なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
(実施の形態1)
[方向推定装置の構成]
図1は、本実施の形態における方向推定装置10の構成の一例を示す図である。
図1に示すように、本実施の形態における方向推定装置10は、円形配列フェーズドアレーアンテナ1と、加算部2と、演算部3とを備える。本実施の形態における方向推定装置10は、例えばコネクテッドカーに搭載される。図1では、9個のアンテナ素子を有する円形配列フェーズドアレーアンテナ1の例が示されている。
[円形配列フェーズドアレーアンテナ1]
円形配列フェーズドアレーアンテナ1は、円上に等間隔に配列されたN個(Nは3以上の自然数)の第1アンテナ素子と、当該円の略中心に配された1個の第2アンテナ素子とからなる。第1アンテナ素子それぞれと第2アンテナ素子とは、当該円の領域を含む平面が無指向性のアンテナ素子であり、例えば、当該円の領域を含む平面と垂直に配置された所定長さのダイポールアンテナからなる。なお、ダイポールアンテナは必ずしも実際のダイポールアンテナである必要はなく、電気的に等価な動作をする等価ダイポール素子であってもよい。これにより、円形配列フェーズドアレーアンテナ1は、当該円の領域を含む平面(水平面内)の指向特性が実質的に全方向となる。
以下、N=8の場合を例に挙げて説明する。
図2は、本実施の形態における円形配列フェーズドアレーアンテナ1の構成の一例を示す図である。図3は、図2に示す円形配列フェーズドアレーアンテナの具体的構成例を示す図である。
図2および図3に示すように、N=8の場合には、円形配列フェーズドアレーアンテナ1は、半径aの円周上に45度間隔で配列された8個のアンテナ素子(第1アンテナ素子:#1〜#8)と、円の中心に配置された1個のアンテナ素子(第2アンテナ素子:#9)で構成される。ここで、半径aは、例えば4.9cmである。
そして、8個の第1アンテナ素子の受信信号を足し合わせたときの位相と、中心に配置された1個の第2アンテナ素子の受信信号の位相の差を求めることにより受信信号の到来波方向を推定できる。その推定方法について以下説明する。
図2および図3に示す円形配列フェーズドアレーアンテナ1の平面であるXY平面のX軸とφをなす方向から受信電波が到来するとする。この場合、受信電波によってi番目の第1アンテナ素子に誘起される信号すなわち電圧Viは、次の(式1)から算出できる。
第1アンテナ素子(#1〜#8)ごとに受信のタイミングが微妙にずれるので、それを反映するために、(式2)で定義される重み関数Wiを(式1)から算出した電圧Viにかけて重み付けする。
そして、円上の全第1アンテナ素子の信号を足し合わせれば、8個の第1アンテナ素子それぞれの受信信号の合計である第1信号の電圧EΔを得ることができる。この第1信号の電圧EΔは、(式3)から算出できる。
ここで、(式3)に示される要素は8であるが、第1信号の電圧EΔの性質を理解するために第1アンテナ素子の数が無限個になった場合を考察すると、電圧EΔはベッセル関数を用いて以下の(式4)で表すことができる。
また、X軸とφをなす方向から到来する受信電波によって第2アンテナ素子(#9)に誘起される信号(第2信号)の電圧をEΩとする。さらに、第2信号の電圧EΩの位相角を∠EΩ、第1信号の電圧EΔの位相角を∠EΔとすれば、位相差φmは以下の(式5)を用いて算出することができる。
したがって、第1信号と第2信号との位相差φmは、受信電波の到来波角度φにほぼ比例した値となっているのがわかる。このようにして、円形配列フェーズドアレーアンテナ1を用いることで、到来波方向を推定できる。
[加算部2]
加算部2は、第1アンテナ素子それぞれの受信信号を加算して第1信号を算出する。加算部2は、算出した第1信号を演算部3に出力する。
図4は、本実施の形態の加算部2の具体的構成の一例を示す図である。なお、図1および図4では、円形配列フェーズドアレーアンテナ1を構成する第1アンテナ素子(#1〜#8)にはそれぞれ移相器が接続されている。第1アンテナ素子(#1〜#8)はそれぞれ、その配置により到来波の受信のタイミングが異なるので、それを反映した移相器が接続された図としている。図1に示す第1アンテナ素子(#1〜#8)では、図2および図3で示すX軸方向を基準としたときの第1アンテナ素子(#1〜#8)の配置に応じた重みに相当するπ/8、3π/8、5π/8、7π/8、9π/8、11π/8、13π/8、15π/8の移相器が接続されている。
加算部2は、例えばウィルキンソン電力合成器とラットレースハイブリッドとを用いて、例えば図4に示すような構成で実現することができる。図4に示す第1アンテナ素子(#1〜#8)では、加算部2には180°haybridが用いられることから、第1アンテナ素子(#1〜#8)の配置に応じた重みに相当するπ/8、3π/8、5π/8、7π/8、π/8、3π/8、5π/8、7π/8の移相器が接続されている。
なお、加算部2は、後述する演算部3に含まれるとしてもよい。
[演算部3]
演算部3は、第1アンテナ素子それぞれの受信信号を第1アンテナ素子の配置に応じた重みをかけて合計した第1信号と、第2アンテナ素子の受信信号である第2信号とを統計解析し、第1信号および第2信号の位相差を算出する。位相差は、到来波方向に略比例する。このようにして、演算部3は、円形配列フェーズドアレーアンテナ1に到来する到来波の方向である到来波方向を推定する。
演算部3は、第1信号の位相角と第2信号の位相角との差を算出することで、第1信号および第2信号の位相差を算出する。
より具体的には、演算部3は、所定時間の第1信号における同相成分および直交成分の平均値である第1同相平均値(UI)および第1直交平均値(UQ)を算出し、かつ、所定時間の第2信号における同相成分および直交成分の平均値である第2同相平均値(UI)および第2直交平均値(UQ)を算出することで、第1信号と第2信号とを統計解析する。そして、演算部3は、第1信号の位相角を第1同相平均値および第1直交平均値から算出し、第2信号の位相角を第2同相平均値および第2直交平均値から算出する。
ここで、演算部3は、加算部2から、第1信号を所定時間取得し、第2信号を所定時間取得する。
本実施の形態では、演算部3は、加算部2から8個の第1アンテナ素子の信号の合計である第1信号を取得し、第2アンテナ素子から、第2信号を取得する。
以下、演算部3が取得した受信信号(第1信号および第2信号)を統計解析することで、多重波伝搬環境において受信電波の到来波方向を推定できる理由について説明する。
<統計解析による到来波方向推定が可能な理由>
ところで、特許文献1に開示されるアンテナ装置は、リアルタイムに到来波方向を得ることができる。これは、当該アンテナ装置を主に航空機に搭載することを目的とし、上空においては反射物が存在しないことから、直接波のみが到来する伝搬環境を前提としているからである。しかし、特許文献1に開示されるアンテナ装置を地上において使用する際、地上ではビルや樹木などの地物が存在するので、反射した電波も当該アンテナに到来する。そして直接波のみならず反射波が存在する多重波伝搬環境ではフェージングによって受信信号が大きく変動する。つまり、特許文献1に開示されるアンテナ装置では、伝搬環境が直接波のみの通信環境であれば、一意に到来波方向を得ることができるが、多重波伝搬環境ではフェージングによって受信信号が大きく変動するので、一意に到来波方向を得ることができない。
それに対して、本実施の形態の方向推定装置10は、例えばコネクテッドカーに搭載される。そして、コネクテッドカーに搭載される場合、方向推定装置10がおかれる通信環境は、通信相手が見通せ、かつ通信相手との距離が近いことから、見通し内伝搬環境(LOS(Line Of Sight)環境)となる。
見通し内通信では、直接波の受信信号の減衰確率が低く、信号伝送特性の劣化がレイリー波と比較して小さくなる。このような反射波に比べ直接波の受信信号のレベルが大きい伝搬環境は、仲上−ライスフェージング(ライス伝搬環境)と呼ばれる。
図5は、仲上−ライスフェージングの確率分布を示す図である。
図5に示すように、ライス伝搬環境における受信波r(t)は、レイリー波r´にレベルの高い安定した直接波Cを加えたもので表現できる。なお、直接波Cは時間的に変化しない一定の波を表すことになるため定常波とも呼ばれる。
直接波Cとレイリー波r´とが合成された受信波r(t)は、直接波とN個の素波rn(t)の和として、(式6)のように与えることができる。
ここで、
は、直接波Cの振幅を示す。また、x(t)とy(t)とは、それぞれレイリー波r´の複素包絡線の同相成分と直交成分とである。
そして、直接波Cの先端を基準にすれば、x[x(t)の値]とy[y(t)の値]との結合確率密度関数p(x,y)は、x(t)とy(t)との値が互いに独立で、ともに平均値0、分散σs 2の正規分布に従うと考えられる。したがって、結合確率密度関数p(x,y)は、(式7)のように表すことができる。
ここで、図5より、x(t)=x´(t)−A、y(t)=y´(t)−Bであるから、x´[x´(t)の値]とy´[y´(t)の値]の結合確率密度関数p(x´,y´)は、(式8)のように表すことができる。
図6は、本実施の形態における多重波環境の受信信号のIQ値の一例を示す図である。
図6に示すように、本実施の形態における方向推定装置10が受信する多重波環境下の受信信号の同相(In-Phase)成分と直交(Quadrature-Phase)成分との確率密度関数は、対称的なベル型の曲線であるガウス分布となる。つまり、方向推定装置10が受信する個々の受信信号(各スナップショット信号)は変動するが、その同相成分と直交成分とは固有の平均値を有する。換言すると、方向推定装置10が受信する個々の受信信号の同相成分と直交成分との平均値は一定値(μI、μQ)となる。
したがって、同相成分と直交成分とにおいて各成分の確率密度関数より平均値(μI、μQ)を演算すれば、以下の(式9)を用いて、第1信号の電圧EΔの位相角∠EΔと、第2信号の電圧EΩの位相角∠EΩとを個別に演算することができる。
以上から、円上に等間隔に配列された第1アンテナ素子(#1〜#8)すべての受信信号を足し合わせた第1信号の電圧EΔの位相角と、円の中心に配置された第2アンテナ素子(#9)に誘起される第2信号の電圧EΩの位相角とは、それぞれの受信信号である第1信号および第2信号を統計解析することにより上記の(式9)を用いて演算できる。したがって、(式5)に、(式9)を用いて演算したそれぞれの位相角を代入すれば到来波方向である角度φを算出することができる。
