以下に本発明に係るアポトーシス誘導剤およびそれを用いた癌治療剤について説明を行う。なお、以下の説明は本発明の一実施の形態および一実施例についての例示であって、本発明は以下の説明に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下の実施の形態は変更することができる。
また、以下の説明において、ERK(細胞外シグナル制御キナーゼ:Extracellular signal−Regulated Kinase)の活性化とはERKがリン酸化することを言い、リン酸化ERKの量が増大することと同義である。また、カスパーゼ3(Caspase3)の活性化とは、カスパーゼ3が切断されることを言い、切断カスパーゼ3の量が増大することと同義である。
本発明に係るアポトーシス誘導剤は、ヒトを含む哺乳類の細胞のうち、ERKが正常の場合と比較して恒常的に活性化されている細胞(「恒常的ERK活性化細胞」とも呼ぶ。)に対して、その細胞のERKをさらに活性化する(過活性化する)。また、カスパーゼ3の切断も亢進する。カスパーゼ3は、切断されることで、活性化し、重要な細胞内タンパク質を切断・分解することで細胞は死滅する。なお、カスパーゼ3が切断されたものを「切断カスパーゼ3(Cleaved Casp.−3)」と呼ぶ。
結果、本発明に係るアポトーシス誘導剤を癌細胞に作用させると、リン酸化ERKと切断カスパーゼ3の量が、作用させる前よりも増加する。その結果、この細胞は死滅する。ここで、ERKが活性化されている細胞は、主として癌細胞である。後に示すように、人工的にERKを活性化させた細胞(癌細胞モデル)に対しても同様の効果を示す。
ここで、「ERKが正常の場合と比較して恒常的に活性化している」とは、「リン酸化ERKが正常の場合と比較して恒常的に多い」と同義である。また、「正常の場合と比較して」とは、例えばERKが恒常的に活性化している癌細胞に対して、癌化されていない(若しくは「癌化していない」)同じ種類の細胞のERKの活性状況(リン酸化ERKの量)と比較すると言い換えてもよい。また、ここで「正常」とは、少なくともERKを含むシグナル伝達経路に変異が生じていない細胞である。
よく知られているように、多くの癌細胞では、恒常的にERKが活性化されている。ERKは、MAPK(Mitogen−activated Protein Kinase)の一種であり、リン酸化して活性化すると細胞核内に作用し、細胞増殖などの機能を制御する。多くの癌細胞は、このシグナル伝達経路の活性及び抑制が制御されていないので、際限なく増殖するとも考えられている。
したがって、癌細胞の増殖を抑制するための手段の1つとして、従来はERK MAPK経路の活性化を阻害することが提案されていた。ERK MAPK経路の活性化は細胞分裂を促す効果があることが分かっているので、増殖(細胞分裂)を抑制するために、ERK MAPK経路の活性化を阻害すればよいというのは、理解しやすい癌細胞の増殖抑制のための方針であると言える。
しかし、今回我々は、癌細胞において活性化しているERKをさらに活性化(過活性化)させることにより癌細胞がアポトーシスを起こし、死滅することを見出した。
さらに、本発明に係るアポトーシス誘導剤は、正常細胞に対して切断カスパーゼ3の量をほとんど増加させない。したがって、正常細胞にはアポトーシスを誘導しにくい。結果、本発明に係るアポトーシス誘導剤は、ERKが恒常的に活性化された細胞を特異的に死滅させるという選択能(若しくは選択性)を有するといえる。これは本発明に係るアポトーシス誘導剤が、ERKが恒常的に活性化された細胞(恒常的ERK活性化細胞)に選択的にアポトーシスを誘導すると言ってよい。
つまり、本発明に係る物質は、ERKが活性化されている細胞、すなわち癌細胞を選択的にアポトーシスさせることができる。これは、従来の癌細胞の増殖抑制の指針とは全く逆の思想であり、極めてユニークなアプローチであると言える。
なお、このアポトーシス誘導剤を含む癌治療剤を得ることができる。本発明にかかる癌治療剤は、上記のアポトーシス誘導剤を含む。この際にアポトーシス誘導剤は、薬学的に許容される塩を含んでもよい。また、アポトーシス誘導剤の効果を阻害しない範囲で、公知の材料を加えることができる。また、注射剤、経口剤といった薬剤の形態も限定されるものではない。
本発明に係るアポトーシス誘導剤は、上記の効果を発揮する化合物であれば、特に限定されるものではない。しかし、現在のところこのような作用を有する化合物として、以下の2つの化合物(ACA−28およびACAGT−007a)が見出されている。それぞれ構造および製造方法を示す。
(1)4−(Methoxycarbonyloxy)benzhydryl Methyl Carbonate:(4−(メトキシカルボニルオキシ)ベンズヒドリル メチル カーボネート、若しくは炭酸4−(メトキシカルボニルオキシ)ベンズヒドリル メチル)。以後「ACA−28」と記す。
4−ヒドロキシベンズヒドロール(800mg、4mmol)の乾燥ピリジン溶液(2mL)に、0℃にてクロロギ酸メチル(0.77mL、9.9mmol)を加えた。反応液を0℃にて30分攪拌した後、氷水(20mL)で希釈し、酢酸エチル(30mL×3)にて抽出した。引き続いて抽出液は、10%塩酸、重炭酸ナトリウム水溶液および飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒除去した後、残渣をカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン/酢酸エチル=30/1)で精製し無色針状結晶として、4−(メトキシカルボニルオキシ)ベンズヒドリル メチル カーボネートを得た。
mp. 73-74 °C. IR(KBr): 2963, 2851, 1763, 1748, 1508, 1439, 1257, 1223, 1069, 968, 937 cm-1.1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 3.79(3H, s), 3.90 (3H, s), 6.70, (1H, s), 7.16 (2H, dm, J = 8.7 Hz), 7.28-7.37 (5H, m) 7.39 (2H, dm, J = 8.7 Hz). 13C-NMR (125 MHz,CDCl3) δ: 55.0 (q), 55.4 (q), 80.1 (d), 121.1 (d),126.9 (d), 128.26 (d), 128.28 (d), 128.6 (d), 137.4 (s), 139.2 (s), 150.7 (s),154.0 (s), 155.0 (s). HRMS (ESI) m/z: [M+Na]+ 計算値( C17H16O6Na ):339.0839; 実測値: 339.0842.
