本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、コンサートやライブなどでの音楽情報を高い再現性で再生して臨場感を向上させることができる音響再生システムおよび音響再生方法を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、人が耳で聴くことができる可聴音以上の周波数で人が耳で聴くことができない非可聴音を表す非可聴音信号と人が耳で聴くことができる可聴音を含んで人の左右の耳に対応した2チャンネルで表した左側原音信号および右側原音信号とをそれぞれ出力する音源再生装置と、左側原音信号および右側原音信号をそれぞれ入力して互いに信号の一部を加え合う際に、加える側の信号量を加えられる側の信号量に対して電圧比で30分の1以下の量で加えて左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ生成して出力する弱クロストーク部と、左側原音信号および右側原音信号をそれぞれ入力して互いに信号の一部を加え合う際に、加える側の信号量を加えられる側の信号量に対して電圧比で30分の1を超える量で加えて左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号をそれぞれ生成して出力する強クロストーク部と、左側弱クロストーク音信号、右側弱クロストーク音信号、左側強クロストーク音信号、右側強クロストーク音信号および非可聴音信号をそれぞれ増幅するアンプと、アンプによって増幅された左側弱クロストーク音信号、右側弱クロストーク音信号、左側強クロストーク音信号、右側強クロストーク音信号および非可聴音信号をそれぞれ音波としてそれぞれ独立して出力するスピーカとを備えることにある。
この場合、音源再生装置は、コンサートやライブなどでの原音における可聴音を2チャンネルで記録するとともに非可聴音を少なくとも1チャンネルで記録した原音記録媒体(例えば、CD、SACD、DVD、半導体メモリなど)を再生する再生装置で構成できるとともに、コンサート会場やライブ会場などでの原音における可聴音を2チャンネルで記録するとともに非可聴音を少なくとも1チャンネルで集音するマイクなどの集音装置で構成することができる。
このように構成した本発明の特徴によれば、音響再生システムは、聴者に対して2チャンネルの原音間で可聴音を少量クロストークさせた各弱クロストーク可聴再生音、同2チャンネルの原音間で可聴音を弱クロストーク再生音よりも多くクロストークさせた各強クロストーク可聴再生音および非可聴の非可聴再生音の3種類の音波をそれぞれスピーカを介して出力する。これにより、本発明者らの実験によれば、聴者に対して従来の音響再生システムに比べてコンサートやライブなどでの音楽情報を高い再現性で再生して臨場感を向上させることができることを確認した。この理由については、正確な原因は不明であるが、聴者が感じる弱クロストーク可聴再生音、強クロストーク可聴再生音および非可聴再生音の音波の種類(換言すれば、周波数成分)が実際のコンサート会場やライブ会場で聴者が直接的および間接的に音源から耳や身体に受ける音波の種類に近似しているためと考えられる。特に、オーケストラ演奏におけるトライアングルの音色のような小さい音を他の楽器の音にかき消されることなく明瞭に聞くことができることを確認した。
また、本発明の他の特徴は、前記音響再生システムにおいて、さらに、左側原音信号および右側原音信号を入力して、可聴音を高音および中低音、または高音、中音および低音をそれぞれ抽出するバンドパスフィルタを備え、スピーカは、高音および中低音、または高音、中音および低音ごとの各左側原音信号および各右側原音信号ごとに有するとともに、これらのスピーカ間において相対的に低音側のスピーカが高音側のスピーカよりも聴者に近い側に配置されていることにある。
これらの場合、高音および中低音の周波数の関係、または高音、中音および低音の周波数の関係は、可聴音(20Hz〜20kHz)の範囲内においてアクティブフィルタ、ネットワークまたはスピーカの各仕様や性能に応じて互いに相対的に設定されるものであり、ある特定の周波数または周波数帯域にのみ限定されるものではない。また、バンドパスフィルタは、左側原音信号および右側原音信号を直接入力するほかに、左右の弱クロストーク音信号および左右の強クロストーク音信号のように左側原音信号および右側原音信号を加工した信号を含むものである。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、音響再生システムは、左右の弱クロストーク音信号によって表される左右の弱クロストーク再生音および左右の強クロストーク音信号によって表される左右の強クロストーク再生音のうちの少なくとも一方の再生音を高音および中低音、または高音、中音および低音に分けて出力するスピーカを備えているため、コンサートやライブなどでの音楽情報をより高い再現性で再生して臨場感をより向上させることができる。また、本発明によれば、これらのスピーカ間において相対的に低音側のスピーカを高音側のスピーカよりも聴者に近い位置に配置することで、本発明者らの官能実験によれば、低音側のスピーカと高音側のスピーカとを聴者に対して同じ距離の位置に配置した場合に比べてより臨場感のある音を再現できる。
また、本発明の他の特徴は、前記音響再生システムにおいて、スピーカは、左側弱クロストーク音信号、右側弱クロストーク音信号、左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号ごとにそれぞれ設けられ、左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号をそれぞれ出力するスピーカが左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ出力するスピーカよりも聴者に近い側に配置されていることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、音響再生システムは、左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号をそれぞれ出力するスピーカを左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ出力するスピーカよりも聴者に近い側に配置することで、本発明者らの官能実験によれば、左右の弱クロストーク音信号を出力するスピーカと左右の強クロストーク音信号を出力するスピーカとを同じ聴者に対して同じ高さ位置に配置した場合に比べてより臨場感のある音を再現できる。
