JP2019053273A - 偏光膜の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた光学特性を有する偏光膜の製造方法を提供する。【解決手段】本発明の偏光膜の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること;および、積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。このようにして得られる偏光膜は、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であり、かつ、波長550nmにおける直交吸光度A550と波長210nmにおける直交吸光度A210との比(A550/A210)が1.4以上である。【選択図】図1

Description

本発明は、偏光膜の製造方法に関する。
代表的な画像表示装置である液晶表示装置には、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光膜が配置されている。偏光膜の製造方法としては、例えば、樹脂基材とポリビニルアルコール(PVA)系樹脂層とを有する積層体を延伸し、次に染色処理を施して、樹脂基材上に偏光膜を得る方法が提案されている(例えば、特許文献1)。このような方法によれば、厚みの薄い偏光膜が得られるため、近年の画像表示装置の薄型化に寄与し得るとして注目されている。しかしながら、上記のような従来の薄型偏光膜は光学特性が不十分であり、薄型偏光膜の光学特性のさらなる向上が求められている。
特開2001−343521号公報
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、薄型でありながら優れた光学特性を有する偏光膜の製造方法を提供することにある。
本発明の偏光膜の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること;および、該積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより、幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すこと;を含む。このようにして得られる偏光膜は、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であり、かつ、波長550nmにおける直交吸光度A 550 と波長210nmにおける直交吸光度A 210 との比(A 550 /A 210 )が1.4以上である。
1つの実施形態においては、上記ハロゲン化物はヨウ化カリウムである。
1つの実施形態においては、上記ポリビニルアルコール系樹脂層における上記ヨウ化カリウムの含有量は、該ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して5重量部〜20重量部である。
1つの実施形態においては、上記乾燥収縮処理は、加熱ロールを用いて行われる。
1つの実施形態においては、上記加熱ロールの温度は60℃〜120℃である。
本発明によれば、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂へのハロゲン化物(代表的には、ヨウ化カリウム)の添加、空中補助延伸および水中延伸を含む2段延伸、ならびに、加熱ロールによる乾燥および収縮を組み合わせて採用することにより、薄型でありながら波長550nmにおける直交吸光度A550と波長210nmにおける直交吸光度A210との比(A550/A210)が非常に大きい偏光膜を実現することができる。
本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。 加熱ロールを用いた乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。 実施例および比較例で得られた偏光膜の単体透過率とA550/A210との関係を比較して示すグラフである。 実施例1、実施例2および比較例1で得られた偏光膜の波長と直交吸光度との関係を比較して示すグラフである。
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
A.偏光膜
本発明の実施形態による偏光膜は、厚みが8μm以下であり、かつ、波長550nmにおける直交吸光度A550と波長210nmにおける直交吸光度A210との比(A550/A210)が1.4以上である。本発明の実施形態による偏光膜は、通常の薄型偏光膜に比べて当該比(A550/A210)が非常に大きい。これは、偏光膜におけるPVAと錯体を形成していないヨウ素イオン(210nm付近の紫外領域に吸収を有する)の含有比が非常に小さく、PVA−ヨウ素錯体(可視領域に吸収を有する)の含有比が非常に大きいことを意味する。ここで、偏光膜の厚みは、光路長の長さを意味するため、単純に偏光膜の厚みを薄くした場合、光路長も短くなり、偏光性能も低下してしまう。偏光膜に含有できるヨウ素の量にも限りがあるため、高い偏光性能と偏光膜の薄型化を両立するためには、偏光膜中に含まれるヨウ素を効率的に活用することが必須となる。つまり、紫外に吸光を有し、偏光性能に寄与しないヨウ素イオンを減らし、可視領域に吸光を有するPVA−ヨウ素錯体の比率を向上させることで、高い偏光性能と偏光膜の薄型化を両立することが可能になる。言い換えると、比(A550/A210)を大きくすることにより、薄型で高い光学特性を達成することが可能となる。比(A550/A210)は、好ましくは1.8以上であり、より好ましくは2.0以上であり、さらに好ましくは2.2以上である。比(A550/A210)の上限は、例えば3.5であり得る。直交吸光度は、後述する偏光度を求める際に測定される直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
直交吸光度=log10(100/Tc)
このような特性を有する薄型の偏光膜を実現したことが、本発明の成果の一つである。このような偏光膜は、画像表示装置に用いられ得、特に、液晶表示装置の背面側偏光板に好適に用いられる。
偏光膜の厚みは、好ましくは1μm〜8μmであり、より好ましくは1μm〜7μmであり、さらに好ましくは2μm〜5μmであり、特に好ましくは2μm〜4μmであり、とりわけ好ましくは2μm〜3μmである。
