JP2019029380A - 非水系リチウム蓄電素子用の捲回電極体の乾燥方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】活物質以外のリチウム化合物及び活性炭を含む正極前駆体を有する捲回電極体の、乾燥時の温度を低く抑えつつ、かつ溶媒を効率的に除去することができる方法を提供すること。【解決手段】非水系リチウム蓄電素子用の捲回電極体の乾燥方法であって、以下の工程:(a)活物質以外のリチウム化合物及び活性炭を含む少なくとも1つの正極前駆体と、少なくとも1つの負極とを、少なくとも1つのセパレータを介して積層及び捲回して捲回電極体を得る工程と;(b)上記捲回電極体を容器に収容する工程と;(c)上記容器内の圧力を0.5kPa以下に減圧し、温度を50℃以上130℃以下に昇温して保持する工程と;(d)上記容器内に不活性ガスを導入して上記容器内の圧力を50kPa以上に昇圧して保持する工程と;(e)上記容器内の圧力を0.5kPa以下に減圧する工程と;(f)工程(d)及び(e)を更に少なくとも1回繰り返す工程とを含む、上記方法。【選択図】なし

Description

本発明は非水系リチウム蓄電素子用の捲回電極体の乾燥方法に関する。
近年、地球環境の保全及び省資源を目指すエネルギーの有効利用の観点から、風力発電の電力平滑化システム又は深夜電力貯蔵システム、太陽光発電技術に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車用の蓄電システム等が注目を集めている。
これらの蓄電システムに用いられる電池の第一の要求事項は、エネルギー密度が高いことである。このような要求に対応可能な高エネルギー密度電池の有力候補として、リチウムイオン電池の開発が精力的に進められている。
第二の要求事項は、出力特性が高いことである。例えば、高効率エンジンと蓄電システムとの組み合わせ(例えば、ハイブリッド電気自動車)又は燃料電池と蓄電システムとの組み合わせ(例えば、燃料電池電気自動車)において、加速時に高い出力放電特性を発揮する蓄電システムが要求されている。
現在、高出力蓄電デバイスとしては、電気二重層キャパシタ、ニッケル水素電池等が開発されている。
電気二重層キャパシタのうち、電極に活性炭を用いたものは、0.5〜1kW/L程度の出力特性を有する。この電気二重層キャパシタは、出力特性が高いだけでなく、耐久性(サイクル特性及び高温保存特性)もまた高く、上記の高出力が要求される分野で最適のデバイスであると考えられてきた。しかしながら、そのエネルギー密度は1〜5Wh/L程度に過ぎない。そのため、更なるエネルギー密度の向上が必要である。
一方、現在ハイブリッド電気自動車で一般に採用されているニッケル水素電池は、電気二重層キャパシタと同等の高出力を有し、かつ160Wh/L程度のエネルギー密度を有している。しかしながら、そのエネルギー密度及び出力特性をより一層高めるとともに、耐久性(特に、高温における安定性)を高めるための研究が精力的に進められている。
また、リチウムイオン電池においても、高出力化に向けての研究が進められている。例えば、放電深度(すなわち、蓄電素子の放電容量に対する放電量の割合(%))50%において3kW/Lを超える高出力が得られるリチウムイオン電池が開発されている。しかしながら、そのエネルギー密度は100Wh/L以下であり、リチウムイオン電池の最大の特徴である高エネルギー密度を敢えて抑制した設計である。また、その耐久性(サイクル特性及び高温保存特性)は、電気二重層キャパシタに比べ劣る。そのため、そのようなリチウムイオン電池は、実用的な耐久性を持たせるために、放電深度が0〜100%の範囲よりも狭い範囲で使用される。実際に使用できる容量は更に小さくなるから、耐久性をより一層向上させるための研究が精力的に進められている。
上記のように、高エネルギー密度、高出力特性、及び高耐久性を兼ね備えた蓄電素子の実用化が強く求められている。しかしながら、上述した既存の蓄電素子には、それぞれ一長一短がある。そのため、これらの技術的要求を充足する新たな蓄電素子が求められている。その有力な候補として、リチウムイオンキャパシタと呼ばれる蓄電素子が注目され、開発が盛んに行われている。
リチウムイオンキャパシタは、リチウム塩を含む非水系電解液を使用する蓄電素子(以下、「非水系リチウム蓄電素子」ともいう。)の一種であって、正極においては約3V以上で電気二重層キャパシタと同様の陰イオンの吸着及び脱着による非ファラデー反応、負極においてはリチウムイオン電池と同様のリチウムイオンの吸蔵及び放出によるファラデー反応によって、充放電を行う蓄電素子である。
上述の蓄電素子に一般的に用いられる電極材料とその特徴をまとめると、一般的に、電極に活性炭等の材料を用い、活性炭表面のイオンの吸着及び脱離(非ファラデー反応)により充放電を行う場合は、高出力かつ高耐久性が得られるが、エネルギー密度が低くなる(例えば1倍とする。)。一方、電極に酸化物や炭素材料を用い、ファラデー反応により充放電を行う場合は、エネルギー密度が高くなる(例えば、活性炭を用いた非ファラデー反応の10倍とする。)が、耐久性及び出力特性に課題がある。
これらの電極材料の組合せとして、電気二重層キャパシタは、正極及び負極に活性炭(エネルギー密度1倍)を用い、正負極共に非ファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、したがって高出力かつ高耐久性を有するが、エネルギー密度が低い(正極1倍×負極1倍=1)という特徴がある。
リチウムイオン二次電池は、正極にリチウム遷移金属酸化物(エネルギー密度10倍)、負極に炭素材料(エネルギー密度10倍)を用い、正負極共にファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、したがって高エネルギー密度(正極10倍×負極10倍=100)を有するが、出力特性及び耐久性に課題がある。更に、ハイブリッド電気自動車等で要求される高耐久性を満足させるためには放電深度を制限しなければならず、リチウムイオン二次電池では、そのエネルギーの10〜50%しか使用できない。
リチウムイオンキャパシタは、正極に活性炭(エネルギー密度1倍)、負極に炭素材料(エネルギー密度10倍)を用い、正極では非ファラデー反応、負極ではファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、したがって、電気二重層キャパシタ及びリチウムイオン二次電池の特徴を兼ね備えた非対称キャパシタである。そして、リチウムイオンキャパシタは高出力かつ高耐久性でありながら、高エネルギー密度(正極1倍×負極10倍=10)を有し、リチウムイオン二次電池の様に放電深度を制限する必要がないことが特徴である。
正極と負極とセパレータとの捲回電極体を外装体内に含む、一般に「角型」と呼ばれる種類の非水系リチウム蓄電素子の製造においては、正極と負極とをセパレータを介して積層及び捲回して捲回電極体を得た後、正極及び負極活物質層の形成に用いた溶媒を系中から除去するために、捲回電極体を乾燥させることを含む。
例えば、特許文献1は、正極と負極とをセパレータを介して積層及び捲回して捲回電極体を得た後、非水電解液を注入する前に、誘電加熱により捲回電極体を加熱して乾燥させることを含む、非水系リチウム蓄電素子の製造方法を記載している。
特開2004−303560号公報
上記で説明したリチウム蓄電素子の正極については、様々な検討が行われている。近年、発明者らは、活物質以外のリチウム化合物を含む正極前駆体を用いて電極体を製造し、そのリチウム化合物を電気的に分解することによってリチウムイオンを負極にドープする、新たなリチウムドープ方法を開発してきた。その一例として、活物質以外のリチウム化合物及び活性炭を含む正極前駆体を用いた、非水系リチウム蓄電素子、例えばリチウムイオン二次電池の開発を進めてきた。しかしながら、そのような活物質以外のリチウム化合物及び活性炭を含む正極前駆体を用いて、いわゆる角型の非水系リチウム蓄電素子を製造する場合、特許文献1に記載されているような従来の捲回電極体の乾燥方法では、溶媒を十分に除去することが困難であることが分かった。系中に溶媒が残存すると、非水系リチウム蓄電素子の特性、例えば自己放電特性が劣化することがあるため好ましくない。溶媒を効率的に除去する方法として、乾燥時の温度を上げることが考えられるが、しかしながら、正極前駆体、負極、及びセパレータ等の蓄電素子の部材、特にセパレータが高温によって変形する等の悪影響を受けることがあるため、乾燥時の温度には制限がある。したがって、本発明は、活物質以外のリチウム化合物及び活性炭を含む正極前駆体を有する捲回電極体の、乾燥時の温度を低く抑えつつ、かつ溶媒を効率的に除去することができる方法を提供することを目的とする。
上記課題は以下の技術的手段により解決される。
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである:
[1]
非水系リチウム蓄電素子用の捲回電極体の乾燥方法であって、以下の工程:
(a)活物質以外のリチウム化合物及び活性炭を含む少なくとも1つの正極前駆体と、少なくとも1つの負極とを、少なくとも1つのセパレータを介して積層及び捲回して捲回電極体を得る工程と;
(b)上記捲回電極体を容器に収容する工程と;
(c)上記容器内の圧力を0.5kPa以下に減圧し、温度を50℃以上130℃以下に昇温して保持する工程と;
(d)上記容器内に不活性ガスを導入して上記容器内の圧力を50kPa以上に昇圧して保持する工程と;
(e)上記容器内の圧力を0.5kPa以下に減圧する工程と;
(f)工程(d)及び(e)を更に少なくとも1回繰り返す工程と
を含む、上記方法。
[2]
工程(d)において上記容器内に導入される上記不活性ガスの温度は50℃以上である、項目1に記載の方法。
[3]
工程(c)に記載の圧力及び温度は1分以上60分以下保持される、項目1又は2に記載の方法。
[4]
工程(d)に記載の圧力は1分以上20分以下保持される、項目1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[5]
工程(f)の後、上記容器内の圧力を0.5kPa以下のまま更に5時間以上保持する工程を更に含む、項目1〜4のいずれか一項に記載の方法。
本発明によれば、活物質以外のリチウム化合物及び活性炭を含む正極前駆体を有する捲回電極体の乾燥方法であって、乾燥時の温度を低く抑えつつ、かつ溶媒を効率的に除去することができる方法を提供することができる。本発明を用いて乾燥させた捲回電極体を含む非水系リチウム蓄電素子は、残存する溶媒がより少ないため性能が劣化しにくい。
本発明によれば、扁平型に捲回された電極体からなる非水系リチウム蓄電素子において、高負荷充放電サイクルにおける負極の曲部での金属リチウムの析出を抑制することができ、内部短絡による微短絡を防ぐことができる非水系リチウム蓄電素子が提供される。
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)を詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。本実施形態の各数値範囲における上限値及び下限値は任意に組み合わせて任意の数値範囲を構成することができる。
非水系リチウム蓄電素子は一般に、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを主な構成要素とする。電解液としては、リチウムイオンを含む有機溶媒(以下、「非水系電解液」ともいう。)を用いる。
<非水系リチウム蓄電素子用の捲回電極体の乾燥方法>
[組立工程]
本実施形態の非水系リチウム蓄電素子用の捲回電極体の乾燥方法は、活物質以外のリチウム化合物及び活性炭を含む少なくとも1つの正極前駆体(本願明細書において、単に「正極前駆体」ともいう。)と、少なくとも1つの負極とを、少なくとも1つのセパレータを介して積層及び捲回して捲回電極体を得る、工程(a)を含む。組立工程では、例えば、帯状にカットした正極前駆体及び負極を、帯状のセパレータを介して捲回した捲回体に、正極端子及び負極端子を接続して、捲回電極体を作製することができる。捲回電極体は、例えば、平板状の板を軸に捲回する方法や、円柱状の巻芯を軸に捲回した後に扁平状に押しつぶす方法で作製された、扁平捲回電極体であってもよい。
正極端子及び負極端子の接続の方法は特に限定されないが、抵抗溶接や超音波溶接などの方法を用いることができる。
本実施形態の非水系リチウム蓄電素子用の捲回電極体の乾燥方法は、工程(a)で得られた捲回電極体を容器に収容する工程(b)を含む。容器は、下記の工程(c)〜(g)で説明する温度及び圧力を実現することができれば、任意の容器を使用することができる。好ましくは、製造効率の観点から、多量の捲回電極体を収容でき、真空引きが可能な乾燥機を容器として用いることができる。また、捲回電極体は、乾燥する前に正負極端子を溶接し、封口板に取り付けた後、外装体に捲回電極体を収容した後、減圧及び不活性ガスの導入のための開口を残して、シールすることもできる。捲回電極体を外装体へ収容した状態で乾燥することで、乾燥による捲回電極体の膨張を抑制することができるため、好ましい。
[乾燥工程]
本実施形態の非水系リチウム蓄電素子用の捲回電極体の乾燥方法は、工程(b)で得られた、捲回電極体を含む容器内の圧力を0.5kPa以下に減圧し、温度を50℃以上130℃以下に昇温して保持する、工程(c)を含む。工程(c)における圧力は、好ましくは0.3kPa以下、より好ましくは0.1kPa以下、更に好ましくは0.05kPa以下であってよい。工程(c)の温度範囲は、好ましくは70℃以上125℃以下、より好ましくは80℃以上120℃以下、更に好ましくは90℃以上110℃以下であってよい。工程(c)における圧力及び温度が上記範囲内であれば、溶媒をより効率的に除くことができる。減圧及び昇温の順番は限定されず、減圧してから昇温してもよく、昇温してから減圧してもよく、昇温と減圧を同時に行ってもよい。
