以下、本発明の実施形態にかかる生体情報検出装置について、添付図面を参照して説明する。なお、図面においては、構成の理解を容易ならしめるために部分的に拡大・縮小している。本発明に係る生体情報検出装置1は、着用者(被検者)の呼吸情報(例えば、呼吸の有無、呼吸サイクル等)や、心拍情報といった生体情報を取得するための装置である。この生体情報検出装置1は、電気信号の伝播遅延時間の変化を検出することにより呼吸情報等の生体情報を取得する装置であり、図1に示す概略構成図に示すように、信号発生部2と、導電性生地3と、信号処理部4とを備えている。
信号発生部2は、一定周期の繰り返しパルス信号を発生する機能を有するものであり、図1に示すように、ラインドライバ61を介して導電性生地3に電気的に接続されている。また、この信号発生部2は、ラインドライバ62及びラインレシーバ63を介して、信号処理部4に電気的に接続されている。このような構成により、信号発生部2が発生したパルス信号は、導電性生地3に印加されると共に、信号処理部4にも印加される。なお、この信号発生部2によって発生されるパルス信号としては、一定周期の繰り返しパルス信号であれば特に限定されない。例えば、一般的なTTLレベルのパルス信号でもよいし、ラインドライバ61、62がRS−232Cなどのレベル変換を伴うものであってもよい。パルス信号の波形は、公知の波形を採用できるが、なかでも方形波(矩形波)を好ましく用いることができる。また、信号発生部2が発するパルス信号の周期は、例えば、100kHz〜10MHz程度の範囲に設定することが好ましい。
導電性生地3は、人体の近傍に配置される部材であり、導電性糸を含む生体電極パターン31が形成されている。図1においては、導電性生地3は、ベルト状に構成されており、生体電極パターン31は、ベルト状の導電性生地3の長手方向に沿って伸びる帯状に形成されている。ここで、導電性生地3における生体電極パターン31以外の領域は、非導電性糸から形成される非導電パターン32である。また、導電性生地3は、例えば、呼吸情報や心拍情報の採取を被検者に対して行う場合に、被検者の胸部や胴部、腹部、腕、脚などに巻きつけて装着できるように構成されている。なお、導電性生地3を、衣服や椅子の座面、マット、布団等、人が着用或いは近接して使用する物に配置するようにして、呼吸情報や心拍情報等を採取するように構成してもよい。
また、帯状の生体電極パターン31の一方端は、上記信号発生部2と電気的に接続しており、該信号発生部2からのパルス信号が印加される端子33として機能する。また、帯状の生体電極パターン31の他方端は、信号処理部4と電気的に接続しており、信号発生部2によって印加され、生体電極パターン31を通過したパルス信号(出力信号)を信号処理部4に出力する端子34として機能する。出力信号は、ラインレシーバ64を介して信号処理部4に出力される。
このような導電性生地3は、導電性糸を用いて製編或いは製織された生地(編織された生地)として構成することが好ましい。本実施形態においては、生体電極パターン31を構成するための導電性糸と、非導電パターン32を構成するための非導電性糸とを編成することにより構成された編地構造を有する生地として導電性生地3が形成されている。なお、編地構造は特に限定されず、例えば、フライス編、スムース編、パール編、平編又はそれらの変化組織(例えば、ミラノリブや段ボールニットなど)や、トリコット編、ラッシェル編、ミラニーズ編等の各種編地構造を採用することができる。また、導電性生地3を織地として構成する場合、織地構造としては、平織、綾織、朱子織等の織り方を例示できる。なお、導電性生地3の製造方法は、上記方法に限定されず、例えば、非導電性糸によってまず生地本体を製編或いは製織した後、所定部分に導電性糸を編み込み、或いは、刺繍等して生体電極パターン31を形成し製造することもできる。
ここで、生体電極パターン31を構成するための導電性糸としては、例えば、アルミ、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、錫、亜鉛、鉄、銀、金、白金、バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト等の純金属やそれらの合金、ステンレス、真鍮等により形成された糸状或いは細短冊状の金属線や、炭素繊維等の導電性繊維から形成した糸を使用することができる。また、合成繊維(例えば、ポリエステル繊維やナイロン繊維等)や天然繊維等を芯として、この芯に金属繊維を巻回したカバリングヤーンを導電性糸として使用してもよい。また、合成繊維や天然繊維等を芯として、この芯に湿式や乾式のコーティング、メッキ、真空成膜、その他の適宜被着法を行って金属成分を被着させた金属被着糸(メッキ糸)を導電性糸として使用することができる。芯には、モノフィラメントを採用することも可能ではあるが、モノフィラメントよりも、複数の単繊維の集合体であるマルチフィラメントや紡績糸のほうが好ましく、更にはウーリー加工糸やSCY、DCYなどのカバリング糸、毛羽加工糸などの嵩高加工糸がより好ましい。芯に被着させる金属成分には、例えばアルミ、ニッケル、銅、チタン、マグネシウム、錫、亜鉛、鉄、銀、金、白金、バナジウム、モリブデン、タングステン、コバルト等の純金属やそれらの合金、ステンレス、真鍮等を使用することができる。