また、本発明の他の特徴は、前記音響再生システムにおいて、スピーカは、電気信号を音波に変換するスピーカ本体と、スピーカ本体における音波を発する側とは反対側を覆った状態でスピーカ本体を支持する箱型のエンクロージャーとを備えており、エンクロージャーは、左右の側面の各内側面がスピーカ本体側から後方に向かって互いに平行に延びる平行部と、平行部の後端部から後方に向かって互いに接近するように内側に傾斜する傾斜部とで構成されていることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、音響再生システムは、電気信号を音波に変換するスピーカ本体を支持する箱型のエンクロージャーにおける左右の側面の各内側面がスピーカ側から後方に向かって互いに平行に延びる平行部と、この平行部の後端部から前記後方に向かって互いに接近するように内側に傾斜する傾斜部とで構成することで、本発明者らの官能実験によれば、エンクロージャーの両側面を単に平行部または傾斜部のみで構成した場合に比べて残響音を発生させることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記音響再生システムにおいて、スピーカは、エンクロージャーにおける傾斜部が円弧状の曲面で構成されていることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、音響再生システムは、スピーカは、エンクロージャーにおける前記傾斜部が円弧状の曲面で構成されているため、本発明者らの官能実験によれば、エンクロージャーにおける傾斜部を直線状に延びる平面で構成した場合に比べてより豊かな残響音を発生させることができる。
また、本発明は音響再生システムの発明として実施できるばかりでなく、音響再生方法の発明としても実施できるものである。
具体的には、音響再生方法は、人が耳で聴くことができる可聴音以上の周波数で人が耳で聴くことができない非可聴音を表す非可聴音信号と人が耳で聴くことができる可聴音を含んで人の左右の耳に対応した2チャンネルで表した左側原音信号および右側原音信号とをそれぞれ出力する音源再生ステップと、左側原音信号および右側原音信号をそれぞれ入力して互いに信号の一部を加え合う際に、加える側の信号量を加えられる側の信号量に対して電圧比で30分の1以下の量で加えて左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ生成して出力する弱クロストークステップと、左側原音信号および右側原音信号をそれぞれ入力して互いに信号の一部を加え合う際に、加える側の信号量を加えられる側の信号量に対して電圧比で30分の1を超える量で加えて左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号をそれぞれ生成して出力する強クロストークステップと、左側弱クロストーク音信号、右側弱クロストーク音信号、左側強クロストーク音信号、右側強クロストーク音信号および非可聴音信号をそれぞれ増幅する増幅ステップと、増幅ステップによって増幅された左側弱クロストーク音信号、右側弱クロストーク音信号、左側強クロストーク音信号、右側強クロストーク音信号および非可聴音信号をそれぞれ音波としてそれぞれ独立したスピーカから出力する音波出力ステップとを含むことにある。これによれば、上記音響再生システムと同様な作用効果を期待できる。
なお、この場合、音源再生ステップは、コンサートやライブなどの原音からなる音楽情報を2チャンネルで記録した原音記録媒体(例えば、CD、SACD、DVD、半導体メモリなど)を再生する再生装置を用いて実現できるとともに、コンサート会場やライブ会場などでの音楽情報を2チャンネルで集音するマイクなどの集音装置を用いて実現することもできる。
<第1実施形態>
以下、本発明に係る音響再生システムの一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る音響再生システム100のシステム構成の概略を示す模式図である。この音響再生システム100は、コンサートやライブでの音声や演奏からなる音楽情報(換言すれば、音波情報)を記録した原音記録媒体101aを主として室内で再生する装置群である。
(音響再生システム100の構成)
音響再生システム100は、音源再生装置101を備えている。音源再生装置101は、コンサートやライブの音波情報を記録した原音記録媒体101aから音波情報を電気信号で読み出して出力する機器である。この場合、原音記録媒体101aは、コンサートやライブの音楽情報、具体的には、人の耳で聞くことができる可聴音(20Hz〜20kHz)および人間の耳では聞くことができない非可聴音(20kHz以上)を人の左右の耳に対応した2チャンネルでそれぞれ記録したものである。この原音記録媒体101aとしては、例えば、SACD(Super Audio Compact Disc:スーパーオーディオコンパクトディスク)、磁気テープまたは半導体メモリなどで構成することができる。本実施形態においては、原音記録媒体101aは、SACDで構成されている。
すなわち、本実施形態においては、音源再生装置101は、SACD上に記録されているデジタル音波データをスピーカで再生可能なアナログの電気信号に変換して出力する所謂SACDプレーヤで構成されている。この音源再生装置101は、SACDからなる原音記録媒体101aに記録された2チャンネルの音楽情報をそれぞれ電気信号で表した左側原音信号および右側原音信号をそれぞれ出力する。この場合、左側原音信号および右側原音信号には、可聴音を表す信号のほかに非可聴音を表す信号、すなわち、左側非可聴音信号および右側非可聴音信号がそれぞれ含まれている。この音源再生装置101には、プリアンプ102およびプリアンプ120がそれぞれ接続されている。
プリアンプ102は、音源再生装置101から出力された左側原音信号および右側原音信号をそれぞれ入力してそれぞれ電圧増幅するとともに、左側原音信号と右側原音信号との間で相互に互いの信号の一部を加えた左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ出力する増幅装置である。より具体的には、プリアンプ102は、左側原音信号および右側原音信号ごとに各電圧を増幅する図示しない2つの増幅回路をそれぞれ備えるとともに、これらの増幅回路によってそれぞれ増幅された左側原音信号および右側原音信号を用いて左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ生成する2つのクロストーク部L102aおよびクロストーク部R102bをそれぞれ備えている。
