図1を参照して、本発明では、二色性色素が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルム10にアクリル系樹脂フィルム20(21)を貼合して、偏光板15を製造する。そして、アクリル系樹脂フィルム(原反フィルム)20には、偏光フィルム10への貼合前に加熱処理を施し、こうして加熱処理が施されたアクリル系樹脂フィルム21が、偏光フィルム10に貼合される。
図1に示す例では、第一の繰出しロール25から繰り出されるアクリル系樹脂からなる原反フィルム20が加熱炉40を通って、そこで加熱処理が施され、こうして加熱処理が施されたアクリル系樹脂フィルム21が偏光フィルム10の一方の面に供給され、別途、第二の繰出しロール35から繰り出される第二の樹脂フィルム30が偏光フィルム10のもう一方の面に供給され、加熱処理が施されたアクリル系樹脂フィルム21/偏光フィルム10/第二の樹脂フィルム30の順番となるように貼合ロール50,51で貼合され、得られる偏光板15が製品ロール60に巻き取られるようになっている。加熱炉40においては、アクリル系樹脂フィルム20が複数の搬送ロール45,45によって搬送されるようになっている。偏光フィルム10は、後述する偏光フィルム製造工程において製造されたものがそのまま送られてくるのが一般的である。図1において、直線矢印はフィルムの進行方向を、曲線矢印はロールの回転方向を、それぞれ意味する。図1に示す例では、加熱炉40を通過する段階が加熱処理工程に相当し、貼合ロール50,51により貼合される段階が貼合工程に相当する。
図1に示す例のように、偏光フィルム10の両面に樹脂フィルムを貼合して偏光板15を製造する場合は、少なくとも一方の樹脂フィルムをアクリル系樹脂で構成すればよい。
偏光フィルム10の両面にアクリル系樹脂フィルムを貼合して偏光板15とする場合は、それらのアクリル系樹脂フィルムそれぞれに、本発明に従って加熱処理を施してから、貼合工程に供するのが好ましい。一方、偏光フィルム10の片面にのみ樹脂フィルムを貼合して偏光板とすることも可能であり、その場合は、当該樹脂フィルムをアクリル系樹脂で構成すればよい。
以下、本発明において使用される偏光フィルム10及びアクリル系樹脂フィルム20、さらに任意に使用される第二の樹脂フィルム30について、順を追って説明し、その後で偏光板の製造方法について説明することとする。
[偏光フィルム]
偏光フィルム10は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させ、所定の偏光特性が得られるようにしたものである。二色性色素として典型的には、ヨウ素や二色性有機染料が用いられる。すなわち、偏光フィルムには、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素が吸着配向しているヨウ素系偏光フィルムと、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性有機染料が吸着配向している染料系偏光フィルムがある。
偏光フィルム10を構成するポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルや、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体などが挙げられる。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体として、例えば、不飽和カルボン酸類、不飽和スルホン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類などが挙げられる。また、ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなども使用することができる。
偏光フィルム10は通常、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの水分を調整する調湿工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色してその二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着配向したポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、ホウ酸処理後、表面に付着している遊離のホウ酸などを洗い落とす水洗工程、及び水洗後に乾燥する工程を経て、製造される。
一軸延伸は、染色の前に行ってもよいし、染色中に行ってもよいし、染色後のホウ酸処理中に行ってもよい。これら複数の段階で一軸延伸してもよい。一軸延伸は、周速の異なるロール間で行ってもよいし、熱ロールを用いて行ってもよい。また、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶剤にて膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常4〜8倍程度である。一軸延伸と染色が施され、さらにホウ酸処理、水洗及び乾燥が施されて得られるポリビニルアルコール系偏光フィルムは、その厚さを例えば、約1〜50μm程度とすることができるが、好ましくは10〜35μmである。
[アクリル系樹脂フィルム]
次に、偏光フィルム10に貼合されるアクリル系樹脂フィルム20について説明する。
アクリル系樹脂は通常、メタクリル酸アルキルを主体とする重合体である。具体的には、メタクリル酸アルキルの単独重合体又はメタクリル酸アルキルを2種以上用いた共重合体であってもよいし、メタクリル酸アルキル50重量%以上とメタクリル酸アルキル以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。メタクリル酸アルキルとしては、通常そのアルキル基の炭素数が1〜4のものが用いられ、なかでもメタクリル酸メチルが好ましく用いられる。
また、メタクリル酸アルキル以外の単量体は、分子内に1個の重合性炭素−炭素二重結合を有する単官能単量体であってもよいし、分子内に2個以上の重合性炭素−炭素二重結合を有する多官能単量体であってもよいが、特に単官能単量体が好ましく用いられる。その例としては、アクリル酸メチルやアクリル酸エチルのようなアクリル酸アルキル、スチレンやアルキルスチレンのようなスチレン系単量体、アクリロニトリルやメタクリロニトリルのような不飽和ニトリルなどが挙げられる。共重合成分としてアクリル酸アルキルを用いる場合、そのアルキル基は通常、炭素数1〜8程度である。アクリル系樹脂の単量体組成は、単量体全体の量を基準にして、メタクリル酸アルキルが、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上であり、また好ましくは99重量%以下である。