工程(c)における圧力及び温度の保持時間は、好ましくは1分以上60分以下、より好ましくは2分以上30分以下、更に好ましくは5分以上15分以下である。工程(c)における圧力及び温度の保持時間が上記範囲内であれば、溶媒をより効率的に除くことができる。
本実施形態の非水系リチウム蓄電素子用の捲回電極体の乾燥方法は、工程(c)の後、容器内に不活性ガスを導入して容器内の圧力を50kPa以上に昇圧して保持する、工程(d)を含む。工程(d)における圧力の下限値は、好ましくは60kPa以上、より好ましくは70kPa以上、更に好ましくは80kPa以上であり、上限値は、好ましくは100kPa以下、より好ましくは95kPa以下、更に好ましくは90kPa以下であってよい。工程(d)における圧力が上記範囲内であれば、溶媒をより効率的に除くことができる。
工程(d)における不活性ガスの種類は、非水系リチウム蓄電素子に用いられる、集電箔や電極活物質などの部材を劣化させるものでなければ、特には限定されない。取り扱い安さやコストの観点から、窒素やアルゴンなどが好ましく、さらに好ましくは窒素である。
工程(d)の温度範囲は、工程(c)の温度範囲と同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、工程(d)の温度範囲は、好ましくは60℃以上120℃以下、より好ましくは70℃以上115℃以下、更に好ましくは80℃以上110℃以下であってよい。工程(d)の温度範囲が工程(c)の温度範囲と同じである場合、工程(c)から(d)に移行する際、工程(c)の温度範囲を保ってもよく;又は不活性ガスの導入によって工程(c)の温度範囲から外れたあと、再び工程(c)の温度範囲内に調節してもよい。
工程(d)において容器内に導入される不活性ガスの温度の下限値は、好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上であり、上限値は、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下であってよい。工程(d)において導入される不活性ガスの温度が上記範囲内であれば、熱効率の観点から好ましく、また、溶媒をより効率的に除くことができる。
工程(d)における圧力の保持時間(条件として更に温度を設定する場合、圧力及び温度の保持時間)は、好ましくは1分以上20分以下、より好ましくは2分以上15分以下、更に好ましくは5分以上10分以下である。工程(d)における圧力の保持時間が上記範囲内であれば、溶媒をより効率的に除くことができる。
本実施形態の非水系リチウム蓄電素子用の捲回電極体の乾燥方法は、工程(d)の後、容器内の圧力を0.5kPa以下に減圧する、工程(e)を含む。工程(e)における圧力は、好ましくは0.3kPa以下、より好ましくは0.1kPa以下、更に好ましくは0.05kPa以下であってよい。工程(e)における圧力が上記範囲内であれば、溶媒をより効率的に除くことができる。
工程(e)の温度範囲は、工程(d)の温度範囲と同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、工程(e)の温度範囲は、好ましくは60℃以上120℃以下、より好ましくは70℃以上115℃以下、更に好ましくは80℃以上110℃以下であってよい。工程(e)の温度範囲が工程(d)の温度範囲と同じである場合、工程(d)から(e)に移行する際、工程(d)の温度範囲を保ってもよく;又は減圧によって工程(d)の温度範囲から外れたあと、再び工程(d)の温度範囲内に調節してもよい。
工程(e)における圧力の保持時間(条件として更に温度を設定する場合、圧力及び温度の保持時間)は、好ましくは1分以上20分以下、より好ましくは2分以上15分以下、更に好ましくは5分以上10分以下である。工程(e)における圧力の保持時間が上記範囲内であれば、溶媒をより効率的に除くことができる。
本実施形態の非水系リチウム蓄電素子用の捲回電極体の乾燥方法は、工程(e)の後、上記で説明した工程(d)及び(e)を更に少なくとも1回繰り返す、工程(f)を含む。溶媒をより効率的に除く観点から、工程(d)及び(e)を、更に少なくとも1回繰り返すことが好ましく、更に少なくとも2回繰り返すことがより好ましく、更に少なくとも5回繰り返すことが更に好ましい。
それぞれの工程(e)の温度範囲は、それぞれの工程(d)の温度範囲と同じであってもよく、一部又は全部において異なっていてもよい。工程(d)及び(e)の温度範囲は、上述したとおりである。
溶媒をより効率的に除く観点から、工程(f)の後、容器内の圧力を0.5kPa以下のまま更に5時間以上保持することが好ましく、8時間以上保持することがより好ましく、10時間以上保持することが更に好ましい。
本願発明は、上記工程(a)〜(f)を含むことにより、乾燥温度を130℃以下に抑えつつ、効率的に溶媒を除去することができる。その理由としては、理論に限定されないが、不活性ガスの導入と真空引きを繰り返すことで、不活性ガスが溶媒分子を捲回電極体外に拡散するためのキャリアガスとして機能し、単に真空下に保持するのに比べ、効率よく乾燥できるためと考えられる。更に、工程(d)にて加熱した不活性ガスを導入し、高温状態で保持することで、不活性ガスが熱伝達の媒体としても機能し、捲回電極体を効率的に加熱できるためと考えられる。
本実施形態による捲回電極体の乾燥方法を行った後、捲回電極体に残存する溶媒の量は、正極活物質層または負極活物質層の合計質量あたり、1.5質量%以下であることが好ましい。残存溶媒が1.5質量%より多いと、系内に溶媒が残存し、自己放電特性を悪化させるため好ましくない。
乾燥した捲回電極体は、好ましくは露点−40℃以下のドライ環境下にて、金属缶やラミネートフィルムに代表される外装体の中に収納し、非水系電解液を注液するための開口部を1方だけ残して封止することが好ましい。露点が−40℃より高いと、捲回電極体に水分が付着してしまい、系内に水が残存し、自己放電特性を悪化させるため好ましくない。外装体の封止方法は特に限定されないが、ラミネートフィルムであればヒートシールやインパルスシール、金属缶であればレーザー溶接などの方法を用いることができる。
<非水系リチウム蓄電素子の製造方法>
[注液、含浸、封止工程]
上記で得られた乾燥した捲回電極体を用いて、以下のようにして非水系リチウム蓄電素子を製造することができる。外装体の中に収納された捲回電極体に、非水系電解液を注液する。注液後に、更に含浸を行い、正極前駆体、負極、及びセパレータを非水系電解液で十分に浸すことが望ましい。正極前駆体、負極、及びセパレータのうちの少なくとも一部に電解液が浸っていない状態では、後述するリチウムドープ工程において、リチウムドープが不均一に進むため、得られる非水系リチウム蓄電素子の抵抗が上昇したり、耐久性が低下したりする。含浸の方法としては、特に制限されないが、例えば、注液後の捲回電極体を、外装体が開口した状態で、減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にし、再度大気圧に戻す方法等を用いることができる。含浸後に、外装体が開口した状態の捲回電極体を減圧しながら封止することで密閉することができる。
[リチウムドープ工程]
リチウムドープ工程では、正極前駆体と負極との間に電圧を印加して、正極前駆体中のリチウム化合物を分解してリチウムイオンを放出し、負極でリチウムイオンを還元することにより負極活物質層にリチウムイオンをプレドープすることが好ましい。
リチウムドープ工程において、正極前駆体中のリチウム化合物の酸化分解に伴い、CO等のガスが発生する。そのため、電圧を印加する際には、発生したガスを外装体の外部に放出する手段を講ずることが好ましい。この手段としては、例えば、外装体の一部を開口させた状態で電圧を印加する方法;外装体の一部に予めガス抜き弁、ガス透過フィルム等の適宜のガス放出手段を設置した状態で電圧を印加する方法;等を挙げることができる。
[エージング工程]
リチウムドープ工程後に、捲回電極体にエージングを行うことが好ましい。エージング工程では、電解液中の溶媒が負極で分解し、負極表面にリチウムイオン透過性の固体高分子被膜が形成される。
エージングの方法としては、特に制限されないが、例えば高温環境下で電解液中の溶媒を反応させる方法等を用いることができる。
[ガス抜き工程]
エージング工程後に、更にガス抜きを行い、電解液、正極、及び負極中に残存しているガスを確実に除去することが好ましい。電解液、正極、及び負極の少なくとも一部にガスが残存している状態では、イオン伝導が阻害されるため、得られる非水系リチウム蓄電素子の抵抗が上昇してしまう。
ガス抜きの方法としては、特に制限されないが、例えば、外装体を開口した状態で捲回電極体を減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にする方法等を用いることができる。ガス抜き後、外装体をシールすることにより外装体を密閉し、非水系リチウム蓄電素子を作製することができる。
<正極>
本実施形態における正極は、正極集電体と、その片面又は両面上に設けられた、正極活物質を含む正極活物質層とを有する。正極活物質は、活性炭を含む。
本実施形態における正極は、蓄電素子を組み立てる前の正極前駆体として、活物質以外のリチウム化合物及び活性炭を含む。後述のように、本実施形態では蓄電素子を組み立てる工程において、負極にリチウムイオンをプレドープすることが好ましい。本実施形態におけるプレドープ方法としては、リチウム化合物を含む正極前駆体と、負極と、セパレータと、非水系電解液とを用いて蓄電素子を組み立てた後に、正極前駆体と負極との間に電圧を印加することが好ましい。上記リチウム化合物は、正極前駆体の正極集電体上に形成された正極活物質層内に含有されていることが好ましい。
本願明細書では、リチウムドープ工程前における正極を「正極前駆体」、リチウムドープ工程後における正極を「正極」と定義する。
[正極活物質層]
正極活物質層は正極活物質を含み、これ以外に、必要に応じて、導電性フィラー、結着剤、及び分散安定剤等の任意成分を含んでいてもよい。正極活物質は、炭素材料として活性炭を含む。
正極前駆体の正極活物質層は、リチウム化合物を含む。
[正極活物質]
正極活物質は、蓄電素子の充放電時にファラデー反応又は非ファラデー反応に関与する物質であり、活性炭以外の炭素材料を含んでいてもよい。そのような炭素材料としては、好ましくはカーボンナノチューブ、導電性高分子、及び多孔性の炭素材料が挙げられる。正極活物質は、2種類以上の材料を混合して含んでもよく、活性炭及びその他の炭素材料以外にも、例えばリチウムと遷移金属との複合酸化物等を含んでもよい。
正極活物質の合計質量に対する活性炭の含有率は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。炭素材料の含有率は100質量%であってもよいが、他の材料との併用による効果を良好に得る観点から、例えば、好ましくは90質量%以下であり、80質量%以下であってもよい。
活性炭の種類及びその原料は特に制限されない。しかしながら、高い入出力特性と、高いエネルギー密度とを両立させるために、活性炭の細孔を最適に制御することが好ましい。具体的には、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下(すなわち、200nm以上5000nm以下)の細孔に由来するメソ孔量をV(cc/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をV(cc/g)とするとき、
(1)高い入出力特性を得るためには、0.3<V≦0.8、及び0.5≦V≦1.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が1,500m/g以上3,000m/g以下である活性炭(以下、「活性炭1」ともいう。)が好ましく、また、
(2)高いエネルギー密度を得るためには、0.8<V≦2.5、及び0.8<V≦3.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が2,300m/g以上4,000m/g以下である活性炭(以下、「活性炭2」ともいう。)が好ましい。
以下、(1)活性炭1及び(2)活性炭2について、個別に順次説明していく。
(活性炭1)
活性炭1のメソ孔量Vは、正極材料を蓄電素子に組み込んだときの入出力特性を大きくする点で、0.3cc/gより大きい値であることが好ましい。一方で、正極の嵩密度の低下を抑える点から、活性炭1のVは0.8cc/g以下であることが好ましい。活性炭1のVは、より好ましくは0.35cc/g以上0.7cc/g以下、更に好ましくは0.4cc/g以上0.6cc/g以下である。
活性炭1のマイクロ孔量Vは、活性炭の比表面積を大きくし、容量を増加させるために、0.5cc/g以上であることが好ましい。一方で、活性炭の嵩を抑え、電極としての密度を増加させ、単位体積当たりの容量を増加させる点から、活性炭1のVは1.0cc/g以下であることが好ましい。活性炭1のVは、より好ましくは0.6cc/g以上1.0cc/g以下、更に好ましくは0.8cc/g以上1.0cc/g以下である。
