JP2019171884A - 成形装置および成形方法 - Google Patents

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正吾 那須
久雄 小林
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Yoshio Enomoto
良夫 榎本
五十川 幸宏
Yukihiro Isogawa
幸宏 五十川
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Abstract

【課題】繊維強化樹脂の成形を行う際に、サイクルタイムを短縮しつつ、十分な成形性を確保する技術を提供する。【解決手段】繊維強化熱可塑性樹脂の被成形材を成形する成形装置は、加熱装置と、対応する凹凸が形成された2つの金型と、当該2つの金型の相対的な位置関係を規定するラムを有するプレス装置とを有している。これら2つ金型の温度は、繊維強化熱可塑性樹脂のマトリックス材の溶融点以下に設定され、プレス装置は、ラムを駆動することにより、2つの金型の間に加熱された被成形材を挟み込んで被成形材を成形するように構成されている。そして、ラムは、被成形材の成形が終了する終端位置P1の近傍であって被成形材の成形が開始される成形開始位置Pf側の終端近傍位置に、ラムが到達した時点における速度Vtが100mm/s以上となるように駆動される。【選択図】図7

Description

この発明は、繊維強化樹脂を成形する技術に関し、特に、プレス成形により繊維強化樹脂を成形する技術に関する。
近年、軽量で強度の高い素材として、炭素繊維強化樹脂(CFRP)が注目されている。なかでも、マトリックス材として熱可塑性樹脂を用いた炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)は、優れた力学特性を持つとともに、長時間の加熱を要さず、プレス成形等のサイクルタイムを短縮することが可能な方法で成形できるため、強度の高い部材を低コストで形成することを可能とする材料として期待されている。
しかしながら、CFRTP材料の成形中に成形対象のCFRTP材料の温度が低下すると、マトリックス材の流動性が低下して、炭素繊維の移動が阻害される。このように、炭素繊維の移動が阻害されると、CFRTP材料の成形性が急激に低下し、CFRTP材料を所望の形状に成形することが困難となる。
特に、プレス成形を行う場合において、サイクルタイムを短縮するために金型の温度を低温(マトリックス材の溶融点以下)にすると、プレス成形の過程においてCFRTP材料が急速に冷却されるので、成形性を良好に保つことが困難となる。
そこで、低温の金型を用いてプレス成形を行う際に、CFRTP材料の温度の低下を抑制し、CFRTP材料の成形性を良好に維持する技術の開発が進められている。例えば、非特許文献1では、温度を室温とした金型を用いてプレス成形を行う際に、炭素繊維シートをシリコンゴムではさむことにより、炭素繊維シートの温度の低下を抑制し、成形性の改善を図ることが試みられている。
米山猛、外5名、「熱可塑性炭素繊維シートのプレス加工」、塑性と加工(日本塑性加工学会誌)、日本塑性加工学会、平成24年2月、第53巻、第613号、p.55−59
しかしながら、非特許文献1に示された技術によっても、低温の金型を用いてプレス成形を行う際の成形性の低下を十分に抑制することは困難である。さらに、非特許文献1では、成形性の改善を図るため、炭素繊維シートをシリコンゴムではさみ、炭素繊維シートの温度の低下を抑制しているため、成形が終了した後から炭素繊維シートの温度が十分に低下するまでの時間が長くなる。そのため、サイクルタイムを十分に短縮することは困難である。この問題は、炭素繊維強化樹脂の成形に限らず、ガラス繊維強化樹脂等を含む、繊維強化樹脂の成形一般に共通する。
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、繊維強化樹脂の成形を行う際に、サイクルタイムを短縮しつつ、十分な成形性を確保する技術を提供することを目的とする。
上記目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
熱可塑性樹脂のマトリックス材と強化繊維とを含む繊維強化熱可塑性樹脂の被成形材を成形する成形装置であって、前記被成形材を前記マトリックス材の溶融点よりも高い温度に加熱する加熱装置と、凹凸が形成された第1の金型と、前記第1の金型の凹凸に対応した凹凸が形成された第2の金型と、前記第1および第2の金型の相対的な位置関係を規定するラムを有するプレス装置と、を備え、前記第1および第2の金型の温度は、前記マトリックス材の溶融点以下に設定されており、前記プレス装置は、前記ラムを駆動することにより、前記第1および第2の金型の間に前記加熱装置により加熱された被成形材を挟み込んで前記被成形材を成形するように構成されており、前記ラムは、前記被成形材の成形が終了する終端位置の近傍であって前記被成形材の成形が開始される成形開始位置側の終端近傍位置に、前記ラムが到達した時点におけるラム速度である終端速度が100mm/s以上となるように駆動される、成形装置。
この適用例によれば、成形終了時点において、被成形材は、第1および第2の金型の間に挟み込まれるため、成形終了の後、被成形材が速やかに冷却される。そのため、加熱された被成形材をプレス装置に搬入してから、成形された被成形材を取り出すまでのサイクルタイムを短縮することが可能となる。また、終端速度を100mm/s以上とすることにより、成形開始時点から成形終了時点までのほぼ全期間に亘って、被成形材の温度を十分に高く維持することができ、また、成形に要する時間を短縮することができる。そのため、繊維強化熱可塑性樹脂の被成形材を成形する際において、サイクルタイムを短縮しつつ、十分な成形性を確保することが可能となる。
[適用例2]
前記ラムは、前記成形開始位置におけるラム速度が前記終端速度の2倍以下となるように駆動される、適用例1記載の成形装置。
成形開始位置におけるラム速度を終端速度の2倍以下とすることにより、成形開始時点における成形性が低下することを抑制することができる。
[適用例3]
前記終端近傍位置と前記終端位置との距離は、前記成形開始位置と前記終端位置との距離の1/5以下である、適用例1または2記載の成形装置。
終端近傍位置と終端位置との距離を、成形開始位置と終端位置との距離の1/5以下とすることにより、被成形材の温度の維持をより確実に行うことができる。
[適用例4]
適用例1ないし3のいずれか記載の成形装置であって、前記プレス装置は、さらに、前記プレス装置に対して固定されたボルスターを有し、前記第1の金型は、前記ラムに固定され、前記第2の金型は、クッションを介して前記ボルスター上に載置されている、成形装置。
第2の金型をクッションを介してボルスター上に載置することにより、終端速度を十分に高くした状態においても、成形終了時点において2つの金型がバウンドすることを抑制することができる。そのため、バウンドにより成形された被成形材に損傷を与える虞を低減することができる。
[適用例5]
前記プレス装置は、スクリュープレス装置であって、サーボモーターによりラムを駆動するサーボスクリュープレス装置である、適用例1ないし4のいずれか記載の成形装置。
プレス装置としてサーボスクリュープレス装置を用いることにより、終端速度を100mm/s以上とすることがより容易となる。
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、繊維強化熱可塑性樹脂の被成形材を成形する成形装置、繊維強化熱可塑性樹脂の被成形材を成形する成形方法、それらの装置や方法を利用した繊維強化熱可塑性樹脂の成形品の製造方法、あるいは、それらの装置や方法を実現するためのプレス装置の制御装置や制御方法等の態様で実現することができる。
本発明の第1実施形態としてのCFRTPの成形工程を示す説明図。 プレス装置の構成を示す説明図。 金型の構成を示す断面図である。 プリプレグを成形する際の金型の動作を示す説明図。 サーボモーターの駆動制御機能の構成を示すブロック図。 CFRTPを成形する際のプレス装置の動作条件の一例を示すグラフ。 CFRTPの成形過程におけるプレス装置の動作状態を示すグラフ。 クッションの有無によるラムの挙動変化を評価した結果を示すグラフ。 クッションの有無によるラムの挙動変化を評価した結果を示すグラフ。 成形速度と終端速度との実測結果を示すグラフ。 成形中における試験材の温度変化の様子を示すグラフ。 成形中における試験材の温度変化の様子を示すグラフ。 成形中における試験材の温度変化の様子を示すグラフ。 成形品の外観評価結果を示す写真。 成形品におけるボイド量の評価を行った位置を示す説明図。 ボイド量の評価を行った領域の断面の様子を示す写真。 ボイド量の評価を行った領域の断面の様子を示す写真。 ボイド量の評価を行った領域の断面の様子を示す写真。 バランスシリンダーに接続される油圧回路の構成を示す油圧回路図。 第3実施形態におけるプレス装置の構成を示す説明図。 第3実施形態におけるサーボモーターの駆動制御機能の構成を示すブロック図。 第3実施形態におけるプレス装置の動作の一例を示す説明図。