(2)4−(Methoxycarbonyloxy)benzhydryl Ethyl Carbonate:(4−(メトキシカルボニルオキシ)ベンズヒドリル エチル カーボネート、若しくは炭酸4−(メトキシカルボニルオキシ)ベンズヒドリル エチル)。以後「(ACAGT−007a)」と呼ぶ。
4−ヒド溶液にロキシベンゾフェノン(500mg、2.53mmol)の乾燥ピリジン溶液(4mL)に、0℃にてクロロギ酸メチル(390μL、5.04mmol)を加えた。反応液を0℃にて1時間攪拌した後、氷水(50mL)に注加し、酢酸エチル(50mL×1、30mL×2)にて抽出した。引き続いて抽出液は、10%硫酸、重炭酸ナトリウム水溶液および飽和食塩水で順次洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。
減圧下で溶媒除去することで、無色固体(649mg)の4−(メトキシカルボニルオキシ)ベンゾフェノン(4−ヒドロキシベンゾフェノン−4−イル メチル カーボネート、若しくは炭酸4−ヒドロキシベンゾフェノン−4−イル メチル)を得た。その固体は次の反応に十分な純度であった。一部を分析用としてカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン/酢酸エチル=30/1)で精製し無色針状結晶を得た。
mp 95-96 °C (fromn-hexane). IR (KBr): 3070, 2955, 1762, 1651, 1597, 1439, 1315, 1249, 1253, 1216cm-1. 1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 3.94 (3H, s), 7.31 (2H, dm, J = 8.9), 7.49 (2H, tm, J = ca.7.4),7.60 (1H, tm, J = ca. 7.4), 7.80 (2H, dm, J = ca. 7.4), 7.87 (2H, dm, J = 8.9).13C-NMR (125 MHz, CDCl3) δ: 55.6(q), 120.9(d), 128.3(d), 129.9(d), 131.7(d), 132.5 (d), 135.3 (s),137.4(s),153.6 (s),154.1 (s), 195.4 (s). HRMS (ESI) m/z: [M+Na]+ 計算値(C15H12O4Na):279.0628; 実測値:279.0631.
4−(メトキシカルボニルオキシ)ベンゾフェノン(649mg)と、テトラヒドロフラン(15mL)、酢酸緩衝液(pH=5、3mL)の混合液にNaBH4(105mg、2.8mmol)を0℃で加え、その混合溶液を0℃で1時間攪拌した。反応液を氷水(50mL)に注加し、酢酸エチル(50mL×1、30mL×2)にて抽出した。引き続いて抽出液は、飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。
減圧下で溶媒除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(CHCl3)で精製し、4−(メトキシカルボニルオキシ)ベンズヒドリル(512mg、4−ヒドロキシベンゾフェノンから78%)を無色オイルとして得た。
IR (neat): 3421, 2958, 2854, 1767, 1604, 1508, 1454, 1369, 1257,1215, 1061, 1015 cm-1. 1H-NMR (500 MHz, CDCl3)δ: 2.34 (1H, d, J = 3.1), 3.89 (3H, s), 5.83 (1H, d, J= 3.1), 7.13 (2H, dm, J = 8.7), 7.25-7.41 (7H, m). 13C-NMR(125 MHz, CDCl3) δ: 55.4 (q), 75.6 (d),121.0 (d), 126.5 (d), 127.65 (d), 127.73 (d), 128.6 (d), 141.6 (s), 143.4 (s),150.3 (s), 154.5 (s). HRMS (ESI) m/z: [M+Na]+ 計算値(C15H14O4Na):281.0784; 実測値:281.0788.
