JP2019163241A - 抗癌剤および抗癌物質および輸液 - Google Patents

抗癌剤および抗癌物質および輸液 Download PDF

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Abstract

【課題】 正常細胞にほとんど影響を与えることなく癌細胞を選択的に死滅させることができるとともに抗腫瘍効果の高い抗癌剤および抗癌物質および輸液を提供することである。【解決手段】 抗癌物質は、L−乳酸ナトリウム水溶液にプラズマを照射することにより得られる抗腫瘍水溶液に含まれている物質である。抗癌物質は、1H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物である。抗癌剤は、この抗癌物質を含有する水溶液である。【選択図】図32

Description

本明細書の技術分野は、抗癌剤および抗癌物質および輸液に関する。
プラズマ技術は、電気、化学、材料の各分野に応用されている。そして、近年においては、医療への応用が活発に研究されるようになってきた。プラズマの内部では、電子やイオン等の荷電粒子の他に、紫外線やラジカルが発生する。これらには、生体組織の殺菌をはじめとして、生体組織に対する種々の効果があることが分かってきている。
例えば、特許文献1には、プラズマの直接照射により、血液凝固(特許文献1の実施例4、段落[0063]−[0068]参照)と、組織滅菌(特許文献1の実施例5、段落[0069]−[0074]参照)と、リーシュマニア症(特許文献1の実施例6、段落[0075]−[0077]参照)と、に対して効果があることが記載されている。そして、プラズマは、メラノーマ細胞(悪性黒色腫細胞)を死滅させる効果があると記載されている(特許文献1の実施例7、段落[0078]参照)。
また、特許文献2には、pHが4.8以下となるように調整された液体にプラズマを照射することにより、液体中の菌を殺菌する技術が開示されている(特許文献2の段落[0020]等参照)。また、スーパーオキシドアニオンラジカルやヒドロペルオキシラジカル等が殺菌効果を担っている可能性がある旨が記載されている(特許文献2の段落[0090]−[0099]等参照)。
特表2008−539007号公報 国際公開第2009/041049号 国際公開第2013/128905号 国際公開第2016/103695号
ところで、このような癌の治療においては一般に、1)癌細胞を死滅させるとともに、2)正常細胞に影響を与えないように、癌細胞を選択的に死滅させることが好ましい。たとえ、癌細胞を死滅させることができたとしても、そのために多数の正常細胞を死滅させると、患者に加わる肉体的負担が大きいからである。そのため、このように癌細胞を選択的に死滅させる治療技術が望まれている。しかし、癌細胞を選択的に死滅させることは容易ではない。また、特許文献1では、正常細胞への影響の程度が明らかではない。
そのため特許文献3に記載されているように、本発明者らは、癌細胞を選択的に死滅させる抗腫瘍水溶液に関する技術を研究開発した(特許文献3の段落[0085]−[0087]および図16等参照)。この抗腫瘍水溶液は、正常細胞にほとんど影響を与えることなく癌細胞を選択的に死滅させることができる。また、この抗腫瘍水溶液は、培養した細胞のみならずマウスに対しても抗腫瘍効果を発揮した(特許文献3の段落[0145]−[0152]および図45、46等参照)。しかし、培養成分を含有する抗腫瘍水溶液を患者の体内に投与することは困難である。培養成分が患者の身体に与える影響を無視できないからである。
そのため本発明者らは、特許文献4に記載されているように、患者の体内に投与可能なラクテック(登録商標)にプラズマを照射した抗癌剤を研究開発した。ただし、抗癌物質の成分は未だ明らかではない。抗癌物質の成分が明らかになれば、有効成分の高い抗癌剤を製造することが可能になると期待される。
本明細書の技術は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、正常細胞にほとんど影響を与えることなく癌細胞を選択的に死滅させることができるとともに抗腫瘍効果の高い抗癌剤および抗癌物質および輸液を提供することである。
第1の態様における抗癌剤は、1 H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物を主成分とする。
この抗癌剤は、高い抗腫瘍効果を備えている。この抗癌剤は、正常細胞にほとんど影響を与えることなく癌細胞を選択的に死滅させることができる。
本明細書では、正常細胞にほとんど影響を与えることなく癌細胞を選択的に死滅させることができるとともに抗腫瘍効果の高い抗癌剤および抗癌物質および輸液が提供されている。
実施形態のプラズマ発生装置のガス噴出口を走査するロボットアームの構成を説明するための概念図である。 図2.Aは第1のプラズマ発生装置の構成を示す断面図であり、図2.Bは電極の形状を示す図である。 図3.Aは第2のプラズマ発生装置の構成を示す断面図であり、図3.Bはプラズマ領域の長手方向に垂直な断面における部分断面図である。 実施形態における第3のプラズマ発生装置の概略構成を示す図である。 実施形態における第3のプラズマ発生装置の上部構造を示す概略構成図である。 実施形態における第3のプラズマ発生装置の下部構造を示す概略構成図である。 実施形態において第3のプラズマ発生装置がプラズマを照射している場合を説明するための図である。 実験Aにおいて第2のプラズマ発生装置を用いて5000個のU251SP細胞に対して抗癌剤を供給した場合の生存細胞数の割合を示すグラフである。 実験Aにおいて第2のプラズマ発生装置を用いて10000個のU251SP細胞に対して抗癌剤を供給した場合の生存細胞数の割合を示すグラフである。 実験Aにおいて第3のプラズマ発生装置を用いて5000個のU251SP細胞に対して抗癌剤を供給した場合の生存細胞数の割合を示すグラフである。 実験Aにおいて第3のプラズマ発生装置を用いて10000個のU251SP細胞に対して抗癌剤を供給した場合の生存細胞数の割合を示すグラフである。 実験Bにおいて10000個のU251SP細胞に対して種々のサンプル水溶液を供給した場合の生存細胞数の割合を示すグラフである。 実験Cにおいて抗癌剤の選択性を示すグラフである。 実験Dにおいて実験方法を説明するための図である。 実験Dにおいて摘出した皮下腫瘍を示す写真である。 実験Dにおいて皮下腫瘍の体積の時間変化を示すグラフである。 実験Dにおいてヌードマウスの体重変化を示すグラフである。 実験Dにおいて摘出した皮下腫瘍の体積および重量を示すグラフである。 実験Eの実験手順を示す図である。 実験Eにおいて乳酸リンゲル液にプラズマを照射した水溶液でSKOV3を処理した場合のSKOV3の生存率を示すグラフである。 実験Eにおいて酢酸リンゲル液にプラズマを照射した水溶液でSKOV3を処理した場合のSKOV3の生存率を示すグラフである。 実験Eにおいて重炭酸リンゲル液にプラズマを照射した水溶液でSKOV3を処理した場合のSKOV3の生存率を示すグラフである。 実験Fにおいてサンプル水溶液の抗腫瘍効果を調べた実験結果を示すグラフ(その1)である。 実験Fにおいてサンプル水溶液の抗腫瘍効果を調べた実験結果を示すグラフ(その2)である。 PALにカタラーゼを配合した場合の癌細胞の生存率を示すグラフである。 活性種の有無と癌細胞の生存率との関係を示すグラフである。 通常の癌細胞の顕微鏡写真である。 癌細胞にH2 2 を供給した場合の顕微鏡写真である。 癌細胞にカタラーゼを配合したPALを供給した場合の顕微鏡写真である。 癌細胞にPALを供給した場合の顕微鏡写真である。 カスパーゼ活性を比較する顕微鏡写真である。 乳酸ナトリウム水溶液へのプラズマの照射の前後における1 H−NMRの化学シフトを示すグラフである。 PALのpHと癌細胞の生存率との関係を示すグラフである。 化合物と癌細胞の生存率との関係を示すグラフである。 2,3−ジメチル酒石酸の抗腫瘍効果と選択性の有無とを示すグラフである。 グリオキシル酸の抗腫瘍効果と選択性の有無とを示すグラフである。 2,3−ジメチル酒石酸の化学式である。
以下、具体的な実施形態について、抗癌剤および抗癌物質および輸液を例に挙げて図を参照しつつ説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。