[方向推定装置の動作]
次に、以上のように構成された方向推定装置10の動作について説明する。
図7は、本実施の形態における方向推定装置10の動作概要を示すフローチャートである。まず、方向推定装置10は、第1アンテナ素子それぞれの受信信号の合計である第1信号と、第2アンテナ素子の受信信号である第2信号とを統計解析する(S2)。次に、方向推定装置10は、第1信号と第2信号との位相差を算出する(S3)。
そして、方向推定装置10は、S3で算出した位相差を用いて、円形配列フェーズドアレーアンテナ1に到来した到来波の到来波方向を推定する(S4)。
図8は、本実施の形態における方向推定装置10の動作の詳細を示すフローチャートである。図8は、図7に示す動作の詳細に該当する。
まず、方向推定装置10は、第1アンテナ素子の合計信号電圧(第1信号)と、第2アンテナ素子の信号電圧(第2信号)とを所定時間取得する(S1)。
次に、方向推定装置10は、円形配列フェーズドアレーアンテナ1が受信した受信信号を統計解析する(S2)。より詳細には、S2において、方向推定装置10は、所定時間の第1信号における同相成分および直交成分それぞれの平均値(μI、μQ)を算出する(S21)。続いて、所定時間の第2信号における同相成分および直交成分それぞれの平均値(μI、μQ)を算出する(S22)。なお、S21およびS22の処理の順番は逆でもよい。
次に、方向推定装置10は、第1信号と第2信号との位相差を算出する(S3)。より詳細には、S3において、方向推定装置10は、S21で算出した所定時間の第1信号における同相成分および直交成分それぞれの平均値(μI、μQ)から、第1信号の位相角∠EΔを算出する(S31)。続いて、方向推定装置10は、S22で算出した所定時間の第2信号における同相成分および直交成分それぞれの平均値(μI、μQ)から、第2信号の位相角∠EΩを算出する(S32)。なお、S31およびS32の処理の順番は逆でもよい。続いて、方向推定装置10は、S31およびS32で算出した第1信号の位相角∠EΔと第2信号の位相角∠EΩとの差を算出することで、第1信号と第2信号との位相差を算出する(S33)。
次に、方向推定装置10は、第1信号と第2信号との位相差が円形配列フェーズドアレーアンテナ1に対する到来波方向に略比例することから、S3で算出した位相差を用いて、到来波方向を推定する(S4)。
[効果等]
以上のように、本実施の形態の方向推定装置10等によれば、多重波伝搬環境において受信電波の到来方向を高精度に検出できる。
具体的には、本実施の形態の方向推定装置10は、円上に等間隔に配列されたN個(Nは3以上の自然数)の第1アンテナ素子と、円の略中心に配された1個の第2アンテナ素子とからなる円形配列フェーズドアレーアンテナ1を用いて、第1アンテナ素子それぞれの受信信号の合計である第1信号と、第2アンテナ素子の受信信号である第2信号とを統計解析し、第1信号および第2信号の位相差を算出することにより、到来波方向を推定する。
ここで、本実施の形態の方向推定装置10は、所定時間の第1信号における同相成分および直交成分それぞれの平均値を算出し、かつ、所定時間の第2信号における同相成分および直交成分それぞれの平均値を算出することで、第1信号と第2信号とを統計解析する。そして、第1信号の位相角を算出した同相成分および直交成分それぞれの平均値から算出し、第2信号の位相角を算出した同相成分および直交成分それぞれの平均値から算出する。
このようにして、本実施の形態の方向推定装置10等は、多重波伝搬環境において時々刻々と変化する到来波の直接波の到来波方向を高精度で推定することができる。それにより、方向推定装置10等を搭載したコネクテッドカーは、推定した到来波方向にビームを向けて常時最適な受信信号を得られるので、携帯電話基地局や他自動車間との通信を安定的に行える。
<有効性の確認>
次に、本実施の形態に係る方向推定装置10等の有効性の確認を、計算機シミュレーションを使用して行った。
図9Aは、本実施の形態における第1信号のXY平面における指向特性を示す図である。図9Bは、本実施の形態における第2信号のXY平面における指向特性を示す図である。図9Cは、本実施の形態における第1信号および第2信号それぞれのXY平面における位相特性を示す図である。図9A〜図9Cには、モーメント法を用いて電磁界解析を行った結果が示されている。解析に使用した周波数は2GHzである。また、図9A〜図9Cでは、本実施の形態における円形配列フェーズドアレーアンテナ1の半径aを4.9cmとし、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子それぞれには、半波長ダイポールアンテナを用い、素子間相互結合を考慮している。なお、XY平面とは、円形配列フェーズドアレーアンテナ1の平面であり、円形配列フェーズドアレーアンテナ1の円の領域を含む平面である。
図9Aから、第1アンテナ素子の受信信号を足し合わせたときの指向特性がXY平面において無指向性であるのがわかる。また、図9Bから、第2アンテナ素子の受信信号の指向特性がXY平面において無指向性であるのがわかる。そして、図9Cから、第1アンテナ素子の受信信号を足し合わせたときの複素指向性の位相特性はアジマス角度に応じて変化することがわかる。ここで、アジマス角度は、基準となる方位との間の角度である。これにより、第1アンテナ素子の受信信号を足し合わせたときの複素指向性の位相特性と第2アンテナ素子の受信信号の複素指向性の位相特性との差が、到来波方向に比例するのがわかる。
図10A〜図10Dは、本実施の形態における円形配列フェーズドアレーアンテナ1が受信した受信信号の特性の一例を示す図である。Kファクターは10dB、到来波方向は0度としている。Kファクターは直接波と反射波との電力比を示すので、Kファクター=10dBは、反射波に比べ直接波の受信信号のレベルが大きい伝搬環境を示している。より具体的には、図10Aは、Kファクター=10dB、到来波方向=0度のときの第1信号および第2信号のコンスタレーションを示す図である。図10Bは、図10Aに示す第1信号および第2信号の累積分布関数(CDF:Cumulative Distribution Function)特性を示す図である。図10Cは、図10Aに示す第1信号の同相成分(実数成分)の確率密度関数を示す図である。図10Dは、図10Aに示す第1信号の直交成分(虚数成分)の確率密度関数を示す図である。図10Eは、図10Aに示す第2信号の同相成分(実数成分)の確率密度関数を示す図である。図10Fは、図10Aに示す第2信号の直交成分(虚数成分)の確率密度関数を示す図である。なお、図10C〜図10Fにおける曲枠線は、ガウス分布を示している。
図10Aにより、第1信号と第2信号とでコンスタレーションの中心が異なることがわかる。また、図10Bにより、ライス伝搬環境下では、第1信号および第2信号がコヒーレントなLOS成分の周りに存在することがわかる。また、図10Cおよび図10Dにより、第1信号の同相成分および直交成分がガウス分布に一致していることがわかる。そのため、上述した到来波方向の推定方法により第1信号の電圧EΔの位相角∠EΔが、161度であることがわかる。同様に、図10Eおよび図10Fにより、第2信号の同相成分および直交成分がガウス分布に一致していることがわかる。そのため、上述した到来波方向の推定方法により第2信号の電圧EΩの位相角∠EΩが、23度であることがわかる。なお、これらの値は、図9Cに示すアジマス角度0度の位相特性と一致している。これによっても、第1アンテナ素子の受信信号を足し合わせたときの複素指向性の位相特性と第2アンテナ素子の受信信号の複素指向性の位相特性との差が、到来波方向に比例するのがわかる。
図11Aおよび図11Bは、Kファクター=10dBで到来波方向を変化させたときの第1信号および第2信号のコンスタレーションを示す図である。図11Aは、到来波方向が120度のときを示しており、図11Bは、到来波方向が300度のときを示している。図10A、図11Aおよび図11Bから、到来波方向が変化すると、第1信号および第2信号のコンスタレーションにおける相対位置は維持されていないが、到来波方向と第1信号および第2信号のコンスタレーションにおける位置とは相関があるのがわかる。
図12は、本実施の形態における推定方法により到来波方向を推定した結果を示す図である。図12では、Kファクター=10dB、0dBの場合における到来波方向を推定した結果が示されている。図12に示すように、Kファクター=10dB、0dBの場合の推定結果と理想的な推定結果とほぼ一致していることから、本実施の形態における推定方法により到来波方向を推定できているのがわかる。
図13A〜図13Cは、到来波方向=0度でKファクターを変化させたときの第1信号および第2信号のコンスタレーションを示す図である。図13AはKファクターが6dBのとき、図13BはKファクターが3dBのとき、図13CはKファクターが0dBのときを示している。図13A〜図13Cに示すように、到来波方向が一定でも、Kファクターが小さくなっていく、すなわち、反射波の受信信号のレベルが直接波の受信信号のレベルと同等になっていく伝搬環境においては、第1信号と第2信号とにおけるコンスタレーションの中心は異なるものの区別がつきにくくになっていることがわかる。
図14は、本実施の形態における推定方法による到来波方向の推定の誤差を示す図である。図14により、到来波角度φmと実際の到来波方向φの差すなわち推定誤差は、Kファクターが0dB以上であれば1度以内であることがわかる。さらに、推定誤差は、Kファクターが−10dBである場合、すなわち直接波の電力が反射波の電力の1/10である場合でも4度以下の誤差精度で推定できることがわかる。
以上のシミュレーション結果より、所定時間の受信信号(第1信号および第2信号それぞれ)におけるIQ信号成分の平均値を用いた到来波方向の推定方法によって、多重波伝搬環境においても受信電波の到来方向が高精度で推定できることがわかった。
<円形配列フェーズドアレーアンテナ1の半径等の確認>
次に、直接波のみの環境において、円形配列フェーズドアレーアンテナ1の半径および第1アンテナ素子の最適な数についての確認を計算機シミュレーションを使用して行った。
