することもできる。
(触媒層用インクの調製例3)
ある実施の形態において、溶媒として、上述したプロトン性極性溶媒に代えて、非プロトン性溶媒を使用することにより、触媒層用インク中のアイオノマーの結晶化度が2%以下に調整され得る。非プロトン性溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。結晶化度が2%以上のアイオノマーを使用した場合でも、非プロトン性溶媒中ではアイオノマー分子のポリマー部分が配向して結晶化することを抑えることができる。そのため、使用する非プロトン性溶媒の種類、使用量等を調整することにより、触媒層用インク中のアイオノマーの結晶化度を2%以下に下げることができる。
(触媒層用インクの調製例4)
ある実施の形態において、アイオノマーと溶媒を含有する混合物に、剪断力、熱及び圧力の少なくとも1つを加えることにより、触媒層用インク中のアイオノマーの結晶化度が2%以下に調整され得る。結晶化度が2%以上のアイオノマーを使用した場合でも、剪断力、熱又は圧力の負荷を加えて、親水性溶媒中で凝集するアイオノマー分子において配向し結晶化するポリマー部分を分離することにより、結晶化度を2%以下に下げることができる。
アイオノマーの結晶化度を2%以下に下げるための剪断力を加える方法としては、特に限定されず、従来公知の撹拌方法によって行うことができる。剪断力を加える方法としては、例えば撹拌羽を回転させて撹拌する、連続2軸混合機によって撹拌する、ホモジナイザーによって混合する、超音波を照射して撹拌する等の方法が挙げられる。使用できる撹拌機としては、例えばホモジナイザー(IKA社製)、ポリトロン(キネマティカ社製)、TKオートホモミキサー(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化機、エバラマイルダー(荏原製作所社製)、TKフィルミックス、TKパイプラインホモミキサー(特殊機化工業社製)、コロイドミル(神鋼パンテック社製)、スラッシャー、トリゴナル湿式微粉砕機(三井三池化工機社製)、超音波ホモジナイザー、スタティックミキサー等が挙げられる。
混合物を加熱する場合、アイオノマーの結晶化度を十分に下げる観点から、アイオノマーの融点又はガラス転移温度以上に混合物を加熱することが好ましい。また、アイオノマーの劣化を抑える観点からは、混合物の加熱温度は、アイオノマーの熱分解温度より低温とすることができる。
混合物を加圧する場合、例えば混合物をチャンバー内に配置し、窒素、アルゴン等の不活性ガスを注入してチャンバー内の圧力を上昇させることで、混合物を加圧できる。結晶化度を十分に下げる観点からは、高圧下で混合物を撹拌することが好ましい。圧力は、混合物中の材料が蒸発しないように選択されることが好ましい。アイオノマーにもよるが、疎水性のポリマー鎖を伸長させて結晶化を抑える観点から、例えば250MPa以上の圧力を加えることができる。
以上のようにして製造された触媒層用インクは、触媒層用インク中のアイオノマーの結晶化度が2%以下であり、疎水性のポリマー部分の結晶化が抑えられる。そのため、アイオノマーのサイズを拡大させるコロイドの形成が抑えられ、担体の外表面だけでなく細孔内部にもアイオノマーを存在させることができる。このような触媒層用インクを用いて触媒層を形成することにより、担体の外表面だけでなく細孔内に位置する触媒粒子もアイオノマーで被覆された触媒層21を得ることができる。したがって、触媒層21の触媒利用率が向上する。
図2は、アイオノマーが細孔の内部まで浸入した担体の一例を示す。
図2に示すように、触媒11は担体12の外表面及び細孔内に担持されている。アイオノマー13は、担体12の外表面だけでなく細孔の内部にも存在して、担体12及び触媒11を被覆している。アイオノマー13によって、外表面だけでなく細孔内に担持された触媒11へのイオン伝導が可能であり、触媒利用率が向上する。
図3は、アイオノマーによって外表面のみが被覆された担体の例を示す。
図3に示すように、担体12の細孔よりもサイズが大きいアイオノマー13は、担体12の細孔の内部に浸入できず、細孔内に担持された触媒11へのイオン伝導率が下がる。触媒作用は、アイオノマー13によって被覆された担体12の外表面に存在する触媒11によるところとなり、図2に示す例と比べて触媒利用率が低下する。
(燃料電池の製造方法)
上述した燃料電池セル10は、触媒層用インクを調製するステップと、電解質膜1の両面に触媒層用インクを塗布して触媒層21を形成するステップと、を経て製造され得る。触媒層用インクを調製するステップでは、上述のように、触媒層用インク中のアイオノマーの結晶化度が2%以下である触媒層用インクを調製する。
次いで、形成した触媒層21をカーボン繊維シート等で挟み、熱圧着することで、ガス拡散層22を形成する。これにより、電解質膜1及び電極2の膜電極接合体4が得られる。膜電極接合体4の各電極2側の面を、2枚のセパレータ3で挟むことにより、燃料電池セル10が得られる。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、本発明の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
例えば、上記触媒層用インクの調製例1〜4は、組み合わせることができる。
10・・・燃料電池セル、4・・・膜電極接合体、1・・・電解質膜、2・・・電極、21・・・触媒層、22・・・ガス拡散層、3・・・セパレータ

Claims (7)

  1. 繰り返し構造を有するポリマーを主鎖として酸性の官能基を有するアイオノマー、細孔を有する担体及び触媒を溶媒と混合して、燃料電池の触媒層用インクを製造する方法であって、
    前記触媒層用インク中の前記アイオノマーの結晶化度が2%以下である前記触媒層用インクを調製する、
    触媒層用インクの製造方法。
  2. 前記アイオノマーとして、前記ポリマーの繰り返し構造が非対称構造を有するアイオノマーを使用して、前記アイオノマーの結晶化度が2%以下の前記触媒層用インクを調製する、
    請求項1に記載の触媒層用インクの製造方法。
  3. 前記アイオノマーとして、非晶性のアイオノマーを使用して、前記アイオノマーの結晶化度が2%以下の前記触媒層用インクを調製する、
    請求項1に記載の触媒層用インクの製造方法。
  4. 前記溶媒として、非プロトン性溶媒を使用して、前記触媒層用インク中の前記アイオノマーの結晶化度を2%以下に調整する、
    請求項1に記載の触媒層用インクの製造方法。
  5. 前記アイオノマーを含む前記触媒層用インクに、剪断力、熱及び圧力の少なくとも1つを加えて、前記触媒層用インク中の前記アイオノマーの結晶化度を2%以下に調整する、
    請求項1に記載の触媒層用インクの製造方法。
  6. 前記触媒層用インク中の前記アイオノマーは、前記担体の細孔内に存在する、
    請求項1〜5のいずれか一項に記載の触媒層用インクの製造方法。
  7. 電解質膜(1)の両面に触媒層(21)を有する燃料電池の製造方法であって、
    繰り返し構造を有するポリマーを主鎖として酸性の官能基を有するアイオノマー、細孔を有する担体及び触媒を溶媒と混合して、前記燃料電池の触媒層用インクを調製するステップと、
    前記電解質膜(1)の両面に前記触媒層用インクを塗布して前記触媒層(21)を形成するステップと、を含み、
    前記触媒層用インクを調製するステップでは、前記触媒層用インク中のアイオノマーの結晶化度が2%以下である前記触媒層用インクを調製する、
    燃料電池の製造方法。

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