以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図1は、本発明の第1実施形態によるノック式筆記具1の斜視図であり、図2は、図1のノック式筆記具1の非筆記状態の縦断面図であり、図3は、図1のノック式筆記具1の筆記状態の縦断面図であり、図4は、図1のノック式筆記具1の後部の拡大図である。なお、図4において、後軸3は省略されている。また、図4において後述する軸筒4側の第3係止突起部50が仮想的に示されている。
ノック式筆記具1は、筒状に形成され且つ前軸2及び後軸3を備えた軸筒4と、軸筒4内に配置され且つ一端に筆記部5aを備えた筆記体であるリフィル5と、リフィル5を後方へ付勢する弾性部材であるスプリング6と、後軸3の後端部に嵌合する尾栓7とを有している。前軸2の前端部には、リフィル5の筆記部5aを突出させるための貫通孔が形成されている。前軸2の後端部は、後軸3の前端部と螺合している。前軸2及び後軸3、さらには後述する実施形態では内筒を含め、軸筒と称してもよい。なお、本明細書では、ノック式筆記具1の軸線方向において、筆記部5a側を「前」側と規定し、他端である尾栓7側を「後」側と規定する。
ノック式筆記具1は、さらに、ノックボタン10と、摺動部材20と、係止部材30と、保持部材40とを有している。ノック式筆記具1では、ノックボタン10のノック操作によって、リフィル5が軸筒4内を前後方向に移動する。筆記部5aが軸筒4内に没入した状態を非筆記状態(図1及び図2)と称し、筆記部5aが軸筒4から突出した状態を筆記状態(図3)と称す。図4(A)は非筆記状態のノック式筆記具1であり、図4(B)は筆記状態のノック式筆記具1である。
図5は、図1のノック式筆記具1のノックボタン10の斜視図である。ノックボタン10は、図5において、下方が前側となるようにノック式筆記具1に配置される。ノックボタン10は、細長い板状のボタン本体11を有している。ボタン本体11の一方の面には隆起部12が形成され、ボタン本体11の他方の面には垂直に突出する嵌合部13が形成されている。隆起部12は、使用者がノック操作に際に直接触れる部分であり、嵌合部13は、後述するように、摺動部材20に嵌合する部分である。
図6は、図1のノック式筆記具1の摺動部材20の斜視図である。摺動部材20は、図6において、下方が前側となるようにノック式筆記具1に配置される。摺動部材20は、筒状の部材である。摺動部材20の前部には、屈曲した形状の2つの屈曲溝22が軸対称に形成されている。屈曲溝22は、摺動部材20の前端面21から後方に向かって延びた後に屈曲し、周方向に延びている。2つの屈曲溝22の間の一方の摺動部材20の外周面には、ノックボタン10の嵌合部13が嵌合する嵌合孔23が形成されている。摺動部材20の後部には、2つの略矩形の切り欠き部24が軸対称に形成されている。切り欠き部24は、尾栓7の一部を収容可能に形成されている(図4)。
図7は、図1のノック式筆記具1の係止部材30の斜視図である。係止部材30は、図7において、下方が前側となるようにノック式筆記具1に配置される。係止部材30は、筒状の部材である。係止部材30は、前側に配置される大径部31と後側に配置される小径部32とを有している。大径部31の前端面には、カム面33が形成されている。カム面33は4つの山部33a及び谷部33bを有している。詳細には、カム面33が、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した斜部33cと、前後方向に沿って延びる縦壁部33dとを有するように、山部33a及び谷部33bが構成されている。
係止部材30の大径部31の外周面には、係止部として、二対の第1係止突起部34及び第2係止突起部35が軸対称に形成されている。第1係止突起部34は、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した後面34aと、周方向における側面34bとを有している。対応する第2係止突起部35は、第1係止突起部34の側面34bの延長上の後方に配置されている。第2係止突起部35は、前後方向に対して垂直な平面に対して、周方向に傾斜した前面35aを有している。第1係止突起部34の後面34aと第2係止突起部35の前面35aとは、同一方向に傾斜しており、互いに同一の傾きを有していてもよく、互いに異なる傾きを有していてもよい。係止部材30の小径部32の外周面には、2つの係合突起部36が軸対称に形成されている。
図8は、図1のノック式筆記具1の保持部材40の斜視図である。保持部材40は、図8において、下方が前側となるようにノック式筆記具1に配置される。保持部材40は、筒状の部材である。保持部材40は、保持部本体41と、保持部本体41の後部に形成された、より小径の挿入部42とを有している。保持部材40の保持部本体41は、リフィル5の後端部を受容し且つ保持する。したがって、保持部材40は、リフィル5と一体的に前後動する。保持部本体41の後部の外周面には、軸線方向に延びる2つのスライド溝43が軸対称に形成されている。
保持部材40の挿入部42の外周面には、係止部材30のカム面33と相補的な形状のカム受け面44が形成されている。したがって、保持部材40は、カム部材である。カム受け面44は、係止部材30のカム面33と同様に、4つの山部44a及び谷部44bを有している。すなわち、保持部材40のカム受け面44は、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した斜部44cと、前後方向に沿って延びる縦壁部44dとを有するように、山部44a及び谷部44bが構成されている。
図9は、図1のノック式筆記具1の後軸3の縦断面図である。後軸3は、図9において、下方が前側となるようにノック式筆記具1に配置される。後軸3の後部の外周面には、ノックボタン10を操作可能に外部に露出させるために軸線方向に延びる縦溝3aが形成されている。後軸3の内周面には、軸線方向に延びる2つのスライド突起3bが軸対称に形成されている。後軸3の内周面には、被係止部として、2つの第3係止突起部50が軸対称に形成されている。第3係止突起部50は、前後方向に対して垂直な平面に対して周方向に傾斜した前面50a及び後面50bを有している。第3係止突起部50の前面50aは、第1係止突起部34の後面34aと同一方向に傾斜しており、且つ、同一の傾きを有しているが、異なる傾きを有していてもよい。第3係止突起部50の後面50bは、第2係止突起部35の前面35aと同一方向に傾斜しており、且つ、同一の傾きを有しているが、異なる傾きを有していてもよい。
次に、再び図2乃至図4を参照しながら、ノック式筆記具1における各部材の配置について説明する。
