JP2019123929A - 軟磁性合金および磁性部品 - Google Patents

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Abstract

【課題】高い飽和磁束密度および低い保磁力を同時に有し、さらに表面性を改善した軟磁性合金等を提供する。【解決手段】組成式(Fe(1−(α+β))X1αX2β)(1−(a+b+c+d+e+f+g))MaBbPcSidCeSfTigからなる主成分からなる軟磁性合金である。X1はCoおよびNiから選択される1種以上、X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素から選択される1種以上、MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVから選択される1種以上である。0.020≦a≦0.14、0.020<b≦0.20、0<c≦0.040、0≦d≦0.060、0.0005<e<0.0050、0≦f≦0.010、0≦g≦0.0010、α≧0、β≧0、0≦α+β≦0.50である。fおよび/またはgが0より大きい。ナノヘテロ構造またはFe基ナノ結晶からなる構造を有する。【選択図】図1

Description

本発明は、軟磁性合金および磁性部品に関する。
近年、電子・情報・通信機器等において低消費電力化および高効率化が求められている。さらに、低炭素化社会へ向け、上記の要求が一層強くなっている。そのため、電子・情報・通信機器等の電源回路にも、エネルギー損失の低減や電源効率の向上が求められている。そして、電源回路に使用される磁性素子の磁心には飽和磁束密度の向上、コアロス(磁心損失)の低減および透磁率の向上が求められている。コアロスを低減すれば、電力エネルギーのロスが小さくなり、透磁率を向上すれば、磁性素子を小型化できるので高効率化および省エネルギー化が図られる。
特許文献1には、Fe−B−M(M=Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W)系の軟磁性非晶質合金が記載されている。本軟磁性非晶質合金は市販のFeアモルファスと比べて高い飽和磁束密度を有するなど、良好な軟磁気特性を有する。
特許第3342767号
なお、上記の磁心のコアロスを低減する方法として、磁心を構成する磁性体の保磁力を低減することが考えられる。
特許文献1のFe基軟磁性合金は微細結晶相を析出させることで、軟磁気特性を向上させることができることが記載されている。しかし、微細結晶相を安定的に析出させることができる組成については十分に検討されていない。
本発明者らは、微細結晶相を安定的に析出させることができる組成について検討を行った。その結果、特許文献1に記載された組成とは異なる組成においても微細結晶相を安定的に析出させることができることを見出した。
本発明は、高い飽和磁束密度および低い保磁力を同時に有し、さらに表面性を改善した軟磁性合金等を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る軟磁性合金は、
組成式(Fe(1−(α+β))X1αX2β(1−(a+b+c+d+e+f+g))SiTiからなる主成分からなる軟磁性合金であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
0.020≦a≦0.14
0.020<b≦0.20
0.040<c≦0.15
0≦d≦0.060
0≦e≦0.030
0≦f≦0.010
0≦g≦0.0010
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
fとgのうち少なくとも一つ以上が0より大きく、
初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有することを特徴とする。
上記の目的を達成するために、本発明の第2の観点に係る軟磁性合金は、
組成式(Fe(1−(α+β))X1αX2β(1−(a+b+c+d+e+f+g))SiTiからなる主成分からなる軟磁性合金であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
0.020≦a≦0.14
0.020<b≦0.20
0<c≦0.040
0≦d≦0.060
0.0005<e<0.0050
0≦f≦0.010
0≦g≦0.0010
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
fとgのうち少なくとも一つ以上が0より大きく、
初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有することを特徴とする。
本発明の第1の観点および第2の観点に係る軟磁性合金は、前記初期微結晶の平均粒径が0.3〜10nmであってもよい。
上記の目的を達成するために、本発明の第3の観点に係る軟磁性合金は、
組成式(Fe(1−(α+β))X1αX2β(1−(a+b+c+d+e+f+g))SiTiからなる主成分からなる軟磁性合金であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
0.020≦a≦0.14
0.020<b≦0.20
0.040<c≦0.15
0≦d≦0.060
0≦e≦0.030
0≦f≦0.010
0≦g≦0.0010
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
fとgのうち少なくとも一つ以上が0より大きく、
前記軟磁性合金がFe基ナノ結晶からなる構造を有することを特徴とする。
上記の目的を達成するために、本発明の第4の観点に係る軟磁性合金は、
組成式(Fe(1−(α+β))X1αX2β(1−(a+b+c+d+e+f+g))SiTiからなる主成分からなる軟磁性合金であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