このアクリル系樹脂は、グルタルイミド誘導体、グルタル酸無水物誘導体、ラクトン環構造などを有しないことが好ましい。グルタルイミド誘導体、グルタル酸無水物誘導体、又はラクトン環構造のような環状構造を有するアクリル系樹脂は、光学フィルムとして十分な機械強度及び耐湿熱性が得られにくくなる傾向にある。換言すれば、このアクリル系樹脂は、単量体が実質的にメタクリル酸アルキルのみからなるか、又はメタクリル酸アルキルが単量体組成の例えば70重量%以上、好ましくは90重量%以上を占め、それと、実質的にアクリル酸アルキル、スチレン系単量体及び不飽和ニトリルから選ばれる単量体のみとの共重合体であるのが好ましい。
アクリル系樹脂は、フィルムへの製膜性やフィルムとしたときの耐衝撃性などの観点から、上記したアクリル系の母体樹脂に、ゴム弾性体粒子が配合されたアクリル系樹脂組成物であることもできる。このゴム弾性体粒子は、ゴム弾性を示す層を有する粒子であり、ゴム弾性を示す層のみからなる粒子であってもよいし、ゴム弾性を示す層とともに他の層を有する多層構造の粒子であってもよい。ゴム弾性体としては、例えば、オレフィン系弾性重合体、ジエン系弾性重合体、スチレン−ジエン系弾性共重合体、アクリル系弾性重合体などが挙げられる。なかでも、偏光板の保護フィルムとして用いるときの表面硬度、耐光性、及び透明性の観点から、アクリル系弾性重合体が好ましく用いられる。
アクリル系弾性重合体は、アクリル酸アルキルを主体とする重合体で構成することができる。これは、アクリル酸アルキルの単独重合体であってもよいし、アクリル酸アルキル50重量%以上とそれ以外の単量体50重量%以下との共重合体であってもよい。アクリル酸アルキルとしては通常、そのアルキル基の炭素数が4〜8のものが用いられる。アクリル酸アルキル以外の単量体を共重合させる場合、その例としては、メタクリル酸メチルやメタクリル酸エチルのようなメタクリル酸アルキル、スチレンやアルキルスチレンのようなスチレン系単量体、アクリロニトリルやメタクリロニトリルのような不飽和ニトリルなどの単官能単量体、また、(メタ)アクリル酸アリルや(メタ)アクリル酸メタリルのような不飽和カルボン酸のアルケニルエステル、マレイン酸ジアリルのような二塩基酸のジアルケニルエステル、アルキレングリコールジ(メタ)アクリレートのようなグリコール類の不飽和カルボン酸ジエステルなどの多官能単量体が挙げられる。
アクリル系弾性重合体を含むゴム弾性体粒子は、アクリル系弾性重合体の層を有する多層構造の粒子であることが好ましい。具体的には、アクリル系弾性体の外側にメタクリル酸アルキルを主体とする硬質の重合体層を有する2層構造のものや、さらにアクリル系弾性体の内側にメタクリル酸アルキルを主体とする硬質の重合体層を有する3層構造のものが挙げられる。アクリル系弾性体の外側又は内側に形成される硬質の重合体層を構成するメタクリル酸アルキルを主体とする重合体における単量体組成の例は、先にアクリル系樹脂の例として挙げたメタクリル酸アルキルを主体とする重合体の単量体組成の例と同様であり、特にメタクリル酸メチルを主体とする単量体組成が好ましく用いられる。このような多層構造のアクリル系ゴム弾性体粒子は、例えば特公昭 55-27576 号公報に記載の方法により、製造することができる。
アクリル系の母体樹脂に配合されるゴム弾性体粒子は、その中に含まれるゴム弾性体層の数平均粒径が10〜300nmの範囲内にあることが好ましい。このようなゴム弾性体粒子を配合することにより、接着剤を用いて偏光フィルムに貼合したとき、接着層から剥がれにくい保護フィルムを得ることができる。このゴム弾性体粒子の平均粒径は、好ましくは50nm以上であり、また好ましくは250nm以下である。
アクリル系弾性重合体を含有するゴム弾性体粒子の平均粒径は、次のようにして測定される。すなわち、このようなゴム弾性体粒子をアクリル系の母体樹脂に混合してフィルム化し、その断面を酸化ルテニウムの水溶液で染色すると、ゴム弾性体層だけが着色して、ほぼ円形状に観察され、母層のアクリル系樹脂は染色されない。そこで、このようにして染色されたフィルム断面から、ミクロトームなどを用いて薄片を調製し、これを電子顕微鏡で観察する。そして、無作為に100個の染色されたゴム弾性体粒子を抽出し、各々の粒子径を算出した後、その数平均値を平均粒径とする。このような方法で測定するため、本発明で規定するゴム弾性体の平均粒径は、数平均粒径となる。
最外層がメタクリル酸メチルを主体とする硬質の重合体であり、その中にアクリル系弾性重合体が包み込まれているゴム弾性体粒子を用いた場合、それをアクリル系の母体樹脂に混合すると、ゴム弾性体粒子の最外層がアクリル系の母体樹脂と混和する。そのため、その断面を酸化ルテニウムで染色し、電子顕微鏡で観察すると、そのゴム弾性体粒子が、最外層を除いた状態の粒子として観察される。具体的には、内層がアクリル系弾性重合体であり、外層がメタクリル酸メチルを主体とする硬質の重合体である2層構造のゴム弾性体粒子を用いた場合には、内層のアクリル系弾性重合体部分が染色されて単層構造の粒子として観察され、また、最内層がメタクリル酸メチルを主体とする硬質の重合体であり、中間層がアクリル系弾性重合体であり、最外層がメタクリル酸メチルを主体とする硬質の重合体である3層構造のゴム弾性体粒子を用いた場合には、最内層の粒子中心部分が染色されず、中間層のアクリル系弾性重合体部分のみが染色された2層構造の粒子として観察されることになる。
かかるゴム弾性体粒子は、先述した透明なアクリル系の母体樹脂との合計量を基準に、25〜45重量%の割合で配合されることが好ましい。ゴム弾性体粒子をこの割合で配合することにより、フィルムへの製膜性を高め、得られるフィルムの耐衝撃性を高める効果が発現される。
本発明で用いるアクリル系樹脂(アクリル系の母体樹脂にゴム弾性体が配合されたアクリル系樹脂組成物である場合を含む、以下同じ)は、必要に応じて、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、滑材、蛍光増白剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、帯電防止剤、酸化防止剤などの各種添加剤を含有してもよい。
