以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本実施形態にかかる自動変速機の油圧制御装置を備える車両の全体構成例を示す図である。同図に示す車両は、駆動源としてのエンジン10(内燃機関)と、トルクコンバータ24と、エンジン10の駆動力による回転を変速して出力する無段変速機26(CVT:Continuous Variable Transmission)と、前後進切替装置28とを備える。前後進切替装置28には、エンジン10の駆動力の無段変速機26への伝達を断接するために設けられた前進クラッチ28aが含まれる。また、車両は、上記のエンジン10、無段変速機26、前後進切替装置28を制御するための制御装置であるエンジンコントローラ66及びシフトコントローラ90を備える。
エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は、車両の運転席の床面に配置されるアクセルペダルとの機械的な接続が絶たれ電動モータなどのアクチュエータからなるDBW機構16(Drive By Wire 機構)に接続され、DBW機構16で開閉される。
スロットルバルブで調量された吸気は、インテークマニホルド(図示せず)を通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ20から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブ(図示せず)が開弁されたとき、当該気筒の燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室において混合気は点火されて燃焼し、ピストンを駆動してクランクシャフト22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
エンジン10のクランクシャフト22は、トルクコンバータ24のポンプ・インペラ24aに接続される一方、それに対向配置されて流体(作動油)を収受するタービン・ランナ24bはメインシャフトMS(入力軸)に接続される。これによりクランクシャフト22の回転は、トルクコンバータ24に入力される。また、トルクコンバータ24は、ロックアップクラッチ24c(摩擦係合要素)を有する。
また、クランクシャフト22の回転は、トルクコンバータ24を介して、無段変速機26に入力される。無段変速機26は、メインシャフトMS、より正確にはその外周側シャフト、に配置されたドライブプーリ26aと、メインシャフトMSに平行なカウンタシャフトCS(出力軸)、より正確にはカウンタシャフトCSの外周側シャフト、に配置されたドリブンプーリ26bと、その間に掛け回される無端可撓部材、例えば金属製のベルト26cからなる。
ドライブプーリ26aは、メインシャフトMSの外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体26a1と、メインシャフトMSの外周側シャフトに相対回転不能で固定プーリ半体26a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26a2からなる。ドリブンプーリ26bは、カウンタシャフトCSの外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体26b1と、カウンタシャフトCSに相対回転不能で固定プーリ半体26b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26b2からなる。
無段変速機26は、前後進切替装置28を介してエンジン10に接続される。前後進切替装置28は、車両の前進方向への走行を可能にする前進クラッチ28aと、後進方向への走行を可能にする後進ブレーキクラッチ28bと、その間に配置されるプラネタリギヤ機構28cからなる。無段変速機26は、エンジン10に前進クラッチ28aを介して接続される。
