JP2019052225A - 樹脂組成物及び成形体 - Google Patents
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Abstract
Description
しかしながら、スチレン系エラストマーは、汗や雨、湿気等の水分が付着することにより滑りやすく、グリップ性能が十分でないといった問題を有していた。
例えば、特許文献1では、スチレンブロック共重合体に、熱可塑性加硫物、オレフィンブロック共重合体及び極性官能基末端ポリアルケニルを含む樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2では、熱可塑性ゴムブロック共重合体、ペトロラタム(ワセリン)、可塑剤又は粘着付与剤を含む樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3では、ポリスチレンを含む熱可塑性樹脂、ブタジエン又はイソプレンの共役ジエンモノマーから得られるゴム状エラストマー、スチレン−エチレンブチレン−スチレンポリマー等の共重合体、及びオイルを含む軟質熱可塑性エラストマー組成物が開示されており、ゴム軟化剤を必須としている。また、特許文献4ではポリスチレンを含む熱可塑性樹脂、ブタジエン又はイソプレンの共役ジエンモノマーから得られるゴム状エラストマー、スチレン−エチレンブチレン−スチレンポリマー等の共重合体、オイル、及び硫黄又はフェノール硬化剤を含む軟質熱可塑性エラストマー組成物が開示されており、ゴム軟化剤及び硬化剤を必須として動的加硫により硬化することが記載されている。
すなわち、本発明は以下を要旨とするものである。
該水添ブロック共重合体(I)を含む海相と、該ポリオレフィン系樹脂(II)を含む島相とからなる海島構造を有する、樹脂組成物。
[2]前記[1]の樹脂組成物の成形体。
本発明の樹脂組成物は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含有する重合体ブロック(A)及びファルネセン由来の構造単位(b1)を含有する重合体ブロック(B)を少なくとも含むブロック共重合体(P)中の共役ジエン由来の構造単位における炭素−炭素二重結合が50モル%以上水素添加された水添ブロック共重合体(I)、並びにポリオレフィン系樹脂(II)を含有し、
該水添ブロック共重合体(I)を含む海相と、該ポリオレフィン系樹脂(II)を含む島相とからなる海島構造を有する。
前記水添ブロック共重合体のファルネセン由来の構造単位を含有する重合体ブロックは、得られる成形体に柔軟性を付与し、グリップ性能を向上させることができる。しかしながら、前記水添ブロック共重合体のみでは成形体の硬度が不足し、成形体として実用に供する場合、例えばスポーツ用のグリップとして適用する場合等には、物性バランスの点で不十分であった。
一方、ポリオレフィン系樹脂は、上記水添ブロック共重合体に混ぜることで硬度を付与することができる場合があるものの、硬度が高まる反面グリップ性能は低下する傾向にあり、従来、硬度やグリップ性能等の物性をバランスよく付与することは困難であった。
本発明者らは、上記水添ブロック共重合体とポリオレフィン系樹脂とを含む樹脂組成物においてそのモルフォロジー構造に着目し、上記水添ブロック共重合体を含む海相とポリオレフィン系樹脂を含む島相とからなる海島構造を形成する場合に、得られる成形体に適度な硬度を付与しながらも、高いグリップ性能を維持できることを見出し、本発明を完成させるに至った。上記海島構造を形成することで、海相を形成する上記水添ブロック共重合体中に島相としてポリオレフィン系樹脂が微細に分散し、その結果、柔軟性、引張特性、ドライグリップ性能及びウェットグリップ性能をバランスよく向上させることができると考えられる。
(重合体ブロック(A))
重合体ブロック(A)は、芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含有する。かかる芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−t−ブチルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N−ジエチル−4−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、4−メトキシスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン及びジビニルベンゼン等が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。
重合体ブロック(B)は、ファルネセン由来の構造単位(b1)(以下、単に「構造単位(b1)」ともいう)を含有する。また、重合体ブロック(B)は、ファルネセン由来の構造単位(b1)を1〜100質量%及びファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(b2)を99〜0質量%含有する重合体ブロックであることが好ましい。
上記ファルネセンとしては、α−ファルネセン、又は下記式(1)で表されるβ−ファルネセンのいずれでもよいが、ブロック共重合体(P)の製造容易性の観点から、β−ファルネセンが好ましい。また、β−ファルネセンはバイオ由来であってもよく、石油依存度を低減できる観点から、β−ファルネセンのASTM D6866に準拠して測定されるバイオベース濃度は、50%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上がより更に好ましく、98%以上が特に好ましい。なお、α−ファルネセンとβ−ファルネセンとは組み合わせて用いてもよい。
また、ファルネセンがバイオ由来である場合には、石油由来のブタジエン、イソプレンといったファルネセン以外の共役ジエンの使用量を抑制し、石油依存度を低減することができる。当該観点からは、重合体ブロック(B)中のファルネセン由来の構造単位(b1)の含有量は、50〜100質量%が好ましく、60〜100質量%がより好ましく、70〜100質量%が更に好ましく、80〜100質量%がより更に好ましい。
また、重合体ブロック(B)中に後述する構造単位(b2)を含有する場合、重合体ブロック(B)中のファルネセン由来の構造単位(b1)の含有量は、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、30質量%以上がより更に好ましく、50質量%以上が特に好ましい。
かかる共役ジエンとしては、例えばイソプレン、ブタジエン、2,3−ジメチル−ブタジエン、2−フェニル−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、2−メチル−1,3−オクタジエン、1,3,7−オクタトリエン、ミルセン及びクロロプレン等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも、イソプレン、ブタジエン及びミルセンが好ましく、イソプレン、ブタジエンがより好ましい。