パルス信号の伝送による導電性糸自体の発熱や信号の損失などの問題を抑制する観点では、導電性糸としては前述したような素材からなる金属線がより好ましく、中でも銅、銀、金、白金やそれらの合金が特に好ましい。導電性糸を金属線とする場合の線径は、10〜100μmのものとするのが好適であり、中でも10〜50μmとすることで、導電性生地3自体、あるいは生体電極パターン31自体のフレキシブル性と耐久性が両立しやすく、特に好ましい。
また、金属線を用いる場合、当該金属線の外層(表面)に絶縁被覆層を有する絶縁被覆導電性糸を用いることができる。絶縁被覆導電性糸はモノフィラメントでもよいし、マルチフィラメントでもよく、特に2〜9本、より好ましくは3〜7本を束ねて1本の糸条として用いるのが好ましい。
絶縁被覆層に使用可能な絶縁被覆材の具体名を挙げれば枚挙に暇がないが、その一例を列挙すれば次の通りである。すなわち、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン(ナイロン6やナイロン66等であって、アミド結合により長く連続した鎖状の合成高分子を紡糸して繊維化したポリアミド系の合成繊維の総称)、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、PFA、PVDF、ETFE等のフッ素系樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネイト、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォンなどである。
絶縁被覆材で導電性糸を被覆する方法としては、溶融素材の塗布から乾燥に至る一般的な被覆法を採用すればよい。その他、導電性糸を芯材とし、繊維状(糸状)の絶縁被覆材をカバー材としてカバリング糸(SCYやDCY)を構成させる方法、さらには前記カバリング糸を加熱溶融して塗膜化する方法などを採用することも可能である。
また、絶縁被覆導電性糸において、絶縁被覆層を形成する絶縁被覆材は、半田の溶融温度(おおよそ170℃〜250℃)で溶融することに加え、電気絶縁性を有していることが好ましい。また、柔軟性や伸縮牲を備えているものが推奨される。すなわち、絶縁被覆材には、半田の溶融温度に比べて同等以下の融点を有する熱可塑性樹脂を使用するのが好適である。半田付けが短時間で行え、しかも溶融した絶縁被覆材が確実に焼失又は収縮して半田箇所を邪魔することなく、確実な導通が得られるようにするうえでは、半田の溶融温度の範囲内において、低温域に融点があるもの(目安の一例として「150℃以下」を挙げることができる)が好適と言える。
ここで、絶縁被覆材の選出には融点だけが条件とされるものではなく、絶縁被覆材が導電糸を被覆する厚さ等についても条件の一つとされる。例えば、絶縁被覆材の融点が高め(目安を150℃とした場合それを超える温度を言う)であったとしても、被覆厚が薄ければ、半田付け時に比較的容易に溶融することになるので、絶縁被覆材として使用可能となる。
なお、前記説明では、半田の溶融温度における目安の一例として150℃を挙げたが、この溶融温度は絶縁被覆材に選出する樹脂によって変動する。例えば、ポリエステルや変性ポリエステル、ポリエステル−ナイロンなどでは155℃とすべきであり、ホルマールでは105℃、ポリウレタンでは130℃、ポリエステルイミドでは180℃とするのがよい、といった具合である。
なお、導電性糸に伸縮性糸を混用して生体電極パターン31を構成してもよい。伸縮性糸は非導電性糸であることが好ましい。伸縮性糸が非導電性糸であることによって、導電性生地あるいは生体電極パターンの伸縮による電気抵抗の変化を抑制できる。伸縮性糸には、ポリウレタンやゴム系のエラストマー材料を単独で用いてもよいし、「芯」にポリウレタンやゴム系のエラストマー材料を用い、「カバー」にナイロンやポリエステルを用いたカバリング糸などを採用することができる。このようなカバリング糸を採用することで、親水性、撥水性、耐食・防食性、カラーリング等の機能を付与させることができる。また肌触りの向上や伸びの制御にも有用である。