4−(メトキシカルボニルオキシ)ベンズヒドロール(271mg、1.05mmol)の乾燥ピリジン溶液(2mL)に、0℃にてクロロギ酸エチル(200μL、2.1mmol)を加えた。反応液を0℃にて1.5時間攪拌した後、氷水(20mL)に注加し、酢酸エチル(10mL×3)にて抽出した。引き続いて抽出液は、10%硫酸、重炭酸ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒除去した後、残渣をカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン/酢酸エチル=10/1)で精製し、ACAGT−007aを無色針状結晶として得た。
mp 69-70 °C. IR(KBr): 2982, 2959, 1774, 1751, 1508, 1443, 1369, 1273, 1246, 1227, 987 cm-1.1H-NMR (500 MHz, CDCl3) δ: 1.31(3H, t, J = 7.0), 3.89 (3H, s), 4.02 (2H, q, J = 7.0), 6.70 (1H, s), 7.16 (2H,dm, J = 8.7), 7.27-7.41 (7H, m). 13C-NMR(125 MHz, CDCl3) δ: 14.2 (q), 55.4 (q), 64.3(t), 79.9 (d), 121.1 (d), 126.9 (d), 128.2 (d), 128.3 (d), 128.6 (d), 137.6(s), 139.3 (s), 150.7 (s), 154.1 (s), 154.4 (s). HRMS (ESI) m/z: [M+Na]+計算値(C18H18O6Na ):353.0996; 実測値:353.0996.
<1.ERKの過活性化とカスパーゼ3の活性化>
次にこれらの物質の効果について調べた実施例を示す。使用した細胞は、癌細胞としてSK−MEL−28−Luc(メラノーマ:癌細胞、JCRB細胞バンクにおける細胞番号JCRB1376、以後「SK−MEL−28」と記す。)であり、正常細胞としてNHEM(正常ヒト表皮メラノサイト、Normal Human Epidermal Melanocytes)を用いた。
培地はSK−MEL−28に対してDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)と全量の10%のFBS(ウシ胎児血清、Fetal bovine serum)を加えたもの(以下「DMEM+10%FBS」と記す。)を用い、NHEMに対してDermaLife M Comp kitを用いた。
アポトーシス誘導剤として、ACA−28と、比較例としてACA−28に構造が似ているACA、およびコントロールとしてDMSO(ジメチルスルホキシド、Dimethyl sulfoxide)として用いた。なお、ACA(1’−Acetoxychavicolacetate(1’−アセトキシカビコールアセテート))は以下の構造をしている。CAS番号は、53890−21−4である。
SK−MEL−28とNHEMは、それぞれ6ウェルプレートに播種し、37℃、二酸化炭素5%の環境で24時間培養した。24時間培養後、DMSOあるいは終濃度が10μMになるようにACA−28またはACAを、SK−MEL−28とNHEMが培養されたウェルに入れた。計6種類の試料を作製した。これらの試料は、37℃、二酸化炭素5%の環境で6時間培養した。
6時間培養後、細胞溶解液で各試料からタンパク質を抽出し、サンプルとした。
各サンプルをSDS−PAGE後、PVDF膜に転写し、抗リン酸化ERK1/2抗体、抗ERK1/2抗体、抗切断カスパーゼ3抗体、抗チューブリン抗体を用いてリン酸化ERK、総ERK、切断カスパーゼ3および、チューブリンの量を検討した。結果はLAS4000miniを用いて撮影し、画像処理ソフトウェア(Multi Gauge Ver.3.2)によって陰影の濃さを数値化した。
結果を図1に示す。図1(a)には、イムノブロッティングの結果を示す。図1(a)には、横長の4列の枠が示されており、各枠には6個の写真が示されている。4列の枠はそれぞれ上からリン酸化ERK1/2(「リン酸化ERK」と記載)、総ERK1/2、切断カスパーゼ3、α−チューブリンである。
また、6個の写真は縦方向に左から1番目から3番目までがNHEM(正常細胞)に対するものであり、4番目から6番目までSK−MEL−28(メラノーマ)に対するものである。各細胞毎にアポトーシス誘導剤としてDMSO(コントロール)、ACA(比較例)、ACA−28(実施例)の結果が示されている。
各写真の濃淡が各タンパク質の量に比例する。図1(a)のリン酸化ERK1/2の濃淡を数値化したものが、図1(b)である。図1(b)を参照して、横軸は、各細胞毎のアポトーシス誘導剤の種類を示し、縦軸は図1のリン酸化ERK1/2の写真の濃淡を数値化した値を総ERK1/2の写真の濃淡を数値化した値で除したものである。したがって、縦軸はERK1/2のリン酸化の程度を表している。つまり、ERK経路の活性化を表しているといってよい。なお、縦軸はNHEM(正常細胞)のDMSO(コントロール)の濃さを100%として規格化されている。
