JP2019177405A - 接合構造体およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】アルミニウム材と鋼材とが抵抗スポット溶接法により異材接合された接合構造体であって、接合強度に優れる接合構造体を提供する。【解決手段】接合構造体(1A)は、鋼材(20)と、めっき層(32)に3〜12質量%のSiおよび0.5〜5質量%のFeを含有する溶融アルミニウム系めっき鋼板(30)と、アルミニウム材(10)と、をスポット溶接することにより接合されており、十字引張試験の測定結果として接合強度が1kN以上である。【選択図】図5

Description

本発明は、抵抗スポット溶接により異材接合された接合構造体およびその製造方法に関する。
アルミニウム、アルミニウム合金等のアルミニウム系材料(以下、アルミニウム材と称する)は、軽量かつ耐食性に優れていることから、種々の分野で使用されている。例えば、自動車分野では、車体軽量化のためにアルミニウム材が車体の構造材として使用されることがある。
アルミニウム材は、製造コスト、生産性等の観点から、車体の一部のみに使用される場合があり、例えば強度があまり必要でない部分(ルーフ等)に使用される。この場合、車体の一部を構成するアルミニウム材と、他の部分を構成する鋼材とを互いに異材接合することを要する。
一般に、異材接合に用いられる各種の方法の中で、抵抗スポット溶接法は、機械的結合法に比べて、接合部の軽量化ができる、生産性が高い、等の利点を有している。しかし、通常、アルミニウム材と鋼材とを単純にスポット溶接すると、それらの接合界面に脆弱な金属間化合物が生成することにより継手強度が低下し得るという問題がある。
これまで、アルミニウム材と鋼材とのスポット溶接に関する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、アルミニウム材と鋼材との間に中間材を介在させた状態にて、それらをスポット溶接する方法が記載されている。
また、特許文献2には、アルミニウム材と溶融アルミニウムめっき鋼板とを接合した接合構造体が記載されている。
特許第6094440号公報(2017年3月15日発行) 特許第4280671号公報(2009年6月17日発行)
しかしながら、特許文献1に記載の方法で形成された溶接部は、十分な機械的強度が得られない可能性が有る。具体的には、中間材に含まれる第3金属材としての窒化アルミ系合金層は、セラミックス系合金であって融点が約2473Kであると記載されている。また、スポット溶接の際に、アルミニウム材側の窒化アルミ系合金層は変形することなく存在している。このことからすると、アルミニウムが溶融して形成されたナゲットと窒化アルミ系合金層との接合が不十分となり、溶接部の接合強度が不足する虞がある。
特許文献2には、アルミニウム材と溶融アルミニウムめっき鋼板とを接合した接合構造体が記載されている。この接合構造体は、十字引張強度の試験結果として良好な接合強度を示す。しかしながら、この技術を、前述のようなアルミニウム材と鋼材との異材接合にそのまま適用することは困難である。
そして、鋼材としては様々な種類(鋼種)が存在する。例えば車体を製造する場合、車体の各部を構成する鋼材は、車体の部分毎に異なる強度の要求に応じて鋼種および鋼材の厚みが選択される。また、複数枚の鋼材を接合対象とする場合であっても、複数枚の鋼材とアルミニウム材とを適切にスポット溶接することが求められる。そのような鋼材とアルミニウム材とをスポット溶接により接合することに係る知見は、特許文献1および2には開示されていない。
本発明の一態様は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、アルミニウム材と鋼材とが抵抗スポット溶接法により異材接合された接合構造体であって、接合強度に優れる接合構造体を提供することにある。
本発明の一態様における接合構造体は、鋼材に対して、溶融アルミニウム系めっき鋼板およびアルミニウム材をこの順に積層してスポット溶接することにより接合された接合構造体であって、前記溶融アルミニウム系めっき鋼板のめっき層は、3質量%以上12質量%以下のSi、および0.5質量%以上5質量%以下のFeを含有するアルミニウム層であり、十字引張試験の測定結果として、接合強度が1kN以上であることを特徴としている。
また、本発明の一態様における接合構造体は、前記アルミニウム材と前記溶融アルミニウム系めっき鋼板との境界部に形成されるナゲットを第1ナゲットとし、前記溶融アルミニウム系めっき鋼板と前記鋼材との境界部に形成されるナゲットを第2ナゲットとし、前記接合構造体を厚さ方向に平行な面で切ったときの断面において、前記溶融アルミニウム系めっき鋼板と前記鋼材とが当接する界面上における、前記第2ナゲットと前記溶融アルミニウム系めっき鋼板の表面との境界の一方から他方までの長さを溶融鋼ナゲット径と称すると、前記溶融鋼ナゲット径に対する前記第1ナゲットのナゲット径の比が1.2以上2.0以下であることが好ましい。
また、本発明の一態様における接合構造体は、前記溶融アルミニウム系めっき鋼板は、25ppm以上200ppm以下のNを含む鋼板を下地鋼としており、かつ該下地鋼と溶融アルミニウムめっき層との界面にN:3.0原子%以上のN濃縮層が形成されていることが好ましい。
また、本発明の一態様における接合構造体は、前記第1ナゲットと前記溶融アルミニウム系めっき鋼板の下地鋼との接合界面における、中央の領域を中央領域とし、最外周部分の領域を外周領域とし、前記中央領域と前記外周領域との間の領域を中間領域とすると、前記中央領域は、主にFe−Al系金属間化合物が形成されており、前記外周領域は、主にFe−Al−Si系金属間化合物が形成されており、前記中間領域は、Fe−Al−Si系金属間化合物と前記N濃縮層とが混在していることが好ましい。
また、本発明の一態様における接合構造体は、前記接合界面における、前記中央領域の中心から半径方向の各領域の存在する長さを、前記中央領域、前記中間領域、および前記外周領域のそれぞれの領域幅と規定すると、前記中間領域の領域幅は、0.1mm以上であることが好ましい。
