[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る可変磁力モータ6の制御装置100の構成例を示す制御ブロック図である。
可変磁力モータ6の制御装置100(以下「モータ制御装置100」と称する)は、可変磁力モータ6を駆動するとともに、可変磁力モータ6が備える永久磁石の着減磁を制御する。モータ制御装置100は、例えば、可変磁力モータ6を備えるハイブリッド車両や電気自動車などに搭載される。
本実施形態のモータ制御装置100は、ベクトル制御器1と、電流制御器2と、dq軸/UVW相変換器3と、切替器4と、PWM電圧インバータ5と、UVW相/dq軸変換器7と、磁束オブザーバ80と、鎖交磁束制御器90とを含んで構成される。これら構成のうち、磁束オブザーバ80および鎖交磁束制御器90は、可変磁力モータ6が備える永久磁石の着減磁を制御する着減磁制御部10を構成する。着減磁制御部10を含むモータ制御装置100の制御対象は、可変磁力モータ6である。
モータ制御装置100は、1個、又は複数のコントローラにより構成される。コントローラは、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、および、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)から構成される。モータ制御装置100を構成するコントローラは、以下に説明する各機能を実現するようにプログラムされている。
可変磁力モータ6(以下単に「モータ6」と呼ぶ)は、固定子巻線を有する固定子と、永久磁石を埋め込んだ回転子とにより構成される可変磁力モータである。回転子に埋め込まれた永久磁石は、モータ6が回転動作(駆動)しているときに固定子巻線を流れる電流により形成される磁界によってその磁力を変化させることができる特性を有している。すなわち、可変磁力モータ6が備える永久磁石は、モータ6の巻線に流れる電流によって着磁或いは減磁がなされ、その残留磁束密度が変化するものである。なお、このような特性を持つ永久磁石は低保磁力磁石とも呼ばれ、その保磁力は、一般的なIPM(Interior Permanent Magnet)モータで用いられる永久磁石(高保磁力磁石)の保持力の1/5程度である。
本実施形態のモータ6は、U相、V相及びW相の各相の固定子巻線に交流電流iu、iv、iwが供給されることによって駆動する。モータ6には、不図示の回転子位置検出器が備えられている。この回転子位置検出器がモータ6の回転子の位置を所定の周期で検出することにより、回転子の電気角(ロータ位相)θが算出される。算出されたロータ位相θは、UVW相/dq軸変換器7と、鎖交磁束制御器90とに出力される。なお、回転子位置検出器は、例えばレゾルバやエンコーダである。
また、モータ制御装置100は、不図示の回転速度演算器を備え、所定の周期で取得されるロータ位相θの単位時間当たりの変化量からモータ6のロータ回転速度ωを算出する。算出されたロータ回転速度ωは、ベクトル制御器1、磁束オブザーバ80、及び鎖交磁束制御器90に出力される。
ベクトル制御器1は、不図示のコントローラ、あるいはモータ制御装置100が有する不図示の機能部から、モータ6の駆動力を決定するトルク指令値T*を取得する。不図示のコントローラにおいては、車両の運転状態に応じてトルク指令値T*が算出される。例えば、車両に設けられたアクセルペダルの踏み込み量が大きくなるほど、ベクトル制御器1に出力されるトルク指令値T*は大きくなる。すなわち、トルク指令値T*は、ドライバの走行要求に基づき決定される目標トルクである。なお、以下では、可変磁力モータ6に当該目標トルクを達成させるための制御を「負荷動作制御」と称する。
ベクトル制御器1は、トルク指令値T*と、ロータ回転速度ωとに基づいて、モータ6に供給される電流の電流ベクトルを表すd軸電流指令値id*およびq軸電流指令値iq*を演算する。本実施形態では、ベクトル制御器1は、モータ6のトルク指令値T*及びロータ回転速度ωで特定される運転点ごとに、d軸電流指令値及びq軸電流指令値を互いに対応付けたベクトル制御マップを予め記憶している。このベクトル制御マップは、実験データ等により適宜設定される。