また、非導電パターン32を構成するための非導電性糸には、合成繊維(例えば、ポリエステル繊維やナイロン繊維等)や天然繊維、合成繊維と伸縮性糸とを混用した素材等を使用することができる。伸縮性糸には、例えば、ポリウレタンやゴム系のエラストマー材料を単独で用いてもよいし、「芯」にポリウレタンやゴム系のエラストマー材料を用い、「カバー」にナイロンやポリエステルを用いたカバリング糸などを採用することができる。このようなカバリング糸を採用することで、親水性、撥水性、耐食・防食性、カラーリング等の機能を付与させることができる。また肌触りの向上や伸びの制御にも有用である。また、非導電性糸には、モノフィラメントを採用することも可能ではあるが、モノフィラメントよりも、複数の単繊維の集合体であるマルチフィラメントや紡績糸のほうを好ましく用いることができる。
また、非導電パターン32は、半田の溶融温度に対する耐熱性を備えた非導電性糸により形成されるのが好ましい。ここで、非導電パターン32を形成する非導電性糸に要求される耐熱性は、溶融した半田(又は加熱状態の半田鏝)との接触によっても発火や溶損などを起こさず、また簡単に焼失しないことを言う。但し、焦げが生じる程度は許容範囲(非導電パターン32の形成用に採用可能)とする。つまり、半田付けをすることでも形体が残る程度の耐熱性を有するものであれば、機能としては十分である。溶融した半田を非導電パターン32へ浸透させない作用を補助するうえで、非導電パターン32の編組織を緻密構造にする等の対策を加えるとなお一層好ましい。なお、このような非導電パターン32に要求される耐熱性は、生体電極パターン31との接触位置において必要とされるものであり、非導電パターン32の帯幅方向全体を必ずしも同じ構成としなければならないわけではない。例えば、生体電極パターン31と接触する1コース又は数コースだけに耐熱性を備えさせ、生体電極パターン31とは直接的に接触しないコース部分(非導電パターン32の帯幅方向中央部など)は一般的な編組織や一般的な素材(溶融半田に対する耐熱性を備えないもの)を採用して製編させるといったことも可能である。
非導電パターン32を形成するのに好ましい耐熱性の非導電性糸の具体例としては、綿やウール等をはじめとする各種天然繊維の他、ガラス繊維、セラミック繊維、炭素繊維、更には種々様々な合成繊維(例えば、アラミド繊維、フェノール繊維、PBO、ポリアリレート、ポリイミド、メラミン、PPS、PEEK、PTFE、セルロース繊維(難燃加工)、ナイロン(難燃加工)、アクリル系繊維など)等を例示することができる。
ここで、導電性生地3における生体電極パターン31は、伸長時と非伸長時とで電気抵抗の変化が皆無又は抑制されるように構成されることが高精度で呼吸情報や心拍情報といった生体情報を取得する上で好ましい。このような観点から、導電性糸としては、上述の絶縁被覆導電性糸を採用することが好ましい。なお、絶縁被覆層を外層に形成する場合、絶縁被覆層にて被覆される導電性糸としては、上述のような金属線に特に限定されない。例えば、上述した炭素繊維等の導電性繊維から形成した導電性糸や、合成繊維や天然繊維等を芯として、この芯に金属繊維を巻回した導電性糸、合成繊維や天然繊維等を芯として、この芯に金属成分を被着させた金属被着糸等の外層(外層)に絶縁被覆層を備えるように構成して、絶縁被覆導電性糸を構成してもよい。
また、伸長時と非伸長時とで生体電極パターン31の電気抵抗の変化が皆無又は抑制されるように構成するために、図2(a)(b)に示すような編地構造を採用することもできる。この図2(a)(b)にて示される編地構造は、スムース編(両面編又はインターロックとも言う)であり、フライス編を2枚重ね合わせてお互いの凹凸の溝を埋め合ったような編組織であり、導電性糸10と伸縮性糸11とにより構成している。なお、導電性糸10と伸縮性糸11とが含まれていれば、その他に別種の糸を混用させることは任意である。図2(a)の上面側を編地表面側とし、同下面側を編地裏面側として説明すると、導電性糸10は、編地表面側の導電性糸オールドループ10aと絡んで第1ループP1を形成し、編地裏面側へ移行する。そして編地裏面側の導電性糸オールドループ10bと絡んで第2ループP2を形成し、以後同様に編地表面側で第3ループP3を形成し、編地裏面側で第4ループP4を形成するといったことを繰り返す。従って導電性糸10は、編地中を表裏間方向にジグザグ状となる配置で設けられている。
これに対して伸縮性糸11は、編地裏面側の伸縮性糸オールドループ11aと絡んで第1ループR1を形成し、編地表面側へ移行する。そして、編地表面側の伸縮性糸オールドループ11bと絡んで第2ループR2を形成し、以後同様に編地裏面側で第3ループR3を形成し、編地表面側で第4ループR4を形成するといったことを繰り返す。従って伸縮性糸11も、編地中を表裏間方向にジグザグ状となる配置で設けられている。その結果、編地中には、導電性糸10と伸縮性糸11とのクロス部13がループ毎に交互配置で形成されることになる。
