JP2019050737A - Cd44陽性tmem−180陽性のがん細胞由来微粒子、これを用いた抗tmem−180抗体療法が有効ながん患者の選別方法、選別された患者に対する抗tmem−180抗体を含む抗がん剤、および前記方法に用いるキット - Google Patents

Cd44陽性tmem−180陽性のがん細胞由来微粒子、これを用いた抗tmem−180抗体療法が有効ながん患者の選別方法、選別された患者に対する抗tmem−180抗体を含む抗がん剤、および前記方法に用いるキット Download PDF

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保広 松村
Yasuhiro Matsumura
保広 松村
正浩 安永
Masahiro Yasunaga
正浩 安永
信史 西條
Nobushi Saijo
信史 西條
慎悟 花岡
Shingo Hanaoka
慎悟 花岡
高廣 安西
Takahiro Anzai
高廣 安西
遼 津村
Ryo Tsumura
遼 津村
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Abstract

【課題】CD44陽性TMEM-180(Transmembrane protein−180)陽性の血中浮遊粒子、これを用いた抗TMEM-180抗体療法が有効ながん患者の選別方法、選別された患者に対する抗TMEM-180抗体を含む抗がん剤、および前記方法に用いるキットの提供。
【解決手段】(1)単離されたTMEM−180陽性CD44陽性の細胞外小胞。(2)CD44陽性TMEM−180陽性のがん細胞を有するか否か決定する抗TMEM−180抗体を含む抗がん剤の治療有効性を分析する方法、及びその方法に用いるためのキット。
【選択図】なし

Description

本発明は、CD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞由来微粒子、これを用いた抗TMEM-180抗体療法が有効ながん患者の選別方法、選別された患者に対する抗TMEM-180抗体を含む抗がん剤、および前記方法に用いるキットに関する。
近年、抗がん剤として、特定の分子に特異的に作用する分子標的薬が多数開発されている。特に、あるがん細胞に特異的に発現している分子や、がん細胞において発現が亢進している分子を抗原とした様々な抗体医薬の開発が進められている。このような抗体医薬の開発では、まず、手術の際に採取したがん組織におけるmRNA発現と、その近傍から採取した正常組織におけるmRNAの発現を比較して、がん組織のみに特異的に発現している分子や、がん組織において発現が亢進している分子を特定し、これを抗原として抗体を作製する。
大腸がんは、大腸粘膜の細胞から発生するがんである。これまでに、上皮成長因子受容体(Epidermal Growth Factor Receptor; EGFR)を標的とする抗体であるセツキシマブが開発され、大腸がんに使用されている(非特許文献1〜3)。しかしながら、EGFRは正常組織でも発現しているため、セツキシマブは正常組織にも作用する可能性があり、より特異的に大腸がんに発現する分子を標的とした分子標的薬の開発が望まれていた。この点、大腸がんが発生する粘膜組織はわずかしか存在しないため、がん化した粘膜細胞と正常な粘膜細胞を比較して標的分子を特定することが難しいという問題があった。
大腸がんにTMEM-180という膜タンパク質が発現していること、TMEM-180はがん細胞特異的に発現すること、これにより大腸がんの診断が可能であること、および抗TMEM-180抗体が抗腫瘍効果を有することが示されている(特許文献1)。
WO2016039321A
Cunningham D. et al., The New England Journal of Medicine., Vol.351, No.4, 2004, p.p.337-345. Goldstein NI. Et al., Clin Cancer Res. Vol.1, 1311-1318, 1995. Karapetis CS. Et al., The New Engl J Med. Vol.359, 1757-1765.
本発明は、CD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞由来微粒子、これを用いた抗TMEM-180抗体療法が有効ながん患者の選別方法、選別された患者に対する抗TMEM-180抗体を含む抗がん剤、および前記方法に用いるキットを提供する。
本発明者らは、CD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞が、抗TMEM-180抗体による治療に感受性であることを明らかにした。本発明者らはまた、CD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞が体液中にCD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞由来微粒子を放出すること、体液試料中でこれを検出することにより抗TMEM-180抗体による治療に感受性である対象を特定できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)単離されたTMEM-180陽性CD44陽性の細胞外小胞。
(2)CD9陽性である、上記(1)に記載の単離されたTMEM-180陽性CD44陽性の細胞外小胞。
(3)抗TMEM-180抗体を含む、対象においてがんを治療することに用いるための医薬組成物であって、対象が、TMEM-180陽性CD44陽性のがん細胞を有すると決定された対象である、医薬組成物。
(4)対象が、がん細胞の有無が対象の体液試料中にTMEM-180陽性CD44陽性の微粒子を検出することによりTMEM-180陽性CD44陽性がん細胞を有すると決定された対象である、上記(3)に記載の医薬組成物。
(5)がんを有する、またはがんを有すると疑われる対象において、抗TMEM-180抗体を有効成分として含む抗がん剤の治療有効性を分析する方法であって、
前記対象が、CD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞を有するか否かを決定すること
を含む方法。
(6)対象の体液試料中のTMEM-180陽性CD44陽性の微粒子の有無により、対象がCD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞を有するか否かを決定する、上記(5)に記載の方法。
(7)がんを有する、またはがんを有すると疑われる対象において、抗TMEM-180抗体を含む抗がん剤の治療有効性を分析することに用いるためのキットであって、
抗CD44抗体若しくはその抗原結合フラグメント
を含む、キット。
(8)抗TMEM-180抗体若しくはその抗原結合フラグメントをさらに含む、上記(7)に記載のキット。
(9)上記(5)または(6)に記載の方法に用いるための、上記(8)に記載のキット。
図1は、ヒト大腸がん細胞株DLD-1のゼノグラフトモデル(腫瘍容積200mm3)における抗TMEM-180抗体の抗腫瘍効果および副作用を示す。図中の矢印は、抗体を投与したタイミングを示す。 図2は、ヒト大腸がん細胞株SW480のゼノグラフトモデル(腫瘍容積200mm3)における抗TMEM-180抗体の抗腫瘍効果および副作用を示す。図中の矢印は、抗体を投与したタイミングを示す。 図3は、ヒト大腸がん細胞株SW480のゼノグラフトモデル(腫瘍容積300mm3)における抗TMEM-180抗体の抗腫瘍効果および副作用を示す。図中の矢印は、抗体を投与したタイミングを示す。 図4は、低酸素環境下において腫瘍細胞のTMEM-180の発現が亢進することを示す。 図5は、抗TMEM-180抗体が奏功するSW480細胞株では、CD44が陽性であることを示す。 図6Aは、CD44陽性TMEM-180陽性がん細胞が、CD44陽性TMEM-180陽性の微粒子(特に細胞外小胞)を放出することを示す図である。 図6Bは、CD44陽性TMEM-180陽性がん細胞が、CD44陽性TMEM-180陽性のエクソソームを指標として検出できることを示す図である。 図7は、大腸がん細胞株SW480が、CD44陽性TMEM-180陽性であることを示す。 図8は、膵臓がん細胞株HPAF−2がCD44陽性TMEM-180陽性であることを示す。 図9は、子宮体がん細胞株HEC−1AがCD44陽性TMEM-180陽性であることを示す。 図10は、胃がん細胞株58As1mがCD44陽性TMEM-180陽性であることを示す。 図11は、腎臓がん細胞株769−PがCD44陽性TMEM-180陽性であることを示す。 図12は、肺がん細胞株EBC−1がCD44陽性TMEM-180陽性であることを示す。 図13は、膀胱がん細胞株KU−19がCD44陽性TMEM-180陽性であることを示す。 図14Aは、セツキシマブによる大腸がん細胞株DLD-1に対するADCC活性の評価結果を示す。 図14Bは、1361−5抗体による大腸がん細胞株DLD-1に対するADCC活性の評価結果を示す。 図14Cは、1361−5抗体のFc改変抗体(改変体1)による大腸がん細胞株DLD-1に対するADCC活性の評価結果を示す。 図14Dは、1361−5抗体のFc改変抗体(改変体2)による大腸がん細胞株DLD-1に対するADCC活性の評価結果を示す。 図15は、ヒト大腸がん細胞移植マウスモデルにおいて、ヒトIgG化669抗体が強い抗がん作用を有することを示す。図中、「Erb」は、セツキシマブ投与群における結果を示す。 図16は、1361-5抗体が大腸がん組織アレイの組織を良好に染色したことを示す。 図17は、大腸がん細胞株DLD-1の培養上清中に存在するエクソソームがTMEM-180タンパク質を含むことを示す。図中、固相側抗体とは、プレート表面に固相化された抗体を示し、エクソソームの検出は抗CD9抗体を用いて行った。 図18は、大腸がん細胞株DLD-1のTMEM-180強制発現株の培養上清をゲル濾過して得られた画分中における98抗体陽性成分の量を示す。 図19は、大腸がん患者の血清(ステージ1〜4までの51例)中に含まれるエクソソームがTMEM-180陽性であることを示す。 図20は、エクソソーム表面にTMEM-180が表出していることを示す電子顕微鏡像である。 図21は、実施例C15で作製した抗体薬物コンジュゲート(ADC)の模式図である。 図22は、TMEM180抗体の細胞内への移行を示す図である。 図23は、参考例11で作製したADCによる細胞殺傷作用を示す図である。 図24は、TMEM180ノックアウトマウスの作製に用いたガイドRNA箇所と破壊された遺伝子の配列を示す図である。
発明の具体的な説明
(抗TMEM-180抗体及び抗がん剤)
本発明に係る抗がん剤(または、がんを治療することに用いるための医薬組成物)の一態様は、抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントを有効成分として含む。
本明細書において抗TMEM-180抗体とは、Transmembrane protein-180(TMEM-180)に結合する抗体をいい、TMEM-180に特異的に結合し得る。本発明において、抗TMEM-180抗体は、がん細胞に表出するTMEM-180を認識できる。本明細書おいて、TMEM-180という場合、どのような動物に由来するTMEM-180であってもよく、また、抗がん剤の標的となり、がんの検査方法の指標となる限り、その変異体であってもよい。TMEM-180の一例として、ヒトTMEM-180のアミノ酸配列を配列番号:17に示す。
本明細書において「抗体」は、免疫グロブリンを意味し、一対のジスルフィド結合で安定化された2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)が会合した構造をとるタンパク質をいう。重鎖は、重鎖可変領域VH、重鎖定常領域CH1、CH2、CH3、及びCH1とCH2の間に位置するヒンジ領域からなり、軽鎖は、軽鎖可変領域VLと軽鎖定常領域CLとからなる。この中で、VHとVLからなる可変領域断片(Fv)が、抗原結合に直接関与し、抗体に多様性を与える領域である。また、VL、CL、VH、CH1からなる抗原結合領域をFab領域と呼び、ヒンジ領域、CH2、CH3からなる領域をFc領域と呼ぶ。
可変領域のうち、直接抗原と接触する領域は特に変化が大きく、相補性決定領域(complementarity-determining region: CDR)と呼ばれる。CDR以外の比較的変異の少ない部分をフレームワーク(framework region: FR)と呼ぶ。軽鎖と重鎖の可変領域には、それぞれ3つのCDRが存在し、それぞれN末端側から順に、重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3と呼ばれる。
本明細書において「対象」とは、哺乳動物、例えば、霊長類、例えばヒトであり得る。対象は、がんを有すると疑われる対象、または、がんを有する対象であり得る。対象は、例えば、ステージ3またはステージ4の対象であり得る。対象は、例えば、ステージ3またはステージ4のがん切除手術後の対象であり得る。対象は、例えば、大腸がんを有すると疑われる対象、または、大腸がんを有する対象であり得る。がん、または大腸がんは、TMEM-180陽性であると決定されたがんであり得る。
本明細書では、「細胞外小胞」とは、細胞から細胞外に放出される微粒子であり、主にエクソソーム、微小小胞体(microvesicles: MV)およびアポトーシス小体(apoptotic body)に大別される。エクソソームは、約40〜120nmほどの直径を有する微粒子であり、微小小胞体は、約50nm〜1μmほどの直径を有する微粒子であり、アポトーシス小体は、約500nm〜2μmほどの直径を有する微粒子である。これらの細胞外小胞は、体液(特に血中)に放出される。従って、これらの細胞外小胞は、本明細書では、血中浮遊粒子と呼ばれることがある。微小小胞体とアポトーシス小体は、細胞の細胞膜に由来するため、細胞膜上に表出する分子を含む。エクソソームは、主にエンドソームの膜が陥没して形成される。
本明細書では、「微粒子」とは、複数の分子により形成される複合体を意味し、体液中で安定に存在し得る形態を取るものである。本明細書では、微粒子は、形状を問わないが、例えば、略球形状でありうる。微粒子は、例えば、数平均で20nm〜10μmの光学直径を有する。本明細書では、「がん由来微粒子」とは、がんから放出され体液中で検出される微粒子をいう。
CD44は、細胞膜表面の糖タンパク質であり、細胞間相互作用、細胞接着および移動に関わる。CD44は、ヒアルロン酸(HA)の受容体であると共に、オステオポンチン、コラーゲンおよびマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)などのリガンドとも相互作用する。近年、CD44が、腫瘍形成能の高いがん細胞、および、がん幹細胞のマーカーとして有用であり得ることが指摘されている。
本明細書では、「CD44陽性」とは、CD44が検出可能に発現していることを意味する。本明細書では、「TMEM-180陽性」とは、TMEM-180が検出可能に発現していることを意味する。検出は、陰性細胞との比較により、または適切な陰性対照との比較により行われうる。発現量が規定値を超えたものを検出可能に発現したとすることもできる。規定値は、陰性対照における発現量と比較して1.5倍以上の値、2倍以上の値などの値とすることができる。規定値は、高く設定すれば検出感度は低下するが擬陽性が少なくなり、低く設定すれば擬陽性が多くなるが検出感度は高まり、当業者であれば適宜規定値を設定することができる。CD44も、TMEM-180も、膜貫通タンパク質であり、細胞膜に表出し、エクソソーム上でも同様に表出する。
本発明に係る抗TMEM-180抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。また、本発明の抗TMEM-180抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEのいずれのアイソタイプであってもよい。マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ニワトリなどの非ヒト動物を免疫して作製したものであってもよいし、組換え抗体であってもよく、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体等であってもよい。キメラ型抗体とは、異なる種に由来する抗体の断片が連結された抗体をいう。
「ヒト化抗体」とは、非ヒト由来の抗体に特徴的なアミノ酸配列で、ヒト抗体の対応する位置を置換した抗体を意味し、例えば、マウス又はラットを免疫して作製した抗体の重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3を有し、重鎖及び軽鎖のそれぞれ4つのフレームワーク領域(FR)を含むその他のすべての領域がヒト抗体に由来するものが挙げられる。かかる抗体は、CDR移植抗体と呼ばれる場合もある。用語「ヒト化抗体」は、ヒトキメラ抗体を含む場合もある。
「ヒトキメラ抗体」は、非ヒト由来の抗体において、非ヒト由来の抗体の定常領域がヒトの抗体の定常領域に置換されている抗体である。ヒトキメラ抗体では、ADCC活性を高める観点では、例えば、定常領域に用いるヒトの抗体のサブタイプはIgG1とすることができる。
本明細書において、「抗原結合フラグメント」とは、抗体のフラグメントであって、TMEM-180に結合するフラグメントをいう。具体的には、VL、VH、CL及びCH1領域からなるFab;2つのFabがヒンジ領域でジスルフィド結合によって連結されているF(ab')2;VL及びVHからなるFv;VL及びVHを人工のポリペプチドリンカーで連結した一本鎖抗体であるscFvのほか、diabody型、scDb型、tandem scFv型、ロイシンジッパー型などの二重特異性抗体等が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。以下抗体のクローン番号は、WO2016039321Aのクローン番号に基づく。また、以下クローン番号で示される抗体の生理活性は、WO2016039321Aおよび本願明細書に記載される通りである。
これらのCDRは、後述する実施例に示す98クローン抗TMEM-180抗体のCDR配列である。
重鎖CDR1:GFSLTRYNVH(配列番号:1)
重鎖CDR2:VIWTGGSTD(配列番号:2)
重鎖CDR3:DLGY(配列番号:3)
軽鎖CDR1:KSSQSLKYRDGKTYLN(配列番号:4)
軽鎖CDR2:QVSKLDS(配列番号:5)
軽鎖CDR3:CQGSYSPHT(配列番号:6)
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。
これらのCDRは、後述する実施例に示す101クローン抗TMEM-180抗体のCDR配列である。
重鎖CDR1:GFSLTSYYMQ (配列番号:7)
重鎖CDR2:FIRSGGSTE (配列番号:8)
重鎖CDR3:AFYGGYYFDY (配列番号:9)
軽鎖CDR1:KASQNVGSNVD (配列番号:10)
軽鎖CDR2:KASNRYT (配列番号:11)
軽鎖CDR3:MQSNTKYT (配列番号:12)
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。