ノックボタン10は、嵌合部13が摺動部材20の嵌合孔23に嵌合することによって、摺動部材20に対して一体的に取り付けられる。ノックボタン10は、軸筒4に対して前後動可能に設けられた操作部を構成する。すなわち、ノックボタン10は、後軸3の縦溝3aを介して外部に露出し、縦溝3aに沿って前後方向に移動可能である。図1乃至図3に示されるように、ノックボタン10の表面は、軸筒4、すなわち後軸3の外周面に略含まれ、外周面において面一となっている。しかしながら、ノックボタン10は、軸筒4の外周面から突出するようにしてもよい。
係止部材30は、摺動部材20の前方に配置される。ノックボタン10が取り付けられた摺動部材20は、係止部材30の小径部32に対して挿入される。この状態で、係止部材30の係合突起部36の各々が、対応する摺動部材20の屈曲溝22内に、特に屈曲溝22内の周方向に延びる位置に配置される。このため、係止部材30は、屈曲溝22の範囲において、摺動部材20に対して軸線回りに回転可能である。言い換えると、操作部は、軸線回りに回転可能な係止部材30を有している。係止部材30の回転は、大径部31の後端面と摺動部材20の前端面21との間で滑りが生じることによって、摺動部材20に伝達されることはない。係止部材30に設けられた係止部である第1係止突起部34及び第2係止突起部35は、操作部と一体的に前後動する。
保持部材40が係止部材30の前方に配置され、保持部材40の挿入部42が係止部材30の前端内に挿入される。この状態で、図10を参照しながら後述するように、係止部材30のカム面33と保持部材40のカム受け面44とが協働すると共に、係止部材30の第1係止突起部34及び第2係止突起部35と後軸3の第3係止突起部50とが協働する。言い換えると、これらカム及び突起部が協働するように、係止部材30及び保持部材40が軸筒4に対して配置される。
スプリング6は、その前端が前軸2の後端面によって支持され、且つ、その後端が保持部材40の前端面と当接している。その結果、スプリング6は、リフィル5を保持した保持部材40を常に後方へ付勢している。保持部材40を介して係止部材30が後方へ付勢され、係止部材30を介してノックボタン10が取り付けられた摺動部材20、すなわち操作部が後方へ付勢される。保持部材40のスライド溝43の各々には、対応する後軸3のスライド突起3bが配置される。そのため、保持部材40は、軸線回りの回転が規制され、前後方向にのみ移動可能である。
前方へのノック操作では、ノックボタン10を介して摺動部材20が押圧される。次いで、摺動部材20の前端面21と、係止部材30の大径部31の後端面とが当接して、摺動部材20によって係止部材30が押圧される。次いで、保持部材40が係止部材30によって押圧される。後方へのノック操作では、ノックボタン10を介して摺動部材20が押圧される。次いで、摺動部材20の屈曲溝22の縁部25と、係止部材30の係合突起部36とが係合することによって、係止部材30が押圧される。
図10を参照しながら、ノック式筆記具1のノック操作について説明する。図10は、図1のノック式筆記具1の非筆記状態と筆記状態との間の切り替えを示す模式図である。すなわち、図10は、係止部材30のカム面33、第1係止突起部34及び第2係止突起部35と、保持部材40のカム受け面44と、軸筒4の第3係止突起部50との位置関係を示すため、2つの第3係止突起部50を含む中心軸線回りの円筒面を周方向に展開したものに対し、各部材の位置を示したものである。図10において、下方が前側である。また、図10において、(A)から(D)の順に至る方向(図中左から右の方向)は、非筆記状態から筆記状態への切り替えを示し、(D)から(A)の順に至る方向(図中右から左の方向)は、筆記状態から非筆記状態への切り替えを示している。
まず、非筆記状態から筆記状態への切り替えを説明する。図10(A)(図4(A)も参照。)の非筆記状態において、係止部材30のカム面33と保持部材40のカム受け面44との位相はずれて配置され、カム面33の斜部33cとカム受け面44の斜部44cとが当接している。このため、スプリング6の付勢力によって、カム面33とカム受け面44とが一致するように、係止部材30は周方向の分力を受けている。このとき、係止部材30は、第1係止突起部34、具体的には側面34bが軸筒4の第3係止突起部50に係止することによって、係止部材30の回転が規制されている。
次いで、スプリング6の付勢力に抗して、操作部、すなわちノックボタン10を前方に押圧するノック操作を行う。それによって、係止部材30は、第1係止突起部34の第3係止突起部50との係止によって回転が規制されたまま、軸筒4内を、保持部材40と共に前方へ移動する(図10(B))。
ノックボタン10をさらに前方へ押圧すると、係止部材30がさらに前方へ移動し、第1係止突起部34が、軸線方向において第3係止突起部50を越え、係止部材30の回転の規制が解除される(図10(C))。このとき、係止部材30の第2係止突起部35の前面35aが、軸筒4の第3係止突起部50の後面50bに当接するようにしてもよい。
係止部材30の回転の規制が解除されると、カム面33の斜部33cとカム受け面44の斜部44cとの当接による周方向の分力によって、係止部材30は周方向(図において右方向)に回転する。この回転は、第2係止突起部35の前面35aと第3係止突起部50の後面50bとの当接による周方向の分力によって助力されるようにしてもよい。係止部材30の回転は、カム面33とカム受け面44とが一致することによって、すなわちカム面33の縦壁部33dとカム受け面44の縦壁部44dとが係止することによって、停止する(図10(D))(図4(B)も参照。)。
図10(D)の状態において、ノックボタン10に対する前方への押圧を解除すると、スプリング6によって、保持部材40、ひいては係止部材30が後方へ付勢される。係止部材30及び保持部材40の後方への移動は、第1係止突起部34の後面34aが、第3係止突起部50の前面50aに係止することによって規制される。このとき、保持部材40が十分前進しており、リフィル5の筆記部5aが軸筒4の先端から突出していることから、ノック式筆記具1は筆記状態となる。また、ノックボタン10に対する押圧を解除しても、係止部材30及び保持部材40は、ほとんど後方へ移動することはない。
なお、第1係止突起部34の後面34aは、スプリング6の付勢力によって第3係止突起部50の前面50aに対して押圧され、先ほどとは逆の周方向(図において左方向)の分力を受ける。したがって、図10(D)の状態では、スプリング6の付勢力に起因し、第1係止突起部34の後面34a及び第3係止突起部50の前面50a間の分力と、カム面33及びカム受け面44間の分力との2つの互いに逆方向の分力とが、係止部材30に作用する。しかしながら、これら2つの周方向の分力と、さらには各部材間の当接する面から受ける摩擦力とが釣り合うことから、係止部材30が回転することはない。言い換えると、ノック操作による押圧力が作用しない図10(D)の状態で、係止部材30が回転しないように、スプリング6の付勢力、斜面の角度、摩擦力等が調整される。
