JP2019006649A - プレキャストコンクリート部材の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
コンクリート組成物と水とを混錬する場合、水と、セメント、シリカフューム等のコンクリート中で水和反応する材料である結合材と、の質量比(以下、水/結合材比ということがある。本明細書中における水/結合材比は特にことわらない限りにおいて、質量基準である)を、小さくすると、粒子間の距離が狭くなり、また、液相部分に水和生成物が析出し充填するため、組織が緻密になり、圧縮強度の高いコンクリート硬化体が得られることが知られている。
また、得られたコンクリート硬化体を高温加熱養生することで、コンクリート硬化体の強度がより向上し、高強度のプレキャストコンクリート部材(以下、単にコンクリート部材と称することがある)を得ることが期待できる。
コンクリート部材として高強度のものが得られると、構造物の柱断面を小さくしたり、柱の荷重の負担面積を大きくしたりすることができるため、高層の構造物の建設に有用となる。さらに、建物の柱の間隔を大きくとることができるようになり、建築物の平面計画上の自由度を上げることができ、大きなメリットが生まれる。
一般的なコンクリート部材は、冬期などの外気温が低い場合などに、脱型時強度確保のために50℃前後の蒸気養生を実施することがある。一方、コンクリート組成物として水結合材比の小さい材料を用いて作製する超高強度プレキャストコンクリート部材は、強度増進を目的として、例えば、蒸気養生、オートクレーブ養生等の高温加熱養生が行われることがある。これは、コンクリート硬化体を高温加熱養生することにより、コンクリート硬化体内部において、セメント等の結合材の水和反応が促進したり、成分同士の反応が促進される結果、組織の緻密化が進行したりするためと考えられる。
即ち、高温養生時の最高温度が90℃を超える場合、なかでも、さらに最高温度に到達する際の昇温速度が高い場合には、90℃以下の最高温度で実施される通常の養生に比較して、断面寸法が大きいコンクリート部材においては、高温養生時に、コンクリート硬化体の表面と内部との間に温度差が生じ易くなり、温度差に起因する大きな温度応力が生じる。即ち、昇温時には、硬化体の表面近傍では、内部に比較して膨張に起因する圧縮応力が大きくなり、膨張ひずみが相対的に小さい硬化体の中心部近傍は周囲から引っ張られるため引張応力が生じる。降温時には、逆に、表面近傍では引張応力が生じ、中心部近傍では圧縮応力が生じる。断面寸法が大きいコンクリート部材において、高温養生時の最高温度が高かったり、昇温速度や降温速度が大きかったりする場合には、温度勾配が大きくなるため、この温度応力が大きくなる。コンクリートの引張強度は圧縮強度の1/10と小さいことから、前記の引張の温度応力が、コンクリートの引張強度を超える部分に所望されない微細なひび割れが発生していることが原因であると考えられる。
<1> コンクリート組成物を型枠に投入し、脱型可能な強度まで硬化させ、脱型してコンクリート硬化体を得る工程と、得られたコンクリート硬化体の表面の少なくとも一部を、温度勾配を緩和する層により被覆し、高温養生して、プレキャストコンクリート部材を得る工程と、を有するプレキャストコンクリート部材の製造方法。
<3> 前記温度勾配を緩和する層により被覆し、高温養生して、プレキャストコンクリート部材を得る工程が、前記コンクリート硬化体に、高温の水蒸気又は熱風が直接触れない手段を設けて、高温養生する工程を含む<1>に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
さらに、本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示のプレキャストコンクリート部材の製造方法は、コンクリート組成物を型枠に投入し、脱型可能な強度まで硬化させ、脱型してコンクリート硬化体を得る工程と、得られたコンクリート硬化体の表面の少なくとも一部を、温度勾配を緩和する層により被覆し、高温養生して、プレキャストコンクリート部材を得る工程と、を有する。
本開示のコンクリート部材の製造方法は、上記以外の工程を有していてもよい。