これらのCDRは、後述する実施例に示す212クローン抗TMEM-180抗体のCDR配列である。
重鎖CDR1:GFTFSDYAMA(配列番号:40)
重鎖CDR2:TIIYDGSST(配列番号:41)
重鎖CDR3:HWYWYFDF(配列番号:42)
軽鎖CDR1:LASEGISNDLA(配列番号:43)
軽鎖CDR2:AASRLQD(配列番号:44)
軽鎖CDR3:QQSYKYPLT(配列番号:45)
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。
これらのCDRは、後述する実施例に示す129クローン抗TMEM-180抗体のCDR配列である。
重鎖CDR1:DCALN(配列番号:48)
重鎖CDR2:WINTQTGKPTYADDF(配列番号:49)
重鎖CDR3:EDYGYFDY(配列番号:50)
軽鎖CDR1:QASQNINKFIA(配列番号:51)
軽鎖CDR2:YTSTLVS(配列番号:52)
軽鎖CDR3:LQYDNLRT(配列番号:53)
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。
これらのCDRは、後述する実施例に示す382クローン抗TMEM-180抗体のCDR配列である。
重鎖CDR1:NYGMH(配列番号:56)
重鎖CDR2:SISPSGGSTYYRDSV(配列番号:57)
重鎖CDR3:SASITAYYYVMDA(配列番号:58)
軽鎖CDR1:KASQNVGSNVD(配列番号:59)
軽鎖CDR2:KASNRYT(配列番号:60)
軽鎖CDR3:MQSNSYPPT(配列番号:61)
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。
これらのCDRは、後述する実施例に示す1361クローン抗TMEM-180抗体のCDR配列である。
重鎖CDR1:NYWMT(配列番号:64)
重鎖CDR2:SITNTGGSTYYPDSV(配列番号:65)
重鎖CDR3:AGYSSYPDYFDY(配列番号:66)
軽鎖CDR1:KAGQNIYNYLA(配列番号:67)
軽鎖CDR2:NANSLQT(配列番号:68)
軽鎖CDR3:QQYSSGWT(配列番号:69)
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。
これらのCDRは、後述する実施例に示す669クローン抗TMEM-180抗体のCDR配列である。
重鎖CDR1:DYWVS(配列番号:72)
重鎖CDR2:EIYPNSGATNFNENFK(配列番号:73)
重鎖CDR3:DGTMGIAYYFDY(配列番号:74)
軽鎖CDR1:KASQNINRYLN(配列番号:75)
軽鎖CDR2:NANSLQT(配列番号:76)
軽鎖CDR3:LQHNSWPYT(配列番号:77)
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、上記CDRのすべてを有する。本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、上記CDRのすべてを有するヒト化抗体である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。
これらのCDRは、後述する実施例に示す699クローン抗TMEM-180抗体のCDR配列である。
重鎖CDR1:SYDIS(配列番号:80)
重鎖CDR2:AINPGSGGTGYNEKFKGK(配列番号:81)
重鎖CDR3:IHGGYRYWFAY(配列番号:82)
軽鎖CDR1:RASSSVSYMH(配列番号:83)
軽鎖CDR2:DTSKLAS(配列番号:84)
軽鎖CDR3:LQRSSYPPT(配列番号:85)
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。
これらのCDRは、後述する実施例に示す1052クローン抗TMEM-180抗体のCDR配列である。
重鎖CDR1:SNGVG(配列番号:88)
重鎖CDR2:TIWTGGGTNYNSGVQS(配列番号:89)
重鎖CDR3:EYMGFDY(配列番号:90)
軽鎖CDR1:KASQNVGINVG(配列番号:91)
軽鎖CDR2:WASNRDT(配列番号:92)
軽鎖CDR3:LQHNSYPRT(配列番号:93)
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。
これらのCDRは、後述する実施例に示す1105クローン抗TMEM-180抗体のCDR配列である。
重鎖CDR1:SNGVG(配列番号:96)
重鎖CDR2:TIWSGGGTNYNSAVQS(配列番号:97)
重鎖CDR3:EEKGFAY(配列番号:98)
軽鎖CDR1:KASQNVGINVG(配列番号:99)
軽鎖CDR2:WASNRDT(配列番号:100)
軽鎖CDR3:LQHNSYPRA(配列番号:101)
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の6つのCDRの少なくとも1つを有する。
これらのCDRは、後述する実施例に示す1361-5クローン抗体のCDR配列である。
重鎖CDR1:NYWMT(配列番号:171)
重鎖CDR2:SITNTGGSTAYPDSV(配列番号:172)
重鎖CDR3:AGYSSYPDYFDY(配列番号:173)
軽鎖CDR1:KAGQNIYNYLA(配列番号:174)
軽鎖CDR2:NANSLQT(配列番号:175)
軽鎖CDR3:QQYSSGWT(配列番号:176)
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、この態様における抗体とTMEM-180に対する結合において競合する抗体である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の6つのCDRの全てを有する。
これらのCDRは、後述する実施例に示す1361-5クローン抗体のCDR配列である。
重鎖CDR1:NYWMT(配列番号:171)
重鎖CDR2:SITNTGGSTAYPDSV(配列番号:172)
重鎖CDR3:AGYSSYPDYFDY(配列番号:173)
軽鎖CDR1:KAGQNIYNYLA(配列番号:174)
軽鎖CDR2:NANSLQT(配列番号:175)
軽鎖CDR3:QQYSSGWT(配列番号:176)
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、この態様における抗体とTMEM-180に対する結合において競合する抗体である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、重鎖可変領域(配列番号:177)及び軽鎖可変領域(配列番号:178)を有する。これらの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、後述する実施例に示す1361-5クローン抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、この態様における抗体とTMEM-180に対する結合において競合する抗体である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、以下の重鎖(配列番号:180)及び軽鎖(配列番号:182)を有する。これらの重鎖及び軽鎖は、後述する実施例に示す1361-5クローン抗体の重鎖及び軽鎖である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の一態様は、この態様における抗体とTMEM-180に対する結合において競合する抗体である。
上記の各態様において、抗TMEM-180抗体は、本発明の効果を奏する限り、6つのCDRのうちいくつを含むものであってもよいが、例えば、2以上、3以上、4以上、5以上、又は6つ含むものとすることができる。
上記の各態様において、重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3は、その少なくとも1つに、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含んでいてもよい。
本明細書において「アミノ酸」は、その最も広い意味で用いられ、天然アミノ酸に加え、人工のアミノ酸変異体や誘導体を含む。アミノ酸は慣用的な一文字表記又は三文字表記で示される場合もある。本明細書においてアミノ酸又はその誘導体としては、天然タンパク質性L-アミノ酸;非天然アミノ酸;アミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物などが挙げられる。非天然アミノ酸の例として、主鎖の構造が天然型と異なる、α,α-二置換アミノ酸(α-メチルアラニンなど)、N-アルキル-α-アミノ酸、D-アミノ酸、β-アミノ酸、α-ヒドロキシ酸や、側鎖の構造が天然型と異なるアミノ酸(ノルロイシン、ホモヒスチジンなど)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸、ホモフェニルアラニン、ホモヒスチジンなど)、及び側鎖中のカルボン酸官能基がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸など)が挙げられるがこれらに限定されない。
本明細書において「1から数個のアミノ酸の付加、置換又は欠失を有する」という場合、欠失、置換等されるアミノ酸の個数は、結果として得られるポリペプチドがCDRとしての機能を保持する限り特に限定されないが、例えば、1個、2個、3個又は4個とすることができる。置換又は付加されるアミノ酸は、天然のタンパク質性アミノ酸に加えて、非天然のアミノ酸又はアミノ酸アナログであってもよい。アミノ酸の欠失、置換又は付加の位置は、CDRとしての機能が保持される限り、もとのCDR配列のどこであってもよい。
上記の抗TMEM-180抗体の各態様において、重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3の少なくとも1つが、もとの重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するものとなっていてもよい。
本明細書において、「80%以上の同一性を有する」とは、元の配列を有するポリペプチドのアミノ酸配列と変異した配列を有するポリペプチドのアミノ酸配列の一致が最大になるようにアライメントしたときに、共通するアミノ酸残基の数が、元の配列のアミノ酸数の80%以上であることを意味する。
同一性は、80%以上であって、CDRとしての機能を保持する限り何%であってもよく、例えば85%以上、90%以上、95%以上、98%以上、99%以上とすることができる。
重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列にアミノ酸を付加、置換、又は欠失させたアミノ酸配列からなるCDRや、重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するCDRは、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、チェーンシャフリング法、CDRウォーキング法などの公知の方法を用いて作製され得る。これらの方法によれば、ファージディスプレイ法によってCDRに種々の変異を有する抗体又は抗体断片をファージ表面に提示させ、抗原を使用してスクリーニングすることにより、より親和性が成熟したCDRを得られることが当業者によく知られている(例えば、Wu et al., PNAS, 95:6037-6042(1998); Schier, R. et al., J. Mol. Bio. 263:551-567(1996); Schier, R. et al., J. Mol. Biol. 255:28-43(1996); Yang, W.P. et al., J. Mol. Biol., 254:392-403(1995)。)。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:13で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:13で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖、を含む。
配列番号:13で表されるアミノ酸配列は、98クローン抗TMEM-180抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本明細書において、重鎖又は軽鎖のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失という場合、付加、置換、又は欠失するアミノ酸の数は、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個とすることができる。その他の用語は、上述したとおりである。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:14で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:14で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:14で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、を含む。
配列番号:14で表されるアミノ酸配列は、98クローン抗TMEM-180抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体は、配列番号:13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:13で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:13で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:14で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:14で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:14で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含んでいてもよい。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:15で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:15で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:15で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖、を含む。
配列番号:15で表されるアミノ酸配列は、101クローン抗TMEM-180抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:16で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:16で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:16で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、を含む。
配列番号:16で表されるアミノ酸配列は、101クローン抗TMEM-180抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、配列番号:15で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:15で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:15で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:16で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:16で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:16で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含んでいてもよい。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:46で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:46で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:46で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖、を含む。
配列番号:46で表されるアミノ酸配列は、212クローン抗TMEM-180抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:47で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:47で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:47で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、を含む。
配列番号:47で表されるアミノ酸配列は、212クローン抗TMEM-180抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、配列番号:46で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:46で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:46で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:47で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:47で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:47で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含んでいてもよい。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:54で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:54で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:54で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖、を含む。