1.抗癌物質および抗癌剤
第1の実施形態の抗癌物質は、L−乳酸ナトリウム水溶液にプラズマを照射することにより得られる抗腫瘍水溶液に含まれている物質である。この抗腫瘍水溶液を1 H−NMRにより解析したところ、抗癌物質と思しき物質は、1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に化学シフトのピークをもつ。
そのため、本実施形態の抗癌物質は、1 H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物である。つまり、抗癌物質は、(1)1.242(ppm)にピークをもつ物質と、(2)3.842(ppm)にピークをもつ物質と、(3)1.242(ppm)および3.842(ppm)の両方にピークをもつ物質の3種類のうちのいずれかであると考えられる。
そのため、本実施形態の抗癌剤は、1 H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物を主成分とする抗癌剤である。
2.抗癌物質の候補物質
上記の抗癌物質の候補物質として、グリオキシル酸または2,3−ジメチル酒石酸が挙げられる。つまり、1 H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物の候補物質が、グリオキシル酸または2,3−ジメチル酒石酸である。
または、抗癌物質は、上記以外の既知または未知の有機化合物である可能性もある。
3.抗癌剤製造装置
本実施形態の抗癌物質は、L−乳酸ナトリウム水溶液にプラズマを照射することにより得られる抗腫瘍水溶液に含まれている物質である。そのため、抗腫瘍水溶液を製造するためのプラズマ装置について説明する。
3−1.抗癌剤製造装置の構成
本実施形態の抗癌剤製造装置PMは、図1に示すように、プラズマ照射部P1と、アームロボットM1とを有している。プラズマ照射装置P1は、プラズマを発生させるとともに、そのプラズマを溶液に向けて照射するためのものである。
アームロボットM1は、図1に示すように、プラズマ照射装置P1の位置をx軸、y軸、z軸方向のそれぞれの方向に移動させることができるようになっている。なお、説明の便宜上、プラズマを照射する向きを−z軸方向としている。これにより、溶液の液面と、プラズマ照射部P1との間の距離を調整することができる。また、この抗癌剤製造装置PMは、予めプラズマ照射時間を設定することにより、その時間だけプラズマを照射することができるものである。
プラズマ照射装置P1には、後述するように、3種類の方式(第1のプラズマ発生装置P10および第2のプラズマ発生装置P20および第3のプラズマ発生装置P30)がある。そして、いずれの方式を用いてもよい。なお、第3のプラズマ発生装置P30は、図1のように、ロボットアームM1等を有していない。
3−2.第1のプラズマ発生装置
図2.Aはプラズマ発生装置P10の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ発生装置P10は、プラズマを点状に噴出する第1のプラズマ発生装置である。図2.Bは、図2.Aのプラズマ発生装置P10の電極2a、2bの形状の詳細を示す図である。
プラズマ発生装置P10は、筐体部10と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部10は、アルミナ(Al2 3 )を原料とする焼結体から成るものである。そして、筐体部10の形状は、筒形状である。筐体部10の内径は2mm以上3mm以下である。筐体部10の厚みは0.2mm以上0.3mm以下である。筐体部10の長さは10cm以上30cm以下である。筐体部10の両端には、ガス導入口10iと、ガス噴出口10oとが形成されている。ガス導入口10iは、プラズマを発生させるためのガスを導入するためのものである。ガス噴出口10oは、プラズマを筐体部10の外部に照射するための照射部である。なお、ガスの移動する向きは、図中の矢印の向きである。
電極2a、2bは、対向して配置されている対向電極対である。電極2a、2bの対向面方向の長さは、筐体部10の内径より小さい。例えば1mm程度である。電極2a、2bには、図2.Bに示すように、対向面のそれぞれに凹部(ホロー)Hが多数形成されている。そのため、電極2a、2bの対向面は、微細な凹凸形状となっている。なお、この凹部Hの深さは、0.5mm程度である。
電極2aは、筐体部10の内部であってガス導入口10iの近傍に配置されている。電極2bは、筐体部10の内部であってガス噴出口10oの近傍に配置されている。そのため、プラズマ発生装置P10では、電極2aの対向面の反対側からガスを導入するとともに、電極2bの対向面の反対側にガスを噴出するようになっている。そして、電極2a、2b間の距離は、24cmである。電極2a、2b間の距離は、これより小さい距離であってもよい。
電圧印加部3は、電極2a、2b間に交流電圧を印加するためのものである。電圧印加部3は、商用交流電圧である、60Hz、100Vを用いて9kVに昇圧するとともに、電極2a、2b間に電圧を印加する。
ガス導入口10iからアルゴンを導入するとともに、電圧印加部3により、電極2a、2b間に電圧を印加すると、筐体部10の内部にプラズマが発生する。図2.Aの斜線で示すように、プラズマが発生する領域をプラズマ発生領域Pとする。プラズマ発生領域Pは、筐体部10に覆われている。
3−3.第2のプラズマ発生装置
図3.Aはプラズマ発生装置P20の概略構成を示す断面図である。ここで、プラズマ発生装置P20は、プラズマを線状に噴出する第2のプラズマ発生装置である。図3.Bは、図3.Aのプラズマ発生装置P20のプラズマ領域Pの長手方向に垂直な断面における部分断面図である。
プラズマ発生装置P20は、筐体部11と、電極2a、2bと、電圧印加部3と、を有している。筐体部11は、アルミナ(Al2 3 )を原料とする焼結体から成るものである。筐体部11の両端には、ガス導入口11iと、多数のガス噴出口11oとが形成されている。ガス導入口11iは、図3.Aの左右方向を長手方向とするスリット形状をしている。ガス導入口11iからプラズマ領域Pの直上までのスリット幅(図3.Bの左右方向の幅)は1mmである。
ガス噴出口11oは、プラズマを筐体部11の外部に照射するための照射部である。ガス噴出口11oは、円筒形状もしくはスリット形状である。円筒形状の場合のガス噴出口11oは、プラズマ領域の長手方向に沿って一直線状に形成されている。ガス噴出口11oの内径は1mm以上2mm以下の範囲内である。また、スリット形状の場合には、ガス噴出口11oのスリット幅を1mm以下とすることが好ましい。これにより、安定したプラズマが形成される。また、ガス導入口11iは、電極2aと電極2bとを結ぶ線と交差する向きにガスを導入するようになっている。
電極2a、2bおよび電圧印加部3については、図1に示したプラズマ発生装置P10と同じものである。そして、同様に、商用交流電圧を用いて、電極2a、2b間に電圧を印加する。これにより、プラズマを一直線状に噴出することができる。
また、この一直線状にプラズマを噴出するプラズマ発生装置P20を図3.Bの左右方向に列状に並べて配置すれば、プラズマをある長方形の領域にわたって平面的に噴出することができる。
3−4.第3のプラズマ発生装置
図4は、第3のプラズマ発生装置P30の概略構成を示す概念図である。プラズマ発生装置P30は、収容している溶液にプラズマを照射するためのものである。
図4に示すように、プラズマ発生装置P30は、第1電極110と、第2電極210と、第1の電位付与部120と、第2の電位付与部220と、第1のリード線130と、第2のリード線230と、ガス供給部140と、ガス管結合コネクター150と、ガス管160と、第1電極保護部材170と、第2電極保護部材240と、第1電極支持部材180と、密閉部材191と、結合部材192と、容器250と、封止部材260と、架台270と、を有している。
3−4−1.電極の概略構成
