JP2019011513A - 鉄基焼結体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】金属マトリクス中に複合酸化物の粒子を含む鉄基焼結体であって、前記鉄基焼結体の断面において176μm×226μmの面積の大視野をとり、この大視野を一つ当たりの面積が35.2μm×45.2μmとなる5×5の25視野で見たとき、前記複合酸化物の粒子の平均円相当径が、0.3μm以上2.5μm以下であり、前記25視野の合計面積を、その25視野中に存在する前記複合酸化物の合計数で除した値が、10μm2/個以上1000μm2/個以下であり、前記25視野のうち、前記複合酸化物の粒子が存在しない視野数が、4視野以下である鉄基焼結体。
【選択図】図1
Description
前記鉄基焼結体の断面において176μm×226μmの面積の大視野をとり、この大視野を一つ当たりの面積が35.2μm×45.2μmとなる5×5の25視野で見たとき、
前記複合酸化物の粒子の平均円相当径が、0.3μm以上2.5μm以下であり、
前記25視野の合計面積を、その25視野中に存在する前記複合酸化物の合計数で除した値が、10μm2/個以上1000μm2/個以下であり、
前記25視野のうち、前記複合酸化物の粒子が存在しない視野数が、4視野以下である。
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
前記鉄基焼結体の断面において176μm×226μmの面積の大視野をとり、この大視野を一つ当たりの面積が35.2μm×45.2μmとなる5×5の25視野で見たとき、
前記複合酸化物の粒子の平均円相当径が、0.3μm以上2.5μm以下であり、
前記25視野の合計面積を、その25視野中に存在する前記複合酸化物の合計数で除した値が、10μm2/個以上1000μm2/個以下であり、
前記25視野のうち、前記複合酸化物の粒子が存在しない視野数が、4視野以下である。
本発明の実施形態に係る鉄基焼結体をより具体的に説明する。
実施形態に係る鉄基焼結体は、金属マトリクス中に複合酸化物の粒子を含有する。本実施形態に係る鉄基焼結体の主たる特徴とするところは、鉄基焼結体中に微細な複合酸化物の粒子が均一的に分散して存在している点にある。以下、各構成を詳細に説明する。
金属マトリクスは、99.9質量%以上のFe及び不可避不純物からなるいわゆる純鉄、又は添加元素と残部がFe及び不可避不純物からなるFe合金である。金属マトリクスを形成する鉄系粉末は、Feを主成分(鉄系粉末中に占めるFeの含有量が99.0質量%以上)とした粒子からなる粉末であり、アトマイズ鉄粉や還元鉄粉などの純鉄粉、合金元素を予め合金化した予合金鋼粉、合金元素が部分拡散して合金化された部分拡散合金鋼粉などを用いることができる。これらの粉末は単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。鉄系粉末は、平均粒径(D50径:質量基準の累積分布曲線の50%に相当する粒径)が50μm以上150μm以下程度で、鉄基焼結体の総量に対して92.0質量%以上99.9質量%以下含有することが挙げられる。
複合酸化物の粒子は、複数種の金属元素を含む酸化物(複合酸化物)の粒子であり、鉄基焼結体中に均一的に存在することで、鉄基焼結体の被削性を向上する。複合酸化物の粒子は、鉄基焼結体の加工点における工具刃先温度において、加熱軟化して工具の刃先表面を覆う被膜を形成すると共に、潤滑剤の役割を果たす。加熱軟化した複合酸化物によって、切削工具の拡散摩耗や凝着摩耗、切削抵抗の経時的増加を抑制でき、鉄基焼結体の被削性を向上することができる。複合酸化物に由来する被膜や潤滑剤についての詳細は、後述の試験例で説明する。
複合酸化物は、Si,Al,Ca,Oを必須元素として含有し、B,Mg,Na,Mn,Sr,Ti,Ba,Znから選択される1種以上の元素を含有する。以下、各元素の効果、及び各元素の好ましい含有量を説明する。なお、各元素の含有量は、複合酸化物の組成を100%とした質量割合である。
Siは、非晶質を有する複合酸化物の強度向上に寄与し、複合酸化物の根幹を形成する元素である。Siは、4質量%以上35質量%以下含有される。Siの含有量は、4質量%以上であることで上記効果を良好に得られ、更に10質量%以上、15質量%以上とすることができる。一方、Siの含有量は、35質量%以下であることで複合酸化物の融点を下げることができ、更に30質量%以下、20質量%以下とすることができる。