配列番号:54で表されるアミノ酸配列は、129クローン抗TMEM-180抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:55で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:55で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:55で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、を含む。
配列番号:55で表されるアミノ酸配列は、129クローン抗TMEM-180抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、配列番号:54で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:54で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:54で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:55で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:55で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:55で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含んでいてもよい。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:62で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:62で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:62で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖、を含む。
配列番号:62で表されるアミノ酸配列は、382クローン抗TMEM-180抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:63で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:63で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:63で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、を含む。
配列番号:63で表されるアミノ酸配列は、382クローン抗TMEM-180抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、配列番号:62で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:62で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:62で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:63で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:63で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:63で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含んでいてもよい。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:70で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:70で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:70で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖、を含む。
配列番号:70で表されるアミノ酸配列は、1361クローン抗TMEM-180抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:71で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:71で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:71で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、を含む。
配列番号:71で表されるアミノ酸配列は、1361クローン抗TMEM-180抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、配列番号:70で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:70で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:70で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:71で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:71で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:71で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含んでいてもよい。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:78で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:78で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:78で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖、を含む。
配列番号:78で表されるアミノ酸配列は、669クローン抗TMEM-180抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:79で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:79で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:79で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、を含む。
配列番号:79で表されるアミノ酸配列は、669クローン抗TMEM-180抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、配列番号:78で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:78で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:78で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:79で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:79で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:79で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含んでいてもよい。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:86で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:86で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:86で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖、を含む。
配列番号:86で表されるアミノ酸配列は、699クローン抗TMEM-180抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:87で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:87で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:87で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、を含む。
配列番号:87で表されるアミノ酸配列は、699クローン抗TMEM-180抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、配列番号:86で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:86で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:86で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:87で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:87で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:87で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含んでいてもよい。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:94で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:94で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:94で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖、を含む。
配列番号:94で表されるアミノ酸配列は、1052クローン抗TMEM-180抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:95で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:95で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:95で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、を含む。
配列番号:95で表されるアミノ酸配列は、1052クローン抗TMEM-180抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、配列番号:94で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:94で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:94で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:95で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:95で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:95で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含んでいてもよい。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:102で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:102で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:102で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖、を含む。
配列番号:102で表されるアミノ酸配列は、1105クローン抗TMEM-180抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:103で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:103で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:103で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、を含む。
配列番号:103で表されるアミノ酸配列は、1105クローン抗TMEM-180抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、配列番号:102で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:102で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:102で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:103で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:103で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:103で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含んでいてもよい。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:180で表されるアミノ酸配列を含む重鎖;
配列番号:180で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖;又は、
配列番号:180で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖、を含む。
配列番号:180で表されるアミノ酸配列は、1361-5クローン抗TMEM-180抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、
配列番号:182で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖;
配列番号:182で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖;又は、
配列番号:182で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖、を含む。
配列番号:182で表されるアミノ酸配列は、1361-5クローン抗TMEM-180抗体の軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、配列番号:180で表されるアミノ酸配列を含む重鎖、配列番号:180で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む重鎖、又は配列番号:180で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:182で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖、配列番号:182で表されるアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸の付加、置換、又は欠失を含むアミノ酸配列を含む軽鎖、又は、配列番号:182で表されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含んでいてもよい。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の別の一態様は、本発明に係る抗TMEM-180抗体と、TMEM-180との結合において競合する抗体であり得る。この特定の態様における一態様では、本発明に係る抗TMEM-180抗体は、重鎖可変領域のCDRとして配列番号64〜66のアミノ酸配列を有し、かつ軽鎖可変領域のCDRとして配列番号67〜69のアミノ酸配列を有する抗体ではない抗体とすることができる。
本発明の抗体または本発明の抗体とTMEM-180との結合において競合する抗体において、Fc領域は、1以上のアミノ酸置換を有していてもよい。例えば、重鎖は、特に限定されないが配列番号180の262番目のアミノ酸に対応するアミノ酸においてセリンからアスパラギン酸へのアミノ酸置換、配列番号180の353番目のアミノ酸に対応するアミノ酸においてアラニンからロイシンへのアミノ酸置換、および配列番号180の355番目のアミノ酸に対応するアミノ酸においてイソロイシンからグルタミン酸へのアミノ酸置換を有する重鎖としてもよい。また、例えば、重鎖は、特に限定されないが配列番号180の262番目のアミノ酸に対応するアミノ酸においてセリンからアスパラギン酸へのアミノ酸置換、配列番号180の355番目のアミノ酸に対応するアミノ酸においてイソロイシンからグルタミン酸へのアミノ酸置換、および配列番号180の356番目のアミノ酸に対応するグルタミン酸からアラニンへのアミノ酸置換を有する重鎖としてもよい。
本発明に係る抗TMEM-180抗体は、Fc領域に1以上のN-結合型糖鎖が結合し、該N-結合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していない抗体であってもよい。
例えばIgG抗体のFc領域には、N-結合型糖鎖の結合部位が2ヶ所存在し、この部位に複合型糖鎖が結合している。N-結合型糖鎖とは、Asn-X-Ser/Thr配列のAsnに結合する糖鎖をいい、共通した構造Man3GlcNAc2-Asnを有する。非還元末端の2つのマンノース(Man)に結合する糖鎖の種類により、高マンノース型、混成型、及び複合型等に分類される。
N-結合型糖鎖の還元末端のN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)にはフコースが結合しうるが、このフコースが結合していない場合、結合している場合に比較してADCC活性が著しく上昇することが知られている。このことは例えば、国際公開第2002/031140号パンフレットに記載されており、その開示は全体として参照により本明細書に組み込まれる。
ADCC活性が著しく向上することにより、抗体を医薬として用いる場合に投与量を少なくすることができるので、副作用を軽減させることが可能であると共に、治療費も低減させることができる。