第1電極110は、筒形状部110aを有している。そして、その筒形状部110aの内部にプラズマガスを供給することができるようになっている。つまり、第1電極110の内部は、ガス供給部140と連通している。第1電極110は、筒形状部110aから第2電極210に向けてガスを吹き出すようになっている。そして、第1電極110の先端部は、注射針形状をしている。つまり、第1電極110の先端部は、第1電極110の軸方向に垂直な方向に対して傾斜する傾斜面を有している。そして、第1電極110の先端部には、マイクロホローが形成されている。
第2電極210は、第1電極110と対向する電極である。第2電極210は、棒状電極である。第2電極210は、円柱形状である。もしくは、多角柱形状であってもよい。もしくは、先端の尖った針形状であってもよい。ここで、第2電極210は、先端部211を有している。第2電極210の先端部211は、イリジウムを含有するイリジウム合金でできている。例えば、イリジウムと白金との合金である。または、イリジウムと白金とオスミウムとの合金である。イリジウム合金は、硬度が高く、耐熱性に優れている。そのため、イリジウム合金は、第2電極210に好適である。また、イリジウムの代わりに、白金を用いてもよい。もしくは、パラジウムであってもよい。または、イリジウムと白金とパラジウムとのうちの少なくとも一種類以上を含む金属もしくは合金であるとよい。また、放電時には、第2電極210は、容器250に収容されている溶液に浸かっている。
第1の電位付与部120は、第1電極110に周期的に変化する電位を付与するためのものである。第2の電位付与部220は、第2電極210に周期的に変化する電位を付与するためのものである。ここで、第1の電位付与部120と第2の電位付与部220とのうちのどちらか一方は、接地されていてもよい。第1のリード線130は、第1電極110と第1の電位付与部120とを電気的に接続するためのものである。第1のリード線130は、ニッケル合金もしくはステンレスであるとよい。第2のリード線230は、第2電極210と第2の電位付与部220とを電気的に接続するためのものである。第2のリード線230は、ニッケル合金もしくはステンレスであるとよい。これにより、第1電極110と第2電極210との間に高周波の電圧が印加されることとなる。つまり、第1の電位付与部120および第2の電位付与部220は、第1電極110と第2電極210との間に電圧を印加するための電圧印加部である。
3−4−2.ガス供給経路
プラズマ発生装置P30は、前述したように、ガス供給部140と、ガス管結合コネクター150と、ガス管160と、を有している。そのため、ガス供給部140は、ガス管160およびガス管結合コネクター150を介して、第1電極110の筒形状部の内部にプラズマガスを供給する。ここで、ガス供給部140は、例えば、Arガスを供給する。もしくは、その他の希ガスを供給してもよい。もしくは、酸素ガス等その他のガスを微量含んでいてもよい。そのため、プラズマガスは、第1電極110から容器250に収容されている溶液に向けて吹き付けられることとなる。
3−4−3.上部構造の構成
図5は、プラズマ発生装置P30の上部構造を示す図である。図5に示すように、第1電極110は、先端部111を有している。先端部111は、図4に示すように、第2電極210に対面する位置に配置されている。第1電極110の先端部111は、傾斜面111aを有している。傾斜面111aは、第1電極110の軸方向に垂直な面に対して傾斜している面である。また、先端部111には、マイクロホロー111bが形成されている。マイクロホロー111bは、長さ0.5mm以上1mm以下、幅0.3mm以上0.5mm以下の微小な凹部である。
また、前述したように、プラズマ発生装置P30は、密閉部材191と、結合部材192と、を有している。密閉部材191は、図4に示す容器250に取り付けるとともに容器250の内部を密閉するためのものである。結合部材192は、第1電極110とガス管結合コネクター150とを、密閉部材191等を介して連結するための部材である。
3−4−4.下部構造の構成
図6は、プラズマ発生装置P30の下部構造を示す図である。前述したように、プラズマ発生装置P30は、容器250と、封止部材260と、架台270と、を有している。容器250は、内部に溶液を収容することができるようになっている。ここで、溶液とは、培養液等の水溶液、その他の水溶液や有機溶剤をも含むこととする。また、容器250は、第1電極110および第2電極210を内部に収容している。また、容器250は、目盛を有しているとよい。容器250の内部に収容されている溶液の量を計量するためである。
封止部材260は、第2電極保護部材240と、容器250との間の隙間を塞ぐためのものである。封止部材260として、例えば、オーリングが挙げられる。容器250の密閉性を確保し、溶液が容器250の底部に漏れ出すのを防止するものであれば、これ以外の部材を適用してもよい。架台270は、容器250その他の各部材を支持するためのものである。
4.プラズマ発生装置により発生されるプラズマ
4−1.第1のプラズマ発生装置および第2のプラズマ発生装置
プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマは、非平衡大気圧プラズマである。ここで、大気圧プラズマとは、0.5気圧以上2.0気圧以下の範囲内の圧力であるプラズマをいう。
本実施の形態では、プラズマ発生ガスとして、主にArガスを用いる。プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマの内部では、もちろん、電子と、Arイオンとが生成されている。そして、Arイオンは、紫外線を発生する。また、このプラズマは大気中に放出されているため、酸素ラジカルや窒素ラジカル等を発生させる。
このプラズマのプラズマ密度は、1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内である。なお、誘電体バリア放電により発生されるプラズマにおけるプラズマ密度は、1×1011cm-3〜1×1013cm-3程度である。したがって、プラズマ発生装置P10、P20により発生されるプラズマのプラズマ密度は、誘電体バリア放電により発生されるプラズマのプラズマ密度に比べて、3桁程度大きい。したがって、このプラズマの内部では、より多くのArイオンが生成する。そのため、ラジカルや、紫外線の発生量も多い。なお、このプラズマ密度は、プラズマ内部の電子密度にほぼ等しい。
そして、このプラズマ発生時におけるプラズマ温度は、およそ1000K以上2500K以下の範囲内である。また、このプラズマにおける電子温度は、ガスの温度に比べて大きい。しかも、電子の密度が1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内の程度であるにもかかわらず、ガスの温度はおよそ1000K以上2500K以下の範囲内である。このプラズマの温度は、プラズマの発生しているプラズマ領域Pでの温度である。したがって、プラズマの条件や、ガス噴出口から液面までの距離を異なる条件とすることにより、液面の位置でのプラズマ温度を室温程度とすることができる。
4−2.第3のプラズマ発生装置
図7は、プラズマ発生装置P30がプラズマを発生させている様子を模式的に示す図である。プラズマ発生装置P30により発生されるプラズマは、非平衡大気圧プラズマである。
図7に示すように、ガス供給部140から供給されるプラズマガスは、第1電極110から矢印K1の向きに放出される。そして、第1電極110と第2電極210との間に高周波の電圧を印加すると、第1電極110と第2電極210との間にプラズマ発生領域PG1が形成される。図7のプラズマ発生領域PG1は、概念的に描かれている。
第1の電位付与部120および第2の電位付与部220が、第1電極110と第2電極210との間に電圧を印加する電圧印加時には、第2電極210は、液体の内部に配置されている。このように、第1電極110と第2電極210との間には、容器250に収容されている液体と大気とがある。そして、第1電極と第2電極とを結ぶ線が、液体の液面LL1と交差している。
そのため、液体の液面LL1と第1電極110との間にプラズマが発生する。このとき、液体の液面LL1は、第1電極110から矢印K1の向きに放出されるプラズマガスの風圧を受けて、液体の側に向かって凹んでいる。そして、液体の内部では溶液が部分的に電気分解し、気化する。その気化したガスの内部でもプラズマが発生する。また、プラズマ発生領域PG1は、液体の液面LL1に接触している。
