以下に、本発明に係る温度計測システム、温度計測方法、及び、管材の製造方法の一実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
図1は、実施形態に係る温度計測システム1によって、縦パスで搬送される管長の長い鋼管10Lの測温を行う場合を示した図である。図2は、実施形態に係る温度計測システム1によって、縦パスで搬送される管長の短い鋼管10Sの測温を行う場合を示した図である。図3は、実施形態に係る温度計測システム1によって、縦パスで搬送される管長が鋼管10Sよりも長く鋼管10Lよりも短い鋼管10Mの測温を行う場合を示した図である。
本実施形態に係る温度計測システム1は、図1に示すように、加熱炉等の炉外を鋼管軸線方向に搬送される(以下、「縦パスで搬送される」とも称する)管形状物体である鋼管10Lの管端部11AL,11BLにおける管内面部12AL,12BLの測温に適用することができる。また、温度計測システム1は、図2に示すように、炉外を縦パスで搬送される管形状物体である鋼管10Sの管端部11AS,11BSにおける管内面部12AS,12BSの測温にも適用することができる。さらに、温度計測システム1は、図3に示すように、炉外を縦パスで搬送される管形状物体である鋼管10Mの管端部11AM,11BMにおける管内面部12AM,12BMの測温にも適用することができる。鋼管10L,10S,10Mを縦パスで搬送する搬送方法としては、例えば、ウォーキングビームや鋼管10L,10S,10Mを載せて平行に搬送するコンベアを用いる。なお、以下の説明において、鋼管10Lと鋼管10Sと鋼管10Mとを区別しない場合には、それぞれの添え字「L」と添え字「S」と添え字「M」とを省略する。
温度計測システム1は、鋼管10を管外から撮像する撮像手段である複数の先端側エリアセンサ2Aa,2Ab及び後端側エリアセンサ2Ba,2Bb、画像処理装置3、演算装置4、データサーバ5、コントローラ6、ガイドレール52、先端側エリアセンサ支持部材53Aa,53Ab、並びに、後端側エリアセンサ支持部材53Ba,53Bbなどを備えている。なお、以下の説明において、先端側エリアセンサ2Aa,2Abを区別しないときには、先端側エリアセンサ2Aとも言う。また、後端側エリアセンサ2Ba,2Bbを区別しないときには、後端側エリアセンサ2Bとも言う。前記撮像手段としての先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bのそれぞれの個数は、2個に限らず、3個以上でもよい。
先端側エリアセンサ2Aa,2Abは、鋼管10の先端側の管端部11Aを撮像するものである。後端側エリアセンサ2Ba,2Bbは、鋼管10の後端側の管端部11Bを撮像するものである。ガイドレール52は、鋼管搬送方向と同方向に長尺な丸棒形状である。先端側エリアセンサ支持部材53Aa,53Abは、先端側エリアセンサ2Aa,2Abを支持するものであって、円筒部531Aa,531Abと棒状部532Aa,532Abとによって構成されている。円筒部531Aa,531Abは、中空内部に挿入されたガイドレール52に固定されている。棒状部532Aa,532Abは、ガイドレール52の軸線に対して傾くように、一端が円筒部531Aa,531Abの外周面に固定され、他端が先端側エリアセンサ2Aa,2Abに固定されている。後端側エリアセンサ支持部材53Ba,53Bbは、後端側エリアセンサ2Ba,2Bbを支持するものであって、円筒部531Ba,531Bbと棒状部532Ba,532Bbとによって構成されている。円筒部531Ba,531Bbは、中空内部に挿入されたガイドレール52に固定されている。棒状部532Ba,532Bbは、ガイドレール52の軸線に対して傾くように、一端が円筒部531Ba,531Bbの外周面に固定され、他端が後端側エリアセンサ2Ba,2Bbに固定されている。
データサーバ5は、鋼管10のサイズ情報などを保存するものである。なお、データサーバ5に保存される鋼管10のサイズ情報としては、予めシステムで計画していたデータでもよいし、実際に鋼管10の管長や管径などのサイズを計測したデータでもよい。コントローラ6は、データサーバ5から取得した鋼管10のサイズ情報などに基づいて、先端側エリアセンサ2Aa,2Ab及び後端側エリアセンサ2Ba,2Bbから管端部11A,11Bの撮像に用いるものを選択し、その選択した先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bに管端部11A,11Bを撮像させるものである。画像処理装置3は、先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bによって撮像された画像から、管内面部12A,12Bを認識するための画像処理を実施するものである。演算装置4は、画像処理によって認識された管内面部12A,12Bの輝度値と、管内面部12A,12Bの見かけの放射率と、を用いて、管内面部12A,12Bの温度を算出するものである。