本発明に係る抗がん剤の一態様は、抗がん活性を有する物質を結合させた抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントを有効成分として含む。このような物質は抗体薬物コンジュゲート(ADC)ともよばれる。この態様において、抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントは、それ自体抗がん活性を有するものであってもよいし、TMEM-180への結合能のみを有し抗がん活性を有しないものであってもよい。
本明細書において、「抗がん活性を有する物質」とは、腫瘍サイズの低下(遅延又は停止)、腫瘍の転移の阻害、腫瘍増殖の阻害(遅延又は停止)、及びがんと関連する一つ又は複数の症状の緩和、の少なくとも1つを生じさせる物質を意味する。具体的には、毒素、抗がん剤、ラジオアイソトープを挙げることができるがこれらに限定されない。
抗がん活性を有する毒素としては、例えば、緑膿菌外毒素(PE)又はその細胞障害性フラグメント(例えばPE38)、ジフテリア毒素、リシンA等が挙げられる。抗がん活性を有する毒素は、抗TMEM-180抗体が認識する細胞、即ちTMEM-180を発現しているがん細胞のみに毒性を発揮するので、周囲の細胞に悪影響を与えず、特異的に効果を得られるという利点がある。
抗がん剤としては、例えば、アドリアマイシン、ダウノマイシン、マイトマイシン、シスプラチン、ビンクリスチン、エピルビシン、メトトレキセート、5-フルオロウラシル、アクラシノマイシン、ナイトロジェン・マスタード、サイクロフォスファミド、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、タモキシフェン、モノメチルアウリスタチンE、SN−38、デキサメタゾン等の低分子化合物や、免疫担当細胞を活性化するサイトカイン(例えば、ヒトインターロイキン2、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、ヒトマクロファージコロニー刺激因子、ヒトインターロイキン12)等のタンパク質が挙げられる。
抗がん活性を有するラジオアイソトープとしては、32P、14C、125I、3H、131I、211At、90Y等が挙げられる。
抗がん活性を有する物質は、公知の方法又はそれに準ずるによって抗TMEM-180抗体に直接又はリンカー(例えば、開裂性リンカー)を介して結合させることができる。抗がん活性を有する物質をミセルやリポソーム等の担体に封入し、当該リポソームを抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントに結合させてもよい。
上記抗がん活性を有する物質が蛋白質やポリペプチドの場合は、本発明の抗TMEM-180抗体をコードする核酸(後述)と抗がん活性を有する物質をコードするDNAを連結し、適当な発現ベクターに挿入することにより、抗がん活性を有する物質と抗TMEM-180抗体との融合タンパク質として発現させてもよい。
本明細書において「抗がん剤」は、腫瘍サイズの低下(遅延又は停止)、腫瘍の転移の阻害、腫瘍増殖の阻害(遅延又は停止)、及びがんと関連する一つ又は複数の症状の緩和、の少なくとも1つを生じさせる医薬を意味する。本明細書において、「抗がん剤」は、「がんを治療することに用いるための医薬組成物」と相互互換的に用いられる。
本発明に係る抗がん剤は、有効成分に加えて薬学的に許容できる担体や添加物を含んでいてもよい。
担体及び添加物の例としては、水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等薬学的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、界面活性剤等が挙げられるがこれらに限定されない。
本発明の医薬組成物は、様々な形態、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤などとすることができる。好ましい態様は、注射剤であり、非経口(例えば、静脈内、経皮、腹腔内、筋内)で投与することが好ましい。
本発明の医薬組成物は、TMEM-180を発現しているがんの治療に有効であり、CD44およびTMEM-180を発現しているがんの治療にさらに有効である。TMEM-180を発現しているがん、またはCD44およびTMEM-180を発現しているがんには、大腸がんと脳腫瘍が含まれるがこれらに限定されない。がんとしては、例えば、固形がんが挙げられ、例えば、大腸がん、脳腫瘍、胃がん、膵がん、乳がん、前立腺がん、腎がん、腎臓がん、子宮体がん、および膀胱がんが挙げられる。
本発明の医薬組成物は、がんを有する対象において当該がんを治療することに用いるための医薬組成物であって、TMEM-180に結合する抗体を含む、組成物である。本発明のある態様では、治療対象は、CD44陽性TMEM-180陽性のがんを有する対象であり得る。対象は、例えば、CD44陽性TMEM-180陽性のステージ3若しくはステージ4のがんを有する対象またはこれらのがん切除術後の対象であり得る。CD44陽性TMEM-180陽性の本発明のある態様では、治療対象は、がんの試料(例えば、生検試料)からTMEM-180およびCD44が検出された大腸がんを有する対象であり得る。本発明のある態様では、治療対象は、体液試料からTMEM-180が検出された対象であり得る。
本発明は、本発明に係る抗がん剤を投与することを含むがんの治療方法も包含する。すなわち、本発明のある側面では、がんを有する対象において当該がんを治療する方法であって、該対象にTMEM-180に結合する抗体を投与することを含む、方法が提供される。
本発明はまた、CD44陽性TMEM-180陽性のがんを有する対象において、がんを治療する方法であって、該対象にTMEM-180に結合する抗体を投与することを含む、方法が提供される。本発明はまた、がんをその必要のある対象において治療する方法であって、前記対象が、CD44陽性TMEM-180陽性のがんを有するか否かを決定することと、CD44陽性TMEM-180陽性のがんを有すると決定された対象に治療上有効量の抗TMEM-180抗体を投与することを含む方法が提供される。
本発明の抗がん剤の投与量は、例えば、抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントの投与量が、0.025〜50mg/kg、好ましくは0.1〜0mg/kgであり、より好ましくは0.1〜25mg/kg、さらに好ましくは0.1〜10mg/kg又は0.1〜3mg/kgとなる量とすることができるが、これに限定されない。
本発明に係る抗がん剤は、他のがん治療法と組合せてもよい。他のがん治療法としては、上述した別の抗がん剤の投与、放射線療法、外科的手術、がんワクチン療法などが挙げられる。
本明細書において「がんワクチン療法」とは、がん抗原を患者に投与して、又は患者由来の免疫細胞を体外においてがん抗原で刺激してから患者に戻すことによって、がん細胞に対する患者自身の免疫力を高めるがんの治療又は予防方法である。がんワクチン療法に用いられるがん抗原の一例として、がん細胞特異的に発現するタンパク質に由来するペプチド(がん抗原由来ペプチド)が用いられる。
(核酸)
本発明は、本発明に係る抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸も包含する。核酸は、天然の核酸であっても人工の核酸であってもよく、例えば、DNA、RNA、DNAとRNAのキメラが挙げられるがこれらに限定されない。抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸の塩基配列は、当業者が公知の方法又はそれに準ずる方法に従って決定することができ、公知の方法又はそれに準ずる方法で調製することができる。
本発明に係る抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸としては、例えば、98クローン抗TMEM-180抗体の重鎖又は軽鎖をコードするDNAを含む核酸、98クローン抗TMEM-180抗体の重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のいずれかをコードするDNAを含む核酸、101クローン抗TMEM-180抗体の重鎖又は軽鎖をコードするDNAを含む核酸、101クローン抗TMEM-180抗体の重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のいずれかをコードするDNAを含む核酸、212クローン抗TMEM-180抗体の重鎖又は軽鎖をコードするDNAを含む核酸、及び、212クローン抗TMEM-180抗体の重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のいずれかをコードするDNAを含む核酸が挙げられるがこれらに限定されない。
本発明に係る抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸としてはまた、例えば、1361-5クローン抗TMEM-180抗体の重鎖又は軽鎖をコードするDNAを含む核酸、1361-5クローン抗TMEM-180抗体の重鎖CDR1〜3及び軽鎖CDR1〜3のいずれか(特に重鎖CDR2)をコードするDNAを含む核酸が挙げられる。
(発現ベクター)
本発明に係る発現ベクターは、本発明に係る抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントをコードする核酸を含む。発現ベクターは、使用する宿主細胞にあわせて適宜選択することができ、例えば、プラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、カリフラワーモザイクウイルスベクターやタバコモザイクウイルスベクターなどの植物ウイルスベクター、コスミド、YAC、EBV由来エピソームなどが挙げられる。これらの発現ベクターには、公知の方法(制限酵素を利用する方法等)で、本発明の抗TMEM-180抗体をコードする核酸を挿入することができる。
本発明に係る発現ベクターは、さらに、抗体遺伝子の発現を調節するプロモーター、複製起点、選択マーカー遺伝子等を含むことができる。プロモーター及び複製起点は、宿主細胞とベクターの種類によって適宜選択することができる。
(形質転換体)
本発明に係る形質転換体は、本発明に係るベクターを含む。形質転換体は、本発明のベクターを適切な宿主細胞にトランスフェクトすることによって得ることができる。宿主細胞としては、例えば、哺乳類細胞(CHO細胞、COS細胞、ミエローマ細胞、HeLa細胞、Vero細胞等)、昆虫細胞、植物細胞、真菌細胞(サッカロミセス属、アスペルギルス属等)といった真核細胞や、大腸菌(E.Coli)、枯草菌などの原核細胞を用いることができる。
(抗体の製造方法)
本発明に係る抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントの製造方法は限定されないが、例えば、抗TMEM-180モノクローナル抗体は、TMEM-180又はその断片で免疫した非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を単離し、これを骨髄腫細胞等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。また、抗TMEM-180ポリクローナル抗体は、TMEM-180又はその断片で免疫した動物の血清から得ることができる。
免疫は、TMEM-180タンパク質を常法に従って動物に免疫することで行うことができる。免疫はまた、TMEM-180タンパク質に代えて、TMEM-180タンパク質を表出したエクソソーム用いて行ってもよい。TMEM-180タンパク質を表出したエクソソームで免疫して得た抗体は、特に限定されないが、TMEM-180タンパク質を表出したエクソソームの検出に適し得る。
本発明に係る抗TMEM-180抗体を遺伝子組換え法で作製する場合、例えば、本発明に係る核酸を含む発現ベクターで適当な宿主を形質転換し、この形質転換体を適当な条件で培養して抗体を発現させ、公知の方法に従って単離精製すればよい。
単離精製方法としては、例えば、プロテインA等を用いたアフィニティカラム、その他のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析が挙げられ、これらを適宜組み合わせることができる。
ヒトキメラ抗体及びヒトCDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体を産生するハイブリドーマのmRNAから抗体遺伝子をクローン化し、これをヒト抗体遺伝子の一部と遺伝子組換え技術で連結することによって作製することができる。
例えば、ヒト型キメラ抗体の場合、マウス抗体を産生するハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素によりcDNAを合成し、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(LH)をPCRでクローニングして配列を解析する。次に、一致率の高い抗体塩基配列から、リーダー配列を含む5'プライマーを作製し、5'プライマーと可変部3'プライマーによって上記cDNAから、シグナル配列から可変領域の3'末端までをPCRでクローニングする。一方で、ヒトIgG1の重鎖及び軽鎖の定常領域をクローニングし、重鎖と軽鎖それぞれについて、マウス抗体由来可変領域と、ヒト抗体由来定常領域とをPCRによるOverlapping Hanging法で連結し、増幅する。得られたDNAを適当なベクターに挿入し、これを形質転換して、ヒト型キメラ抗体を得ることができる。
CDR移植抗体の場合、使用するマウス抗体可変部と最も相同性の高いヒト抗体可変部を選択してクローン化し、メガプライマー法を用いた部位選択的突然変異導入により、CDRの塩基配列を改変する。フレームワーク領域を構成するアミノ酸配列をヒト化すると抗原との特異的な結合ができなくなる場合には、フレームワークの一部のアミノ酸をヒト型からラット型に変換してもよい。
元の配列において、1又は2個のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列からなるCDRや、元の配列にX%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるCDRは、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、チェーンシャフリング法、CDRウォーキング法などの公知の方法を用いて作製され得る。
これらの方法により、ファージディスプレイ法によってCDRに種々の変異を有する抗体又は抗体断片をファージ表面に提示させ、抗原を使用してスクリーニングすることにより、より親和性が成熟したCDRを得られることが当業者によく知られている(例えば、Wu et al., PNAS, 95:6037-6042(1998); Schier, R. et al., J. Mol. Bio. 263:551-567(1996); Schier, R. et al., J. Mol. Biol. 255:28-43(1996); Yang, W.P. et al., J. Mol. Biol., 254:392-403(1995)。)。本発明は、このような方法で成熟させたCDRを含む抗体も包含する。
その他の抗体の製造方法として、トリコスタチンA処理ニワトリB細胞由来DT40細胞株から抗体産生株を取得するAdlib法(Seo, H. et al., Nat. Biotechnol., 6:731-736, 2002)、マウス抗体遺伝子が破壊されヒト抗体遺伝子が導入されたマウスであるKMマウスを免疫してヒト抗体を作製する方法(Itoh, K. et al., Jpn. J. Cancer Res., 92:1313-1321, 2001;Koide, A. et al., J. Mol. Biol., 284:1141-1151, 1998)等があり、これらも本発明に係る抗体の産生に応用することができる。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の抗原結合フラグメントは、当該フラグメントをコードするDNAを用いて上述の方法で発現させてもよいし、また、全長の抗体を得てからパパイン、ペプシン等の酵素で処理して断片化してもよい。
ある抗体と抗原との結合において競合する抗体は、当業者に周知の競合アッセイなどにより得ることができる。競合アッセイで、例えば、少なくとも20%、好ましくは少なくとも20〜50%、さらに好ましくは少なくとも50%、所望の抗体の結合をブロックすることができるならば、同じ抗原に対する結合において競合する抗体とすることができる。競合する抗体は、交差ブロッキングアッセイ、好ましくは、競合ELISAアッセイにより確認することができる。交差ブロッキングアッセイでは、抗原を、例えばマイクロタイタープレート上にコーティングし、ここに候補となる競合抗体存在を添加してインキュベートし、抗原と候補抗体との結合を形成させる。その後、所望の抗体を標識した上でさらにウェルに添加してインキュベートし、洗浄して、所望の抗体の結合量を定量することにより、抗体が競合したか否かを判断することができる。競合する場合には、ウェル中に残存する標識量が少なくなるはずである。
本発明に係る抗TMEM-180抗体は、作製方法や精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、形態などが異なり得る。しかしながら、得られた抗体が、本発明の抗体と同等の機能を有している限り、本発明に含まれる。例えば、本発明の抗体を、大腸菌等の原核細胞で発現させた場合、本来の抗体のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。本発明は、かかる抗体も包含する。
本発明に係る抗TMEM-180抗体が、還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していないN-結合型糖鎖を有する抗体である場合、かかる抗体は公知の方法又はそれに準ずる方法に従って製造することができる。かかる抗体の製造方法は、例えば、国際公開第2002/031140号パンフレット、特開2009-225781号公報に記載されており、その開示は全体として参照により本明細書に組み込まれる。
具体的には、例えば、本発明に係る抗TMEM-180抗体をコードするDNAを含むベクターを用いて、GDP-フコースの合成に関与する酵素の活性、又はα-1,6-フコシルトランスフェラーゼの活性が低下又は欠失した細胞を形質転換し、得られた形質転換体を培養した後、目的とする抗TMEM-180抗体を精製することによって得ることができる。
GDP-フコースの合成に関与する酵素としては、例えば、GDP-mannose 4,6-dehydratase(GMP)、GDP-keto-6-deoxymannose 3,5-epimerase,4-reductase(Fx)、GDP-beta-L-fucose pyrophosphorylase(GFPP)が挙げられる。
ここで、細胞は特に限定されないが、哺乳動物細胞が好ましく、例えば上記酵素活性を低下又は欠失されたCHO細胞を用いることができる。
