以下、液体噴射装置の実施形態について、図を参照して説明する。本実施形態の液体噴射装置は、液体の一例であるインクを噴射することによって記録用紙などの媒体に印刷するインクジェット式のプリンターである。
(第1実施形態)
図1に示すように、液体噴射装置700は、支持台712と、搬送ユニット713と、印刷ユニット720と、乾燥ユニット719と、ガイド軸721,722と、これら構成要素を収容する筐体701と、を備える。支持台712及びガイド軸721,722は媒体STの幅方向となるX軸方向に延びる。筐体701は、操作を行ったり動作状態を表示したりする操作パネル703を有する。
搬送ユニット713は、シート状の媒体STを搬送する。印刷ユニット720は、支持台712上に設定される印刷位置において、搬送される媒体STに向けて液滴を噴射する。Y軸方向は、印刷位置での媒体STの搬送方向である。乾燥ユニット719は、媒体STに付いた液体の乾燥を促進する。X軸及びY軸は、Z軸と交差する。本実施形態のZ軸方向は重力方向であり、液体の噴射方向である。
搬送ユニット713は、支持台712より搬送方向上流に配置される搬送ローラー対714a、案内板715a及び供給リール716aと、支持台712より搬送方向下流に配置される搬送ローラー対714b、案内板715b及び巻取リール716bと、を備える。搬送ユニット713は、搬送ローラー対714a,714bを回転させる搬送モーター749を備える。
媒体STは、供給リール716aにロール状に巻かれたロールシートRSから繰り出される。搬送ローラー対714a,714bが媒体STを挟んだ状態で回転すると、媒体STは、案内板715a、支持台712及び案内板715bの表面に沿って搬送される。印刷済みの媒体STは、巻取リール716bに巻き取られる。
印刷ユニット720は、ガイド軸721,722に支持されたキャリッジ723と、キャリッジモーター748と、を備える。キャリッジモーター748の駆動により、キャリッジ723は、ガイド軸721,722に沿って支持台712の上方で往復移動する。
液体噴射装置700は、往復移動するキャリッジ723に追従して変形可能な複数本の供給チューブ726と、キャリッジ723に取り付けられた接続部726aと、を備える。供給チューブ726の上流端は液体供給源702に接続され、供給チューブ726の下流端は接続部726aに接続される。液体供給源702は、例えば液体を貯留するタンクであってもよいし、筐体701に対して着脱可能なカートリッジであってもよい。
印刷ユニット720は、キャリッジ723に保持される構成要素として、2つの液体噴射ヘッド1(1A,1B)と、液体供給路727と、貯留部730と、貯留部730を保持する貯留部保持体725と、貯留部730に接続された流路アダプター728と、を備える。液体噴射ヘッド1A,1Bはキャリッジ723の下部に保持され、貯留部730はキャリッジ723の上部に保持される。液体供給路727は、液体供給源702から供給された液体を液体噴射ヘッド1A,1Bに供給する。
貯留部730は、液体供給路727と液体噴射ヘッド1の間で液体を一時貯留する。貯留部730は、少なくとも液体の種類ごとに設けられる。液体噴射装置700が複数の貯留部730を備え、複数の貯留部730に色の異なるカラーインクを貯留すると、カラー印刷が可能になる。
インク色には、例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、ホワイトなどがある。カラー印刷は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色で行ってもよいし、シアン、マゼンタ、イエローの3色で行ってもよい。さらに、シアン、マゼンタ、イエローの3色に、ライトシアン、ライトマゼンタ、ライトイエロー、オレンジ、グリーン、グレーなどのうち少なくとも1色をさらに追加してもよい。これらインクは、防腐剤を含むとよい。
ホワイトインクは、透明又は半透明のフィルムである媒体STまたは濃色の媒体STに印刷をする際に、カラー印刷前の下地印刷(ベタ印刷または塗り潰し印刷ともいう)に使用することができる。
貯留部730は、液体供給路727の途中に設けられた差圧弁731を備える。差圧弁731は、いわゆる減圧弁である。すなわち、差圧弁731は、液体噴射ヘッド1で液体が消費され、差圧弁731と液体噴射ヘッド1の間の液体供給路727の液圧が大気圧より低い所定の負圧を下回ると開弁し、貯留部730から液体噴射ヘッド1に向かう液体の流動を許容する。差圧弁731は、液体の流動により差圧弁731と液体噴射ヘッド1の間の液体供給路727の液圧が上記所定の負圧に戻ると閉弁して、液体の流動を停止させる。差圧弁731は、差圧弁731と液体噴射ヘッド1の間の液体供給路727の液圧が高くなっても開弁することはない。そのため、差圧弁731は、貯留部730から液体噴射ヘッド1への液体の流動を許容し、その逆方向に液体が流れることを抑制する一方向弁(逆止弁)として機能する。
液体供給路727は、接続部726aに上流端が接続される供給チューブ727aを有する。供給チューブ727aの下流端は、貯留部730よりも上方となる位置で、流路アダプター728に接続される。液体は、供給チューブ726、供給チューブ727a及び流路アダプター728を順に通って、貯留部730に供給される。
乾燥ユニット719は、発熱機構717と、送風機構718と、を備える。発熱機構717はキャリッジ723より上方に配置される。液体噴射ヘッド1は、キャリッジ723が発熱機構717と支持台712の間で往復移動しているときに、支持台712上に停止した媒体STに対して液滴を噴射する。
発熱機構717は、X軸方向に延びる発熱部材717a及び反射板717bを備える。発熱部材717aは、例えば赤外線ヒーターである。発熱機構717は、発熱部材717aから赤外線等の熱(例えば輻射熱)を発し、図1において一点鎖線の矢印で示すエリアにある媒体STを加熱する。送風機構718は、発熱機構717が加熱するエリアに送風し、媒体STの乾燥を促進する。
キャリッジ723は、貯留部730と発熱機構717との間に、発熱機構717からの伝熱を遮る遮熱部材729を備える。遮熱部材729は、例えばステンレススチールまたはアルミニウムなどの熱伝導性のよい金属材料で形成される。遮熱部材729は、少なくとも貯留部730の上面を覆うことが好ましい。
図2に示すように、液体噴射ヘッド1A,1Bは、X軸方向に所定の距離だけ離れ、且つY軸方向に所定の距離だけずれるように、キャリッジ723の下部に配置される。キャリッジ723は、X軸方向において液体噴射ヘッド1A,1Bの間となる位置に、温度センサー711を保持する。
液体噴射ヘッド1A,1BがX軸方向に移動可能な移動領域は、媒体STに印刷が行われる噴射領域PAと、噴射領域PAの外側のメンテナンス領域RA,LAとを含む。メンテナンス領域RA,LAは、噴射領域PAのX軸方向の両外側に位置する。噴射領域PAは、最大幅の媒体STに対して、液体噴射ヘッド1A,1Bが液滴を噴射することができる領域である。印刷ユニット720が縁なし印刷機能を有する場合、噴射領域PAは、最大幅の媒体STよりもX軸方向に若干広がる。発熱機構717(図1参照)が媒体STを加熱する加熱領域は、噴射領域PAと重なる。
液体噴射装置700は、液体噴射ヘッド1をメンテナンスするためのメンテナンスユニット710を備える。メンテナンスユニット710は、メンテナンス領域LAに配置されるキャップ装置800と、メンテナンス領域RAに配置されるワイピング機構750、液体受容機構751及びキャップ機構752を備える。キャップ機構752の上方は、液体噴射ヘッド1A,1Bのホーム位置HPとなる。ホーム位置HPは、液体噴射ヘッド1A,1Bの往路移動の始点となる。
<ヘッドユニットの構成について>
次に、ヘッドユニット2の構成について詳述する。
1つの液体噴射ヘッド1は、複数(本実施形態では4つ)のヘッドユニット2(図6参照)を有する。ヘッドユニット2は、液体の種類毎に設けられる。
図3に示すように、1つのヘッドユニット2は、液滴を噴射する複数のノズル21を有する。一方向(本実施形態ではY軸方向)に一定の間隔で並ぶ多数(例えば180個)のノズル21は、ノズル列NLを構成する。本実施形態では、1つの液体噴射ヘッド1に、X軸方向に並ぶ2列のノズル列NLが設けられる。互いに接近して並ぶ2つのノズル列NLをノズル群という。
1つの液体噴射ヘッド1には、4つのノズル群(合計8列のノズル列NL)が、X軸方向に一定の間隔で配置される。2つの液体噴射ヘッド1は、ノズル21の位置をX軸方向に投影したときに、各々のノズル列NLの一番端のノズル21同士が、一のノズル列NLを構成するノズル21と同じ間隔で並ぶように、Y軸方向の位置が調整される。
図4に示すように、ヘッドユニット2は、ヘッド本体11と、ヘッド本体11の上面側に固定された流路形成部材40と、を備える。ヘッド本体11は、流路形成部材40に近い方から順に積層された、保護基板30と、流路形成基板10と、連通板15と、ノズルプレート20と、コンプライアンス基板45とを備える。連通板15は、流路形成基板10の下面側に設けられる。保護基板30は、流路形成基板10の上側に設けられる。ノズルプレート20は、連通板15の下面側に設けられる。コンプライアンス基板45は、連通板15のノズルプレート20が設けられた面側に設けられる。
流路形成基板10は、ステンレス鋼またはNiなどの金属、ZrO2またはAl2O3を代表とするセラミック材料、ガラスセラミック材料、MgO、LaAlO3のような酸化物などを用いることができる。本実施形態では、流路形成基板10は、シリコン単結晶基板からなる。
図5に示すように、流路形成基板10には、隔壁によって区画された複数の圧力室12が形成されている。圧力室12は、ノズル21の上方に配置される。流路形成基板10には、圧力室12のY軸方向の一端部に、圧力室12よりも開口面積が狭く、圧力室12に流入する液体の流路抵抗を付与する供給路等が設けられていてもよい。
図4及び図5に示すように、ノズルプレート20は、ノズル21を構成する孔を有する。ノズルプレート20の下面であるノズル面20aには、ノズル21の下流端が開口する。
連通板15には、圧力室12とノズル21とを連通するノズル連通路16が設けられる。連通板15は、流路形成基板10よりも平面積が大きく、ノズルプレート20は流路形成基板10よりも平面積が小さい。連通板15を設けることによって、ノズルプレート20のノズル21と圧力室12とを離せるため、圧力室12の中にある液体は、ノズル21から液体中の水分が蒸発することにより増粘しにくくなる。また、ノズルプレート20は圧力室12とノズル21とを連通するノズル連通路16の開口を覆うだけでよいので、ノズルプレート20の面積を比較的小さくすることができ、コストの削減を図ることができる。
図5に示すように、連通板15には、共通液室100を構成する第1マニホールド部17と、第2マニホールド部18(絞り流路、オリフィス流路)とが設けられる。第1マニホールド部17は、連通板15を厚さ方向(連通板15と流路形成基板10との積層方向となるZ軸方向)に貫通する。第2マニホールド部18は、連通板15を厚さ方向に貫通することなく、連通板15のノズルプレート20側に開口する。
連通板15には、圧力室12のY軸方向の一端部に連通する供給連通路19が、圧力室12毎に独立して設けられる。供給連通路19は、第2マニホールド部18と圧力室12とを連通する。
連通板15を構成するために、ステンレスまたはニッケル(Ni)などの金属、またはジルコニウム(Zr)などのセラミックス等を用いることができる。連通板15は、流路形成基板10と線膨張係数が同等の材料が好ましい。連通板15として流路形成基板10と線膨張係数が大きく異なる材料を用いた場合、加熱または冷却されることで、流路形成基板10及び連通板15に反りが生じることがある。本実施形態では、連通板15として流路形成基板10と同じ材料、すなわち、シリコン単結晶基板を用いて、熱による反り、熱によるクラックまたは剥離等を抑制している。
ノズルプレート20を構成するために、例えば、ステンレス(SUS)等の金属、ポリイミド樹脂のような有機物、又はシリコン単結晶基板等を用いることができる。ノズルプレート20としてシリコン単結晶基板を用いると、ノズルプレート20と連通板15との線膨張係数が同等になる。これにより、熱による反り、熱によるクラックまたは剥離等を抑制することができる。
流路形成基板10の連通板15とは反対面側には、振動板50が配置される。本実施形態では、振動板50として、流路形成基板10側に設けられた酸化シリコンからなる弾性膜51と、弾性膜51上に設けられた酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜52と、を設けている。圧力室12等の液体流路は、流路形成基板10を一方面側(ノズルプレート20が接合された面側)から異方性エッチングすることにより形成されており、圧力室12等の液体流路の他方面は、弾性膜51によって画成されている。
流路形成基板10の振動板50上には、本実施形態の圧力発生手段であるアクチュエーター130が設けられる。アクチュエーター130は、例えば圧電アクチュエーターである。アクチュエーター130は、第1電極60と、圧電体層70と、第2電極80とを有する。