本発明の一態様における接合構造体の製造方法は、鋼材に対して、溶融アルミニウム系めっき鋼板およびアルミニウム材をこの順に積層して、スポット溶接するスポット溶接工程を含む、接合構造体の製造方法であって、前記溶融アルミニウム系めっき鋼板のめっき層は、3質量%以上12質量%以下のSi、および0.5質量%以上5質量%以下のFeを含有するアルミニウム層であり、前記スポット溶接工程では、電極の加圧力が1.4kN以上4.9kN以下であり、溶接電流と通電時間との積で表される値が50以上210以下の範囲内であり、前記スポット溶接工程により形成される前記接合構造体の十字引張試験の測定結果として、接合強度が1kN以上であることを特徴としている。
アルミニウム材と鋼材とが抵抗スポット溶接法により異材接合された接合構造体であって、接合強度に優れる接合構造体を提供することができる。
スポット溶接前の、鋼材と溶融アルミニウム系めっき鋼板とアルミニウム材とを積層した状態を示す断面図である。 図1に示した断面図における溶融アルミニウム系めっき鋼板の基材鋼板とアルミめっき層との界面近傍を拡大して示す図である。 本発明の実施形態1における接合構造体の接合部を模式的に示す断面図である。 上記接合構造体をアルミニウム材の側から見た場合の、該アルミニウム材を省略して模式的に示す平面図である。 本発明の実施の形態における接合構造体が有する中間領域の領域幅を測定する方法について説明するための図である。 本発明の実施形態2における接合構造体の接合部を模式的に示す断面図である。 本発明の実施形態3における接合構造体の接合部を模式的に示す断面図である。 実施例における十字引張試験について説明するための模式図であって、(a)は接合構造体の平面図であり、(b)は接合構造体の断面図である。
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の記載は発明の趣旨をより良く理解させるためのものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。本出願における各図面に記載した構成の形状および寸法(長さ、奥行き、幅等)は、実際の形状および寸法を必ずしも反映させたものではなく、図面の明瞭化および簡略化のために適宜変更している。
本実施形態における接合構造体は、例えば、自動車分野における車体のルーフパネルとルーフサイド部とを接合して形成される車両用部品である。ただし、本発明の接合構造体としては必ずしもこれに限定されない。アルミニウム材と鋼材とをスポット溶接により接合することに需要がある用途の接合構造体に適宜適用することができる。
なお、以下では、説明の簡略化のために、接合構造体における、スポット溶接により形成される1つの接合部に着目して説明する。しかし、接合部を複数個備える接合構造体も本発明の範疇に含まれることは勿論である。
<本発明の知見>
従来、自動車分野では、前述のようにルーフ等へのアルミニウム材の使用が推進されている。一方で、アルミニウム材と鋼材とを単純にスポット溶接すると、接合界面に脆弱なFe−Al二元合金層が生じる。該Fe−Al二元合金層の部分での剥離が生じることにより、継手強度が低下するという問題がある。
これまで、アルミニウム材と溶融アルミニウムめっき鋼板とを接合した接合構造体に関する技術が報告されている(特許文献2)。しかし、この技術を、例えば自動車分野における車両用部品の製造にそのまま適用することはできない。これは、本質的に、アルミニウム材のスポット溶接と鋼材のスポット溶接とでは溶接条件が異なるためである。アルミニウム材は、固有抵抗が低く熱伝導率が高いことから、比較的大きな溶接電流にて短時間に溶接することを要する。また、例えば車両用部品を製造する場合、アルミニウム材と複数枚の鋼材とを溶接することを要する場合がある。
よって、アルミニウム材と溶融アルミニウム系めっき鋼板とにさらに加えて鋼材を積層して、それらをスポット溶接により異材接合して接合構造体を製造することについては、過去の実績がなく何ら知見が無かった。ましてや、鋼材が複数枚である場合については全く未知であった。
このような状況の中、本発明者らは、アルミニウム材と溶融アルミニウム系めっき鋼板と鋼材とをスポット溶接することにより、高い継手強度を有する接合構造体を製造することを試みた。そして、接合構造体としてどのような構造となっていれば接合強度を高くすることが可能であるか鋭意検討した。その結果、以下の知見を得て本発明を実現するに至った。
すなわち、溶融アルミニウム系めっき鋼板として、めっき層に所定量のSiおよびFeを含有する溶融アルミニウム系めっき鋼板を用いる。また、本実施形態の溶融アルミニウム系めっき鋼板は、基材鋼板に所定量の窒素(N)を含有しており、特定の前処理によって基材鋼板とめっき層との界面にN濃縮層が形成されている。この溶融アルミニウム系めっき鋼板を用いて、適切な入熱となる溶接条件にて、アルミニウム材と溶融アルミニウム系めっき鋼板と鋼材とをスポット溶接する。これにより、接合構造体の接合強度を高くすることができ、例えば、十字引張試験の測定結果として1kN以上の接合強度を有する接合構造体を製造し得る。溶接条件は、接合構造体のナゲット径が適切なものとなるように、かつ接合部に特定の領域が形成されるように設定される。
<接合構造体>
以下、本発明の実施の形態における接合構造体について、図1〜図5を用いて説明する。始めに、図1を用いて、スポット溶接前の各板材について説明する。図1は、スポット溶接前の、鋼材と溶融アルミニウム系めっき鋼板とアルミニウム材とを積層した状態を示す断面図である。
図1に示すように、スポット溶接前において、鋼材20と溶融アルミニウム系めっき鋼板30とアルミニウム材10とが、この順に重ね合わせて積層される。電極40を用いてこれらの板材をスポット溶接することにより接合構造体1A(図3参照)が製造される。
本実施形態では、説明の平易化のために、鋼材が1枚である接合構造体について説明する。ただし、本発明の他の一態様における接合構造体は、鋼材を複数枚含んでいてもよい。例えば、鋼材は2枚であってもよく、3枚であってもよい。以下では、鋼材が1枚の場合を3枚組の接合構造体、鋼材が2枚の場合を4枚組の接合構造体、鋼材が3枚の場合を5枚組の接合構造体、と称することがある。
また、本明細書において、後述する溶融アルミニウム系めっき鋼板30における基材鋼板の板厚と、複数枚の鋼材のそれぞれの板厚と、を合計して得られる値を接合構造体における鋼材総板厚と称する。本発明の一態様における接合構造体は、鋼材総板厚の上限が4.3mmである。接合構造体は、鋼材総板厚が4.3mm以下となる範囲内であれば鋼材の枚数は特に限定されない。なお、鋼材総板厚が4.3mmを超えると、溶融アルミニウム系めっき鋼板30とその下の鋼材20との間のナゲットが生成され難くなる。この場合、十字引張試験をすると、溶融アルミニウム系めっき鋼板30と鋼材20との界面部分で破断し易く、十字引張強度が1kN以上得られなくなる傾向にある。