そして、ベクトル制御器1は、モータ6に対するトルク指令値T*と、ロータ回転速度ωとを取得すると、ベクトル制御マップを参照し、トルク指令値T*及びロータ回転速度ωで特定された運転点に対応付けられたd軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*を算出して、電流制御器2に出力する。なお、本明細書では、モータ6に供給される電流のd軸成分及びq軸成分を、それぞれd軸電流及びq軸電流と称している。なお、ベクトル制御器1は、ベクトル制御マップを予め記憶しておく必要は必ずしもなく、演算によりd軸電流指令値id*及びq軸電流指令値iq*を求めてもよい。
また、ベクトル制御器1は、モータ6が備える永久磁石を所望の車速およびトルクを実現するのに適した磁化状態に制御するために、永久磁石への着減磁量を指令する着磁量指令値MS*を算出して、後述する鎖交磁束制御器90に出力する。
ベクトル制御器1は、例えば、予め記憶された複数の損失マップの中から、所望の車速およびトルクを実現するのに適した損失マップを選択することにより着磁量指令値MS*を算出することができる。各損失マップは、ロータが備える永久磁石の磁化状態(magnetized state)に対応する損失特性が車速とトルクとに関連付けて示されている。したがって、磁化状態毎に記憶された複数の損失マップから、トルク指令値T*を実現するのに損失の最も少ない磁化状態を選択して、当該磁化状態にするのに必要な着減磁量を算出することができる。本実施形態のベクトル制御器1は、モータ6が備える永久磁石を所望の車速およびトルクを実現するのに理想的な磁化状態に制御するための着磁量指令値MS*を損失マップから算出し、鎖交磁束制御器90に出力する。この着磁量指令値MS*に応じて実行される、着減磁制御部10によるモータ6に対する着減磁制御については、後述する。なお、ベクトル制御器1は、ベクトル制御マップを予め記憶しておく必要は必ずしもなく、演算により着磁量指令値MS*を求めてもよい。
電流制御器2は、永久磁石のS極からN極へ向かう方向を正とするd軸と、d軸と直交し、回転子の回転方向を正とするq軸とを有する回転子同期座標系であるdq軸座標系において、電流ベクトルを目標値に収束させる電流ベクトル制御を実行する。すなわち、本実施形態の電流制御器2は、モータ6に供給される三相の交流電流iu、iv、iwをdq軸座標へ変換したd軸電流検出値id及びq軸電流検出値iqがそれぞれd軸電流指令値id *及びq軸電流指令値iq *に収束するように、d軸電圧指令値Vd *及びq軸電圧指令値Vq *を算出する。算出されたd軸電圧指令値Vd *及びq軸電圧指令値Vq *は、dq軸/UVW相変換器3と、磁束オブザーバ80とに出力される。
dq軸/UVW相変換器3は、電流制御器2が算出したd軸電圧指令値Vd *及びq軸電圧指令値Vq *を、三相の電圧指令値であるU相電圧指令値Vu *、V相電圧指令値Vv *及びW相電圧指令値Vw *に変換する。
切替器4は、dq軸/UVW相変換器3から出力される三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*(以下、「第1三相電圧指令値」と呼ぶ)と、後述する鎖交磁束制御器90から出力される着減磁制御時における三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*(以下、「第2三相電圧指令値」と呼ぶ)とを、モータ6の運転状態に応じて切替える。
より具体的には、切替器4は、走行要求に基づく負荷動作を行う負荷動作制御区間では、入力される第1三相電圧指令値をPWM電圧インバータ5に出力する。一方で、モータ6の永久磁石を着減磁する着減磁制御区間では、鎖交磁束制御器90から出力される切替え指令Sswに応じて、PWM電圧インバータ5に出力する出力値を第1三相電圧指令値から第2三相電圧指令値に切り替える。
PWM電圧インバータ5は、入力される第1又は第2三相電圧指令値に基づいて、不図示の電源から出力される直流電圧を各相のPWM電圧Vu、Vv、及びVwに変換し、変換された各相のPWM電圧Vu、Vv、及びVwをモータ6の各相に出力する。これにより、モータ6の各相の固定子巻線にそれぞれ三相の交流電流iu、iv、及びiwが供給される。なお、本実施形態のPWM電圧インバータ5は、従来公知の一般的な電圧型インバータを用いるものとする。したがって、本実施形態におけるPWM電圧インバータ5のスイッチング周期は原則として一定である。
