本発明の薄膜形成用原料に用いられるホウ素化合物は、上記一般式(1)又は一般式(2)で表されるものであり、CVD法又はALD法等の気化工程を有する薄膜製造方法の薄膜形成用原料として好適なものである。また、塗布法等の気化工程を伴わない薄膜製造方法の薄膜形成用原料としても好適なものである。本発明の薄膜形成用原料はホウ素原子を含有する薄膜を製造する場合に、高いホウ素濃度の平滑な薄膜を製造することができるという効果を奏する薄膜形成用原料である。
上記一般式(1)において、R1で表される炭素数2〜5のアルキル基としては、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、第二ブチル基、第三ブチル基、n−ペンチル基、第三ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。また、上記一般式(1)及び(2)において、R2〜R4で表される炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、第二ブチル基、第三ブチル基、n−ペンチル基、第三ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。
上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物を、気化させる工程を有する薄膜の製造方法に用いる場合には、該化合物の蒸気圧が大きく、25℃、1atmにおいて液体状態であるもの又は1atmにおいて僅かな加温により液体状態となるものが好ましく、なかでも、蒸気圧が大きく、25℃、1atmにおいて液体状態であるものが特に好ましい。例えば、R1及びR2が共に第三ブチル基である化合物、R3及びR4が共に水素原子である化合物、及びR3が水素原子で、R4がメチル基である化合物は、蒸気圧が大きく、25℃、1atmにおいて液体状態であり、これらの化合物をそれぞれ薄膜形成原料として用い、ALD法によってケイ素及びホウ素を含有する薄膜を製造する場合に、薄膜中にホウ素を高濃度で取り込ませることができることから好ましい。なかでも、R1及びR2が共に第三ブチル基である化合物は、該化合物を薄膜形成原料として用い、ALD法によってケイ素及びホウ素を含有する薄膜を製造する場合に、薄膜中にホウ素を高濃度で取り込ませる効果が特に高いことから特に好ましい。
また、上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物を、気化工程を伴わない薄膜の製造方法に用いる場合には、R1〜R4は、使用される溶媒に対する溶解性、薄膜形成反応等によって、任意に選択することができる。例えば、R1及びR2が共に第三ブチル基である化合物を薄膜形成原料として用い、塗布法によってケイ素及びホウ素を含有する薄膜を製造する場合に、薄膜中にホウ素を高濃度で取り込ませることができることから好ましい。
本発明の薄膜形成用原料に用いられるホウ素化合物の好ましい具体例としては、下記化合物No.1〜No.131が挙げられる。なお、下記化学式中の「Me」はメチル基を表し、「Et」はエチル基を表し、「nPr」はn−プロピル基を表し、「iPr」はイソプロピル基を表し、「nBu」はn−ブチル基を表し、「sBu」は第二ブチル基を表し、「tBu」は第三ブチル基を表し、「nPe」はn−ペンチル基を表し、「Am」は第三ペンチル基を表し、「Np」はネオペンチル基を表す。
本発明の薄膜形成用原料に用いられる上記一般式(1)及び(2)で表されるホウ素化合物は、その製造方法により特に制限されることはなく、周知の反応を応用して製造される。例えば、上記一般式(1)で表されるホウ素化合物を製造する場合、対応する構造のアルキルエチレンジアミンに水素化ホウ素ナトリウムとヨウ素を反応させ得られた成分を蒸留することで得ることができる。また、例えば、上記一般式(2)で表されるホウ素化合物を製造する場合には、対応する構造のアルキルプロピレンジアミンに水素化ホウ素ナトリウムとヨウ素を反応させ得られた成分を蒸留することで得ることができる。
本発明の薄膜形成用原料とは、上記一般式(1)及び(2)で表されるホウ素化合物を薄膜のプレカーサとしたものであり、その形態は、該薄膜形成用原料が適用される製造プロセスによって異なる。ホウ素及び、金属及び/又は半金属を含む薄膜を製造する場合、本発明の薄膜形成用原料は、上記ホウ素化合物に加えて、上記金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(以下、他のプレカーサともいう)を含有する。本発明の薄膜形成用原料が、他のプレカーサを含有する場合、他のプレカーサの含有量は、上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物1モルに対して、好ましくは0.01モル〜10モルであり、より好ましくは0.1〜5モルである。本発明の薄膜形成用原料は、後述するように、更に、有機溶剤及び/又は求核性試薬を含有してもよい。
例えば、気相法による薄膜形成法によりホウ素含有酸化ケイ素薄膜を製造する場合のホウ素原料としては、上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物のみを用いればよい。また、この場合、他のプレカーサとしてのケイ素原料としては、後述する有機アミン化合物を有機配位子としたケイ素化合物を用いることができ、なかでも、モノアルキルアミノシラン、ビスアルキルアミノシラン、トリアルキルアミノシラン、及びテトラアルキルアミノシランが好ましく、そのなかでも特に、ビス(ジエチルアミノ)シラン、ビス(ジメチルアミノ)シラン、ビス(N−エチルメチルアミノ)シラン、ジイソプロピルアミノシラン、トリス(ジメチルアミノ)シランまたはトリス(ジエチルアミノ)シランが好ましく用いられる。
