以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る脳機能疾病鑑別方法の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る脳機能疾病鑑別方法は、簡単なスクリーニング検査によって、各種の脳機能疾病を容易に特定できるように構成される。ここでの脳機能疾病のタイプは、主に、アルツハイマー型認知症(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、統合失調症、及び、うつを考慮しており、これらの疾病(これらの4つのタイプを総称して脳機能疾病とする)を容易に鑑別できるようにすることを目的とする。
具体的には、まずは図10に示される睡眠検査装置(睡眠検査マット)100を用いて事前仕分けを行なうことが望ましい。最近の研究では、脳機能疾病は、睡眠不調と密接な関連性があることが分かってきており、睡眠検査装置100を用いて、被検者の睡眠状況を把握する(悪い睡眠状態を引き起こしている原因、及び、その結果を探る)ことで、脳機能疾病の疑いがあるか否かを事前に仕分けすることが可能となる。すなわち、アルツハイマー型認知症と、レビー小体型認知症と、統合失調症、うつを鑑別するに際しては、最初に睡眠障害の検出データを用いることによって、スクリーニング検査を実施する上で、被検者に対する負担や不安を軽減できるとともに、鑑別の精度を高めることが可能となる。
図10に示されるように、睡眠検査装置100は、容易に持ち運びできるように構成されたものであればよく、例えば、データ処理部を備えた非接触・非拘束の睡眠検査マット101を利用することができる(具体的には、パラマウントベッド株式会社製の「眠りスキャン;登録商標」を利用することができる)。この睡眠検査装置100は、図示のように、ベッドのマットレス105の下で、睡眠する被検者200の胸部領域に敷設して使用されるものであり、睡眠検査マット101内に設置されているセンサ(圧力センサ)が、睡眠中の被検者200の睡眠状態を検出することが可能である(たとえば、入眠不調/中途覚醒/早期覚醒、睡眠位相後退、周期的体動、ノンレム比率減少、呼吸異常、心拍異常などを含む被検者が睡眠障害を引き起こしているか否かを検知することが可能である)。
このような睡眠検査装置100は、スイッチをON状態にして、所定期間(たとえば1週間程度)ベッドのマットレスの下に敷設したままにしておくことで、被検者がベッドに入ったこと、離床したこと、及び、被検者の睡眠中における体動や呼吸状態などを検出することが可能となっている。すなわち、睡眠検査装置100は、ベッドのマットレス105の下で敷設された期間中、被検者の睡眠状況を連続して検出することができるため、その睡眠データを分析することによって、被検者の通常の睡眠を妨げることなく、睡眠状況を把握することができ、それにより、脳機能疾病の鑑別に寄与し得る。
たとえば、図2に示すように、睡眠検査装置100のデータから、睡眠時の無呼吸のあり/なしがわかるとともに、不眠を引き起こしている原因(不眠原因)と結果(不眠現象)がわかる。
具体的には、睡眠時に無呼吸があると、その人は睡眠時において、過活動、周期性体動を含めた異常な活動が生じており、上記した脳機能疾病を患っていれば、このような異常な活動が生じている。ただし、不眠の原因となる異常な活動の中には、排泄系の疾患に伴うもの(たとえば膀胱に関する疾病など)、口腔系の疾患に伴うもの(たとえば口腔神経症など)、分泌系の疾患に伴うもの(たとえば甲状腺、糖尿病など)、呼吸器系の疾患に伴うもの(たとえば喘息、慢性の肺疾患など)、循環器系の疾患に伴うもの(たとえば高血圧、心不全など)、消化器系の疾患に伴うもの(たとえば便秘、下痢など)、神経・関節系の疾患に伴うもの(たとえばリュウマチなど)、皮膚の疾患に伴うもの(たとえばかゆみなど)が挙げられるが、睡眠検査装置100のデータからでは、これら個々に該当するものであるか否かまでは特定できない。このため、被検者に対しては、その人の検査時における体調や疾病履歴などの健康状態について事前問診(入力)することにより、得られた睡眠データ上、睡眠時に異常な活動をしている被検者の中から、脳機能疾病以外の原因によって異常な活動をしている被検者を除外することができる。
また、睡眠検査装置100から得られるデータにより、不眠現象(結果)を把握することができる。例えば、睡眠潜時が長い(なかなか寝付けない)、中途覚醒、早期覚醒、睡眠位相のずれ(睡眠時間は適切なものの、睡眠している時間が通常とは大きく異なる)、睡眠効率の良し悪し、ノンレム比率の高低、客観的・主観的な睡眠不足、過眠などが把握できる。
そして、このような睡眠に関するデータを、多数の被検者から得て検証したところ、ある程度、脳機能疾病があるかないかを把握することが可能であることが分かった。具体的には、不眠現象(結果)でみると、アルツハイマー型認知症では、特に、睡眠位相のずれと睡眠潜時が長い、という特徴が大きく、うつでは、特に、睡眠潜時が長く、中途覚醒する、という特徴が大きく、統合失調症では、特に、中途覚醒し、ノンレム睡眠比率が低下する、という特徴が大きく出ることが分かった。また、睡眠時過活動(不眠原因)を検証したところ、レビー小体型認知症では、特に、レム睡眠時行動障害を引き起こすと共に、周期性四肢運動障害を引き起こす、という特徴が大きく出ることが分かった。
この結果、図3で示すように、睡眠検査装置100から得られる睡眠データから、不眠原因(睡眠時過活動;周期性体動など)があり、かつ、睡眠時無呼吸が生じていれば、それはレビー小体型認知症の可能性があり、また、不眠現象があり、かつ、睡眠時無呼吸が生じていれば、それはアルツハイマー型認知症、うつ、統合失調症の可能性が疑われる。したがって、睡眠検査装置100を用いたスクリーニング検査から得られる睡眠データによって、脳機能疾病の蓋然性が高い被検者を、予め仕分けすることが可能となる。また、このような睡眠データを取得することで、眠りに関する効果的な治療や処方の方針を立て易くなる。
この場合、睡眠時無呼吸症状がなければ、それは呼吸器や循環器などの疾病であること、及び、ストレス等による原発性不眠であることが予測される。
上記したように、睡眠検査装置100によって仕分けられた被検者(脳機能疾病の蓋然性が高い被検者)に対しては、引き続き、例えば、図5〜図9に示される賦活脳波計測装置10を用いて検査することで、脳機能疾病のいずれかであることをより精度良く特定することが可能である。
ここで、図5から図9に示す賦活脳波計測装置10の構成について説明する。
図に示す賦活脳波計測装置10は、アルツハイマー型認知症(AD)、レビー小体型認知症(DLB)に代表される神経変性性認知症、及び、統合失調症、うつであるか否かを判別することが可能な構成となっている。
一般的に、神経変性性認知症は、神経細胞の周りにアミロイドβ等の有害なタンパク質が溜まることにより、神経細胞を構成しているタンパク質が変性して発症することが知られている。また、このタイプを代表する認知症の種別(主にAD,DLBの種別)については、ADでは臭いの判別能力の低下、次に多く認められるDLBでは臭いを感ずる能力の低下があること、嗅覚に臭いの刺激を与えたとき、刺激を検知すると脳波反応が起きること、検知の有無、程度については刺激後おおよそ300msの脳波の頂点潜時・振幅によ
って、異なる臭いをかぎ分け能力については、脳波の時間周波数解析により把握できること等が知られている。
頂点潜時とは、刺激出力開始時点からプラスの波形ピーク(例えばP300成分など)又はマイナスの波形ピーク(例えばN200成分など)が生じるまでの時間(ms)又はその生じた時点のことであり(図4参照)、また、(頂点)振幅は、刺激出力開始前から出力開始時点までの脳波を平均して基線とし、この基線から各波形ピークまでの大きさ(図4の縦軸)である。