Alは、複合酸化物の化学的耐久性を向上させ、複合酸化物の安定性を向上させて非晶質形成能を向上させることで複合酸化物の結晶化を抑制する元素である。Alは、2質量%以上25質量%以下含有される。Alの含有量は、2質量%以上であることで上記効果を良好に得られ、更に9質量%以上、12.5質量%以上とすることができる。Alの含有量が多過ぎると、複合酸化物の溶融性を悪化させて粘度が向上し、ガラス転移点や軟化点が高くなる傾向にある。複合酸化物のガラス転移点や軟化点が高過ぎると、鉄基焼結体の加工点における工具刃先温度において、複合酸化物が加熱軟化し難く、工具の刃先表面に被膜を形成し難かったり、潤滑効果を得難かったりする。Alの含有量は、25質量%以下であることでガラス転移点や軟化点を低くすることができ、鉄基焼結体の被削性を向上することができる。Alの含有量は、更に22質量%以下、15.5質量%以下とすることができる。
Caは、複合酸化物の安定性向上に寄与し、化学的耐久性を向上させ、複合酸化物の粘度を低下させて潤滑性向上に寄与する元素である。Caは、2質量%以上35質量%以下含有される。Caの含有量は、2質量%以上であることで上記効果を良好に得られ、更に3質量%以上、5質量%以上、特に12質量%以上とすることができる。一方、Caの含有量は、35質量%以下であることで粘度向上を抑制でき、更に30質量%以下、25質量%以下とすることができる。
Oは、35質量%以上55質量%以下含有される。Oの含有量は、35質量%以上であることで複合酸化物の安定性を向上できると共に、複合酸化物の化学的耐久性を向上することができ、更に40質量%以上、48質量%以上とすることができる。一方、Oの含有量が多過ぎると、粗大な複合酸化物が生成し易く、鉄基焼結体の被削性や強度などに影響を及ぼす。Oの含有量は、55質量%以下であることで、鉄基焼結体の被削性や強度を向上することができる。Oの含有量は、更に54質量%以下、52質量%以下とすることができる。
Bは、複合酸化物の溶融性向上に寄与し、潤滑性の向上に寄与する元素である。Bは、4質量%以上8質量%以下含有される。Bの含有量は、4質量%以上であることで上記効果を良好に得られ、ガラス転移点や軟化点を低くすることができ、更に4.5質量%以上、5質量%以上とすることができる。一方、Bの含有量は、8質量%以下であることで複合酸化物の化学的耐久性を確保することができ、更に7質量%以下、6.5質量%以下とすることができる。なお、複合酸化物としてBを添加しても、浸炭時の強度低下は一切生じない。
Mgは、複合酸化物の安定性向上に寄与する元素である。Mgは、0.5質量%以上15質量%以下含有される。Mgの含有量は、0.5質量%以上であることで上記効果を良好に得られ、更に1質量%以上、2質量%以上とすることができる。一方、Mgの含有量は、15質量%以下であることで非晶質を有する複合酸化物を生成し易く、更に12質量%以下、8質量%以下とすることができる。
Srは、複合酸化物の安定性向上に寄与し、被膜性を向上する元素である。Srは、0.01質量%以上1質量%以下含有される。Srの含有量は、0.01質量%以上であることで上記効果を良好に得られ、更に0.05質量%以上、0.10質量%以上とすることができる。一方、Srの含有量は、多過ぎると上記の効果を得られないため、1質量%以下、更に0.7質量%以下、0.5質量%以下とすることができる。
Naは、ガラス転移点の低下及び粘度の低下に寄与する元素であり、0.01質量%以上1質量%以下含有されることができる。Naの含有量は、更に0.01質量%以上0.8質量%以下、0.015質量%以上0.06質量%以下とすることができる。
Mnは、複合酸化物の安定性を向上させると共に潤滑性を向上させる元素であり、0.01質量%以上0.3質量%以下含有されることができる。Mnの含有量は、更に0.05質量%以上0.25質量%以下、0.1質量%以上0.2質量%以下とすることができる。