0.020≦a≦0.14
0.020<b≦0.20
0<c≦0.040
0≦d≦0.060
0.0005<e<0.0050
0≦f≦0.010
0≦g≦0.0010
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
fとgのうち少なくとも一つ以上が0より大きく、
前記軟磁性合金がFe基ナノ結晶からなる構造を有することを特徴とする。
本発明の第3の観点および第4の観点に係る軟磁性合金は、前記Fe基ナノ結晶の平均粒径が5〜30nmであってもよい。
本発明の第1の観点に係る軟磁性合金は、上記の特徴を有することで、熱処理により本発明の第3の観点に係る軟磁性合金を得やすくなる。本発明の第2の観点に係る軟磁性合金は、上記の特徴を有することで、熱処理により本発明の第4の観点に係る軟磁性合金を得やすくなる。そして、当該第3の観点に係る軟磁性合金および第4の観点に係る軟磁性合金は、高い飽和磁束密度および低い保磁力を同時に有し、さらに表面性を向上させた軟磁性合金となる。
本発明に係る軟磁性合金に関する以下の記載は第1の観点〜第4の観点で共通する内容である。
本発明に係る軟磁性合金は、0≦α{1−(a+b+c+d+e+f+g)}≦0.40であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、α=0であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、0≦β{1−(a+b+c+d+e+f+g)}≦0.030であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、β=0であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、α=β=0であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、薄帯形状であってもよい。
本発明に係る軟磁性合金は、粉末形状であってもよい。
また、本発明に係る磁性部品は、上記の軟磁性合金からなる。
図1は単ロール法の模式図である。 図2は単ロール法の模式図である。
以下、本発明の第1実施形態〜第5実施形態について説明する。
(第1実施形態)
本実施形態の軟磁性合金は、組成式(Fe(1−(α+β))X1αX2β(1−(a+b+c+d+e+f+g))SiTiからなる主成分からなる軟磁性合金であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
0.020≦a≦0.14
0.020<b≦0.20
0.040<c≦0.15
0≦d≦0.060
0≦e≦0.030
0≦f≦0.010
0≦g≦0.0010
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
fとgのうち少なくとも一つ以上が0より大きく、
初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有する。
第1実施形態の軟磁性合金を熱処理する場合には、Fe基ナノ結晶を析出しやすい。言いかえれば、第1実施形態の軟磁性合金は、Fe基ナノ結晶を析出させた軟磁性合金の出発原料としやすい。
上記の軟磁性合金(本発明の第1の観点に係る軟磁性合金)を熱処理する場合には、軟磁性合金中にFe基ナノ結晶を析出しやすい。言いかえれば、上記の軟磁性合金は、Fe基ナノ結晶を析出させた軟磁性合金(本発明の第3の観点に係る軟磁性合金)の出発原料としやすい。なお、前記初期微結晶は平均粒径が0.3〜10nmであることが好ましい。
本発明の第3の観点に係る軟磁性合金は、第1の観点に係る軟磁性合金と同一の主成分を有し、Fe基ナノ結晶からなる構造を有する。
Fe基ナノ結晶とは、粒径がナノオーダーであり、Feの結晶構造がbcc(体心立方格子構造)である結晶のことである。本実施形態においては、平均粒径が5〜30nmであるFe基ナノ結晶を析出させることが好ましい。このようなFe基ナノ結晶を析出させた軟磁性合金は、飽和磁束密度が高くなりやすく、保磁力が低くなりやすい。
以下、本実施形態に係る軟磁性合金の各成分について詳細に説明する。
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上である。
Mの含有量(a)は0.020≦a≦0.14を満たす。Mの含有量(a)は0.040≦a≦0.10であることが好ましく、0.050≦a≦0.080であることがさらに好ましい。aが小さい場合には、熱処理前の軟磁性合金に粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じやすく、結晶相が生じる場合には、熱処理によってFe基ナノ結晶を析出させることができない。そして、保磁力が高くなりやすくなる。aが大きい場合には、飽和磁束密度が低下しやすくなる。
Bの含有量(b)は0.020<b≦0.20を満たす。また、0.025≦b≦0.20であってもよく、0.060≦b≦0.15であることが好ましく、0.080≦b≦0.12であることがさらに好ましい。bが小さい場合には、熱処理前の軟磁性合金に粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じやすく、結晶相が生じる場合には、熱処理によってFe基ナノ結晶を析出させることができない。そして、保磁力が高くなりやすくなる。bが大きい場合には、飽和磁束密度が低下しやすくなる。