以下、本発明を実施するための形態を以下の順序で説明する。
A.第1実施形態:
A1.CFRTPの成形工程:
A2.プレス装置の構成:
A3.金型の構成と動作:
A4.プレス装置の動作:
A5.実施例:
B.第2実施形態:
C.第3実施形態:
D.変形例:
A.第1実施形態:
A1.CFRTPの成形工程:
図1は、本発明の第1実施形態としての炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)の成形工程(以下、単に「成形工程」とも呼ぶ)を示す説明図である。この成形工程では、プレス装置100を用いて、成形対象となるCFRTPプリプレグPPGに深絞りを施している。なお、図1では、鉛直上方が紙面の上方となるように描いている。従って、紙面の上下方向は、鉛直方向となり、紙面の左右方向は水平方向となる。同様に、以下においても、特に断らない限り、鉛直方向および水平方向を紙面の上下方向および左右方向として表す。また、以下では、鉛直上方および鉛直下方を、単に、「上方」および「下方」とも呼ぶ。
図1に示す成形工程では、まず、成形対象であるCFRTPプリプレグ(以下、単に「プリプレグ」とも呼ぶ)PPGを準備する。プリプレグPPGは、強化繊維である炭素繊維の糸を織り上げた炭素繊維織物にマトリックス材を含浸したCFRTPシート(以下、単に「シート」とも呼ぶ)を、複数枚積層した板状の素材である。マトリックス材としては、種々の熱可塑性樹脂が使用できる。マトリックス材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリウレタン、あるいは、ポリアミド(ナイロン)が使用できる。
図1(a)に示すように、準備されたプリプレグPPGは、加熱装置910内に搬入される。プリプレグPPGの加熱装置910内への搬入は、例えば、自動搬送装置を用いて行われる。加熱装置910内において、プリプレグPPGは、マトリックス材の溶融点を超える温度まで加熱される。加熱温度は、成形工程における温度の低下を考慮して、例えば、溶融点よりも50〜70℃高い温度に設定される。
加熱されたプリプレグPPGは、加熱装置910から搬出され、プレス装置100に搬入される。プリプレグPPGの加熱装置910からの搬出およびプレス装置100への搬入は、自動搬送装置を用いて行うことができる。プレス装置100に搬入されたプリプレグPPGは、図1(b)に示すように、プレス装置100のラム120に取り付けられた金型である上型200と、クッション390を介してプレス装置100のボルスター130上に載置された金型である下型300との間に配置される。ボルスター130と下型300との間に配置されたクッション390は、円柱状のウレタンゴムを複数配列することにより構成される。なお、詳細については後述するが、図1の例では、プレス装置100として、フレーム110に取り付けられたサーボモーター153によりラム120の昇降を制御するスクリュープレス装置(サーボスクリュープレス装置)を用いている。また、上型200および下型300の具体的な構成についても、後述する。
プリプレグPPGを上型200と下型300との間に配置した後、プレス装置100のサーボモーター153を駆動することにより、ラム120を下降させる。ラム120を所定の位置(下端)まで下降させると、プリプレグPPGは、上型200と下型300との間に挟み込まれる。これにより、プリプレグPPGは、図1(c)に示すように、上型200に設けられたダイと、下型300に設けられたパンチと(いずれも図示しない)の形状に応じた形状に成形され、所望の形状に成形されたプリプレグPPFが得られる。なお、下端は、プリプレグPPGの成形が終了し、成形されたプリプレグPPFが得られる位置であるので、「終端」とも謂うことができる。
ラム120を下端まで下降させた後、予め設定された時間(保持時間)が経過するまで、プリプレグPPFに圧力を加えた状態で、ラム120の位置を下端で保持する。上型200および下型300(以下、併せて単に「金型」とも呼ぶ)は、その温度がマトリックス材の溶融点以下に設定されている。そのため、保持時間が経過するまでの間に、プリプレグPPFの温度が低下し、成形されたプリプレグPPFが硬化する。所望の形状に成形されて硬化したプリプレグPPF(成形品)は、保持時間が経過した後、サーボモーター153を駆動してラム120を上昇させることにより、プレス装置100から取り出される。なお、金型の温度は、マトリックス材の溶融点以下であれば任意に設定することが可能であるが、80℃以下とするのが好ましい。金型の温度を80℃以下とすることにより、マトリックス材の金型への付着が抑制されるので、成形品の取り出しを容易にし、また、金型の清掃を省略あるいは金型の清掃頻度を低減することができる。さらに、金型の温度を80℃以下とすれば、保持時間を短縮し、サイクルタイムをより短縮することが可能となる。
A2.プレス装置の構成:
図2は、プレス装置100の構成を示す説明図である。図2では、一点鎖線で示す中心軸の左側にプレス装置100の正面からの外観を示し、右側にプレス装置100の一部の部材を切断した部分断面を示している。この部分断面は、中心軸を通り、正面に平行な面で切断した状態を示している。上述の通り、図2に示すプレス装置100は、サーボモーター153(図1参照)を用いたサーボスクリュープレス装置である。なお、図2では、便宜上、サーボモーター153の図示を省略している。
プレス装置100は、上述したフレーム110、ラム120およびボルスター130のほか、スクリュー140、回転駆動部150、スライドガイド160およびバランサー170を有している。
フレーム110は、鉛直方向に伸びる外殻板111および内殻板112と、外殻板111および内殻板112の上面に配置された天板113と、シャフト固定部材114と、スラストベアリング115と、ブッシング116とを有している。これらの各部材111〜116は、互いに固定されており、いわゆる門型(ブリッジ型)のフレームを構成している。内殻板112には、水平方向に貫通する開口部119が設けられている。また、内殻板112の中心軸側には、鉛直方向に伸びるスライドガイド160が固定されている。
ラム120は、中心軸に沿った孔129が設けられたラム本体121と、ラム本体121に固定された雌ねじ板122とを有している。雌ねじ板122は、円筒状の部材であり、その内面に雌ねじ128が形成されている。また、ラム本体121は、その端部においてスライドガイド160に対して摺動する。これにより、ラム120は、中心軸の周りでの回転が規制されるとともに、鉛直方向に移動可能となっている。ボルスター130は、フレーム110に固定されている。
スクリュー140は、単一の棒材から形成された部材であり、鉛直上方から順に、シャフト141と、シャフト141よりも外径が大きい大径部142と、雄ねじ143とが形成されている。プレス装置100では、シャフト141は、フレーム110のスラストベアリング115に固定され、大径部142は、その上面がフレーム110のブッシング116に接触している。これにより、スクリュー140は、フレーム110に対する鉛直方向の移動が規制されている。また、スクリュー140に設けられた雄ねじ143は、ラム120の雌ねじ板122に設けられた雌ねじ128に噛み合わされている。
回転駆動部150は、プーリー151と、歯付ベルト152とを有している。プーリー151の中心には、スクリュー140のシャフト141が嵌め込まれている。歯付ベルト152は、図2に示すプーリー151と、サーボモーター153(図1)とを架けるように取り付けられている。そのため、サーボモーター153を回転させることにより、プーリー151と、スクリュー140とが中心軸の周りで回転する。そして、スクリュー140が回転することにより、雄ねじ143に噛み合わされた雌ねじ128を有するラム120は、この回転に応じて鉛直方向に移動する。なお、このようにサーボモーター153を回転駆動してラム120を鉛直方向に移動することは、ラム120自体を鉛直方向に駆動しているものと謂うこともできる。
このように、ラム120は、サーボモーター153の回転に応じて移動する。そのため、サーボモーター153の回転を制御することにより、ラム120の位置および速度や、成形の際にプリプレグPPGに加わる圧力を制御することができる。なお、このようなプレス装置100の制御については、後述する。
また、上型200は、フレーム110に対して移動するラム120に取り付けられ、下型300は、フレーム110に対して固定されたボルスター130上に載置されている。そのため、2つの金型200,300の相対的な位置は、ラム120により規定されていると謂える。
バランサー170は、バランスシリンダー171と、バランスシリンダー171から伸びるシリンダーロッド172と、シリンダーロッド172とラム120(ラム本体121)とを接続する接続アーム173とを有している。このバランスシリンダー171の下方から圧縮空気等を用いて圧力を加えることにより、シリンダーロッド172およびラム120は、これらの重量と釣り合うように押し上げられる。このようにシリンダーロッド172およびラム120が押し上げられることにより、ラム120の昇降を制御することがより容易となるとともに、雄ねじ143と雌ねじ128との間でギャップが生じることが抑制される。