偏光膜は、好ましくは、波長380nm〜780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光膜の単体透過率は、好ましくは46.0%以下であり、より好ましくは45.0%以下である。一方、単体透過率は、好ましくは41.5%以上であり、より好ましくは42.0%以上であり、さらに好ましくは42.5%以上である。偏光膜の偏光度は、好ましくは99.990%以上であり、好ましくは99.998%以下である。上記単体透過率は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定し、視感度補正を行なったY値である。また、単体透過率は、偏光板の一方の表面の屈折率を1.50、もう一方の表面の屈折率を1.53に換算した時の値である。上記偏光度は、代表的には、紫外可視分光光度計を用いて測定して視感度補正を行なった平行透過率Tpおよび直交透過率Tcに基づいて、下記式により求められる。
偏光度(%)={(Tp−Tc)/(Tp+Tc)}1/2×100
偏光膜としては、任意の適切な偏光膜が採用され得る。偏光膜は、代表的には、二層以上の積層体を用いて作製され得る。
積層体を用いて得られる偏光膜の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光膜が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光膜は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光膜とすること;により作製され得る。本実施形態においては、延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。得られた樹脂基材/偏光膜の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光膜の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光膜の積層体から樹脂基材を剥離し、当該剥離面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。このような偏光膜の製造方法の詳細は、例えば特開2012−73580号公報に記載されている。当該公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
本発明の偏光膜の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および、上記積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱ロールを用いて加熱することによる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。これにより、厚みが非常に薄いにもかかわらず、単体透過率が43.0%以上であり、単位吸光度が0.85以上である、優れた光学特性を有する偏光膜が提供され得る。すなわち、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVAの配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。さらに、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光膜の光学特性を向上し得る。さらに、乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。
B.偏光板
図1は、本発明の1つの実施形態による偏光板の概略断面図である。偏光板100は、偏光膜10と、偏光膜10の一方の側に配置された第1の保護層20と、偏光膜10の他方の側に配置された第2の保護層30とを有する。偏光膜10は、上記A項で説明した本発明の偏光膜である。第1の保護層20および第2の保護層30のうち一方の保護層は省略されてもよい。なお、上記のとおり、第1の保護層および第2の保護層のうち一方は、上記の偏光膜の製造に用いられる樹脂基材であってもよい。
第1および第2の保護層は、偏光膜の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
偏光板100を画像表示装置に適用したときに表示パネルとは反対側に配置される保護層(外側保護層)の厚みは、代表的には300μm以下であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは5μm〜80μm、さらに好ましくは10μm〜60μmである。なお、表面処理が施されている場合、外側保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
偏光板100を画像表示装置に適用したときに表示パネル側に配置される保護層(内側保護層)の厚みは、好ましくは5μm〜200μm、より好ましくは10μm〜100μm、さらに好ましくは10μm〜60μmである。1つの実施形態においては、内側保護層は、任意の適切な位相差値を有する位相差層である。この場合、位相差層の面内位相差Re(550)は、例えば110nm〜150nmである。「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差であり、式:Re=(nx−ny)×dにより求められる。ここで、「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率であり、「d」は層(フィルム)の厚み(nm)である。
C.偏光膜の製造方法
