JP2019094308A - 筋萎縮抑制剤及び筋萎縮抑制用の食品組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】廃用性筋萎縮又は加齢性筋萎縮を抑制し得る剤又は食品組成物を提供する。【解決手段】大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物から選択される一以上と、赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物から選択される一以上とを、筋萎縮抑制剤又は筋萎縮抑制用の食品組成物に含有させる。【選択図】図3

Description

本発明は、筋萎縮抑制剤及び筋萎縮抑制用の食品組成物に関する。
骨格筋は、運動により使われないと萎縮する。例えば、寝たきりの高齢者や、疾病や怪我の安静加療中で活動できない患者などでは筋萎縮が生じ、かかる筋萎縮は廃用性筋萎縮と呼ばれている。
また、加齢によっても骨格筋は萎縮することが知られており、そのような加齢性筋萎縮はサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)の原因のひとつとされている。
これらの筋萎縮を予防するには、運動等で筋肉を動かすことが重要だが、高齢者等には十分な運動が困難である場合が多いため、飲食品や医薬の摂取により筋萎縮を予防又は改善することが求められている。
これまでに、筋萎縮を予防又は改善する食品成分として、リンゴポリフェノール、シークワーシャー抽出物、オオバギ抽出物などが報告されている(特許文献1〜3)。
筋萎縮は、筋の収縮及び構造タンパク質の合成と分解のバランスが崩れることによる筋肉量の減少によって生じる。特に廃用性筋萎縮はユビキチン−プロテアソームタンパク質分解系が亢進することに起因することが知られている。
ユビキチンはタンパク質分解のマーカー分子であり、活性化すると標的タンパク質に結合しポリユビキチン化して、タンパク質分解シグナルとなる。ユビキチン−プロテアソームタンパク質分解系では、ユビキチン活性化酵素、ユビキチン結合酵素、及びユビキチンリガーゼの酵素群からなるユビキチン化システムが、標的タンパク質にポリユビキチンを連結し、26Sプロテアソームがポリユビキチンを認識する。その後、筋萎縮関連遺伝子(MuRF−1、MAFbx/Atrogin−1)の発現と機能発揮により筋萎縮がもたらされる(非特許文献1〜4)。
また、加齢性筋萎縮についても、ユビキチンリガーゼが関与していると考えられている(非特許文献5)。
そのため、廃用性筋萎縮や加齢性筋萎縮の予防又は改善には、ユビキチン−プロテアソームタンパク質分解系を制御することが有効と考えられ、特に該分解系の律速酵素であるユビキチンリガーゼを阻害することが注目されている。
これまでに、特定の配列を有するオリゴペプチドや大豆タンパク質であるグリシニン又はその加水分解物にユビキチンリガーゼ阻害作用が見出され、これらを筋萎縮の予防又は改善に用いることが提案されている(特許文献4、5)。
ところで、一般に、筋肉の維持に重要な栄養成分としてタンパク質が知られている。また、タンパク質の代謝に寄与する栄養成分としてビタミンB6が知られている。赤ピーマンにはビタミンB6が豊富に含まれていることが知られており、筋肉を作るためにタンパク質と赤ピーマン(ビタミンB6)を組み合わせた献立が提案されている。これらは、筋肉のタンパク質合成を促すことを企図するものである。
しかしながら、赤ピーマンやビタミンB6が、筋萎縮を予防又は改善し得ることは知られていない。
特開2001−089387号公報 国際公開2013/099982号パンフレット 特開2016−136952号公報 特開2007−314469号公報 特許第4963044号
生化学 第81巻 第7号 p.614-618 Sandri et al., Cell (2004) Nikawa, T. et al., The FASEB Journal express article 10.1096/fj.03-0419fje. Published online January 8, 2004 Gomes, M.D. et al., PNAS, 98(25) 2001 「サルコペニアの基礎と臨床」 鈴木隆雄 監修 真興交易(株)医書出版部 p.22-27
本発明は、廃用性筋萎縮又は加齢性筋萎縮を抑制し得る剤又は食品組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究の末、大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物等のグリシニンを含有する素材のタンパク質分解系阻害作用が、赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物等を併用することにより増強することを見出し、これらを組み合わせて含有させると筋萎縮を抑制し得ることに想到し、本発明を完成させた。
