JP2019009314A - 希土類磁石の製造方法、及び希土類磁石 - Google Patents
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Abstract
【課題】密度が高く、保形性に優れる希土類磁石の製造方法、及び希土類磁石を提供する。【解決手段】Sm−Fe相を主相とし、厚さ25μm以下のSm−Fe系合金の薄片を用意する準備工程と、Sm−Fe系合金の薄片を粉砕し、目開きが薄片の厚さの2倍以上の篩目を通過した薄片状のSm−Fe系合金の粉末を得る粉砕工程と、Sm−Fe系合金を水素化処理する水素化工程と、水素化処理したSm−Fe系合金の粉末に固体潤滑剤を混合して混合粉末を得る混合工程と、混合粉末を加圧成形して水素化成形体を得る成形工程と、水素化成形体を脱水素処理して、脱水素成形体を得る脱水素工程と、脱水素成形体を窒素含有雰囲気中で熱処理して窒化処理し、Sm−Fe−N相を主相とする磁石成形体を得る窒化工程と、を備える希土類磁石の製造方法。【選択図】なし
Description
本発明は、希土類磁石の製造方法、及び希土類磁石に関する。
モータや発電機などに使用される永久磁石として、希土類元素と鉄とを含有し、希土類−鉄系化合物を主相とする希土類−鉄系合金を原料に用いた希土類磁石が広く利用されている。希土類磁石としては、代表的には、Nd−Fe−B系化合物(例、Nd2Fe14B相)を主相とするNd−Fe−B系磁石(ネオジム磁石)や、Sm−Fe−N系化合物(例、Sm2Fe17N3相)を主相とするSm−Fe−N系磁石が知られている。希土類磁石の形態としては、希土類−鉄系合金の磁粉を加圧成形して焼結した焼結磁石や、磁粉にバインダを混合し、これを加圧成形して固化したボンド磁石が主流である。最近では、希土類−鉄系合金の磁粉を加圧成形した圧粉磁石が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
特許文献1には、希土類磁石の製造方法が開示され、原料の希土類−鉄系合金の粉末を水素化(HD:Hydrogenation−Disproportionation)処理した後、加圧成形し、この成形体を脱水素(DR:Desorption−Recombination)処理する圧粉磁石の製造技術が記載されている。この文献に記載の製造技術によれば、希土類−鉄系合金を水素化処理することで成形性を高められ、水素化処理した合金粉末を加圧成形することで高密度の粉末成形体(磁石成形体)を得ることができ、希土類磁石の高密度化が可能である。
希土類磁石の更なる高性能化が求められており、磁気特性に優れるだけでなく、密度が高く保形性にも優れる希土類磁石の開発が望まれている。
ボンド磁石では、バインダとなる樹脂を含有するため、相対密度が低くなる。そのため、Sm−Fe−N系合金の磁粉が占める割合が少なくなり、その分磁気特性が低下する問題がある。また、バインダとなる樹脂の熱安定性が低いため、磁石の使用温度が制限される場合がある。
これに対し、圧粉磁石はバインダが不要であり、上述した圧粉磁石の製造技術を適用することで、ボンド磁石の上記問題点を解決することが可能である。Sm−Fe−N系圧粉磁石の場合は、原料となるSm−Fe系合金の粉末を水素化処理して、不均化反応によりSm−Fe系化合物(Sm−Fe相)をSmH2とFeの2相に分解することで、これらの相が混在する混晶組織としている。これにより、Sm−Fe相やSmH2相に比較して軟らかいFe相が存在することで、成形性を改善している。
しかしながら、従来技術では、使用する原料粉末によっては、加圧成形時の成形性が不十分で、成形体の密度を高くする圧密性や形状を保持する保形性が低い場合がある。そのため、場合によっては、希土類磁石(圧粉磁石)の密度を十分に高められず、保形強度を十分に確保することが困難な場合があり、製造した希土類磁石にクラックなどの欠陥が発生することがある。
本開示は、密度を高め、保形性を向上できる希土類磁石の製造方法を提供することを目的の1つとする。また、本開示は、密度が高く、保形性に優れる希土類磁石を提供することを目的の1つとする。
本開示に係る希土類磁石の製造方法は、
Sm及びFeを含有する合金溶湯を急冷凝固して、Sm−Fe相を主相とし、厚さ25μm以下のSm−Fe系合金の薄片を用意する準備工程と、
前記Sm−Fe系合金の薄片を粉砕し、目開きが前記薄片の厚さの2倍以上の篩目を通過した薄片状のSm−Fe系合金の粉末を得る粉砕工程と、
前記Sm−Fe系合金を水素化処理し、その少なくとも一部を不均化反応によりSmH2とFeの2相に分解する水素化工程と、
前記水素化処理した前記Sm−Fe系合金の粉末に固体潤滑剤を混合して混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を加圧成形して水素化成形体を得る成形工程と、
前記水素化成形体を脱水素処理し、再結合反応により前記水素化処理によって相分解した前記SmH2とFeとを再結合して、脱水素成形体を得る脱水素工程と、
前記脱水素成形体を窒素含有雰囲気中で熱処理して窒化処理し、Sm−Fe−N相を主相とする磁石成形体を得る窒化工程と、を備える。
Sm及びFeを含有する合金溶湯を急冷凝固して、Sm−Fe相を主相とし、厚さ25μm以下のSm−Fe系合金の薄片を用意する準備工程と、
前記Sm−Fe系合金の薄片を粉砕し、目開きが前記薄片の厚さの2倍以上の篩目を通過した薄片状のSm−Fe系合金の粉末を得る粉砕工程と、
前記Sm−Fe系合金を水素化処理し、その少なくとも一部を不均化反応によりSmH2とFeの2相に分解する水素化工程と、
前記水素化処理した前記Sm−Fe系合金の粉末に固体潤滑剤を混合して混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を加圧成形して水素化成形体を得る成形工程と、
前記水素化成形体を脱水素処理し、再結合反応により前記水素化処理によって相分解した前記SmH2とFeとを再結合して、脱水素成形体を得る脱水素工程と、
前記脱水素成形体を窒素含有雰囲気中で熱処理して窒化処理し、Sm−Fe−N相を主相とする磁石成形体を得る窒化工程と、を備える。
本開示に係る希土類磁石は、
Sm−Fe−N系合金の粉末を含む粉末成形体からなる希土類磁石であって、
相対密度が80%以上であり、
任意の断面において、観察視野内に含まれる前記粉末のうち、アスペクト比が3以上で、且つ、最小径が25μm以下の高アスペクト比粉末が全体の50%以上の個数を占め、
前記高アスペクト比粉末のうち、その長手方向の方位が平均方位から30°以内に分布する粉末の個数が80%以下である。
Sm−Fe−N系合金の粉末を含む粉末成形体からなる希土類磁石であって、
相対密度が80%以上であり、
任意の断面において、観察視野内に含まれる前記粉末のうち、アスペクト比が3以上で、且つ、最小径が25μm以下の高アスペクト比粉末が全体の50%以上の個数を占め、
前記高アスペクト比粉末のうち、その長手方向の方位が平均方位から30°以内に分布する粉末の個数が80%以下である。
上記希土類磁石の製造方法は、希土類磁石の密度を高め、保形性を向上できる。上記希土類磁石は、密度が高く、保形性に優れる。
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、急冷凝固により得られた厚さ25μm以下のSm−Fe系合金薄片を出発原料とし、これを粉砕した薄片状のSm−Fe系合金粉末を原料粉末に用いることで、磁気特性を改善できることを見出した。これは、Sm−Fe系合金を急冷凝固により厚さ25μm以下の薄片とした場合、非晶質又はナノ結晶質、或いは非晶質とナノ結晶質の混晶組織が得られ易く、これを水素化・脱水素処理すると、ナノサイズの微細な結晶のSm−Fe相が生成され、微細な結晶組織が形成されるためである。
