以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における鉄道車両用制振装置1は、本例では、鉄道車両の車体Bの制振装置として使用され、図1に示すように、車体Bと車両前後の台車T1,T2との間にそれぞれ設置されたシリンダ装置としてのアクチュエータA1,A2と、コントローラCとを備えて構成されている。そして、本例の鉄道車両用制振装置1は、鉄道車両の前後にそれぞれ設置されるアクチュエータA1,A2が発揮する推力で車体Bの車両進行方向に対して水平横方向の振動を抑制するようになっている。
アクチュエータA1,A2は、本例では図2に示すように、車体Bに連結されるシリンダ2と、シリンダ2内に摺動自在に挿入されるピストン3と、シリンダ2内に挿入されてピストン3の一端に連結されるとともに他端が鉄道車両の台車T1,T2に連結されるロッド4と、シリンダ2内にピストン3で区画したロッド側室5とピストン側室6とを備えるシリンダ本体Cyに加え、作動油を貯留するタンク7と、タンク7から作動油を吸い上げてロッド側室5へ作動油を供給するポンプ12と、ポンプ12を駆動するモータ15と、シリンダ本体Cyの伸縮の切換と推力を制御するための流体圧回路HCとを備えており、片ロッド型のアクチュエータとして構成されている。
また、前記ロッド側室5とピストン側室6には、本例では、作動流体として作動油が充填されるとともに、タンク7には、作動油の他に気体が充填されている。なお、タンク7内は、特に、気体を圧縮して充填して加圧状態とする必要は無い。また、作動流体は、作動油以外にも他の流体を利用してもよい。
流体圧回路HCは、ロッド側室5とピストン側室6とを連通する第一通路8の途中に設けた第一開閉弁9と、ピストン側室6とタンク7とを連通する第二通路10の途中に設けた第二開閉弁11とを備えている。
そして、基本的には、第一開閉弁9で第一通路8を連通状態とし、第二開閉弁11を閉じてポンプ12を駆動すると、シリンダ本体Cyが伸長し、第二開閉弁11で第二通路10を連通状態とし、第一開閉弁9を閉じてポンプ12を駆動すると、シリンダ本体Cyが収縮する。
以下、アクチュエータA1,A2の各部について詳細に説明する。シリンダ2は筒状であって、その図2中右端は蓋13によって閉塞され、図2中左端には環状のロッドガイド14が取り付けられている。また、前記ロッドガイド14内には、シリンダ2内に移動自在に挿入されるロッド4が摺動自在に挿入されている。このロッド4は、一端をシリンダ2外へ突出させており、シリンダ2内の他端をシリンダ2内に摺動自在に挿入されるピストン3に連結している。
なお、ロッドガイド14の外周とシリンダ2との間は図示を省略したシール部材によってシールされており、これによりシリンダ2内は密閉状態に維持されている。そして、シリンダ2内にピストン3によって区画されるロッド側室5とピストン側室6には、前述のように作動油が充填されている。
また、このシリンダ本体Cyの場合、ロッド4の断面積をピストン3の断面積の二分の一にして、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積がピストン側室6側の受圧面積の二分の一となるようになっている。よって、伸長作動時と収縮作動時とでロッド側室5の圧力を同じくすると、伸縮の双方で発生される推力が等しくなり、シリンダ本体Cyの変位量に対する作動油量も伸縮両側で同じとなる。
詳しくは、シリンダ本体Cyを伸長作動させる場合、ロッド側室5とピストン側室6を連通させた状態とする。すると、ロッド側室5内とピストン側室6内の圧力が等しくなり、アクチュエータA1,A2は、ピストン3におけるロッド側室5側とピストン側室6側の受圧面積差に前記圧力を乗じた推力を発生する。反対に、シリンダ本体Cyを収縮作動させる場合、ロッド側室5とピストン側室6との連通を断ちピストン側室6をタンク7に連通させた状態とする。すると、アクチュエータA1,A2は、ロッド側室5内の圧力とピストン3におけるロッド側室5側の受圧面積を乗じた推力を発生する。
要するに、アクチュエータA1,A2の発生推力は伸縮の双方でピストン3の断面積の二分の一にロッド側室5の圧力を乗じた値となるのである。したがって、このアクチュエータA1,A2の推力を制御する場合、伸長作動、収縮作動ともに、ロッド側室5の圧力を制御すればよい。また、本例のアクチュエータA1,A2では、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積をピストン側室6側の受圧面積の二分の一に設定しているので、伸縮両側で同じ推力を発生する場合に伸長側と収縮側でロッド側室5の圧力が同じとなるので制御が簡素となる。加えて、変位量に対する作動油量も同じとなるので伸縮両側で応答性が同じとなる利点がある。なお、ピストン3のロッド側室5側の受圧面積をピストン側室6側の受圧面積の二分の一に設定しない場合にあっても、ロッド側室5の圧力でアクチュエータA1,A2の伸縮両側の推力を制御できる点は変わらない。
戻って、ロッド4の図2中左端とシリンダ2の右端を閉塞する蓋13とには、図示しない取付部を備えており、このアクチュエータA1,A2を鉄道車両における車体Bと台車T1,T2との間に介装できるようになっている。
