以下、図面を参照して実施形態を説明する。
図1は、本実施形態に係わる直交変調器を含む、無線通信器の構成の一例を示す概略ブロック図である。直交変調器は、例えば、無線送信器であり無線受信器でもある無線通信器内に設けられる。無線通信器は、テスト信号生成回路1と、送信部100と、電力増幅器12と、アンテナ13と、低雑音増幅器(以下、LNAと略す)14と、ローカル発信器6と、受信部200と、キャリアリーク補正制御部10とを有している。
送信部100は、デジタル変調器11と、キャリアリーク補正回路2aと、デジタルアナログコンバータ(以下、DACと略す)3と、ローパスフィルタ(以下、LPFと略す)4と、直交変調器5とから主に構成される。
受信部200は、直交復調器7と、アナログデジタルコンバータ(以下、ADCと略す)8と、受信用IQミスマッチ補正回路9と、受信デモジュレータ15とから主に構成される。
テスト信号生成回路1は、キャリアリーク補正時において、直交変調器のキャリアリーク補正に用いるテスト信号を生成し、キャリアリーク補正回路2aに出力する。テスト信号は、アンテナ13から無線伝送される電波(搬送波)と同じ位相(同相成分)であるデジタルI信号(周波数fBB)と、搬送波と直交する位相(直交成分)のデジタルQ信号(周波数fBB)とから構成される。
デジタル変調器11は、通常の無線通信時において、入力された送信データ列に基づいて、搬送波の同相成分のデジタルI信号(周波数fBB)と、搬送波の直交成分のデジタルQ信号(周波数fBB)とを生成し、キャリアリーク補正回路2aに出力する。
キャリアリーク補正回路2aは、入力されるデジタルI信号とデジタルQ信号とに対し、キャリアリークの補正を行う。なお、キャリアリークとは、主に、ベースバンド信号(送信信号であるI信号とQ信号)におけるDCオフセットにより生じる、不要な信号成分である。キャリアリーク補正回路2aは、キャリアリーク補正制御部10から入力される制御信号に従い、I信号、及び/又は、Q信号の値を調整する。調整後のデジタルI信号とデジタルQ信号とは、DAC3に出力される。
なお、キャリアリーク補正回路2aは、送信IQミスマッチ補正機能も有する。なお、IQミスマッチとは、I信号とQ信号の振幅差や位相差に起因する正規直交性の損失である。IQミスマッチが存在すると、不要な信号成分(イメージ成分)が生ずるため、変調信号の品質が低下する。キャリアリーク補正回路2aは、入力信号に対し、キャリアリークの補正を行った後、公知の手法を用いて送信IQミスマッチ補正を行う。
DAC3は、デジタルI信号をアナログI信号に、デジタルQ信号をアナログQ信号にそれぞれ変換し、LPF4に出力する。なお、送信部100には、アナログ信号に対するキャリアリークの補正を行う、キャリアリーク補正回路2bを設けてもよい。キャリアリーク補正回路2bが設けられている場合、DAC3は、キャリアリーク補正回路2bに対して変換後のアナログI信号、アナログQ信号を出力する。
キャリアリーク補正回路2bは、入力されるアナログI信号とアナログQ信号とに対し、キャリアリークの補正を行う。図2は、キャリアリーク補正回路2bの詳細な構成の一例を示す回路図である。キャリアリーク補正回路2bは、例えば、2つの電流源201、202を備えている。キャリアリーク補正制御部10から入力される制御信号に従い、電流源201、202から出力する電流の値を調整し、I信号、及び/又は、Q信号に対し、補正用の電流を注入する。調整後のアナログI信号とアナログQ信号とは、LPF4において不要な高周波成分がカットされた後、直交変調器5に入力される。
なお、キャリアリーク補正回路2bが設けられていない無線通信器では、DAC3から出力されたアナログI信号とアナログQ信号とは、LPF4において不要な高周波成分がカットされた後、直交変調器5に入力される。
直交変調器5は、LPF4から入力される調整後のベースバンド信号の他に、搬送波信号を生成するローカル信号(周波数fLO)が、ローカル発信器6から入力される。直交変調器5は、ローカル信号の位相を90度シフトする位相器(図示せず)を有している。入力されたアナログI信号とローカル信号とを乗算し、また、入力されたアナログQ信号とローカル信号を位相器によって90度位相をシフトした信号とを乗算する。これらの乗算された信号を加算することで、ベースバンド信号をアップコンバートし、変調信号を生成する。