Ti,Ba及びZnは、複合酸化物の安定性を向上させると共に、複合酸化物の化学的耐久性を向上させる元素である。Tiの含有量は、0.3質量%以上8質量%以下、更に0.5質量%以上6.5質量%以下、1質量%以上5質量%以下とすることができる。Baの含有量は、2質量%以上25質量%以下、更に4質量%以上15質量%以下、6質量%以上12質量%以下とすることができる。Znの含有量は、5質量%以上45質量%以下、更に10質量%以上35質量%以下、18質量%以上25質量%以下とすることができる。
複合酸化物は、非晶質成分を30質量%以上含むことが好ましい。複合酸化物は非晶質成分を多く含むことで、鉄基焼結体の加工点における工具刃先温度において、複合酸化物が加熱軟化して潤滑性を発揮できると共に、複合酸化物に由来する被膜を形成することができる。複合酸化物における非晶質成分は、更に50質量%以上、70質量%以上、実質的に全てが非晶質であることが挙げられる。複合酸化物の非晶質成分は、電界放射型電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FE−SEM)で鉄系母材とのコントラストの違いから場所を特定し、その後透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いた電子回析パターンから結晶状態を確認することで測定できる。
鉄基焼結体の断面において176μm×226μmの面積の大視野をとり、この大視野を一つ当たりの面積が35.2μm×45.2μmとなる5×5の25視野を見たとき、複合酸化物は以下を満たす。なお、後述する鉄基焼結体の製造方法によって得られる鉄基焼結体は、その全体に亘って実質的に同じ組織のものが得られるため、鉄基焼結体の任意の断面及び視野をとることができる。好ましくは、鉄基焼結体の表面から0.5mm以上内部、更に表面から1mm以上内部の断面及び視野をとることが挙げられる。
複合酸化物の粒子は、鉄基焼結体の表面から10μm以内の表層領域を含む断面において、金属マトリクス中に埋設された埋設部と、表面に露出すると共に、埋設部よりも一方向に伸びる露出延長部と、を有する異形粒子を含む。上記露出延長部は、鉄基焼結体の表面から3μm以内に存在することが好ましい。異形粒子は、鉄基焼結体の切削加工時における切削工具の刃先温度において、複合酸化物が加熱軟化して切削工具の刃先に追従することで切削方向に伸びてできたものである。ここで、切削方向は、加工面の筋状についているツールマークから概ね判別することができる。更にSEMを用いて断面観察した際に鉄組織が塑性流動している方向が切削方向(研削加工の場合は研削方向)である。この異形粒子についての詳細は、後述の試験例で説明する。
鉄基焼結体中には、更に、C,Cu,Ni,Cr,Moから選択される1種以上の元素を含有することができる。鉄基焼結体中にCを含有することで、焼結中にCが拡散して固溶強化されて、鉄基焼結体の強度を向上することができる。Cは、鉄基焼結体を100質量%としたとき、0.2質量%以上3.0質量%以下含有することができる。また、鉄基焼結体中にCu,Ni,Cr,Moから選択される1種以上の金属元素を含有することで、焼結性を向上でき、鉄基焼結体の強度及び疲労特性を向上することができる。これらの金属元素は、鉄基焼結体を100質量%としたとき、合計で0.5質量%以上6.5質量%以下含有することができる。鉄基焼結体中にCuを含有する場合、0.5質量%以上3.0質量%以下含有することができる。
実施形態の鉄基焼結体は、各種の鉄系焼結体、例えば高い寸法精度が要求されるオイルポンプ部品や可変弁機構部品、ギヤ等の各種自動車部品等に好適に利用することができる。
実施形態の鉄基焼結体は、代表的には、原料粉末の準備⇒原料粉末を混合して混合粉末を作製⇒混合粉末を圧縮成形して成形体を作製⇒成形体を焼結して焼結体を作製、という工程を経て製造できる。
原料粉末として、鉄系粉末と複合酸化物の粉末とを準備する。必要に応じて、原料粉末として、黒鉛粉末や、Cu,Ni,Cr,Moから選択される1種以上の非Fe金属粉末、成形用潤滑剤である有機物を準備する。黒鉛粉末を準備する場合は、平均粒径が2μm以上30μm以下程度で、原料粉末の総量に対して0.2質量%以上3.0質量%以下含有することが挙げられる。Cu,Ni,Cr,Moから選択される1種以上の非Fe金属粉末を準備する場合は、平均粒径が10μm以上100μm以下程度で、原料粉末の総量に対して0.5質量%以上6.5質量%以下含有することが挙げられる。複合酸化物の粉末は、代表的には、複合酸化物のフリットを作製⇒上記フリットを粗粉砕して粗粉末を作製⇒上記粗粉末を微粉砕して微粉末を作製⇒上記微粉末と鉄系粉末とを混合して混合粉末(粉末冶金用鉄系粉末)を作製、という工程を経て製造できる。