活性炭1のマイクロ孔量Vに対するメソ孔量Vの比(V/V)は、0.3≦V/V≦0.9の範囲であることが好ましい。すなわち、高容量を維持しながら出力特性の低下を抑えることができる程度に、マイクロ孔量に対するメソ孔量の割合を大きくするという点から、活性炭1のV/Vが0.3以上であることが好ましい。一方で、高出力特性を維持しながら容量の低下を抑えることができる程度に、メソ孔量に対するマイクロ孔量の割合を大きくするという点から、活性炭1のV/Vは0.9以下であることが好ましい。活性炭1のV/Vの範囲は、より好ましくは0.4≦V/V≦0.7、更に好ましくは0.55≦V/V≦0.7である。
活性炭1の平均細孔径は、得られる蓄電素子の出力を増大させる点から、17Å以上であることが好ましく、18Å以上であることがより好ましく、20Å以上であることが更に好ましい。また容量を増大させる点から、活性炭1の平均細孔径は25Å以下であることが好ましい。
活性炭1のBET比表面積は、1,500m/g以上3,000m/g以下であることが好ましく、1,500m/g以上2,500m/g以下であることがより好ましい。活性炭1のBET比表面積が1,500m/g以上の場合には、良好なエネルギー密度が得られ易く、他方、活性炭1のBET比表面積が3,000m/g以下の場合には、電極の強度を保つためにバインダーを多量に入れる必要がないので、電極体積当たりの性能が高くなる。
上記のような特徴を有する活性炭1は、例えば、以下に説明する原料及び処理方法を用いて得ることができる。
本実施形態では、活性炭1の原料として用いられる炭素源は、特に限定されるものではない。活性炭1の炭素源としては、例えば、木材、木粉、ヤシ殻、パルプ製造時の副産物、バガス、廃糖蜜等の植物系原料;泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、石油蒸留残渣成分、石油ピッチ、コークス、コールタール等の化石系原料;フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂、セルロイド、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の各種合成樹脂;ポリブチレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン等の合成ゴム;その他の合成木材、合成パルプ等、及びこれらの炭化物が挙げられる。これらの原料の中でも、量産対応及びコストの観点から、ヤシ殻、木粉等の植物系原料、及びそれらの炭化物が好ましく、ヤシ殻炭化物が特に好ましい。
これらの原料から活性炭1を作製するための炭化及び賦活の方式としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の既知の方式を採用できる。
上記炭化方法により得られた炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法が好ましく用いられる。賦活ガスとして水蒸気又は二酸化炭素を使用する方法がより好ましい。
この賦活方法では、賦活ガスを0.5〜3.0kg/h、好ましくは0.7〜2.0kg/hの割合で供給しながら、炭化物を3〜12時間、好ましくは5〜11時間、更に好ましくは6〜10時間かけて800〜1,000℃まで昇温して賦活することが好ましい。
更に、炭化物の賦活処理に先立ち、予め炭化物を1次賦活してもよい。この1次賦活では、通常、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて、900℃未満の温度で炭素材料を焼成してガス賦活することが好ましい。
炭化方法における焼成温度及び焼成時間と、賦活方法における賦活ガス供給量、昇温速度及び最高賦活温度とを適宜組み合わせることにより、本実施形態において好ましい、上記の特徴を有する活性炭1を製造することができる。
活性炭1の平均粒子径は、2〜20μmであることが好ましい。活性炭1の平均粒子径が2μm以上であると、活物質層の密度が高いために電極体積当たりの容量が高くなる傾向がある。活性炭1の平均粒子径が小さいと耐久性が低くなる場合があるが、平均粒子径が2μm以上であれば耐久性が低くなり難い。活性炭1の平均粒子径が20μm以下であると、高速充放電に適合し易くなる傾向がある。活性炭1の平均粒子径は、より好ましくは2〜15μmであり、更に好ましくは3〜10μmである。
(活性炭2)
活性炭2のメソ孔量Vは、正極材料を蓄電素子に組み込んだときの出力特性を大きくする観点から、0.8cc/gより大きい値であることが好ましい一方、蓄電素子の容量の低下を抑える観点から、2.5cc/g以下であることが好ましい。活性炭2のVは、より好ましくは1.00cc/g以上2.0cc/g以下、さらに好ましくは1.2cc/g以上1.8cc/g以下である。
活性炭2のマイクロ孔量Vは、活性炭の比表面積を大きくし、容量を増加させるために、0.8cc/gより大きい値であることが好ましい。活性炭の電極としての密度を増加させ、単位体積当たりの容量を増加させるという観点から、活性炭2のVは3.0cc/g以下であることが好ましい。活性炭2のVは、より好ましくは1.0cc/gより大きく2.5cc/g以下、更に好ましくは1.5cc/g以上2.5cc/g以下である。
上述したメソ孔量及びマイクロ孔量を有する活性炭2は、従来の電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ用として使用されていた活性炭よりもBET比表面積が高いものである。活性炭2のBET比表面積の具体的な値としては、2,300m/g以上4,000m/g以下であることが好ましく、3,000m/g以上4,000m/g以下であることがより好ましく、3,200m/g以上3,800m/g以下であることが更に好ましい。活性炭2のBET比表面積が2,300m/g以上の場合には、良好なエネルギー密度が得られ易く、活性炭2のBET比表面積が4,000m/g以下の場合には、電極の強度を保つためにバインダーを多量に入れる必要がないので、電極体積当たりの性能が高くなる。
上記のような特徴を有する活性炭2は、例えば以下に説明するような原料及び処理方法を用いて得ることができる。
活性炭2の原料として用いられる炭素質材料としては、活性炭原料として通常用いられる炭素源であれば特に限定されるものではなく、例えば、木材、木粉、ヤシ殻等の植物系原料;石油ピッチ、コークス等の化石系原料;フェノール樹脂、フラン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂等の各種合成樹脂等が挙げられる。これらの原料の中でも、フェノール樹脂、及びフラン樹脂は、高比表面積の活性炭2を作製するのに適しており特に好ましい。
これらの原料を炭化する方式、或いは賦活処理時の加熱方法としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の公知の方式が挙げられる。加熱時の雰囲気は窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス、又はこれらの不活性ガスを主成分として他のガスとの混合したガスが用いられる。炭化温度は400〜700℃程度、炭化時間は0.5〜10時間程度で焼成する方法が一般的である。
炭化処理後の炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法、及びアルカリ金属化合物と混合した後に加熱処理を行うアルカリ金属賦活方挙げられる。高比表面積の活性炭を作製するには、アルカリ金属賦活法が好ましい。
この賦活方法では、炭化物と、KOH、NaOH等のアルカリ金属水酸化物との質量比が1:1以上(アルカリ金属水酸化物の量が、炭化物の量と同じかこれよりも多い量)となるように混合した後に、不活性ガス雰囲気下で600〜900℃の範囲において、0.5〜5時間加熱を行い、その後アルカリ金属化合物を酸及び水により洗浄除去し、更に乾燥を行うことが好ましい。
マイクロ孔量を大きくし、メソ孔量を大きくしないためには、賦活する際に炭化物の量を多めにしてKOHと混合するとよい。マイクロ孔量及びメソ孔量の双方を大きくするためには、KOHの量を多めに使用するとよい。また、主としてメソ孔量を大きくするためには、アルカリ賦活処理を行った後に水蒸気賦活を行うことが好ましい。
活性炭2の平均粒子径は、好ましくは2μm以上20μm以下、より好ましくは3μm以上10μm以下である。
(活性炭の使用態様)
活性炭1及び2は、それぞれ、単一の活性炭であってもよいし、2種以上の活性炭の混合物であって、混合物全体として上記の特徴を示すものであってもよい。
活性炭1及び2は、これらのうちのいずれか一方を選択して使用してもよいし、両者を混合して使用してもよい。
正極活物質は、活性炭1及び2以外の材料、例えば、上記特定のV及び/若しくはVを有さない活性炭、又は活性炭以外の材料、例えば、リチウムと遷移金属との複合酸化物等を含んでもよい。例示の態様において、活性炭1の含有量、又は活性炭2の含有量、又は活性炭1及び2の合計含有量が、それぞれ、全正極活物質の50質量%より多いことが好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%であることがより更に好ましい。
正極活物質層における正極活物質の合計含有割合は、正極前駆体における正極活物質層の全質量を基準として、35質量%以上95質量%以下であることが好ましい。正極活物質の合計含有割合の下限としては、45質量%以上であることがより好ましく、55質量%以上であることがさらに好ましい。一方、正極活物質の合計含有割合の上限としては、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることが更に好ましい。正極活物質の合計含有割合をこの範囲にすることにより、好適な充放電特性を発揮する。
(リチウム化合物)
本明細書では、リチウム化合物は、リチウムを含有する物質を意味するが、蓄電素子の充放電時に電極中でファラデー反応又は非ファラデー反応に関与する活物質を除くものとする。
本実施形態におけるリチウム化合物としては、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、フッ化リチウム、塩化リチウム、シュウ化リチウム、ヨウ化リチウム、窒化リチウム、シュウ酸リチウム、及び酢酸リチウムから選択される1種以上が好適に用いられる。中でも、炭酸リチウム、酸化リチウム、及び水酸化リチウムがより好適であり、空気中での取り扱いが可能であり、かつ吸湿性が低いという観点から炭酸リチウムがさらに好適に用いられる。このようなリチウム化合物は、電圧の印加によって分解し、負極へのリチウムドープのドーパント源として機能するとともに、正極活物質層において空孔を形成するから、電解液の保持性に優れ、イオン伝導性に優れる正極を形成することができる。上記リチウム化合物の他に、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、及び炭酸セシウムから選択されるアルカリ金属炭酸塩を1種以上用いることもできる。非水系電解液として、後述するLiPF等のリチウム塩を予め溶解させた電解液を用いる場合には、上記アルカリ金属炭酸塩を単独で用いることもできる。正極前駆体中に含まれるリチウム化合物は1種でもよく、2種以上のリチウム化合物を含んでいてもよく、リチウム化合物と他のアルカリ金属炭酸塩を混合して用いてもよい。
また、本実施形態の正極前駆体は、少なくとも1種のリチウム化合物を含んでいればよく、リチウム化合物の他に、下記式におけるMをNa、K、Rb、及びCsから選ばれる1種以上として、
O等の酸化物、
MOH等の水酸化物、
MFやMCl等のハロゲン化物、
(CO等の蓚酸塩、及び
RCOOM(式中、RはH、アルキル基、又はアリール基である)等のカルボン酸塩
を1種以上含んでいてもよい。
また、正極前駆体は、BeCO、MgCO、CaCO、SrCO、又はBaCOから選ばれるアルカリ土類金属炭酸塩、並びにアルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属シュウ酸塩、及びアルカリ土類金属カルボン酸塩を1種以上含んでいてもよい。
本実施形態に係る正極前駆体は、リチウム化合物の微粒子を含むことができる。リチウム化合物の微粒子化には、様々な方法を用いることができる。例えば、ボールミル、ビーズミル、リングミル、ジェットミル、ロッドミル等の粉砕機を使用することができる。
(正極活物質層のその他の成分)
本実施形態における正極活物質層は、必要に応じて、正極活物質及びリチウム化合物の他に、導電性フィラー、結着剤、分散安定剤等の任意成分を含んでいてもよい。
導電性フィラーとしては、正極活物質よりも導電性の高い導電性炭素質材料を挙げることができる。導電性フィラーとしては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維、黒鉛、カーボンナノチューブ、これらの混合物等が好ましい。
正極活物質層における導電性フィラーの混合量は、正極活物質100質量部に対して、0超〜20質量部が好ましく、1〜15質量部の範囲が更に好ましい。高入力の観点から、正極活物質層は導電性フィラーを含むことが好ましい。正極活物質層における導電性フィラーの混合量が20質量部以下であれば、正極活物質層における正極活物質の含有割合が多くなり、正極活物質層の体積当たりのエネルギー密度を確保できる。