Pの含有量(c)は0.040<c≦0.15を満たす。また、0.041≦c≦0.15であってもよく、0.045≦c≦0.10であることが好ましく、0.050≦c≦0.070であることがさらに好ましい。Pを上記の範囲内、特にc>0.040となる範囲で含有することで、軟磁性合金の比抵抗が改善され保磁力が低下する。さらに、軟磁性合金の表面性が改善される。すなわち、軟磁性合金が薄帯形状である場合には表面粗さが小さくなる。そして、軟磁性合金薄帯から得られるコアの占積率が向上し、当該コアの飽和磁束密度が向上する。そして、大電流化や小型化に適したコアを得ることが出来る。また、軟磁性合金が粉末形状である場合には球形度が向上する。そして、軟磁性合金粉末から得られる圧粉磁心においての充填率が向上する。さらに、比抵抗および表面性の両方が改善されることで、透磁率が向上するとともに、より高周波数の場合にまで高い透磁率が維持できるようになる。cが小さい場合には上記の効果が得られにくい。cが大きい場合には、飽和磁束密度が低下しやすくなる。
Siの含有量(d)は0≦d≦0.060を満たす。すなわち、Siは含有しなくてもよい。また、0.005≦d≦0.030であることが好ましく、0.010≦d≦0.020であることがさらに好ましい。Siを含有することで、特に保磁力を低下させやすくなる。dが大きい場合には、保磁力が逆に上昇してしまう。
Cの含有量(e)は0≦e≦0.030を満たす。すなわち、Cは含有しなくてもよい。また、0.001≦e≦0.010であることが好ましく、0.001≦e≦0.005であることがさらに好ましい。Cを含有することで、特に保磁力を低下させやすくなる。eが大きい場合には、保磁力が逆に上昇してしまう。
Sの含有量(f)は0≦f≦0.010を満たす。また、0.002≦f≦0.010であることが好ましい。Sを含有することで、保磁力を低下させやすくなり、表面性を向上させやすくなる。fが大きい場合には、保磁力が上昇してしまう。
Tiの含有量(g)は0≦g≦0.0010を満たす。また、0.0002≦g≦0.0010であることが好ましい。Tiを含有することで、保磁力を低下させやすくなり、表面性を向上させやすくなる。gが大きい場合には、熱処理前の軟磁性合金に粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じやすく、結晶相が生じる場合には、熱処理によってFe基ナノ結晶を析出させることができない。そして、保磁力が高くなりやすくなる。
本実施形態の軟磁性合金では、特にPを含有し、かつ、Sおよび/またはTiを含有することが重要である。Pを含有しない場合、または、SおよびTiを含有しない場合には、特に表面性が低下しやすくなる。なお、Sを含有するとは、fが0ではないことを指す。さらに具体的には、f≧0.001であることを指す。Tiを含有するとは、gが0ではないことを指す。さらに具体的には、g≧0.0001であることを指す。
Feの含有量(1−(a+b+c+d+e+f+g))については、特に制限はないが、0.73≦(1−(a+b+c+d+e+f+g))≦0.95であることが好ましい。(1−(a+b+c+d+e+f+g))を上記の範囲内とすることで、第1実施形態の軟磁性合金製造時に粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相がさらに生じにくくなる。
また、第1実施形態および第2実施形態の軟磁性合金においては、Feの一部をX1および/またはX2で置換してもよい。
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上である。X1の含有量に関してはα=0でもよい。すなわち、X1は含有しなくてもよい。また、X1の原子数は組成全体の原子数を100at%として40at%以下であることが好ましい。すなわち、0≦α{1−(a+b+c+d+e+f+g)}≦0.40を満たすことが好ましい。
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上である。X2の含有量に関してはβ=0でもよい。すなわち、X2は含有しなくてもよい。また、X2の原子数は組成全体の原子数を100at%として3.0at%以下であることが好ましい。すなわち、0≦β{1−(a+b+c+d+e+f+g)}≦0.030を満たすことが好ましい。
FeをX1および/またはX2に置換する置換量の範囲としては、原子数ベースでFeの半分以下とする。すなわち、0≦α+β≦0.50とする。α+β>0.50の場合には、熱処理により第2実施形態の軟磁性合金を得ることが困難となる。
なお、第1実施形態および第2実施形態の軟磁性合金は上記以外の元素を不可避的不純物として含んでいてもよい。例えば、軟磁性合金100重量%に対して0.1重量%以下、含んでいてもよい。
以下、第1実施形態の軟磁性合金の製造方法について説明する。
第1実施形態の軟磁性合金の製造方法には特に限定はない。例えば単ロール法により軟磁性合金の薄帯を製造する方法がある。また、薄帯は連続薄帯であってもよい。
単ロール法では、まず、最終的に得られる軟磁性合金に含まれる各金属元素の純金属を準備し、最終的に得られる軟磁性合金と同組成となるように秤量する。そして、各金属元素の純金属を溶解し、混合して母合金を作製する。なお、前記純金属の溶解方法には特に制限はないが、例えばチャンバー内で真空引きした後に高周波加熱にて溶解させる方法がある。なお、母合金と最終的に得られる軟磁性合金とは通常、同組成となる。
次に、作製した母合金を加熱して溶融させ、溶融金属(溶湯)を得る。溶融金属の温度には特に制限はないが、例えば1200〜1500℃とすることができる。
本実施形態に係る単ロール法に用いられる装置の模式図を図1に示す。本実施形態に係る単ロール法において、チャンバー25内部において、ノズル21から溶融金属22を矢印の方向に回転しているロール23へ噴射し供給することでロール23の回転方向へ薄帯24が製造される。なお、本実施形態ではロール23の材質には特に制限はない。例えばCuからなるロールが用いられる。