しかし、薄片状のSm−Fe系合金粉末は、加圧成形時の成形性に劣り、圧密性や保形性が低いことが分かった。この理由は次のように考えられる。薄片状の粉末の場合、加圧成形時に粉末の長手方向が加圧方向に垂直な方向に整列し、粉末がその厚さ方向に積層された積層状態となり易い。このような積層状態では、粉末の表面同士が面接触する界面が多く、界面の面積が大きくなる。そのため、粉末粒子同士の接触抵抗(摩擦)が大きいため、加圧成形時に粉末が流動し難く、成形体中に空隙が生じ易いことから、緻密化されず、密度を高めることが難しい。また、この界面で剥離が起き易く、剥離部分が起点となって亀裂が界面に沿って進展し易いことから、加圧成形した成形体にラミネーションクラックが発生し易いなど、保形強度の低下を招く。
本発明者は、水素化処理した薄片状のSm−Fe系合金粉末に固体潤滑剤を混合することで、加圧成形時の粉末の流動性を高めて、圧密性や保形性を向上させることができ、密度が高く、保形性に優れる希土類磁石が得られることを見出した。本発明は、以上の知見に基づいてなされたものである。最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
[本発明の実施形態の説明]
(1)本発明の実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、
Sm及びFeを含有する合金溶湯を急冷凝固して、Sm−Fe相を主相とし、厚さ25μm以下のSm−Fe系合金の薄片を用意する準備工程と、
前記Sm−Fe系合金の薄片を粉砕し、目開きが前記薄片の厚さの2倍以上の篩目を通過した薄片状のSm−Fe系合金の粉末を得る粉砕工程と、
前記Sm−Fe系合金を水素化処理し、その少なくとも一部を不均化反応によりSmH2とFeの2相に分解する水素化工程と、
前記水素化処理した前記Sm−Fe系合金の粉末に固体潤滑剤を混合して混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を加圧成形して水素化成形体を得る成形工程と、
前記水素化成形体を脱水素処理し、再結合反応により前記水素化処理によって相分解した前記SmH2とFeとを再結合して、脱水素成形体を得る脱水素工程と、
前記脱水素成形体を窒素含有雰囲気中で熱処理して窒化処理し、Sm−Fe−N相を主相とする磁石成形体を得る窒化工程と、を備える。
(1)本発明の実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、
Sm及びFeを含有する合金溶湯を急冷凝固して、Sm−Fe相を主相とし、厚さ25μm以下のSm−Fe系合金の薄片を用意する準備工程と、
前記Sm−Fe系合金の薄片を粉砕し、目開きが前記薄片の厚さの2倍以上の篩目を通過した薄片状のSm−Fe系合金の粉末を得る粉砕工程と、
前記Sm−Fe系合金を水素化処理し、その少なくとも一部を不均化反応によりSmH2とFeの2相に分解する水素化工程と、
前記水素化処理した前記Sm−Fe系合金の粉末に固体潤滑剤を混合して混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を加圧成形して水素化成形体を得る成形工程と、
前記水素化成形体を脱水素処理し、再結合反応により前記水素化処理によって相分解した前記SmH2とFeとを再結合して、脱水素成形体を得る脱水素工程と、
前記脱水素成形体を窒素含有雰囲気中で熱処理して窒化処理し、Sm−Fe−N相を主相とする磁石成形体を得る窒化工程と、を備える。
上記希土類磁石の製造方法によれば、Sm−Fe相を主相とするSm−Fe系合金(又はその粉末)を水素化処理し、この粉末を加圧成形→脱水素処理→窒化処理することで、バインダを含まない高密度のSm−Fe−N系合金粉末の磁石成形体(希土類磁石)を製造できる。また、上記希土類磁石の製造方法では、水素化処理した薄片状のSm−Fe系合金粉末に固体潤滑剤を混合することで、加圧成形時の粉末の流動性を高めて、成形体の圧密性や保形性を向上させることができる。そのため、加圧成形の圧力(面圧)を低くしても、高密度化できる。したがって、上記希土類磁石の製造方法は、希土類磁石の密度を高め、保形性を向上できる。例えば、相対密度が80%以上を達成でき、希土類磁石を高密度化することで、保形強度や磁気特性(特に残留磁化)を向上できる。
圧密性や保形性が向上する理由は次のように考えられる。薄片状のSm−Fe系合金粉末の場合は、上述したように、加圧成形時に粉末の長手方向が加圧方向に垂直な方向(横方向)に整列し、粉末がその厚さ方向に積層された積層状態となり易い。上記希土類磁石の製造方法では、固体潤滑剤を混合することによって粉末同士の接触抵抗が減少するため、加圧成形時に粉末が流動し易くなる。粉末が流動することによって、粉末に対して厚さ方向の圧縮力だけではなく、横方向に隣り合う粉末同士が衝突するなどして長手方向にも圧縮力が作用する。これにより粉末の破断、座屈が起こり、粉末が細粒化して空隙を埋めることによって緻密化されることから、密度が高くなる。また、粉末が破断することで、界面面積が小さくなると共に、粉末の長手方向が横方向以外の方向にも分布してランダムに配向することから、ラミネーションクラックの発生を抑制でき、保形強度が高くなる。加えて、粉末同士の界面面積が小さく、且つ、粉末がランダムに配向するため、成形体を脱水素処理する際に水素が抜け易くなったり、窒化処理する際に窒素が侵入し易くなるため、脱水素処理による再結合反応や窒化処理による窒化が容易になる。
更に、上記希土類磁石の製造方法では、急冷凝固して得られた厚さ25μm以下のSm−Fe系合金薄片を出発原料とする。この場合、出発原料となるSm−Fe系合金の組織が非晶質又はナノ結晶質、或いは非晶質とナノ結晶質の混晶組織となり易く、これを水素化・脱水素処理すると、ナノサイズの微細な結晶のSm−Fe相が生成され、微細な結晶組織が形成される。これにより、保磁力が向上するなど、磁気特性に優れる希土類磁石が得られる。また、Sm−Fe系合金薄片を粉砕し、目開きが薄片の厚さの2倍以上の篩目を通過したSm−Fe系合金粉末とすることで、成形工程において粉末を金型に充填する充填作業が行い易く、粉末の充填密度(かさ密度)を高めることができる。これは、粉砕したSm−Fe系合金薄片を目開きが薄片の厚さの2倍以上の篩目を通過させることで、Sm−Fe系合金粉末が過度に微細化されず、粉末の流動性をある程度確保できるためである。粉砕工程は、成形工程の前に実施すればよく、粉砕工程と水素化工程とは順序が前後してもよい。そのため、出発原料のSm−Fe系合金薄片を粉砕してもよいし、先に水素化処理を行い、水素化処理したSm−Fe系合金薄片を粉砕してもよい。つまり、粉砕工程は、水素化工程の前後のいずれかで実施すればよい。
本発明の実施形態において、「Sm−Fe」相とは、Sm及びFeを主成分として含有するSm−Fe系化合物であり、具体的にはSm2Fe17相、SmFe9相が挙げられる。Sm−Fe系合金としては、Sm2Fe17合金、SmFe9合金が挙げられる。「Sm−Fe−N相」とは、Sm、Fe及びNを主成分として含有し、硬磁性を示すSm−Fe−N系化合物であり、具体的にはSm2Fe17Nx相、SmFe9Ny相が挙げられる。Sm−Fe−N系合金としては、Sm2Fe17Nx合金、SmFe9Ny合金が挙げられる。Sm2Fe17NxにおけるNの原子比xは、例えば2.0≦x≦3.5であり、好ましくはx=3である。一方、SmFe9NyにおけるNの原子比yは、例えば0.5≦y≦2.0であり、好ましくはy=1.8である。ここでいう「主成分」とは、各構成元素の合計含有量が全体の90原子%以上を占めることを意味する。
(2)上記希土類磁石の製造方法の一形態として、前記固体潤滑剤がステアリン酸亜鉛であることが挙げられる。
使用する固体潤滑剤は、磁石の磁気特性に大きな影響を与えるものではなく、加圧成形時のSm−Fe系合金粉末の流動性を高めるものであれば、特に限定されないが、粉末状で、粒子が弱い結合力で層状に重なり合って劈開性を有するものであることが好ましい。固体潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸や、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム及びステアリン酸バリウムから選択される少なくとも1種のステアリン酸金属塩、二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化タングステン(WS2)、六方晶窒化ホウ素(hBN)などが挙げられる。このような固体潤滑剤であれば、加圧成形時にSm−Fe系合金粉末の表面同士の間に固体潤滑剤が介在して、圧縮力が作用した際にSm−Fe系合金粉末が滑る(ずれる)ことによって、粉末が流動し易くなる。中でも、ステアリン酸亜鉛は、Sm−Fe系合金粉末との付着性が良好で、少量でも粉末の流動性を高め易く、入手容易性の点からも有利である。