コンクリート部材を高温養生することで、コンクリート組成物の硬化反応及び組織の緻密化が進行する。
製造されるコンクリート部材のサイズが小さい場合には、コンクリート部材を形成するコンクリート硬化体は、その中心部まで雰囲気温度の影響を受けやすい。しかし、コンクリート硬化体のサイズが大きくなり、例えば、直方体で厚みが100mm以上、或いは円柱で直径が100mm以上となると、コンクリート硬化体の表面と中心部との温度差が大きくなる傾向がでてくる。
サイズの大きいコンクリート硬化体を高温養生する際において、コンクリート硬化体を養生するための高温の水蒸気、高温の熱風、或いはヒーターからの輻射熱が、コンクリート硬化体の表面、特に表面の一部に局所的に直接当たることにより、コンクリート硬化体の表面が局所的に急激に高温となり、硬化体表面と硬化体の中心部との温度勾配が大きくなり、さらに、高温の水蒸気等が直接触れて加熱された領域と、その周辺部の領域との間にも温度差が生じる。このため、表面の領域及び硬化体の深さ方向における不均一な加熱に起因するクラック、即ち、微細なひび割れの発生が懸念される。
従って、本開示における製造方法によれば、高温養生におけるコンクリート部材の強度向上効果を達成し、かつ、コンクリート部材における温度勾配に起因する所望されない微細なひび割れなどの発生と、微細なひび割れなどの発生に起因するコンクリート部材の強度低下と、が効果的に抑制されると考えている。
なお、本開示は上記の推定機構に何ら制限されない。
〔コンクリート組成物を型枠に投入し、脱型可能な強度まで硬化させ、脱型してコンクリート硬化体を得る工程:工程(A)〕
本工程(A)では、常法により、結合材と水とを含むコンクリート組成物を混練し、コンクリート部材の目的に合わせたサイズと形状を有する型枠に投入する。
本開示の製造方法においては、高強度のコンクリート部材を製造する目的で、少なくとも結合材としてのセメントと、骨材と、水とを含み、水/結合材比(質量基準)が20%以下であるコンクリート組成物を用いることが好ましい。
本開示のコンクリート硬化体に用いられる材料は、以下に詳述するように、水/結合材比が低い材料が好ましい。
(水/結合材比)
本開示のコンクリート硬化体に使用されるコンクリート組成物は、水/結合材比(質量比)が20%以下の組成物であることが好ましく、少なくとも、水、セメント、骨材、及び、所望により、シリカフューム等のその他の結合材を含有し、目的に応じて、減水剤などを含有することができる。
水/結合材比は、得られるコンクリート硬化体の強度の観点からは、20%以下であることが好ましく、17%以下であることがより好ましく、コンクリート硬化体の目標とする圧縮強度が200N/mm2以上の場合は13%以下であることがさらに好ましい。また、流動性の観点からは、水/結合材比は、8%以上であることが好ましい。
本明細書における結合材とは、コンクリート硬化体の主成分であるセメント及び一般にセメントと共に用いられるシリカフューム、スラグ、フライアッシュなどのセメント硬化体の硬化反応に関与する微粉末(固形分)を包含する意味で用いられる。なお、骨材、流動化向上のために添加される界面活性剤等は本明細書における結合材には包含されない。
本開示の製造方法に用いられるセメントには特に制限はなく、目的に応じて、各種セメント類の中から、適宜選択することができる。セメントとしては、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントなどの公知のセメントはいずれも好適に使用しうる。
また、予めシリカフュームを含有するポルトランドセメントを用いてもよい。シリカフュームを含有するポルトランドセメントは市販品としても入手可能であり、例えば、宇部三菱セメント社製、商品名:シリカフュームセメントスーパー、シリカフュームセメント、太平洋セメント社製:シリカフュームプレミックスセメント等が挙げられる。
コンクリート組成物には、得られるコンクリート部材の強度がより向上するという観点から、結合材としてのシリカフュームを含有することができる。