次に、筆記状態から非筆記状態への切り替えを説明する。図10(D)の筆記状態において、操作部、すなわちノックボタン10を後方に押圧するノック操作を行う。それによって、第1係止突起部34の後面34aが、第3係止突起部50の前面50aに対して押圧される。後面34a及び前面50aは斜面であることから、ノック操作の押圧力によって、係止部材30は、周方向の分力を受けて周方向(図において左方向)に回転する。また、ノック操作による後方への押圧力は、保持部材40には作用していないことから、係止部材30のカム面33と保持部材40のカム受け面44との位相は再びずれて配置される。係止部材30は、周方向において第1係止突起部34の後面34aが第3係止突起部50の前面50aを越えるまで回転する(図10(C))。
ノックボタン10をさらに後方へ押圧することによって、係止部材30がさらに後方へ移動し(図10(B))、ノック式筆記具1は再び非筆記状態になる(図10(A))。なお、筆記状態から非筆記状態への切り替えでは、使用者が図10(D)から図10(C)の状態に移行するだけの押圧力を加えるノック操作だけでもよい。その後に押圧力を解除したとしても、図10(C)から図10(A)の状態への移行は、スプリング6の付勢力によって行われる。
筆記の際の筆記圧が保持部材40に加わった場合には、係止部材30は、カム面33とカム受け面44とが一致するように周方向の分力を受ける。したがって、係止部材30は、第1係止突起部34の後面34aと第3係止突起部50の前面50aとの当接による周方向の分力にもかかわらず、係止部材30が回転することはない。
図11は、本発明の第2実施形態によるノック式筆記具100の斜視図であり、図12は、図12のノック式筆記具100の非筆記状態の後部の縦断面図であり、図13は、図12のノック式筆記具100の筆記状態の後部の縦断面図であり、図14は、図12のノック式筆記具100の後部の部分断面斜視図である。
ノック式筆記具100は、筒状に形成され且つ前軸102及び後軸103、さらには内筒160を備えた軸筒104と、軸筒104内に配置され且つ一端に筆記部を備えた筆記体であるリフィル105と、リフィル105を後方へ付勢する弾性部材であるスプリング106と、後軸103の後端部に嵌合する尾栓107とを有している。前軸102の前端部には、リフィル105の筆記部を突出させるための貫通孔が形成されている。前軸102の後端部は、後軸103の前端部と螺合している。
ノック式筆記具100は、さらに、ノックボタン110と、係止部材130と、保持部材140とを有している。ノック式筆記具100では、ノックボタン110のノック操作によって、リフィル105が軸筒104内を前後方向に移動する。なお、本実施形態のノック式筆記具100は、ノックボタン10と摺動部材20とがノックボタン110として一体的に形成されている点、内筒160を有する点において、第1実施形態のノック式筆記具1と大きく異なる。
図15は、図12のノック式筆記具100のノックボタン110の斜視図である。ノックボタン110は、図15において、下方が前側となるようにノック式筆記具100に配置される。ノックボタン110は、細長い板状のボタン本体111を有している。ボタン本体111の一方の面の一部には隆起部112が形成されている。隆起部112は、使用者がノック操作の際に直接触れる部分である。ボタン本体111の他方の面には垂直に突出する2つの脚部113が形成されている。2つの脚部113の先端は、筒状の摺動部114の外周面に対して一体的に取り付けられている。脚部113とは反対側の摺動部114の外周面には、ガイド突起115が形成されている。摺動部114の外周面には、所定の中心角αの扇形断面である2つの窓孔116が軸対称に形成されている。
図16は、図12のノック式筆記具100の係止部材130の斜視図である。係止部材130は、図16において、下方が前側となるようにノック式筆記具100に配置される。係止部材130は、筒状の部材である。係止部材130は、前側に配置される大径部131と後側に配置される小径部132とを有している。大径部131の前端面には、カム面33が形成されている。カム面33は、上述した第1実施形態のノック式筆記具1のカム面33と同一である。
係止部材130の大径部131の外周面には、係止部として、二対の第1係止突起部34及び第2係止突起部35が軸対称に形成されている。第1係止突起部34及び第2係止突起部35は、上述した第1実施形態のノック式筆記具1の第1係止突起部34及び第2係止突起部35と同一である。係止部材130の小径部132の外周面には、2つの係合突起部136が軸対称に形成されている。2つの係合突起部136間には、軸線方向に延びる2つの矩形の貫通孔137が軸対称に形成されている。
図17は、図12のノック式筆記具100の保持部材140の斜視図である。保持部材140は、図17において、下方が前側となるようにノック式筆記具100に配置される。保持部材140は、筒状の部材である。保持部材140は、保持部本体141と、保持部本体141の後部に形成された、より小径の挿入部142とを有している。保持部材140の保持部本体141は、リフィル105の後端部を受容し且つ保持する。したがって、保持部材140は、リフィル105と一体的に前後動する。保持部本体141の後部の外周面には、2つのスライド突起143が軸対称に形成されている。
保持部材140の挿入部142の外周面には、係止部材130のカム面33と相補的な形状のカム受け面44が形成されている。したがって、保持部材140は、カム部材である。カム受け面44は、上述した第1実施形態のノック式筆記具1のカム受け面44と同一である。保持部本体141の前部には、より小径に形成され、それによって、前方に面する支持面145が形成されている。
図18は、図12のノック式筆記具100の後軸103の縦断面図である。後軸103は、図18において、下方が前側となるようにノック式筆記具100に配置される。後軸103の後部の外周面には、ノックボタン110を操作可能に外部に露出させるための縦溝103aが形成されている。後軸103の内周面には、前端から後方に向かって軸線方向に延びる6つの突起が、周方向に沿って等間隔に設けられている。6つの突起のうちの2つの突起は、より薄く長い突起である長突起103bであり、軸対称に配置されている。6つの突起のうちの残りの4つの突起は、より厚く短い突起である二対の短突起103cであり、2つの長突起103b間に軸対称に配置されている。長突起103b及び短突起103cの各々には、軸線方向において同一の位置に、後方に面した段部103dが形成されている。