UVW相/dq軸変換器7は、ロータ位相θに基づいて、三相の交流電流iu、iv、iwをd軸実電流id及びq軸実電流iqに変換して、電流制御器2にフィードバックするとともに、磁束オブザーバ80に出力する。
磁束オブザーバ80は、着減磁制御部10を構成し、現在の鎖交磁束ベクトルλsを算出する。具体的には、磁束オブザーバ80は、現在のモータ電流であるd軸実電流id及びq軸実電流iqと、ロータ回転速度ωと、電流制御器20から出力されるd軸電圧指令値Vd *及びq軸電圧指令値Vq *と、PWM電圧インバータ5が備えるスイッチング素子のスイッチング時間Tsとを入力として、現在の鎖交磁束ベクトルλsを算出する。スイッチング時間Tsは、設定値から取得されてもよいし、例えばPWM電圧インバータ5が備えるスイッチング素子の制御端子等の実際値から取得されてもよい。磁束オブザーバ80が実行する鎖交磁束ベクトルλsの算出方法は、従来公知の方法を用いてよい。
より具体的には、例えば、本実施形態の磁束オブザーバ80は、モータ6の回転速度が低速域にある場合は、上記の入力値に加えて、モータインダクタンス(Lq、Ld)とモータ6が備える永久磁石の磁石鎖交磁束とから現在の鎖交磁束ベクトルλsを算出する。なお、可変磁力モータでは、モータインダクタンス、および、磁石鎖交磁束は永久磁石の磁化状態(着磁量)によって変化するため、算出した値の精度を担保する必要がある。本実施形態では、例えばモータ電流に対する鎖交磁束応答マップを予め記憶しておくことにより、算出した鎖交磁束ベクトルλsと鎖交磁束応答マップとを比較して、その誤差を把握することができるので、当該誤差を小さくする値として、現在のモータインダクタンス、および、磁石鎖交磁束を推定することにより、現在の鎖交磁束ベクトルλsの算出精度を担保することができる。
また、例えば、磁束オブザーバ80は、モータ6の回転速度が中速から高速域にある場合は、d軸電圧指令値vd *及びq軸電圧指令値vq *を積分することにより現在の鎖交磁束ベクトルλsを算出することができる。例えば上記のように算出された現在の鎖交磁束ベクトルλsは、鎖交磁束制御器90に出力される。
鎖交磁束制御器90は、着減磁制御部10を構成し、モータ6の磁化状態(着減磁量)を制御する際に用いられるフィードフォワード制御器である。鎖交磁束制御器90は、着磁量指令MS*と、ロータ位相θと、ロータ回転速度ωと、現在の鎖交磁束ベクトルλsと、トルク指令値T*(目標トルク)とを入力とし、以下の鎖交磁束ベクトルを算出する。すなわち、鎖交磁束制御器90は、所望の着減磁量を達成するための目標鎖交磁束ベクトルλe1を算出し、モータ6が当該着減磁量を達成した状態で目標トルクを出力する目標鎖交磁束ベクトルλe2を算出し、さらに、着減磁制御開始時から目標鎖交磁束ベクトルλe1に至る第1行程(着磁前行程)、及び、所望の着減磁量を達成してから目標鎖交磁束ベクトルλe2に至る第2行程(着磁後行程)をそれぞれ構成する複数の指令鎖交磁束ベクトルを算出する。本実施形態では、2種類の指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2を算出する。以下、これら鎖交磁束ベクトルの詳細について説明する。
なお、指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2の算出方法を以下に示すが、制御開始から着減磁するまでの行程(着磁前行程)と、着減磁後から目標トルクを出力するまでの行程(着磁後行程)とにおける指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2は同様の方法により算出可能であるため、代表例として「着磁前行程」における算出方法について説明する。また、着磁及び減磁も同様の制御でその目的を達成できるため、以下では代表例として「着磁制御」について説明する。
図2は、本実施形態のモータ制御装置100が着減磁制御においてモータ6を制御する際のαβ座標上の鎖交磁束ベクトルを模式的に表した図である。図2で示すαβ座標は、モータ6のU相コイルの中心(U軸)と一致し、且つ、ロータのd軸と一致した際に磁石磁束を強める方向を正とするα軸と、α軸に対してロータ回転方向に電気角で90°回転したβ軸とで構成される直交座標系である。図中の一点鎖線は、ロータのd軸の位置を示している。ロータのd軸は、制御開始時点ではβ軸に近い位置にいるが、図示するとおり着磁制御中も回転しているので、着磁動作完了時点ではα軸と略一致する位置まで移動する。