そして、ロッド側室5とピストン側室6とは、第一通路8によって連通されており、この第一通路8の途中には、第一開閉弁9が設けられている。この第一通路8は、シリンダ2外でロッド側室5とピストン側室6とを連通しているが、ピストン3に設けられてもよい。
第一開閉弁9は、電磁開閉弁とされており、第一通路8を開放してロッド側室5とピストン側室6とを連通する連通ポジションと、第一通路8を遮断してロッド側室5とピストン側室6との連通を断つ遮断ポジションとを備えている。そして、この第一開閉弁9は、通電時に連通ポジションを採り、非通電時に遮断ポジションを採るようになっている。
つづいて、ピストン側室6とタンク7とは、第二通路10によって連通されており、この第二通路10の途中には、第二開閉弁11が設けられている。第二開閉弁11は、電磁開閉弁とされており、第二通路10を開放してピストン側室6とタンク7とを連通する連通ポジションと、第二通路10を遮断してピストン側室6とタンク7との連通を断つ遮断ポジションとを備えている。そして、この第二開閉弁11は、通電時に連通ポジションを採り、非通電時に遮断ポジションを採るようになっている。
ポンプ12は、モータ15によって駆動され、一方向のみに作動油を吐出するポンプとされている。そして、ポンプ12の吐出口は供給通路16によってロッド側室5へ連通されるとともに吸込口はタンク7に通じていて、ポンプ12は、モータ15によって駆動されるとタンク7から作動油を吸込んでロッド側室5へ作動油を供給する。
前述のようにポンプ12は、一方向のみに作動油を吐出するのみで回転方向の切換動作がないので、回転切換時に吐出量が変化するといった問題は皆無であり、安価なギアポンプ等を使用できる。さらに、ポンプ12の回転方向が常に同一方向であるので、ポンプ12を駆動する駆動源であるモータ15にあっても回転切換に対する高い応答性が要求されず、その分、モータ15も安価なものを使用できる。なお、供給通路16の途中には、ロッド側室5からポンプ12への作動油の逆流を阻止する逆止弁17が設けられている。
さらに、本例の流体圧回路HCは、前述の構成に加えて、ロッド側室5とタンク7とを接続する排出通路21と、排出通路21の途中に設けた開弁圧を変更可能な可変リリーフ弁22を備えている。
可変リリーフ弁22は、本例では、比例電磁リリーフ弁とされており、供給する電流量に応じて開弁圧を調節でき、電流量を最大とすると開弁圧を最小とし、電流を供給しないと開弁圧を最大とするようになっている。
このように、排出通路21と可変リリーフ弁22とを設けると、シリンダ本体Cyを伸縮作動させる際に、ロッド側室5内の圧力を可変リリーフ弁22の開弁圧に調節でき、アクチュエータA1,A2の推力を可変リリーフ弁22へ供給する電流量で制御できる。排出通路21と可変リリーフ弁22とを設けると、アクチュエータA1,A2の推力を調節するために必要なセンサ類が不要となり、ポンプ12の吐出流量の調節のためにモータ15を高度に制御する必要もなくなる。よって、鉄道車両用制振装置1が安価となり、ハードウェア的にもソフトウェア的にも堅牢なシステムを構築できる。
なお、第一開閉弁9を連通ポジションとし第二開閉弁11を遮断ポジションとする場合或いは第一開閉弁9を遮断ポジションとし第二開閉弁11を連通ポジションとする場合、ポンプ12の駆動状況に関わらず、伸長或いは収縮のいずれか一方に対してのみアクチュエータA1,A2が減衰力を発揮できる。よって、たとえば、減衰力を発揮する方向が鉄道車両の台車T1,T2の振動により車体Bを加振する方向である場合、そのような方向には減衰力を出さないようにアクチュエータA1,A2を片効きのダンパとすることができる。よって、このアクチュエータA1,A2は、カルノップ理論に基づくセミアクティブ制御を容易に実現できるため、セミアクティブダンパとしても機能できる。
なお、可変リリーフ弁22に与える電流量で開弁圧を比例的に変化させる比例電磁リリーフ弁を用いると開弁圧の制御が簡単となるが、開弁圧を調節できる可変リリーフ弁であれば比例電磁リリーフ弁に限定されない。
そして、可変リリーフ弁22は、第一開閉弁9および第二開閉弁11の開閉状態に関わらず、シリンダ本体Cyに伸縮方向の過大な入力があって、ロッド側室5の圧力が開弁圧を超える状態となると、排出通路21を開放する。このように、可変リリーフ弁22は、ロッド側室5の圧力が開弁圧以上となると、ロッド側室5内の圧力をタンク7へ排出するので、シリンダ2内の圧力が過大となるのを防止してアクチュエータA1,A2のシステム全体を保護する。よって、排出通路21と可変リリーフ弁22を設けると、システムの保護も可能となる。
さらに、本例のアクチュエータA1,A2における流体圧回路HCは、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する整流通路18と、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する吸込通路19を備えている。よって、本例のアクチュエータA1,A2では、第一開閉弁9および第二開閉弁11が閉弁する状態でシリンダ本体Cyが伸縮すると、シリンダ2内から作動油が押し出される。シリンダ2内から排出された作動油の流れに対して可変リリーフ弁22が抵抗を与えるので、第一開閉弁9および第二開閉弁11が閉弁する状態では、本例のアクチュエータA1,A2はユニフロー型のダンパとして機能する。