NHEMとSK−MEL−28のDMSOによる結果を比較すると、NHEM(正常細胞)よりSK−MEL−28(癌細胞)の方が数値が高くなっている。これは、癌化している細胞が示す特徴で、ERK経路が活性化されているために、皮膚細胞が癌化しているためと考えられる。このような状態は恒常的にERKが活性化されていると言える。
DMSOとACAの場合における正常細胞と癌細胞のリン酸化ERKの量の違いと比較して、ACA−28の場合は正常細胞と癌細胞のリン酸化ERKの量の違いは非常に大きく、2倍以上になっている。すなわち、ACA−28は、正常細胞と比較してそもそも活性化している癌細胞のERK経路を、より活性化させている(過活性させている)と言える。
ここで、図1(a)を再び参照して、SK−MEL−28(癌細胞)の切断カスパーゼ3のDMSOとACA−28の場合とを比較すると、明らかにACA−28の方が色が濃く映っている。つまり、メラノーマにACA−28を添加すると、無添加(メラノーマのDMSO)より添加(メラノーマのACA−28)の方がリン酸化ERKの量が増えており、切断カスパーゼ3の量も増えている。
図2には、メラノサイトおよびメラノーマにDMSO、ACA、ACA−28を作用させた時の細胞の生存率(%)を示す。SK−MEL−28とNHEMは、それぞれ96ウェルプレートに播種し、37℃、二酸化炭素5%の環境で24時間培養した。24時間培養後、DMSOあるいは終濃度が10μMになるようにACA−28またはACAを、SK−MEL−2とNHEMが培養されたウェルに入れた。これらの試料は、37℃、二酸化炭素5%の環境で48時間培養した。48時間培養後、生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク株式会社)を各ウェルに5μL加え、37℃、二酸化炭素5%の環境で3時間培養した。
3時間培養後にマイクロプレートリーダーにて450nmと600nmの吸光度を測定した。600nmを参照波長とし、450nmの吸光度から600nmの吸光度を引いた値を生存率とした。なお、縦軸はDMSO(コントロール)を加えた場合の生存率を100%として規格化されている。
また図2には、癌細胞としてSK−MEL−28だけではなく、SK−MEL−2−Luc(JCRB細胞バンクにおける細胞番号JCRB0066、以後「SK−MEL−2」と記す。)、MeWo(JCRB細胞バンクにおける細胞番号JCRB1393)も使用した。これらの細胞は、全てERKが活性化していることが知られている(非特許文献4、5、6参照)。培養方法はSK−MEL−28およびNHEMの場合と同じである。各細胞には便宜的に(1)から(4)までの数字を当てる。
図2を参照する。図2(a)は、各細胞に対してアポトーシス誘導剤を添加し、48時間後の状態の顕微鏡写真である。写真は全て同倍率であり、SK−MEL−28にACA−28を添加した写真の右下のスケールバーが100μmである。DMSOの場合と、ACAの場合を比較すると、いずれの細胞でも、細長い細胞が、ほぼ同じような密度で存在しているのが分かる。
一方、ACA−28の場合は、NHEMでは、細胞が十分に確認できる程度に存在しているのに対して、MeWo、SK−MEL−2およびSK−MEL−28では、ほとんど細胞が確認されない。また、確認できても丸くなって見えている。これは細胞が生きている場合は培養皿にへばりつき、長細くなっている状態であったのが、細胞増殖が停止あるいは死亡してしまい、培養皿の培地に浮かんでいるためである。つまり、丸くなって見える細胞は細胞増殖が停止あるいは死亡している。
この細胞数の変化を数値化したものが図2(b)である。横軸は、アポトーシス誘導剤の種類毎の細胞種である。細胞種は、図2(a)で割り振った数字であらわしている。縦軸は上述したように細胞生存率(%)を示す。各細胞はDMSOの場合の生存数を100%として規格化してある。
図2(b)を見ると、ACAでは、ほぼすべての細胞が20%ほど減っている。しかし、ACA−28では、NHEM(正常細胞)が40%ほどに減少しているのに対して、3種の癌細胞(メラノーマ)は、ほぼ10%以下にまで減少している。
以上のことから、本発明に係るアポトーシス誘導剤は、悪性黒色腫に代表されるERKが恒常的に活性化している癌細胞のERKをより活性化させると共に、切断カスパーゼ3も活性化させることで、アポトーシスを誘導し、細胞を死滅させる。一方、正常細胞に対しては、その効果が発揮されにくく、結果、癌細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導することができる。
<2.癌細胞モデルでの検証>
次に本発明に係るアポトーシス誘導剤の作用が、特定の癌細胞に対するものでなく、ERKが活性化されている細胞であれば、同様の効果を発揮することを示す。