クロストーク部L102aは、左側原音信号に右側原音信号の一部を加えて左側弱クロストーク信号を生成するための電気回路であり、図示しない減衰器および加算器をそれぞれ備えて構成されている。また、クロストーク部R102bは、右側原音信号に左側原音信号の一部を加えて右側弱クロストーク信号を生成するための電気回路であり、図示しない減衰器および加算器をそれぞれ備えて構成されている。この場合、左側原音信号および右側原音信号における各一部とは、各信号に含まれる周波成分の一部ではなく(つまり、質的なものではない)、各信号全体に対する一部である(つまり、量的なもの)。したがって、左側クロストーク信号および右側クロストーク信号は、可聴音を表す信号のほかに非可聴音を表す信号、すなわち、左側弱クロストーク非可聴音信号および右側弱クロストーク非可聴音信号が含まれて構成されている。
これらのクロストーク部L102aおよびクロストーク部R102bをそれぞれ構成する2つの各減衰器は、左側原音信号および右側原音信号からそれぞれ抽出した左側原音信号および右側原音信号の各一部を所定の減衰率で減衰する電気回路である。本実施形態においては、各減衰器は、左側原音信号および右側原音信号の各一部を電圧比で30分の1まで減衰する。また、クロストーク部L102aおよびクロストーク部R102bをそれぞれ構成する2つの各加算器は、これら2つの減衰器によってそれぞれ減衰された左側原音信号および右側原音信号の各一部を右側原音信号および左側原音信号にそれぞれ加算して左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号を生成する電気回路である。
すなわち、左側弱クロストーク音信号は、その大部分が左側原音信号で構成されており、右側弱クロストーク音信号は、その部分が右側原音信号で構成されている。したがって、プリアンプ102は、クロストーク部L102aおよびクロストーク部R102bをそれぞれ省略するとともに、左側原音信号を増幅するための電気回路と右側原音信号を増幅する電気回路とが互いに電気的および磁気的に干渉するように構成して左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号を生成することもできる。例えば、プリアンプ102は、左側原音信号を増幅するための電気回路と右側原音信号を増幅する電気回路とが互いに電気的および磁気的に干渉することを防止するシールドのシールド能力を低下させて構成することができる。このプリアンプ102には、アクティブフィルタアンプ103およびパワーアンプ110がそれぞれ接続されている。
アクティブフィルタアンプ103は、プリアンプ102からそれぞれ出力された左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号を複数の周波数帯域ごとに抽出して出力するフィルタ回路であり、本発明に係るバンドパスフィルタに相当する。このアクティブフィルタアンプ103は、主として、抵抗素子、キャパシタ素子および増幅素子を備えて構成されている。本実施形態においては、アクティブフィルタアンプ103は、左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ高音(8400Hz〜35kHz)、中音(420Hz〜8400Hz)および低音(420Hz未満)の各周波数帯域ごとに出力する。このアクティブフィルタアンプ103には、各周波数帯域ごとにパワーアンプ104a〜104cがそれぞれ接続されている。
パワーアンプ104a〜104cは、アクティブフィルタアンプ103から各周波数帯域ごとにそれぞれ出力された左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号の電力をそれぞれ増幅して出力する増幅装置である。これらのパワーアンプ104a〜104cには、各周波数帯域に応じたスピーカ105L,105R、106L,106R、107L,107Rがそれぞれ接続されている。
スピーカ105L,105R、106L,106R、107L,107Rは、パワーアンプ104a〜104cからそれぞれ出力された各周波数帯域ごとの左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ入力してこれらの左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号にそれぞれ対応した音波に変換して出力する装置である。これらの各スピーカ105L,105R、106L,106R、107L,107Rは、2チャンネルに対応した左側のスピーカ105L,106L、107Lおよび右側のスピーカ105R、106R、107Rがそれぞれ聴者Uの前方の左側および右側にそれぞれ対向配置されている。
ここで、スピーカ105L,105Rは、パワーアンプ104aから出力された高音帯域の左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ入力して高音帯域(8400Hz〜35kHz)の音波に変換する所謂ツィータである。また、スピーカ106L,106Rは、パワーアンプ104bから出力された中音帯域(420Hz〜8400Hz)の左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ入力して中音帯域の音波に変換する所謂スコーカである。スピーカ107L,107Rは、パワーアンプ104cから出力された低音帯域の左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ入力して低音帯域(420Hz未満)の音波に変換する所謂ウーハである。
また、スピーカ106Lとスピーカ107L、およびスピーカ106Rとスピーカ107Rは、それぞれ一体的にエンクロージャー型に形成されている。具体的には、スピーカ106L,107Lおよびスピーカ106R,107Rは、図2および図3にそれぞれ示すように、コーン型スピーカであるスピーカ本体108a,108bとエンクロージャー109とで構成されている。
エンクロージャー109は、スピーカ本体108a,108bにおけるコーン側を外部に露出させた状態でコーン側とは反対側(ボイスコイル側)を覆った状態で収容して保持する部品であり、木材を箱型に形成して構成されている。この場合、エンクロージャー109は、スピーカ106L,106Rに対応するスピーカ本体108aとスピーカ107L,106Rに対応するスピーカ本体108bとを上下方向に配置した状態でそれぞれ保持している。このエンクロージャー109は、上下方向に延びる左右の側面が平行部109aと傾斜部109bとで構成されている。
平行部109aは、エンクロージャー109における左右の側面の各内側面がスピーカ本体108a,108b側から後方に向かって互いに平行に延びる部分である。この場合、各平行部109aは、後端部がスピーカ本体108a,108bの後端部と略同じ位置まで延びて形成されている。傾斜部109bは、各平行部109aの各後端部から前記後方に向かって互いに接近するように内側に傾斜しながら延びる部分である。この場合、各傾斜部109bは、直線状に延びる平面で構成されていてもよいが、円弧状に延びる曲面で構成されているとよい。