一方、通常行われている単ロール法に用いられる装置の模式図を図2に示す。チャンバー35内部において、ノズル31から溶融金属32を矢印の方向に回転しているロール33へ噴射し供給することでロール33の回転方向へ薄帯34が製造される。
従来、単ロール法においては、冷却速度を向上させ、溶融金属を急冷させることが好ましいと考えられており、溶融金属とロールとの接触時間を長くすることで冷却速度を向上させることが好ましいと考えられていた。そして、溶融金属とロールとの温度差を広げることで冷却速度を向上させることが好ましいと考えられていた。そのため、ロールの温度は通常、5〜30℃程度とすることが好ましいと考えられていた。
本発明者らは、図1に示すとおり通常のロールの回転方向とは反対に回転させることにより、ロール23と薄帯24とが接している時間をさらに長くし、ロール23の温度を50〜70℃程度に高くしても薄帯24を急激に冷却することができるようにした。第1実施形態の組成を有する軟磁性合金は、従来よりもロール23の温度を高くし、かつ、ロール23と薄帯24とが接している時間をさらに長くすることで、冷却後の薄帯24の均一性を高くし、粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じにくくなる。その結果、従来の方法では粒径30nmよりも大きい結晶からなる結晶相が生じていた組成でも粒径が30nmよりも大きい結晶からなる結晶相を含まない軟磁性合金とできるようになる。なお、図1に示すとおり通常のロールの回転方向とは反対に回転させながらロールの温度は通常通り5〜30℃とする場合、薄帯24がロール23からすぐ剥がれてしまい反対に回転させる効果が得られなかった。
単ロール法においては、主にロール23の回転速度を調整することで得られる薄帯24の厚さを調整することができるが、例えばノズル21とロール23との間隔や溶融金属の温度などを調整することでも得られる薄帯24の厚さを調整することができる。薄帯24の厚さには特に制限はないが、例えば15〜30μmとすることができる。
チャンバー25内部の蒸気圧には特に制限はない。例えば、露点調整を行ったArガスを用いてチャンバー25内部の蒸気圧を11hPa以下としてもよい。なお、チャンバー25内部の蒸気圧の下限は特に存在しない。露点調整したArガスを充填して蒸気圧を1hPa以下にしてもよく、真空に近い状態として蒸気圧を1hPa以下にしてもよい。
本実施形態の軟磁性合金である薄帯24は粒径が30nmよりも大きい結晶が含まれていない非晶質である。そして、初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有する。当該軟磁性合金に後述する熱処理を施す場合には、Fe基ナノ結晶合金を得ることができる。
なお、薄帯24に粒径が30nmよりも大きい結晶が含まれているか否かを確認する方法には特に制限はない。例えば、粒径が30nmよりも大きい結晶の有無については、通常のX線回折測定により確認することができる。
また、上記の初期微結晶の有無および平均粒径の観察方法については、特に制限はないが、例えば、イオンミリングにより薄片化した試料に対して、透過電子顕微鏡を用いて、制限視野回折像、ナノビーム回折像、明視野像または高分解能像を得ることで確認できる。制限視野回折像またはナノビーム回折像を用いる場合、回折パターンにおいて非晶質の場合にはリング状の回折が形成されるのに対し、非晶質ではない場合には結晶構造に起因した回折斑点が形成される。また、明視野像または高分解能像を用いる場合には、倍率1.00×10〜3.00×10倍で目視にて観察することで初期微結晶の有無および平均粒径を観察できる。
ロールの温度、回転速度およびチャンバー内部の雰囲気には特に制限はない。ロールの温度は4〜30℃とすることが非晶質化のため好ましい。ロールの回転速度は速いほど初期微結晶の平均粒径が小さくなる傾向にあり、25〜30m/sec.とすることが平均粒径0.3〜10nmの初期微結晶を得るためには好ましい。チャンバー内部の雰囲気はコスト面を考慮すれば大気中とすることが好ましい。
以下、ナノヘテロ構造を有する軟磁性合金(本発明の第1の観点に係る軟磁性合金)からなる薄帯24を熱処理することによりFe基ナノ結晶構造を有する軟磁性合金(本発明の第3の観点に係る軟磁性合金)を製造する方法について説明する。
本実施形態の軟磁性合金を製造するための熱処理条件には特に制限はない。軟磁性合金の組成により好ましい熱処理条件は異なる。通常、好ましい熱処理温度は概ね450〜650℃、好ましい熱処理時間は概ね0.5〜10時間となる。しかし、組成によっては上記の範囲を外れたところに好ましい熱処理温度および熱処理時間が存在する場合もある。また、熱処理時の雰囲気には特に制限はない。大気中のような活性雰囲気下で行ってもよいし、Arガス中のような不活性雰囲気下で行ってもよい。
また、熱処理により得られた軟磁性合金に含まれるFe基ナノ結晶の平均粒径の算出方法には特に制限はない。例えば透過電子顕微鏡を用いて観察することで算出できる。また、結晶構造がbcc(体心立方格子構造)であること確認する方法にも特に制限はない。例えばX線回折測定を用いて確認することができる。
そして、熱処理により得られた軟磁性合金からなる薄帯は表面性が高い。ここで、薄帯の表面性が高い場合には、薄帯の表面粗さが小さくなる。本実施形態の軟磁性合金からなる薄帯では、特に表面粗さRvおよび表面粗さRzが従来の軟磁性合金からなる薄帯と比較して明確に小さくなる傾向にある。なお、表面粗さRvとは粗さ曲線の最大谷深さのことであり、表面粗さRzとは最大高さ粗さのことである。そして、表面粗さが小さい軟磁性合金からなる薄帯を巻き回すことで得られるコアや積層することで得られるコアは磁性体の体積率が高い。したがって、良好なコア(特にトロイダルコア)が得られる。
また、本実施形態の軟磁性合金を得る方法として、上記した単ロール法以外にも、例えば水アトマイズ法またはガスアトマイズ法により軟磁性合金の粉体を得る方法がある。以下、ガスアトマイズ法について説明する。
