JP2019167323A - 糖タンパク質精製方法および糖鎖を調製する方法 - Google Patents

糖タンパク質精製方法および糖鎖を調製する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高G遠心分離条件下での通液安定性および糖タンパク質捕捉効率に優れた糖タンパク質精製方法を提供する。【解決手段】本発明の糖タンパク質精製方法は、糖タンパク質と溶媒とを含む液体試料を固相に通液して、固相に糖タンパク質を捕捉する捕捉工程を含む、糖タンパク質精製方法であって、捕捉工程は、以下の条件Aおよび条件Bを満たすものである。条件A:捕捉工程において使用する固相は、所定の通液試験に基づいて測定された通液指数F700が0.01以上0.50以下を満たすものであること。条件B:捕捉工程において固相に糖タンパク質を捕捉する方法は、100G以上の遠心分離を行う工程を含むこと。【選択図】なし

Description

本発明は、糖タンパク質精製方法および糖鎖を調製する方法に関する。
これまで糖タンパク質精製方法において様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、糖鎖を検出用に調製する検出試料調製工程において、糖鎖捕捉ビーズと接触させて、該試料中の遊離糖鎖と該ビーズとが結合する条件下に置いて捕捉糖鎖試料を生成した後、ビーズの水分および溶媒を除去し、その後、捕捉糖鎖試料から、糖鎖試料を遊離させる工程が記載されている。同文献によれば、このビーズの水分および溶媒を除去する工程として、濾紙、吸い取り紙、ガーゼ、タオル、手ぬぐい、テイッシュペーパーまたは綿つきシートでの底拭き等のマイルドな条件が挙げられている(特許文献1の請求項1、2等)。
WO2009/044900号公報
一方、上記特許文献1に記載の糖タンパク質精製方法において、高G遠心分離条件下での通液安定性および糖タンパク質捕捉効率の点を改善させることで、適用範囲を更に拡張させることが考えられる。
糖タンパク質精製キットの遠心分離条件としては、50G程度以下という低G遠心分離条件が使用されている。本発明者の知見によれば、このような低G遠心分離条件に代えて、高G遠心分離条件で固相を用いて糖タンパク質を精製した場合、捕捉対象の糖タンパク質とともに導入した溶媒を固相から落とすことができ、不要な溶媒を除去することができると考えられる。
遠心分離の条件を100G以上の高G条件に変更した場合、固相から必要な糖タンパク質が落ちないような創意工夫を行うことも必要である。
そこで、高G遠心分離条件下においても糖タンパク質を捕捉する捕捉性能に優れた固相を採用することにより、糖タンパク質を固相に残留させることができると考え、本発明者はさらに検討したところ、遠心力(1G)単位あたりの固相の通液量(μl)、すなわち、[通液量/遠心力]で求められる通液指数Fを指標とすることにより、高G遠心分離条件下における糖タンパク質の捕捉性能を安定的に評価できることを見出した。
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、遠心力が700Gの通液指数F700を所定の数値範囲内である固相を使用することにより、高G遠心分離条件による捕捉工程において、固相から溶媒を除去する通液性を高めつつも、固相中の糖タンパク質捕捉効率を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、
糖タンパク質と溶媒とを含む液体試料を固相に通液して、前記固相に前記糖タンパク質を捕捉する捕捉工程を含む、糖タンパク質精製方法であって、
前記捕捉工程は、以下の条件Aおよび条件Bを満たすものである、糖タンパク質精製方法が提供される。
・条件A:前記捕捉工程において使用する前記固相は、下記の通液試験に基づいて測定された通液指数F700が0.01以上0.50以下を満たすものであること。
(通液試験)
容器中の前記固相上に試験用液体を入れ、所定の遠心力(G)、1分の条件で遠心分離を行った後、前記試験用液体が前記固相を通液した通液量(μl)を測定する。そして、遠心力(G)あたりの通液量(μl)として、式:[通液量/遠心力]に基づいて算出された値を通液指数Fとする。
上記通液試験において、遠心力が700Gのときの通液指数Fを、通液指数F700とする。
・条件B:前記捕捉工程において前記固相に前記糖タンパク質を捕捉する方法は、100G以上の遠心分離を行う工程を含むこと。
また本発明によれば、
上記糖タンパク質精製方法で得られた前記固相に固定された状態の前記糖タンパク質に、糖鎖遊離酵素を作用させることにより、糖鎖を含有する糖鎖含有サンプルを得る遊離工程を含む、糖鎖を調製する方法が提供される。
本発明によれば、高G遠心分離条件下での通液安定性および糖タンパク質捕捉効率に優れた糖タンパク質精製方法およびそれを用いた糖鎖を調製する方法が提供される。
[糖タンパク質精製方法]
本実施形態の糖タンパク質精製方法の概要を説明する。
本実施形態の糖タンパク質精製方法は、糖タンパク質と溶媒とを含む液体試料を固相に通液して、固相に糖タンパク質を捕捉する捕捉工程を含むものである。当該糖タンパク質精製方法中の捕捉工程は、以下の条件Aおよび条件Bを満たすものとすることができる。
・条件A:上記捕捉工程において使用する固相は、下記の通液試験に基づいて測定された通液指数F700が0.01以上0.50以下を満たすものであること。
・条件B:上記捕捉工程において固相に糖タンパク質を捕捉する方法は、100G以上の遠心分離を行う工程を含むこと。
糖タンパク質を精製方法として遠心分離を使用する場合、カラム等の固相にトラップされた糖タンパク質が固相から落ちないようにするため、50G程度の低G遠心分離条件を採用することが知られている。
これに対して、本実施形態の糖タンパク質精製方法によれば、遠心力(1G)単位あたりの固相の通液量(μl)で求められる通液指数Fを指標とすることにより、高G遠心分離条件下における糖タンパク質の捕捉性能を安定的に評価できることを見出し、高Gにおける通液指数F700が所定の数値範囲内である固相を使用することにより、高G遠心分離条件による捕捉工程において、固相から溶媒を除去する通液性を高めつつも、糖タンパク質捕捉効率を高めることができる。
上記通液試験は、次のように実施される。
容器中の固相上に、所定量の試験用液体を入れ、所定の遠心力(G)、1分の条件で遠心分離を行った後、試験用液体が固相を通液した通液量(μl)を測定する。そして、遠心力(G)あたりの通液量(μl)として、式:[通液量/遠心力]に基づいて算出された値を通液指数Fとする。上記試験用液体として、例えば、水を用いることができる。
上記通液試験において、遠心力が500Gのときの通液指数Fを、通液指数F500とし、遠心力が600Gのときの通液指数Fを、通液指数F600とし、遠心力が700Gのときの通液指数Fを、通液指数F700と表す。
本実施形態によれば、上記通液指数F700の上限値は、例えば、0.50以下であり、好ましくは0.40以下であり、より好ましくは0.30以下である。本発明者の知見によれば、通液指数F700が上記上限値以下の固相を使用することにより、100G以上の高G遠心分離条件下においても、固相から糖タンパク質が除去されることを抑制できるため、糖タンパク質捕捉効率を高めることができる。
一方で、上記通液指数F700の下限値は、例えば、0.01以上であり、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.10以上である。本発明者の知見によれば、通液指数F700が上記下限値以上の固相を使用することにより、100G以上の高G遠心分離条件下において、固相から溶媒などの不要成分を安定的に除去できるため、通液安定性を高めることができる。
本実施形態では、たとえば固相の種類、形状、サイズ等を適切に選択することにより、上記通液指数Fを制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、プロテインA等を結合させた担体(樹脂、シリカ等)を使用し、カラムまたはカートリッジ構造を採用すること等が、上記通液指数Fを所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