結着剤としては、特に制限されるものではないが、例えばPVdF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体、フッ素ゴム、アクリル共重合体等を用いることができる。結着剤の使用量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは3質量部以上27質量部以下、さらに好ましくは5質量部以上25質量部以下である。結着剤の量が1質量%以上であれば、十分な電極強度が発現される。一方で結着剤の量が30質量部以下であれば、正極活物質へのイオンの出入り及び拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現される。
分散安定剤としては、特に制限されるものではないが、例えばPVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニルアルコール)、セルロース誘導体等を用いることができる。分散安定剤の使用量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは0質量部超10質量部以下である。分散安定剤の量が10質量部以下であれば、正極活物質へのイオンの出入り及び拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現される。
[正極集電体]
本実施形態における正極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出及び電解質又はイオンとの反応等による劣化が起こり難い材料であれば特に制限はないが、金属箔が好ましい。本実施の形態の非水系リチウム蓄電素子における正極集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましい。
金属箔は凹凸や貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
正極集電体の厚みは、正極の形状及び強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1〜100μmが好ましい。なお、正極集電体が孔又は凹凸を有する場合には、孔又は凹凸の存在しない部分に基づいて正極集電体の厚みを測定するものとする。
[正極前駆体の製造]
本実施形態において、非水系リチウム蓄電素子の正極となる正極前駆体は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術によって製造することが可能である。例えば、正極活物質及びリチウム化合物、並びに必要に応じて使用されるその他の任意成分を、水又は溶媒中に分散又は溶解してスラリー状の塗工液を調製し、この塗工液を正極集電体の片面又は両面上に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより正極前駆体を得ることができる。溶媒としては、典型的にはNMP(N−メチル−2−ピロリドン)である。得られた正極前駆体にプレスを施して、正極活物質層の膜厚や嵩密度を調整してもよい。代替的には、溶剤を使用せずに、正極活物質及びリチウム化合物、並びに必要に応じて使用されるその他の任意成分を乾式で混合し、得られた混合物をプレス成型した後、導電性接着剤を用いて正極集電体に貼り付ける方法も可能である。
正極前駆体の塗工液は、正極活物質を含む各種材料粉末の一部若しくは全部をドライブレンドし、次いで水若しくは溶媒、及び/又はそれらに結着剤や分散安定剤が溶解若しくは分散した液状若しくはスラリー状の物質を追加して調製してもよい。水又は溶媒に結着剤や分散安定剤が溶解又は分散した液状又はスラリー状の物質の中に、正極活物質を含む各種材料粉末を追加して塗工液を調製してもよい。ドライブレンドする方法として、例えばボールミル等を使用して正極活物質及びリチウム化合物、並びに必要に応じて導電性フィラーを予備混合して、導電性の低いリチウム化合物に導電材をコーティングさせる予備混合をしてもよい。これにより、後述のリチウムドープ工程において正極前駆体でリチウム化合物が分解し易くなる。塗工液の溶媒に水を使用する場合には、リチウム化合物を加えることで塗工液がアルカリ性になることもあるため、必要に応じてpH調整剤を添加してもよい。
溶解又は分散方法は、特に制限されるものではないが、好適にはホモディスパーや多軸分散機、プラネタリーミキサー、薄膜旋回型高速ミキサー等の分散機等を用いることができる。良好な分散状態の塗工液を得るためには、周速1m/s以上50m/s以下で分散することが好ましい。周速が1m/s以上であれば、各種材料が良好に溶解又は分散するため好ましい。周速が50m/s以下であれば、分散による熱やせん断力により各種材料が破壊され難く、再凝集が低減されるため好ましい。
塗工液の分散度は、粒ゲージで測定した粒度が0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。分散度の上限としては、より好ましくは粒度が80μm以下、さらに好ましくは粒度が50μm以下である。粒度が0.1μm以上であることは、正極活物質を含む各種材料粉末が塗工液作製時に過度に破砕されていないことを意味する。また、粒度が100μm以下であれば、塗工液吐出時の詰まりや塗膜のスジを発生することが少なく安定に塗工ができる。
正極前駆体の塗工液の粘度(ηb)は、好ましくは1,000mPa・s以上20,000mPa・s以下、より好ましくは1,500mPa・s以上10,000mPa・s以下、さらに好ましくは1,700mPa・s以上5,000mPa・s以下である。正極前駆体の塗工液の粘度(ηb)が1,000mPa・s以上であれば、塗膜形成時の液ダレが抑制され、塗膜幅及び厚みが良好に制御できる。正極前駆体の塗工液の粘度(ηb)が20,000mPa・s以下であれば、塗工機を用いた際の塗工液の流路における圧力損失が少なく安定に塗工でき、また所望の塗膜厚み以下に制御できる。
正極前駆体の塗工液のTI値(チクソトロピーインデックス値)は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.5以上である。正極前駆体の塗工液のTI値が1.1以上であれば、塗膜幅及び厚みが良好に制御できる。
正極前駆体の塗膜の形成方法は特に制限されるものではないが、好適にはダイコーターやコンマコーター、ナイフコーター、グラビア塗工機等の塗工機を用いることができる。塗膜は単層塗工で形成してもよいし、多層塗工して形成してもよい。多層塗工の場合には、塗膜各層内のリチウム化合物の含有量が異なるように、塗工液の組成を調製してもよい。塗工速度は、好ましくは0.1m/分以上100m/分以下、より好ましくは0.5m/分以上70m/分以下、さらに好ましくは1m/分以上50m/分以下である。塗工速度が0.1m/分以上であれば、安定に塗工することができ、100m/分以下であれば、塗工精度を十分に確保できる。
正極前駆体の塗膜の乾燥方法は特に制限されるものではないが、好適には熱風乾燥や赤外線(IR)乾燥等の乾燥方法を用いることができる。塗膜の乾燥は、単一の温度で乾燥させてもよいし、多段的に温度を変えて乾燥させてもよい。また、複数の乾燥方法を組み合わせて乾燥させてもよい。乾燥温度は、好ましくは25℃以上200℃以下、より好ましくは40℃以上180℃以下、さらに好ましくは50℃以上160℃以下である。乾燥温度が25℃以上であれば、塗膜中の溶媒を十分に揮発させることができる。乾燥温度が200℃以下であれば、急激な溶媒の揮発による塗膜のヒビ割れやマイグレーションによる結着剤の偏在、正極集電体や正極活物質層の酸化を抑制できる。
正極前駆体のプレス方法は特に制限されるものではないが、好適には油圧プレス機、真空プレス機等のプレス機を用いることができる。正極活物質層の膜厚、嵩密度及び電極強度は、後述するプレス圧力、隙間、プレス部の表面温度により調整できる。
プレス圧力は、好ましくは0.5kN/cm以上20kN/cm以下、より好ましくは1kN/cm以上10kN/cm以下、さらに好ましくは2kN/cm以上7kN/cm以下である。プレス圧力が0.5kN/cm以上であれば、電極強度を十分に高くできる。プレス圧力が20kN/cm以下であれば、正極前駆体に撓みやシワが生じ難く、正極活物質層膜の所望の膜厚や嵩密度に調整し易い。
プレスロール同士の隙間は、正極活物質層の所望の膜厚や嵩密度となるように乾燥後の正極前駆体膜厚に応じて任意の値を設定できる。
プレス速度は、正極前駆体の撓みやシワを低減するよう任意の速度に設定できる。
プレス部の表面温度は、室温でもよいし、必要によりプレス部の表面を加熱してもよい。加熱する場合のプレス部の表面温度の下限は、好ましくは使用する結着剤の融点マイナス60℃以上、より好ましくは結着剤の融点マイナス45℃以上、さらに好ましくは結着剤の融点マイナス30℃以上である。加熱する場合のプレス部の表面温度の上限は、好ましくは使用する結着剤の融点プラス50℃以下、より好ましくは結着剤の融点プラス30℃以下、さらに好ましくは結着剤の融点プラス20℃以下である。例えば、結着剤にPVdF(ポリフッ化ビニリデン:融点150℃)を用いた場合、好ましくは90℃以上200℃以下、より好ましく105℃以上180℃以下、さらに好ましくは120℃以上170℃以下にプレス部の表面を加熱する。結着剤にスチレン−ブタジエン共重合体(融点100℃)を用いた場合、好ましくは40℃以上150℃以下、より好ましくは55℃以上130℃以下、さらに好ましくは70℃以上120℃以下にプレス部の表面を加温する。
結着剤の融点は、DSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)の吸熱ピーク位置で求めることができる。例えば、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC7」を用いて、試料樹脂10mgを測定セルにセットし、窒素ガス雰囲気中で、温度30℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、昇温過程における吸熱ピーク温度が融点となる。
プレス圧力、隙間、速度、プレス部の表面温度の条件を変えながら複数回プレスを実施してもよい。
正極活物質層の厚みは、正極集電体の片面当たり20μm以上200μm以下であることが好ましい。正極活物質層の厚みは、より好ましくは片面当たり25μm以上100μm以下であり、更に好ましくは30μm以上80μm以下である。正極活物質層の厚みが20μm以上であれば、十分な充放電容量を発現することができる。正極活物質層の厚みが200μm以下であれば、電極内のイオン拡散抵抗を低く維持することができる。そのため、正極集電体層の厚みが20μm以上200μm以下であれば、十分な出力特性が得られるとともに、セル体積を縮小することができ、従ってエネルギー密度を高めることができる。なお、正極集電体が貫通孔や凹凸を有する場合における正極活物質層の厚みとは、正極集電体の貫通孔や凹凸を有していない部分における片面当たりの正極活物質層の厚みの平均値をいう。
後述のリチウムドープ工程後の正極における正極活物質層の嵩密度は、好ましくは0.40g/cm以上、より好ましくは0.50g/cm以上1.3g/cm以下の範囲である。正極活物質層の嵩密度が0.40g/cm以上であれば、高いエネルギー密度を発現でき、蓄電素子の小型化を達成できる。正極活物質層の嵩密度が1.3g/cm以下であれば、正極活物質層内の空孔における電解液の拡散が十分となり、高い出力特性が得られる。
<負極>
本実施形態における負極は、負極集電体と、その片面又は両面上に設けられた、負極活物質を含む負極活物質層とを有する。
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含み、必要に応じて、導電性フィラー、結着剤、分散安定剤等の任意成分を含んでいてもよい。
[負極活物質]
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な物質を用いることができる。負極活物質としては、具体的には、炭素材料、チタン酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素合金、ケイ素化合物、錫、及び錫化合物等が挙げられる。炭素材料の含有率は、負極活物質の合計質量に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。炭素材料の含有率は100質量%であってもよいが、他の材料との併用による効果を良好に得る観点から、例えば、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であってもよい。
炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素材料;易黒鉛化性炭素材料;カーボンブラック;カーボンナノ粒子;活性炭;人造黒鉛;天然黒鉛;黒鉛化メソフェーズカーボン小球体;黒鉛ウイスカ;ポリアセン系物質等のアモルファス炭素質材料;石油系のピッチ、石炭系のピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、コークス、合成樹脂(例えばフェノール樹脂等)等の炭素前駆体を熱処理して得られる炭素質材料;フルフリルアルコール樹脂又はノボラック樹脂の熱分解物;フラーレン;カーボンナノフォーン;及びこれらの複合炭素材料を挙げることができる。
炭素材料としては、特に制限されるものではないが、活性炭、カーボンブラック、鋳型多孔質炭素、高比表面積黒鉛、カーボンナノ粒子等を好適に用いることができる。
