以下、図面を参照して、本発明による第1乃至第5実施形態の指向性マイクロホンと、その第5実施形態の指向性マイクロホンを利用して構成した本発明による一実施形態の可変指向性マイク付きビデオカメラについて順に説明する。
〔第1実施形態〕(背面感度抑圧型の指向性マイクロホン)
図1は、本発明による第1実施形態の指向性マイクロホン10の概略構成を示す図である。第1実施形態の指向性マイクロホン10は、背面感度抑圧型の指向性マイクロホンとして構成される。
図1に示す指向性マイクロホン10は、音響管11を利用して前方狭指向性を持つ主マイクロホン12と、音響管11の後端近傍に配置した後方単一指向性を持つ第1副マイクロホン13aと、音響管11の先端近傍に配置した後方単一指向性を持つ第2副マイクロホン13bと、信号処理部14とを備える。信号処理部14は、第1フィルタ141、第2フィルタ142、遅延器145、及び加算器146を備える。
主マイクロホン12は、一般的にはマイクロホンカプセルと称され、音響管11の後端に配置することで前方狭指向性(前方正面をθ=0°とする)を持たせることができ、主マイクロホン12と音響管11とを併せてラインマイクロホンとも称される。
尚、音響管11は、高域周波数でのみ狭角度指向性を得るための所定長の円筒状又は四角筒状に構成され、その側面に一定間隔で位相干渉用の複数の開口11aを有している。そして、音響管11の後端に配置する主マイクロホン12は、中低音周波数帯域では、その背面方向に指向性を持つ。
そこで、主マイクロホン12の正面方向の指向感度特性に影響を与えずに、可聴周波数帯域全体にわたる広帯域で背面感度を抑圧するために、音響管11の後端近傍、及び音響管11の先端近傍には、一般的にはマイクロホンカプセルと称される第1副マイクロホン13a、及び、第2副マイクロホン13bが設けられる。
第1副マイクロホン13a、及び、第2副マイクロホン13bは、それぞれ主マイクロホン12の指向軸(前方指向方向を示す破線矢印)に対し180°逆方向(後方指向方向を示す破線矢印)に向く後方単一指向性を持つ。
尚、第1副マイクロホン13a、及び、第2副マイクロホン13bの配置位置は、本実施形態の例に限らず後述する信号処理部14の処理に応じて適宜調整した配置とすることができる。また、本実施形態の例では、第1及び第2副マイクロホン13a,13bの2個を使用する例を示しているが、1個としてもよいし、3個以上としてもよい。
主マイクロホン12の出力信号は、増幅器によりその信号電圧を増幅し、アナログ/デジタル(A/D)変換器によりA/D変換処理を施した後に(増幅器及びA/D変換器の図示略)、信号処理部14における遅延器145に入力される。同様に、第1及び第2副マイクロホン13a,13bの各出力信号も、増幅器によりその信号電圧を増幅し、A/D変換器によりA/D変換処理を施した後に(増幅器及びA/D変換器の図示略)、それぞれ信号処理部14における第1フィルタ141、及び第2フィルタ142に入力される。
第1フィルタ141は、第1副マイクロホン13aから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンにおける背面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器146に出力する。
第2フィルタ142は、第2副マイクロホン13bから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンにおける背面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器146に出力する。
遅延器145は、第1フィルタ141及び第2フィルタ142によるフィルタ処理によってそれぞれ生じる遅延量を補償するよう、主マイクロホン12から得られるデジタル出力信号に対し遅延処理を施して、加算器146に出力する。
加算器146は、遅延器145、第1フィルタ141、及び第2フィルタ142を経てそれぞれ得られる主マイクロホン12、第1及び第2副マイクロホン13a,13bのデジタル出力信号をそれぞれ入力して加算することにより、背面感度を抑圧した収音信号を生成し外部に出力する。
ここで、より詳細に、第1フィルタ141、及び第2フィルタ142に関するフィルタ処理について説明する。
主マイクロホン12に、音響管11を経て指向角度θの方向から周波数ωの音波が入射したときの伝達関数をm(θ,ω)とする。
また、n個(n≧1)の副マイクロホンの各出力信号をそれぞれg1(θ,ω),g2(θ,ω),・・・,gn(θ,ω)とし、総じてn個の副マイクロホンの出力信号ベクトルG(θ,ω)とし、さらに、指向角度θ=0°の方向とθ=180°の方向における副マイクロホンの出力信号ベクトルを総じてG(ω)=[G(0,ω),G(180,ω)]Tとする。本実施形態の例ではn=2の第1及び第2副マイクロホン13a,13bであるが、n個の副マイクロホンとして一般化できる。
また、各副マイクロホンのデジタル出力信号を処理するフィルタの伝達関数ベクトルをW(ω)=[w1(ω),w2(ω),・・・,wn(ω)]Tとする。尚、Tは転置行列を表す。本実施形態の例ではn=2とする第1フィルタ141及び第2フィルタ142であるが、n個のフィルタとして一般化できる。
まず、信号処理部14における指向角度θ=0°の方向とθ=180°の方向の任意周波数における最終出力ベクトルY(ω)=[y(0,ω),y(180,ω)]Tは、主マイクロホン12の遅延処理後の出力信号ベクトルM(ω)と、各副マイクロホンのフィルタ処理後のデジタル出力信号ベクトルG(ω)W(ω)とを加算して、式(1)で表すことができる。
ところで、主マイクロホン12の正面方向の感度指向特性に影響を与えずに、可聴帯域全体にわたり背面感度を抑圧するには、信号処理部14における指向角度θ=0°の方向とθ=180°の方向の最終出力の目標特性ベクトルD(ω)=[d(0,ω),d(180,ω)]Tは、式(2)で表される。ここで、d(0,ω),d(180,ω)は、それぞれ目標とする正面方向の感度指向特性及び背面方向の感度指向特性である。
そこで、信号処理部14から出力される収音信号として、θ=0°,180°の任意周波数における最終出力ベクトルY(ω)と、θ=0°,180°の目標特性ベクトルD(ω)の2乗誤差を最小とするには、各副マイクロホンのデジタル出力信号を処理するフィルタの伝達関数ベクトルW(ω)として、
W(ω)=(G(ω)HG(ω))−1G(ω)H(D(ω)−M(ω))
となる伝達関数を有するデジタルフィルタ処理を施す。ここで、Hは、エルミート転置行列を表わす。
ここで、フィルタ設計の別の一例について説明する。
主マイクロホン12に、音響管11を経て指向角度θの方向から周波数ωの音波が入射したときの伝達関数をm(θ,ω)とする。