一般的には、アクチュエーター130の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極を圧力室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を複数のアクチュエーター130に亘って連続して設けることで共通電極とし、第2電極80をアクチュエーター130毎に独立して設けることで個別電極としている。もちろん、駆動回路または配線の都合でこれを逆にしても支障はない。
上述した例では、振動板50が弾性膜51及び絶縁体膜52で構成されたものを例示したが、勿論これに限定されるものではない。例えば、振動板50として弾性膜51及び絶縁体膜52の何れか一方を設けたものであってもよく、また、振動板50として弾性膜51及び絶縁体膜52を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、アクチュエーター130自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
圧電体層70は、分極構造を有する酸化物の圧電材料からなり、例えば、一般式ABO3で示されるペロブスカイト型酸化物からなることができ、鉛を含む鉛系圧電材料や鉛を含まない非鉛系圧電材料などを用いることができる。
アクチュエーター130の個別電極である第2電極80には、リード電極90の先端が接続される。リード電極90は、供給連通路19とは反対側の端部近傍から引き出され、振動板50上まで延びる。リード電極90は、例えば、金(Au)等からなる。
リード電極90の他端部には、配線基板121が接続されている。配線基板121は、可撓性のあるシート状のもの、例えば、COF基板等を用いることができる。配線基板121には、アクチュエーター130を駆動するための駆動回路120が設けられる。
図6に示すように、配線基板121の一面には、第2端子列123が形成されている。第2端子列123は、Y軸方向に並ぶ複数の第2端子(配線端子)122によって構成される。配線基板121は、COF基板に限定されず、FFC、FPC等であってもよい。
図5に示すように、流路形成基板10のアクチュエーター130側の面には、流路形成基板10と略同じ大きさを有する保護基板30が接合されている。保護基板30は、アクチュエーター130を保護するための空間である保持部31を有する。
保持部31は、保護基板30を厚さ方向であるZ軸方向に貫通することなく、流路形成基板10側に開口する凹形状を有する。保持部31は、X軸方向に並設されたアクチュエーター130で構成される列毎に独立して設けられる。すなわち、保持部31は、アクチュエーター130のX軸方向に並設された列を収容するように設けられており、アクチュエーター130の列毎、すなわち2つがY軸方向に並設されている。このような保持部31は、アクチュエーター130の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
保護基板30は、厚さ方向であるZ軸方向に貫通した貫通孔32を有する。貫通孔32は、Y軸方向に並設された2つの保持部31の間に複数のアクチュエーター130の並設方向であるX軸方向に亘って設けられる。つまり、貫通孔32は、複数のアクチュエーター130の並設方向に長辺を有した開口とされている。リード電極90の基端は、この貫通孔32内に露出するように延設され、リード電極90と配線基板121とが貫通孔32内で電気的に接続されている。
保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましい。本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。流路形成基板10と保護基板30との接合方法は特に限定されず、例えば、本実施形態では、流路形成基板10と保護基板30とは接着剤(図示せず)を介して接合されている。
ヘッドユニット2は、流路形成部材40を備える。流路形成部材40は、複数の圧力室12に連通する共通液室100をヘッド本体11とともに画成する。流路形成部材40は、平面視において上述した連通板15と略同一形状を有し、保護基板30に接合されるとともに、上述した連通板15にも接合されている。
具体的には、流路形成部材40は、保護基板30側に流路形成基板10及び保護基板30が収容される深さの凹部41を有する。凹部41は、保護基板30の流路形成基板10に接合された面よりも広い開口面積を有する。そして、凹部41に流路形成基板10等が収容された状態で凹部41のノズルプレート20側の開口面が連通板15によって封止されている。これにより、流路形成基板10の外周部には、流路形成部材40とヘッド本体11とによって第3マニホールド部42が画成されている。そして、連通板15に設けられた第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18と、流路形成部材40とヘッド本体11とによって画成された第3マニホールド部42と、によって本実施形態の共通液室100が構成されている。
すなわち、共通液室100は、第1マニホールド部17、第2マニホールド部18及び第3マニホールド部42を備える。また、本実施形態の共通液室100は、Y軸方向において、2列の圧力室12の両外側に配置されており、2列の圧力室12の両外側に設けられた2つの共通液室100は、ヘッドユニット2内では連通しないようにそれぞれ独立して設けられる。すなわち、本実施形態の圧力室12の列(X軸方向に並設された列)毎に1つの共通液室100が連通して設けられる。言い換えると、ノズル列NL毎に共通液室100が設けられる。もちろん、2つの共通液室100は、連通していてもよい。
このように、流路形成部材40は、共通液室100を形成する部材であり、共通液室100に連通した導入口44を有する。すなわち、導入口44は、ヘッド本体11に供給される液体を共通液室100に導入する入口となる開口部である。流路形成部材40の材料としては、例えば、樹脂や金属等を用いることができる。流路形成部材40の材料を樹脂材料とすると、低コストで量産することができる。
流路形成部材40には、保護基板30の貫通孔32に連通する接続口43が設けられる。接続口43には、配線基板121が挿通される。配線基板121の上端部は、貫通孔32及び接続口43の貫通方向、すなわち、Z軸方向であって、液滴の噴射方向とは反対側に延設されている。
連通板15の第1マニホールド部17及び第2マニホールド部18が開口する面には、コンプライアンス基板45が設けられる。このコンプライアンス基板45は、平面視において上述した連通板15と略同じ大きさを有し、ノズルプレート20を露出する第1露出開口部45aが設けられる。そして、このコンプライアンス基板45が第1露出開口部45aによってノズルプレート20を露出した状態で、第1マニホールド部17と第2マニホールド部18のノズル面20a側の開口を封止している。すなわち、コンプライアンス基板45が共通液室100の一部を画成している。
コンプライアンス基板45は、封止膜46と、固定基板47と、を備える。封止膜46は、可撓性を有するフィルム状の薄膜(例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等により形成された厚さが20μm以下の薄膜)からなる。固定基板47は、ステンレス鋼(SUS)等の金属等の硬質の材料で形成される。固定基板47の共通液室100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部48となっているため、共通液室100の一方面は可撓性を有する封止膜46のみで封止された可撓部であるコンプライアンス部49となっている。本実施形態では、1つの共通液室100に対応して1つのコンプライアンス部49が設けられる。すなわち、本実施形態では、共通液室100が2つ設けられているため、ノズルプレート20を挟んでY軸方向の両側に2つのコンプライアンス部49が設けられている。
ヘッドユニット2では、液滴を噴射する際に、導入口44を介して液体を取り込み、共通液室100からノズル21に至るまでの流路内部を液体で満たす。その後、駆動回路120からの信号に従い、圧力室12に対応するアクチュエーター130に電圧を印加することにより、アクチュエーター130とともに振動板50をたわみ変形させる。これにより、圧力室12内の圧力が高まり、その圧力室12に連通するノズル21から液滴が噴射される。
<液体噴射ヘッドの構成について>
次に、液体噴射ヘッド1について詳細に説明する。
図6に示すように、液体噴射ヘッド1は、4つのヘッドユニット2と、ヘッドユニット2を保持する流路部材200と、流路部材200に保持されたヘッド基板300と、可撓性配線基板の一例である配線基板121とを備える。流路部材200は、ヘッドユニット2に液体を供給するホルダー部材を含む。
図7には、シール部材230及び上流流路部材210の図示を省略した液体噴射ヘッド1の平面図を示す。
図8に示すように、流路部材200は、上流流路部材210と、ホルダー部材の一例である下流流路部材220と、上流流路部材210と下流流路部材220との間に配置されるシール部材230とを備える。
上流流路部材210は、液体の流路となる上流流路500を有する。本実施形態では、上流流路部材210は、第1上流流路部材211と、第2上流流路部材212と、第3上流流路部材213とがZ軸方向に積層されて構成されている。第1上流流路部材211、第2上流流路部材212及び第3上流流路部材213には、それぞれ第1上流流路501、第2上流流路502、第3上流流路503が設けられる。第1上流流路501、第2上流流路502及び第3上流流路503が連結することで、上流流路500が構成されている。
上流流路部材210はこのような態様に限定されるものではなく、単一の部材であっても、2以上の複数の部材で構成されていてもよい。また、上流流路部材210を構成する複数の部材の積層方向も特に限定されず、X軸方向、Y軸方向であってもよい。
第1上流流路部材211は、下流流路部材220とは反対面側に、液体を収容するタンクやカートリッジなどの液体収容体に接続される接続部214を有する。本実施形態では、接続部214として針状に突出したものとした。なお、接続部214には、カートリッジなどの液体収容体が直接接続されてもよく、また、タンクなどの液体収容部がチューブ等の供給管などを介して接続されてもよい。
第1上流流路部材211には、第1上流流路501が設けられている。第1上流流路501は、接続部214の頂面に開口し、後述する第2上流流路502の位置に応じて、Z軸方向に延びる流路や、Z軸方向に直交する方向、すなわちX軸方向及びY軸方向を含む面内に延びる流路等で構成されている。また、第1上流流路部材211の接続部214の周囲には、液体保持部を位置決めするためのガイド壁215(図6参照)が設けられている。
第2上流流路部材212は、第1上流流路部材211の接続部214とは反対面側に固定されて、第1上流流路501に連通する第2上流流路502を有する。また、第2上流流路502の下流側(第3上流流路部材213側)には、第2上流流路502よりも内径が広く拡幅された第1液体溜まり部502aが設けられている。
第3上流流路部材213は、第2上流流路部材212の第1上流流路部材211とは反対側に設けられている。また、第3上流流路部材213には、第3上流流路503が設けられている。第3上流流路503の第2上流流路502側の開口部分は、第1液体溜まり部502aに応じて拡幅された第2液体溜まり部503aとなっている。第2液体溜まり部503aの開口部分(第1液体溜まり部502aと第2液体溜まり部503aとの間)には、液体に含まれる気泡等の異物を除去するためのフィルター216が設けられている。これにより、第2上流流路502(第1液体溜まり部502a)から供給された液体は、フィルター216を介して第3上流流路503(第2液体溜まり部503a)に供給される。
フィルター216としては、例えば、金網や樹脂性の網等の網目状体、多孔質体または微細な貫通孔を穿設した金属板を用いることができる。網目状体の具体的な例としては、金属メッシュフィルター、金属繊維、SUS等の細線をフェルト状にしたもの、あるいは、圧縮焼結させた金属焼結フィルター、エレクトロフォーミング金属フィルター、電子線加工金属フィルター、レーザービーム加工金属フィルターなどを用いることができる。
フィルター216の性質としては、バブルポイント圧力がばらつかないことが好ましく、高精細な穴径を有するフィルターが適当である。なお、「バブルポイント圧力」は、フィルター開孔で形成されたメニスカスが壊れる圧力をいう。フィルター216の濾過粒度は、液体中の異物をノズル開口に到達させないようにするために、例えばノズル開口が円形の場合、ノズル開口の直径よりも小さいことが好ましい。
フィルター216として、ステンレスのメッシュフィルターを採用する場合、液体中の異物をノズル開口に到達させないようにするとよい。そのため、メッシュフィルターは、濾過粒度がノズル開口(例えばノズル開口が円形の場合、ノズル開口の直径20μm)よりも小さい綾畳織(濾過粒度10um)が好ましい。この場合、液体(表面張力28mN/m)で発生するバブルポイント圧力は、3〜5kPaである。また、綾畳織(濾過粒度5um)を採用した場合に液体で発生するバブルポイント圧力は、0〜15kPaである。
第3上流流路503は、第2液体溜まり部503aよりも下流側(第2上流流路とは反対側)で2つに分岐されており、第3上流流路503は第3上流流路部材213の下流流路部材220側の面に第1排出口504A及び第2排出口504Bとして開口している。以下、第1排出口504A及び第2排出口504Bを区別しない場合は排出口504と称する。