また、エンクロージャー109には、スピーカ本体108aとスピーカ本体108bとの間に補強板109cが設けられている。補強板109cは、エンクロージャー109の箱型を維持するための板状の部品であり、エンクロージャー109における上下方向の中央部分に設けられている。この場合、補強板109cは、エンクロージャー109の内部における上側空間と下側空間とが互いに連通するように貫通孔を有して構成されている。なお、補強板109cは、前記貫通孔を省略して構成することでエンクロージャー109における上側空間と下側空間とを仕切ることもできる。
パワーアンプ110は、プリアンプ102からそれぞれ出力された左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号の各電力をそれぞれ増幅して出力する増幅装置である。このパワーアンプ110には、ハイパスフィルタ111が接続されている。ハイパスフィルタ111は、パワーアンプ110からそれぞれ出力された左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号のうちの非可聴音帯域(35kHz以上)の信号、すなわち、左側弱クロストーク非可聴音信号および右側弱クロストーク非可聴音信号をそれぞれ抽出して出力するフィルタ回路であり、主として、抵抗素子、キャパシタ素子および増幅素子を備えて構成されている。このハイパスフィルタ111には、スピーカ112L,112Rがそれぞれ接続されている。
スピーカ112L,112Rは、ハイパスフィルタ111からそれぞれ出力された左側弱クロストーク非可聴音信号および右側弱クロストーク非可聴音信号をそれぞれ入力してこれらの左側弱クロストーク非可聴音信号および右側弱クロストーク非可聴音信号にそれぞれ対応した音波に変換して出力する装置である。すなわち、スピーカ112L,112Rは、非可聴音帯域(35kHz以上)の音波を出力する所謂スーパーツィータである。これらのスピーカ112L,112Rは、2チャンネルに対応した左側のスピーカ112Lおよび右側のスピーカ112Rがそれぞれ聴者Uの前方の左側および右側にそれぞれ対向配置されている。
プリアンプ120は、音源再生装置101から出力された左側原音信号および右側原音信号をそれぞれ入力してそれぞれ電圧増幅するとともに、左側原音信号と右側原音信号との間で相互に互いの信号の一部を加えた左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号をそれぞれ出力する増幅装置である。より具体的には、プリアンプ120は、左側原音信号および右側原音信号ごとに各電圧を増幅する図示しない2つの増幅回路をそれぞれ備えるとともに、これらの増幅回路によってそれぞれ増幅された左側原音信号および右側原音信号を用いて左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号をそれぞれ生成する2つのクロストーク部L121およびクロストーク部R122をそれぞれ備えている。この場合、クロストーク部L121およびクロストーク部R122は、クロストーク量をそれぞれ調節するためのクロストーク調節器121a,122aをそれぞれ備えている。
クロストーク部L121は、左側原音信号に右側原音信号の一部を加えて左側強クロストーク信号を生成するための電気回路であり、図示しない減衰器および加算器をそれぞれ備えて構成されている。また、クロストーク部R122は、右側原音信号に左側原音信号の一部を加えて右側強クロストーク信号を生成するための電気回路であり、図示しない減衰器および加算器をそれぞれ備えて構成されている。
この場合、左側原音信号および右側原音信号における各一部とは、各信号に含まれる周波成分の一部ではなく(つまり、質的なものではない)、各信号全体に対する一部である(つまり、量的なもの)。したがって、左側強クロストーク信号および右側強クロストーク信号は、可聴音を表す信号のほかに非可聴音を表す信号、すなわち、左側強クロストーク非可聴音信号および右側強クロストーク非可聴音信号が含まれて構成されている。
これらのクロストーク部L121およびクロストーク部R122をそれぞれ構成する2つの各減衰器は、左側原音信号および右側原音信号からそれぞれ抽出した左側原音信号および右側原音信号の各一部を前記各クロストーク調節器121a,122aによってそれぞれ指示された減衰率で減衰する電気回路である。また、クロストーク部L121およびクロストーク部R122をそれぞれ構成する2つの各加算器は、これら2つの減衰器によってそれぞれ減衰された左側原音信号および右側原音信号の各一部を右側原音信号および左側原音信号にそれぞれ加算して左側クロストーク音信号および右側クロストーク音信号を生成する電気回路である。
また、各クロストーク部L121およびクロストーク部R122にそれぞれ設けられたクロストーク調節器121a,122aは、クロストーク部L121およびクロストーク部R122における各減衰率を0%〜100%の範囲で手動で調整してクロストーク量を設定することができる操作子である。この場合、クロストーク調節器121a,122aは、クロストーク部L102aおよびクロストーク部R102bの減衰率(出力電圧/入力電圧)30分の1よりも大きな減衰率に設定される。また、プリアンプ120は、左側原音信号および右側原音信号の出力の大きさを手動で調節するための図示しないボリュームを備えている。そして、このプリアンプ120は、パワーアンプ123が接続されている。
パワーアンプ123は、プリアンプ120から出力された左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号の電力をそれぞれ増幅して出力する増幅装置である。このパワーアンプ123には、スピーカ124L,124R、125L,125R、126L,126R、127L,127Rがそれぞれ接続されている。
スピーカ124L,124R、125L,125R、126L,126R、127L,127Rは、パワーアンプ123から出力された左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号をそれぞれ入力してこれらの左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号にそれぞれ対応した音波に変換して出力する装置である。これらの各スピーカ124L,124R、125L,125R、126L,126R、127L,127Rは、コンデンサ、コイルおよび抵抗を組み合わせた電気回路からなるネットワーク128がそれぞれ設けられており、特定の周波数帯域の左側クロストーク音信号および右側クロストーク音信号のみを抽出して出力する。