(3)上記希土類磁石の製造方法の一形態として、前記固体潤滑剤の添加量を0.001質量%以上0.1質量%以下とすることが挙げられる。
固体潤滑剤の添加量を0.001質量%以上とすることで、加圧成形時のSm−Fe系合金粉末の流動性を効果的に高めることができる。固体潤滑剤の添加量を0.1質量%以下とすることで、固体潤滑剤による密度低下や脱水素処理時の残渣発生による磁気特性の低下を抑制できる。
(4)上記希土類磁石の製造方法の一形態として、前記加圧成形の圧力を1470MPa以下とすることが挙げられる。
上記希土類磁石の製造方法では、固体潤滑剤を混合することにより、加圧成形時のSm−Fe系合金粉末の流動性を高めることで、加圧成形の圧力が低くても高密度化が可能である。例えば、加圧成形の圧力が1470MPa(15ton/cm2)以下であっても、成形体を高密度化でき、相対密度が80%以上を達成できる。そのため、固体潤滑剤を混合しない場合に比べて、加圧成形の圧力を低くすることができ、コストダウンと生産性向上を実現できる。また、加圧成形の圧力を1470MPa以下とすることで、加圧成形後に成形体を金型から抜き出す際の抜き圧を低減したり、加圧成形に使用するプレス装置のコストダウンを図ることができる。
(5)本発明の実施形態に係る希土類磁石は、
Sm−Fe−N系合金の粉末を含む粉末成形体からなる希土類磁石であって、
相対密度が80%以上であり、
任意の断面において、観察視野内に含まれる前記粉末のうち、アスペクト比が3以上で、且つ、最小径が25μm以下の高アスペクト比粉末が全体の50%以上の個数を占め、
前記高アスペクト比粉末のうち、その長手方向の方位が平均方位から30°以内に分布する粉末の個数が80%以下である。
Sm−Fe−N系合金の粉末を含む粉末成形体からなる希土類磁石であって、
相対密度が80%以上であり、
任意の断面において、観察視野内に含まれる前記粉末のうち、アスペクト比が3以上で、且つ、最小径が25μm以下の高アスペクト比粉末が全体の50%以上の個数を占め、
前記高アスペクト比粉末のうち、その長手方向の方位が平均方位から30°以内に分布する粉末の個数が80%以下である。
上記希土類磁石によれば、相対密度が80%以上であることで、高密度で残留磁化が高い。また、Sm−Fe−N系合金の全粉末に対する高アスペクト比粉末の個数の割合が50%以上であり、更に、高アスペクト比粉末のうち、その長手方向の方位が平均方位から30°以内に分布する粉末の個数が80%以下である。それ故、特定の方向に配向する高アスペクト比粉末が少なく、その長手方向が特定の方向に多く分布することがない。そのため、Sm−Fe−N系合金粉末の表面同士が面接触する界面面積が小さく、且つ、粉末の長手方向がランダムに配向していることから、ラミネーションクラックの発生を抑制でき、保形強度が高い。したがって、上記希土類磁石は、密度が高く、保形性に優れる。
「高アスペクト比粉末」とは、任意の断面の観察視野内に含まれるSm−Fe−N系合金粉末のうち、最大径と最小径との比で表されるアスペクト比(最大径/最小径)が3以上で、且つ、最小径が25μm以下のものをいう。観察視野のサイズは、少なくとも60個以上(好ましくは80個以上)のSm−Fe−N系合金粉末が含まれるように設定する。Sm−Fe−N系合金粉末の「最小径」及び「最大径」は、図1に示すように、粉末Pの輪郭を特定して、その輪郭に外接する最小外接矩形Rを描き、その短辺の長さを最小径a、その長辺の長さを最大径bとする。最小外接矩形Rは、一対の平行線で粉末Pの輪郭を挟んだとき、その平行線の間隔が最小距離(最小径に相当)となる平行線の組を求めた後、これに直交する一対の平行線で粉末の輪郭を挟んだとき、その平行線の間隔が最大距離(最大径に相当)となる平行線の組を求め、これら二組の平行線で囲まれる矩形として求めることができる。高アスペクト比粉末の「長手方向の方位」は、観察視野内の任意の方向に直線を引き、これを基準線Lとして、基準線Lと長辺(最大径)とのなす角度θを長手方向の方位とする。「平均方位」は、観察視野内に含まれる高アスペクト比粉末について、それぞれの長手方向の方位(角度θ)を求め、その平均角度θaを平均方位とする。そして、「長手方向の方位が平均方位から30°以内に分布」とは、長手方向の方位(角度θ)と平均方位(平均角度θa)との差分(θ−θaの絶対値)が30°以内であることをいう。この範囲に含まれる高アスペクト比粉末の個数が少ないほど、粉末の長手方向の方位が特定の方位に多く分布しておらず、ランダムに配向していることを意味する。
(6)上記希土類磁石一形態として、相対密度が83%以上であることが挙げられる。
相対密度が83%以上であることで、保形強度や磁気特性をより向上できる。
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る希土類磁石の製造方法、及び希土類磁石の具体例を、以下に説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の実施形態に係る希土類磁石の製造方法、及び希土類磁石の具体例を、以下に説明する。なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
<希土類磁石の製造方法>
本発明の実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、以下の工程を備える。
(A)出発原料のSm−Fe系合金薄片を用意する準備工程。
(B)Sm−Fe系合金薄片を粉砕する粉砕工程。
(C)Sm−Fe系合金を水素化処理する水素化工程。
(D)水素化処理したSm−Fe系合金粉末に固体潤滑剤を混合する混合工程。
(E)固体潤滑剤を混合した混合粉末を加圧成形する成形工程。
(F)加圧成形した成形体を脱水素処理する脱水素工程。
(G)脱水素処理した成形体を窒化処理する窒化工程。
以下では、各工程について詳しく説明する。
本発明の実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、以下の工程を備える。
(A)出発原料のSm−Fe系合金薄片を用意する準備工程。
(B)Sm−Fe系合金薄片を粉砕する粉砕工程。
(C)Sm−Fe系合金を水素化処理する水素化工程。
(D)水素化処理したSm−Fe系合金粉末に固体潤滑剤を混合する混合工程。
(E)固体潤滑剤を混合した混合粉末を加圧成形する成形工程。
(F)加圧成形した成形体を脱水素処理する脱水素工程。
(G)脱水素処理した成形体を窒化処理する窒化工程。
以下では、各工程について詳しく説明する。
(準備工程)
準備工程は、Sm及びFeを含有する合金溶湯を急冷凝固して、Sm−Fe相を主相とし、厚さ25μm以下のSm−Fe系合金の薄片を用意する工程である。Sm−Fe系合金としては、例えば、Sm2Fe17相を主相とするSm2Fe17合金、SmFe9相を主相とするSmFe9合金などが挙げられる。Sm−Fe系合金(Sm−Fe相)は、余剰のFeを含有してもよく、例えば、化学量論組成よりもFeを原子比で0.1〜0.3の範囲で余剰に含有することが挙げられる。また、Sm−Fe系合金には、添加元素として、例えば、Zr、Nb、Ta、Hf、Ti、Co、Cu、Al、Si、Ca、Nd、Pr、Y、Ce、Dy、Tb、B、Cなどを含有してもよい。
準備工程は、Sm及びFeを含有する合金溶湯を急冷凝固して、Sm−Fe相を主相とし、厚さ25μm以下のSm−Fe系合金の薄片を用意する工程である。Sm−Fe系合金としては、例えば、Sm2Fe17相を主相とするSm2Fe17合金、SmFe9相を主相とするSmFe9合金などが挙げられる。Sm−Fe系合金(Sm−Fe相)は、余剰のFeを含有してもよく、例えば、化学量論組成よりもFeを原子比で0.1〜0.3の範囲で余剰に含有することが挙げられる。また、Sm−Fe系合金には、添加元素として、例えば、Zr、Nb、Ta、Hf、Ti、Co、Cu、Al、Si、Ca、Nd、Pr、Y、Ce、Dy、Tb、B、Cなどを含有してもよい。