すなわち、1つの接続部214に対応する上流流路500は、第1上流流路501、第2上流流路502及び第3上流流路503を有し、上流流路500は、下流流路部材220側に2つの排出口504(第1排出口504A及び第2排出口504B)として開口する。言い換えると、2つの排出口504(第1排出口504A及び第2排出口504B)は、共通する流路に連通して設けられている。
第3上流流路部材213の下流流路部材220側には、下流流路部材220側に向かって突出する第3突起部217が設けられている。第3突起部217は、第3上流流路503毎に設けられており、第3突起部217の先端面に排出口504が開口して設けられている。
このような上流流路500が設けられた第1上流流路部材211、第2上流流路部材212及び第3上流流路部材213は、例えば、接着剤による接着または溶着等によって一体的に積層されている。第1上流流路部材211、第2上流流路部材212及び第3上流流路部材213をネジやクランプ等で固定することもできる。ただし、第1上流流路501から第3上流流路503に至るまでの接続部分から液体が漏出するのを抑制するために、接着または溶着等で接合するのが好ましい。
本実施形態では、1つの上流流路部材210に4つの接続部214を設け、1つの上流流路部材210には4つの独立した上流流路500が設けられている。各上流流路500には、4つのヘッドユニット2のそれぞれに対応して液体が供給される。一つの上流流路500は2つに分岐し、後述する下流流路600に連通してヘッドユニット2の2つの導入口44のそれぞれに接続されている。
本実施形態では、上流流路500がフィルター216よりも下流(下流流路部材220側)で2つに分岐した構成を例示したが、特にこれに限定されず、フィルター216よりも下流側で上流流路500が3つ以上に分岐されていてもよい。また、1つの上流流路500がフィルター216よりも下流で分岐されていなくてもよい。
下流流路部材220は、上流流路部材210に接合され、上流流路500に連通する下流流路600を有するホルダー部材の一例である。本実施形態に係る下流流路部材220は、第1部材の一例である第1下流流路部材240と、第2部材の一例である第2下流流路部材250とから構成されている。
下流流路部材220は、液体の流路となる下流流路600を有する。本実施形態に係る下流流路600は、形状の異なる2種の下流流路600A及び下流流路600Bで構成されている。
第1下流流路部材240は、ほぼ平板状に形成された部材である。また、第2下流流路部材250は、上流流路部材210側の面に凹部として第1収容部251、上流流路部材210とは反対側の面に凹部として第2収容部252が設けられた部材である。
第1収容部251は、第1下流流路部材240が収容される程度の大きさとされている。また、第2収容部252は、4つのヘッドユニット2が収容される程度の大きさとされている。本実施形態に係る第2収容部252は、4つのヘッドユニット2を収容可能である。
第1下流流路部材240には、上流流路部材210側の面に、第1突起部241が複数個形成されている。各第1突起部241は、上流流路部材210に設けられた第3突起部217のうち、第1排出口504Aが設けられた第3突起部217に対向して設けられている。本実施形態では、4つの第1突起部241が設けられている。
第1下流流路部材240には、Z軸方向に貫通し、第1突起部241の頂面(上流流路部材210に対向する面)に開口した第1流路601が設けられている。第3突起部217と第1突起部241とは、シール部材230を介して接合され、第1排出口504Aと第1流路601とが連通している。
第1下流流路部材240には、Z軸方向に貫通した第2貫通孔242が複数個形成されている。各第2貫通孔242は、第2下流流路部材250に形成された第2突起部253が挿通される位置に形成されている。本実施形態では、4つの第2貫通孔242が設けられている。
第1下流流路部材240には、ヘッドユニット2に電気的に接続された配線基板121が挿通される第1挿通孔243が複数個形成されている。具体的には、各第1挿通孔243は、Z軸方向に貫通し、第2下流流路部材250の第2挿通孔255と、ヘッド基板300の第3挿通孔302とに連通するように形成されている。本実施形態では4つのヘッドユニット2に設けられた各配線基板121に対応して4つの第1挿通孔243が設けられている。また、第1下流流路部材240には、ヘッド基板300側に突出し、受け面を有する支持部245が設けられている。
第2下流流路部材250には、第1収容部251の底面に、第2突起部253が複数個形成されている。各第2突起部253は、上流流路部材210に設けられた第3突起部217のうち第2排出口504Bが設けられた第3突起部217に対向して設けられている。本実施形態では、4つの第2突起部253が設けられている。また、第2下流流路部材250には、Z軸方向に貫通し、第2突起部253の頂面及び第2収容部252の底面(ヘッドユニット2に対向した面)に開口した下流流路600Bが設けられている。第3突起部217と第2突起部253とは、シール部材230を介して接合され、第2排出口504Bと下流流路600Bとが連通している。
第2下流流路部材250には、Z軸方向に貫通した第3流路603が複数個形成されている。各第3流路603は、第1収容部251及び第2収容部252の底面に開口している。本実施形態では、4つの第3流路603が設けられている。
第2下流流路部材250の第1収容部251の底面には、第3流路603に連続した溝部254が複数個形成されている。この溝部254は、第1収容部251に収容された第1下流流路部材240に封止されることで、第2流路602を構成する。すなわち、第2流路602は、溝部254と第1下流流路部材240の第2下流流路部材250側の面とで画成された流路である。なお、この第2流路602が請求項に記載する第1部材と第2部材との間に設けられた流路に相当する。
第2下流流路部材250には、ヘッドユニット2に電気的に接続された配線基板121が挿通される第2挿通孔255が複数個形成されている。具体的には、各第2挿通孔255は、Z軸方向に貫通し、第1下流流路部材240の第1挿通孔243とヘッドユニット2の接続口43に連通するように形成されている。本実施形態では4つのヘッドユニット2に設けられた各配線基板121に対応して4つの第2挿通孔255が設けられている。
下流流路600Aは、上述した第1流路601、第2流路602及び第3流路603が連通して形成されたものである。ここで、第2流路602は、第1下流流路部材240の一方面に形成された溝が第2下流流路部材250により封止されることで形成されている。このような第1下流流路部材240と第2下流流路部材250とを接合することで、第2流路602を下流流路部材220内に容易に形成することができる。
第2流路602は、水平方向に延在した流路の一例である。第2流路602が水平方向に延在しているとは、第2流路602の延在方向に、X軸方向又はY軸方向の成分(ベクトル)が含まれていることをいう。第2流路602が水平方向に延在していることで、Z軸方向における液体噴射ヘッド1の高さを小型化することができる。仮に、第2流路602が水平方向に対して傾いていると、液体噴射ヘッド1の高さ寸法が大きくなる。
第2流路602の延在方向とは、第2流路602内の液体が流れる方向のことである。したがって、第2流路602は、水平方向(Z軸方向に直交する方向)に設けられているものも、重力方向及び水平方向(X軸方向及びY軸方向の面内方向)に交差して設けられているものも含む。本実施形態では、第1流路601と第3流路603をZ軸方向に並べ、第2流路602を水平方向(Y軸方向)に並べた。なお、第1流路601と第3流路603とは、Z軸と交差する軸方向に並んでもよい。
下流流路600Aは、これに限定されず、第1流路601、第2流路602、第3流路603以外の流路が存在してもよい。また、下流流路600Aは、第1流路601、第2流路602及び第3流路603から構成されず、一本の流路から構成されていてもよい。
下流流路600Bは、上述したように、第2下流流路部材250をZ軸方向に貫通した貫通孔として形成されている。もちろん、下流流路600Bはこのような態様に限定されず、例えば、Z軸と交差する軸方向に延びてもよいし、下流流路600Aのように複数の流路を連通させて構成したものであってもよい。
このような下流流路600A及び下流流路600Bは一つのヘッドユニット2に対して一つずつ形成されている。すなわち下流流路部材220には、下流流路600Aと下流流路600Bの一組が計4つ設けられている。
下流流路600Aの両端の開口のうち、第1排出口504Aが連通される第1流路601の開口を第1流入口610とし、第2収容部252に開口する第3流路603の開口を第1流出口611とする。
下流流路600Bの両端の開口のうち、第2排出口504Bが連通される下流流路600Bの開口を第2流入口620とし、第2収容部252に開口する下流流路600Bの開口を第2流出口621とする。以降、下流流路600A及び下流流路600Bを区別しない場合は、下流流路600と称する。
図6に示すように、下流流路部材220(ホルダー部材)は、ヘッドユニット2を下方の側で保持する。具体的には、下流流路部材220の第2収容部252には、複数(本実施形態では4つ)のヘッドユニット2が収容されている。
図8に示すように、ヘッドユニット2には導入口44が2つずつ設けられている。下流流路600(下流流路600A及び下流流路600B)の第1流出口611及び第2流出口621は、各導入口44の開口する位置に合わせて下流流路部材220に設けられている。
ヘッドユニット2の各導入口44は、第2収容部252の底面部に開口した下流流路600の第1流出口611及び第2流出口621に連通するように位置合わせされている。ヘッドユニット2は、各導入口44の周囲に設けられた接着剤227により第2収容部252に固定されている。このようにヘッドユニット2が第2収容部252に固定されることで、下流流路600の第1流出口611及び第2流出口621と導入口44とが連通し、ヘッドユニット2に液体が供給されるようになっている。
下流流路部材220は、ヘッド基板300が上方の側で載置される。具体的には、下流流路部材220の上流流路部材210側の面には、ヘッド基板300が載置されている。ヘッド基板300は、配線基板121が接続され、該配線基板121を介して液体噴射ヘッド1の噴射動作等を制御する回路または抵抗などの電装部品が実装された部材である。
図6に示すように、ヘッド基板300の上流流路部材210側の面には、配線基板121の第2端子列123が電気的に接続される第1端子(電極端子)311が複数個並設された第1端子列310が形成されている。本実施形態では、この第1端子列310が、配線基板121に電気的に接続される実装領域の一例となる。
ヘッド基板300には、ヘッドユニット2に電気的に接続された配線基板121が挿通される第3挿通孔302が複数個形成されている。具体的には、各第3挿通孔302は、Z軸方向に貫通し、第1下流流路部材240の第1挿通孔243に連通するように形成されている。本実施形態では4つのヘッドユニット2に設けられた各配線基板121に対応して4つの第3挿通孔302が設けられている。
ヘッド基板300には、Z軸方向に貫通した第3貫通孔301が設けられている。第3貫通孔301は、第1下流流路部材240の第1突起部241及び第2下流流路部材250の第2突起部253が挿通されるものである。本実施形態では、合計8つの第3貫通孔301が第1突起部241及び第2突起部253に対向するように設けられている。
ヘッド基板300に形成する第3貫通孔301の形状は上述したような態様に限定されない。例えば、第1突起部241及び第2突起部253が挿通される共通の貫通孔を挿通孔としてもよい。すなわち、ヘッド基板300は、下流流路部材220の下流流路600と、上流流路部材210の上流流路500とを接続する際の妨げとならないように挿通孔や切り欠き等が形成されていればよい。
図8、図9及び図10に示すように、ヘッド基板300と上流流路部材210との間には、シール部材230が設けられている。シール部材230の材料としては、液体噴射ヘッド1に用いられるインク等の液体に対して耐液体性を有し、且つ弾性変形可能な材料(弾性材料)、例えば、ゴムやエラストマー等を用いることができる。
シール部材230は、Z軸方向に貫通した連通路232及び下流流路部材220側に突出した第4突起部231が形成された板状の部材である。本実施形態では、連通路232及び第4突起部231は、各上流流路500及び下流流路600に対応して8つ形成されている。
シール部材230の上流流路部材210側には、第3突起部217が挿入される環状の第1凹部233が設けられている。第1凹部233は、第4突起部231に対向する位置に設けられている。
第4突起部231は、下流流路部材220側に突出しており、下流流路部材220の第1突起部241及び第2突起部253に対向する位置に設けられている。第4突起部231の頂面(下流流路部材220に対向する面)には、第1突起部241及び第2突起部253が挿入される第2凹部234が設けられている。
連通路232は、シール部材230をZ軸方向に貫通し、一端が第1凹部233に開口し、他端が第2凹部234に開口している。そして、第1凹部233に挿入された第3突起部217の先端面と、第2凹部234に挿入された第1突起部241及び第2突起部253の先端面との間で、第4突起部231がZ軸方向に所定の圧力が印加された状態で保持されている。したがって、上流流路500と下流流路600とは連通路232を介して密封された状態で連通されている。