より詳細には、整流通路18は、ピストン側室6とロッド側室5とを連通しており、途中に逆止弁18aが設けられ、ピストン側室6からロッド側室5へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。さらに、吸込通路19は、タンク7とピストン側室6とを連通しており、途中に逆止弁19aが設けられ、タンク7からピストン側室6へ向かう作動油の流れのみを許容する一方通行の通路に設定されている。なお、整流通路18は、第一開閉弁9の遮断ポジションを逆止弁とすると第一通路8に集約でき、吸込通路19についても、第二開閉弁11の遮断ポジションを逆止弁とすると第二通路10に集約できる。
このように構成されたアクチュエータA1,A2では、第一開閉弁9と第二開閉弁11がともに遮断ポジションを採っても、整流通路18、吸込通路19および排出通路21で、ロッド側室5、ピストン側室6およびタンク7を数珠繋ぎに連通させる。また、整流通路18、吸込通路19および排出通路21は、一方通行の通路に設定されている。よって、シリンダ本体Cyが外力によって伸縮すると、シリンダ2から必ず作動油が排出されて排出通路21を介してタンク7へ戻され、シリンダ2で足りなくなる作動油は吸込通路19を介してタンク7からシリンダ2内へ供給される。この作動油の流れに対して前記可変リリーフ弁22が抵抗となってシリンダ2内の圧力を開弁圧に調節するので、アクチュエータA1,A2は、パッシブなユニフロー型のダンパとして機能する。
また、アクチュエータA1,A2の各機器への通電が不能となるようなフェール時には、第一開閉弁9と第二開閉弁11のそれぞれが遮断ポジションを採り、可変リリーフ弁22は、開弁圧が最大に固定された圧力制御弁として機能する。よって、このようなフェール時には、アクチュエータA1,A2は、自動的に、パッシブダンパモードへ移行してパッシブダンパとして機能する。
つづいて、アクチュエータA1,A2に所望の伸長方向の推力を発揮させる場合、コントローラCは、基本的には、モータ15を回転させてポンプ12からシリンダ2内へ作動油を供給しつつ、第一開閉弁9を連通ポジションとし、第二開閉弁11を遮断ポジションとする。このようにすると、ロッド側室5とピストン側室6とが連通状態におかれて両者にポンプ12から作動油が供給され、ピストン3が図2中左方へ押されアクチュエータA1,A2は伸長方向の推力を発揮する。ロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力が可変リリーフ弁22の開弁圧を上回ると、可変リリーフ弁22が開弁して作動油が排出通路21を介してタンク7へ排出される。よって、ロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力は、可変リリーフ弁22に与える電流量で決まる可変リリーフ弁22の開弁圧にコントロールされる。そして、アクチュエータA1,A2は、ピストン3におけるピストン側室6側とロッド側室5側の受圧面積差に可変リリーフ弁22によってコントロールされるロッド側室5内およびピストン側室6内の圧力を乗じた値の伸長方向の推力を発揮する。
これに対して、アクチュエータA1,A2に所望の収縮方向の推力を発揮させる場合、コントローラCは、モータ15を回転させてポンプ12からロッド側室5内へ作動油を供給しつつ、第一開閉弁9を遮断ポジションとし、第二開閉弁11を連通ポジションとする。このようにすると、ピストン側室6とタンク7が連通状態におかれるとともにロッド側室5にポンプ12から作動油が供給されるので、ピストン3が図2中右方へ押されアクチュエータA1,A2は収縮方向の推力を発揮する。そして、前述と同様に、可変リリーフ弁22の電流量を調節すると、アクチュエータA1,A2は、ピストン3におけるロッド側室5側の受圧面積と可変リリーフ弁22にコントロールされるロッド側室5内の圧力を乗じた収縮方向の推力を発揮する。
また、アクチュエータA1,A2にあっては、アクチュエータとして機能するのみならず、モータ15の駆動状況に関わらず、第一開閉弁9と第二開閉弁11の開閉のみでダンパとしても機能できる。また、アクチュエータA1,A2をアクチュエータからダンパへ切換る際に、面倒かつ急峻な第一開閉弁9と第二開閉弁11の切換動作を伴わないので、応答性および信頼性が高いシステムを提供できる。
なお、本例のアクチュエータA1,A2にあっては、片ロッド型に設定されているので、両ロッド型のアクチュエータと比較してストローク長を確保しやすく、アクチュエータの全長が短くなって、鉄道車両への搭載性が向上する。
また、本例のアクチュエータA1,A2におけるポンプ12からの作動油供給および伸縮作動による作動油の流れは、ロッド側室5、ピストン側室6を順に通過して最終的にタンク7へ還流するようになっている。そのため、ロッド側室5或いはピストン側室6内に気体が混入しても、シリンダ本体Cyの伸縮作動によって自立的にタンク7へ排出されるので、推力発生の応答性の悪化を阻止できる。したがって、アクチュエータA1,A2の製造にあたって、面倒な油中での組立や真空環境下での組立を強いられず、作動油の高度な脱気も不要となるので、生産性が向上するとともに製造コストを低減できる。さらに、ロッド側室5或いはピストン側室6内に気体が混入しても、気体は、シリンダ本体Cyの伸縮作動によって自立的にタンク7へ排出されるので、性能回復のためのメンテナンスを頻繁に行う必要もなくなり、保守面における労力とコスト負担を軽減できる。