上記方法によって得られる抗体組成物は、還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合している抗体を含む場合もあるが、フコースが結合している抗体の割合は、抗体全体の20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下である。
また、還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合していないN-結合型糖鎖を有する抗体は、本発明に係る抗TMEM-180抗体をコードするDNAを含むベクターを昆虫卵に導入し、孵化させて昆虫を成長させ、必要に応じて交配を行ってトランスジェニック昆虫を作製し、当該トランスジェニック昆虫又はその分泌物から抗TMEM-180抗体を抽出することによっても得ることができる。昆虫としてはカイコを用いることができ、その場合、繭から抗体を抽出することができる。
この方法によって得られる抗体組成物も、還元末端のN-アセチルグルコサミンにフコースが結合している抗体を含む場合もあるが、フコースが結合している抗体の割合は、抗体全体の20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下である。
(本発明の抗体の活性)
抗体医薬の薬効メカニズムは、抗体が有する2つの生物活性に基づいている。1つは標的抗原特異的な結合活性であり、結合することによって標的抗原分子の機能を中和する活性である。標的抗原分子の機能の中和はFab領域を介して発揮される。
もう1つは、エフェクター活性と呼ばれる抗体の生物活性である。エフェクター活性は、抗体のFc領域を介して、抗体依存性細胞障害活性(antibody-dependent cellular cytotoxicity;ADCC)、補体依存性細胞障害活性(complement-dependent cytotoxicity;CDC)、アポトーシスの直接誘導等の態様で発揮される。
本発明に係る抗TMEM-180抗体の活性は、以下の方法で測定することができる。
(1)結合活性
抗体の結合活性は公知の方法、例えば、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、EIA(酵素免疫測定法)、RIA(放射免疫測定法)、蛍光抗体法、FACS法等で、測定することができる。
(2)ADCC活性
ADCC活性とは、標的細胞の細胞表面抗原に本発明の抗体が結合した際、そのFc部分にFcγ受容体保有細胞(エフェクター細胞)がFcγ受容体を介して結合し、標的細胞に障害を与える活性を意味する。
ADCC活性は、TMEM-180を発現している標的細胞とエフェクター細胞と本発明の抗体を混合し、ADCCの程度を測定することによって知ることができる。エフェクター細胞としては、例えば、マウス脾細胞、ヒト末梢血や骨髄から分離した単球核を利用することができる。標的細胞としては、例えばTMEM-180陽性大腸がん粘膜細胞を用いることができる。標的細胞をあらかじめ51Cr等で標識し、これに本発明の抗体を加えてインキュベーションし、その後標的細胞に対して適切な比のエフェクター細胞を加えてインキュベーションを行う。インキュベーション後、上清を採取し、上清中の上記標識をカウントすることにより、測定することが可能である。
(3)CDC活性
CDC活性とは、補体系による細胞障害活性を意味する。
CDC活性は、ADCC活性の試験において、エフェクター細胞に代えて補体を用いることにより測定することができる。
(4)腫瘍増殖抑制活性
腫瘍増殖抑制活性は、腫瘍モデル動物を利用して測定することができる。例えば、マウスの皮下に腫瘍を移植し、本発明の抗体を投与する。非投与群と投与群における腫瘍組織の体積を比較することにより、腫瘍増殖抑制効果を測定することができる。
なお、本発明の腫瘍増殖抑制活性は、個々の細胞の増殖を抑制する結果生じるものであっても、細胞死を誘導する結果生じるものであってもよい。
(検査方法及び検査用キット)
本発明の検査方法または検査キットにより検出されるTMEM-180陽性CD44陽性がんまたはがん細胞は、血液腫瘍以外のがん、例えば、固形がん、例えば、大腸がん、脳腫瘍、胃がん、膵がん、乳がん、前立腺がん、腎がん、腎臓がん、子宮体がん、および膀胱がん並びにこれらの細胞であり得る。上述のとおり、TMEM-180は特定のがん細胞において発現し、正常組織や健常者組織では発現が見られない。従って、本発明に係るがんの検査方法は、被検者から採取された試料中のTMEM-180量を測定する工程を含み得る。また、CD44は、抗TMEM-180抗体の感受性と関係する。従って、本発明に係るがんの検査方法は、被検者から採取された試料中のCD44量を測定する工程を含み得る。
本明細書において、被検者から採取された試料は、がんの検査に適したあらゆる試料とすることができ、がん種によって当業者が適宜決定し採取することができる。例えば血清、血漿、全血、尿、糞便、体腔液、組織が挙げられるがこれらに限定されない。大腸がんの検査の場合、大腸内視鏡等によって被検者から採取した組織や、大腸内視鏡検査後の洗浄液に含まれる粘膜細胞を試料としてもよい。
従来、大腸がんマーカーとしては、がん胎児性抗原(Carcinoembryonic antigen; CEA)が広く用いられている。血漿CEA値は、手術によるがんの切除などの治療により低下するが、再発や転移に伴って再上昇するため、CEA値の測定は治療後の経過観察に用いられる。CEA値の再上昇が認められた場合には、腹部超音波検査や腹部CTによる精密検査が必要となる。しかしながら、大腸がん患者のうち、CEA値が上昇するのは45%にすぎず、CEA値が上昇しないタイプのがん患者は、経過観察のために毎回精密検査を受けなければならない。
これに対し、血漿TMEM-180値は、後述する実施例に示されるとおり、CEA値が上昇しない患者においても上昇が見られ、術後は術前より低下する。さらに、血漿TMEM-180値は、術後一旦低下した後、再発の際に有意な上昇が見られる。特に、再発の際にCEA値が上昇しない患者においても上昇が見られることが示された。したがって、がん患者に広く用いることができる極めて有用性の高いマーカーであると考えられる。従って、本発明のある態様では、患者は、血漿TMEM-180が陽性であるとして選別された患者であり得る。
本明細書において、「試料中のTMEM-180量を測定する工程」は、TMEM-180量を定量する工程のみならず、TMEM-180の有無を検出する工程、TMEM-180量の増減を決定する工程、他の試料中のTMEM-180量と比較する工程も含む。本明細書において、「試料中のCD44量を測定する工程」は、CD44量を定量する工程のみならず、CD44の有無を検出する工程、CD44量の増減を決定する工程、他の試料中のCD44量と比較する工程も含む。
(TMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞の検出方法)
本発明は、TMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞は、抗TMEM-180抗体療法に対して高い感受性を有する。以下では、TMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞の検出方法を説明する。
まず、がんの生検試料に、TMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞が含まれる否かを決定することにより、その生検試料が由来する患者がTMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞を有するか否かを決定することができる。
TMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞は、TMEM-180とCD44とを細胞膜表面に表出する。従って、本発明のある態様では、がんの生検試料に、TMEM-180とCD44とを表出する細胞が含まれるか否かを決定することにより、その生検試料が由来する患者がTMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞を有するか否かを決定することができる。
次に、本発明によれば、TMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞の細胞外液は、TMEM-180陽性CD44陽性の微粒子(または複合体)を含む。この微粒子は、がん細胞から放出された微粒子と考えられる。従って、本発明によれば、対象の体液試料中にTMEM-180陽性CD44陽性の微粒子(または複合体)が存在するか否かを確認することにより、対象がTMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞を有するかを決定することができる。本発明によれば、微粒子は、抗TMEM-180抗体と抗CD44抗体とで検出され得る。微粒子の検出は、例えば、抗TMEM-180抗体と抗CD44抗体とを用いたサンドイッチELISAで行うことができる。
また本発明によれば、TMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞は、細胞外小胞を放出する。特に本発明によれば、TMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞から放出される細胞外小胞には、TMEM-180陽性CD44陽性の細胞外小胞が含まれ、検出することができる。このような細胞外小胞は、TMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞を有する患者の体液(例えば、血液、血清、および血漿)から検出できる。
TMEM-180陽性CD44陽性の細胞外小胞は、患者の体液中のTMEM-180陽性CD44陽性の複合体として検出できる。例えば、本発明のある態様では、TMEM-180陽性CD44陽性の細胞外小胞は、TMEM-180結合物質とCD44結合物質とで検出することができる。本発明のある態様では、TMEM-180結合物質としては、抗TMEM-180抗体を用いることができる。本発明のある態様では、CD44結合物質としては、抗CD44抗体を用いることができる。また、検出方法としては、例えば、サンドイッチELISAなどの当業者に周知の方法により、患者の液体試料にTMEM-180陽性CD44陽性の細胞外小胞が含まれるかを検出することができる。本発明のある態様では、細胞外小胞は、遠心分離等の分画法により濃縮してから検出してもよいし、特段の濃縮過程や精製過程を介さずに検出してもよい。
本発明によれば、患者の体液中のTMEM-180陽性CD44陽性のエクソソーム、微小小胞体またはアポトーシス小体を検出することにより、患者がTMEM-180とCD44を発現するがんまたはがん細胞を有するかを決定することができる。エクソソーム、微小小胞体またはアポトーシス小体は、その粒径の違いと物理的性質の違いにより遠心分離等の操作により単離または精製することができる。エクソソーム、微小小胞体またはアポトーシス小体はまた、そのマーカー分子の違いから、それぞれに特有のマーカー分子に結合する物質(例えば、抗体)を用いて検出、単離または精製してもよい。
エクソソームを濃縮、単離若しくは精製または検出するためには、例えば、Alix、Tsg101、CD9、CD63、CD81等のマーカーのいずれかに結合する物質(例えば、抗体)を用いることができる。微小小胞体を濃縮、単離若しくは精製または検出するためには、インテグリン、セレクチンおよびCD40等のマーカーのいずれかに結合する物質(例えば、抗体)を用いることができる。アポトーシス小体を濃縮、単離若しくは精製または検出するためには、例えば、アネキシンVおよびホスファチジルセリン等のマーカーのいずれかに結合する物質(例えば、抗体)を用いることができる。
本発明によれは、CD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞の存在は、抗TMEM-180抗体療法に対して感受性である可能性が高いこと(例えば、CD44陰性TMEM-180陽性のがん細胞と比較して)を示す。従って、本発明では、がんを有する、またはがんを有すると疑われる対象において、抗TMEM-180抗体を含む抗がん剤の治療有効性を分析する方法(判定する方法、決定する方法、またはこれらの産業的な方法、若しくは医師による診断行為ではないこれらの方法)であって、前記対象から単離された体液試料において、TMEM-180陽性CD44陽性の細胞外小胞の有無を検出することとを含む方法が提供される。本発明では、がんは、固形がんであり得、大腸がんであり得る。本発明では、対象は、上記方法のいずれかによってTMEM-180陽性のがんを有すると決定された対象であってもよい。本法では、細胞外小胞の有無は、規定値と比較して規定値よりも高い場合に当該細胞外小胞が検出されたと判定する工程、を含んでいてもよい。規定値は、偽陽性率および偽陰性率を基に当業者が適宜設定することが可能である。すなわち、偽陽性率を低くしたければ、規定値を大きくすればよく、偽陰性率を低くしたければ、規定値を小さくすればよい。
規定値としては、特に限定されないが例えば、任意の1人の健常者の体液試料中のTMEM-180陽性CD44陽性の微粒子量、例えば、細胞外小胞量(例えば、全細胞外小胞量、エクソソーム量、微小小胞体量およびアポトーシス小体量のいずれかなど)が挙げられる。規定値としてはまた、特に限定されないが例えば、複数人の健常者の体液試料中のTMEM-180陽性CD44陽性の微粒子量、例えば、細胞外小胞量が挙げられる。複数人の健常者の体液試料中のTMEM-180陽性CD44陽性の微粒子量、例えば、細胞外小胞量と比較する場合には、規定値は、特に限定されないが例えば、TMEM-180陽性CD44陽性の微粒子量、例えば、細胞外小胞量の平均値、最大値若しくは第3四分位値、若しくはこれらのうち2つの値で挟まれる値またはこれ以上の値とし得る。あるいは、規定値は、特に限定されないが例えば、平均値、最大値若しくは第3四分位値、またはこれらのうち2つの値で挟まれる任意の値の1倍以上の値、2倍以上の値、3倍以上の値、4倍以上の値、または5倍以上の値とすることができる。例えば、規定値は、複数の健常者の体液試料中のTMEM-180陽性CD44陽性の微粒子量、例えば、細胞外小胞量の平均値としてもよい。例えば、規定値は、複数の健常者の体液試料中のTMEM-180陽性CD44陽性の微粒子量、例えば、細胞外小胞量の最大値としてもよい。例えば、規定値は、複数の健常者の体液試料中のTMEM-180陽性CD44陽性の微粒子量、例えば、細胞外小胞量の平均値の1倍以上の値、2倍以上の値、3倍以上の値、4倍以上の値、もしくは5倍以上の値、または2〜5倍もしくは3〜5倍のいずれかの値としてもよい。例えば、規定値は、複数の健常者の体液試料中のTMEM-180陽性CD44陽性の微粒子量、例えば、細胞外小胞量の最大値の1倍以上の値、2倍以上の値、3倍以上の値、4倍以上の値、もしくは5倍以上の値、または2〜3倍もしくは3〜5倍のいずれかの値としてもよい。本発明において検出されるがんは、血液腫瘍以外のがん、例えば、固形がん、例えば、大腸がん、脳腫瘍、胃がん、膵がん、乳がん、前立腺がん、腎がん、および膀胱がんであり得る。規定値を設定するために参考とする健常者の人数は、特に限定されないが例えば、5人〜100人程度とすることができる。
TMEM-180を表出した細胞外小胞(例えば、全細胞外小胞量、エクソソーム量、微小小胞体量およびアポトーシス小体量のいずれかなど)の検出は、細胞外小胞を精製してからTMEM-180を検出すること、または、TMEM-180を含む物質を精製してから精製物中において細胞外小胞を検出することのいずれによって行ってもよい。すなわち、本発明では、細胞外小胞を検出する方法であって、体液試料中のTMEM-180を表出する細胞外小胞を精製することと、TMEM-180を表出する細胞外小胞を検出することと、これにより体液試料中にTMEM-180を表出する細胞外小胞が存在すると決定することとを含む、方法{精製および検出のどちらかまたは両方において抗TMEM-180抗体を用いる}が提供される。
TMEM-180およびCD44を表出した細胞外小胞の検出は、細胞外小胞を精製してからTMEM-180およびCD44を検出すること、または、TMEM-180および/またはCD44を含む物質を精製してから精製物中において細胞外小胞を検出することのいずれによって行ってもよい。すなわち、本発明では、細胞外小胞を検出する方法であって、体液試料中のTMEM-180およびCD44を表出する細胞外小胞を単離、精製または濃縮することと、TMEM-180およびCD44を表出する細胞外小胞を検出することと、これにより体液試料中にTMEM-180およびCD44を表出する細胞外小胞が存在すると決定することとを含む、方法{精製および検出のどちらかまたは両方において抗TMEM-180抗体および抗CD44抗体を用いる}が提供される。細胞外小胞の検出は上記2つの抗体を用いたサンドイッチELISAによって行ってもよい。
本発明のある態様では、対象の体液試料中にTMEM-180陽性CD44陽性のエクソソームが存在するか否かを検出して、これにより対象がTMEM-180陽性CD44陽性のがん細胞を有するか否かを決定することができる。この際、エクソソームの精製または検出は、周知の技術を用いて行うことができ、特に限定されないが例えば、エクソソームに結合する抗体(例えば、抗CD9抗体、抗CD63抗体または抗CD81抗体)を用いて実施することができる。またTMEM-180の検出またはTMEM-180を含む物質の精製は、本発明の抗TMEM-180抗体および抗CD44抗体を用いて実施することができる。検出に用いる抗体は、ペルオキシダーゼおよびアルカリホスファターゼなどの酵素並びにラジオアイソトープ、蛍光物質および発光物質などの標識により検出可能に標識した抗体とすることができ、これらの抗体の検出は当業者に周知の方法により行うことができる。また、エクソソーム量および上記規定値は、これらの検出方法による測定値またはこれを標準化した値に基づいて決定することができる。
例えば、TMEM-180陽性CD44陽性のエクソソームは、本発明のTMEM-180抗体を結合したビーズで試料中のエクソソームを免疫沈降し、その後、エクソソームに結合する抗体(例えば、抗CD9抗体、抗CD63抗体または抗CD81抗体)と抗CD44抗体とを用いて検出することができる。また、例えば、TMEM-180陽性CD44陽性のエクソソームは、エクソソームに結合する抗体(例えば、抗CD9抗体、抗CD63抗体または抗CD81抗体)を結合したビーズで試料中のエクソソームを免疫沈降し、エクソソーム精製分画から本発明のTMEM-180抗体および抗CD44抗体を用いて検出してもよいであろう。あるいは、TMEM-180陽性CD44陽性のエクソソームは、抗CD44抗体を結合したビーズで試料中のエクソソームを免疫沈降し、その後、エクソソームに結合する抗体(例えば、抗CD9抗体、抗CD63抗体または抗CD81抗体)と抗TMEM-180抗体とを用いて検出してもよいであろう。他の細胞外小胞(例えば、微小小胞体およびアポトーシス)も同様にそれぞれの小胞に固有のマーカーに結合する抗体と、本発明のTMEM-180抗体および抗CD44抗体とを用いて検出することができるであろう。