下流流路部材220の第2収容部252側(下側)には、カバーヘッド400が取り付けられている。カバーヘッド400は、液体噴射ヘッド1が固定され、下流流路部材220に固定される部材であり、ノズル21を露出する第2露出開口部401が設けられている。本実施形態では、第2露出開口部401は、ノズルプレート20を露出する大きさ、つまり、コンプライアンス基板45の第1露出開口部45aと略同じ開口を有する。
カバーヘッド400は、コンプライアンス基板45の連通板15とは反対面側に接合されており、コンプライアンス部49の流路(共通液室100)とは反対側の空間を封止する。このようにコンプライアンス部49をカバーヘッド400で覆うことにより、コンプライアンス部49が媒体STに接触しても破壊されるのを抑制することができる。また、コンプライアンス部49に液体が付着するのを抑制して、カバーヘッド400の表面に付着した液体を例えばワイパーブレード等で払拭することができ、媒体STをカバーヘッド400に付着した液体等で汚すのを抑制することができる。なお、特に図示していないが、カバーヘッド400とコンプライアンス部49との間の空間は、大気開放されている。カバーヘッド400は、液体噴射ヘッド1毎に独立して設けられていてもよい。
<液体噴射装置の電気的構成について>
次に液体噴射装置700の電気的構成について説明する。
図11に示すように、液体噴射装置700は、液体噴射装置700の構成要素を統括的に制御する制御部22と、液体噴射装置700内の状況を監視する検出器群150と、を備える。
制御部22は、インターフェイス部151と、CPU152と、メモリー153と、ユニット制御回路154と、駆動回路120と、を有する。インターフェイス部151は、外部装置であるコンピューター157と液体噴射装置700との間でデータを送受信する。駆動回路120は、アクチュエーター130を駆動させる駆動信号を生成する。
CPU152は演算処理装置である。メモリー153は、CPU152のプログラムを格納する領域または作業領域等を確保する記憶装置であり、RAM、EEPROM等の記憶素子を有する。CPU152は、メモリー153に格納されているプログラムに従い、ユニット制御回路154を介して、乾燥ユニット719、搬送ユニット713、メンテナンスユニット710及び印刷ユニット720を制御する。
検出器群150には、例えば、キャリッジ723の移動状況を検出するリニアエンコーダー(図示略)、媒体STを検出する媒体検出センサー(図示略)及び圧力室12の残留振動を検出する回路である検出部156を含む。検出器群150は、検出結果をCPU152に出力する。制御部22は、検出部156の検出結果に基づいて、ノズル21の目詰まりを検出する。検出部156は、アクチュエーター130を構成する圧電素子を含んでもよい。
<メンテナンスユニットの構成について>
次に、メンテナンスユニット710の構成について説明する。
図12に示すように、メンテナンス領域RAは、液体受容機構751が設けられた受容領域FAと、ワイピング機構750が設けられた払拭領域WAと、キャップ機構752が設けられた吸引領域MAとを含む。メンテナンス領域RAの中で、受容領域FAは最も噴射領域PAに近い位置に配置され、吸引領域MAは噴射領域PAから最も離れた位置に配置される。
ワイピング機構750は、液体噴射ヘッド1を払拭する払拭部材750aと、ワイピングモーター753と、を有する。本実施形態の払拭部材750aは可動式であり、ワイピングモーター753の動力で液体噴射ヘッド1を払拭する。このような払拭によるメンテナンスをワイピングという。
ワイピング機構750は、ワイピングモーター753の動力によりY軸方向に延びる一対のレール758と、レール758に支持される可動式のケース759と、を備える。ケース759には、ワイピングモーター753の動力が図示しない動力伝達機構(例えばラック・アンド・ピニオン機構)により伝達され、その動力によりレール758上を往復移動する。
ケース759は、Y軸方向に所定の間隔で並ぶ、繰出軸760、繰出軸760、押圧ローラー765及び巻取軸761を、回転可能に支持する。ケース759は、押圧ローラー765の上方に開口部(図示略)を有する。
繰出軸760は未使用の布シート762が円筒状に巻かれた繰出ロール763を支持し、巻取軸761は使用済みの布シート762が形成する巻取ロール764を支持する。押圧ローラー765は、繰出ロール763と巻取ロール764の間の布シート762を押し上げ、開口部から突出させる。
ケース759は、ワイピングモーター753の正転により図12に示す退避位置からY軸方向に往路移動し、払拭位置に至る。その後、ケース759は、ワイピングモーター753の逆転により、払拭位置から退避位置に復路移動する。ケース759の往路移動の過程で、払拭部材750aは液体噴射ヘッド1を払拭する。ケース759は、図12に示す位置を折り返し位置として、Y軸方向の反対方向に往路移動し、Y軸方向に復路移動してもよい。
動力伝達機構は、ケース759の往路移動が終わったときに、ワイピングモーター753の駆動力の出力先を巻取軸761に切り換え、ワイピングモーター753が逆転駆動するときの動力によってケース759の復路移動と布シート762の巻き取りを行うとよい。ケース759は、一往復移動で1つの液体噴射ヘッド1を払拭し、二回の往復移動により2つの液体噴射ヘッド1A,1Bの払拭を完了する。
液体受容機構751は、液体噴射ヘッド1が噴射した液滴を受容する液体受容部751aと、フラッシングモーター754と、を有する。フラッシングとは、ノズル21の目詰まりを予防及び解消する目的で、液体噴射ヘッド1が液体を廃液として噴射するメンテナンスをいう。本実施形態の液体受容部751aはベルトであり、ベルトのフラッシングによるインク汚れ量が規定量を超えたとみなしうる時期に、フラッシングモーター754の動力によりベルトを移動させる。
液体受容機構751は、駆動ローラー766と、従動ローラー767と、両ローラー766,767に巻き掛けられた環状のベルト768と、を備える。ベルト768の外周面は、液体を受容する液体受容面769となる。ローラー766,767はX軸方向が軸方向となり、Y軸方向に離れて配置される。ベルト768は、一の液体噴射ヘッド1が有する全ノズル21が同時に噴射する廃液を受容可能な幅寸法(X軸方向の長さ)を有する。
液体受容機構751は、ベルト768の下方に、液体受容面769に保湿用液体を供給可能な保湿用液体供給部(図示略)と、液体受容面769に付着した廃液等を保湿状態で掻き取る液体掻取り部(図示略)とを備える。駆動ローラー766の回転によりベルト768が移動すると、液体受容面769が受容した廃液が液体掻取り部によってベルト768から掻き取られる。これにより、次に液滴を受容する液体受容面769が、廃液の付いていない部分に更新される。
キャップ機構752は、2つのキャップ部752aと、キャッピングモーター755と、を備える。2つのキャップ部752aは、キャッピングモーター755の動力で、キャッピング位置と離隔位置との間で移動する。キャッピング位置はキャップ部752aが液体噴射ヘッド1A,1Bに接触する位置であり、離隔位置はキャップ部752aが液体噴射ヘッド1A,1Bから離れる位置である。液体噴射ヘッド1A,1Bが図12に二点鎖線で示すようにホーム位置HPで停止したときに、キャップ部752aが離隔位置からキャッピング位置に移動すると、キャップ部752aはノズル21の開口を囲うように、液体噴射ヘッド1A,1Bに接触する。このように、キャップ部752aがノズル21の開口を囲うメンテナンスを、キャッピングといい、キャップ部752aが液体噴射ヘッド1A,1Bに接触した状態をキャッピング状態という。
1つのキャップ部752aは、4つの吸引用キャップ770を備える。吸引用キャップ770は、液体噴射ヘッド1に接触してノズル群(図3に示す2列ずつのノズル列NL)を囲む空間を形成する。吸引用キャップ770はチューブ772を介して吸引ポンプ773に接続される。キャッピング時に吸引ポンプ773を駆動すると、吸引用キャップ770内に負圧が生じ、液体噴射ヘッド1内が吸引される。この吸引により、液体噴射ヘッド1内の増粘した液体及び気泡が排出される。このように、吸引によりノズル21から液体を排出するメンテナンスを、吸引クリーニングという。
吸引クリーニングを行うと、ノズル21から排出された液体が液体噴射ヘッド1に付着する。そのため、吸引クリーニング後には、ワイピングにより、付着した液滴等を除去することが好ましい。また、ワイピングに伴って、液体噴射ヘッド1に付着していた異物及び気泡がノズル21内に押し込まれたりメニスカス(ノズル21内の気液界面)が破壊されたりして、噴射不良を生じるおそれがある。そのため、ワイピング後にはフラッシングを行って、混入した異物を排出したり、メニスカスを整えたりするとよい。
図13に示すように、キャップ装置800は、保湿用のキャップユニット801、802と、接続流路808と、接続流路808を通じてキャップユニット801、802に保湿液を供給可能な供給機構804と、を備える。図13において、接続流路808は、キャップユニット801,802にそれぞれ1本ずつ図示しているが、実際には、キャップ803の個数に対応するように4本ずつ設けられ、合計8本の接続流路808が保湿液貯留部805から延びている。
キャップユニット801、802は、液体噴射ヘッド1A,1Bがメンテナンス領域LAで停止したときに、ノズル21の開口を囲むように液体噴射ヘッド1A,1Bにそれぞれ接触する。このように、キャップユニット801、802がノズル21の開口を囲む空間を形成するメンテナンスを、保湿キャッピングという。保湿キャッピングは、キャッピングの一種である。保湿キャッピングにより、ノズル21の乾燥が抑制される。キャップユニット801,802は、保湿用のキャップ803を4つずつ備える。4つのキャップ803は、液体噴射ヘッド1の4つのノズル群に対応して、X軸方向に並ぶ。
図14に示すように、供給機構804は、保湿液を貯留可能な保湿液貯留部805と、保湿液貯留部805に供給する保湿液を収容可能な保湿液収容部806と、保湿液貯留部805と保湿液収容部806とを接続する供給流路807と、を備える。保湿液収容部806は保湿液貯留部805より上方に配置すると、保湿液収容部806から保湿液貯留部805に向けて、供給流路807を通じて保湿液を流下させることができる。
キャップ装置800は、キャップユニット801,802及び保湿液貯留部805を保持する保持体809と、保持体809を上下移動させる保湿用モーター811(図13参照)と、を備える。キャップ803及び保湿液貯留部805は、保持体809とともに上下動する。この上下動により、キャップ803は、液体噴射ヘッド1に接触するキャッピング位置と、液体噴射ヘッド1から離れる離隔位置とに移動する。すなわち、キャップ803は、液体噴射ヘッド1に接触してノズル21が開口する空間CKを形成するキャッピング状態と、液体噴射ヘッド1から離れる非キャッピング状態と、をとり得る。
供給機構804は、保湿液をキャップ803に供給する。保湿液は、空間CKを加湿するための加湿流体の一例である。供給流路807は、保湿液収容部806から保湿液貯留部805に向けて保湿液を供給するための流路である。供給流路807は、上流端が保湿液収容部806に接続され、下流端が保湿液貯留部805内に収容される。保湿液貯留部805の上部には、供給流路807を通すための孔813が設けられる。供給流路807の途中には、保湿液収容部806内の保湿液を保湿液貯留部805に向けて送出するポンプ812を配置させてもよい。ポンプ812は、液体噴射装置700の電源が投入されている間、一定の圧力で保湿液の送出を継続する。
供給機構804は、保湿液貯留部805と、保湿液収容部806と、供給流路807と、をそれぞれ別体に形成することにより、保湿液収容部806を交換することができる。この場合、保湿液収容部806を交換することによって、保湿液を補充することができる。供給機構804は、保湿液貯留部805、保湿液収容部806及び供給流路807が一体形成されていてもよい。この場合、保湿液収容部806に保湿液を補充するための補充口を設けるとよい。
保湿液貯留部805は、接続流路808の上流端が接続される導出口814と、保湿液収容部806から供給される保湿液を導入するための導入口805aと、保湿液貯留部805内の保湿液の液位の変動に伴って導入口805aを開閉するフロートバルブ815と、を有する。本実施形態において、導入口805aは、供給流路807の下流端である。
フロートバルブ815は、保湿液に浮かぶ浮力体816と、浮力体816が先端に固定された軸材817と、軸材817の基端を回動可能に保持する軸818と、浮力体816の上部に取り付けられる弁部819と、を有する。浮力体816は、保湿液貯留部805内において、保湿液の液位の変化に伴って、軸818を中心に弧を描くように移動する。
保湿液貯留部805内において保湿液の液位が上昇し、図14において一点鎖線で示す第1の位置h1まで達すると、浮力体816の浮力によって弁部819が導入口805aに押し付けられる。これにより、弁部819が供給流路807を閉じ、保湿液収容部806からの保湿液の供給が停止される。