Si,Al,Ca,Oと、B,Mg,Na,Mn,Sr,Ti,Ba,Znから選択される1種以上の元素と、を特定の範囲で含有する複合酸化物を融点以上に加熱した後冷却して、複合酸化物のフリットを作製する。各元素の含有量は、上述した複合酸化物の粒子と同様である。加熱温度は、複合酸化物の組成に応じて適宜設定すればよいが、1000〜1700℃程度とすることができる。
上記複合酸化物のフリットを平均粒径20μm以下に粗粉砕して複合酸化物の粗粉末を作製する。粗粉砕には、例えば、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー、スタンプミル、ブラウンミル、ボールミルなどの機械粉砕を用いることができる。
上記複合酸化物の粗粉末を所定の粒径に微粉砕して微粉末を作製する。微粉砕には、粉砕メディアを用いない気流型粉砕機を用いて行う。この気流型粉砕機には、例えば、ジェットミルを用いることができる。粉砕メディアを用いないで微粉砕することで、コンタミネーションを防止できたり、粗大粒子を残存させずに粉砕できたり、過度の微粉砕を抑制できたりする。
準備した原料粉末を混合して、混合粉末を作製する。各粉末の混合は、微粉末の凝集を分断可能なせん断力を有する混合機を用いて強制的に攪拌や混合する。この混合機には、例えば、ダブルコーン型ミキサーや攪拌ミキサー又は偏心ミキサーを用いることができる。各粉末を強制的に攪拌や混合することで、複合酸化物の微粉末を鉄系粉末中に均一的に分散することができる。微細であり、鉄系粉末に対して比表面積の大きい複合酸化物を均一的に分散させることで、鉄系粉末中に含有され得るMn又はその酸化物の少なくとも一部と反応し易くなる。また、焼結後の鉄基焼結体の切削加工時に、切削工具の刃先が複合酸化物に接触する確率が高くなり、工具の刃先表面に複合酸化物に由来する被膜を常に形成した状態とでき、かつ複合酸化物による潤滑性をより発現できることで、鉄基焼結体の被削性を向上できる。各粉末の混合時には、予め主成分である鉄系粉末の少なくとも一部と複合酸化物の粉末とを混合し、又は複合酸化物と比重が比較的近い黒鉛粉末と複合酸化物の粉末とを混合して予備混合粉末とし、この予備混合粉末と鉄系粉末や非Fe金属粉末とを混合する、二段階混合の手法を用いてもよい。
上記混合粉末を金型に充填し、圧縮成形して成形体を作製する。成形圧力は、例えば、400MPa以上1200MPa以下程度とすることが挙げられる。使用する金型のキャビティの形状を調整することで、複雑形状の成形体を得ることもできる。
上記成形体を、窒素又は変性ガス雰囲気中で、温度:1000℃以上1350℃以下程度、時間:10分以上120分以下程度、の条件で焼結して焼結体を作製する。
金属マトリクス中に複合酸化物の粒子を含む鉄基焼結体を作製し、その鉄基焼結体中の複合酸化物の分散状態、及びその鉄基焼結体の被削性について調べた。
・試料No.1〜6,101
原料粉末として、鉄系粉末と、黒鉛粉末と、Cu粉末と、複合酸化物の粉末と、を準備した。鉄系粉末は、Fe中にMnが0.18質量%、Sが0.004質量%含まれるものを用いた。鉄系粉末の平均粒径は、74.55μmである。この試験例において平均粒径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)で計測したD50径(質量基準の累積分布曲線の50%に相当する粒径)である。また、鉄系粉末は、D10径(質量基準の累積分布曲線の10%に相当する粒径)が31.39μm、D95径(質量基準の累積分布曲線の95%に相当する粒径)が153.7μmであり、最大粒径が228.2μmである。黒鉛粉末の平均粒径は、D50径が28μmである。Cu粉末の平均粒径は、D50径が30μmである。
原料粉末として、鉄系粉末と、黒鉛粉末と、Cu粉末と、を含み、複合酸化物の粉末を含まない粉末冶金用鉄系粉末を用いた試料である。その他の条件については、試料No.1と同様である。