また、n個(n≧1)の副マイクロホンの各出力信号をそれぞれg1(θ,ω),g2(θ,ω),・・・,gn(θ,ω)とし、総じてn個の副マイクロホンの出力信号ベクトルG(θ,ω)とし、さらに、指向角度θ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向における副マイクロホンの出力信号ベクトルを総じてG(ω)=[G(0,ω),G(θ1,ω),G(θ2,ω),…,G(180,ω)]Tとする。本実施形態の例ではn=2の第1及び第2副マイクロホン13a,13bであるが、n個の副マイクロホンとして一般化できる。
また、各副マイクロホンのデジタル出力信号を処理するフィルタの伝達関数ベクトルをW(ω)=[w1(ω),w2(ω),・・・,wn(ω)]Tとする。尚、Tは転置行列を表す。本実施形態の例ではn=2とする第1フィルタ141及び第2フィルタ142であるが、n個のフィルタとして一般化できる。
まず、信号処理部14における指向角度θ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向の任意周波数における最終出力ベクトルY(ω)=[y(0,ω),y(θ1,ω),y(θ2,ω),…,y(180,ω)]Tは、主マイクロホン12の遅延処理後の出力信号ベクトルM(ω)と、各副マイクロホンのフィルタ処理後のデジタル出力信号ベクトルG(ω)W(ω)とを加算して、式(3)で表すことができる。
ところで、主マイクロホン12のある特定方向の感度指向特性に影響を与えずに、可聴帯域全体にわたり背面感度を抑圧するには、信号処理部14における指向角度θ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向の最終出力の目標特性ベクトルD(ω)=[d(0,ω),d(θ1,ω),d(θ2,ω),…,d(180,ω)]Tを、式(4)とする。ここで、d(0,ω),d(θ1,ω),d(θ2,ω),…,d(180,ω)は、それぞれθ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向の目標とする感度指向特性であり、h(θ,ω)は方向ごとの目標抑圧量の重みを表している。h(θ,ω)は0≦h(θ,ω)≦1の範囲の値をとり、h(θ,ω)の値が0に近いほど、目標抑圧量が大きいことを表している。
正面方向の感度を保ったまま、正面以外の方向の感度を抑圧する目的であれば、たとえばh(θ,ω)の一例として、以下のように与えることができる。
h(θ,ω)=0.5(1−cos(θ))
そこで、信号処理部14から出力される収音信号として、θ=0°, θ1,θ2,…,180°の任意周波数における最終出力ベクトルY(ω)と、θ=0°, θ1,θ2,…,180°の目標特性ベクトルD(ω)の2乗誤差を最小とするには、各副マイクロホンのデジタル出力信号を処理するフィルタの伝達関数ベクトルW(ω)として、
W(ω)=(G(ω)HG(ω))−1G(ω)H(D(ω)−M(ω))
となる伝達関数を有するデジタルフィルタ処理を施す。ここで、Hは、エルミート転置行列を表わす。
本手法を用いてフィルタを設計した場合には、θ=180°方向だけでなく、ある程度幅を持った方向で感度指向特性を抑圧することができる。ただし、先に述べたように正面方向θ=0°と背面方向θ=180°のみを規定した場合のほうが、θ=180°方向の感度の抑圧量は向上することに加え、低い周波数帯域においては、ある程度の角度範囲においても抑圧効果が高くなる傾向にある。
図2(a)乃至図2(k)に70cm長の音響管を使用し、副マイクロホンを3個使用した場合の、主マイクロホン12の指向性方向(前方正面方向)をθ=0°として0°≦θ≦360°(即ち、0°≦|θ|≦180°)に関する感度指向特性のシミュレーション結果を示す。図2(a)乃至図2(k)において、図示するD1の特性は、背面抑圧処理を加えていない場合の感度指向特性であり、図示するD2の特性は、背面感度抑圧処理を加えた場合の感度指向特性である。周波数によって範囲は異なるが、θ=60°〜300°で感度が抑圧されていることがわかる。
従って、図1に示す例では、信号処理部14は、n=2とする第1フィルタ141及び第2フィルタ142によって、第1及び第2副マイクロホン13a,13bから得られるデジタル出力信号に対し上記のW(ω)となる伝達関数を有するデジタルフィルタ処理を施し、主マイクロホン12から得られるデジタル出力信号に対し遅延器145によって式(1)に従う遅延処理を施して、加算器146によって加算することにより、主マイクロホン12の正面方向の感度指向特性に影響を与えずに、可聴周波数帯域全体にわたり背面感度を高精度に抑圧した収音信号を生成することができる。Y(ω)とD(ω)の差が所定の規範で最小化するものであればフィルタの設計手法は問わない。
このようにして、第1実施形態の指向性マイクロホン10は、背面方向の感度を広帯域で高精度に抑圧した正面方向に狭指向性を有する指向性マイクロホンとして構成することができる。
〔第2実施形態〕(別例の背面感度抑圧型の指向性マイクロホン)
図3は、本発明による第2実施形態の指向性マイクロホン20の概略構成を示す図である。第2実施形態の指向性マイクロホン20は、背面感度抑圧型の指向性マイクロホンとして構成される点で第1実施形態と同様であるが、図1に示す信号処理部14にて遅延器145を用いる代わりにデジタルフィルタ処理を行う第3フィルタ245とする点で相違している。
図3に示す指向性マイクロホン20は、音響管21を利用して前方狭指向性を持つ主マイクロホン22と、音響管21の後端近傍に配置した後方単一指向性を持つ第1副マイクロホン23aと、音響管21の先端近傍に配置した後方単一指向性を持つ第2副マイクロホン23bと、信号処理部24とを備える。信号処理部24は、第1フィルタ241、第2フィルタ242、第3フィルタ245、及び加算器246を備える。
第2実施形態における主マイクロホン22と音響管21とを併せて構成されるラインマイクロホンは、第1実施形態における主マイクロホン12と音響管11とを併せて構成されるラインマイクロホンと同様とすることができる。従って、音響管21は、高域周波数でのみ狭角度指向性を得るための所定長の円筒状又は四角筒状に構成され、その側面に一定間隔で位相干渉用の複数の開口21aを有している。
また、本実施形態においても、主マイクロホン22の正面方向の感度指向特性に影響を与えずに、可聴周波数帯域全体にわたり背面感度を抑圧するために、音響管21の後端近傍、及び音響管21の先端近傍には、一般的にはマイクロホンカプセルと称される第1副マイクロホン23a、及び、第2副マイクロホン23bが設けられる。
第1副マイクロホン23a、及び、第2副マイクロホン23bは、それぞれ主マイクロホン22の指向軸(前方指向方向を示す破線矢印)に対し180°逆方向(後方指向方向を示す破線矢印)に向く後方単一指向性を持つ。
本実施形態においても、第1副マイクロホン23a、及び、第2副マイクロホン23bの配置位置は、図示する例に限らず後述する信号処理部24の処理に応じて適宜調整した配置とすることができる。また、本実施形態の例では、第1及び第2副マイクロホン23a,23bの2個を使用する例を示しているが、1個としてもよいし、3個以上としてもよい。