先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bの視野は、鋼管10の管径よりも広く、管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bが画面内に入るように設定している。また、先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bは、鋼管10の管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bを、所定の角度で覗き込むことができる。先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bは、管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bから直接放射される自発光成分だけではなく、鋼管軸線方向にわたって管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12B以外の他の箇所からの放射が多重反射したことによる多重反射成分が加算された放射輝度を取得することになる。次いで、得られた放射輝度を、管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bで多重反射しない条件で計測した放射率(以下、表面放射率と定義する。)を用いて、多重反射影響を評価するためのシミュレーションにより放射率(以下、見かけの放射率と定義する。)を算出する。そして、見かけの放射率を、演算装置4で温度に換算する。
なお、管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bの表面放射率の計測方法、見かけの放射率の算出方法、及び、放射輝度から温度に変換する方法などは、特願2017−033757号を参照することができる。
具体的には、次の第1処理工程〜第3処理工程の3つの処理工程によって構成される。まず、第1処理工程では、予め鋼材の加熱試験を実施し、目的とする波長域における放射光の光量と、熱電対や黒体スプレーなどから求めた温度の真値とを比較することによって、表面性状によって変動する表面放射率及び反射率を測定する。次の第2処理工程では、得られた表面放射率及び反射率を用いて、管内面からの放射光と、その放射光が管内面で反射して発生する多重反射現象をモデル化してシミュレーションすることにより、図4の例に示す通り管端からの受光角θごとの見かけの放射率を算出する。最後に第3処理工程では、得られた受光角θと見かけの放射率とを用いて、少なくとも図5の構成を備える光学系で、実際に測定対象となる管の管端内面から得られた放射輝度を温度に変換することで温度計測を実施する。ここで、第3処理工程で温度測定を実施する際の光学系について、対象表面の放射光強度の角度分布が一定とみなせる受光角θとなるように、計測することが望ましい。図4の場合は、入射角60[°]以下で安定して計測可能なことが確認できる。そのため、図4の場合は、受光角θを入射角60[°]以下とすることが望ましい。
本実施形態に係る温度計測システム1においては、縦パスで搬送される鋼管10の管端部11A,11Bの撮像が行われる前に、まず、撮像対象の鋼管10のサイズ情報をデータサーバ5からコントローラ6が取得する。
図1に示すように、撮像対象が管長の長い鋼管10Lである場合、コントローラ6は、前記サイズ情報に基づいて、管端部11AA,11BLを撮像するのに適した先端側エリアセンサ2Aa及び後端側エリアセンサ2Baを選択する。そして、先端側エリアセンサ2Aa及び後端側エリアセンサ2Baは、複数の搬送ローラ30によって鋼管軸線方向に平行移動で搬送される鋼管10Lの管端部11AL,11BLを、視野内において例えば50[°]〜60[°]の受光角θとなる所定位置に管端部11AL,11BLが到達したときに撮像する。なお、先端側エリアセンサ2Aにおける受光角θは、鋼管軸線方向に対して斜めの光軸XAと鋼管軸線方向に直交する仮想直線YAとのなす角である。また、後端側エリアセンサ2Bにおける受光角θは、鋼管軸線方向に対して斜めの光軸XBと鋼管軸線方向に直交する仮想直線YBとのなす角である。これにより、温度計測システム1は、50[°]〜60[°]の適切な受光角θによって撮像された管端部11AL,11BLの画像を用いて、鋼管10Lの管端部11AL,11BLにおける管内面部12AL,12BLの温度を精度良く計測することができる。