本発明のホウ素原子を含有する薄膜の製造方法に用いられる薄膜の形成方法は特に制限されるものではなく、周知の薄膜形成方法を用いることができる。例えば、CVD法やALD法等の気化工程を有する薄膜形成法、及び塗布法等の気化工程を伴わない薄膜形成法等を挙げることができる。
本発明の薄膜形成用原料がCVD法やALD法等の気化工程を有する薄膜形成法に用いる原料である場合、その形態は使用される化学気相成長法の輸送供給方法等の手法により適宜選択されるものである。
上記の輸送供給方法としては、薄膜形成用原料を、原料容器中で加熱及び/又は減圧することにより気化させ、必要に応じて用いられるアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に、該基体が設置された成膜チャンバー内(以下、「堆積反応部」と記載することもある)へと導入する気体輸送法、薄膜形成用原料を、液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて、成膜チャンバー内へと導入する液体輸送法がある。気体輸送法の場合は、上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物そのものが薄膜形成原料となり、液体輸送法の場合は、上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物そのもの又は該化合物を有機溶剤に溶かした溶液が薄膜形成用原料となる。
また、多成分系の化学気相成長法においては、薄膜形成用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、「シングルソース法」と記載することもある)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、「カクテルソース法」と記載することもある)がある。カクテルソース法の場合、上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物からなる混合物若しくは混合溶液、又は上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物と他のプレカーサとの混合物若しくは混合溶液が薄膜形成用原料である。
上記の有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることが出来る。上記の有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルn−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられ、これらは、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独又は2種以上の混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、該有機溶剤中における上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物及び他のプレカーサの合計量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。
また、多成分系の化学気相成長法の場合において、本発明の薄膜形成用原料と共に用いられる他のプレカーサとしては、特に制限を受けず、薄膜形成用原料に用いられている周知一般のプレカーサを用いることができる。
上記の他のプレカーサとしては、アルコール化合物、グリコール化合物、β−ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される1種又は2種以上とケイ素や金属との化合物が挙げられる。また、プレカーサの金属種としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、アルミニウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、亜鉛、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムが挙げられる。
上記の他のプレカーサの有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、第2ブチルアルコール、イソブチルアルコール、第3ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、第3ペンチルアルコール等のアルキルアルコール類;2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−メトキシ−1−メチルエタノール、2−メトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−エトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−イソプロポキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−ブトキシ−1,1−ジメチルエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)−1,1−ジメチルエタノール、2−プロポキシ−1,1−ジエチルエタノール、2−s−ブトキシ−1,1−ジエチルエタノール、3−メトキシ−1,1−ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類等が挙げられる。