重合体ブロック(B)中に構造単位(b2)を含有する場合、構造単位(b2)の含有量は、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下が更に好ましく、70質量%以下がより更に好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
ブロック共重合体(P)は、前述の重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)に加えて、更にファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(c2)を含有する重合体ブロック(C)を含むことが好ましい。
また、重合体ブロック(C)は、ファルネセン由来の構造単位(c1)の含有量が0質量%以上かつ1質量%未満であり、ファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(c2)の含有量が1〜100質量%であることがより好ましい。
ファルネセン由来の構造単位(c1)(以下、単に「構造単位(c1)」ともいう)を構成するファルネセン、及びファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(c2)(以下、単に「構造単位(c2)」ともいう)を構成する共役ジエンは、前述のファルネセン由来の構造単位(b1)を構成するファルネセン及びファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(b2)を構成する共役ジエンと同様のものが挙げられる。
ファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(c2)を構成する共役ジエンとしては、それらの中でも、イソプレン、ブタジエン及びミルセンが好ましく、イソプレン及びブタジエンがより好ましい。
重合体ブロック(C)中におけるファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(c2)の含有量は、60〜100質量%がより好ましく、80〜100質量%が更に好ましく、90〜100質量%がより更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
また、重合体ブロック(C)は、ファルネセン由来の構造単位(c1)及びファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(c2)以外の他の構造単位を含んでいてもよい。
重合体ブロック(C)中における構造単位(c1)及び構造単位(c2)の合計含有量は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
水添ブロック共重合体(I)は、重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)をそれぞれ少なくとも1個含むブロック共重合体(P)の水素添加物である。
重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)の結合形態は特に制限されず、直線状、分岐状、放射状又はそれらの2つ以上の組み合わせであってもよい。これらの中でも、各ブロックが直線状に結合した形態が好ましい。
直線状の結合形態としては、重合体ブロック(A)をA、重合体ブロック(B)をBで表したときに、(A−B)l、A−(B−A)m、又はB−(A−B)nで表される結合形態等を例示することができる。なお、前記l、m及びnはそれぞれ独立して1以上の整数を表す。
例えば、重合体ブロック(A)、重合体ブロック(B)、重合体ブロック(A)の順にブロックを有する結合形態であって、A−B−Aで表されるトリブロック共重合体の水素添加物を水添ブロック共重合体(I)として用いることができる。
ブロック共重合体(P)は、重合体ブロック(B)、重合体ブロック(A)、及び重合体ブロック(C)の順にブロックを有する構造(すなわち、B−A−Cの構造)であることが好ましい。
具体的には、ブロック共重合体(P)は、B−A−C−Aで表されるテトラブロック共重合体、B−A−C−A−Bで表されるペンタブロック共重合体、B−A−(C−A)p−B、B−A−(C−A−B)q、B−(A−C−A−B)r(p、q、rはそれぞれ独立して2以上の整数を表す)で表される共重合体であることが好ましく、中でもB−A−C−A−Bで表されるペンタブロック共重合体であることがより好ましい。
すなわち、水添ブロック共重合体(I)は、該ペンタブロック共重合体の水素添加物であることが好ましい。
・重合体ブロック(A)、重合体ブロック(B)及び重合体ブロック(C)を含むブロック共重合体(P)の水素添加物であり、
・重合体ブロック(C)が、ファルネセン由来の構造単位(c1)の含有量が0質量%以上かつ1質量%未満であり、ファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(c2)の含有量が1〜100質量%である重合体ブロックであり、
・重合体ブロック(A)と、重合体ブロック(B)と重合体ブロック(C)の合計量との質量比[(A)/((B)+(C))]が10/90〜30/70であり、
・ブロック共重合体(P)が、少なくとも2個の前記重合体ブロック(A)、少なくとも1個の前記重合体ブロック(B)、及び少なくとも1個の重合体ブロック(C)を含み、かつ少なくとも1個の重合体ブロック(B)を末端に有し、
・ブロック共重合体(P)中の共役ジエン由来の構成単位における炭素−炭素二重結合の水素添加率が50モル%以上である。
水添ブロック共重合体(I)は、重合体ブロック(A)、重合体ブロック(B)及び重合体ブロック(C)のほか、本発明の効果を阻害しない限り、他の単量体で構成される重合体ブロックを含むブロック共重合体(P)の水素添加物であってもよい。
水添ブロック共重合体(I)が他の重合体ブロックを有する場合、その含有量は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
水添ブロック共重合体(I)は、例えば重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)を含有するブロック共重合体(P)、あるいは重合体ブロック(C)を含む場合には重合体ブロック(A)、重合体ブロック(B)及び重合体ブロック(C)を含有するブロック共重合体(P)を、アニオン重合により得る重合工程、並びに該ブロック共重合体(P)中の共役ジエン由来の構造単位における炭素−炭素二重結合を水素添加する工程により好適に製造できる。