本発明の1つの実施形態による偏光膜の製造方法は、長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)とを含むポリビニルアルコール系樹脂層(PVA系樹脂層)を形成して積層体とすること、および、積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む。PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部〜20重量部である。乾燥収縮処理は、加熱ロールを用いて処理することが好ましく、加熱ロールの温度は、好ましくは、60℃〜120℃である。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは、2%以上である。このような製造方法によれば、上記A項で説明した偏光膜を得ることができる。特に、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層を含む積層体を作製し、上記積層体の延伸を空中補助延伸及び水中延伸を含む多段階延伸とし、延伸後の積層体を加熱ロールで加熱することにより、優れた光学特性(代表的には、単体透過率および単位吸光度)を有する偏光膜を得ることができる。
C−1.積層体の作製
熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を作製する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。好ましくは、熱可塑性樹脂基材の表面に、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む塗布液を塗布し、乾燥することにより、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成する。上記のとおり、PVA系樹脂層におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部〜20重量部である。
塗布液の塗布方法としては、任意の適切な方法を採用することができる。例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ナイフコート法(コンマコート法等)等が挙げられる。上記塗布液の塗布・乾燥温度は、好ましくは50℃以上である。
PVA系樹脂層の厚みは、好ましくは、3μm〜40μm、さらに好ましくは3μm〜20μmである。
PVA系樹脂層を形成する前に、熱可塑性樹脂基材に表面処理(例えば、コロナ処理等)を施してもよいし、熱可塑性樹脂基材上に易接着層を形成してもよい。このような処理を行うことにより、熱可塑性樹脂基材とPVA系樹脂層との密着性を向上させることができる。
C−1−1.熱可塑性樹脂基材
熱可塑性樹脂基材の厚みは、好ましくは20μm〜300μm、より好ましくは50μm〜200μmである。20μm未満であると、PVA系樹脂層の形成が困難になるおそれがある。300μmを超えると、例えば、後述の水中延伸処理において、熱可塑性樹脂基材が水を吸収するのに長時間を要するとともに、延伸に過大な負荷を要するおそれがある。
熱可塑性樹脂基材は、好ましくは、その吸水率が0.2%以上であり、さらに好ましくは0.3%以上である。熱可塑性樹脂基材は、水を吸収し、水が可塑剤的な働きをして可塑化し得る。その結果、延伸応力を大幅に低下させることができ、高倍率に延伸することができる。一方、熱可塑性樹脂基材の吸水率は、好ましくは3.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、製造時に熱可塑性樹脂基材の寸法安定性が著しく低下して、得られる偏光膜の外観が悪化するなどの不具合を防止することができる。また、水中延伸時に基材が破断したり、熱可塑性樹脂基材からPVA系樹脂層が剥離したりするのを防止することができる。なお、熱可塑性樹脂基材の吸水率は、例えば、構成材料に変性基を導入することにより調整することができる。吸水率は、JIS K 7209に準じて求められる値である。
熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは120℃以下である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、PVA系樹脂層の結晶化を抑制しながら、積層体の延伸性を十分に確保することができる。さらに、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化と、水中延伸を良好に行うことを考慮すると、100℃以下、さらには90℃以下であることがより好ましい。一方、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度は、好ましくは60℃以上である。このような熱可塑性樹脂基材を用いることにより、上記PVA系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥する際に、熱可塑性樹脂基材が変形(例えば、凹凸やタルミ、シワ等の発生)するなどの不具合を防止して、良好に積層体を作製することができる。また、PVA系樹脂層の延伸を、好適な温度(例えば、60℃程度)にて良好に行うことができる。なお、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度は、例えば、構成材料に変性基を導入する、結晶化材料を用いて加熱することにより調整することができる。ガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準じて求められる値である。
熱可塑性樹脂基材の構成材料としては、任意の適切な熱可塑性樹脂が採用され得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ノルボルネン系樹脂、非晶質のポリエチレンテレフタレート系樹脂である。
1つの実施形態においては、非晶質の(結晶化していない)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましく用いられる。中でも、非晶性の(結晶化しにくい)ポリエチレンテレフタレート系樹脂が特に好ましく用いられる。非晶性のポリエチレンテレフタレート系樹脂の具体例としては、ジカルボン酸としてイソフタル酸および/またはシクロヘキサンジカルボン酸をさらに含む共重合体や、グリコールとしてシクロヘキサンジメタノールやジエチレングリコールをさらに含む共重合体が挙げられる。