図15は、本実施の形態における第1信号の電圧EΔの振幅を示す図である。図15には、解析に使用した周波数を2GHz、到来波方向を0度として、第1アンテナ素子が8個の場合における第1信号の電圧EΔの振幅が示されている。図15における1点鎖線は、第1信号の電圧EΔのベッセル関数表記での振幅が示されている。図15に示す振幅は、半径aが4.4cmのときに最大値を有する。本実施の形態では円形配列フェーズドアレーアンテナ1の半径aを4.9cmとした。
図16は、円形配列フェーズドアレーアンテナの半径aを変化させた場合における到来波方向の推定結果を示す図である。図16では、解析に使用した周波数を2GHzとして、半径a=4.9cmと半径a=8.5cmとにおいて本実施の形態の推定方法による推定結果が示されている。図16により、半径a=8.5cmの場合と比較して、半径a=4.9cmの場合には、より高い推定精度が達成できていることがわかる。
図17は、円形配列フェーズドアレーアンテナの半径aを変化させた場合における到来波方向の推定誤差を示す図である。図17では、半径a=4cm、4.9cm、6cm、7cmに変化させた場合の本実施の形態における推定方法による到来波方向の推定の誤差が示されている。図17により、半径aが小さくなると誤差は小さくなり、半径aが6cm〜4cmの場合には0.1度未満の誤差となるのがわかる。
図18は、第1アンテナ素子の数を変化させた場合における到来波方向の推定誤差を示す図である。図18では、半径a=4.9cmとし、第1アンテナ素子の数Nを4、6、7、8、9に変化させた場合の本実施の形態における推定方法による到来波方向の推定の誤差が示されている。図18により、第1アンテナ素子の数Nが7より大きい8または9の場合には誤差は0.2度未満の誤差となっているのがわかる。
以上、本実施の形態の方向推定装置10等によれば、所定時間の受信信号における同相成分および直交成分の平均値を用いることで、円形配列フェーズドアレーアンテナ1を利用して、多重波伝搬環境において反射波の影響なく直接波の到来波方向を高精度に検出できる。
なお、本実施の形態の方向推定装置10は、RF部において受信信号を処理することができるので、簡便な方法で到来波方向を推定できる。
さらに、本実施の形態の方向推定装置10等を利用し、直接波の到来波方向を高精度で推定することで、ビームを推定した到来波方向に向けて常時最適な受信信号を得ることができる。これにより、超高速通信を実現できる。また、推定した到来波方向にビームを向けることで、コネクテッドカーなどの自動車IoTなどが実現でき、リコールの案内や車載ソフトウェアの更新なども行えるようになる。さらには、収集した走行データなどのビッグデータを解析することにより自動運転に活用できる。
(実施の形態2)
実施の形態1では、N=8すなわち第1アンテナ素子が8個のアンテナ素子で構成される場合を例に挙げて説明した。本実施の形態では、例えば4個または5個など第1アンテナ素子が8個より少ない数のアンテナ素子で構成される場合について説明する。
図19Aは、第1アンテナ素子が4個または8個で構成される円形配列フェーズドアレーアンテナ1における到来波方向の推定結果を示す図である。図19Bは、第1アンテナ素子が4個または8個で構成される円形配列フェーズドアレーアンテナ1における到来波方向の推定誤差を示す図である。図19Aおよび図19Bでは、幾何位相モデルを用いた解析に使用した周波数を2GHz、円形配列フェーズドアレーアンテナ1の半径a=4.9cmとしている。図19Aおよび図19Bに示すように、円形配列フェーズドアレーアンテナ1の第1アンテナ素子が8個のアンテナ素子で構成される場合より4個のアンテナ素子で構成される方が推定精度が低くなるのがわかる。また、図19Bに示すように、4個のアンテナ素子で構成される場合、誤差は約15度になっているのがわかる。
このように、円形配列フェーズドアレーアンテナ1では、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子の数が少なくなるに従って誤差が増大する。
以下では、第1アンテナ素子が8個より少ない数のアンテナ素子で構成される場合でも、誤差が増大しない、すなわち推定精度を維持する推定方法について説明する。
[方向推定装置の構成]
図20は、本実施の形態における方向推定装置10Aの構成の一例を示す図である。図1と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
図20に示すように、本実施の形態における方向推定装置10Aは、円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aと、加算部2Aと、演算部3Aとを備える。本実施の形態における方向推定装置10Aは、例えばコネクテッドカーに搭載されてもよいし、住宅に設置されてもよい。図20では、4個のアンテナ素子を有する円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aの例が示されている。
[円形配列フェーズドアレーアンテナ1A]
円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aは、実施の形態1で説明した円形配列フェーズドアレーアンテナ1の一具体例である。すなわち、円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aは、円上に等間隔に配列された4個の第1アンテナ素子と、当該円の略中心に配された1個の第2アンテナ素子とからなる。なお、第1アンテナ素子に接続される負荷インピーダンスは、第1アンテナ素子それぞれの位相特性を一定にする所定の値に設定されている。所定の値は、例えば、−j38.52Ωである。これにより、第1アンテナ素子それぞれと第2アンテナ素子とは、当該円の領域を含む平面が無指向性のアンテナ素子となる。その他については実施の形態1で説明した円形配列フェーズドアレーアンテナ1の通りであるので説明を省略する。
図21は、本実施の形態における円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aの構成の一例を示す図である。図22は、図21に示す円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aの具体的構成例を示す図である。
図21および図22に示すように、円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aは、半径aの円周上に90度間隔で配列された4個のアンテナ素子(第1アンテナ素子:#1〜#4)と、円の中心に配置された1個のアンテナ素子(第2アンテナ素子:#5)で構成される。ここで、半径aは、例えば4.9cmである。
そして、4個の第1アンテナ素子の受信信号を足し合わせたときの位相と、中心に配置された1個の第2アンテナ素子の受信信号の位相の差を求めることにより受信信号の到来波方向を推定できる。その推定方法について、以下説明する。
<推定方法>
図21および図22に示す円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aの平面であるXY平面のX軸とφをなす方向から受信電波が到来するとする。この場合、受信電波によってi番目の第1アンテナ素子に誘起される信号すなわち電圧Viは、次の(式10)から算出できる。
第1アンテナ素子(#1〜#4)ごとに受信のタイミングが微妙にずれるので、それを反映するために、(式11)で定義される重み関数Wiを(式10)から算出した電圧Viにかけて重み付けする。なお、(式11)で定義される重み関数Wiは、図21および図22に示される第1アンテナ素子(#1〜#4)の配置に応じて位相を反時計回りに変化させたものになっている。
そして、円上の全第1アンテナ素子の信号を足し合わせれば、4個の第1アンテナ素子それぞれの受信信号の合計である第1信号の電圧EΔを得ることができる。この第1信号の電圧EΔは、(式12)から算出できる。
ここで、(式12)に示される要素は4であるが、第1信号の電圧EΔの性質を理解するために第1アンテナ素子の数が無限個になった場合を考察すると、電圧EΔはベッセル関数を用いて以下の(式13)で表すことができる。
また、X軸とφをなす方向から到来する受信電波によって第2アンテナ素子(#5)に誘起される信号(第2信号)の電圧をEΩとする。さらに、第2信号の電圧EΩの位相角を∠EΩ、第1信号の電圧EΔの位相角を∠EΔとすれば、実施の形態1と同様に、位相差φmは以下の(式14)を用いて算出することができる。
したがって、第1信号と第2信号との位相差φmは、受信電波の到来波角度φにほぼ比例した値となっているのがわかる。このようにして、円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aを用いることで、到来波方向を推定できる。
しかしながら、図19Aおよび図19Bを用いて説明したように、4個のアンテナ素子で構成される第1アンテナ素子を有する円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aの誤差は約15度になり、推定精度が低くなってしまう。
なお、図21および図22からわかるように、円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aでは、第1アンテナ素子が円周上に等間隔で配置された対称構造となっている。また、図19Bからわかるように、推定誤差は0度の値を対称に発生している。
そこで、本実施の形態では、第2の推定方法として、第1信号を、位相を反時計回りに変化させた重み関数だけでなく、さらに、位相を時計回りに変化させた重み関数を用いて算出した信号からなるとする。より具体的には、第1アンテナ素子それぞれの受信信号に対して、第1アンテナ素子の配置に応じた位相の重み付け関数をかけて合計した第3信号と、当該配置に応じた位相と逆位相の重み付け関数をかけて合計した第4信号とから第1信号を算出する。なお、以降では、実施の形態1および上記で説明した推定方法を第1の推定方法と呼ぶ。
以下、第2の推定方法について以下説明する。
第1アンテナ素子の配置位置によって決定される重み関数を(式15)及び(式16)のように定義する。