本実施形態の糖タンパク質精製方法の条件Bとして、捕捉工程において固相に糖タンパク質を捕捉する方法は、500G以上の遠心分離を行う工程を含むものとすることができる。これにより、さらなる高G遠心分離条件下において、糖タンパク質捕捉安定性を維持しつつも、通液安定性をさらに高めることが可能である。このため、糖タンパク質精製方法のプロセス安定性を高めることができる。
なお、条件Bの遠心分離の遠心力の上限値としては、特に限定されないが、例えば、例えば、2000G以下でもよく、1500G以下でもよく、1000G以下としてもよい。
本実施形態の糖タンパク質精製方法の条件Aとして、捕捉工程において使用する固相は、上記通液試験に基づいて測定された、|通液指数F500−通液指数F600|が0.001以上0.03以下を満たすものとすることができる。|通液指数F500−通液指数F600|は、高G遠心分離条件下における通液指数の変動量を表すものである。|通液指数F500−通液指数F600|を所望の数値範囲内とすることにより、糖タンパク質捕捉安定性を示す高G条件の許容範囲を広げることができるため、糖タンパク質精製方法のプロセス安定性を高めることができる。
なお、|通液指数F500−通液指数F600|の上限値は、例えば、0.03以下であり、好ましくは0.02以下であり、さらに好ましくは0.01以下である。|通液指数F500−通液指数F600|の下限値は、例えば、0.001以上であり、好ましくは0.003以上であり、さらに好ましくは0.005以上である。
・液体試料
上記液体試料としては、糖タンパク質を含有する液状試料であれば特に限定されないが、例えば、糖タンパク質とともに、水、緩衝液、有機溶媒等の溶媒を含むものであってもよい。
・固相
本実施形態において、糖タンパク質が固相に固定され得る固定の態様としては、特異的結合による非共有結合(水素結合及びイオン結合)、並びに共有結合が含まれ、例えば泳動ゲルにアプライ又はブロッティングメンブレンに転写されることより単に保持されるに過ぎない態様は含まれない。非共有結合による固定である場合、結合速度定数ka(単位M−1−1)が、例えば10以上、例えば10以上、例えば10〜10、例えば10〜10の親和性を有することが好ましい。
糖タンパク質を固定している固相は、糖タンパク質のタンパク質部分と非共有結合的又は共有結合的に連結しているリンカーを表面に有する担体であれば特に限定されない。
担体がその表面に有するリンカーとしては、例えば、糖タンパク質のタンパク質部分を捕捉可能なリガンドが挙げられる。リガンドとしては、糖タンパク質のタンパク質部分に親和性のある分子(以下、単に糖タンパク質に親和性のある分子という場合がある。)、イオン交換基又は疎水性基が表面に化学的に修飾された担体が挙げられる。
糖タンパク質に親和性のある分子は特に限定されず、捕捉すべき糖タンパク質に応じて当業者が容易に決定することができる。例えば、ペプチド性又はタンパク質性リガンド、アプタマー(糖タンパク質に特異的に結合可能な合成DNA、合成RNA又はペプチド)、化学合成性リガンド(チアゾール誘導体等)が挙げられる。
例えば、糖タンパク質が抗体である場合、糖タンパク質に親和性のある分子は、抗体又は抗体の定常領域であるFc含有分子に特異的に結合するものであってもよい。より具体的には、ペプチド性又はタンパク質性リガンドとして、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインD、プロテインArp等の微生物由来リガンド;それらのリガンドの組換え発現により得られる機能的改変体(類縁物質);抗体のFcレセプター等の組換えタンパク質等が挙げられる。これにより、糖鎖解析の重要性が特に高い抗体について、スループット性の高い糖鎖試料調製及び解析が可能となる。
イオン交換基は、イオン交換機能により糖タンパク質を捕捉可能であり、かつ、カウンターイオンによってイオン強度依存的に糖タンパク質を脱離可能である官能基であれば特に限定されない。好ましくは、カルボキシル基(より具体的には、カルボキシメチル基等)、スルホン酸基(より具体的には、スルホエチル基、スルホプロピル基等)等の陽イオン交換基が挙げられ、四級アミノ基等の陰イオン交換基であってもよい。
疎水性基としては、例えば、炭素数2〜8のアルキル基又はアリール基が挙げられる。より具体的には、ブチル基、フェニル基、オクチル基等が挙げられ、これらの基は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
担体がその表面に有するリンカーとしては、上記の他、糖タンパク質のタンパク質部分の構成要素であるC末端アミノ酸残基のC末端と共有結合した連結基であってもよい。このような連結基としては、ペプチド固相合成で用いられる固相表面修飾試薬であるアミノ基含有化合物から誘導される連結基が挙げられる。
担体は、水に不溶な基材であって、上記のリンカーを固定化できるものであれば特に限定されず、有機担体、無機担体及びそれらの複合担体が挙げられる。有機担体としては、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン等の合成高分子;架橋セファロース、結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アミロース、架橋アガロース、架橋デキストラン等の多糖類からなる担体が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無機担体としては、ガラスビーズ、シリカゲル、モノリスシリカ等が挙げられる。
有機担体が水を含みやすい性質であるのに対して、無機担体は水を含みにくい。本実施形態の方法では、固相上で種々の反応を行うため、水を含みにくい無機担体を用いることが好ましい。これにより、酵素及び/又は試薬の効果を希釈させないため好ましい。酵素及び/又は試薬の効果の希釈防止は、分析における不要なシグナルの検出の防止に寄与する。したがって、担体は無機担体であることが好ましい。また、担体が無機担体であると、例えば、糖鎖遊離酵素により担体の一部が遊離することがなく、糖由来の樹脂を使用した場合に初めから樹脂に残存する糖の溶出が起こることがない。このため、遊離された糖鎖の分析において、不要なシグナルの出現を抑制しやすい。
担体の形状としては特に限定されず、粒子状であってもよく、非粒子状であってもよい。粒子状の担体(ビーズ)の場合、多孔質担体であってもよい。粒子状の担体の場合、平均粒子径は例えば1〜100μmであってもよい。平均粒子径が上記下限値以上であることは、通液性の点で好ましく、上記上限値以下であることは、理論断数の低下を防ぐ点で好ましい。
非粒子状の担体としては、モノリスタイプのシリカゲル及び膜体等が挙げられる。モノリスタイプのシリカゲルは、マイクロメートルサイズの三次元網目状細孔(マクロ孔)と、ナノメートルサイズの細孔(メソ孔)とを有する、シリカゲルのバルク体である。マクロ孔の径は例えば1〜100μmであってもよく、1〜50μmであってもよく、1〜30μmであってもよく、1〜20μmであってもよい。マクロ孔が上記下限値以上であることは通液性の点で好ましく、上記上限値以下であることは、理論断数の低下を防ぐ点で好ましい。メソ孔の径は例えば1〜100nmであってもよく、1〜50nmであってもよい。これによって糖を効率的に捕捉することができる。
担体の使用体積(粒子状担体にあっては、担体自体の体積に、充填時の空隙の体積も含み、非粒子状担体にあっては、担体自体の体積に、メソ孔及びマクロ孔の体積も含む)は、例えば0.001〜0.1cmであってもよく、例えば0.001〜0.01cmであってもよい。上記下限値以上であることは、理論断数の低下を防ぐ点で好ましく、上記上限値以下であることは、通液性の点で好ましい。また、上記の体積であることにより、溶出後の分離液を、HPLC分析に適した濃度で得ることも容易となる。
本実施形態において、上記固相が、例えば、カラム構造またはカートリッジ構造を有することができる。このような固相は、上記非粒子状の担体で所定のフィルター形状を有するように構成されていており、容器の一部と一体化するように構成されていてもよく、また、個別の部材として着脱自在に容器内に固定されていてもよい。
上記固相は、カラム、マルチウェルプレートの各ウェル、フィルタープレートの各ウェル、マイクロチューブ等の容器の中に充填された状態で使用されてもよい。