保湿液の液位が第1の位置h1より下がると、弁部819が導入口805aから離れて、導入口805aを開く。このように、供給機構804は、保湿液貯留部805に貯留される保湿液の液位が第1の位置h1に保たれるように、保湿液収容部806から保湿液を供給させる。第1の位置h1は、液体噴射ヘッド1のノズル21よりも低い位置であることが好ましい。
保湿液貯留部805の上部には、保湿液貯留部805内を大気と連通させる連通部820が設けられる。連通部820は、例えば蛇行するように延長された細長い穴を有する。こうした連通部820は、保湿液貯留部805内の蒸発した保湿液が外部に放出されることを抑制しつつ、保湿液貯留部805内を大気に開放する。
接続流路808は、上流端が導出口814に接続され、下流端がキャップ803に接続される。保湿液貯留部805に貯留された保湿液は、水頭差によって、接続流路808を介してキャップ803内に供給される。
キャップ装置800は、接続流路808内からキャップ803内に延びるように配置される毛管部材824を備えることが好ましい。毛管部材824は、毛細管力を有する細い紐状の部材である。この場合、供給機構804は、保湿液の液位が毛管部材824内に位置するように、保湿液を供給することが好ましい。
毛管部材824は、例えば、数μm〜数百μmの連続気泡を持つスポンジ状の部材である。毛管部材824の材質としては、例えば、EVAまたはポリエチレンなどのポリオレフィンが好ましい。毛管部材824は、毛細管力により毛管部材824内を通過する保湿液をキャップ803に向けて供給する。毛管部材824を撥液性の高い物質で構成した場合には、毛管部材824の表面と接続流路808の内面との隙間に発生する毛細管力を利用し、毛管部材824の外側を経由させて保湿液をキャップ803に向けて供給することも可能である。この場合、接続流路808内の空気(気泡)は毛管部材824内を経由してキャップ803側に排出される。こうした毛管部材824を接続流路808内に配置すると、保湿液をキャップ803に向けて導きやすくなるため、空間CK内の保湿効果が高くなる。
保湿液貯留部805に貯留される保湿液は、接続流路808を通じて水頭差によりキャップ803に向けて供給される。そのため、接続流路808には、保湿液貯留部805内の保湿液の液位と同じ高さまで保湿液が満たされる。すなわち、接続流路808には、第1の位置h1にまで保湿液が流れ込む。第1の位置h1は、接続流路808内において、毛管部材824の下端部分が流入した保湿液に浸かるように設定するとよい。
第1の位置h1は、空間CKよりも低い位置に設定するとよい。これにより、接続流路808において第1の位置h1まで流入した保湿液が蒸発し、蒸発した保湿液により、ノズル21の乾燥が抑制される。なお、蒸発により保湿液の液位が下がった場合には、供給機構804が保湿液を供給するため、空間CK内の保湿効果が維持される。
キャップ装置800で使用される保湿液は、液体噴射装置700が使用する液体の主溶媒と同じにすることが好ましい。例えば、液体が水系レジンインクである場合、溶媒が水なので、保湿液として純水を使用するとよい。インクの溶媒が溶剤である場合は、保湿液としてインクと同じ溶媒を使用することが好ましい。また、保湿液として、純水に防腐剤を含有させた液体を用いてもよい。
保湿液に含有させる防腐剤は、インクに含有される防腐剤と同じであることが好ましく、例えば、芳香族ハロゲン化合物(例えば、PreventolCMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(例えば、PROXELGXL)などが挙げられる。防腐剤として、泡立ち難さの観点からPROXELを採用する場合には、保湿液に対する含有量を0.05質量パーセント以下にすることが好ましい。
<保湿用のキャップについて>
図14に示すように、保湿用のキャップ803は、液体噴射ヘッド1に接触したときに、ノズル21の開口を囲む空間CKを形成する凹部851を備える。
保湿用のキャップ803は、空間CKを加湿するための加湿流体が供給される加湿室852と、凹部851と加湿室852とを区画する隔壁853と、を備える。隔壁853は、凹部851及び加湿室852を構成する壁の一部であり、気体透過性(特に、水蒸気透過性)を有する。隔壁853は、少なくとも一部分が気体透過性を有する気体透過部であればよい。
接続流路808内から延びる毛管部材824の先端は、加湿室852内に配置される。接続流路808を通じて供給される保湿液は、毛管部材824に浸透して蒸発し、その蒸発した蒸気である加湿流体が加湿室852に充満する。このように加湿室852に供給された加湿流体は、隔壁853を透過して凹部851内に移動して、空間CKを加湿する。これにより、保湿キャッピング時には、ノズル21の乾燥が抑制される。
隔壁853は、加湿室852を構成する他の壁よりも、気体透過性が高いことが好ましい。例えば、隔壁853が加湿室852の天井を構成する場合、加湿室852の側壁や底壁を構成する壁は、隔壁853よりも気体透過性が低い材料(例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂または変性ポリフェニレンエーテル樹脂等)で構成したり、壁を厚くしたりすることが好ましい。そうすると、加湿室852内の加湿流体がキャップ803の外に逃げにくくなる。
凹部851の壁の一部は、ノズル21内に形成される気液界面(メニスカス)が壊れる圧力より小さい圧力で変形する可撓部853aからなることが好ましい。本実施形態では、隔壁853が可撓部853aとして機能する。なお、隔壁853の一部を、他の部分よりも撓み変位しやすい可撓部853aとしてもよい。例えば、隔壁853の中央部分を、その外縁部分よりも撓み変位しやすい断面波形のコルゲート形状の可撓部853aとしてもよい。
隔壁853(可撓部853a)が撓み変位すると、気温の変動等が生じた場合にも、空間CKに圧力変動が生じにくい。特に、可撓部853aが、メニスカスが壊れる圧力より小さい圧力で変形すると、圧力変動によるメニスカスの破壊が抑制される。
加湿室852は、隔壁853とは異なる壁(例えば底壁)に、大気に連通する大気連通部823を有することが好ましい。大気連通部823は、例えば、キャップ803の底部から下方に延びる大気連通管823aと、大気連通管823a内に形成されて加湿室852に開口する大気連通孔823bと、を有する。大気連通部823は、加湿室852の側壁に設けてもよい。
加湿室852は、隔壁853より下方に、加湿流体を導入するための導入部821を有するとよい。導入部821は、例えば、キャップ803の底部から下方に延びる導入管821aと、導入管821a内に形成されて加湿室852に開口する導入孔821bと、を有する。
接続流路808は導入部821に接続され、供給機構804は、接続流路808を通じて加湿流体となる保湿液を加湿室852に供給する。供給機構804は、加湿室852内に隔壁853が撓み変位する空間が確保されるように、保湿液を供給することが好ましい。加湿室852が保湿液で満たされると、隔壁853が撓み変位しにくくなる。そのため、加湿室852は保湿液で満たさず、少なくとも天井を構成する隔壁853の接する空間には、気体を存在させることが好ましい。
図15に示すように、保湿用のキャップ803は、凹部851を有するリップ体856と、リップ体856を保持する第1部材860と、第1部材860と組み合わされる第2部材870と、係止体880と、を備える。係止体880は、第1部材860と第2部材870を上下に組み合わせた状態で保持するアーム881と、アーム881の先端に設けられた係止爪882と、を有する。
図16に示すように、凹部851の内底面(隔壁853の上面)は、平面であってもよい。凹部851の内底面を平面にしておくと、液滴が垂れ落ちるなどして凹部851内が汚れたときに、清掃がしやすい。
図17に示すように、リップ体856は、隔壁853の外縁から上方に延びる環状の接触部857を有する。接触部857と隔壁853は、凹部851の壁を構成する。接触部857は、空間CK(図14参照)を形成する時にノズル面20a(図14参照)に接触する。リップ体856は、接触部857としての特性を有し、隔壁853としての気体透過性を有するエラストマー樹脂(例えばスチレン系エラストマー樹脂)で構成されている。
第1部材860は、係止爪882が引っかかる係合凹部861と、リップ体856を支える環状壁862と、第2部材870に係合する係合脚部863と、を有する。
第2部材870は、係合脚部863と係合する環状係合壁871と、大気連通部823と、導入部821と、環状係合壁871の内側から上方に突出する内壁872と、を有する。
図18に示すように、内壁872の先端を隔壁853の下方に配置すると、隔壁853の上面が清掃されるときに、隔壁853を内壁872で支えることができる。
係合脚部863は、下方に開口する凹部863aを有して、凹部863a内に環状係合壁871が入るようにするとよい。第1部材860と第2部材870は、加湿室852を囲み形成する。凹部863aと環状係合壁871の間に、環状の弾性体からなるシール部材885を介装して、第1部材860と第2部材870の間に隙間が生じないようにしてもよい。
図19に示すように、加湿室852内には、毛管部材824を保持する保持部材886を収容してもよい。保持部材886は、例えば、毛管部材824を通す複数の通し孔887を有する。この場合、通し孔887に毛管部材824を通すと、毛管部材824の先端を加湿室852内で固定することができる。通し孔887は、大気連通孔823bから上方に離れた位置に配置すると、毛管部材824を大気連通孔823bから離して、加湿流体の大気連通孔823bからの流出を抑制できる。保持部材886を配置する場合、内壁872に保持部材886を係止するための係止突部873を設けるとよい。
次に、本実施形態のキャップ装置800及び液体噴射装置700の作用について説明する。
保湿キャッピング時に空間CKが密閉状態になると、環境温度が変動したときなどに空間CK内の圧力が変動し、ノズル21内の気液界面が壊れることがある。その点、キャップ803は可撓性を有する隔壁853を有するので、圧力変動に応じて隔壁853が撓み変位することによって、ノズル21内の気液界面の破壊が抑制される。
本実施形態のキャップ装置800及び液体噴射装置700によれば、以下の効果を得ることができる。
(1−1)隔壁853は、加湿室852内の加湿流体が空間CKに透過することを許容するので、加湿流体によって空間CKに開口するノズル21を保湿することができる。ノズル21が開口する空間CK内において圧力変動が生じると、凹部851の壁を構成する可撓部853aが撓み変位するので、ノズル21内に形成される気液界面の破壊が抑制される。このように、可撓部853aの変位により、ノズル21を保湿するための空間CKの圧力変動を低減することができる。
(1−2)隔壁853の気体透過性を、加湿室852を構成する他の壁より高くすると、隔壁853を通じて加湿室852内の加湿流体を凹部851内に導入することができる。また、加湿室852を構成する他の壁から外部空間への加湿流体の透過を抑制することができる。
(1−3)隔壁853の撓み変位によって、ノズル21を保湿するための空間CK内における圧力変動を低減することができる。
(1−4)凹部851の内底面を平面にすると、凹部851内の清掃がしやすい。
(1−5)加湿室852に大気連通部823を設けると、大気連通部823を通じて気体が流通することにより、加湿室852内の圧力変動を低減することができる。これにより、加湿室852内の圧力変動に起因する隔壁853の撓み変位が抑制される。その結果、隔壁853の撓み変位による凹部851内の圧力変動を抑制することができる。
(1−6)隔壁853が撓み変位することにより、加湿室852内の圧力変動を低減することができる。
(1−7)保湿液を毛管部材824に浸透させることにより、保湿液の泡立ちを抑制できる。
(1−8)保湿液貯留部805内の保湿液の液位をフロートバルブ815によって一定に保つことにより、接続流路808を通じて供給する保湿液の液位を一定に保つことができる。
(第2実施形態)
本実施形態の液体噴射装置700は、図20に示すように、キャリッジ723に保持された8つの液体噴射ヘッド1を備える。8つの液体噴射ヘッド1は、X軸方向に並ぶ。8つの液体噴射ヘッド1のうち、最もホーム位置HP(図2参照)に近い位置にある液体噴射ヘッド1は、インクの硬化を促進するための処理液(硬化剤)を噴射し、残り7つの液体噴射ヘッド1は、インクを噴射する。処理液を噴射する液体噴射ヘッド1は、他の液体噴射ヘッド1よりも、Y軸方向にずれた位置に配置される。
液体噴射ヘッド1は、第1実施形態と同様に、ノズル21が開口するノズル面20aを有して、媒体ST(図1参照)に対して液体を噴射する噴射領域PA(図2参照)と、キャップ803が液体噴射ヘッド1に接触するメンテナンス領域LAとの間を往復移動する。
液体噴射ヘッド1は、スタッガー配置された4つのノズル群を有する。4つのノズル群は、Y軸方向に2つが並び、X軸方向に2つが並ぶ。X軸方向に並ぶノズル群は、Y軸方向における位置がずれている。1つのノズル群は、1または複数のノズル列NLからなる。
本実施形態のキャップ装置800は、複数の液体噴射ヘッド1に個別に対応する位置に配置される複数のキャップユニット810と、複数のキャップユニット810を支持する支持板830と、支持板830の下方に配置される支持台831(図24参照)と、支持板830を昇降移動させる移動機構832と、を備える。