本発明によれば、単離されたCD44陽性TMEM-180陽性の細胞外小胞(例えば、全細胞外小胞量、エクソソーム量、微小小胞体量およびアポトーシス小体量のいずれかなど)が提供される。CD44陽性TMEM-180陽性の細胞外小胞の存在は、細胞外小胞が由来する対象が、抗TMEM-180抗体療法に応答性であること又はその可能性があることを示す。従って、単離、精製または濃縮されたCD44陽性TMEM-180陽性の細胞外小胞の存在は、細胞外小胞が由来する対象が、抗TMEM-180抗体療法に応答性であること又はその可能性があることを示す。CD44陽性TMEM-180陽性の細胞外小胞は、細胞外小胞に結合する物質(例えば、抗体)を用いて単離、精製または濃縮することができる。CD44陽性TMEM-180陽性の細胞外小胞は、がんの対象、大腸がんの対象、TMEM-180陽性がんの対象、TMEM-180陽性の大腸がんの対象、CD44陽性TMEM-180陽性のがんの対象、およびCD44陽性TMEM-180陽性の大腸がんの対象から単離、精製または濃縮され得る。
細胞外小胞(例えば、全細胞外小胞量、エクソソーム量、微小小胞体量およびアポトーシス小体量のいずれかなど)の精製または検出において、本発明の抗体としては、TMEM-180に結合する限りいずれの抗体も用いることができるが、例えば、1361抗体若しくは1361-5抗体またはこれらの抗体とTMEM-180への結合に関して競合する抗体を用いることができる。
試料中のTMEM-180量またはCD44量の測定は、試料中の特定のタンパク質量を測定するためのあらゆる方法を用いて行うことができ、例えば、イムノアッセイ(凝集法、比濁法を含む)、ウエスタンブロッティング法、表面プラズモン共鳴(SPR)法等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、抗TMEM-180抗体若しくは抗CD44抗体又はその抗原結合フラグメントを用いたイムノアッセイが簡便で有用である。
TMEM-180およびCD44は膜タンパク質であることから、市販の細胞溶解バッファー、非イオン性界面活性剤、膜タンパク質可溶化試薬等で処理し、膜タンパク質を可溶化してからその量を測定してもよい。
イムノアッセイは、検出可能に標識した抗TMEM-180抗体若しくは抗CD44抗体、及び/又は検出可能に標識した抗TMEM-180抗体若しくは抗CD44抗体に対する抗体(二次抗体)を用いる。抗体の標識法により、エンザイムイムノアッセイ(EIA又はELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)、蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、蛍光酵素イムノアッセイ(FLEIA)、化学発光酵素イムノアッセイ(CLEIA)、電気化学発光イムノアッセイ(ECLIA)等に分類され、これらのいずれも本発明の方法に用いることができる。
ELISA法では、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、RIA法では、125I、131I、35S、3H等の放射性物質、FPIA法では、フルオレセインイソチオシアネート、ロ
ーダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、CLIA法では、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質で標識した抗体が用いられる。その他、金コロイド、量子ドットなどのナノ粒子で標識した抗体を検出することもできる。
また、イムノアッセイでは、抗TMEM-180抗体または抗CD44抗体をビオチンで標識し、酵素等で標識したアビジン又はストレプトアビジンを結合させて検出することもできる。
イムノアッセイの中でも、酵素標識を用いるELISA法は、簡便且つ迅速に抗原を測定することができる。
ELISA法には競合法とサンドイッチ法がある。競合法では、マイクロプレート等の固相担体に抗TMEM-180抗体若しくは抗CD44抗体又はその抗原結合フラグメントを固定し、試料と酵素標識したTMEM-180またはCD44を添加して、抗原抗体反応を生じさせる。いったん洗浄した後、酵素基質と反応、発色させ、吸光度を測定する。試料中のTMEM-180またはCD44が多ければ発色は弱くなり、試料中のTMEM-180またはCD44が少なければ発色が強くなるので、検量線を用いてTMEM-180量またはCD44量を求めることができる。
サンドイッチ法では、固相担体に抗TMEM-180抗体若しくは抗CD44抗体又はその抗原結合フラグメントを固定し、試料を添加し、反応させた後、さらに酵素で標識した別のエピトープを認識する抗TMEM-180抗体または抗CD44抗体を添加して反応させる。洗浄後、酵素基質と反応、発色させ、吸光度を測定することにより、TMEM-180量またはCD44量を求めることができる。サンドイッチ法では、固相担体に固定した抗体と試料中のTMEM-180またはCD44を反応させた後、非標識抗体(一次抗体)を添加し、この非標識抗体に対する抗体(二次抗体)を酵素標識してさらに添加してもよい。
酵素基質は、酵素がペルオキシダーゼの場合、3,3'−diaminobenzidine(DAB)、3,3'5,5'−tetramethylbenzidine(TMB)、o−phenylenediamine(OPD)等を用いることができ、アルカリホスファターゼの場合、p−nitropheny phosphate(NPP)等を用いることができる。
あるいは、試料中のTMEM-180抗原をマイクロタイタープレートなどの固相担体に直接固定し、必要なブロッキングを行った後、非標識抗体(一次抗体)を添加し、この非標識抗体に対する抗体(二次抗体)を酵素標識してさらに添加してもよい。
本明細書において「固相担体」は、抗体を固定できる担体であれば特に限定されず、ガラス製、金属性、樹脂製等のマイクロタイタープレート、基板、ビーズ、ニトロセルロースメンブレン、ナイロンメンブレン、PVDFメンブレン等が挙げられ、標的物質は、これらの固相担体に公知の方法に従って固定することができる。
また、イムノアッセイの中で、微量のタンパク質を簡便に検出できる方法として凝集法も好ましい。凝集法としては、例えば、抗体にラテックス粒子を結合させたラテックス凝集法が挙げられる。
ラテックス粒子に抗TMEM-180抗体または抗CD44抗体などを結合させて適宜処理した試料に混合すると、TMEM-180または抗CD44抗体などが存在すれば、抗体結合ラテックス粒子が凝集する。そこで、サンプルに近赤外光を照射して、吸光度の測定(比濁法)又は散乱光の測定(比朧法)により凝集塊を定量し、抗原の濃度を求めることができる。
抗TMEM-180抗体又はその抗体結合フラグメントとしては、上述したCDR配列を有する本発明に係る抗TMEM-180抗体又はその抗体結合フラグメントを用いてもよい。
本発明に係るがんの検査用キットは、上述した検査方法を使用してがんの検査を行うためのキットであり、抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントを含む。本発明に係るがんの検査用キットは、抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメントに加え、イムノアッセイによって試料中のTMEM-180量を測定するために必要な試薬や装置を含んでいてもよい。
本発明に係るがんの検査用キットは、がんを有する、またはがんを有すると疑われる対象において、抗TMEM-180抗体を含む抗がん剤の治療有効性を分析することに用いるためのキットであり、
抗CD44抗体またはその抗原結合フラグメントを含むキットであり得、好ましくは、抗TMEM-180抗体またはその抗原結合フラグメントをさらに含む、キットであり得る。対象は、TMEM-180陽性のがんまたはがん細胞を有する対象であり得る。このキットは、がんの組織検体において、CD44とTMEM-180の発現を確認することに用いてもよいし、対象の体液試料中にCD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞由来微粒子(例えば、細胞外小胞)が存在するか否かを確認することに用いてもよい。本発明に係るがんの検査用キットは、がん細胞由来微粒子、例えば、細胞外小胞(例えば、全細胞外小胞量、エクソソーム量、微小小胞体量およびアポトーシス小体量のいずれかなど)に結合する抗体をさらに含んでいてもよい。
本発明に係るがんの検査用キットにおいて、抗体の1以上はそれぞれ、固相(カラム、ビーズ、ナノファイバー、プレート、基板等)に担持されていてもよい。
検査用キットの一態様は、サンドイッチ法によってTMEM-180および/またはCD44を測定するためのものであり、マイクロタイタープレート;捕捉用の抗TMEM-180抗体若しくはその抗原結合フラグメントおよび/または補足用の抗CD44抗体若しくはその抗原結合フラグメント;アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼで標識した抗TMEM-180抗体又はその抗原結合フラグメント;及び、アルカリホスファターゼ基質(NPP等)又はペルオキシダーゼの基質(DAB、TMB、OPD等)、を含む。
捕捉用抗体と標識抗体は、異なるエピトープを認識する。
このようなキットでは、まず、マイクロタイタープレートに捕捉用抗体を固定し、ここに試料を適宜希釈して添加した後インキュベートし、試料を除去して洗浄する。次に、標識した抗体を添加した後インキュベートし、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、TMEM-180量および/またはCD44量を求めることができる。
検査用キットの別の態様は、二次抗体を使用してサンドイッチ法によりTMEM-180またはCD44を測定するためのものであり、マイクロタイタープレート;捕捉用の抗TMEM-180抗体または抗CD44抗体;一次抗体としての抗TMEM-180抗体または抗CD44抗体;二次抗体として、アルカリホスファターゼ又はペルオキシダーゼで標識した抗TMEM-180抗体に対する抗体または抗CD44抗体に対する抗体;及び、アルカリホスファターゼ(NPP等)又はペルオキシダーゼの基質(DAB、TMB、OPD等)、を含む。
捕捉用抗体と一次抗体は、異なるエピトープを認識する。
このようなキットでは、まず、マイクロタイタープレートに捕捉用抗体を固定し、ここに試料を適宜希釈して添加した後インキュベートし、試料を除去して洗浄する。続いて、一次抗体を添加してインキュベート及び洗浄を行い、さらに酵素標識した二次抗体を添加してインキュベートを行った後、基質を加えて発色させる。マイクロタイタープレートリーダー等を用いて発色を測定することにより、TMEM-180を求めることができる。二次抗体を用いることにより、反応が増幅され検出感度を高めることができる。
検査用キットは、さらに、必要な緩衝液、酵素反応停止液、マイクロプレートリーダー等を含んでいてもよい。
標識抗体は、酵素標識した抗体に限定されず、放射性物質(25I、131I、35S、3H等)、蛍光物質(フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等)、発光物質(ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等)、ナノ粒子(金コロイド、量子ドット)等で標識した抗体であってもよい。また標識抗体としてビオチン化抗体を用い、キットに標識したアビジン又はストレプトアビジンを加えることもできる。
検査用キットのさらに別の態様として、ラテックス凝集法によってTMEM-180量を測定するものも挙げられる。このキットは、抗TMEM-180抗体感作ラテックスまたは抗CD44抗体感作ラテックスを含み、試料と抗TMEM-180抗体または抗CD44抗体とを混合し、光学的方法で集塊を定量する。キットに凝集反応を可視化する凝集反応板が含まれていることも好ましい。
本明細書において引用されるすべての特許文献及び非特許文献の開示は、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
実施例1:大腸がん細胞のゼノグラフトモデルに対する抗TMEM-180抗体の効果
(1)大腸がん細胞株DLD−1のゼノグラフトモデル
本実施例では、マウスの大腸がん細胞のゼノグラフトモデルに対する抗TMEM-180抗体の治療効果を調べた。抗TMEM-180抗体として、669クローンが産生する抗体(WO2016039321Aの配列番号78および79参照)を投与した。ゼノグラフトモデルは、大腸がん細胞としてヒト大腸がん細胞株DLD−1を用いた。細胞をトリプシン処理で培養器から剥離して遠心チューブに回収し、DMEM培地で3回洗浄した。洗浄後、SW480細胞は1〜2×107cells/mLに調製して等量のマトリゲル(corning, cat no. 356237)と混合した。DLD-1細胞は5×107cells/mLに調製した。細胞懸濁液100 μLをICR nu/nuマウス(♀,5〜7wks)もしくはBalb/c nu/nuマウス(♀,5〜7wks)の脇腹部皮下に注入した。腫瘍径を測定し、腫瘍体積が規定値を超えたところで実験に用いた。腫瘍体積は次のように計算した。
腫瘍体積(mm3)=腫瘍径短径(mm)2×腫瘍径長径(mm)
陽性対象として抗EGFR抗体(アービタックス(商標);セツキシマブ)、陰性対照としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を投与した。
ゼノグラフトモデル(4匹)において腫瘍容積が200mmに達したときに治療を開始し、抗体はいずれも、25mg/kg体重/日(500μL溶液として)を週2回または3回の頻度で計8回腹腔内投与した。治療期間中マウスの腫瘍径および体重を記録し、腫瘍体積の変動を治療効果として評価した。結果は、図1に示される通りであった。
図1に示されるように、抗TMEM-180抗体は、セツキシマブ(抗EGFR抗体)とほぼ同じ抗腫瘍効果を発揮した(上パネル参照)。また、治療による実質的な体重変化は、いずれの抗体を投与した場合も観察されなかった(図1の下パネル)。
(2)大腸がん細胞株SW480のゼノグラフトモデル(その1)
次に、上記実施例1(1)と同じ手法でヒト大腸がん細胞株SW480のゼノグラフトモデルを作製した。抗TMEM-180抗体として、669クローンが産生する抗体を投与した。陽性対象として抗EGFR抗体(アービタックス(商標);セツキシマブ)、陰性対照としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を投与した。
ゼノグラフトモデル(4匹)において腫瘍容積が200mmに達したときに治療を開始し、抗体はいずれも、25mg/kg体重/日を2日に1回の頻度で計8回投与した。結果は、図2に示される通りであった。
図2に示されるように、セツキシマブ(抗EGFR抗体)は、ゼノグラフトモデルにおいて、陰性対照と比較して、有意な抗腫瘍効果を発揮した(上パネル参照)。これに対して、抗TMEM-180抗体は、ゼノグラフトモデルにおいて、グラフトされた腫瘍を消失させるほどの顕著な抗腫瘍効果を発揮した(図2の上パネル参照)。陰性対照のマウスは、途中で安楽死させた(図中「殺処分」と表示)。
治療されたマウスの体重変化を確認したところ、いずれの抗体を投与して治療したマウスでも有意な体重減少は観察されなかった(図2の下パネル参照)。
(3)大腸がん細胞株SW480のゼノグラフトモデル(その2)
上記実施例(2)においては、ゼノグラフトモデルにおいて腫瘍容積が200mmに達したときに治療を開始した。本実施例1(3)では、腫瘍体積が300mmに達したときに治療を開始したときに治療を開始した以外は、上記実施例1(2)と同じ手法で各抗体の治療効果を確認した。投与量は、12.5mg/kg体重/日または25mg/kg体重/日とし、抗体を2日に1回の頻度で計8回投与した。結果は、図3に示される通りであった。
図3に示されるように、抗EGFR抗体は、25mg/kg体重/日の用量では限定的な抗腫瘍効果しか発揮せず、12.5mg/kg体重/日では有意な抗腫瘍効果は認められなかった(上パネル参照)。これに対して、抗TMEM-180抗体は、12.5mg/kg体重/日および25mg/kg体重/日のいずれでも、グラフトされた腫瘍を消失させるほどの顕著な抗腫瘍効果を発揮した(図3の上パネル参照)。治療中のマウスの体重に対する抗体投与の影響は認められなかった(図3の下パネル参照)。
実施例2:低酸素条件下におけるTMEM-180の発現誘導
腫瘍は体内では増大と共に低酸素環境下に晒される傾向が強まる。本実施例では、体内での低酸素環境下を模擬した実験条件で大腸がん細胞を培養した。
2×10細胞のヒト大腸がん細胞株SW480をスライドチャンバーに播種し、24時間培養してから、通常の酸素濃度(normoxia; 20%O)または低酸素条件(hypoxia; 1%O)下の培養バック内にスライドチャンバーを移動し、さらに24時間培養した。より具体的には、8 ウェルスライドチャンバー(nunc)2枚にそれぞれ1ウェル当たり2*104 cellsになるようにSW480細胞を播種し24時間(37℃、5% CO2)培養後、1枚をNormoxia(37℃、5% CO2、20% O2)、1枚をHypoxia(37℃、5% CO2、1% O2)になるようにBIONIX低酸素培養キット(スギヤマゲン)に移し、さらに24時間培養した。培地はD-MEM(Wako)に10% FBS(Life Technologies)、1% Penicillin-Streptomycin-Amphotericin B(Wako)を加えたものを用いた。培養後の細胞を4% PFA(Wako)で固定化、0.1% TritonX-100で処理し、669H1L1-PE(フィコエリスリン)およびDAPIで染色した。スライドは蛍光顕微鏡(BZ-9000,キーエンス)を用いて観察した。
結果は、図4に示される通りであった。
図4に示されるように、通常の酸素濃度条件下でも全てのSW480細胞がTMEM-180の発現を示すのに対して、低酸素条件下では、TMEM-180の発現が顕著に亢進した。なお、培養後の細胞溶解物を抗HIF−1α抗体を用いてウェスタンブロットしたところ、低酸素環境下ではHIF−1αの発現が亢進していた。
低酸素条件下では、一般的に分裂が活発な細胞は生き残ることが難しい。活発な細胞ほど生存のために酸素消費を必要とするためである。これに対して、分裂が遅い細胞(例えば、がん幹細胞)は、低酸素条件下や低栄養条件下でも生き残り易い。TMEM-180が特に低酸素条件下で発現増強するという証拠は、低酸素条件下で生き残り易いがん幹細胞においてTMEM-180が発現増強することを示唆する。このことから、がん幹細胞は、抗TMEM-180抗体に対して感受性であり、抗TMEM-180抗体療法の主要なターゲットたり得ることが分かる。
実施例3:抗腫瘍効果とCD44の発現との関係
ゼノグラフトモデルからそれぞれ腫瘍組織切片を作製して腫瘍における表面抗原の発現を調べた。
実施例1(1)および(2)にそれぞれ記載された方法と同じ方法でDLD−1細胞株のゼノグラフトモデルおよびSW480細胞株のゼノグラフトモデルを作製した。ゼノグラフトモデルマウスを麻酔下で安楽死させた。摘出した腫瘍組織はPBS中で軽くゆすぎ、脂肪など付着物はピンセットを用いて取り除いてからOCTコンパウンドに包埋しドライアイスで急速凍結した。保管は-80℃とした。得られた組織を免疫組織学的染色に供した。凍結腫瘍組織から6 μmの凍結切片を作製し、30分間風乾後、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(Wako社)に15分間室温で浸した。5%(w/v)スキムミルクをDPBSで調製したブロッキング溶液でブロッキング処理を行い、その後、1次抗体として、AlexaFluor488 labeling kit(Thermo Fisher Scientific社)を用いて標識した抗CD44抗体(156-3C11, Abcam社)を50倍希釈して添加した。次に、2次抗体として、R-Phycoerythrin Labeling Kit-SH(Dojindo社)を用いて標識した抗TMEM180抗体(669)を100倍希釈して添加した。DAPIにより核染色を行い、封入した後に、バーチャルスライドシステム(Olympus社)を用いて撮影した。 結果は、図5に示される通りであった。