ここで、伸縮性糸11は豊富な伸縮性を有しているのに対して導電性糸10は殆ど伸縮しない。そのため、編地構造をその表裏面の面方向(図2の左右方向)に沿って伸長させると、クロス部13では、伸縮性糸11が導電性糸10と交差することで編地の表裏面側に生じさせているクロス角θを徐々に拡大させ、鈍角となる状況を経て、次第に伸縮性糸11だけがよく伸びてゆくようになる。 次に、この伸縮性糸11の伸びに引っ張られるようにして導電性糸10がそのループからクロス部13へと繰り出される挙動が生じる。また、伸長を解除すると、クロス部13では伸縮性糸11だけが収縮による引き締め力を生じ、この引き締め力を受けて導電性糸10がクロス部13からその両外側のループへと押し込める挙動が生じる。このときの伸縮性糸11による引き締め力が、非伸縮時の編地構造において、導電性糸10のジグザグ状配置を保形させる作用を奏することになる。
このように導電性糸10は、ループからクロス部13への繰り出しや押し込みによってループを小さくさせたり大きくさせたりするだけでありながら、伸縮性糸11の伸縮に合わせて一緒に伸び縮みをしているかのようになり、編地構造は、図2(b)に示すような伸縮性を有するものとなっている。この説明から明らかなように、導電性糸10は実質的に伸縮するものではないので、コース方向で使用された全長は変化せず、もとよりその外径も変化しない。のみならず、導電性糸10はコース方向に並ぶループ同士が接触することがなく、複数のコース間で絡まったり接触したりすることもなく、電気抵抗は不変となる。
信号処理部4は、信号発生部2によって生体電極パターン31の一方の端子33に印加される入力信号と、生体電極パターン31の他方の端子34からの出力信号との伝播遅延時間の変化を検出する機能を有する処理部である。この信号処理部4は、上記入力信号と出力信号との排他的論理和によって、伝播遅延時間に対応するパルス幅を検出し、ローパスフィルタで直流化した後、基準電圧との差を差動増幅回路にて増幅し、検出信号として出力できるように構成されている。信号処理部4によって検出された検出信号は、例えば、スマートホン等の携帯端末やパーソナルコンピューターといった外部の処理装置に出力される。
このような生体情報検出装置1の作動について以下説明する。以下においては、呼吸情報を主として取得する場合を例に採り説明する。まず、ベルト状の導電性生地3を被験者の胸部近傍に装着する。その後、信号発生部2を作動させて、一定周期の繰り返しパルス信号(入力信号)を発生させる。発生された入力信号は、導電性生地3の生体電極パターン31における一方の端子33に印加される(入力信号印加ステップ)。また、印加された入力信号は、ラインドライバ61及びラインレシーバ63を介して信号処理部4にも印加される。また、入力信号は、導電性生地3の生体電極パターン31を介して、当該生体電極パターン31の他方の端子34から出力信号として信号処理部4に出力される(出力信号検出ステップ)。信号処理部4においては、信号発生部2によって生体電極パターン31の一方の端子33に印加される入力信号と、生体電極パターン31の他方の端子34からの出力信号との伝播遅延時間の変化を検出し(遅延時間検出ステップ)、当該伝播遅延時間の変化に基づいて、生体情報が検出される。より具体的には、伝播遅延時間の変化の周期性に着目することにより、被検者の呼吸情報(例えば、呼吸の有無、呼吸サイクル等)が検出される。ここで、呼吸動作は、略一定の周期で繰り返し連続して行われるものであることから、その周期性を検出することにより、信号処理部4で取得した検出信号(伝播遅延時間の変化に関する信号)を、呼吸動作に関連する信号(呼吸情報)と呼吸動作以外の身体の動きに関する信号とに分けて認識することが可能となる。また、導電性生地3を被験者の胸部近傍に配置する場合には、信号処理部4で取得した検出信号(伝播遅延時間の変化に関する信号)には、呼吸動作以外の信号として心臓の鼓動に関する信号も含まれているため、信号処理部4で取得した検出信号(伝播遅延時間の変化に関する信号)に基づいて、当該検出信号を周波数解析することにより、心拍情報についても検出することが可能となる。
なお、生体電極パターン31を電気信号が伝播する時間は、周囲の誘電率に依存する。一方、被検者の呼吸動作によって、人体と生体電極パターン31との密着度や人体内の組成分布等が変化することにより、電気信号の伝播時間を決定付ける生体電極パターン31を取り巻く空間の実効的な誘電率が変化する。また、導電性生地3に加わる圧力や張力等に僅かながらも変化が起きることによって、生体電極パターン31を構成する導電性糸の形状が変化し、電気抵抗に変化が無くても、電気信号の伝送線路としての静電容量や自己インダクタンスが変化し、これにより電気信号の伝播特性が変化する。つまり、電気信号の伝播遅延時間の変化を検出することにより、その結果、被検者の呼吸情報(例えば、呼吸の有無、呼吸サイクル等)を検出することが可能となる。