図21に示すように、キャップユニット810は、複数のノズル群に個別に対応する複数(本実施形態では4つ)のキャップ803と、キャップカバー840と、複数のキャップ803及びキャップカバー840を保持するキャップ保持部833と、キャップカバー840を開閉させる開閉機構834と、を備える。
図22に示すように、キャップカバー840は、互いに反対方向に回動する第1カバー840Fと第2カバー840Sとを有する。第1カバー840Fと第2カバー840Sは、同じ形状にすることが好ましい。
図23に示すように、キャップ保持部833は、Y軸方向に突出する2つの回動軸833aを有する。図22に示すように、キャップカバー840は、回動軸833aと係合する係合アーム840aと、回動軸833aの周囲に配置されるギア840bと、を有する。回動軸833aは、ノズル面20a(図20参照)に沿う方向に延びるとともに、液体噴射ヘッド1(図20参照)の往復移動経路(X軸)と交差する。
図22に示すように、第1カバー840Fのギア840bと第2カバー840Sのギア840bは互いに噛合する。第1カバー840Fと第2カバー840Sは、回動軸833aを中心に、互いに反対方向に回動する。
図24に示すように、第1カバー840Fは、ギア840bの内周側に位置するピニオン840cを有する。
液体噴射ヘッド1に接触して空間CK(図19参照)を形成するときのキャップ803の位置をキャッピング位置(図24に示す位置)といい、キャップ803が液体噴射ヘッド1から離れる位置を離隔位置(図25に示す位置)という。キャップ803は、キャップ保持部833の上方への移動に伴って離隔位置からキャッピング位置に移動し、キャップ保持部833の下方への移動に伴ってキャッピング位置から離隔位置に移動する。キャップ保持部833は、支持板830の昇降移動に伴って、上下に移動する。
キャップカバー840は、キャップ803がキャッピング位置にあるときは退避位置(図21及び図25に示す位置)に配置され、キャップ803が離隔位置にあるときに、カバー位置(図22及び図24に示す位置)に配置される。キャップカバー840は、キャップ803が液体噴射ヘッド1から離れた離隔位置にあるときに、カバー位置において凹部851をカバーする。退避位置は、キャップカバー840がキャップ803の上方から退避した位置である。キャップ保持部833は、キャップカバー840を、カバー位置と退避位置との間で移動可能に支持する。
図24に示す位置からキャップ保持部833が下方に移動するときに、キャップ803はキャッピング位置から離隔位置に移動し、キャップカバー840は退避位置からカバー位置に移動する。
図25に示す位置からキャップ保持部833が上方に移動するときに、キャップ803は離隔位置からキャッピング位置に移動し、キャップカバー840はカバー位置から退避位置に移動する。
図25に示すように、開閉機構834は、ピニオン840cに噛合する歯部835aを有する可動部材835と、可動部材835を案内するガイド部839と、付勢部材836と、弾性部材837と、係合部材838と、を有する。ガイド部839は、支持板830に固定される。弾性部材837は、支持台831と係合部材838との間に配置される。係合部材838は、弾性部材837を介して上下移動可能な態様で支持台831に支持されている。可動部材835の下端には、平面視において係合部材838と重なる位置に配置される係合部835bが設けられる。
支持板830はキャップ保持部833を支持し、支持台831は支持板830を介してキャップ保持部833を上下移動可能に支持する。キャップ保持部833が支持板830とともに下方に移動する途中で、係合部材838は可動部材835の係合部835bと係合する。
可動部材835は、歯部835aが第1カバー840Fのピニオン840cと噛合しており、ラック・アンド・ピニオン機構のラックとして機能する。第1カバー840Fのピニオン840cが図24に示すように歯部835aの上側部分と噛合しているとき、キャップカバー840は退避位置にある。第1カバー840Fのピニオン840cが図25に示すように歯部835aの下側部分と噛合しているとき、キャップカバー840はカバー位置にある。
可動部材835は、ガイド部839により横方向への移動が規制されることにより、支持板830に対して上下移動可能に保持される。可動部材835は、支持板830が下方に移動するときに、キャップ保持部833とともに下方に移動する。
付勢部材836は、上端が支持板830に係止され、下端が可動部材835に係止される。付勢部材836は例えばコイルばねであり、可動部材835を支持板830に対して下方に付勢する。このように、付勢部材836は、可動部材835を介して、キャップカバー840を図24に示す退避位置に向けて付勢する。
弾性部材837は、上端が係合部材838に係止され、下端が支持台831に係止される。弾性部材837は、例えばコイルばねであり、支持台831上で係合部材838を支えている。付勢部材836及び弾性部材837がともにコイルばねである場合、両者が互いに押し合うと、付勢部材836の方が弾性部材837よりも先に縮む。
支持板830とともにキャップ保持部833及び可動部材835が下方に移動するとき、その移動の途中で、可動部材835の係合部835bが係合部材838と係合する。すると、可動部材835は、係合部材838から反力を受けることによってキャップ保持部833に対して相対移動する。すなわち、可動部材835の移動が規制された状態でキャップ保持部833が下降する。
このように、可動部材835は係合部材838と係合したときにキャップ保持部833に対して相対移動する。可動部材835が図24に示す位置から支持板830に対して上方に相対移動すると、ピニオン840cとともにキャップカバー840が回転し、キャップカバー840が退避位置からカバー位置に移動する。このように、可動部材835は、キャップ保持部833に対して相対移動したときに、キャップカバー840を移動させる。
弾性部材837は、係合部材838が可動部材835から受ける力が設定値より大きくなった場合に弾性変形する。この設定値は、付勢部材836の付勢力よりも大きい。開閉機構834が弾性部材837を備えない場合には、可動部材835を支持台831に接触させて付勢部材836を弾性変形させることができる。ただし、弾性部材837を介して可動部材835の移動を規制した方が、可動部材835または係合部材838の大きさや配置に製造誤差がある場合にも、その誤差を弾性部材837の弾性変形によって吸収し、キャップカバー840を正確に移動させることができる。
図25に示す位置から、支持板830とともにキャップ保持部833及び可動部材835が上方に移動し始めると、可動部材835が支持板830に対して下方に相対移動する。すると、ピニオン840cとともにキャップカバー840が回転し、キャップカバー840がカバー位置から退避位置に移動する。
図26に示すように、キャップカバー840は、カバー位置にあるときに、凹部851の上方に位置する覆い部841と、覆い部841からキャップ803の接触部857の上端を囲むように下方に延びる囲い部842と、を有する。このように、キャップカバー840の下端は、キャップカバー840の上端よりも下方に位置することが好ましい。
カバー位置にあるキャップカバー840は、覆い部841と接触部857との間に隙間がある状態で、凹部851の上方に配置される。第1カバー840F及び第2カバー840Sが有する覆い部841は、カバー位置にあるときに、凹部851の上方に位置するとともに互いに接触する。
図26では、囲い部842の下端は、キャップ保持部833の上端より上方にあるが、囲い部842の先端を下方に延ばし、囲い部842の下端をキャップ保持部833の上端より下方に配置してもよい。キャップカバー840でキャップ803をより低い位置まで覆うと、キャップカバー840がキャップ803から離れていても、キャップ803の乾燥が抑制される。
特に、空気より軽い水蒸気を加湿流体とする場合、加湿室852からキャップ保持部833の内部に拡散した水蒸気は、キャップ保持部833とキャップ803との間の隙間から上方に移動する。その水蒸気を、囲い部842の下端より上方となるキャップカバー840の内側空間に留めると、キャップ803の外側空間も加湿することができる。そうすると、キャップ803の乾燥を効果的に抑制することができる。
図27に示すように、キャップカバー840の下端は、大気連通部823の下端側開口より上方に位置するが、囲い部842の先端を下方に延ばし、囲い部842の下端を大気連通部823の下端より下方に配置してもよい。あるいは、図27に示すように、大気連通部823の下端を、キャップ保持部833の側壁で囲んでもよい。このようにすると、加湿室852から大気連通部823を通じて加湿流体が流出しにくくなる。
特に、空気より軽い水蒸気を加湿流体とする場合、加湿室852から外部空間に拡散した水蒸気が、キャップ保持部833の側壁の下端より上方となるキャップ保持部833の内側空間に留まると、大気連通部823の下端を含む空間も加湿することができる。そのため、加湿室852から大気連通部823を通じて加湿流体が拡散しにくくなる。
次に、本実施形態のキャップ装置800及び液体噴射装置700の作用について説明する。
保湿用のキャップ803が液体噴射ヘッド1から離れているとき、凹部851は上方に向けて開口している。そのため、液滴または塵埃などの異物が凹部851の中に入ったり、接触部857に付着したりすることがある。このように、異物がキャップ803に付くと、キャッピング時に液体噴射ヘッド1との間に隙間ができて、ノズル21を適切に保湿できないことがある。
保湿が不十分になってノズル21が乾燥すると、ノズル21が詰まって噴射不良が生じたり、噴射不良を解消するためのクリーニングを行うことになって液体の消費量が増えたりする。その点、キャップ803が液体噴射ヘッド1から離れているときにキャップカバー840でキャップ803を覆うと、キャップ803に対する異物の付着が抑制される。
本実施形態のキャップ装置800及び液体噴射装置700によれば、以下の効果を得ることができる。
(2−1)キャップ803が液体噴射ヘッド1から離れているときに、キャップカバー840がキャップ803の凹部851を覆うので、キャップ803に異物が付きにくい。したがって、キャップ803が液体噴射ヘッド1に接触した時には、ノズル21を効率よく保湿できる。
(2−2)キャップカバー840がキャップ803に接触すると、キャップ803に付いていた異物がキャップカバー840に付着することがある。キャップカバー840に異物が付着すると、その異物がキャップ803に再度付着し、キャップ803を汚すことがある。上記実施形態によれば、キャップカバー840はキャップ803に接触せずにキャップ803を覆うので、キャップ803に付いた異物がキャップカバー840に付きにくい。そのため、キャップカバー840に付いた異物がキャップ803に再付着しにくい。
(2−3)供給機構804から供給される加湿流体によって、ノズル21が開口する空間CKを加湿することができる。これにより、ノズル21の乾燥を抑制することができる。
(2−4)キャップカバー840は、覆い部841により凹部851内に異物が入るのを抑制することができるし、囲い部842により凹部851内からの保湿成分の拡散を抑制することができる。
(2−5)キャップ保持部833がキャップ803及びキャップカバー840を保持するので、キャップカバー840をキャップ803とともに移動させることができる。
(2−6)付勢部材836の付勢力によって、キャップカバー840を退避位置に安定して配置することができる。
(2−7)キャップ保持部833の下方への移動に連動して、キャップ803をキャッピング位置から離隔位置に移動させるときに、キャップカバー840を退避位置からカバー位置に移動させることができる。これにより、キャッピングを解除した後、速やかにキャップカバー840でキャップ803を覆うことができる。
(2−8)可動部材835は、係合部材838を介して弾性部材837の付勢力を受けることによって、キャップカバー840を移動させる。そのため、可動部材835または係合部材838の大きさや配置に製造誤差がある場合にも、その誤差を弾性部材837の弾性変形によって吸収し、キャップカバー840を正確に移動させることができる。
(2−9)キャップカバー840は、液体噴射ヘッド1の往復移動経路と交差する回動軸833aを中心に回動するので、液体噴射ヘッド1と接触したとしても、退避位置に移動しやすい。そのため、接触によるキャップカバー840及び液体噴射ヘッド1のダメージを低減できる。
(2−10)キャップカバー840は、第1カバー840Fと第2カバー840Sに分割された構成を有するので、キャップカバー840の移動距離を短くすることができる。
(変更例)
上記実施形態は、以下に示す変更例のように変更してもよい。上記実施形態に含まれる構成は、下記変更例に含まれる構成と任意に組み合わせることができる。下記変更例に含まれる構成同士は、任意に組み合わせることができる。
・図28及び図29に示す第1変更例のキャップ803をキャップ装置800が備えてもよい。キャップカバー840は第1変更例のキャップ803をカバーすることができる。第1変更例のキャップ803は、隔壁853及び加湿室852を有さず、保湿キャッピング時にノズル21と対向するキャップ803の内底面822と、内底面822に開口する導入部821と、大気連通部823と、を有する。内底面822及び接触部857は凹部851を形成する。接続流路808(図14参照)の下流端は、導入部821に接続する。大気連通部823は、キャップ803の内底面822に設けられ、保湿キャッピングにより形成される空間CKを大気に開放する。