A3.金型の構成と動作:
図3は、金型200,300の構成を示す断面図である。上型200は、基部210と、ダイ220と、ダイ固定部230と、ブランクホルダー240と、シム250とを有している。これらの各部材210〜250は、互いに固定された状態で、図2に示すように、基部210がプレス装置100のラム120に取り付けられる。ダイ220には、プリプレグPPGを成形するための凹部228と、成形の際に凹部228の空気を抜く空気孔229が設けられている。また、この空気孔229に対応して、基部210にも空気孔218が設けられている。ブランクホルダー240は、周縁部に凹部249が設けられており、この凹部249にシム250が取り付けられる。このシム250の厚さを調整することにより、厚さの異なるプリプレグPPGを成形することが可能となっている。
下型300は、基部310と、パンチ320と、ライナー330と、ブランクホルダー340と、ばね押圧部360と、ばね370とを有している。これらの各部材310〜370のうち、パンチ320とばね370とは、基部310に固定されている。パンチ320には、プリプレグPPGを成形するための凸部321が設けられている。ばね370の上部には、ライナー330とブランクホルダー340とばね押圧部360とが、互いに固定された状態で載置されている。
ライナー330とブランクホルダー340とには、それぞれ、パンチ320を通すための通し穴338,348が設けられている。そのため、ライナー330と、ブランクホルダー340と、ばね押圧部360とは、それら全体が鉛直方向に移動可能となっている。そして、ばね押圧部360がばね370で上方に押されることにより、圧力が加わっていない状態では、パンチ320の凸部321の上端が、ブランクホルダー340の上面よりも下方に位置するようになっている。
なお、上型200を構成するダイ220には、凹部228のみが設けられ、下型300を構成するパンチ320には、ダイ220の凹部228の形状に対応した凸部321のみが設けられている。しかしながら、凹部229を基準とすれば、ダイ220の下面は凸形状となっており、凸部321を基準とすれば、パンチ320の周縁部は凹形状となる。従って、ダイ220やパンチ320のように、少なくとも1つの凹部228あるいは凸部321が設けられていれば、ダイ220やパンチ320は、対応した形状の凹凸が形成されているとも謂える。
図4は、プリプレグPPGを成形する際の金型200,300の動作を示す説明図である。図3に示す状態から、ラム120を下降させ、上型200を下型300に向かって下降させると、図4(a)に示すように、プリプレグPPGの周縁部は、上型200と下型300とのそれぞれのブランクホルダー240,340に挟み込まれる。この状態からさらに上型200を下降させると、図4(b)に示すように、ばね370が収縮するとともに、下型300のライナー330、ブランクホルダー340およびばね押圧部360が下降する。これにより、パンチ320の上端は、ブランクホルダー340の上面の位置に到達して、プリプレグPPGに接触する。
このとき、プリプレグPPGの周縁部には、ブランクホルダー240,340から圧力が加わる。そのため、プリプレグPPGの周縁部がブランクホルダー240,340により挟まれて保持(挟持)されるので、成形を行うことによってプリプレグPPGに皺が発生することが抑制される。なお、ブランクホルダー240,340からプリプレグPPGの周縁部に加わる圧力は、ばね370の反発力によって与えられる。そのため、ブランクホルダー240,340によりプリプレグPPGの周縁部を挟持する力は、ばね370のばね定数を適宜調整することにより所望の強さに設定することができる。
図4(b)に示す状態からさらに上型200を下降させると、パンチ320の凸部321(図3)は、ダイ220の凹部228内に押し込まれる。そして、ラム120(図2)が下端に到達すると、図4(c)に示すように、パンチ320の凸部321とダイ220の凹部228とにより、プリプレグPPFが挟み込まれ、プリプレグPPFに圧力が加わる。これにより、成形されたプリプレグPPFの形状は、パンチ320とダイ220の形状に倣った形状となる。なお、第1実施形態では、成形が終了した図4(c)に示す状態から、さらにパンチ320の凸部321がダイ220の凹部228に押し込まれることを抑制するストッパーを設けていないが、このようなストッパーを設けることも可能である。このようなストッパーは、例えば、上型200と下型300との間、あるいは、ラム120とボルスター130との間に配置される。
図4(c)に示すように、第1実施形態では、成形されたプリプレグPPFは、金型200,300に直接接している。そして、上述のように金型200,300の温度は、プリプレグPPFに含まれるマトリックス材の溶融点以下に設定されている。そのため、成形されたプリプレグPPFは急速に冷却されるので、パンチ320の凸部321とダイ220の凹部228とにプリプレグPPFが挟み込んだ状態に保持する保持時間を短縮することができる。第1実施形態では、このように、保持時間を短縮することができるので、加熱されたプリプレグPPGをプレス装置100に搬入してから、成形されたプリプレグPPFを取り出すまでのサイクルタイムを短縮することが可能となる。
A4.サーボモーターの駆動制御:
図5は、サーボモーター153の駆動制御機能の構成を示すブロック図である。プレス装置100を制御する制御部10は、プレス装置100との信号の授受を行うインターフェースを備えたコンピューターとして実現される。
制御部10は、機能部として、駆動条件決定部11、速度検出部12、位置検出部13、および、トルク検出部14を備えている。これらの各機能部11〜14は、コンピューターがプログラムを実行することにより実現される。プレス装置100は、制御にかかわる構成要素として、モーター制御部191を備えている。また、サーボモーター153には、制御にかかわる構成要素として、サーボモーター153の回転状態を測定するエンコーダー192が設けられている。
速度検出部12および位置検出部13は、それぞれ、エンコーダー192からの出力信号に基づいて、サーボモーター153の回転速度および回転角を検出する。トルク検出部14は、モーター制御部191の出力信号に基づいて、サーボモーター153の駆動トルクを検出する。駆動条件決定部11は、このように検出されたサーボモーター153の回転速度、回転角および駆動トルクと、予め設定されたプレス装置100の動作条件に基づいて、サーボモーター153の駆動条件を決定する。
モーター制御部191は、駆動条件決定部11により決定されたサーボモーター153の駆動条件に応じて電力をサーボモーター153に供給し、サーボモーター153を駆動制御する。このようにサーボモーター153が駆動制御されることにより、サーボモーター153の回転角、回転速度および駆動トルクが制御される。そして、これらに対応するラム120(図1)の位置および速度と、被加工材であるプリプレグPPGや下型300等に加わる圧力とが、プレス装置100の動作条件に従って制御される。
なお、図5の例においては、ラム120(図1)の位置および速度と、プリプレグに加わる圧力とに対応するパラメータとして、サーボモーター153の回転角、回転速度および駆動トルクの検出を行っているが、これらの少なくとも一部に換え、また、これらに加えて、ラム120の位置および速度と、圧力とを直接検出することも可能である。この場合、プレス装置100には、ラム120の位置を検出するリニアエンコーダーを設け、あるいは、圧力を検出するストレインゲージが設けられる。
A4.プレス装置の動作:
図6は、CFRTPを成形する際のプレス装置100の動作条件の一例を示すグラフである。図6において、横軸は時間を表し、左の縦軸はラム120(図1)の位置(ラム変位)を表し、右の縦軸はラム120の下降速度(ラム下降速度)。なお、図6において左の縦軸で示すラム120の位置は、鉛直上方が正方向となるようにとっている。そのため、ラム変位は、ラム120が下端に到達した状態で最小値P1をとる。また、ラム速度は、ラム120の下降速度が最大となった状態で、最大値Vxをとる。なお、ラム速度は、通常、成形時のラム120の駆動方向が正の値となるように表記する。そのため、図6において、ラム速度は、0よりも下側が正の値となり、0よりも上側が負の値となる。
図6に示すように、時間が0からT1までの期間(加速期間)において、ラム120は鉛直下方に加速される。この加速期間においては、ラム120が上端P0から下降し、加速期間が終了する時間がT1の時点において、ラム速度は、最大速度Vxとなる。次いで、時間がT1からT2までの期間(空走期間)において、ラム120は、下降し続ける。この空走期間中に、ラム速度は、目的とする速度(成形速度)Vfとなるように調整される。