プラネタリギヤ機構28cにおいて、サンギヤ28c1はメインシャフトMSに固定されるとともに、リングギヤ28c2は前進クラッチ28aを介してドライブプーリ26aの固定プーリ半体26a1に固定される。サンギヤ28c1とリングギヤ28c2の間には、ピニオン28c3が配置される。ピニオン28c3は、サンギヤ28c1と噛合い、キャリア28c4と一体に構成される。キャリア28c4は、後進ブレーキクラッチ28bが作動させられると、それによって固定(ロック)される。
カウンタシャフトCSの回転は、ギヤを介してセカンダリシャフトSS(中間軸)から駆動輪12に伝えられる。即ち、カウンタシャフトCSの回転は、ギヤ30a,30bを介してセカンダリシャフトSSに伝えられ、その回転はギヤ30cを介してディファレンシャル32から駆動軸34に伝わり、最終的に左右の駆動輪12(右側のみ示す)に伝えられる。
駆動輪12(前輪)と図示しない従動輪(後輪)の付近には、ディスクブレーキ36が配置される。車両の運転席の床面にはブレーキペダル40及びアクセルペダル56が配置される。ブレーキペダル40の付近にはブレーキスイッチ40aが設けられる。ブレーキスイッチ40aは、運転者のブレーキペダル40の操作に応じてオン信号を出力する。また、アクセルペダル56の付近には、アクセル開度センサ56aが設けられる。アクセル開度センサ56aは、運転者のアクセルペダル操作量に相当するアクセル開度に比例する信号を出力する。
前後進切替装置28において前進クラッチ28aと後進ブレーキクラッチ28bの切替は、車両運転席に設けられたレンジセレクタ44を運転者が操作して例えばP,R,N,Dなどのレンジのいずれかを選択することで行われる。運転者のレンジセレクタ44の操作によるレンジ選択は、油圧供給機構46のマニュアルバルブに伝えられる。レンジセレクタ44の付近には、レンジセレクタスイッチ44aが設けられる。レンジセレクタスイッチ44aは、運転者によって選択されたP,R,N,Dなどのレンジに応じた信号を出力する。
レンジセレクタ44を介して、例えばD,S,Lレンジが選択されると、それに応じてマニュアルバルブのスプールが移動し、後進ブレーキクラッチ28bのピストン室から作動油(油圧)が排出される一方、前進クラッチ28aのピストン室に油圧が供給されて前進クラッチ28aが締結される。
前進クラッチ28aが締結されると、全ギヤがメインシャフトMSと一体に回転し、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSと同方向(前進方向)に駆動される。よって、車両は前進方向に走行する。
Rレンジが選択されると、前進クラッチ28aのピストン室から作動油が排出される一方、後進ブレーキクラッチ28bのピストン室に油圧が供給されて後進ブレーキクラッチ28bが作動する。
PあるいはNレンジが選択されると、両方のピストン室から作動油が排出されて前進クラッチ28aと後進ブレーキクラッチ28bが共に開放され、前後進切替装置28を介しての動力伝達が断たれ、エンジン10と無段変速機26のドライブプーリ26aとの間の動力伝達が遮断される。
エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ50が設けられている。クランク角センサ50は、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。また、吸気系においてスロットルバルブの下流の適宜位置には絶対圧センサ52が設けられている。絶対圧センサ52は、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。DBW機構16のアクチュエータには、スロットル開度センサ54が設けられている。
クランク角センサ50などの出力は、エンジンコントローラ66に送られる。エンジンコントローラ66は、マイクロコンピュータを備え、それらセンサ出力に基づいて目標スロットル開度を決定してDBW機構16の動作を制御するとともに、燃料噴射量を決定してインジェクタ20を駆動する。
メインシャフトMSには、NTセンサ70が設けられている。NTセンサ70は、タービン・ランナ24bの回転数、具体的にはメインシャフトMSの回転数NT、より具体的には、前進クラッチ28aの入力軸回転数を示すパルス信号を出力する。
無段変速機26のドライブプーリ26aの近傍には、NDRセンサ72が設けられている。NDRセンサ72は、ドライブプーリ26aの回転数NDR、換言すれば前進クラッチ28aの出力軸回転数に応じたパルス信号を出力する。