図5に示されるように、DLD−1ゼノグラフトモデルから得られたDLD−1細胞株由来の腫瘍は、CD44陰性であったのに対して、SW480ゼノグラフトモデルから得られたSW480細胞株由来の腫瘍は、CD44陽性であった。
CD44は、がん幹細胞マーカーとして知られるタンパク質である。上記実施例1〜3の結果から、抗TMEM-180抗体は、TMEM-180を発現するがん幹細胞に対して極めて著効を示すことが示唆された。
実施例4:CD44陽性TMEM-180陽性血中浮遊粒子の検出
上述の結果から、CD44とTMEM-180陽性の細胞を有する対象に対しては、抗TMEM-180抗体は、著効を示す。本実施例では、そのような対象のスクリーニングが、血液試料を利用して、例えば、血漿中に遊出することが知られる細胞外小胞やエクソソームを指標として可能かを調べた。
DLD−1細胞株およびSW480細胞株をそれぞれ培養し、細胞培養上清を回収した。回収された上清それぞれに含まれる微粒子(または複合体)を、サンドイッチELISAにより検出した。抗TMEM-180抗体固定化層、抗CD9抗体固定化層、または抗CD44抗体固定化層を用いて固定化層に結合させ、その後、図6Aまたは6Bに示される抗体によって固定化層に結合した微粒子を検出した。なお、図6BにおけるCD9はエクソソームマーカーである。結果は、図6AおよびBに記載される通りであった。
図6Aに記載されるように、DLD−1細胞およびSW480細胞の培養上清のいずれからも、TMEM-180が検出された。次に、TMEM-180抗体固定化層で回収した場合、DLD−1細胞培養上清由来の微粒子では、CD44発現が非常に弱かった(陰性であった)のに対して、SW480細胞培養上清由来の微粒子では、CD44発現が強かった(陽性であった)(図6A参照)。
このことから、CD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞からは、CD44陽性TMEM-180陽性の複合体または微粒子が放出されること、およびこれを検出することでCD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞の存在を決定することができること、並びに、CD44陽性TMEM-180陽性の複合体または微粒子の存在を検出することで抗TMEM-180抗体による治療効果の高い対象を選別することが可能であることが明らかとなった。また、遊粒子は、対象の体液(血漿を含む)から検出することができる血中浮遊微粒子であった。
なお、図6Bで示されるように、SW480細胞の培養上清から抗CD9抗体固定化層で回収した画分がTMEM-180陽性CD44陽性であったことから、TMEM-180陽性CD44陽性エクソソームの存在は明らかである(図6B参照)。一方で、DLD-1細胞培養上清から抗CD9抗体固定化層で回収した画分は、TMEM-180は陽性であったがCD44の発現はSW480と比較して弱かった(図6B参照)。このことから、微粒子には、少なくとも細胞外小胞であるエクソソームが含まれることが示された。一般的にがん細胞は、微小小胞体およびアポトーシス小体などの細胞外小胞を放出しうる。従って、上記微粒子には、微小小胞体およびアポトーシス小体などの細胞外小胞が含まれることも示唆された。微小小胞体およびアポトーシス正体はいずれも、細胞膜に由来する細胞外小胞であるため、TMEM-180陽性CD44陽性であると考えられる。従って、TMEM-180陽性CD44陽性のがんまたはがん細胞の存在は、TMEM-180陽性CD44陽性の血中浮遊粒子、特に、細胞外小胞の存在により予測することができることが明らかとなった。
CD44は、がん幹細胞のマーカー分子である。低酸素条件下でTMEM-180の発現増強が誘導されること、ゼノグラフトモデルで抗TMEM-180抗体が著効を示すこと、そのような細胞がCD44を発現することを考慮すると、TMEM-180陽性のがん幹細胞が特に低酸素環境下で抗TMEM-180抗体療法に対して特に高い感受性を有することが示唆される。
実施例5:各種がんにおけるTMEM-180とCD44の発現
大腸がん細胞株SW480に加えて、膵臓がん細胞株HPAF-2、子宮体がん細胞株HEC-1、胃がん細胞株58As1m、腎臓がん細胞株769−P、肺がん細胞株EBC-1、および膀胱がん細胞株KU-19でのTMEM-180およびCD44の発現を確認した。
測定対象とするがん細胞を培地に懸濁し、1×105個/wellとなるようにV底96ウェルプレート(corning)に添加した。プレートを440×g、4℃、3分遠心してから上清を除き、細胞ペレットにTMEM180抗体を5μg/ml、CD44抗体を0.25μg/mlになるように加えて懸濁した。4℃で45分反応させた後、0.1%BSA/2 mM EDTA/PBS 200 μL/wellで3回洗浄した。上清を除き、細胞ペレットに二次抗体を50 μL/wellで加えて懸濁した。なお二次抗体としてAlexaFluor647 Goat anti-Rat IgG(H-L)(Life Technologies)を0.1%BSA/2 mM EDTA/PBSで400倍に希釈したものを用いた。4℃で45分反応させた後、0.1%BSA/2 mM EDTA/PBS 200 μL/wellで3回洗浄した。上清を除き、細胞ペレットに1 ug/mL Propidium Iodide/0.1%BSA/2 mM EDTA/PBSを200 μL/wellで加えて懸濁した。このように染色した細胞をGuava easyCyte 8HT(Merck Millipore)等のフローサイトメーターを用いて測定し、得られたデータをFlowJO(トミーデジタルバイオロジー)で解析した。TMEM180抗体としては、669H1L1抗体(5μg/mL)を用い、CD44抗体としては、CD44 Ab-4(0.255μg/mL)を用いた。結果は、図7〜13に示される通りであった。
図7〜13に示されるように、TMEM-180およびCD44は発現量にそれぞれ差は認められたものの、大腸がん細胞株SW480に加えて、膵臓がん細胞株HPAF-2、子宮体がん細胞株HEC-1、胃がん細胞株58As1m、腎臓がん細胞株769-P、肺がん細胞株EBC-1、および膀胱がん細胞株KU-19において発現が確認された。TMEM-180は、様々ながんにおいて陽性たり得ることが明らかとなった。また、CD44は、様々ながんの幹細胞において発現することが知られていることから、様々な種類のがんにおいて、TMEM-180陽性CD44陽性の細胞が存在するものと考えられた。
参考例1:1361−5クローンの作製
配列番号180に記載の重鎖可変領域および配列番号182に記載の軽鎖可変領域を有するIgG1抗体を作製した。この抗体は、大腸がん細胞DLD−1株のTMEM-180強制発現株に対して結合することがフローサイトメトリーにより確認された。
次に、1361-5クローンのFcに位置するS239D/A330L/I332Eの3重アミノ酸置換を導入した改変体1と、1361-5クローンのFcに位置するS239D/I332E/E333Aの3重アミノ酸置換を導入した改変体2を作製した。
(1)ADCC活性の検討
ADCC活性は、セツキシマブを陽性対象として、1361−5抗体、改変体1および改変体2について調べた。
具体的には、エフェクター細胞として、TK176V(FcγRIII安定発現ナチュラルキラー細胞株)を用いた。TK176Vは、一般財団法人化学物質評価機構から得た。また、ターゲット細胞としては、DLD-1の野生型細胞を用いた。
TK176Vは10ng/mL IL-2及び10% FBS含有RPMI1640培地で培養した。継代は2〜3日毎に新しい培地に希釈した。継代は2〜3日毎にトリプシン処理で細胞を剥離し、新しい培地に懸濁してディッシュに播種した。
ADCC活性の測定は以下の通り行った。
まず、陰性対照として、ターゲット細胞と培地のみで培養した時の51Cr放出量を測定し(Spontaneous release測定という)、陽性対象として、ターゲット細胞に0.1% Triton X-100を添加して全細胞を傷害した時の51Cr放出量を測定した(Max release測定という)。
1)50μCiの51Crで標識したDLD-1 WTを96 well U底プレートに5,000細胞/50μL /wellで添加
2)TK176Vを200,000細胞 50μL/wellで添加(ET比:40)
Spontaneous release測定用well及びMax release測定用wellに培地を50μL/wellで添加
3)最大濃度2,000ng/mL、公比5の希釈系列で7種類の濃度の抗体を100μL/wellで添加
(反応中の抗体最終濃度:0、0.064、0.32、1.6、8、40、200、または1,000ng/mL)
4)Spontaneous release測定wellに培地、Max release測定wellに0.2% Triton X-100を100μL /wellで添加
5)プレートを遠心(250×g、4分)後、37℃で4時間培養
6)プレートを遠心(250×g、4分)
7)上清50μL/wellを測定用チューブに移す
8)ガンマカウンターで各チューブの放射線量(CPM)を測定
9)以下の式から細胞傷害活性及びADCC活性を算出
式1:
細胞傷害活性(%) =( 各チューブ CPM − Spontaneous release CPM平均値 )
÷( Max release CPM平均値 −Spontaneous release CPM平均値 )×100
式2:
ADCC活性(%) = 抗体添加時の細胞傷害活性 − 抗体非添加時の細胞傷害活性
10)解析ソフトPrismを用いて各抗体の50%有効濃度(EC50)を算出
結果は、図14A〜Dに示される通りであった。図14Aに示される通り、セツキシマブは、DLD-1の野生型細胞に対して強いADCC活性を示した。これに対して、図14Bに示される通り、1361−5抗体は、DLD-1の野生型細胞に対してセツキシマブよりも強いADCC活性を示した。また、図14CおよびDに示される通り、改変体1および2は、1361−5抗体と同等かそれ以上のADCC活性を示した。TMEM-180陰性細胞に対しては、ADCC活性は示されなかった。
このことから、1361−5抗体およびその改変体は、ADCC活性を有していることが確認された。
参考例2:インビボ腫瘍モデルにおける抗TMEM−180抗体の効果
本実施例では、マウスゼノグラフトモデル(ヒト大腸がん細胞株DLD−1)を用いてヒトIgG化669抗体の抗腫瘍効果を検証した。
ヒトIgG化669抗体は、ヒトIgG1のCDRを669抗体のCDRに置き換えて作製した。
ICRヌードマウス(♀、5〜6週齢、日本チャールズリバー)の左腹側部にDLD−1細胞を5×106細胞/100μL PBSで皮下投与した。腫瘍体積が100〜200mm3となった個体を5群に分け、PBS 500μL、ヒトIgG化669抗体500μg/500μL PBS、ヒトIgG化669抗体100μg/500μL PBS、抗EGFR抗体のErbitux(アービタックス)500μg/500μLもしくはErbitux100μg/500μL PBSを週に3回ずつ投与した。また1群あたりマウス4〜5匹とした。なお、腫瘍径およびマウス体重は毎投与時に記録した。腫瘍体積は[腫瘍長径×腫瘍短径2]として求めた。結果は、図15に示される通りであった。
図15に示されるように、ヒトIgG化669抗体は、PBSを投与した陰性対照と比較して顕著に腫瘍サイズの増大を抑制した。また、ヒトIgG化669抗体は、セツキシマブよりも強い抗がん作用を有することが明らかとなった。なお、マウスの体重は投与前後で大きな変化は認められなかった。
参考例3:1361-5抗体を用いた大腸がん組織アレイの染色
本参考例では、参考例2で作製した1361-5抗体を用いて大腸がんの免疫組織学染色を行った。
大腸がん組織アレイは、BioChain Institue Inc.(Newark, CA)から入手し、実験に用いた。製造者マニュアルに従い、各組織アレイを染色した。結果は、図16に示される通りであった。図16に示されるように、1361-5抗体は良好に大腸がん組織(D8、B7およびB5)を染色できた(上の3つのパネル)。一方で、セツキシマブ染色像においては、これらのアレイではいずれも染色が陰性であった(図16における下の3つのパネル参照)。
参考例4:エクソソームの分析
本参考例では、細胞膜タンパク質であるTMEM-180タンパク質ががん細胞からエクソソーム中に放出され、かつ膜タンパク質としてエクソソームに表出されることが明らかとなった。
具体的には、大腸がん細胞株DLD−1を培養し、培養上清を取得した。ゲル濾過後、各画分を98抗体を用いて確認したところ、タンパク質の分子量よりも遙かに大分子量の画分に98抗体陽性分画が存在することが明らかとなった。これは、TMEM-180タンパク質が巨大複合体を形成していることを意味している(例えば、図18参照)。
そこで、上記培養上清中のエクソソームを検出する系を構築した。この検出系は、抗TMEM-180抗体をプレート表面に固相化し、固相化された抗体に結合するTMEM-180含有エクソソームをエクソソームマーカーである抗CD9抗体で検出する系であった。細胞としては、DLD−1細胞株(「DLD−1細胞野生株」ともいう)を用い、陰性対照としてTMEM-180ノックダウンDLD−1細胞株、およびK562細胞株を用いた。
具体的には、抗TMEM-180抗体を5 μg/mLとなるようにリン酸バッファーで希釈し、96ウェルプレート(Maxisorp #442404、Thermo Fisher co., Ltd.)に50μl/wellで添加した。固相化反応は、室温で2時間もしくは4℃で一晩のインキュベーションして行った。300μl/wellのプレート洗浄液により、固相化済みプレートの洗浄を3回繰り返した。200μl/wellのブロッキング剤(1%BSA/TBS-T)でブロッキングし、室温で1時間もしくは4℃で一晩静置した。ブロッキング剤を除去後、無血清培地で24時間培養したDLD-1細胞野生株培養上清およびTMEM-180ノックダウンDLD-1細胞株培養上清、K562細胞培養上清をそれぞれ50μl/wellでプレートに添加し、室温で1時間静置した。なお陰性対照として未使用の無血清培地を用いた。プレート洗浄液により、プレートの洗浄を3回繰り返した後、1%BSA/TBS-Tで5 μg/mLに希釈したビオチン標識抗CD9抗体(156-030、Ancell co., LTD.)を50μl/wellでプレートに添加した。室温で1時間静置後、プレート洗浄液により、プレートの洗浄を3回繰り返した。1%BSA/TBS-Tで5000倍に希釈したStreptavidin-HRP conjugated(SA-5004、Vector Laboratories)を50μl/wellでプレートに添加した。室温で30分静置のうえ、プレート洗浄液によりプレートの洗浄を3回繰り返した後、100μl/wellの発色液を添加し、室温で30分間静置した。30μl/wellの停止液を添加して呈色反応を停止し、プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。結果は、図17に示される通りであった。
図17に示される通り、DLD−1細胞株は培養上清中にエクソソームを放出しており、このエクソソームは、その表面にTMEM-180タンパク質を表出しており、669抗体および1631抗体と抗CD9抗体を用いて検出することができた。一方で、TMEM-180ノックダウン株では、TMEM-180を表出するエクソソーム量が低減した。また、TMEM-180を発現しないK562細胞株でも同様であり、陰性対照として用いた培地と同程度であった。
このことから、がん細胞からはTMEM-180を表出するエクソソームが放出されること、および、本発明の抗TMEM-180抗体と抗エクソソーム抗体を用いてこれを検出できることが明らかとなった。なお、発明者らは、ヒト大腸がん患者血清中にもTMEM-180を表出するエクソソームが放出されていることを既に見出している。このことから、がんの検査においては、体液試料中のTMEM-180タンパク質が表出しているエクソソームが検出されるか否かを指標としてがんを診断し得ることが明らかとなった。
参考例5:エクソソームを用いた大腸がん診断
本参考例では、大腸がんの患者血清中に含まれるエクソソームを用いて診断が可能であることを示した。
本実施例では、1361抗体固定化ビーズを用いて、大腸がん患者血清(51例)から1361抗体に反応する成分を精製し、その後、エクソソームマーカーであるCD9抗体を用いてその中に含まれるエクソソームを検出した。具体的には以下の通りであった。
1)抗体結合磁気ビーズの調製
1361抗体を25mM MES−NaOHで1mg/mLに希釈した。NHS−FGビーズ(多摩川精機、Cat.No.TAS8848N1141)を100μgあたり50μLの25mM MES−NaOHに懸濁し、等容量の抗体溶液と混合し、4℃で30分攪拌することで抗体とNHS−FGビーズとを結合させた。上清を除いてから1Mエタノールアミン(pH8.0)を250μL添加して4℃で一晩ブロッキングした。200μLの10mM HEPES−NaOH(pH7.9)/50mM KCl/1mM EDTA/10% glycerolで3回洗浄し、得られた抗体結合磁気ビーズを200μLの10mM HEPES−NaOH(pH7.9)/50mM KCl/1mM EDTA/10%グリセロールに懸濁して実験に用いた。
2)陽性検体の調製
DLD−1細胞を6.85×106細胞/15cm dishとして一晩培養した。培養上清を除いてからPBS 7mLを添加し、培地成分を洗い出した。PBSでの洗浄を2回行った後、無血清培地を30mL添加し、24時間培養した。得られた無血清培養上清は0.22μmフィルターで濾過してから測定に用いた。
3)TMEM-180含有エクソソームの検出
以下の資材を用いた
・96ウェルプレート(Corning Co.,Ltd、Cat.No.3600)
・プレート洗浄液 10mM TBS(pH7.2)/0.1% Tween20/140mM NaCl
・希釈液 10mM TBS(pH7.2)/0.05% Tween20/140mM
NaCl/1% BSA・検体希釈液 10mM TBS(pH7.2)/0.1% Tween20/140mM NaCl/1% BSA/20μg/mL TRU Block(Meridian Life Science, Inc.、Cat.No. A66800H-0.1)
・ビオチン化抗CD9抗体(Ancell corporation、Cat.No.156-030)
・ストレプトアビジンALP(R&D systems, Inc.、Cat.No.AR001)
・発光基質 ルミパルス基質液(富士レビオ株式会社)
・プレートリーダー Spectra Max Paradigm (MolecuLar Devices, LLC.)