鎖交磁束ベクトル101は、着磁制御開始時点における現在の鎖交磁束ベクトルλsを示している。現在の鎖交磁束ベクトルλsは、上述のとおり磁束オブザーバ80で算出されたものである。
図示するMG点は、着磁量指令値MS*により指令された目標となる着磁量を表している。すなわち、MG点まで引かれた鎖交磁束ベクトル102は、着磁時の鎖交磁束ベクトルであって、所望の着磁量を達成するための目標鎖交磁束ベクトルλe1である。着磁量指令値MS*に応じた目標鎖交磁束ベクトルλe1は、例えば、目標着磁量と当該着磁量を達成する鎖交磁束ベクトルとを対応づけたマップを予め記憶しておき、当該マップを参照することにより算出される。
そして、着磁前行程において出力すべき指令鎖交磁束ベクトルの総和(λc1+λc2)は、着減磁制御開始時の現在の鎖交磁束ベクトルλsから、目標鎖交磁束ベクトルλe1に至る鎖交磁束ベクトルの軌跡で示される。この鎖交磁束ベクトルを実現する電圧時間積をPWM電圧インバータ5が出力することで、鎖交磁束ベクトルλsを目標鎖交磁束ベクトルλe1に移動させて、着磁を完了させることができる。
ここで、モータ6が高速駆動中であっても確実に着磁するためには、着磁制御を可能な限り短時間で完了させることが好ましい。このためには、PWM電圧インバータ5の出力電圧を着磁制御期間中最大に維持することが望ましい。
一方で、従来の一般的なPWM電圧インバータ5は、一定のスイッチング周期で動作するので、出力電圧を例えば最大出力電圧などの一定値に固定した場合には、出力可能な電圧時間積が離散的な値となる。このため、従来の着減磁制御では、目標となる着減磁時の鎖交磁束ベクトルと制御完了時点での鎖交磁束ベクトルとを一致させるのが難しく、双方の間に誤差が生じ、着磁量制御精度が低下してしまうという問題があった。
そこで、本実施形態では、着磁制御開始時点の鎖交磁束ベクトルλsから目標鎖交磁束ベクトルλe1に至る指令鎖交磁束ベクトルを、指令鎖交磁束ベクトルλc1(103)と、指令鎖交磁束ベクトルλc2(104)の2種類の鎖交磁束ベクトルにより構成することで、上記問題を解決する。指令鎖交磁束ベクトルλc1、及び、指令鎖交磁束ベクトルλc2は、以下式(1)に基づいて決定される。
ただし、上記式(1)において、λcommand1は指令鎖交磁束ベクトルλc1、λcomand2は指令鎖交磁束ベクトルλc2、λendは目標鎖交磁束ベクトルλe1、λstartは現在の鎖交磁束ベクトルλs、Vmaxはモータ6を駆動するPWM電圧インバータ5の最大出力電圧、TはPWM電圧インバータのスイッチング周期、ωはモータ6のロータ回転速度ωを示す。
上記(1)式で算出された指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2は図2に示すとおりである。図で示す鎖交磁束ベクトル103は、指令鎖交磁束ベクトルλc1である。本実施形態の指令鎖交磁束ベクトルλc1は、PWM電圧インバータ5の最大出力電圧Vmaxにより実現される。そして、指令鎖交磁束ベクトルλc2を実現する出力電圧値は、以下(2)式を用いて決定される。
ただし、上記(2)式中のVcommandは、PWM電圧インバータ5の出力電圧値、TはPWM電圧インバータ5のスイッチング周期、λcommand2は指令鎖交磁束ベクトルλc2を示す。
上記式(1)および(2)により指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2が算出されると、鎖交磁束制御器90は、指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2を実現する第2三相電圧指令値Vu*、Vv*、及びVw*を算出して、切替器4に出力するとともに、第2三相電圧指令値の印加時間(スイッチングONの回数に関連するスイッチング期間)を指令するためのスイッチング期間指令値TswをPWM電圧インバータ5に出力する。すなわち、鎖交磁束制御器90は、モータ6への印加電圧の振幅と位相成分(スイッチング期間)とを制御することにより、指令鎖交磁束ベクトルλcを実現する。