ドリブンプーリ26bの近傍には、NDNセンサ74が設けられている。NDNセンサ74は、ドリブンプーリ26bの回転数NDN、即ち、カウンタシャフトCSの回転数を示すパルス信号を出力する。セカンダリシャフトSSのギヤ30bの付近には、Vセンサ76が設けられている。Vセンサ76は、セカンダリシャフトSSの回転数を通じて車速Vを示すパルス信号を出力する。油圧供給機構46は、所定の油路に配置され油圧を計測する油圧センサ82と、油温を計測する油温センサ84とが配置される。
上述の各種センサの出力は、図示しないその他のセンサの出力も含め、シフトコントローラ90に送られる。シフトコントローラ90もCPU,ROM,RAM,I/Oなどからなるマイクロコンピュータを備えるとともに、エンジンコントローラ66と通信自在に構成される。
図2は、油圧供給機構46の油圧回路図である。本実施形態の油圧供給機構46は、メイン油圧回路47と、サブ油圧回路48から構成される。メイン油圧回路47は、後述のPH制御バルブ46cを含み、無段変速機26、前後進切替装置28及びトルクコンバータ24の各部を制御するための油圧回路である。サブ油圧回路48は、後述の潤滑系46jを有する油圧回路である。メイン油圧回路47には油圧制御が必要な構成部材が多いため、メイン油圧回路47の油圧は、相対的に高い油圧となる。これに対して、サブ油圧回路48の油圧は、相対的に低い油圧となる。
また、メイン油圧回路47は、PH制御バルブ46cを介して供給される作動油が、先に供給される第1作動油供給部と、第1作動油供給部の後に供給される第2作動油供給部と、から構成される。本実施形態においては、第1作動油供給部は、無段変速機26及び前後進切替装置28のために構成された油圧回路であり、第2作動油供給部は、トルクコンバータ24のために構成された油圧回路である。
油圧供給機構46には、第1オイルポンプ46a1及び第2オイルポンプ46a2が設けられる。第1オイルポンプ46a1のロータと第2オイルポンプ46a2のロータとは、エンジン10の回転軸と同一軸に配置される。このため、第1オイルポンプ46a1及び第2オイルポンプ46a2は、エンジン10の回転によって駆動される。
第1オイルポンプ46a1は、CVTケース(図示せず)の下方のリザーバ46bに貯留された作動油を汲み上げ、PH制御バルブ46cに接続される油路46dに作動油を圧送する。第2オイルポンプ46a2は、リザーバ46bから作動油を汲み上げ、ポンプ切替バルブ46g(流量調整手段)に接続される油路46eに作動油を圧送する。
油路46dにはPH制御バルブ46cが接続される。PH制御バルブ46cは、第1オイルポンプ46a1の吐出圧(元圧)と、必要に応じて第2オイルポンプ46a2から加えられた吐出圧とを、PH圧(ライン圧)に調圧して油路46kに出力する。
ポンプ切替バルブ46gは、ポンプ切替バルブ46gのスプールの一端に、付勢部材であるバネ46g1を有する。ポンプ切替バルブ46gは、バネ46g1によって、図の左方に付勢される。
ポンプ切替バルブ46gの出力は、一方では油路46dに接続される油路46fに接続されるとともに、他方では油路46hに接続され、そこから潤滑制御バルブ46iを介して潤滑系46jに接続される。潤滑系46jとは、潤滑を必要とする構成部品あるいは部材の総称を意味する。
そして、油圧供給機構46では、ポンプ切替バルブ46gの切り替えにより、潤滑モード(第1状態)と高圧モード(第2状態)の少なくとも2段階に、モード(状態)を切り替え可能である。潤滑モードは、メイン油圧回路47へ供給される作動油の流量が相対的に少ないモードであり、高圧モードは、メイン油圧回路47へ供給される作動油の流量が相対的に多いモードである。