Sm−Fe系合金は、所定の組成となるように配合した合金溶湯を急冷凝固して薄片状(リボン状を含む)としたものである。急冷凝固により厚さ25μm以下のSm−Fe系合金薄片とすることで、冷却速度が速く、Sm−Fe系合金の組織が非晶質又はナノ結晶質、或いは非晶質とナノ結晶質の混晶組織となり易い。このような組織のSm−Fe系合金を出発原料とした場合、後述する磁石成形体の組織を微細な結晶組織とすることができ、磁気特性(特に保磁力)を向上できる。Sm−Fe系合金薄片の幅や長さは、特に限定されないが、幅が厚さの10倍以上、長さが厚さの100倍以上であることが挙げられ、例えば、幅が1〜2mm、長さが5cm以上である。
Sm−Fe系合金薄片は、例えば、メルトスパン法により急冷凝固して作製することが挙げられる。メルトスパン法は、合金溶湯を冷却した金属製のロール上に噴射して急冷する方法であり、合金薄片が得られる。メルトスパン法では、ロールの周速を変えることで、冷却速度を制御できる。具体的には、ロールの周速を上げるほど、合金の厚さが薄くなり、冷却速度が速くなる。ロールの周速は30m/秒以上とすることが好ましく、更に35m/秒以上、40m/秒以上がより好ましい。一般に、ロールの周速が35m/秒以上の場合、合金薄片の厚さが10〜20μm程度となる。ロールの周速の上限は、製造上の観点から、例えば100m/秒以下とする。また、合金薄片の厚さが厚くなり過ぎると均質な組織を得ることが困難になることから、合金薄片の厚さは10μm以上20μm以下とすることが好ましい。
(粉砕工程)
粉砕工程は、Sm−Fe系合金の薄片を粉砕し、目開きが薄片の厚さの2倍以上の篩目を通過した薄片状のSm−Fe系合金の粉末を得る工程である。Sm−Fe系合金薄片を粉砕して粉末状にすることで、後工程の成形工程において粉末を金型に充填する充填作業が行い易くなる。粉砕したSm−Fe系合金薄片を目開きが薄片の厚さの2倍以上の篩目を通過させることで、粉末が過度に微細化されず、流動性をある程度確保できるため、粉末の充填密度(かさ密度)を高めることができる。また、粉末が過度に微細化されないため、粉末の酸化を抑制し易い。
粉砕工程は、Sm−Fe系合金の薄片を粉砕し、目開きが薄片の厚さの2倍以上の篩目を通過した薄片状のSm−Fe系合金の粉末を得る工程である。Sm−Fe系合金薄片を粉砕して粉末状にすることで、後工程の成形工程において粉末を金型に充填する充填作業が行い易くなる。粉砕したSm−Fe系合金薄片を目開きが薄片の厚さの2倍以上の篩目を通過させることで、粉末が過度に微細化されず、流動性をある程度確保できるため、粉末の充填密度(かさ密度)を高めることができる。また、粉末が過度に微細化されないため、粉末の酸化を抑制し易い。
粉砕は、Sm−Fe系合金粉末の粒子径(最大長さ)が、例えば300μm以下、更に200μm以下、特に106μm以下となるように行うことが好ましい。但し、粉末の粒子径(最大長さ)が25μm以下になると、粉末の流動性の低下や、酸化の影響が大きくなることから、粒子径は25μm超が好ましい。粉砕する際の雰囲気は、粉末の酸化を抑制するため、不活性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気中の酸素濃度を5体積%以下、更に1体積%以下とすることが好ましい。不活性雰囲気としては、例えばArやN2などの不活性ガス雰囲気が挙げられる。
篩目の目開きは、例えば、薄片の厚さの3倍以上とすることが好ましく、具体的な数値範囲としては、45μm以上355μm以下、更に106μm以下とすることが挙げられる。篩目の目開きを355μm以下とすることで、粗大な粒子を取り除くことができ、粉末のかさ密度を高めることができる。
(水素化工程)
水素化工程は、Sm−Fe系合金を水素化処理し、その少なくとも一部を不均化反応によりSmH2とFeの2相に分解する工程である。この工程により、Sm−Fe相が相分解して、SmH2相及びFe相を含む混晶組織を有する水素化合金が得られる。水素化処理では、Sm−Fe系合金(Sm−Fe相)の例えば40体積%以上、更に50体積%以上を相分解して、水素化処理したSm−Fe系合金がSmH2相、とFe相の2相に分離した組織を例えば40%体積、更に50体積%以上含有することが挙げられる。水素化処理は、水素含有雰囲気中で、Sm−Fe系合金(Sm−Fe相)の水素不均化反応が生じる温度以上で熱処理する。水素不均化反応が開始する温度は、次のように定義できる。室温(25℃)において0.8〜1.0気圧(81.0〜101.3kPa)の内圧で水素充填した密閉容器中に、Sm−Fe系合金の試料を入れて昇温していく。400℃到達時の内圧をPH2(400℃)[気圧]、400〜900℃の温度領域での最小の内圧をPH2(MIN)[気圧]とする。そして、PH2(400℃)とPH2(MIN)との差をΔPH2[気圧]としたとき、内圧が{PH2(400℃)−ΔPH2×0.1}以下になるときの400〜900℃の範囲内の温度で定義できる。該当する温度が2点以上ある場合は、最も低い温度とする。このとき、PH2(MIN)が0.5気圧(50.6kPa)以下になるように試料の重量を設定することが好ましい。水素化処理の熱処理温度は、例えば500℃超1100℃以下、600℃以上950℃以下、更に650℃以上900℃以下とすることが挙げられる。水素化処理の熱処理温度が高いほど、Sm−Fe相の相分解が進行するが、高過ぎると、組織が粗大化する虞がある。PH2(MIN)を示す温度よりも水素化処理の熱処理温度を低い温度とすると、Sm−Fe相の一部のみを相分解し易い。Sm−Fe系合金(Sm−Fe相)の不均化反応がピークとなる温度は組成にもよるが、650℃程度であり、一部のみを相分解する場合は、例えば500℃超650℃未満、更に525℃以上625℃以下とすることが挙げられる。
水素化工程は、Sm−Fe系合金を水素化処理し、その少なくとも一部を不均化反応によりSmH2とFeの2相に分解する工程である。この工程により、Sm−Fe相が相分解して、SmH2相及びFe相を含む混晶組織を有する水素化合金が得られる。水素化処理では、Sm−Fe系合金(Sm−Fe相)の例えば40体積%以上、更に50体積%以上を相分解して、水素化処理したSm−Fe系合金がSmH2相、とFe相の2相に分離した組織を例えば40%体積、更に50体積%以上含有することが挙げられる。水素化処理は、水素含有雰囲気中で、Sm−Fe系合金(Sm−Fe相)の水素不均化反応が生じる温度以上で熱処理する。水素不均化反応が開始する温度は、次のように定義できる。室温(25℃)において0.8〜1.0気圧(81.0〜101.3kPa)の内圧で水素充填した密閉容器中に、Sm−Fe系合金の試料を入れて昇温していく。400℃到達時の内圧をPH2(400℃)[気圧]、400〜900℃の温度領域での最小の内圧をPH2(MIN)[気圧]とする。そして、PH2(400℃)とPH2(MIN)との差をΔPH2[気圧]としたとき、内圧が{PH2(400℃)−ΔPH2×0.1}以下になるときの400〜900℃の範囲内の温度で定義できる。該当する温度が2点以上ある場合は、最も低い温度とする。このとき、PH2(MIN)が0.5気圧(50.6kPa)以下になるように試料の重量を設定することが好ましい。水素化処理の熱処理温度は、例えば500℃超1100℃以下、600℃以上950℃以下、更に650℃以上900℃以下とすることが挙げられる。水素化処理の熱処理温度が高いほど、Sm−Fe相の相分解が進行するが、高過ぎると、組織が粗大化する虞がある。PH2(MIN)を示す温度よりも水素化処理の熱処理温度を低い温度とすると、Sm−Fe相の一部のみを相分解し易い。Sm−Fe系合金(Sm−Fe相)の不均化反応がピークとなる温度は組成にもよるが、650℃程度であり、一部のみを相分解する場合は、例えば500℃超650℃未満、更に525℃以上625℃以下とすることが挙げられる。