また、図2に示すように、撮像対象が管長の短い鋼管10Sである場合、コントローラ6は、前記サイズ情報に基づいて、管端部11AS,11BSを撮像するのに適した先端側エリアセンサ2Ab及び後端側エリアセンサ2Bbを選択する。そして、先端側エリアセンサ2Ab及び後端側エリアセンサ2Bbは、複数の搬送ローラ30によって鋼管軸線方向に平行移動で搬送される鋼管10Sの管端部11AS,11BSを、視野内において例えば50[°]〜60[°]の受光角θとなる所定位置に管端部11A,11Bが到達したときに撮像する。これにより、温度計測システム1は、50[°]〜60[°]の適切な受光角θによって撮像された管端部11AS,11BSの画像を用いて、鋼管10Sの管端部11AS,11BSにおける管内面部12AS,12BSの温度を精度良く計測することができる。
また、図3に示すように、管長が鋼管10Sよりも長く鋼管10Lよりも短い鋼管10Mが撮像対象である場合、コントローラ6は、前記サイズ情報に基づいて、管端部11AM,11BMを撮像するのに適した先端側エリアセンサ2Ab及び後端側エリアセンサ2Baを選択する。そして、先端側エリアセンサ2Ab及び後端側エリアセンサ2Baは、複数の搬送ローラ30によって鋼管軸線方向に平行移動で搬送される鋼管10Mの管端部11AM,11BMを、視野内において50[°]〜60[°]の受光角θとなる所定位置に管端部11AM,11BMが到達したときに撮像する。これにより、温度計測システム1は、50[°]〜60[°]の適切な受光角θによって撮像された管端部11AM,11BMの画像を用いて、鋼管10Mの管端部11AM,11BMにおける管内面部12AM,12BMの温度を精度良く計測することができる。
ここで、本実施形態に係る温度計測システム1において、先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bは、上述したように、管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bから直接放射される自発光成分に多重反射成分が加算された放射輝度を取得する。得られた放射輝度は、演算装置4によって温度に換算される。そして、受光角θを特定の角度(本実施形態では60[°])より大きくすると見かけの放射率が小さくなるため、管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bの温度を安定して測温することが難しくなる。一方、受光角θを特定の角度(本実施形態では60[°])より小さくすると、管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bよりも非常に温度が低下した領域である管端部11A,11Bの最管端部の撮像面積が増えることになるため、材質に影響を与える管奥部分の安定した温度領域を測温することが難しくなる。
これに対して、本実施形態に係る温度計測システム1は、縦パスによる鋼管搬送時に、鋼管10の管長に応じて、50[°]〜60[°]の適切な受光角θで管端部11A,11Bを撮像することが可能な先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bを選択する。これにより、温度計測システム1は、縦パスによる鋼管搬送時に、鋼管10の管長によらず、管端部11A,11Bにおける管内面部12を、選択した先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bにより、同じ受光角θで覗き込んで撮像することができる。よって、温度計測システム1は、鋼管10の管長によらず、受光角θを例えば60[°]で一定にし、見かけの放射率の低下を抑えつつ、同じ受光角θで覗き込んだ管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bの画像から、管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bの鋼管軸線方向で同じ位置の管奥部分の安定した温度領域を、精度良く測温することができる。
なお、前記所定位置に管端部11A,11Bが到達したタイミングで撮像する方法としては、例えば、搬送されている鋼管10の位置を検知する鋼管位置検知センサからの位置情報を用いてもよい。