直交変調器5で生成された変調信号は、パワーアンプ12と、受信部200の直交復調器7とに入力される。通常の無線通信時において、デジタル変調器11から供給されたベースバンド信号は、パワーアンプ12に入力される。パワーアンプ12に出力された変調信号は、必要な出力値まで増幅された後、アンテナ13から無線伝送される。キャリアリーク補正時において、テスト信号生成回路1から供給されたベースバンド信号は、受信部200の直交復調器7に入力される。
直交復調器7は、入力された変調信号を、ローカル発信器6から入力されるローカル信号(周波数fLO)を用いてダウンコンバートし、アナログI信号とアナログQ信号とを生成する。通常の無線通信時においては、アンテナ13で受信した信号をLNA14において低雑音で増幅した変調信号が直交復調器7に入力される。また、キャリアリーク補正時においては、直交変調器5で生成された変調信号が直交復調器7に入力される。
直交復調器7には、変調信号の他に、ローカル信号(周波数fLO)がローカル発信器6から入力される。直交復調器7は、ローカル信号の位相を90度シフトする位相器(図示せず)を有している。変調信号とローカル信号とを乗算することで、変調信号の同相成分のアナログI信号を生成し、ADC8に出力する。また、変調信号とローカル信号を位相器によって90度位相をシフトした信号とを乗算することで、変調信号の直交成分のアナログQ信号を生成し、ADC8に出力する。
ADC8は、アナログI信号をデジタルI信号に、アナログQ信号をデジタルQ信号にそれぞれ変換し、受信用IQミスマッチ補正回路9に出力する。受信用IQミスマッチ補正回路9は、直交復調器7や、受信部200におけるI信号の経路とQ信号の経路との間における特性差に起因する、IQミスマッチを補正する。IQミスマッチの補正は、公知の手法を用いて行うことができる。
受信用IQミスマッチ補正回路9で補正されたデジタルI信号とデジタルQ信号とは、受信デモジュレータ15と、キャリアリーク補正制御部10とに入力される。通常の無線通信時において、アンテナ13で受信した変調信号を復調したI信号とQ信号は、受信デモジュレータ15に入力される。キャリアリーク補正時において、テスト信号生成回路1から供給されたベースバンド信号から生成した変調信号を復調したI信号とQ信号は、キャリアリーク補正制御部10に入力される。
キャリアリーク補正制御部10は、入力されたI信号とQ信号において、キャリアリークのレベルに比例する周波数成分を抽出し、同周波数成分が極小になるように、キャリアリーク補正回路2a、2bに対して制御信号を入力する。
図3は、各信号の周波数分布を示す図である。図3(a)は、キャリアリーク成分を有する直交変調後の変調信号の周波数分布を示す。また、図3(b)は、図3(a)に示す変調信号を入出力特性が非線形な回路に入力した際に生じる周波数分布を示す。更に、図3(c)は、図3(b)に示す変調信号を復調した際のI/Q信号の周波数分布を示す。
図3(a)に示すように、IQミスマッチがなく、キャリアリーク成分のみを有するベースバンド信号を直交変調した変調信号は、周波数fLO+fBBに補正信号101、周波数fLOにキャリアリークに起因する成分102が存在する。
一般的に、二つの異なる周波数の信号を、入出力特性が非線形な回路に入力すると、相互変調歪(Inter Modulation Distortion、以下、IMDと略す)が生じる。結果として、これらの入力信号の周波数とは異なる周波数に、IMDに起因する成分が発生する。
周波数f1の信号s1(t)=A1cos2πf1tと、周波数f2の信号s2(t)=A2cos2πf2tとからなる入力信号x(t)= s1(t)+ s2(t)を、非線形な回路に入力すると、出力信号y(t)は、以下の(1)式ようにあらわされる。
…(1)式
(1)式において、第4項が3次の相互変調歪成分(IMD3)となる。
直交変調器5は、完全に線形な入出力特性を実現することは難しく、出力信号にはある程度の歪みが生じてしまう。従って、s1(t)が周波数fLO+fBBの補正信号、s2(t)が周波数fLOのキャリアリークに起因する信号とすると、直交変調器5からの出力信号の3次歪成分(IMD3)は、3fLO+2fBB(=2f1+f2)、fLO+2fBB(=2f1−f2)、3fLO+fBB(=2f2+f1)、fLO−fBB(=2f2−f1)の4つの周波数にあらわれる。このうち、3fLO+2fBBと3fLO+fBBとは、高周波数帯域に存在するので、図示しないLPFなどによって、直交変調器5から出力された変調信号からカットされる。