使用した細胞はNIH/3T3(JCRB細胞バンクにおける細胞番号JCRB0615)と、NIH/3T3のHER2(細胞表面に存在する糖タンパクで、受容体型チロシンキナーゼ)を過剰発現させたA4−15(非特許文献1および非特許文献2参照)を用いた。NIH/3T3はマウスの胎児皮膚から分離した培養細胞である。
A4−15は、NIH/3T3の細胞表面のHER2を人工的に過剰発現させた細胞であり、癌細胞ではないが、ERKは正常の細胞より過剰に発現している。癌細胞のモデル細胞である。
これらの細胞の培養には、培地としてDMEM+10%FBSを用いた。NIH/3T3とA4−15は、それぞれ6ウェルプレートに播種し、37℃、二酸化炭素5%の環境で24時間培養した。24時間培養後、DMSOあるいは終濃度が10μMになるようにACA−28またはACAを、NIH/3T3とA4−15が培養されたウェルに入れた。計6種類の試料を作製した。
これらの試料は、37℃、二酸化炭素5%の環境で6時間培養した。6時間培養後、細胞溶解液で各試料からタンパク質を抽出し、サンプルとした。各サンプルをSDS−PAGE後、PVDF膜に転写し、抗リン酸化ERK1/2抗体、抗ERK1/2抗体、抗切断カスパーゼ3抗体、抗チューブリン抗体を用いてリン酸化ERK、総ERK、切断カスパーゼ3および、チューブリンの量を検討した。結果はLAS4000miniを用いて撮影し、画像処理ソフトウェア(Multi Gauge Ver.3.2)によって陰影の濃さを数値化した。結果を図3および図4に示す。
図3は、リン酸化ERK、総ERK、切断カスパーゼ3、α−チューブリンについてのイムノブロッティングの結果である。また、図4は、図3のリン酸化ERKの濃淡を数値化したものである。横軸は細胞毎のアポトーシス誘導剤の種類を示し、縦軸はリン酸化ERKの程度を示す。図4を参照して、アポトーシス誘導剤がDMSO(コントロール)の場合を見ると、NIH/3T3の場合と比較してA4−15は、非常にリン酸化ERKの量が多い。なお、縦軸はNIH/3T3(正常細胞)のDMSO(コントロール)の濃さを100%として規格化されている。
ACAを添加した場合は、NIH/3T3およびA4−15は共にリン酸化ERKの量は増えているが、同程度の増え方である。一方、ACA−28を添加した場合は、共にリン酸化ERKの量は増大している。また、図3の切断カスパーゼ3を見ると、A4−15にACA−28を添加した部分で切断カスパーゼ3の量が非常に多い(写真では影が濃い)のが分かる。
図5はNIH/3T3およびA4−15の細胞生存率(%)を表すグラフである。NIH/3T3およびA4−15は、それぞれ96ウェルプレートに播種し、37℃、二酸化炭素5%の環境で24時間培養した。24時間培養後、DMSOあるいは終濃度が10μMになるようにACA−28を、NIH/3T3とA4−15が培養されたウェルに入れた。これらの試料は、37℃、二酸化炭素5%の環境で48時間培養した。
48時間培養後、生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク株式会社)を各ウェルに5μL加え、37℃、二酸化炭素5%の環境で3時間培養した。3時間培養後にマイクロプレートリーダーにて450nmと600nmの吸光度を測定した。600nmを参照波長とし、450nmの吸光度から600nmの吸光度を引いた値を生存率とした。
横軸はアポトーシス誘導剤を添加した場合としない場合(DMSOの場合)を示している。また縦軸はアポトーシス誘導剤を添加しなかった場合の細胞数を100%として規格した細胞生存率(%)である。アポトーシス誘導剤(ACA−28)を添加すると、正常細胞(NIH/3T3)が60%程度の生存率になるのに対して、ERK活性化細胞(A4−15)は、10%程度の生存率となり、アポトーシスの効果はおよそ6倍の効果を有すると言える。
再度図4を参照して、リン酸化ERKの量については、NIH/3T3とA4−15はそれほど大きな違いはないように見える。しかし、図5の生存率の結果からA4−15については、図4程度にリン酸化ERKの活性化が過剰になると、そこで死滅してしまっているからと考えられる。NIH/3T3はリン酸化ERKが過剰に発生しているようにみえるが、図3の切断カスパーゼ3のバンドは薄い。したがって、カスパーゼ3の活性化はあまりない。
<3.他の癌細胞モデルで確認 図6>
図6は、NIH/3T3にCD98hcを過剰発現させた細胞(「NIH/3T3CD98hcOP」と記載。非特許文献3参照)の場合の切断カスパーゼ3の発現状態を確認したものである。培地はDMEM+7%FBSを用いた。CD98は細胞表面に位置する。CD98は、85kDaの重鎖(hc)と40kDaの軽鎖(lc)のヘテロ二量体から成り、lcが膜12回貫通型のアミノ酸トランスポーターであることが報告され、その他にも細胞内へのCa2+の流入、インテグリンの活性制御などに関わる多機能分子であることが報告されている。CD98は、ERKシグナル伝達経路の上流側に位置する。