紫外線吸収剤は、波長400nm以下の紫外線を吸収する化合物である。ポリビニルアルコール系偏光フィルムの保護フィルムとして用いられるアクリル系樹脂フィルムが紫外線吸収剤を含有することで、偏光フィルムにこの保護フィルムが貼合された偏光板の耐久性を向上させる効果が得られる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤など、公知のものが使用できる。紫外線吸収剤の具体例を挙げると、2,2′−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2′−ジヒドロキシ−4,4′−ジメトキシベンゾフェノン、2,2′,4,4′−テトラヒドロキシベンゾフェノンなどがある。これらのなかでも、2,2′−メチレンビス〔4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール〕は、好ましい紫外線吸収剤の一つである。紫外線吸収剤の配合量は、得られる樹脂フィルムの波長370nm以下における透過率が、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下となる範囲で選択することができる。紫外線吸収剤を含有させる方法としては、紫外線吸収剤を予めアクリル系樹脂中に配合してペレット化しておき、これを溶融押出などによってフィルムに成形する方法、溶融押出成形時に直接、紫外線吸収剤を添加する方法などが挙げられ、いずれの方法も使用できる。
赤外線吸収剤は、波長800nm以上の赤外線を吸収する化合物である。例えば、ニトロソ化合物、その金属錯塩、シアニン系化合物、スクワリリウム系化合物、チオールニッケル錯塩系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、トリアリールメタン系化合物、イモニウム系化合物、ジイモニウム系化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、アミノ化合物、アミニウム塩系化合物、カーボンブラック、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズ、周期律表の4A族、5A族若しくは6A族に属する金属の酸化物、炭化物又はホウ化物などを挙げることができる。これらの赤外線吸収剤は、赤外線(波長約800nm〜1100nmの範囲の光)全体を吸収できるように選択することが好ましく、2種類以上を併用してもよい。赤外線吸収剤の配合量は、例えば、得られる樹脂フィルムの波長800nm以上における光線透過率が10%以下となるように、適宜調整することができる。
アクリル系樹脂フィルムに製膜するためのアクリル系樹脂は、そのガラス転移温度Tgが80〜110℃の範囲内にあることが好ましい。ガラス転移温度Tgが80℃よりも低い場合、それから製膜されるフィルムを偏光フィルムに貼合して得られる偏光板は、耐熱試験において収縮量が大きくなり、十分な耐熱性が得られないことがある。一方、ガラス転移温度が110℃よりも高い場合、巻き締まりによって発生した欠陥が、後述する加熱処理を施しても十分に修復できないことがある。
また、この樹脂から製膜されるフィルムは、表面の硬度が高いこと、具体的には、 JIS K 5600-5-4:1999「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」に準じて荷重500gで測定される鉛筆硬度がH又はそれより硬いことが好ましい。
さらにこのフィルムは、柔軟性の観点から、 JIS K 7171:2008「プラスチック−曲げ特性の求め方」に準じて測定される曲げ弾性率が1,500MPa以下であることが好ましい。
この曲げ弾性率は、より好ましくは1,300MPa以下、さらに好ましくは1,200MPa以下である。この曲げ弾性率は、アクリル系樹脂の種類や、ゴム弾性体粒子の有無、さらにゴム弾性体粒子が配合されている場合はその種類や量などによって変動し、例えば、アクリル系樹脂として、メタクリル酸アルキルの単独重合体を用いるよりも、メタクリル酸アルキルとアクリル酸アルキル等との共重合体を用いるほうが、一般に曲げ弾性率は小さくなる。また、ゴム弾性体粒子の含有量が多くなるほど、一般に曲げ弾性率は小さくなる。
一方、ゴム弾性体粒子として、前記した3層構造のアクリル系弾性重合体粒子を用いるよりも、前記した2層構造のアクリル系弾性重合体粒子を用いるほうが、一般に曲げ弾性率は小さくなり、単層構造のアクリル系弾性重合体粒子を用いるほうが、曲げ弾性率はより一層小さくなる。さらに、ゴム弾性体粒子中の弾性体の平均粒径が小さいほど、又は弾性体の量が多いほど、一般に曲げ弾性率は小さくなる。そこで、アクリル系樹脂の種類、さらにはゴム弾性体粒子の種類及び/又は量を前記所定の範囲の中で調整して、曲げ弾性率が1,500MPa以下となるようにすればよい。
アクリル系樹脂フィルムは、アクリル系樹脂から形成される層を一つの層とする多層構造とすることもできる。樹脂フィルムを多層構成とする場合、上記したアクリル系樹脂の層以外に存在しうる層は、その組成に特別な限定はない。また、2種以上のアクリル系樹脂フィルムが積層された構成とすることもでき、その場合、ゴム弾性体粒子や前記した添加剤の各層における含有量を互いに異ならせてもよい。例えば、紫外線吸収剤及び/又は赤外線吸収剤を含有する層を挟んで、紫外線吸収剤及び赤外線吸収剤を含有しない層が積層されているような構成も採用できる。
以上説明したアクリル系樹脂を製膜することにより、本発明に用いるアクリル系樹脂フィルムが製造できる。このアクリル系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコール系偏光フィルムの保護フィルムとして用いられるので、その厚さは、5〜200μm 程度の範囲から任意に選択することができる。その厚さは、好ましくは10μm 以上であり、また好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。
製膜には、これまでに説明したアクリル系樹脂を溶融押出しし、2本の金属製ロールで挟み込んだ状態で行う方法が好ましく採用される。この場合、金属製ロールは、鏡面ロールであることが好ましく、これにより、表面平滑性に優れる樹脂フィルムを得ることができる。アクリル系樹脂フィルムを多層構成で製造する場合は、アクリル系樹脂の層が1層又は2層以上となるように多層共押出しし、製膜すればよい。
[アクリル系樹脂フィルムに任意に付加しうる機能]
アクリル系樹脂フィルムには、液晶モジュールの組立工程における表面の擦り傷防止の観点から、ハードコート処理を施すことができる。また、帯電防止処理などの表面処理を施すこともできる。なお、偏光板における帯電防止機能は、アクリル系樹脂フィルムに表面処理を施すことによって付与することができるほか、粘着剤層など、このアクリル系樹脂フィルムが貼合された偏光板の他の部分に付与することもできる。アクリル系樹脂フィルムへの表面処理としてはその他、反射防止処理や防汚処理なども挙げることができる。
さらには、視認性向上、外光の映り込み防止、プリズムシートとカラーフィルターの干渉によるモアレ低減などの観点から、防眩処理を施すこともできる。
[任意に貼合される第二の樹脂フィルム]