上記グリコール化合物としては、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,4−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ブタンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。
また、上記β−ジケトン化合物としては、アセチルアセトン、ヘキサン−2,4−ジオン、5−メチルヘキサン−2,4−ジオン、ヘプタン−2,4−ジオン、2−メチルヘプタン−3,5−ジオン、2,6−ジメチルヘプタン−3,5−ジオン等のアルキル置換β−ジケトン類;1,1,1−トリフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,1,1−トリフルオロ−5,5−ジメチルヘキサン−2,4−ジオン、1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロペンタン−2,4−ジオン、1,3−ジパーフルオロヘキシルプロパン−1,3−ジオン等のフッ素置換アルキルβ−ジケトン類;1,1,5,5−テトラメチル−1−メトキシヘキサン−2,4−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−メトキシヘプタン−3,5−ジオン、2,2,6,6−テトラメチル−1−(2−メトキシエトキシ)ヘプタン−3,5−ジオン等のエーテル置換β−ジケトン類等が挙げられる。
また、上記シクロペンタジエン化合物としては、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、n−プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、n−ブチルシクロペンタジエン、第2ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、第3ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられる。
上記有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、第2ブチルアミン、第3ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジn−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、n−プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
上記の他のプレカーサは、シングルソース法の場合は、本発明の薄膜形成用原料に用いられるホウ素化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似している化合物が好ましく、カクテルソース法の場合は、本発明の薄膜形成用原料に用いられるホウ素化合物と、熱及び/又は酸化分解の挙動が類似していることに加え、混合時に化学反応による変質を起こさないものが好ましい。
また、本発明の薄膜形成用原料には、必要に応じて、本発明の薄膜形成用原料に用いられるホウ素化合物及び他のプレカーサの安定性を付与するため、求核性試薬を含有してもよい。該求核性試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4−ヘキサンジオン、2,4−ヘプタンジオン、3,5−ヘプタンジオン等のβ−ジケトン類が挙げられ、これら求核性試薬の使用量は、プレカーサ1モルに対して通常0.1モル〜10モルの範囲で使用され、好ましくは1〜4モルで使用される。
本発明の薄膜形成用原料には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素等の不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれていないことが好ましい。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、電子デバイスにおけるゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、及び同属元素の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下が更に好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下が更に好ましい。また、水分は、化学気相成長用原料中でのパーティクル発生や、薄膜形成中におけるパーティクル発生の原因となるので、金属化合物、有機溶剤、及び、求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際にあらかじめできる限り水分を取り除いた方がよい。金属及び/又は半金属化合物、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下が更に好ましい。