ブロック共重合体(P)は、溶液重合法又は特表2012−502135号公報、特表2012−502136号公報に記載の方法等により製造することができる。これらの中でも溶液重合法が好ましく、例えば、アニオン重合やカチオン重合等のイオン重合法、ラジカル重合法等の公知の方法を適用できる。これらの中でもアニオン重合法が好ましい。アニオン重合法としては、溶媒、アニオン重合開始剤、及び必要に応じてルイス塩基の存在下、芳香族ビニル化合物、ファルネセン及び/又はファルネセン以外の共役ジエンを逐次添加して、ブロック共重合体(P)を得る。
アニオン重合開始剤としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;ランタン、ネオジム等のランタノイド系希土類金属;前記アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド系希土類金属を含有する化合物などが挙げられる。中でもアルカリ金属及びアルカリ土類金属を含有する化合物が好ましく、有機アルカリ金属化合物がより好ましい。
重合に用いる有機アルカリ金属化合物の使用量は、ブロック共重合体(P)の分子量によっても異なるが、通常、芳香族ビニル化合物、ファルネセン及びファルネセン以外の共役ジエンの総量に対して0.01〜3質量%の範囲である。
重合反応は、メタノール、イソプロパノール等のアルコールを重合停止剤として添加して停止できる。得られた重合反応液をメタノール等の貧溶媒に注いでブロック共重合体(P)を析出させるか、重合反応液を水で洗浄し、分離後、乾燥することによりブロック共重合体(P)を単離できる。
なお、前記水添ブロック共重合体(I)が、ポリマー鎖の片末端にのみ重合体ブロック(B)を有する場合には、直線状に結合するように他の各重合体ブロックを重合させた後で、最後に重合体ブロック(B)を製造する方法により得てもよい。
〔i〕重合体ブロック(B)、重合体ブロック(A)、重合体ブロック(C)、及び重合体ブロック(A)をこの順に重合する方法、及び
〔ii〕重合体ブロック(B)、重合体ブロック(A)、及び重合体ブロック(C)をこの順に重合し、重合体ブロック(C)の末端同士を、カップリング剤を用いてカップリングすることにより製造する方法、等が挙げられる。
本発明においては、効率的に製造する観点から、カップリング剤を用いる後者の方法〔ii〕が好ましい。
変性したブロック共重合体の場合、後述の水素添加工程の前に、前記ブロック共重合体を変性してもよい。導入可能な官能基としては、例えばアミノ基、アルコキシシリル基、水酸基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、メルカプト基、イソシアネート基、酸無水物基等が挙げられる。
ブロック共重合体の変性方法としては、例えば、重合停止剤を添加する前に、重合活性末端と反応し得る四塩化錫、テトラクロロシラン、ジクロロジメチルシラン、ジメチルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、テトラグリシジル−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、2,4−トリレンジイソシアネート等のカップリング剤や、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、N−ビニルピロリドン等の重合末端変性剤、又は特開2011−132298号公報に記載のその他の変性剤を添加する方法が挙げられる。また、単離後の共重合体に無水マレイン酸等をグラフト化して用いることもできる。
官能基が導入される位置はブロック共重合体の重合末端でも、側鎖でもよい。また上記官能基は1種又は2種以上を組み合わせてもよい。上記変性剤は、アニオン重合開始剤1モルに対して、0.01〜10モル当量の範囲であることが好ましい。
前記方法により得られたブロック共重合体(P)又は変性されたブロック共重合体を水素添加する工程に付すことにより、水添ブロック共重合体(I)を得ることができる。
水素添加する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、水素添加反応に影響を及ぼさない溶媒にブロック共重合体(P)を溶解させた溶液に、チーグラー系触媒;カーボン、シリカ、けいそう土等に担持されたニッケル、白金、パラジウム、ルテニウム又はロジウム金属触媒;コバルト、ニッケル、パラジウム、ロジウム又はルテニウム金属を有する有機金属錯体などを、水素添加触媒として存在させて水素化反応を行う。
水素添加工程においては、前記したブロック共重合体(P)の製造方法によって得られたブロック共重合体(P)を含む重合反応液に水素添加触媒を添加して水素添加反応を行ってもよい。本発明において水素添加触媒は、パラジウムをカーボンに担持させたパラジウムカーボンが好ましい。
水素添加反応において、水素圧力は0.1〜20MPaが好ましく、反応温度は100〜200℃が好ましく、反応時間は1〜20時間が好ましい。
なお、水素添加率は、ブロック共重合体(P)及び水素添加後の水添ブロック共重合体(I)の1H−NMRを測定することにより算出でき、具体的には実施例に記載した方法で算出される。
水添ブロック共重合体(I)の分子量分布(Mw/Mn)は1〜6が好ましく、1〜4がより好ましく、1〜3が更に好ましく、1〜2がより更に好ましい。分子量分布が前記範囲内であると、水添ブロック共重合体(I)の粘度のばらつきが小さく、取り扱いが容易である。
なお、本明細書におけるピークトップ分子量(Mp)及び分子量分布(Mw/Mn)は後述する実施例に記載した方法で測定した値を意味する。
本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂(II)(以下、単に「樹脂(II)」ともいう)を含有する。
前記水添ブロック共重合体(I)に樹脂(II)を含有させることにより、得られる成形体に硬度を付与することができる。本発明においては、水添ブロック共重合体(I)を含む海相と樹脂(II)を含む島相とからなる海島構造とすることで、樹脂組成物に適度な硬度を付与しながら、高いグリップ性能を維持でき、柔軟性、引張特性及びグリップ性能をバランスよく向上させることができる。これは、水添ブロック共重合体(I)が海相を形成していることで、水添ブロック共重合体(I)が持つ柔軟性やグリップ性が維持されつつも、島相として微細に分散した樹脂(II)が適度な硬度を付与し、さらに成形加工性にも寄与するため、成形体とした場合に良好な表面平滑性を有する成形体を得ることができる。その結果、柔軟性、引張特性及びグリップ性能をバランスよく向上させることができるものと推測される。
ポリオレフィン系樹脂(II)は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
ポリオレフィン系樹脂(II)のバイオベース濃度は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。ポリオレフィン系樹脂(II)のバイオベース濃度は、ASTM D6866に準拠して測定される樹脂中のバイオ由来原料の割合を意味する。