図19は、図12のノック式筆記具100の内筒160の斜視図であり、図20は、図12のノック式筆記具100の内筒160の縦断面図である。内筒160は、図19及び図20において、下方が前側となるようにノック式筆記具100に配置される。内筒160の後部の外周面には、ノックボタン110を操作可能に外部に露出させるために軸線方向に延びる縦溝161が形成されている。縦溝161とは反対側の内筒160の外周面には、軸線方向に延びるガイド溝162が形成されている。縦溝161及びガイド溝162の各々の前方の内筒160の外周面には、軸線方向に延びる2つの矩形のスライド溝163が軸対称に形成されている。内筒160の前端面には、二対の切り込み部164が形成されている。内筒160の外周面には、軸線方向に亘る2つの矩形平面165が軸対称に形成されている。内筒160の内周面には、被係止部として、2つの第3係止突起部50が軸対称に形成されている。第3係止突起部50は、上述した第1実施形態のノック式筆記具1の第3係止突起部50と同一である。
次に、再び図11乃至図14を参照しながら、ノック式筆記具100における各部材の配置について説明する。
内筒160が、後軸103内に後方から挿入され、後軸103に対して取り付けられる。すなわち、後軸103の二対の短突起103cが、内筒160の対応する二対の切り込み部164に挿入され、内筒160の軸線方向の移動が固定される。また、後軸103の長突起103b間で、内筒160の矩形平面165間を挟持し、内筒160の径方向の移動が固定される。
ノックボタン110は、軸筒104に対して前後動可能に設けられた操作部を構成する。ノックボタン110は、後軸103の縦溝103a及び内筒160の縦溝161を介して外部に露出している。また、ノックボタン110のガイド突起115は、内筒160のガイド溝162内に配置される。したがって、ノックボタン110は、縦溝103a、縦溝161及びガイド溝162に沿って前後方向に移動可能である。ノックボタン110は、軸筒104、すなわち後軸103の外周面から僅かばかり突出している。しかしながら、ノックボタン110の表面が、軸筒104の外周面に略含まれ、外表面において面一となるようにしてもよい。
係止部材130は、ノックボタン110の前方に配置され、摺動部114に対して取り付けられる。すなわち、係止部材130の小径部132がノックボタン110の筒状の摺動部114内に挿入される。挿入の際には、小径部132に貫通孔137が形成されていることによって小径部132が径方向に撓み易くなり、係合突起部136の各々が、対応する摺動部114の窓孔116に配置される(図12)。このため、係止部材130は、ノックボタン110の摺動部114に対して軸線回りに回転可能である。言い換えると、操作部は、軸線回りに回転可能な係止部材130を有している。係止部材130が回転可能な範囲は、窓孔116の中心角αの範囲である。係止部材130の回転は、大径部131の後端面と摺動部114の前端面117との間で滑りが生じることによって、ノックボタン110に伝達されることはない。係止部材130に設けられた係止部である第1係止突起部34及び第2係止突起部35は、操作部と一体的に前後動する。
保持部材140が係止部材130の前方に配置され、保持部材140の挿入部142が係止部材130の前端内に挿入される。この状態で、図10を参照しながら上述したように、係止部材130のカム面33と保持部材140のカム受け面44とが協働すると共に、係止部材130の第1係止突起部34及び第2係止突起部35と内筒160の第3係止突起部50とが協働する。言い換えると、これらカム及び突起部が協働するように、係止部材130及び保持部材140が軸筒104に対して配置される。
スプリング106は、その前端が前軸102の段部103dによって支持され、且つ、その後端が保持部材140の支持面145と当接している。その結果、スプリング106は、リフィル105を保持した保持部材140を常に後方へ付勢している。保持部材140を介して係止部材130が後方へ付勢され、係止部材130を介してノックボタン110、すなわち操作部が後方へ付勢される。保持部材140のスライド突起143の各々は、対応する内筒160のスライド溝163に配置される。そのため、保持部材140は、軸線回りの回転が規制され、前後方向にのみ移動可能である。
前方へのノック操作では、ノックボタン110の前端面117と、係止部材130の大径部131の後端面とが当接して、ノックボタン110によって係止部材130が押圧される。次いで、保持部材140が係止部材130によって押圧される。後方へのノック操作では、ノックボタン110の窓孔116、すなわち前側の係止面118(図12)と、係止部材130の係合突起部136とが係合することによって、係止部材130が押圧される。
ノック式筆記具100のノック操作は、図10を参照しながら説明したノック操作と同一であるため、説明は省略する。
本発明の実施形態によるノック式筆記具によれば、非筆記状態において、操作部を前方へ移動させることによって、係止部と被係止部とが係止して筆記状態となり、筆記状態において、操作部を前方へ移動させることなく後方へ移動させることによって、係止が解除されて非筆記状態となる。非筆記状態において、操作部を前方へ移動させると、カム面とカム受け面とが協働して係止部材を回転させ、係止部と被係止部とが係止する。筆記状態において、操作部を後方へ移動させると、係止部が被係止部に当接し、係止が解除される方向に係止部材を回転させるように、係止部又は被係止部に斜面が形成されている。
こうした動作が可能な限りにおいて、係止部は、上述した実施形態に示された第1係止突起部34及び第2係止突起部35の形状以外の形状であってもよい。また、被係止部は、上述した実施形態に示された第3係止突起部50の形状以外の形状であってもよい。例えば、第1係止突起部34及び第2係止突起部35を、1つの係止突起部として一体的に形成してもよく、第1係止突起部34を、後面34a及び側面34bにそれぞれ相当する面を有する2つの係止突起部に分割してもよい。さらに、カム面及びカム受け面は、上述した実施形態に示されたカム面33及びカム受け面44の形状の形状以外の形状であってもよい。なお、第2係止突起部35は省略してもよい。
本発明の実施形態によるノック式筆記具によれば、操作部の操作方向及びリフィルの移動方向は常に同一であることから、使用者は直感的にノック操作を行うことができる。また、操作部の操作量、すなわち操作部の移動量を、筆記状態のリフィルの位置と非筆記状態のリフィルの位置との間の距離という、最小限にすることができる。それによって、ノック操作をより容易に行うことができる。また、インクをより収容することができるようリフィルの全長を長くすることができる。