つづいて、コントローラCは、図3に示すように、車体前側としての車体前部Bfの横方向加速度α1を検知する前側加速度センサ41fと、車体後側としての車体後部Brの横方向加速度α2を検知する後側加速度センサ41rと、前後のアクチュエータA1,A2が出力すべき制御力F1,F2を求める制御演算部44と、制御演算部44が制御力F1,F2を求める際に使用する制御情報を設定する制御情報設定部45と、制御力F1,F2に基づいてモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11、可変リリーフ弁22を駆動する駆動部46とを備えている。
前側加速度センサ41fと後側加速度センサ41rは、図1中車体Bの中央を左右に通る軸を基準として上方側へ向く方向となる場合に、横方向加速度α1,α2を正の値として検知し、反対に図1中下方側へ向く方向となる場合に負の値として検知する。
以下、コントローラCの各部について詳細に説明する。制御演算部44は、図4に示すように、車体Bのヨー方向の振動を抑制するヨー抑制力fωを求めるヨー抑制力演算部50と、車体Bのスエー方向の振動を抑制するスエー抑制力fβを求めるスエー抑制力演算部51と、各アクチュエータA1,A2が発揮すべき制御力F1,F2を求める制御力演算部55とを備えている。
ヨー抑制力演算部50は、図5に示すように、横方向加速度α1,α2からヨー加速度ωを求めるヨー加速度演算部501と、ヨー加速度ωを濾波する第一直線区間用バンドパスフィルタ502と、ヨー加速度ωを濾波する第一曲線区間用バンドパスフィルタ503と、直線区間用ヨー制御部504と、曲線区間用ヨー制御部505と、直線区間用ヨー制御部504が求めた直線区間用ヨー抑制力fωsに直線区間用ゲインGs1を乗じるゲイン乗算部506と、曲線区間用ヨー制御部505が求めた曲線区間用ヨー抑制力fωcに曲線区間用ゲインGc1を乗じるゲイン乗算部507と、最終的なヨー抑制力fωを求める選択部508とを備えている。
ヨー加速度演算部501は、前側の横方向加速度α1と後側の横方向加速度α2の差を2で割った値に、車体中心Gから各加速度センサ41f,41rまでの距離に応じて設定される距離補正ゲインKLを乗じて前側の台車T1と後側の台車T2のそれぞれの直上における車体中心G周りのヨー加速度ωを求める。ヨー加速度ωは、台車T1,T2直上の車体Bを車体中心G周りに回そうとする加速度成分である。
ヨー加速度演算部501は、車体中心Gを中心として車体Bを時計回り方向へ回転させる方向のヨー加速度ωを正の値とし、これとは反対方向のヨー加速度ωを負の値として求める。前側加速度センサ41fの設置箇所は、ヨー加速度ωを求める都合上、車体Bの車体中心Gを通る直線上であって前側アクチュエータA1の近傍に配置される。距離補正ゲインKLは、鉄道車両の形式によって決定されるゲインである。ここで、鉄道車両にあっては、形式によって床下に設置される機器の搭載数や配置が異なり、鉄道車両の形式が異なると前側加速度センサ41fと後側加速度センサ41rの車体Bへの設置位置が異なる場合がある。車体中心Gの各加速度センサ41f,41rとの距離が鉄道車両によって区々であるので、ヨー加速度ωを一律に前側の横方向加速度α1と後側の横方向加速度α2の差を2で割った値とすると、正しいヨー加速度ωを求められない。つまり、図1中破線で示すように各加速度センサ41f’,41r’が設置される場合と、図1中実線に示すように各加速度センサ41f,41rが車体中心Gから遠くに設置される場合とでは、加速度センサ41f,41rと加速度センサ41f’,41r’が同じ加速度を出力する場合、前側の横方向加速度α1と後側の横方向加速度α2の差を2で割った値が異なる。加速度センサ41f’,41r’の設置位置は、車体B上の台車T1,T2の中心よりも車体中心G側にあるので、実際の台車T1,T2の直上のヨー加速度ωは、(α1−α2)/2の値よりも大きくなる。他方、図1の場合、各加速度センサ41f,41rの設置位置は、車体B上の台車T1,T2の中心よりも反車体中心G側にあるので、実際の台車T1,T2の直上のヨー加速度ωは、(α1−α2)/2の値よりも小さくなる。このように、前側加速度センサ41fと後側加速度センサ41rの車体Bへの設置位置により、ヨー加速度ωを一律に前側の横方向加速度α1と後側の横方向加速度α2の差を2で割った値とすると正確にヨー加速度ωを検知できない。そのため、ヨー加速度演算部501は、距離補正ゲインKLを(α1−α2)/2の値に乗じて正確なヨー加速度ωを求めるようにしている。距離補正ゲインKLは、各加速度センサ41f,41rと車体中心Gとの距離に応じて設定されるゲインであって、各加速度センサ41f,41rと車体中心Gとの距離が近くなればなるほど大きな値を採り、各加速度センサ41f,41rが車体Bの台車T1,T2の直上にそれぞれ設置される場合に理論的には値1を採る。前述したように、鉄道車両の形式に応じて各加速度センサ41f,41rと車体中心Gとの距離が決まっているので、前記形式に応じて距離補正ゲインKLの値が決まっている。よって、本実施の形態では、コントローラCは、予め形式ごとに決められている距離補正ゲインKLを記憶しており、鉄道車両用制振装置1が設置されている鉄道車両の形式を認識すると、形式にあった距離補正ゲインKLを用いてヨー加速度ωを演算する。