[糖鎖を調製する方法]
以下、本実施形態の糖鎖を調製する方法の各工程について詳述する。
(遊離工程)
本実施形態の糖鎖を調製する方法の一例としては、上記の糖タンパク質精製方法で得られた固相に固定された状態の糖タンパク質(糖タンパク質を含有する試料)に、糖鎖遊離酵素を作用させることにより、糖鎖を含有する糖鎖含有サンプルを得る遊離工程を含むことができる。これにより、糖鎖の切出しを迅速に行うことができる。なお、上記の糖タンパク質精製方法で得られた固相から糖タンパク質を取り出し、糖鎖遊離酵素を作用させてもよい。
・糖タンパク質
本実施形態において、糖鎖は、糖タンパク質由来の糖鎖とすることできる。
上記糖タンパク質は、少なくとも糖鎖を複合成分として含むタンパク質であればよい。糖タンパク質の糖鎖部分は、N−結合型であってもよく、O−結合型であってもよい。また、糖鎖部分は、天然の構造を有していてもよいし、人工的に改変されていてもよい。また、糖鎖部分は、中性糖鎖であってもよいし、酸性糖鎖であってもよい。また、糖タンパク質における糖鎖結合部位は、天然物と同じ部位であってもよいし、天然物では糖鎖が結合していない部位であってもよい。
糖タンパク質のタンパク質部分は、変性前の状態において、糖鎖部分をその内部に取り込むようにフォールディングしていてもよい。このようなタンパク質部分の分子量は、例えば1kDa以上であってもよく、10kDa以上であってもよい。タンパク質部分の分子量範囲内の上限は特に限定されず、例えば1000kDaであってもよい。
具体的な糖タンパク質としては、例えば、抗体、ホルモン、酵素及びこれらを含む複合体からなる群より選ばれる生理活性物質が挙げられる。ここで、複合体としては、抗原と抗体との複合体、ホルモンと受容体との複合体、酵素と基質との複合体等が挙げられる。これらの糖タンパク質は、細胞培養工学的に調製される生理活性物質として利用することができる。
また、糖タンパク質が抗体を含むことができる。この抗体としては、例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE等の免疫グロブリン;Fab、F(ab’)、F(ab’)2、一本鎖抗体(scFv)、二重特異性抗体(diabody)等の低分子抗体;Fc領域と他の機能性タンパク質又はペプチドとの融合により構成されるFc融合タンパク質又はペプチド等のFc含有分子;放射性同位元素配位性キレート、ポリエチレングリコール等の化学修飾基を付加した化学的修飾抗体等が挙げられる。また、抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。
また、抗体は、抗体医薬品候補又は抗体医薬品であってもよい。抗体医薬品候補は、抗体医薬品の開発途上にある物質であり、抗体医薬品としての活性及び安全性等の評価に供される物質である。
・試料
本実施形態において、固相に固定された試料は、上記糖タンパク質を含むものである。
上記固相に固定された試料は、例えば、糖タンパク質を含む試料を固相に接触させて捕捉することにより得ることができる。固相に接触させるべき糖タンパク質を含む試料は、糖鎖調製を迅速に行う観点から、例えば、血液(例えば、血清、血漿)、リンパ液、腹腔浸出液、組織間液、脳脊髄液、腹水等の体液;B細胞、ハイブリドーマ、CHO細胞等の抗体産生細胞の培養上清;抗体産生細胞を移植した動物の腹水等を用いてもよい。試料は、培養上清等の細胞培養工学的な糖タンパク質の調製物のように、タンパク質部分が均一であり、かつ糖鎖部分が非均一である、糖タンパク質のバリエーションの混合物であってもよい。
固相に接触させるべき糖タンパク質を含む試料における糖タンパク質の濃度は特に限定されず、例えば、0.1μg/mL〜50mg/mLであってもよい。上記下限値以上であることは、検出の点で好ましく、上記上限値以下であることは、定量性の点で好ましい。
固相に接触させるべき糖タンパク質は、容器1つあたり0.001μg〜100mgであってもよく、0.001μg〜5mgであってもよい。糖タンパク質の量が上記下限値以上であることは検出の点で好ましい。本実施形態の方法は工程数が少なく試料のロスが非常に少ないため、糖タンパク質が小スケール(特に0.001〜500μg)である場合に特に有用である。糖タンパク質の量が上記上限値以下であることは、定量性の点で好ましい。
固相に固定された糖タンパク質を含む試料は、糖タンパク質の捕捉が完了した後、又は固相合成が完了した後に、洗浄処理が行われたものであってよい。これによって、糖タンパク質を固相に固定したまま、共雑物を除去することができる。洗浄は、固相に洗浄液を通液させることによって行うことができる。通液の方法としては、自然落下、吸引、加圧、遠心等の方法が挙げられる。
洗浄液としては、糖タンパク質のタンパク質部分と固相表面のリンカーとの結合を切断しない液性及び組成のものが当業者によって適宜選択される。具体的には、緩衝液その他の水溶液又は水であってもよい。水溶液を用いる場合、pHが5〜10であるものが好ましい。水溶液のpHがこの範囲内であれば、後の工程で用いる糖鎖遊離酵素の活性を保ちやすい。また、糖タンパク質が非共有結合によって固相に固定されている場合には、糖タンパク質の遊離を防止しやすい。緩衝液を用いる場合、緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等のアンモニウム塩;トリスヒドロキシメチルアンモニウム等のトリス緩衝剤;リン酸塩等が挙げられる。
本実施形態における上記遊離工程は、容器中で実施されてもよい。すなわち、固相に固定された糖タンパク質を含む試料は、容器内に用意されてもよい。固相に固定された糖タンパク質は、当該容器内で調製されることが効率的で好ましい。
上記遊離工程に使用する容器は、液体及び固相の保持並びに固相を保持した状態での液体の分離(通液)が可能な容器であれば特に限定されず、例えば、カラム、マルチウェルプレートの各ウェル、フィルタープレートの各ウェル、マイクロチューブ等が挙げられる。また、この容器は、チューブ形状を有していてもよく、具体的には、一端が開口されており他端が閉口されたチューブ形状を有していてもよい。開放された状態の容器は、一端側の開口がキャップされておらず、その容器の内部空間と外部空間とが連通した状態にある。
・糖鎖遊離酵素
本実施形態において、上記糖鎖遊離酵素としては、例えば、ペプチドN−グリカナーゼ(PNGase F、PNGase A)またはエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ(Endo−H、Endo−F、Endo−A、Endo−M)等が挙げられる。
糖鎖遊離酵素は、水又は緩衝液中に分散された状態で用意されてもよい。緩衝液を用いる場合、緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等が挙げられる。緩衝液は、pHが5〜10であるものが好ましい。緩衝液のpHがこの範囲内であると、糖鎖遊離酵素の活性を保ちやすい。水又は緩衝液は、糖鎖遊離酵素とともに、金属塩等の塩類等のタンパク質の安定化剤等の成分を含有していてもよい。
上記遊離工程は、脱糖鎖促進剤の存在下で行われてもよい。これによって、糖タンパク質から遊離した糖鎖を含む、糖鎖含有サンプルの回収率を向上させることができる。
・脱糖鎖促進剤
上記脱糖鎖促進剤は、酸由来型陰イオン性界面活性剤を含有することが好ましい。酸由来型陰イオン性界面活性剤により、糖タンパク質のタンパク質部分が変性して三次構造が変化し、糖鎖遊離酵素が分解標的部位に作用しやすくなる。これによって、糖部分が容易に分解されて遊離する。
酸由来型陰イオン性界面活性剤は、有機酸から誘導される陰イオン性界面活性剤である。例えば、カルボン酸型陰イオン性界面活性剤、スルホン酸型陰イオン性界面活性剤、硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤、リン酸エステル型陰イオン性界面活性剤等が挙げられる。中でも、カルボン酸型陰イオン性界面活性剤が好ましい。酸由来型陰イオン性界面活性剤がカルボン酸型陰イオン性界面活性剤であると、糖タンパク質のタンパク質部分を変性させるが、糖鎖遊離酵素を変性させにくい傾向にあると考えられる。