本発明の一態様は、大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物から選択される一以上と、赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物から選択される一以上とを含有する、筋萎縮抑制剤である。
本態様において大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物は、分離大豆タンパク質であることが好ましい。
また、本態様において赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物は、赤ピーマン汁であることが好ましい。
本態様において好ましくは、前記大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物は、有効成分としてグリシニンを含有する。
また、本態様において好ましくは、前記赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物は、有効成分としてビタミンB6を含有する。
本態様の筋萎縮抑制剤は、好ましくは廃用性筋萎縮又は加齢性筋萎縮の抑制に用いるものである。
本態様の筋萎縮抑制剤は、タンパク質分解系を阻害することにより筋萎縮を抑制することができる。
本態様の筋萎縮抑制剤は、寝たきり、無運動、整形外科的疾患、安静加療時の不活動、疾患に伴う低栄養、無重力環境、又は加齢に起因する筋萎縮の予防及び/又は改善用の医薬品に含有させることが好ましい。
本発明の別の態様は、大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物から選択される一以上と、赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物から選択される一以上とを含有する、筋萎縮抑制用の食品組成物である。
本態様において大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物は、分離大豆タンパク質であることが好ましい。
また、本態様において赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物は、赤ピーマン汁であることが好ましい。
本態様において好ましくは、前記大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物は、有効成分としてグリシニンを含有する。
また、本態様において好ましくは、前記赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物は、有効成分としてビタミンB6を含有する。
本態様において、グリシニンは3g/日以上、かつビタミンB6は0.3mg/日以上摂取されるものであることが好ましい。
本態様の食品組成物は、好ましくは廃用性筋萎縮又は加齢性筋萎縮の抑制に用いるものである。さらに好ましくは、寝たきり、無運動、整形外科的疾患、安静加療時の不活動、疾患に伴う低栄養、無重力環境、又は加齢に起因する筋萎縮に対して用いられるものである。
本態様の食品組成物は、好ましくは飲料、サプリメントである。
本態様の食品組成物は、好ましくは機能性表示食品、又は特別用途食品である。さらに、前記特別用途食品は、病者用食品又は特定保健用食品であることが好ましい。
本発明によれば、タンパク質分解系を阻害し、それにより筋萎縮を抑制するという、大豆由来成分と赤ピーマン由来成分との組み合わせの新たな用途が提供される。前記組合せを含有する剤又は食品組成物は、筋萎縮を抑制することができるため、廃用性筋萎縮又は加齢性筋萎縮の予防及び/又は改善に有用である。
試験1の各遺伝子発現量を示すグラフ(a:MuRF−1、b:MAFbx)。 試験2の各遺伝子発現量を示すグラフ(a:MuRF−1、b:MAFbx)。 試験3の各遺伝子発現量を示すグラフ(a:MuRF−1、b:MAFbx)。 試験4の各遺伝子発現量を示すグラフ(a:MuRF−1、b:MAFbx)。
本発明の筋萎縮抑制剤及び筋萎縮抑制用の食品組成物は、大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物(以降、まとめて「大豆由来成分」とも記す)と、赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物(以降、まとめて「赤ピーマン由来成分」とも記す)とを含有する。
大豆にはタンパク質が多く含まれており、大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物には、通常、大豆タンパク質の構成成分であるグリシニン(11Sグロブリン)が含まれる。ここで大豆は大豆植物の種子を指し、その抽出又は分画や粉砕は公知の方法により行うことができ、例えば特許文献5に記載の方法を参照すればよい。本発明において、大豆由来成分は分離大豆タンパク質の形態で用いられることが好ましい。なお、ここで分離大豆タンパク質とは、大豆から任意の手法で分離したタンパク質を含む素材をいう。