また、管端部11A,11Bの温度は、周囲の環境温度と比較して高温であり、管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bは、管端部11A,11Bにおける管外面部13と比較してさらに温度が高い。そのため、温度計測システム1は、先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bによって前記所定位置の撮像を常時行っておき、前記所定位置が最も明るくなったときの画像を用いて測温するようにしてもよい。なお、このようにして測温する場合、先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bのフレームレートは、鋼管10の搬送速度と比較して十分高くするのが好ましい。
また、先端側エリアセンサ2Aによる管端部11Aの撮像タイミングと、後端側エリアセンサ2Bによる管端部11Bの撮像タイミングとが、同じであることにより、撮像タイミングの差によって生じる管端部11Aと管端部11Bとの測温時間のタイムラグに起因した温度差の影響を抑制することができる。
図6は、実施形態に係る温度計測システム1によって、横パスで搬送される管長の長い鋼管10Lの測温を行う場合を示した図である。図7は、実施形態に係る温度計測システム1によって、横パスで搬送される管長の短い鋼管10Sの測温を行う場合を示した図である。図8は、実施形態に係る温度計測システム1によって、横パスで搬送される管長が鋼管10Sよりも長く鋼管10Lよりも短い鋼管10Mの測温を行う場合を示した図である。
本実施形態に係る温度計測システム1は、加熱炉等の炉外で周方向に回転させて鋼管軸線方向と直交する方向に搬送される(以下、「横パスで搬送される」とも称する)、鋼管10の測温にも適用することができる。温度計測システム1は、管端部11A,11Bの撮像が行われる前に、まず、撮像対象の鋼管10のサイズ情報をデータサーバ5からコントローラ6が取得する。
図6に示すように、撮像対象が管長の長い鋼管10Lである場合、コントローラ6は、前記サイズ情報に基づいて、管端部11AL,11BLを撮像するのに適した先端側エリアセンサ2Aa及び後端側エリアセンサ2Baを選択する。そして、先端側エリアセンサ2Aa及び後端側エリアセンサ2Baは、周方向に回転させて鋼管軸線方向と直交する方向に搬送中の鋼管10Lの管端部11AL,11BLを、視野内において50[°]〜60[°]の受光角θとなる所定位置に管端部11AL,11BLが到達したときに撮像する。これにより、温度計測システム1は、50[°]〜60[°]適切な受光角θによって撮像された管端部11AL,11BLの画像を用いて、鋼管10Lの管端部11AL,11Blにおける管内面部12AL,12BLの温度を精度良く計測することができる。
また、図7に示すように、撮像対象が管長の短い鋼管10Sである場合、コントローラ6は、前記サイズ情報に基づいて、管端部11AS,11BSを撮像するのに適した先端側エリアセンサ2Ab及び後端側エリアセンサ2Bbを選択する。そして、先端側エリアセンサ2Ab及び後端側エリアセンサ2Bbは、周方向に回転させて鋼管軸線方向と直交する方向に搬送中の鋼管10Sの管端部11AS,11BSを、視野内において50[°]〜60[°]の受光角θとなる所定位置に管端部11AS,11BSが到達したときに撮像する。これにより、温度計測システム1は、50[°]〜60[°]の適切な受光角θによって撮像された管端部11AS,11BSの画像を用いて、鋼管10Sの管端部11AS,11BSにおける管内面部12AS,12BSの温度を精度良く計測することができる。
また、図8に示すように、管長が鋼管10Sよりも長く鋼管10Lよりも短い鋼管10Mが撮像対象である場合、コントローラ6は、前記サイズ情報に基づいて、管端部11AM,11BMを撮像するのに適した先端側エリアセンサ2Ab及び後端側エリアセンサ2Baを選択する。そして、先端側エリアセンサ2Ab及び後端側エリアセンサ2Baは、周方向に回転させて鋼管軸線方向と直交する方向に搬送中の鋼管10Mの管端部11AM,11BMを、視野内において50[°]〜60[°]の受光角θとなる所定位置に管端部11AM,11BMが到達したときに撮像する。これにより、温度計測システム1は、50[°]〜60[°]の適切な受光角θによって撮像された管端部11AM,11BMの画像を用いて、鋼管10Mの管端部11AM,11BMにおける管内面部12AM,12BMの温度を精度良く計測することができる。