具体的には、スピーカ124L,124Rは、ネットワーク128が左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号における高音帯域(13kHz〜35kHz)の信号をそれぞれ抽出して出力する所謂ツィータである。また、スピーカ125L,125Rは、ネットワーク128が左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号における中音帯域(2kHz〜13kHz)の信号をそれぞれ抽出して出力する所謂スコーカである。また、スピーカ126L,126Rは、ネットワーク128が左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号における低音帯域(2kHz未満)の信号をそれぞれ抽出して出力する所謂ウーハである。また、スピーカ127L,127Rは、ネットワーク128が左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号における非可聴音帯域(35kHz以上)の信号をそれぞれ抽出して出力する所謂スーパーツィータである。
これらの各スピーカ124L,124R、125L,125R、126L,126R、127L,127Rは、2チャンネルに対応した左側のスピーカ124L、125L、126L、127Lおよび右側の124R、125R、126R、127Rがそれぞれ聴者Uの前方の左側および右側にそれぞれ対向配置されている。本実施形態においては、各スピーカ124L,124R、125L,125R、126L,126R、127L,127Rは、スピーカ105L,105R、106L,106R、107L,107Rに対して聴者Uの左右方向外側にそれぞれ配置されている。
また、スピーカ125Lとスピーカ126L、およびスピーカ125Rとスピーカ126Rは、前記スピーカ106L,107Lおよびスピーカ106R,107Rと同様に、は、それぞれ一体的にエンクロージャー型に形成されている。すなわち、スピーカ125L,126Lおよびスピーカ125R,126Rは、スピーカ本体108a,108bおよびエンクロージャー109と同様のスピーカ本体(図示せず)およびエンクロージャー(図示せず)によって構成されている。
(音響再生システム100の作動)
次に、上記のように構成した音響再生システム100の作動について説明する。ここで、この音響再生システム100は、室内または屋外に設置される。本実施形態においては、音響再生システム100は、室内に設置されている。この音響再生システム100を用いて音楽(歌唱や演奏)を聞く聴者Uは、まず、音響再生システム100の電源をONにした後、クロストーク調節器121a,122aを操作することによってクロストーク部L121およびクロストーク部122における各減衰回路の減衰率、すなわち、クロストーク部L121およびクロストーク部122におけるクロストーク量をそれぞれ設定する。この場合、クロストーク量は、元となる左側原音信号および右側原音信号に対して電圧比で少なくとも30分の1を超える量、好適には10%以上かつ80%以下、より好適には、30%以上かつ60%以下、さらに好適には40%以上かつ50%以下がよい。本実施形態においては、聴者Uは、左右の各クロストーク量の割合を表すクロストーク率を50%にそれぞれ設定する。
次に、聴者Uは、音源再生装置101内に原音記録媒体101aをセットして再生させるとともに、スピーカ105L,105R、106L,106R、107L,107R、112L,112R、124L,124R、125L,125R、126L,126R、127L,127Rの前方に位置して音楽の再生を待つ。これにより、音源再生装置101は、原音記録媒体101aに記録された2チャンネルごとの可聴音および非可聴音に関する信号を読み出して左側原音信号および右側原音信号をそれぞれ出力する(本発明に係る音源再生ステップ)。
音源再生装置101から出力された左側原音信号および右側原音信号は、プリアンプ102およびプリアンプ120にそれぞれ出力される。プリアンプ102は、音源再生装置101から出力された左側原音信号および右側原音信号をそれぞれ電圧増幅した後(本発明に係る増幅ステップ)、クロストーク部L102aおよびクロストーク部R102bによって右側原音信号の一部を左側原音信号に加えて左側弱クロストーク音信号を生成するとともに、左側原音信号の一部を右側原音信号に加えて右側弱クロストーク音信号を生成して各弱クロストーク音信号をアクティブフィルタアンプ103およびパワーアンプ110にそれぞれ出力する。この場合、右側原音信号の一部を左側原音信号に加える量、および左側原音信号の一部を右側原音信号に加える量は、加える側の信号量を加えられる側の信号量に対して電圧比で30分の1以下の量で加える。
アクティブフィルタアンプ103は、左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号を各周波数帯域ごとに分割してパワーアンプ104a〜104cにそれぞれ出力する。パワーアンプ104a〜104cは、入力した左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号を電力増幅してスピーカ105L,105R、106L,106R、107L,107Rにそれぞれ出力する(本発明に係る増幅ステップ)。これにより、スピーカ105L,105R、106L,106R、107L,107Rは、原音記録媒体101aに記録された左側原音信号および右側原音信号からそれぞれ抽出された各可聴音成分を相互に僅かにクロストークさせた弱クロストーク可聴再生音を高音、中音および低音の各周波数帯域ごとに聴者Uに向けてそれぞれ出力する(本発明に係る音波出力ステップ)。
また、パワーアンプ110は、左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ電力増幅してハイパスフィルタ111にそれぞれ出力する(本発明に係る増幅ステップ)。ハイパスフィルタ111は、左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号から非可聴音帯域の信号である左側弱クロストーク非可聴音信号および右側弱クロストーク非可聴音信号のみをそれぞれ抽出してスピーカ112L,112Rにそれぞれ出力する。これにより、スピーカ112L,112Rは、原音記録媒体101aに記録された左側原音信号および右側原音信号からそれぞれ抽出された各非可聴音成分を相互に僅かにクロストークさせた各弱クロストーク非可聴再生音を聴者Uに向けてそれぞれ出力する(本発明に係る音波出力ステップ)。