図6(a)は、NIH/3T3にACA−28を添加したもので、図6(b)は、CD98hcを過剰発現させた細胞にACA−28を添加した場合である。横方向は培養時間(hr)を表し、縦方向は切断カスパーゼ3とα−チューブリンのイムノブロッティングの結果である。図6(a)を参照すると、正常細胞であるNIH/3T3では、切断カスパーゼ3の発現をほとんど確認できない。一方、図6(b)では、5時間以降で切断カスパーゼ3が強く発現しているのが分かる。
CD98hcを過剰発現させた細胞はA4−15同様に癌細胞のモデル細胞であり、癌細胞ではないが、ERKは恒常的に発現していると考えられる。本発明に係るアポトーシス誘導剤がERKが恒常的に活性化されている細胞に対してアポトーシスを誘導するのは明らかである。
図7(a)は、NIH/3T3−EGFPにACA−28を添加したもので、図7(b)は、NIH/3T3−EGFPのRasタンパク質(以後単に「Ras」と呼ぶ。)を変異させたNIH/3T3−EGFP vHarvey−RasG12V OPにACA−28を添加した場合である。
NIH/3T3−EGFPは、NIH/3T3に対照として緑色蛍光タンパク質(GFP)を導入した細胞であり、NIH/3T3−EGFP vHarvey−RasG12V OPは、NIH/3T3に、EGFP融合Harvey−RasG12Vを過剰発現させた癌細胞モデルである(非特許文献4参照)。RasG12Vは、正常なRasタンパク質では12番目のグリシン(G)であるところがバリン(V)に変異した活性化したRasタンパク質である。
このタンパク質は、活性化型のRasとして、下流のERK MAPKシグナルを恒常的に活性化させることが広く知られている。そのため、12番目のグリシン(G)をバリン(V)に変異させたRasを細胞に発現させることは、人工的にERK MAPKを活性化させる手段として、また癌細胞モデルを作成する手法として汎用されている。
図7(a)、図7(b)では、横方向は培養時間(hr)を表し、縦方向は切断カスパーゼ3とα−チューブリンのイムノブロッティングの結果を表す。図7(a)を参照すると、正常細胞であるNIH/3T3−EGFPでは、切断カスパーゼ3の発現をほとんど確認できない。一方、図7(b)の癌細胞モデルであるNIH/3T3−EGFP vHarvey−RasG12V OPでは、5時間以降で切断カスパーゼ3が強く発現しているのが分かる。
つまり、図6のCD98hcの変異モデルだけでなく、Rasの変異モデルにおいても、ERKが恒常的に発現している細胞に対しては、ACA−28は切断カスパーゼ3を活性化させアポトーシスを誘導する。
以上のことから、本発明に係るアポトーシス誘導剤は、癌細胞か否かというよりも、ERKが恒常的に活性化している細胞に作用し、アポトーシスを誘導するものであることがわかる。言い換えると、特定の癌細胞に対してアポトーシスを誘導するのではなく、ERKが恒常的に活性化している癌細胞に対してアポトーシスを誘導し、細胞死に至らしめることができると考えられる。また、恒常的にERKが活性化していない細胞(正常細胞)に対しては、カスパーゼ3を活性化させず、アポトーシスも誘導しない。
<4.MAPK経路阻害剤によるアポトーシス誘導のキャンセル 図8>
次に本発明のアポトーシス誘導剤の効果は、MAPK経路の阻害剤によってキャンセルされることを示す。これは、本発明に係るアポトーシス誘導剤が、ERKの過活性を発生させた結果としてカスパーゼ3の活性化を生じさせることを示すものである。
使用した細胞はヒト由来のNHEMとSK−MEL−28および、マウス由来のNIH/3T3とA4−15である。NHEMとSK−MEL−28は、正常細胞と癌細胞の対比であり、NIH/3T3とA4−15は正常細胞と癌細胞のモデル細胞との比較でもある。
培地はNHEMに対してDermaLife M Comp kitを用い、それ以外の細胞に対してはDMEM+10%FBSを用いた。各細胞は、それぞれ6ウェルプレートに播種し、37℃、二酸化炭素5%の環境で24時間培養した。24時間培養後、DMSOあるいは終濃度が10μMになるようにACA−28を、NIH/3T3とA4−15が培養されたウェルに入れた。さらに、その上からDMSOあるいは終濃度が10μMになるようにU0126(MEK阻害剤)を入れた。計6種類の試料を作製した。
これらの試料は、37℃、二酸化炭素5%の環境で6時間培養した。6時間培養後、細胞溶解液で各試料からタンパク質を抽出し、サンプルとした。各サンプルをSDS−PAGE後、PVDF膜に転写し、抗リン酸化ERK1/2抗体、抗ERK1/2抗体、抗切断カスパーゼ3抗体、抗チューブリン抗体を用いてリン酸化ERK、総ERK、切断カスパーゼ3および、チューブリンの量を検討した。結果はLAS4000miniを用いて撮影し、画像処理ソフトウェア(Multi Gauge Ver.3.2)によって陰影の濃さを数値化した。