ポリオレフィン系樹脂(II)の密度は、柔軟性、引張特性及びグリップ性能の観点から、好ましくは0.85〜0.95g/cm3、より好ましくは0.87〜0.94g/cm3、さらに好ましくは0.90〜0.93g/cm3である。
ポリエチレン系樹脂のメルトフローレートが上記範囲であることで、樹脂組成物の成形加工性が良好となり、例えば成形体とした場合に、表面平滑性が向上することから、良好なグリップ性を得ることが可能である。
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレートが上記範囲であることで、樹脂組成物の成形加工性が良好となり、例えば成形体とした場合に、表面平滑性が向上することから、良好なグリップ性を得ることが可能である。
なお、水添ブロック共重合体(I)の前記MFR(I)は温度200℃、荷重21Nの条件下で測定され、ポリエチレン系樹脂の前記メルトフローレートは温度190℃、荷重21Nの条件下で測定される。
前記水添ブロック共重合体(I)と前記樹脂(II)との質量比[(I)/(II)]は、65/35〜99/1が好ましく、65/35〜95/5がより好ましく、65/35〜85/15が更に好ましく、68/32〜85/15がより更に好ましく、68/32〜75/25が特に好ましい。該質量比が上記範囲であれば、水添ブロック共重合体(I)を含む海相と樹脂(II)を含む島相とからなる微細な海島構造を形成することができ、硬度を向上しつつ、良好な表面平滑性を有し、柔軟性、引張特性及びグリップ性能に優れる成形体を与える樹脂組成物とすることができる。
なお、本発明の樹脂組成物は、発明の効果を損なわない範囲で他の任意成分を含んでもよく、該樹脂組成物における前記水添ブロック共重合体(I)及び前記樹脂(II)の合計含有量は特に限定されないが、本発明の効果を奏する観点から80〜100質量%が好ましく、85〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が更に好ましい。
(その他の樹脂)
本発明の樹脂組成物は、発明の効果を損なわない範囲で、前記水添ブロック共重合体(I)及び前記樹脂(II)以外のその他の樹脂を含有してもよい。
含有させることができるその他の樹脂としては、例えばポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びポリアミド系樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。樹脂組成物中のその他の樹脂の含有量は、1〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
(軟化剤)
本発明の樹脂組成物は、発明の効果を損なわない範囲で、軟化剤を含有してもよい。しかし、本発明の樹脂組成物は、前述の構成によって成形加工に十分な流動性を有していることから軟化剤を含有しなくともよい。特に、軟化剤の中でもパラフィン系、ナフテン系及び芳香族系等のプロセスオイル、ミネラルオイル、ホワイトオイル等のオイル系軟化剤は、成形体とした際に経時的にオイルが染み出てくるおそれがあるため樹脂組成物に含有させないことが好ましい。
軟化剤を含有する場合の含有量は、本発明の樹脂組成物中、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、更に好ましくは0質量%、すなわち含有させないことである。
本発明の樹脂組成物は、無機充填剤を含有してもよい。
無機充填剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、ガラス繊維、カーボン繊維、マイカ、カオリン、酸化チタン等が挙げられ、これらの中でもタルク、炭酸カルシウム、シリカが好ましい。
無機充填剤の含有量は、本発明の樹脂組成物中、好ましくは1〜30質量%である。
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、更にその他の添加剤、例えば、熱老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、発泡剤、顔料、染料、増白剤等を添加することができる。
その他の添加剤の含有量は、本発明の樹脂組成物中、好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは0.01〜10質量%、更に好ましくは0.05〜1質量%である。
本発明の樹脂組成物の製造方法に特に制限はなく、前記水添ブロック共重合体(I)、前記樹脂(II)及び必要に応じて前記その他の成分をプレブレンドして一括混合してから一軸押出機、多軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール、各種ニーダー等を用いて溶融混練する方法、並びに水添ブロック共重合体(I)、前記樹脂(II)及び必要に応じてその他の成分を別々の仕込み口から供給して溶融混練する方法等が挙げられる。
また、プレブレンドする方法としては、ヘンシェルミキサー、ハイスピードミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダー等の混合機を用いる方法が挙げられる。溶融混練時の温度は好ましくは150℃〜300℃の範囲で任意に選択することができる。
本発明の樹脂組成物は、水添ブロック共重合体(I)を含む海相と、樹脂(II)を含む島相とからなる海島構造を有するものである。該海島構造を有することによって、柔軟性、引張特性及びグリップ性能が良好となる。また、樹脂組成物に例えば無機充填剤等の水添ブロック共重合体(I)及び樹脂(II)以外の成分が含まれる場合、これら成分は海相及び島相に分散される。
島相の形状としては、例えば、球状、楕円状、棒状等が挙げられる。また、本発明の樹脂組成物は、射出成形及び押出成形等の成形後であっても、上記海島構造(モルフォロジー)が安定していることが好ましい。
また、島相の平均長径値と平均短径値との比[平均長径値/平均短径値]は、成形加工性等の観点から、好ましくは0.5〜2.5であり、より好ましくは1.0〜2.3であり、更に好ましくは1.5〜2.0である。
本発明の樹脂組成物を射出成形してなる射出成形体を、ウルトラミクロトーム(ライカマイクロシステムズ社製)を用いて−100℃で切削して得られる切片を観察試料とする。そして、走査型プローブ顕微鏡SPM−9700(株式会社島津製作所社製)を用いて、常温条件下、オペレーティングポイント0.22〜1.40V、ドライブゲイン0.0059〜0.0278、位相モードで該切片(すなわち射出成形体断面)のモルフォロジー構造を観察する。更に、観察で得られた画像を解析ソフトIMAGE−PROPLUS(株式会社日本ローパー社製)で8ビットグレイスケールに変換し、手動抽出により、色の濃い部分として観察される島相260〜400個の粒子径(長径及び短径)を測定し、平均長径値及び平均短径値を算出し、平均長径値と平均短径値との平均値を平均粒子径とし、平均長径値と平均短径値との比[平均長径値/平均短径値]を算出する。