以上のように、本実施形態に係る温度計測システム1は、横パスによる鋼管搬送時に、鋼管10の管長に応じて、50[°]〜60[°]の適切な受光角θで管端部11A,11Bを撮像することが可能な先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bを選択する。これにより、温度計測システム1は、横パスによる鋼管搬送時に、鋼管10の管長が異なることによる管端通過位置変動が生じても、鋼管10の管長によらず、管端部11A,11Bにおける管内面部12を、選択した先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bにより、同じ受光角θで覗き込んで撮像することができる。つまり、温度計測システム1は、鋼管10の管長によらず、受光角θを例えば60[°]で一定にすることで、管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bの、鋼管軸線方向のほぼ同じ位置を測温することができる。したがって、温度計測システム1は、鋼管10の管長によらず、見かけの放射率の低下を抑えながら、管端部11A,11Bにおける管内面部12A,12Bの安定した温度領域を、精度良く測温することができる。
また、本実施形態に係る温度計測システム1においては、鋼管10の軸線とガイドレール52の軸線とが平行となっており、先端側エリアセンサ2Aと後端側エリアセンサ2Bとが鋼管移動方向に対して同じ位置に位置している。これにより、横パスによる鋼管搬送時において、先端側エリアセンサ2Aによる管端部11Aの撮像タイミングと、後端側エリアセンサ2Bによる管端部11Bの撮像タイミングとを同じにすることができる。よって、管端部11Aと管端部11Bとの撮像タイミングの差によって生じる測温時間のタイムラグに起因した温度差の影響を抑制することができる。
ここで、温度計測システム1の演算装置4は、管端部11A,11B(以下、管端部11A,11Bを区別しないときには管端部11とも言う。)における管内面部12A,12B(以下、管内面部12A,12Bを区別しないときには管内面部12とも言う。)の温度を算出するに当たり、得られた画像から管端部11における管内面部12を認識する必要がある。管端部11における管内面部12を認識する手法としては、テンプレートマッチングやハフ変換などの一般的な形状認識や、管端部11における管内面部12と管端部11における管外面部13との輝度差を利用するなど、様々な方法が考えられる。
例えば、鋼管10の温度が一様である場合、管端部11における管内面部12は多重反射の影響によって管端部11における管外面部13よりも放射率が高い、あるいは、圧延(造管)中、圧延(造管)後、または搬送中の鋼管10を空気雰囲気下で測温する場合、管端部11における管外面部13のほうが管端部11における管内面部12よりも冷却しやすいなど、管端部11における管内面部12と管外面部13とに、温度差や見かけの放射率差に起因する輝度差が発生する場合が多い。この場合、図9(a)に示すような鋼管10の管内面部12を含む管端部11の画像から、図9(b)に示すようなグラフを生成し、管端部11における管内面部12の画素から構成されるピークと、管端部11における管外面部13の画素から構成されるピークとを用いて、管端部11における管内面部12を安定的に抽出することが可能となる。なお、グラフが輝度値に対して高周波成分を持ち、管端部11における管内面部12の輝度及び管端部11における管外面部13の輝度以外に複数ピークを持つような場合においては、ローパスフィルターにより高周波成分を除去することが有効である。
さらに、管端部11における管内面部12を認識した後、楕円近似を実施し、長軸と短軸との比を評価することによって、受光角θを推定することが可能となる。長軸の長さをa、短軸の長さをbとすると、下記(1)式を用いて、受光角θを算出することが可能となる。ただし、管端面の軸線方向と直交する方向における断面形状が、円に近い形状であると仮定する。
さて、実際に鋼管10の放射測温を加熱炉外で実施するにあたっては、既に述べたように、自然冷却によって、管端部11における管内面部12の鋼管軸線方向で最管端部分が、この最管端部分よりも鋼管軸線方向で奥側の管奥部分に比べて極端に冷却されるケースが存在する。この現象について、詳細に説明する。
図10は、管端部画像と、その画像から生成した管径中心部長手方向の輝度プロファイルと、前述したシミュレーションにより算出した放射率とを、受光角θが45[°]、60[°]について示したものである。