この空走期間中において、上型200と下型300とが接触し、図4(a)に示すように、プリプレグPPGがブランクホルダー240,340により挟持される。そして、空走期間が終了する時間がT2の時点において、図4(b)に示すように、パンチ320がプリプレグPPGに接触し、プリプレグPPGの成形が開始される。なお、このことから明らかなように、成形速度Vfとは、プリプレグPPGの成形が開始された時点におけるラム速度をいう。
時間がT2からT3の期間(成形期間)において、上述のように、プリプレグPPGは、圧力が加わり、変形する。そして、成形期間が終了する時間がT3の時点に近づくと、成形されたプリプレグPPFがパンチ320(図3)の凸部321とダイ220の凹部228とに挟まれた状態となり、変形抵抗が大きくなる。そのため、時間がT3の時点に近づくと、ラム速度は急速に低下する。そして、時間がT3の時点で、ラム120(図1)は、下端P1に到達し、ラム速度が0となる。時間がT3のラム120が下端P1に到達した時点以降(保持期間)において、ラム120は、プリプレグPPFに圧力を加えた状態で、下端P1の位置に保持される。
なお、図6の例では、時間がT1からT2までの空走期間において、ラム速度を調整しているが、ラム速度の調整を省略することも可能である。この場合、成形速度Vfが最大速度Vxとなった状態で成形が開始されるように、ラム120の加速度や、上端P0の位置や、下端P1の位置等が調整される。
図7は、CFRTPの成形過程におけるプレス装置の動作状態を示すグラフである。図7のグラフは、図6のグラフにおける成形期間付近を拡大したグラフであるので、ここでは、グラフに関する説明を省略する。
上述のように、空走期間が終了し、成形期間が始まる時間がT2の時点において、図4(b)に示すようにパンチ320がプリプレグPPGに接触する。この時点においては、パンチ320がダイ220にまだ押し込まれていない状態であるため、ラム120は、下端P1よりも上方の位置(成形開始位置)Pfに位置する。そして、成形期間においては、ラム120は、成形開始位置Pfと下端P1との距離Sfの分だけ下方に移動する。なお、この距離Sfは、ラム120が成形開始位置Pfから下端P1に向かい、プリプレグPPGの成形が行われる行程(ストローク)であるので、「成形ストロークSf」とも謂うことができる。
図7に示すように、ラム速度は、ラム120が成形開始位置Pfに到達した時間T2における成形速度Vfから、下端P1の近傍に到達するまでの間、ほぼ一定に保たれる。このように、ラム120が下端P1の近傍に到達するまで、ラム速度が十分に速く維持される。これにより、成形中のプリプレグPPGの温度が十分に高く維持されるので、プリプレグPPGの成形性をより高くすることができ、また、成形に要する時間を短縮することができる。さらに、成形ストロークSf中のほぼ全域に亘って、ラム速度が十分に速く維持されることにより、成形前あるいは成形中に発生した空隙(ボイド)が良好に押しつぶされる。そのため、成形されたプリプレグPPFのボイドの量を低減することができる。
これらの効果をより確実に発現させるためには、下端P1の近傍におけるラム速度を一定以上にすればよい。具体的には、下端P1からの距離(終端距離)Stが十分に短い位置(終端近傍位置)におけるラム速度(終端速度)Vtが、100mm/s以上であればよい。この終端距離Stは、成形ストロークSfを基準として(例えば、成形ストロークSfの1/5に)決定することができる。なお、終端距離Stは、短ければ短いほどより確実に上述の効果を発現させることができる。そのため、終端距離Stは、成形ストロークSfの1/5以下とするのが好ましく、1/10以下とするのがより好ましい。
また、上述の通り、成形開始時点(時間がT2の時点)におけるラム速度である成形速度Vfは、終端速度Vtよりも速くなっているが、成形速度Vfが速すぎると、成形開始時点におけるプリプレグPPGの成形性が低下する虞がある。そのため、成形速度Vfは、終端速度Vtに近い速度にするのが好ましい。具体的には、成形速度Vfは、終端速度Vtの2倍以下とするのが好ましく、1.5倍以下とするのがより好ましい。このように成形速度Vfを終端速度Vtに近い速度にすることにより、成形開始時点におけるプリプレグPPGの成形性を良好に維持することができる。
このように、第1実施形態によれば、ラム120の終端速度Vtを100mm/s以上とすることにより、成形に要する時間を短縮しつつ、プリプレグPPGの成形性を良好にするとともに、成形されたプリプレグPPF中のボイドの量を低減することができる。さらに、成形開始時点におけるラム速度である成形速度Vfを終端速度Vtに近い速度とすることにより、成形開始時点におけるプリプレグPPGの成形性を良好に維持することができる。
また、上述の通り、第1実施形態では、成形されたプリプレグPPFには、プリプレグPPFが金型200,300(図4)と直接接した状態で圧力が加えられる。そのため、保持期間の長さである保持時間を短縮し、加熱されたプリプレグPPGをプレス装置100に搬入してから、成形されたプリプレグPPFを取り出すまでのサイクルタイムを短縮することが可能となる。
第1実施形態によれば、下型300とボルスター130との間にクッション390を配置しているが、クッション390を省略することも可能である。但し、下端に到達した時点において加わる反力でラム120が上昇し、上型200と下型300とが離間すること(バウンド)が抑制され、金型200,300のバウンドにより成形されたプリプレグPPFに損傷を与える虞を低減することができる点で、クッション390を配置するのが好ましい。特に、第1実施形態では、終端速度Vtを高速(100mm/s以上)にしているため、ラム120に加わる反力が大きくなる傾向がある。そのため、第1実施形態のようにプリプレグPPGの成形を行う場合には、クッション390を用いるのが好ましい。
なお、第1実施形態では、クッション390を円柱状のウレタンゴムを複数配列することにより構成しているが、クッションの構成はこれに限らない。たとえば、板状のウレタンゴムをクッションとして使用することも可能であり、また、クッションを他の種類のゴムを使用して形成することも可能である。さらに、クッションとしては、成形されたプリプレグPPFに十分な圧力をかけるため、ラム120が下端に到達した時点の反発力を強くし、その後、反発力が低下するものとするのが好ましい。このようなクッションとしては、ダイラタンシー流体中に弾性体を配置することにより実現することができる。また、このようなクッションは、ストロークが伸びるに従って移動抵抗が低下するような油圧回路を用いて実現することも可能である。
さらに、第1実施形態では、プレス装置100としてサーボスクリュープレス装置を用いているが、クランクをサーボモーターで駆動するサーボクランクプレス等の他のプレス装置を用いることも可能である。但し、クランクを使用したプレス装置では、下端が下死点に設定されるので、下端からある程度離れた位置から下端まで、ラム速度はほぼ線形に変化する。そのため、クランクを使用するプレス装置等を用いて終端速度Vtを十分に速くすることは、困難である。さらに、上述のように、成形速度Vfを終端速度Vtに近い速度にすることを、クランクを用いたプレス装置で実現することは、極めて困難である。従って、第1実施形態で示したように、CFRTPの成形を行うためには、サーボスクリュープレス装置を用いるのが好ましい。
A5.実施例:
第1実施形態の実施例として、プリプレグの成形試験を行い、成形試験により得られた成形品の評価を行った。成形試験においては、マトリックス材および強化繊維の構成が異なる3種類のシートを準備し、準備したシートを積層して3種類の試験材(A〜C)を作成した。作成した試験材の構成は、次の表1の通りである。
Figure 2019171884
表1に示すように、試験材A,Bは、マトリックス材としてナイロン6(PA6)を用いた、厚さ0.2mmのシートを10枚積層して作成した。また、試験材Aは、強化繊維が平織りのシートを用いて作成し、試験材Bは、強化繊維が綾織りのシートを用いて作成した。試験材Cは、マトリックス材としてナイロン6,6(PA66)を用いた、厚さ0.25mmのシートを8枚積層して作成した。また、試験材Cは、強化繊維が綾織りのシートを用いて作成した。
<成形試験の概要>
試験材を作成した後、作成した試験材を用いて成形試験を行った。成形試験では、作成した試験材をヒーターで所定の温度まで加熱した。加熱温度は、マトリックス材の種別に応じて設定した。具体的には、マトリックス材としてPA6を用いている試験材(試験材A,B)では、加熱温度を260℃、280℃もしくは300℃に設定し、マトリックス材としてPA66を用いている試験材(試験材C)では、加熱温度を280℃、300℃もしくは320℃に設定した。
加熱した試験材は、サーボスクリュープレス装置のボルスターの上に載置された下型(図3の下型300)の上部に配置した。なお、試験材が下型に接触することで試験材の温度が低下することを防止するため、試験材の配置は、試験材を中空に浮かすための治具を用いて行った。成形に使用した金型は、試験材を半径約30mmの半球状に成形する、深絞り試験用の金型である。金型温度は、室温(RT)、50℃、100℃および150℃のいずれかに設定した。