本発明の樹脂組成物は、硬度及び静摩擦係数によってグリップ性能を評価することができる。
本発明の樹脂組成物は、JIS K6253−3:2012に準じて測定された硬度と、ASTM D−1894に準じて測定された静摩擦係数とを乗じた値は、ドライ条件及びウェット条件のいずれの場合も、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは95以上である。
硬度と静摩擦係数とを乗じた値がドライ条件で測定された場合、上記値は、好ましくは100以上であり、より好ましくは150以上であり、更に好ましくは200以上、より更に好ましくは250以上である。
硬度と静摩擦係数とを乗じた値がウェット条件で測定された場合、上記値は、好ましくは100以上、より好ましくは130以上、更に好ましくは150以上、より更に好ましくは170以上である。
摩擦係数は硬度の影響を受けやすいため、硬度及び静摩擦係数の両方を考慮し、本発明においては硬度と静摩擦係数を乗じた値を物性の指標としている。該値が上記範囲であればグリップ性能が優れたものとなる。
本発明の樹脂組成物は、JIS K 6253−3:2012のタイプAデュロメータ法による硬度(以下、「A硬度」ともいう)が、好ましくは75以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは65以下である。
また、A硬度は、好ましくは25以上であり、より好ましくは30以上であり、更に好ましくは35以上である。A硬度が上記範囲であれば成形加工性が良好となり、また良好な柔軟性から摩擦力が高くなりグリップ性能にも優れたものとなる。
なお、硬度のより具体的な測定条件は後述する実施例に記載したとおりである。
本発明の樹脂組成物は、ASTM D−1894に準じて測定された静摩擦係数が、ドライ条件で、好ましくは3.0以上、より好ましくは3.5以上、更に好ましくは4.0以上、より更に好ましくは4.5以上である。
また、ウェット条件で、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2.0以上、更に好ましくは2.5以上、より更に好ましくは3.0以上である。
静摩擦係数が上記範囲であればドライグリップ性能及びウェットグリップ性能が良好となる。
ドライ条件及びウェット条件については、後述する実施例に記載した測定条件を意味し、静摩擦係数のより具体的な測定条件は後述する実施例に記載したとおりである。
本発明の樹脂組成物を射出成形して得られる成形体についてJIS K6251:2010に準じ、縦方向(MD)と横方向(TD)それぞれについて切断時伸び(引張破断伸び)を測定した場合、縦方向(MD)と横方向(TD)との引張破断伸びの比[(MD)/(TD)]は、好ましくは0.4〜1.4、より好ましくは0.5〜1.0、更に好ましくは0.6〜0.8である。比[(MD)/(TD)]が上記範囲であれば良好な柔軟性を有し、グリップ性能に優れた樹脂組成物となる。
また、上記縦方向(MD)及び横方向(TD)の引張破断伸びは、それぞれ好ましくは250%以上、より好ましくは300%以上、更に好ましくは350%以上、より更に好ましくは400%以上である。
また、上記射出成形体は、後述する成形条件により成形することができる。
本発明の樹脂組成物を射出成形にて得られる成形体についてJIS K6251:2010に準じ、縦方向(MD)と横方向(TD)それぞれについて切断時引張強さ(引張破断強度)を測定した場合、縦方向(MD)及び横方向(TD)の引張破断強度が、それぞれ好ましくは2.0MPa以上、より好ましくは3.0MPa以上、更に好ましくは4.0MPa以上である。引張破断強度が2.0MPa以上であれば、引張特性が良好なものとなる。
[100%モジュラス]
本発明の樹脂組成物は、JIS K6251:2010に準じて測定した上記縦方向(MD)及び横方向(TD)の100%モジュラスが、それぞれ好ましくは0.4MPa以上、より好ましくは0.8MPa以上、更に好ましくは1.0MPa以上、より更に好ましくは1.5MPa以上である。
100%モジュラスが0.4MPa以上であれば、引張特性が良好なものとなる。
なお、引張破断伸び、引張破断強度、及び100%モジュラスのより具体的な測定条件は後述する実施例に記載したとおりである。
本発明の樹脂組成物のバイオベース度は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上である。上記バイオベース度は樹脂組成物の石油依存度を示す指標であり、バイオベース度が上記範囲であることで、石油依存度を低減することができる。
上記バイオベース度(質量%)は、水添ブロック共重合体(I)とポリオレフィン系樹脂(II)の質量比率及びバイオベース濃度から下記式より算出される。
バイオベース度(質量%)=(MI×XI/100)+(MII×XII/100)
(上記式中、MIは水添ブロック共重合体(I)とポリオレフィン系樹脂(II)の合計質量に対する水添ブロック共重合体(I)の質量比率(質量%)、MIIは水添ブロック共重合体(I)とポリオレフィン系樹脂(II)の合計質量に対するポリオレフィン系樹脂(II)の質量比率(質量%)を示す。XI(%)は水添ブロック共重合体(I)のバイオベース濃度、XII(%)はポリオレフィン系樹脂(II)のバイオベース濃度を示す。
なお、バイオベース濃度はASTM D6866に準拠して測定される。)
本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物からなるものである。
成形体の形状は、本発明の樹脂組成物を用いて製造できる成形体であればいずれでもよく、例えばペレット、フィルム、シート、プレート、パイプ、チューブ、棒状体、粒状体等種々の形状に成形することができる。この成形体の製造方法は特に制限はなく、従来からの各種成形法、例えば、射出成形、ブロー成形、プレス成形、押出成形、カレンダー成形等により成形することができる。本発明の樹脂組成物は成形加工性に優れるため、射出成形体又は押出成形体が好適であり、特に射出成形体を好適に得ることができる。
本発明の樹脂組成物及び成形体は、ドライグリップ性能及びウェットグリップ性能に優れるため、本発明の樹脂組成物を少なくとも一部に用いたグリップ(持ち手部分)及び敷物(マット)等の成形品として好適に用いることができる。
具体的には、ゴルフクラブ、テニスラケット、スキーのストック、自転車、バイク、釣具及び水上競技等のスポーツ及びフィットネス等に用いられる器具のグリップ;ハンマー、ドライバー、ペンチ及びレンチ等の工具及び電気工具のグリップ;台所用品、歯ブラシ、歯間ブラシ、髭剃り、浴槽の手すり等の水周り用品のグリップ;ペン及びはさみ等の筆記用具のグリップ;シフトレバー及びアシストノブ等の自動車内外装用いられるグリップ;傘等の雨具のグリップ;鞄のグリップ;手袋の滑り止め;キッチンマット等の滑り止めマット;履物用靴底などに好適に用いることができる。
<水添ブロック共重合体(I)>