図1を参照して、本発明では、偏光フィルム10の一方の面に、上で説明したアクリル系樹脂フィルム20(21)を貼合して偏光板とするのであるが、偏光フィルム10の他方の面には、第二の樹脂フィルム30を貼合することができる。第二の樹脂フィルム30は、アクリル系樹脂で構成してもよいし、それ以外の樹脂で構成してもよい。第二の樹脂フィルム30となりうるアクリル系樹脂以外の樹脂の例を挙げると、トリアセチルセルロースを代表例とするセルロースエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂やポリプロピレン系樹脂を代表例とするポリオレフィン系樹脂などがある。
第二の樹脂フィルム30は、位相差が付与されていてもよい。位相差は、樹脂フィルムに一軸又は二軸の延伸を施すことにより、付与できる。得られる偏光板15を液晶セルに貼合して液晶パネルないし液晶表示装置とする場合、特に第二の樹脂フィルム30側を液晶セルに貼合する場合は、その第二の樹脂フィルム30に位相差を付与して、液晶セルの光学補償の機能を兼ねさせるのが有効である。
[偏光板の製造方法]
偏光フィルム10の一方の面にアクリル系樹脂フィルム20(21)を貼合し、必要に応じて偏光フィルム10の他方の面には第二の樹脂フィルム30を貼合して、偏光板15を製造するのであるが、本発明では、アクリル系樹脂フィルム20に加熱処理が施され、その加熱処理が施されたアクリル系樹脂フィルム21が偏光フィルム10に貼合される。
第二の樹脂フィルム30もアクリル系樹脂で構成する場合は、それも、加熱処理を施してから偏光フィルム10に貼合することが好ましい。
この加熱処理は、アクリル系樹脂フィルム20のガラス転移温度をTgとして、(Tg−30℃)以上、(Tg+5℃)以下の範囲内の温度で行われる。この範囲の温度で加熱処理を施すことにより、アクリル系樹脂フィルム20に、先述した巻き締まりによる欠陥が生じていても、それを修復して、偏光板15にはその欠陥が現れにくくすることができる。加熱処理の温度が(Tg−30℃)を下回ると、アクリル系樹脂フィルム20に発生している巻き締まりによる欠陥の修復が不十分となり、それを偏光フィルム10に貼合して得られる偏光板15にも、欠陥が現れやすくなる。一方、その温度が(Tg+5℃)を上回ると、アクリル系樹脂フィルム20に変形を生じやすく、加熱処理されたアクリル系樹脂フィルム21の機械的及び光学的均一性が損なわれる可能性がある。このような変形の可能性も極力少なくする観点から、加熱処理の温度はTg以下とするのが好ましい。
この加熱処理は、図示のように、上記の温度に熱せられた加熱炉40にアクリル系樹脂フィルム20を通すことにより行われることが好ましい。また加熱処理の時間は、5秒以上60秒以下の範囲内となるようにすることが好ましい。加熱処理の時間が5秒を下回ると、アクリル系樹脂フィルム20に生じている巻き締まりによる欠陥を十分に修復できなくなる可能性がある。一方、その時間が60秒を超えると、アクリル系樹脂フィルム20が延伸されてしまい、フィルムの幅が狭くなる可能性がある。
この加熱処理は、アクリル系樹脂フィルム20に発生している巻き締まりによる欠陥を修復するためのものなので、偏光フィルム10に貼り合わせる直前に行われることが好ましい。また同様の観点から、アクリル系樹脂フィルム20は、長尺でロール状に巻かれた状態、具体的には、図示のように第一の繰出しロール25に巻かれた状態から巻き出しながら、上記の加熱処理が施され、引き続き偏光フィルム10への貼合に供されることが好ましい。このように長尺の樹脂フィルムを対象とする場合は、加熱処理前のアクリル系樹脂フィルム20と加熱処理後のアクリル系樹脂フィルム21とで、流れ方向に対して直交する幅方向の寸法変化率が 0.3%以下となるようにすることが好ましい。フィルム幅方向の寸法変化率(収縮率)が大きくなることは、そのフィルムが延伸されることにつながり、偏光板保護フィルムとしての光学特定に変化を生じる可能性があるとともに、生産面でも支障を来たしかねない。
こうして加熱処理が施されたアクリル系樹脂フィルム21は、偏光フィルム10に貼合される。アクリル系樹脂フィルム21に先述した防眩処理が施されている場合は、その防眩処理層とは反対側の面で、偏光フィルム10に貼合される。偏光フィルム10の他方の面に第二の樹脂フィルム30を貼合する場合には、図示のとおり、加熱処理が施されたアクリル系樹脂フィルム21及び第二の樹脂フィルム30の貼合を、貼合ロール50,51によって同時に行うことが好ましい。貼合に先立って、アクリル系樹脂フィルム21及び第二の樹脂フィルム30のそれぞれ偏光フィルム10への貼合面には、コロナ放電処理のような、物理的又は物理化学的な易接着処理を施しておくことが好ましい。易接着処理を施すことにより、偏光フィルムとその両面に貼合されるフィルム21,30との接着力を高めることができる。コロナ放電処理とは、電極間に高電圧をかけて放電し、電極間に配置された樹脂フィルムを活性化する処理である。コロナ放電処理の効果は、電極の種類、電極間隔、電圧、湿度、使用する樹脂フィルムの種類などによっても異なるが、例えば、電極間隔を1〜5mm、移動速度を3〜20m/分程度に設定するのが好ましい。
偏光フィルム10とアクリル系樹脂フィルム21との貼合、また偏光フィルム10と第二の樹脂フィルム30との貼合には、一般に接着剤が用いられる。上述の易接着処理を施した場合は、その処理面に接着剤を介して偏光フィルムが貼り合わされる。
接着剤としては、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、シアノアクリレート系樹脂、アクリルアミド系樹脂などを接着剤成分とするものを用いることができる。好ましく用いられる接着剤の一つは、無溶剤型の接着剤である。無溶剤型の接着剤は、有意量の溶剤を含まず、加熱又は活性エネルギー線(例えば、紫外線、可視光、電子線、X線など)の照射により反応硬化する硬化性成分(モノマー又はオリゴマー)を含み、当該硬化性成分の硬化により接着剤層を形成するものであり、典型的には、加熱や活性エネルギー線の照射により反応硬化する硬化性成分と、重合開始剤とを含んで構成される。無溶剤型接着剤のなかでは、反応性の観点から、カチオン重合で硬化するものが好ましく、とりわけエポキシ化合物を硬化性成分とする無溶剤型のエポキシ系接着剤は、偏光フィルム10と、アクリル系樹脂フィルム21及び第二の樹脂フィルム30になるその他の樹脂フィルムとの接着性に優れているため、好ましく用いられる。
無溶剤型のエポキシ系接着剤に含有される硬化性成分であるエポキシ化合物は、カチオン重合により硬化するものが好ましく、特に、耐候性や屈折率などの観点から、分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物を用いることがより好ましい。このような分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物として、芳香族エポキシ化合物の水素化物、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物などが例示できる。なお、硬化性成分であるエポキシ化合物は、通常、分子内に2個以上のエポキシ基を有する。