上記カルボン酸型陰イオン性界面活性剤としては、R−COOX(ここで、Rは有機基を表し、Xは水素原子又は陽イオンを表す。)で表されるカルボン酸及びカルボン酸塩、並びに、RCON(R)−R−COOX(ここで、Rは有機基を表し、−N(R)−R−COO−はアミノ酸残基を表し、Xは水素原子又は陽イオンを表す。)で表されるアミノ酸及びその塩(N−アシルアミノ酸系界面活性剤)等が挙げられる。中でも、RCON(R)−R−COOX(ここで、R1は有機基を表し、−N(R)−R−COO−はアミノ酸残基を表し、Xは水素原子又は陽イオンを表す。)で表されるアミノ酸及びその塩(N−アシルアミノ酸系界面活性剤)が好ましい。
陽イオンXとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、トリエタノールアミンイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。なお、以下の全ての酸由来型陰イオン性界面活性剤の例示において、「塩」は少なくともナトリウム塩、カリウム塩、トリエタノールアミン塩、アンモニウム塩を例示するものとする。
上記R−COOXで示されるカルボン酸塩において、有機基R1は、少なくとも炭素を有する基であり、高級アルキル基、高級不飽和炭化水素基、オキシアルキレン基が介在した炭化水素基、フッ素置換された高級アルキル基が挙げられる。
高級アルキル基及び高級不飽和炭化水素基の炭素数は6〜18であってもよい。このような高級アルキル基又は高級不飽和炭化水素基を有するカルボン酸型陰イオン性界面活性剤の具体例としては、オクタン酸塩、デカン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩等が挙げられる。また、上記の高級アルキル基及び高級不飽和炭化水素基は置換されていてもよく、置換基は炭素数が例えば1〜30のアルキル基又はアルコキシカルボニル基であってもよい。
オキシアルキレン基が介在した炭化水素基においては、1以上のオキシアルキレン基が主鎖に含まれていてもよい。オキシアルキレン基は、オキシエチレン基、オキシ−n−プロピレン基、オキシイソプロピレン基等が挙げられる。オキシアルキレン基が介在している炭化水素基としては、例えば、R−(CHCHO)n−R−で表される基が挙げられる。
ここで、Rは、高級アルキル基、高級不飽和炭化水素基、又は置換若しくは無置換のアリール基であってもよい。高級アルキル基及び高級不飽和炭化水素基の炭素数は6〜18であってもよい。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。置換アリール基の場合、置換基は直鎖又は分岐のアルキル基であってもよく、当該直鎖又は分岐のアルキル基の炭素数は1〜30であってもよい。特にフェニル基の場合、当該置換基はスルホニル基に対してパラ位で置換されていてもよい。また、nは、1〜10であってもよい。また、Rは、シグマ結合、又は、エチレン基、メチレン基、n−プロピレン基等のアルキレン基であってもよい。このようなカルボン酸塩の具体例としては、ラウレスカルボン酸塩(例えば、ラウレス−4−カルボン酸塩、ラウレス−6−カルボン酸塩)トリデセスカルボン酸塩(例えば、トリデセス−4−カルボン酸塩、トリデセス−6−カルボン酸塩)等が挙げられる。
フッ素置換された高級アルキル基においては、1以上の水素原子がフッ素原子で置換されている。フッ素置換された高級アルキル基は、全ての水素原子がフッ素で置換されたペルフルオロアルキル基であってもよい。また炭素数は、6〜18であってもよい。このようなペルフルオロアルキルカルボン酸及びペルフルオロアルキルカルボン酸塩の具体例としては、ペルフルオロオクタン酸、ペルフルオロノナン酸、ペルフルオロオクタン酸塩、ペルフルオロノナン酸塩等が挙げられる。
上記カルボン酸型陰イオン性界面活性剤−アミノ酸及びその塩において、RCON(R)−R−COOXで示されるアミノ酸又はその塩において、有機基R1及び陽イオンXは、上記のカルボン酸又はカルボン酸塩における有機基R及び陽イオンXと同様である。
また、Rは、水素原子又はアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等)である。Rは、置換又は無置換のエチレン基、メチレン基、n−プロピレン基等であってもよく、N末端側の窒素原子と共に環を形成していてもよい。したがって、−N(R)−R−COO−で示されるアミノ酸残基は、α−アミノ酸残基、β−アミノ酸残基、γ−アミノ酸残基等であってもよく、天然アミノ酸由来の残基であってもよく、非天然アミノ酸由来の残基であってもよい。例えば、サルコシン残基、グルタミン酸残基、グリシン残基、アスパラギン酸残基、プロリン残基、β−アラニン残基等のアミノ酸由来の残基が挙げられる。
が水素原子である場合の当該アミノ酸又はその塩(つまりN−アシルアミノ酸系界面活性剤)の具体例としては、N−ラウロイルアスパラギン酸塩、N−ラウロイルグルタミン酸、N−ラウロイルグルタミン酸塩、N−ミリストイルグルタミン酸塩、N−ココイルアラニン塩、N−ココイルグリシン塩、N−ココイルグルタミン酸塩、N−パルミトイルグルタミン酸塩、N−パルミトイルプロリン、N−パルミトイルプロリン塩、N−ウンデシレノイルグリシン、N−ウンデシレノイルグリシン塩、N−ステアロイルグルタミン塩等が挙げられる。酸由来型陰イオン性界面活性剤がN−アシルアミノ酸系界面活性剤であると、糖タンパク質のタンパク質部分をより変性させやすく、糖鎖遊離酵素を変性させにくい傾向がある。
がアルキル基である場合の当該アミノ酸又はその塩(つまりN−アシル−N−アルキルアミノ酸系界面活性剤)の具体例としては、N−ココイル−N−メチルアラニン、N−ココイル−N−メチルアラニン塩、N−ミリストイル−N−メチル−β−アラニン、N−ミリストイル−N−メチル−β−アラニン塩、N−ミリストイルサルコシン塩、N−ラウロイル−N−メチルアラニン、N−ラウロイル−N−メチルアラニン塩、N−ラウロイル−N−エチルグリシン、N−ラウロイル−N−イソプロピルグリシン塩、N−ラウロイル−N−メチル−β−アラニン、N−ラウロイル−N−メチル−β−アラニン塩、N−ラウロイル−N−エチル−β−アラニン、N−ラウロイル−N−エチル−β−アラニン塩、N−ラウロイルサルコシン、N−ラウロイルサルコシン塩、N−ココイルサルコシン、N−ココイルサルコシン塩、N−オレオイル−N−メチル−β−アラニン、N−オレオイル−N−メチル−β−アラニン塩、N−オレオイルサルコシン、N−オレオイルサルコシン塩、N−リノレイル−N−メチル−β−アラニン、N−パルミトイル−N−メチル−β−アラニン、N−パルミトイルサルコシン塩等が挙げられる。酸由来型陰イオン性界面活性剤がN−アシル−N−アルキルアミノ酸系界面活性剤であると、糖タンパク質のタンパク質部分をさらに変性させやすく、糖鎖遊離酵素を変性させにくい傾向がある。
上記スルホン酸型陰イオン性界面活性剤は、R−SOX(ここで、Rは有機基を表し、Xは水素原子又は陽イオンを表す。)で表されるスルホン酸又はスルホン酸塩である。有機基R1は、少なくとも炭素を有する基であり、高級アルキル基、高級不飽和炭化水素基、オキシアルキレン基が介在した炭化水素基、フッ素置換された高級アルキル基、置換又は無置換のアリール基、二価の連結基(例えば、−O−、−CO−、−CONH−、−NH−等)が介在した高級アルキル基又は高級不飽和炭化水素基等が挙げられる。
有機基Rのうち、高級アルキル基、高級不飽和炭化水素基、オキシアルキレン基が介在した炭化水素基、フッ素置換された高級アルキル基、及び陽イオンXについては、上記のカルボン酸又はカルボン酸塩における有機基R1及び陽イオンXと同様である。
具体的には、1−ヘキサンスルホン酸塩、1−オクタンスルホン酸塩、1−デカンスルホン酸塩、1−ドデカンスルホン酸塩;ペルフルオロブタンスルホン酸、ペルフルオロブタンスルホン酸塩、ペルフルオロオクタンスルホン酸、ペルフルオロオクタンスルホン酸塩;テトラデセンスルホン酸塩;アルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩(CH(CHCH(SOX)COOCH)等(nは、1〜30の整数)が挙げられる。