好ましい実施形態においては、熱可塑性樹脂基材は、イソフタル酸ユニットを有するポリエチレンテレフタレート系樹脂で構成される。このような熱可塑性樹脂基材は延伸性に極めて優れるとともに、延伸時の結晶化が抑制され得るからである。これは、イソフタル酸ユニットを導入することで、主鎖に大きな屈曲を与えることによるものと考えられる。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸ユニットおよびエチレングリコールユニットを有する。イソフタル酸ユニットの含有割合は、全繰り返し単位の合計に対して、好ましくは0.1モル%以上、さらに好ましくは1.0モル%以上である。延伸性に極めて優れた熱可塑性樹脂基材が得られるからである。一方、イソフタル酸ユニットの含有割合は、全繰り返し単位の合計に対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。このような含有割合に設定することで、後述の乾燥収縮処理において結晶化度を良好に増加させることができる。
熱可塑性樹脂基材は、予め(PVA系樹脂層を形成する前)、延伸されていてもよい。1つの実施形態においては、長尺状の熱可塑性樹脂基材の横方向に延伸されている。横方向は、好ましくは、後述の積層体の延伸方向に直交する方向である。なお、本明細書において、「直交」とは、実質的に直交する場合も包含する。ここで、「実質的に直交」とは、90°±5.0°である場合を包含し、好ましくは90°±3.0°、さらに好ましくは90°±1.0°である。
熱可塑性樹脂基材の延伸温度は、ガラス転移温度(Tg)に対し、好ましくはTg−10℃〜Tg+50℃である。熱可塑性樹脂基材の延伸倍率は、好ましくは1.5倍〜3.0倍である。
熱可塑性樹脂基材の延伸方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸でもよい。延伸方式は、乾式でもよいし、湿式でもよい。熱可塑性樹脂基材の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、上述の延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。
C−1−2.塗布液
塗布液は、上記のとおり、ハロゲン化物とPVA系樹脂とを含む。上記塗布液は、代表的には、上記ハロゲン化物および上記PVA系樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。溶媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、各種グリコール類、トリメチロールプロパン等の多価アルコール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類が挙げられる。これらは単独で、または、二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、好ましくは、水である。溶液のPVA系樹脂濃度は、溶媒100重量部に対して、好ましくは3重量部〜20重量部である。このような樹脂濃度であれば、熱可塑性樹脂基材に密着した均一な塗布膜を形成することができる。塗布液におけるハロゲン化物の含有量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部〜20重量部である。
塗布液に、添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤が挙げられる。これらは、得られるPVA系樹脂層の均一性や染色性、延伸性をより一層向上させる目的で使用され得る。
上記PVA系樹脂としては、任意の適切な樹脂が採用され得る。例えば、ポリビニルアルコールおよびエチレン−ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%〜100モル%であり、好ましくは95.0モル%〜99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%〜99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光膜が得られ得る。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
PVA系樹脂の平均重合度は、目的に応じて適切に選択し得る。平均重合度は、通常1000〜10000であり、好ましくは1200〜4500、さらに好ましくは1500〜4300である。なお、平均重合度は、JIS K 6726−1994に準じて求めることができる。
上記ハロゲン化物としては、任意の適切なハロゲン化物が採用され得る。例えば、ヨウ化物および塩化ナトリウムが挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、およびヨウ化リチウムが挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。
塗布液におけるハロゲン化物の量は、好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して5重量部〜20重量部であり、より好ましくは、PVA系樹脂100重量部に対して10重量部〜15重量部である。PVA系樹脂100重量部に対するハロゲン化物の量が20重量部を超えると、ハロゲン化物がブリードアウトし、最終的に得られる偏光膜が白濁する場合がある。
一般に、PVA系樹脂層が延伸されることによって、PVA系樹脂中のポリビニルアルコール分子の配向性が高くなるが、延伸後のPVA系樹脂層を、水を含む液体に浸漬すると、ポリビニルアルコール分子の配向が乱れ、配向性が低下する場合がある。特に、熱可塑性樹脂とPVA系樹脂層との積層体をホウ酸水中延伸する場合において、熱可塑性樹脂の延伸を安定させるために比較的高い温度で上記積層体をホウ酸水中で延伸する場合、上記配向度低下の傾向が顕著である。例えば、PVAフィルム単体のホウ酸水中での延伸が60℃で行われることが一般的であるのに対し、A−PET(熱可塑性樹脂基材)とPVA系樹脂層との積層体の延伸は70℃前後の温度という高い温度で行われ、この場合、延伸初期のPVAの配向性が水中延伸により上がる前の段階で低下し得る。これに対して、ハロゲン化物を含むPVA系樹脂層と熱可塑性樹脂基材との積層体を作製し、積層体をホウ酸水中で延伸する前に空気中で高温延伸(補助延伸)することにより、補助延伸後の積層体のPVA系樹脂層中のPVA系樹脂の結晶化が促進され得る。その結果、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光膜の光学特性を向上し得る。