潤滑モードと高圧モードとの切り替えの際の、ポンプ切替バルブ46gの切り替え動作を説明する。潤滑モードの場合、ポンプ切替バルブ46gは、第2オイルポンプ46a2から供給された作動油を潤滑側の油路46hに供給する。このため、PH制御バルブ46cには、作動油が第1オイルポンプ46a1のみから供給されることとなる。一方、高圧モードの場合、ポンプ切替バルブ46gは、第2オイルポンプ46a2から供給された作動油を高圧側の油路46fに供給する。このため、PH制御バルブ46cには、作動油が第1オイルポンプ46a1及び第2オイルポンプ46a2から供給されることとなる。このように、ポンプ切替バルブ46gが作動油を供給する油路を切り替えることにより、PH制御バルブ46cに供給される作動油の流量が、相対的に少ない第1流量Q1と相対的に多い第2流量Q2とのいずれかに切り替わる。
油路46kは、DR制御バルブ46m1を介してドライブプーリ26aの可動プーリ半体26a2のピストン室26a21に接続される。また、油路46kは、DN制御バルブ46m2を介してドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室26b21に接続される。
第1リニアソレノイドバルブ46m11及び第2リニアソレノイドバルブ46m21は、油路46pから送られる後述のCR圧を元圧として調圧されるパイロット圧を、DR制御バルブ46m1とDN制御バルブ46m2のスプールの一端に供給する。
DR制御バルブ46m1は、PH圧を元圧として調圧され、ドライブプーリ26aの可動プーリ半体26a2のピストン室26a21に供給する。DN制御バルブ46m2は、PH圧を元圧として調圧され、ドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室26b21に供給する。こうして、ドライブプーリ側圧及びドリブンプーリ側圧を発生させる。
その結果、無段変速機26においては、可動プーリ半体26a2と可動プーリ半体26b2を軸方向に移動させるプーリ側圧が発生して、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bのプーリ幅が変化する。これにより、ベルト26cの巻掛け半径が変化してエンジン10の出力を駆動輪12に伝達する変速比が無段階に変化させられる。
油路46kは、他方では油路46nを介してCRバルブ46oに接続される。CRバルブ46oはPH制御バルブ46cで調圧されたPH圧をCR圧(クラッチリデューシング圧(制御圧))に減圧し、油路46pに吐出する。油路46pに吐出されるCRバルブ46oの出力圧(CR圧)は第3リニアソレノイドバルブ46qに入力され、そこでソレノイドの励磁に応じて適切な油圧に調圧される。
第3リニアソレノイドバルブ46qで調圧された油圧は、フェール時のバックアップ用に設けられるバックアップバルブ46rの入力ポート46r1から入力され、出力ポート46r2から出力される。そして、マニュアルバルブ46sを介して前後進切替装置28の前進クラッチ28aのピストン室28a1あるいは後進ブレーキクラッチ28bのピストン室28b1に接続される。
マニュアルバルブ46sは、運転者によって操作されるレンジセレクタ44の出力信号に応じて第3リニアソレノイドバルブ46qで調圧された出力圧を、前進クラッチ28aのピストン室28a1または後進ブレーキクラッチ28bのピストン室28b1に接続する。これにより、車両の前進または後進走行を可能にする。
また、PH制御バルブ46cの排出圧は、油路46tを介してTC制御バルブ46uにトルコン元圧として送られる。TC制御バルブ46uの出力圧は、トルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cのピストン室に送られるとともに、排出圧は潤滑系46jに送られる。
図3を用いて、油圧制御装置の構造を説明する。図3は、油圧制御装置のブロック図である。本実施形態の油圧制御装置は、シフトコントローラ90が、少なくとも制御部91(制御手段)、流量推定手段92、滑り検知手段93を有する構成である。流量推定手段92は、後述の推定供給流量Qsや推定消費流量Qcを求めるためのマップ等の情報が記憶された記憶部92a、制御部91により推定供給流量Qsや推定消費流量Qcを補正するための補正部92bをさらに有する。
制御部91は、流量推定手段92と滑り検知手段93とにより得られた結果に基づいて、油圧供給機構46のポンプ切替バルブ46gの制御を行う。具体的には、ポンプ切替バルブ46gを切り替えてPH制御バルブ46cに供給する流量を第1流量Q1または第2流量Q2に調整する。