好適に用いられるシリカフュームとしては、粉体状、スラリー状又は顆粒状のどちらの形態でも用いることができる。シリカフュームとしては、一般に用いられるフェロシリコンや金属シリコン製造時に副成されるシリカフューム(平均粒径:0.1μm〜0.2μm、pH5〜10)が好ましい。
なお、本明細書におけるシリカフュームの粒径は、粒子が球形であると仮定し、BET法でシリカフューム粒子の比表面積を算出し、算出された比表面積と、粒子の密度とから計算により求めた値を用いている。
なお、既述のように市販のセメントの中には、予めシリカフュームが含まれているものがあり、このようなセメントを用いる場合には、予め含有されたシリカフュームの含有量を考慮して、追加して含有させるシリカフュームの置き換え量を算出する必要がある。
また、シリカフューム粒子の粒径が上記範囲であることで、反応活性が高く、強度発現性がより優れるのに加え、シリカフューム粒子の形状が球形であるためベアリング効果によってコンクリート組成物の調製時における流動性がより良好となり、かつ、混練性の低下が抑制される。
本開示のコンクリート硬化体は、セメント及び所望により用いられるシリカフュームに加え、効果を損なわない限りにおいて、コンクリート部材の用途に応じて、他の結合材を適宜選択して、適切な使用量で使用してもよい。
その他の結合材としては、結晶質のシリカを微粉砕したシリカ微粉末、高炉スラグ微粉末などのスラグ、石灰石微粉末、フライアッシュなどが挙げられる。
セメント及びシリカフューム以外の結合材の含有量は、全結合材に対し、高炉スラグ微粉末は70質量%以下、その他の結合材は30質量%以下であることが好ましい。
コンクリート硬化体を製造するためのコンクリート組成物は、骨材を含有する。骨材としては、細骨材及び粗骨材を挙げることができる。骨材を含有することでコンクリート硬化体の強度が一層向上する。
細骨材は、良質で堅固な天然砂、砕砂、加工砂は使用される。細骨材の種類と含有量とは、目標とするセメント硬化体の強度に応じて適宜選定すればよいが、砕砂や加工砂を使用する場合には、角を処理したものや、粒度を調整したもの等を使用するのが効果的である。
細骨材として、成分にSiO2が多い細骨材を用いると、シリカフュームに含有されるSiO2由来成分と同様の挙動を示し、細骨材の構成成分が高温養生などを行った際に僅かではあるが反応するため、強度増進に有効である。より具体的には、SiO2を70%以上含有する細骨材、例えば,流紋岩や石英系の骨材を用いることが好ましい。
骨材として、細骨材に加えて、さらに粗骨材を使用する場合には、良質で堅固な粗骨材を用いればよい。粗骨材の最大寸法は粒径(最大粒径)が20mm以下であることを要し、好ましくは最大寸法が15mm以下とすることが望ましい。岩種については、硬質砂岩、安山岩、流紋岩などの一般的なものから、目標とする強度に応じて適宜選定すればよい。コンクリート組成物が粗骨材を含むことで、得られる硬化体の強度が一層向上する。
コンクリート組成物には、目的に応じて、さらに、減水剤、遅延剤、消泡剤など、コンクリート組成物に通常用いられる他の成分を含むことができる。
混合は常法により行うことができる。即ち、セメント等の結合材、骨材、水及び所望により添加されるその他の添加剤をミキサに投入して混合することでスラリーを調製する方法が挙げられる。また、まず、骨材をミキサで混合した後、セメント及びシリカフュームをミキサに添加して混合し、その後、水を添加して混合する等、材料を順次添加して混合してもよく、全結合材中の50質量%〜90質量%と水とを練り混ぜてスラリーを調整し、その後、残余の結合材を投入して混合する方法をとることもできる。
スラリーを調製する際に、必要に応じて消泡剤、減水剤などの任意成分を配合することができる。
コンクリート組成物を型枠内に投入する場合、スラリーを型枠内に投入した後、常法に従い脱泡などの工程をさらに行ってもよい。
本工程(A)では、型枠内に投入されたコンクリート組成物が自己発熱を伴い硬化して、脱型強度に至るまで型枠内に配置して、コンクリート硬化体を得ることが好ましく、このようにして得られたコンクリート硬化体を次工程に付す。
コンクリート組成物を型枠に投入後、通常は、自己発熱を伴い硬化するまで、常温(25℃)にて放置すればよい。