グリシニン及びその加水分解物は、ユビキチン−プロテアソーム分解系を阻害することが知られており、本発明の作用効果を発揮する主体の一つである。
赤ピーマンは、カロテノイドの一種であるカプサンチンを多く含むピーマンの品種であるが、ビタミンB6(ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン)を多く含むことも知られている。赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並び
にそれらの加工物には、通常、ビタミンB6が含まれる。ここで赤ピーマンは赤ピーマン植物の果実を指し、その抽出又は分画や搾汁や粉砕、加工は公知の方法により行うことができ、例えば後述の実施例に記載の方法を参照すればよい。本発明において、赤ピーマン由来成分は赤ピーマン汁の形態で用いられることが好ましい。赤ピーマン汁は、赤ピーマンの搾汁(ストレート搾汁)、その濃縮汁(ピューレ、ペースト)及び濃縮汁の還元汁、並びにそれらの加工汁が挙げられる。搾汁及び濃縮の詳細な説明のため、本明細書に取り込まれるのは、『最新果汁・果実飲料辞典』(社団法人日本果汁協会監修)の内容である。また、後述する通り、本発明の効果は、赤ピーマンに含まれるビタミンB6によるものであることから、本発明における赤ピーマン由来成分は、ビタミンB6を含んでいればよい。
本発明の筋萎縮抑制剤の投与形態としては、例えば、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、溶液、シロップ剤、乳液等による経口投与を好ましく挙げることができる。なお、非経口投与形態が排除されるわけではなく、局所組織投与や、注射による皮下、皮内、筋肉内、静脈内投与等によってもよい。
本発明の筋萎縮抑制剤は、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬等の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて製剤化することができる。
また、本発明の筋萎縮抑制剤の分類としては、医薬品または医薬部外品の態様であってもよい。
本発明の筋萎縮抑制用の食品組成物としては、例えば、飲料(ジュース、コーヒー、紅茶、茶、炭酸飲料、スポーツ飲料等)、菓子類(ガム、キャンディー、キャラメル、チョコレート、クッキー、スナック、ゼリー、グミ、錠菓等)、麺類(そば、うどん、ラーメン等)、乳製品(ミルク、アイスクリーム、ヨーグルト等)、調味料(味噌、醤油等)、スープ類、をはじめとする一般食品や、健康食品(錠剤、カプセル等)、栄養補助食品(サプリメント、栄養ドリンク等)が挙げられる。
これら食品組成物には、その種類に応じて種々の成分を配合することができ、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等の食品添加物を任意に使用することができる。
本発明の筋萎縮抑制剤、又は筋萎縮抑制用の食品組成物は、特に限定されないが、大豆由来成分を剤全体、又は食品組成物全体に対して23質量%以上含有していることが好ましく、41質量%以上含有していることがより好ましく、59質量%以上含有していることが特に好ましい。また、赤ピーマン由来成分を剤全体、又は食品組成物全体に対して4質量%以上含有していることが好ましく、8質量%以上含有していることがより好ましく、38質量%以上含有していることがさらに好ましく、50質量%以上含有していることが特に好ましい。
なお、これらの含有量は、大豆由来成分又は赤ピーマン由来成分が抽出物又はその分画である場合は、固形物換算で示すものとする。
また本発明において、大豆由来成分を剤全体、又は食品組成物全体に対して大豆タンパク質量で20質量%以上含有していることが好ましく、35質量%以上含有していることがより好ましく、50質量%以上含有していることが特に好ましい。また、大豆由来成分
の含有量は、グリシニン量換算で、剤全体、又は食品組成物全体に対して8質量%以上含有していることが好ましく、14質量%以上含有していることがより好ましく、20質量%以上含有していることが特に好ましい。赤ピーマン由来成分の含有量は、ビタミンB6量換算で、剤全体、又は食品組成物全体に対して0.00015質量%以上含有していることが好ましく、0.0003質量%以上含有していることがより好ましく、0.015質量%以上含有していることが特に好ましい。
本発明の筋萎縮抑制剤の投与量、又は筋萎縮抑制用の食品組成物の摂取量は、投与/摂取する対象がヒトである場合、その性別、症状、年齢、投与方法によって異なるが、通常、成人(体重60kg程度)1日当たり、グリシニンが3g以上であり、かつビタミンB6が0.3mg以上であることが、筋萎縮抑制作用が十分に発揮される観点から好ましい。この1日当たりの量を一度に又は数回に分けて投与/摂取することができ、そのタイミングとしては、食前、食後、食間のいずれでもよい。また、投与/摂取期間は特に限定されない。
