[0047] 本明細書には、本発明の例示的な実施形態及び応用が記載される。しかし、本発明は、これらの例示的な実施形態及び応用にも、本明細書でそれらが作動する方法又はそれらが記載される方法にも限定されない。さらに、図面は簡略化した図又は部分的な図を示す場合があり、図中の要素の寸法は強調などによって比率がずれている場合がある。さらに、本明細書で「〜上にある」、「〜と結合している」、「〜と連結されている」、「〜と接続されている」という用語又はこれと類似した語を使用する場合、ある要素が、直接別の要素上にある、別の要素と直接結合している、別の要素と直接連結されている、又は別の要素と直接接続されているか、その要素と別の要素との間に1つ又は複数の介在する要素が存在するかに関係なく、その要素(例えば、材料、層、基板など)が、別の要素「上にある」か、別の要素「と結合している」か、別の要素「と連結されている」か、又は別の要素「と接続されている」ことになり得る。このほか、文脈上別の意味を表す場合を除き、方向(例えば、上(above)、下(below)、上(top)、下(bottom)、側方(side)、上(up)、下(down)、下(under)、上(over)、上(upper)、下(lower)、水平、垂直、「x」、「y」、「z」など)が記載される場合、それは相対的なものであり、単に例を挙げるほか、説明及び考察を容易にするために記載されるのであって、限定するためのものではない。さらに、要素のリスト(例えば、要素a、b、c)に言及する場合、それは、列記される要素のみのうちのいずれか1つのもの、列記される要素の全部に満たないものの任意の組合せ及び/又は列記される要素全部の組合せを包含するものとする。本明細書の節の分割は、単に概観を容易にするためのものであって、考察される要素のいかなる組み合わせも限定するものではない。
[0048] 本明細書で使用される「実質的に」は、意図する目的に十分に効果があることを意味する。したがって、「実質的に」という用語は、当業者によって予想されると思われるが全体的な性能にはほとんど影響を及ぼさない絶対的又は完全な状態、寸法、測定値、結果などからのごくわずかなずれを許容するものである。数値もしくはパラメータ又は数値で表すことが可能な特徴に関して使用する場合、「実質的に」は10%以内を意味する。
[0049] 「もの(ones)」という用語は2つ以上を意味する。
[0050] 本明細書で使用される「複数」という用語は、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上であり得る。
[0051] 本明細書で使用される「配置される」という用語は、「位置する」という意味を包含する。
[0052] 本明細書で使用される「マイクロ流体装置」とは、流体を保持するよう設計された1つ又は複数の別個のマイクロ流体回路を含み、各マイクロ流体回路が、相互に流体連結された(特に限定されないが)領域(1つ又は複数)、流路(1つ又は複数)、チャネル(1つ又は複数)、チャンバ(1つ又は複数)及び/又は囲い(1つ又は複数)を含めた回路要素と、流体(及び任意選択で、流体に浮遊している微小物体)がマイクロ流体装置に流入し、かつ/又はマイクロ流体装置から流出することができるよう設計された少なくとも2つの出入口とからなる、装置のことである。マイクロ流体装置のマイクロ流体回路は通常、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルと少なくとも1つのチャンバとを含み、約1mL未満、例えば約750μL未満、500μL未満、250μL未満、200μL未満、150μL未満、100μL未満、75μL未満、50μL未満、25μL未満、20μL未満、15μL未満、10μL未満、9μL未満、8μL未満、7μL未満、6μL未満、5μL未満、4μL未満、3μL未満又は2μL未満の体積の流体を保持する。ある特定の実施形態では、マイクロ流体回路は、約1〜2μL、1〜3μL、1〜4μL、1〜5μL、2〜5μL、2〜8μL、2〜10μL、2〜12μL、2〜15μL、2〜20μL、5〜20μL、5〜30μL、5〜40μL、5〜50μL、10〜50μL、10〜75μL、10〜100μL、20〜100μL、20〜150μL、20〜200μL、50〜200μL、50〜250μL又は50〜300μLを保持する。
[0053] 本明細書で使用される「ナノ流体装置」とは、約1μL未満、例えば約750、500、250、200、150、100、75、50、25、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1nL未満又はそれ以下の体積の流体を保持するよう設計された少なくとも1つの回路要素を含むマイクロ流体回路を有する、一種のマイクロ流体装置のことである。ナノ流体装置は通常、複数の回路要素(例えば、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、75、100、150、200、250、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、6000、7000、8000、9000、10,000又はそれ以上の回路要素)を含む。ある特定の実施形態では、少なくとも1つの回路要素のうち1つ又は複数(例えば、全部)のものが、約100pL〜1nL、100pL〜2nL、100pL〜5nL、250pL〜2nL、250pL〜5nL、250pL〜10nL、500pL〜5nL、500pL〜10nL、500pL〜15nL、750pL〜10nL、750pL〜15nL、750pL〜20nL、1〜10nL、1〜15nL、1〜20nL、1〜25nL又は1〜50nLの体積の流体を保持するよう設計されている。他の実施形態では、少なくとも1つの回路要素のうち1つ又は複数(例えば、全部)のものが、約100〜200nL、100〜300nL、100〜400nL、100〜500nL、200〜300nL、200〜400nL、200〜500nL、200〜600nL、200〜700nL、250〜400nL、250〜500nL、250〜600nL又は250〜750nLの体積の流体を保持するよう設計されている。