なお、本発明の一態様における接合構造体は、1箇所をスポット溶接されて製造されたものに限定されない。複数箇所にスポット溶接されて製造された接合構造体も本発明の範疇に含まれる。
(鋼材)
例えば自動車分野では、適材適所に材料の強度を変更して車体が組み立てられており、一般的な材料強度を有するSPC270級よりも高い強度のSPC440級やSPC590級が使用されていることがある。鋼材20の鋼種および板厚は、鋼材20として求められる強度に応じて適宜設定されてよく、特に限定されない。
鋼材20は、一般冷延鋼板、特殊冷延鋼板、高強度鋼板、熱延鋼板、等であってよく、めっき鋼板であってもよい。鋼材20は、例えば、SPC270C、SPC270D、SPC440、SPC590、合金化亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)、等であってもよい。鋼材20の板厚は、例えば、0.8mm〜1.4mmの範囲内である。
(アルミニウム材)
本明細書において、アルミニウム材との用語は、純アルミニウム(但し不可避不純物を含有することを許容する)およびアルミニウム合金の両方を含む意味で用いる。
アルミニウム材10は、展伸材であればよく、材質は特に限定されない。アルミニウム材10として種々のアルミニウム合金を用いることができる。例えば、1000系、3000系、5000系、6000系、7000系の各種のアルミニウム合金を用いてよい。
アルミニウム材10は、耐食性、加工性、等を考慮してFe濃度が1.0質量%以下であることが好ましい。アルミニウム材10に含まれるFeは、後述のアルミめっき層32中のFeに比較して、Fe−Al二元合金層の生成・成長に対する影響が遥かに小さい。
また、アルミニウム材10は、1質量%前後のSiおよび0.01〜1.5質量%のMgを添加するとともに時効処理等の熱処理によって微細なMgSiが析出していることが好ましい。この場合、アルミニウム材10の強度が向上する。この観点から、Si含有量の下限を0.1質量%に設定することが好ましい。また、1.5〜6.0質量%のMgを添加すると、固溶強化によって高い強度が得られる。
一方で、アルミニウム材10は、6.0質量%を超える過剰量のMgが含まれるとスポット溶接時に欠陥が発生しやすくなる。また、3.0質量%を超える過剰量のSiが含まれるとアルミニウム材10の内部に粗大な析出物または晶出物が生成して接合強度が低下する場合がある。よって、アルミニウム材10は、Mg濃度が0.01〜6.0質量%、Si濃度が3.0質量%以下となっていることが好ましい。
また、アルミニウム材10の板厚は、アルミニウム材10として求められる強度に応じて適宜設定されてよく、特に限定されないが、例えば、0.6mm〜1.4mmであってよい。一般に、自動車のルーフパネルにアルミニウム材を使用する場合、この程度の板厚となる。アルミニウム材10の板厚は、0.8mm〜1.3mmであってよく、1.0mm〜1.3mmであってもよい。
(溶融アルミニウム系めっき鋼板)
溶融アルミニウム系めっき鋼板30について、図1および図2を用いて説明する。図2は、図1に示した断面図の一部(A1)の拡大図である。
図1および図2に示すように、溶融アルミニウム系めっき鋼板30は、基材鋼板(下地鋼)31と、基材鋼板31の表面に形成されたアルミめっき層32と、を含む。また、アルミめっき層32は、基材鋼板31とアルミめっき層32との界面部に形成された、合金層33を含む。そして、合金層33は、該合金層33と基材鋼板31との界面に形成された、窒素濃縮層(以下、N濃縮層と称する)34を含む。
基材鋼板31としては、低炭素鋼、中炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼、等を用いることができる。用途に応じてSi、Mn、Cr、Ni、等を添加した鋼種が使用されてもよい。また、本実施形態における基材鋼板31は、25ppm以上200ppm以下のNが添加されている。これにより、めっき後に特定条件下で加熱処理を施すと、基材鋼板31と合金層33との界面部にN濃縮層34が生成する。この特定条件としては、例えば、520℃の温度にて6時間保持する熱処理が挙げられる。
N濃縮層34は、基材鋼板31の表面部に形成された厚みが非常に薄い層であって、例えば厚さ5nm程度の層である。N濃縮層34は、基材鋼板31よりもNが濃化しており(Nが濃縮されており)、例えば3.0原子%以上のNを含む。N濃縮層34は、AlおよびFeの相互拡散を抑制する。N濃縮層34によるFe−Alの相互拡散抑制作用は、めっき後の加熱処理条件を一定にすると、基材鋼板31のN含有量が多くなるほど向上する。しかし、基材鋼板31が200ppmを超える過剰量のNを含む場合、基材鋼板31自体の製造性が低下する。
また、溶融アルミニウム系めっき鋼板30は、以下のようにして製造される。すなわち、アルミニウムを主成分とする溶融アルミニウム系めっき浴に基材鋼板31を浸漬および通過させる。これにより、基材鋼板31の表面にアルミめっき層32を形成する。
アルミめっき層32の厚みは、例えば、溶融アルミニウム系めっき浴から引上げ直後の鋼帯にワイピングガスを吹き付け、めっき付着量を制御することによって調整される。アルミめっき層32の厚さは、5μm以上70μm以下の範囲内にすることにより、溶融アルミニウム系めっき鋼板30の加工性を良好なものとすることができる。
また、アルミめっき層32の組成は、上記溶融アルミニウム系めっき浴の組成と同様となる。よって、上記溶融アルミニウム系めっき浴の組成を調整することにより、アルミめっき層32の組成を調整することができる。
本実施形態におけるアルミめっき層32は、3質量%以上12質量%以下のSi、および0.5質量%以上5質量%以下のFeを含有するアルミニウム層である。アルミめっき層32が過剰量のSiを含む場合、溶融アルミニウム系めっき鋼板30の加工性が損なわれ得る。そのため、Si濃度の上限を12質量%に規制している。