一方、脳の司令塔である前頭前野の働きの良否は、作業記憶(ワーキングメモリとも称される)により検知できることが知られている。作業記憶とは、たとえば17*5を計算する場合、5*7=35を初めに求め、次に10*5=50を求め、最後に両者を合計する際、この初めに求めた35を記憶している力をいう。作業記憶は、視覚、聴覚等に三点オドボール法(刺激成分aを70%、刺激成分bを20%、刺激成分cを10%等の様に区分して提示する方法)により刺激を提示したときの賦活脳波abc各刺激時脳波の頂点潜時・振幅変化によって把握できることが知られている。
図5〜図9に示す賦活脳波計測装置では、それに組み込まれている音発生部(スピーカ、ヘッドホンなど)によって聴覚刺激による前頭前野の健全性、及び、それに接続される画像提示部(ディスプレイ等)との連動により視覚刺激による前頭前野の健全性を確認することができる。一般にDLBでは視覚に対する作業記憶が、統合失調症では音に対する作業記憶が低下することが知られており、これらの刺激提示部(装置)を接続することにより、認知症及び神経疾患(精神疾患)を含む脳機能疾病の鑑別に必要な情報(データ)を多面的、定量的、他覚的に取得できる。
図示の賦活脳波計測装置10は、更に、測定中、被検者に対して負担を強いることなく且つ測定に際して正確な脳波(波形信号)が得られるように、自然に呼吸する被検者が吸気状態になったときに、ある特定の臭気(或いは臭気パターン)を提示し、そのときに賦活される脳波を測定することで、認知症の要因を正確に判別可能にする機能を備えている。本実施形態では、上記のような聴覚及び視覚について外的な刺激を加え、更に、嗅覚の刺激に加えて、それぞれの賦活脳波を測定することにより、認知症の進行の度合いが判別しにくいケース、1つの外的刺激だけでは脳機能疾病の判別がし難いケースなどについても、他覚的にその判別に役立つ様々な脳波情報を提供可能な機能を備えている。なお、上記した刺激以外にも、計測装置は、触覚についても必要に応じて賦活脳波を取得するようにしてもよい。
また、賦活脳波計測装置10は、運搬、設置などの取扱いが容易な構造となっており、例えば、各地方自治体が運営する医療・保健センター、地域病院、個人的な開業医、更には、認知症の鑑別を行なえることが好ましい施設、例えば、運転免許証の交付が成される免許センターなどに設置してスクリーニングが容易に行えるようになっている。具体的には、賦活脳波計測装置10は、机などの設置台1上に設置される基台11、基台11上に設けられる本体13、及び、本体13に組み込まれる各種の測定要素を備えており、被検者200は椅子に座った状態で検査が受けられるように簡易な構成となっている(図7参照)。
以下、賦活脳波計測装置10の構成について説明する。
前記本体13は、前方が開口したボックス状に構成されており、開口部分に各種の測定要素を保持したフレーム15が設置されている。フレーム15には、被検者200の頭部を固定する固定部が設けられており、該固定部は、被検者200が着座した状態で頭部を固定すると、視線が本体13内に向くように構成されている。具体的には、固定部は、顎固定部16及び額固定部17を備えており、被検者200は着座した際に、顎を顎固定部16に載置し且つ額を額固定部17に押し付けることで、着座した状態で頭部が固定されるようになっている(図7参照)。なお、固定部については、被検者200の頭部を固定状態にするものであればよく、顎固定部16及び額固定部17のいずれか一方を備えた構成であってもよい。
また、顎固定部16及び額固定部17は、高さ方向に移動可能となっており、スライド機構(詳細については図示しない)の操作部材18(図7参照)を操作することで、被検者200に応じて顎固定部16及び額固定部17の高さ位置が調整できるように構成されている。
フレーム15の額固定部17の上方には、被検者200側に向けて延出するアーム19が上下方向に回動可能(スライド可能であってもよい)に支持されており、アーム19内には、脳波検知部20が設けられている。ここで、脳波検知部20は、外部から刺激を与えた際に、脳波の変化が効果的に測定できる部位、具体的には、N200,P300と称される脳波が検知できる部位に当て付けられるものであればよく、本実施形態の脳波検知部20は、国際10−20法に従うところの頭頂部領域である被検者200の正中中心部(Cz)や正中頭頂部(Pz)に対して垂直方向から当て付く導電性を有する電極部材21と、この電極部材21を保持する保持部(台座)23とを備えた構成となっている。すなわち、頭頂部領域は、認知症を判別する上で最も変化が生じ易い体性感覚野における脳波の変化を測定できるため、電極部材21は、頭部が固定された被検者200の頭頂部領域である(Cz)の部位に当て付けるように構成されている。
保持部23は、電極部材21と電気的に接続される配線部材に接続されており、電極部材21で得られた被検者の微弱信号(脳波信号)は、脳波測定回路(作動増幅回路)25を介して増幅され、Bluetooth(登録商標)、WiFi等の通信ポートを介して、外部装置(脳波測定用のPC等)に送信されてもよく(図8に実線で示される信号経路)、又は、装置内に組み込まれている制御装置の制御部30に送られて処理されてもよい(図8に破線で示される信号経路)。
保持部23に保持される電極部材21については、衛生上の観点から、被検者200毎に交換可能となるように保持部23に装着されることが好ましい。また、電極部材21については、脳波信号が検出できるように導電性を有するものであれば、その素材については特に限定されることはないが、生理食塩水を含浸したフェルトを有する構成にすることが好ましい。前述したように、脳波検知部20は、被検者200が所定の位置で頭部を固定した後、その頂部領域に当て付けられるように、アーム19が上下方向に回動(或いはスライド)し、アーム19に保持されている電極部材21は、垂直方向に頭部に対して当て付く。このため、電極部材21を、生理食塩水を含浸したフェルトで構成することによって、被検者200に対する当て付けがソフトになり、被検者200に痛みやストレスを与えることなく、脳波を測定することが可能となる。
電極部材21については、外部から刺激(嗅覚刺激、聴覚刺激、視覚刺激)を与えた際、被検者200の頭部の正中中心部(Cz)のみに接触させた状態であっても、認知症の判別をすることが可能な賦活脳波を正確に取得することができることから、被検者200に対する電極装置の装着が容易に行える。すなわち、脳波測定に用いられる一般的な21極タイプの電極を用いる必要がないため、測定に際して被検者に対する負担が軽減されるとともに、衛生面からも好ましい。なお、被検者200に対しては、正中中心部(Cz)の微弱信号を取得するにあたり、電極部材21との間で電位差を生じさせる基準電極26が耳朶等に装着される。
フレーム15には、顎固定部16と額固定部17との間で頭部が固定された被検者200の鼻腔から離間した位置に、臭気を発生させる臭気発生部40が設けられている。臭気発生部40は、鼻腔の下方領域に臭気を吐出させるものであればよく、吐出された臭気は、被検者の自然呼吸の吸気の際に嗅がれる。
臭気発生部40は、被検者の鼻腔の下方に位置するガイド部材41と、ガイド部材41に保持される臭気源(本実施形態では試料ビン)43と、試料ビン43をガイド部材41に沿って案内駆動する試料ビン搬送機構45と、被検者の呼吸状態を検知する呼吸センサ46とを備えている。
ガイド部材41は、被検者200の鼻腔の下方で水平面内に沿うように輪帯状に形成されており、被検者200の鼻腔の下方位置に対応して開口41aが形成されている。また、ガイド部材41の下面側には、試料ビン43がガイド部材41に沿って移動可能に保持されている。なお、ガイド部材41に保持される試料ビン43は、1つ(1種類)であってもよいが、ガイド部材41に沿って複数個の試料ビンが移動可能に保持されていることが好ましい。すなわち、被検者200に対しては、複数種類の臭気が提示可能であることが好ましい。