以上により、大気もしくは水に由来するラジカルが発生する。そして、溶液にラジカルが照射されることとなる。これにより、ラジカルは、水分子もしくは溶液中の溶質と反応する。
5.抗癌剤(抗腫瘍水溶液)の製造方法
5−1.水溶液準備工程
まず、第1の水溶液を準備する。第1の水溶液とは、プラズマを照射する前の水溶液のことをいう。第1の水溶液は、乳酸と、乳酸ナトリウムと、乳酸カリウムと、乳酸カルシウムと、酢酸と、酢酸ナトリウムと、酢酸カリウムと、酢酸カルシウムと、クエン酸と、クエン酸ナトリウムと、クエン酸カリウムと、クエン酸カルシウムと、のうちの少なくとも一つを含有する。また、第1の水溶液は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムとのうちの少なくとも一つを含有するものであってもよい。そして、第1の水溶液は、リンゲル液であるとよい。リンゲル液は、乳酸リンゲル液と、酢酸リンゲル液と、重炭酸リンゲル液と、を含む。
5−2.プラズマ照射工程
5−2−1.第1のプラズマ発生装置および第2のプラズマ発生装置
次に、抗癌剤製造装置PMによりプラズマ発生領域に発生させた非平衡大気圧プラズマを第1の水溶液に照射する。プラズマを照射する際における液面とプラズマ噴出口との間の距離は、例えば、1cmである。また、この距離は、1mm以上3cm以下の範囲内で変えてもよい。このプラズマのプラズマ密度は、1×1014cm-3以上1×1017cm-3以下の範囲内である。そして、このプラズマにおけるプラズマ温度は、およそ1000K以上2500K以下の範囲内である。ただし、このプラズマ温度は、液面では、室温程度(300K程度)まで下げることもできる。これらのプラズマ条件を表1に示す。これらの条件は、あくまで一例である。
[表1]
条件 数値範囲
液面−噴出口距離 1mm以上 3cm以下
プラズマ密度 1×1014cm-3以上 1×1017cm-3以下
プラズマ温度 1000K以上 2500K以下
なお、抗腫瘍効果を有する抗癌剤を製造するためには、プラズマ密度時間積を、次の条件を満たすようにするとよい。
1.2×1018sec・cm-3以上
ここで、プラズマ密度時間積とは、プラズマ発生領域におけるプラズマ密度と、大気圧プラズマをこの水溶液に照射した時間(照射時間)との積である。
5−2−2.第3のプラズマ発生装置
プラズマ発生装置P10、P20の代わりに、プラズマ発生装置P30によりプラズマ発生領域に発生させた大気圧プラズマを第1の水溶液に照射してもよい。第1電極110を第1の水溶液の外に配置するとともに第2電極210を第1の水溶液の中に配置する。そして、第1電極110の筒形状部110aから第1の水溶液に向かってガスを照射する。そして、その状態で第1電極110と第2電極210との間に電圧を印加する。
このように、第1の水溶液にプラズマを照射することにより、第1の水溶液を第2の水溶液にする。この第2の水溶液は、抗腫瘍効果を備える抗癌剤である。第2の水溶液は、本実施形態の抗癌物質を含有している。
6.抗癌剤の効果
本実施形態の抗癌物質は、L−乳酸ナトリウム水溶液にプラズマを照射することにより得られる抗腫瘍水溶液に含まれている物質である。この抗癌物質は、癌細胞を死滅させるが、正常細胞を死滅させることはほとんどない。つまり、抗癌物質は、癌細胞を選択的に死滅させることができる。したがって、この抗癌物質を主成分として含有する抗癌剤は、患者に副作用をほとんど与えることなく、患者の癌を治療することができる。
7.抗癌剤(抗腫瘍水溶液)を用いた治療方法
7−1.想定される治療方法
本実施形態の抗癌剤を用いた治療方法として以下の方法を想定している。腫瘍性病変(良性、悪性を問わない)および腫瘍性病変に関する病態(転移や播種など)に対し、抗癌剤を直接または間接的に投与する。ここでいう投与とは、臓器、組織、細胞に抗癌剤を直接または間接的に接触させることあるいは影響を及ぼすすべての行為をいうものとする。つまり、投与とは、例えば、噴霧、暴露である。間接的に投与する場合として、例えば、抗癌剤を含ませた布や脱脂綿等を腫瘍性病変に接触させる場合が挙げられる。
7−2.具体例
例えば、消化器、肝胆道、血管またはそれらに関連する臓器または組織あるいは細胞から発生した腫瘍性病変に対し、抗癌剤を直接または間接的に投与する。または、脳腫瘍や癌にみられる播種(髄腔内、胸腔または腹腔内播種など)に対し、抗癌剤を髄腔内、胸腔または腹腔内に投与する。
8.変形例
8−1.成分添加工程
第2の水溶液に塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムとのうちの少なくとも一つを添加して第3の水溶液としてもよい。第3の水溶液も抗癌剤である。
8−2.第1電極
本実施形態のプラズマ発生装置P30では、第1電極110の筒形状部110aは、円筒形状である。しかし、円筒形状に限らない。筒形状であれば、多角形形状であってもよい。
9.本実施形態のまとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態の抗癌物質は、L−乳酸ナトリウム水溶液にプラズマを照射することにより得られる抗腫瘍水溶液に含まれている物質であって、1 H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物である。この抗癌物質は、正常細胞にほとんど影響を与えることなく、癌細胞を殺すことができる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。
1.輸液
第2の実施形態の抗癌物質は、第1の実施形態と同じである。第2の実施形態では、第1の実施形態の抗癌物質を含む輸液を用いる。本実施形態の輸液は、乳酸リンゲル液にプラズマを照射したものである。この輸液は、乳酸リンゲル液と、1 H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物と、を含有する。
この輸液を患者に投与することにより、抗癌物質が患者の体内のあらゆる臓器に送られる。そのため、体内に癌細胞が播種されているような患者に対して、高い効果が期待される。
2.変形例
乳酸リンゲル液の代わりに、酢酸リンゲル液または重炭酸リンゲル液を用いてもよい。
1.実験A(抗癌剤における抗腫瘍効果)
本実験は、第2のプラズマ発生装置P20および第3のプラズマ発生装置P30を用いて製造された抗癌剤について行った実験である。
1−1.用いた癌細胞
本実験では、癌細胞としてグリオーマを用いた。グリオーマは、神経膠細胞(グリア細胞)に発生する神経膠腫である。すなわち、脳腫瘍の一種である。グリオーマとして、具体的には、U251SPを用いた。
1−2.実験方法
1−2−1.癌細胞の培養
上記の癌細胞を、96ウェルプレートに培養して癌細胞培養地を作製した。用いた培養液は、DMEMと血清(FBS)と抗生物質(ペニシリン・ストレプトマイシン)とを混合した溶液である。1ウェル当たりに播種した細胞数は5000個および10000個であった。また、1ウェル当たりに供給した培養液の容積は0.2mLであった。癌細胞を培養する培養期間は24時間であった。
1−2−2.抗癌剤(抗腫瘍水溶液)の作製
癌細胞培養地を用意するのとは別に、抗癌剤(抗腫瘍水溶液)を作製した。抗癌剤は、ラクテック(登録商標)と同じ成分の水溶液にプラズマを照射した溶液(PAL:Plasma Activated Lactec(Lactecは登録商標))である。ラクテック(登録商標)は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、L−乳酸ナトリウムと、を含有する。塩化ナトリウムの濃度は、6.0g/Lである。塩化カリウムの濃度は、0.3g/Lである。塩化カルシウム水和物の濃度は、0.2g/Lである。L−乳酸ナトリウムの濃度は、3.1g/Lである。
プラズマの照射時間は、5分であった。ガスの種類としてアルゴンガスを用いた。プラズマ発生装置P20では、プラズマ発生領域と溶液1との間の距離は、2mmであった。プラズマ発生装置P30では、第1電極110と溶液1の液面との間の距離は、6mmであった。
1−2−3.癌細胞培養地への抗癌剤(抗腫瘍水溶液)の供給