従って、直交復調器7に入力される変調信号の周波数分布は、図3(b)に示すようになる。すなわち、周波数fLO+fBBの補正信号101、周波数fLOのキャリアリークに起因する成分102に加え、周波数fLO+2fBBと周波数fLO−fBBに3次の相互変調歪成分(IMD3)103a、103bが存在する。
図3(b)に示す特性を有する変調信号を、直交復調器7でダウンコンバートすると、図3(c)に示す周波数分布を有するI信号、及びQ信号が生成される。すなわち、I信号、及びQ信号には、それぞれ、周波数fBBに補正信号101と3次の相互変調歪成分(IMD3)103b、周波数2fBBに3次の相互変調歪成分(IMD3)103a、周波数DCにキャリアリークに起因する成分102が存在する。
なお、送信部100におけるDCオフセットと同様に、受信部200においてもDCオフセットが生じる。受信部200におけるDCオフセットに起因する成分104は、送信部100のDCオフセットに起因するキャリアリーク成分102と同様に、周波数DCにあらわれる。
すなわち、キャリアリーク補正制御部10には、図3(c)に示す周波数分布を有するI信号、及び、Q信号が入力される。キャリアリークを低減する直接的な方法としては、受信部200におけるDCオフセットを予め測定しておき、周波数DCにおける信号値から差し引くことで、キャリアリークに起因する成分102を検出し、この成分を極小にするように制御することが考えられる。しかし、この方法を用いた場合、回路を構成するトランジスタ素子から発生するフリッカー雑音(1/f雑音)の影響によって、キャリアリーク成分102の検出精度が低下してしまうという問題がある。
そこで、本実施形態においては、周波数2fBBにあらわれる3次の相互変調歪成分(IMD3)103aの値が、補正信号101とキャリアリークに起因する成分102との積に比例する、すなわち、キャリアリーク成分102に比例することを利用し、周波数2fBBにあらわれる3次の相互変調歪成分(IMD3)103aの値を極小にするように、キャリアリーク補正回路2a、2bに対して制御を行う。
図4は、キャリアリーク補正制御部10の構成の一例を示すブロック図である。キャリアリーク補正制御部10は、相関演算器22と探索制御部21とを有する。
相関演算器22は、入力信号から周波数2fBBの成分の大きさを検出する。図5は、相関演算器22の詳細な構成の一例を示すブロック図である。相関演算器22は、NCO(Numerically Controlled Oscillator)数値制御発信器222と、乗算器221と、積分器223と、絶対値演算器224とから構成される。
NCO数値制御発信器222は、周波数2fBBの正弦波を生成し、乗算器221に出力する。乗算器221は、受信用IQミスマッチ補正回路9から出力されたI信号、及びQ信号と、入力された周波数2fBBの正弦波とを乗算し、積分器223に出力する。積分器223は、入力された信号を、2fBBの周期の倍数で積分を行う。積分された値は、絶対値演算器224に入力され、周波数2fBBの成分の大きさが算出され、出力される。
なお、相関演算器22の構成は、図5に示す構成に限定されず、公知の他の構成でもよい。また、FFT(高速フーリエ変換)など、相関演算以外の他の手法を用いて、周波数2fBBの成分の大きさを検出してもよい。
探索制御部21は、相関演算器22から入力された周波数2fBBの成分の大きさをモニタし、同成分の大きさが極小になるように、送信部100における1つ、あるいは複数のパラメータの値を調節し、キャリアリーク補正回路2a、2bに対して制御指示する。周波数2fBBの成分が極小となるパラメータを決定する手法としては、例えば、二分探索法や、山登り法など、公知の手法を用いて行う。
次に、このように構成された無線通信器における、キャリアリーク補正方法について説明する。図6は、直交変調器におけるキャリアリーク補正手順の一例を説明するフローチャートである。
まず、テスト信号生成回路1において、周波数fBBのテスト信号(ベースバンド信号)を生成し、送信部100に入力する(S1)。入力されたテスト信号は、キャリアリーク補正回路2a、DAC3、(キャリアリーク補正回路2b、)LPF4で所定の処理を施された後、直交変調器5に入力される。直交変調器5において、テスト信号は、周波数fLOのローカル信号を用いてアップコンバートされる(S2)。