これらの中でも負極の抵抗を下げる観点から、炭素材料1種以上と、石油系のピッチ又は石炭系のピッチとを共存させた状態で熱処理をして得ることができる、ピッチ複合炭素材料が好ましい。熱処理を行う前に、ピッチの融点より高い温度において、炭素材料とピッチとを混合してもよい。熱処理温度は、使用するピッチが揮発又は熱分解して発生する成分が炭素質材料となる温度であればよい。熱処理を行う雰囲気としては、非酸化性雰囲気が好ましい。
ピッチ複合炭素材の好ましい例は、後述のピッチ複合炭素材料1及び2である。これらの内どちらか一方を使用してもよく、又はこれらの両方を併用してもよい。
本願明細書において、ピッチ複合炭素材料1とは、BET比表面積が100m/g以上3000m/g以下の炭素材料を1種以上と、石油系のピッチ又は石炭系のピッチとを共存させた状態で熱処理して得ることができる材料である。
一実施形態において、ピッチ複合炭素材料1のBET比表面積は、100m/g以上1,500m/g以下であることが好ましい。
一実施形態において、ピッチ複合炭素材料1の単位質量当たりのリチウムイオンのドープ量は、好ましくは530mAh/g以上2,500mAh/g以下、より好ましくは620mAh/g以上2,100mAh/g以下、さらに好ましくは760mAh/g以上1,700mAh/g以下、より更に好ましくは840mAh/g以上1,500mAh/g以下である。
リチウムイオンをドープすることにより、負極電位が低くなる。従って、リチウムイオンがドープされた負極活物質を含む負極を正極と組み合わせた場合には、非水系リチウム蓄電素子の電圧が高くなるとともに、正極の利用容量が大きくなる。そのため、得られる非水系リチウム蓄電素子の容量及びエネルギー密度が高くなる。
ピッチ複合炭素材料1の単位質量当たりのリチウムイオンのドープ量が530mAh/g以上であれば、複合炭素材料1におけるリチウムイオンを一旦挿入したら脱離し得ない不可逆なサイトにもリチウムイオンが良好にドープされ、更に所望のリチウムイオン量に対する負極活物質の量を低減することができる。そのため、負極膜厚を薄くすることが可能となり、高いエネルギー密度が得られる。ドープ量が多いほど負極電位が下がり、入出力特性、エネルギー密度、及び耐久性は向上する。
ピッチ複合炭素材料1の単位質量当たりのリチウムイオンのドープ量が2,500mAh/g以下であれば、リチウム金属の析出等の副作用が発生し難くなる。
ピッチ複合炭素材料2とは、BET比表面積が1m/g以上30m/g以下の炭素材料を1種以上と、石油系のピッチ又は石炭系のピッチとを共存させた状態で熱処理して得ることができる材料である。
他の実施形態において、ピッチ複合炭素材料2のBET比表面積は、1m/g以上50m/g以下であることもまた好ましい。
他の実施形態において、負極活物質の単位質量当たりのリチウムイオンのドープ量は、好ましくは50mAh/g以上700mAh/g以下、より好ましくは70mAh/g以上650mAh/g以下、さらに好ましくは90mAh/g以上600mAh/g以下、より更に好ましくは100mAh/g以上550mAh/g以下である。
ピッチ複合炭素材料2の単位質量当たりのリチウムイオンのドープ量が50mAh/g以上であれば、複合炭素材料2におけるリチウムイオンを一旦挿入したら脱離し得ない不可逆なサイトにもリチウムイオンが良好にドープされるため、高いエネルギー密度が得られる。ドープ量が多いほど負極電位が下がり、入出力特性、エネルギー密度、及び耐久性は向上する。
ピッチ複合炭素材料2の単位質量当たりのリチウムイオンのドープ量が700mAh/g以下であれば、リチウム金属の析出等の副作用が発生し難くなる。
ピッチ複合炭素材料1及び2の平均粒子径は、好ましくは1μm以上10μm以下であり、下限値は、より好ましくは2μm以上であり、更に好ましくは2.5μm以上であり、上限値は、より好ましくは6μm以下であり、更に好ましくは4μm以下である。負極活物質の平均粒子径が1μm以上10μm以下であれば、良好な耐久性が保たれる。
(負極活物質層のその他の成分)
本実施形態における負極活物質層は、負極活物質の他に、必要に応じて、導電性フィラー、結着剤、分散安定剤等の任意成分を含んでいてもよい。
導電性フィラーの種類は特に制限されるものではないが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相成長炭素繊維等が例示される。導電性フィラーの使用量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0質量部超30質量部以下、より好ましくは0質量部超20質量部以下、さらに好ましくは0質量部超15質量部以下である。
結着剤としては、特に制限されるものではないが、例えばPVdF(ポリフッ化ビニリデン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリイミド、ラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体、フッ素ゴム、アクリル共重合体等を用いることができる。結着剤の使用量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは1質量部以上30質量部以下、より好ましくは2質量部以上27質量部以下、さらに好ましくは3質量部以上25質量部以下である。結着剤の量が1質量%以上であれば、十分な電極強度が発現される。結着剤の量が30質量部以下であれば、負極活物質へのリチウムイオンの出入りを阻害せず、高い入出力特性が発現される。
分散安定剤としては、特に制限されるものではないが、例えばPVP(ポリビニルピロリドン)、PVA(ポリビニルアルコール)、セルロース誘導体等を用いることができる。分散安定剤の使用量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0質量部以上10質量部以下である。分散安定剤の量が10質量部以下であれば、負極活物質へのリチウムイオンの出入りを阻害せず、高い入出力特性が発現される。
[負極集電体]
本実施形態における負極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出及び電解質又はイオンとの反応等による劣化が起こり難い金属箔であることが好ましい。このような金属箔としては、特に制限はなく、例えば、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔等が挙げられる。本実施の形態の非水系リチウム蓄電素子における負極集電体としては、銅箔が好ましい。
金属箔は凹凸や貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
負極集電体の厚みは、負極の形状及び強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1〜100μmが好ましい。なお、負極集電体が孔又は凹凸を有する場合には、孔又は凹凸の存在しない部分に基づいて負極集電体の厚みを測定するものとする。
[負極の製造]
負極は、負極集電体の片面又は両面上に負極活物質層を有する。典型的には、負極活物質層は負極集電体の片面又は両面上に固着している。
負極は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術によって製造することが可能である。例えば、負極活物質を含む各種材料を、水又は溶媒中に分散又は溶解してスラリー状の塗工液を調製し、この塗工液を負極集電体上の片面又は両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより負極を得ることができる。溶媒としては、典型的にはNMP(N−メチル−2−ピロリドン)である。得られた負極にプレスを施して、負極活物質層の膜厚や嵩密度を調整してもよい。代替的には、溶剤を使用せずに、負極活物質を含む各種材料を乾式で混合し、得られた混合物をプレス成型した後、導電性接着剤を用いて負極集電体に貼り付ける方法も可能である。
塗工液は、負極活物質を含む各種材料粉末の一部若しくは全部をドライブレンドし、次いで水若しくは溶媒、及び/又はそれらに結着剤や分散安定剤が溶解若しくは分散した液状若しくはスラリー状の物質を追加して調製してもよい。また、水又は溶媒に結着剤や分散安定剤が溶解又は分散した液状又はスラリー状の物質の中に、負極活物質を含む各種材料粉末を追加して塗工液を調製してもよい。
溶解又は分散方法は特に制限されるものではないが、好適にはホモディスパーや多軸分散機、プラネタリーミキサー、薄膜旋回型高速ミキサー等の分散機等を用いることができる。良好な分散状態の塗工液を得るためには、周速1m/s以上50m/s以下で分散することが好ましい。周速が1m/s以上であれば、各種材料が良好に溶解又は分散するため好ましい。周速が50m/s以下であれば、分散による熱やせん断力により各種材料が破壊され難く、再凝集が低減されるため好ましい。
負極の塗工液の粘度(ηb)は、好ましくは1,000mPa・s以上20,000mPa・s以下、より好ましくは1,500mPa・s以上10,000mPa・s以下、さらに好ましくは1,700mPa・s以上5,000mPa・s以下である。負極の塗工液の粘度(ηb)が1,000mPa・s以上であれば、塗膜形成時の液ダレが抑制され、塗膜幅及び厚みが良好に制御できる。負極の塗工液の粘度(ηb)が20,000mPa・s以下であれば、塗工機を用いた際の塗工液の流路における圧力損失が少なく安定に塗工でき、また所望の塗膜厚み以下に制御できる。
負極の塗工液のTI値(チクソトロピーインデックス値)は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、さらに好ましくは1.5以上である。負極の塗工液のTI値が1.1以上であれば、塗膜幅及び厚みが良好に制御できる。
負極の塗膜の形成方法は特に制限されるものではないが、好適にはダイコーターやコンマコーター、ナイフコーター、グラビア塗工機等の塗工機を用いることができる。塗膜は単層塗工で形成してもよいし、多層塗工して形成してもよい。塗工速度は、好ましくは0.1m/分以上100m/分以下、より好ましくは0.5m/分以上70m/分以下、さらに好ましくは1m/分以上50m/分以下である。塗工速度が0.1m/分以上であれば、安定に塗工することができ、100m/分以下であれば、塗工精度を十分に確保できる。
負極の塗膜の乾燥方法は特に制限されるものではないが、好適には熱風乾燥や赤外線(IR)乾燥等の乾燥方法を用いることができる。塗膜の乾燥は、単一の温度で乾燥させてもよいし、多段的に温度を変えて乾燥させてもよい。また、複数の乾燥方法を組み合わせて乾燥させてもよい。乾燥温度は、好ましくは25℃以上200℃以下、より好ましくは40℃以上180℃以下、さらに好ましくは50℃以上160℃以下である。乾燥温度が25℃以上であれば、塗膜中の溶媒を十分に揮発させることができる。乾燥温度が200℃以下であれば、急激な溶媒の揮発による塗膜のヒビ割れやマイグレーションによる結着剤の偏在、負極集電体や負極活物質層の酸化を抑制できる。
負極のプレス方法は特に制限されるものではないが、好適には油圧プレス機、真空プレス機等のプレス機を用いることができる。負極活物質層の膜厚、嵩密度及び電極強度は後述するプレス圧力、隙間、プレス部の表面温度により調整できる。
プレス圧力は、好ましくは0.5kN/cm以上20kN/cm以下、より好ましくは1kN/cm以上10kN/cm以下、さらに好ましくは2kN/cm以上7kN/cm以下である。プレス圧力が0.5kN/cm以上であれば、電極強度を十分に高くできる。プレス圧力が20kN/cm以下であれば、負極に撓みやシワが生じ難く、負極活物質層膜の所望の膜厚や嵩密度に調整し易い。
プレスロール同士の隙間は、負極活物質層の所望の膜厚や嵩密度となるように乾燥後の負極膜厚に応じて任意の値を設定できる。
プレス速度は、負極の撓みやシワを低減するよう任意の速度に設定できる。
プレス部の表面温度は室温でもよいし、必要によりプレス部の表面を加熱してもよい。加熱する場合のプレス部の表面温度の下限は、好ましくは使用する結着剤の融点マイナス60℃以上、より好ましくは結着剤の融点マイナス45℃以上、さらに好ましくは結着剤の融点マイナス30℃以上である。加熱する場合のプレス部の表面温度の上限は、好ましくは使用する結着剤の融点プラス50℃以下、より好ましくは結着剤の融点プラス30℃以下、さらに好ましくは結着剤の融点プラス20℃以下である。例えば、結着剤にPVdF(ポリフッ化ビニリデン:融点150℃)を用いた場合、好ましくは90℃以上200℃以下、より好ましく105℃以上180℃以下、さらに好ましくは120℃以上170℃以下にプレス部の表面を加熱する。結着剤にスチレン−ブタジエン共重合体(融点100℃)を用いた場合、好ましくは40℃以上150℃以下、より好ましくは55℃以上130℃以下、さらに好ましくは70℃以上120℃以下にプレス部の表面を加温する。
結着剤の融点は、DSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)の吸熱ピーク位置で求めることができる。例えば、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC7」を用いて、試料樹脂10mgを測定セルにセットし、窒素ガス雰囲気中で、温度30℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、昇温過程における吸熱ピーク温度が融点となる。
プレス圧力、隙間、速度、プレス部の表面温度の条件を変えながら複数回プレスを実施してもよい。