ここで、(式15)で定義される重み関数Wi aは、図21および図22に示される第1アンテナ素子(#1〜#4)の配置に応じた位相すなわち反時計回りに重みを変化させたものに対応する。(式15)で定義される重み関数Wi aは、第1の推定方法で定義される重み関数Wiと同じであり、−π/4からπ/2ずつ減少する重み関数となる。一方、(式16)で定義される重み関数Wi bは、図21および図22に示される第1アンテナ素子(#1〜#4)の配置に応じた位相と逆位相すなわち時計回りに重みを変化させたものに対応する。(式16)で定義される重み関数Wi bは、第1の推定方法で定義される重み関数Wiと逆位相となっており、−7π/4からπ/2ずつ増加する重み関数となる。
(式10)の電圧Viに、係数としての(式15)および(式16)をかけて重み付けした後、円上の全第1アンテナ素子の信号を足し合わせれば、第3信号の電圧EΔ aおよび第4信号の電圧EΔ bを得ることができる。より具体的には、第3信号の電圧EΔ aは(式17)を用いて算出され、第4信号の電圧EΔ bは(式18)を用いて算出される。
図23は、第2の推定方法の概略の説明図である。
図23において、y=∠EΔ aで示される実線は、(式17)を用いて算出された第3信号の電圧EΔ aの位相角であり、y=∠EΔ bで示される点線は、(式18)を用いて算出された第4信号の電圧EΔ bの位相角である。図23から、第3信号の電圧EΔ aの位相角は到来波角度と同じ正の傾き(y=φ)を示している一方で、第4信号の電圧EΔ bの位相角は負の傾き(y=2π―φ)であることがわかる。ここで、第4信号の電圧EΔ bの位相角とy=2π―φとの差δを計算すると(式19)で表すことができる。
次に、(式20)に示すように、y=φに(式19)に示される差δを加える。これにより、第4信号の電圧EΔ bの位相角を示すy=∠EΔ bを、図23で点線で示されるy=∠EΔS bに変換することができる。
最後に、第3信号の電圧EΔ aの位相と第4信号の電圧EΔ bの位相との平均値である平均位相角∠EΔaveは、(式21)に示すように、第3信号の電圧EΔ aの位相角∠EΔ aと、変換された第4信号の電圧EΔ bの位相角∠EΔS bとから算出できる。
図23からわかるように、実線で示される平均位相角∠EΔaveは、実線で示される第3信号の電圧EΔ aの位相角∠EΔ aと比較して、y=φとの差(誤差)が小さくなっていることがわかる。
したがって、第2の推定方法では、第1信号と第2信号との位相差φmを、第1の推定方法で用いた(式14)に代えて(式22)を用いて算出することができる。そして、第1信号と第2信号との位相差φmは、受信電波の到来波角度φにほぼ比例した値となっていることから、(式22)を用いても到来波方向を推定できるだけでなく、(式14)を用いる場合と比較してより精度よく到来波方向を推定できる。
[加算部2A]
加算部2Aは、第1アンテナ素子それぞれの受信信号を加算して第1信号を算出する。加算部2Aは、算出した第1信号を演算部3Aに出力する。なお、加算部2Aは、実施の形態1と同様に、演算部3Aに含まれるとしてもよい。
本実施の形態では、加算部2Aは、第1信号として、第1アンテナ素子それぞれの受信信号を第1アンテナ素子の配置に応じた位相の重み付け関数をかけて合計した第3信号と、第1アンテナ素子それぞれの受信信号を第1アンテナ素子の配置に応じた位相と逆位相の重み付け関数をかけて合計した第4信号とを算出する。図20に示すように、加算部2Aは、例えば−π/4からπ/2ずつ減少する重みなど第1アンテナ素子(#1〜#4)の配置に応じた位相の反時計回りに重みを変化させた重み関数を第1アンテナ素子それぞれの受信信号にかけて合計した第3信号を算出する。また、同時に、加算部2Aは、例えば−7π/4からπ/2ずつ増加する重みなど、第1アンテナ素子(#1〜#4)の配置に応じた位相と逆の反時計回りに重みを変化させた重み関数を第1アンテナ素子それぞれの受信信号にかけて合計した第4信号を算出する。
[演算部3A]
演算部3Aは、第1信号の位相角と第2信号の位相角との差を算出することで、第1信号および第2信号の位相差を算出する。
本実施の形態では、演算部3Aは、加算部2Aから4個の第1アンテナ素子の信号の合計である第3信号および第4信号を取得し、第2アンテナ素子から、第2信号を取得する。そして、演算部3Aは、第1信号の位相として、第3信号の位相および第4信号の位相の平均を算出する。
また、演算部3Aは、所定時間の第3信号および第4信号における同相成分および直交成分の平均値を算出することで、第1信号を統計解析すればよい。そして、演算部3Aは、第1信号の位相角である平均位相角∠EΔaveを、第3信号および第4信号それぞれの同相平均値および直交平均値から算出すればよい。
[方向推定装置の動作]
次に、以上のように構成された方向推定装置10Aの動作について説明する。
図24は、本実施の形態における方向推定装置10Aの動作の詳細を示すフローチャートである。図24は、図7に示す動作の詳細に該当する。図7および図8と同様の要素には同一の符号を付しており、詳細な説明は省略する。
まず、方向推定装置10Aは、第1アンテナ素子の2つの合計信号電圧(第1信号)と、第2アンテナ素子の信号電圧(第2信号)とを所定時間取得する(S1A)。本実施の形態では、方向推定装置10Aは、第1信号として、第1アンテナ素子それぞれの受信信号を第1アンテナ素子の配置に応じた位相の重み付け関数をかけて合計した第3信号と、第1アンテナ素子それぞれの受信信号を第1アンテナ素子の配置に応じた位相と逆位相の重み付け関数をかけて合計した第4信号を取得する。
次に、方向推定装置10Aは、円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aが受信した受信信号を統計解析する(S2)。より詳細には、S2Aにおいて、方向推定装置10Aは、所定時間の2つの第1信号(第3信号および第4信号)毎における同相成分および直交成分それぞれの平均値を算出する(S21A)。続いて、所定時間の第2信号における同相成分および直交成分それぞれの平均値を算出する(S22)。なお、S21AおよびS22の処理の順番は逆でもよい。
次に、方向推定装置10Aは、第1信号と第2信号との位相差を算出する(S3)。より詳細には、S3において、方向推定装置10Aは、S21Aで算出した所定時間の2つの第1信号(第3信号および第4信号)それぞれにおける同相成分および直交成分それぞれの平均値から、2つの第1信号(第3信号および第4信号)の位相角を算出する(S31A)。続いて、方向推定装置10Aは、S31で算出した2つの第1信号(第3信号および第4信号)の位相角の平均を算出する(S31B)。本実施の形態では、方向推定装置10Aは、S21Aで算出した第3信号における同相成分および直交成分それぞれの平均値から第3信号の位相角∠EΔ aを算出し、S21Aで算出した第4信号における同相成分および直交成分それぞれの平均値から第4信号の位相角∠EΔ bを算出する。方向推定装置10Aは、S31Bで算出した第3信号の位相角∠EΔ aと第4信号の位相角∠EΔ bとの平均位相角∠EΔaveを第1信号の位相角∠EΔとして算出する。続いて、方向推定装置10Aは、S22で算出した所定時間の第2信号における同相成分および直交成分それぞれの平均値から、第2信号の位相角∠EΩを算出する(S32)。なお、S31A、S31B21とS32との処理の順番は逆でもよい。続いて、方向推定装置10Aは、S31BおよびS32で算出した第1信号の位相角∠EΔ(すなわち平均位相角∠EΔave)と第2信号の位相角∠EΩとの差を算出することで、第1信号と第2信号との位相差φmを算出する(S33)。
次に、方向推定装置10Aは、第1信号と第2信号との位相差φmが円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aに対する到来波方向φに略比例することから、S3で算出した位相差φmを用いて、到来波方向を推定する(S4)。
[効果等]
以上のように、本実施の形態の方向推定装置10A等によれば、多重波伝搬環境においてフェージングの影響により受信信号の位相角が時々刻々変化しても、受信信号を統計解析することにより到来波方向を高精度で推定できる。
それにより、方向推定装置10A等を搭載したコネクテッドカーは、推定した到来波方向にビームを向けて常時最適な受信信号を得られるので、携帯電話基地局または他自動車間との通信を安定的に行える。
ところで、近年、住宅の省エネ化を実現する「スマートハウス」に注目が集まっている。スマートハウスでは、昼間に太陽光で発電した電力を蓄電池に蓄えておき、夜間などに使用する。さらに、スマートハウスでは、省エネ性能に優れた家電をネットワークでつなぎ、自動コントロールによって消費電力を制御する。このように、スマートハウスでは、住宅で発電し、効率よく生活に使用することで、電力自給自足を目指している。例えば、スマートハウスでは、外出先からスマートフォンを使って、帰宅前にお風呂のお湯張りをすることで無駄なエネルギーを削減することができる。また、帰宅時間にあわせてエアコンまたは床暖房をONにすることでユーザが家に帰る頃には快適な室内環境にすることができる。また、照明を消し忘れていればOFFにすることで不要な消費電力をなくすことができる。このように、スマートハウスは、インターネットを介して家電機器を制御することにより住宅における省エネを実現し、二酸化炭素排出量を削減する。このように、スマートハウスは、家電製品または照明設備など家中の電気製品をネットワーク化し、電力の効率的な利用を図ることができる。
そして、このようなスマートハウスを実現するには、壁または床、家具の通過による大きなレベル減衰と反射による著しいマルチパス環境下において必ず接続できる高信頼性通信を実現する必要がある。また、住宅内に設置されることを考慮すると、できるだけ小型で高精度な到来波推定機能を有したシステムの開発が望まれる。
そこで、本実施の形態の方向推定装置10A等によれば、4個または5個など第1アンテナ素子が8個より少ないアンテナ素子から構成されていても、直接波の到来波方向を高精度で推定することができる。これにより、より小型な装置で到来波方向を高精度で推定できる。これにより、到来波方向にビームを向けることで常時最適な受信信号を得られるので、高信頼性通信を実現できる。つまり、本実施の形態の方向推定装置10Aを用いるとスマートハウスを実現することができる。