流量推定手段92は、エンジン10と直結された第1オイルポンプ46a1の回転数、油圧センサ82及び油温センサ84等の検知値や、記憶部92aに記憶された流量に関するマップに基づいて、作動油の流量を推定する。流量推定手段92により推定される作動油の推定流量(推定値)としては、第1オイルポンプ46a1から供給される推定供給流量Qsと、メイン油圧回路47で消費される推定消費流量Qcとがある。
本実施形態における推定供給流量Qsは、2つのオイルポンプのうち第1オイルポンプ46a1から供給される作動油の流量を推定したものである。しかしながら、これに限るものではない。例えば、1つのオイルポンプで油圧供給源が構成される場合であっても、オイルポンプから作動油をメイン油圧回路47へ供給する場合に、供給流量を、相対的に少ない第1流量と相対的に多い第2流量との2段階に切り替えが可能な場合に、第1流量の推定を行うものとしてもよい。
記憶部92aに記憶されるマップとしては、例えば、作動油の油温、オイルポンプの回転数、ライン圧等から構成され、供給流量の基準となるマップ、作動油の油温とライン圧等から構成され、作動油の消費流量の基準となるマップ、無段変速機26により消費される作動油の消費流量の基準となるマップ等がある。マップの具体的な構成は、これに限られるものではない。
補正部92bは、制御部91が行う推定供給流量Qsと推定消費流量Qcとの比較により行われる流量の収支計算の結果に基づいて、マップの値の補正を行う。例えば、ある供給側の基準となるマップMs0から得られた推定供給流量Qs0が実際の供給流量と異なると判断した場合、マップMs0から得られる値に所定の補正係数C1を乗じ、C1×Ms0から得られるマップMs1を、次回の推定供給流量Qsを求めるために基準となるマップとして用いる。同様に、ある消費側の基準となるマップMc0から得られた推定消費流量Qc0が実際の消費流量と異なると判断した場合、消費側の基準となるマップMc0から得られる値に所定の補正係数C2を乗じ、C2×Mc0から得られるマップMc1を次回の推定消費流量Qcを求めるために基準となるマップとして用いる。なお、補正方法は、必ずしもマップから得られた値に補正係数を乗じて行う必要はなく、マップから得られた値に所定の補正値を加減して行ってもよい。また、補正は、一部のマップから得られた値に対して補正係数を乗じたものに、さらに所定の補正値を加減して行うこととしてもよい。
滑り検知手段93は、トルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cのスリップ率ETR(LC締結率)を検知する。具体的には、ETR(%)は、クランク角センサ50の検出回転数とNTセンサ70の検出回転数との比率を計測することで得られる。ETRが100%でない場合、制御部91は、滑り検知手段93から滑り検知信号SIが出力されたと判断する。
図4を用いて、制御部91による推定流量(推定供給流量Qs及び推定消費流量Qc)の決定と当該推定流量に基づいて、PH制御バルブ46cへ供給する流量の決定と、ポンプ切替バルブ46gの切り替えタイミングについて説明する。図4は、推定流量の決定方法に関するフローチャートである。
図4に示すように、まず、制御部91は、上述の各種センサから得られる値と流量推定手段92の記憶部92aに記憶されるマップに基づいて、推定供給流量Qs及び推定消費流量Qcを算出する(ステップS1)。
そして、制御部91は、推定供給流量Qsと推定消費流量Qcとを比較する(ステップS2)。ここで、推定供給流量Qsが推定消費流量Qcを上回る場合、メイン油圧回路47に供給される流量は、相対的に少ない第1流量Q1でよいと判断する(ステップS3)。一方、推定供給流量Qsが推定消費流量Qcを上回らない場合(又は下回る場合でもよい)、メイン油圧回路47に供給される流量は、相対的に多い第2流量Q2を供給すべきであると判断する(ステップS4)。
次に、制御部91は、ポンプ切替バルブ46gの切り替えが必要か否かを判断する(ステップS5)。具体的には、PH制御バルブ46cへ供給する流量が第1流量Q1から第2流量Q2へ変わる場合、または、PH制御バルブ46cへ供給する流量が第2流量Q2から第1流量Q1へ変わる場合がこれにあたる。