試験材の下型上部への配置の後、スクリュープレス装置(図2)を動作させることにより、試験材を成形した。成形速度(成形開始時点のラム速度)は、150mm/s、250mm/s、300mm/s、350mm/sおよび365mm/sのいずれかに設定した。また、比較例として、成形速度を50mm/sに設定した成形試験も行った。なお、実際の成形試験に先立つ予備試験として、クッションの有無によるラムの挙動変化を評価するとともに、成形速度の実測を行った。
成形の際には、成形中の試験材の温度変化を評価するため、試験材の温度を測定した。温度の測定は、試験材に熱電対を取り付けることにより行った。試験材の温度は、試験材の中心部分と、ブランクホルダーに近い端部において測定した。以下では、中心部分で測定された温度を中心温度と呼び、端部で測定された温度を端部温度と呼ぶ。
試験材の成形が終了した後、10秒間、試験材への加圧を維持し、その後ラムを上昇させて成形された試験材(成形品)を取り出した。このように得られた成形品については、外観の観察による成形性の評価と、断面組織の観察によるボイド量の評価を行った。
<予備試験結果:ラムの挙動の変化>
クッションの有無によるラムの挙動の変化を評価するため、試験材Bを用いて成形試験を行った。クッションを設けない状態での成形試験は、試験材の加熱温度を300℃とし、クッションを設けた状態での成形試験は、試験材の加熱温度を280℃とした。また、クッションとしては、平板状のウレタンゴムを使用した。金型温度は、クッションを設けた状態と設けない状態とのいずれにおいても、50℃に設定し、成形速度は、150mm/sに設定した。
図8および図9は、クッションの有無によるラムの挙動変化を評価した結果を示すグラフである。図8は、クッションを設けない状態でのラム変位とラム速度との時間変化を示し、図9は、クッションを設けた状態でのラム変位とラム速度との時間変化を示している。なお、図8および図9(a)に示すグラフは、図6に示すグラフと同様に描いており、図9(b)は、図9(a)を拡大したグラフであるので、ここでは、グラフに関する説明を省略する。
図8に示すように、クッションを設けない状態では、ラムが下端に到達すると、ラム速度がマイナス方向(ラムの上昇方向)に大きく振れた。このことから、クッションを設けない場合には、成形速度が150mm/sであっても、金型が大きくバウンドすることが判った。
一方、図9(a)に示すように、クッションを設けることにより、クッションを設けない状態(図8)において現れた、ラム速度のマイナス方向への大きな振れが現れなかった。このことから、クッションを設けることにより、金型のバウンドが抑制されることが確認できた。なお、図9(b)に示すように、ラム変位は、一旦、0.6mm程度沈み込んでおり、この沈み込みから回復する際に、ラム速度はマイナス方向へ振れている。そのため、クッションを設けた状態におけるラム速度のマイナス方向への振れは、クッションによるスプリングバックによるものと考えられる。このことからも、クッションを設けることにより、金型のバウンドが十分に抑制されることが判った。
<予備試験結果:成形速度と終端速度との実測>
クッションの有無によるラムの挙動変化を評価を行った際の測定データを解析し、成形速度と、終端速度との実測を行った。図10は、成形速度と終端速度との実測結果を示すグラフである。図10のグラフにおいて、横軸はラム速度を表し、縦軸はラム変位を表している。なお、図10のグラフでは、ラム変位は、ラムの下端が0mmとなるように描いている。このとき、ラム変位が30mmとなるラムの位置が、パンチと試験材が接触する成形開始位置となる。また、図10のグラフにおいて、実線は、クッションを設けた状態における実測結果を示し、破線は、クッションを設けない状態における実測結果を示している。
図10に示すように、クッションを設けた状態とクッションを設けない状態とのいずれにおいても、成形開始位置におけるラム速度、すなわち、成形速度は、150mm/sであった。また、終端距離を成形ストロークの1/5、すなわち、6mmとした場合の終端速度は、クッションを設けた状態とクッションを設けない状態とのいずれにおいても、134mm/sであった。このことから、成形速度を150mm/sとすることにより、終端速度を100mm/s以上とすることができることが確認できた。さらに、図10のグラフから分かるように、成形速度を150mm/sとすることにより、下端の直近まで、ラム速度を100mm/s以上にすることが可能であることが判った。
<成形中の試験材の温度変化>
図11ないし図13は、成形中における試験材の温度変化の様子を示すグラフである。図11ないし図13のグラフにおいて、横軸は時間を表し、左の縦軸は温度を表し、右の縦軸はラム変位を表している。また、図11ないし図13のグラフにおいて、実線は、ラム変位を表し、破線は端部温度を表し、一点鎖線は中心温度を表している。また、これらのグラフにおいて、縦に伸びる2本の点線は、成形開始時点と成形終了時点とを示している。従って、これらの2本の点線で挟まれた範囲が、成形期間に相当する。
図11に示すように、金型温度を50℃にした場合、成形期間中における端部温度の低下速度は950℃/sに達し、成形終了時点の端部温度は153℃となった。このように金型温度を50℃とした場合、端部温度の低下速度が速いため、成形速度を300mm/sとしても成形終了時点では成形性が低下するものと考えられる。
一方、図12および図13に示すように、金型温度を100℃にした場合、成形期間中における端部温度の低下速度は、金型温度を50℃にした場合の約1/2〜1/3に低下した。また、図12および図13に温度変化を示す成形試験では、成形速度を365mm/sとしている。そのため、成形終了時点での端部温度は、いずれも200℃を超えていた。このことから、金型温度を100℃以上とし、成形速度を300mm/sよりも速くすれば、成形期間の全期間に亘って端部温度を十分に高く維持し、成形性を十分に高くすることが可能であるものと考えられる。
<成形品の外観評価>
図14は、成形品の外観評価結果を示す写真である。図14(a)ないし図14(c)は、それぞれ、金型温度を変化させて成形した成形品の外観を示している。なお、図14で外観を示す成形品は、いずれも、試験材として試験材Bを用い、試験材の加熱温度を280℃とし、成形速度を150mm/sとして成形したものである。
図14に示すように、金型温度を低くするに従って、成形品の表面は光沢を呈さないようになった。このことから、金型温度を低くすると、成形性が低下することが確認できた。このような傾向は、成形中における試験材の温度変化を評価した結果と一致する。但し、図14で外観の評価結果を示した成形品は、図11ないし図13で温度変化の評価結果を示した成形品よりも遅い成形速度で成形しているにもかかわらず、金型温度を室温(RT)としても、成形品を半球状に成形することが可能であった。また、金型温度を100℃とした場合には、光沢を呈する表面が形成された。このように、比較的遅い成形速度(150mm/s)で成形を行っても、ある程度の成形性が確保できているのは、終端速度を十分に速く(100mm/s以上)していることによるものと考えられる。
<ボイド量の評価>
図15は、成形品におけるボイド量の評価を行った位置を示す説明図である。図15(a)は、強化繊維の配列方向によって規定される成形品の方向を示している。通常、CFRTPの成形品の方向は、図15(a)に示すように、繊維の配列方向に平行な方向が0,90°方向と呼ばれ、繊維の配列方向と45°の角度をなす方向が45°方向と呼ばれる。これらの方向のうち、ボイドが発生しやすい方向は、45°方向である。そこで、ボイド量の評価にあたって、まず、成形品の頂点を通り、45°方向に伸びる線に沿って成形品を切断した。そして、切断によって現れた断面の観察を行い、観察した断面におけるボイドの面積率を測定して、ボイド量を評価した。
図15(b)は、上述のように切断された成形品の切断面の様子を示している。図15(b)において示されている数値は、頂点からの距離を表している。本実施例のように、深絞りを行って半球状に試験材を成形した場合、頂点からの距離が30mmよりも内側の位置では、成形過程において強化繊維の間隔が拡げられる。一方、頂点からの距離が40mmから外側の位置においては、強化繊維が外方から引き込まれるので、強化繊維の間隔は狭められる。このように、頂点からの距離が30mmから40mmの領域の内側と外側とでは、強化繊維にかかる力の方向が反転するため、矢印で示す領域は、ボイドが発生やすい。そこで、ボイド量の評価は、図15(b)において矢印で示す領域について行った。
図16ないし図18は、ボイド量の評価を行った領域の断面の様子を示す写真である。図16は、試験材として試験材Cを用い、試験材の加熱温度を280℃とし、成形速度を150mm/sとして成形した成形品の断面を示している。図17は、試験材として試験材Bを用い、試験材の加熱温度を280℃とし、成形速度を365mm/sとして成形した成形品の断面を示している。また、図18は、比較例として、試験材として試験材Bを用い、試験材の加熱温度を280℃とし、成形速度を50mm/sとして成形した成形品の断面を示している。なお、図16(a)、図17(a)および図18(a)は、加熱のみを行い、成形を行っていない試験材の断面の様子を示し、図16、図17および図18のその他の写真は、金型温度を変化させて成形した試験材の断面の様子を示している。