まず、芳香族エポキシ化合物の水素化物について説明する。芳香族エポキシ化合物の水素化物は、芳香族エポキシ化合物の原料である芳香族ポリヒドロキシ化合物を触媒の存在下及び加圧下で、芳香環に対して選択的に水素化反応を行って得られる核水添ポリヒドロキシ化合物を、グリシジルエーテル化する方法により得ることができる。芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテル、及びビスフェノールSのジグリシジルエーテルのようなビスフェノール型エポキシ化合物;フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、及びヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラックエポキシ樹脂のようなノボラック型のエポキシ樹脂;テトラヒドロキシジフェニルメタンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、及びエポキシ化ポリビニルフェノールのような多官能型のエポキシ樹脂などが挙げられる。これらの原料であって、ビスフェノール類を代表例とする芳香族ポリヒドロキシ化合物を上記のように核水添し、その水酸基にエピクロロヒドリンを反応させれば、芳香族エポキシ化合物の水素化物が得られる。なかでも、芳香族エポキシ化合物の水素化物として、水素化されたビスフェノールAのジグリシジルエーテルが好ましい。
次に、脂環式エポキシ化合物について説明する。脂環式エポキシ化合物とは、脂環式環に結合したエポキシ基を1個以上有するエポキシ化合物を意味し、「脂環式環に結合したエポキシ基を1個以上有する」とは、下式で示される構造を有することを意味する。式中のmは2〜5の整数である。
したがって、脂環式エポキシ化合物とは、上記式で示される構造を1個以上有し、それを含めて分子内に合計2個以上のエポキシ基を有する化合物である。より具体的には、上記式における (CH2)m 中の1個又は複数個の水素原子を取り除いた形の基が他の化学構造に結合した化合物が、脂環式エポキシ化合物となり得る。 (CH2)m 中の1個又は複数個の水素原子は、メチル基やエチル基などの直鎖状アルキル基で適宜置換されていてもよい。このような脂環式エポキシ化合物のなかでも、エポキシシクロペンタン環(上記式においてm=3のもの)や、エポキシシクロヘキサン環(上記式においてm=4のもの)を有するエポキシ化合物は、接着強度に優れる接着剤が得られることから、より好ましく用いられる。以下に、好適な脂環式エポキシ化合物の具体的な例を掲げる。ここでは、まず化合物名を挙げ、その後、それぞれに対応する化学式を示すこととし、化合物名とそれに対応する化学式には同じ符号を付す。
A:3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、
B:3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、
C:エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、
D:ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル) アジペート、
E:ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル) アジペート、
F:ジエチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、 G:エチレングリコールビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチルエーテル)、
H:2,3,14,15−ジエポキシ−7,11,18,21−テトラオキサトリスピロ−[5.2.2.5.2.2]ヘンイコサン(この化合物はまた、3,4−エポキシシクロヘキサンスピロ−2’,6’−ジオキサンスピロ−3'',5''−ジオキサンスピロ−3''',4'''−エポキシシクロヘキサンとも命名できる)、
I:3−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−8,9−エポキシ−1,5−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、
J:4−ビニルシクロヘキセンジオキサイド、
K:ビス−2,3−エポキシシクロペンチルエーテル、
L:ジシクロペンタジエンジオキサイドなど。
また、脂肪族エポキシ化合物は、脂肪族多価アルコール又はそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルであることができる。より具体的には、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、エチレングリコールやプロピレングリコール、及びグリセリンのような脂肪族多価アルコールに1種又は2種以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
以上説明したエポキシ化合物は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
無溶剤型のエポキシ系接着剤に含まれるエポキシ化合物のエポキシ当量は、通常30〜3,000g/当量、好ましくは50〜1,500g/当量の範囲である。エポキシ当量が30g/当量を下回ると、その接着剤層を硬化させた後の偏光板の可撓性が低下したり、接着強度が低下したりする可能性がある。一方、エポキシ当量が 3,000g/当量を超えると、エポキシ系接着剤に含有される他の成分との相溶性が低下する可能性がある。
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、上記エポキシ化合物をカチオン重合させるために、通常はカチオン重合開始剤を含む。カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射、又は加熱によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるものである。これらいずれのタイプのカチオン重合開始剤を用いてもよいが、潜在性が付与されていることが、作業性の観点から好ましい。なお、以下では、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線の照射によりカチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるカチオン重合開始剤を光カチオン重合開始剤とも称する。