ここで、制御部91は、流量切替が必要である場合には、後述の推定流量を補正する制御を行い(ステップS10)、ポンプ切替バルブ46gの切り替えを行う(ステップS6)。一方、流量切替が必要でない場合は、制御部91は、ポンプ切替バルブ46gの切り替えを行わない。
図5を用いて、推定流量の補正について説明する。図5は、推定流量補正に関するフローチャートである。図5のステップS10は、図4に示すステップS10と同じものである。
推定流量を補正する制御(ステップS10)において、制御部91は、推定流量の補正の条件が成立しているか否かを確認する(ステップS11)。補正のための条件が成立していない場合には、特に何も行うことなく制御を終了する。一方、条件が成立している場合には、制御部91は、滑り検知手段93から滑り検知信号SIが出力されているか否かを確認する(ステップS12)。
次に、制御部91は、滑り検知手段93から、滑り検知信号SIが出力されない場合、推定流量の補正を進める(ステップS13)。すなわち、ポンプ切替バルブ46gの流量切替制御が行われる時点では、通常、推定供給流量Qsと推定消費流量Qcとの大小が逆転する場合である。このため、流量切替制御の時点の推定供給流量Qsと推定消費流量Qcとは一致する。この時点において、ロックアップクラッチ24cの滑りがない場合には、実際には、ロックアップクラッチ24cを締結するために十分な供給流量があったと判断することができ、推定供給流量Qsが推定消費流量Qcよりも大きかったものと推定することができる。
このため、制御部91は、ステップS13において、次回のポンプ切替バルブ46gの切替時点に用いる推定供給流量Qsを増加させる。または、実際の消費流量が、ポンプ切替バルブ46gの切替時点で用いた推定消費流量Qcよりも少なかったと判断し、次回のポンプ切替バルブ46gの切替時点に用いる推定消費流量Qcを減少させる。なお、これらの制御は、必ずしも一方のみを行うことに限るものではなく、推定供給流量Qsを増加する補正と推定消費流量Qcを減少させる補正との両方を行うものとしてもよい。このように、推定供給流量Qsを増加させる補正または推定消費流量Qcを減少させる補正のうち少なくとも一方を行うことで潤滑モード(第1状態)の時間を増加させる補正を第1状態増加補正という。
一方、制御部91は、滑り検知手段93から、滑り検知信号SIが出力された場合、推定流量の補正を少なくとも一段階前の状態に戻す(ステップS14)。すなわち、ロックアップクラッチ24cの滑りがあった場合には、実際には、ロックアップクラッチ24cを締結するために十分な供給流量がないと判断することができ、推定供給流量Qsが推定消費流量Qcよりも小さかったものと判断できる。
このため、制御部91は、ステップS14において、推定供給流量Qsを減少させる補正を行うか、推定消費流量Qcを増加させる補正を行う。なお、これらの制御は、必ずしも一方のみを行うことに限るものではなく、推定供給流量Qsを減少する補正と推定消費流量Qcを増加させる補正との両方を行うものとしてもよい。このように、推定供給流量Qsを減少させる補正または推定消費流量Qcを増加させる補正のうち少なくとも一方を行うことで潤滑モード(第1状態)の時間を減少させる補正を第1状態減少補正という。
なお、滑り検知手段93からの滑り検知信号SIは、常に制御部91に送信されている。このため、ロックアップクラッチ24cの滑り検知信号SIが出力される時点は、必ずしも、流量切替制御の時点のみに限るものではない。
制御部91は、ステップS14の後、推定流量補正を中断する(ステップS15)。このため、推定供給流量Qsと推定消費流量Qcは、滑り検知手段93から滑り検知信号SIが得られた時点よりも、少なくとも一段階前の時点で補正された値となる。
次に、具体的な場合を例示して、上記の推定流量補正による効果を説明する。図6は、潤滑モードから高圧モードへの切替時に推定供給流量Qsの増加補正を行った例を示す図である。図6の例においては、推定流量補正を行う時点を、潤滑モードから高圧モードに切り替える流量切替制御の時点とし、推定供給流量Qsのみを補正し、推定供給流量Qsは固定するものとした。