ここで、図9を参照して、ガイド部材41に保持される試料ビン43の構成について説明する。
試料ビン43は、ガイド部材41の下面に垂下するように保持されており(保持機構の詳細については省略する)、フレーム15に設けられた試料ビン搬送機構45によって矢印D1,D2方向に移動可能となっている。試料ビン43の本体43A内には、認知症の判別に用いられる臭気(例えばメントール、カレー、みかん、バラ等の臭気)が封入されており、その上方に設けられた吐出部43Bを介して臭いが排出されるようになっている。
吐出部43B内には、矩形状の平板43a,43bを、スペーサ43cを介在して重ね合せ、下面側の平板(ダイヤフラム)43bに圧電素子43Cを取着することで平板43a,43b間の空間Sをポンプ室として機能させるダイヤフラム型のポンプが配設されている。そして、圧電素子43Cに印加電圧を加えることで、平板43bが振動してポンプとしての機能を発揮し、試料ビンの本体43Aに収容されている臭気は、矢印で示すように移動し、吐出部43Bの中央に突出形成されたノズル43dを介して上方に向けて吐出される。この場合、試料ビン43は、試料ビン搬送機構45によって、ノズル43dがガイド部材41の開口41aに位置付けられた状態で、圧電素子43Cに電圧が印加されることで、被検者200の鼻腔に対して臭いが提示される。したがって、ガイド部材41に保持されている試料ビン43のノズル43dが開口41aに位置付けされていなければ、被検者200は、試料ビン43に収容されている臭気を感じることはない(賦活脳波が検出されることはない)。
フレーム15には、被検者200の呼吸の状態を検知する検知センサ(呼吸センサ)46が配設されている。この呼吸センサ46は、例えば、熱電対によって被検者200の温度変化を検知するもの、レーザ光によって呼吸時の胸部の膨らみを検知するもの等で構成することができ、被検者200の呼気と吸気を検知可能であれば、特定の構造に限定されることはない。この呼吸センサ46からの検知信号は、制御部30に送信され、その検知信号に基づいて、試料ビン搬送機構45及び圧電素子43Cが制御される。具体的には、制御部30は、呼吸センサ46が被検者200の吸気状態を検知したときに、試料ビン43から臭気が発生するように、臭気発生部(試料ビン搬送機構45及び圧電素子43C)を制御する。
賦活脳波計測装置10は、上記した臭気発生部40に加え、更に被検者200の触覚に対して刺激を与える触覚刺激部50を備えていても良い。この触覚刺激部50は、被検者200の右側と左側に外的な刺激を与えた際、脳波が反応するか否かを測定するものであり、この賦活脳波計測装置10では、被検者200が容易に測定できるように、左手の指、及び、右手の指に対して外的な刺激を加える構成となっている。すなわち、触覚刺激部50は、基台11上に設けられ、被検者200の両手の掌を揃えて載置する載置台51を備えており、載置台51上には、被検者200の左右の手の載置位置を特定する型図柄51a,51bが描かれている。このため、被検者200は、単に型図柄51a,51b上にそのまま掌を載置することで、左右の触覚に刺激を受け、そのときの賦活脳波を測定できるよう構成されている。
載置台51内には、載置された人差し指に対して刺激を与える指押圧装置52が収容されている。この指押圧装置52は、各手の人差し指に対して、所定の間隔をおいて2点の押圧刺激を与えるピン53,54を備えており、2点のピンの間隔は調整可能で、その表面から突没できるように構成されている。なお、左手の人差し指を押圧する2本のピン53の間隔、右手の人差し指を押圧する2本のピン54の間隔の調整、及び、ピン53,54の突没は、制御部30からの制御信号に基づいて押圧部駆動機構55によって成される。
また、賦活脳波計測装置10は、被検者200の聴覚に対して、異なる音を発生する音発生部60を備えている。この音発生部60は、フレーム15に設けられており、被検者200が頭部を固定した際、両側の耳を覆うように配設される一対のスピーカ61を備えている。このスピーカ61からは、制御部30からの制御信号に基づいて、音制御回路65によって異なる音階の音(提示音)が報音される。
また、賦活脳波計測装置10は、被検者200の視覚に対して、異なる図柄を表示する画像表示部70を備えている。この画像表示部70は、フレーム15に設けられており、被検者200が視認可能な位置(この賦活脳波計測装置10では、触覚刺激部50を構成する載置台51の奥側の上方位置)に設置されるディスプレイ71を備えている。このディスプレイ71には、制御部30からの制御信号に基づいて、画像制御回路75によって近似する複数の画像(提示画像)が表示される。
一般にDLBでは、視覚に対する作業記憶が、統合失調症では音に対する作業記憶が低下することが知られており、これらの刺激提示装置を接続することにより、認知症及び神経疾患(精神疾患)を含む脳機能疾病の鑑別に必要な情報(データ)を多面的、定量的、他覚的に取得できる。
また、賦活脳波計測装置10は、本体13の臭いを除去する臭い除去部80を設けることが好ましい。臭い除去部80は、臭気発生部40で臭いを放出して測定が終了する毎に駆動される排気ファン81、残臭を除去するフィルタ82等によって構成することが可能である。
以上のように構成される賦活脳波計測装置10には、外部電力と接続される電源90が組み込まれており、本体13内の前述した各測定要素は、電源90からの電力供給を受けて制御部30の制御プログラムにしたがって駆動される。また、前述した脳波検知部20によって検知された脳波信号は、前述したようにBluetooth(登録商標)、WiFi等の通信ポートを介して、外部装置(脳波測定用のPC等)に送信されてもよい。その場合には、賦活脳波計測装置10で健診を受ける被検者200は、複数年に亘って定期的に脳波データを蓄積することが可能であり、認知症の発症の有無や、その進行度について、より正確な診断結果を得ることが可能となる。なお、被検者200から得られる脳波信号については、有線、無線を問わず、賦活脳波計測装置10と接続される外部装置(脳波測定用のPC等)で管理してもよいし、そのような管理機能を賦活脳波計測装置10が備えた構成であってもよい。
このような構成の賦活脳波計測装置10を用いて賦活脳波を取得する場合には、被検者200が、顎固定部16に顎を載置し、額固定部17に額を押し付けて頭部を固定することで測定可能状態となる。そして、例えば臭気刺激により賦活脳波を取得する場合には、測定が開始された時点で、最初に呼吸センサ46によって吸気状態(ON)が検知され、被検者200の呼吸が吸気状態になったとき、試料ビン搬送機構45が駆動されて、所定の試料ビン43が被検者200の鼻腔の下方に位置付けられる。
この状態で、試料ビン43の圧電素子43Cに印加電圧を加えることで、試料ビン43内の臭気は、ガイド部材41の開口41aを介して被検者200の鼻腔に吐出され、これにより被検者200の脳波が賦活され、そのときの脳波データが取得される。脳波データの取得は、所定時間なされる。この場合、所定時間は、通常、人の自然呼吸が2.5秒から3秒程度であり、吸気状態は概ね1秒〜1.5秒程度であることを考慮すると、脳波データの取得については、臭いが提示されたときから1秒(1000ms)程度を取得すれば吸気時の賦活脳波データを取得することができる。このときの吸気時の賦活脳波波形の一例が図4に示される。なお、嗅覚を刺激することで賦活される脳波の頂点潜時は、加齢にもよるが、200ms〜500ms程度で現れることから、前述した時間の範囲の脳波データが取得できれば、頂点潜時の前後のデータを十分に取得することが可能である。
臭いが提示されてから所定時間が経過すると脳波データの取得が停止され、圧電素子43Cの駆動も停止される。引き続き、試料ビン搬送機構45を駆動し、被検者200に提示していた試料ビン43を被検者200の鼻腔の下方から退避させて残臭を排除する。