有機基Rが置換又は無置換のアリール基である場合、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。置換アリール基の場合、置換基は直鎖又は分岐のアルキル基であってもよく、当該直鎖又は分岐のアルキル基の炭素数は1〜30であってもよい。特にフェニル基の場合、当該置換基はスルホニル基に対してパラ位で置換されていてもよい。このような芳香属系スルホン酸塩としては、トルエンスルホン酸塩、クメンスルホン酸塩、オクチルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンジスルホン酸塩、ナフタレントリスルホン酸塩、ブチルナフタレンスルホン酸塩等が挙げられる。
有機基Rが、二価の連結基(例えば、−O−、−CO−、−CONH−、−NH−等)が介在した高級アルキル基又は高級不飽和炭化水素基である場合のスルホン酸型界面活性剤としては、当該高級アルキル基又は高級不飽和炭化水素基でO−置換されたイセチオン酸塩、当該高級アルキル基又は高級不飽和炭化水素基でN−置換されたタウリン塩等が挙げられる。当該高級アルキル基又は高級不飽和炭化水素基の炭素数は、6〜18であってもよい。このようなスルホン酸型界面活性剤の具体例としては、ココイルイセチオン酸塩、ココイルタウリン塩、ココイル−N−メチルタウリン、N−オレオイル−N−メチルタウリン塩、N−ステアロイル−N−メチルタウリン塩、N−ラウロイル−N−メチルタウリン塩等が挙げられる。
上記硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤は、R−OSOX(ここで、Rは有機基を表し、Xは陽イオンを表す。)で表される硫酸エステル塩である。有機基Rは、少なくとも炭素を有する基であり、高級アルキル基、高級不飽和炭化水素基、オキシアルキレン基が介在した炭化水素基、フッ素置換された高級アルキル基であり、それぞれ、上述のカルボン型界面活性剤におけるRと同じである。陽イオンXとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、トリエタノールアミンイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。
硫酸エステル塩の具体例としては、ラウリル硫酸塩、ミリスチル硫酸塩、ラウレス硫酸塩(C1225(CHCH2OOSOX、ここで、nは1〜30の整数)、ポリオキシエチレンアルキルフェノールスルホン酸ナトリウム(C174O[CHCH2OSOX)等が挙げられる。
上記リン酸エステル型陰イオン性界面活性剤は、R−OSOX(ここで、R1は有機基を表し、Xは水素原子又は陽イオンを表す。)で表されるリン酸エステル又はリン酸エステル塩である。有機基Rは、少なくとも炭素を有する基であり、高級アルキル基、高級不飽和炭化水素基、オキシアルキレン基が介在した炭化水素基、フッ素置換された高級アルキル基であり、それぞれ、上述のカルボン型界面活性剤におけるR1と同様である。陽イオンXとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、トリエタノールアミンイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。
リン酸エステル又はリン酸エステル塩の具体例としては、ラウリルリン酸、ラウリルリン酸塩等が挙げられる。
上記脱糖鎖促進剤は、水又は緩衝液中に酸由来型陰イオン性界面活性剤が溶解又は分散された状態で用意されてもよい。緩衝液を用いる場合、緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等のアンモニウム塩;トリスヒドロキシメチルアンモニウム等のトリス緩衝剤;リン酸塩等が挙げられる。緩衝液は、pHが5〜10であるものが好ましい。緩衝液のpHがこの範囲内であると、糖鎖遊離酵素の活性を保ちやすい。脱糖鎖促進剤において、水又は緩衝液中に含まれる酸由来型陰イオン性界面活性剤以外の成分としては、界面活性剤以外の金属塩等の塩類が挙げられる。
本実施形態における遊離工程では、糖鎖遊離酵素の至適条件(温度及びpH)が満たされた、糖タンパク質と糖鎖遊離酵素とを含む遊離反応液が調製されればよい。
脱糖鎖促進剤を用いる場合は、糖鎖遊離酵素の至適条件(温度及びpH)が満たされた、糖タンパク質と酸由来型陰イオン性界面活性剤と糖鎖遊離酵素とを含む遊離反応液が調製されればよい。したがって、脱糖鎖促進剤を用いる場合には、固定された糖タンパク質を含む試料(以下、単に糖タンパク質を含む試料という場合がある。)、脱糖鎖促進剤、及び糖鎖遊離酵素はどのような操作手順で混合されてもよい。
例えば、糖タンパク質を含む試料と、脱糖鎖促進剤と、糖鎖遊離酵素とを同じタイミングで互いに混合して遊離反応液を調製してもよい。また、先に脱糖鎖促進剤を加え、その後に糖鎖遊離酵素を加えることで遊離反応液を調製してもよい。さらに、固相に固定された糖タンパク質が後述する前処理を経て得られたものである場合で、かつ、脱糖鎖促進剤と前処理に用いられる界面活性剤とが同一物質である場合には、前処理の時に、脱糖鎖促進剤に相当する分量の界面活性剤を、前処理剤に相当する分量の界面活性剤に上乗せして先に加えておき、引き続く遊離工程で(すでに脱糖鎖促進剤が存在している状態であるため)糖鎖遊離酵素のみを加えてもよい。
具体的には、すべての成分を混合させた遊離反応液を調製し、その後、至適温度に設定して、糖タンパク質から糖鎖を遊離させる反応を行うことができる。この場合、反応時間は例えば5秒〜24時間であってもよい。
脱糖鎖促進剤を用いる場合には、糖タンパク質を含む試料と、酸由来型陰イオン性界面活性剤とを先に混合して糖タンパク質のタンパク質部分を変性させた後に、糖鎖遊離酵素と混合してもよい。この場合、変性時間は例えば5秒〜24時間であってもよく、糖鎖遊離時間は例えば5秒〜24時間であってもよい。
遊離反応液において、糖タンパク質の濃度は、例えば0.1μg/mL〜100mg/mLであってもよく、例えば1μg/mL〜10mg/mLであってもよい。遊離反応液中の糖タンパク質の濃度が上記下限値以上であることは、検出性の点で好ましく、上記上限値以下であることは、定量性の点で好ましい。
脱糖鎖促進剤を用いる場合、遊離反応液において、酸由来型陰イオン性界面活性剤の濃度は、例えば0.01〜30質量%であってもよく、例えば0.2〜1.0質量%であってもよく、例えば0.2〜0.3質量%であってもよく、例えば0.22〜0.27質量%であってもよい。あるいは、酸由来型陰イオン性界面活性剤は、糖タンパク質1μgに対して0.001μg〜100mg以下となるように用いてもよい。
酸由来型陰イオン性界面活性剤の使用量を上記の範囲に設定することによって、糖鎖遊離酵素の活性維持の点及び遊離糖鎖の回収量の点で良好となり、かつ、回収量の安定性の点でも良好となる。また、例えば遊離糖鎖の精製を固相担体によって行う場合に、乾燥時間の冗長を防止する点でも好ましい。
遊離反応液において、糖鎖遊離酵素の濃度は、例えば0.001μU/mL〜1000mU/mLであってもよく、例えば0.01μU/mL〜100mU/mLであってもよい。あるいは、糖鎖遊離酵素を糖タンパク質1μgに対して0.001μU〜1000mUとなるように用いてもよい。糖鎖遊離酵素の使用量を上記の範囲に設定することによって、効率的な糖鎖遊離が可能となる。
反応pHは、糖鎖遊離酵素の至適pHに合わせればよいが、例えば5〜10であってもよい。反応温度も、糖鎖遊離酵素の至適温度に合わせればよいが、例えば4〜90℃であってもよい。
上記遊離工程において、反応時間は、糖タンパク質のスケール等にもよるが、例えば5秒〜24時間であってもよい。好ましくは、遊離工程の反応系を開放系(例えば、容器を開放した状態)にして溶媒が蒸発するように加熱してもよい。また、閉鎖(キャップ)した状態で容器を加熱した後、開放した状態の容器中の溶媒について、公知方法で乾燥して除去してもよい。加熱温度としては、例えば40℃以上、例えば45℃以上であってもよい。これによって、遊離工程の進行中に溶媒が蒸発して反応液の濃度が徐々に上昇するため、本実施形態の方法に供された糖タンパク質のスケールにかかわらず、糖鎖遊離が効率的に進む濃度に供することが容易である。さらに、遊離反応とともに溶媒除去が併せて行われるため、遊離工程と別に溶媒除去工程を行うための時間が短縮され又は不要となり、更に迅速な糖鎖調製が可能となる。加熱温度の範囲内の上限としては、糖鎖遊離酵素の変性を防ぐ観点から、例えば80℃であってもよい。