図10に示した管端部画像内において、管端部11における管内面部12の最管端部分の位置と、その最管端部分の位置よりも奥側となる管奥部分の位置とに対し、シミュレーションにより算出した放射率の変化は、受光角θが45[°]と受光角θが60[°]ともに非常に小さく0.02以下であった。これは、管端部11における管内面部12の温度を1200[℃]、波長を900[nm]と仮定して温度に換算すると3[℃]以下程度である。一方、図10に示した輝度プロファイルからわかるように、最管端部分の位置と管奥部分の位置とでは、受光角θが45[°]と受光角θが60[°]ともに輝度が4倍程度変化しており、実際には管端部11における管内面部12の鋼管軸線方向において温度分布が発生していると考えられる。最管端部分の位置は、切断して製品として使用しない場合が多いため、材質の作りこみなどにおける実運用上において、管端部11における管内面部12の温度として必要な測温位置は管奥部分の位置である。さらに、管端部11における管内面部12の測温に際して、管端部11の温度低下度合による影響を受けないことが求められる。
図11は、複数の鋼管10における管端部画像と、その画像から生成した管径中心部長手方向の輝度プロファイルと、その輝度プロファイルにおいて輝度がほぼ一定で横ばいの平坦部fの有無とを、受光角θが45[°]、50[°]、55[°]、60[°]について示したものである。図11に示した管端部画像からわかるように、受光角θが大きければ大きいほど、先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bによって管端部11における管内面部12の鋼管軸線方向で奥側の位置まで撮像される。また、受光角θが45[°]と受光角θが60[°]とを比較すると、まず、受光角θが45[°]の輝度プロファイルでは、管端部11における管内面部12の最管端部分から、管端部画像内における管端部11における管内面部12の最も奥側である最管奥部分に向かって輝度が上昇し続けており、輝度がほぼ一定で横ばいの状態となる平坦部fが殆ど無い。これに対して、受光角θが60[°]の輝度プロファイルでは、管端部11における管内面部12の最管端部分から最管奥部分に至る過程で一定輝度に達し平坦部fが有る。
ここで、管端部11における管内面部12の画像を取得し、輝度の最大値または輝度の最大値付近の平均輝度を用いて温度を算出した場合には、受光角θの変化によって、撮像された管端部画像内での管端部11における管内面部12の最管奥部分の位置が変化する。そのため、管端部11における管内面部12の最管奥部分が温度勾配を持つ場合は、受光角θのわずかな変化により測温結果が変化する。
受光角θは、光学系のアライメント及び鋼管10の位置により変化するため、測温結果が受光角θに依存して変化してしまうと誤差要因となる。そのため、なるべく管端部11における管内面部12の最管奥部分が温度勾配を持たない、すなわち管端部11における管内面部12の最管端部分から最管奥部分に至る過程で一定輝度に達し横ばいの状態となる条件で測温する。これにより、受光角θが多少変化しても測定温度への影響は小さくなり、管端部11の温度低下の影響を受けずに安定して実用的な管端部11における管内面部12の測温が可能となる。
図12は、実際の圧延ライン上で、肉厚tが30[mm]未満と30[mm]以上40[mm]未満と40[mm]以上のそれぞれの鋼管10を、受光角θを45[°]、50[°]、55[°]、60[°]と変化させて、先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bにより撮像した管端部画像から生成した管径中心部長手方向の輝度プロファイルを示したものである。
受光角θが50[°]、55[°]、60[°]の輝度プロファイル形状は、いずれの肉厚tにおいても、管端部11における管内面部12の最管端部分から最管奥部分に向かう途中で一定輝度に達し、グラフの勾配が横ばいの状態となっている。一方、受光角θが45[°]の輝度プロファイル形状は、いずれの肉厚tにおいても、管端部11における管内面部12の最管奥部分まで達してもグラフの勾配が急なままとなっている。したがって、輝度プロファイル形状の管端部11における管内面部12に対応する部分のグラフの勾配が横ばいの状態となっているかによって、安定して測温できるかどうかを判断することが可能である。
輝度プロファイル形状の管端部11における管内面部12に対応する部分に平坦部fが有るか無いかの判断は、管端部画像から目視で実施してもよいが、信号処理を用いて指標を算出し、定量的に実施することも可能である。定量化の方法としては、様々な方法が考えられるが、例えば、管内面部12の最管奥部分付近での平坦部fの有無及び平坦部fの長さを評価することによって行うことが考えられる。
なお、鋼管10の管径dの変化は、鋼管10の肉厚tに対して管径dが十分に大きければ、輝度プロファイル形状の管端部11における管内面部12に対応する部分に平坦部fが十分存在するための受光角θに与える影響は少ない。その理由について簡単に説明する。まず、穿孔時は鋼管10が非常に高温であるため、伝熱は輻射が支配的である。鋼管10の管外面部13の伝熱は、鋼管10の全長にわたって均一であるため、管端部11の温度低下に影響を与えない。したがって、管端部11における管内面部12からの管端方向への輻射が、管端部11の温度低下の主要因となる。