鉄基焼結体中の複合酸化物の分散状態を調べた。本例では、代表して、試料No.1,2,111の鉄基焼結体中の複合酸化物の分散状態を調べた。特に、試料No.1,2の鉄基焼結体については、再現性を確認するために、以下の2パターンの試験を実施した。1パターン目は、鉄基焼結体の異なる二断面をとり、各断面において一つの大視野をとって試験を実施した(二断面のうち一方の断面での試験をN=1、他方の断面での試験をN=2とする)。2パターン目は、上記1パターン目で試験を実施した鉄基焼結体とは異なる鉄基焼結体を作製し、その鉄基焼結体で一断面をとり、その断面において一つの大視野をとって試験を実施した(この異なる鉄基焼結体での試験をN=3とする)。試験方法は、いずれも同様である。
得られた試料No.1,2,111の鉄基焼結体を、クロスセクションポリッシャーによって切断して断面をとり、その断面を電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)によって観察した。複合酸化物は、それが含有する元素で見分けることができる。具体的には、176μm×226μmの面積の大視野をとり、この大視野を一つ当たりの面積が35.2μm×45.2μmとなる5×5の25視野として、3000倍で、エネルギー分散型X線分析装置(Energy−dispersive X−ray Spectroscopy:EDX)による元素マッピングにより組成分析した。EDX分析は、分解能が同倍率で0.03μm程度であり、加速電圧15kVの条件で実施した。得られたマッピング画像を、画像処理ソフト(Media Cybernetics社製のImage−Pro Plus)を用いて、元素を選択・抽出した後に、その元素の個数や面積を算出した。図1〜6に、試料No.1の元素マッピングを示し、図7〜12に、試料No.2の元素マッピングを示し、図13,14に、試料No.111の元素マッピングを示す。いずれの図も白点が分析対象元素の存在領域を示す。画像処理ソフトは、上述のソフトに限るものでは無く、同等の機能を有しているソフトを用いても良い。
特定量の複合酸化物を含有する試料No.1,2では、図1,3,5,7,9,11に示すAl,Ca,Si,O,Mn,Sの元素マッピングより、Mnは、Sと同じ位置に存在すると共に、複合酸化物(Al,Ca,Si,O)と同じ位置に存在するものが存在することがわかる。一方、複合酸化物を含有しない試料No.111は、図13に示すAl,Ca,O,Mn,Sの元素マッピングより、Mnは、Sと同じ位置に存在することがわかる。以上の結果より、複合酸化物を含有しない場合、Mnは、Sと結合又は固溶して存在するだけであるが、複合酸化物を含有する場合、Mnは、一部が複合酸化物と結合又は固溶して存在し、残部がSと結合又は固溶して存在していることがわかる。
得られた試料No.1〜6,101,111の焼結体について、切削試験を実施した。
試料No.1〜6,101,111の焼結体について、機械的特性試験用の試験片を作製し、ロックウェル硬度HRB、ビッカース硬度Hv、抗折力TRS、引張強度σを測定した。ロックウェル硬度HRBは、市販の硬度計によりBスケールで測定した。抗折力TRSは、三点曲げ試験法を用いて測定した。その結果、試料No.1は、HRB:85.5、Hv:2.91GPa、TRS:815MPa、σ:551MPa、試料No.101は、HRB:85.4、Hv:2.91GPa、TRS:817MPa、σ:531MPa、試料No.111は、HRB:85.6、Hv:2.92GPa、TRS:815MPa、σ:533MPaであった。なお、試料No.2〜6のHRB、Hv、TRS、σは、試料No.1のHRB、Hv、TRS、σとほぼ同等であった。この結果より、複合酸化物の有無は、焼結体の機械的特性に影響を及ぼさないことがわかった。
試料No.1〜6,101,111の焼結体の側面を、旋盤を用いて切削した。切削条件は、各種切削工具を用いて、切削速度:200m/min、送り量:0.1mm/rev、切り込み量:0.2mm、湿式とした。切削工具は、超硬合金からなるノーズ半径0.8mmですくい角0°のチップ、サーメットからなるノーズ半径0.8mmですくい角0°のチップ、CBNからなるノーズ半径1.2mmですくい角0°のチップを取り付けたバイトを使用した。超硬合金、サーメットでは、切削長2500mm、CBNでは切削長4500mmとした。