主マイクロホン22の出力信号は、増幅器によりその信号電圧を増幅し、アナログ/デジタル(A/D)変換器によりA/D変換処理を施した後に(増幅器及びA/D変換器の図示略)、信号処理部24における第3フィルタ245に入力される。同様に、第1及び第2副マイクロホン23a,23bの各出力信号も、増幅器によりその信号電圧を増幅し、A/D変換器によりA/D変換処理を施した後に(増幅器及びA/D変換器の図示略)、それぞれ信号処理部24における第1フィルタ241、及び第2フィルタ242に入力される。
第1フィルタ241は、第1副マイクロホン23aから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンにおける背面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器246に出力する。
第2フィルタ242は、第2副マイクロホン23bから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンにおける背面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器246に出力する。
主マイクロホン22から得られるデジタル出力信号に対し、正面方向の周波数特性を補償するフィルタ処理を施して、加算器246に出力する。
加算器246は、第3フィルタ245、第1フィルタ241、及び第2フィルタ242を経てそれぞれ得られる主マイクロホン22、第1及び第2副マイクロホン23a,23bのデジタル出力信号をそれぞれ入力して加算することにより、背面感度を抑圧した収音信号を生成し外部に出力する。
ここで、より詳細に、第1フィルタ241、第2フィルタ242、及び第3フィルタ245に関するフィルタ処理について説明する。
主マイクロホン22に、音響管21を経て指向角度θの方向から周波数ωの音波が入射したときの伝達関数をm(θ,ω)とする。
また、n個(n≧1)の副マイクロホンの各出力信号をそれぞれg1(θ,ω),g2(θ,ω),・・・,gn(θ,ω)とし、本実施形態では主マイクロホンの伝達関数m(θ,ω)の出力信号と、このn個の副マイクロホンの各出力信号とを、総じて出力信号ベクトルG(θ,ω)とし、さらに、指向角度θ=0°の方向とθ=180°の方向における出力信号ベクトルを総じてG(ω)=[G(0,ω),G(180,ω)]Tとする。本実施形態の例ではn=2の第1及び第2副マイクロホン23a,23bであるが、n個の副マイクロホンとして一般化できる。
また、主マイクロホン22及び各副マイクロホンのデジタル出力信号を処理するフィルタの伝達関数をW(ω)=[w1(ω),w2(ω),・・・,wn+1(ω)]Tとする。尚、Tは転置行列を表す。本実施形態の例では、1個の主マイクロホン22用の第3フィルタ245と、n=2とする第1フィルタ241及び第2フィルタ242であるが、n+1個のフィルタとして一般化できる。
まず、信号処理部24における指向角度θ=0°の方向とθ=180°の方向の任意周波数における最終出力ベクトルY(ω)=[y(0,ω),y(180,ω)]Tは、主マイクロホン22及び各副マイクロホンのフィルタ処理後のデジタル出力信号をベクトル加算したベクトルG(ω)W(ω)として、式(5)で表すことができる。
ところで、主マイクロホン22の正面方向の感度指向特性に影響を与えずに、可聴周波数帯域全体にわたり背面感度を抑圧するには、信号処理部24における指向角度θ=0°の方向とθ=180°の方向の最終出力の目標特性ベクトルD(ω)=[d(0,ω),d(180,ω)]Tは、式(6)で表される。ここで、d(0,ω),d(180,ω)は、それぞれ目標とする正面方向の感度指向特性及び背面方向の感度指向特性である。
そこで、信号処理部24から出力される収音信号として、θ=0°,180°の任意周波数における最終出力ベクトルY(ω)と、θ=0°,180°の目標特性ベクトルD(ω)の2乗誤差を最小とするには、主マイクロホン22及び各副マイクロホンのデジタル出力信号を処理するフィルタの伝達関数ベクトルW(ω)として、
W(ω)=(G(ω)HG(ω))−1G(ω)HD(ω)
となる伝達関数を有するデジタルフィルタ処理を施す。ここで、Hは、エルミート転置行列を表わす。
ここで、フィルタ設計の別の一例について説明する。
主マイクロホン22に、音響管21を経て指向角度θの方向から周波数ωの音波が入射したときの伝達関数をm(θ,ω)とする。
また、n個(n≧1)の副マイクロホンの各出力信号をそれぞれg1(θ,ω),g2(θ,ω),・・・,gn(θ,ω)とし、総じてn個の副マイクロホンの出力信号ベクトルG(θ,ω)とし、さらに、指向角度θ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向における副マイクロホンの出力信号ベクトルを総じてG(ω)=[G(0,ω),G(θ1,ω),G(θ2,ω),…,G(180,ω)]Tとする。本実施形態の例ではn=2の第1及び第2副マイクロホン23a,23bであるが、n個の副マイクロホンとして一般化できる。
また、主マイクロホン22及び各副マイクロホンのデジタル出力信号を処理するフィルタの伝達関数をW(ω)=[w1(ω),w2(ω),・・・,wn+1(ω)]Tとする。尚、Tは転置行列を表す。本実施形態の例では、1個の主マイクロホン22用の第3フィルタ245と、n=2とする第1フィルタ241及び第2フィルタ242であるが、n+1個のフィルタとして一般化できる。
まず、信号処理部14における指向角度θ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向の任意周波数における最終出力ベクトルY(ω)=[y(0,ω),y(θ1,ω),y(θ2,ω),…,y(180,ω)]Tは、主マイクロホン22の遅延処理後の出力信号ベクトルM(ω)と、各副マイクロホンのフィルタ処理後のデジタル出力信号ベクトルG(ω)W(ω)とを加算して、式(7)で表すことができる。
ところで、主マイクロホン22のある特定方向の感度指向特性に影響を与えずに、可聴帯域全体にわたり背面感度を抑圧するには、信号処理部24における指向角度θ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向の最終出力の目標特性ベクトルD(ω)=[d(0,ω),d(θ1,ω),d(θ2,ω),…,d(180,ω)]Tを、式(8)とする。ここで、d(0,ω),d(θ1,ω),d(θ2,ω),…,d(180,ω)は、それぞれθ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向の目標とする感度指向特性であり、h(θ,ω)は方向ごとの目標抑圧量の重みを表している。h(θ,ω)は0≦h(θ,ω)≦1の範囲の値をとり、h(θ,ω)の値が0に近いほど、目標抑圧量が大きいことを表している。
正面方向の感度を保ったまま、正面以外の方向の感度を抑圧する目的であれば、たとえばh(θ,ω)の一例として、以下のように与えることができる。