水素化処理の時間は、適宜設定すればよく、例えば30分以上180分以下とすることが挙げられる。水素化処理の時間が短過ぎると、Sm−Fe相を十分に相分解できない虞がある。一方、水素化処理の時間が長過ぎると、Sm−Fe相の相分解が過度に進行したり、組織が粗大化する虞がある。水素化処理の時間を変えることでも、Sm−Fe相が相分解する割合を変更できる。
水素化処理する際の水素含有雰囲気としては、例えば、H2ガス雰囲気、又はH2ガスとArやN2などの不活性ガスとの混合ガス雰囲気とすることが挙げられる。また、水素含有雰囲気の雰囲気圧力(水素分圧)は、例えば20.2kPa(0.2気圧)以上1013kPa(10気圧)以下とすることが挙げられる。
水素化処理の熱処理温度を低くして、Sm−Fe系合金(Sm−Fe相)の一部を相分解した場合、未分解のSm−Feが残存することから、SmH2相及びFe相と未分解のSm−Fe相とを含む混晶組織となる。この場合、熱処理温度が低いため、粒成長が抑制され、Sm−Fe相の全部を相分解した場合に比べて相分解した組織がより微細化される。そのため、後工程の脱水素工程において、脱水素処理によって再結合した組織がより微細化され、ナノ結晶組織が形成される。
更に、Sm−Fe系合金がFeを余剰に含有する場合は、脱水素処理時に余剰のFe相が析出して、Sm−Fe相とFe相とのナノコンポジット混晶組織が形成されることがある。この場合、水素化工程において、Sm−Fe系合金の一部のみを相分解して組織が微細化されていると、脱水素処理時に粗大なFe相の生成が抑制され、Fe相が微細化されるため、より微細なナノコンポジット混晶組織が形成される傾向がある。例えば、Sm−Fe系合金の全部を相分解した場合のFe相の平均結晶粒径は300nm程度であるのに対し、Sm−Fe系合金の一部を相分解した場合は、Fe相の平均結晶粒径が200nm以下、更に100nm以下を達成できる。
水素化処理によりSm−Fe系合金の一部を相分解する場合、水素化処理したSm−Fe系合金が未分解のSm−Fe相を35体積%以上60体積%以下含有することが好ましく、これにより成形性の確保と組織の微細化とを両立できる。Sm−Fe相の割合が少ないほど、Sm−Fe相が相分解して生成されたFe相の割合が増えることから、成形性が向上するが、熱処理温度が高いため、組織が粗大化する傾向がある。逆に、Sm−Fe相の割合が多いほど、未分解のSm−Fe相が残存する割合が増えてFe相の割合が減るため、成形性が低下するが、組織の粗大化を抑制でき、微細な組織が形成される傾向がある。Sm−Fe相の含有割合(体積比率)を35体積%以上60体積%以下とすることで、成形性を十分に確保しながら、組織の微細化を図り易い。Sm−Fe相の体積比率は40体積%以上がより好ましい。
水素化処理後のSm−Fe系合金におけるSm−Fe相の体積比率は次のようにして求めることができる。合金断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で組織観察すると共にエネルギー分散型X線分析装置(EDX)により組成分析することで、視野内におけるSm−Fe相、SmH2相、Fe相を分離抽出する。そして、視野に占めるSm−Fe相の面積比率を求め、その面積比率を体積比率とみなして求めることができる。組成の分析は、EDX以外でも適宜な分析装置を利用できる。
上述した粉砕工程と水素化工程とは順序を入れ替えてもよい。出発原料のSm−Fe系合金薄片を粉砕した後、Sm−Fe系合金粉末を水素化処理してもよいし、Sm−Fe系合金薄片を水素化処理した後、それを粉砕してSm−Fe系合金粉末を得てもよい。
(混合工程)
混合工程は、水素化処理したSm−Fe系合金の粉末に固体潤滑剤を混合して混合粉末を得る工程である。固体潤滑剤は、磁石の磁気特性に大きな影響を与えるものではなく、後工程の成形工程において加圧成形時のSm−Fe系合金粉末の流動性を高めるものであれば、特に限定されないが、劈開性を有する粉末状のものであることが好ましい。固体潤滑剤には、例えば、ステアリン酸や、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム及びステアリン酸バリウムから選択される少なくとも1種のステアリン酸金属塩、MoS2、WS2、hBNなどが利用できる。中でも、ステアリン酸亜鉛は、Sm−Fe系合金粉末との付着性が良好で、少量でも粉末の流動性を高め易く、入手容易性の点でも好ましい。
混合工程は、水素化処理したSm−Fe系合金の粉末に固体潤滑剤を混合して混合粉末を得る工程である。固体潤滑剤は、磁石の磁気特性に大きな影響を与えるものではなく、後工程の成形工程において加圧成形時のSm−Fe系合金粉末の流動性を高めるものであれば、特に限定されないが、劈開性を有する粉末状のものであることが好ましい。固体潤滑剤には、例えば、ステアリン酸や、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム及びステアリン酸バリウムから選択される少なくとも1種のステアリン酸金属塩、MoS2、WS2、hBNなどが利用できる。中でも、ステアリン酸亜鉛は、Sm−Fe系合金粉末との付着性が良好で、少量でも粉末の流動性を高め易く、入手容易性の点でも好ましい。
固体潤滑剤の添加量は、例えば0.001質量%以上0.1質量%以下とすることが挙げられる。ここでいう「添加量」とは、Sm−Fe系合金粉末に対する固体潤滑剤の質量割合である。固体潤滑剤の添加量を0.001質量%以上とすることで、加圧成形時のSm−Fe系合金粉末の流動性を効果的に高めることができる。固体潤滑剤の添加量を0.1質量%以下とすることで、固体潤滑剤による密度低下を抑制できる。固体潤滑剤の添加量は0.01質量%以上0.05質量%以下がより好ましい。
(成形工程)
成形工程は、混合粉末を加圧成形して水素化成形体を得る工程である。具体的には、混合粉末を金型に充填し、プレス装置を用いて加圧成形することが挙げられる。加圧成形の圧力は、例えば980MPa(10ton/cm2)以上1960MPa(20ton/cm2)以下とすることが挙げられる。加圧成形の圧力を高くするほど、水素化成形体を高密度化できる。水素化成形体の相対密度は、例えば80%以上、更に83%以上とすることが好ましい。高密度化することで、保形強度や磁気特性(特に残留磁化)を向上できる。成形体の相対密度の上限は、製造上の観点から、例えば95%以下とする。ここでいう「相対密度」とは、真密度に対する実際の密度([成形体の実測密度/成形体の真密度]の百分率)のことを意味する。真密度は、出発原料となるSm−Fe系合金の密度とする。
成形工程は、混合粉末を加圧成形して水素化成形体を得る工程である。具体的には、混合粉末を金型に充填し、プレス装置を用いて加圧成形することが挙げられる。加圧成形の圧力は、例えば980MPa(10ton/cm2)以上1960MPa(20ton/cm2)以下とすることが挙げられる。加圧成形の圧力を高くするほど、水素化成形体を高密度化できる。水素化成形体の相対密度は、例えば80%以上、更に83%以上とすることが好ましい。高密度化することで、保形強度や磁気特性(特に残留磁化)を向上できる。成形体の相対密度の上限は、製造上の観点から、例えば95%以下とする。ここでいう「相対密度」とは、真密度に対する実際の密度([成形体の実測密度/成形体の真密度]の百分率)のことを意味する。真密度は、出発原料となるSm−Fe系合金の密度とする。
薄片状のSm−Fe系合金粉末の場合、加圧成形時に粉末の長手方向が加圧方向に垂直な方向(横方向)に整列し、粉末がその厚さ方向に積層された積層状態となり易く、このような積層状態では、加圧成形時に粉末の流動が起こり難い(後述する図3を参照)。本実施形態では、上述した混合工程でSm−Fe系合金粉末に固体潤滑剤を混合することで、粉末の流動性が向上し、加圧成形時に粉末が流動し易い。そのため、粉末が流動することによって、薄片状の粉末に対して厚さ方向の圧縮力ではなく、長手方向に圧縮力が作用することで、粉末の破断が起こり、粉末が細粒化して空隙が埋められ緻密化される。また、粉末の流動に伴って、粉末の長手方向が横方向以外の方向にも分布して、粉末がランダムに配向することになる(後述する図2を参照)。これにより、成形体の密度が高くなり、また、ラミネーションクラックに対する保形強度が高くなるため、成形体の圧密性及び保形性が向上する。