そして、このような吸気時における賦活脳波の取得は、所定回数(10回程度)実行され、所定回数の脳波データが取得された段階で終了する。この場合、所定回数の脳波データを取得することで、脳波の加算平均を得ることが可能となり、より正確なデータを取得することができる。
すなわち、被検者200の測定中に、外部環境によって脳波の波形が影響を受けることが考えられるが、複数回のデータを加算して平均データを取得することで、測定中の外部環境による脳波の変位を排除して正確な脳波データを取得することが可能となる。
前述したように、嗅覚を刺激して得られる賦活脳波は、臭いを提示してから所定時間後に波形がピークを呈する(頂点潜時)。この頂点潜時は、加齢によってある程度遅くなるが、平均的な高齢者と比較して頂点潜時が遅い(例えば、図4のN200成分の遅れt1及びP300成分の遅れt2参照)、或いは、頂点潜時において、十分な(頂点)振幅が得られていないのであれば、それは脳機能疾病を発症している可能性が高くなる。
上記した構成において、臭気発生部40は、被検者200に対して複数の臭気がランダムに提示可能なように、異なる臭気を収容した臭気源(試料ビン)を複数備えていることが好ましい。例えば、提示する臭いの種別により、賦活される脳波の波形の形状はある程度定まっているが、特定の臭いに対して反応しない、或いは、臭いに応じた特定の波形から逸脱した波形が得られる場合は、アルツハイマー型の認知症の可能性がある。特に、得られた波形の加算平均を取得した際、アルツハイマー型の認知症では、フラットになる傾向がある。すなわち、臭いの種別に対応した波形と、その臭いに対する正常な波形とを対比することによって、症状の種別や進行具合についても鑑別することが可能である(アルツハイマー型認知症に関しては、2臭で周波数分析をすることで鑑別することも可能である)。
また、上記のように、2種類以上の臭気を提示する場合、例えば、標準臭を80%、ターゲット臭を20%程度の割合としておき、被検者に対しては、ターゲット臭が提示された回数を数えるように予め課題を与えておく(二点オドボール課題とも称される)ことで、外部からのノイズの影響を少なくすることができ(S/N比が高くなる)、同じ臭いを断続的に提示して加算平均を取得するよりも、精度が高い脳波信号を得ることが可能となる。
また、ある程度、脳の加齢化が進行しているケースでは、ワーキングメモリを測定することで、その進行の度合いをより詳しく判別することが可能である。ワーキングメモリが正常に機能しているか否かについては、聴覚に基づく賦活脳波、或いは、視覚に基づく賦活脳波を測定することにより把握することが可能である。
前述した賦活脳波計測装置10では、ワーキングメモリに関しては、音発生部60、或いは、画像表示部70を利用して測定することが可能である。たとえば、頭部が固定された被検者200に対し、一対のスピーカ61から音階が異なる2つ以上の音をランダムに提示し(聴覚刺激を与え)、特定の音階の音(ターゲット音)の数を数えるような課題(オドボール課題)を与えた際の賦活脳波を測定することで、ワーキングメモリが正常に機能しているか否かを判別することが可能となる。具体的な手法として、上記オドボール課題において、被検者に対し、3つの異なる音階の音をランダム(30回程度)に与え、特定の音階の音について数を数えさせるという課題(三点オドボール課題であり、標準音を80%、ターゲット音を15%、イレギュラー音5%の割合で提示する)を与えると、被検者200はターゲット音に対して意識を集中するようになり、ターゲット音が発音してから所定の時間が経過したときに、脳波には頂点潜時が現れる。
具体的には、ターゲット音が発音されてから200ms付近に陰性の振れが現れ、300ms付近に陽性の振れが現れる。これらは、前述したようにN200,P300とも称されており、取得された波形データの加算平均を取得することで、被検者200は、ターゲット音に対してN200,P300が誘発されているか否かが明確に把握でき、これらが正確に誘発されていなければ(すなわち、頂点潜時が遅れる又は早くなる)、ワーキングメモリに異常を来していることが判別できる。
一方、画像表示部70を利用して視覚刺激を与えることにより脳波を測定しても、ワーキングメモリが正常に機能しているか否かを判別することが可能である。この場合、三点オドボール課題を提示するのであれば、似通った3つの画像(判別可能な3つの画像)をディスプレイ71上に提示して、ターゲット画像の数を数えさせる、という課題を提示することで、N200,P300が誘発されているか否かが把握できる。
なお、前述した触覚刺激においても、2本のピン53(54)を所定の間隔をおいて指に2点刺激を与えたにも拘わらず、1点の刺激しか感じられない場合(消去現象)、それは末梢神経の異常が考えられ、レビー型の認知症の可能性があり得る。この場合、被検者200に対しては、2本のピンを所定間隔に維持して2点で刺激を与えるケースと、1点で刺激を与えるケースを混在しておき、例えば1点の刺激を数えさせるような課題を提示して脳波を測定することで、正確な賦活脳波波形を取得することが可能となる。
更に、片方の手のみに刺激を与えるケースと、両側の手に刺激を与えるケースを混在しておき、例えば片方の手のみの刺激を数えさせるような課題を提示して脳波を測定することで、正確な波形を取得することが可能となる。この場合、片方の手の刺激のみに反応する(振幅が得られる)のであれば、抹消神経に異常を来している可能性があり、両方の手の刺激に対して反応が得られなければ、中枢神経に異常をきたしている可能性がある。
このように、触覚刺激部によって外的な刺激を与え、そのときの賦活脳波を取得することで、認知症を発症しているか否かを判別することも可能である。また、認知症の進行の度合いは、体性感覚野における神経細胞が変質しているか否かによって変わることが知られており、最初に変質するのは嗅覚部分、次は触覚部分に異常をきたす。したがって、最初に嗅覚に基づく賦活脳波を測定し、引き続き触覚に基づく賦活脳波を測定することで、認知症を発症しているケースでは、その進行度を把握することも可能となる。
本発明者は、上述した4つの脳機能疾病のそれぞれと、外的刺激の内、視覚、聴覚、嗅覚に関する刺激を与えたときの賦活脳波との因果関係を多数の被検者で検証したところ、図1で示すような結果が得られたことから、この検証結果に基づいて脳機能疾病の鑑別方法を提案する。
以下、図1を参照しながら、4つの脳機能疾病のそれぞれと、視覚、聴覚、嗅覚に関する刺激を与えたときの賦活脳波との因果関係について説明する。
図5から図9に示す賦活脳波計測装置10を用いて被検者に対して視覚、聴覚、嗅覚に関する刺激を与え(上記したようなオドボール課題を与える)、その課題を与えたときに賦活される脳波を検出したところ、脳機能疾病がある被検者の潜時、及び、振幅は、脳機能疾病を患っていない平均的高齢者の潜時、及び、振幅の平均値(閾値とも称する)と対比すると、図1に示すように、潜時と振幅との間で相対的に相違することが見出された。
図1では、視覚に刺激を与えたときに賦活される脳波を左下がり斜線で、聴覚に刺激を与えたときに賦活される脳波を水平線で、嗅覚に刺激を与えたときに賦活される脳波を右下がり斜線で示しており、密腺で示される左側の棒グラフが潜時を示し、疎線で示される右側の棒グラフが振幅の大きさを示している。
以下、具体的に説明する。
(1)アルツハイマー型認知症(AD)の場合
アルツハイマー型の認知症では、視覚、聴覚、嗅覚のいずれに刺激を与えても、賦活脳波の潜時、及び、振幅は平均値を下回る結果となった(図では、平均値の略半分以下として示しているが、被検者によっては少し下回わるケース、大きく下回るケースがある;以下同じ)。
(2)レビー小体型認知症(DLB)の場合