第一直線区間用バンドパスフィルタ502は、ヨー加速度ωにおける鉄道車両が直線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。台車T1,T2によって弾性支持される車体Bは、直線区間走行時には車体Bの台車T1,T2に対する横方向の移動を制限範囲に規制するストッパ(図示せず)に通常接触しないので、車体Bの共振周波数は、1Hzから1.5Hzまでの間にある。よって、第一直線区間用バンドパスフィルタ502は、ヨー加速度演算部501が求めたヨー加速度ωを濾波してヨー加速度ωに含まれる1Hzから1.5Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
第一曲線区間用バンドパスフィルタ503は、ヨー加速度ωにおける鉄道車両が曲線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。台車T1,T2によって弾性支持される車体Bは、曲線区間走行時には車体Bの図示しない前述のストッパへの接触が想定され、車体Bがストッパに接触する分、車体Bの共振周波数は、直線区間走行時よりも高くなり、2Hzから3Hzまでの間にある。よって、第一曲線区間用バンドパスフィルタ503は、ヨー加速度演算部501が求めたヨー加速度ωを濾波してヨー加速度ωに含まれる2Hzから3Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
直線区間用ヨー制御部504は、H∞制御器とされており、第一直線区間用バンドパスフィルタ502が抽出したヨー加速度ωの共振周波数帯の成分から車体Bのヨー方向の振動を抑制する直線区間用ヨー抑制力fωsを演算する。第一直線区間用バンドパスフィルタ502が抽出したヨー加速度ωの共振周波数帯の成分は、直線区間走行時における車体Bのヨー方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、直線区間用ヨー制御部504が求める直線区間用ヨー抑制力fωsは、直線区間走行時における車体Bのヨー方向の振動の抑制に適する抑制力となる。なお、直線区間用ヨー制御部504は、周波数に対する重みづけをする重み関数を利用したH∞制御を実行するが、本実施の形態では、複数パターンの重み関数を保有しており、後述する制御情報設定部45によって選択されたパターンを使用して直線区間用ヨー抑制力fωsを演算する。
曲線区間用ヨー制御部505は、H∞制御器とされており、第一曲線区間用バンドパスフィルタ503が抽出したヨー加速度ωの共振周波数帯の成分から車体Bのヨー方向の振動を抑制する曲線区間用ヨー抑制力fωcを演算する。第一曲線区間用バンドパスフィルタ503が抽出したヨー加速度ωの共振周波数帯の成分は、曲線区間走行時における車体Bのヨー方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、曲線区間用ヨー制御部505が求める曲線区間用ヨー抑制力fωcは、曲線区間走行時における車体Bのヨー方向の振動の抑制に適する抑制力となる。なお、曲線区間用ヨー制御部505は、周波数に対する重みづけをする重み関数を利用したH∞制御を実行するが、本実施の形態では、複数パターンの重み関数を保有しており、後述する制御情報設定部45によって選択されたパターンを使用して曲線区間用ヨー抑制力fωcを演算する。
ゲイン乗算部506は、直線区間用ヨー制御部504が求めた直線区間用ヨー抑制力fωsに直線区間用ゲインGs1を乗じて出力する。ゲイン乗算部507は、曲線区間用ヨー制御部505が求めた曲線区間用ヨー抑制力fωcに曲線区間用ゲインGc1を乗じて出力する。なお、直線区間用ゲインGs1および曲線区間用ゲインGc1は、初期設定では1に設定されるが、この値は後述する制御情報設定部45によって適宜設定されるようになっている。
そして、選択部508は、鉄道車両が走行中の路線が直線区間であるか曲線区間であるかを判定して、直線区間用ゲインGs1が乗じられた直線区間用ヨー抑制力fωsと、曲線区間用ゲインGc1が乗じられた曲線区間用ヨー抑制力fωcの一方を最終的なヨー抑制力fωとして選択する。選択部508は、鉄道車両が走行中の路線が直線区間であると判定する場合には、直線区間用ゲインGs1が乗じられた直線区間用ヨー抑制力fωsを最終的なヨー抑制力fωとして選択する。他方、選択部508は、鉄道車両が走行中の路線が曲線区間であると判定する場合には、曲線区間用ゲインGc1が乗じられた曲線区間用ヨー抑制力fωcを最終的なヨー抑制力fωとして選択する。鉄道車両が曲線区間を走行中であるか否かの判定については、スエー加速度演算部511が横方向加速度α1,α2から求めたスエー加速度βに含まれる定常加速度の絶対値が所定の曲線判定閾値を超えると、選択部508は、鉄道車両が走行中の路線が曲線区間であると判定する。定常加速度は、鉄道車両が曲線区間を走行する際に車体Bに定常的に作用する超過遠心力であり、曲線区間走行時にはこの超過遠心力が大きくなるので、スエー加速度βに基づいて鉄道車両が曲線区間を走行中であるかを判断できる。なお、選択部508は、鉄道車両に設けられる車両モニタ装置から走行地点情報を入手して鉄道車両が曲線区間を走行中であるか否かを判定してもよい。