C−2.空中補助延伸処理
特に、高い光学特性を得るためには、乾式延伸(補助延伸)とホウ酸水中延伸を組み合わせる、2段延伸の方法が選択される。2段延伸のように、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂基材の結晶化を抑制しながら延伸することができ、後のホウ酸水中延伸において熱可塑性樹脂基材の過度の結晶化により延伸性が低下するという問題を解決し、積層体をより高倍率に延伸することができる。さらには、熱可塑性樹脂基材上にPVA系樹脂を塗布する場合、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度の影響を抑制するために、通常の金属ドラム上にPVA系樹脂を塗布する場合と比べて塗布温度を低くする必要があり、その結果、PVA系樹脂の結晶化が相対的に低くなり、十分な光学特性が得られない、という問題が生じ得る。これに対して、補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVA系樹脂を塗布する場合でも、PVA系樹脂の結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVA系樹脂の配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVA系樹脂の配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。
空中補助延伸の延伸方法は、固定端延伸(たとえば、テンター延伸機を用いて延伸する方法)でもよいし、自由端延伸(たとえば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよいが、高い光学特性を得るためには、自由端延伸が積極的に採用され得る。1つの実施形態においては、空中延伸処理は、上記積層体をその長手方向に搬送しながら、加熱ロール間の周速差により延伸する加熱ロール延伸工程を含む。空中延伸処理は、代表的には、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程とを含む。なお、ゾーン延伸工程と加熱ロール延伸工程の順序は限定されず、ゾーン延伸工程が先に行われてもよく、加熱ロール延伸工程が先に行われてもよい。ゾーン延伸工程は省略されてもよい。1つの実施形態においては、ゾーン延伸工程および加熱ロール延伸工程がこの順に行われる。また、別の実施形態では、テンター延伸機において、フィルム端部を把持し、テンター間の距離を流れ方向に広げることで延伸される(テンター間の距離の広がりが延伸倍率となる)。この時、幅方向(流れ方向に対して、垂直方向)のテンターの距離は、任意に近づくように設定される。好ましくは、流れ方向の延伸倍率に対して、自由端延伸により近くなるように設定されうる。自由端延伸の場合、 幅方向の収縮率=(1/延伸倍率)1/2で計算される。
空中補助延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、延伸倍率は、各段階の延伸倍率の積である。空中補助延伸における延伸方向は、好ましくは、水中延伸の延伸方向と略同一である。
空中補助延伸における延伸倍率は、好ましくは2.0倍〜3.5倍である。空中補助延伸と水中延伸とを組み合わせた場合の最大延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上、より好ましくは5.5倍以上、さらに好ましくは6.0倍以上である。本明細書において「最大延伸倍率」とは、積層体が破断する直前の延伸倍率をいい、別途、積層体が破断する延伸倍率を確認し、その値よりも0.2低い値をいう。
空中補助延伸の延伸温度は、熱可塑性樹脂基材の形成材料、延伸方式等に応じて、任意の適切な値に設定することができる。延伸温度は、好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)以上であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)+10℃以上、特に好ましくはTg+15℃以上である。一方、延伸温度の上限は、好ましくは170℃である。このような温度で延伸することで、PVA系樹脂の結晶化が急速に進むのを抑制して、当該結晶化による不具合(例えば、延伸によるPVA系樹脂層の配向を妨げる)を抑制することができる。
C−3.不溶化処理
必要に応じて、空中補助延伸処理の後、水中延伸処理や染色処理の前に、不溶化処理を施す。上記不溶化処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬することにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与し、水に浸漬した時のPVAの配向低下を防止することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。
C−4.染色処理
上記染色処理は、代表的には、PVA系樹脂層をヨウ素で染色することにより行う。具体的には、PVA系樹脂層にヨウ素を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、ヨウ素を含む染色液にPVA系樹脂層(積層体)を浸漬させる方法、PVA系樹脂層に当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂層に噴霧する方法等が挙げられる。好ましくは、染色液(染色浴)に積層体を浸漬させる方法である。ヨウ素が良好に吸着し得るからである。
上記染色液は、好ましくは、ヨウ素水溶液である。ヨウ素の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜0.5重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、ヨウ化カリウムである。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜10重量部、より好ましくは0.3重量部〜5重量部である。染色液の染色時の液温は、PVA系樹脂の溶解を抑制するため、好ましくは20℃〜50℃である。染色液にPVA系樹脂層を浸漬させる場合、浸漬時間は、PVA系樹脂層の透過率を確保するため、好ましくは5秒〜5分であり、より好ましくは30秒〜90秒である。