以上のように実現される指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2によって構成される指令鎖交磁束ベクトルの軌跡は、図2で示すように、指令鎖交磁束ベクトルλc1を4回、指令鎖交磁束ベクトルλc2を1回出力することにより実現される。このように、着磁制御開始から目標鎖交磁束ベクトルλe1までの着磁前行程を種類の異なる二つの鎖交磁束ベクトルを組み合わせて構成することにより、着磁制御の終了時点において目標鎖交磁束ベクトルλe1に一致する指令鎖交磁束ベクトルを実現することができる。この結果、着磁制御において、永久磁石を目標とする着磁量に精度よく着磁することができる。
また、指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2は、スイッチング周期は一定のまま、電圧値の大きさ(第2三相電圧指令値)と、出力する回数(スイッチング期間Tsw)を可変にするだけで実現することができる。したがって、上記の指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2をスイッチング周期が一定な従来の電圧型インバータを用いて実現することができるので、従来の電圧型インバータの制御プログラムを変更するだけで、コストを増加させずに着減磁量制御精度を改善し、モータ効率を向上させることができる。
次に、指令鎖交磁束ベクトルλc1と、指令鎖交磁束ベクトルλc2を出力する順序について、図3を用いて説明する。
図3は、図2と同様のαβ座標上の鎖交磁束ベクトルを模式的に表した図であって、指令鎖交磁束ベクトルλc1とλc2の出力順序を説明する図である。
本実施形態では、指令鎖交磁束ベクトルλc1を着磁制御開始直後の制御周期から適用する。そして、指令鎖交磁束ベクトルλc2を目標鎖交磁束ベクトルλe1に至る直前の制御周期に適用する。すなわち、本実施形態の指令鎖交磁束ベクトルλc2は、着磁前行程における最後の制御周期に適用される。
また、このようなタイミングで出力される指令鎖交磁束ベクトルλc2は、以下(3)式に基づき決定されてもよい。
ただし、上記式(3)中のλcommand2は指令鎖交磁束ベクトルλc2、λcommnd1は指令鎖交磁束ベクトルλc1、λendは目標鎖交磁束ベクトルλe1、Vmaxはモータ6を駆動するPWM電圧インバータ5の最大出力電圧、TはPWM電圧インバータのスイッチング周期、ωはモータ6のロータ回転速度ωを示す。
そして、上記式(3)中のλstart1は、着磁制御開始後、指令鎖交磁束ベクトルλc1をN回(本実施形態では4回(図3参照))出力した後のタイミングにおける現在の鎖交磁束ベクトルλsを推定した鎖交磁束ベクトルとする。すなわち、本実施形態において上記式(3)を用いて算出される指令鎖交磁束ベクトルλc2は、目標鎖交磁束ベクトルλe1に至る一つ前の制御周期において推定された現在の鎖交磁束ベクトルλstart1に基づいて算出される。これにより、着磁制御開始後、指令鎖交磁束ベクトルλc1がN回出力される間に発生し得る誤差が補償できるので、着磁量制御精度をさらに向上させることができる。
なお、λstart1で表される現在の鎖交磁束ベクトルλsが磁束オブザーバ80で算出される際、すなわち、着磁制御期間中において現在の鎖交磁束ベクトルλsが算出される際は、磁束オブザーバ80に入力される電圧指令値を、電流制御器2から出力されるd軸電圧指令値Vd *及びq軸電圧指令値Vq *に代えて、鎖交磁束制御器90が出力する第2三相電圧指令値Vu*,Vu*,Vw*をロータ位相θに基づいてdq軸電圧指令値に変換したd軸電圧指令値Vd *及びq軸電圧指令値Vq *とする。
以上が着磁前行程における着減磁制御の詳細である。上述したとおり、本実施形態に係る可変磁力モータの制御装置100が行う着減磁制御は、着磁前行程と着磁後行程とから構成される。そして、着磁後行程の制御は着磁前行程と同様である。ここで、着磁前行程と着磁後行程とから構成される着減磁制御全体の態様を図4に示す。