スエー抑制力演算部51は、図6に示すように、横方向加速度α1,α2からスエー加速度βを求めるスエー加速度演算部511と、スエー加速度βを濾波する第二直線区間用バンドパスフィルタ512と、スエー加速度βを濾波する第二曲線区間用バンドパスフィルタ513と、直線区間用スエー制御部514と、曲線区間用スエー制御部515と、直線区間用スエー制御部514が求めた直線区間用スエー抑制力fβsに直線区間用ゲインGs2を乗じるゲイン乗算部516と、曲線区間用スエー制御部515が求めた曲線区間用スエー抑制力fβcに曲線区間用ゲインGc2を乗じるゲイン乗算部517と、最終的なスエー抑制力fβを求める選択部518とを備えている。
スエー加速度演算部511は、横方向加速度α1と横方向加速度α2の和を2で割って車体Bの車体中心Gのスエー加速度βを求める。なお、スエー加速度演算部511が求めたスエー加速度βは、選択部508,518にも入力される。スエー加速度演算部511は、図1中車体Bの中央を左右に通る軸を基準として上方側へ向く方向のスエー加速度βを正の値とし、反対方向のスエー加速度βを負の値として求める。
第二直線区間用バンドパスフィルタ512は、スエー加速度βにおける鉄道車両が直線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。第二直線区間用バンドパスフィルタ512が通過を許容する周波数帯は、第一直線区間用バンドパスフィルタ502と同様に1Hzから1.5Hzまでの周波数帯に設定されている。よって、第二直線区間用バンドパスフィルタ512は、スエー加速度演算部511が求めたスエー加速度βを濾波してスエー加速度βに含まれる1Hzから1.5Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
第二曲線区間用バンドパスフィルタ513は、スエー加速度βにおける鉄道車両が曲線区間を走行する際の車体Bの共振周波数帯の成分を抽出する目的で設けられている。第二曲線区間用バンドパスフィルタ513が通過を許容する周波数帯は、第一曲線区間用バンドパスフィルタ503と同様に2Hzから3Hzまでの周波数帯に設定されている。よって、第二曲線区間用バンドパスフィルタ513は、スエー加速度演算部511が求めたスエー加速度βを濾波してスエー加速度βに含まれる2Hzから3Hzまでの周波数帯の成分を抽出する。
直線区間用スエー制御部514は、H∞制御器とされており、第二直線区間用バンドパスフィルタ512が抽出したスエー加速度βの共振周波数帯の成分から車体Bのスエー方向の振動を抑制する直線区間用スエー抑制力fβsを演算する。第二直線区間用バンドパスフィルタ512が抽出したスエー加速度βの共振周波数帯の成分は、直線区間走行時における車体Bのスエー方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、直線区間用スエー制御部514が求める直線区間用スエー抑制力fβsは、直線区間走行時における車体Bのスエー方向の振動の抑制に適する抑制力となる。なお、直線区間用スエー制御部514は、周波数に対する重みづけをする重み関数を利用したH∞制御を実行するが、本実施の形態では、複数パターンの重み関数を保有しており、後述する制御情報設定部45によって選択されたパターンを使用して直線区間用スエー抑制力fβsを演算する。
曲線区間用スエー制御部515は、H∞制御器とされており、第二曲線区間用バンドパスフィルタ513が抽出したスエー加速度βの共振周波数帯の成分から車体Bのスエー方向の振動を抑制する曲線区間用スエー抑制力fβcを演算する。第二曲線区間用バンドパスフィルタ513が抽出したスエー加速度βの共振周波数帯の成分は、曲線区間走行時における車体Bのスエー方向の共振周波数帯の振動加速度である。したがって、曲線区間用スエー制御部515が求める曲線区間用スエー抑制力fβcは、曲線区間走行時における車体Bのスエー方向の振動の抑制に適する抑制力となる。なお、曲線区間用スエー制御部515は、周波数に対する重みづけをする重み関数を利用したH∞制御を実行するが、本実施の形態では、複数パターンの重み関数を保有しており、後述する制御情報設定部45によって選択されたパターンを使用して曲線区間用スエー抑制力fβcを演算する。
ゲイン乗算部516は、直線区間用スエー制御部514が求めた直線区間用スエー抑制力fβsに直線区間用ゲインGs2を乗じて出力する。ゲイン乗算部517は、曲線区間用スエー制御部515が求めた曲線区間用スエー抑制力fβcに曲線区間用ゲインGc2を乗じて出力する。なお、直線区間用ゲインGs2および曲線区間用ゲインGc2は、初期設定では1に設定されるが、この値は後述する制御情報設定部45によって適宜設定されるようになっている。