なお、U0126は、ERKシグナル経路ではMAPKの上流側に位置するMAPKKの阻害剤である。MAPKK(MAPKキナーゼ)の活性化(リン酸化)がERKの活性化を誘導する。したがって、MAPKK阻害剤は、下流のERKの活性化を抑制する。
図8(a)は、NHEMとSK−MEL−28のイムノブロッティングの結果である。図8(b)は図8(a)のリン酸化ERKの程度を数値化したものである。なお、横軸はNHEM(正常細胞)のDMSO(コントロール)の濃さを100%として規格化されている。図9(a)は、NHEMとSK−MEL−28の細胞生存率(%)である。
また、図8(c)は、NIH/3T3とA4−15のイムノブロッティングの結果である。図8(d)は図8(c)のリン酸化ERKの程度を数値化したものである。なお、横軸はNIH/3T3(正常細胞)のDMSO(コントロール)の濃さを100%として規格化されている。図9(b)は、NIH/3T3とA4−15の細胞生存率(%)である。
図8(b)と図8(d)を参照する。横軸は細胞の種類を表し、縦軸は相対的なリン酸化ERK量(%)を表す。なお、各細胞毎に、(1)DMSO、(2)ACA−28、(3)ACA−28とU0126の混合剤の結果(各薬剤は、番号で示した。)を示している。
まず図8(b)のDMSO同士を比較すると、NHEMよりSK−MEL−28はリン酸化ERKの量が多い。そしてACA−28(アポトーシス誘導剤)を添加すると、リン酸化ERKの量は、NHEMに対してSK−MEL−28は2倍以上に増加している。そして、ACA−28とU0126の混合剤の場合で比較すると、リン酸化ERKは激減している。
図8(d)の場合でも、ACA−28を添加した場合は、リン酸化ERKの量は増加し、A4−15(癌細胞モデル)は、NIH/3T3(正常細胞)よりリン酸化ERKの量が2倍以上になっている。そして、ACA−28とU0126の混合剤の場合で比較すると、リン酸化ERKは激減している。
次に図9(a)と図9(b)を参照する。これらのグラフでは、横軸がACA−28の量(0か10μM)と、各細胞毎のU0126の量(0か10μM)を表し、縦軸は細胞生存率(%)である。有意水準については、非有意を「n.s.」で表し、「*」は有意水準0.05、「**」は有意水準0.01を表す。
図9(a)を見ると、NHEM(正常細胞)では、ACA−28を添加することで、細胞生存率は半分程度まで低下している。そして、ACA−28とU0126の混合剤を加えた場合は、同程度(非有意)に低下している。
SK−MEL−28の場合では、ACA−28を添加することで、細胞はおよそ60%にまで減少している。しかし、ACA−28とU0126の混合剤を加えた場合は、90%近く細胞生存率が上昇している(有意水準0.01)。これは、U0126がMAPKを阻害した結果、ERKの過活性が解消され、アポトーシスが誘導されなかったためと考えられる。
図9(b)を参照する。NIH/3T3とA4−15の場合は、より典型的な結果であった。ACA−28を添加すると、NIH/3T3(正常細胞)も、A4−15(癌細胞モデル)も、生存率が25%程度まで低下している。しかし、ACA−28とU0126の混合剤を加えると、NIH/3T3は変化がなく(非有意)、A4−15は40%程度まで細胞生存率が回復している(有意水準0.05)。
以上のことより、本発明に係るアポトーシス誘導剤は、まずERKの過活性を発生させ、その結果カスパーゼ3の活性化が生じ、アポトーシスを誘導すると考えられる。
さて、癌種によってERKシグナル経路の特定の位置(分子)が変異しているのが報告されている。例えば、肺がんの約10%、乳癌の約30%の患者では、細胞表面の増殖因子受容体(EGFR)に変異があると言われている。また細胞内でのERKシグナル経路の上流に位置するRasの変異は、脾臓がんの患者の約90%、大腸がんの約50%で確認されている。また、Rasの下流に位置するRafの変異は、悪性黒色腫の患者の約66%で確認されている。したがって、癌細胞の発生は、ERKシグナル経路のさまざまなレベルで発生し得る。
しかし、ERKシグナル経路のどの位置で変異があっても、最終的にはERKが正常細胞より活性化され、細胞増殖が際限なく生じるのが癌細胞である。本発明のアポトーシス誘導剤は、上記の変異している部分を阻害するのではなく、その下流にあるERKをさらに活性化(過活性状態)にすることで、カスパーゼ3の活性化を促し、アポトーシスを誘導するものである。したがって、様々な癌細胞に対して癌細胞を抑制する効果があると言える。
<5.ACAGT−007aの効果の確認 図10>
本発明に係るアポトーシス誘導剤は、ERKが恒常的に活性化している細胞に対して、ERKを過活性化させ、カスパーゼ3を活性化させ、アポトーシスを誘導すれば、化合物として限定されるものではない。しかし、現在のところこのような化合物として確認されているのは、ACA−28およびACAGT−007aの2種の化合物である。ACAGT−007aもACA−28同様の特性を有することを示す。