後述の製造例1〜3の水添ブロック共重合体(I−1)〜(I−3)
<水添ブロック共重合体(I’)>
後述の比較製造例1の水添ブロック共重合体(I’−1)
<ポリオレフィン系樹脂(II)>
ポリエチレン(II−1):バイオLDPEポリエチレン(製品名:SPB608、Braskem社製、メルトフローレート:30g/10分(190℃、21N)、密度:0.915g/cm3、バイオベース濃度(ASTM D6866):95%)
ポリエチレン(II−2):バイオLDPEポリエチレン(製品名:SEB853、Braskem社製、メルトフローレート:2.7g/10分(190℃、21N)、密度:0.923g/cm3、バイオベース濃度(ASTM D6866):95%)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(製品名:アデカスタブAO−60、株式会社ADEKA製)
(1)分子量分布及びピークトップ分子量(Mp)等の測定
水添ブロック共重合体(I)又は(I’)及びスチレンブロックのピークトップ分子量(Mp)及び分子量分布(Mw/Mn)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により標準ポリスチレン換算分子量で求め、分子量分布のピークの頂点の位置からピークトップ分子量(Mp)を求めた。測定装置及び条件は、以下のとおりである。
・装置 :東ソー株式会社製 GPC装置「HLC−8320GPC」
・分離カラム :東ソー株式会社製 カラム「TSKgelSuperHZ4000」
・溶離液 :テトラヒドロフラン
・溶離液流量 :0.7mL/min
・サンプル濃度:5mg/10mL
・カラム温度 :40℃
ブロック共重合体(P)又は(P’)及び水素添加後の水添ブロック共重合体(I)又は(I’)をそれぞれ重クロロホルム溶媒に溶解し、日本電子株式会社製「Lambda−500」を用いて50℃で1H−NMRを測定した。水添ブロック共重合体(I)又は(I’)のブロック共重合体(P)又は(P’)中の共役ジエン由来の構造単位における炭素−炭素二重結合の水素添加率は、得られたスペクトルの4.5〜6.0ppmに現れる炭素−炭素二重結合が有するプロトンのピークから、下記式により算出した。
水素添加率(モル%)={1−(水添ブロック共重合体(I)又は(I’)1モルあたりに含まれる炭素−炭素二重結合のモル数)/(ブロック共重合体(P)又は(P’)1モルあたりに含まれる炭素−炭素二重結合のモル数)}×100
JIS K7210−1:2014に準じて温度200℃、荷重21Nにて、標準ダイ(直径2.095mm、長さ8.000mm)から流出する溶融樹脂量(g/10分)を測定し、水添ブロック共重合体(I)又は(I’)のMFRとした。
[製造例1]
水添ブロック共重合体(I−1)
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50.0kg、アニオン重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)0.1905kg、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン0.40kgを仕込み、50℃に昇温した後、β−ファルネセン6.34kgを加えて2時間重合を行い、引き続いてスチレン(1)2.50kgを加えて1時間重合させ、更にブタジエン3.66kgを加えて1時間重合を行った。続いてこの重合反応液にカップリング剤としてジクロロジメチルシラン0.02kgを加え1時間反応させることで、ポリ(β−ファルネセン)−ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン−ポリ(β−ファルネセン)ペンタブロック共重合体(P−1)を含む反応液を得た。
この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を前記ブロック共重合体(P−1)に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、更に真空乾燥することにより、ポリ(β−ファルネセン)−ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン−ポリ(β−ファルネセン)ペンタブロック共重合体の水素添加物(I−1)(以下、「水添ブロック共重合体(I−1)」という。)を得た。得られた水添ブロック共重合体(I−1)のASTM D6866に準拠して測定されたバイオベース濃度は50%であった。
得られた水添ブロック共重合体(I−1)について、上記の物性を測定した。結果を表1に示す。
水添ブロック共重合体(I−2)
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50.0kg、アニオン重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)0.0413kgを仕込み、50℃に昇温した後、スチレン(1)1.12kgを加えて1時間重合を行い、続いてβ−ファルネセン10.25kgを加えて2時間重合を行い、更にスチレン(2)1.12kgを加えて1時間重合を行い、ポリスチレン−ポリ(β−ファルネセン)−ポリスチレントリブロック共重合体(P−2)を含む反応液を得た。この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を前記ブロック共重合体(P−2)に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、さらに真空乾燥することにより、ポリスチレン−ポリ(β−ファルネセン)−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、「水添ブロック共重合体(I−2)」という。)を得た。得られた水添ブロック共重合体(I−2)のASTM D6866に準拠して測定されたバイオベース濃度は80%であった。水添ブロック共重合体(I−2)について上記の物性を測定した。結果を表1に示す。
水添ブロック共重合体(I−3)
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50.0kg、アニオン重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)0.0155gを仕込み、50℃に昇温した後、スチレン(1)1.32kgを加えて1時間重合を行い、続いてβ−ファルネセン6.18kgを加えて2時間重合を行い、更にスチレン(2)1.32kgを加えて1時間重合を行い、ポリスチレン−ポリ(β−ファルネセン)−ポリスチレントリブロック共重合体(P−3)を含む反応液を得た。この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を前記ブロック共重合体(P−3)に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、さらに真空乾燥することにより、ポリスチレン−ポリ(β−ファルネセン)−ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、「水添ブロック共重合体(I−3)」という。)を得た。得られた水添ブロック共重合体(I−3)のASTM D6866に準拠して測定されたバイオベース濃度は68%であった。水添ブロック共重合体(I−3)について上記の物性を測定した。結果を表1に示す。