そして、選択部518は、鉄道車両が走行中の路線が直線区間であるか曲線区間であるかを判定して、直線区間用ゲインGs2が乗じられた直線区間用スエー抑制力fβsと、曲線区間用ゲインGc2が乗じられた曲線区間用スエー抑制力fβcの一方を最終的なヨー抑制力fωとして選択する。選択部518は、鉄道車両が走行中の路線が直線区間であると判定する場合には、直線区間用ゲインGs2が乗じられた直線区間用スエー抑制力fβsを最終的なスエー抑制力fβとして選択する。他方、選択部518は、鉄道車両が走行中の路線が曲線区間であると判定する場合には、曲線区間用ゲインGc2が乗じられた曲線区間用スエー抑制力fβcを最終的なスエー抑制力fβとして選択する。選択部518における鉄道車両が曲線区間を走行中であるか否かの判定については、選択部508と同様である。
制御力演算部55は、図7に示すように、ヨー抑制力fωおよびスエー抑制力fβとから前側のアクチュエータA1と後側のアクチュエータA2の制御力F1,F2を求める制御力算出部551と、不感帯処理部552と、リミッタ553とを備えている。
制御力算出部551は、ヨー抑制力fωとスエー抑制力fβとを加算した値を2で割って前側のアクチュエータA1の制御力F1を求める。また、制御力算出部551は、スエー抑制力fβからヨー抑制力fωを差し引いた値を2で割って後側のアクチュエータA2の制御力F2を求める。さらに、制御力F1,F2は、不感帯処理部552によって、制御力F1,F2の絶対値が制御力下限値γ未満であると不感帯処理して制御力F1,F2を0とする。また、制御力F1,F2は、リミッタ553によって上限値を超える場合には上限値に制限されて、駆動部46に入力される。なお、不感帯処理部552の処理で使用される制御力下限値γは、初期設定では0に設定されるが、この値は後述する制御情報設定部45によって適宜補正されるようになっている。
駆動部46は、モータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22を駆動するドライバ回路を備えている。駆動部46は、制御力F1,F2に応じて、各アクチュエータA1,A2におけるモータ15、第一開閉弁9、第二開閉弁11および可変リリーフ弁22へ供給する電流量を制御して、制御力F1,F2通りに各アクチュエータA1,A2に推力を発揮させる。
このように鉄道車両用制振装置1では、鉄道車両の走行区間に最適な制御力F1,F2を求めるようになっており、アクチュエータA1,A2が制御力F1,F2を発揮して車体Bの振動を抑制する。
つづいて、制御情報設定部45は、鉄道車両用制振装置1が設置されている鉄道車両の形式を認識し、当該形式に基づいて制御情報を設定する。編成列車では、鉄道車両の形式と編成列車中の順番とが紐づいており、編成列車中での順番が分かれば鉄道車両の形式わかる場合がある。このような場合、編成列車中で運転台が設けられている車両には、編成列車中の各鉄道車両の各種情報の監視と制御伝送等を司る車両モニタ装置Mが設けられており、車両モニタ装置Mは、各鉄道車両が編成列車中で何号車に配置されているのかを把握している。そこで、制御情報設定部45は、自身が搭載されている鉄道車両用制振装置1が設置されている鉄道車両が編成列車中の何号車であるか、つまり、編成列車中の順番を車両モニタ装置Mから情報を得る。
編成列車中の順番と鉄道車両の形式とが紐づいているので、制御情報設定部45は、前記順番が分かればその鉄道車両の形式を認識できる。鉄道車両の形式によって各加速度センサ41f,41rの取付位置が異なり、また、車体Bの重量が異なる。よって、鉄道車両の形式毎に距離補正ゲインKL、直線区間用ゲインGs1,Gs2、曲線区間用ゲインGc1,Gc2、不感帯を設定する制御力下限値γといった制御パラメータの適正値が異なり、直線区間用ヨー制御部504、曲線区間用ヨー制御部505、直線区間用スエー制御部514および曲線区間用スエー制御部515で使用するべき重み関数も異なる。そこで、制御情報設定部45は、制御パラメータや制御力の演算に利用される重み関数や数式といったアクチュエータA1,A2を制御するうえで必要となる制御情報を鉄道車両の形式に基づいて設定する。
具体的には、制御情報設定部45は、鉄道車両の形式毎に予め決められている複数の距離補正ゲインKLを保有しており、これら複数の距離補正ゲインKLのうちから、認識した鉄道車両の形式に適合する距離補正ゲインKLを選択して、選択した距離補正ゲインKLをヨー加速度演算部501で演算に使用する距離補正ゲインKLに設定する。このように、鉄道車両の形式に基づいて距離補正ゲインKLが設定されるので、正しいヨー加速度ωを求めることができ、車体Bの振動の抑制にあたり適切な制御力F1,F2を求め得る。
同様に、制御情報設定部45は、直線区間用ゲインGs1,Gs2、曲線区間用ゲインGc1,Gc2および制御力下限値γといった距離補正ゲインKL以外の制御パラメータについても同様に、鉄道車両の形式毎に予め決められた複数の制御パラメータのうちから、認識した鉄道車両の形式に適合するものを選択し、選択した制御パラメータを制御力の演算に用いる制御パラメータに設定する。鉄道車両の形式によって車体Bの重量や挙動が異なるが、直線区間用ゲインGs1,Gs2、曲線区間用ゲインGc1,Gc2および制御力下限値γといった制御パラメータは、その鉄道車両の形式に最適な値に設定されるから、車体Bの振動の抑制にあたり適切な制御力F1,F2を求め得る。