一般に、加圧成形の圧力が高くなるほど、金型内で局所的な応力集中などによって成形体の内部の粗密が大きくなる傾向があり、成形体の密度に不均一が生じ易くなる。本実施形態では、固体潤滑剤を混合することにより、加圧成形時の粉末の流動性を高めることで、加圧成形時に粉末が流動することによって成形体の内部に粗密が発生し難く、成形体の密度を均一にして高密度化できる。また一方で、加圧成形時の粉末の流動性を高めることで、加圧成形の圧力を低くしても高密度化が可能であり、固体潤滑剤を混合しない場合に比べて、加圧成形の圧力を低くすることができる。例えば、加圧成形の圧力を1470MPa以下としても、高密度化が可能であり、成形体の相対密度を80%以上とすることが可能である。加圧成形の圧力を低くすることで、加圧成形後に成形体を金型から抜き出す際の抜き圧を低減したり、プレス装置のコストダウンを図ることも可能である。
(脱水素工程)
脱水素工程は、水素化成形体を脱水素処理し、再結合反応により水素化処理によって相分解したSmH2とFeとを再結合して、脱水素成形体を得る工程である。この工程により、SmH2相及びFe相が再結合して、ナノサイズの微細なSm−Fe相が生成され、Sm−Fe相を含むナノ結晶組織を有する脱水素成形体が得られる。脱水素処理は、不活性雰囲気中又は減圧雰囲気中で、水素化処理によって相分解したSmH2とFeの再結合反応が生じる温度以上で熱処理する。脱水素処理の熱処理温度は、脱水素成形体の中心部(成形体の外表面から最も遠い部分)においてSmH2が検出されない(実質的に存在しない)ような温度条件が好ましく、例えば600℃以上1000℃以下とすることが挙げられる。脱水素処理の熱処理温度が高いほど、再結合反応が進行するが、高過ぎると、組織が粗大化することがある。脱水素処理の熱処理温度は650℃以上800℃以下がより好ましい。
脱水素工程は、水素化成形体を脱水素処理し、再結合反応により水素化処理によって相分解したSmH2とFeとを再結合して、脱水素成形体を得る工程である。この工程により、SmH2相及びFe相が再結合して、ナノサイズの微細なSm−Fe相が生成され、Sm−Fe相を含むナノ結晶組織を有する脱水素成形体が得られる。脱水素処理は、不活性雰囲気中又は減圧雰囲気中で、水素化処理によって相分解したSmH2とFeの再結合反応が生じる温度以上で熱処理する。脱水素処理の熱処理温度は、脱水素成形体の中心部(成形体の外表面から最も遠い部分)においてSmH2が検出されない(実質的に存在しない)ような温度条件が好ましく、例えば600℃以上1000℃以下とすることが挙げられる。脱水素処理の熱処理温度が高いほど、再結合反応が進行するが、高過ぎると、組織が粗大化することがある。脱水素処理の熱処理温度は650℃以上800℃以下がより好ましい。
脱水素処理の時間は、適宜設定すればよく、例えば30分以上180分以下とすることが挙げられる。脱水素処理の時間が短過ぎると、成形体の内部まで再結合反応が十分に進行しない虞がある。一方、脱水素処理の時間が長過ぎると、組織が粗大化する虞がある。
脱水素処理する際の不活性雰囲気としては、例えばArやN2などの不活性ガス雰囲気とすることが挙げられ、減圧雰囲気としては、例えば真空度が10Pa以下の真空雰囲気とすることが挙げられる。より好ましい真空雰囲気の真空度は1Pa以下、更に0.1Pa以下である。特に、減圧雰囲気(真空雰囲気)中で脱水素処理した場合、再結合反応が進行し易く、SmH2相が残存し難い。成形体の密度が高い場合や成形体のサイズが大きい場合、真空雰囲気中で脱水素処理する際に急激に10Pa以下に減圧すると、成形体の表層のみ反応が進行して収縮することで空隙が閉塞し、成形体内部からの水素放出を妨げる虞がある。そこで、真空雰囲気中で脱水素処理する際は真空度を制御することが好ましい。例えば20〜101kPaの水素含有雰囲気中で脱水素温度まで昇温し、その後減圧して、例えば0.1〜20kPa程度の真空度の水素含有雰囲気を経て、最終的に10Pa以下とすることが挙げられる。
脱水素処理後の脱水素成形体の組織は、ナノサイズのSm−Fe相を含むナノ結晶組織となる。また、上述したように、出発原料のSm−Fe系合金がFeを余剰に含有する場合は、Sm−Fe相とFe相とのナノコンポジット混晶組織が形成されることがある。例えば、出発原料がSm2Fe17合金の場合は、Sm2Fe17相とFe相とのナノコンポジット混晶組織が形成されたり、出発原料がSmFe9合金の場合は、Sm2Fe17相及びSmFe9相とFe相とのナノコンポジット混晶組織が形成される。
(窒化工程)
窒化工程は、脱水素成形体を窒素含有雰囲気中で熱処理して窒化処理し、Sm−Fe−N相を主相とする磁石成形体を得る工程である。この工程により、脱水素成形体に含まれるSm−Fe相が窒化され、Sm−Fe−N相を含むナノ結晶組織を有する磁石成形体(希土類圧粉磁石)が得られる。例えば、脱水素成形体にSm2Fe17相が含まれる場合は、窒化処理によってSm2Fe17Nx相を含む組織となり、Sm2Fe9相が含まれる場合は、SmFe9Ny相を含む組織となる。また、脱水素成形体の組織がSm−Fe相とFe相とのナノコンポジット混晶組織の場合は、窒化処理によってSm−Fe−N相とFe相とのナノコンポジット混晶組織が形成される。例えば、脱水素成形体がSm2Fe17相とFe相とのナノコンポジット混晶組織を有する場合、Sm2Fe17Nx相とFe相とのナノコンポジット混晶組織を有する磁石成形体が得られる。脱水素成形体がSm2Fe17相及びSmFe9相とFe相とのナノコンポジット混晶組織を有する場合、Sm2Fe17Nx相及びmFe9Ny相とFe相とのナノコンポジット混晶組織を有する磁石成形体が得られる。磁石成形体において、Sm2Fe17Nx相におけるNの原子比xは、例えば2.0≦x≦3.5であり、好ましくはx=3である。一方、SmFe9Ny相におけるNの原子比yは、例えば0.5≦y≦2.0であり、好ましくはy=1.8である。
窒化工程は、脱水素成形体を窒素含有雰囲気中で熱処理して窒化処理し、Sm−Fe−N相を主相とする磁石成形体を得る工程である。この工程により、脱水素成形体に含まれるSm−Fe相が窒化され、Sm−Fe−N相を含むナノ結晶組織を有する磁石成形体(希土類圧粉磁石)が得られる。例えば、脱水素成形体にSm2Fe17相が含まれる場合は、窒化処理によってSm2Fe17Nx相を含む組織となり、Sm2Fe9相が含まれる場合は、SmFe9Ny相を含む組織となる。また、脱水素成形体の組織がSm−Fe相とFe相とのナノコンポジット混晶組織の場合は、窒化処理によってSm−Fe−N相とFe相とのナノコンポジット混晶組織が形成される。例えば、脱水素成形体がSm2Fe17相とFe相とのナノコンポジット混晶組織を有する場合、Sm2Fe17Nx相とFe相とのナノコンポジット混晶組織を有する磁石成形体が得られる。脱水素成形体がSm2Fe17相及びSmFe9相とFe相とのナノコンポジット混晶組織を有する場合、Sm2Fe17Nx相及びmFe9Ny相とFe相とのナノコンポジット混晶組織を有する磁石成形体が得られる。磁石成形体において、Sm2Fe17Nx相におけるNの原子比xは、例えば2.0≦x≦3.5であり、好ましくはx=3である。一方、SmFe9Ny相におけるNの原子比yは、例えば0.5≦y≦2.0であり、好ましくはy=1.8である。
窒化処理の熱処理温度は、例えば200℃以上550℃以下とすることが挙げられる。窒化処理の熱処理温度が高いほど、窒化が進行するが、高過ぎると、組織が粗大化したり、過剰窒化となり、磁気特性が低下する虞がある。窒化処理の熱処理温度は300℃以上500℃以下がより好ましい。窒化処理の時間は、適宜設定すればよく、例えば60分以上1200分以下とすることが挙げられる。
窒素含有雰囲気としては、例えば、NH3ガス雰囲気又はNH3ガスとH2ガスとの混合ガス雰囲気、若しくは、N2ガス雰囲気又はN2ガスとH2ガスとの混合ガス雰囲気が挙げられる。
{作用効果}
上述した実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、次の効果を奏する。
(1)水素化処理したSm−Fe系合金粉末を加圧成形→脱水素処理→窒化処理することで、バインダを含まない高密度のSm−Fe−N系合金粉末の磁石成形体(希土類磁石)を製造できる。