レビー小体型の認知症では、視覚刺激及び嗅覚刺激を与えたところ、賦活脳波に潜時、及び、振幅が殆ど見られず、聴覚刺激を与えたときは、賦活脳波の潜時、及び、振幅は平均値を下回る結果となった。
(3)統合失調症の場合
統合失調症では、聴覚刺激を与えたところ、賦活脳波に潜時、及び、振幅が殆ど見られなかった。また、視覚刺激を与えたときは、潜時については、平均値付近の領域であるのに対し、振幅は平均値を下回る結果となった。更に、嗅覚刺激を与えたときは、潜時については、平均値付近の領域であり、振幅は平均値を上回る結果となった(嗅覚刺激では、正常な潜時、振幅となった)。
(4)うつの場合
うつでは、視覚刺激、聴覚刺激及び嗅覚刺激を与えたところ、いずれも潜時については平均値付近の領域であるものの、振幅については、いずれも平均値を下回る結果となった。
以上のように、被検者に対して、視覚、聴覚、嗅覚に刺激を与え、そのときに賦活された脳波の頂点潜時の遅れ及び振幅の大きさを、平均的な高齢者の潜時・振幅の平均値と比較し、それが上記の(1)〜(4)のいずれかに該当していれば、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、鬱病、統合失調症について、ある程度の精度をもって鑑別することが可能となる。この場合、いずれにも該当しなければ、それは脳機能疾病がないと鑑別しても良いし、ある程度の一致が見られるようであれば、要観察と鑑別したり三次的な検査を行なうようにしても良い。また、測定された結果が、平均値を下回れば、上記したような鑑別が可能であるが、鑑別の精度をより高めるために、平均値を下回るときは、少なくとも平均値の半分以下となったときに、その症状に該当する、と鑑別するようにしてもよい。
すなわち、本実施形態では、賦活脳波計測装置10の制御部30が、被検者200に各刺激を与えた際に得られる賦活脳波の波形から、頂点潜時及び振幅を被検者毎に一時記憶領域(測定テンプレート)に記録する。そして、制御部30は、所定のアルゴリズムにしたがって、各刺激に関する平均値個別テーブル(図1で示される平均的な高齢者の潜時と振幅の平均値)と、記録された測定結果とを対比し、上記の(1)〜(4)のいずれかに該当している場合、脳機能疾病の内、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、統合失調症、うつについての鑑別結果を導き出す。
なお、各刺激に関して、いずれのタイプの病症(アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、統合失調症、うつ)の傾向が大きいか、又は、いずれのタイプの病症により近いか等を、所定のアルゴリズムにしたがって総合的に評価(場合によって数値化してもよい)して、その被検者がアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、統合失調症、うつのいずれかに該当するか否かを鑑別しても良い。
たとえば、被検者から得られた賦活脳波データを平均値個別テーブルと比較し、各症状に対する一致度が高かったり、平均値から大きく下回っていれば、その被検者は当該症状を発症している、或いは、進行しているなどの鑑別を行うようにしても良い。
以上のように、本実施形態では、被検者に対して、事前仕分けとして睡眠検査装置100による睡眠検査(必要に応じて問診を含む)を受けさせ、引き続き、賦活脳波計測装置10による検査を受けさせることで、その被検者が、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、統合失調症、うつのいずれかに該当する(或いはその可能性がある)か否かを定量的に導き出すことが可能となるため、医者は、被検者に対して適切な診断を行なうことが可能となり、また、医者でなくても、その鑑別結果から、専門の医療機関などによって、より正確な診断を受けることを促すことも可能となる。
なお、被検者に対して刺激を提示する方法としては、上記したように、視覚、聴覚、嗅覚以外にも触覚に刺激を与えることも可能であり、触覚刺激によって得られる賦活脳波を検出することで、より鑑別の精度を高めることも可能である。
上記したような脳機能疾病鑑別方法については、該方法を含むプログラムを実行するコンピュータプログラムプロダクトが賦活脳波計測装置10の制御部30(図8参照)に組み込まれて実行してもよいし、或いは、賦活脳波計測装置10とは別個の外部装置に組み込まれることにより実行されてもよい。
また、上記した賦活脳波計測装置10を用いた鑑別方法の前段階として、図10で示された睡眠検査装置100による事前仕分けを行なう場合、睡眠検査装置100によって検出される睡眠データについては、賦活脳波計測装置10又は前述した外部装置に直接に送信するようにしてもよいし、間接的に送信してもよい。たとえば、睡眠検出装置100は、Bluetooth(登録商標)や、WiFi等の公知の通信ユニットを組み込んでおいて、睡眠時のデータをそのまま賦活脳波計測装置10や外部装置に送信できるようにしてもよいし、情報記録ユニットを組み込んでおいて、記録媒体(SDカード等)を装着して一定時間睡眠データを記録できるようにしてもよい。
以上、説明してきた脳機能疾病鑑別方法では、賦活脳波計測装置として、卓上設置型のものを例示したが、より簡易に賦活脳波を計測できるように、以下のようなヘッドホン型のもの、及び、これに連動する刺激提示を使用することもできる。
以下、これらの構成について説明する。
最初に、図11及び図26を参照して、賦活脳波計測装置310、及び、これに接続される刺激提示装置(臭気発生装置、音発生装置)の概要について説明する。
本実施形態の賦活脳波計測装置310は、被検者の頭部の両サイドに当て付けられる一対の当付部305と、これらの当付部305,305同士の間に架け渡されて被検者の頭部上に装着されるヘッドバンド303と、ヘッドバンド303に設けられ、被検者に対して刺激を与えた際に得られる賦活脳波を検知する脳波検知部320と、ヘッドバンド303に設けられ、脳波検知部の動作等を制御する制御部325と、を備えている。
また、賦活脳波計測装置310に対しては、刺激提示装置として、被検者の嗅覚に対して刺激を与える臭気発生装置340と、被検者の聴覚に対して刺激を与える音発生装置(前述した音発生部60と同様な構成であってもよい)360(音発生装置は賦活脳波計測装置310と一体化される)が接続される。さらに、画像提示装置(例えば、ディスプレイ等、前述した画像表示部70と同様の構成であってもよい)430と連動させることで、視覚刺激による前頭前野の健全性を確認することもできる。
前記賦活脳波計測装置310は、測定中、被検者に対して負担を強いることなく且つ測定に際して正確な脳波(波形信号)が得られるように図られている。後述するように、被検者に対して臭気を提示する図16から図20に示す臭気発生装置340は、被験者の呼吸に合わせて特定の臭気(或いは臭気パターン)を提示するように構成されるため、被験者は嗅ぐことを強制されない。また、臭いの吐出量、集臭い袋容積(S1)は、1吸気容積に合わせているので残臭を生じさせない。さらに、提示回数も6回(2*3回)で、馴致性を回避し計測時間の短縮に寄与している。すなわち、認知機能の衰えた被検者も問題なく検査できる。
また、聴覚についても、ヘッドホン型の音発生装置360により、ノイズの少ない刺激提示が可能であるため、検査時間の短縮、ひいては被験者の負荷の軽減に寄与する(これは、視覚刺激においても同様である)。
上記のように、賦活脳波計測装置310は、音発生装置360を内在しており、また連動する臭気発生装置340に接続される形態を成すため、携帯性及び装着固定性に優れ、前述した賦活脳波計測装置10と同様、例えば、各地方自治体が運営する医療・保健センター、地域病院、個人的な開業医、運転免許センターなどで簡単に使用して検査を容易に行なうことができる。
以下、賦活脳波計測装置310の具体的な構成について図11〜図15及び図23を参照して説明する。