なお、上述した第2の推定方法は、第1アンテナ素子が4個または5個のアンテナ素子で構成される場合に限らず、第1アンテナ素子が6個以上のアンテナ素子で構成される場合にも適用できる。
<有効性の確認>
次に、本実施の形態に係る方向推定装置10A等の有効性の確認を行ったので、以下に説明する。まず、幾何位相モデルを用いて到来波方向の推定誤差を解析した。
図25Aは、N=4の場合における第1の推定方法および第2の推定方法により推定した到来波方向の推定結果を示す図である。図25Bは、N=4の場合における第1の推定方法および第2の推定方法により推定した到来波方向の推定誤差を示す図である。図25Aおよび図25Bでは、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子のそれぞれは電磁結合がない理想的なアイソトロピックアンテナとし、直接波のみの伝搬環境とした。また、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子の数Nは4とし、半径a=4.9cm、周波数=2GHzとした。
図25Aの詳細は図23で説明した通りであるので、省略する。図25Bにおいて、平均位相角∠EΔaveが示すように、第3信号の電圧EΔ aの位相角∠EΔ aの推定誤差と、第4信号の電圧EΔ bの位相角∠EΔ bの推定誤差とが打ち消しあっているのがわかる。つまり、第1の推定方法である位相角∠EΔ aのみを用いるよりも、第2の推定方法である位相角∠EΔ aと位相角∠EΔ bとの平均値である平均位相角∠EΔaveを用いる方が推定誤差が小さくなるのがわかる。
図26Aは、N=5の場合における第1の推定方法および第2の推定方法により推定した到来波方向の推定結果を示す図である。図26Bは、N=5の場合における第1の推定方法および第2の推定方法により推定した到来波方向の推定誤差を示す図である。図26Aおよび図26Bでも、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子のそれぞれは電磁結合がない理想的なアイソトロピックアンテナとし、直接波のみの伝搬環境とした。また、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子の数Nは5とし、半径a=4.9cm、周波数=2GHzとした。図26Aの詳細も概ね図23で説明した通りであるので、省略する。
図26Bにおいて、第3信号の電圧EΔ aの位相角∠EΔ aの推定誤差と、第4信号の電圧EΔ bの位相角∠EΔ bの推定誤差とは符号が同じとなっている。そのため、位相角∠EΔS b=φ―δとすることで、図26Aおよび図26Bに示される平均位相角∠EΔaveにすることができる。よって、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子の数が5個の場合でも、第1の推定方法である位相角∠EΔ aのみを用いるよりも、第2の推定方法である位相角∠EΔ aと位相角∠EΔ bとの平均値である平均位相角∠EΔaveを用いる方が推定誤差が小さくなるのがわかる。
次に、本実施の形態に係る方向推定装置10A等の有効性の確認を計算機シミュレーションを使用して行った。
図27は、本実施の形態における第1アンテナ素子の負荷インピーダンスを変化させたときの第2アンテナ素子の位相特性を示す図である。図27では、図21に示すように4個のアンテナ素子からなる第1アンテナ素子と1個の第2アンテナ素子を有する円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aをモデル化した解析モデルに対してモーメント法を用いて電磁界解析を行った結果が示されている。解析に使用した周波数は2GHzである。円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aの半径aを4.9cmとし、第1アンテナ素子および第2アンテナ素子それぞれには、半波長ダイポールアンテナを用い、素子間相互結合を考慮している。
第2アンテナ素子の位相特性は、円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aにおいて基準となるアンテナ素子であるので、第2アンテナ素子で受信する第2信号の位相∠EΩは到来波方向に対して不変すなわち一定である必要がある。つまり、第2信号の指向特性は、無指向性である必要がある。
しかしながら、図27から、第1アンテナ素子の負荷インピーダンスの値によって第2アンテナ素子で受信する第2信号の位相特性が大きく変化することがわかる。換言すると、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子の数Nが8個のとき、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子を50Ωで終端していても(電源をつないでいる状態でも)、第2アンテナ素子で受信する第2信号の位相特性は一定であった。一方、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子の数Nが4のとき、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子を50Ωの負荷インピーダンスで終端すると位相特性は一定ではない。
そこで、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子に接続する負荷インピーダンスを変化させ、位相特性が一定となる値を求めた。その結果、図27に示すように、−j38.52Ω(2GHzで2.07pF)とすることにより、無指向性を実現できるのがわかった。
図28は、本実施の形態における円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aの振幅特性を示す図である。図28において、実線は、第1アンテナ素子を構成する全アンテナ素子(#1〜#4)の受信信号を足し合わせたときの指向性を示す。点線は、第1アンテナ素子に接続される負荷インピーダンスを50Ωに設定したときの第2アンテナ素子(#5)の受信信号の指向性を示す。一点鎖線は、第1アンテナ素子に接続される負荷インピーダンスを−j38.52Ωに設定したときの第2アンテナ素子(#5)の受信信号の指向性を示す。
図28の実線より、アンテナ素子(#1〜#4)の受信信号を足し合わせた複素指向性の振幅特性は、アジマス角度に応じて変化することがわかる。図28の実線では、小さなリップルが見られるが、0dBd相当の利得が得られることがわかる。
次に、ライス伝搬環境における検証を行った。
図29A〜図29Cは、本実施の形態における円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aが受信した受信信号の特性の一例を示す図である。解析に使用した周波数は2GHzであり、Kファクターは0dB、到来波方向は0度としている。また、円形配列フェーズドアレーアンテナ1Aの半径aを4.9cmとし、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子の数Nは4個とした。第1アンテナ素子に接続される負荷インピーダンスは−j38.52Ωに設定した。なお、Kファクターは直接波と反射波との電力比を示すので、Kファクター=0dBは、反射波と直接波と受信信号のレベルが同じ伝搬環境を示す。
より具体的には、図29Aは、第2信号の電圧EΩと第3信号の電圧EΔ aと第4信号の電圧EΔ bとの瞬時受信電力を示す図である。この図29Aより、第3信号の電圧EΔ aと第4信号の電圧EΔ bとは瞬時受信信号が異なることがわかる。
図29Bは、Kファクター=0dB、到来波方向=0度のときの第2信号、第3信号および第4信号のコンスタレーションを示す図である。図29Bより、Kファクター=0dB、到来波方向=0度のときには、第3信号と第4信号とでコンスタレーションの中心が異なるがこれらの位置は近いことがわかる。一方、第3信号および第4信号と、第2信号とでコンスタレーションの中心が異なるのがわかる。図29Cは、図29Bに示す第2信号、第3信号および第4信号の累積分布関数(CDF:Cumulative Distribution Function)特性を示す図である。図29Cにより、ライス伝搬環境下では、第2信号、第3信号および第4信号がコヒーレントな成分の周りに存在することがわかる。
図30A〜図30Fは、図29Bに示す第2信号、第3信号および第4信号それぞれの同相成分および直交成分を統計解析した結果を示す図である。図30Aは、図29Bに示す第3信号の同相成分(実数成分)の確率密度関数を示す図である。図30Bは、図29Bに示す第3信号の直交成分(虚数成分)の確率密度関数を示す図である。図30Cは、図29Bに示す第4信号の同相成分(実数成分)の確率密度関数を示す図である。図30D、図29Bに示す第4信号の直交成分(虚数成分)の確率密度関数を示す図である。図30Eは、図29Bに示す第2信号の同相成分(実数成分)の確率密度関数を示す図である。図30Fは、図29Bに示す第2信号の直交成分(虚数成分)の確率密度関数を示す図である。なお、図30A〜図30Fにおける曲枠線は、ガウス分布を示している。
図30Aおよび図30Bにより、第3信号の同相成分および直交成分がガウス分布に一致していることがわかる。そのため、上述した第2の推定方法により第3信号の電圧EΔ aの位相角∠EΔ aが、150.4度であることがわかる。同様に、図30Cおよび図30Dにより、第4信号の同相成分および直交成分がガウス分布に一致していることがわかる。そのため、上述した第2の推定方法により第4信号の電圧EΔ bの位相角∠EΔ bが、149.4度であることがわかる。また、図30Eおよび図30Fにより、第2信号の同相成分および直交成分がガウス分布に一致していることがわかる。そのため、上述した第2の推定方法により第2信号の電圧EΩの位相角∠EΩが、2.09度であることがわかる。
このように、第2信号、第3信号および第4信号それぞれの同相成分と直交成分との平均値をもとに第2信号、第3信号および第4信号それぞれの位相角を計算することができる。