染色条件(濃度、液温、浸漬時間)は、最終的に得られる偏光膜の単体透過率が43.0%以上であり、かつ、偏光度が99.980%以上となるように設定することができる。このような染色条件としては、好ましくは、染色液としてヨウ素水溶液を用い、ヨウ素水溶液におけるヨウ素およびヨウ化カリウムの含有量の比を、1:5〜1:20とする。ヨウ素水溶液におけるヨウ素およびヨウ化カリウムの含有量の比は、好ましくは1:5〜1:10である。これにより、上記のような光学特性を有する偏光膜が得られ得る。
ホウ酸を含有する処理浴に積層体を浸漬する処理(代表的には、不溶化処理)の後に連続して染色処理を行う場合、当該処理浴に含まれるホウ酸が染色浴に混入することにより染色浴のホウ酸濃度が経時的に変化し、その結果、染色性が不安定になる場合がある。上記のような染色性の不安定化を抑制するために、染色浴のホウ酸濃度の上限は、水100重量部に対して、好ましくは4重量部、より好ましくは2重量部となるように調整される。一方で、染色浴のホウ酸濃度の下限は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部であり、より好ましくは0.2重量部であり、さらに好ましくは0.5重量部である。1つの実施形態においては、予めホウ酸が配合された染色浴を用いて染色処理を行う。これにより、上記処理浴のホウ酸が染色浴に混入した場合のホウ酸濃度の変化の割合を低減し得る。予め染色浴に配合されるホウ酸の配合量(すなわち、上記処理浴に由来しないホウ酸の含有量)は、水100重量部に対して、好ましくは0.1重量部〜2重量部であり、より好ましくは0.5重量部〜1.5重量部である。
C−5.架橋処理
必要に応じて、染色処理の後、水中延伸処理の前に、架橋処理を施す。上記架橋処理は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与し、後の水中延伸で、高温の水中へ浸漬した際のPVAの配向低下を防止することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。また、上記染色処理後に架橋処理を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。
C−6.水中延伸処理
水中延伸処理は、積層体を延伸浴に浸漬させて行う。水中延伸処理によれば、上記熱可塑性樹脂基材やPVA系樹脂層のガラス転移温度(代表的には、80℃程度)よりも低い温度で延伸し得、PVA系樹脂層を、その結晶化を抑えながら、高倍率に延伸することができる。その結果、優れた光学特性を有する偏光膜を製造することができる。
積層体の延伸方法は、任意の適切な方法を採用することができる。具体的には、固定端延伸でもよいし、自由端延伸(例えば、周速の異なるロール間に積層体を通して一軸延伸する方法)でもよい。好ましくは、自由端延伸が選択される。積層体の延伸は、一段階で行ってもよいし、多段階で行ってもよい。多段階で行う場合、後述の積層体の延伸倍率(最大延伸倍率)は、各段階の延伸倍率の積である。
水中延伸は、好ましくは、ホウ酸水溶液中に積層体を浸漬させて行う(ホウ酸水中延伸)。延伸浴としてホウ酸水溶液を用いることで、PVA系樹脂層に、延伸時にかかる張力に耐える剛性と、水に溶解しない耐水性とを付与することができる。具体的には、ホウ酸は、水溶液中でテトラヒドロキシホウ酸アニオンを生成してPVA系樹脂と水素結合により架橋し得る。その結果、PVA系樹脂層に剛性と耐水性とを付与して、良好に延伸することができ、優れた光学特性を有する偏光膜を製造することができる。
上記ホウ酸水溶液は、好ましくは、溶媒である水にホウ酸および/またはホウ酸塩を溶解させることにより得られる。ホウ酸濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜10重量部であり、より好ましくは2.5重量部〜6重量部であり、特に好ましくは3重量部〜5重量部である。ホウ酸濃度を1重量部以上とすることにより、PVA系樹脂層の溶解を効果的に抑制することができ、より高特性の偏光膜を製造することができる。なお、ホウ酸またはホウ酸塩以外に、ホウ砂等のホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を溶媒に溶解して得られた水溶液も用いることができる。
好ましくは、上記延伸浴(ホウ酸水溶液)にヨウ化物を配合する。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。ヨウ化物の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは0.05重量部〜15重量部、より好ましくは0.5重量部〜8重量部である。
延伸温度(延伸浴の液温)は、好ましくは40℃〜85℃、より好ましくは60℃〜75℃である。このような温度であれば、PVA系樹脂層の溶解を抑制しながら高倍率に延伸することができる。具体的には、上述のように、熱可塑性樹脂基材のガラス転移温度(Tg)は、PVA系樹脂層の形成との関係で、好ましくは60℃以上である。この場合、延伸温度が40℃を下回ると、水による熱可塑性樹脂基材の可塑化を考慮しても、良好に延伸できないおそれがある。一方、延伸浴の温度が高温になるほど、PVA系樹脂層の溶解性が高くなって、優れた光学特性が得られないおそれがある。積層体の延伸浴への浸漬時間は、好ましくは15秒〜5分である。
水中延伸による延伸倍率は、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは3.0倍以上である。積層体の総延伸倍率は、積層体の元長に対して、好ましくは5.0倍以上であり、さらに好ましくは5.5倍以上である。このような高い延伸倍率を達成することにより、光学特性に極めて優れた偏光膜を製造することができる。このような高い延伸倍率は、水中延伸方式(ホウ酸水中延伸)を採用することにより、達成し得る。
C−7.乾燥収縮処理