脱型強度に到達するまでの、常温での型枠内における保持時間は、一般的には、12時間〜24時間である。凝結が遅れる場合は24時間〜72時間程度とすることもあり、工程に余裕がある場合などには保持時間を1週間とするような場合もある。
また、例えば、コンクリート硬化体を型枠ごと、40℃〜50℃の温度条件にて低温加熱を行ない、脱型強度に至るまでの時間を短縮することができる。
前工程(A)で得られたコンクリート硬化体は、高温養生される。
本明細書における高温養生は、加熱養生(常圧加熱養生)、蒸気養生(常圧水蒸気加熱養生)、及びオートクレーブ養生(高圧水蒸気加熱養生)を包含する意味で用いられる。
本工程(B)は、コンクリート硬化体が得られた後であれば、いずれのタイミングで行ってもよい。例えば、工程(A)にて得られた硬化後のコンクリート硬化体に対して直ちに行ってもよく、経時後、例えば、自己発熱したコンクリート硬化体が常温に降温した後行ってもよく、多数のコンクリート硬化体を作製した後、複数の硬化体をまとめて行ってもよい。
高温養生の態様としては、例えば、加熱養生(常圧加熱養生)、蒸気養生(常圧水蒸気加熱養生)、及びオートクレーブ養生(高圧水蒸気加熱養生)等が挙げられる。
以下、高温養生の条件について説明する。
常圧加熱養生は、常圧条件にてコンクリート硬化体を加熱する養生方法である。
加熱方法としては、例えば、コンクリート硬化体を加熱ゾーン中で、常圧にて加熱する方法、コンクリート硬化体が極度に乾燥しない手段をとった上で、例えば、通電により発熱する面状発熱体などを硬化体の表面に取り付けることで加熱する方法などが挙げられる。加熱手段としては、面状発熱体、ラバーヒーター、ジェットヒーターなどが挙げられ、これらの加熱手段により外部から加熱する方法などが挙げられる。また、コンクリート硬化体が極度に乾燥しない手段としては、鋼製型枠や木製型枠等の、水分の逸散を抑制する効果のある型枠でコンクリート硬化体の全体又は大部分を覆った状態とする手段が挙げられる。
硬化体が極度に乾燥しないための他の手段としては、コンクリート硬化体を水蒸気の存在する雰囲気下に配置する手段が挙げられる。常圧加熱養生の一態様として、水蒸気を加熱手段として用い、密閉されていない雰囲気下で水蒸気により加熱を行う手段が挙げられ、密閉されていない雰囲気下で水蒸気により加熱を行う方法を常圧蒸気養生又は単に蒸気養生と称することがある。即ち、本明細書における「蒸気養生」とは、常圧雰囲気下での水蒸気を供給して加熱する養生を意味する。
常圧加熱養生の一態様である常圧蒸気養生は、常法により行うことができる。具体的には、例えば、ボイラーで製造した水蒸気を、コンクリート硬化体を養生する槽に導入パイプで導入できるようにしておき、槽内に温度センサーを設置して、槽内の温度が設定した温度履歴となるように水蒸気の供給弁を開閉することで蒸気養生を行なう方法が挙げられる。
加熱温度(養生時の最高加熱温度)は、水蒸気以外の加熱手段をとる場合、通常、100℃〜210℃の温度範囲が好ましく、より好ましくは、150℃〜190℃の温度範囲である。
加熱養生する時間(養生時間)は、コンクリート硬化体の内部まで所定の温度に至る時間とすることが好ましく、例えば、養生時間は6時間〜100時間とすることができる。
なお、本明細書において、各高温養生における養生時間とは、前記加熱温度(養生時の最高加熱温度)が維持される時間を指す。
一般的には、2時間〜15時間で最高加熱温度に達する条件で昇温することが好ましい。
具体的には、水蒸気以外の加熱手段をとる場合、昇温速度は5℃/hr〜120℃/hr程度が好ましく、10℃/hr〜60℃/hr程度であることがより好ましい。
加熱手段として水蒸気を用いる場合の昇温速度としては、5℃/hr〜60℃/hr程度が好ましく、10℃/hr〜40℃/hr程度であることがより好ましい。
水蒸気による常圧加熱養生の養生時間は2時間〜72時間であることが好ましく、6時間〜72時間であることがより好ましい。
高圧水蒸気加熱養生は、オートクレーブ装置内にコンクリート硬化体を配置して行う養生であり、通常は、密閉されたオートクレーブ装置内で、常圧以上の圧力下、高温の水蒸気にて養生が行なわれる。
加熱温度は105℃〜300℃の温度範囲であることが好ましく、130℃〜250℃であることがより好ましく、150℃〜200℃であることがさらに好ましい。