以上により、上記遊離工程によって、試料中の糖タンパク質から分離した糖鎖を含有する糖鎖含有サンプルが得られる。
(前処理工程)
本実施形態の糖鎖を調製する方法の一例としては、上記遊離工程の前に、試料に対して、界面活性剤または、塩化グアニジン・グアニジンチオシアネート・グアニジン塩酸塩等のグアニジン塩・尿素などのカオトロピック試薬を含む、前処理剤を接触させる前処理工程をさらに有してもよい。
これにより、タンパク質部分の分解処理を行うことなく、糖タンパク質からの糖鎖の遊離が容易になる。その結果、糖鎖遊離処理に要する時間を大幅に短縮することができる。
前処理工程では、固相に固定された糖タンパク質を含む試料に界面活性剤を含む前処理剤を接触させてもよい。前処理工程は、糖タンパク質を含む試料を固相に接触させ糖タンパク質の捕捉が完了した後、又は、固相合成が完了した後若しくは更に洗浄処理が行われた後であって、糖鎖遊離酵素に接触させられる前に行われてもよい。前処理工程を実施することにより、遊離工程において糖タンパク質に糖鎖遊離酵素が作用しやすくなる。
前処理剤に含まれる界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤のいずれであってもよい。
陰イオン界面活性剤としては特に限定されず、石鹸等の脂肪酸の塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル、α−オレフィンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩等が挙げられるが、後の糖鎖遊離工程で用いられる脱糖鎖促進剤として用いることができる陰イオン性界面活性剤(本明細書では、脱糖鎖促進剤としても用いることができる陰イオン性界面活性剤を、特に酸由来型陰イオン性界面活性剤という。)であることが好ましい。酸由来型陰イオン性界面活性剤を前処理工程で用いる場合、糖鎖遊離工程で用いられる脱糖鎖促進剤として挙げた界面活性剤と同じ界面活性剤であってもよいし、異なる界面活性剤であってもよい。
陽イオン界面活性剤としては特に限定されず、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アミン塩系等が挙げられる。両性界面活性剤としては特に限定されず、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。非イオン界面活性剤としては特に限定されず、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。
前処理剤は、界面活性剤が、水又は緩衝液中に溶解した状態で用いられてもよい。緩衝液を用いる場合、緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等のアンモニウム塩;トリスヒドロキシメチルアンモニウム等のトリス緩衝剤;リン酸塩等が挙げられる。緩衝液は、pHが5〜10であるものが好ましい。緩衝液のpHがこの範囲内であると、後の工程で用いる糖鎖遊離酵素の活性を保ちやすい。糖タンパク質を含む試料において、水又は緩衝液中に含まれる糖タンパク質以外の成分としては、金属塩等の塩類等のタンパク質の安定化剤等が挙げられる。
前処理剤中の界面活性剤の濃度は、例えば0.01〜30質量%であってもよく、例えば0.2〜1.0質量%であってもよく、例えば0.2〜0.3質量%であってもよく、例えば0.22〜0.27質量%であってもよい。当該濃度が上記下限値以上であること、及び上記上限値以下であることによって、後の糖鎖遊離工程において遊離させた糖鎖を、良好な回収率で得ることができる。
前処理剤は、固相に接触させた後は、固相に固定された糖タンパク質から分離され得る。分離は、所定の使用量の全てを容器内に入れた後に一度に行ってもよいし、所定の使用量の一部を何回かに分けて入れ、その都度行ってもよい。前処理剤の分離は、減圧又は遠心分離等によって行うことができる。
前処理工程を終えた固相に固定された糖タンパク質は、迅速調製の観点で、洗浄されることなく遊離工程に供してもよいが、前処理工程の後、遊離工程の前に洗浄操作を行ってもよい。洗浄操作は、各操作の間に適宜実施してもよい。
(標識工程)
次に、本実施形態の糖鎖を調製する方法の一例としては、糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る標識工程を有することができる。当該標識工程は、標識試薬と糖鎖との反応を容器内で行うことができる。また、標識工程は、遊離工程を行った容器と同じ容器を用いて実施してもよい。
このような標識工程では、遊離工程で得られた容器中の糖鎖を含有する糖鎖含有サンプルに、標識化合物を含む標識試薬(標識反応液)を加え、糖鎖の標識体を含む標識生成物を得ることができる。
・標識化合物
上記標識化合物は、糖鎖に対する反応性基と、糖鎖に付すべき修飾基とを有するものであれば特に限定されない。糖鎖に対する反応性基としては、オキシルアミノ基、ヒドラジド基、アミノ基等が挙げられる。修飾基は、糖鎖の分析手法に応じて当業者が適宜選択することができる。
例えば、標識化合物が、糖鎖への反応性基としてオキシルアミノ基又はヒドラジド基を有する場合、糖鎖に付すべき修飾基としては、例えば、アルギニン残基、トリプトファン残基、フェニルアラニン残基、チロシン残基、システイン残基、リジン残基からなる群より選ばれるアミノ酸残基を選択することができる。
標識化合物がアルギニン残基を含む場合、修飾された糖鎖のMALDITOF−MS測定時にイオン化が促進され、検出感度が向上する点で好ましい。標識化合物がトリプトファン残基を含む場合、当該残基は蛍光性かつ疎水性であることから、修飾された糖鎖の逆相HPLC検出時に、分離性が向上及び蛍光検出感度が向上する点で好ましい。標識化合物がフェニルアラニン残基及び/又はチロシン残基を含む場合、修飾された糖鎖のUV吸収による検出に適する点で好ましい。標識化合物がシステイン残基を含む場合、当該残基の−SH基を標的としてICAT試薬(米国ABI社)等のラベル化試薬によるラベル化ができる。標識化合物がリジン残基を含む場合、当該残基のアミノ基を標的としてiTRAQ試薬(米国Applied Biosystems社)、ExacTag試薬(米国Perkin社)等のラベル化試薬によるラベル化ができる。標識化合物がトリプトファン残基を含む場合、当該残基のインドール基を標的としてNBS試薬(日本国、島津製作所)によるラベル化ができる。
また、例えば、標識化合物が糖鎖への反応性基としてアミノ基を有する場合、標識化合物として、紫外線吸収特性または蛍光特性を有するアミノ基を有する化合物を用いることができる。このアミノ基を有する化合物において、糖鎖に付すべき修飾基としては、芳香族基が挙げられる。アミノ基及び芳香族基を有する標識化合物の使用では、還元アミノ化による修飾が行われる。芳香族基は、紫外可視吸収特性又は蛍光特性を有するため、UV検出又は蛍光検出での検出感度が向上する点で好ましい。
このような芳香族基を与える標識化合物としては、具体的には、8−aminopyrene−1,3,6−trisulfonate,8−aminonaphthalene−1,3,6−trisulphonate,7−amino−1,3−naphtalenedisulfonic acid,2−amino9(10H)−acridone,5−aminofluorescein,dansylethylenediamine,2−aminopyridine,7−amino−4−methylcoumarine,2−aminobenzamide,2−aminobenzoic acid,3−aminobenzoic acid,7−amino−1−naphthol,3−(acetylamino)−6−aminoacridine,2−amino−6−cyanoethylpyridine,ethyl p−aminobenzoate,p−aminobenzonitrile及び7−aminonaphthalene−1,3−disulfonic acidが挙げられる。
中でも、アミノ基を有する化合物としては、2−アミノベンズアミド(2−aminobenzamide)を含むことができる。2−アミノベンズアミドは、反応スケールが大きい場合であっても夾雑物(例えば、塩、タンパク質その他の生体分子)の影響を比較的受けにくい点で好ましい場合がある。一方、本実施形態の方法は、反応スケールが小さい場合に特に有用である。反応スケールが小さいほど夾雑物の影響を受けにくくなるため、より多種多様の標識試薬(標識反応液)へ適用することができる。なお、標識化合物としての機能が維持される限りにおいて、上述の化合物の誘導体もまた好ましく用いられる。