次に、癌細胞を培養した96ウェルプレートの培養液をサンプル水溶液と交換した。癌細胞がサンプル水溶液に浸かっている時間は、24時間であった。そして、その後、サンプル水溶液を通常の培養液に交換した。その後、MTSアッセイにより、生存している細胞数の割合を調べた。
1−3.実験結果
図8は、第2のプラズマ発生装置P20を用いて5000個の細胞に抗癌剤を供給した場合を示す。図8の縦軸は、生存細胞数の割合である。ここで、「Untreated」は、プラズマを照射しなかった場合を示している。そして、このプラズマを照射しなかった場合を100%として基準にした。
図8に示すように、抗癌剤は、強い抗腫瘍効果を示した。抗癌剤を4倍に薄めたもの、16倍に薄めたもの、64倍に薄めたもののそれぞれについて、抗腫瘍効果を示した。しかし、抗癌剤を256倍に薄めたものについては、抗腫瘍効果を示さなかった。
図9は、第2のプラズマ発生装置P20を用いて10000個の細胞に抗癌剤を供給した場合を示す。図9の縦軸は、生存細胞数の割合である。ここで、「Untreated」は、プラズマを照射しなかった場合を示している。そして、このプラズマを照射しなかった場合を100%として基準にした。
図9に示すように、抗癌剤は、強い抗腫瘍効果を示した。抗癌剤を4倍に薄めたもの、16倍に薄めたもののそれぞれについて、抗腫瘍効果を示した。しかし、抗癌剤を64倍に薄めたもの、256倍に薄めたものについては、抗腫瘍効果を示さなかった。
図10は、第3のプラズマ発生装置P30を用いて5000個の細胞に抗癌剤を供給した場合を示す。図10の縦軸は、生存細胞数の割合である。ここで、「Untreated」は、プラズマを照射しなかった場合を示している。そして、このプラズマを照射しなかった場合を100%として基準にした。
図10に示すように、抗癌剤は、強い抗腫瘍効果を示した。抗癌剤を4倍に薄めたもの、16倍に薄めたもの、64倍に薄めたもののそれぞれについて、抗腫瘍効果を示した。しかし、抗癌剤を256倍に薄めたものについては、抗腫瘍効果を示さなかった。
図11は、第3のプラズマ発生装置P30を用いて10000個の細胞に抗癌剤を供給した場合を示す。図11の縦軸は、生存細胞数の割合である。ここで、「Untreated」は、プラズマを照射しなかった場合を示している。そして、このプラズマを照射しなかった場合を100%として基準にした。
図11に示すように、抗癌剤は、強い抗腫瘍効果を示した。抗癌剤を4倍に薄めたもの、16倍に薄めたもののそれぞれについて、抗腫瘍効果を示した。しかし、抗癌剤を64倍に薄めたもの、256倍に薄めたものについては、抗腫瘍効果を示さなかった。
2.実験B(抗癌剤の原材料)
本実験は、プラズマ発生装置P20を用いて製造された抗癌剤について行った実験である。
2−1.用いた癌細胞
本実験では、癌細胞としてグリオーマを用いた。グリオーマは、神経膠細胞(グリア細胞)に発生する神経膠腫である。すなわち、脳腫瘍の一種である。グリオーマとして、具体的には、U251SPを用いた。
2−2.実験方法
2−2−1.癌細胞の培養
上記の癌細胞を、96ウェルプレートに培養して癌細胞培養地を作製した。用いた培養液は、DMEMと血清(FBS)と抗生物質(ペニシリン・ストレプトマイシン)とを混合した溶液である。1ウェル当たりに播種した細胞数は10000個であった。また、1ウェル当たりに供給した培養液の容積は0.2mLであった。癌細胞を培養する培養期間は24時間であった。
2−2−2.サンプル水溶液の作製
癌細胞培養地を用意するのとは別に、サンプル水溶液を作製した。サンプル水溶液は、下記の水溶液にプラズマを照射して作製した。点滴成分として、ラクテック(登録商標)を基準とした。ラクテック(登録商標)は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、L−乳酸ナトリウムと、を含有する。塩化ナトリウムの濃度は、6.0g/Lである。塩化カリウムの濃度は、0.3g/Lである。塩化カルシウム水和物の濃度は、0.2g/Lである。L−乳酸ナトリウムの濃度は、3.1g/Lである。
そして、表2に示すように、11種類のサンプル水溶液を作製した。表2に示す例1−11のサンプル水溶液は、いずれもラクテック(登録商標)とほぼ同じ成分を有する。表2に示すように、サンプル水溶液は、溶液1と溶液2とを混合した水溶液である。溶液1は、プラズマを照射した溶液である。溶液2は、プラズマを照射しなかった溶液である。溶液1と溶液2とを混合すると、前述したラクテック(登録商標)とほぼ同じ成分となるようにしてある。つまり、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、L−乳酸ナトリウムと、を溶液1または溶液2のいずれかに混合することとした。
例えば、表2の例2では、溶液1として、濃度がラクテック(登録商標)の2倍の塩化ナトリウム水溶液を作製した。また、溶液2として、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、L−乳酸ナトリウムと、を混合するとともに、濃度をラクテック(登録商標)の2倍とした。これらの溶液1と溶液2とを、仮にプラズマを照射しないで混合すると、ラクテック(登録商標)と同じものが製造される。
例1のサンプル水溶液は、通常のラクテック(登録商標)と同じものである。例2は、NaCl−GOF(Gain of Function)である。つまり、塩化ナトリウム水溶液にプラズマを照射し、その他の成分を添加したものである。例3は、KCl−GOFである。つまり、塩化カリウム水溶液にプラズマを照射し、その他の成分を添加したものである。例4は、CaCl2 −GOFである。つまり、塩化カルシウム水溶液にプラズマを照射し、その他の成分を添加したものである。例5は、L−sodiumlactate−GOFである。つまり、L−乳酸ナトリウム水溶液にプラズマを照射し、その他の成分を添加したものである。
例6は、NaCl−LOF(Loss of Function)である。つまり、塩化ナトリウムを除く成分を含む水溶液にプラズマを照射し、塩化ナトリウムを添加したものである。例7は、KCl−LOFである。つまり、塩化カリウムを除く成分を含む水溶液にプラズマを照射し、塩化カリウムを添加したものである。例8は、CaCl2 −LOFである。つまり、塩化カルシウムを除く成分を含む水溶液にプラズマを照射し、塩化カルシウムを添加したものである。例9は、L−sodiumlactate−LOFである。つまり、L−乳酸ナトリウムを除く成分を含む水溶液にプラズマを照射し、L−乳酸ナトリウムを添加したものである。
例10は、プラズマ照射ラクテックである。つまり、ラクテック(登録商標)の2倍の水溶液にプラズマを照射し、Milli−Q水で2倍に薄めたものである。例11は、プラズマ照射水である。つまり、Milli−Q水にプラズマを照射し、それにラクテック(登録商標)の2倍の水溶液を混合したものである。
プラズマの照射時間は、2分であった。ガスの流量は、0.4slmであった。ガスの種類としてアルゴンガスを用いた。プラズマ発生領域と溶液1との間の距離は、13mmであった。
2−2−3.癌細胞培養地への抗癌剤(抗腫瘍水溶液)の供給
次に、癌細胞を培養した96ウェルプレートの培養液をサンプル水溶液と交換した。癌細胞がサンプル水溶液に浸かっている時間は、24時間であった。そして、その後、サンプル水溶液を通常の培養液に交換した。その後、MTSアッセイにより、生存している細胞数の割合を調べた。
2−3.実験結果
実験結果を図12に示す。図12の縦軸は、生存細胞数の割合である。ここで、例1を基準の1とした。
図12に示すように、例5−8、例10のサンプル水溶液は、抗腫瘍効果を示した。例5のサンプル水溶液が最も高い抗腫瘍効果を示した。例5の生存細胞数の割合は、0.1程度であった。例10の生存細胞数の割合は、0.2〜0.3程度であった。例6−8の生存細胞数の割合は、0.4〜0.5程度であった。
例5−8、例10に共通する事項は、溶液1がL−乳酸ナトリウムを含有していることである。つまり、L−乳酸ナトリウムを含む第1の水溶液にプラズマを照射することにより、抗癌剤が製造されることを示している。また、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムが入っていても、抗腫瘍効果が失われることはほとんどない。そのため、例えば、例5の抗癌剤を、患者の体内に投与することが可能である。