上記乾燥収縮処理は、ゾーン全体を加熱して行うゾーン加熱により行っても良いし、搬送ロールを加熱する(いわゆる加熱ロールを用いる)ことにより行う(加熱ロール乾燥方式)こともできる。好ましくは、その両方を用いる。加熱ロールを用いて乾燥させることにより、効率的に積層体の加熱カールを抑制して、外観に優れた偏光膜を製造することができる。具体的には、加熱ロールに積層体を沿わせた状態で乾燥することにより、上記熱可塑性樹脂基材の結晶化を効率的に促進させて結晶化度を増加させることができ、比較的低い乾燥温度であっても、熱可塑性樹脂基材の結晶化度を良好に増加させることができる。その結果、熱可塑性樹脂基材は、その剛性が増加して、乾燥によるPVA系樹脂層の収縮に耐え得る状態となり、カールが抑制される。また、加熱ロールを用いることにより、積層体を平らな状態に維持しながら乾燥できるので、カールだけでなくシワの発生も抑制することができる。この時、積層体は、乾燥収縮処理により幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。PVAおよびPVA/ヨウ素錯体の配向性を効果的に高めることができるからである。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は、好ましくは1%〜10%であり、より好ましくは2%〜8%であり、特に好ましくは4%〜6%である。
図2は、乾燥収縮処理の一例を示す概略図である。乾燥収縮処理では、所定の温度に加熱された搬送ロールR1〜R6と、ガイドロールG1〜G4とにより、積層体200を搬送しながら乾燥させる。図示例では、PVA樹脂層の面と熱可塑性樹脂基材の面を交互に連続加熱するように搬送ロールR1〜R6が配置されているが、例えば、積層体200の一方の面(たとえば熱可塑性樹脂基材面)のみを連続的に加熱するように搬送ロールR1〜R6を配置してもよい。
搬送ロールの加熱温度(加熱ロールの温度)、加熱ロールの数、加熱ロールとの接触時間等を調整することにより、乾燥条件を制御することができる。加熱ロールの温度は、好ましくは60℃〜120℃であり、さらに好ましくは65℃〜100℃であり、特に好ましくは70℃〜80℃である。熱可塑性樹脂の結晶化度を良好に増加させて、カールを良好に抑制することができるとともに、耐久性に極めて優れた光学積層体を製造することができる。なお、加熱ロールの温度は、接触式温度計により測定することができる。図示例では、6個の搬送ロールが設けられているが、搬送ロールは複数個であれば特に制限はない。搬送ロールは、通常2個〜40個、好ましくは4個〜30個設けられる。積層体と加熱ロールとの接触時間(総接触時間)は、好ましくは1秒〜300秒であり、より好ましくは1〜20秒であり、さらに好ましくは1〜10秒である。
加熱ロールは、加熱炉(例えば、オーブン)内に設けてもよいし、通常の製造ライン(室温環境下)に設けてもよい。好ましくは、送風手段を備える加熱炉内に設けられる。加熱ロールによる乾燥と熱風乾燥とを併用することにより、加熱ロール間での急峻な温度変化を抑制することができ、幅方向の収縮を容易に制御することができる。熱風乾燥の温度は、好ましくは30℃〜100℃である。また、熱風乾燥時間は、好ましくは1秒〜300秒である。熱風の風速は、好ましくは10m/s〜30m/s程度である。なお、当該風速は加熱炉内における風速であり、ミニベーン型デジタル風速計により測定することができる。
C−8.その他の処理
好ましくは、水中延伸処理の後、乾燥収縮処理の前に、洗浄処理を施す。上記洗浄処理は、代表的には、ヨウ化カリウム水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
(1)厚み
干渉膜厚計(大塚電子社製、製品名「MCPD−3000」)を用いて測定した。
(2)単体透過率および直交吸光度
実施例および比較例の偏光板(保護フィルム/偏光膜)について、紫外可視分光光度計(日本分光製 V−7100)を用いて測定した単体透過率Ts、平行透過率Tp、直交透過率Tcをそれぞれ、偏光膜のTs、TpおよびTcとした。これらのTs、TpおよびTcは、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値である。なお、保護フィルムの屈折率は1.50であり、偏光膜の保護フィルムとは反対側の表面の屈折率は1.53であった。
また、各波長での測定されたTcを用いて、下記式により直交吸光度を求めた。
直交吸光度=log10(100/Tc)
測定波長210nmの直交透過率Tc210から直交吸光度A210を、測定波長550nmの直交透過率Tc550から直交吸光度A550を求めた。
なお、分光光度計は、大塚電子社製 LPF−200などでも同等の測定をすることが可能である。
[実施例1−1]
1.偏光膜の作製
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、吸水率0.75%、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用いた。樹脂基材の片面に、コロナ処理(処理条件:55W・min/m)を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ410」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加し、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に2.4倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光膜の単体透過率(Ts)が表1に示す値となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4.0重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに約2秒接触させた(乾燥収縮処理)。乾燥収縮処理による積層体の幅方向の収縮率は2%であった。
このようにして、樹脂基材上に厚み3.0μmの偏光膜を形成した。
2.偏光板の作製
上記で得られた各偏光膜の表面(樹脂基材とは反対側の面)に、保護フィルムとして、アクリル系フィルム(表面屈折率1.50、40μm)を、紫外線硬化型接着剤を介して貼り合せた。具体的には、硬化型接着剤の総厚みが1.0μmになるように塗工し、ロール機を使用して貼り合わせた。その後、UV光線を保護フィルム側から照射して接着剤を硬化させた。次いで、樹脂基材を剥離し、保護フィルム/偏光膜の構成を有する偏光板を得た。