本発明における生体情報検出装置1は、上述のように、生体電極パターン31の一方の端子33に印加される入力信号と他方の端子34からの出力信号との伝播遅延時間の変化を検出することにより、呼吸情報(例えば、呼吸の有無、呼吸サイクル等)や、心拍情報といった生体情報を取得できるように構成されている。したがって、従来のように、着用者の呼吸動作による体格変動に伴う呼吸情報取得用センサの伸縮を通じて生じるセンサの断面積または長さの変化を電気抵抗値の変化として検出する装置とは異なり、被検者の体表面に対する生体電極パターン31(導電性生地3)の高い密着性を要求することなく、高い精度で生体情報を検出することが可能となる。また、生体電極パターン31は導電性糸を含む編地で構成しているため、構成がシンプルであり低コストで装置を製造することが可能であり、簡便に被検者の状態を把握することが可能となる。
また、編地により生体電極パターン31を構成しているため、人体の誘電率を検出するアンテナとして機能する導電性糸は長大なものとなる結果、呼吸等に伴う人体の誘電率の変化、および、導電性生地3に加わる圧力や張力等の変化に伴う電気信号の伝播特性の変化を、極めて高感度で検出することが可能となる。特に、フライス編を含む構造として編地を構成する場合には、例えば平編により生体電極パターン31を構成する場合よりも、使用される導電性糸の長さをより一層大きくすることができるため、より高感度で人体の誘電率の変化、および、導電性生地3に加わる圧力や張力等の変化に伴う電気信号の伝播特性の変化を検出することができ、生体情報をより一層高精度で検出することが可能となる。また、フライス編を含む構造として編地を構成する場合に、編構造の特性として、導電性糸同士の干渉が少なくなる為、信号処理部4で取得される検出信号(伝播遅延時間の変化に関する信号)にノイズが混入するリスクを抑えることが可能となる。なお、フライス編を含む構造の具体例としては、フライス編自体はもちろんのこと、スムース編や段ボールニット、又はそれらの変形組織が例示できる。エイトロックやフライスインレイ、ミラノリブ、モックミラノリブ、片畦、三段両面、コードレーン、鹿の子などが前記変形組織として例示できる。
本発明における生体情報検出装置1は、誘電率の変化、圧力や張力等の変化を複合的に検知しうる装置であるため、誘電率の変化に基づく生体情報を主に検知する場合には硬質な基材上に導電性生地3(生体電極パターン31)を配置するのが好ましい。 また、圧力や張力等の変化に基づく生体情報を主に検知する場合には柔軟な基材上に導電性生地3(生体電極パターン31)を配置するのが好ましい。なお、柔軟な基材の例としてはシャツ、パンツ、靴下等、衣服の生地が例示でき、硬質な基材の例としてはベルトやベルトのバックル、ワッペン、バッジ、帽子、ヘルメット等が例示できる。 ここで、衣服の生地であっても、衣服の種類や部位によっては硬質な基材とみることもでき、例えば衣服の種類でいえばベストやジャケット、衣服の部位でいえば襟部やウエストバンド部等、生体内の微小な動きとの連動を小さく見積もれる場合は硬質な基材とみることができる。
また、本発明の上記説明においては、生体情報として、主に、呼吸情報(例えば、呼吸の有無、呼吸サイクル等)や心拍情報を例に採り説明しているが、生体情報には、体組成や臓器内の組成に関する情報も含まれる。また、本発明における生体情報検出装置1によれば、誘電率の変化に関連付けて、臓器内の内容物の変化の検知にも応用が期待される。
以上、本発明の一実施形態に係る生体情報検出装置1について説明したが、生体情報検出装置1の具体的構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態においては、生体電極パターン31をベルト状の導電性生地3の長手方向に沿って伸びる直線状の帯状に構成しているが、生体電極パターン31の具体的形態については特に限定されず、例えば、図3に示すように、生体電極パターン31を、互いに平行に並ぶ複数の直線状部分31aと、各直線状部分31aの端部を交互に連結する湾曲状部分31bとを備える蛇行状の形態として構成してもよい。このように蛇行状の形態として生体電極パターン31を構成することにより、生体電極パターン31の長さを大きくすることが可能となり、生体電極パターン31の一方の端子33に印加される入力信号と他方の端子34からの出力信号との伝播遅延時間の変化をより一層高感度で検出することが可能となる。なお、直線状部分31aの伸びる方向は、ベルト状の導電性生地3の長手方向に沿う方向に限定されるものではなく、例えば、ベルト状の導電性生地3の幅方向に沿って直線状部分31aが伸びるように形成してもよい。ここで、導電性生地3における蛇行状の生体電極パターン31以外の領域は、非導電性糸から形成される非導電パターン32である。