筆記状態におけるノック操作に必要な力は、従来のノック式筆記具のようにスプリングの付勢力に抗するというよりも、むしろスプリングの付勢力によって助力されることから、非筆記状態におけるノック操作に必要な力よりも小さくすることができる。よって、小さい子供や老人であっても容易にノック操作が可能となる。また、操作部を後方へ付勢するスプリングのばね定数を、従来のノック式筆記具よりも小さくすることができる。操作部の操作量を最小限にすることによって、又は、スプリングのばね定数を小さくすることによって、又は、使用者の指が操作部と共に後方へ移動することによって、筆記状態から非筆記状態への切り替えの際に、スプリングの反発に起因する衝突音及び衝撃を小さくすることができる。
一連のノック操作によって必要な押圧力は、従来のノック式筆記具よりも小さいことから、軸筒の外周面からの操作部の突出量を小さくすることができる。すなわち、従来のノック式筆記具では、特に大きな力が必要な筆記状態におけるノック操作の際に、指の引っ掛かりが良くなるよう、軸筒の外周面からの操作部の突出量を大きくする必要があった。しかしながら、本発明の実施形態によるノック式筆記具によれば、より小さい力でノック操作できることから、突出量を小さくすることができ、さらには突出量がゼロとなるよう軸筒の外周面と面一とすることができる。操作部の表面を軸筒の外周面と面一になるようにした場合、指との摩擦力を増やすため、操作部の表面に係止溝を形成するようにしてもよい。操作部の突出量、さらには操作部自体の大きさも小さくでき、また、操作部に必要な軸筒の縦溝を短くできることから、ノック操作の機構に必要な軸筒表面の領域を最小限にすることができ、ノック式筆記具全体として、より意匠性の高いものとすることができる。また、クリップを任意の位置に配置することもできる。
第2実施形態によるノック式筆記具100では、ノック機構の部分をユニット化することができる。すなわち、ノック機構を、ノックボタン、係止部材、保持部材及び内筒からなるユニットとして構成することができる。それによって、交換や修理、既存の筆記具への適用、ユニット単体での販売等をすることができる。
上述したリフィルは、ボールペン用リフィルであってもよく、シャープペンシル、マーキングペン、タッチペン、消しゴム又は摩擦体等のその他種類のリフィルであってもよい。また、尾栓の全体、又は、尾栓の一部に接着又は二色成形等を施すことによって、尾栓を、リフィルによる筆跡を消去する消去部材としてもよい。また、ノック式筆記具のその他の部位、例えば前軸の前端やクリップを消去部材としてもよい。
リフィルには、熱変色インクを収容したボールペン、熱変色芯を収容したシャープペンシル等を使用することもできる。この場合、ノック式筆記具は熱変色性筆記具であり、消去部材である摩擦体によって擦過した際に生じる摩擦熱によって、筆跡を熱変色可能である。ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば−5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。熱変色性インクを用いた筆記具では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して消去部としての摩擦体によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお、当然のことながら上記第2色は、無色以外の有色でもよい。
熱変色性色材となる熱変色性マイクロカプセル顔料としては、摩擦熱等の熱により変色するもの、例えば、有色から無色、有色から有色、無色から有色などとなる機能を有するものであれば、特に限定されず、種々のものを用いることができ、少なくともロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、マイクロカプセル化したものが挙げられる。
用いることができるロイコ色素としては、電子供与性染料で、発色剤としての機能するものであれば、特に限定されものではない。具体的には、発色特性に優れるインクを得る点から、トリフェニルメタン系、スピロピラン系、フルオラン系、ジフェニルメタン系、ローダミンラクタム系、インドリルフタリド系、ロイコオーラミン系等従来公知のものが、単独(1種)で又は2種以上を混合して(以下、単に「少なくとも1種」という。)用いることができる。
具体的には、6−(ジメチルアミノ)−3,3−ビス[4−(ジメチルアミノ)フェニル]−1(3H)−イソベンゾフラノン、3,3−ビス(p−ジメチルアミノフェニル)−6−ジメチルアミノフタリド、3−(4−ジエチルアミノフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド、1,3−ジメチル−6−ジエチルアミノフルオラン、2−クロロ−3−メチル−6−ジメチルアミノフルオラン、3−ジブチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−キシリジノフルオラン、2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン、3,6−ジ−n−ブトキシフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジエチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−ジブチルアミノフルオラン、1,2−ベンツ−6−エチルイソアミルアミノフルオラン、2−メチル−6−(N−p−トリル−N−エチルアミノ)フルオラン、2−(N−フェニル−N-−メチルアミノ)−6−(N−p−トリル−N−エチルアミノ)フルオラン、2−(3’−トリフルオロメチルアニリノ)−6−ジエチルアミノフルオラン、3−クロロ−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、2−メチル−6−シクロヘキシルアミノフルオラン、3−ジ(n−ブチル)アミノ−6−メトキシ−7−アニリノフルオラン、3,6−ビス(ジフェニルアミノ)フルオラン、メチル−3’,6’−ビスジフェニルアミノフルオラン、クロロ−3’,6’−ビスジフェニルアミノフルオラン、3−メトキシ−4−ドデコキシスチリノキノリン、などが挙げられる。
これらのロイコ染料は、ラクトン骨格、ピリジン骨格、キナゾリン骨格、ビスキナゾリン骨格等を有するものであり、これらの骨格(環)が開環することで発色を発現するものである。
用いることができる顕色剤は、上記ロイコ色素を発色させる能力を有する成分となるものであり、例えば、フェノール樹脂系化合物、サリチル酸系金属塩化物、サリチル酸樹脂系金属塩化合物、固体酸系化合物等が挙げられる。