また、本発明の薄膜形成用原料は、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれてないていないことが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に1000個以下であることがより好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが更に好ましい。
本発明の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する本発明の薄膜の製造方法としては、本発明の薄膜形成用原料、必要に応じて用いられる他のプレカーサを気化させた蒸気と、必要に応じて用いられる反応性ガスを、基体が設置された成膜チャンバー内に導入し、次いで、プレカーサを基体上で分解及び/又は化学反応させて薄膜を基体表面に成長、堆積させる化学気相成長法によるものである。原料の輸送供給方法、堆積方法、製造条件、製造装置等については、特に制限を受けるものではなく、周知一般の条件、方法を用いることができる。
上記の必要に応じて用いられる反応性ガスとしては、例えば、酸化性のものとしては酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等が挙げられ、還元性のものとしては水素が挙げられる。また、窒化物を製造するものとしては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等が挙げられ、これらは1種類又は2種類以上使用することができる。
また、上記の輸送供給方法としては、前記に記載の気体輸送法、液体輸送法、シングルソース法、カクテルソース法等が挙げられる。
また、上記の堆積方法としては、原料ガス又は原料ガスと反応性ガスを熱のみにより反応させ薄膜を堆積させる熱CVD、熱とプラズマを使用するプラズマCVD、熱と光を使用する光CVD、熱、光及びプラズマを使用する光プラズマCVD、CVDの堆積反応を素過程に分け、分子レベルで段階的に堆積を行うALDが挙げられる。
また、上記の製造条件としては、反応温度(基体温度)、反応圧力、堆積速度等が挙げられる。反応温度については、本発明の薄膜形成用原料等が充分に反応する温度である100℃以上が好ましく、150℃〜400℃がより好ましい。また、反応圧力は、熱CVD、光CVDの場合、大気圧〜10Paが好ましく、プラズマを使用する場合は、2000Pa〜10Paが好ましい。また、堆積速度は、原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、反応温度、反応圧力によりコントロールすることが出来る。堆積速度は、大きいと得られる薄膜の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.01〜100nm/分が好ましく、1〜50nm/分がより好ましい。また、ALD法の場合は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。
例えば、ホウ素含有酸化ケイ素薄膜をALD法により形成する場合は、まず、前記で説明した原料導入工程を行う。この場合、ケイ素原料とホウ素原料はシングルソース法及びカクテルソース法のいずれで供給しても良い。また、シングルソース法で供給する場合は、ケイ素原料とホウ素原料のいずれを先に成膜チャンバー(堆積反応部)に導入しても良く、同時でもよい。次に、堆積反応部に導入した本発明の薄膜形成用原料により、基体表面に前駆体薄膜を成膜させる(前駆体薄膜成膜工程)。このときに、基体を加熱するか、堆積反応部を加熱して、熱を加えてもよい。この工程で成膜される前駆体薄膜は、ホウ素含有酸化ケイ素薄膜、又は、本発明の薄膜形成用原料の一部が分解及び/又は反応して生成した薄膜であり、目的のホウ素含有酸化ケイ素薄膜とは異なる組成を有する。本工程が行われる際の基体温度は、室温〜500℃が好ましい。
次に、堆積反応部から、本発明の薄膜形成用原料ガスや副生したガスを排気する(排気工程)。未反応の本発明の薄膜形成用原料ガスや副生したガスは、堆積反応部から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気される必要はない。排気方法としては、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスにより系内をパージする方法、系内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01〜300Paが好ましく、0.01〜100Paがより好ましい。
次に、堆積反応部に酸化性ガスを導入し、該酸化性ガス又は酸化性ガス及び熱の作用により、先の前駆体薄膜成膜工程で得た前駆体薄膜からホウ素含有酸化ケイ素薄膜を形成する(ホウ素含有酸化ケイ素薄膜形成工程)。本工程において熱を作用させる場合の温度は、室温〜500℃が好ましく、150〜450℃がより好ましい。本発明の薄膜形成用原料は、オゾンに代表される酸化性ガスとの反応性が良好であり、効率よくホウ素含有酸化ケイ素薄膜を製造することができる。
本発明の薄膜の製造方法において、上記のようにALD法を採用した場合、上記の原料導入工程、前駆体薄膜成膜工程、排気工程、及びホウ素含有酸化ケイ素薄膜形成工程からなる一連の操作による薄膜堆積を1サイクルとし、このサイクルを必要な膜厚の薄膜が得られるまで複数回繰り返してもよい。この場合、1サイクル行った後、上記排気工程と同様にして、堆積反応部から未反応の本発明の薄膜形成用原料ガス及び酸化性ガス、更に副成したガスを排気した後、次の1サイクルを行うことが好ましい。