ガスアトマイズ法では、上記した単ロール法と同様にして1200〜1500℃の溶融合金を得る。その後、前記溶融合金をチャンバー内で噴射させ、粉体を作製する。
このとき、ガス噴射温度を50〜200℃とし、チャンバー内の蒸気圧を4hPa以下とすることで、上記の好ましいナノヘテロ構造を得やすくなる。
ガスアトマイズ法でナノヘテロ構造を有する軟磁性合金からなる粉体を作製した後に、400〜600℃で0.5〜10分、熱処理を行うことで、各粉体同士が焼結し粉体が粗大化することを防ぎつつ元素の拡散を促し、熱力学的平衡状態に短時間で到達させることができ、歪や応力を除去することができ、平均粒径が10〜50nmのFe基軟磁性合金を得やすくなる。
第1実施形態および後述する第2実施形態の軟磁性合金からなる粉体は、表面性が優れ、球形度が高い。そして、球形度が高い軟磁性合金からなる粉体から得られる圧粉磁心の充填率が向上する。
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態と同一な部分については説明を省略する。
第2実施形態では、熱処理前の軟磁性合金が非晶質のみからなる。熱処理前の軟磁性合金が非晶質のみからなり、初期微結晶を含まず、ナノヘテロ構造を有さない場合であっても、熱処理を行うことでFe基ナノ結晶構造を有する軟磁性合金、すなわち、本発明の第3の観点に係る軟磁性合金とすることができる。
ただし、第1実施形態と比較して、熱処理によりFe基ナノ結晶を析出させにくく、Fe基ナノ結晶の平均粒径の制御も困難である。したがって、第1実施形態と比較して優れた特性を得ることが難しい。
(第3実施形態)
以下、本発明の第3実施形態について説明する。第1実施形態と同一な部分については説明を省略する。
本実施形態に係る軟磁性合金は、組成式(Fe(1−(α+β))X1αX2β(1−(a+b+c+d+e+f+g))SiTiからなる主成分からなる軟磁性合金であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
0.020≦a≦0.14
0.020<b≦0.20
0<c≦0.040
0≦d≦0.060
0.0005<e<0.0050
0≦f≦0.010
0≦g≦0.0010
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
fとgのうち少なくとも一つ以上が0より大きく、
初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有する。
上記の軟磁性合金(本発明の第2の観点に係る軟磁性合金)を熱処理する場合には、軟磁性合金中にFe基ナノ結晶を析出しやすい。言いかえれば、上記の軟磁性合金は、Fe基ナノ結晶を析出させた軟磁性合金(本発明の第4の観点に係る軟磁性合金)の出発原料としやすい。なお、前記初期微結晶は平均粒径が0.3〜10nmであることが好ましい。
本発明の第4の観点に係る軟磁性合金は、第2の観点に係る軟磁性合金と同一の主成分を有し、Fe基ナノ結晶からなる構造を有する。
Pの含有量(c)は0<c≦0.040を満たす。また、0.010≦c≦0.040であることが好ましく、0.020≦c≦0.030であることがさらに好ましい。Pを上記の範囲内で含有することで、軟磁性合金の保磁力が低下する。c=0の場合には上記の効果が得られない。
Cの含有量(e)は0.0005<e<0.0050を満たす。また、0.0006≦e≦0.0045であることが好ましく、0.0020≦e≦0.0045であることがさらに好ましい。eが0.0005より大きくなるようにすることで、軟磁性合金の保磁力が特に低下しやすくなる。eが大きすぎる場合には、飽和磁束密度および表面性が低下する。
(第4実施形態)
以下、本発明の第4実施形態について説明する。第3実施形態と同一な部分については説明を省略する。
第4実施形態では、熱処理前の軟磁性合金が非晶質のみからなる。熱処理前の軟磁性合金が非晶質のみからなり、初期微結晶を含まず、ナノヘテロ構造を有さない場合であっても、熱処理を行うことでFe基ナノ結晶構造を有する軟磁性合金、すなわち、本発明の第4の観点に係る軟磁性合金とすることができる。
ただし、第3実施形態と比較して、熱処理によりFe基ナノ結晶を析出させにくく、Fe基ナノ結晶の平均粒径の制御も困難である。したがって、第3実施形態と比較して優れた特性を得ることが難しい。
(第5実施形態)
第5実施形態に係る磁性部品、特に磁心およびインダクタは第1実施形態〜第4実施形態のいずれかにに係る軟磁性合金から得られる。以下、第5実施形態に係る磁心およびインダクタを得る方法について説明するが、軟磁性合金から磁心およびインダクタを得る方法は下記の方法に限定されない。また、磁心の用途としては、インダクタの他にも、トランスおよびモータなどが挙げられる。
薄帯形状の軟磁性合金から磁心を得る方法としては、例えば、薄帯形状の軟磁性合金を巻き回す方法や積層する方法が挙げられる。薄帯形状の軟磁性合金を積層する際に絶縁体を介して積層する場合には、さらに特性を向上させた磁芯を得ることができる。
粉末形状の軟磁性合金から磁心を得る方法としては、例えば、適宜バインダと混合した後、金型を用いて成形する方法が挙げられる。また、バインダと混合する前に、粉末表面に酸化処理や絶縁被膜等を施すことにより、比抵抗が向上し、より高周波帯域に適合した磁心となる。
成形方法に特に制限はなく、金型を用いる成形やモールド成形などが例示される。バインダの種類に特に制限はなく、シリコーン樹脂が例示される。軟磁性合金粉末とバインダとの混合比率にも特に制限はない。例えば軟磁性合金粉末100質量%に対し、1〜10質量%のバインダを混合させる。