超硬合金製・サーメット製・CBN製の各種切削工具について、切削後における切削工具の逃げ面の摩耗量をそれぞれ測定した。摩耗量は、切削後における切削工具の刃先を工具顕微鏡で観察して、マイクロメーターを用いて測定した。その結果を図15に示す。図15において、横軸は各試料No.を示し、縦軸は各試料を切削した各種切削工具の逃げ面の摩耗量を示す。なお、用いたCBN製の切削工具について、試料No.1では、Tiを含有する工具とTiを含有しない工具のそれぞれで切削試験を実施した。その結果、Tiの有無にかかわらず被削性改善の効果が見られ、特にTiを含有しない工具の方がその効果が高かった。そのため、ここでは、用いたCBN製の切削工具は、Ti系焼結材を一切含まない、即ちTiを含有しない工具を用いた場合の試験結果を示す。
一例として、超硬合金製の切削工具について、切削後における刃先観察を行った。図16にそれぞれ試料No.1と試料No.111を切削加工した後の切削工具の刃先の工具顕微鏡写真を示す。図16は、上半分がすくい面、下半分が逃げ面を示している。試料No.1を切削した切削工具の刃先には、凝着摩耗がほぼ見受けられない。一方、試料No.111を切削した切削工具の刃先には、大きな凝着摩耗が発生していることがわかる。なお、試料No.2〜6を切削した切削工具の刃先においては、試料No.1と同様に、凝着摩耗がほぼ見受けられなかった。また、試料No.101を切削した切削工具の刃先においては、試料No.111と同様に、大きな凝着摩耗が見受けられた。
得られた試料No.1,101の焼結体の側面を、旋盤を用いて切削した。切削条件は、サーメット製の溝入れバイトを使用した切削工具を用いて、切削速度:200m/min、送り量:0.1mm/rev、切り込み量:0.2mm、湿式とした。
複合酸化物の組成が被削性に及ぼす影響を調べるために、切削後における焼結体の加工断面観察を行った。図19に試料No.1の切削加工後の表面、及び表面に観察された複合酸化物を集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)加工した断面の電界放射型電子顕微鏡写真(10000倍)を示す。左写真の表面に見える色の濃い部分が複合酸化物である。この複合酸化物は、右写真の断面を見ると、表面から3μm程度の表層領域において焼結体中に埋設された部分と、この埋設部分から切削方向に伸びると共に表面に露出した露出延長部分と、を有する形状をしていることがわかる。つまり、試料No.1は、複合酸化物が、切削方向に沿って伸びていることがわかる。図20,21に、試料No.1における上記複合酸化物とは別の複合酸化物の断面を示す。いずれの複合酸化物も、表面から3μm程度の表層領域において焼結体中に埋設された部分と、この埋設部分から切削方向に伸びると共に表面に露出した露出延長部分と、を有する形状をしており、切削方向に沿って伸びていることがわかる。
試料No.1,111の焼結体について、上述した条件で切削加工を施した際の切削抵抗を測定した。本例では、キスラー社の切削動力計(Force Sensor)を用いて、背分力・主分力・送り分力を測定した。図24に、試料No.1の切削抵抗の経時的変化を示し、図25に、試料No.111の切削抵抗の経時的変化を示す。各図において、横軸は切削時間を示し、縦軸は切削抵抗を示す。各図において、上に示すグラフが背分力、中に示すグラフが主分力、下に示すグラフが送り分力である。また、各図において、各力の横方向に引いた線は、加工初期の力を基準とした基準線である。図24及び図25より、加工初期の切削抵抗(背分力・主分力・送り分力)は、複合酸化物を含有する試料No.1と、複合酸化物を含有しない試料No.111とでほぼ同じであり、複合酸化物を添加することによる切削抵抗の低減効果は見られない。これは、複合酸化物を含有することによって機械的特性を損なうことはなく、同じ切削抵抗で工具摩耗を抑制可能な機能が得られたためである。しかし、切削加工を継続することで切削長が長くなると、複合酸化物を含有する試料No.1は、切削抵抗が加工初期からほぼ一定であるのに対し、複合酸化物を含有しない試料No.111は、切削抵抗(背分力)が加工初期から増加していることがわかる。これは、試料No.1では、複合酸化物が潤滑機能を果たすことで、工具摩耗を抑制できたのに対し、試料No.111では、複合酸化物を含有しないために工具摩耗が増加したことによると考えられる。試料No.1の焼結体における複合酸化物が切削方向に沿って伸びるメカニズムを、図18を参照して説明する。