次に、Kファクターが−10dBの伝搬環境において、幾何位相モデルを用いて到来波方向の推定誤差を解析した。
図31Aは、N=4の場合における第1の推定方法および第2の推定方法により推定した到来波方向の推定結果を示す図である。図31Bは、N=4の場合における第1の推定方法および第2の推定方法により推定した到来波方向の推定誤差を示す図である。図31Aおよび図31BではKファクターは−10dB、到来波方向は0度としている。また、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子の数Nは4とし、半径a=4.9cm、周波数=2GHzとした。
図31Aでは、実線は、第2の推定方法で算出された第1信号の位相角∠EΔである平均位相角∠EΔaveを示す。また、太点線は、第1の推定方法で算出された第1信号の位相角∠EΔすなわち第3信号の位相角∠EΔ aを示す。図31Bにおいて、点線は、第1の推定方法で算出された第1信号の位相角∠EΔを示し、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子を50Ωの負荷インピーダンスで終端している場合に対応する。また、実線は、第2の推定方法で算出された第1信号の位相角∠EΔである平均位相角∠EΔaveを示し、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子を−j38.52Ωの負荷インピーダンスで接続している場合に対応する。
図31Bから、第2の推定方法を用いて到来波方向を推定することで、推定誤差が7度以下に改善し、高推定精度を実現できるのがわかる。
次に、Kファクターを変化させた場合における推定精度を検証した。
図32は、第2の推定方法による到来波方向の推定誤差を示す図である。図32により推定された到来波角度EΔaveと実際の到来波方向φdの差すなわち推定誤差EΔave―φdは、Kファクターが大きいほど小さいのがわかる。さらに、Kファクターが−10dBである直接波のレベルが低い場合でも推定誤差は7度以下であり、第2の推定方法を用いることで、高い精度で到来波方向が推定可能であることがわかる。
(変形例)
実施の形態1では、例えば4個または5個など第1アンテナ素子が8個より少ない数のアンテナ素子で構成される場合について説明したが、これに限らない。本変形例では、第1アンテナ素子が3個のアンテナ素子で構成される場合について説明する。
まず、実施の形態2と同じ方法により幾何位相モデルを用いて到来波方向の推定誤差を解析した。
図33Aは、N=3の場合における第1の推定方法および第2の推定方法により推定した到来波方向の推定結果を示す図である。図33Bは、N=3の場合における第1の推定方法および第2の推定方法により推定した到来波方向の推定誤差を示す図である。
図33Aより、位相角∠EΔ aは理論値y=φに対して、位相角∠EΔ bは理論値y=−φ+2πに対して正弦波的に変化しているようにみえる。しかし、図33Bから、第3信号の電圧EΔ aの位相角∠EΔ aの推定誤差の形状と、第4信号の電圧EΔ bの位相角∠EΔ bの推定誤差の形状とは、正弦波的ではない。したがって、位相角∠EΔ aと位相角∠EΔ bの平均値により算出される到来波推定角度となる平均位相角∠EΔaveは大きな誤差を有しているのがわかる。
そこで、本変形例では、位相角∠EΔS bの導出を実施の形態2と異なる方法で行うことで、平均位相角∠EΔaveの誤差の低減を図った。
図34Aは、本変形例における第3信号の電圧EΔ aの位相角∠EΔ aと、第4信号の電圧EΔ bの位相角∠EΔ bを示す図である。図34Bは、図34Aから導出された位相角∠EΔS bを示す図である。図35〜図37は、位相角∠EΔS bの導出方法の概念図である。図35には、比較として実施の形態2における第2の推定方法による導出方法が示されている。図36には本変形例における点と直線との距離を用いた導出方法が示されており、図37には本変形例における回転を用いた導出方法が示されている。
図35に示す導出方法は、実施の形態2で説明したように、まず、位相角∠EΔ aと位相角∠EΔ bとを算出する。次に、位相角∠EΔ bとy=2π―φとの差δとして、縦軸(y軸)におけるy=2π―φと位相角∠EΔ bとの角度に応じた差を算出する。次に、算出した差δをy=φに対して加算することで、図35の点線で示された位相角∠EΔS bを導出することができる。これにより、第1信号の位相角として、位相角∠EΔ aと位相角∠EΔS bとの平均値である平均位相角∠EΔaveを導出することができる。
続いて、図36に示す本変形例における点と直線との距離を用いた導出方法を説明する。まず、図34Aまたは図36に示す位相角∠EΔ aと位相角∠EΔ bとを算出する。次に、位相角∠EΔ bとy=2π―φとの差δとして、y=2π―φに対する距離(点と直線との距離)を算出する。次に、算出した差δをy=φに対して垂直な距離の値とすることで、図36の点線で示された位相角∠EΔS bを導出することができる。これにより、第1信号の位相角として、位相角∠EΔ aと位相角∠EΔS bとの平均値である平均位相角∠EΔaveを導出することができる。
続いて、図37に示す本変形例における回転を用いた導出方法を説明する。図38A〜図38Gは、本変形例における回転を用いた導出方法の具体的な説明図である。
まず、図38Aに示す位相角∠EΔ aと位相角∠EΔ bとを算出する。次に、図38Bに示すように、図38Aに示す位相角∠EΔ aと位相角∠EΔ bとを平行移動する。より具体的には、図38Aに示す位相角∠EΔ aと位相角∠EΔ bとを共に、到来波角度φ=π、推定到来波角度y=πが0となるように平行移動する。
次に、図38Cに示すように、図38Bに示す位相角∠EΔ aを時計回りに45度(π/4)、位相角∠EΔ bを反時計回りに45度(π/4)に回転させ、平行移動されたy=φおよびy=2π−φで示される直線をφ軸と平行にする。次に、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子の数が奇数の場合は位相角∠EΔ bの値の符号を変える。本変形例では、第1アンテナ素子を構成するアンテナ素子の数が3であり奇数であるので、位相角∠EΔ bの値の符号を変えて位相角(−∠EΔ b)とする。これにより、図38Cに示される位相角∠EΔ bは、反転され、図38Dに示される位相角∠EΔ bとなる。
次に、位相角∠EΔ aと位相角∠EΔ bとの平均値を算出して、平均位相角∠EΔaveを導出する。すなわち、図38Dに示される位相角∠EΔ aと位相角(−∠EΔ b)との平均値を算出することで、図38Eに示される平均位相角∠EΔaveを導出することができる。ここで、位相角(−∠EΔ b)は、位相角∠EΔS bに該当すると言えるからである。
次に、図38Fに示されるように、導出した平均位相角∠EΔaveと位相角(−∠EΔ b)と位相角∠EΔ aととして図38Eに示される全ての線を反時計回りに45度(π/4)回転させる。
最後に、図38Gに示されるように、図38Fに示される全ての線を平行移動する。より具体的には、図38Fに示される全ての線を、到来波角度φ=0、推定到来波角度y=0が到来波角度φ=π、推定到来波角度y=πとなるように平行移動する。ここで、平行移動後の位相角∠EΔ bは、位相角∠EΔS bにも該当する。
以上、本変形例によれば、第1アンテナ素子が3個のアンテナ素子で構成される場合には、上述した回転を用いた導出方法、または、点と直線との距離を用いた導出方法を用いて位相角∠EΔS bを算出すればよい。
これにより、第1アンテナ素子が3個のアンテナ素子で構成される場合でも、多重波伝搬環境においてフェージングの影響により受信信号の位相角が時々刻々変化しても、受信信号を統計解析することにより到来波方向を高精度で推定できる。
なお、上述した回転を用いた導出方法、または、点と直線との距離を用いた導出方法は、第1アンテナ素子が3個のアンテナ素子で構成される場合に限らず、第1アンテナ素子が4個以上のアンテナ素子で構成される場合にも適用できる。
(実施の形態3)
実施の形態1では、1つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1を用いて、直接波の到来波方向を高精度で推定できることについて説明した。本実施の形態では、5つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1を用いることで、多素子MIMOアンテナとして16×16MIMOアンテナを実現できることについて説明する。
[組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1B]
図39Aは、実施の形態3における組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Bの構成の一例を示す図である。図39Aに示すように、組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Bは、5つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1で構成され、1つが中心位置と、4つがその周りに円状に略等間隔に配置されている。
中心に配置された円形配列フェーズドアレーアンテナ1(以下、AOAアンテナと称する)は、到来波を推定するためだけに用いられる。円上に等間隔に配列された円形配列フェーズドアレーアンテナ1は、16×16MIMOアンテナを実現し高速通信を行うために用いられる。
円上に等間隔に配列された4つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1はそれぞれ、変化する到来波方向に応じて、到来波方向に直交するようにサブアレーに分割されて指向性が制御されることで複数のビーム(指向性ビーム)を独立に形成する。より具体的には、円形配列フェーズドアレーアンテナ1の第1アンテナ素子は、円形に配列されている。このため、到来波方向が変化すれば、第1アンテナ素子のうちの合成する2つのアンテナ素子の組み合わせを45度毎に変えることで、様々な到来波方向に対応可能なサブアレーに分割できる。そして、円形配列フェーズドアレーアンテナ1は、到来波方向にビームを向けることで、アンテナ特性を常に高利得な状態に保つことが可能となり、超高速通信だけでなくMIMO伝送容量の向上も図れることになる。