また、上記実施形態においては、生体電極パターン31は、単一の帯状の形態を有するように構成されているが、例えば、図4に示すように、互いに平行に並ぶ複数の直線状部分31aを形成し、各直線状部分31aの一方端及び他方端をそれぞれ電気的に接続する集約端子部分31cを形成するようにして生体電極パターン31を構成してもよい。このような形態として生体電極パターン31を構成する場合であっても、生体電極パターン31の一方の端子33に印加される入力信号と他方の端子34からの出力信号との伝播遅延時間の変化をより一層高感度で検出することが可能となる。
また、上記実施形態においては、導電性生地3をベルト状に構成しているが、例えば、図5(a)の斜視図に示すように、リング状として構成してもよい。リング状に導電性生地3を構成する場合、被検者の胸部や胴部、手首等に簡単に装着できると共に装着個所から簡単に脱落することを防止することが可能となる。また、導電性生地3の形態としては、上記ベルト状、リング状の他、平面視矩形状のシート状等、様々な形態として構成することができる。なお、図5(a)においては、生体電極パターン31を省略して記載している。
また、上述のように、導電性生地3をリング状に構成する場合、例えば、図5(b)に示すように、生体電極パターン31を、リング状の導電性生地3の周方向に伸びる螺旋状に形成してもよい。なお、図5(b)は、リング状の導電性生地3の側面図を示す概略構成図である。このように螺旋状の形態として生体電極パターン31を構成することにより、生体電極パターン31の長さを大きくすることが可能となり、生体電極パターン31の一方の端子33に印加される入力信号と他方の端子34からの出力信号との伝播遅延時間の変化をより一層高感度で検出することが可能となる。なお、この図5(b)においても、生体電極パターン31以外の領域は、非導電性糸から形成される非導電パターン32であり、生体電極パターン31と非導電パターン32とがリング状の導電性生地3の幅方向に沿って交互に配置される領域を備えるように構成されている。
また、例えば、図6(a)に示すように、互いに平行配置される複数の生体電極パターン31が、平行状態を維持したままリング状の導電性生地3の周方向に伸びる螺旋状を形成するように編織して導電性生地3を構成してもよい。このような構成を採用する場合、螺旋状に配置される複数の生体電極パターン31の一方端や他方端において、適宜選択して隣り合う生体電極パターン31の端部同士を短絡させることにより、1本の直列回線としての生体電極パターン31を形成することができる。図6(a)においては、互いに平行配置される4本の帯状(ライン状)の生体電極パターン31が、リング状の導電性生地3の周方向に伸びる螺旋状を形成するように構成されている。また、螺旋状の複数の生体電極パターン31の巻回数(階層数)が2周となるように構成されている。更に、図6(a)の要部拡大図である図6(b)に示すように、複数の生体電極パターン31における一方の端部に関しては、4本の生体電極パターン31のうち中央の2本を選択して短絡させ、他方の端部に関しては、4本のうち上2本と下2本をそれぞれ選択して短絡させている。これにより、1本の直列回線としての生体電極パターン31が形成される。なお、図6(b)に示すような態様で複数の生体電極パターン31を短絡させる場合、1本の直列回線としての生体電極パターン31における一方の端子33の近くに他方の端子34を配置でき、信号発生部2及び信号処理部4に対する生体電極パターン31の接続構造を簡素化できる。ここで、図6(a)(b)中において記載されている点線は、螺旋構造の階層境界を示す仮想線である。また、この図6(a)(b)においても、生体電極パターン31以外の領域は、非導電性糸から形成される非導電パターン32となる。
また、上記実施形態においては、導電性生地3は、生体電極パターン31と非導電パターン32を備える編地として構成されているが、このような構成に特に限定されず、生体電極パターン31のみを有する編地又は織地として構成してもよい。
また、本発明に係る生体情報検出装置1についての上記作動説明においては、主に呼吸情報を取得するために、導電性生地3を被験者の胸部近傍に配置する場合を例にとり説明したが、導電性生地3の配置場所は限定されず、取得したい生体情報に応じて適宜設定すればよい。例えば、心拍情報を主として取得する場合には、手首等の脈拍を取得しやすい位置に導電性生地3を配置するようにすればよい。