また、ホウ素含有酸化ケイ素薄膜のALD法による形成においては、プラズマ、光、電圧等のエネルギーを印加してもよい。これらのエネルギーを印加する時期は、特には限定されず、例えば、原料導入工程における本発明の薄膜形成用原料ガス導入時、前駆体薄膜成膜工程又はホウ素含有酸化ケイ素薄膜形成工程における加温時、排気工程における系内の排気時、ホウ素含有酸化ケイ素薄膜形成工程における酸化性ガス導入時でもよく、上記の各工程の間でもよい。
更に、本発明の薄膜の製造方法においては、薄膜堆積の後に、より良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、通常200〜1000℃であり、250〜500℃が好ましい。
本発明の薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する装置としては、周知な化学気相成長法用装置を用いることができる。具体的な装置の例としては図1のようなプレカーサをバブリング供給で行うことのできる装置や、図2のように気化室を有する装置や、図3又は図4のように反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる装置等が挙げられる。また、図1、図2、図3及び図4のような枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。
本発明の薄膜形成用原料が塗布法等の気化工程を伴わない薄膜形成法に用いる塗布液組成物である場合、この塗布液組成物として、上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物をそのまま用いてもよく、水、有機溶剤、又は水と有機溶剤の混合物に溶かしたものを用いてもよい。
上記有機溶剤は、上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物を安定に溶解することができれば、いずれのものでもよい。当該有機溶剤は、単一組成でも混合物でもよい。本発明の塗布液組成物に使用することができる有機溶剤の例としては、アルコール系溶剤、ジオール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、脂肪族又は脂環族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、シアノ基を有する炭化水素溶剤、その他の溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、第3ブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、2−ペンタノール、ネオペンタノール、第3ペンタノール、ヘキサノール、2−ヘキサノール、ヘプタノール、2−ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、2−オクタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、メチルシクロペンタノール、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘプタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(N,N−ジメチルアミノ)エタノール、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロパノール等が挙げられる。
ジオール系溶剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、イソプレングリコール(3−メチル−1,3−ブタンジオール)、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、オクタンジオール(2−エチル−1,3−ヘキサンジオール)、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、アセトン、エチルメチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸第2ブチル、酢酸第3ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸第3アミル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸第2ブチル、プロピオン酸第3ブチル、プロピオン酸アミル、プロピオン酸イソアミル、プロピオン酸第3アミル、プロピオン酸フェニル、2−エチルヘキサン酸メチル、2−エチルヘキサン酸エチル、2−エチルヘキサン酸プロピル、2−エチルヘキサン酸イソプロピル、2−エチルヘキサン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、オキソブタン酸メチル、オキソブタン酸エチル、γ−ラクトン、δ−ラクトン等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。
脂肪族又は脂環族炭化水素系溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカリン、ソルベントナフサ等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン、クメン、イソブチルベンゼン、シメン、テトラリンが挙げられる。