例えば、軟磁性合金粉末100質量%に対し、1〜5質量%のバインダを混合させ、金型を用いて圧縮成形することで、占積率(粉末充填率)が70%以上、1.6×10A/mの磁界を印加したときの磁束密度が0.45T以上、かつ比抵抗が1Ω・cm以上である磁心を得ることができる。上記の特性は、一般的なフェライト磁心と同等以上の特性である。
また、例えば、軟磁性合金粉末100質量%に対し、1〜3質量%のバインダを混合させ、バインダの軟化点以上の温度条件下の金型で圧縮成形することで、占積率が80%以上、1.6×10A/mの磁界を印加したときの磁束密度が0.9T以上、かつ比抵抗が0.1Ω・cm以上である圧粉磁心を得ることができる。上記の特性は、一般的な圧粉磁心よりも優れた特性である。
さらに、上記の磁心を成す成形体に対し、歪取り熱処理として成形後に熱処理することで、さらにコアロスが低下し、有用性が高まる。なお、磁心のコアロスは、磁心を構成する磁性体の保磁力を低減することで低下する。
また、上記磁心に巻線を施すことでインダクタンス部品が得られる。巻線の施し方およびインダクタンス部品の製造方法には特に制限はない。例えば、上記の方法で製造した磁心に巻線を少なくとも1ターン以上巻き回す方法が挙げられる。
さらに、軟磁性合金粒子を用いる場合には、巻線コイルが磁性体に内蔵されている状態で加圧成形し一体化することでインダクタンス部品を製造する方法がある。この場合には高周波かつ大電流に対応したインダクタンス部品を得やすい。
さらに、軟磁性合金粒子を用いる場合には、軟磁性合金粒子にバインダおよび溶剤を添加してペースト化した軟磁性合金ペースト、および、コイル用の導体金属にバインダおよび溶剤を添加してペースト化した導体ペーストを交互に印刷積層した後に加熱焼成することで、インダクタンス部品を得ることができる。あるいは、軟磁性合金ペーストを用いて軟磁性合金シートを作製し、軟磁性合金シートの表面に導体ペーストを印刷し、これらを積層し焼成することで、コイルが磁性体に内蔵されたインダクタンス部品を得ることができる。
ここで、軟磁性合金粒子を用いてインダクタンス部品を製造する場合には、最大粒径が篩径で45μm以下、中心粒径(D50)が30μm以下の軟磁性合金粉末を用いることが、優れたQ特性を得る上で好ましい。最大粒径を篩径で45μm以下とするために、目開き45μmの篩を用い、篩を通過する軟磁性合金粉末のみを用いてもよい。
最大粒径が大きな軟磁性合金粉末を用いるほど高周波領域でのQ値が低下する傾向があり、特に最大粒径が篩径で45μmを超える軟磁性合金粉末を用いる場合には、高周波領域でのQ値が大きく低下する場合がある。ただし、高周波領域でのQ値を重視しない場合には、バラツキの大きな軟磁性合金粉末を使用可能である。バラツキの大きな軟磁性合金粉末は比較的安価で製造できるため、バラツキの大きな軟磁性合金粉末を用いる場合には、コストを低減することが可能である。
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。
軟磁性合金の形状には特に制限はない。上述した通り、薄膜形状や粉末形状が例示されるが、それ以外にもブロック形状等も考えられる。
第1実施形態〜第4実施形態の軟磁性合金(Fe基ナノ結晶合金)の用途には特に制限はない。例えば、磁性部品が挙げられ、その中でも特に磁心が挙げられる。インダクタ用、特にパワーインダクタ用の磁心として好適に用いることができる。本実施形態に係る軟磁性合金は、磁心の他にも薄膜インダクタ、磁気ヘッドにも好適に用いることができる。
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
(実験例1)
下表に示す各実施例および比較例の合金組成となるように原料金属を秤量し、高周波加熱にて溶解し、母合金を作製した。なお、試料番号13および14の組成は一般的によく知られたアモルファス合金の組成である。
その後、作製した母合金を加熱して溶融させ、1250℃の溶融状態の金属とした後に、ロールを回転速度25m/sec.で回転させる単ロール法により前記金属をロールに噴射させ、薄帯を作成した。なお、ロールの材質はCuとした。
図1に示す方向にロールを回転させ、ロール温度は70℃とした。また、チャンバー内と噴射ノズル内との差圧105kPa、ノズル径5mmスリット、流化量50g、ロール径φ300mmとすることで、得られる薄帯の厚さを20〜30μm、薄帯の幅を4mm〜5mm、薄帯の長さを数十mとした。
得られた各薄帯に対してX線回折測定を行い、粒径が30nmよりも大きい結晶の有無を確認した。そして、粒径が30nmよりも大きい結晶が存在しない場合には非晶質相からなるとし、粒径が30nmよりも大きい結晶が存在する場合には結晶相からなるとした。なお、後述する試料番号322を除く全ての実施例において、初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有していた。
その後、各実施例および比較例の薄帯に対し、下表に示す条件で熱処理を行った。熱処理後の各薄帯に対し、飽和磁束密度、保磁力および表面粗さ(RvおよびRz)を測定した。飽和磁束密度(Bs)は振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁場1000kA/mで測定した。保磁力(Hc)は直流BHトレーサーを用いて磁場5kA/mで測定した。表面粗さ(RvおよびRz)はレーザー顕微鏡を用いて測定した。
実験例1〜3では、飽和磁束密度は1.30T以上を良好とし、1.35T以上をより良好とし、1.40T以上をさらに良好とした。保磁力は3.0A/m以下を良好とし、2.5A/m以下をより良好とし、2.0A/m以下をさらに良好とし、1.5A/m以下を最も良好とした。表面粗さRvは12μm以下を良好とした。表面粗さRzは20μm以下を良好とした。
なお、以下に示す実施例では特に記載の無い限り、全て平均粒径が5〜30nmであり結晶構造がbccであるFe基ナノ結晶を有していたことをX線回折測定、および透過電子顕微鏡を用いた観察で確認した。また、熱処理の前後で合金組成に変化がないことについてICP分析を用いて確認した。