アップコンバートされたテスト信号は、直交復調器7に入力され、周波数fLOのローカル信号を用いてダウンコンバートされる(S3)。ダウンコンバートされたテスト信号は、ADC8、受信用IQミスマッチ補正回路9で所定の処理を施された後、キャリアリーク補正制御部10に入力される。そして、キャリアリーク補正制御部10において、周波数2fBBの成分の値がモニタされる(S4)。
キャリアリーク補正制御部10は、モニタした周波数2fBBの成分の値が極小になるように、送信部100における1つ、あるいは複数のパラメータの値を調節し、キャリアリーク補正回路2a(、2b)に対してフィードバック制御を行う(S5)。
キャリアリーク補正制御部10において、周波数2fBBの成分の値が極小であると判定されるまでの間、キャリアリーク補正回路2a(、2b)は、制御指示に従って、送信部100の各パラメータの値を逐次設定し、入力されるテスト信号の処理を行う。S5において、周波数2fBBの成分の値が極小であると判定された時点で、送信部100におけるパラメータの値を確定し、キャリアリーク補正の一連の手順を終了する。
このようにしてキャリアリーク補正が施された後、送信部100へ入力するベースバンド信号の入力元を、テスト信号生成回路1からデジタル変調器11に切り替えて、通常の無線通信を行う。
このように、本実施形態によれば、従来の無線通信器に対し、周波数2fBBの成分を検出し、同成分が極小になるように送信部に対してパラメータ制御指示を行う、キャリアリーク補正制御部を付加するのみで、キャリアリーク補正を行っている。すなわち、アップコンバートされたテスト信号に3次歪を発生させる機構や、3次歪を生じさせたテスト信号をダウンコンバートする機構は、従来の無線通信器に搭載されている回路を流用しているので、回路規模や回路面積の増大を抑制し、装置の大型化を防ぐことができる。
また、周波数DCではなく、周波数2fBBの成分でキャリアリーク成分の大きさを検出しているので、フリッカー雑音の影響を排除することができ、精度よくキャリアリーク補正を行うことができる。
なお、振幅誤差や位相誤差によるIQミスマッチが生じている場合、これに起因するイメージ成分は、変調信号の周波数fLO−fBBにあらわれる。この周波数は、3次の相互変調歪成分(IMD3)103bがあらわれる周波数と同じである。しかしながら、周波数fLO+2fBBにあらわれる3次の相互変調歪成分(IMD3)103aを用いてキャリアリーク補正を行うため、IQミスマッチが生じていても補正精度にはなんら影響を及ぼさない。
一方、キャリアリーク補正を行うことで、周波数fLO−fBBにあらわれる3次の相互変調歪成分(IMD3)103bを極小にすることができる。すなわち、キャリアリーク補正後に周波数fLO−fBBにあらわれる成分は、IQミスマッチ起因の成分であるといえる。従って、キャリアリーク補正後に、周波数fLO−fBBにあらわれる成分をモニタしながらIQミスマッチを補正することで、IQミスマッチも精度よく補正することができる。このため、上述のように、キャリアリーク補正回路2a、2bでは、キャリアリーク補正後に、送信IQミスマッチ補正が行われる。
なお、上述では、既存の送信部100における各回路の非線形性を用いて、自然に変調信号に生ずる歪を利用しているが、歪みを生じさせる機構を既存の回路に付加してもよい。図7は、本実施形態に係わる直交変調器を含む、無線通信器の別の構成の一例を示す概略ブロック図である、図7に示す無線通信器は、図1に示す構成要素に加え、ドライバアンプ16と、切替スイッチ17と、歪み発生器18とを更に備える。
通常の無線通信時は、切替スイッチ17はオフに設定され、直交変調器5から出力された変調信号は直交復調器7にフィードバックされない。キャリアリーク補正時のみ、切替スイッチ17はオンに設定され、テスト信号生成回路1から出力されたテスト信号をアップコンバートして生成された変調信号が、歪み発生器18を介して直交復調器7に入力される。
歪み発生器18により、変調信号の歪成分を大きくすることができるので、キャリアリーク補正制御部10で検出する周波数2fBBの成分が大きくなり、補正精度を向上させることができる。なお、歪み発生器18だけでなく、直交変調器5やドライバアンプ16にて歪を増加させるように構成してもよい。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、一例として示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。