負極活物質層の厚みは、負極集電体の片面当たり5μm以上100μm以下が好ましい。負極活物質層の厚みの下限は、より好ましくは7μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。負極活物質層の厚みの上限は、より好ましくは80μm以下であり、さらに好ましくは60μm以下である。負極活物質層の厚みが5μm以上であれば、負極活物質層を塗工した際にスジ等が発生し難く塗工性に優れる。負極活物質層の厚みが100μm以下であれば、セル体積を縮小することによって高いエネルギー密度を発現できる。なお、負極集電体が貫通孔や凹凸を有する場合における負極活物質層の厚みとは、負極集電体の貫通孔や凹凸を有していない部分における片面当たりの負極活物質層の厚みの平均値をいう。
負極活物質層の嵩密度は、好ましくは0.30g/cm以上1.8g/cm以下、より好ましくは0.40g/cm以上1.5g/cm以下、さらに好ましくは0.45g/cm以上1.3g/cm以下である。負極活物質層の嵩密度が0.30g/cm以上であれば、十分な強度を保つことができるとともに、負極活物質間の十分な導電性を発現することができる。負極活物質層の嵩密度が1.8g/cm以下であれば、負極活物質層内でイオンが十分に拡散できる空孔が確保できる。
本実施形態におけるBET比表面積、メソ孔量、及びマイクロ孔量は、それぞれ以下の方法によって求められる値である。試料を200℃で一昼夜真空乾燥し、窒素を吸着質として吸脱着の等温線の測定を行なう。ここで得られる吸着側の等温線を用いて、BET比表面積はBET多点法又はBET1点法により、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出される。
BJH法とは、メソ孔の解析に一般的に用いられる計算方法で、Barrett,Joyner,Halendaらにより提唱されたものである(E.P.Barrett,L.G.Joyner and P.Halenda, J.Am.Chem.Soc.,73,373(1951))。
MP法とは、「t−プロット法」(B.C.Lippens,J.H.de Boer,J.Catalysis,4319(1965))を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、及びマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、R.S.Mikhail,Brunauer,Bodorにより考案された方法である(R.S.Mikhail,S.Brunauer,E.E.Bodor,J.Colloid Interface Sci.,26,45(1968))。
<セパレータ>
正極前駆体及び負極は、一般に、セパレータを介して積層及び捲回され、正極前駆体と、負極と、セパレータとを有する捲回電極体を形成する。
セパレータとしては、リチウムイオン二次電池に用いられるポリエチレン製の微多孔膜若しくはポリプロピレン製の微多孔膜、又は電気二重層キャパシタで用いられるセルロース製の不織紙等を用いることができる。これらのセパレータの片面又は両面上に、有機又は無機の微粒子から構成される膜が積層されていてもよい。また、セパレータの内部に有機又は無機の微粒子が含まれていてもよい。
セパレータの厚みは5μm以上35μm以下が好ましい。セパレータの厚みが5μm以上であることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため好ましい。セパレータの厚みが35μm以下であることにより、蓄電素子の出力特性が高くなる傾向があるため好ましい。
有機又は無機の微粒子から構成される膜の厚みは、1μm以上10μm以下であることが好ましい。有機又は無機の微粒子から構成される膜の厚みが1μm以上であることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため好ましい。有機又は無機の微粒子から構成される膜の厚みが10μm以下であることにより、蓄電素子の出力特性が高くなる傾向があるため好ましい。
<外装体>
非水系リチウム蓄電素子の外装体としては、金属缶、ラミネートフィルム等を使用できる。金属缶としては、アルミニウム製のものが好ましい。ラミネートフィルムとしては、金属箔と樹脂フィルムとを積層したフィルムが好ましく、例えば、外層樹脂フィルム/金属箔/内層樹脂フィルムの3層から構成されるラミネートフィルムが例示される。外層樹脂フィルムは、接触等により金属箔が損傷を受けることを防止するためのものであり、ナイロン又はポリエステル等の樹脂が好適に使用できる。金属箔は水分及びガスの透過を防ぐためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。また、内層樹脂フィルムは、内部に収納する電解液から金属箔を保護するとともに、外装体のヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィン、酸変成ポリオレフィン等が好適に使用できる。
<非水系電解液>
本実施形態における電解液は、リチウムイオンを含む非水系電解液である。非水系電解液は、後述する非水溶媒を含む。非水系電解液は、非水系電解液の合計体積を基準として、0.5mol/L以上のリチウム塩を含有することが好ましい。
本実施形態における非水系電解液は、リチウム塩として、例えば、(LiN(SOF))、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiN(SOCF)(SOH)、LiC(SOF)、LiC(SOCF、LiC(SO、LiCFSO、MCSO、LiPF、LiBF等を単独で用いることができ、2種以上を混合して用いてもよい。高い伝導度を発現できることから、LiPF及び/又はLiN(SOF)を含むことが好ましい。
非水系電解液中のリチウム塩濃度は、0.5mol/L以上であることが好ましく、0.5〜2.0mol/Lの範囲がより好ましい。リチウム塩濃度が0.5mol/L以上であれば、陰イオンが十分に存在するので蓄電素子の容量を十分高くできる。また、リチウム塩濃度が2.0mol/L以下である場合、未溶解のリチウム塩が非水系電解液中に析出すること、及び電解液の粘度が高くなり過ぎることを防止でき、伝導度が低下せず、出力特性も低下しないため好ましい。
本実施形態における非水系電解液は、非水溶媒として、好ましくは、環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含有する。非水系電解液が環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含有することは、所望の濃度のリチウム塩を溶解させる点、及び高いリチウムイオン伝導度を発現する点で有利である。環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等に代表されるアルキレンカーボネート化合物が挙げられる。アルキレンカーボネート化合物は、典型的には非置換である。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネート化合物が挙げられる。ジアルキルカーボネート化合物は典型的には非置換である。
環状カーボネート及び鎖状カーボネートの合計含有量は、非水系電解液の合計質量を基準として、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。環状カーボネート及び鎖状カーボネートの合計含有量が50質量%以上であれば、所望の濃度のリチウム塩を溶解させることが可能であり、高いリチウムイオン伝導度を発現することができる。環状カーボネート及び鎖状カーボネートの合計濃度が95質量%以下であれば、電解液が、後述する添加剤をさらに含有することができる。
本実施形態における非水系電解液は、更に添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、特に制限されないが、例えば、スルトン化合物、環状ホスファゼン、非環状含フッ素エーテル、含フッ素環状カーボネート、環状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、及び環状酸無水物等が挙げられ、これらは単独で用いることができ、また2種以上を混合して用いてもよい。
<非水系リチウム蓄電素子の特性評価>
[静電容量]
本明細書では、静電容量Fa(F)とは、以下の方法によって得られる値である。
先ず、非水系リチウム蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、2Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行う。その後、2.2Vまで2Cの電流値で定電流放電を施した際の容量をQ(C)とする。ここで得られたQ及び電圧変化ΔV(V)を用いて、静電容量Fa=Q/ΔV=Q/(3.8−2.2)により算出される値を、静電容量Fa(F)という。
ここで電流の放電レート(「Cレート」とも呼ばれる)とは、放電容量に対する放電時の電流の相対的な比率であり、一般に、上限電圧から下限電圧まで定電流放電を行う際、1時間で放電が完了する電流値のことを1Cという。本明細書では、上限電圧3.8Vから下限電圧2.2Vまで定電流放電を行う際に1時間で放電が完了する電流値のことを1Cとする。
[内部抵抗]
本明細書では、内部抵抗Ra(Ω)とは、以下の方法によって得られる値である:
先ず、非水系リチウム蓄電素子を25℃に設定した恒温槽内で、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行う。続いて、サンプリング間隔を0.1秒とし、20Cの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間−電圧)を得る。この放電カーブにおいて、放電時間2秒及び4秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとしたときに、降下電圧ΔE=3.8−EoからRa=ΔE/(20Cの電流値)として算出される値である。
[自己放電による電圧降下]
本明細書における自己放電による電圧降下ΔVself(V)とは、以下の方法によって得られる値である:
先ず、非水系リチウム蓄電素子を25℃に設定した恒温槽内で、2Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、次いで3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計3時間行う。次いで、非水系リチウム蓄電素子から、充電のための端子を取り外し、25℃に設定した恒温槽内で1週間放置する。その後、25℃の環境下で非水系リチウム蓄電素子の電圧Vafterを測定することで、自己放電による電圧降下ΔVself=3.8−Vafterが算出される。
[高負荷充放電サイクル試験]
本明細書では、高負荷充放電サイクル試験後の抵抗変化率及びガス発生量は、以下の方法によって測定する。
(高負荷充放電サイクル後の抵抗変化率)
先ず、非水系リチウム蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、200Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて200Cの電流値で2.2Vに到達するまで定電流放電を行う。この高負荷充放電サイクルを60000回繰り返し、上記内部抵抗の測定方法に従い高負荷充放電サイクル後の内部抵抗Rbを測定する。Rb/Raを高負荷充放電サイクル後の抵抗変化率とする。
(高負荷充放電サイクル後の内部短絡評価)
高負荷充放電サイクル終了後の非水系リチウム蓄電素子を25℃に設定した恒温槽内で、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で2時間行う。続いて、25℃に設定した恒温槽内に3週間静置し、その後電圧Vxを測定する。3週間後の電圧変化ΔV(ΔV=Vx−3.8である)を高負荷充放電サイクル後の自己放電とする。
<電極中のリチウム化合物の同定方法>
正極中に含まれるリチウム化合物の同定方法は特に限定されないが、例えば下記の方法により同定することができる。リチウム化合物の同定には、以下に記載する複数の解析手法を組み合わせて同定することが好ましい。
以下に記載するSEM−EDX、ラマン、XPSを測定する際には、アルゴンボックス中で非水系リチウム蓄電素子を解体して正極を取り出し、正極表面に付着した電解質を洗浄した後に測定を行うことが好ましい。正極の洗浄方法については、正極表面に付着した電解質を洗い流せればよいため、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート溶媒が好適に利用できる。洗浄方法としては、例えば、正極重量の50〜100倍のジエチルカーボネート溶媒に正極を10分間以上浸漬させ、その後溶媒を取り替えて再度正極を浸漬させる。その後正極をジエチルカーボネートから取り出し、真空乾燥させた後に、SEM−EDX、ラマン分光法、及びXPSの解析を実施する。真空乾燥の条件は、温度:0〜200℃、圧力:0〜20kPa、時間:1〜40時間の範囲で正極中のジエチルカーボネートの残存が1質量%以下になる条件とする。ジエチルカーボネートの残存量については、後述する蒸留水洗浄、液量調整後の水のGC/MSを測定し、予め作成した検量線を基に定量することができる。