図16に示すように、成形速度を150mm/sとした場合、加熱のみを行った試験材のボイド面積率が6.96%であったのに対し、成形品では、ボイド面積率が、0.07%から0.54%と大きく低下した。このことから、終端速度を十分に速くすることにより、成形品中のボイドの量を低減することが可能であることが確認できた。また、ボイドの量を低減する効果は、金型温度を低下させるに従って増強されることが判った。
図17に示すように、成形速度を365mm/sとした場合においても、加熱のみを行った試験材のボイド面積率が12.74%であったのに対し、成形品では、ボイド面積率が、0.32%から0.78%と大きく低下した。また、成形速度を150mm/sとした場合と同様に、ボイドの量を低減する効果が、金型温度を低下させるに従って増強されるという傾向がみられた。
一方、比較例として成形速度を50mm/sとした場合、図18に示すように、成形によりボイド面積率は、12.74%から約3%程度までには低下するものの、その低減の程度は、成形速度を150mm/sとした場合や364mm/sとした場合ほど大きくなかった。このことから、ボイド量の低減効果を発現させるためには、成形速度を一定以上に速くすることが重要であることが判った。また、一般的に、ボイドは成形中にも発生するが、本実施例では、成形品のボイド量を十分に低減することができた。これらのことから、成形品中のボイド量をより確実に低減するためには、終端速度を十分に速くすることが重要であるものと推定される。
B.第2実施形態:
第1実施形態においては、図2に示すように、金型200,300のバウンドを抑制するため、下型300とボルスター130との間にクッション390を配置しているが、他の方法により金型のバウンドを抑制することも可能である。具体的には、クッション390を省略するとともに、バランスシリンダー171に換えて適宜設計された油圧回路に接続された油圧シリンダー(ラム停止装置付バランスシリンダー)を用いることにより金型のバウンドを抑制することができる。他の構成、機能および効果等は、第1実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
図19は、ラム停止装置付バランスシリンダー171a(以下、単に「バランスシリンダー171a」とも呼ぶ)に接続される油圧回路20aの構成を示す油圧回路図である。油圧回路20aは、タンク21aと、電磁弁付リリーフ弁22a(以下、単に「リリーフ弁22a」とも呼ぶ)と、逆止弁23aと、コック弁24aとを有している。
タンク21aには、リリーフ弁22aのPポートと、逆止弁23aの入口ポートと、コック弁24aの第1のポートとが接続されている。また、タンク21aには、バランスシリンダー171aの下部シリンダー室に接続されている。一方、バランスシリンダー171aの上部シリンダー室には、リリーフ弁22aのTポートと、逆止弁23aの出口ポートと、コック弁24aの第2のポートが接続されている。なお、コック弁24aは、通常、クローズ状態となっているので、ここではその説明を省略する。
タンク21aには、油圧回路20aの作動油が貯留されている。そして、圧縮空気によりタンク21aの内部は、加圧された状態となっている。このタンク21aに接続された逆止弁23aを介してバランスシリンダー171aの上部シリンダー室に作動油が流れることにより、バランスシリンダー171aのシリンダーロッド172aを下降させ、ラム120を下降させることができる。
なお、図19に示すように、タンク21aとバランスシリンダー171aの上部シリンダー室とが逆止弁23aを介して接続されているが、上部シリンダー室には、シリンダーロッド172aが接続されているため、シリンダーの断面積が小さくなる。そのため、タンク21aの内部を加圧することにより、シリンダーロッド172aには上方に押し上げる力が働き、ラム120(図2)等の重量を支えることができる。また、これに加え、逆止弁23aを介して接続された上部シリンダー室への流路の抵抗は、タンク21aに直接接続された下部シリンダーへの流路の抵抗よりも高くなる。この流路抵抗の差も、ラム120等の重量を支えることに寄与する。
リリーフ弁22aは、プレス装置100の操作電源が切断されると電磁弁がクローズ状態となる。このとき、TポートからPポートへは、作動油が流れ、PポートからTポートへは、作動油が流れない状態となる。すなわち、クローズ状態のリリーフ弁22aは、Tポートを入口ポートとし、Pポートを出口ポートとする逆止弁として機能する。
一方、プレス装置100の操作電源が投入されると電磁弁がオープン状態となる。このとき、リリーフ弁22aは、Pポートに対するTポートの差圧が予め設定された圧力(リリーフ圧)となるまでTポートからPポートへの作動油の流れを阻止する。そして、当該差圧がリリーフ圧を超えると、TポートからPポートに作動油が流れるように作用する。すなわち、プレス装置100の操作電源が投入され、プレス装置100が動作する状態においては、電磁弁付リリーフ弁22aは、Tポートを入口ポートとしPポートを出口ポートとする一般的なリリーフ弁と同等である。従って、第2実施形態においては、バランスシリンダー171aの上部シリンダー室からタンク21aへは、リリーフ弁を介して接続されていると謂うことができる。また、ラム120が上方に移動する際にはシリンダーロッド172aが上方に移動するので、上部シリンダー室は、ラムが上方に移動する際に体積が縮小する。
このようにリリーフ弁22aが作用するとともに、逆止弁23aではバランスシリンダー171aの上部シリンダー室からタンク21aへの作動油の流れが阻止される。そのため、バランスシリンダー171aの下部シリンダー室に対する上部シリンダー室の差圧がリリーフ弁22aのリリーフ圧を超えるまで、上部シリンダー室からタンク21aへの作動油の流れは阻止される。
通常、ラム120に加わる反力は、プレス装置100を作動させることにより発生する圧力よりも小さい。そのため、リリーフ弁22aのリリーフ圧を適宜設定することにより、反力によるラム120の上昇が抑制され、金型のバウンドが抑制される。一方、スクリュー140を回転させてラム120を上昇させる場合には、バランスシリンダー171aの下部シリンダー室に対する上部シリンダー室の差圧が十分大きくなる。そのため、第2実施形態を適用しても、ラム120を上昇させる動作には、影響が生じない。
このように、第2実施形態によっても、金型のバウンドを抑制することができるので、終端速度Vtを十分に速くすることが可能となる。そのため、第1実施形態と同様に、プリプレグPPGの成形性を高めるととともに、成形されたプリプレグPPF中のボイドの量を低減することができる。さらに、第2実施形態は、ラム120が下端に到達した時点においてプリプレグPPFに加わる圧力をより高くできる点で、第1実施形態よりも好ましい。一方、第1実施形態は、金型のバウンドの抑制をより簡単に行うことができる点で、第2実施形態よりも好ましい。
なお、第2実施形態において、バランスシリンダー171aの上部シリンダー室からタンク21aへは、リリーフ弁22aを介して接続され、タンク21aから上部シリンダー室へは、逆止弁23aを介して接続されているが、一般的には、上部シリンダー室からタンク21aへリリーフ弁22aを介して接続されていればよい。この場合、逆止弁23aに換えて電磁弁を設け、当該電磁弁をラム120が下端に到達した際にクローズ状態にするようにしても良く、また、バランスシリンダー171aの上部シリンダー室と下部シリンダー室との間を逆止弁あるいは電磁弁で接続するものとしても良い。
C.第3実施形態:
図20は、第3実施形態におけるプレス装置100bの構成を示す説明図である。第3実施形態は、第1実施形態および第2実施形態と異なる態様で、金型200,300のバウンドを抑制する。
第3実施形態のプレス装置100bは、ボルスター130に換えて、鉛直方向に移動可能に構成されたラム(下側ラム)130bと、下側ラム130bを鉛直方向に移動させる送りねじ機構180bとを有している点と、下側ラム130bの中心軸に対する回転を抑制するため、スライドガイド160bを鉛直下方に延長している点とで、第1実施形態のプレス装置100(図2)と異なっている。他の構成、機能および効果等は、第1実施形態と同様であるので、ここではその説明を省略する。
図20に示すように、下側ラム130bは、中心軸に沿った孔139bが設けられたラム本体131bと、ラム本体131bに取り付けられた圧力センサー132bとを有している。ラム本体131bは、その端部において、スライドガイド160bに対して摺動する。これにより、下側ラム130bは、中心軸の周りでの回転が規制されるとともに、鉛直方向に移動可能となっている。