なお、「1日当たり3g以上」、「1日当たり0.3mg以上」とは、食品組成物の場合はその形態によって異なるが、表示される1日の摂取目安量や、通常1度で消費する飲みきりタイプの飲料であれば1本当たりに含まれる量を指すものである。
本発明において「筋萎縮抑制作用」とは、筋肉、特に骨格筋が、種々の原因により萎縮したりその量が低減したりするのを抑制する作用を意味し、筋肉が萎縮する前の状態や低減する前の量を維持すること、筋肉の萎縮や低減の程度を小さくすることを含む。
筋萎縮抑制作用は、直接的又は間接的に筋重量を測定することにより評価することができる。また、本発明における筋萎縮抑制作用は、ユビキチン−プロテアソーム分解系を阻害することにより、タンパク質分解を阻害して筋肉量の低減を抑制するものであることから、筋萎縮関連遺伝子(MuRF−1、MAFbx/Atrogin−1)の発現量又は機能発揮の低下を測定することによっても好ましく評価することができる。
本発明の筋萎縮抑制剤は、廃用性筋萎縮や加齢性筋萎縮に対して有効に用いることができる。
廃用性筋萎縮とは、種々の原因により使われない筋肉が萎縮することをいい、例えば、整形外科的疾患または怪我や病気の場合における安静加療時の不活動による筋萎縮、疾患に伴う低栄養により生じる筋萎縮、宇宙のような無重力下において生じる筋萎縮、あるいは海底のような特殊な圧力下の環境において生じた筋疲労による筋萎縮などを含む。
加齢性筋萎縮とは、加齢に伴い筋肉が萎縮することをいい、例えば、高齢者における筋萎縮、筋量の減弱化などを含む。したがって、本発明の筋萎縮抑制剤はサルコペニア(加齢性筋肉減弱症)の予防又は治療に対して用いることもできる。
なお、前述の通り本発明の筋萎縮抑制用の食品組成物はタンパク質分解を阻害して筋肉量の低減を抑制するものであるから、神経変性に起因する筋萎縮については、通常は抑制の対象としない。
本発明の筋萎縮抑制用の食品組成物は、好適に飲料、又はサプリメントとすることができる。本発明の筋萎縮抑制用の食品組成物は、機能性表示食品、又は特別用途食品とすることができる。特別用途食品としては、特定保健用食品や病者用食品が好ましく挙げられる。
本発明の筋萎縮抑制剤及び筋萎縮抑制用の食品組成物は、寝たきり、無運動、整形外科的疾患、安静加療時の不活動、疾患に伴う低栄養、無重力環境、又は加齢に起因する筋萎縮などに対する抑制に有効である。
したがって、本発明の筋萎縮抑制剤及び筋萎縮抑制用の食品組成物を投与又は摂取する対象は、筋肉が萎縮したり減少するのを抑制したい人であり、例えば無重力状態で長期活
動する宇宙飛行士や、筋力低下を予防したい中高年や、運動能力が低下傾向にある高齢者など寝たきりを予防したい人、あるいはすでに寝たきり状態でさらなる筋肉の減弱化を抑えたい人などが挙げられる。
本発明に係る剤又は食品組成物の有する有用性や機能性に関しては、製品化の際に次のような表示を付してもよい。例えば、「筋肉の委縮を抑制する機能性」、「筋肉量の減少を抑制する機能性」、「筋力の低下を抑制する機能性」、「筋肉の衰えを抑制する機能性」、「筋肉量や筋力の維持をサポートする機能性」「寝たきりを予防・改善する機能性」、「筋肉のリハビリテーションをサポートする機能性」等の表示が挙げられる。なお、これらの表示は、公知の方法で容器包装手段に付すことができる。
また、これらの表示がない剤又は食品組成物であっても、これら機能性をチラシ、メール、口頭でうたって製造、販売することも考えられる。
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<分離大豆タンパク質の調製>
脱脂大豆に12重量倍の水を加え、水酸化ナトリウムで中性にpHを調整し、撹拌抽出した後、豆乳を塩酸でpH4.5にして大豆タンパク質を沈殿させ、遠心分離後、沈殿物である大豆タンパク質を回収した。水酸化ナトリウムで中和後、高温殺菌及び噴霧乾燥を行って、分離大豆タンパク質を得た。得られた分離大豆タンパク質(以下、「SPI」という。)を動物試験に供した。
なお、SPI中のタンパク質量はケルダール法(窒素換算係数:6.25)で測定した。また、SPI中のグリシニン量はタンパク質量の40質量%として算出した(山内文男・大久保一良編(1992)『大豆の科学』32頁、株式会社朝倉書店)。
<赤ピーマン汁の調製>
以下の手順でビタミンB6を含有する赤ピーマン汁を調製した。
市販の赤ピーマン濃縮汁(Brix36.0)を蒸留水でBrix25.0に調整したものを原材料とした。Brixは、屈折計(NAR−3T 株式会社アタゴ社製)を用いて、品温20℃で測定した。