試料No.1〜3,101,111の焼結体について、上述の切削試験2と同様の切削試験を繰り返し、切削工具が摩耗し、加工表面に白濁やムシレ等の加工表面品質の異常や、加工端面においてバリが発生するに至るまで切削加工を施した焼結体の個数により工具寿命を測定した。その結果、試料No.1の焼結体では工具寿命は244個、試料No.2の焼結体では工具寿命は210個、試料No.3の焼結体では工具寿命は152個、試料No.101の焼結体では工具寿命は47個、試料No.111の焼結体では工具寿命は95個であった。この結果より、試料No.1〜3の焼結体は、大幅に工具寿命を向上できることがわかった。
10 ベース部 20 複合酸化物 21 埋設部 22 露出延長部
100 切削工具 120 被膜 140 滞留部
Claims (11)
- 金属マトリクス中に複合酸化物の粒子を含む鉄基焼結体であって、
前記鉄基焼結体の断面において176μm×226μmの面積の大視野をとり、この大視野を一つ当たりの面積が35.2μm×45.2μmとなる5×5の25視野で見たとき、
前記複合酸化物の粒子の平均円相当径が、0.3μm以上2.5μm以下であり、
前記25視野の合計面積を、その25視野中に存在する前記複合酸化物の合計数で除した値が、10μm2/個以上1000μm2/個以下であり、
前記25視野のうち、前記複合酸化物の粒子が存在しない視野数が、4視野以下である鉄基焼結体。 - Mnを0.05質量%以上0.35質量%以下含有し、
Mnの少なくとも一部が前記複合酸化物と結合又は固溶して存在する請求項1に記載の鉄基焼結体。 - Sを0.001質量%以上0.02質量%以下含有し、
Sの少なくとも一部が前記複合酸化物及びMnの少なくとも一方と結合又は固溶して存在する請求項2に記載の鉄基焼結体。 - 前記鉄基焼結体の表面から10μm以内の表層領域を含む断面において、
前記複合酸化物の粒子は、前記金属マトリクス中に埋設された埋設部と、前記表面に露出すると共に、前記埋設部よりも一方向に伸びる露出延長部と、を有する異形粒子を含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鉄基焼結体。 - 前記露出延長部は、前記鉄基焼結体の表面から3μm以内に存在する請求項4に記載の鉄基焼結体。
- 前記複合酸化物は、質量%で、
Siを4%以上35%以下、
Alを2%以上25%以下、
Caを2%以上35%以下、
Oを35%以上55%以下、含有し、
前記複合酸化物の全体質量に対するSi,Al,Ca,Oの合計含有量の質量割合が、45%以上99.8%以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の鉄基焼結体。 - 前記複合酸化物は、
Si,Al,Ca,Oを必須元素として含有し、
B,Mg,Na,Mn,Sr,Ti,Ba,Znから選択される1種以上の元素を含有する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の鉄基焼結体。 - 前記元素の含有量は、質量%で、
Bが4%以上8%以下、
Mgが0.5%以上15%以下、
Naが0.01%以上1%以下、
Mnが0.01%以上0.3%以下、
Srが0.01%以上1%以下、
Tiが0.3%以上8%以下、
Baが2%以上25%以下、
Znが5%以上45%以下、の少なくとも一つを満たす請求項7に記載の鉄基焼結体。 - 前記複合酸化物は、非晶質成分を30質量%以上含む請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の鉄基焼結体。
- 更に、C,Cu,Ni,Cr,Moから選択される1種以上の元素を含有する請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の鉄基焼結体。
- Cは、前記鉄基焼結体の総量に対して0.2質量%以上3.0質量%以下含有し、
Cu,Ni,Cr,Moから選択される元素は、前記鉄基焼結体の総量に対して合計で0.5質量%以上6.5質量%以下含有する請求項10に記載の鉄基焼結体。
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