h(θ,ω)=0.5(1−cos(θ))
そこで、信号処理部24から出力される収音信号として、θ=0°, θ1,θ2,…,180°の任意周波数における最終出力ベクトルY(ω)と、θ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向の目標特性ベクトルD(ω)の2乗誤差を最小とするには、主マイクロホン22及び各副マイクロホンのデジタル出力信号を処理するフィルタの伝達関数ベクトルW(ω)として、
W(ω)=(G(ω)HG(ω))−1G(ω)HD(ω)
となる伝達関数を有するデジタルフィルタ処理を施す。ここで、Hは、エルミート転置行列を表わす。
本手法を用いてフィルタを設計した場合には、θ=180°方向だけでなく、ある程度幅を持った方向で感度指向特性を抑圧することができる。ただし、先に述べたように正面方向θ=0°と背面方向θ=180°のみを規定した場合のほうが、θ=180°方向の感度の抑圧量は向上することに加え、低い周波数帯域においては、ある程度の角度範囲においても抑圧効果が高くなる傾向にある。
従って、図3に示す例では、信号処理部24は、第3フィルタ245と、n=2とする第1フィルタ241及び第2フィルタ242によって、主マイクロホン22と第1及び第2副マイクロホン23a,23bからそれぞれ得られるデジタル出力信号に対し上記のW(ω)となる伝達関数を有するデジタルフィルタ処理を施して、加算器246によって加算することにより、主マイクロホン22の正面方向の感度指向特性に影響を与えずに、可聴周波数帯域にわたり背面感度を高精度に抑圧した収音信号を生成することができる。Y(ω)とD(ω)の差が所定の規範で最小化するものであればフィルタの設計手法は問わない。
このようにして、第2実施形態の指向性マイクロホン20は、背面方向の感度を広帯域で高精度に抑圧した正面方向に狭指向性を有する指向性マイクロホンとして構成することができる。
〔第3実施形態〕(ドーナツ型の指向性マイクロホン)
図4(a),(b)は、それぞれ本発明による第3実施形態の指向性マイクロホン30の概略構成と、その指向性マイクロホンの指向性特性を示す図である。第3実施形態の指向性マイクロホン30は、ドーナツ型の指向性マイクロホンとして構成される。
図4(a)に示す指向性マイクロホン30は、互いに反対の指向方向を向けて近接させた一対の単一指向性マイクロホン(後方単一指向特性を持つ第1マイクロホン33a、及び前方単一指向特性を持つ第3マイクロホン33c)と、第1マイクロホン33a及び第3マイクロホン33c間に配置される全指向性を持つ第2マイクロホン33bと、信号処理部34とを備える。信号処理部34は、第1フィルタ341、第2フィルタ342、第3フィルタ343、及び加算器346を備える。第1乃至第3マイクロホン33a〜33cは、一般的にマイクロホンカプセルと称される。
信号処理部34は、第1フィルタ341、第2フィルタ342、第3フィルタ343により第1乃至第3マイクロホン33a〜33cの各出力信号に対しそれぞれ帯域制限するローパスフィルタ処理を施し、加算器346により加算処理を行うよう構成される。
まず、一対の単一指向性マイクロホン(後方単一指向特性を持つ第1マイクロホン33a、及び前方単一指向特性を持つ第3マイクロホン33c)の感度指向特性Dcardioid(θ)は、前方正面θ=0°とすると、全指向性と双指向性の線形和として、
Dcardioid(θ)=a・(1+cosθ)
により表すことができる。ここで、定数aは、正面方向の感度を示している。
また、全指向性を持つ第2マイクロホン33bは、方向に依らず一定の感度指向特性Domni(θ)を持つため、
Domni(θ)=a
として、定数aで表すことができる。
そこで、図4(a)に示す信号処理部34では、第1乃至第3フィルタ341〜343の各々により第1乃至第3マイクロホン33a〜33cの各出力信号に対しそれぞれ帯域制限するローパスフィルタ処理を施して加算器346に出力する。
加算器346は、一対の単一指向性マイクロホン(第1及び第3マイクロホン33a,33c)の当該ローパスフィルタ処理後の各出力信号と、全指向性マイクロホン(第2マイクロホン33b)の当該ローパスフィルタ処理後の出力信号との差を一旦計算して逆位相の双指向性を持つ信号を得て、更にこの信号に対し当該一対の単一指向性マイクロホンの当該ローパスフィルタ処理後の出力信号を加算して、側方に双指向性を持つ感度指向性特性Dcos2(θ)=a・cos2(θ)を得て、更に、この感度指向性特性Dcos2(θ)を全指向性マイクロホン(第2マイクロホン33b)の当該ローパスフィルタ処理後の出力信号から差分して、一対の単一指向性マイクロホンの指向軸に対して垂直なドーナツ型の指向性を持つ感度指向性特性Dsin2(θ)=a−a・cos2(θ)=a・sin2(θ)の出力信号を生成し、これを収音信号として外部に出力する。
これにより、図4(b)に示すように、X軸を前方正面θ=0°とすると、Z軸方向の感度を抑圧したドーナツ型の指向性マイクロホンを構成することができる。尚、本例では、ローパスフィルタ処理を伴う加算器346として説明したが、後述する第4実施形態で明らかとなるように、正面方向、側面方向及び背面方向の周波数特性を補償するフィルタ処理を伴う加算器として構成することもできる。
このようにして、第3実施形態の指向性マイクロホン30は、ドーナツ型の指向性マイクロホンとして構成することができ、例えば複数人で囲まれるテーブル上に、当該複数人の口元の高さで第3実施形態の指向性マイクロホン30を載置しておくと、当該複数人の音声を収音しつつ、その他の余分な音声(例えば当該複数人が書面を扱う際に生じる書面の擦れ音、椅子等の擦れ音、或いは空調等の機械音)を抑圧し、当該複数人の音声について明瞭な収音信号が得られるようになる。
〔第4実施形態〕(側面感度抑圧型の指向性マイクロホン)
図5は、本発明による第4実施形態の指向性マイクロホン40の概略構成を示す図である。第4実施形態の指向性マイクロホン40は、側面感度抑圧型の指向性マイクロホンとして構成される。
図5に示す指向性マイクロホン40は、音響管41を利用して前方狭指向性を持つ主マイクロホン42と、音響管41の後端近傍に配置した互いに反対の指向方向を向けて近接させた一対の単一指向性副マイクロホン(後方単一指向特性を持つ第1副マイクロホン43a、及び前方単一指向特性を持つ第3副マイクロホン43c)と、第1副マイクロホン43a及び第3副マイクロホン43c間に配置される全指向性を持つ第2副マイクロホン43bと、信号処理部44とを備える。信号処理部44は、第1フィルタ441、第2フィルタ442、第3フィルタ443、遅延器445、及び加算器446を備える。
ここで、第4実施形態の指向性マイクロホン40における第1乃至第3副マイクロホン43a〜43cは、それぞれ第3実施形態の指向性マイクロホン30における第1乃至第3マイクロホン33a〜33cと同様に構成される。