また、上記実施形態においては、導電性生地3が、導電性糸を用いて製編或いは製織された構造を有するものとして主に説明しているが、例えば、非導電性糸によってまず生地本体を製編或いは製織した後、所定部分に一般的なリード線を縫い付けるなどして設置することにより導電性生地3を構成してもよい。このような場合、縫い付けられたリード線が生体電極パターン31を構成することとなる。また、生地本体の伸縮に伴ってリード線(生体電極パターン31)が破断損傷することを防止しつつ、使用されるリード線の長さを大きくして高精度で生体情報を検出するために、例えば、図7に示すように、リード線(生体電極パターン31)を蛇行させた状態で生地本体3aに設置することが好ましい。なお、リード線としては、絶縁被覆付きリード線を採用することが好ましい。
本発明の発明者らは、本発明に係る生体情報検出装置1の上記効果を確認するために、生体情報検出装置1に関する試作装置を作成し、生体情報を精度よく検出できることを確認したので、以下説明する。
試作装置については2種類の装置を作成したので、これらを試作例1及び試作例2として説明する。まず、試作例1についてであるが、これは、図8の模式図に示すように、ベストタイプの生地(非導電性糸にて形成)を生地本体3aとし、当該生地本体3aに絶縁被覆付きリード線(生体電極パターン31)を縫い付けることにより構成している。リード線(生体電極パターン31)の設置場所は、ベスト(生地本体)の後ろ身頃の内側面(着用時に体側に向く面)とし、蛇行させて(引き回して)配置している。リード線(生体電極パターン31)の両端部(一方の端子33、及び、他方の端子34)は、右側の腰部近傍に配置されている。また、ベストの腰回りには、信号発生部2及び信号処理部4が内蔵されるアルミ製コントローラボックス100が取り付けられており、リード線の両端部(一方の端子33、及び、他方の端子34)がそれぞれ、図1に示す回路を構成するように接続されるように構成されている。また、信号処理部4によって検出された検出信号は、外部のパーソナルコンピューター(処理装置)に出力し、検出した検出信号を時系列データとしてグラフ化できるように構成されている。
このような構成の試作例1に係る生体情報検出装置1を被検者が着用した際の検出信号時系列データを図9に示す。なお、被検者は、肌着にワイシャツを重ね着した上に、試作例1に係る生体情報検出装置1を着用した。図9に示す検出信号の時系列データは、被検者が、通常の呼吸を行った後、少し大きく呼吸を行ってから呼吸を止め、その後、深呼吸を行った時の検出信号の変動を示すものである。この図9において、平坦状となっている部分が、呼吸を止めた状態の検出信号の変動を示す領域であり、この平坦状部分よりも左側の領域が、通常呼吸を行いつつ、少し大きく呼吸を行った際の検出信号の変動を示す領域である。また、平坦状部分よりも右側の領域が、深呼吸を行った際の検出信号の変動を示す領域である。この図9から、試作例1に係る生体情報検出装置1によれば、通常呼吸、少し大きく行った呼吸、呼吸停止、深呼吸といった様々な呼吸動作を、検出信号の波形(呼吸波形)として、精度良く取得できることが分かる。
次に、試作例2に係る生体情報検出装置1について説明する。この試作例2は、上述の図6(a)(b)に示すリング状の導電性生地3と同タイプの導電性生地3を備える生体情報検出装置1として構成されている。具体的には、互いに平行配置される4本の帯状(ライン状)の生体電極パターン31が、平行状態を維持したままリング状の導電性生地3の周方向に伸びる螺旋状を形成するように構成されており、また、螺旋状の複数の生体電極パターン31の巻回数が2周半となるように構成されている。なお、複数の生体電極パターン31における一方の端部に関しては、図6(b)に示すように、4本の生体電極パターン31のうち中央の2本を選択して短絡させ、更に、他方の端部に関しては、4本のうち上2本と下2本をそれぞれ選択して短絡させることにより、1本の直列回線としての生体電極パターン31を形成している。
また、試作例2に係る生体情報検出装置1は、上述の試作例1が備えるコントローラボックスと同一のものを備えており、1本の直列回線として構成される生体電極パターン31における両端部(一方の端子33、及び、他方の端子34)が、配線を介して、コントローラボックス内の信号発生部2及び信号処理部4に接続され、図1に示す回路を形成するように構成されている。また、試作例1と同様に、信号処理部4によって検出された検出信号は、外部のパーソナルコンピューター(処理装置)に出力し、検出した検出信号を時系列データとしてグラフ化できるように構成されている。