合金層33にFe−Al−Si三元合金層を十分に生成させるためには、アルミめっき浴浸漬時に、基材鋼板31から溶融Alに溶出するFe,Si量だけでは不足である。そのため、アルミめっき層32のFe,Si含有量を高めることにより、アルミめっき層32から接合界面にFe,Siを補給する。特に、拡散係数の大きなSiに関しては、アルミめっき層32のSi含有量を3質量%以上と高く設定する。これにより、Fe−Al−Si三元合金層の生成に必要なSi量を確保する。
上記のようにアルミめっき層32の組成を調整することによれば、Fe−Al−Si三元合金層の生成を促進させるばかりでなく、スポット溶接時に生じる溶融AlのFe,Si濃度を高くするという作用も生じる。Fe,Si濃度が高い溶融Alを急冷することにより形成されたナゲットは、Fe,Siの固溶強化の効果および急冷効果によって硬質化する。そのため、接合構造体1Aの継手強度を高めることができる。そして、脆弱なFe−Al二元合金層の生成が抑えられることにより、信頼性の高い継手強度をもつ接合構造体1Aが得られる。
なお、上述のアルミめっき層32の組成は、基材鋼板31とアルミめっき層32との界面に形成される合金層33を含まない領域の組成である。
接合構造体1Aのさらなる特性(スポット溶接に関する特性とは別の特性)の向上を要する場合、Fe−Alの相互拡散反応に大きな影響を及ぼさないTi,Sr,B,Cr,Mn,Zn等の元素をアルミめっき層32に適宜含ませることができる。
(接合部)
本実施形態の接合構造体1Aは、上述のように各板材が積層した状態にてスポット溶接することにより形成される。接合構造体1Aの接合部2Aについて、図3および図4を用いて説明する。図3は、本実施形態における接合構造体1Aの接合部2Aを模式的に示す断面図である。図4は、接合構造体1Aをアルミニウム材10の側から見た場合の、アルミニウム材10を省略して模式的に示す平面図である。
図3に示すように、接合構造体1Aの接合部2Aには、アルミニウム材10と溶融アルミニウム系めっき鋼板30とを接合する上部ナゲット(第1ナゲット)51と、溶融アルミニウム系めっき鋼板30と鋼材20とを接合する下部ナゲット(第2ナゲット)52とが形成されている。図3に示す断面図において、上部ナゲット51は、アルミニウム材10と溶融アルミニウム系めっき鋼板30との境界の近傍に形成されたアルミニウムの溶融ナゲットであり、アルミニウム材10の内部に向かって盛り上がった(上に凸の)扇状に形成されている。下部ナゲット52は、溶融アルミニウム系めっき鋼板30および鋼材20との境界部に形成されており、それらの両方に拡がる楕円状に形成されている。
そして、接合構造体1Aは、上部ナゲット51と基材鋼板31との界面に強入熱領域(中央領域)70が形成されている。強入熱領域70は、図4に示すように、接合構造体1Aをアルミニウム材10の側から透視した場合に、上部ナゲット51の中央に形成されている。図4に示す中心点51Aは、スポット溶接時における通電の中心部である。
また、接合構造体1Aは、上部ナゲット51の外縁部と基材鋼板31との界面に、弱入熱領域(外周領域)80が形成されており、弱入熱領域80と強入熱領域70との間に、中間領域60が形成されている。
中心点51Aを基準として説明すれば、図4に示すように、上部ナゲット51は、中心点51Aから円状に拡がって形成されている。上部ナゲット51と基材鋼板31との界面において、中心点51Aを含む或る程度の範囲を有する領域が強入熱領域70であり、その外側に中間領域60および弱入熱領域80がこの順に存在している。
これらのナゲットおよび各領域について以下に説明する。
(ナゲット)
上部ナゲット51は、以下のようにして形成される。すなわち、電極40(図1参照)を用いて通電することにより、アルミニウム材10と溶融アルミニウム系めっき鋼板30との境界面が抵抗加熱される。それによりアルミニウムが溶融する。溶融したアルミニウムが凝固することにより、上部ナゲット51が形成する。それゆえ、上部ナゲット51は、主にアルミニウムからなり、アルミニウム材10およびアルミめっき層32の組成の影響を受ける。
抵抗加熱による熱の影響は、通電の中心部から遠くなるほど弱くなる。よって、強入熱領域70は比較的大きい入熱の影響を受けた領域であり、弱入熱領域80は比較的小さい入熱の影響を受けた領域である。
また、上部ナゲット51のFe,Si濃度は、アルミめっき層32の厚さ,溶接電流,通電時間,電極形状の組合せに応じて変化し得る。上部ナゲット51へのFe,Si供給源となるアルミめっき層32が厚いほど、上部ナゲット51のFe,Si濃度が上昇する。
例えば、先端部が径6mm、曲率半径40mmの曲面となっている1%クロム銅合金チップを用いて、溶接電流:12.5kA、通電時間:12サイクルの条件でスポット溶接する場合を考える。この場合、アルミめっき層32の膜厚が5μm以上であれば、上部ナゲット51の平均Fe,Si濃度がアルミニウム材10のFe,Si含有量よりもいずれも0.1質量%以上高くなる。その結果、上部ナゲット51が硬質化して、接合構造体1Aの接合強度が向上する。
また、下部ナゲット52は、通電によって溶融アルミニウム系めっき鋼板30と鋼材20との境界面が抵抗加熱され、Feの融点まで昇温することにより溶融した鉄が凝固することにより形成される。
ここで、本実施形態における接合構造体1Aは、鋼材20と、溶融アルミニウム系めっき鋼板30と、アルミニウム材10とが積層されてスポット溶接されることにより製造される。このような3枚組の接合構造体1Aについて、溶融アルミニウム系めっき鋼板30およびアルミニウム材10からなる2枚組をスポット溶接する場合と同等の条件にてスポット溶接する場合、以下の問題がある。すなわち、上部ナゲット51および下部ナゲット52の両方を所望の性質を満たすように形成することが困難である。これは、鉄とアルミニウムとの融点の違いに起因して、スポット溶接時における2つのナゲットの挙動が異なるためである。
本発明者らは、鋭意検討の結果、3枚組の接合構造体1Aが高い接合強度を有するために、接合部2Aに求められる以下の要件を見出した。
本実施形態の接合構造体1Aは、下部ナゲット52のナゲット径に対する上部ナゲット51のナゲット径の比が、1.2以上2.0以下となっている。
上部ナゲット51および下部ナゲット52のナゲット径は、以下のように測定することができる。すなわち、接合構造体1Aにおける上部ナゲット51および下部ナゲット52のそれぞれの大きさ(周囲の物質との境界)は、例えば、図3に示すような断面を撮像した電子顕微鏡写真を用いて視覚的に規定することができる。上部ナゲット51と合金層33との境界における一端から他端までの幅を上部ナゲット径W1とする。下部ナゲット52の楕円形状における長軸の長さを下部ナゲット径W2とする。本実施形態の接合構造体1Aは、W1/W2の比が1.2〜2.0である。