具体的には、o−クレゾール、ターシャリーブチルカテコール、ノニルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ドデシルフェノール、n−ステアリルフェノール、p−クロロフェノール、p−ブロモフェノール、o−フェニルフェノール、ヘキサフルオロビスフェノール、p−ヒドロキシ安息香酸n−ブチル、p−ヒドロキシ安息香酸n−オクチル、レゾルシン、没食子酸ドデシル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、1−フェニル−1,1−ビス( 4’−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘキサン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−オクタン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ノナン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−デカン、1,1−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ドデカン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)エチルプロピオネート、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ヘプタン、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)n−ノナンなどの少なくとも1種が挙げられる。
用いる顕色剤の使用量は、所望される色彩濃度に応じて任意に選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、上述したロイコ色素1質量部に対して、0.1〜100質量部程度の範囲内で選択するのが好適である。
用いることができる変色温度調整剤は、上記ロイコ色素と顕色剤の呈色において変色温度をコントロールする物質である。用いることができる変色温度調整剤は、従来公知のものが使用可能である。具体的には、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、酸アミド類、アゾメチン類、脂肪酸類、炭化水素類などが挙げられる。
より具体的には、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジカプリレート(C7H15)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジラウレート(C11H23)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジミリステート(C13H27)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルエタンジミリステート(C13H27)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジパルミテート(C15H30)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタンジベヘネート(C21H43)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルエチルヘキシリデンジミリステート(C13H27)等の少なくとも1種が挙げられる。
この変色温度調整剤の使用量は、所望されるヒステリシス幅及び発色時の色彩濃度等に応じて適宜選択すればよく、特に限定されるものではないが、通常、ロイコ色素1質量部に対して、1〜100質量部程度の範囲内で使用するのが好ましい。
熱変色性マイクロカプセル顔料は、少なくとも上記ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、平均粒子径が0.2〜5μmとなるように、マイクロカプセル化することにより製造することができる。マイクロカプセル化法としては、例えば、界面重合法、界面重縮合法、insitu重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライニング法などを挙げることができ、用途に応じて適宜選択することができる。
例えば、水溶液からの相分離法では、ロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤を加熱溶融後、乳化剤溶液に投入し、加熱攪拌して油滴状に分散させ、次いで、カプセル膜剤として、樹脂原料などを使用、例えば、アミノ樹脂溶液、イソシアネート系樹脂溶液などを徐々に投入し、引き続き反応させて調製後、この分散液を濾過することにより目的の熱変色性のマイクロカプセル顔料を製造することができる。
これらのロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤の含有量は、用いるロイコ色素、顕色剤、変色温度調整剤の種類、マイクロカプセル化法などにより変動するが、当該色素1に対して、質量比で顕色剤0.1〜100、変色温度調整剤1〜100である。また、カプセル膜剤は、カプセル内容物に対して、質量比で0.1〜1である。
熱変色性マイクロカプセル顔料は、上記ロイコ色素、顕色剤及び変色温度調整剤の種類、量などを好適に組み合わせることにより、各色の発色温度(例えば、0℃以上で発色)、消色温度(例えば、50℃以上で消色)を好適な温度に設定することができ、摩擦熱等の熱により有色から無色となることが好ましい。
熱変色性マイクロカプセル顔料では、描線濃度、保存安定性、筆記性の更なる向上の点から、壁膜がウレタン樹脂、ウレア/ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、あるいはアミノ樹脂で形成されることが好ましい。ウレタン樹脂としては、例えば、イソシアネートとポリオールとの化合物が挙げられる。エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂とアミンの化合物が挙げられる。アミノ樹脂としては、メラミン樹脂、ウレア樹脂、ベンゾグアナミン樹脂などが挙げられる。マイクロカプセル色材の壁膜の厚さは、必要とする壁膜の強度や描線濃度に応じて適宜決められる。
熱変色性マイクロカプセル顔料の平均粒子径は、着色性、発色性、易消色性、安定性、インク中での流動性の点、並びに、筆記性への悪影響を抑制、後述する光変色性マイクロカプセル顔料との相用性などの点から、好ましくは、0.2〜5μm、さらに好ましくは、0.3〜3μmである。なお、ここで規定する「平均粒子径」は、粒度分析計〔マイクロトラックHRA9320−X100(日機装社製)〕にて、平均粒子径(50%径)を測定(屈折率1.8)した値である。