送りねじ機構180bは、一体に形成されたシャフト181bおよびスクリュー182bと、プーリー183bと、歯付ベルト184bとを有している。また、図示を省略しているが、送りねじ機構180bには、図1に示す第1実施形態のプレス装置100に設けられたサーボモーター153(以下、「上側サーボモーター」とも呼ぶ)に加え、さらに別のサーボモーター(以下、「下側サーボモーター」とも呼ぶ)が設けられている。シャフト181bは、ラム本体131bに設けられた孔139bに嵌め込まれている。スクリュー182bには、雄ねじが形成されている。
プーリー183bには、中心軸に沿った孔189bが設けられている。この孔189bの内面には、スクリュー182bに設けられた雄ねじと噛み合う雌ねじが形成されている。歯付ベルト184bは、プーリー183bと、図示しない下側サーボモーターとを架けるように取り付けられている。そのため、下側サーボモーターを回転させることにより、プーリー183bは、中心軸の周りで回転する。
また、図示しないがプーリー183bは、鉛直方向の移動が規制されている。そのため、プーリー183bが回転すると、プーリー183bの雌ねじに噛み合わされた雄ねじを有するスクリュー182bと、スクリュー182bと一体に形成されたシャフト181bと、シャフト181bが嵌め込まれた下側ラム130bとは、この回転に応じて鉛直方向に移動する。
図20に示すように、第3実施形態のプレス装置100bでは、下側ラム130bが上側ラム120よりも小型で、軽量となっている。さらに、下側ラム130bを移動させるためのスクリュー182bおよびプーリー183bは、上側ラム120を移動させるためのスクリュー140およびプーリー150よりも小型となっている。そのため、下側ラム130b、スクリュー182bおよびプーリー183bを全体としてみた下側ラム駆動系のイナーシャーは、上側ラム120、スクリュー140およびプーリー150を全体としてみた上側ラム駆動系のイナーシャーよりも小さくなっている。
なお、図20に示すように、金型200,300は、プレス装置100bの上側のラム120(以下、「上側ラム120」とも呼ぶ)と下側ラム130bとにそれぞれ取り付けられている。そのため、2つのラム120,130bは、2つの金型200,300の相対的な位置を規定していると謂える。
図21は、第3実施形態におけるサーボモーターの駆動制御機能の構成を示すブロック図である。上述のように、第3実施形態のプレス装置100bは、サーボモーター185bが追加されている。そのため、モーター制御部191bは、2つのサーボモーター153,185bを駆動制御するように構成されている。また、追加されたサーボモーター185bにも、エンコーダー192bが設けられている。このエンコーダー192bの出力信号は、制御部10bの速度検出部12bと位置検出部13bとに供給される。また、下側ラム130bに設けられた圧力センサー132bの出力信号は、制御部10bに追加された圧力検出部15bに供給される。
第3実施形態の制御部10bは、速度検出部12bと、位置検出部13bと、トルク検出部14bとを有している。これらの機能部12b〜14bは、第1実施形態の制御部10において対応する機能部12〜14が存在し、それらの機能は、2つのサーボモーター153,185bに対応するように構成が変更されている他は、第1実施形態と同様である。第3実施形態の制御部10bにおいて追加された圧力検出部15bは、圧力センサー132bの出力信号に基づいて、下側ラム130b(図20)に加わる圧力を検出する。
第3実施形態の制御部10bが有する駆動条件決定部11bは、速度検出部12b、位置検出部13bおよびトルク検出部14bが検出した、2つのサーボモーター153,185bの、それぞれの回転角、回転速度および駆動トルクと、圧力検出部15bが検出した下側ラム130bに加わる圧力と、予め設定されたプレス装置100bの動作条件とに基づいて、2つのサーボモーター153,185bの駆動条件を決定する。これにより、上側ラム120および下側ラム130bの、それぞれの位置および速度と、被加工材であるプリプレグPPGや下型300等に加わる圧力とが制御される。
図22は、第3実施形態におけるプレス装置100bの動作の態様を示す説明図である。なお、図22では、図示の便宜上、プレス装置100bのうち、その動作の態様を説明するために必要な部分のみを図示し、また、上型200と下型300とについても、ダイ220(図3)とパンチ320のみを図示している。
プレス装置100bでは、その初期状態において、図22(a)に示すように、上側ラム120が位置(初期位置)UP0に位置し、下側ラム130bが位置(初期位置)LP1に位置している。また、成形対象のプリプレグPPGは、上型200と下型300との間に位置している。プレス装置100bの運転を開始すると、上側ラム120を移動させる上側サーボモーター153が駆動され、上側ラム120が下降を開始する。
上側ラム120が位置UP1まで下降すると、図22(b)に示すように、金型、すなわち、上型200(ダイ220)および下型300(パンチ320)と、プリプレグPPGとが接触し、プリプレグPPGの成形が開始される。金型とプリプレグPPGとの接触は、圧力センサー132bにより検知された圧力(検知圧力)が予め設定された圧力の閾値(圧力閾値)を超えたか否かによって判断される。
検知圧力が圧力閾値を超えた場合、金型とプリプレグPPGとが接触したものと判断され、下側サーボモーター185bは、下側ラム130bを上昇させる方向に駆動される。このとき、下側サーボモーター185bは、圧力センサー132bに加わる圧力が、予め設定された圧力値となるように制御(圧力制御)される。このように、下側サーボモーター185bを圧力制御することにより、プリプレグPPGの成形に必要な圧力は、下側サーボモーター185bによっても提供される。
なお、図22の例では、金型とプリプレグPPGとが接触した時点から下側サーボモーター185bの駆動を開始しているが、下側サーボモーター185bの駆動は、図4(a)に示すように、プリプレグPPGがブランクホルダー240,340により挟み込まれた時点、あるいは、パンチ320の一部がダイ220が押し込まれた時点から下側サーボモーター185bの駆動を開始することも可能である。この場合、下側サーボモーター185bの駆動を開始する時点に応じて、圧力閾値を調整すればよい。
プリプレグPPGの成形が開始された後、上側ラム120および下側ラム130bはそれぞれ鉛直方向に移動し、図22(c)に示すように、上側ラム120が位置UP2に、下側ラム130bが位置LP2に到達する。上側ラム120および下側ラム130bがそれぞれ位置UP2,LP2に到達すると、プリプレグPPGの成形は終了し、成形されたプリプレグPPFが上型200(ダイ220)および下型300(パンチ320)に挟み込まれた状態となる。なお、この時点における上側ラム120と下側ラム130bとのそれぞれの位置UP2,LP2は、終端の位置にあると謂うことができる。上述のように、下側サーボモーター185bは、圧力制御されるので、プレス装置100bの動作条件を適宜設定することにより、成形中にプリプレグPPGに加わる圧力を変化させることができる。例えば、プリプレグPPGがより速く成形されるように、成形中の圧力を高くするようにしても良く、また、後述するバウンドの抑制効果をより高くするように、成形終了時点の圧力を高くするようにしても良い。
図22(c)に示すように、上型200と下型300とが接触すると、上側ラム120には上側ラム120を上方に押し上げる反力が加わり、上側ラム120の下降速度が低下する。そこで、第3実施形態では、上型200と下型300とが接触した際に、反力による上側ラム120の下降速度の低下を補償するように下側ラム130bを駆動する。このように、上側ラム120の下降速度の低下を補償するように、すなわち、上側ラム120の移動に追随するように、下側ラム130bを駆動することで、金型のバウンドを抑制することができる。
なお、上述のように、第3実施形態においては、下側ラム駆動系のイナーシャーが上側ラム駆動系のイナーシャーよりも小さくなっているので、下側ラム130bの速度は、上側ラム120よりも容易に制御できる。そのため、第3実施形態によれば、上側ラム120の下降速度の低下をより確実に補償し、金型のバウンドをより確実に抑制することができる。さらに、下側ラム130bは、その速度の制御が容易となっているため、プリプレグPPGの成形中における上側ラム120と下側ラム130bとの相対的な速度(第1実施形態のラム速度に相当する)の調整が容易となる。そのため、終端距離Stをさらに短くし、あるいは、終端速度Vtをさらに速くすることが可能となり、成形されたプリプレグPPF中のボイドの量をより確実に低減することができる。
図22(c)に示すように上型200と下型300とが接触した後、上側ラム120は減速するように駆動され、下側ラム130bは、上側ラム120の下降に追随するように駆動される。これにより、上型200と下型300とが接触した状態を維持し、成形されたプリプレグPPFに圧力を加え続けることができる。
上側ラム120を減速するように駆動し、下側ラム130bを上側ラム120の下降に追随するように駆動することにより、図22(d)に示すように、上側ラム120と下側ラム130bとは、それぞれ位置UP3,LP3に到達して停止する。上側ラム120と下側ラム130bとが停止した後、成形されたプリプレグPPFの温度が十分に低下するまで、プリプレグPPFには圧力が加え続けられるように、上側ラム120と下側ラム130bとは、それぞれ位置UP3,LP3に保持される。