シアノ基を有する炭化水素溶剤としては、1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等が挙げられる。
その他の溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドが挙げられる。
本発明においては、上記の有機溶剤のなかでも、アルコール系溶剤、ジオール系溶剤、及びエステル系溶剤が安価であり、しかも溶質に対する十分な溶解性を示し、さらに、シリコン基体、金属基体、セラミックス基体、ガラス基体、樹脂基体等の様々な基体に対する塗布溶媒として良好な塗布性を示すので、好ましい。なかでも、アルコール系溶剤が、溶質に対する溶解性が高く、特に好ましい。
塗布液組成物中の上記の有機溶剤の含有量は、特に限定されるものではなく、形成しようとする薄膜の厚さや、薄膜の製造方法に応じて適宜調節すればよい。例えば、塗布法によって薄膜を製造する場合には、有機溶剤1.0リットルに対して、上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物を0.01〜10モル使用することが好ましい。上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるホウ素化合物の割合が少ないほど得られる薄膜が薄くなるので、生産性の面から0.01モル以上であることが好ましい。より具体的には、スピンコート法によって薄膜を製造する場合には、有機溶媒1.0リットルに対して、該ホウ素化合物を0.1〜5モル使用することが好ましい。
次に、本発明の塗布法による薄膜の製造方法について説明する。本発明の薄膜の製造方法は、これまでに説明した本発明の薄膜形成用原料を基体上に塗布する工程(塗布工程)と、薄膜形成用原料が塗布された基体を800℃以下に加熱して薄膜を形成する工程(成膜工程)とを有する。必要に応じて成膜工程の前に、基体を50℃以上200℃未満に保持し、有機溶剤等の低沸点成分を揮発させる乾燥工程をさらに有してもよい。
上記の塗布工程における塗布方法としては、スピンコート法、ディップ法、スプレーコート法、ミストコート法、フローコート法、カーテンコート法、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、オフセット印刷法、インクジェット法、刷毛塗り等が挙げられる。
また、必要な膜厚を得るために、上記の塗布工程から任意の工程までを複数繰り返すことができる。例えば、塗布工程から成膜工程の全ての工程を複数回繰り返してもよく、塗布工程と乾燥工程を複数回繰り返してもよい。
本発明の薄膜の製造方法で用いることができる基体の材質としては、例えば、シリコン、セラミックス、ガラス、金属、樹脂、紙、ガラス等を挙げることができる。より具体的には、シリコンウェハ、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化タンタル、酸化チタン、窒化チタン、酸化ルテニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ランタン、金属ルテニウム、低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)、アクリル樹脂、スチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート)、ポリアセタール樹脂、セルロース誘導体等の樹脂基材;非塗工印刷用紙、微塗工印刷用紙、塗工印刷用紙(アート紙、コート紙)、特殊印刷用紙、コピー用紙(PPC用紙)、未晒包装紙(重袋用両更クラフト紙、両更クラフト紙)、晒包装紙(晒クラフト紙、純白ロール紙)、コートボール、チップボール段ボール等の紙基材;銅板、鉄板、アルミ板等の金属基材;ソーダガラス、ホウケイ酸ガラス、シリカガラス、石英ガラス等のガラス基材;アルミナ;サファイア;ジルコニア;チタニア;酸化イットリウム;ITO(インジウム錫オキサイド)等を挙げることができる。
本発明の薄膜の製造方法で用いることができる基体の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状が挙げられる。基体表面は、平面であってもよく、トレンチ構造等の三次元構造となっていてもよい。
上記の乾燥工程、及び成膜工程においてプラズマ;レーザー;キセノンランプ、水銀ランプ、水銀キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ、アルゴンフラッシュランプ、重水素ランプ等の放電ランプ;各種放射線等の熱以外のエネルギーを印加又は照射してもよい。
本発明の薄膜形成用原料を用いて製造される薄膜は、他のプレカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、メタル、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、ガラス等の所望の種類の薄膜とすることができる。製造される薄膜の組成としては、ホウ素を含有するケイ素薄膜が挙げられる。なかでも、ホウ素含有酸化ケイ素薄膜が特に好ましく製造される。ホウ素含有酸化ケイ素薄膜は、電子材料の層間絶縁膜等として用いられている。
以下、実施例及び比較例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