(2)Sm−Fe系合金粉末に固体潤滑剤を混合することで、加圧成形時の粉末の流動性を高めて、成形体の圧密性や保形性を向上させることができる。
上述した実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、次の効果を奏する。
(1)水素化処理したSm−Fe系合金粉末を加圧成形→脱水素処理→窒化処理することで、バインダを含まない高密度のSm−Fe−N系合金粉末の磁石成形体(希土類磁石)を製造できる。
(2)Sm−Fe系合金粉末に固体潤滑剤を混合することで、加圧成形時の粉末の流動性を高めて、成形体の圧密性や保形性を向上させることができる。
{希土類磁石の製造方法の用途}
実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、希土類圧粉磁石の製造に好適に利用できる。
実施形態に係る希土類磁石の製造方法は、希土類圧粉磁石の製造に好適に利用できる。
<希土類磁石>
本発明の実施形態に係る希土類磁石は、上述した希土類磁石の製造方法により製造でき、Sm−Fe−N系合金の粉末を含む粉末成形体(磁石成形体)からなる。実施形態の希土類磁石の特徴の1つは、相対密度が80%以上である点である。また、別の特徴の1つは、Sm−Fe−N系合金粉末のうち、高アスペクト比粉末が全体の50%以上の個数を占めると共に、高アスペクト比粉末の長手方向の方位が特定の方位に多く分布することがない点である。以下、希土類磁石の構成を詳しく説明する。
本発明の実施形態に係る希土類磁石は、上述した希土類磁石の製造方法により製造でき、Sm−Fe−N系合金の粉末を含む粉末成形体(磁石成形体)からなる。実施形態の希土類磁石の特徴の1つは、相対密度が80%以上である点である。また、別の特徴の1つは、Sm−Fe−N系合金粉末のうち、高アスペクト比粉末が全体の50%以上の個数を占めると共に、高アスペクト比粉末の長手方向の方位が特定の方位に多く分布することがない点である。以下、希土類磁石の構成を詳しく説明する。
(相対密度)
相対密度が80%以上であることで、高密度で残留磁化が高く、磁気特性に優れる。好ましくは、相対密度が83%以上である。
相対密度が80%以上であることで、高密度で残留磁化が高く、磁気特性に優れる。好ましくは、相対密度が83%以上である。
(高アスペクト比粉末)
高アスペクト比粉末は、任意の断面において、観察視野内に含まれるSm−Fe−N系合金粉末のうち、アスペクト比が3以上で、且つ、最小径が25μm以下の粉末のことである。この高アスペクト比粉末が全体の50%以上の個数を占める。高アスペクト比粉末は、最小径(厚さ)が25μm以下であることから、Sm−Fe−N相の微細な結晶組織を有している。Sm−Fe−N系合金の全粉末のうち、最小径が25μm以下の高アスペクト比粉末が占める個数の割合が50%以上であるため、保磁力が高く、磁気特性に優れる。全粉末に対する高アスペクト比粉末の個数の割合は、例えば70%以上、80%以上、更に90%以上であることが好ましい。
高アスペクト比粉末は、任意の断面において、観察視野内に含まれるSm−Fe−N系合金粉末のうち、アスペクト比が3以上で、且つ、最小径が25μm以下の粉末のことである。この高アスペクト比粉末が全体の50%以上の個数を占める。高アスペクト比粉末は、最小径(厚さ)が25μm以下であることから、Sm−Fe−N相の微細な結晶組織を有している。Sm−Fe−N系合金の全粉末のうち、最小径が25μm以下の高アスペクト比粉末が占める個数の割合が50%以上であるため、保磁力が高く、磁気特性に優れる。全粉末に対する高アスペクト比粉末の個数の割合は、例えば70%以上、80%以上、更に90%以上であることが好ましい。
また、高アスペクト比粉末の長手方向の方位が特定の方位に多く分布しておらず、ランダムに配向している。具体的には、高アスペクト比粉末のうち、その長手方向の方位が平均方位から30°以内に分布する粉末の個数が80%以下である。特定の方向に配向する高アスペクト比粉末が少なく、その長手方向が特定の方向に多く分布することがないため、ラミネーションクラックに対する保形強度が高くなる。長手方向の方位が平均方位から30°以内に分布する高アスペクト比粉末の個数の割合は、例えば60%以下、50%以下、更に40%以下であることが好ましい。
{作用効果}
上述した実施形態に係る希土類磁石は、次の効果を奏する。
(1)バインダを含んでおらず、相対密度が80%以上であることから、Sm−Fe−N系合金が占める割合が多く、Sm−Fe−N系合金が有する本来の磁気特性に近い性能を発揮できる。
(2)高アスペクト比粉末の長手方向の方位が特定の方位に多く分布しておらず、ランダムに配向していることで、保形性に優れる。
上述した実施形態に係る希土類磁石は、次の効果を奏する。
(1)バインダを含んでおらず、相対密度が80%以上であることから、Sm−Fe−N系合金が占める割合が多く、Sm−Fe−N系合金が有する本来の磁気特性に近い性能を発揮できる。
(2)高アスペクト比粉末の長手方向の方位が特定の方位に多く分布しておらず、ランダムに配向していることで、保形性に優れる。
{希土類磁石の用途}
実施形態に係る希土類磁石は、モータや発電機などの各種電気機器に使用される永久磁石として好適に利用できる。
実施形態に係る希土類磁石は、モータや発電機などの各種電気機器に使用される永久磁石として好適に利用できる。
[試験例1]
Smを16質量%、Zrを4質量%、Bを0.5質量%含有し、残部がFe及び不可避不純物(16質量%Sm−4質量%Zr−0.5質量%B−bal.Fe)の組成を有する合金溶湯をメルトスパン法により急冷凝固して、出発原料となるSm−Fe系合金薄片を作製した。ここでは、ロールの周速を40m/秒に設定し、Sm−Fe系合金薄片の厚さが約10μmとなるように制御した。Sm−Fe系合金薄片を不活性雰囲気中、乳鉢で粉砕し、篩目の目開きが106μmの篩にかけて、篩目を通過したSm−Fe系合金粉末を得た。
Smを16質量%、Zrを4質量%、Bを0.5質量%含有し、残部がFe及び不可避不純物(16質量%Sm−4質量%Zr−0.5質量%B−bal.Fe)の組成を有する合金溶湯をメルトスパン法により急冷凝固して、出発原料となるSm−Fe系合金薄片を作製した。ここでは、ロールの周速を40m/秒に設定し、Sm−Fe系合金薄片の厚さが約10μmとなるように制御した。Sm−Fe系合金薄片を不活性雰囲気中、乳鉢で粉砕し、篩目の目開きが106μmの篩にかけて、篩目を通過したSm−Fe系合金粉末を得た。
Sm−Fe系合金粉末をH2ガス雰囲気(大気圧)中、550℃で150分間熱処理して水素化処理した。この水素化処理したSm−Fe系合金粉末に固体潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.01質量%混合して混合粉末を得た。
混合粉末を金型に充填し、1160MPa(11.8ton/cm2)で加圧成形(一軸プレス)して、内径7mm、外径10mm、厚さ5mmの円環状の水素化成形体を得た。ここでは、加圧成形は室温で行い、金型の内壁面には潤滑剤(ミリスチン酸)を塗布した。
水素化成形体を真空雰囲気(真空度が10Pa以下)中、650℃で150分間熱処理して脱水素処理し、脱水素成形体を得た。その後、脱水素成形体をNH3ガスとH2ガスとの混合ガス雰囲気(NH3ガスとH2ガスの混合比が体積比で1:2)中、350℃で720分間熱処理して窒化処理し、磁石成形体を得た。得られた磁石成形体について、断面をSEM−EDX装置を用いて組織観察すると共に組成分析したところ、Sm−Fe−N系合金の粉末成形体で構成され、Fe/Sm2Fe17Nx(x=2.0〜3.5)/SmFe9Ny(y=0.5〜2.0)のナノコンポジット混晶組織を有していた。この磁石成形体を試料No.1−1とする。
試料No.1−1の磁石成形体の断面を光学顕微鏡で観察した。ここでは、光学顕微鏡で観察する断面は、成形体の中心軸を通る縦断面(加圧成形時の加圧方向に平行な断面)とした。試料No.1−1の光学顕微鏡での断面観察像を図2に示す。図2において、上下方向が成形体の高さ方向であり、加圧方向に一致する(後述する図3も同じ)。また、図2中、黒い部分が空隙であり、白っぽい薄片状の部分がSm−Fe−N系合金粉末(粒子)である(後述する図3も同じ)。