また、本実験では、L−乳酸ナトリウムを用いた。しかし、D−乳酸ナトリウムであっても同様の効果を奏すると考えられる。また、乳酸、乳酸カリウム、乳酸カルシウムであっても同様の効果を奏すると考えられる。
3.実験C(抗癌剤の選択性)
図13は、抗癌剤の選択性を示すグラフである。図13(a)は、U251細胞に対しての結果を示すグラフである。図13(b)は、MCF10A細胞に対しての結果を示すグラフである。図13(c)は、新生児ケラチノサイト細胞に対しての結果を示すグラフである。前述のように、U251細胞は癌細胞である。MCF10A細胞および新生児ケラチノサイト細胞は、正常細胞である。
本実験では、これらの細胞に同等の条件でプラズマを照射したラクテック(登録商標)を用いた。図13(a)では、プラズマを40秒照射した抗癌剤に暴露することにより、U251細胞は死滅している。一方、図13(b)および図13(c)に示すように、プラズマを40秒照射した抗癌剤に暴露した場合に、MCF10A細胞および新生児ケラチノサイト細胞は死滅しなかった。つまり、実施形態の抗癌剤は、癌細胞を死滅させるとともに正常細胞をほとんど死滅させない。このように、この抗癌剤は、癌細胞を選択的に死滅させることができる。
4.実験D(生物実験)
4−1.マウス
図14は、本実験の実験方法を模式的に示す図である。実験用マウスとして、生後8週齢のメスのBALB/c-nu/nuヌードマウス(日本エスエルシー株式会社製)を用いた。
4−2.癌細胞
癌細胞として、ヒト子宮頸がん細胞株(SiHa,ATCC)を用いた。
4−3.実験方法
100μLのPBSに浮遊させた1500細胞のヒト子宮頸がん細胞株(SiHa)を100μLのマトリゲル(BD Biosciences社製)と混ぜ合わせて合計200μLの細胞懸濁液を作製した。そして、その細胞懸濁液をヌードマウスの脇腹に皮下注射した。その際に、マウス一匹あたり両脇腹に一箇所ずつ、合計2箇所に播種した。そして、細胞を播種した10匹のヌードマウスを2つのグループに分けた。1つ目のグループのマウスには、通常のラクテック(登録商標)を両脇腹に注入した。2つ目のグループのマウスには、5.5mLのラクテック(登録商標)にプラズマを10分間照射した溶液(PAL:Plasma Activated Lactec)を両脇腹に注入した。このPALは、実施形態で説明した抗癌剤である。これらのラクテック等の投与を1週間に3回ずつ行った。1回あたりに一箇所に投与した量は、200μLであった。そして、42日後に、これら2グループのマウスから皮下腫瘍を取り出した。
4−4.実験結果
図15は、実験開始から42日目にマウスから取り出した皮下腫瘍を示す写真である。図15に示すように、通常のラクテック(登録商標)を投与したマウス(Control)から摘出した皮下腫瘍は、プラズマを照射したラクテック(登録商標)を投与したマウス(PAL)から摘出した皮下腫瘍よりも大きい傾向にある。また、マウスによる個体差はある程度ある。しかし、同じマウスでは、左右で腫瘍の大きさの違いはほとんどなかった。
図16は、マウスの皮下腫瘍の体積の時間変化を示すグラフである。図16の横軸は、日数である。図16の縦軸は、皮下腫瘍の体積である。皮下腫瘍の体積V1については、次式で近似して算出した。つまり、皮下腫瘍の形状を回転楕円体で近似した。
V1 = (π/6)×a1×b12
V1:皮下腫瘍の体積
a1:皮下腫瘍の長径
b1:皮下腫瘍の短径
なお、長径a1、短径b1については、デジタルノギスを用いておおよその値を測定した。
図16に示すように、通常のラクテック(登録商標)を投与したマウス(Control)から摘出した皮下腫瘍は、プラズマを照射したラクテック(登録商標)を投与したマウス(PAL)から摘出した皮下腫瘍よりも大きかった。また、通常のラクテック(登録商標)を投与したマウスでは、30日経過後に、急激に皮下腫瘍が成長している。
図17は、マウスの体重の時間変化を示すグラフである。図17の横軸は、日数である。図17の縦軸は、マウスの体重である。ヌードマウスの体重は、1グループ目の通常のラクテック(登録商標)を投与したマウスと、2グループ目のプラズマを照射したラクテック(登録商標)を投与したマウスとで、ほとんど同じであった。また、実験開始から、ヌードマウスの体重は、増加傾向にあるが、それほど変化していない。
図18は、42日目に摘出した皮下腫瘍の体積および重量を示すグラフである。皮下腫瘍の体積V2については、次式で近似して算出した。
V2 = (π/6)×a2×b2×h2
V2:皮下腫瘍の体積
a2:皮下腫瘍の長径
b2:皮下腫瘍の短径
h2;皮下腫瘍の高さ(厚み)
なお、長径a2、短径b2、高さh2については、デジタルノギスを用いて測定した。
図19(a)に示すように、プラズマを照射したラクテック(登録商標)(PAL)を投与したマウスの皮下腫瘍の体積は、プラズマを照射しなかったラクテック(登録商標)(Control)を投与したマウスの皮下腫瘍の体積の30%程度であった。また、図19(b)に示すように、プラズマを照射したラクテック(登録商標)(PAL)を投与したマウスの皮下腫瘍の重量は、プラズマを照射しなかったラクテック(登録商標)(Control)を投与したマウスの皮下腫瘍の重量の30%程度であった。
このように、プラズマを照射しなかった通常のラクテック(登録商標)には、抗がん作用は認められなかった。一方、プラズマを照射したラクテック(登録商標)では、通常のラクテック(登録商標)に比べて、皮下腫瘍の体積および重量を70%程度抑制した。このように、プラズマを照射したラクテック(登録商標)には、抗癌作用が認められた。
5.実験E(他のリンゲル液)
本実験は、プラズマ発生装置P30を用いて製造された抗癌剤(抗腫瘍水溶液)について行った実験である。
5−1.用いた癌細胞
本実験では、癌細胞として卵巣癌細胞を用いた。具体的には、SKOV3を用いた。
5−2.実験方法
5−2−1.癌細胞の培養
上記の癌細胞を、96ウェルプレートに培養して癌細胞培養地を作製した。用いた培養液は、RPMIと血清(FBS)と抗生物質(ペニシリン・ストレプトマイシン)とを混合した溶液である。1ウェル当たりに播種した細胞数は5000個であった。また、1ウェル当たりに供給した培養液の容積は0.1mLであった。癌細胞を培養する培養期間は24時間であった。
5−2−2.抗癌剤(抗腫瘍水溶液)の作製
癌細胞培養地を用意するのとは別に、抗癌剤を作製した。抗癌剤の材料として、乳酸リンゲル液と、酢酸リンゲル液と、重炭酸リンゲル液とを用いた。乳酸リンゲル液の成分は、実験A等で用いたラクテック(登録商標)と同じである。
酢酸リンゲル液は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、酢酸ナトリウムと、を含有する。塩化ナトリウムの濃度は、6.0g/Lである。塩化カリウムの濃度は、0.3g/Lである。塩化カルシウム水和物の濃度は、0.2g/Lである。酢酸ナトリウム水和物の濃度は、3.8g/Lである。
重炭酸リンゲル液は、塩化ナトリウムと、塩化カリウムと、塩化カルシウムと、塩化マグネシウムと、炭酸水素ナトリウムと、クエン酸ナトリウムと、を含有する。塩化ナトリウムの濃度は、5.84g/Lである。塩化カリウムの濃度は、0.3g/Lである。塩化カルシウムの濃度は、0.22g/Lである。塩化マグネシウムの濃度は、0.2g/Lである。炭酸水素ナトリウムの濃度は、2.35g/Lである。クエン酸ナトリウムの濃度は、0.2g/Lである。
これら3種類のリンゲル液にプラズマを照射した。プラズマの照射時間は、10分であった。ガスの種類としてアルゴンガスを用いた。プラズマ発生装置P30では、第1電極110と溶液1の液面との間の距離は、3mmであった。
5−2−3.癌細胞培養地への抗癌剤(抗腫瘍水溶液)の供給
そして、図19に示すように、癌細胞を培養した96ウェルプレートの培養液を抗癌剤と交換した。癌細胞が抗癌剤に浸かっている時間は、24時間であった。そして、その後、抗癌剤を通常の培養液に交換した。その後、MTSアッセイにより、生存している細胞数の割合を調べた。
5−3.実験結果
5−3−1.乳酸リンゲル液
図20は、乳酸リンゲル液にプラズマを照射した水溶液でSKOV3を処理した場合のSKOV3の生存率を示すグラフである。図20に示すように、乳酸リンゲル液にプラズマを照射した水溶液は、卵巣癌細胞(SKOV3)に対して抗腫瘍効果を示した。その強度は、全SKOV3細胞の50%を死滅させうる希釈率が78倍希釈であった。