前記原材料に対して、芳香族系合成吸着樹脂であるダイヤイオンHP20(三菱ケミカル株式会社製)を用いて樹脂処理を行った。前記原材料の赤ピーマン汁とコンディショニング済みの樹脂を樹脂量体積が赤ピーマン汁に対して20%となるように混合し、樹脂が浮遊する程度の強さで撹拌しながら1時間反応させた。反応後の上清を目開き100から106μmの篩で濾過し、樹脂処理後の赤ピーマン汁を得た。得られた赤ピーマン汁を凍結乾燥し、粉末化した赤ピーマン汁を動物試験に供した。
得られた粉末化した赤ピーマン汁のビタミンB6濃度は、一般財団法人日本食品分析センターにてSaccharomyces cerevisiae ATCC 9080を用いた微生物定量法にて測定した結果、4.55mg/100gであった。
<動物試験>
被検動物として6週齢の雄性C57BL/6マウスを用いた。予備飼育を5日間行った後、平均体重が同じになるように群分けを行い、それぞれ試験飼料(試験飼料の詳細は、試験ごとに後述する。)を自由摂取させた。14日間摂取後、イソフルラン麻酔下で右腰部の皮膚切開の後、右坐骨神経切除処置を行い、皮膚部を縫合した。その後4日間試験飼料にて通常飼育を行った。なお、シャムオペ群では、右腰部の皮膚切開の後、右坐骨神経切除を行わず、皮膚部を縫合した。試験飼育中は、23±1℃、12時間ごとの明暗サイクル(明期7:00a.m.〜7:00p.m.)の環境下で、飼育を行った。通常飼育4日
目に無痛条件下で解剖し、右前脛骨筋を採取して、すぐに液体窒素中で凍結させた。
以下の手順で、筋萎縮関連遺伝子(MuRF−1、及びMAFbx/Atrogin−1)の発現量を測定した。なお、各遺伝子発現量はシャムオペ・カゼイン20%群の発現量を1としたときの相対量で示す(図1〜4)。
ISOGEN(ニッポンジーン株式会社、東京)を使用して製造者の指示に従ってトータルRNAを単離した。得られたトータルRNAを用いて、PrimeScript TM RT試薬キット(タカラバイオ株式会社、東京)を用いてcDNAに逆転写した。
リアルタイム半定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、ABI PRISM 7300 配列検出機器(アプライドバイオシステムズ、東京)を用いて検討した。すなわち、25ngのcDNA、50pMの遺伝子特異的プライマー(TaqMan Gene Expression Assays、アプライドバイオシステムズ、東京)およびABI PRISM 7300指定の試薬を用いた。これらのサンプルは、95℃・10分間、ディネーチャー(変性)させたのち、PCR作業(1サイクルは、95℃・30秒→60℃・30秒→72℃・20秒)を40サイクル実施した。
遺伝子特異的プライマーとしては、以下のものを用いた。GAPDH(Gapd; グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素。コードNo.はMm99999915_g1)、MuRF−1(Muscle RING−Finger Protein、Trim63(tripartite motif−containing 63)。コードNo.はMm01185221_m1)とMAFbx/Atrogin−1(Muscle Atrophy F−box、Fbxo32(F−box protein 32)。コードNo.はMm00499523_m1)。GAPDHはハウスキーピング遺伝子とした。
<試験1>参考:カゼイン食と大豆タンパク質食の比較
予備飼育後のマウスを5群に分け(各群8匹)、表1に記載の試験飼料をそれぞれ与えて動物試験を行った。
結果を図1に示す。食餌タンパク質としてカゼインよりも大豆タンパク質の方が、筋萎縮関連遺伝子の発現を抑制する傾向が認められた。また、大豆タンパク質量が50%の場合に特に筋萎縮抑制が認められた。
<試験2>大豆タンパク質と赤ピーマン汁の併用の検討
予備飼育後のマウスを4群に分け(各群6匹)、表2に記載の試験飼料をそれぞれ与えて動物試験を行った。
結果を図2に示す。タンパク質含有食餌に、ビタミンB6含有赤ピーマン汁を添加することにより、筋萎縮関連遺伝子の発現を抑制する傾向が認められた。特に、大豆タンパク質に赤ピーマン汁を組み合わせた場合には、有意な筋萎縮抑制が認められた。
<試験3>赤ピーマン汁量の検討
予備飼育後のマウスを4群に分け(各群6匹)、表3に記載の試験飼料をそれぞれ与えて動物試験を行った。
結果を図3に示す。大豆タンパク質に添加するビタミンB6含有赤ピーマン汁の量に依存して、筋萎縮関連遺伝子の発現の有意な抑制が認められた。
<試験4>タンパク質食とビタミンB6の併用の検討
予備飼育後のマウスを5群に分け(各群8匹)、表4に記載の試験飼料をそれぞれ与えて動物試験を行った。
結果を図4に示す。タンパク質含有食餌に、ビタミンB6を添加することにより、筋萎縮関連遺伝子の発現をより抑制する傾向が認められた。また、添加するビタミンB6の量に依存して、筋萎縮関連遺伝子の発現の有意な抑制が認められた。また、大豆タンパク質にビタミンB6を組み合わせた場合には、カゼインタンパク質と組み合わせたときに比べて有意な筋萎縮抑制が認められた。