Figure 2019123929
表1より、各成分の含有量が所定の範囲内であり、ロール接触距離およびロール温度が好適であった試料番号9〜12は全ての特性が良好であった。これに対し、何らかの成分の含有量が所定の範囲外である試料番号1〜8,13および14は、表面粗さが悪化した。
(実験例2)
実験例2では、下表に示す各実施例および比較例の合金組成となるように原料金属を秤量し、高周波加熱にて溶解し、母合金を作製した点以外は実験例1と同条件で実施した。
Figure 2019123929
Figure 2019123929
Figure 2019123929
Figure 2019123929
Figure 2019123929
Figure 2019123929
Figure 2019123929
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Figure 2019123929
Figure 2019123929
Figure 2019123929
Figure 2019123929
Figure 2019123929
Figure 2019123929
Figure 2019123929
表2〜表11は数種類のa〜eの組み合わせに対してSの含有量(f)およびTiの含有量(g)を変化させた実施例および比較例を記載したものである。なお、Mの種類はNbとしている。各成分の含有量が所定の範囲内である実施例は飽和磁束密度Bs、保磁力Hcおよび表面粗さが良好であった。
SおよびTiを含有しない比較例は表面粗さが悪化した。
Sの含有量(f)が大きすぎる比較例は、熱処理前の薄帯が結晶相からなりやすい。熱処理前の薄帯が結晶相からなる場合には熱処理後の保磁力Hcが著しく大きくなった。熱処理前の薄帯が非晶質相からなる場合でも保磁力Hcが大きくなった。
Tiの含有量(f)が大きすぎる比較例は、熱処理前の薄帯が結晶相からなりやすく、熱処理後の保磁力が著しく大きくなった。
表12において、各成分の含有量が所定の範囲内である実施例は飽和磁束密度Bs、保磁力Hcおよび表面粗さが良好であった。
表12の試料番号235〜243はMの含有量(a)を変化させた実施例および比較例を記載したものである。Mの含有量(a)が小さすぎる試料番号235は熱処理前の薄帯が結晶相からなり、熱処理後の保磁力Hcが著しく大きくなった。Mの含有量(a)が大きすぎる試料番号243は飽和磁束密度Bsが低下した。
表12の試料番号244〜251はBの含有量(b)を変化させた実施例および比較例を記載したものである。Bの含有量(b)が小さすぎる試料番号244は熱処理前の薄帯が結晶相からなり、熱処理後の保磁力Hcが著しく大きくなった。Bの含有量(b)が大きすぎる試料番号243は飽和磁束密度Bsが低下した。
表12の試料番号252〜259はPの含有量(c)を変化させた実施例および比較例を記載したものである。Pの含有量(c)が小さすぎる試料番号252は熱処理後の保磁力Hcが大きくなり、表面粗さが悪化した。Pの含有量(c)が大きすぎる試料番号259は飽和磁束密度Bsが低下した。
表12の試料番号260〜274はSiの含有量(d)およびCの含有量(e)を変化させた実施例および比較例を記載したものである。Siの含有量(d)が大きすぎる試料番号270は熱処理後の保磁力Hcが大きくなった。Cの含有量(e)が大きすぎる試料番号264は熱処理後の保磁力Hcが大きくなった。
表13〜表15は試料番号24のFeの一部をX1および/またはX2で置換した実施例である。
表13〜表15より、Feの一部をX1および/またはX2で置換しても良好な特性を示した。
表16はMの種類以外は試料番号237、24または241と同一な実施例である。試料番号237a〜237iは試料番号237と同一であり、試料番号24a〜24iは試料番号24と同一であり、試料番号241a〜241iは試料番号241と同一である。
表16より、Mの種類を変化させても良好な特性を示した。
(実験例3)
実験例3では、試料番号24について、溶融状態の金属温度および薄帯作製後の熱処理条件を適宜変化させて初期微結晶の平均粒径およびFe基ナノ結晶合金の平均粒径を変化させた。結果を表17に示す。
Figure 2019123929
表17より、初期微結晶の平均粒径が0.3〜10nmであり、Fe基ナノ結晶合金の平均粒径が5〜30nmである場合には、上記の範囲を外れる場合と比較して飽和磁束密度と保磁力が共に良好であった。
(実験例4)
下表18〜21に示す各実施例および比較例の合金組成となるように原料金属を秤量し、高周波加熱にて溶解し、母合金を作製した。
その後、作製した母合金を加熱して溶融させ、1250℃の溶融状態の金属とした後に、ロールを回転速度25m/sec.で回転させる単ロール法により前記金属をロールに噴射させ、薄帯を作成した。なお、ロールの材質はCuとした。
図1に示す方向にロールを回転させ、ロール温度は70℃とした。また、チャンバー内と噴射ノズル内との差圧105kPa、ノズル径5mmスリット、流化量50g、ロール径φ300mmとすることで、得られる薄帯の厚さを20〜30μm、薄帯の幅を4mm〜5mm、薄帯の長さを数十mとした。
得られた各薄帯に対してX線回折測定を行い、粒径が30nmよりも大きい結晶の有無を確認した。そして、粒径が30nmよりも大きい結晶が存在しない場合には非晶質相からなるとし、粒径が30nmよりも大きい結晶が存在する場合には結晶相からなるとした。なお、後述する試料番号322を除く全ての実施例において、初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有していた。