[比較製造例1]
水添ブロック共重合体(I’−1)
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン62.4kg、アニオン重合開始剤としてsec−ブチルリチウム(10.5質量%シクロヘキサン溶液)0.054kgを仕込み、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン0.359kgを仕込んだ。60℃に昇温した後、スチレン(1)0.33kgを加えて1時間重合させ、引き続いてブタジエン4.92及びkgイソプレン4.77kgの混合物を加えて2時間重合を行い、更にスチレン(2)0.99kgを加えて1時間重合することにより、スチレン−(ブタジエン/イソプレン)−スチレンブロック共重合体(P’−1)を含む反応液を得た。
この反応液に、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)を前記ブロック共重合体(P’−1)に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。
放冷、放圧後、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、濾液を濃縮し、更に真空乾燥することにより、スチレン−(ブタジエン/イソプレン)−スチレンブロック共重合体の水素添加物(以下、「水添ブロック共重合体(I’−1)」という。)を得た。なお、水添ブロック共重合体(I’−1)はバイオ由来原料を含まないため、バイオベース濃度を0%とみなした。
得られた水添ブロック共重合体(I’−1)について、上記の物性を測定した。結果を表1に示す。
*1:(A)/(B)は、重合体ブロック(A)の含有量と重合体ブロック(B)の含有量との質量比を示す。ただし、重合体ブロック(B)を有する場合のみ示す。
*2:(A)/((B)+(C))は、重合体ブロック(A)の含有量と、重合体ブロック(B)及び重合体ブロック(C)それぞれの含有量の合計との質量比を示す。ただし、重合体ブロック(C)を有する場合のみ示す。
*3:(b1)/(B)は、重合体ブロック(B)中のファルネセン由来の構造単位(b1)の含有量(質量%)を示す。ただし、重合体ブロック(B)を有する場合のみ示す。
*4:((b1)+(c1))/((B)+(C))は、重合体ブロック(B)及び重合体ブロック(C)の合計量に対する構造単位(b1)及び構造単位(c1)の合計含有量(質量%)を示す。ただし、重合体ブロック(C)を有する場合のみ示す。
*5:ブロック共重合体(P−1)〜(P−3)及び(P’−1)のポリマー骨格を示す。
F−St−Bd−St−Fは、ポリ(β−ファルネセン)−ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン−ポリ(β−ファルネセン)ペンタブロック共重合体を示す。
St−F−Stは、ポリスチレン−ポリ(β−ファルネセン)−ポリスチレントリブロック共重合体を示す。
St−(Bd/Ip)−Stは、ポリスチレン−ポリ(ブタジエン/イソプレン)−ポリスチレントリブロック共重合体を示す。
*6:水素添加率は、ブロック共重合体(P−1)〜(P−3)及び(P’−1)中の共役ジエン由来の構造単位における炭素−炭素二重結合の水素添加率を示す。
表2に示す配合にしたがって、各成分をそれぞれ予備混合した。
次いで、二軸押出機(Coperion社製「ZSK26Mc」;シリンダー数14)を用い、シリンダー温度200℃、スクリュー回転数300rpmの条件下で、上記予備混合した組成物をホッパーに供給した。更に、溶融混練し、ストランド状に押し出して切断し、樹脂組成物のペレットを製造した。
各例で得られた樹脂組成物のペレットを、射出成形機「EC75SX」(東芝機械株式会社製)によりシリンダー温度200℃、金型温度40℃、射出圧力80MPaで射出成形し、縦110mm、横110mm、厚み2mmの射出シートを作製した。
(海島構造)
(1)海島構造の観察
実施例1〜4及び比較例1で得られた射出シートを、ウルトラミクロトーム(ライカマイクロシステムズ社製)を用いて−100℃で切削することにより得られた切片を、走査型プローブ顕微鏡SPM−9700(株式会社島津製作所社製)を用いて、常温条件下において、オペレーティングポイント0.22〜1.40V、ドライブゲイン0.0059〜0.0278、位相モードで射出シート断面のモルフォロジー構造を観察した。
図1〜4は、実施例1〜4で得られた射出シートの断面の走査型プローブ顕微鏡像である。走査型プローブ顕微鏡は、感知レバーを振幅させることにより試料の硬さの違いで試料のモロフォロジーを観察することが可能であり、試料中の硬度が高い部分は色が濃く、すなわち黒色に近い色で観察される。本実施例の場合、ポリエチレン(II−1)及び(II−2)は水添ブロック共重合体(I−1)〜(I−3)よりも硬度が高いため、上記射出シート中、水添ブロック共重合体(I−1)〜(I−3)の占める領域が色の淡い領域として、ポリエチレン(II−1)、(II−2)の占める領域が色の濃い領域として観察される。従って、図1〜4から、色の淡い領域が海相を形成し、色の濃い領域が島相を形成していることがわかり、本発明におけるファルネセン由来の構造単位(b1)を含有する重合体ブロック(B)を含む水添ブロック共重合体(I)が海相を形成し、ポリオレフィン系樹脂(II)が島相を形成していることが確認できた。
なお、図4においては、色の淡い海相の中にも色の濃い部分が点在して見えるが、これは水添ブロック共重合体(I−3)中のスチレンブロックの分子量が高いために該スチレンブロックが観察されたものと考えられる。
一方、図5は、比較例1で得られた射出シートの断面の走査型プローブ顕微鏡像であるが、図5の海相を形成する水添ブロック共重合体(I’−1)はファルネセン由来の構造単位(b1)を含有する重合体ブロック(B)を含まず、また図5の島相は、後述に示すとおり、図1〜4と比較して島相の平均長径値と平均短径値との比[平均長径値/平均短径値]が大きい形状であった。
(2)粒子径
上述の方法により、水添ブロック共重合体を含む海相とポリオレフィン系樹脂を含む島相とからなる海島構造が確認できた射出成形シートについて、島相の粒子径を次のように求めた。
上記観察で得られた画像を、解析ソフトIMAGE−PRO PLUS(株式会社日本ローパー社製)で、8ビットグレイスケールに変換し、手動抽出により色の濃い領域260〜400個所の粒子径(長径及び短径)を測定し、平均長径値、平均短径値、平均長径値と平均短径値の平均値、及び平均長径値と平均短径値との比[平均長径値/平均短径値]を算出した。