毛管部材824は、キャップ803の内底面822において、大気連通部823が設けられている側とは反対側に屈曲するとよい。この場合、キャップ803には、毛管部材824を上方から押さえる板部材825を、内底面822に沿って配置することが好ましい。毛管部材824を板部材825で押さえると、毛管部材824をキャップ803の内底面822に沿わせることができる。
大気連通部823は、内底面822を貫通する貫通孔826と、貫通孔826に圧入されるピン827と、により構成するとよい。ピン827の外周には、螺旋状に延びる細い溝828を形成するとよい。
図29に示すように、貫通孔826の内周面とピン827の外周面との間に螺旋状の隙間(溝828)を形成すると、この隙間を介して、空間CK(図28参照)を大気に連通させることができる。ピン827の内底面822に位置する先端は、板部材825によって押さえるとよい。また、ピン327の基端は、ワッシャー829で留めるとよい。大気連通部823は、保湿キャッピング時に、空間CK内で蒸発した保湿液が外部に出ることを抑制しつつ、キャップ803の空間CK(図28参照)を大気に開放する。
・図30に示す第2変更例のように、隔壁853は、凹部851の側壁に設けてもよい。この場合、凹部851と加湿室852は横並びになってもよい。
・図30に示す第2変更例のように、キャップ803において、気体を透過する隔壁853と可撓部853aは、別の部分に設けてもよい。この場合、隔壁853の気体透過性を他の部分よりも高くするとよい。
・隔壁853と可撓部853aとを別の部分に設ける場合、例えば、凹部851の側壁から連通管(図示略)で接続された圧力ダンパー室(図示略)を設け、この圧力ダンパー室を可撓部853aとしてもよい。この場合、圧力ダンパー室の気体透過性は低くてもよいし、気体透過性を有する隔壁853の可撓性は低くてもよい。
・キャップ装置800は、キャップ803がキャッピングをしていないときに、加湿室852につながる大気連通部823の大気との連通を遮断可能な開閉弁を備えてもよい。
・図30に示す第2変更例のように、キャップ803の加湿室852の下方に、保湿液を溜める貯留部854を設けてもよい。
・供給機構804は、貯留部854に溜める保湿液の液面が加湿室852の大気連通部823よりも下方に位置するように、保湿液を供給してもよい。
・隔壁853を接触部857と一体形成する場合、リップ体856は、例えばエラストマー樹脂で構成することができる。
・隔壁853は、接触部857とは別体として形成してもよい。この場合、隔壁853は、例えば、シリコーンゴム等の弾性体で構成し、加湿室852の壁(天井部分など)にするとよい。シリコーンゴムは、気体透過性(特に水蒸気透過性)が高く、撥液性を有するため、隔壁853の材料として適している。この場合、隔壁853は、加湿室852の側壁を構成する剛性部材に対して、着脱可能に被せる態様にしてもよい。
・複数のキャップ803が個別に上下方向に移動可能とすることで、保湿液の液面を第1の位置h1と第2の位置h2とで変位させる構成としてもよい。この構成によれば、キャップ803ごとに保湿液貯留部805に対する位置を変えられる。
・第2実施形態において、キャップ装置800及びキャリッジ723に保持された8つの液体噴射ヘッド1は、図20のZ軸を回転軸として、180度回転した配置としてもよい。この場合、8つの液体噴射ヘッド1のうち、最もホーム位置HPから離れた位置にある液体噴射ヘッド1が、インクの硬化を促進するための処理液(硬化剤)を噴射し、残り7つの液体噴射ヘッド1が、インクを噴射する。処理液を噴射する液体噴射ヘッド1は、他の液体噴射ヘッド1よりも、搬送方向上流にずれた位置に配置される。
・キャップ装置800は、保湿液貯留部805に貯留される保湿液の液面の位置が第1の位置h1と第2の位置h2とで変位される際に、保湿液収容部806から保湿液貯留部805への保湿液の供給が伴わない構成としてもよい。キャップ803と保湿液貯留部805との上下方向における位置関係を変えるだけで、保湿液の液面を変位させることは可能である。
・保湿液貯留部805がキャップ803に対して上下方向に移動可能な構成としてもよい。
・フロートバルブ815に替えて、供給流路807を開閉する電磁弁を設けてもよい。この場合、保湿液貯留部805に貯留される保湿液の液面が第1の位置h1となるように、電磁弁を開閉させるとよい。
・キャップ装置800は、別途制御部を備えていてもよい。この場合、キャップ装置800の保湿用モーター811やポンプ812などの駆動は、キャップ装置800が備える制御部により制御される。
・毛管部材824は、接続流路808内においてその全長に亘って設けられていてもよい。
・毛管部材824は、接続流路808内に配置できるものであれば円筒状の部材でなくてもよい。例えば断面多角形状の帯状の部材でもよいし、円管状の部材でもよい。
・供給機構804は、水頭差のみによって保湿液収容部806から保湿液貯留部805に保湿液を供給してもよい。
・供給機構804は、ポンプ812による圧力のみで保湿液収容部806から保湿液貯留部805に向けて保湿液を供給する構成としてもよい。この場合、保湿液貯留部805と保湿液収容部806との水頭差を考慮しなくてもよいため、保湿液収容部806の配置の自由度が増す。この変更例においては、保湿液貯留部805に貯留される保湿液の液面が第1の位置h1となるように、ポンプ812の駆動が制御される。
・導入口805aは、保湿液貯留部805の内壁に開口する構成にしてもよい。
・大気連通部823は、キャップ803の側壁部分に設けられていてもよい。この変更例によれば、保湿液が大気連通部823に達しにくい。
・供給機構804は、キャップ803ごとに複数設けられていてもよい。
・接続流路808の途中位置に、接続流路808を開閉可能な開閉弁を設けてもよい。この変更例によれば、キャップ装置800を持ち運ぶ際などに開閉弁を閉じることで、衝撃等によって保湿液がキャップ803を通じて零れてしまう虞を低減できる。
・キャップ803は、液体噴射ヘッド1のノズル21を全てまとめてキャッピング可能に設けられていてもよい。
・キャップ機構752は、吸引用キャップ770をカバーするキャップカバー840を備えてもよい。
・メンテナンス領域LAにおけるキャップ装置800と噴射領域PAとの間に、液体噴射ヘッド1を払拭するワイパーを別途設けてもよい。
・供給機構804は、キャップ803内に、加湿流体としての蒸気を供給してもよい。
・キャップ803がキャッピングしているときに、加湿室852に加湿流体としての蒸気を供給して、空間CK内を加圧してもよい。この場合、ノズル21内に形成される気液界面が壊れない程度に加圧することが好ましい。
・液体噴射装置700がキャリッジ723を備えず、媒体STの幅全体と対応した長尺状の液体噴射ヘッド1を備える、いわゆるフルラインタイプの液体噴射装置に変更してもよい。
・液体噴射ヘッド1が噴射する液体はインクに限らず、例えば機能材料の粒子が液体に分散又は混合されてなる液状体などであってもよい。例えば、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む液状体を噴射して記録を行う構成にしてもよい。
・媒体STは用紙に限らず、プラスチックフィルムまたは薄い板材などでもよいし、捺染装置などに用いられる布帛でもよい。媒体STはTシャツなど、任意の形状の衣類等でもよいし、食器または文具のような任意の形状の立体物でもよい。
<液体噴射ヘッドが噴射するインクについて>
液体噴射装置700が噴射する液体としてのインクは、組成上、樹脂を含有し、1気圧下での沸点が290℃のグリセリンを実質的に含有しない。インクがグリセリンを実質的に含むと、インクの乾燥性が大幅に低下してしまう。その結果、種々の媒体、特にインク非吸収性又は低吸収性の媒体において、画像の濃淡ムラが目立つだけではなく、インクの定着性も得られない。さらに、インクは、1気圧下相当での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類(上記グリセリンを除く)を実質的に含まないことが好ましい。
本明細書における「実質的に含まない」とは、添加する意義を十分に発揮する量以上含有させないことを意味する。これを定量的に言えば、グリセリンを、インクの総質量(100質量%)に対して、1.0質量%以上含まないことが好ましく、0.5質量%以上含まないことがより好ましく、0.1質量%以上含まないことがさらに好ましく、0.05質量%以上含まないことがさらにより好ましく、0.01質量%以上含まないことが特に好ましい。そして、グリセリンを0.001質量%以上含まないことが最も好ましい。
次に、上記インクに含まれるか、又は含まれ得る添加剤(成分)について説明する。
[1.色材]
インクは、色材を含んでもよい。上記色材は、顔料及び染料から選択される。
[1−1.顔料]
色材として顔料を用いることにより、インクの耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、酸化鉄、酸化チタン、及び酸化シリカが挙げられる。
有機顔料としては、特に限定されないが、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、及びアゾ系顔料が挙げられる。有機顔料の具体例としては、下記のものが挙げられる。
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15:34、16、18、22、60、65、66、C.I.バットブルー4、60が挙げられる。中でも、C.I.ピグメントブルー15:3及び15:4のいずれかが好ましい。
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、254、264、C.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。中でも、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される一種以上が好ましい。
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、155、167、172、180、185、213が挙げられる。中でもC.I.ピグメントイエロー74、155、及び213からなる群から選択される一種以上が好ましい。
なお、グリーンインクやオレンジインク等、上記以外の色のインクに用いられる顔料としては、従来公知のものが挙げられる。
顔料の平均粒子径は、ノズル21における目詰まりを抑制することができ、かつ、噴射安定性が一層良好となるため、250nm以下であることが好ましい。なお、本明細書における平均粒子径は、体積基準のものである。測定方法としては、例えば、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、日機装社(Nikkiso Co., Ltd.)製のマイクロトラックUPA)が挙げられる。
[1−2.染料]
色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。色材の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、0.4〜12質量%であることが好ましく、2質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。
[2.樹脂]
インクは、樹脂を含有する。インクが樹脂を含有することにより、媒体上に樹脂被膜が形成され、結果としてインクを媒体上に十分定着させて、主に画像の耐擦性を良好にする効果を発揮する。このため、樹脂エマルジョンは熱可塑性樹脂であることが好ましい。樹脂の熱変形温度は、ノズル21の目詰まりを起こしにくく、媒体の耐擦性を持たせられるという有利な効果が得られるため、40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。
ここで、本明細書における「熱変形温度」は、ガラス転移温度(Tg)又は最低造膜温度(Minimum Film forming Temperature;MFT)で表された温度値とする。つまり、「熱変形温度が40℃以上」とは、Tg又はMFTのいずれかが40℃以上であればよいことを意味する。なお、MFTの方がTgよりも樹脂の再分散性の優劣を把握しやすいため、当該熱変形温度はMFTで表された温度値であることが好ましい。樹脂の再分散性に優れたインクであると、インクが固着しないためノズル21が目詰まりしにくくなる。
上記熱可塑性樹脂の具体例として、特に限定されないが、ポリ(メタ)アクリル酸エステル又はその共重合体、ポリアクリロニトリル又はその共重合体、ポリシアノアクリレート、ポリアクリルアミド、及びポリ(メタ)アクリル酸などの(メタ)アクリル系重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、及びポリスチレン、並びにそれらの共重合体、並びに石油樹脂、クマロン・インデン樹脂、及びテルペン樹脂などのポリオレフィン系重合体、ポリ酢酸ビニル又はその共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、及びポリビニルエーテルなどの酢酸ビニル系又はビニルアルコール系重合体、ポリ塩化ビニル又はその共重合体、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、及びフッ素ゴムなどの含ハロゲン系重合体、ポリビニルカルバゾール、ポリビニルピロリドン又はその共重合体、ポリビニルピリジン、及びポリビニルイミダゾールなどの含窒素ビニル系重合体、ポリブタジエン又はその共重合体、ポリクロロプレン、及びポリイソプレン(ブチルゴム)などのジエン系重合体、並びにその他の開環重合型樹脂、縮合重合型樹脂、及び天然高分子樹脂が挙げられる。