その後、各実施例および比較例の薄帯に対し、下表に示す条件で熱処理を行った。熱処理後の各薄帯に対し、飽和磁束密度、保磁力および表面粗さ(RvおよびRz)を測定した。飽和磁束密度(Bs)は振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁場1000kA/mで測定した。保磁力(Hc)は直流BHトレーサーを用いて磁場5kA/mで測定した。表面粗さ(RvおよびRz)はレーザー顕微鏡を用いて測定した。
実験例4および5では、飽和磁束密度は1.50T以上を良好とした。保磁力は3.0A/m以下を良好とし、2.5A/m以下をより良好とし、2.0A/m以下をさらに良好とし、1.5A/m以下を最も良好とした。表面粗さRvは12μm以下を良好とした。表面粗さRzは20μm以下を良好とした。
なお、以下に示す実施例では特に記載の無い限り、全て平均粒径が5〜30nmであり結晶構造がbccであるFe基ナノ結晶を有していたことをX線回折測定、および透過電子顕微鏡を用いた観察で確認した。また、熱処理の前後で合金組成に変化がないことについてICP分析を用いて確認した。
Figure 2019123929
Figure 2019123929
Figure 2019123929
Figure 2019123929
表18〜表19より、各成分の含有量が所定の範囲内であった実施例は全ての特性が良好であった。これに対し、何らかの成分の含有量が所定の範囲外である比較例は、保磁力、飽和磁束密度および表面粗さのうち一つ以上が悪化した。さらに、aが小さすぎる比較例、bが小さすぎる比較例およびgが大きすぎる比較例では、熱処理前の薄帯が結晶相からなり、熱処理後の保磁力Hcが著しく大きくなった。さらに表面粗さが悪化した場合もあった。
表20は試料番号410のFeの一部をX1および/またはX2で置換した実施例である。
表20より、Feの一部をX1および/またはX2で置換しても良好な特性を示した。
表21は試料番号410のMの種類を変化させた実施例である。
表21より、Mの種類を変化させても良好な特性を示した。
(実験例5)
実験例5では、試料番号410について、溶融状態の金属温度および薄帯作製後の熱処理条件を適宜変化させて初期微結晶の平均粒径およびFe基ナノ結晶合金の平均粒径を変化させた。結果を表20に示す。
Figure 2019123929
表22より、初期微結晶の平均粒径が0.3〜10nmであり、Fe基ナノ結晶合金の平均粒径が5〜30nmである場合には、上記の範囲を外れる場合と比較して飽和磁束密度と保磁力が共に良好であった。
21,31… ノズル
22,32… 溶融金属
23,33… ロール
24,34… 薄帯
25,35… チャンバー
26… 剥離ガス噴射装置

Claims (13)

  1. 組成式(Fe(1−(α+β))X1αX2β(1−(a+b+c+d+e+f+g))SiTiからなる主成分からなる軟磁性合金であって、
    X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
    X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
    MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
    0.020≦a≦0.14
    0.020<b≦0.20
    0<c≦0.040
    0≦d≦0.060
    0.0005<e<0.0050
    0≦f≦0.010
    0≦g≦0.0010
    α≧0
    β≧0
    0≦α+β≦0.50
    であり、
    fとgのうち少なくとも一つ以上が0より大きく、
    初期微結晶が非晶質中に存在するナノヘテロ構造を有する軟磁性合金。
  2. 前記初期微結晶の平均粒径が0.3〜10nmである請求項1に記載の軟磁性合金。
  3. 組成式(Fe(1−(α+β))X1αX2β(1−(a+b+c+d+e+f+g))SiTiからなる主成分からなる軟磁性合金であって、
    X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
    X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
    MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1種以上であり、
    0.020≦a≦0.14
    0.020<b≦0.20
    0<c≦0.040
    0≦d≦0.060
    0.0005<e<0.0050
    0≦f≦0.010
    0≦g≦0.0010
    α≧0
    β≧0
    0≦α+β≦0.50
    であり、
    fとgのうち少なくとも一つ以上が0より大きく、
    前記軟磁性合金がFe基ナノ結晶からなる構造を有する軟磁性合金。
  4. 前記Fe基ナノ結晶の平均粒径が5〜30nmである請求項3に記載の軟磁性合金。
  5. 0.73≦1−(a+b+c+d+e+f+g)≦0.95である請求項1〜4のいずれかに記載の軟磁性合金。
  6. 0≦α{1−(a+b+c+d+e+f+g)}≦0.40である請求項1〜5のいずれかに記載の軟磁性合金。
  7. α=0である請求項1〜6のいずれかに記載の軟磁性合金。
  8. 0≦β{1−(a+b+c+d+e+f+g)}≦0.030である請求項1〜7のいずれかに記載の軟磁性合金。
  9. β=0である請求項1〜8のいずれかに記載の軟磁性合金。
  10. α=β=0である請求項1〜9のいずれかに記載の軟磁性合金。
  11. 薄帯形状である請求項1〜10のいずれかに記載の軟磁性合金。
  12. 粉末形状である請求項1〜10のいずれかに記載の軟磁性合金。
  13. 請求項1〜12のいずれかに記載の軟磁性合金からなる磁性部品。
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