試験2及び3では大豆タンパク質の筋萎縮関連遺伝子の発現抑制作用が、赤ピーマン汁の併用で増強したことが示されたが、試験4の結果から前記増強効果は赤ピーマン汁に含まれるビタミンB6によるものであることが強く示唆される。
本発明によれば、タンパク質分解系を阻害し、それにより筋萎縮を抑制するという、大豆由来成分と赤ピーマン由来成分との組み合わせの新たな用途が提供され、該組合せを含有する剤又は食品組成物が提供される。本発明の筋萎縮抑制剤及び筋萎縮抑制用の食品組成物は、廃用性筋萎縮又は加齢性筋萎縮の予防及び/又は改善に有用である。特に本発明の食品組成物は、機能性表示食品や特定保健用食品として消費者の健康志向にアピールするものとなり得る。

Claims (19)

  1. 大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物から選択される一以上と、
    赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物から選択される一以上とを含有する、筋萎縮抑制剤。
  2. 前記大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物が、分離大豆タンパク質である、請求項1に記載の筋萎縮抑制剤。
  3. 前記赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物が、赤ピーマン汁である、請求項1又は2に記載の筋萎縮抑制剤。
  4. 前記大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物が、有効成分としてグリシニンを含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の筋萎縮抑制剤。
  5. 前記赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物が、有効成分としてビタミンB6を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の筋萎縮抑制剤。
  6. 廃用性筋萎縮又は加齢性筋萎縮の抑制に用いる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の筋萎縮抑制剤。
  7. タンパク質分解系を阻害することにより筋萎縮を抑制する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の筋萎縮抑制剤。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の筋萎縮抑制剤を含有する、
    寝たきり、無運動、整形外科的疾患、安静加療時の不活動、疾患に伴う低栄養、無重力環境、又は加齢に起因する筋萎縮の予防及び/又は改善用の医薬品。
  9. 大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物から選択される一以上と、
    赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物から選択される一以上とを含有する、筋萎縮抑制用の食品組成物。
  10. 前記大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物が、分離大豆タンパク質である、請求項9に記載の食品組成物。
  11. 前記赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物が、赤ピーマン汁である、請求項9又は10に記載の食品組成物。
  12. 前記大豆、その抽出物又はその分画、及びその粉砕物が、有効成分としてグリシニンを含有する、請求項9〜11のいずれか一項に記載の食品組成物。
  13. 前記赤ピーマン、その抽出物又はその分画、その搾汁、及びその粉砕物並びにそれらの加工物が、有効成分としてビタミンB6を含有する、請求項9〜12のいずれか一項に記載の食品組成物。
  14. グリシニンが3g/日以上、かつビタミンB6が0.3mg/日以上摂取される、請求項13に記載の食品組成物。
  15. 廃用性筋萎縮又は加齢性筋萎縮の抑制に用いる、請求項9〜14のいずれか一項に記載
    の食品組成物。
  16. 寝たきり、無運動、整形外科的疾患、安静加療時の不活動、疾患に伴う低栄養、無重力環境、又は加齢に起因する筋萎縮に対して用いられる、請求項15に記載の食品組成物。
  17. 飲料又はサプリメントである、請求項9〜16のいずれか一項に記載の食品組成物。
  18. 機能性表示食品、又は特別用途食品である、請求項9〜17のいずれか一項に記載の食品組成物。
  19. 前記特別用途食品が、病者用食品又は特定保健用食品である、請求項18に記載の食品組成物。
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