後述するイオンクロマトグラフィーでは、正極を蒸留水で洗浄した後の水を解析することにより陰イオンを同定することができる。
解析手法にてリチウム化合物を同定できなかった場合、その他の解析手法として、Li−固体NMR、XRD(X線回折)、TOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)、AES(オージェ電子分光)、TPD/MS(加熱発生ガス質量分析)、DSC(示差走査熱量分析)等を用いることにより、リチウム化合物を同定することもできる。
[走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析(SEM−EDX)]
リチウム化合物及び正極活物質は、観察倍率を1000倍〜4000倍にして測定した正極表面のSEM−EDX画像による酸素マッピングにより判別できる。SEM−EDX画像の測定例としては、加速電圧を10kV、エミッション電流を1μA、測定画素数を256×256ピクセル、積算回数を50回として測定できる。試料の帯電を防止するために、金、白金、オスミウム等を真空蒸着やスパッタリング等の方法により表面処理することもできる。SEM−EDX画像の測定方法については、明るさは最大輝度に達する画素がなく、明るさの平均値が輝度40%〜60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整することが好ましい。得られた酸素マッピングに対し、明るさの平均値を基準に二値化したとき、明部を面積で50%以上含む粒子をリチウム化合物とする。
[顕微ラマン分光]
炭酸リチウム及び正極活物質は、観察倍率を1000倍〜4000倍にして測定した正極前駆体表面の炭酸イオンのラマンイメージングにより判別できる。測定条件の例として、励起光を532nm、励起光強度を1%、対物レンズの長作動を50倍、回折格子を1800gr/mm、マッピング方式を点走査(スリット65mm、ビニング5pix)、1mmステップ、1点当たりの露光時間を3秒、積算回数を1回、ノイズフィルター有りの条件にて測定することができる。測定したラマンスペクトルについて、1071〜1104cm−1の範囲で直線のベースラインを設定し、ベースラインより正の値を炭酸イオンのピークとして面積を算出し、頻度を積算するが、この時にノイズ成分をガウス型関数で近似した炭酸イオンピーク面積に対する頻度を炭酸イオンの頻度分布から差し引く。
[X線光電分光法(XPS)]
XPSにより電子状態を解析することによりリチウム化合物の結合状態を判別することができる。測定条件の例として、X線源を単色化AlKα、X線ビーム径を100μmφ(25W、15kV)、パスエネルギーをナロースキャン:58.70eV、帯電中和を有り、スイープ数をナロースキャン:10回(炭素、酸素)20回(フッ素)30回(リン)40回(リチウム元素)50回(ケイ素)、エネルギーステップをナロースキャン:0.25eVの条件にて測定できる。XPSの測定前に正極の表面をスパッタリングにてクリーニングすることが好ましい。スパッタリングの条件として例えば、加速電圧1.0kV、2mm×2mmの範囲を1分間(SiO換算で1.25nm/min)の条件にて正極の表面をクリーニングすることができる。
得られたXPSスペクトルについて、
Li1sの結合エネルギー50〜54eVのピークをLiOまたはLi−C結合;
55〜60eVのピークをLiF、LiCO、LiPO(式中、x、y、及びzは、それぞれ1〜6の整数である);
C1sの結合エネルギー285eVのピークをC−C結合、286eVのピークをC−O結合、288eVのピークをCOO、290〜292eVのピークをCO 2−、C−F結合;
O1sの結合エネルギー527〜530eVのピークをO2−(LiO)、531〜532eVのピークをCO、CO、OH、PO(式中、xは1〜4の整数である)、SiO(式中、xは1〜4の整数である)、533eVのピークをC−O、SiO(式中、xは1〜4の整数である);
F1sの結合エネルギー685eVのピークをLiF、687eVのピークをC−F結合、LiPO(式中、x、y、及びzは、それぞれ1〜6の整数である)、PF
P2pの結合エネルギーについて、133eVのピークをPO(式中、xは1〜4の整数である)、134〜136eVのピークをPF(式中、xは1〜6の整数である);
Si2pの結合エネルギー99eVのピークをSi、シリサイド、101〜107eVのピークをSi(式中、x及びyは、それぞれ任意の整数である)
として帰属することができる。
得られたスペクトルについて、ピークが重なる場合には、ガウス関数又はローレンツ関数を仮定してピーク分離し、スペクトルを帰属することが好ましい。得られた電子状態の測定結果及び存在元素比の結果から、存在するリチウム化合物を同定することができる。
[イオンクロマトグラフィー]
正極前駆体を蒸留水で洗浄し、洗浄した後の水をイオンクロマトグラフィーで解析することにより、水中に溶出した炭酸イオンを同定することができる。使用するカラムとしては、イオン交換型、イオン排除型、逆相イオン対型を使用することができる。検出器としては、電気伝導度検出器、紫外可視吸光光度検出器、電気化学検出器等を使用することができ、検出器の前にサプレッサーを設置するサプレッサー方式、またはサプレッサーを配置せずに電気伝導度の低い溶液を溶離液に用いるノンサプレッサー方式を用いることができる。また、質量分析計や荷電化粒子検出器を検出器と組み合わせて測定することもできる。
サンプルの保持時間は、使用するカラムや溶離液等の条件が決まれば、イオン種成分毎に一定であり、またピークのレスポンスの大きさはイオン種毎に異なるが、イオン種の濃度に比例する。トレーサビリティーが確保された既知濃度の標準液を予め測定しておくことでイオン種成分の定性と定量が可能となる。
以下、実施例及び比較例を示して本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
<実施例1>
<正極活物質の調製>
[調製例1a]
破砕されたヤシ殻炭化物を小型炭化炉内へ入れ、窒素雰囲気下、500℃で3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、予熱炉で加温した水蒸気を1kg/hで賦活炉内へ導入し、900℃まで8時間かけて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却して、賦活された活性炭を得た。得られた賦活された活性炭を10時間通水洗浄した後に水切りし、115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した後に、ボールミルで1時間粉砕を行うことにより、活性炭1を得た。
島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2000J)を用いて、活性炭1の平均粒子径を測定した結果、4.2μmであった。また、ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB−1 AS−1−MP)を用いて、活性炭1の細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が2360m/g、メソ孔量(V)が0.52cc/g、マイクロ孔量(V)が0.88cc/g、V/V=0.59であった。
[調製例2a]
フェノール樹脂を、焼成炉内へ入れ、窒素雰囲気下、600℃で2時間炭化処理を行った後、ボールミルで粉砕し、分級して平均粒子径7μmの炭化物を得た。得られた炭化物とKOHとを、質量比1:5で混合し、焼成炉内へ入れ、窒素雰囲下、800℃で1時間加熱して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、濃度2mol/Lに調整した希塩酸中で1時間撹拌洗浄し、蒸留水でpH5〜6の間で安定するまで煮沸洗浄した後に乾燥することにより、活性炭2を得た。
島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2000J)を用いて、活性炭2の平均粒子径を測定した結果、7.0μmであった。また、ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB−1 AS−1−MP)を用いて、活性炭2の細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が3627m/g、メソ孔量(V)が1.50cc/g、マイクロ孔量(V)が2.28cc/g、V/V=0.66であった。
<正極前駆体の製造>
活性炭2を正極活物質として用いて、正極前駆体を製造した。
活性炭2を50.0質量部、炭酸リチウム1を38.5質量部、ケッチェンブラックを3.0質量部、PVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を7.0質量部、並びにNMP(N−メチルピロリドン)を混合し、それをPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサーフィルミックスを用いて、周速17m/sの条件で分散して塗工液を得た。
得られた塗工液の粘度(ηb)及びTI値を東機産業社のE型粘度計TVE−35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は2,650mPa・s、TI値は4.1であった。また、得られた塗工液の分散度をヨシミツ精機社製の粒ゲージを用いて測定した。その結果、粒度は32μmであった。
塗工液を東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度120℃で乾燥して正極前駆体1を得た。得られた正極前駆体1を、ロールプレス機を用いて圧力6kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスした。プレスされた正極前駆体1の全厚を、小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS−551を用いて、正極前駆体1の任意の10か所で測定した。測定された全厚の平均値からアルミニウム箔の厚さを引いて、正極前駆体1の正極活物質層の膜厚を求めた。その結果、正極活物質層の膜厚は、片面あたり59μmであった。
<負極活物質の調製 調製例1>
市販の人造黒鉛のBET比表面積及び細孔分布を、ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB−1 AS−1−MP)を用いて、上述した方法によって測定した。その結果、BET比表面積は3.1m/g、平均粒子径は4.8μmであった。
この人造黒鉛300gをステンレススチールメッシュ製の籠に入れ、石炭系ピッチ(軟化点:50℃)30gを入れたステンレス製バットの上に置き、両者を電気炉(炉内有効寸法300mm×300mm×300mm)内に設置した。人造黒鉛と石炭系ピッチを窒素雰囲気下、1000℃まで12時間で昇温し、同温度で5時間保持することにより熱反応させ、複合多孔質炭素材料2aを得た。得られた複合多孔質炭素材料2aを自然冷却により60℃まで冷却し、電気炉から取り出した。
得られた複合多孔質炭素材料2aについて、上記と同様の方法でBET比表面積及び細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積は6.1m/g、平均粒子径は4.9μmであった。また、複合多孔質炭素材料2aにおける、石炭系ピッチ由来の炭素質材料の活性炭に対する質量比率は2.0%であった。
<負極の製造>
複合多孔質炭素材料2aを負極活物質として用いて負極を製造した。
複合多孔質炭素材料2aを84質量部、アセチレンブラックを10質量部、及びPVdF(ポリフッ化ビニリデン)を6質量部、並びにNMP(N−メチルピロリドン)を混合し、その混合物をPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサーフィルミックスを用いて、周速17m/sの条件で分散して塗工液1Aを得た。
得られた塗工液1Aの粘度(ηb)及びTI値を東機産業社のE型粘度計TVE−35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は2,520mPa・s、TI値は3.8であった。
東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて厚さ10μmの電解銅箔の両面に塗工液1Aを塗工速度2m/sの条件で塗工し、乾燥温度120℃で乾燥して負極1を得た。ロールプレス機を用いて圧力5kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスした。プレスされた負極1の全厚を、小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS−551を用いて、負極1の任意の10か所で測定した。その後、負極1の内の一方の面の負極活物質層を取り除き、再度厚みを測定した。その後、負極集電体上に残った負極活物質層を全て取り除き、銅箔の厚みを測定した。得られた測定結果より、負極1の負極活物質層の膜厚を求めた。その結果、負極活物質層の膜厚は、片面あたり59μmであった。
<電解液の調製>
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、全電解液に対してLiN(SOF)及びLiPFの濃度比が75:25(モル比)であり、かつLiN(SOF)及びLiPFの濃度の和が1.2mol/Lとなるようにそれぞれの電解質塩を溶解して非水系電解液1を得た。非水系電解液1におけるLiN(SOF)及びLiPFの濃度は、それぞれ、0.9mol/L及び0.3mol/Lであった。