以下実験方法について説明する。培地はSK−MEL−28−Lucに対してDMEM+10%FBSを用い、NHEMに対してDermaLife M Comp kitを用いた。SK−MEL−28とNHEMは、それぞれ6ウェルプレートに播種し、37℃、二酸化炭素5%の環境で24時間培養した。24時間培養後、DMSOあるいは終濃度が10μMになるようにACA−37あるいはACAGT−007aを、SK−MEL−28−LucとNHEMが培養されたウェルに入れた。計6種類の試料を作製した。
これらの試料は、37℃、二酸化炭素5%の環境で6時間培養した。6時間培養後、細胞溶解液で各試料からタンパク質を抽出し、サンプルとした。各サンプルをSDS−PAGE後、ニトロセルロース膜に転写し、抗リン酸化ERK1/2抗体、抗ERK1/2抗体、抗切断カスパーゼ3抗体、抗チューブリン抗体を用いてリン酸化ERK、総ERK、切断カスパーゼ3および、チューブリンの量を検討した。結果はLAS4000miniを用いて撮影し、画像処理ソフトウェア(Multi Gauge Ver.3.2)によって陰影の濃さを数値化した。なお、ACA−37は、以下の構造の酢酸1−(4−アセトキシフェニル)−2−フェニルエチルである。CAS番号は948044−27−7である。
図10(a)にイムノブロッティングの結果を示す。リン酸化ERK、総ERK、切断カスパーゼ3、チューブリンの結果が示されている。図10(b)はこれを数値化したものである。横軸は、細胞毎にアポトーシス誘導剤の種類であり、縦軸は、総ERK量でリン酸化ERK量を割った値であり、さらに、NHEM(正常細胞)のDMSO(コントロール)の時の値を100%として規格化したグラフである。
NHEMのDMSOに対してSK−MEL−28のDMSOの値は2倍ほど高い。これはすでに示したようにSK−MEL−28のERKが恒常的に活性化していることを表している。ACAGT−007aは、正常細胞であるNHEMのERKを増やしているが、癌細胞であるSK−MEL−28のERKはより増大させている。
そして、図10(a)を参照すると、ACAGT−007aは、SK−MEL−28の切断カスパーゼ3の量を増大させている。以上のようにACAGT−007aはACA−28同様にERKが恒常的に活性化している細胞に対して、ERKを過活性化させ、カスパーゼ3を活性化させ、アポトーシスを誘導する。
図11は、正常細胞NHEMと癌細胞SK−MEL−28に対してACAGT−007aとACA−37を作用させた場合の細胞生存率(%)を表すグラフである。図11(a)はACAGT−007aの場合であり、図11(b)は、ACA−37の場合である。両グラフとも、横軸はそれぞれの濃度(μM)であり、縦軸は濃度0μM時の生存率で規格化した細胞生存率(%)である。
ACAGT−007aは、濃度が高くなるにつれ、正常細胞(NHEMよりも癌細胞であるSK−MEL−28を選択的に死亡させている。一方、ACA−37は、ERKの過活性やカスパーゼ3の活性化も誘導しないので、正常細胞NHEMにも、癌細胞SK−MEL−28に対しても、増殖を抑制しない。
<6.他種の細胞に対する効果の確認 図12>
図12には、細胞を正常細胞としてHEK293F(胎児腎由来細胞:ECACC株番号85120602)と、癌細胞としてACHN(ヒト腎腺癌細胞:ECACC株番号88100508)にACA−28を作用させた場合の結果を示す。培地はDMEM+7%FBSを用いた。
図12(a)および図12(b)は、HEK293Fのイムノブロッティングの結果と、細胞生存率(%)のグラフである。また、図12(c)および図12(d)は、ACHNのイムノブロッティングの結果と、細胞生存率(%)のグラフである。イムノブロッティングの結果は、横軸方向が培養時間(hr)であり、縦方向に切断カスパーゼ3とα−チューブリンの結果である。また、細胞生存率のグラフでは横軸がACA−28の濃度(μM)であり、縦軸は細胞生存率(%)を示す。
ACA−28は、正常細胞であるHEK293Fに対しては、切断カスパーゼ3を増大させず、細胞生存率も80%程度に維持されている。一方ACHNに対しては、濃度依存的に細胞生存率が低下している。したがって、癌細胞を選択的に死滅させているのが分かる。
イムノブロッティングの結果を示す。また図12(b)は、細胞生存率を示すグラフである。横軸はACA−28の濃度であり、縦軸は細胞生存率(%)である。図12(c)を参照して、横軸は培養時間(hr)である。10時間経過後から切断カスパーゼ3の量が増大している。図12(d)を参照すると、ACA−28の濃度が増えることで、細胞生存率が低下している。
以上のように本発明に係るアポトーシス誘導剤は、ERKが恒常的に活性化している細胞に対して、ERKを過活性にし(リン酸化ERK量の増大)、カスパーゼ3を活性化させ(切断カスパーゼ3量の増大)、アポトーシスを誘導することができる。また、このアポトーシスの誘導は正常細胞に対しては効果が少ない。したがって、本発明に係るアポトーシス誘導剤は、恒常的ERK活性化細胞に対して選択的にアポトーシスを誘導する。