比較として、Sm−Fe系合金粉末に固体潤滑剤(ステアリン酸亜鉛)を混合しない以外は、試料No.1−1と同様にして、同じ圧力で加圧成形した後、脱水素処理→窒化処理することで、磁石成形体を得た。この磁石成形体を試料No.100とする。また、試料No.1−1と同じように、磁石成形体の断面を光学顕微鏡で観察した。試料No.100の光学顕微鏡での断面観察像を図3に示す。
作製した各試料の磁石成形体について、以下の評価を行った。
(外観評価)
各成形体の外観を目視して、クラックの有無について評価した。その結果を表1に示す。表1中、クラックが確認できなかった場合をA、クラックが確認された場合をBとした。図4及び図5は、試料No.1−1及び試料No.100の各成形体の外観写真であり、試料No.1−1では、目立ったクラックがないのに対し、試料No.100では、大きなクラックが認められた。
各成形体の外観を目視して、クラックの有無について評価した。その結果を表1に示す。表1中、クラックが確認できなかった場合をA、クラックが確認された場合をBとした。図4及び図5は、試料No.1−1及び試料No.100の各成形体の外観写真であり、試料No.1−1では、目立ったクラックがないのに対し、試料No.100では、大きなクラックが認められた。
(相対密度)
各成形体の相対密度を評価した。相対密度は、成形体の体積と質量とを測定して実測密度を求め、[成形体の実測密度/成形体の真密度]の百分率として求めた。真密度は、出発原料のSm−Fe系合金の密度(ここでは、7.96g/cm3)とした。その結果を表1に示す。
各成形体の相対密度を評価した。相対密度は、成形体の体積と質量とを測定して実測密度を求め、[成形体の実測密度/成形体の真密度]の百分率として求めた。真密度は、出発原料のSm−Fe系合金の密度(ここでは、7.96g/cm3)とした。その結果を表1に示す。
(高アスペクト比粉末の個数割合及び長手方向の方位分布)
各成形体について、高アスペクト比粉末の個数割合及び長手方向の方位分布を評価した。高アスペクト比粉末の個数割合は次のようにして評価した。光学顕微鏡での断面観察像(図2、図3を参照)内に含まれるSm−Fe−N系合金粉末について、各粉末の輪郭を画像処理で抽出し、それぞれの輪郭に外接する最小外接矩形を求めた。それぞれの最小外接矩形の短辺及び長辺の長さを測定して、各粉末の最小径及び最大径を求め、アスペクト比を算出した。このうち、アスペクト比が3以上で、且つ、最小径が25μm以下のものを高アスペクト比粉末とし、高アスペクト比粉末の個数を計数した。そして、Sm−Fe−N系合金粉末の全個数に対する高アスペクト比粉末の個数割合を算出して求めた。その結果を表1に示す。
各成形体について、高アスペクト比粉末の個数割合及び長手方向の方位分布を評価した。高アスペクト比粉末の個数割合は次のようにして評価した。光学顕微鏡での断面観察像(図2、図3を参照)内に含まれるSm−Fe−N系合金粉末について、各粉末の輪郭を画像処理で抽出し、それぞれの輪郭に外接する最小外接矩形を求めた。それぞれの最小外接矩形の短辺及び長辺の長さを測定して、各粉末の最小径及び最大径を求め、アスペクト比を算出した。このうち、アスペクト比が3以上で、且つ、最小径が25μm以下のものを高アスペクト比粉末とし、高アスペクト比粉末の個数を計数した。そして、Sm−Fe−N系合金粉末の全個数に対する高アスペクト比粉末の個数割合を算出して求めた。その結果を表1に示す。
高アスペクト比粉末の長手方向の方位分布は次のようにして評価した。光学顕微鏡での断面観察像に水平方向(図2、図3の左右方向)の基準線を引き、各高アスペクト比粉末について、この基準線と最小外接矩形の長辺とがなす角度θを求め、これを長手方向の方位とした。全ての高アスペクト比粉末の長手方向の方位(角度θ)の平均値(平均角度θa)を算出し、これを長手方向の平均方位とした。そして、各高アスペクト比粉末について、その長手方向の方位(角度θ)と平均方位(平均角度θa)との差分(θ−θaの絶対値)を求めた。この角度の差分値が30°以内の高アスペクト比粉末の個数を計数し、高アスペクト比粉末の全個数に対する個数割合を算出した。これを高アスペクト比粉末の長手方向の方位分布とする。その結果を表1に示す。
表1に示す結果から、固体潤滑剤を混合した試料No.1−1は、固体潤滑剤を混合していない試料No.100に比較して、密度が高く、高密度化されていることが分かる。
また、試料No.1−1は、高アスペクト比粉末の個数割合が50%以上で、且つ、長手方向の方位分布が80%以下を満たしており、ラミネーションクラックの発生が抑制され、保形性に優れることが分かる。
試料No.1−1及び試料No.100の各成形体の表面を光学顕微鏡で観察した。具体的には、成形体の上面(加圧成形時の加圧方向に直交する面)を光学顕微鏡で観察した。試料No.1−1及び試料No.100の光学顕微鏡での表面観察像を図6及び図7にそれぞれ示す。図6及び図7に示す各試料の光学顕微鏡での表面観察像においても、試料No.1−1では、試料No.100に比較して、空隙が少なく緻密化されており、高アスペクト比粉末の長手方向の方位がランダムに配向していることが見て取れる。
P Sm−Fe−N系合金粉末
R 最小外接矩形
a 最小径
b 最大径
L 基準線
θ 長手方向の方位
R 最小外接矩形
a 最小径
b 最大径
L 基準線
θ 長手方向の方位
Claims (6)
- Sm及びFeを含有する合金溶湯を急冷凝固して、Sm−Fe相を主相とし、厚さ25μm以下のSm−Fe系合金の薄片を用意する準備工程と、
前記Sm−Fe系合金の薄片を粉砕し、目開きが前記薄片の厚さの2倍以上の篩目を通過した薄片状のSm−Fe系合金の粉末を得る粉砕工程と、
前記Sm−Fe系合金を水素化処理し、その少なくとも一部を不均化反応によりSmH2とFeの2相に分解する水素化工程と、
前記水素化処理した前記Sm−Fe系合金の粉末に固体潤滑剤を混合して混合粉末を得る混合工程と、
前記混合粉末を加圧成形して水素化成形体を得る成形工程と、
前記水素化成形体を脱水素処理し、再結合反応により前記水素化処理によって相分解した前記SmH2とFeとを再結合して、脱水素成形体を得る脱水素工程と、
前記脱水素成形体を窒素含有雰囲気中で熱処理して窒化処理し、Sm−Fe−N相を主相とする磁石成形体を得る窒化工程と、を備える希土類磁石の製造方法。 - 前記固体潤滑剤がステアリン酸亜鉛である請求項1に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記固体潤滑剤の添加量を0.001質量%以上0.1質量%以下とする請求項1又は請求項2に記載の希土類磁石の製造方法。
- 前記加圧成形の圧力を1470MPa以下とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の希土類磁石の製造方法。
- Sm−Fe−N系合金の粉末を含む粉末成形体からなる希土類磁石であって、
相対密度が80%以上であり、
任意の断面において、観察視野内に含まれる前記粉末のうち、アスペクト比が3以上で、且つ、最小径が25μm以下の高アスペクト比粉末が全体の50%以上の個数を占め、
前記高アスペクト比粉末のうち、その長手方向の方位が平均方位から30°以内に分布する粉末の個数が80%以下である希土類磁石。 - 相対密度が83%以上である請求項5に記載の希土類磁石。
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JP2017124492A JP2019009314A (ja) | 2017-06-26 | 2017-06-26 | 希土類磁石の製造方法、及び希土類磁石 |
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- 2017-06-26 JP JP2017124492A patent/JP2019009314A/ja active Pending
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