上記比が1.2未満の場合、スポット溶接時の入熱が大きいことによって上部ナゲット51のナゲット径が大きくなりすぎ、アルミニウム材10が大きく減肉する。そのため、十字引張試験の測定結果として1kN未満の接合強度を有する接合構造体となり得る。ここで、図3に示すように、接合部2Aでは、加圧力によって電極40(図1参照)がアルミニウム材10に食い込むことによって表面に窪みが生じている。接合部2Aでは、スポット溶接する前のアルミニウム材10の板厚t1よりも板厚が小さくなっている。アルミニウム材10の表面における窪みが生じている部分を電極押圧面(第1表面)11とする。スポット溶接時の入熱を大きくすると、上部ナゲット径W1が大きくなる一方でアルミニウム材10が減肉することにより、電極押圧面11の部分にてアルミニウム材10が破断し易くなる。
他方、上記比が2.0を超える場合、スポット溶接時の入熱が小さく、下部ナゲット52のナゲット径が十分に大きくならない。そのため、接合構造体は、十字引張試験において下部ナゲット52の部分で破断しやすく接合強度が1kN未満となり得る。
なお、下部ナゲット52は、図3に示すような楕円形状であるとは限らない。そのため、下部ナゲット52の下部ナゲット径W2は、より詳細には以下のように定義される。すなわち、下部ナゲット径(溶融鋼ナゲット径)W2は、接合構造体1Aを厚さ方向に平行な面で切ったときの断面(例えば図3に示す断面)において、溶融アルミニウム系めっき鋼板30と鋼材20とが当接する界面上における、下部ナゲット52と溶融アルミニウム系めっき鋼板30の表面との境界の一方から他方までの長さである。
そして、本実施形態の接合構造体1Aは、上述のように上部ナゲット51と基材鋼板31との界面に、強入熱領域70、中間領域60、および弱入熱領域80が形成されている。これらの領域について、図3〜図5を参照しながら以下に説明する。図5は、本実施形態の接合構造体1Aが有する中間領域60の領域幅を測定する方法について説明するための図である。
図3〜図5に示すように、上部ナゲット51と基材鋼板31との接合界面における、最外周部分に弱入熱領域80が形成される。1対の電極40(図1参照)の互いの中心軸の延長線を電極中心線とすると、スポット溶接時には、上記接合界面における、上記電極中心線との距離が近い位置ほど入熱が高い傾向にある。弱入熱領域80は、当該電極中心線から遠い位置であり、スポット溶接時の入熱が小さい箇所である。一方で、強入熱領域70は、スポット溶接時の入熱が大きい箇所である。中間領域60は、弱入熱領域80と強入熱領域70との間の入熱量である。
(強入熱領域)
強入熱領域70では、高温加熱によってアルミニウム材10およびアルミめっき層32が溶融するとともに、合金層33のN濃縮層34も溶融して各種元素が相互拡散することにより、基材鋼板31が溶け込む。その結果、アルミニウム材10に比較してFe濃度が高くなった上部ナゲット51が形成される。
Feの濃化によって上部ナゲット51が硬質化するものの、継手強度を低下させる脆弱なFe−Al二元合金層が接合界面に生じやすくなる。すなわち、スポット溶接時に溶融Alが急冷され上部ナゲット51となるとき、強入熱領域70では、溶融AlからFeが接合界面に再析出し、脆弱なFe−Al二元合金層が生成する。
したがって、強入熱領域70は、主にFe−Al系金属間化合物が形成されている。ただし、アルミニウム材10および溶融アルミニウム系めっき鋼板30の組成から供給された各種の元素を含むこと、並びに、それら元素により形成された合金を含むことが許容される。本明細書において、「主にFe−Al系金属間化合物が形成されている」とは、例えば、ナノプローブ電子線解析およびエネルギー分散型X線分析(EDX)を用いて強入熱領域70を分析した場合に、Fe−Al系金属間化合物の存在割合が最も多いことを示すデータが得られることを意味する。
(弱入熱領域)
一方で、弱入熱領域80は、スポット溶接時に、強入熱領域70よりも比較的低温ではあるが加熱される領域である。これにより、弱入熱領域80では、合金層33(Fe−Al−Si三元合金層)からFeおよびSiが多少溶解する。弱入熱領域80は、主にFe−Al−Si系金属間化合物が、上部ナゲット51と基材鋼板31のN濃縮層34との境界にて連続して形成されている。
弱入熱領域80は、上部ナゲット51の端部から0.2mm程度の幅の領域に形成される。この領域の幅は、上部ナゲット51のナゲット径W1が変化しても、あまり変動しない。
本明細書において、「主にFe−Al−Si系金属間化合物が形成されている」とは、強入熱領域70について上述したことと同様に、Fe−Al−Si系金属間化合物の存在割合が最も多いことを示すデータが得られることを意味する。
(中間領域)
中間領域60では、スポット溶接時に、合金層33(Fe−Al−Si三元合金層)が多少溶融する一方でN濃縮層が残存する程度の入熱量となっている。そのため、中間領域60は、合金層33とN濃縮層34とが混在している。換言すれば、合金層33は、上部ナゲット51と基材鋼板31のN濃縮層34との境界にて、点在するように不連続に形成されている。中間領域60では、脆弱なFe−Al系金属間化合物が存在しない、または存在量が少ない。
本明細書において、「Fe−Al−Si系金属間化合物とN濃縮層34とが混在している」とは、中間領域60を分析した場合に、Fe−Al−Si系金属間化合物およびN濃縮層34の存在を示すデータ(例えば、Fe、Al、Si、およびNの存在を検出したデータ)が得られるとともに、以下のようなデータが得られることを意味している。すなわち、中間領域60において、溶融Alナゲット51側にFeがほぼ検出されず、Fe−Al系金属間化合物が生成していないことを示すデータが得られることを意味している。分析手段は、極微小領域の分析を行うことができればよく特に限定されないが、例えばナノプローブ電子線解析およびEDXを用いることができる。
この中間領域60は、例えば、接合構造体1Aにアルミニウム材10を引きはがすような力が加えられた場合に、上部ナゲット51の外周部である弱入熱領域80の方から進展する亀裂を停止させるように働く。これにより、アルミニウム材10に更なる力を加えた場合、接合構造体1Aは、シャー破断ではなくボタン破断となりやすい。つまり、中間領域60が接合強度を増大させるように働くことにより、上部ナゲット51は高い接合強度を有する。