図4は、着磁前行程と着磁後行程とから構成された着減磁制御全体におけるαβ座標上の鎖交磁束ベクトルを模式的に表した図である。α軸を基準に、α軸の下方が着磁前行程、α軸の上方が着磁後行程を表している。そして、鎖交磁束ベクトル106は、所望の着減磁を達成した状態で、負荷動作制御時の目標トルクを出力する目標鎖交磁束ベクトルλt2である。また、図1、図2と同様に、鎖交磁束ベクトル101は、着減磁制御開始時点における現在の鎖交磁束ベクトルλs、鎖交磁束ベクトル102は、着減磁時の鎖交磁束ベクトルである目標鎖交磁束ベクトルλt1、1点鎖線は、モータ6のd軸を表している。
図示するように、着磁前行程における指令鎖交磁束ベクトルの総和(λc1、λc2)と、着磁後行程における指令鎖交磁束ベクトルの総和(λc1、λc2)は同様の組み合わせで構成されている。
ただし、着磁後行程における制御開始時点は、着減磁時の鎖交磁束ベクトルである目標鎖交磁束ベクトルλt2であり、これは、着磁前行程における制御開始時の現在の鎖交磁束ベクトルλsに相当する。また、着磁後行程における制御完了点は、目標トルクを出力する目標鎖交磁束ベクトルλt2であり、これは、着磁前行程における目標鎖交磁束ベクトルλt1に相当する。したがって、着磁後行程における指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2が算出される際は、上記式(1)〜(3)において現在の鎖交磁束ベクトルλsを表すλstartは、着減磁時の鎖交磁束ベクトルである目標鎖交磁束ベクトルλt1と一致する値となる。また、λendは、目標トルクを出力可能な目標鎖交磁束ベクトルλt2が設定される。これにより、着減磁前行程と同様の制御により、着磁後行程においても着磁前行程と同様の指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2の軌跡を実現することができる。なお、着磁制御中における現在の鎖交磁束ベクトルλsは、上述のとおり、鎖交磁束制御器90が出力する第2三相電圧指令値Vu*,Vu*,Vw*をロータ位相θに基づいてdq軸電圧指令値に変換したd軸電圧指令値Vd *及びq軸電圧指令値Vq *とに基づいて算出される。
以上の構成により、少なくとも2種類の指令鎖交磁束ベクトルの組み合わせにより着減磁制御を完了させることができるので、一般的に用いられるFB制御を用いた着減磁制御よりも大幅に少ない指令鎖交磁束ベクトルの組み合わせにより着減磁制御を完了させることができる。また、上述のとおり、本実施形態の着減磁制御は、従来のPWM制御を用いた電圧型のインバータを用いて行うことができる。このため、コストの増加を生じさせることなく、高い電圧利用率により着減磁制御を実行することができるので、着磁可能なモータ回転数を低下させることなく着減磁量制御精度の向上を図り、モータ効率を向上させることができる。
なお、本実施形態のモータ制御装置100は、上述のとおり、着磁制御時には、鎖交磁束制御器90によって負荷動作時とは別個に着磁制御を実行する。したがって、本実施形態のモータ制御装置100は、鎖交磁束制御器90による着磁制御をロータの回転(位相)に同期して行う必要がない。このため、例えば高速回転時においてトルクを弱める際に、弱め界磁制御をしながら同時に着磁制御を実行するような場面を回避することができ、着磁制御に要する電圧を抑制することができるので、従来のように着磁制御時の電圧不足分を補償するための追加の昇圧回路を不要とすることができる。その結果、モータ制御装置100によってモータ6を制御する際の全体的な損失を抑え、全体効率の改善を図ることができる。
以上、第1実施形態の可変磁力モータの制御装置100は、駆動中に永久磁石の磁力を変化させる可変磁力モータ6の制御方法を実現するモータ制御装置である。モータ制御装置100は、現在の鎖交磁束ベクトルλsを推定し、目標着減磁量に着減磁する時の着減磁鎖交磁束ベクトル(目標鎖交磁束ベクトルλe1)、又は、走行要求に基づいて設定される目標トルクを着減磁がされた状態で出力する制御完了時の鎖交磁束ベクトル(目標鎖交磁束ベクトルλe2)を目標鎖交磁束ベクトルとして算出し、現在の鎖交磁束ベクトルλsと目標鎖交磁束ベクトルとから複数の指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2を算出する。そして、着減磁制御開始から着減磁鎖交磁束ベクトルまでの第1行程(着磁前行程)、及び、着減磁鎖交磁束ベクトルから制御完了時の鎖交磁束ベクトルまでの第2行程(着後行程)は、それぞれ2以上の指令鎖交磁束ベクトルを組み合わせて構成される。これにより、着磁制御の終了時点において目標鎖交磁束ベクトルλe1に一致する指令鎖交磁束ベクトルを実現することができるので、着減磁量制御精度を改善することができる。