なお、以上の説明から明らかなように、第3実施形態におけるラムの位置は、上側ラム120と下側ラム130bとの相対的な位置関係によって規定することができる。そのため、図22(d)に示すように、上側ラム120と下側ラム130bとがそれぞれ位置UP3,LP3にある状態も、上側ラム120と下側ラム130bとがそれぞれ位置UP2,LP2にある状態(図22(c))と同様に、ラムが終端に位置した状態であると謂うことができる。
上側ラム120と下側ラム130bとをそれぞれ位置UP3,LP3に保持した状態で予め設定された保持時間が経過すると、保持時間が経過するまでの間に、プリプレグPPFの温度が低下し、成形されたプリプレグPPFが硬化する。そして、所望の形状に成形されて硬化したプリプレグPPFは、保持時間が経過した後、上側ラム120と下側ラム130bとをそれぞれ初期位置UP0,LP1に戻すことにより、プレス装置100bから取り出される。
このように、第3実施形態によっても、金型のバウンドを抑制することができる。そのため、終端速度Vtを十分に速くすることが可能となるので、第1実施形態および第2実施形態と同様に、プリプレグPPGの成形性を高めるととともに、成形されたプリプレグPPFのボイドの量を低減することができる。
さらに、第3実施形態においては、下側ラム駆動系のイナーシャーが上側ラム駆動系のイナーシャーよりも小さいため、下側ラム130bは、上側ラム120よりも容易に速度が調整できる。そのため、プリプレグPPGの成形中におけるラム速度の調整がより容易となり、終端距離Stをさらに短くし、あるいは、終端速度Vtをさらに速くすることが可能となるので、成形されたプリプレグPPF中のボイドの量をさらに確実に低減することができる。この点において、第3実施形態は、第1実施形態および第2実施形態よりも好ましい。一方、第1実施形態および第2実施形態は、プレス装置の構成およびその制御方法をより簡単にすることができる点で、第3実施形態よりも好ましい。
なお、一般的には、下側ラム130bの速度の調整をより容易にするためには、下側ラム駆動系のイナーシャーを上側ラム駆動系のイナーシャーよりも小さくすればよい。従って、第3実施形態のように、下側ラム駆動系を構成する各部130b,182b,183bのそれぞれが上側ラム駆動系を構成する各部120,140,150よりも小型である必要はない。また、必ずしも、下側ラム駆動系のイナーシャーを、上側ラム駆動系のイナーシャーよりも小さくする必要はない。但し、終端距離Stをさらに短くし、あるいは、終端速度Vtをさらに速くするため、下側ラム駆動系のイナーシャーを、上側ラム駆動系のイナーシャーよりも小さくするのが好ましい。
D.変形例:
本発明は上記各実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
D1.変形例1:
上記各実施形態では、本発明を炭素繊維織物にマトリックス材を含浸したシートを積層したプリプレグPPGの成形に適用しているが、本発明は、このようなプリプレグPPGの成形の他、一方向に配列された炭素繊維の束にマトリックス材を含浸したシートを積層したプリプレグ、CFRTPの単層のシート、あるいは、マトリックス材の一部分のみに炭素繊維が含まれるシートやプリプレグの成形、もしくは、既に成形されたCFRTP素材の追加成形にも適用できる。なお、これらのプリプレグ、単層のシート、CFRTP素材等は、いずれも、成形の対象であるので、「被成形材」と総称することができる。
D2.変形例2:
上記各実施形態では、本発明をCFRTPの成形に適用しているが、本発明は、CFRTPのほか、強化繊維としてガラス繊維を用いたガラス繊維強化熱可塑性樹脂や、強化繊維として芳香族ポリアミド系樹脂の繊維を用いた繊維強化熱可塑性樹脂等、種々の繊維強化熱可塑性樹脂の成形に適用できる。
D3.変形例3:
上記各実施形態では、本発明をCFRTPの深絞りに適用しているが、本発明は、深絞りのほか、スタンピング等の成形一般に適用することができる。なお、スタンピング等の成形を行う場合には、成形中の皺の発生を抑制するために金型200,300に設けられたブランクホルダー240、340は、省略することも可能である。
10,10b…制御部
11,11b…駆動条件決定部
12,12b…速度検出部
13,13b…位置検出部
14,14b…トルク検出部
15b…圧力検出部
20a…油圧回路
21a…タンク
22a…電磁弁付リリーフ弁
23a…逆止弁
24a…コック弁
100,100b…プレス装置
110…フレーム
111…外殻板
112…内殻板
113…天板
114…シャフト固定部材
115…スラストベアリング
116…ブッシング
119…開口部
120…ラム
121…ラム本体
122…雌ねじ板
128…雌ねじ
129…孔
130…ボルスター
130b…ラム
131b…ラム本体
132b…圧力センサー
139b…孔
140…スクリュー
141…シャフト
142…大径部
143…雄ねじ
150…回転駆動部
151…プーリー
152…歯付ベルト
153…サーボモーター
160,160b…スライドガイド
170…バランサー
171,171a…バランスシリンダー
172,172a…シリンダーロッド
173…接続アーム
180b…送りねじ機構
181b…シャフト
182b…スクリュー
183b…プーリー
184b…歯付ベルト
185b…サーボモーター
189b…孔
191,191b…モーター制御部
192,192b…エンコーダー
200…上型
210…基部
218…空気孔
220…ダイ
228…凹部
229…空気孔
230…ダイ固定部
240…ブランクホルダー
249…凹部
250…シム
300…下型
310…基部
320…パンチ
321…凸部
330…ライナー
338,348…穴
340…ブランクホルダー
360…ばね押圧部
390…クッション
910…加熱装置
PPF,PPG…プリプレグ

Claims (6)

  1. 熱可塑性樹脂のマトリックス材と強化繊維とを含む繊維強化熱可塑性樹脂の被成形材を成形する成形装置であって、
    前記被成形材を前記マトリックス材の溶融点よりも高い温度に加熱する加熱装置と、
    凹凸が形成された第1の金型と、
    前記第1の金型の凹凸に対応した凹凸が形成された第2の金型と、
    前記第1および第2の金型の相対的な位置関係を規定するラムを有するプレス装置と、
    を備え、
    前記第1および第2の金型の温度は、前記マトリックス材の溶融点以下に設定されており、
    前記プレス装置は、前記ラムを駆動することにより、前記第1および第2の金型の間に前記加熱装置により加熱された被成形材を挟み込んで前記被成形材を成形するように構成されており、
    前記ラムは、前記被成形材の成形が終了する終端位置の近傍であって前記被成形材の成形が開始される成形開始位置側の終端近傍位置に、前記ラムが到達した時点におけるラム速度である終端速度が100mm/s以上となるように駆動される、
    成形装置。
  2. 前記ラムは、前記成形開始位置におけるラム速度が前記終端速度の2倍以下となるように駆動される、請求項1記載の成形装置。
  3. 前記終端近傍位置と前記終端位置との距離は、前記成形開始位置と前記終端位置との距離の1/5以下である、請求項1または2記載の成形装置。
  4. 請求項1ないし3のいずれか記載の成形装置であって、
    前記プレス装置は、さらに、前記プレス装置に対して固定されたボルスターを有し、
    前記第1の金型は、前記ラムに固定され、
    前記第2の金型は、クッションを介して前記ボルスター上に載置されている、
    成形装置。
  5. 前記プレス装置は、スクリュープレス装置であって、サーボモーターによりラムを駆動するサーボスクリュープレス装置である、請求項1ないし4のいずれか記載の成形装置。
  6. 熱可塑性樹脂のマトリックス材と強化繊維とを含む繊維強化熱可塑性樹脂の被成形材を成形する成形方法であって、
    前記被成形材を前記マトリックス材の溶融温度よりも高い温度に加熱する加熱工程と、
    凹凸が形成された第1の金型と前記第1の金型の凹凸に対応した凹凸が形成された第2の金型との間に、前記加熱された被成形材を挟み込むことにより、前記被成形材を成形する成形工程と、
    を備え、
    前記第1および第2の金型の温度は、前記マトリックス材の溶融温度以下に設定されており、
    前記成形工程において、
    前記被成形材は、前記第1と第2の金型の相対的な位置関係を規定するラムを駆動することにより挟み込まれ、
    前記ラムは、前記被成形材の成形が終了する終端位置の近傍であって前記被成形材の成形が開始される成形開始位置側の終端近傍位置に、前記ラムが到達した時点におけるラム速度である終端速度が100mm/s以上となるように駆動される、
    成形方法。
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