一方、プリアンプ120は、音源再生装置101から出力された左側原音信号および右側原音信号をそれぞれ電圧増幅した後(本発明に係る増幅ステップ)、クロストーク部L121およびクロストーク部R122によって右側原音信号の一部を左側原音信号に加えて左側強クロストーク音信号を生成するとともに、左側原音信号の一部を右側原音信号に加えて右側強クロストーク音信号を生成して各強クロストーク音信号をパワーアンプ123に出力する(本発明に係るクロストークステップ)。この場合、右側原音信号の一部を左側原音信号に加える量、および左側原音信号の一部を右側原音信号に加える量は、前記設定したクロストーク量に対応している。
パワーアンプ123は、入力した左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号を電力増幅してスピーカ124L,124R、125L,125R、126L,126R、127L,127Rにそれぞれ出力する(本発明に係る増幅ステップ)。これにより、スピーカ124L,124R、125L,125R、126L,126R、127L,127Rは、原音記録媒体101aに記録された左側原音信号および右側原音信号からそれぞれ抽出された各可聴音成分を相互に前記弱クロストーク可聴再生音におけるクロストーク量よりも多くクロストークさせた強クロストーク可聴再生音を高音、中音および低音の各周波数帯域ごとに聴者Uに向けてそれぞれ出力する(本発明に係る音波出力ステップ)。
また、スピーカ127L,127Rは、原音記録媒体101aに記録された左側原音信号および右側原音信号からそれぞれ抽出された各非可聴音成分を相互に前記弱クロストーク非可聴再生音におけるクロストーク量よりも多くクロストークさせた強クロストーク非可聴再生音を聴者Uに向けてそれぞれ出力する(本発明に係る音波出力ステップ)。
これにより、聴者Uは、クロストークを僅かに含んだ略原音に近い2チャンネルの弱クロストーク可聴再生音およびクロストークを僅かに含んだ略原音に近い弱クロストーク非可聴再生音とともにクロストークを明確に含む2チャンネルの強クロストーク可聴再生音およびクロストークを明確に含む2チャンネルの強クロストーク非可聴再生音をそれぞれ受けることになる。この場合、聴者Uは、プリアンプ102およびプリアンプ120にそれぞれ設けられた図示しないボリュームを調節することによって、原音に近い弱クロストーク可聴再生音および弱クロストーク非可聴再生音に対するクロストークを明確に含む強クロストーク可聴再生音および強クロストーク非可聴再生音の割合を調節することができる。本発明者らの実験によれば、原音に近い弱クロストーク可聴再生音および弱クロストーク非可聴再生音とクロストークを明確に含む強クロストーク可聴再生音および強クロストーク非可聴再生音との割合は、3対7から7対3の割合が好適である。
また、このように構成した音響再生システム100による本発明者らの実験によれば、10代から80代の男女を略均等に含む100人に対して音響再生システム100による再生音を聴かせた場合と、単に2チャンネルの原音間でクロストークさせた再生音を聞かせた場合とでは85%の人が音響再生システム100による再生音に高い臨場感を覚えたという実験結果を得た。
上記作動説明からも理解できるように、上記第1実施形態によれば、音響再生システム100は、聴者Uに対して略原音に近い2チャンネルの弱クロストーク可聴再生音、略原音に近い弱クロストーク非可聴再生音、クロストークを明確に含む2チャンネルの強クロストーク可聴再生音およびクロストークを明確に含む2チャンネルの強クロストーク非可聴再生音の4種類の音波をそれぞれスピーカを介して出力している。これにより、本発明者らの実験によれば、聴者に対して従来の音響再生システムに比べてコンサートやライブなどでの音楽情報を高い再現性で再生して臨場感を向上させることができることを確認した。この理由については、正確な原因は不明であるが、聴者が感じる弱クロストーク可聴再生音、強クロストーク可聴再生音、弱クロストーク非可聴再生音および強クロストーク非可聴再生音の音波の種類(換言すれば、周波数成分)が実際のコンサート会場やライブ会場で聴者が直接的および間接的に音源から耳や身体に受ける音波の種類に近似しているためと考えられる。特に、オーケストラ演奏におけるトライアングルの音色のような小さい音を他の楽器の音にかき消されることなく明瞭に聞くことができることを確認した。
<第2実施形態>
次に、本発明に係る音響再生システムの第2実施形態について図4〜図6を参照しながら説明する。この第2実施形態における音響再生システム200は、上記第1実施形態に対して、主として、スピーカの構成が異なっている。したがって、この第2実施形態における音響再生システム200の説明においては、上記第1実施形態における音響再生システム100と異なる部分を中心に説明して、両実施形態において共通する部分や対応する部分については上記第1実施形態と同じ符号を付して適宜説明を省略する。
(音響再生システム200の構成)
音源再生装置101は、原音記録媒体101aから音波情報を電気信号で読み出して出力する機器である。この場合、原音記録媒体101aは、上記第1実施形態のように、可聴音および非可聴音を人の左右の耳に対応した2チャンネルでそれぞれ記録したものでもよいが、本第2実施形態においては、非可聴音は左右間で同一の非可聴音を2チャンネルで記録したものを用いている。このため、クロストーク部L102aおよびクロストーク部R102bがそれぞれ出力する左側弱クロストーク非可聴音信号と右側弱クロストーク非可聴音信号とは、互いに同一の信号となる。
アクティブフィルタアンプ103は、左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ高音(3kHz〜35kHz)および中低音(3kHz以下)の各周波数帯域ごとに出力する。このアクティブフィルタアンプ103には、前記高音域および前記中低音域ごとに左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ増幅するためのパワーアンプ104a,104bがそれぞれ接続されている。
また、パワーアンプ104a,104bには、前記高音域および前記中低音域ごとの左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ音波に変換して出力するスピーカ201L,201R、202L,202Rが接続されている。この場合、スピーカ201Lとスピーカ202L,およびスピーカ201Rとスピーカ202Rは、コーンスピーカが箱型の筐体に保持された一体的なエンクロージャー型に形成されている。なお、スピーカ201L,201R、202L,202Rは、上記第1実施形態におけるスピーカ106Lとスピーカ107L、およびスピーカ106Rとスピーカ107Rと同様に平行部109aおよび傾斜部109bを一体的に備えたエンクロージャー型に形成してもよいことは当然である。