この試作例2に係る導電性生地3は、その組織が、フライス編み構造を備えるように構成されている。より具体的には、32の給糸口からなる32コースを1単位としてリピートし、螺旋パターンを成しながらリング状に編成されて形成されている(32コースからなるリピート単位に4本の生体電極パターン31が螺旋状に含まれるように編成されている)。編成後、編地は製造段階で通常行われる熱セット工程を経て試作例2に係る導電性生地3は形成されている。ここで、32の給糸口からそれぞれ供給される糸の詳細を表1に示す。
上記表1に示すように、給糸口番号:5〜8、12〜15、19〜22、26〜29の各組からは導電性糸が供給されており、また、これら導電性糸が供給される給糸口番号の各組同士の間に、非導電性糸が供給される給仕口番号:9〜11、16〜18、23〜25の各組を備えるようにしてリング状の導電性生地3が編成されているため、導電性糸を含む互いに独立した4本の帯状(ライン状)の生体電極パターン31が、互いに平行な状態を維持して螺旋状に配置されたリング状導電性生地3が編成される。
ここで、試作例2に係る導電性生地3においては、熱セット工程の熱履歴によってポリウレタン繊維132dtex同士が繊維交点で合着し、編地は全体としてほつれ止め処理された構造を有することになる。また、非導電性糸として主にアラミド繊維を含むものを用いて構成されているため、半田に耐えつつ、半田の温度で、導電性糸における銅線のポリウレタン絶縁被覆が剥がれるように構成されている。また、試作例2に係る導電性生地3においては、32コースからなるリピート単位の両側縁部分(給糸口番号:1〜2、32)は、非導電性糸として低融点ポリウレタン繊維を用いて構成されている。低融点ポリウレタン繊維は半田の温度ででも容易に溶断可能なものであり、更に、編地の製造段階で通常行われる熱セットの温度で、より強固に融着されるものであることから、融着によってほつれ止めが強化されつつ、他のコースよりも機械的強度を弱く構成することが可能となる。このような構成により、32コースからなるリピート単位(4本の生体電極パターン31を含む導電性生地)毎に適宜熱で分離したり、ハサミ等で切断して分離したり、引っ張って分離したりと、容易に分断可能な構成となっている。
このような構成の試作例2に係る生体情報検出装置1を被検者が着用した際の検出信号時系列データを図10に示す。なお、被検者は、肌着にワイシャツを重ね着した上に、試作例2に係る生体情報検出装置1を胸部回りに設置するようにして着用した。なお、試作例2に係る導電性生地3は、径方向に伸縮性を有するリング状(筒状)に構成されているため、リング状の導電性生地3を径方向に伸ばしつつ、拡大された内側環状空間内に身体を進入させることにより着用する。図10に示す検出信号の時系列データは、被検者が、通常の呼吸を行った後、呼吸を止め、その後、深呼吸を行った時の検出信号の変動を示すものである。この図10において、波形の振幅が小さく、比較的、平坦となっている部分が、呼吸を止めた状態の検出信号の変動を示す領域であり、この平坦状部分よりも左側の領域が、通常呼吸を行った際の検出信号の変動を示す領域である。また、平坦状部分よりも右側の領域が、深呼吸を行った際の検出信号の変動を示す領域である。
この図10から、試作例2に係る生体情報検出装置1によれば、通常呼吸、呼吸停止、深呼吸といった様々な呼吸動作を、検出信号の波形(呼吸波形)として、精度良く取得できることが分かる。また、この試験例2の結果は、試作例1と比べて、検出信号の変動波形の振幅が大きい上に安定していることが分かる。更に、試作例2の結果は、平坦状部分(呼吸停止部分)において、呼吸動作の周期とは異なる短周期の変動が検知されているが、この短周期の変動は、心臓の鼓動に関する検出信号に相当する。つまり、試作例2に係る生体情報検出装置1は、呼吸情報のみならず心拍情報も併せて精度よく検出することが可能であることが分かる。また、心拍情報は、呼吸を止めた際の平坦状部分のみならず、呼吸を行っている際の検出信号の波形中に、振幅が小さい波形として重畳的に現れていることが分かる。つまり、信号処理部4で取得した検出信号波形について周波数解析することにより、呼吸情報と併せて心拍情報についても同時に検出することが可能となる。
ここで、上述の試作例1及び試作例2に係る生体情報検出装置1に関して、着用時の体動による生体電極パターン31の抵抗値変化は、ほとんどないことが確認されている。また、非着用状態で試作例1及び試作例2に係る生体情報検出装置1を作動させ、生体電極パターン31に手を近づけたり遠ざけたりすることで、生体電極パターン31と手との距離の変化に対応する誘電率の変化を検出信号波形として検出されることも確認されている。このことから、本発明に係る生体情報検出装置1は、人体に対して非接触であっても、生体情報を検知できるものであることがわかる。