また、第4実施形態の指向性マイクロホン40における主マイクロホン42と音響管41とを併せて構成されるラインマイクロホンは、第1実施形態における主マイクロホン12と音響管11とを併せて構成されるラインマイクロホンと同様とすることができる。従って、音響管41は、高域周波数でのみ狭角度指向性を得るための所定長の円筒状又は四角筒状に構成され、その側面に一定間隔の位相干渉用の複数の開口41aを有している。
第4実施形態の指向性マイクロホン40は、主マイクロホン42と音響管41とを併せて構成されるラインマイクロホンと、側方感度を抑圧するために第3実施形態にて説明したドーナツ型の指向性マイクロホンとを組み合わせることにより、側面感度抑圧型の正面方向に狭指向性を持つ狭指向性マイクロホンとして構成される。
主マイクロホン42の出力信号は、増幅器によりその信号電圧を増幅し、アナログ/デジタル(A/D)変換器によりA/D変換処理を施した後に(増幅器及びA/D変換器の図示略)、信号処理部44における遅延器445に入力される。同様に、第1乃至第3副マイクロホン43a〜43cの各出力信号も、増幅器によりその信号電圧を増幅し、A/D変換器によりA/D変換処理を施した後に(増幅器及びA/D変換器の図示略)、それぞれ信号処理部44における第1乃至第3フィルタ441〜443に入力される。
第1フィルタ441は、第1副マイクロホン43aから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンの側面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器446に出力する。
第2フィルタ442は、第2副マイクロホン43bから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンの側面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器446に出力する。
第3フィルタ443は、第3副マイクロホン43cから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンの側面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器446に出力する。
遅延器445は、第1乃至第3フィルタ441〜443によるフィルタ処理によってそれぞれ生じる遅延量を補償するよう、主マイクロホン42から得られるデジタル出力信号に対し遅延処理を施して、加算器446に出力する。
加算器446は、遅延器445、第1乃至第3フィルタ441〜443を経てそれぞれ得られる主マイクロホン42、第1乃至第3副マイクロホン43a〜43cのデジタル出力信号をそれぞれ入力して加算することにより、側面感度を抑圧した収音信号を生成し外部に出力する。
ここで、より詳細に、第1乃至第3フィルタ441〜443に関するフィルタ処理について説明する。
主マイクロホン42に、音響管41を経て指向角度θの方向から周波数ωの音波が入射したときの伝達関数をm(θ,ω)とする。
また、第1乃至第3副マイクロホン43a〜43cに、指向角度θの方向から周波数ωの音波が入射したときの伝達関数をそれぞれ、gside1(θ,ω),gside2(θ,ω),gside3(θ,ω)とし、総じて副マイクロホンの出力信号ベクトルGside(ω)とし、さらに、指向角度θ=0°の方向とθ=90°の方向とθ=180°の方向における出力信号ベクトルを総じてGside(ω)=[Gside(0,ω),Gside(90,ω),Gside(180,ω)]Tとする。
また、各副マイクロホンのデジタル出力信号を処理するフィルタの伝達関数をWside(ω)=[wside1(ω),wside2(ω),wside3(ω)]Tとする。尚、Tは転置行列を表す。
まず、信号処理部44における指向角度θ=0°の方向とθ=90°の方向とθ=180°の方向の任意周波数における最終出力ベクトルY(ω)=[y(0,ω),y(90,ω),y(180,ω)]Tは、主マイクロホン42の遅延処理後の出力信号ベクトルMside(ω)と、各副マイクロホンのフィルタ処理後のデジタル出力信号ベクトルGside(ω)Wside(ω)とをベクトル加算して、式(9)で表すことができる。
ところで、主マイクロホン42の正面方向の感度指向特性に影響を与えずに、可聴周波数帯域全体にわたり側面感度を抑圧するには、信号処理部44における指向角度θ=0°の方向とθ=90°の方向とθ=180°の方向の最終出力の目標特性ベクトルDside(ω)=[d(0,ω),d(90,ω),d(180,ω)]Tは、式(10)で表される。ここで、d(0,ω),d(90,ω),d(180,ω)は、それぞれ目標とする正面方向の感度指向特性、側面方向の感度指向特性及び背面方向の感度指向特性である。
そこで、信号処理部44から出力される収音信号として、θ=0°,90°,180°の任意周波数における最終出力ベクトルY(ω)と、θ=0°,90°,180°の目標特性ベクトルDside(ω)の2乗誤差を最小とするには、各副マイクロホンのデジタル出力信号を処理するフィルタの伝達関数ベクトルW(ω)として、
Wside(ω)=(Gside(ω)HGside(ω))−1Gside(ω)H(Dside(ω)−Mside(ω))
となる伝達関数を有するデジタルフィルタ処理を施す。ここで、Hは、エルミート転置行列を表わす。
ここで、フィルタ設計の別の一例について説明する。
主マイクロホン42に、音響管41を経て指向角度θの方向から周波数ωの音波が入射したときの伝達関数をm(θ,ω)とする。
また、第1乃至第3副マイクロホン43a〜43cに、指向角度θの方向から周波数ωの音波が入射したときの伝達関数をそれぞれ、gside1(θ,ω),gside2(θ,ω),gside3(θ,ω)とし、総じて副マイクロホンの出力信号ベクトルGside(ω)とし、さらに、指向角度θ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向における副マイクロホンの出力信号ベクトルを総じてGside(ω)=[Gside(0,ω),Gside(θ1,ω),Gside(θ2,ω),…,Gside(180,ω)]Tとする。
また、各副マイクロホンのデジタル出力信号を処理するフィルタの伝達関数ベクトルをWside(ω)=[wside1(ω),wside2(ω),wside3(ω)]Tとする。尚、Tは転置行列を表す。
まず、信号処理部44における指向角度θ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向の任意周波数における最終出力ベクトルY(ω)=[y(0,ω),y(θ1,ω),y(θ2,ω),…,y(180,ω)]Tは、主マイクロホン42の遅延処理後の出力信号ベクトルM(ω)と、各副マイクロホンのフィルタ処理後のデジタル出力信号ベクトルG(ω)W(ω)とを加算して、式(11)で表すことができる。