5−3−2.酢酸リンゲル液
図21は、酢酸リンゲル液にプラズマを照射した水溶液でSKOV3を処理した場合のSKOV3の生存率を示すグラフである。図21に示すように、酢酸リンゲル液にプラズマを照射した水溶液は、卵巣癌細胞(SKOV3)に対して抗腫瘍効果を示した。その強度は、全SKOV3細胞の50%を死滅させうる希釈率が53倍希釈であった。
5−3−3.重炭酸リンゲル液
図22は、重炭酸リンゲル液にプラズマを照射した水溶液でSKOV3を処理した場合のSKOV3の生存率を示すグラフである。図22に示すように、重炭酸リンゲル液にプラズマを照射した水溶液は、卵巣癌細胞(SKOV3)に対して抗腫瘍効果を示した。その強度は、全SKOV3細胞の50%を死滅させうる希釈率が1/3倍希釈であった。
このように、乳酸リンゲル液と、酢酸リンゲル液と、重炭酸リンゲル液と、のそれぞれにプラズマを照射した水溶液は、いずれも卵巣癌細胞(SKOV3)に対して抗腫瘍効果を示した。抗腫瘍効果の強さは、乳酸リンゲル液にプラズマを照射した水溶液、酢酸リンゲル液にプラズマを照射した水溶液、重炭酸リンゲル液にプラズマを照射した水溶液、の順であった。このように、乳酸リンゲル液に限らず、これらの種々のリンゲル液は、プラズマを照射することにより抗腫瘍効果を示した。また、卵巣癌細胞(SKOV3)に対して抗腫瘍効果を奏した。
また、抗癌剤の原材料は、酢酸ナトリウムに限らず、酢酸、酢酸カリウム、酢酸カルシウムであってもよいと考えられる。同様に、抗癌剤の原材料は、炭酸水素ナトリウムやクエン酸ナトリウムに限らず、クエン酸、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウムであってもよいと考えられる。
6.実験F(酢酸リンゲル液の成分)
本実験は、プラズマ発生装置P30を用いて製造された抗癌剤(抗腫瘍水溶液)について行った実験である。
6−1.用いた癌細胞
本実験では、癌細胞として卵巣癌細胞を用いた。具体的には、SKOV3を用いた。
6−2.実験方法
6−2−1.癌細胞の培養
上記の実験Eと同様に癌細胞を培養した。
6−2−2.サンプル水溶液の作製
本実験では、7種類のサンプル水溶液を用いた。これらのサンプル水溶液は、実験BのGOFと同じ考え方により製造された水溶液である。つまり、水溶液A1と水溶液A2とを用意する。ここで、水溶液A1と水溶液A2とを混合すると実験Eで用いた酢酸リンゲル液となる。本実験では、水溶液A1のみにプラズマを照射して、その後水溶液A1と水溶液A2とを混合する。
第1のサンプル水溶液は、プラズマを照射していない酢酸リンゲル液である。第2のサンプル水溶液は、純水にプラズマを照射し、その後高い濃度の酢酸リンゲル液を混合したものである。第3のサンプル水溶液は、酢酸ナトリウム水溶液にプラズマを照射し、その後酢酸リンゲル液の他の成分を混合したものである。第4のサンプル水溶液は、酢酸リンゲル液にプラズマを照射し、その後酢酸リンゲル液を混合したものである。第5のサンプル水溶液は、塩化ナトリウム水溶液にプラズマを照射し、その後酢酸リンゲル液の他の成分を混合したものである。第6のサンプル水溶液は、塩化カリウム水溶液にプラズマを照射し、その後酢酸リンゲル液の他の成分を混合したものである。第7のサンプル水溶液は、塩化カルシウム水溶液にプラズマを照射し、その後酢酸リンゲル液の他の成分を混合したものである。
上記において、酢酸リンゲル液の成分は実験Eで用いたものと同じである。そして、プラズマの照射時間は、5分であった。ガスの種類としてアルゴンガスを用いた。プラズマ発生装置P30では、第1電極110と溶液1の液面との間の距離は、10mmであった。
6−2−3.癌細胞培養地へのサンプル水溶液の供給
そして、実験Eと同様に癌細胞にサンプル水溶液1からサンプル水溶液7を供給した。その後、MTSアッセイにより、生存している細胞数の割合を調べた。
6−3.実験結果
図23および図24は、実験結果を示すグラフである。図23および図24に示すように、第3のサンプル水溶液および第4のサンプル水溶液は、抗腫瘍効果を示した。その他のサンプル水溶液は、抗腫瘍効果を示さなかった。これは、酢酸リンゲル液に含まれる成分のうち酢酸ナトリウムが抗腫瘍物質の原材料であることを示している。この結果は、実験Eと矛盾のない結果である。
7.実験G(H2 2 の効果)
ラクテック(登録商標)にプラズマを照射した抗腫瘍水溶液(PAL)は、プラズマに由来する活性種を含んでいると考えられる。例えば、スーパーオキシドアニオンラジカルや過酸化水素が挙げられる。スーパーオキシドアニオンラジカル等のラジカルは、水中での寿命は非常に短く、短時間で消失する。一方、過酸化水素はある程度長い寿命を有する。
7−1.カタラーゼ
カタラーゼは、過酸化水素を分解する酵素である。そのため、PALにカタラーゼを配合すれば、過酸化水素をほとんど含まない水溶液が得られる。本実験では、H2 2 の濃度を50nM以下とした。
7−2.癌細胞
本実験では、癌細胞としてU251SPを用いた。
7−3.結果
図25は、PALにカタラーゼを配合した場合の癌細胞の生存率を示すグラフである。図25の縦軸は癌細胞の生存率である。図25に示すように、カタラーゼを配合したPALは抗腫瘍効果を示した。つまり、PALは、過酸化水素等の活性酸素種ではない抗癌物質を含んでいると考えられる。
図26は、活性種の有無と癌細胞の生存率との関係を示すグラフである。図26の横軸は、水溶液の種類である。図26の縦軸は、癌細胞の生存率である。図26に示すように、過酸化水素と、PALと、カタラーゼを配合したPALとは、抗腫瘍効果を有する。しかし、亜硝酸イオンは、抗腫瘍効果を有さない。
図27は、通常の癌細胞の顕微鏡写真である。図28は、癌細胞にH2 2 を供給した場合の顕微鏡写真である。図29は、癌細胞にカタラーゼを配合したPALを供給した場合の顕微鏡写真である。図30は、癌細胞にPALを供給した場合の顕微鏡写真である。
ここで、過酸化水素は活性酸素種(ROS)の一種である。この場合には、有機化合物を癌細胞に与えていない。カタラーゼを配合したPALは、有機化合物を有するとともに活性酸素種(ROS)を有さない。PALは、有機化合物および活性酸素種(ROS)の双方を有すると考えられる。
図28に示すように、過酸化水素を与えると、癌細胞は丸く縮小しながら細胞死を迎える。図28から、癌細胞がネクローシスを起こしているように見える。図29および図30に示すように、PALを与えると、癌細胞はアポトーシスにより細胞死しているように見える。
図31は、カスパーゼ活性を比較する顕微鏡写真である。図31(a)は、プラズマを照射していないラクテック(登録商標)を与えた癌細胞の微分干渉顕微鏡写真である。図31(b)は、PALを与えた癌細胞の微分干渉顕微鏡写真である。図31(c)は、カタラーゼを配合したPALを与えた癌細胞の微分干渉顕微鏡写真である。図31(d)は、プラズマを照射していないラクテック(登録商標)を与えた癌細胞のカスパーゼ活性を観測した顕微鏡写真である。図31(e)は、PALを与えた癌細胞のカスパーゼ活性を観測した顕微鏡写真である。図31(f)は、カタラーゼを配合したPALを与えた癌細胞のカスパーゼ活性を観測した顕微鏡写真である。
図31(e)および図31(f)に示すように、PALもしくはカタラーゼを配合したPALを与えた癌細胞では、カスパーゼ活性が観測される。したがって、PALもしくはカタラーゼを配合したPALは、癌細胞のアポトーシスを誘導する可能性が高い。
8.実験H(NMR)
8−1.乳酸ナトリウム水溶液
本実験では、プラズマを照射していない乳酸ナトリウム水溶液と、プラズマを照射した乳酸ナトリウム水溶液と、についてNMRを実施した。そのために、市販の乳酸ナトリウム水溶液を用いた。乳酸ナトリウム水溶液の濃度は50%である。プラズマを照射した乳酸ナトリウム水溶液は、乳酸ナトリウム水溶液に5分間だけプラズマを照射することにより作製された。その際にプラズマ発生装置P20を用いた。そして、1 H−NMRを用いて、化学シフトのピークを観測した。
8−2.結果