(手順)
以下の手順にしたがった。
(i) 抗体結合磁気ビーズ調製
1361抗体結合磁気ビーズを0.001mg/50μLとなるように希釈液に懸濁した。
(ii) 検体調製
陽性検体および血清検体は検体希釈液で10倍に希釈した。
(iii) 一次反応
1361抗体結合磁気ビーズ懸濁液50μL/well、検体50μL/wellを96ウェルプレートで混合し、30分間プレートミキサーで攪拌、反応させた。
(iv) 標識抗体反応
300μl/wellのプレート洗浄液により、プレートの洗浄を3回繰り返した。ビオチン標識抗体を希釈液で0.3μg/mLに調製し、50μL/wellで添加した。30分間プレートミキサーで攪拌、反応させた。
(v) ストレプトアビジンALP反応
300μl/wellのプレート洗浄液により、プレートの洗浄を3回繰り返した。ストレプトアビジンALPを希釈液で2,000倍に希釈し、50μl/wellで添加した。30分間プレートミキサーで攪拌、反応させた。
(vi)測定
300μl/wellのプレート洗浄液により、プレートの洗浄を3回繰り返した。50μl/wellの発光基質液を添加し、室温で10分間インキュベーションした。プレートリーダーで発光量を測定した。
結果は、図19に示される通りであった。図19に示されるように、健常者血清と比較して大腸がん患者の血清には、TMEM-180陽性のエクソソームが多く含まれていることが明らかであった。
次に、図19に示されるデータを用いて、カットオフ値(閾値)を設定して、診断の感度および特異度を検証した。具体的には、健常者(50例)における相対的発光強度の平均値(N)を基準として、その3倍(S/N=3)、4倍(S/N=4)または5倍(S/N=5)をカットオフ値(閾値)に設定し、カットオフ値を超えた場合に大腸がんであると決定し、これにより診断の感度と特異度を検証した。結果は、表1に示される通りであった。
表1に示されるように、本発明によれば、すべてのステージにおいて非常に高い感度で大腸がんを検出できることが明らかとなった。特に、ステージ2において、いずれのカットオフ値においても75%を超える高感度でがんを検出した。また、ステージ1においても、50%を超える高感度でがんを検出した。検出の特異度は、いずれの場合も85%を超える高い特異度を示した。
上記の例では、S/Nを3以上にした例を例示したが、S/Nを1に設定した場合でもがんの検出ができることは、図19の結果から明らかであるといえる。一般的に、カットオフ値は高く設定すると特異度が上昇するが感度が低下し、カットオフ値を低く設定すると特異度は減少するが感度が上昇する。本発明および実施例によれば、疑陽性を減らすことを目的とするか、偽陰性を減らすことを目的とするかで、カットオフ値は当業者により自由に設定され得ることが理解されるであろう。
参考例6:エクソソーム上でのTMEM-180の表出の観察
本参考例では、電子顕微鏡を用いてエクソソーム上のTMEM-180の表出を観察した。
培養上清からのエクソソーム回収
DLD−1細胞、およびTMEM-180強制発現DLD−1細胞をそれぞれプラスチックシャーレに撒き、一晩インキュベートした。培養上清を除き、細胞をはがさないようにPBSで2回洗ってから無血清のD−MEM培地と交換した。24時間培養したのち培養上清を回収、0.22μmフィルターで濾過したものをエクソソーム含有無血清培養上清とした。またK562細胞はPBSで三回洗浄したものを無血清のRPMI−1640培地で24時間培養したのち培養上清を回収、0.22μmフィルターで濾過して用いた。エクソソーム含有無血清培養上清を100,000×g、4℃で24時間遠心し得られたペレットをPBSに懸濁したものをエクソソーム濃縮液とした。
エクソソームの免疫染色
支持膜を張ったNiグリットにエクソソーム濃縮液を分散させ、膜に吸着させた。抗TMEM-180抗体クローンの669抗体もしくは抗ヒトCD9抗体(Cosmo bio)をNiグリットに添加し、室温で反応させた。1%BSA/PBSでNiグリッドを洗浄し、続けて金コロイド標識抗マウスIg抗体もしくは金コロイド標識抗ラットIg抗体を添加し、室温で反応させた。PBSで洗浄した後、グルタールアルデヒドで3分間固定した。なおネガティブ染色は2%リンタングステン酸溶液(pH7.0)で行った。固定したNiグリッドは乾燥させてから、透過型電子顕微鏡でエクソソームと抗体との結合を観察した。電子顕微鏡では、金コロイドは黒点として検出される。結果は、図20に示さる通りであった。
図20に示されるように、エクソソームは、抗CD9抗体を用いた染色において複数の黒点を伴い、抗CD9抗体により染色されたことが分かる(図20のA)。また、エクソソームは、抗TMEM-180抗体を用いた染色においても、複数の黒点を伴い、抗TMEM-180抗体により染色されたことが分かる(図20のB)。なお、TMEM-180を表出しないK562細胞は、抗TMEM-180抗体とは反応しなかった。このことから、大腸がん細胞から体液中に放出されるエクソソームは、TMEM-180を表出していることが明らかとなった。この結果は、エクソソームと抗TMEM-180抗体を用いてがんの診断が可能であることを裏付ける結果であるといえる。
参考例7:エクソソームを抗原とした抗TMEM-180抗体の作製
上記TMEM-180タンパク質がエクソソーム上に検出されることが分かった後に、上記エクソソームを抗原として用いて抗TMEM-180抗体を得た。
免疫原の調製
1)無血清培養上清の調製
DLD-1細胞TMEM-180過剰発現株を15 cm dish(#430599、Corning Co.,Ltd.)1枚あたり6.75×106 cellsとして、10%FBS含有D-MEM low glucose培地(wako)30 mL中で37℃、5%CO2条件下24時間培養した。培養器から培地を除きPBSで穏やかに洗浄した後、D-MEM low glucose培地を30 mL/dishで添加し、同様に24時間培養した。回収した無血清培養上清を0.22 μmフィルターフラスコでろ過して細胞片などを除去した後、Protease Inhibitor(Wako)を1/1000量加えて4℃で保管した。
2)エクソソーム画分の調製
CHT セラミックハイドロキシアパタイトタイプII(Bio-Rad)を充填させたカラムを30 mMHEPES, 100 mM NaCl pH6.7で平衡化した。無血清培養上清をカラムに添加し、同bufferで洗浄を行い、500 mM KPB pH6.7で溶出した。溶出した溶液を限外濾過を用いて10 mL以下にまで濃縮し、ゲル濾過カラムSuperdex200pg(GE)を用いて分画した。各フラクションに対してTMEM-180陽性画分の測定を行い、ボイド容量にある陽性画分のピークを回収し、TMEM-180エクソソーム含有画分とした(図18参照)。
3)TMEM-180陽性画分の測定
測定サンプルを原液もしくはリン酸バッファーで希釈し、96ウェルプレート(Maxisorp #442404、Thermo Fisher co., Ltd.)に50μl/wellで添加した。固相化反応は室温で2時間とした。300μl/wellのプレート洗浄液により、固相化プレートの洗浄を3回繰り返した。200μl/wellの1%BSA/TBS-Tでブロッキングし、室温で1時間静置した。ブロッキング剤を除去後1%BSA/TBS-T で5 μg/mLに希釈したclone 98抗体を50μl/wellでプレートに添加した。室温で1時間静置後、プレート洗浄液により、プレートの洗浄を3回繰り返した後、1%BSA/TBS-T で10,000倍に希釈したGoat anti rat IgM antibody HRP conjugated(A110-100P、Bethyl laboratories, Inc.)を50μl/wellでプレートに添加した。室温で30分静置のうえ、プレート洗浄液によりプレートの洗浄を3回繰り返した後、100μl/wellの発色液を添加し、室温で20分間静置した。30μl/wellの停止液を添加して呈色反応を停止し、プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。
4)抗体の作製
TMEM-180含有エクソソームとFreund complete adjuvantとを1:1で混合して調製したエマルジョンをラット(日本SLC、Wister、 メス、 6〜8週令)尾根部両脇に100 μLずつ投与した。免疫14日後に腸骨リンパ節、鼠径リンパ節、腋下リンパ節および膝下リンパ節を摘出し、PEG法にてリンパ節細胞とマウスミエローマ細胞p3X63と融合した。融合10日〜14日後に培養上清を回収し、フローサイトメトリーにてDLD-1細胞に陽性、K562細胞に陰性を示す抗体産生ハイブリドーマ細胞を選択した。またDLD-1細胞TMEM-180過剰発現株、DLD-1細胞TMEM-180ノックダウン株、DLD-1細胞TMEM-180ノックアウト株に対する反応性でスクリーニングを行った。選択した抗体産生ハイブリドーマ細胞は限界希釈法にて単クローン化、樹立した。抗体のアイソタイプはアイソタイプ特異的ELISA(Bethyl)で判定した。
上記方法により、IgG抗体1種、IgM抗体3種を得た。これらの抗体は、良好にエクソソーム上のTMEM-180タンパク質を認識し、かつ、上記実施例と同様にがん組織を良好に染色した。エクソソームを免疫して得た抗体が、エクソソームを用いたがんの診断に有用であることは当然である。加えて、エクソソーム上ではTMEM-180はネイティブなコンフォメーションをとり、細胞膜上と同じ部分を表出していると考えられる。そして、エクソソームを免疫して得た抗体は、免疫組織学染色やFACSにより細胞膜上のTMEM-180と結合した。エクソソームを免疫して抗体を得る方法は、膜タンパク質、特に抗TMEM-180抗体を得る方法として有用であると考えられる。
参考例8:抗体薬物コンジュゲート(ADC)の構築と生理学的試験
本参考例では、ADCを構築し、大腸がん細胞株への効果を調べた。
ADCとしては、669抗体または372抗体を抗TMEM−180抗体として用い、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)を薬物として用いた。抗体とMMAEは、リンカーを介して連結させた。リンカーは、カテプシンで開裂可能なバリン−シトルリンリンカー(Val−Citリンカー)とした。具体的なADCの構造は図21に示される通りであった。
参考例9:ADCの調製
(1)リンカーの合成
H-Cit-OH (1.18 g, 6.74 mmol)とNaHCO (566 mg, 6.74 mmol)の水溶液(18 mL)にFmoc-Val-OSu (2.80 g, 6.42 mmol)のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF) (18 mL)溶液を加え、さらにテトラヒドロフラン(THF) (9 mL)を加えて、終夜撹拌した。反応を15% クエン酸水溶液(40 mL)により停止させ、水層をAcOEt/i-PrOH (9/1)混合溶液 (100 mL, 20 mL x 2)により抽出した。あわせた有機層を水 (70 mL)で洗浄し、減圧濃縮した。残渣の固体をジエチルエーテルにより洗浄し、ジペプチドFmoc-Val-Cit-OH(3.11 g, 97%)を白色固体として得た。
Fmoc-Val-Cit-OH (3.00 g, 6.04 mmol)とp−アミノベンジルアルコール(PAB) (1.49 g, 12.1 mmol)のジクロロメタン(70 mL)−メタノール (30 mL)の溶液に1−エトキシカルボニル−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリン(EEDQ) (2.99 g, 12.1 mmol) を加えた。1日後、さらにEEDQ (1.50 g, 6.04 mmol)を加え、終夜撹拌した。反応液を濃縮し、残渣をジエチルエーテル添加後、超音波により洗浄し、Fmoc-Val-Cit-PAB-OH (2.51 g, 69%)を得た。
(2)リンカーとMMAEとの連結およびADCの調製
p−ニトロフェニルカーボネート体 (1.28 g, 1.67 mmol) と1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt) (376 mg, 2.78 mmol) のジメチルホルムアミド(3.4 mL)とピリジン (0.85 mL) の溶液にMMAE (1.00 g, 1.39 mmol) を加えた。24時間後、反応液をSephadex LH20 (溶媒CHCl3:MeOH 1:1)により精製し、Fmoc-Val-Cit-PABC-MMAE (1.44 g, 77%)を得た。
Fmoc-Val-Cit-PABC-MMAE (1.44 g, 1.07 mmol)のジメチルホルムアミド溶液 (20 mL) にEt2NH (5 mL)を加えた。終夜撹拌後、反応液を減圧濃縮し、残渣を酢酸エチルとジエチルエーテルにて洗浄し、淡黄色固体 (960 mg, 80%)を得た。
H-Val-Cit-PABC-MMAE (960 mg, 0.855 mmol)のジクロロメタン溶液 (20 mL)にマレイミド−ポリエチレングリコール12−スクシンイミジルエステル(Mal-PEG12-OSu) (814 mg, 0.94 mmol)とジイソプロピルエチルアミン(0.45 mmol, 2.57 mmol)を加えた。終夜撹拌し、反応液をSephadex LH20 (CHCl3:MeOH 1:1)と分子ふるい高速液体クロマトグラフィー(Size Exclusion HPLC)により精製し、Mal-PEG12-Val-Cit-PABC-MMAE (769 mg, 48%)を無色オイルとして得た。
その後、常法に従って、抗体をメルカプトエチルアミンで還元し、Mal-PEG12-Val-Cit-PABC-MMAEのマレイミド基と抗体のチオール基とをマイケル付加反応により連結してADCを得た。抗体としては、669抗体およびコントロール抗体を用いた。
参考例10:抗体の細胞内移行の観察
96ウェルプレートに野生型DLD−1細胞を5000細胞/ウェルで播種して37℃で18時間インキュベートした。1回洗浄し、488ラベルした669抗体2μg/ウェル添加し、一定時間(1時間後、3時間後、または6時間後)、37℃でインキュベートした。3回洗浄し、ウサギ抗488抗体を2μg/ウェルの量で添加し、4℃で30分間静置して、細胞膜表面に結合した抗体に由来する蛍光を消光した。3回洗浄した後、4%PFAを100μL/ウェルで添加して、10分間室温で静置した。さらに3回洗浄した後、DAPI(1/500希釈)を100μL/ウェルで添加して、5分間室温で静置した。3回洗浄した後、撮影もしくはArray Scan解析を行った。対照としては、抗EGFR抗体であるセツキシマブ(Erbitux)を用いた。結果は図22に示される通りであった。
図22に示されるように、669抗体は、細胞内に高濃度に濃縮されている様子が観察された。これに対してセツキシマブでは、その取込み量は限定的であった。
参考例11:ADCによる細胞殺傷作用
SW480細胞を96穴プレートに2×10細胞/ウェルの量で播種した。翌日、MMEA(単剤)、669抗体のADC、およびコントロール抗体のADC(コントロールADC)それぞれをMMAE換算濃度で希釈系列を作製して各ウェルに添加した。3日後、細胞毒性測定試薬であるWST−8を添加して3時間経過後、細胞生存率(%)を観察した。結果は、図23に示される通りであった。
図23に示されるように、MMAE同様に669抗体のADCは細胞に対して細胞殺傷作用を発揮することが明らかとなった。また、669抗体のADCは、コントロールADCよりも高い細胞殺傷作用を発揮した。
参考例12:TMEM−180ノックアウトマウス
TMEM−180ノックアウトマウスを作製して表現型を観察した。
CRISPR-Cas9システムを用いてTMEM-180のエキソン2にガイドRNAを作製し、交配させて複数個体のTMEM-180ホモノックアウトマウスを得た(図24参照)。胎生致死ではないことを確認した。この結果は、TMEM-180の機能喪失は正常組織への影響が少ないことを示唆する。
配列表の簡単な説明
配列番号:1〜3は、それぞれ98クローンの重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:4〜6は、それぞれ98クローンの軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:7〜9は、それぞれ101クローンの重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:10〜12は、それぞれ101クローンの軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:13及び14は、それぞれ98クローンの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号:15及び16は、それぞれ101クローンの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号:17はヒトTMEM-180タンパク質のアミノ酸配列を示す。
配列番号:26〜31は、抗TMEM-180抗体遺伝子のクローニングに用いたプライマーを示す。
配列番号:40〜42は、それぞれ212クローンの重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:43〜45は、それぞれ212クローンの軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:46及び47は、それぞれ212クローンの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号:48〜50は、それぞれ129クローンの重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:51〜53は、それぞれ129クローンの軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:54及び55は、それぞれ129クローンの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号:56〜58は、それぞれ382クローンの重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:59〜61は、それぞれ382クローンの軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:62及び63は、それぞれ382クローンの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号:64〜66は、それぞれ1361クローンの重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:67〜69は、それぞれ1361クローンの軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:70及び71は、それぞれ1361クローンの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号:72〜74は、それぞれ669クローンの重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:75〜77は、それぞれ669クローンの軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:78及び79は、それぞれ669クローンの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号:80〜82は、それぞれ699クローンの重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:83〜85は、それぞれ699クローンの軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:86及び87は、それぞれ699クローンの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号:88〜90は、それぞれ1052クローンの重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:91〜93は、それぞれ1052クローンの軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:94及び95は、それぞれ1052クローンの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号:96〜98は、それぞれ1105クローンの重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:99〜101は、それぞれ1105クローンの軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:102及び103は、それぞれ1105クローンの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号:171〜173は、それぞれ1361-5クローンの重鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:174〜176は、それぞれ1361-5クローンの軽鎖CDR1〜3のアミノ酸配列を示す。
配列番号:177及び178は、それぞれ1361-5クローンの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列を示す。
配列番号:179及び180は、それぞれ1361-5クローンの重鎖の塩基配列及びアミノ酸配列を示す。
配列番号:181及び182は、それぞれ1361-5クローンの軽鎖の塩基配列及びアミノ酸配列を示す。

Claims (9)

  1. 単離されたTMEM-180陽性CD44陽性の細胞外小胞。
  2. CD9陽性である、請求項1に記載の単離されたTMEM-180陽性CD44陽性の細胞外小胞。
  3. 抗TMEM-180抗体を含む、対象においてがんを治療することに用いるための医薬組成物であって、対象が、TMEM-180陽性CD44陽性のがん細胞を有すると決定された対象である、医薬組成物。
  4. 対象が、がん細胞の有無が対象の体液試料中にTMEM-180陽性CD44陽性の微粒子を検出することによりTMEM-180陽性CD44陽性がん細胞を有すると決定された対象である、請求項3に記載の医薬組成物。
  5. がんを有する、またはがんを有すると疑われる対象において、抗TMEM-180抗体を有効成分として含む抗がん剤の治療有効性を分析する方法であって、
    前記対象が、CD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞を有するか否かを決定すること
    を含む方法。
  6. 対象の体液試料中のTMEM-180陽性CD44陽性の微粒子の有無により、対象がCD44陽性TMEM-180陽性のがん細胞を有するか否かを決定する、請求項5に記載の方法。
  7. がんを有する、またはがんを有すると疑われる対象において、抗TMEM-180抗体を含む抗がん剤の治療有効性を分析することに用いるためのキットであって、
    抗CD44抗体若しくはその抗原結合フラグメント
    を含む、キット。
  8. 抗TMEM-180抗体若しくはその抗原結合フラグメントをさらに含む、請求項7に記載のキット。
  9. 請求項5または6に記載の方法に用いるための、請求項8に記載のキット。
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