まず、1回目の流量切替制御の時点Ta1よりも前においては、推定供給流量Qsを、基準となるマップMs0を用いて算定している。1回目の流量切替制御の時点Ta1において、ロックアップクラッチ24cの締結率(LC締結率)は100%であるため、滑り検知信号SIは出力されない。この場合、推定供給流量Qsを増加させる補正を行う。具体的には、マップMs0よりも推定供給流量Qsが大きくなるようなマップMs1に基づいて、1回目の流量切替制御の時点Ta1以降の推定供給流量Qsの算定を行う。また、2回目の流量切替制御の時点Ta2においても、LC締結率が100%であるため、推定供給流量Qsを増加させる補正が行われる。具体的には、推定供給流量Qsがより増大するようなマップMs2に基づいた補正を行う。
この結果、流量切替制御以降、マップMs0に基づいて推定供給流量を算定し続けた場合と比較して、潤滑モードから高圧モードへの移行時点が遅くなり、高圧モードから潤滑モードへの移行時点が早くなっている。よって、潤滑モードの時間が長くなり、高圧のメイン油圧回路47へ作動油を供給する流量が減少するため、第2オイルポンプ46a2と同軸で回転するエンジン10の負荷が減り、燃費がよくなる。
図7は、滑り検知信号SIを検知した場合に推定供給流量Qsの減少補正を行った例を示す図である。図7の例においては、推定流量補正を行う時点を、潤滑モードから高圧モードに切り替える流量切替制御の時点とし、推定供給流量Qsのみを補正し、推定消費流量Qcは補正しないものとした。
まず、流量切替制御の時点Tb1において、推定供給流量Qsを増加させる補正が行われ、マップMs2に基づいて推定供給流量Qsが算定されている。ここで、滑り検知手段93から滑り検知信号SIが出力された場合、推定流量の補正を少なくとも一段階前の状態に戻す。すなわち、滑り検知信号SIが出力された時点Tb2より後は、マップMs2よりも推定供給流量Qsが小さくなるようなマップMs1に基づいて推定供給流量Qsを算定することとする。すなわち、マップMs2よりも一段階前の補正で用いられたマップMs1に基づいて推定供給流量Qsを算定する。
この結果、マップMs1に基づいて推定供給流量Qsを算定した場合に、滑り検知信号SIが出力されなかったマップMs1に基づく推定供給流量Qsの算定が、最適だと把握することができる。
図8は、高圧モードから潤滑モードへの切替時に推定供給流量Qsの増加補正を行った例を示す図である。図8の例においては、推定流量補正を行う時点を、高圧モードから潤滑モードに切り替える流量切替制御の時点とし、推定供給流量Qsのみを補正し、推定消費流量Qcを補正しないものとした。
まず、1回目の流量切替制御の時点Tc1よりも前においては、推定供給流量Qsを、基準となるマップMs0を用いて算定している。1回目の流量切替制御の時点Tc1において、LC締結率は100%であるため、滑り検知信号SIは出力されない。この場合、推定供給流量Qsを増加させる補正を行う。具体的には、マップMs0よりも推定供給流量Qsが大きくなるようなマップMs1に基づいて、1回目の流量切替制御の時点Tc1以降の推定供給流量Qsの算定を行う。また、2回目の流量切替制御の時点Tc2においても、LC締結率が100%であるため、推定供給流量Qsを増加させる補正が行われる。具体的には、推定供給流量Qsがより増大するようなマップMs2に基づいた補正を行う。
この結果、流量切替制御以降、マップMs0に基づいて推定供給流量を算定し続けた場合と比較して、潤滑モードから高圧モードへの移行時点が遅くなり、高圧モードから潤滑モードへの移行時点が早くなっている。よって、潤滑モードの時間が長くなり、上述のようにエンジン10の負荷が減るため、燃費がよくなる。
図9は、潤滑モードから高圧モードへの切替時に推定消費流量Qcの減少補正を行った例を示す図である。図9の例においては、推定流量補正を行う時点を、潤滑モードから高圧モードに切り替える流量切替制御の時点とし、推定供給流量Qsを補正せず、推定消費流量Qcのみを補正するものとした。