高圧水蒸気加熱養生における高圧条件としては、オートクレーブ装置内において、常圧を超え10MPa以下の加圧条件下が好ましく、0.2MPa〜5MPaの加圧条件下がより好ましく、0.4MPa〜2MPaの加圧条件下がさらに好ましい。
高圧水蒸気加熱養生における養生時間は2時間〜72時間であることが好ましく、6時間〜60時間であることがより好ましい。
また、オートクレーブ装置内の昇圧速度は、0.05MPa/hr〜1MPa/hr程度が好ましく、0.1MPa/hr〜0.5MPa/hr程度であることがより好ましい。
高圧水蒸気加熱養生においては、オートクレーブ装置内における圧力勾配により、装置内の温度条件を調整することも可能である。
コンクリート硬化体の中心部近傍の温度が所定の温度となることにより、強度向上が達成されるため、温度勾配が緩和された場合でも、中心部の温度がコンクリート硬化体の硬化を促進させ、組織を緻密化させるのに充分な温度まで加熱養生することが好ましい。
なお、コンクリート硬化体の表面温度と、コンクリート硬化体の中心部の温度との関連は、予め実験的に測定により求めることができる。また、硬化体のサイズと硬化体の熱特性、すなわちコンクリート硬化体の熱伝達率、熱伝導率、及び熱容量から推算して求めることもできる。
既述の高温養生を行う際における温度勾配を緩和する層によるコンクリート硬化体の被覆方法には特に制限はなく、コンクリート硬化体の表面のみが急速に高温になることを抑制できれば種々の方法を採用することができる。よって、コンクリート硬化体の被覆方法は、高温養生の条件、コンクリート硬化体の形状、サイズなどに応じて適宜選択すればよい。
なかでも、工程(B)は、コンクリート硬化体の少なくとも一部を、断熱材で被覆する工程を含むことが好ましい。
また、別の好ましい態様の一つとして、工程(B)は、コンクリート硬化体に、直接高温の水蒸気又は熱風が触れない手段を設けて、高温養生する工程を含む態様が挙げられる。
温度勾配を緩和する層による被覆の一態様として、コンクリート硬化体の少なくとも一部を、断熱材で被覆する工程を挙げることができる。
断熱材としては、高温養生の加熱温度にて変質せず、熱伝導性が低い材料で構成される断熱材であれば特に制限されない。断熱材としては、熱伝導性が高い金属以外の無機材料から構成される断熱材が好ましく、熱伝導性がより低いという観点からは、気泡を内包する無機多孔質板も好ましい。断熱材としては、例えば、ケイ酸カルシウム板、軽量気泡コンクリート板、石膏ボード、木毛セメント板などが挙げられる。また、これら断熱材により作製された筺体、内部にコンクリート硬化体を配置し得る空間を有する角柱体及び筒体なども断熱材として好適に使用することができる。
図1は、コンクリート硬化体12の少なくとも一部を断熱材14にて被覆した状態の例を示す斜視図である。
図1(A)は、円柱状のコンクリート硬化体12の外周を、円筒形の断熱材14で被覆した態様を示す斜視図である。図1(B)は、直方体のコンクリート硬化体12の外周を、内部に空間を有する角柱状の断熱材14で被覆した態様を示す斜視図である。図1(C)は、直方体のコンクリート硬化体12の天面に板状の断熱材14を載せて、天面のみを断熱材14で被覆した態様を示す斜視図である。
本実施形態によれば、既述の高温養生のいずれの態様においても、必要な温度勾配の緩和が達成される。
本実施形態では、コンクリート硬化体に、高温の水蒸又は熱風が直接触れない手段を設けて高温養生を行う。
コンクリート硬化体に、高温の水蒸気又は熱風が直接触れない手段としては、例えば、ヒーターからの輻射熱、温風、蒸気養生における高温の水蒸気の少なくともいずれかが、コンクリート硬化体の表面に直接触れない手段であれば特に制限されない。
コンクリート硬化体表面を、シリコーン樹脂シート、炭素繊維シート、耐熱フェルト、ガラスクロスなどのシートにて被覆することで、高温の水蒸気、ヒーターからの輻射熱などが、コンクリート硬化体の表面に直接触れることが抑制される。このため、コンクリート硬化体における表面の急激な温度上昇が抑制され、コンクリート硬化体の表面と中心部との温度勾配が緩和される。