また、第1実施形態の可変磁力モータの制御装置100によれば、着磁前行程および着後行程は、それぞれ、第1指令鎖交磁束ベクトル(λc1)と第2指令鎖交磁束ベクトル(λc2)とから構成される。これにより、少なくとも2種類の指令鎖交磁束ベクトルの組み合わせで着減磁制御時の鎖交磁束ベクトルの軌跡を構成することができるので、電圧利用率が向上し、着減磁制御時に要する電圧を抑制することができる。
また、第1実施形態の可変磁力モータの制御装置100によれば、指令鎖交磁束ベクトルλc1および指令鎖交磁束ベクトルλc2は、上記式(1)により決定される。これにより、算出式をコントローラプログラムすることによる寛敏な構成によって、現在の鎖交磁束ベクトルと目標鎖交磁束ベクトルとから指令鎖交磁束ベクトルを算出することができるので、低コストで必要な着減磁量制御精度を改善し、モータ効率を向上させることができる。
また、第1実施形態の可変磁力モータの制御装置100によれば、指令鎖交磁束ベクトルλc2は、目標鎖交磁束ベクトルに至る少なくとも一つ前の制御周期において推定された現在の鎖交磁束ベクトルλc1から算出され、目標鎖交磁束ベクトルに至る直前の制御周期に適用される。これにより、着磁制御時間を延ばすことなく、着磁可能回転数を低下させずに指令鎖交磁束ベクトルを目標鎖交磁束ベクトルに至らせることができるので、着磁量制御精度を改善し、モータ効率をさらに向上させることができる。
また、第1実施形態の可変磁力モータの制御装置100によれば、指令鎖交磁束ベクトルλc2は、可変磁力モータへ印加する電圧の大きさ(第2三相電圧指令値)、または当該電圧の印加時間(スイッチング期間)を変化させることで実現される。また、指令鎖交磁束ベクトルλc2は、可変磁力モータを駆動するインバータが、上記式(2)で算出される電圧をスイッチング周期の間出力することで実現される。これにより、スイッチング周期を固定したまま、電圧指令値の変更のみで上記の着減磁制御を実現できるので、コストを増加させずに着減磁量制御精度を改善し、モータ効率を向上させることができる。
また、第1実施形態の可変磁力モータの制御装置100によれば、現在の鎖交磁束ベクトルλsは、可変磁力モータに供給される現在のモータ電流(d軸実電流id及びq軸実電流iq)と、可変磁力モータへの電圧指令値(d軸電圧指令値Vd *及びq軸電圧指令値Vq *)と、モータ回転数(ロータ回転速度ω)とから算出され、着減磁鎖交磁束ベクトル(λe1)は、ロータ回転速度ωと、着減磁量指令MS*とから算出され、制御完了時の鎖交磁束ベクトル(λe2)は、目標トルク(トルク指令値T*)から算出され、指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2は、着減磁鎖交磁束ベクトル(λe1)又は制御完了時の鎖交磁束ベクトル(λe2)と、現在の鎖交磁束ベクトルλsと、可変磁力モータのロータ位相θと、ロータ回転速度ωとから算出される。算出された指令鎖交磁束ベクトルλc1、λc2は、可変磁力モータを駆動するインバータが出力する出力電圧と、当該出力電圧の出力時間(スイッチング期間)とを制御することにより実現される。これにより、上述の着減磁制御を従来の一般的な電圧型インバータを用いて実現することができるので、従来の電圧型インバータの制御プログラムを変更するだけで、コストを増加させずに着減磁量制御精度を改善し、モータ効率を向上させることができる。
[第2実施形態]
以下、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、その説明を省略する。
本実施形態が第1実施形態と異なる点は、指令鎖交磁束ベクトルλc1とλc2の出力順序である。
本実施形態では、指令鎖交磁束ベクトルλc2を着減磁制御開始直後の制御周期、または、着減磁制御開始直後の制御周期の次の制御周期に適用する。すなわち、本実施形態の指令鎖交磁束ベクトルλc2は、着磁前行程における最初(1回目)、または、2回目の制御周期に適用される。そして、指令鎖交磁束ベクトルλc1は、指令鎖交磁束ベクトルλc2が1回目の制御周期に適用された場合は2回目以降に適用され、指令鎖交磁束ベクトルλc2が2回目の制御周期に適用された場合は、1回目、および、3回目以降の制御周期に適用される。