ところで、主マイクロホン42の正面方向の感度指向特性に影響を与えずに、可聴周波数帯域全体にわたり側面感度を抑圧するには、信号処理部44における指向角度θ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向の最終出力の目標特性ベクトルD(ω)=[d(0,ω),d(θ1,ω),d(θ2,ω),…,d(180,ω)]Tを、式(12)とする。ここで、d(0,ω),d(θ1,ω),d(θ2,ω),…,d(180,ω)は、それぞれθ=0°, θ1,θ2,…,180°の方向の目標とする感度指向特性であり、h(θ,ω)は方向ごとの目標抑圧量の重みを表している。h(θ,ω)は0≦h(θ,ω)≦1の範囲の値をとり、h(θ,ω)の値が0に近いほど、目標抑圧量が大きいことを表している。
正面方向の感度を保ったまま、側面方向の感度を抑圧する目的であれば、たとえばh(θ,ω)の一例として、以下のように与えることができる。
h(θ,ω)=sin2(θ)|m(90,ω)|/|m(θ,ω)|
そこで、信号処理部44から出力される収音信号として、θ=0°, θ1,θ2,…,180°の任意周波数における最終出力ベクトルY(ω)と、θ=0°, θ1,θ2,…,180°の目標特性ベクトルDside(ω)の2乗誤差を最小とするには、各副マイクロホンのデジタル出力信号を処理するフィルタの伝達関数ベクトルW(ω)として、
Wside(ω)=(Gside(ω)HGside(ω))−1Gside(ω)H(Dside(ω)−Mside(ω))
となる伝達関数を有するデジタルフィルタ処理を施す。ここで、Hは、エルミート転置行列を表わす。
本手法を用いてフィルタを設計した場合には、θ=90°方向だけでなく、ある程度幅を持った方向で感度指向特性を抑圧することができる。ただし、先に述べたように正面方向θ=0°と側面方向θ=90°と背面方向θ=180°のみを規定した場合のほうが、θ=90°方向の感度の抑圧量は向上する傾向にある。
従って、図5に示す例では、信号処理部44は、第1乃至第3フィルタ441〜443によって、第1乃至第3副マイクロホン43a〜43cからそれぞれ得られるデジタル出力信号に対し上記のWside(ω)となる伝達関数を有するデジタルフィルタ処理を施し、主マイクロホン42から得られるデジタル出力信号に対し遅延器445によって式(5)に従う遅延処理を施して、加算器446によって加算することにより、主マイクロホン42の正面方向および背面方向の感度指向特性に影響を与えずに、可聴周波数帯域全体にわたり側面感度を高精度に抑圧した収音信号を生成することができる。Y(ω)とD(ω)の差が所定の規範で最小化するものであればフィルタの設計手法は問わない。
このようにして、第4実施形態の指向性マイクロホン40は、側面方向の感度を広帯域で高精度に抑圧した正面方向に狭指向性を有する指向性マイクロホンとして構成することができる。
〔第5実施形態〕(背面及び側面感度抑圧型の指向性マイクロホン)
図6は、本発明による第5実施形態の指向性マイクロホン50の概略構成を示す図である。第5実施形態の指向性マイクロホン50は、背面及び側面感度抑圧型の指向性マイクロホンとして構成される。
図6に示す指向性マイクロホン50は、音響管51を利用して前方狭指向性を持つ主マイクロホン52と、音響管51の後端近傍に配置した互いに反対の指向方向を向けて近接させた一対の単一指向性副マイクロホン(後方単一指向特性を持つ第1副マイクロホン53a、及び前方単一指向特性を持つ第3副マイクロホン53c)と、第1副マイクロホン53a及び第3副マイクロホン53c間に配置される全指向性を持つ第2副マイクロホン53bと、音響管51の先端近傍に配置した後方単一指向特性を持つ第4副マイクロホン53dと、信号処理部54とを備える。信号処理部54は、第1フィルタ541、第2フィルタ542、第3フィルタ543、第4フィルタ544、遅延器545、及び加算器546を備える。ただし、本実施形態における第1副マイクロホン53aは、後方単一指向特性を持つため、背面感度の抑圧用としてだけでなく、側面感度抑圧用としても作用する。
ここで、第5実施形態の指向性マイクロホン50における第1乃至第3副マイクロホン53a〜53cは、それぞれ第3実施形態の指向性マイクロホン30における第1乃至第3マイクロホン33a〜33cと同様に構成される。
また、第5実施形態の指向性マイクロホン50における第4副マイクロホン53dは、第1実施形態の指向性マイクロホン10における第2副マイクロホン13bと同様に構成される。
また、第5実施形態の指向性マイクロホン50における主マイクロホン52と音響管51とを併せて構成されるラインマイクロホンは、第1実施形態における主マイクロホン12と音響管11とを併せて構成されるラインマイクロホンと同様とすることができる。従って、音響管51は、高域周波数でのみ狭角度指向性を得るための所定長の円筒状又は四角筒状に構成され、その側面に一定間隔で位相干渉用の複数の開口51aを有している。
即ち、第5実施形態の指向性マイクロホン50は、信号処理部54の処理として、第1実施形態における背面感度抑圧処理と、第4実施形態における側面感度抑圧処理を組み合わせることにより、背面及び側面感度抑圧型の正面方向に狭指向性を持つ狭指向性マイクロホンとして構成される。
主マイクロホン52の出力信号は、増幅器によりその信号電圧を増幅し、アナログ/デジタル(A/D)変換器によりA/D変換処理を施した後に(増幅器及びA/D変換器の図示略)、信号処理部54における遅延器545に入力される。同様に、第1乃至第4副マイクロホン53a〜53dの各出力信号も、増幅器によりその信号電圧を増幅し、A/D変換器によりA/D変換処理を施した後に(増幅器及びA/D変換器の図示略)、それぞれ信号処理部54における第1乃至第4フィルタ541〜544に入力される。
第1フィルタ541は、第1副マイクロホン53aから得られるデジタル出力信号に対し、指向角度及び周波数を要素とする伝達関数にて、主マイクロホンにおける背面および側面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器546に出力する。
第2フィルタ542は、第2副マイクロホン53bから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンにおける側面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器546に出力する。
第3フィルタ543は、第3副マイクロホン53cから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンにおける背面および側面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器546に出力する。
第4フィルタ544は、第4副マイクロホン53dから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンにおける背面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器546に出力する。