図39Bは、実施の形態3における組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Bの到来波方向の推定結果を示す図である。図39Bでは、直接波のみの伝搬環境における到来波方向の推定精度が示されている。図39Bにおいて、解析に用いた周波数は2GHzとし、半径rを20cmとしている。また、円上に等間隔に配列された4つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1に接続された負荷インピーダンスをj100Ω、j262Ωまたはj400Ωに設定した。なお、以下、円上に等間隔に配列された円形配列フェーズドアレーアンテナ1を、4×4MIMOアンテナと称する。
図39Bより、4×4MIMOアンテナに接続された負荷インピーダンスをj262Ωに設定する場合、AOAアンテナの位相特性は一定となり推定誤差も小さくなるのがわかる。
次に、組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Bにも、実施の形態2で説明した第2の方法が適用できることについて説明する。
図40Aは、負荷インピーダンスが50Ωである場合の組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Bによる到来波方向の推定結果を示す図である。図40Bは、負荷インピーダンスが50Ωである場合の組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Bによる到来波方向の推定誤差を示す図である。図40Aおよび図40Bでは、実施の形態2で説明した第1の推定方法および第2の推定方法により到来波方向が推定されている。Kファクターは−10dB、到来波方向は0度としている。また、4×4MIMOアンテナに接続された負荷インピーダンスを50Ωとし、解析に用いた周波数を2GHzとした。
平均位相角∠EΔaveは、第2の推定方法で算出された第1信号の位相角∠EΔに対応する。第3信号の位相角∠EΔ aは、第1の推定方法で算出された第1信号の位相角∠EΔに対応する。
図40Bから、第1の推定方法を用いて到来波方向を推定する場合、最小で−75度、最大で15度の範囲において誤差が生じているのがわかる。一方、第2の推定方法を用いて到来波方向を推定する場合、最小で−50度、最大で5度の範囲において誤差が生じているのがわかる。これにより、第2の推定方法を用いて到来波方向を推定することで、推定誤差が小さくなっているのがわかる。したがって、4×4MIMOアンテナに接続された負荷インピーダンスが50Ωである場合、第2の推定方法を用いて到来波方向を推定することで、第1の推定方法を用いて到来波方向を推定するときと比較して推定誤差がより小さくなるのがわかる。
図41Aは、負荷インピーダンスがj262Ωである場合の組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Bによる到来波方向の推定結果を示す図である。図41Bは、負荷インピーダンスがj262Ωである場合の組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Bによる到来波方向の推定誤差を示す図である。図41Aおよび図41Bでは、負荷インピーダンスがj262Ωである場合を除くと、図40Aおよび図40Bと同様の条件としている。また、図41Aおよび図41Bでは、比較のため負荷インピーダンスが50Ωである場合の第1信号の位相角∠EΔである平均位相角∠EΔave、および、第3信号の位相角∠EΔ aも示されている。
図41Bから、4×4MIMOアンテナに最適な負荷インピーダンスj262Ωが接続されている場合、第2の推定方法を用いて到来波方向を推定すると、最小で−3.2度、最大で0.3度の範囲において誤差が生じているのがわかる。これにより、4×4MIMOアンテナに最適な負荷インピーダンスj262Ωが接続されている場合、第2の推定方法を用いることで、平均誤差で−1.2度の推定精度により到来波方向を推定することができるのがわかる。
[効果等]
以上のように、本実施の形態によれば、5つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1を用いた組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Bに、実施の形態2で説明した第2の推定方法を用いて到来波方向を推定させることで、推定精度をより向上させることができる。さらに、4×4MIMOアンテナに最適な負荷インピーダンスj262Ωを設定することで、より推定精度を向上させることができる。
(実施の形態4)
実施の形態3では、5つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1を用いることで、16×16MIMOアンテナを構成できることについて説明した。本実施の形態では、9つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1を用いることで、32×32MIMOアンテナを実現できることについて説明する。
[組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1C]
図42Aは、実施の形態4における組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Cの構成の一例を示す図である。図42Aに示すように、組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Cは、9つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1で構成され、1つが中心位置と、8つがその周りに円状に略等間隔に配置されている。
中心に配置された円形配列フェーズドアレーアンテナ1(以下、AOAアンテナと称する)は、到来波を推定するためだけに用いられる。円上に等間隔に配列された円形配列フェーズドアレーアンテナ1は、32×32MIMOアンテナを実現し高速通信を行うために用いられる。
円上に等間隔に配列された8つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1はそれぞれ、実施の形態3で説明したように、変化する到来波方向に応じて、到来波方向に直交するようにサブアレーに分割されて指向性が制御される。これにより、円上に等間隔に配列された8つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1は、複数のビーム(指向性ビーム)を独立に形成することができる。
図42Bは、実施の形態4における組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Cの到来波方向の推定結果を示す図である。図42Bでも、直接波のみの伝搬環境における到来波方向の推定精度が示されている。図42Bにおいて、解析に用いた周波数は2GHzとし、半径rを30cmとしている。また、円上に等間隔に配列された8つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1に接続された負荷インピーダンスをj200Ω、j326Ωまたはj500Ωに設定した。なお、以下、円上に等間隔に配列された9個の円形配列フェーズドアレーアンテナ1それぞれを、4×4MIMOアンテナと称する。
図42Bより、4×4MIMOアンテナに接続された負荷インピーダンスをj326Ωに設定すると、AOAアンテナの位相特性は一定となり、推定誤差も小さくなるのがわかる。
次に、組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Cにも、実施の形態2で説明した第2の方法が適用できることについて説明する。
図43Aは、負荷インピーダンスが50Ωである場合の組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Cによる到来波方向の推定結果を示す図である。図43Bは、負荷インピーダンスが50Ωである場合の組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Cによる到来波方向の推定誤差を示す図である。図43Aおよび図43Bでも、実施の形態2で説明した第1の推定方法および第2の推定方法により到来波方向が推定されている。同様に、Kファクターは−10dB、到来波方向は0度としている。また、4×4MIMOアンテナに接続された負荷インピーダンスを50Ωとし、解析に用いた周波数を2GHzとした。
平均位相角∠EΔaveは、第2の推定方法で算出された第1信号の位相角∠EΔに対応する。第3信号の位相角∠EΔ aは、第1の推定方法で算出された第1信号の位相角∠EΔに対応する。
図43Bから、第1の推定方法を用いて到来波方向を推定する場合、最小で−55度、最大で5度の範囲において誤差が生じているのがわかる。一方、第2の推定方法を用いて到来波方向を推定する場合、最小で−10度、最大で5度の範囲において誤差が生じているのがわかる。これにより、第2の推定方法を用いて到来波方向を推定することで、推定誤差が小さくなっているのがわかる。したがって、4×4MIMOアンテナに接続された負荷インピーダンスが50Ωである場合、第2の推定方法を用いて到来波方向を推定することで、第1の推定方法を用いて到来波方向を推定するときと比較して推定誤差がより小さくなるのがわかる。
図44Aは、負荷インピーダンスがj326Ωである場合の組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Cによる到来波方向の推定結果を示す図である。図44Bは、負荷インピーダンスがj326Ωである場合の組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Cによる到来波方向の推定誤差を示す図である。図44Aおよび図44Bでは、負荷インピーダンスがj326Ωである場合を除くと、図43Aおよび図43Bと同様の条件としている。また、図44Aおよび図44Bでは、比較のため負荷インピーダンスが50Ωである場合の第1信号の位相角∠EΔである平均位相角∠EΔaveおよび第3信号の位相角∠EΔ aも示されている。