ここで、受光角θを一定とし、先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bの視野における管端部11における管内面部12の最管奥部分の位置での伝熱を考える。まず、管端部11における管内面部12からの管端方向への輻射は、管径dによらず管端開口部への輻射の立体角が等しいため一定である。また、管径dがa倍変化したとき、管端部11における管内面部12の最管奥部分の位置での熱容量(体積)と表面積とがともにa倍となるため、伝熱速度に影響を与えない。したがって、管径dの変化は、輝度プロファイル形状の管端部11における管内面部12に対応する部分に平坦部fが十分存在するための受光角θに与える影響が少ない。
まず、図13に示した管端部画像の管径中心部長手方向に沿って右端から左端に観察する。輝度プロファイルからわかるように、鋼管10が存在しない部分では輝度が殆ど0に近い。そして、その輝度が0に近い状態から管端部11に差し掛かると輝度が上昇し始め、管端部11における管内面部12の最管端部分から最管奥部分に向けて輝度が大きく上昇する。管端部11における管内面部12の最管奥部分から管端部11における管外面部13に差し掛かると輝度が急激に低下する。
ここで、輝度プロファイル形状の管端部11における管内面部12に対応する部分に平坦部fが存在するかの指標Zとして、輝度プロファイル上で平坦部fの長さが管端部11における管内面部12の長さに占める割合を考える。管端部11における管内面部12及び平坦部fの長さを算出する方法としては、直線フィッティングするなど様々な方法が考えられるが、ここでは単純に輝度プロファイルの最大輝度値と比較して、一定割合以上の輝度値を有する部分を平坦部fとする。そして、平坦部fが管端部11における管内面部12のおおよそ一定割合以上存在すれば、平坦部fが十分に存在し、十分安定的に測温可能とする。
以下、輝度プロファイルでの管端部11における管内面部12の長さと平坦部fの長さとを算出するアルゴリズムの一例を、図14を用いて説明する。
まず、輝度プロファイルの最大輝度値Tmaxを算出する。次に、輝度プロファイルを右端から左端へと探索する。具体的には、輝度プロファイルの右端から左方向に探索し、閾値p1×Tmaxを超えた部分を管端部11における管内面部12の開始位置P1とする。管端部11における管内面部12の開始位置P1からさらに左方向に探索し、閾値p2×Tmaxを超えた部分を平坦部fの開始位置P2とする。平坦部fの開始位置P2からさらに左方向に探索し、閾値p3×Tmaxを下回った部分を管端部11における管内面部12及び平坦部fの終了位置P3とする。そして、輝度プロファイルにおける開始位置P1と終了位置P3との間の領域を管端部11における管内面部12とし、開始位置P1と終了位置P3との距離を管端部11における管内面部12の距離として算出する。また、輝度プロファイルにおける開始位置P2と終了位置P3との間の領域を平坦部fとし、開始位置P2と終了位置P3との距離を平坦部fの距離として算出する。そして、算出した管端部11における管内面部12の距離と平坦部fの距離とから、管端部11における管内面部12で平坦部fが占める割合を算出し、その割合を指標Zとする。
例えば、図12に示した各輝度プロファイルに対して、閾値p2×Tmaxは、最大輝度値Tmaxの90[%](p2=0.9)として、平坦部fの開始位置P2を設定する。また、閾値p1×Tmaxは、最大輝度値Tmaxの30[%]を超える部分(p1=0.3)として、管端部11における管内面部12の開始位置P1を設定する。さらに、閾値p3×Tmaxは、平坦部fの開始位置P2よりも後に最大輝度値Tmaxの85[%]を下回った部分(p3=0.85)として、管端部11における管内面部12及び平坦部fの終了位置P3を設定する。そして、これにより算出した管端部11における管内面部12の距離と平坦部fの距離とから、管端部11における管内面部12で平坦部fが占める割合を算出し指標Zとする。
なお、指標Zを算出するにあたって、輝度プロファイル形状がなだらかでない場合は、平均化フィルターや中央値フィルターなどを用いてなだらかにする前処理を実施してもよい。
図15は、図12の各輝度プロファイルに対応する指標Zのヒストグラムである。図16は、図12の各輝度プロファイルに対応する各受光角θ及び各肉厚tでの指標Zの平均及び標準偏差を示したグラフである。