この平均粒子径が0.2μm未満であると、十分な描線濃度が得られず、一方、5μmを越えると、筆記性の劣化、熱変色性マイクロカプセル顔料の分散安定性の低下、振動によるインクバックが発生しやすくなり好ましくない。さらには90%径が8μm以下、好ましくは6μm以下である。径が大きい粒子が一定割合以上存在すると、上述した影響がより顕著になる傾向がみられる。なお、上述した平均粒子径の範囲(0.2〜5μm)となるマイクロカプセル顔料は、マイクロカプセル化法により変動するが、水溶液からの相分離法などでは、マイクロカプセル顔料を製造する際の攪拌条件を好適に組み合わせることにより調製することができる。
熱変色性マイクロカプセル顔料の比重は、0.9〜1.3、好ましくは1.0〜1.2の範囲である。比重がこの範囲外であると、マイクロカプセル顔料の分散安定性が低下しやすい。また、比重が1.3を超えるマイクロカプセル顔料は、振動によってインクバックが発生しやすい。
筆記具用水性インク組成物において、上記熱変色性マイクロカプセル顔料の他、残部として溶媒である水(水道水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水等)の他、各筆記具用(ボールペン用、マーキングペン用等)の用途に応じて、その効果を損なわない範囲で、水溶性有機溶剤、増粘剤、潤滑剤、防錆剤、防腐剤もしくは防菌剤などを適宜含有することができる。
用いることができる水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、3−ブチレングリコール、チオジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類や、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、単独或いは混合して使用することができる。
これらのうち、インクバックによる筆記部でのインク固化を抑制する目的として、グリセリンを用いることが好ましく、その添加量はインク全量に対して1〜10質量%であることが好ましい。グリセリンによる作用のメカニズムは不明だが、乾燥状態における顔料及びインク成分との凝集力を低下させる効果があるものと推察される。
用いることができる増粘剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれた少なくとも一種が好ましい。具体的には、アラビアガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、ダイユータンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸及びその塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸及びその塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレシオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体及びその塩、非架橋型アクリル酸重合体及びその塩、スチレンアクリル酸共重合体及びその塩などが挙げられる。
これらのうち、多糖類を使用することが好ましい。多糖類はそのレオロジー特性から、振動による流動性への影響を受けにくい傾向があり、インクバックに起因する筆記不良等の不具合が生じにくい。特にキサンタンガムは、筆記具インクに要求されるその他の特性とのバランスに優れており好ましい。
潤滑剤としては、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステル、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーンなどが挙げられる。また、防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類などが挙げられる。防腐剤もしくは防菌剤としては、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
この筆記具用水性インク組成物を製造するには、従来から知られている方法が採用可能であり、例えば、上記熱変色性、光変色性マイクロカプセル顔料の他、上記水性における各成分を所定量配合し、ホモミキサー、もしくはディスパー等の攪拌機により攪拌混合することによって得られる。さらに必要に応じて、ろ過や遠心分離によってインク組成物中の粗大粒子を除去してもよい。
筆記具用水性インク組成物の粘度値は、25℃、剪断速度3.83/sにおいて、500〜2000mPa・s、剪断速度383/sにおいて20〜100mPa・sであることが好ましい。上記粘度範囲に設定することによって、筆記性と経時安定性に優れたインクとすることができる。さらに、S=αDn(但し、1>n>0)(Sは剪断応力(dyn/cm2)、Dは剪断速度(s-1)、αは非ニュートン粘性係数)で示される粘性式で求められる非ニュートン粘性指数nが、0.2〜0.6であることが好ましい。上記粘度範囲に加えて非ニュートン粘性指数nを上記範囲とすることで、振動に対するインクの流動性を適切に設定することが可能となり、インクバックの発生を防止することが可能となる。
筆記具用水性インク組成物の表面張力は、25〜45mN/m、さらには30〜40mN/mであることが好ましい。この範囲内であれば、ペン先内部とインクの濡れ性のバランスが適切となり、インクバックの発生を防止することが可能となる。
リフィル内においては、インクのすぐ後方にインク追従体を配置してもよい。追従体を構成する材料としては、少なくとも、不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤と、増粘剤とにより構成することができる。インク追従体に使用する不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤は、インク追従体の基油として用いるものであり、例えば、流動パラフィンが用いられる。流動パラフィンには、鉱物油、化学合成油が用いられ、化学合成油としては、ポリブテン、ポリα−オレフィン、エチレンα−オレフィンオリゴマーなどを用いることができる。
用いることができる具体的な鉱物油としては、例えば、市販品のダイアナプロセスオイルNS−100、PW−32、PW−90、NR−68、AH−58(出光興産社製)などが挙げられる。