一方、プリアンプ120には、パワーアンプ123を介してスピーカ211L,211R、212L,212R、213L,213Rがそれぞれ接続されている。スピーカ211L,211Rは、ネットワーク128が左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号における高音帯域(3kHz〜35kHz)の信号をそれぞれ抽出して出力する所謂ツィータである。また、スピーカ212L,212Rは、ネットワーク128が左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号における中低音帯域(3kHz以下)の信号をそれぞれ抽出して出力する所謂ウーハである。
また、スピーカ213L,213Rは、ネットワーク128が左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号における重低音帯域(100Hz未満)の信号をそれぞれ抽出して出力する所謂サブウーハである。すなわち、音響再生システム200においては、左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号における非可聴音帯域を出力するスーパーツィータであるスピーカ127L,127Rに相当するスピーカが省略されて構成されている。
そして、スピーカ211Lとスピーカ212L,およびスピーカ211Rとスピーカ212Rは、前記スピーカ201Lとスピーカ202L,およびスピーカ201Rとスピーカ202Rと同様に、一体的なエンクロージャー型に形成されている。また、スピーカ213Lおよびスピーカ213Rは、互いに水平方向に配置した状態で一体的に形成されたエンクロージャー型に形成されている。なお、これらのスピーカ211L,211R、212L,212R,213L,213Rについても、上記第1実施形態におけるスピーカ106Lとスピーカ107L、およびスピーカ106Rとスピーカ107Rと同様に平行部109aおよび傾斜部109bを一体的に備えたエンクロージャー型に形成してもよいことは当然である。
そして、スピーカ201L,201R,202L,202R、スピーカ211L,211R,212L,212Rおよびスピーカ213L,213Rは、各スピーカ間において相対的に低音側のスピーカが高音側のスピーカよりも聴者Uに近い側に配置されているともに、左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号をそれぞれ出力するスピーカが左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ出力するスピーカよりも聴者Uに近い側に配置されている。
具体的には、重低音帯域の左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号をそれぞれ出力するスピーカ213L,213Rが最も聴者Uに近い位置に配置されている。そして、このスピーカ213L,213Rの後方に中低音帯域および高音帯域の左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号をそれぞれ出力するスピーカ211L,211R,212L,212Rが配置されるとともに、これらのスピーカ211L,211R,212L,212Rの後方に中低音帯域および高音帯域の左側弱クロストーク音信号および右側弱クロストーク音信号をそれぞれ出力するスピーカ201L,201R,202L,202Rが配置されている。左側弱クロストーク非可聴音信号および右側弱クロストーク非可聴音信号それぞれ出力するスピーカ112L,112Rは、スピーカ211L,211R,212L,212Rとスピーカ201L,201R,202L,202Rとの間に配置されている。
この場合、スピーカ112L,112R、スピーカ201L,201R,202L,202Rおよびスピーカ211L,211R,212L,212Rは、スタンド300上に載置されている。スタンド300は、上下方向に互いに異なる高さ位置でスピーカを支持するキャスタ付きの載置台である。この場合、スタンド300は、最下段に対して中段および最上段が後方(図示右側)にずれて配置されている。また、このスタンド300は、左右のスピーカごとにそれぞれ設けられている。このスタンド300は、最下段にスピーカ211L,211R,212L,212Rを支持しており、中段にスピーカ112L,112Rを支持しており、最上段にスピーカ201L,201R,202L,202Rを支持している。また、重低音帯域の左側強クロストーク音信号および右側強クロストーク音信号をそれぞれ出力するスピーカ213L,213Rは、左側のスピーカ112L、スピーカ201L,202L、スピーカ211L,212Lと、右側のスピーカ112R、スピーカ201R,202R、スピーカ211R,212Rとの間(好ましくは中間部分)に配置されている。
(音響再生システム200の作動)
次に、上記のように構成した音響再生システム200の作動について説明する。この音響再生システム200を用いて音楽(歌唱や演奏)を聞く聴者Uは、上記第1実施形態と同様に、音響再生システム200の電源をONにした後、クロストーク調節器121a,122aを操作することによってクロストーク部L121およびクロストーク部122における各減衰回路の減衰率を設定する。そして、聴者Uは、音源再生装置101内に原音記録媒体101aをセットして再生させる。
これにより、スピーカ201L,201R、202L,202Rは、原音記録媒体101aに記録された左側原音信号および右側原音信号からそれぞれ抽出された各可聴音成分を相互に僅かにクロストークさせた弱クロストーク可聴再生音を高音および中低音の各周波数帯域ごとに聴者Uに向けてそれぞれ出力する(本発明に係る音波出力ステップ)。
また、スピーカ112L,112Rは、原音記録媒体101aに記録された左側原音信号および右側原音信号からそれぞれ抽出された各非可聴音成分を相互に僅かにクロストークさせた各弱クロストーク非可聴再生音を聴者Uに向けてそれぞれ出力する(本発明に係る音波出力ステップ)。
また、スピーカ211L,211R、212L,212R、213L,213Rは、原音記録媒体101aに記録された左側原音信号および右側原音信号からそれぞれ抽出された各可聴音成分を相互に前記弱クロストーク可聴再生音におけるクロストーク量よりも多くクロストークさせた強クロストーク可聴再生音を高音、中低音および重低音の各周波数帯域ごとに聴者Uに向けてそれぞれ出力する(本発明に係る音波出力ステップ)。