図15及び図16に示されるような受光角θと指標Zとの関係から、受光角θが50[°]以上、より好ましくは55[°]以上であれば、平坦部fを安定的に測温することが可能となる。また、肉厚tが大きければ大きいほど、管端部11の冷却影響が少なく、より管端側の位置でも安定的に測温できるため、肉厚tが大きければ50[°]未満の受光角θでも、安定して測温が行える場合もある。
ここで述べた指標Zの算出方法はあくまで一例であり、平坦部fが十分存在するかどうかの判断が可能な指標であれば別の指標でもよい。なお、本手法において算出した指標Zに閾値を設け、安定して測温できているかどうかを判定し、指標Zが閾値未満である場合には不適合とする運用を実施してもよい。指標Zの閾値としては、例えば、0.4とすることによって、図16からわかるように、受光角θが50[°]、55[°]、60[°]において肉厚tによらず安定して測温を行うことができる。
以上から、受光角θを小さくし過ぎると平坦部fが十分に存在せず、安定した測温を行うことができなくなる。したがって、鋼管10の管端部11における管内面部12の温度を精度良く計測するためには、受光角θを50[°]以上とするのが望ましい。さらに望ましくは、受光角θを55[°]以上とする。
また、既に述べたように、受光角θを大きくし過ぎると見かけの放射率が低下し、やはり安定した測温を行うことができなくなる場合がある。そこで、受光角θは、60[°]以下とするのが望ましい。なお、上記の例では受光角θを60[°]としたが、見かけの放射率の変化を抑えつつ、管奥部分の安定した温度領域を測温可能な受光角であれば、60[°]に限らず適応可能である。
また、本実施形態に係る温度計測方法を用いて計測した管端部11における管内面部12の温度の情報を用いる鋼管10の製造工程において、製造ライン上を搬送中の複数の鋼管10に対して、先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bを用いて必要な輝度画像を取得する際には、先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bによる撮像位置に鋼管10の有無によらず、常に画像を撮像しておき、画像処理によって、先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bによる撮像位置に管内面部12を含む管端部11が位置するような必要な画像を選定し、取り込みを実施すればよい。本実施形態では、背光の影響がない空気雰囲気下における測温を仮定し、視野内に測温対象となる鋼管10以外の発光体が存在しない状態で測温を実施する。したがって、画像内の全て、あるいは、指定した範囲内の平均輝度が、予め設定された閾値を超えた場合のみ、そのときの画像を先端側エリアセンサ2A及び後端側エリアセンサ2Bから画像処理装置3が取り込み、上述したような演算装置4による輝度を温度に換算する処理を実施することにより、製造ライン上の各鋼管10に紐付いた温度計測が可能となる。
次に、上記方法により一定の受光角θで撮像され、得られた輝度から温度に変換する方法について述べる。
エリアセンサ2などの放射温度計の校正方法は、上記非特許文献3に記された方法により規格化されている。まず、黒体炉と標準放射温度計とを用いてエリアセンサ2を校正する。すなわち、黒体炉の温度設定を、計測したい温度領域内で複数点設定し、その時における標準放射温度計の指示値とエリアセンサ2の輝度値(受光光量)とを取得する。得られた複数の温度値Tと輝度値Vに対して、下記(2)式を用いて近似曲線を算出し、パラメータA,B,Cを得る。ここで、下記(2)式中、c2は放射の第二定数を示す。そして、得られたパラメータA,B,Cと輝度値Vとを用いて、下記(3)式により温度を算出する。なお、下記(3)式は、対象が黒体すなわち放射率が1となる条件における算出式であるため、実際に輝度値Vを代入する際には、見かけの放射率で割った値とする。
露光時間を2000[μs]に設定し、カメラゲインを校正時と同じ値とした上で、エリアセンサ2として12[bit]カメラを用いた結果、パラメータA,B,Cはそれぞれ、A=8.76×10−7、B=2.61×10−5、C=6.61×107となり、前述のシミュレーションによって算出した見かけの放射率0.87を用いて温度を算出した結果、管端部11の内面温度は1320[℃]であった。
以上、上記の実施形態で説明したように、本発明に係る温度計測システムを用いることによって、鋼管10の管端部11における管内面部12について、精度よく温度を計測することが可能となった。なお、本発明に係る温度計測システムは、鋼管10のみならず、断面が多角形形状の管材の管端部における管内面部の温度計測にも用いることができる。