光カチオン重合開始剤を使用すると、常温での接着剤成分の硬化が可能となるため、偏光フィルムの耐熱性あるいは膨張による歪を考慮する必要が減少し、そこに貼合される樹脂フィルムを、密着性良く偏光フィルム上に形成することができる。また、光カチオン重合開始剤を用いると、光で触媒的に作用するため、エポキシ系接着剤に混合しても保存安定性や作業性に優れる。
光カチオン重合開始剤としては、例えば、芳香族ジアゾニウム塩;芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩;鉄−アレーン錯体などを用いることができる。これらの光カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらのなかでも、特に芳香族スルホニウム塩は、300nm以上の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械強度や接着強度を有する硬化物を与えることができるため、好ましく用いられる。
これらの光カチオン重合開始剤は、市販品として容易に入手することが可能であり、例えば、いずれも商品名で、日本化薬(株)から販売されている“カヤラッド PCI-220”、及び“カヤラッド PCI-620”、ユニオンカーバイド社から販売されている“UVI-6990”、(株)ADEKAから販売されている“アデカオプトマー SP-150” 及び“アデカオプトマー SP-170”、日本曹達(株)から販売されている“CI-5102”、“CIT-1370”、“CIT-1682”、“CIP-1866S”、“CIP-2048S” 及び“CIP-2064S”、みどり化学(株)から販売されている“DPI-101”、“DPI-102”、“DPI-103”、“DPI-105”、“MPI-103”、“MPI-105”、“BBI-101”、“BBI-102”、“BBI-103”、“BBI-105”、“TPS-101”、 “TPS-102”、“TPS-103”、“TPS-105”、“MDS-103”、“MDS-105”、“DTS-102”及び“DTS-103”、ローディア社から販売されている“PI-2074”などを挙げることができる。
光カチオン重合開始剤の配合量は、硬化性成分であるエポキシ化合物100重量部に対して、通常 0.5〜20重量部であり、好ましくは1重量部以上、また好ましくは15重量部以下である。
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、光カチオン重合開始剤に加え、必要に応じて光増感剤を含有することができる。光増感剤を使用することで反応性が向上し、硬化物の機械強度や接着強度を向上させることができる。光増感剤としては、例えば、カルボニル化合物、有機イオウ化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ及びジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられる。光増感剤を配合する場合、その量は、エポキシ化合物100重量部に対して、0.1〜20重量部程度である。
また、加熱によってカチオン種又はルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させる熱カチオン重合開始剤としては、例えば、ベンジルスルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミドなどを挙げることができる。これらの熱カチオン重合開始剤も、市販品として容易に入手することができ、例えば、いずれも商品名で、(株)ADEKAから販売されている“アデカオプトン CP77” 及び“アデカオプトン CP66”、日本曹達(株)から販売されている“CI-2639” 及び“CI-2624”、三新化学工業(株)から販売されている“サンエイド SI-60L”、“サンエイド SI-80L”及び“サンエイド SI-100L”などが挙げられる。これらの熱カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、光カチオン重合開始剤と熱カチオン重合開始剤とを併用することもできる。
無溶剤型のエポキシ系接着剤は、オキセタン類やポリオール類など、カチオン重合を促進する化合物をさらに含有してもよい。
無溶剤型のエポキシ系接着剤を用いる場合、偏光フィルム10と樹脂フィルム21又は30との接着は、当該接着剤を樹脂フィルム及び/又は偏光フィルムの接着面に塗布し、両者を貼り合わせることにより行うことができる。樹脂フィルム及び/又は偏光フィルムに無溶剤型のエポキシ系接着剤を塗工する方法に特別な限定はなく、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。また、各塗工方式には各々最適な粘度範囲があるため、少量の溶剤を用いて粘度調整を行ってもよい。このために用いる溶剤は、偏光フィルムの光学性能を低下させることなく、エポキシ系接着剤を良好に溶解するものであればよく、例えば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類などの有機溶剤が使用できる。
未硬化のエポキシ系接着剤からなる接着剤層を介して偏光フィルム10に樹脂フィルム21,30を貼合した後は、活性エネルギー線を照射するか、又は加熱することにより、当該接着剤層を硬化させ、樹脂フィルムを偏光フィルム上に固着させる。活性エネルギー線の照射により硬化させる場合、好ましくは紫外線が用いられる。具体的な紫外線光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、ブラックライトランプ、メタルハライドランプなどを挙げることができる。活性エネルギー線、例えば紫外線の照射強度や照射量は、カチオン重合開始剤を十分に活性化させ、かつ硬化後の接着剤層や偏光フィルム、光学フィルムに悪影響を与えないように適宜選択される。また、加熱により硬化させる場合は、一般的に知られた方法で加熱することができ、そのときの温度や時間も、カチオン重合開始剤を十分に活性化させ、かつ硬化後の接着剤層や偏光フィルム、光学フィルムに悪影響を与えないように適宜選択される。
以上のようにして得られる、エポキシ系接着剤の硬化物からなる接着剤層は、その厚さを、通常0.1〜50μm程度の範囲とすることができ、好ましくは1μm 以上である。また、1〜20μm 、さらには2〜10μm の範囲にあることがより好ましい。
また、偏光フィルム10と、アクリル系樹脂フィルム21及び/又は第二の樹脂フィルム30との貼合に用いることができる別の好ましい接着剤として、水系の接着剤、すなわち、接着剤成分を水に溶解したもの、又はこれを水に分散させたものを挙げることができる。水系の接着剤を用いると、接着剤層の厚さをより小さくすることができる。水系接着剤の例を挙げると、接着剤成分として、水溶性の架橋性エポキシ樹脂、あるいは親水性のウレタン系樹脂を含有するものがある。