図32は、乳酸ナトリウム水溶液へのプラズマの照射の前後における1 H−NMRの化学シフトを示すグラフである。図32の上図はプラズマ照射前の結果を示し、図32の下図はプラズマ照射後の結果を示している。図32に示すように、プラズマ照射後の乳酸ナトリウム水溶液は、酢酸、ピルビン酸、ギ酸を含有している。また、上記とは別に、プラズマを照射した後の乳酸ナトリウム水溶液は、1.242(ppm)と3.842(ppm)とに化学シフトのピークを有する。
したがって、抗癌物質は、(1)1.242(ppm)にピークをもつ物質と、(2)3.842(ppm)にピークをもつ物質と、(3)1.242(ppm)および3.842(ppm)の両方にピークをもつ物質の3種類のうちのいずれかであると考えられる。
9.実験I(エレクトロスプレーイオン化質量分析)
プラズマを照射した乳酸ナトリウム水溶液についてエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)により分析した。
エレクトロスプレーイオン化質量分析の結果、プラズマ照射乳酸ナトリウム水溶液は、酢酸、ピルビン酸、ギ酸の他に、グリオキシル酸と、2,3−ジメチル酒石酸と、を含有することが明らかになった。グリオキシル酸と、2,3−ジメチル酒石酸とは、抗癌物質の候補である。
10.実験J(pH依存性)
水にプラズマを照射すると亜硝酸イオンや硝酸イオンが水中にもたらされ、その水は酸性となる。そのため、PALにおける抗腫瘍効果のpH依存性を調べた。ラクテック(登録商標)のpHは6.35であった。ラクテック(登録商標)に大気圧プラズマを5分照射したPALのpHは4.98であった。そのため、リン酸バッファでPALのpHを調整し、抗腫瘍効果を調べた。
図33は、PALのpHと癌細胞の生存率との関係を示すグラフである。pHが小さいほど、PALの抗腫瘍効果は高い。
11.実験K(抗癌物質)
癌細胞を培養する培養液に1種類の化合物を添加して、抗腫瘍効果の有無を調べた。なお、この実験においては、もちろん、培養液はプラズマを照射されていない。癌細胞はU251SPであった。正常細胞はアストロサイトであった。
図34は、化合物と癌細胞の生存率との関係を示すグラフである。図34の横軸は化合物の濃度(mM)である。図34の縦軸は細胞生存率である。
2,3−ジメチル酒石酸は、5mM以下では抗腫瘍効果を示さなかった。10mMの2,3−ジメチル酒石酸に対して、癌細胞の生存率は60%程度であった。20mMの2,3−ジメチル酒石酸に対して、癌細胞の生存率はほぼ0%であった。
グリオキシル酸は、5mM以下では抗腫瘍効果を示さなかった。10mMのグリオキシル酸に対して、癌細胞の生存率は60%程度であった。20mMのグリオキシル酸に対して、癌細胞の生存率はほぼ0%であった。このように、2,3−ジメチル酒石酸およびグリオキシル酸は、同程度の抗腫瘍効果を示した。
図35は、2,3−ジメチル酒石酸の抗腫瘍効果と選択性の有無とを示すグラフである。図35の横軸は2,3−ジメチル酒石酸の濃度(mM)である。図35の縦軸は細胞生存率である。図35において、左側のデータがU251SP(癌細胞)を示し、右側の白抜きのデータがアストロサイト(正常細胞)を示している。
5mM以下の2,3−ジメチル酒石酸に対して、U251SPおよびアストロサイトの生存率は100%程度であった。10mMの2,3−ジメチル酒石酸に対して、U251SPの生存率は60%程度であったが、アストロサイトの生存率は110%程度であった。15mMの2,3−ジメチル酒石酸に対して、U251SPの生存率は40%程度であったが、アストロサイトの生存率は100%程度であった。20mMの2,3−ジメチル酒石酸に対して、U251SPの生存率はほぼ0%であったが、アストロサイトの生存率は50%程度であった。
図36は、グリオキシル酸の抗腫瘍効果と選択性の有無とを示すグラフである。図36の横軸はグリオキシル酸の濃度(mM)である。図36の縦軸は細胞生存率である。図36において、左側のデータがU251SP(癌細胞)を示し、右側の白抜きのデータがアストロサイト(正常細胞)を示している。
図36に示すように、グリオキシル酸は、正常細胞であるアストロサイトの生存率も減少させてしまう。10mMのグリオキシル酸に対して、U251SPおよびアストロサイトの生存率は60%程度であった。15mMのグリオキシル酸に対して、U251SPおよびアストロサイトの生存率は20%程度であった。20mMのグリオキシル酸に対して、U251SPおよびアストロサイトの生存率はほぼ0%であった。
このように、2,3−ジメチル酒石酸およびグリオキシル酸は、抗腫瘍効果を示した。ピルビン酸、酢酸、ギ酸は抗腫瘍効果を示さなかった。2,3−ジメチル酒石酸は癌細胞を選択的に死滅させたが、グリオキシル酸は癌細胞を選択的に死滅させることができなかった。したがって、2,3−ジメチル酒石酸を主成分とする抗癌剤が副作用も少なく有効であると考えられる。また、リンゲル液と、2,3−ジメチル酒石酸と、を含有する輸液が有効であると考えられる。
図37は、2,3−ジメチル酒石酸の化学式である。すべての光学異性体が抗腫瘍効果を奏すると考えられる。
A.付記
第1の態様における抗癌剤は、1 H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物を主成分とする。
第2の態様における抗癌剤においては、化合物は、グリオキシル酸または2,3−ジメチル酒石酸である。
第3の態様における抗癌剤は、2,3−ジメチル酒石酸を主成分とする抗癌剤である。
第4の態様における抗癌物質は、1 H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物である。
第5の態様における抗癌物質においては、化合物は、グリオキシル酸または2,3−ジメチル酒石酸である。
第6の態様における輸液は、1 H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物と、リンゲル液と、を有する。
第7の態様における輸液は、リンゲル液と、2,3−ジメチル酒石酸と、を含有する。
P1…プラズマ照射装置
M1…ロボットアーム
PM…抗癌剤製造装置
P10、P20、P30…プラズマ発生装置
10、11…筐体部
10i、11i…ガス導入口
10o、11o…ガス噴出口
2a、2b…電極
P…プラズマ領域
H…凹部(ホロー)
110…第1電極
120…第1の電位付与部
130…第1のリード線
140…ガス供給部
150…ガス管結合コネクター
160…ガス管
170…第1電極保護部材
210…第2電極
220…第2の電位付与部
230…第2のリード線
240…第2電極保護部材
250…容器
260…封止部材
270…架台

Claims (7)

1 H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物を主成分とすること
を特徴とする抗癌剤。
請求項1に記載の抗癌剤において、
前記化合物は、
グリオキシル酸または2,3−ジメチル酒石酸であること
を特徴とする抗癌剤。
2,3−ジメチル酒石酸を主成分とする抗癌剤。
1 H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物であること
を特徴とする抗癌物質。
請求項4に記載の抗癌物質において、
前記化合物は、
グリオキシル酸または2,3−ジメチル酒石酸であること
を特徴とする抗癌物質。
1 H−NMRによる化学シフトのピークが1.242(ppm)と3.842(ppm)との少なくとも一方に存在する化合物と、
リンゲル液と、
を有すること
を特徴とする輸液。
リンゲル液と、
2,3−ジメチル酒石酸と、
を含有する輸液。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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細井裕吾, ほか9名, 第66回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集(2019東京工業大学 大岡山キャンパス), vol. 9p-W241-3欄, JPN6023006536, 25 February 2019 (2019-02-25), ISSN: 0005103485 *

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