この賦活脳波計測装置310は、図11及び図23に示すように、被検者400の両耳に当て付けられる一対の当付部305と、これらの当付部305,305同士の間に架け渡されて被検者400の頭部400b上に装着されるヘッドバンド303とを備えた、いわゆるヘッドホン型で構成される。
なお、各当付部305は、連結部308を介して接続されており、この連結部308には、ヘッドバンド303の上方に外側バンド302が連結されて、被検者の頭部の大きさに合せて当付部305の長さを調整できるようになっている。また、各当付部305には、被検者400の耳を覆うようにして当て付くように、スポンジ状の使い捨て可能なイヤパッド304が着脱自在に取り付けられる。或いは、使い捨て可能なイヤパッド304は、スポンジではなく、例えばプラスチック等により枠状に形成される図13(a)に示されるようなイヤパッド309で構成されていても良いし、そのようなイヤパッド309を図13(b)に示すように、スポンジ状のイヤパッド304Aに対して装着してもよい。
上記したように、各当付部305には、被検者400に聴覚刺激を与える音を発生するように、刺激提示装置としての音発生装置360が設けられる。この音発生装置360は、各当付部305を構成するフレームに設けられており、賦活脳波計測装置310が図22に示すように、被検者400の頭部400bに装着された際、被検者400の両側の耳を覆うように配設される一対のスピーカ361を備えている。このスピーカ361からは、ヘッドバンド303内に組み込まれた制御部(制御ユニット)325を介して、異なる音階の音(提示音)がオドボール提示できるようになっている。なお、音源については、制御部に設けられている記憶部に予め格納されている音情報に基づいて提示しても良いし、外部装置(例えばパーソナルコンピュータなど)500から入力されて提示するようにしても良い。
前記ヘッドバンド303には、その略中央部に、被検者400に刺激(嗅覚刺激や聴覚刺激など)を与えた際に得られる賦活脳波を検知する脳波検知部320が貫通支持された状態で設置されている。この脳波検知部320は、外部から被検者400に刺激を与えた際に、脳波の変化が効果的に測定できる部位、具体的には、上記した賦活脳波計測装置10と同様、賦活脳波が検知できる部位に当て付けられる電極部321を備えている。すなわち、本装置の電極部321は、国際10−20法に従うところの頭頂部領域である被検者400の正中中心部(Cz)や正中頭頂部(Pz)に対して垂直方向から圧着されるようになっており、これにより、電極部の導電性能を最大化する構造(例えば、電極抵抗が5Ω以下に設定される)を備えている。また、電極部321が当接する頭頂部領域は、感覚器官を刺激した際に生ずる体性感覚野における脳波の変化を広く測定できることから、計測装置として、1極のみの簡略な装置構成とすることを可能にした。
前記制御部325は、信号処理回路、脳波解析アルゴリズムや各種制御プログラムを搭載したCPUを組み込んでおり、例えば、縦寸法が27.9mm、横寸法が15.2mm、及び、厚さが2.5mm程度の大きさを備えた基板状に構成されたものを活用することができ、短い電気配線319を介して電極部321(正確には、後述する銀皿電極328)に電気的に接続される。この制御部325は、後述するバネ327を固定する固定板(図示せず)から被検者400の頭部400b側へ離間されてバネ327の自由端に結合される可動安定板(図示せず)上に設けられてもよい。
前記脳波検知部320は、電極部321と、電極部321を被検者400の頭部400bに押し付ける方向に付勢する手段としてのバネ327とを備えており、電極部321は、常時加湿型で、ディスポーズタイプとして構成されている。ここで、脳波検知部の詳細について説明する。
前記電極部321は、バネ327によって被検者400の頭部400bに押し付けられる方向に付勢されて銀皿電極328を保持する一次電極部321Aと、銀皿電極328と電気的に接触されて被検者400の頭部400bに直接に接触されるとともに生理食塩水が含浸されて成るフェルト電極323を保持する二次電極部321Bとを有する(図14の(b)参照)。
この場合、二次電極部321Bは、一次電極部321Aに対して着脱自在に取り付けられる。具体的には、例えば、二次電極部321Bは、フェルト電極323を保持するコネクタ(図示せず)を有し、このコネクタを介して一次電極部321Aの対応するコネクタに着脱自在に取り付けられる。すなわち、二次電極部321Bは、衛生上の観点から被検者400毎に交換できるようになっている。なお、銀皿電極328は、導電部328a及び電気配線319を介して制御部325に電気的に接続される。また、一次電極部321Aは、バネ327の端部を保持するバネガイド327Aを有する。
また、一次電極部321Aは、生理食塩水を収容する収容体329と、二次電極部321Bが一次電極部321Aに取り付けられる際に収容体329を開放して収容体329内の生理食塩水をフェルト電極323に常時浸み込ませる手段とを更に有する。
具体的には、収容体329は、筒状本体329aの上下に上蓋322と底蓋324とを取着することにより画定される内部空間内に生理食塩水を収容して成り、底蓋324は、図15の(b)及び(c)に示されるように、収容体329内に摺動可能に嵌合されるとともに二次電極部321Bが一次電極部321Aに取り付けられていない状態で銀皿電極328に当て付く嵌合当接部324cと、嵌合当接部324cから下方に突出して銀皿電極328の中心貫通孔328bを貫通する下方突出部324bとを有する。
前記底蓋324は、二次電極部321Bが一次電極部321Aに取り付けられる際に、その下方突出部324bにフェルト電極323の上方突出部323aが当て付いて収容体329内へと押し上げられることにより、嵌合当接部324cに形成される複数の流通孔324aを通じて収容体329内の生理食塩水を嵌合当接部324cと銀皿電極328との間の隙間(押し上げられることにより形成される隙間S)に導出させて(導出される生理食塩水が図14の(b)に矢印で示される)、この隙間Sに入り込む上方突出部323aを通じてフェルト電極323に生理食塩水を浸み込ませるようになっている。
すなわち、フェルト電極323及び底蓋324の突出部323a,324b及び流通孔324cは、銀皿電極328と共に、生理食塩水をフェルト電極323に常時浸み込ませる前述した手段を構成する。或いは、これに代えて、(常時ではなく)電極部321が被検者400の頭部400bに押し当てられた場合にのみ生理食塩水がフェルト電極323に浸み込むようになっていてもよく、また、生理食塩水がフェルト電極323に浸み込む形態は、前述した形態に限定されず、例えば毛細管現象等を利用して生理食塩水をフェルト電極323に浸み込ませるようにしてもよい。
なお、電極部321については、脳波信号が検出できるように導電性を有するものであれば、その素材については特に限定されることはない。例えば、二次電極部321Bは、生理食塩水を含浸したフェルト電極323により形成される必要はないが、生理食塩水を含浸したフェルトで構成することにより、被検者400に対する当て付けがソフトになり、被検者400に痛みやストレスを与えることなく、脳波を測定することが可能となる。
上記した電極部321は、外部から刺激(嗅覚刺激、聴覚刺激、触覚刺激、又は、視覚刺激)を与えた際、被検者400の頭部400bの正中中心部(Cz)のみに接触させた状態であっても、認知症の判別をすることが可能な賦活脳波を正確に取得することが可能であり、被検者400に対する電極の装着が容易に行える構成となっている。すなわち、脳波測定に用いられる一般的な21極タイプの電極を用いる必要がないため、測定に際して被検者400に対する負担が軽減されるとともに、衛生面からも好ましい。なお、被検者400に対しては、正中中心部(Cz)の微弱信号を取得するにあたり、電極部321との間で電位差を生じさせるように、基準電極(図示せず)が耳朶等に装着される。