これにより、聴者Uは、クロストークを僅かに含んだ略原音に近い2チャンネルの弱クロストーク可聴再生音およびクロストークを僅かに含んだ略原音に近い弱クロストーク非可聴再生音とともにクロストークを明確に含む2チャンネルの強クロストーク可聴再生音をそれぞれ受けて音楽を聴くことができる。
上記作動説明からも理解できるように、上記第2実施形態によれば、音響再生システム200は、聴者Uに対して略原音に近い2チャンネルの弱クロストーク可聴再生音、略原音に近い弱クロストーク非可聴再生音、クロストークを明確に含む2チャンネルの強クロストーク可聴再生音の3種類の音波をそれぞれスピーカを介して出力している。これにより、本発明者らの実験によれば、聴者に対して従来の音響再生システムに比べてコンサートやライブなどでの音楽情報を高い再現性で再生して臨場感を向上させることができることを確認した。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、以下で説明する各変形例においては、上記実施形態と同様の構成部分に同じ符号を付して説明は適宜省略する。
例えば、上記各実施形態においては、音響再生システム100,200は、非可聴音についてクロストークさせた弱クロストーク非可聴再生音および/または強クロストーク非可聴再生音を出力するように構成した。しかし、音響再生システム100,200は、非可聴音については、必ずしもクロストークさせる必要はなく、クロストークを含まない原音のまま出力するように構成してもよい。
また、上記各実施形態においては、クロストーク部L102aおよびクロストーク部R102bは、左側原音信号および右側原音信号の各30分の1を右側原音信号および左側原音信号にクロストークさせるように構成した。すなわち、クロストーク部L102aおよびクロストーク部R102bが本発明に係る弱クロストーク部に相当する。このクロストーク部L102aおよびクロストーク部R102bは、加える側の信号量を加えられる側の信号量に対して電圧比で0を超え30分の1以下の量で加えるようにすればよい。
また、上記各実施形態においては、クロストーク部L121およびクロストーク部R122は、左側原音信号および右側原音信号の各2分の1を右側原音信号および左側原音信号にクロストークさせるように構成した。すなわち、クロストーク部L121およびクロストーク部R122が本発明に係る強クロストーク部に相当する。このクロストーク部L121およびクロストーク部R122は、少なくとも左側原音信号および右側原音信号の各30分の1を超える左側原音信号および右側原音信号を右側原音信号および左側原音信号にクロストークさせるように構成すればよい。
また、上記実施形態においては、音響再生システム100,200は、弱クロストーク可聴再生音および強クロストーク可聴再生音をそれぞれ3または2つの周波数帯域ごとに出力するために各3つずつまたは各2つずつのスピーカをそれぞれ備えて構成した。しかし、音響再生システム100,200は、弱クロストーク可聴再生音および強クロストーク可聴再生音を1つの周波数帯域のスピーカ、すなわち、フルレンジのスピーカで構成することもできる。
また、上記各実施形態においては、音源再生装置101は、非可聴音を表す左側非可聴音信号および右側非可聴音信号を含んだ左側原音信号および右側原音信号をそれぞれ出力するように構成した。すなわち、原音記録媒体101aには、非可聴音が人の左右方向にそれぞれ対応した2チャンネルで記録されている。しかし、音源再生装置101は、少なくとも、可聴音を2チャンネルで表した左側原音信号および右側原音信号と、非可聴音を1チャンネルで表した非可聴音信号とをそれぞれ出力するように構成されていればよい。したがって、音響再生システム100は、非可聴音については、1つのスピーカからのみ出力するように構成することもできる。なお、音源再生装置101は、可聴音のみを出力する音源再生装置101および非可聴音のみを出力する音源再生装置101の2つの別体の機器で構成することもできる。
また、上記実施形態においては、プリアンプ120は、クロストーク部L121、クロストーク部R122およびクロストーク調節器121a,122aを備えて構成した。これにより、プリアンプ120は、左側原音信号および右側原音信号を用いて所望のクロストーク量で左側クロストーク音信号および右側クロストーク音信号を生成することができる。しかし、クロストーク部L121およびクロストーク部R122は、必ずしも積極的に左側クロストーク音信号および右側クロストーク音信号を生成させる回路として構成する必要はない。すなわち、クロストーク部L121およびクロストーク部R122は、左側原音信号と右側原音信号とが互いに干渉し合ってクロストークを受けるように構成されていればよい。したがって、例えば、プリアンプ120における左側原音信号を増幅する増幅回路と右側原音信号を増幅する増幅回路とを互いに近接配置することによって互いの増幅回路が電気的または磁気的に干渉し合って左側クロストーク音信号および右側クロストーク音信号が生成されるように構成することもできる。
また、クロストーク部L121およびクロストーク部R122は、クロストーク調節器121a,122aを備えてクロストーク量を可変できるように構成する他に、クロストーク量(換言すれば、減衰回路の減衰率)が所定の値に固定的に設定されていてもよい。この場合、クロストーク部L121およびクロストーク部R122に固定的に設定するクロストーク量は、元となる左側原音信号および右側原音信号に対して電圧比で少なくとも30分の1を超える量、好適には10%以上かつ80%以下、より好適には、30%以上かつ60%以下、さらに好適には40%以上かつ50%以下の範囲で設定するとよい。
また、上記実施形態においては、音源再生装置101は、原音記録媒体101aを再生する機器で構成した。しかし、音源再生装置101は、人が耳で聴くことができる可聴音以上の周波数で人が耳で聴くことができない非可聴音を表す非可聴音信号と人が耳で聴くことができる可聴音を含んで人の左右の耳に対応した2チャンネルで表した左側原音信号および右側原音信号とをそれぞれ出力するように構成されていればよい。
したがって、音響再生システム100,200は、例えば、コンサートやライブの会場に設置した2チャンネル分のマイクなどの集音装置からなる音源再生装置101を有線または無線(例えば、インターネットや無線電話回線)からなる伝送線(図示せず)を介してプリアンプ102およびプリアンプ120にそれぞれ接続して構成することができる。これによれば、音響再生システム100,200は、コンサート会場やライブ会場の音楽情報をリアルタイムで、または音楽情報を図示しない記憶装置に記憶しておくことで聴者Uの好みのタイミングで再生することにより会場以外の場所や部屋で会場の音場を再現することができる。