図5は、第2実施形態のモータ制御装置200がモータ6を着減磁制御する際のαβ座標上の鎖交磁束ベクトルを模式的に表した図であって、指令鎖交磁束ベクトルλc2が、着磁制御開始直後の制御周期に適用された場合を示す図である。
図示する指令鎖交磁束ベクトルλc1(201)、λc2(202)は、第1実施形態にて用いた式(1)の、λcommand1、λcommand2である。図示するとおり、本実施形態の指令鎖交磁束ベクトルλc2は、着磁制御開始直後において、現在の鎖交磁束ベクトルλsを起点として出力される。
ここで、着減磁をより速く行うために、指令鎖交磁束ベクトルλc1は最大出力電圧で実現されるのが好ましい。このため、モータ電流は、着磁制御開始以降から大きくなり、指令鎖交磁束ベクトルλc1の出力期間は最大になる。したがって、指令鎖交磁束ベクトルλc1よりも小さい出力電圧で実現できる指令鎖交磁束ベクトルλc2を、着磁制御開始直後、あるいは2回目の制御周期においてモータ電流がまだ低い期間(最大値に達する前)に適用する。これにより、モータ電流が最大値に達した後に、指令鎖交磁束ベクトルλc2を実現するためにモータ電流を小さくする場面を回避できるので、着減磁制御期間全体における効率を向上させることができる。
以上、第2実施形態の可変磁力モータの制御装置200によれば、指令鎖交磁束ベクトルλc2は、着磁前行程開始直後の制御周期または当該制御周期の次の制御周期、及び、着磁後制御開始直後の制御周期または当該制御周期の次の制御周期に適用される。これにより、モータ電流がまだ低い期間に指令鎖交磁束ベクトルλc2を算出することができるので、着減磁制御期間全体における効率を向上させることができる。
[第3実施形態]
以下、第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、その説明を省略する。
本実施形態のモータ制御装置300は、指令鎖交磁束ベクトルλc2の実現方法が第1実施形態と相違している。以下に説明する指令鎖交磁束ベクトルλc2を実現するため、本実施形態のモータ制御装置300が備えるPWM電圧インバータ5は、そのスイッチング周期(スイッチングON時間)を制御可能なスイッチング周期可変型のインバータであることを前提とする。
本実施形態の指令鎖交磁束ベクトルλc2は、PWM電圧インバータ5の最大出力電圧を下記式(4)で決定される時間Tcommandの間、モータ6に出力することにより実現される。
ただし、上記(4)式中のTcommandは電力出力時間、λcommand2は指令鎖交磁束ベクトルλc2、VmaxはPWM電圧インバータ5の最大出力電圧を示す。
鎖交磁束ベクトルは、モータ6への印加電圧と位相成分(スイッチング周期)とからなる電圧時間積により実現できる。したがって、本実施形態の指令鎖交磁束ベクトルλc2は、印加電圧を最大とし、その分スイッチング周期を短く調整することで、例えば、第1実施形態と略同一の電圧時間積をより短い時間で達成することができる。このため、着磁制御に要する時間を短縮することができるので、着減磁制御が可能なロータ回転数を拡大しつつ、着減磁量制御精度を改善して、モータ効率を向上させることができる。
以上、第3実施形態の可変磁力モータの制御装置300によれば、指令鎖交磁束ベクトルは、前記インバータの最大出力電圧を上記式(4)で算出される電圧出力時間の間出力することで実現される。これにより、着制制御期間中、最大電圧出力を維持することができるので、着減磁制御に要する時間を短縮することができる。この結果、着減磁制御可能な回転数を向上させつつ、着減磁量制御精度を改善し、モータ効率を向上させることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
例えば、可変磁力モータ6が備える永久磁石は、その全てが低保磁力磁石である必要は必ずしもなく、高保磁力磁石と組み合わせて用いられてもよい。
また、着減磁制御部10は、図1で示すモータ制御装置100や、スイッチング周期可変型のPWM電圧インバータ5を備えるモータ制御装置300に適用される必要は必ずしもない。着減磁制御部10は、可変磁力モータを制御対象とするシステムであれば、当該可変磁力モータに対する着減磁制御を担う機能部として適用することができる。