実施例及び比較例で得られた各樹脂組成物の射出シートからJIS K 6251:2010に準拠した打ち抜き刃を用い、ダンベル3号形試験片(2mm)を得た。
得られた試験片を3枚重ねて厚み6mmの硬度をタイプAデュロメータの圧子を用い、JIS K 6253−3:2012に準拠して測定した。なお、硬度の数値が低いほど柔軟性に優れる。
上記(硬度)測定と同様の方法で作製したダンベル3号形試験片(2mm)を用い、JIS K 6251:2010に準じて、100%モジュラス、引張破断強度及び引張破断伸びを、MD(縦)方向及びTD(横)方向のそれぞれの流れ方向について測定し、また引張破断伸びのMD方向とTD方向の比[(MD)/(TD)]を算出した。引張破断強度及び引張破断伸びの数値が高いほど引張特性に優れる。また、引張破断伸びのMD方向とTD方向の比[(MD)/(TD)]が小さいほど、成形加工性に優れる。
(1)ドライ
ASTM D-1894に準じて、実施例及び比較例で得られた各樹脂組成物の射出シートの表面の静摩擦係数を測定した。
上記射出シートから縦110mm、横63.5mm、厚さ2mmの試験片を切り出してセル(重さ200g、63.5mm×63.5mm)に巻き付け、摩擦係数測定装置の試験片台が水平になるようにオートグラフヘッドに固定した。摩擦台の材質をアルミとし、引張速度150mm/分で静摩擦係数を測定した。静摩擦係数の数値が高いほど摩擦力が大きく滑りにくく、グリップ性能に優れる。
(2)ウェット
摩擦台に蒸留水を1cc垂らした以外は、上記(1)ドライと同様の方法で静摩擦係数を測定した。
・「長径」は、任意260〜400個の粒子(島相)の長径の平均値である。
・「短径」は、任意260〜400個の粒子(島相)の短径の平均値である。
・「平均」は、平均粒子径のことであり平均長径値と平均短径値の平均値である。
・「長径/短径」は、平均長径値と平均短径値との比[平均長径値/平均短径値]である。
Claims (19)
- 芳香族ビニル化合物由来の構造単位を含有する重合体ブロック(A)及びファルネセン由来の構造単位(b1)を含有する重合体ブロック(B)を少なくとも含むブロック共重合体(P)中の共役ジエン由来の構造単位における炭素−炭素二重結合が50モル%以上水素添加された水添ブロック共重合体(I)、並びにポリオレフィン系樹脂(II)を含有し、
該水添ブロック共重合体(I)を含む海相と、該ポリオレフィン系樹脂(II)を含む島相とからなる海島構造を有する、樹脂組成物。 - 前記重合体ブロック(B)が、前記ファルネセン由来の構造単位(b1)を1〜100質量%及びファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(b2)を99〜0質量%含有する重合体ブロックである、請求項1に記載の樹脂組成物。
- 前記水添ブロック共重合体(I)と前記ポリオレフィン系樹脂(II)との質量比[(I)/(II)]が65/35〜99/1である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
- 前記ポリオレフィン系樹脂(II)が、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
- バイオベース度が30質量%以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 前記芳香族ビニル化合物が、スチレン、α−メチルスチレン、及び4−メチルスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 前記ブロック共重合体(P)が、更にファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(c2)を含有する重合体ブロック(C)を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 前記構造単位(c2)を構成する共役ジエンが、イソプレン、ブタジエン及びミルセンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の樹脂組成物。
- 前記重合体ブロック(C)が、ファルネセン由来の構造単位(c1)の含有量が0質量%以上かつ1質量%未満であり、前記ファルネセン以外の共役ジエン由来の構造単位(c2)の含有量が1〜100質量%である重合体ブロックであり、
前記ブロック共重合体(P)が、少なくとも2個の前記重合体ブロック(A)、少なくとも1個の前記重合体ブロック(B)、及び少なくとも1個の前記重合体ブロック(C)を含有し、かつ少なくとも1個の前記重合体ブロック(B)を末端に有する、請求項7又は8に記載の樹脂組成物。 - JIS K6253−3:2012に準じて測定された硬度と、ASTM D−1894に準じて測定された静摩擦係数とを乗じた値が80以上である、請求項1〜9のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 前記島相の平均粒子径が0.13μm以下である、請求項1〜10のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 前記島相の平均長径値と平均短径値との比[平均長径値/平均短径値]が、2.5以下である、請求項1〜11のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 射出成形にて得られる成形体についてJIS K6251:2010に準じて測定した、縦方向(MD)と横方向(TD)との引張破断伸びの比[(MD)/(TD)]が0.4〜1.4である、請求項1〜12のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 前記水添ブロック共重合体(I)の200℃、荷重21Nでの条件下におけるメルトフローレートが0.01〜50(g/10分)である、請求項1〜13のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 前記ポリオレフィン系樹脂(II)がポリエチレン系樹脂であり、該ポリエチレン系樹脂の190℃、荷重21Nでの条件下におけるメルトフローレートが0.1〜100(g/10分)である、請求項1〜14のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 軟化剤を含有しない、請求項1〜15のいずれかに記載の樹脂組成物。
- 請求項1〜16のいずれかに記載の樹脂組成物の成形体。
- 請求項1〜16のいずれかに記載の樹脂組成物を少なくとも一部に用いた、グリップ。
- 請求項1〜16のいずれかに記載の樹脂組成物を少なくとも一部に用いた、敷物。
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