水溶性の架橋性エポキシ樹脂としては、例えば、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンのようなポリアルキレンポリアミンと、アジピン酸のようなジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドエポキシ樹脂を挙げることができる。このようなポリアミドエポキシ樹脂の市販品としては、いずれも商品名で、住化ケムテックス(株)から販売されている“スミレーズレジン 650”及び“スミレーズレジン 675”などがある。
接着剤成分として水溶性の架橋性エポキシ樹脂を用いる場合は、さらに塗工性と接着性を向上させるために、ポリビニルアルコール系樹脂などの他の水溶性樹脂を混合するのが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂は、部分ケン化ポリビニルアルコールや完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、及びアミノ基変性ポリビニルアルコールのような、変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。なかでも、酢酸ビニルと不飽和カルボン酸又はその塩との共重合体のケン化物、すなわち、カルボキシル基変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。なお、ここでいう「カルボキシル基」とは、−COOH及びその塩を含む概念である。
市販されている好適なカルボキシル基変性ポリビニルアルコールの例を挙げると、いずれも商品名で、(株)クラレから販売されている“クラレポバール KL-506”、 “クラレポバール KL-318”及び“クラレポバール KL-118”、日本合成化学工業(株)から販売されている“ゴーセナール T-330”及び“ゴーセナール T-350”、電気化学工業(株)から販売されている“DR-0415”、日本酢ビ・ポバール(株)から販売されている“AF-17”、“AT-17”及び“AP-17”などがある。
水溶性の架橋性エポキシ樹脂を含む接着剤は、上記エポキシ樹脂及び必要に応じて加えられるポリビニルアルコール系樹脂などの他の水溶性樹脂を水に溶解し、接着剤水溶液として調製することができる。この場合、水溶性の架橋性エポキシ樹脂は、水100重量部に対して 0.2〜2重量部程度の範囲の濃度とするのが好ましい。また、ポリビニルアルコール系樹脂を配合する場合、その量は、水100重量部に対して1〜10重量部程度、さらには1〜5重量部程度とするのが好ましい。
一方、ウレタン系樹脂を含む水系の接着剤を用いる場合、適当なウレタン樹脂の例として、アイオノマー型のウレタン樹脂、特にポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂を挙げることができる。ここで、アイオノマー型とは、骨格を構成するウレタン樹脂中に、少量のイオン性成分(すなわち親水成分)が導入されたものである。また、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とは、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その中に少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。かかるアイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに直接、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系の接着剤として好適である。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂の市販品として、例えばいずれも商品名で、DIC(株)から販売されている“ハイドラン AP-20”及び“ハイドラン APX-101H”などがあり、いずれもエマルジョンの形で入手できる。
アイオノマー型のウレタン樹脂を接着剤成分とする場合、さらにイソシアネート系などの架橋剤を配合することが好ましい。イソシアネート系架橋剤は、分子内にイソシアナト基(−NCO)を少なくとも2個有する化合物であり、その例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートのようなポリイソシアネート単量体のほか、それらの複数分子がトリメチロールプロパンのような多価アルコールに付加したアダクト体、ジイソシアネート3分子がそれぞれの片末端イソシアナト基の部分でイソシアヌレート環を形成した3官能のイソシアヌレート体、及びジイソシアネート3分子がそれぞれの片末端イソシアナト基の部分で水和・脱炭酸して形成されるビュレット体のような、ポリイソシアネート変性体などがある。好適に使用し得る市販のイソシアネート系架橋剤として、例えば、DIC(株)から“ハイドランアシスター C-1”の商品名で販売されているものなどがある。
アイオノマー型のウレタン樹脂を含む水系接着剤を用いる場合は、粘度と接着性の観点から、そのウレタン樹脂の濃度が10〜70重量%程度、さらには20重量%以上、また50重量%以下となるように、水中に溶解又は分散させたものが好ましい。イソシアネート系架橋剤を配合する場合、その配合量は、ウレタン系樹脂100重量部に対してイソシアネート系架橋剤が5〜100重量部程度となるように適宜選択される。
このような水系の接着剤を用いる場合、偏光フィルム10と、加熱処理が施されたアクリル系樹脂フィルム21及び/又は第二の樹脂フィルム30との接着は、当該接着剤を、偏光フィルム10及び/又はそこに貼合されるフィルム21,30の接着面に塗布し、両者を貼り合わせることにより行うことができる。より具体的には、偏光フィルム10及び/又はそこに貼合されるフィルム21,30に水系の接着剤を、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなどの塗工方式で均一に塗布した後、塗布面にもう一方のフィルムを重ねてロール等により貼合し、乾燥する方法などが挙げられる。乾燥は、例えば、60〜100℃程度の温度で行うことができる。接着性をより高めるために、乾燥後、室温よりやや高い温度、例えば30〜50℃程度の温度で1〜10日間程度養生することが好ましい。