さらに、制御情報設定部45は、直線区間用ヨー制御部504、曲線区間用ヨー制御部505、直線区間用スエー制御部514、曲線区間用スエー制御部515が利用する重み関数についても同様に、鉄道車両の形式毎に予め決められた複数の重み関数のパターンうちから、認識した鉄道車両の形式に適合するパターンを選択し、選択したパターンの重み関数を制御演算部44が制御力F1,F2の演算に用いる重み関数に設定する。鉄道車両の形式によって車体Bの重量や挙動が異なるが、直線区間用ヨー制御部504、曲線区間用ヨー制御部505、直線区間用スエー制御部514、曲線区間用スエー制御部515が利用する重み関数がその鉄道車両の形式に最適なパターンに設定されるから、車体Bの振動の抑制にあたり適切な制御力F1,F2を求め得る。
この様な処理を行うために、図8に示すように、制御情報設定部45は、まず、車両モニタ装置Mから自身が搭載されている鉄道車両の編成列車中の順番情報を得る(ステップS1)。制御情報設定部45は、順番情報から鉄道車両の形式に適合する制御パラメータと重み関数を選択して、これらを制御力F1,F2の演算に利用する制御パラメータと重み関数に設定する(ステップS2)。
以上のように、本発明の鉄道車両用制振装置1は、鉄道車両の車体Bと台車T1,T2との間に介装されるアクチュエータ(シリンダ装置)A1,A2と、アクチュエータ(シリンダ装置)A1,A2を制御するコントローラCとを備え、コントローラCが鉄道車両の形式に基づいてアクチュエータ(シリンダ装置)A1,A2の制御に使用する制御情報を設定する。
このように構成された鉄道車両用制振装置1では、鉄道車両の形式に最も適する制御パラメータや制御力演算に使用される関数や数式を用いて制御力を演算できるようになる。そして、このように構成された鉄道車両用制振装置1では、鉄道車両の形式によって制御情報のみを設定するので、コントローラCが使用するソフトウェアを共通化でき、鉄道車両の形式毎に異なるソフトウェアとならずに済む。以上より、本発明の鉄道車両用制振装置1によれば、ソフトウェアの管理が容易となる。
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、コントローラCが鉄道車両の形式に基づいて予め複数保有している制御情報から一つを選択して制御に使用する制御情報として設定する。このように構成された鉄道車両用制振装置1によれば、予め制御情報を保有しているので、演算等を行って制御情報を最適化する必要がなく、制御情報の設定を簡単かつ短時間に正確に行える。
また、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、鉄道車両の形式と編成列車中の順番とが紐づけされており、コントローラCが編成列車中の順番に基づいて制御情報を設定する。このように構成された鉄道車両用制振装置1によれば、車両モニタ装置Mから一般的に入手可能な編成列車中の順番の情報から鉄道車両の形式を認識するので、車両モニタ装置M側の設計変更を伴わずに形式に適する制御情報の設定が可能となり、より実用的となる。
さらに、本実施の形態の鉄道車両用制振装置1は、車体Bの前後に設置されて車体Bの横方向加速度α1,α2を検知する二つの加速度センサ41f(41f’),41r(41r’)を備え、コントローラCが各加速度センサ41f(41f’),41r(41r’)が検知する横方向加速度α1,α2からヨー加速度ωを求める距離補正ゲインKLを制御情報として、鉄道車両の形式に基づいて距離補正ゲインKLを設定する。このように構成された鉄道車両用制振装置1によれば、鉄道車両の形式による各加速度センサ41f(41f’),41r(41r’)の設置位置によらず、正確にヨー加速度ωを求め得るので、車体Bの振動を効果的に抑制し得る制御力F1,F2を求め得る。よって、このように構成された鉄道車両用制振装置1によれば、鉄道車両の形式によらず車両における乗心地を向上できる。
なお、制御情報は、前述したところでは、制御パラメータと制御力の演算に利用する関数や数式とされている。本実施の形態では、H∞制御を実施するために重み関数を利用しているため複数のパターンの重み関数から鉄道車両の形式に適合する重み関数を選択している。これに代えて、制御器が数式を利用するものである場合には数式を前記形式に適合するものを選択して設定してもよい。また、制御器が複数の制御パス(例えば、比例パス、積分パス、微分パス等)を備えている場合、前記形式によって制御に必要な制御パスを有効として不要なパスを無効とするような制御情報の設定も可能である。
さらに、制御パラメータは、本実施の形態では、距離補正ゲインKL、直線区間用ゲインGs1,Gs2、曲線区間用ゲインGc1,Gc2および制御力下限値γ、重み関数とされているが、これに限られず、コントローラCが制御で利用するゲインの他にも、リミッタ値、閾値等といった制御に利用されるパラメータを前記形式に応じて最適値に設定してもよい。また、本実施の形態では、距離補正ゲインKL、直線区間用ゲインGs1,Gs2、曲線区間用ゲインGc1,Gc2および制御力下限値γ、重み関数の全部を設定しているが一部のみを設定するようにしてもよく、鉄道車両の形式によって変更が不要な制御情報については固定値として設定しなくともよい。
また、本実施の形態では、シリンダ装置をアクチュエータA1,A2としているが、シリンダ装置が減衰力可変ダンパやセミアクティブダンパであってもよい。
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。