前記ヘッドバンド303には、制御部325等の構成部品に対して電力を供給するとともに、賦活脳波計測装置310の制御部325と、賦活脳波計測装置310に接続される装置(臭気発生装置340等の刺激提示装置、コンピュータ等の外部装置500)との間で各種信号の送受信を行なう電源ユニット390Aを有している。
具体的には、前記電極部321によって検知された微弱信号(脳波信号)は、電源ユニット390Aから、Bluetooth(登録商標)、WiFi等の通信ポートを介して外部装置(脳波測定用のPC等)500に送信されてもよい。その場合には、賦活脳波計測装置310で健診を受ける被検者400は、複数年に亘って定期的に脳波データを蓄積することが可能であり、認知症の発症の有無や、その進行度について、より正確な診断結果を得ることが可能となる。すなわち、被検者400から得られる脳波信号については、有線、無線を問わず、賦活脳波計測装置310と接続される外部装置500で管理してもよいし、そのような管理機能を賦活脳波計測装置310が備えた構成であってもよい。
賦活脳波計測装置310は、これに連動して臭気を発生させて被検者400の鼻400a(図23参照)の鼻腔に向けて臭気を吐出させるとともに、臭気制御部425によって制御される臭気発生装置340と接続される。なお、ここでの接続とは、有線、無線を問わず、両者が機能的に連動する関係を意味する。
以下、図16から図20を参照して、臭気発生装置340について説明する。
臭気発生装置340は、臭気源(臭気ビン)343と、該臭気源343から臭気を吐出させるための吐出手段とを備える臭気発生部本体345と、前記吐出手段により吐出される臭気を集束させる臭い送風ガイド(集臭体)341と、集臭体341により集束された臭気を被検者400の鼻腔へ向けて供給するための供給手段とを有する。
ここで、臭気発生部本体345は、筒状を成すとともに、例えば通気孔351,399(図17の(a)参照)を介して外気が流通できる空間を内部に形成しており、この内部空間には、前記吐出手段を構成する少なくとも1つの(この例では3つの)圧電マイクロブロワ365が臭気発生部本体345の臭気吐出端部345aに固定されて配設される。
前記臭気吐出端部345aには、略円錐形状を成す例えばビニールにより形成される使い捨て可能な前記集臭体341の幅広の底部が、環状の止めリング393を外側から嵌め付けることにより着脱自在に取り付けられる。この場合、止めリング393は、例えば金属製のものであり、臭気発生部本体345の内面の対応する取り付け位置に固着された磁石397によって磁気的に強固に固定される。なお、使い捨て可能な集臭体341が臭気吐出端部345aから取り外された不使用状態では、臭気の漏れを防止するために、図16の(b)に示される保護カバー370が臭気吐出端部345aに着脱自在に取り付けられてもよい。
また、臭気吐出端部345aは、臭いが付着し難い材料から形成されており、その周辺部位に設けられる複数(この例では2つ)の通気孔、臭気発生部本体345の内部を外部に連通させる貫通孔351と、その内側に圧電マイクロブロワ365の数に対応する数で設けられる臭気吐出孔352とを有する。また、各臭気吐出孔352には、対応する圧電マイクロブロワ365により保持される臭気源としての試料ビン343の吹き出しノズル343aが、集臭体341により画定される集臭空間(S1)(例えば容積500ml)内へ向けて臭気を吐出するように位置されている。
各圧電マイクロブロワ365に保持される試料ビン343は、認知症等の判別に用いられる臭気(例えばメントール、カレー、みかん、バラ等の臭気)を内部に封入しており(例えば、この例では、3つの試料ビン343のうちの1つは無臭)、その上部に設けられた吹き出しノズル343aを介して臭いを排出するようになっている。臭気発生部340は3つの試料ビン343を有するため、3種類の臭気を被検者400に対してが提示可能である。
なお、集臭体341により集束された臭気を被検者400の鼻腔へ向けて供給するための前記供給手段は、集臭体341の円錐頂部に固定された支持部材344と、この支持部材344により支持される複数のカニューラ342とから構成される。各カニューラ342は、使用時には、その先端吐出部が被検者400の鼻孔付近に位置されて、集臭体341内の集束された臭気を吐出させる。
臭気ビン343から臭気を吐出させるための吐出手段を構成する前述した圧電マイクロブロワ365は、図18及び図19に示されるように、試料ビン343と一体を成しており、矩形状の平板343b,343b’をスペーサ343cを介在して重ね合わせ、下面側の平板(ダイヤフラム)343b’に圧電素子349を取着することで、平板343b,343b’間の空間S2をポンプ室として機能させるダイヤフラム型のポンプPを上下二段に重ね合わせて構成される。そして、圧電素子349に印加電圧を加えることで、下側の平板343b’が振動してポンプPが作動し、それにより、試料ビン343に収容されている臭気は、矢印で示されるように移動して、試料ビン343の吹き出しノズル343aを介して上方に向けて集臭空間(S1)内へと吐出される。このように複数のポンプPを組み合わせることにより、臭気の吐出力を高めることができる。
なお、臭気ビン343は、臭気を発する試料を多孔質素材372(図20参照)に含浸させた状態で内部にほぼ密に収容することにより成る。このように多孔質素材372を用いると、保温力が高められ、気化が促進させるとともに、臭気の漏出を防げるが、これに限定されない。
また、臭気発生装置340は、発生された臭いを除去する臭い除去部を有することが好ましい。そのような臭い除去部は、臭気発生装置340で臭いを放出して測定が終了する毎に駆動される排気ファン381(臭気発生部本体345の通気孔399付近に配置される・・・図17の(a)参照)、又は、残臭を除去するフィルタ(図示せず)等によって構成することが可能である。
また、臭気発生装置340は、その高さ及び傾きを調整するための調整手段を有する。具体的に、この調整手段は、図16及び図17に示されるように、基台347と、この基台347の両側から垂直上方に延びる支柱348とを有し、支柱348に形成される上下方向に延びるスリット348aに臭気発生部本体345の両側から延びる軸部358が回転可能(傾動可能)且つ上下動可能に通され、位置決め部材353を用いてこの軸部358を支柱348に対して所定の上下位置及び角度位置に固定することにより、臭気発生装置340の高さ及び傾きを調整できるようになっている。なお、基台347には、圧電マイクロブロワ365の圧電素子349に対して配線359を通じて電圧を印加できる電源390Bが埋め込まれており、電源390Bからは給電用の電気ライン391が延びている。
また、賦活脳波計測装置310は、被検者400の呼吸の状態を検知するための呼吸検知部を備えている。呼吸検知部は、図11及び図23で示すように、賦活脳波計測装置310の当付部305からアーム307を介して延在して、被検者400の顔面(特に口部)と対向して位置されるよう呼吸センサ346で構成される。この場合、呼吸センサ346は、一方の当付部305からアーム307を介して口部領域に位置付けされるように構成されているが、両方の耳当て部から一対のアームを介して位置付されるように構成されていてもよい。
具体的に、この呼吸センサ346は、赤外線フラップ方式の呼吸センサとして構成されており、図21に示されるように、発光部381と、受光部382と、支軸384を中心に回動可能に設けられて被検者400からの呼気410によって作動(摺動)するフラップ383と、フラップ383に設けられるとともにフラップ383の作動に伴って発光部381と受光部382との間の光路388に侵入して発光部381から受光部382へ向かう光を遮断する遮光体385とを有する。