図2は、本実施形態の一例として、コンクリート硬化体12を、シリコーン樹脂シート16にて被覆した状態の斜視図を示す。図2に示す態様では、シリコーン樹脂シートとして、幅1000mm×長さ2000mm×厚さ1mmのシートを使用している。シリコーン樹脂シートのサイズは、コンクリート硬化体のサイズに応じて適宜選択される。
シリコーン樹脂シートの厚みは、耐熱性、耐久性及び柔軟性(形状追従性)等の観点から、0.5mm〜3mmであることが好ましい。
被覆シートとしては、市販の樹脂シート等を使用してもよく、市販品としては、例えば、シリコンシートは、(株)第一から購入することができる。
衝立を構成する材料は、耐熱性があり、水蒸気を遮断しうる材料であれば、特に制限はない。衝立としては、例えば、耐久性の観点から金属板、石膏ボード、石板、さらに、既述の断熱材として挙げたケイ酸カルシウム板、軽量気泡コンクリート板、木毛セメント板等も衝立の材料として用い得る。
図3(A)は、コンクリート硬化体12の周辺部を、金属製の衝立18で囲んだ状態を示す斜視図であり、図3(B)は、オートクレーブ(図示せず)内におけるコンクリート硬化体12が、衝立18で囲まれた状態を示す概略断面図である。図3(B)には、オートクレーブ内に水蒸気を供給する水蒸気供給口(蒸気パイプ)20の断面が記載されている。図3(B)に記載の如く、蒸気パイプ20から噴出する高温の水蒸気は、衝立18が存在することで、コンクリート硬化体の表面に直接触れることが防止される。
なお、図3に示す実施形態では、コンクリート硬化体12は、パネル22上に配置され、パネル22上には、パネル22とコンクリート硬化体12との間に空間を設けるため、スペーサ24が備えられている。パネル22とコンクリート硬化体12との間に空間を設けることで、水蒸気がコンクリート硬化体12の底面にも回り込み易くなり、水蒸気によるコンクリート硬化体12の加熱がより均一に行われる。
図3に示す衝立の態様は一例であり、例えば、衝立は、筺体の形状として、コンクリート硬化体の周辺部と底面に設けられる形状であってもよく、コンクリート硬化体の周辺の少なくとも一部、具体的には、例えば、水蒸気が供給される水蒸気供給口側のみに設けられていてもよい。
特に、コンクリート部材を、建築物の構造部材として使用する場合には、柱、梁などに使用するため、厚みが大きいことが必要とされるために、そのような厚みの大きいコンクリート部材の製造に適用して本開示の製造方法の効果が著しいといえる。
〔コンクリート組成物の配合〕
セメント:Lセメント(商品名:宇部三菱社製、密度3.24g/cm3)
(低熱ポルトランドセメント) :1133kg/m3
シリカフューム:エルケム940U(商品名:エルケム社製、平均粒径0.1μm、
二酸化ケイ素含有量:95.4質量%、BET比表面積:21.2m2/g)
:200kg/m3
水:水道水 :160kg/m3
細骨材:三河珪砂(粒度D50 212μm、
密度2.6g/cm3) :384kg/m3
粗骨材:砕石1505(最大寸法15mm、
密度2.61g/cm3) :605kg/m3
混和剤:SSP−104(商品名:竹本油脂社製) :85kg/m3
(水/結合材比:12%)
(スラリーの調整)
前記配合のコンクリート組成物について、水、セメント、骨材、及びシリカフュームを上記〔コンクリート組成物の配合〕に記載の量で、縦型ミキサ(エスケーミキサー社製 SK−81ミキサ、容量30L)及びオムニミキサ(チヨサマシナリー社製 OM-10E 容量10L)を用いて以下の条件で練り混ぜた。
(1)縦型ミキサにて、空練を30秒間行い、水を投入し、3分間低速(速度:110rpm:回転数/分)で撹拌した後、かき落してさらに5分間中速(速度:215rpm)で撹拌した。
混合物をオムニミキサへ投入し、オムニミキサにて3分間練混ぜ(速度:300rpm)て、スラリーを調製した。
得られたスラリーを、実施例1では、直径350mm高さ1000mmの円筒形型枠に投入し、棒を貫入して上下させることで脱泡を行った。
同様に、実施例2では、高さ500mm×幅500mm×長さ2000mmの矩形の型枠に、実施例3では、高さ1000mm×幅1000mm×長さ3000mmの矩形の型枠に、それぞれ投入し、型枠に振動を与えて脱泡を行った。