図5に示すように、中間領域60の長さ(領域幅)は、以下のように測定する。すなわち、図5に示すような断面視において、弱入熱領域80と強入熱領域70との隙間の長さを測定する。右側の中間領域60の長さをL1とし、左側の中間領域60の長さをL2とする。このとき、中間領域60の長さLは、L1+L2で求められる。本実施形態において、中間領域60の長さLは、0.1mm以上である。
以上に説明したことは、次のように整理することができる。上部ナゲット51と基材鋼板31との接合界面における、強入熱領域70の中心から半径方向の各領域の存在する長さを、強入熱領域70、中間領域60、および弱入熱領域80のそれぞれの領域幅と規定すると、中間領域60の領域幅は0.1mm以上である。
<接合構造体の製造方法>
接合構造体1Aの製造方法は、鋼材20の上に溶融アルミニウム系めっき鋼板30およびアルミニウム材10をこの順に積層して、スポット溶接機を用いてスポット溶接するスポット溶接工程を含む。
スポット溶接時の加圧力は、1.4kN以上4.9kN以下の範囲内とする。スポット溶接における入熱量は、溶接電流と通電時間との積によって調節することができる。ここで、スポット溶接における通電時間の1サイクルとは、スポット溶接機に接続している商用電源の電源周波数から決まる時間となる。商用電源は、50Hzの電源周波数であってよく、60Hzの電源周波数であってもよい。また、その他の電源周波数であってもよい。電源周波数の違いに応じて、溶接電流を調節することにより、入熱量を制御することができる。スポット溶接時の溶接電流×通電時間(サイクル)の値は、50以上210以下の範囲内とする。
また、スポット溶接に用いる電極40として、例えば、DR(ドーム・ラジアス)形の電極チップが挙げられる。DR形の電極チップとは、D形の電極チップ(電極先端が曲面であって該曲面の曲率半径が電極外径の1/2)の先端に、ラジアス形状(上記曲面よりも大きい曲率半径の曲面)が形成されたものである。DR形の電極チップは、チップドレッサ(電極研磨用工具)による整形性が良好であり、自動車産業で広く使用されている。
例えば、電極40は、胴体部の外径が16mm、先端径が6mmであり、先端部が曲率半径40mmの曲面となっている。また、電極40の胴体部と上記先端部との間である肩部の表面は曲率半径が8mmの曲面となっている。電極40の材質は、例えば、0.4質量%〜1.2質量%のCrを含有するクロム銅合金(Cr−Cu合金)である。上記クロム銅合金は、1質量%程度のCrを含有するものであってもよく、例えば0.8質量%〜1.1質量%のCrを含有するものであってもよい。
60Hzの電源周波数の商用電源を用いる場合、初期加圧は、例えば35サイクルであり、ホールドは24サイクルである。初期加圧は、10サイクル以上であってよく、ホールドは、5サイクル以上であってよい。ホールドとは、電極40に通電後に、電極40を冷却しつつ該電極40を用いて被溶接材を加圧する鍛造加圧のことを意味している。また、スポット溶接機として、例えば直流インバータ方式または単相交流式の溶接機を用いることができる。
なお、電極40は、DR形の電極チップであれば、上記の寸法および材質に限定されない。電極40の外径は16mmに限定されず、先端部の形状に応じて適宜設計された外径となっていてもよい。電極40の先端部の先端径は5mm〜7mmであることが好ましい。また、電極40の先端部の曲率半径、および上記肩部の表面の曲率半径については特に限定されず、外径および先端部の先端径の値に応じて適宜設計された値となっていてよい。
本実施形態の接合構造体1Aの製造方法では、下部ナゲット径W2に対する上部ナゲット径W1の比が1.2以上2.0以下(W1/W2の比が1.2〜2.0)となるように、かつ中間領域60の長さLが0.1mm以上となるように、スポット溶接時の加圧力および溶接電流×通電時間(サイクル)の値が前述の範囲内で制御される。W1/W2の比が1.2〜2.0となるような入熱量とすることにより、上部ナゲット径W1を大きくすることと、接合部2Aにおけるアルミニウム材10が減肉することとが好適なバランスとなり、接合構造体1Aの接合強度を高くすることができる。
(有利な効果)
本実施形態の接合構造体1Aは、アルミニウム材10と鋼材20との間に溶融アルミニウム系めっき鋼板30を挟んだ状態にてスポット溶接を行い製造される。適切な溶接条件にてスポット溶接することにより、接合構造体1Aは、上部ナゲット51と下部ナゲット52とのナゲット径の比が調整され、上部ナゲット51と基材鋼板31との接合界面に中間領域60が存在するように製造される。これにより、下部ナゲット52における接合強度を高くすることができるとともに、上部ナゲット51と基材鋼板31との接合界面における亀裂の進展を中間領域60により防止することができる。
したがって、アルミニウム材10と鋼材20とが抵抗スポット溶接法により異材接合された接合構造体であって、接合強度に優れる接合構造体1Aを提供することができる。
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、図6を用いて以下に説明する。なお、本実施形態にて説明すること以外の構成は、前記実施形態1と同じである。図6は、本実施形態における接合構造体1Bの接合部2Bを模式的に示す断面図である。
前記実施形態1では、3枚組の接合構造体1Aについて説明した。これに対して、本実施形態の接合構造体1Bは、鋼材20に加えて鋼材21を含む、4枚組の接合構造体となっている。
図6に示すように、本実施形態の接合構造体1Bは、鋼材21と鋼材20と溶融アルミニウム系めっき鋼板30とアルミニウム材10とが、この順に重ね合わせて積層され、各板材が積層した状態にてスポット溶接することにより形成される。
鋼材21と鋼材20とは、互いに同じ鋼種であってもよく、互いに異なる鋼種であってもよい。また、互いに同じ板厚であってもよく、互いに異なる板厚であってもよい。鋼材21の板厚は、例えば、0.6mm〜2.0mmの範囲内である。
接合構造体1Bの接合部2Bは、鋼材21、鋼材20、および溶融アルミニウム系めっき鋼板30に拡がる下部ナゲット55が形成されている。