<非水系リチウム蓄電素子の作製>
正極前駆体1を12.0cm×210.0cmの大きさに切断し(正極活物質層の大きさが10.0cm×210.0cm、正極集電体上に正極活物質層が塗工されていない正極未塗工部が2.0cm×210.0cmである。)、負極1を12.1×220.0cmの大きさに切断し(負極活物質層の大きさが10.1cm×220.0cm、負極集電体上に負極活物質層が塗工されていない負極未塗工部が2.0cm×220.0cmである。)、切り出された正極前駆体1及び負極1をポリエチレン製のセパレータ(旭化成株式会社製、厚み10μm)を介して扁平状に捲回し、扁平捲回電極体を作製した。得られた扁平捲回電極体に正極端子及び負極端子を超音波溶接し、注液孔が加工された封口板へと取り付け、角型のアルミケースに入れ、封口板をレーザー溶接した。封口板に形成された注液孔は、乾燥工程にて、空気及び溶剤を通すための経路として機能する。得られた扁平捲回電極体の大きさは、X=82mm、Y=10mmであった。
<捲回電極体の乾燥工程>
扁平捲回電極体を外装体としての角型アルミケースの中に収納し、これを真空乾燥器(ヤマト科学、角型真空乾燥器DP63)に入れた。真空乾燥器の中の圧力を0.05kPaに減圧し、温度を110℃に昇温して、5分保持した(工程(c))。次いで、真空乾燥器内に、70℃の窒素を導入して、圧力を80kPaに昇圧した。窒素導入の際、温度は80〜110℃に保持した。圧力80kPa、温度110℃の状態を5分保持した(工程(d))。次いで、温度を100〜110℃に保持しつつ、真空乾燥器内を再び減圧して、圧力を0.05kPaにした。圧力0.05kPa、温度110℃の状態を5分保持した(工程(e))。次いで、上記工程(d)及び(e)を更に1回繰り返し、最後の工程(e)の後、圧力0.05kPa、温度110℃の状態を更に5時間保持し、温度25℃、露点−40℃以下のドライエアーの環境下、大気圧に戻した。
角型アルミケースの中に収納された、乾燥した扁平捲回電極体に、大気圧下、上記ドライエアーの環境下にて、非水系電解液1を約70g注入した。続いて、扁平捲回電極体及び非水系電解液を収納しているアルミラミネート包材を減圧チャンバーの中に入れ、大気圧から−87kPaまで減圧した後、大気圧に戻し、5分間静置した。その後、チャンバー内の包材を大気圧から−87kPaまで減圧した後、大気圧に戻す工程を4回繰り返したのち、15分間静置した。さらに、チャンバー内の包材を大気圧から−91kPaまで減圧した後、大気圧に戻した。同様に減圧し、大気圧に戻す工程を合計7回繰り返した(大気圧から、それぞれ−95,−96,−97,−81,−97,−97,−97kPaまで減圧した)。以上の工程により、非水系電解液1を扁平捲回電極体に含浸させた。
[リチウムドープ工程]
封止後に得られた扁平捲回電極体を、温度25℃、露点−60℃、酸素濃度1ppmのアルゴンボックス内に入れた。注液孔を開封した状態で、扁平捲回電極体の扁平部を6cm×10cmのフィルムヒーターを用いて40℃に加温した。その後、松定プレシジョン社製の電源(P4LT18−0.2)を用いて、電流値100mAで電圧4.5Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.5V定電圧充電を72時間継続する手法により初期充電を行い、負極にリチウムドープを行った。リチウムドープ終了後の扁平捲回電極体を減圧装置に入れ、−95kPaに減圧下状態で注液孔にアルミ製の蓋をし、レーザー溶接することで封止した。
[エージング工程]
リチウムドープ後の扁平捲回電極体をアルゴンボックスから取り出し、25℃環境下、100mAで電圧3.8Vに到達するまで定電流放電を行った後、3.8V定電流放電を1時間行うことにより、電圧を3.8Vに調整した。続いて、扁平捲回電極体を60℃の恒温槽に48時間保管した。
[ガス抜き工程]
エージング後の扁平捲回電極体を、温度25℃、露点−40℃のドライエアー環境下で注液孔を開封した。続いて、減圧チャンバーの中に扁平捲回電極体を入れ、ダイヤフラムポンプ(KNF社製、N816.3KT.45.18)を用いて大気圧から−80kPaまで3分間かけて減圧した後、3分間かけて大気圧に戻す工程を合計3回繰り返した。その後、減圧装置内に扁平捲回電極体を入れ、−90kPaに減圧した後、再び注液孔にアルミ製の蓋をレーザー溶接することにより封止し、非水系リチウム蓄電素子を作製した。以上の工程により、非水系リチウム蓄電素子を2個作製した。
<非水系リチウム蓄電素子の評価>
[静電容量Faの測定]
得られた非水系リチウム蓄電素子の内の1個について、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス福島株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、2Cの電流値(1.6A)で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行った。その後、2.2Vまで2Cの電流値(1.6A)で定電流放電を施した際の容量をQ[C]とし、F=Q/(3.8−2.2)により算出した静電容量Faは、1769Fであった。
[内部抵抗Raの測定]
上記非水系リチウム蓄電素子について、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス福島株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、20Cの電流値(16A)で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行った。その後サンプリング時間を0.1秒とし、20Cの電流値(16A)で2.2Vまで定電流放電を行い、放電カーブ(時間−電圧)を得た。この放電カーブにおいて、放電時間2秒及び4秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとし、降下電圧ΔE=3.8−Eo、及びR=ΔE/(電流値20C)により内部抵抗Raを算出したところ、1.52mΩであった。
[自己放電による電圧降下ΔVselfの測定]
上記非水系リチウム蓄電素子について、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス福島株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、2Cの電流値(1.6A)で3.8Vに到達するまで定電流充電し、次いで3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計3時間行った。その後、充電のための端子を取り外し、25℃に設定した恒温槽内で1週間放置した。その後、25℃の環境下で電圧Vafterを測定することで、自己放電による電圧降下ΔVself=3.8−Vafterが算出したところ、ΔVself=0.12Vであった。
<実施例2〜9、25及び26、比較例1〜3>
捲回電極体の乾燥工程の工程(c)において、真空乾燥器炉内の温度、圧力および保持時間を変えたこと以外は実施例1と同様の方法で非水系リチウム蓄電素子を作製した。乾燥条件および内部抵抗Ra、自己放電による電圧降下ΔVselfを表1及び2にまとめた。
<実施例10〜18、及び27〜29、比較例4>
捲回電極体の乾燥工程の工程(d)において、導入した窒素ガスの温度、真空乾燥器炉内の到達圧力、および保持温度を変えたこと以外は実施例1と同様の方法で非水系リチウム蓄電素子を作製した。乾燥条件および内部抵抗Ra、自己放電による電圧降下ΔVselfを表1及び2にまとめた。
<実施例19、比較例5>
捲回電極体の乾燥工程の工程(e)において、真空乾燥器内の圧力を変えたこと以外は実施例1と同様の方法で非水系リチウム蓄電素子を作製した。乾燥条件および内部抵抗Ra、自己放電による電圧降下ΔVselfを表1及び2にまとめた。
<実施例20〜22、比較例6>
捲回電極体の乾燥工程の工程(d)、(e)の繰り返しにおいて、繰り返し回数を変えたこと以外は実施例1と同様の方法で非水系リチウム蓄電素子を作製した。乾燥条件および内部抵抗Ra、自己放電による電圧降下ΔVselfを表1及び2にまとめた。
<実施例23〜24、30及び31>
捲回電極体の乾燥工程の工程(f)において、真空乾燥器炉内の圧力および保持時間を変えたこと以外は実施例1と同様の方法で非水系リチウム蓄電素子を作製した。乾燥条件および内部抵抗Ra、自己放電による電圧降下ΔVselfを表1及び2にまとめた。
Figure 2019029380
Figure 2019029380
実施例1〜9、25及び26、並びに比較例1〜3より、工程(c)の乾燥時の温度、圧力および保持時間を最適範囲にすることで、非水系リチウム蓄電素子の優れた低内部抵抗と小さな自己放電特性を両立することができることがわかった。すなわち、温度を50℃以上、130℃以下にすることで、優れた低内部抵抗性と自己放電特性を有することがわかる。これは、温度が50℃未満であると、抵抗増や自己放電の増大の原因となる溶媒が、蓄電素子内に残存し、130℃より大きければ、セパレータの劣化が生じるためと推測される。また圧力が0.5kPa以下であれば、残存溶媒が少なくなるため、上記の良好な特性が達成されたと考えられる。また、保持時間が60分未満であれば、セパレータの劣化による抵抗の増加が低減されると考えられる。
実施例10〜18及び27〜29、並びに比較例4より、工程(d)の導入窒素ガス温度、到達圧力および保持時間を最適範囲にすることで、非水系リチウム蓄電素子の優れた低内部抵抗と小さな自己放電特性を両立することができることがわかった。すなわち、導入窒素ガス温度を50℃以上とすることで、優れた低内部抵抗性と自己放電特性を有することがわかる。導入窒素ガス温度が50℃以上であると、工程(d)で温度が急激に低下することがなく、残存溶媒をより低減することができると考えられる。また、圧力が50kPa未満であると、熱や気化した溶剤の移動のためのキャリアガスである窒素が、電極や電極が含む溶剤と接触しにくくなることが考えられる。また、保持時間が1分以上20分以下であれば、キャリアガスへの溶剤の拡散時間が十分に確保され、かつセパレータの劣化も抑制できるため、良好な特性が達成されたことが推測される。
実施例19および比較例5により、工程(e)の真空乾燥器炉内の圧力が0.5kPa以下にすることで、優れた特性を発現することがわかった。これは、再減圧時に十分に炉内圧力を低減させることで、捲回電極体に含まれる溶剤を効率よく乾燥できたことを意味している。
実施例20〜22および比較例6より、工程(d)と(e)の繰り返し回数が1回以上であれば、優れた特性を発現できることがわかった。これは、窒素ガス導入と真空引きを繰り返すことで、熱と溶剤のキャリアとなる窒素ガスが、捲回電極体を効率よく加熱し、溶剤を捲回電極体の外へと拡散できたためと推測される。
実施例23、24、30及び31より、工程(f)の真空乾燥器炉内の到達圧力および保持時間を最適範囲にすることで、更に優れた特性を発現することがわかった。すなわち、到達圧力を0.5kPa以下にすることで、捲回電極体内に残存する溶媒を効率よく拡散できたためと推測される。また、保持時間を5時間以上にすることによっても、同様に捲回電極体内に残存する溶媒を効率よく拡散できると推測される。
本発明の非水系リチウム蓄電素子は、例えば、自動車のハイブリット駆動システムの、瞬間電力ピークのアシスト用途等における蓄電素子として好適に利用できる。本発明の非水系リチウム蓄電素子は、例えば、リチウムイオンキャパシタ又はリチウムイオン二次電池として適用したときに、本発明の効果が最大限に発揮されるため好ましい。

Claims (5)

  1. 非水系リチウム蓄電素子用の捲回電極体の乾燥方法であって、以下の工程:
    (a)活物質以外のリチウム化合物及び活性炭を含む少なくとも1つの正極前駆体と、少なくとも1つの負極とを、少なくとも1つのセパレータを介して積層及び捲回して捲回電極体を得る工程と;
    (b)前記捲回電極体を容器に収容する工程と;
    (c)前記容器内の圧力を0.5kPa以下に減圧し、温度を50℃以上130℃以下に昇温して保持する工程と;
    (d)前記容器内に不活性ガスを導入して前記容器内の圧力を50kPa以上に昇圧して保持する工程と;
    (e)前記容器内の圧力を0.5kPa以下に減圧する工程と;
    (f)工程(d)及び(e)を更に少なくとも1回繰り返す工程と
    を含む、前記方法。
  2. 工程(d)において前記容器内に導入される前記不活性ガスの温度は50℃以上である、請求項1に記載の方法。
  3. 工程(c)に記載の圧力及び温度は1分以上60分以下保持される、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 工程(d)に記載の圧力は1分以上20分以下保持される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 工程(f)の後、前記容器内の圧力を0.5kPa以下のまま更に5時間以上保持する工程を更に含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
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