標識化合物は、水、緩衝液及び/又は有機溶媒に溶解させて使用され得る。緩衝液としては、前述の遊離工程で用いられるものと同様の緩衝剤の水溶液が挙げられる。
・標識試薬
本実施形態の標識試薬は、紫外線吸収特性または蛍光特性を有するアミノ基を有する化合物等の標識化合物、還元剤及び有機溶媒を含むことができる。
上記有機溶媒は、非プロトン性極性有機溶媒、プロトン性極性有機溶媒および非プロトン性非極性溶媒有機溶媒からなる群から選択される一種以上を含むことができる。
具体的には、有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性有機溶媒、有機酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等)及びアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール等)等のプロトン性極性有機溶媒、並びにヘキサン等の非プロトン性非極性溶媒有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
標識工程に要する時間の短縮効果をより好ましく得る観点から、有機溶媒として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の有機酸を用いることができる。中でも、操作容易性の観点から、有機酸として酢酸を用いることができる。
プロトン性極性有機溶媒の沸点が比較的低い場合(例えば沸点が140℃未満である場合)、プロトン性溶媒に加えて、当該プロトン性溶媒よりも沸点が高い溶媒を併用してもよい。これによって、標識工程における上記の比較的沸点が低いプロトン性極性有機溶媒の揮発速度を遅延させることができる。その結果、標識工程中に、未反応物の不所望の析出を抑制することができる。このことによって、収量よく標識糖鎖を得ることができる。このような沸点が高い溶媒(以下、高沸点溶媒と記載する。)を併用する態様は、糖鎖のスケールが小さい場合、溶媒の量が少ない場合、及び/又は、反応時間が長くなる場合に選択することができる。
上述の高沸点溶媒としては、例えば沸点140〜200℃の非プロトン性極性有機溶媒であってもよい。具体的な高沸点溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性有機溶媒が挙げられる。
高沸点溶媒として非プロトン性極性有機溶媒を併用する場合、その量は、標識化合物である2−アミノベンズアミドや還元剤の溶解性・反応性を向上させるという観点から、プロトン性極性有機溶媒よりも体積%が低いことが好ましく、プロトン性極性有機溶媒の4体積%以上100体積%未満であってもよく、4〜70体積%であってもよい。
還元アミノ化による修飾においては、糖鎖の還元末端に形成されるアルデヒド基と標識化合物のアミノ基とを反応させ、形成されたシッフ塩基を還元剤により還元することで糖鎖の還元末端に修飾基が導入されることで、効率的な標識が可能となる。
上記還元剤としては、例えば、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム、メチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、ピコリンボランおよびピリジンボランからなる群から選択される一種以上を含むことができる。毒性の低いピコリンボランを用いることにより、安全性の高い標識が可能となる。
安全性及び反応性の両方の観点から、ピコリンボラン(2−ピコリン−ボラン)を用いることが好ましい。同様の観点から、ピコリンボランを還元剤として用いる場合、標識化合物としては例えば2−アミノベンズアミドを用いることが好ましい。また、還元剤としてピコリンボランを用いた場合は、溶媒としてプロトン性極性有機溶媒を含むことが好ましい。これにより、ピコリンボランを高濃度で溶解することができるため、標識工程に要する時間が短縮される。溶媒として、酢酸等のプロトン性極性有機溶媒とジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。
上記標識工程において、標識試薬と糖鎖との反応環境は、固相中に存在してもよいが、これに限定されず、固相中ではなく容器内の底部表面上の液相中に存在してもよい。
また、本実施形態の方法の一例としては、例えば、標識工程において、容器を開放又は密閉した状態で、糖鎖含有サンプルに標識試薬を加えてもよい。このとき、糖鎖含有サンプルや標識試薬を容器外の外部環境に曝してもよい。
標識工程における反応温度は、例えば4℃〜80℃であってもよく、例えば25℃〜70℃であってもよい。反応温度が上記下限値以上であることは反応時間が短くなる点で好ましく、上記上限値以下であることは高温による糖鎖の部分分解が抑制される点で好ましい。
また、標識工程における反応時間は、例えば5分〜600分であってもよく、例えば30分〜300分であってもよい。反応時間が上記下限値以上であることは定量的な標識の点で好ましく、上記上限値以下であることは糖鎖の部分分解が抑制される点で好ましい。
このような加熱処理は、開放系の状態または閉鎖系の状態のいずれの容器を用いて実施してもよい。
以上の標識工程によって、糖鎖の標識体を含む標識生成物を得ることができる。
(分離工程)
上記標識工程で得られた標識生成物が固相中に存在する場合、標識工程の後に、固液分離によって、標識された糖鎖を含む分離液を得る分離工程をさらに有することができる。すなわち、固液分離によって、糖鎖の標識体を溶出することにより、固相から、糖鎖の標識体を容易に分離することができる。例えば、標識生成物に溶離液を通液することで、糖鎖の標識体を溶出することができる。この場合に用いる溶離液は、水、水溶液、コロイド溶液等の水系溶液であってよい。溶離液として、固相とタンパク質部分との結合に対する切断能を有する性質を具備するものを選択してもよい(標識糖鎖の分析を例えばクロマトグラフィーによって行う場合等)し、そのような性質を具備しないものを選択してもよい(標識糖鎖の分析を例えば質量分析によって行う場合等)。これによって、糖鎖の標識体を含む分離液が得られる。
また、上記分離工程は、遊離工程の後、標識工程前に実施してもよい。これにより、固液分離によって、糖鎖を含む糖鎖含有サンプルを容器内の底部に溶出させることができる。
また、分離液から不要物を除去する精製を実施してもよい。不要物の除去は、分離液を精製用固相に通液して糖鎖の標識体を捕捉し、捕捉された糖鎖の標識体を再溶出することで行われてよい。
分離液中には、糖鎖の標識体とともに、標識工程で用いた余剰の標識化合物、及び遊離工程で脱糖鎖促進剤を用いた場合には、酸由来型陰イオン性界面活性剤等の不要物が存在している。溶離液として、固相とタンパク質部分との結合に対する切断能を有するものを選択した場合は、分離液中にタンパク質も混入する。このような場合、上記の精製工程を実施することができる。なお、溶離液として、固相とタンパク質部分との結合に対する切断能を有さないものを選択した場合は、分離液中にタンパク質は実質的に含まれない。
また、上記の精製の他に、洗浄、遠心等の公知の処理については、前処理工程、遊離工程、分離工程、標識工程等の各工程の間、前後において、適宜実施することができる。
(分析工程)
本実施形態の方法によって調製された糖鎖の標識体は、質量分析法(例えば、MALDI−TOF MS)、クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィーやHPAE−PADクロマトグラフィー)、電気泳動(例えば、キャピラリ電気泳動)等の公知の方法により、定性的及び/又は定量的に分析することができる。糖鎖の分析においては、各種データベース(例えば、GlycoMod、Glycosuite、SimGlycan(登録商標)等)を利用することができる。