[実施例1]化合物No.1の製造
アルゴンガス雰囲気下で、1リットル4つ口反応フラスコにおいて、N,N’−ジ−tert―ブチルエチレンジアミン100.00gと水素化ホウ素ナトリウム25.25gを脱水処理したテトラヒドロフラン209.23gと混合し、氷冷により20℃以下に維持した。ここへ、あらかじめヨウ素81.01gを167.39gの脱水処理したテトラヒドロフランに溶解した溶液を滴下して反応させた。滴下終了後、約70℃で約23時間反応させた。室温に戻した後、メンブレンフィルタにて濾過後、得られた濾液からテトラヒドロフランを留去し、液体残渣を得た。その液体残渣を、8Torrの減圧下、バス100℃で蒸留し、塔頂温度69℃にて留出した化合物を得た。収率は76%であった。得られた化合物は25℃、1atmにて無色透明の液体であった。元素分析及び1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.1と同定された。これらの分析結果を以下に示す。
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
B:5.9質量%、C:65.5質量%、H:12.9質量%、N:15.7質量%
(理論値;B:5.94質量%、C:65.95質量%、H:12.73質量%、N:15.38質量%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.18:s:18.00)(3.12:s:3.98)(4.59:m:0.95)
[実施例2]化合物No.2の製造
アルゴンガス雰囲気下で、500ミリリットル4つ口反応フラスコにおいて、1,3−プロパンジアミン24.38gと水素化ホウ素ナトリウム13.69gを脱水処理したテトラヒドロフラン113.58gと混合し、氷冷により20℃以下に維持した。ここへ、あらかじめヨウ素41.74gを94.86gの脱水処理したテトラヒドロフランに溶解した溶液を滴下して反応させた。滴下終了後、約85℃で約5時間反応させた。室温に戻した後、メンブレンフィルタにて濾過後、得られた濾液からテトラヒドロフランを留去し、液体残渣を得た。その液体残渣を、14Torrの減圧下、バス120℃で蒸留し、塔頂温度31℃にて留出した化合物を得た。収率は43%であった。得られた化合物は25℃、1atmにて無色透明の液体であった。元素分析及び1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.2と同定された。これらの分析結果を以下に示す。
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
B:12.9質量%、C:42.2質量%、H:11.0質量%、N:33.9質量%
(理論値;B:12.88質量%、C:42.93質量%、H:10.81質量%、N:33.38質量%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.54:quin:2.00)(2.71:m:5.61)(4.03:m:1.41)
[実施例3]化合物No.3の製造
アルゴンガス雰囲気下で、200ミリリットル4つ口反応フラスコにおいて、N−メチル−1,3−プロパンジアミン10.00gと水素化ホウ素ナトリウム4.72gを脱水処理したテトラヒドロフラン32.72gと混合し、氷冷により20℃以下に維持した。ここへ、あらかじめヨウ素14.97gを32.72gの脱水処理したテトラヒドロフラン溶解した溶液を滴下して反応させた。滴下終了後、約85℃で約5時間反応させた。室温に戻した後、メンブレンフィルタにて濾過後、得られた濾液からテトラヒドロフランを留去し、液体残渣を得た。その液体残渣を、46Torrの減圧下、バス70℃で蒸留し、塔頂温度45℃にて留出した化合物を得た。収率は57%であった。得られた化合物は25℃、1atmにて無色透明の液体であった。元素分析及び1H−NMR分析の結果、得られた化合物は、化合物No.3と同定された。これらの分析結果を以下に示す。
(分析値)
(1)元素分析(金属分析:ICP−AES)
B:11.1質量%、C:48.6質量%、H:11.5質量%、N:28.8質量%
(理論値;B:11.04質量%、C:49.05質量%、H:11.32質量%、N:28.60質量%)
(2)1H−NMR(溶媒:重ベンゼン)(ケミカルシフト:多重度:H数)
(1.59:quin:2.00)(2.66:m:8.12)(4.03:m:1.80)
[評価例1]
上記で得られた化合物No.1、化合物No.2、及び化合物No.3、並びに下記に示す比較化合物1及び比較化合物2について、下記に示す測定条件下でTG−DTA分析を行い、サンプルの重量が50%減少した際の温度を測定した。評価結果を表1に示す。
(測定条件)
圧力:常圧
Ar流量:100mL/分
昇温速度:10℃/分
サンプル量:約10mg
表1の結果より、評価例1−1、評価例1−2及び評価例1−3においては、比較評価例1及び比較評価例2よりも、サンプルの重量が50%減少した際の温度が低く、高い蒸気圧を示すため、化合物No.1、化合物No.2、及び化合物No.3は、比較化合物1及び比較化合物2よりも気相法による薄膜形成に適した原料であることがわかった。さらに、評価例1−2及び評価例1−3においては、評価例1−1よりも、サンプルの重量が50%減少した際の温度が低く、高い蒸気圧を示すため、化合物No.2及び化合物No.3は、化合物No.1よりも気相法による薄膜形成により適した原料であることがわかった。