樹脂の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、1〜30質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。含有量が上記範囲内である場合、形成される上塗り画像の光沢性及び耐擦性を一層優れたものとすることができる。また、上記インクに含有させてもよい樹脂としては、例えば、樹脂分散剤、樹脂エマルジョン、及びワックス等が挙げられる。
[2−1.樹脂エマルジョン]
インクは、樹脂エマルジョンを含んでもよい。樹脂エマルジョンは、媒体が加熱される際、好ましくはワックス(エマルジョン)と共に樹脂被膜を形成することで、インクを媒体上に十分定着させて画像の耐擦性を良好にする効果を発揮する。上記の効果により樹脂エマルジョンを含有するインクで媒体を印刷した場合、インクは特にインク非吸収性又は低吸収性の媒体上で耐擦性に優れたものとなる。
また、バインダーとして機能する樹脂エマルジョンは、インク中にエマルジョン状態で含有される。バインダーとして機能する樹脂をエマルジョン状態でインク中に含有させることにより、インクの粘度をインクジェット記録方式において適正な範囲に調整しやすく、かつ、インクの保存安定性及び噴射安定性を高めることができる。
樹脂エマルジョンとしては、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、及び塩化ビニリデンの単独重合体又は共重合体、フッ素樹脂、及び天然樹脂が挙げられる。中でも、メタアクリル系樹脂及びスチレン−メタアクリル酸共重合体系樹脂のいずれかが好ましく、アクリル系樹脂及びスチレン−アクリル酸共重合体系樹脂のいずれかがより好ましく、スチレン−アクリル酸共重合体系樹脂がより一層好ましい。なお、上記の共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、及びグラフト共重合体のうちいずれの形態であってもよい。
樹脂エマルジョンの平均粒子径は、インクの保存安定性及び噴射安定性を一層良好にするため、5nm〜400nmの範囲であることが好ましく、20nm〜300nmの範囲であることがより好ましい。樹脂の中でも樹脂エマルジョンの含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、0.5〜7質量%の範囲であることが好ましい。含有量が上記範囲内であると、固形分濃度を低くすることができるため、噴射安定性を一層良好にすることができる。
[2−2.ワックス]
インクは、ワックスを含んでもよい。インクがワックスを含むことにより、インク非吸収性及び低吸収性の媒体上でのインクの定着性がより優れたものとなる。ワックスは、中でもエマルジョンタイプのものがより好ましい。上記ワックスとしては、以下に限定されないが、例えば、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、及びポリオレフィンワックスが挙げられ、中でも後述するポリエチレンワックスが好ましい。なお、本明細書において、「ワックス」とは、主に、後述する界面活性剤を使用して、固体ワックス粒子を水中に分散させたものを意味する。
上記インクがポリエチレンワックスを含むことにより、インクの耐擦性を優れたものとすることができる。ポリエチレンワックスの平均粒子径は、インクの保存安定性及び噴射安定性を一層良好にするため、5nm〜400nmの範囲であることが好ましく、50nm〜200nmの範囲であることがより好ましい。
ポリエチレンワックスの含有量(固形分換算)は、互いに独立して、インクの総質量(100質量%)に対して、0.1〜3質量%の範囲であることが好ましく、0.3〜3質量%の範囲であることがより好ましく、0.3〜1.5質量%の範囲であることがさらに好ましい。含有量が上記範囲内であると、インク非吸収性又は低吸収性の媒体上においてもインクを良好に固化または定着させることができ、かつ、インクの保存安定性及び噴射安定性を一層優れたものとすることができる。
[3.界面活性剤]
インクは、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤として、以下に限定されないが、例えばノニオン系界面活性剤が挙げられる。ノニオン系界面活性剤は、媒体上でインクを均一に拡げる作用がある。このため、ノニオン系界面活性剤を含むインクを用いて印刷を行った場合、滲みの殆ど無い高精細な画像が得られる。このようなノニオン系界面活性剤としては、以下に限定されないが、例えば、シリコン系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル系、多環フェニルエーテル系、ソルビタン誘導体、及びフッ素系の界面活性剤が挙げられ、中でもシリコン系界面活性剤が好ましい。
界面活性剤の含有量は、インクの保存安定性及び噴射安定性が一層良好なものとなるため、インクの総質量(100質量%)に対して、0.1質量%以上3質量%以下の範囲であることが好ましい。
[4.有機溶剤]
インクは、公知の揮発性の水溶性有機溶剤を含んでもよい。ただし、上述のとおり、インクは、有機溶剤の一種であるグリセリン(1気圧下での沸点が290℃)を実質的に含まず、また1気圧下相当での沸点が280℃以上のアルキルポリオール類(上記グリセリンを除く)を実質的に含まないことが好ましい。
[5.非プロトン性極性溶媒]
インクは、非プロトン性極性溶媒を含んでもよい。インクに非プロトン性極性溶媒を含有することにより、インクに含まれる上述の樹脂粒子が溶解するため、印刷の際にノズル21の目詰まりを効果的に抑制することができる。また、塩化ビニル等の媒体を溶解させる性質があるので、画像の密着性が向上する。
非プロトン性極性溶媒については、特に限定されないが、ピロリドン類、ラクトン類、スルホキシド類、イミダゾリジノン類、スルホラン類、尿素誘導体、ジアルキルアミド類、環状エーテル類、アミドエーテル類から選択される一種以上を含むことが好ましい。ピロリドン類の代表例としては、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンがあり、ラクトン類の代表例としては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンがあり、スルホキシド類の代表例としてはジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシドがある。
イミダゾリジノン類の代表例としては、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンがあり、スルホラン類の代表例としては、スルホラン、ジメチルスルホランがあり、尿素誘導体の代表例としては、ジメチル尿素、1,1,3,3−テトラメチル尿素がある。ジアルキルアミド類の代表例としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドがあり、環状エーテル類の代表例としては1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランがある。
中でも、上述した効果の観点からピロリドン類、ラクトン類、スルホキシド類、アミドエーテル類が特に好ましく、2−ピロリドンが最も好ましい。上記の非プロトン性極性溶媒の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、3〜30質量%の範囲であることが好ましく、8〜20質量%の範囲であることがより好ましい。
[6.その他の成分]
インクは、上記の成分に加えて、防かび剤、防錆剤、及びキレート化剤などをさらに含んでもよい。
次に、保湿液に混合される界面活性剤の成分について説明する。
界面活性剤としては、アルキルアミン塩類、および第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤;ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、および脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤;アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン等の両イオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、およびポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤等を用いることができるが、これらの中でも特に、アニオン性界面活性剤もしくはノニオン性界面活性剤が好ましい。
界面活性剤の含有量は、保湿液の総質量に対して0.1〜5.0質量%であるのが好ましい。さらに、気泡性および気泡後の消泡性の観点から界面活性剤の含有量は、保湿液の総質量に対して0.5〜1.5質量%であるのが好ましい。なお、界面活性剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。また、保湿液に含有される界面活性剤は、インク(液体)に含有される界面活性剤と同じであることが好ましく、例えば、インク(液体)に含有される界面活性剤がノニオン性界面活性剤の場合、ノニオン性界面活性剤としては、以下に限定されないが、例えば、シリコン系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル系、多環フェニルエーテル系、ソルビタン誘導体、及びフッ素系の界面活性剤が挙げられ、中でもシリコン系界面活性剤が好ましい。
特に、ロスマイルス法を用いた起泡直後および起泡5分後の泡高さが前記範囲(起泡直後の泡高さが50mm以上、起泡5分後の泡高さが5mm以下)になるようにするためには、界面活性剤として、アセチレンジオールに付加モル数4〜30でエチレンオキサイド(EO)が付加した付加物を用い、該付加物の含有量を洗浄液全重量に対して0.1〜3.0重量%とすることが好ましい。さらに、ロスマイルス法を用いた起泡直後および起泡5分後の泡高さが前記好ましい範囲(起泡直後の泡高さが100mm以上、起泡5分後の泡高さが5mm以下)になるようにするためには、アセチレンジオールに付加モル数10〜20でエチレンオキサイド(EO)が付加した付加物を用い、該付加物の含有量を洗浄液全重量に対して0.5〜1.5重量%とすることが好ましい。但し、アセチレンジオールのエチレンオキサイド付加物の含有量が多すぎると、臨界ミセル濃度に達し、エマルションとなってしまう恐れがある。
界面活性剤は、記録媒体上で水性インクを濡れ広がりやすくする機能を有する。本発明で用いることのできる界面活性剤に特に制限はなく、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、および脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、およびポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩類、および第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤などを用いることができる。
なお、界面活性剤は保湿液と凝集物との間の界面活性効果により凝集物を細分化して分散させる効果がある。また、洗浄液の表面張力を下げる働きがあるため、凝集物とノズル面20aとの間に洗浄液が侵入しやすくなり、凝集物をノズル面20aから剥離しやすくする効果がある。
界面活性剤は親水部と疎水部を同一分子中に持つ化合物であれば、いずれも好適に用いることができる。具体例としては、下記式(I)〜(IV)で表わされるものが好ましい。すなわち、下記式(I)のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系界面活性剤、式(II)のアセチレングリコール系界面活性剤、下記式(III)のポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤ならびに式(IV)のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル系界面活性剤が挙げられる。
(Rは分岐していてもよい炭素数6〜14の炭化水素鎖、k:5〜20)
(m、n≦20,0<m+n≦40)
(Rは分岐してもよい炭素数6〜14の炭化水素鎖、nは5〜20)
(Rは炭素数6〜14の炭化水素鎖、m、nは20以下の数)
前記式(I)〜(IV)の化合物以外では、例えばジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、エタノール、2−プロパノール等の低級アルコール類を用いることができるが、特にジエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。