これを5日〜7日放置して自然硬化させ、硬化し、脱型強度に至ったことを確認した後、型枠から取り出し、コンクリート成形体を得た。
(コンクリート硬化体の断熱材による被覆)
実施例1では、厚さ50mmの軽量気泡コンクリートパネル(表2には、ALCと記載した)により作製した、内径350mmの円筒形の被覆材の空間に脱型後のコンクリート硬化体を挿入した。
実施例2では、厚さ50mmの軽量気泡コンクリートパネルにより作製した、内寸幅500mm×長さ500mm×高さ2000mmの角柱形の被覆材の空間に脱型後のコンクリート硬化体を挿入した。
実施例3では、厚さ50mmの軽量気泡コンクリートパネルにより作製した、内寸幅1000mm×長さ1000mm×高さ3000mmの角柱形の被覆材の空間に脱型後のコンクリート硬化体を挿入した。
比較例1〜3では、実施例1〜3で得たコンクリート硬化体を、断熱材で被覆することなく、実施例1〜3と同様の条件にて高温養生を行った。
得られたコンクリート硬化体を、オートクレーブ内に配置し、昇温速度10℃/hrで、最高温度90℃になるまで加熱し、72時間、高圧水蒸気加熱養生を行った。その後、降温速度10℃/hrで常温(25℃)まで冷却してコンクリート部材を得た。
前記蒸気養生を終了したコンクリート部材について、温度応力解析では、蒸気養生のプログラム温度におけるコンクリート部材内部の温度履歴及びひび割れ指数を求めた。
解析手法は、三次元有限要素法(FEM)により、解析ソフトは、ASTEA MACS Ver.9.1.2((株)計算力学研究センター)を用いた。
一般的な配筋の構造物における標準的なひび割れ発生確率と安全係数γcr、及び本開示における評価ランクを下記表1に示す。また、各実施例、及び比較例の製造方法により得られたコンクリート部材を以下に記載の解析方法により解析した結果を下記表2に示す。
Icr(t)≧γcr
ここに、Icr(t):ひび割れ指数
Icr(t)=ftk(t)/σt(t)
ftk(t):材齢t日におけるコンクリート硬化体の引張強度
σt(t):材齢t日におけるコンクリート最大主引張応力度
γcr:ひび割れ発生確率に関する安全係数
表1の結果より、実施例1〜3の製造方法により得られたコンクリート部材は、いずれも構造材としての使用に耐えるひび割れ指数を実現している。
他方、比較例1〜3の製造方法により得られたコンクリート部材は、ひび割れ指数が低く、構造材として充分なレベルには達していなかった。
既述の高温養生における実施例1及び比較例1の方法で用いたコンクリート硬化体の表面温度、及び内部温度の測定結果を、図4のグラフに示す。
図4に明らかなように、養生温度の上昇に対し、実施例1の製造方法におけるコンクリート硬化体では、表面温度の上昇が比較例1に対し緩やかであり、かつ、表面温度と中心温度との差異がより小さく、温度勾配が緩和されていることがわかる。
このことから、高温養生におけるコンクリート硬化体の温度勾配が緩和された結果が、ひび割れ指数の向上に影響を与えていると推定される。
14 断熱材
16 シリコーン樹脂シート
18 衝立
20 水蒸気供給口(蒸気パイプ)
22 パネル
24 スペーサ
Claims (3)
- コンクリート組成物を型枠に投入し、脱型可能な強度まで硬化させ、脱型してコンクリート硬化体を得る工程と、
得られたコンクリート硬化体の表面の少なくとも一部を、温度勾配を緩和する層により被覆し、高温養生して、プレキャストコンクリート部材を得る工程と、
を有するプレキャストコンクリート部材の製造方法。 - 前記温度勾配を緩和する層により被覆し、高温養生して、プレキャストコンクリート部材を得る工程が、前記コンクリート硬化体の少なくとも一部を、断熱材で被覆する工程を含む請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法。
- 前記温度勾配を緩和する層により被覆し、高温養生して、プレキャストコンクリート部材を得る工程が、前記コンクリート硬化体に、高温の水蒸気又は熱風が直接触れない手段を設けて、高温養生する工程を含む請求項1に記載のプレキャストコンクリート部材の製造方法。
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