この場合、溶融アルミニウム系めっき鋼板30と鋼材20とが当接する界面上における、下部ナゲット55と溶融アルミニウム系めっき鋼板30の表面との境界の一方から他方までの長さを下部ナゲット径(第1鋼ナゲット径)W2とする。また、鋼材20と鋼材21とが当接する界面上における、下部ナゲット55と鋼材20(または鋼材21)の表面との境界の一方から他方までの長さを第2鋼ナゲット径W3とする。
接合構造体1Bは、W1/W2の比が1.2〜2.0となっている。第2鋼ナゲット径W3の長さは、接合構造体1Bの接合強度に対する影響が小さい。また、接合構造体1Bは、上部ナゲット51と基材鋼板31との接合界面における、中間領域60の領域幅が0.1mm以上である。
これにより、接合構造体1Bは、十字引張試験の測定結果として、接合強度が1kN以上とすることができる。したがって、アルミニウム材10と鋼材20と鋼材21とが抵抗スポット溶接法により異材接合された接合構造体であって、接合強度に優れる接合構造体1Bを提供することができる。
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、図7を用いて以下に説明する。なお、本実施形態にて説明すること以外の構成は、前記実施形態1および実施形態2と同じである。図7は、本実施形態における接合構造体1Cの接合部2Cを模式的に示す断面図である。
前記実施形態2では、4枚組の接合構造体1Bについて説明した。これに対して、本実施形態の接合構造体1Cは、鋼材20および鋼材21に加えて鋼材22を含む、5枚組の接合構造体となっている。
図7に示すように、接合構造体1Cは、鋼材22、鋼材21、鋼材20、溶融アルミニウム系めっき鋼板30、およびアルミニウム材10が、この順に重ね合わせて積層され、各板材が積層した状態にてスポット溶接することにより形成される。
鋼材22、鋼材21、および鋼材20は、それぞれが同じ鋼種であってもよく、それぞれ異なる鋼種であってもよい。また、それぞれが同じ板厚であってもよく、それぞれ異なる板厚であってもよい。鋼材22の板厚は、例えば、0.8mm〜1.4mmの範囲内である。
接合構造体1Cの接合部2Cは、鋼材22、鋼材21、鋼材20、および溶融アルミニウム系めっき鋼板30に拡がる下部ナゲット58が形成されている。鋼材21と鋼材22とが当接する界面上における、下部ナゲット58と鋼材21(または鋼材22)の表面との境界の一方から他方までの長さを第3鋼ナゲット径W4とする。
接合構造体1Cは、W1/W2の比が1.2〜2.0となっている。第2鋼ナゲット径W3および第3鋼ナゲット径W4の長さは、接合構造体1Cの接合強度に対する影響が小さい。また、接合構造体1Cは、上部ナゲット51と基材鋼板31との接合界面における、中間領域60の領域幅が0.1mm以上である。
これにより、接合構造体1Cは、十字引張試験の測定結果として、接合強度が1kN以上とすることができる。したがって、アルミニウム材10と鋼材20と鋼材21と鋼材22とが抵抗スポット溶接法により異材接合された接合構造体であって、接合強度に優れる接合構造体1Cを提供することができる。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
以下、実施例および比較例により、本発明の接合構造体についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定するものではない。
〔十字引張試験〕
図8は、十字引張試験について説明するための模式図であって、(a)は接合構造体の平面図であり、(b)は接合構造体の断面図である。ここでは、4枚組の接合構造体について示している。
図8の(a)および(b)に示すように、鋼材21および鋼材20を積層するとともに、その上に溶融アルミニウム系めっき鋼板30およびアルミニウム材10をこの順に積層する。アルミニウム材10として、幅W10が50mm、長さL10が150mmのものを用いている。また、溶融アルミニウム系めっき鋼板30、鋼材20、および鋼材21も同様に、50mm×150mmのものを用いている。
溶融アルミニウム系めっき鋼板30とアルミニウム材10とは互いに十字になるように積層する。そして、溶接点3に電極をあててスポット溶接する。これにより、接合構造体を形成する。
接合構造体のアルミニウム材10に上方向の力を与えるとともに、溶融アルミニウム系めっき鋼板30に下方向の力を与えることにより、十字引張試験を行う。これにより、十字引張強度(kN)を評価した。十字引張試験は、JIS Z 3137に準拠して行った。
〔断面観察〕
製造した接合構造体のそれぞれを、溶接部の中心が観察できるようエポキシ樹脂に埋め込み、研磨処理を行った。研磨処理後、3%NaOH水溶液でエッチングを行い、次いで3%の硝酸を溶かしたエタノールで更にエッチングを行った。これにより、溶接部におけるナゲット径の測定を可能にした。光学顕微鏡を用いて断面観察することにより、アルミニウム溶融ナゲットおよび鋼材溶融ナゲットのナゲット径、並びに中間領域の幅Lを測定した。
〔スポット溶接機〕
以下に示す例では、単相交流式のスポット溶接機を用いてスポット溶接を行った。初期加圧は35サイクル、ホールドは24サイクルとした。商用電源として、60Hzの電源周波数のものを用いた。電極として、φ16mmDR、先端R40mm、先端径6mmのものを用いた。
(実施例1:3枚組)
板厚1.2mmのAl合金(アルミニウム材)と、板厚0.4〜0.6mmの溶融アルミニウム系めっき鋼板と、板厚0.7mm〜1.6mmの各種の鋼種の鋼材とを積層して、下記表1に示す条件にてスポット溶接した。溶融アルミニウム系めっき鋼板の基材鋼板中のN量は16ppm、28ppm、100、または193ppmとした。
そして、各試料について、断面観察および十字引張試験を行った。その結果を表1に示す。なお、比較例No.27は、2枚組にて作製した試料である。また、下表1に記載のAl溶融ナゲット径は、図3を用いて上述した上部ナゲット51のナゲット径W1に対応し、鋼材溶融ナゲット径は、下部ナゲット52のナゲット径W2に対応している。
Figure 2019177405
表1のNo.1〜22に示すように、ナゲット径の比および中間領域の幅が本発明の範囲内の実施例の接合構造体では、十字引張強度が1kN以上であり、優れた接合強度を示した。