用いることができる具体的なポリブテンとしては、例えば、市販品のニッサンポリブテン200N、ポリブテン30N、ポリブテン10N、ポリブテン5N、ポリブテン3N、ポリブテン015N、ポリブテン06N、ポリブテン0N(以上、日本油脂社製)、ポリブテンHV−15(日本石油化学社製)、35R(出光興産社製)などが挙げられる。
用いることができる具体的なポリα−オレフィンとしては、例えば、市販品のバーレルプロセス油P−26、P−46,P−56、P−150,P−350,P−1500、P−2200、(P−10000、P−37500)(松村石油社製)などが挙げられる。
用いることができる具体的なエチレンα−オレフィンオリゴマーとしては、例えば、市販品のルーカント HC−10、HC−20、HC−100、HC−150、(HC−600、HC−2000)(以上、三井化学社製)などが挙げられる。
これらの不揮発性若しくは難揮発性有機溶剤は、1種または2種以上を合わせて使用することができる。
インク追従体に使用する増粘剤としては、例えば、リン酸エステルのカルシウム塩、微粒子シリカ、ポリスチレン−ポリエチレン/ブチレンゴム−ポリスチレンのブロックコポリマー、ポリスチレン−ポリエチレン/プロピレンゴム−ポリスチレンのブロックコポリマー、水添スチレン−ブタジエンラバー、スチレン−エチレンブチレン−オレフィン結晶のブロックコポリマー、オレフィン結晶−エチレンブチレン−オレフィン結晶のブロックコポリマー及びアセトアルコキシアルミニウムジアルキレートなどが挙げられ、これらは1種もしくは2種以上用いることができる。
用いることができるリン酸エステルのカルシウム塩の好ましい市販品としては、CrodaxDP−301LA(クローダジャパン社製)等が挙げられる。用いることができる微粒子シリカは、親水性微粒子シリカと疎水性微粒子シリカがあり、親水性シリカの好ましい市販品としては、AEROSIL−300、AEROSIL−380(日本アエロジル社製)等が挙げられ、また、疎水性シリカの好ましい市販品としては、AEROSIL−974D、AEROSIL−972(日本アエロジル社製)等が挙げられる。
また、ポリスチレン−ポリエチレン/ブチレンゴム−ポリスチレンのブロックコポリマーの好ましい市販品としては、クレイトンGFG−1901X、クレイトンGG−1650(以上、シェルジャパン社製)、セプトン8007、セプトン8004(以上、クラレ社製)などが挙げられる。さらに、ポリスチレン−ポリエチレン/プロピレンゴム−ポリスチレンのブロックコポリマーの好ましい市販品としては、クレイトンGG−1730(シェルジャパン社製)、セプトン2006、セプトン2063(以上、クラレ社製)などが挙げられる。
水添スチレン−ブタジエンラバーの好ましい市販品としては、DYNARON1320P、DYNARON1321P(以上、JSR社製)、タフテックHl041、タフテックHl141(以上、旭化成工業社製)などが挙げられる。
スチレン−エチレンブチレン−オレフィン結晶のブロックコポリマーの好ましい市販品としては、DYNARON4600P(JSR社製)等が挙げられ、オレフィン結晶−エチレンブチレン−オレフィン結晶のブロックコポリマーの好ましい市販品としては、DYNARON6200P、DYNARON6201B(JSR社製)等が挙げられる。
アセトアルコキシアルミニウムジアルキレートの好ましい市販品としては、プレンアクトAL−M(味の素ファインテクノ社製)などが挙げられる。
これらの増粘剤の中で、本発明の効果をさらに発揮させる点から、スチレン−エチレンブチレン−オレフィン結晶のブロックコポリマー、オレフィン結晶−エチレンブチレン−オレフィン結晶のブロックコポリマーなどの熱可塑性オレフィン系エラストマーの使用が好ましい。
さらに、インクバックの発生を防止するインク追従体を得る点から、周波数領域1〜63rad/sで指数関数的に増加させながら周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以上とすることが好ましく、1.7〜3.4とすることがさらに好ましい。
ここで、tanδは、損失弾性率/貯蔵弾性率を意味する値であり、従来では、周波数領域「1〜63rad/s」で指数関数的に増加させながら周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以下のものが好ましいことが知られていた。本発明では、上記1〜63rad/sで各周波数毎に測定したtanδ値の平均値が1.0以上とすることにより、振動を吸収してインクバックの発生を防止することが可能となる。
摩擦体を形成する材料として、シリコーンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等の熱硬化性ゴムやスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーといったゴム弾性材料、2種以上のゴム弾性材料の混合物、及び、ゴム弾性材料と合成樹脂との混合物を用いることができ、これを、JIS K7204に規定された摩耗試験(ASTM D1044)で荷重9.8N、1000rpm環境下において、テーバー摩耗試験機の摩耗輪CS−17でのテーバー摩耗量が25mg未満となるように構成し、摩擦体を形成する。
また、摩擦体の材料に対して、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステルを添加してもよい。摩擦体が、アルキルスルフォン酸フェニルエステル、シクロヘキサンジカルボン酸エステルを含むことによって、紙面を傷めず且つ印刷文字等を掠れさせることなく、筆跡の消去が可能となる。さらに、摩擦体は、JIS K6203に規定されたデュロメータA硬度が60以上であることが好ましい。それによって、所定の硬さが確保でき、より安定した擦過動作が可能となる。なお、摩擦体は、タッチペン、スタイラスペンとしても適用可能であり、導電性を付与してもよい。
また、摩擦体は、リフィルに収容された熱変色性インクの色よりも明度値が低い色で着色されていることが好ましい。すなわち、摩擦体の使用時に筆記具1の熱変色性インクが変色することなく摩擦体の表面に転写した場合に、熱変色性インクの転写を目立たなくすることができる。特に、摩擦体の色を黒色又は明度値が2.5以下とすることによって、摩擦体の使用に伴う表面の汚れも目立たなくすることができる。
明度値は汎用型色差計(TC−8600A、東京電色株式会社製)等の測定装置を用いてマンセル表色系を使用し、摩擦体の明度値は表面を測定し、熱変色性インクの明度値は、紙面(旧JIS P3201;化学パルプ100%を原料に抄造された上質紙、坪量範囲40〜157g/m2、白色度75.0%以上)上に筆記速度4.5m/min、ピッチ間隔0.1mmで筆記した描線上のインクを測定することによって求められる。