図44Bから、4×4MIMOアンテナに最適な負荷インピーダンスj326Ωが接続されている場合、第2の推定方法を用いて到来波方向を推定すると、最小で−3.1度、最大で0.3度の範囲において誤差が生じているのがわかる。これにより、4×4MIMOアンテナに最適な負荷インピーダンスj326Ωが接続されている場合、第2の推定方法を用いることで、平均誤差で−1.2度の推定精度により到来波方向を推定することができるのがわかる。
[効果等]
以上のように、本実施の形態によれば、9つの円形配列フェーズドアレーアンテナ1を用いた組み合わせ円形配列フェーズドアレーアンテナ1Cに、実施の形態2で説明した第2の推定方法を用いて到来波方向を推定させることで、推定精度をより向上させることができる。さらに、4×4MIMOアンテナに最適な負荷インピーダンスj326Ωを設定することで、より推定精度を向上させることができる。
(実施の形態5)
上記の実施の形態では、第1アンテナ素子それぞれと第2アンテナ素子とは、例えば、半波長ダイポールアンテナなど所定長さのダイポールアンテナまたは、電気的に等価な動作をする等価ダイポール素子からなるとして説明したが、限らない。第1アンテナ素子それぞれと第2アンテナ素子とは、例えばモノポールアンテナからなるとしてもよい。
図45Aは、半波長ダイポールアンテナを用いた円形配列フェーズドアレーアンテナ1の構成図である。図45Bは、モノポールアンテナを用いた円形配列フェーズドアレーアンテナ1の構成図である。図45Bに示されるモノポールアンテナは、地板に1/4波長の素子が接続されている。
円形配列フェーズドアレーアンテナ1は、図45Aに示すように半波長ダイポールアンテナで構成するよりも、図45Bに示すように、モノポールアンテナの方が容易に作成できるので、実用化がより容易となる。
以下、第1アンテナ素子それぞれと第2アンテナ素子とにモノポールアンテナを用いることができることを検証したので、以下説明する。
図46は、モノポールアンテナ単体の解析モデルを示す図である。モノポールアンテナ単体の解析モデルは、図46に示すように、一辺が7.5cmの正方形の地板と、当該地板の中心に接続された3.75cmの素子とで構成されるとしている。
図47Aおよび図47Bは、図46に示す解析モデルを用いた解析結果を示す図である。図47Aには、モノポールアンテナ単体の振幅特性が示されており、図47Bには、モノポールアンテナ単体の位相特性が示されている。いずれも、図46に示す解析モデルとモーメント法を用いて電磁界解析を行った結果であり、解析に使用した周波数は2GHzである。図47Aおよび図47Bより、モノポールアンテナ単体の振幅特性および位相特性は、半波長ダイポールと類似していることがわかる。
図48は、複数のモノポールアンテナが配置された解析モデルを示す図である。この解析モデルは、図48に示すように、一辺が7.5cmの正方形の地板と、当該地板の中心に接続された3.75cmの素子とで構成されるモノポールアンテナが5つ配置されたモデルである。より具体的には、この解析モデルは、中心にある1つのモノポールアンテナの周囲に4つのモノポールアンテナが円上に等間隔に配列されたモデルであり、中心のモノポールアンテナの解析が行われる。中心にある1つのモノポールアンテナと円上に等間隔に配列された4つのモノポールアンテナそれぞれの距離は、図48に示すように1cmとした。さらに、円上に等間隔に配列された4つのモノポールアンテナには、負荷インピーダンスZ1=R1+jX1=(R1、X1)が接続されているとしている。
図49Aおよび図49Bは、図48に示す解析モデルを用いた解析結果を示す図である。図49Aには、図48に示す解析モデルのうち中心にある1つのモノポールアンテナの振幅特性が示されており、図49Bには、図48に示す解析モデルのうち中心にある1つのモノポールアンテナの位相特性が示されている。いずれも、図48に示す解析モデルとモーメント法を用いて電磁界解析を行った結果であり、解析に使用した周波数は2GHzである。また、円上に等間隔に配列された4つのモノポールアンテナに接続される負荷インピーダンスZ1を(0、300Ω)または(50Ω、0)とした。
図49Aおよび図49Bより、円上に等間隔に配列された4つのモノポールアンテナに接続される負荷インピーダンスZ1を(0、300Ω)にすることにより、中心にある1つのモノポールアンテナの位相特性を無指向性に制御可能であることがわかる。このように、円上に等間隔に配列された4つのモノポールアンテナに接続される負荷インピーダンスZ1を制御することにより、中心にある1つのモノポールアンテナの位相特性を制御可能であることがわかる。これは、実施の形態2等で説明したように、円形配列フェーズドアレーアンテナ1が半波長ダイポールアンテナからなる場合と同様の結果である。
ここで、中心にある1つのモノポールアンテナの位相特性を制御する方法について説明する。
図50Aは、3段チェビシェフBPF(Band Pass Filter)の構成を示す図である。図50Bは、図50Aに示す3段チェビシェフBPFが示す振幅特性を示す図である。図50Cは、図50Aに示す3段チェビシェフBPFが示す群遅延特性を示す図である。
ここで、フィルタ理論より、結合リアクタンスCによって郡遅延特性(位相線形性)の制御が可能であることが知られている。そして、図50Aに示すように共振器間にコンデンサを接続することにより、図50Bおよび図50Cから位相特性が制御可能であるのがわかる。
次に、図50Aの共振器をアンテナとみなし、アンテナ間にリアクティブ素子を接続することにより位相特性を制御できないか検討した。
図51は、地板間リアクティブ素子の構成を示す図である。図51に示される構成は、隣接素子と電磁結合するモノポールアンテナに該当する。また、図51に示される構成は、3つの共振器が近接して電磁結合しており、3段チェビシェフBPFと類似の構造となっているのがわかる。これにより、地板間リアクティブ素子Xを用いると位相角度特性を制御できるのがわかった。
図52は、地板間に負荷を装荷する複数のモノポールアンテナが配置された解析モデルを示す図である。この解析モデルは、図48に示す解析モデルと比較して、地板間に負荷が装荷している点が異なる。この解析モデルでは、中心にある1つのモノポールアンテナと円上に等間隔に配列された4つのモノポールアンテナには負荷インピーダンスZ1=50Ωが接続されており、地板間には負荷インピーダンスZ2=R2+jX2=(R2、X2)が装荷されている。そして、この解析モデルを用いて中心にある1つのモノポールアンテナの位相特性を制御可能か検討した。
図53Aおよび図53Bは、図52に示す解析モデルを用いた解析結果を示す図である。図53Aには、図52に示す解析モデルのうち中心にある1つのモノポールアンテナの振幅特性が示されており、図53Bには、図53に示す解析モデルのうち中心にある1つのモノポールアンテナの位相特性が示されている。いずれも、図53に示す解析モデルとモーメント法を用いて電磁界解析を行った結果であり、解析に使用した周波数は2GHzである。また、中心にある1つのモノポールアンテナと円上に等間隔に配列された4つのモノポールアンテナに接続される負荷インピーダンスZ1を(50Ω、0)とし、地板間に装荷されている負荷インピーダンスZ2を(0、0)、(0、−51.2Ω)または(0、−100Ω)とした。
図53Aおよび図53Bより、中心にある1つのモノポールアンテナに装荷されている負荷インピーダンスZ2を−51.2Ωにすることにより、中心にある1つのモノポールアンテナの位相特性を無指向性に制御可能であることがわかる。この結果より、地板間に装荷する負荷インピーダンスZ2を制御することにより、円の中心のモノポールアンテナの位相特性を制御可能であるのがわかる。より具体的には、円上に等間隔に配列された4つのモノポールアンテナに接続される負荷インピーダンスZ1を50Ω(電源のインピーダンス)とし、地板間に装荷する負荷インピーダンスZ2を制御する。これにより、到来波方向を推定する際の基準となる円の中心のモノポールアンテナの受信信号の位相特性を無指向性に制御可能であるのがわかる。
以上から、第1アンテナ素子それぞれと第2アンテナ素子とにモノポールアンテナを導入することができるのがわかった。さらに、第1アンテナ素子それぞれに接続される負荷インピーダンスを電源のインピーダンスである50Ωのままで、到来波方向を推定可能となるのがわかった。
(その他の実施の形態)
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されない。上述した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
また、上記実施形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、あるいは、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。
また、例えば、方向推定装置10を構成するモジュールを、IC(集積回路)、ASIC(特定用途向け集積回路)、およびLSI(大規模集積)などの形態で実現されるか、ARMなどのCPUに基づくプロセッサおよびPC(パーソナルコンピュータ)などの機械により実現するとしてもよい。これらの各モジュールは、多くの単機能LSIまたは1つのLSIに含まれ得る。ここで用いられた名称はLSIであるが、集積度に応じて、IC、システムLSI、スーパーLSIまたはウルトラLSIと呼称されることもある。さらに、集積方法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサなどによっても集積することができる。これには、プログラム命令により指示可能なDSP(デジタル信号プロセッサ)などの特殊なマイクロプロセッサも含まれる。LSIの製造後にプログラム可能なFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)もしくはLSIの接続または配置を再構成できる再構成可能プロセッサを同様の目的で用いることができる。今後は、製造と処理技術の発展に伴い、全く新しい技術がLSIに置き換わるかもしれない。集積はそのような技術によって実現され得る。