まず、1回目の流量切替制御の時点Td1よりも前においては、推定消費流量Qcを、基準となるマップMc0を用いて算定している。1回目の流量切替制御の時点Td1において、LC締結率は100%であるため、滑り検知信号SIは出力されない。この場合、推定消費流量Qcを減少させる補正を行う。具体的には、マップMc0よりも推定消費流量Qcが小さくなるようなマップMc1に基づいて、1回目の流量切替制御の時点Td1以降の推定消費流量Qcの算定を行う。また、2回目の流量切替制御の時点Td2においても、LC締結率が100%であるため、推定消費流量Qcを減少させる補正が行われる。具体的には、推定消費流量Qcがより減少するようなマップMc2に基づいた補正を行う。
この結果、流量切替制御以降、マップMc0に基づいて推定消費流量を算定し続けた場合と比較して、潤滑モードから高圧モードへの移行時点が遅くなり、高圧モードから潤滑モードへの移行時点が早くなっている。よって、潤滑モードの時間が長くなり、上述のようにエンジン10の負荷が減るため、燃費がよくなる。
以上のように、本実施形態の自動変速機の油圧制御装置によれば、流量切替制御の時点においてロックアップクラッチ24cの滑り検知を行い、滑り検知信号SIが出力されない場合には、流量切替制御の時点において、ロックアップクラッチ24cの係合のために十分な作動油の流量を供給できていると制御部91が判断する。そこで、制御部91は、第1状態増加補正を行う。すると、制御部91が潤滑モードを選択する時間を多くすることができ、第2オイルポンプ46a2から高圧のメイン油圧回路47へ作動油を供給する流量が少なくなることで、第2オイルポンプ46a2及びこれを駆動するエンジン10にかかる負荷を低減することができる。この結果、燃費向上を図ることができる。
また、本実施形態によれば、滑り検知信号SIが出力された場合には、ロックアップクラッチ24cの係合のために十分な作動油の流量を供給できていないと制御部91が判断する。そこで、制御部91は、第1状態減少補正を行う。すると、制御部91が潤滑モードを選択する時間を減少させ、高圧モードを選択する時間が増加するので、十分な作動油の流量がメイン油圧回路47に供給される。
また、本実施形態によれば、滑り検知信号SIが出力される前においては、第1状態増加補正を行うたびに潤滑モードが増えるため、メイン油圧回路47に供給する流量を少なくすることができる。また、滑り検知信号SIが出力された場合には、第1状態減少補正を行うことで、滑り検知信号SIが出力される直前の推定流量、すなわち推定供給流量Qs又は推定消費流量Qcに戻すことができる。当該推定流量は、滑りが検知されず且つ最も実際の流量に即した値と考えることができる。ここで、その後における第1状態増加補正を中止することで、当該推定流量が変更されず、当該推定流量に基づいて流量切替制御を行うことで、メイン油圧回路47に対する実際の流量に近い流量切替制御が可能となる。なお、いったん滑り検知信号SIが出力された後においても、第1状態減少補正は中止しないので、油圧供給源の継続使用により油圧供給源の特性が変化して、再び滑り検知信号SIが出力された場合には、再び第1状態減少補正を行うことで、実際の流量に近い流量切替制御が可能となる。
また、本実施形態によれば、メイン油圧回路47が、無段変速機26及び前後進切替装置28に作動油を供給する第1作動油供給部と、第1作動油供給部の余剰分の作動油が供給される第2作動油供給部と、から構成される。第2作動油供給部は、トルクコンバータ24を有する。この場合、より後に作動油が供給される第2作動油供給部にあるトルクコンバータ24の方が第1作動油供給部よりも作動油の流量不足が生じやすい。ここで、トルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cの滑りを検知し、作動油の流量不足の有無を判断することで、第1作動油供給部における作動油の流量不足を未然に防ぐことができる。そして、第1作動油供給部を、無段変速機26の主要な変速機構であるプーリ等に設定した場合、主要な変速機構の作動油の流量不足を未然に防ぐことができる。また、流量不足が生じやすい第2作動油供給部にあるロックアップクラッチ24cの滑り検知を行うことで、いち早く流量不足の検知ができるため、作動油の流量の収支計算の精度を上げることができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。