[実施例4]ALD法によるホウ素含有酸化ケイ素薄膜の製造
ホウ素原料として化合物No.1、ケイ素原料としてビス(ジエチルアミノ)シランをALD用原料として、原料容器を2つにした以外は図1と同様の装置を用いて各々の原料をモル比1:1で供給しながら、以下の条件のALD法により、シリコンウエハ上に薄膜Aを製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、得られた薄膜はホウ素含有酸化ケイ素薄膜であった。1サイクル当たりに得られる膜厚は、0.01〜0.1nmであった。
(条件)
反応温度(基体温度):300℃
反応性ガス:オゾンガス
(工程)
下記(1)〜(8)からなる一連の工程を1サイクルとして、96サイクル繰り返した:
(1)ビス(ジエチルアミノ)シラン原料容器温度:23℃、原料容器内圧力100Paの条件で気化させた化学気相成長用原料の蒸気を導入し、系圧100Paで20秒間堆積させる;
(2)25秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する;
(3)反応性ガスを導入し、系圧力100Paで20秒間反応させる;
(4)20秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する;
(5)化合物No.1原料容器温度:23℃、原料容器内圧力100Paの条件で気化させた化学気相成長用原料の蒸気を導入し、系圧100Paで5秒間堆積させる;
(6)25秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する;
(7)反応性ガスを導入し、系圧力100Paで20秒間反応させる;
(8)20秒間のアルゴンパージにより、未反応原料を除去する。
[実施例5及び6]ALD法によるホウ素含有酸化ケイ素薄膜の製造
ホウ素原料として化合物No.2または化合物No.3を用いた他は実施例4と同じ条件でシリコンウエハ上に薄膜B及び薄膜Cを製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、得られた薄膜は全てホウ素含有酸化ケイ素薄膜であった。1サイクル当たりに得られる膜厚は、0.01〜0.1nmであった。
[比較例1及び2]ALD法によるホウ素含有酸化ケイ素薄膜の製造
ホウ素原料として比較化合物1または比較化合物2を用いた他は実施例4と同じ条件でシリコンウエハ上に薄膜α及び薄膜βを製造した。得られた薄膜について、X線反射率法による膜厚測定、X線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、得られた薄膜は全てホウ素含有酸化ケイ素薄膜であった。1サイクル当たりに得られる膜厚は、0.01〜0.1nmであった。
[評価例2]
上記で得られた薄膜A、薄膜B、薄膜C、薄膜α、及び薄膜βについて、X線光電子分光法による薄膜中のホウ素濃度の測定、及びFE−SEMによる表面観察を行った。評価結果を表2に示す。
表2の結果より、薄膜A、薄膜B、及び薄膜Cは、薄膜α及び薄膜βよりも薄膜中のホウ素濃度が高く平滑な薄膜であるため、化合物No.1、化合物No.2、及び化合物No.3は、比較化合物1及び比較化合物2よりもALD法によるホウ素含有酸化ケイ素薄膜の製造に適した原料であることがわかった。さらに、薄膜Aは薄膜B、及び薄膜Cよりも薄膜中のホウ素濃度が高いため、化合物No.1は化合物No.2、及び化合物No.3よりもALD法によるホウ素含有酸化ケイ素薄膜の製造により適した原料であることがわかった。
以上より、本発明の薄膜形成用原料を用いて、ALD法によりホウ素含有酸化ケイ素薄膜を製造した場合には、比較化合物を用いた場合よりも、ホウ素濃度が高く平滑な薄膜を製造することができるということがわかった。
[実施例7]塗布法によるホウ素含有酸化ケイ素薄膜の製造
1−ブタノール1.0リットルに化合物No.1とテトラエチルオルトシリケートを0.5モルずつ混合した組成物を塗布液組成物1とした。
塗布液組成物1を基体にキャストし、25℃、1atmにて、500rpmで10秒間、スピンコート法で塗布した後、120℃ 10分間の乾燥工程、400℃で15分の仮焼工程、700℃で30分の焼成工程による形成工程を行い、基体上に薄膜Dを得た。得られた薄膜について、X線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、得られた薄膜はホウ素含有酸化ケイ素薄膜であった。
[比較例3及び4]塗布法によるホウ素含有酸化ケイ素薄膜の製造
ホウ素原料として比較化合物1または比較化合物2を用いた他は実施例7と同じ条件で基体上に薄膜γ及び薄膜δを得た。得られた薄膜について、X線光電子分光法による薄膜構造及び薄膜組成の確認を行ったところ、得られた薄膜は全てホウ素含有酸化ケイ素薄膜であった。
[評価例3]
薄膜D、薄膜γ、及び薄膜δについて、X線光電子分光法による薄膜中のホウ素濃度の測定、及びFE−SEMによる表面観察を行った。評価結果を表3に示す。
表3の結果より、薄膜Dは、薄膜γ及び薄膜δよりも薄膜中のホウ素濃度が高く平滑な薄膜であるため、化合物No.1は比較化合物1及び比較化合物2よりも塗布法によるホウ素含有酸化ケイ素薄膜の製造に適した原料であることがわかった。
以上より、本発明の薄膜形成用原料を用いて、塗布法によりホウ素含有酸化ケイ素薄膜を製造した場合には、比較化合物を用いた場合よりも、ホウ素濃度が高く平滑な薄膜を製造することができるということがわかった。