このような呼吸センサ346によれば、フラップ383が呼気410によって上方へ回動して光路388が遮断された後、呼気410が供給されなくなりフラップ383が下方へ戻って光路388が回復された時点を吸気初めと判断できる。
賦活脳波計測装置310では、上記した呼吸センサ346で得られた検知信号を臭気発生装置340に組み込まれた臭気制御部425に送信し、呼吸センサ346が被検者400の吸気状態を検知したときに臭気が吐出するように臭気発生装置340が制御されるようになっている。具体的には、臭気制御部425は、呼吸センサ346が被検者400の吸気状態を検知したとき(検知信号を受けたとき)に、試料ビン343から臭気が発生するように、臭気発生部340の圧電素子349に電圧を印加する。このような制御は、前述したフラップ383の作動状態を呼吸センサ346により検知することによって得られる図22に示されるような呼吸波形において呼気から吸気への移行時点(吸気初め)をトリガとして臭気吐出を行なう(臭気発生部340を作動させる)ことにより実現できる。
なお、呼吸センサ346は、このような赤外線フラップ方式に限定されず、熱電対によって被検者400の温度変化を検知するもの、レーザ光によって呼吸時の胸部の膨らみを検知するもの等で構成することもできる。
上記したように構成される賦活脳波計測装置310を用いて、上述した脳機能疾病の鑑別に必要な情報(賦活脳波データ)を多面的に取得する場合には、図23に示されるように、賦活脳波計測装置310を被検者400の頭部に装着する。具体的には、被検者400の両耳に一対の当付部305を当て付けた状態で、被検者400の頭部400b上にわたってヘッドバンド303を架け渡すと共に、外側バンド302を利用して長さ調整を行なう(被検者に対して最適な位置で装着を行なう)。これにより、ヘッドバンド303に設けられた電極部321のフェルト電極323が頭部400bの所定位置に当て付くことで、バネ327の付勢力に抗して電極部321が持ち上がり(図12及び図14の(a)の破線参照)、頭部400bに対する電極部321の接触圧が高められると同時に、フェルト電極323は収容体329からの生理食塩水によって常に湿った状態に維持される。
この状態で、続いて、被検者400に嗅覚刺激を与える場合には、臭気発生装置340の高さ及び傾きを調整しつつ、臭気発生装置340のカニューラ342を被検者400の鼻孔付近に位置させて(図23参照)、臭気発生装置340を作動させる。具体的には、試料ビン343の圧電素子349に印加電圧を加えることで、所定のいずれか1つの試料ビン343内の臭気が、臭気吐出端部345aから集臭体341を通じてカニューラ342により被検者400の鼻腔に吐出され、これにより被検者400の脳波が賦活され、そのときの脳波データが脳波検知部320により取得される。
脳波データ(頂点潜時及び振幅等)を測定する際には、例えば、被検者に対して、10回提示される空気吐出(無臭aと有臭bの任意の吐出で、有臭bの数を数えるような課題(二点オドボール課題)を与えておき、特定の臭気に反応する際の賦活脳波を測定し、この脳波データの取得を所定時間で行なう。この場合、所定時間は、通常、人の自然呼吸が2.5秒から3秒程度であり、吸気状態は概ね1秒〜1.5秒程度であることを考慮すると、脳波データの取得については、前述の二点オドボール提示、提示回数10回では、40秒から45秒で1回の提示を完了することができる。
これにより、図1で示したような、個別テーブルにあてはめられる嗅覚に関する賦活脳波データを取得することが可能となる。
また、無臭、有臭に関わらず提示後1秒(1000ms)の賦活脳波データ(頂点潜時及び振幅等)を対比することによって、被検者の脳波が正常か否かを判定することも可能である。図24は、吸気時の賦活脳波波形の一例を示しており、臭気別(上の曲線は標的刺激で予測される正常者の成分曲線で、下の曲線は標準刺激に対する成分曲線)の周波数ごとの出現量をグラフ化したものである。被検者の計測結果に応じて、このような周波数ごとの出現量を取得することができるため、得られた成分曲線を、このような正常者の成分曲線と対比することで、被検者の脳波の状態が正常なものか否かが鑑別することも可能である。
なお、嗅覚を刺激することで賦活される脳波の頂点潜時は、加齢にもよるが、200ms〜500ms程度で現れることから、前述した時間の範囲の脳波データが取得できれば、頂点潜時の前後のデータを十分に比較することが可能である。
上記した賦活脳波計測装置310及び臭気発生装置340では、臭いが提示されてから所定時間が経過すると脳波データの取得が停止され、圧電素子349の駆動も停止され、また、ファン381の作動等により残臭も排除される。その後、引き続き、別の試料ビン343の圧電素子349に印加電圧を加えることで、別の臭気の吐出作業が前述したように行なわれる。そして、このような吸気時における賦活脳波の取得は、所定回数(例えば10回の提示をワンセットとし3回程度で1検査とする)実行され、所定回数の脳波データが取得された段階で終了する。この場合、所定回数の脳波データを取得することで、脳波の加算平均を得ることが可能となり、より正確なデータを取得することができる。
すなわち、前述したように、被検者400の測定中に、外部環境によって脳波の波形が影響を受けることが考えられるが、複数回のデータを加算して平均データを取得することで、測定中の外部環境による脳波の変位を排除して正確な脳波データを取得することが可能となる。
また、賦活脳波計測装置310は、上述した賦活脳波計測装置10と同様、音発生装置(音発生部)360を利用して賦活脳波データを測定可能となっている。例えば、被検者400に対し、当付部5に設けられた一対のスピーカ361から、前記制御部325を介して音階が異なる2つ以上の音をランダムに提示(聴覚刺激を与える)した際の賦活脳波を測定することで、作業記憶が正常に機能しているか否かを判別することが可能となる。
なお、図25に示すグラフは、被検者に対して三点オドボール課題を提示して得られた脳波の波形の一般例を示しており、平均的な高齢者であれば、標準音、ターゲット音、妨害音に対して上段のような波形が得られるのに対し、作業記憶量が弱い人は、中段で示すように、妨害音についても反応する傾向が現れ、作業記憶量が無い人は、下段で示すように、標準音、ターゲット音、妨害音のいずれも反応が小さくなる傾向が現れる。すなわち、聴覚提示して賦活脳波の波形を取得することにより、被検者の作業記憶が正常に機能しているか否かを鑑別することが可能となる。
また、通常であれば、ターゲット音が発音されてから200ms付近に陰性の振れが現れ、300ms付近に陽性の振れが現れる。これらは、前述したようにN200,P300とも称されており、取得された波形データの加算平均を取得することで、被検者400は、ターゲット音に対してN200,P300が誘発されているか否かが明確に把握でき、これらが正確に誘発されていなければ(すなわち、頂点潜時が遅れる又は早くなる)、作業記憶に異常を来していることが鑑別できる(これについては上述した通りである)。
図27は、賦活脳波計測装置の別の例を示す図である。上記した賦活脳波計測装置は、ヘッドホン型に構成されており、その内部に音発生装置360を組み込んだ構成となっていたが、被検者の頭部に対して、一対の当付部305Aを直接当て付けて装着するように構成しても良い。このように賦活脳波計測装置については、より簡易な構成にしてもよい。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。
たとえば、上記した実施形態では、被検者毎の測定結果を、平均的な高齢者の基準データ(閾値)と比較することにより、それぞれの病症を鑑別したが、具体的な比較方法は適宜変形することができる。また、賦活脳波計測装置の構成については上記した実施形態の構成に限定されることはない。