これに対し、ナゲット径の比および中間領域の幅の両方が本発明の範囲外である比較例No.23、24、26では、十字引張強度が1kN未満であった。また、溶融アルミニウム系めっき鋼板の基材鋼板中のN量が16ppmである比較例No.25では、中間領域が生成しないため十字引張強度が1kN未満であった。
2枚組にて作製した比較例No.27では、実施例No.8と同様の溶接条件にてスポット溶接を行ったが、鋼材の総板厚が薄いため発熱量が小さくなり、ナゲットが生成しなかった。
(実施例2:4枚組)
板厚1.2mmのAl合金(アルミニウム材)と、板厚0.5mmの溶融アルミニウム系めっき鋼板と、板厚0.8mmまたは1.4mmの各種の鋼種の第1の鋼材と、板厚1.0mm〜2.0mmの各種の鋼種の第2の鋼材とを積層して、下記表2に示す条件にてスポット溶接した。鋼板総板厚は2.3mm〜3.3mmとし、溶融アルミニウム系めっき鋼板の基材鋼板中のN量は100ppmとした。4枚組の接合構造体では、溶融アルミニウム系めっき鋼板と該鋼板に隣接する鋼材との界面上における下部ナゲット径W2を用いて、ナゲット径の比を算出した。
そして、各試料について、断面観察および十字引張試験を行った。その結果を表2に示す。
Figure 2019177405
表2のNo.31〜40に示すように、ナゲット径の比および中間領域の幅が本発明の範囲内の実施例の接合構造体では、十字引張強度が1kN以上であり、優れた接合強度を示した。
これに対し、ナゲット径の比が本発明の範囲外である比較例No.41では、十字引張強度が1kN未満であった。
(実施例3:5枚組)
板厚1.2mmのAl合金(アルミニウム材)と、板厚0.5mmの溶融アルミニウム系めっき鋼板と、3枚の鋼材とを積層して、下記表3に示す条件にてスポット溶接した。上記3枚の鋼材は、板厚0.8mm〜1.4mmの各種の鋼種の第1の鋼材、板厚1.0mm〜1.2mmの各種の鋼種の第2の鋼材、および板厚1.0mm〜1.4mmの各種の鋼種の第3の鋼材である。鋼板総板厚は3.3mm、3.7mm、または4.3mmとした。溶融アルミニウム系めっき鋼板の基材鋼板中のN量は100ppmとした。5枚組の接合構造体の場合も、4枚組の場合と同様に、溶融アルミニウム系めっき鋼板と該鋼板に隣接する鋼材との界面上における下部ナゲット径W2を用いて、ナゲット径の比を算出した。
そして、各試料について、断面観察および十字引張試験を行った。その結果を表3に示す。
Figure 2019177405
表3のNo.51〜60に示すように、ナゲット径の比および中間領域の幅が本発明の範囲内の実施例の接合構造体では、十字引張強度が1kN以上であり、優れた接合強度を示した。
これに対し、ナゲット径の比が本発明の範囲外である比較例No.61では、十字引張強度が1kN未満であった。
1A〜1C 接合構造体
2A〜2C 接合部
10 アルミニウム材
20〜22 鋼材
30 溶融アルミニウム系めっき鋼板
31 基材鋼板(下地鋼)
32 アルミめっき層(溶融アルミニウムめっき層)
33 合金層
34 N濃縮層
40 電極
51 上部ナゲット(第1ナゲット)
52 下部ナゲット(第2ナゲット)
60 中間領域
70 強入熱領域(中央領域)
80 弱入熱領域(外周領域)

Claims (6)

  1. 鋼材に対して、溶融アルミニウム系めっき鋼板およびアルミニウム材をこの順に積層してスポット溶接することにより接合された接合構造体であって、
    前記溶融アルミニウム系めっき鋼板のめっき層は、3質量%以上12質量%以下のSi、および0.5質量%以上5質量%以下のFeを含有するアルミニウム層であり、
    十字引張試験の測定結果として、接合強度が1kN以上であることを特徴とする接合構造体。
  2. 前記アルミニウム材と前記溶融アルミニウム系めっき鋼板との境界部に形成されるナゲットを第1ナゲットとし、前記溶融アルミニウム系めっき鋼板と前記鋼材との境界部に形成されるナゲットを第2ナゲットとし、
    前記接合構造体を厚さ方向に平行な面で切ったときの断面において、前記溶融アルミニウム系めっき鋼板と前記鋼材とが当接する界面上における、前記第2ナゲットと前記溶融アルミニウム系めっき鋼板の表面との境界の一方から他方までの長さを溶融鋼ナゲット径と称すると、
    前記溶融鋼ナゲット径に対する前記第1ナゲットのナゲット径の比が1.2以上2.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体。
  3. 前記溶融アルミニウム系めっき鋼板は、25ppm以上200ppm以下のNを含む鋼板を下地鋼としており、かつ該下地鋼と溶融アルミニウムめっき層との界面にN:3.0原子%以上のN濃縮層が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の接合構造体。
  4. 前記第1ナゲットと前記溶融アルミニウム系めっき鋼板の下地鋼との接合界面における、中央の領域を中央領域とし、最外周部分の領域を外周領域とし、前記中央領域と前記外周領域との間の領域を中間領域とすると、
    前記中央領域は、主にFe−Al系金属間化合物が形成されており、
    前記外周領域は、主にFe−Al−Si系金属間化合物が形成されており、
    前記中間領域は、Fe−Al−Si系金属間化合物と前記N濃縮層とが混在していることを特徴とする請求項3に記載の接合構造体。
  5. 前記接合界面における、前記中央領域の中心から半径方向の各領域の存在する長さを、前記中央領域、前記中間領域、および前記外周領域のそれぞれの領域幅と規定すると、
    前記中間領域の領域幅は、0.1mm以上であることを特徴とする請求項4に記載の接合構造体。
  6. 鋼材に対して、溶融アルミニウム系めっき鋼板およびアルミニウム材をこの順に積層して、スポット溶接するスポット溶接工程を含む、接合構造体の製造方法であって、
    前記溶融アルミニウム系めっき鋼板のめっき層は、3質量%以上12質量%以下のSi、および0.5質量%以上5質量%以下のFeを含有するアルミニウム層であり、
    前記スポット溶接工程では、電極の加圧力が1.4kN以上4.9kN以下であり、溶接電流と通電時間との積で表される値が50以上210以下の範囲内であり、
    前記スポット溶接工程により形成される前記接合構造体の十字引張試験の測定結果として、接合強度が1kN以上であることを特徴とする接合構造体の製造方法。
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