遅延器545は、第1乃至第4フィルタ541〜544によるフィルタ処理によってそれぞれ生じる遅延量を補償するよう、主マイクロホン52から得られるデジタル出力信号に対し遅延処理を施して、加算器546に出力する。
加算器546は、遅延器545、第1乃至第4フィルタ541〜544を経てそれぞれ得られる主マイクロホン52、第1乃至第4副マイクロホン53a〜53dのデジタル出力信号をそれぞれ入力して加算することにより、背面及び側面感度を抑圧した収音信号を生成し外部に出力する。
ここで、第1乃至第4フィルタ541〜544に関するフィルタ処理としては、前述した第1実施形態における背面感度抑圧用フィルタ処理と、第4実施形態における側面感度抑圧用フィルタ処理の設計手法をそのまま用いることができる。
ただし、本実施形態における第1副マイクロホン53aは、後方単一指向特性を持つため、背面感度の抑圧用としてだけでなく、側面感度抑圧用としても作用するため、第1フィルタ541は、第1実施形態における背面感度抑圧用フィルタ処理として設計したものと、第4実施形態における側面感度抑圧用フィルタ処理として設計したものとの線形和としたフィルタとする。
従って、図6に示す例では、信号処理部54は、第1乃至第4フィルタ541〜544によって、第1乃至第4副マイクロホン53a〜53dからそれぞれ得られるデジタル出力信号に対しデジタルフィルタ処理を施して背面及び側面感度抑圧用の信号を生成し、主マイクロホン52から得られるデジタル出力信号に対し遅延器545によって遅延処理を施して、加算器546によって加算することにより、主マイクロホン52の正面方向の感度指向特性に影響を与えずに、低周波数帯域から高周波数帯域にわたる広い周波数帯域(即ち、可聴周波数帯)で背面及び側面感度を高精度に抑圧した収音信号を生成することができる。
このようにして、第5実施形態の指向性マイクロホン50は、背面及び側面方向の感度を広帯域で高精度に抑圧した正面方向に狭指向性を有する指向性マイクロホンとして構成することができる。
〔第6実施形態〕(背面感度及び側面感度抑圧量調整型の指向性マイクロホン)
図7は、本発明による第6実施形態の指向性マイクロホン60の概略構成を示す図である。第6実施形態の指向性マイクロホン60は、背面感度及び側面感度抑圧量調整型の指向性マイクロホンとして構成される。
前述した第5実施形態では、第1実施形態における背面感度抑圧用フィルタ処理として設計したものと、第4実施形態における側面感度抑圧用フィルタ処理として設計したものとの線形和としたフィルタを利用する例を説明したが、第6実施形態では、このような線形和とせずに、背面感度抑圧用フィルタ処理の出力と、側面感度抑圧用フィルタ処理の出力とをそれぞれ減衰量を可変とする可変減衰器648a,648bを設け、背面感度抑圧量と側面感度抑圧量をユーザーにより調整可能とすることで第6実施形態の指向性マイクロホン60の指向性を可変とする。
図7に示す指向性マイクロホン60は、音響管61を利用して前方狭指向性を持つ主マイクロホン62と、音響管61の後端近傍に配置した互いに反対の指向方向を向けて近接させた一対の単一指向性副マイクロホン(後方単一指向特性を持つ第1副マイクロホン63a、及び前方単一指向特性を持つ第3副マイクロホン63c)と、第1副マイクロホン63a及び第3副マイクロホン63c間に配置される全指向性を持つ第2副マイクロホン63bと、音響管61の先端近傍に配置した後方単一指向特性を持つ第4副マイクロホン63dと、信号処理部64とを備える。信号処理部64は、第1フィルタ641、第2フィルタ642、第3フィルタ643、第4フィルタ644、第5フィルタ645、遅延器646、加算器647a,647b,649、及び可変減衰器648a,648bを備える。
ここで、第6実施形態の指向性マイクロホン60における第1乃至第4副マイクロホン63a〜63dは、それぞれ第5実施形態の指向性マイクロホン50における第1乃至第4マイクロホン53a〜53dと同様に構成される。
また、第6実施形態の指向性マイクロホン60における主マイクロホン62と音響管61とを併せて構成されるラインマイクロホンについても、第5実施形態における主マイクロホン52と音響管51とを併せて構成されるラインマイクロホンと同様とすることができる。従って、音響管61は、高域周波数でのみ狭角度指向性を得るための所定長の円筒状又は四角筒状に構成され、その側面に一定間隔で位相干渉用の複数の開口61aを有している。
即ち、第6実施形態の指向性マイクロホン60は、信号処理部64の処理として、第5実施形態と同様に、背面及び側面感度抑圧型の正面方向に狭指向性を持つ狭指向性マイクロホンとして構成されるが、これに加えて、以下に説明するように、背面感度抑圧量と側面感度抑圧量をユーザーにより調整可能とするよう構成されている。
主マイクロホン62の出力信号は、増幅器によりその信号電圧を増幅し、アナログ/デジタル(A/D)変換器によりA/D変換処理を施した後に(増幅器及びA/D変換器の図示略)、信号処理部64における遅延器646に入力される。同様に、第1乃至第4副マイクロホン63a〜63dの各出力信号も、増幅器によりその信号電圧を増幅し、A/D変換器によりA/D変換処理を施した後に(増幅器及びA/D変換器の図示略)、それぞれ信号処理部64における第1乃至第4フィルタ641〜644に入力される。
ただし、第1副マイクロホン63aのA/D変換処理を施した出力信号は、第5フィルタ645にも入力される。
第1フィルタ641は、第1副マイクロホン63aから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンにおける側面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器647aに出力する。
第2フィルタ642は、第2副マイクロホン63bから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンにおける側面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器647aに出力する。
第3フィルタ643は、第3副マイクロホン63cから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンにおける側面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器647aに出力する。
第4フィルタ644は、第4副マイクロホン63dから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンにおける背面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器647bに出力する。
第5フィルタ645は、第1副マイクロホン63aから得られるデジタル出力信号に対し、主マイクロホンにおける背面面方向の応答をキャンセルするフィルタ処理を施して、加算器647bに出力する。