このような糖タンパク質の糖鎖分析によって、例えば、抗体医薬品の研究開発、製造及び品質保証等の際に行われる抗体医薬品の糖鎖修飾分析;糖鎖バイオマーカーの検索研究等の際に行われる血清等の検体中の糖タンパク質の分析;幹細胞の糖鎖分析;電気泳動ゲルバンド中の糖鎖分析;植物組織の糖鎖分析等を迅速に行うことが可能となる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
<固相の準備>
抗体精製用の固相の複数種を用意し、下記の測定手順に従って、それぞれの通液指数Fを測定した。測定結果から、通液指数F700が基準値以下を満たす固相Aを選択し、通液指数F700が基準値以下を満たさない固相Bを選択することにより固相を準備した。
なお、基準値を0.50に設定した。
(通液指数Fの測定手順)
容器(スピンカラム)中の固相を設置し、当該固相上に、所定量の試験用液体(水)を入れた。続いて、700Gの遠心力、1分の条件で遠心分離を行った。その後、試験用液体(水)が当該固相を通液した通液量(μl)を測定した。この操作を3回繰り返し行い、得られた通液量(μl)の平均値を、遠心力の値700(G)で除することで算出された値を、通液指数F700とした。
また、遠心力を500G、600Gに変更した以外は、通液指数F700の測定手順と同様にして、通液指数F500、通液指数F600を算出した。結果を表1に示す。
Figure 2019167323
(糖タンパク質捕捉効率の評価)
得られた固相A、Bをそれぞれ容器(スピンカラム)に設置し、容器中の固相上に免疫グロブリンG溶液(抗体:40μg/溶媒:600μl)を添加した。下記の条件1〜4の各々で遠心分離を実施した後、固相を通液した溶液に含まれる抗体量をSDS−PAGEにより評価した。なお、SDS−PAGEにおいて、ゲルに、通液した溶液を15μl添加した。
・遠心分離条件
条件1:500G/3分
条件2:1000G/3分
条件3:3000G/3分
条件4:5000G/3分
SDS−PAGEの結果、タンパク質を一様に染色するゲルコードブルー染色試薬を用いて染色した結果、免疫グロブリンGの重鎖(50kD)と軽鎖(25kD)のバンドが確認された。このとき、固相A、固相Bのいずれでも遠心分離条件が高Gになるにつれてバンドの濃さが濃くなることを確認したが、固相Aは、固相Bと比べて、上記の条件1〜4のいずれのバンドの濃さも薄いことが判明した。
[糖タンパク質の精製]
(実施例1、2)
固相Aを用い、容器(スピンカラム)に設置し、容器中の固相上に免疫グロブリンG溶液(抗体:40μg/溶媒:600μl)を添加した。500G/3分、および700G/3分の条件で遠心分離を実施し、抗体を固相Aに捕捉させることにより、抗体を精製した。
(比較例1、2)
固相Aに変えて固相Bを使用した以外、実施例1と同様にして、抗体を精製した。
実施例1、2および比較例1、2のいずれも、固相から通液された溶液の通液量は実用上問題ないレベルであったため通液安定性に優れることが分かった。一方、上記<糖タンパク質捕捉効率の評価>のSDS−PAGEと同様にして評価した結果、実施例1、2は、500G、700Gのいずれでも、同じ遠心分離条件の比較例1、2よりバンドの濃さが薄かったことから、高Gでは固相の抗体捕捉効率が優れていることが分かった。評価結果を表2に示す。
(比較例3)
遠心分離条件を50G/3分に変更した以外、実施例1と同様にして、抗体を精製した。
比較例3の通液量は、実施例1と比べて低下しており、実用上不十分であることが分かった。
Figure 2019167323
以上より、実施例1、2の糖タンパク質精製方法は、比較例1、2と比べて、高G遠心分離条件下での糖タンパク質捕捉効率に優れており、比較例3と比べて通液安定性に優れることが分かった。

Claims (13)

  1. 糖タンパク質と溶媒とを含む液体試料を固相に通液して、前記固相に前記糖タンパク質を捕捉する捕捉工程を含む、糖タンパク質精製方法であって、
    前記捕捉工程は、以下の条件Aおよび条件Bを満たすものである、糖タンパク質精製方法。
    ・条件A:前記捕捉工程において使用する前記固相は、下記の通液試験に基づいて測定された通液指数F700が0.01以上0.50以下を満たすものであること。
    (通液試験)
    容器中の前記固相上に試験用液体を入れ、所定の遠心力(G)、1分の条件で遠心分離を行った後、前記試験用液体が前記固相を通液した通液量(μl)を測定する。そして、遠心力(G)あたりの通液量(μl)として、式:[通液量/遠心力]に基づいて算出された値を通液指数Fとする。
    上記通液試験において、遠心力が700Gのときの通液指数Fを、通液指数F700とする。
    ・条件B:前記捕捉工程において前記固相に前記糖タンパク質を捕捉する方法は、100G以上の遠心分離を行う工程を含むこと。
  2. 請求項1に記載の糖タンパク質精製方法であって、
    前記条件Bとして、前記捕捉工程において前記固相に前記糖タンパク質を捕捉する方法は、500G以上の遠心分離を行う工程を含むものである、糖タンパク質精製方法。
  3. 請求項1または2に記載の糖タンパク質精製方法であって、
    前記条件Aとして、前記捕捉工程において使用する前記固相は、下記の通液試験に基づいて測定された、|通液指数F500−通液指数F600|が0.001以上0.03以下を満たすものである、糖タンパク質精製方法。
    (通液試験)
    上記通液試験において、遠心力が500Gのときの通液指数Fを、通液指数F500とする。
    上記通液試験において、遠心力が600Gのときの通液指数Fを、通液指数F600とする。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載の糖タンパク質精製方法であって、
    前記固相が、カラムまたはカートリッジ構造を有する、糖タンパク質精製方法。
  5. 請求項1から4のいずれか1項に記載の糖タンパク質精製方法であって、
    前記固相が、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインDおよびプロテインArpからなる群から選択される一種以上を含む、糖タンパク質精製方法。
  6. 請求項1から5のいずれか1項に記載の糖タンパク質精製方法で得られた前記固相に固定された状態の前記糖タンパク質に、糖鎖遊離酵素を作用させることにより、糖鎖を含有する糖鎖含有サンプルを得る遊離工程を含む、糖鎖を調製する方法。
  7. 請求項6に記載の糖鎖を調製する方法であって、
    前記糖鎖遊離酵素が、ペプチドN−グリカナーゼまたはエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼを含む、糖鎖を調製する方法。
  8. 請求項6または7に記載の糖鎖を調製する方法であって、
    前記糖鎖を含有する糖鎖含有サンプルに標識試薬を加えることにより、前記糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る標識工程を有する、糖鎖を調製する方法。
  9. 請求項8に記載の糖鎖を調製する方法であって、
    前記標識試薬が、紫外線吸収特性または蛍光特性を有するアミノ基を有する化合物、還元剤及び有機溶媒を含む、糖鎖を調製する方法。
  10. 請求項9に記載の糖鎖を調製する方法であって、
    前記アミノ基を有する化合物が、2−アミノベンズアミドを含む、糖鎖を調製する方法。
  11. 請求項9または10に記載の糖鎖を調製する方法であって、
    前記還元剤が、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム、メチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、ピコリンボラン、およびピリジンボランからなる群から選択される一種以上を含む、糖鎖を調製する方法。
  12. 請求項9から11のいずれか1項に記載の糖鎖を調製する方法であって、
    前記有機溶媒が、非プロトン性極性有機溶媒、プロトン性極性有機溶媒および非プロトン性非極性溶媒有機溶媒からなる群から選択される一種以上を含む、糖鎖を調製する方法。
  13. 請求項6から12のいずれか1項に記載の糖鎖を調製する方法であって、
    前記糖タンパク質が抗体である、糖鎖を調製する方法。
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