偏光フィルム10の一方の面に、アクリル系樹脂フィルム21を貼合し、偏光フィルム10の他方の面に貼合される第二の樹脂フィルムをアクリル系樹脂フィルムで構成する場合及びアクリル系樹脂以外の樹脂フィルムで構成する場合のいずれにおいても、偏光フィルム10の両面に貼合されるフィルムの接着に同じ接着剤を用いてもよいし、異なる接着剤を用いてもよい。ただし、製造工程の簡略化及び偏光板の構成部材の削減のためには、適度の接着力が得られる限り、同じ接着剤を用いることが好ましい。
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、使用量を表す部は、特記ないかぎり重量基準である。
[実施例1]
(アクリル系樹脂とアクリル系ゴム弾性体粒子)
メタクリル酸メチル/アクリル酸メチルの重量比96/4の共重合体を、アクリル系の母体樹脂とした。また、最内層が、メタクリル酸メチルに少量のメタクリル酸アリルを用いて重合された硬質の重合体、中間層が、アクリル酸ブチルを主成分とし、さらにスチレン及び少量のメタクリル酸アリルを用いて重合された軟質の弾性体、最外層が、メタクリル酸メチルに少量のアクリル酸エチルを用いて重合された硬質の重合体からなる3層構造のゴム弾性体粒子であって、中間層である弾性体までの平均粒径が240nmのものを、アクリル系ゴム弾性体粒子とした。
(アクリル系樹脂フィルムの作製)
上記のアクリル系樹脂と上記のアクリル系ゴム弾性体粒子が前者/後者=70/30の重量比で配合されているペレットを二軸押出機で溶融混練しつつ、その100部に対して滑剤であるステアリン酸 0.05部を加えて混合し、アクリル系樹脂組成物のペレットとした。このアクリル系樹脂組成物のガラス転移温度Tgを、セイコーインスツル(株)製の示差走査熱量計(DSC)で測定したところ、106℃であった。このペレットを65mmφの一軸押出機に投入し、設定温度275℃のT型ダイを介して押し出し、押し出されたフィルム状溶融樹脂の両面を、45℃に温度設定された鏡面を有する2本のポリシングロールで挟み込んで冷却し、アクリル系樹脂フィルムを作製した。得られたフィルムは、直径6インチ(15.2cm) のコアに巻き取った。
(アクリル系樹脂フィルムの加熱処理と偏光板化)
上で得られたアクリル系樹脂フィルムをロールから巻き出し、長手方向に500Nの張力をかけながら、85℃(Tg−21℃)に保たれた加熱炉を17秒間かけて通過させ、加熱処理を施した。フィルムが加熱炉を出た後の流れ方向に対して直交する幅方向の寸法収縮率は、 0.2%であった。加熱炉を出た後のフィルムに引き続きコロナ放電処理を施し、そのまま巻き取ることなく、次の偏光フィルムへの貼合に供した。ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向している厚さ約30μm の偏光フィルムの片面に、上記の加熱処理及びコロナ放電処理が施されたアクリル系樹脂フィルムのコロナ放電処理面を、偏光フィルムの他面には、コロナ放電処理が施されたノルボルネン系樹脂フィルムのコロナ放電処理面を、それぞれ接着剤を介して貼合し、接着剤を硬化させて偏光板を作製した。
(偏光板の裁断及び検品)
上で得られた偏光板から、押し切りカッターを用いてワイド46型テレビ(約103cm×約59cm)の大きさに100枚裁断した。こうして裁断された100枚の偏光板について、アクリル系樹脂フィルム起因の凹凸欠陥が現れている偏光板を数えた。その結果、偏光板9枚にアクリル系樹脂フィルム起因の欠陥が観察された。
[実施例2]
加熱処理を施すときの張力を500Nから300Nに変更した以外は、実施例1と同様にして、偏光板を作製し、裁断し、検査を行った。このとき、アクリル系樹脂フィルムが加熱炉を出た後の流れ方向に対して直交する幅方向の寸法収縮率は 0.2%であった。検査の結果、偏光板9枚にアクリル系樹脂フィルム起因の欠陥が観察された。
[実施例3]
加熱処理を施す加熱炉の温度を85℃から95℃(Tg−11℃)に変更し、そのときのフィルムにかける張力を500Nから300Nに変更した以外は、実施例1と同様にして、偏光板を作製し、裁断し、検査を行った。このときも、アクリル系樹脂フィルムが加熱炉を出た後の流れ方向に対して直交する幅方向の寸法収縮率は 0.2%であった。検査の結果、偏光板1枚にアクリル系樹脂フィルム起因の欠陥が観察された。
[比較例1]
加熱処理を施す加熱炉の温度を85℃から23℃(Tg−83℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして、偏光板を作製し、裁断し、検査を行った。このとき、アクリル系樹脂フィルムが加熱炉を出た後の流れ方向に対して直交する幅方向の寸法収縮率は 0.1%であった。検査の結果、偏光板90枚にアクリル系樹脂フィルム起因の欠陥が観察された。
[比較例2]
加熱処理を施す加熱炉の温度を85℃から75℃(Tg−31℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして、偏光板を作製し、裁断し、検査を行った。このとき、アクリル系樹脂フィルムが加熱炉を出た後の流れ方向に対して直交する幅方向の寸法収縮率は 0.1%であった。検査の結果、偏光板27枚にアクリル系樹脂フィルム起因の欠陥が観察された。
[比較例3]
加熱処理を施す加熱炉の温度を85℃から75℃(Tg−31℃)に変更し、そのときのフィルムにかける張力を500Nから300Nに変更した以外は、実施例1と同様にして、偏光板を作製し、裁断し、検査を行った。このとき、アクリル系樹脂フィルムが加熱炉を出た後の流れ方向に対して直交する幅方向の寸法収縮率は 0.1%であった。検査の結果、偏光板26枚にアクリル系樹脂フィルム起因の欠陥が観察された。
以上の実施例及び比較例における主な変動条件と結果を表1にまとめた。表1中、「偏光板検査結果」の「判定」の欄は、検査した偏光板100枚のうち、欠陥の認められた枚数が20枚以下(欠陥率20%以下)であれば、概ね良好を意味する「○」とし、欠陥の認められた枚数が20枚超(欠陥率20%超)であれば、不良を意味する「×」として表示した。
表1に示すとおり、加熱炉の温度を23℃(室温)とした比較例1は、事実上加熱処理を施さない例に相当するが、この場合はほとんどの偏光板に欠陥が見られ、これは、アクリル系樹脂フィルムに発生していた巻き締まりによる欠陥が、そのまま偏光板に移ったことを意味する。加熱炉の温度を75℃に上げた比較例2及び3では、比較例1に比べれば欠陥の見られた偏光板の数が減少しており、アクリル系樹脂フィルムに発生していた巻き締まりによる欠陥が、加熱処理によりある程度修復されたことが認められるものの、未だ十分ではない。
これに対し、加熱炉の温度を(Tg−30℃)以上とした実施例1〜3では、アクリル系樹脂フィルムの巻き締まりによる欠陥が大幅に修復され、偏光板の欠陥率が20%以下(10%以下)になっていることがわかる。加熱処理中のフィルムにかける張力を処理温度に応じて適宜調節してやれば、加熱処理によるフィルム幅方向の寸法変化率(収縮率)も小さく抑えることができる。