加算器647aは、第1乃至第3フィルタ641〜643を経てそれぞれ得られる各デジタル出力信号をそれぞれ入力して加算することにより、側面感度を抑圧するための側面方向キャンセル信号を生成し可変減衰器648aに出力する。
加算器647bは、第4及び第5フィルタ644,645を経てそれぞれ得られる各デジタル出力信号をそれぞれ入力して加算することにより、背面感度を抑圧するための背面方向キャンセル信号を生成し可変減衰器648bに出力する。
可変減衰器648aは、加算器647aから得られる側面方向キャンセル信号の振幅を抑圧量調整信号Vat1によって調整可能とし、振幅調整した側面方向キャンセル信号を加算器649に出力する。抑圧量調整信号Vat1は、ユーザーにより調整可能なボリューム調整器(図示せず)から出力される。
可変減衰器648bは、加算器647bから得られる背面方向キャンセル信号の振幅を抑圧量調整信号Vat2によって調整可能とし、振幅調整した背面方向キャンセル信号を加算器649に出力する。抑圧量調整信号Vat2は、ユーザーにより調整可能なボリューム調整器(図示せず)から出力される。
遅延器646は、第1乃至第5フィルタ641〜645によるフィルタ処理によってそれぞれ生じる遅延量を補償するよう、主マイクロホン62から得られるデジタル出力信号に対し遅延処理を施して、加算器649に出力する。
加算器649は、遅延器646を経て得られる主マイクロホン62のデジタル出力信号と、可変減衰器648aから得られる振幅調整した側面方向キャンセル信号と、可変減衰器648bから得られる振幅調整した背面方向キャンセル信号とをそれぞれ入力して加算することにより、背面及び側面感度の抑圧量を調整可能にした収音信号を生成し外部に出力する。ここで、主マイクロホン62の出力信号は遅延器646を通過することとしたが、遅延器でなく、正面方向の周波数特性を補償するデジタルフィルタであってもよい。
ここで、第1乃至第3フィルタ641〜643に関するフィルタ処理としては、前述した第4実施形態における側面感度抑圧用フィルタ処理の設計手法をそのまま用いることができ、第4及び第5フィルタ644,645に関するフィルタ処理としては、前述した第1実施形態における背面感度抑圧用フィルタ処理の設計手法をそのまま用いることができる。従って、加算器647aは側面感度を抑圧するための側面方向キャンセル信号を生成することができ、加算器647bは背面感度を抑圧するための背面方向キャンセル信号を生成することができる。
そして、可変減衰器648a,648bが設けられているため、信号処理部64から出力される収音信号として、背面及び側面感度の抑圧量を個別に調整可能としている。
図8(a)乃至図8(k)は、それぞれ本発明による第6実施形態の指向性マイクロホン60における主マイクロホン62の指向性方向(前方正面方向)をθ=0°として0°≦θ≦360°(即ち、0°≦|θ|≦180°)に関する感度指向特性のシミュレーション結果を示す図である。特に、図8では、4kHz以下の周波数帯域に背面及び側面感度抑圧処理を加えた、長さ20cmの音響管61を持つラインマイクロホンの感度指向特性のシミュレーション結果を示している。
図8(a)乃至図8(k)において、図示するD1の特性は、背面及び側面感度抑圧処理を加えていない場合の感度指向特性であり、図示するD2の特性は、背面及び側面感度抑圧処理を加えた場合の感度指向特性である。特に背面及び側面感度が現れやすい4kHz以下の周波数帯域においても、好適に背面及び側面の感度が抑圧されていることが分かる。
以上のように、本発明に係る指向性マイクロホンによれば、例えば従来の背面感度抑圧型マイクロホンでは周波数毎の緻密な調整ができないため、高精度に抑圧できる帯域が制限されてしまう問題を解消することができる。特に、主マイクロホンとしてラインマイクロホンを用いた場合には、従来技法では、音響管の影響が少ない低い周波数帯域しか背面感度の抑圧効果を得ることができないため、積極的に背面感度抑圧効果を得ようとした場合には、短い音響管(例えば45mm)によるラインマイクロホンに適用せざるを得なかった。
一方、本発明に係る指向性マイクロホンによれば、周波数毎により細かな最適化を行うことができるため、音響管の影響が大きくなる中〜高帯域においても背面感度抑圧効果を得ることができ、より長い音響管を用いたラインマイクロホンを用いることも可能とし、より狭指向性となる狭指向性マイクロホンを構成することができる。
また、本発明に係る指向性マイクロホンによれば、短い音響管によるラインマイクロホンでは低い周波数において側面の感度を十分に抑圧できないという問題も解消でき、より指向性の鋭いラインマイクロホンを構成することができる。
また、本発明に係る指向性マイクロホンによれば、背面及び側面感度の抑圧量を個別に調整可能になるため、手段操作による用途だけでなく、可変指向性マイク付きビデオカメラに適用することができる。
〔可変指向性マイク付きビデオカメラ〕
図9は、本発明による第6実施形態の指向性マイクロホン60を用いて、その指向性をズームに合わせて変更可能とする、本発明による一実施形態の可変指向性マイク付きビデオカメラ100の概略構成を示す図である。
可変指向性マイク付きビデオカメラ100は、本発明による第6実施形態の指向性マイクロホン60と、ズーム機能付き光学レンズ110と、撮像素子を含む撮像制御部111と、出力部112と、収音制御部113とを備える。
撮像制御部111は、ユーザーの操作指示を受け付けてズーム機能付き光学レンズ110に対しズーム制御信号を出力して画角θV1〜θV2を決定するズーム動作を行わせ、このズーム動作を経て被写体を撮像した映像の信号を出力部112に出力する。
撮像制御部111から出力されるズーム制御信号は収音制御部113にも入力される。
収音制御部113は、画角θV1〜θV2となるズーム動作を行うためのズーム制御信号が入力されると、当該画角が狭いときは指向性を背面及び側面感度の抑圧量を大きくする抑圧量調整信号Vat1,Vat2を指向性マイクロホン60に出力し、当該画角が広いときは指向性を背面及び側面感度の抑圧量を小さくする抑圧量調整信号Vat1,Vat2を指向性マイクロホン60に出力する。
指向性マイクロホン60は、ズーム制御信号に応じて背面及び側面感度の抑圧量を自動調整した収音信号を生成し、出力部112に出力する。
出力部112は、ズーム制御信号に応じた映像と収音信号を、表示再生部(図示せず)に対し表示再生する。
これにより、可変指向性マイク付きビデオカメラ100は、指向性マイクロホン60の指向性について背面と側面の双方の感度をズームに合わせて高精度に抑圧して自動的に変更可能とした構成となる。
従って、本発明に係る可変指向性マイク付きビデオカメラ100によれば、注目した被写体のクローズアップに合わせて当該被写体の発する音声以外の周囲雑音を高精度に抑圧することができるようになる。
本発明に係る指向性マイクロホン及び可変指向性マイク付きビデオカメラは、上述した実施形態の例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によってのみ制限される。