得られた偏光膜および偏光板について、単体透過率およびA550/A210を表1に示す。
[実施例1−2]
染色浴の濃度を調整して偏光膜の単体透過率(Ts)が表1に示す値となるようにしたこと以外は実施例1−1と同様にして、偏光膜および偏光板を作製した。得られた偏光膜および偏光板について、単体透過率およびA550/A210を表1に示す。さらに、単体透過率とA550/A210との関係を、実施例2〜3および比較例1の結果と比較して図3に示す。加えて、波長と直交吸光度との関係を、実施例2および比較例1と併せて図4に示す。なお、図4の比較データは、単体透過率が43.5%についてのものである。
[実施例2−1〜2−4]
PVA水溶液(塗布液)を変更して得られる偏光膜の厚みを4.6μmとしたこと、および、染色浴の濃度を調整して偏光膜の単体透過率(Ts)が表1に示す値となるようにしたこと以外は実施例1−1と同様にして、偏光膜および偏光板を作製した。得られた偏光膜および偏光板について、単体透過率およびA550/A210を表1に示す。さらに、単体透過率とA550/A210との関係を図3に示す。加えて、波長と直交吸光度との関係を図4に示す。
[実施例3−1]
PVA水溶液(塗布液)を変更して得られる偏光膜の厚みを5.0μmとしたこと、染色浴の濃度を調整して偏光膜の単体透過率(Ts)が表1に示す値となるようにしたこと、および、乾燥収縮処理の条件を変更して幅方向の収縮率を5%としたこと以外は実施例1−1と同様にして、偏光膜および偏光板を作製した。得られた偏光膜および偏光板について、単体透過率およびA550/A210を表1に示す。さらに、単体透過率とA550/A210との関係を図3に示す。
[比較例1−1〜1−6]
PVA水溶液(塗布液)にヨウ化カリウムを添加しなかったこと、PVA水溶液(塗布液)を変更して得られる偏光膜の厚みを3.3μmとしたこと、乾燥収縮処理において加熱ロールを用いず幅方向の収縮率を0.1%以下としたこと、および、染色浴の濃度を調整して偏光膜の単体透過率(Ts)が表1に示す値となるようにしたこと以外は実施例1−1と同様にして、偏光膜および偏光板を作製した。得られた偏光膜および偏光板について、単体透過率およびA550/A210を表1に示す。さらに、単体透過率とA550/A210との関係を図3に示す。加えて、波長と直交吸光度との関係を図4に示す。
[比較例2−1]
PVA水溶液(塗布液)を変更して得られる偏光膜の厚みを5.0μmとしたこと、乾燥収縮処理において加熱ロールを用いず幅方向の収縮率を0.1%以下としたこと、および、染色浴の濃度を調整して偏光膜の単体透過率(Ts)が表1に示す値となるようにしたこと以外は実施例1−1と同様にして、偏光膜および偏光板を作製した。得られた偏光膜および偏光板について、単体透過率およびA550/A210を表1に示す。
[比較例3−1]
PVA系樹脂フィルム(クラレ社製、商品名「PS−7500」、厚み:75μm、平均重合度:2,400、ケン化度:99.9モル%)を30℃水浴中に1分間浸漬させつつ搬送方向に1.2倍に延伸した後、ヨウ素濃度0.04重量%、カリウム濃度0.3重量%の30℃水溶液中に浸漬して染色しながら、全く延伸していないフィルム(元長)を基準として2倍に延伸した。次いで、この延伸フィルムを、ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%の30℃の水溶液中に浸漬しながら、元長基準で3倍までさらに延伸し、続いて、ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%の60℃水溶液中に浸漬しながら、元長基準で6倍までさらに延伸し、70℃で2分間乾燥することにより、厚み23μmの偏光子を得た。得られた偏光子の単体透過率は43.0%であった。A210を測定しようとしたが、大きすぎて測定限界を超えてしまったため、A550/A210を得ることはできなかった。結果を表1に示す。
表1および図3から明らかなように、本発明の実施例の偏光膜は比較例の偏光膜に比べてA550/A210が顕著に大きいので、偏光膜中のPVAと錯体を形成していないヨウ素イオンの含有比が非常に小さく、PVA−ヨウ素錯体の含有比が非常に大きいことがわかる。すなわち、本発明の実施例の偏光膜は、可視領域に吸光を有するPVA−ヨウ素錯体の比率を高くすることができ、結果として、高い偏光性能と偏光膜の薄型化を両立することが可能になる。
本発明の偏光膜を有する偏光板は、液晶表示装置に好適に用いられる。
10 偏光膜
20 第1の保護層
30 第2の保護層
100 偏光板

Claims (5)

  1. 光膜の製造方法であって、
    該偏光膜は、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成され、厚みが8μm以下であり、かつ、波長550nmにおける直交吸光度A 550 と波長210nmにおける直交吸光度A 210 との比(A 550 /A 210 )が1.4以上であり、
    長尺状の熱可塑性樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層体とすること、および
    該積層体に、空中補助延伸処理と、染色処理と、水中延伸処理と、長手方向に搬送しながら加熱することにより、幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理と、をこの順に施すことを含む、製造方法。
  2. 前記ハロゲン化物がヨウ化カリウムである、請求項に記載の製造方法。
  3. 前記ポリビニルアルコール系樹脂層における前記ヨウ化カリウムの含有量が、該ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して5重量部〜20重量部である、請求項に記載の製造方法。
  4. 前記乾燥収縮処理が、加熱ロールを用いて行われる、請求項からのいずれかに記載の製造方法。
  5. 前記加熱ロールの温度が60℃〜120℃である、請求項に記載の製造方法。

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