[0054] 本明細書で使用される「マイクロ流体チャネル」又は「フローチャネル」は、マイクロ流体装置の流動領域であって、長さが水平寸法及び垂直寸法の両方よりもはるかに長い流動領域を指す。例えば、フローチャネルは、垂直寸法又は垂直寸法のいずれかの少なくとも5倍の長さ、例えば少なくとも10倍の長さ、少なくとも25倍の長さ、少なくとも100倍の長さ、少なくとも200倍の長さ、少なくとも500倍の長さ、少なくとも1,000倍の長さ、少なくとも5,000倍の長さ又はそれ以上であり得る。いくつかの実施形態では、フローチャネルの長さは、間の任意の範囲を含めた約50,000ミクロン〜約500,000ミクロンの範囲内にある。いくつかの実施形態では、水平寸法は約100ミクロン〜約1000ミクロン(例えば、約150〜約500ミクロン)の範囲内にあり、垂直寸法は約25ミクロン〜約200ミクロン、例えば約40〜約150ミクロンの範囲内にある。フローチャネルは、マイクロ流体装置内で様々な空間的構造をとり得るものであり、したがって、完全に直線状の要素に限定されないことが留意される。例えば、フローチャネルは、以下の構造:曲線構造、曲げ構造、らせん構造、傾斜構造、下降傾斜構造、フォーク型構造(例えば、複数の異なる流路)及びその任意の組合せのうちのいずれかを有する1つ又は複数の区画を含み得る。さらに、フローチャネルは、その通路に沿って断面積が異なっており、フローチャネル内に所望の流体流動が生じるよう拡張及び狭窄しているものであり得る。
[0055] 本明細書で使用される「閉塞」という用語は一般に、目的とする微小物体がマイクロ流体装置内の2つの異なる領域又は回路要素の間を移動するのを(完全にではなく)部分的に妨げるのに十分な大きさの隆起又はそれに似た構造を指す。2つの異なる領域/回路要素は、例えば、マイクロ流体隔離囲いとマイクロ流体チャネル又はマイクロ流体隔離囲いの接続領域と隔離領域であり得る。
[0056] 本明細書で使用される「狭窄部」という用語は一般に、マイクロ流体装置の回路要素(又は2回路要素間の接合部)の幅が狭くなっている部分を指す。狭窄部は、例えば、マイクロ流体隔離囲いとマイクロ流体チャネルとの間の接合部又はマイクロ流体隔離囲の隔離領域と接続領域との間の接合部に位置し得る。
[0057] 本明細書で使用される「透明」という用語は、可視光が通過する際にそれを実質的に変化させずに通過させる材料を指す。
[0058] 本明細書で使用される「微小物体」という用語は一般に、本発明に従って分離及び収集され得る任意の微視的物体を指す。微小物体の非限定的な例としては、無生物微小物体、例えば微粒子;マイクロビーズ(例えば、ポリスチレンビーズ、Luminex(商標)ビーズなど);磁気ビーズ;マイクロロッド;マイクロワイヤ;量子ドットなど;生物学的微小物体、例えば細胞(例えば、胚、卵母細胞、卵細胞、精子細胞、組織から分離した細胞、真核細胞、原生生物細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、ヒト細胞、免疫細胞、ハイブリドーマ、培養細胞、細胞系由来の細胞、癌細胞、感染細胞、トランスフェクト及び/又は形質転換した細胞、レポーター細胞、原核細胞など);生体小器官;小胞又は複合体;合成小胞;リポソーム(例えば、合成リポソーム又は膜調製物に由来するリポソーム);脂質ナノラフト(Ritchieら(2009)「Reconstitusion of Membrane Proteins in Phospholipid Bilayer Nanodiscs」,Methods Enzymol.,464:211−231に記載されているもの)など;あるいは無生物微小物体と生物学的微小物体の組合せ(例えば、細胞と結合させたマイクロビーズ、リポソームでコートしたマイクロビーズ、リポソームでコートした磁気ビーズなど)が挙げられる。ビーズはさらに、共有結合又は非共有結合した他の部分/分子、例えば、アッセイに使用することが可能な蛍光標識、タンパク質、小分子シグナル伝達部分、抗原又は化学的/生物学的種などを有し得る。
[0059] 本明細書で使用される「細胞(1つ又は複数)の維持」という用語は、流体状成分及びガス状成分の両方と、任意選択で表面とを含み、細胞の生存及び/又は拡大を維持するのに必要な条件をもたらす環境を与えることを指す。
[0060] 流体培地の「成分」とは、培地中に存在する、溶媒分子、イオン、小分子、抗生物質、ヌクレオチド及びヌクレオシド、核酸、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖、炭水化物、脂質、脂肪酸、コレステロール、代謝産物などを含めた任意の化学分子又は生化学分子のことである。
[0061] 本明細書で流体培地に関して使用される「拡散する」又は「拡散」は、流体培地の成分が濃度勾配に従って熱運動することを指す。
[0062] 「培地流」という語句は、主に拡散以外の任意の機序による流体培地のバルク移動を意味する。例えば、培地流は、流体培地がある地点から別の地点まで2地点間の圧力の差によって移動することを含み得る。このような流れは、液体の持続的な流れ、パルス状の流れ、周期的な流れ、ランダムな流れ、間欠的な流れもしくは往復の流れ又はその任意の組合せを含み得る。ある流体培地が別の流体培地に流入すると、培地の乱流及び混合が起こり得る。
[0063] 「実質的に流れがない」という語句は、経時的に平均値を求めた流体培地の流速が、物質(例えば、目的の分析物)の諸成分の流体培地内への拡散速度に満たないことを指す。このような物質の成分の拡散速度は、例えば、温度、諸成分の大きさ及び諸成分と流体培地との間の相互作用の強さに左右され得る。
[0064] 本明細書でマイクロ流体装置内の異なる領域に関して使用される「流体連結された」という語句は、異なる領域が実質的に流体培地などの流体で満たされているとき、各領域の流体が単一の流体を形成するよう連結されていることを意味する。これは、異なる領域内の流体(又は流体培地)の組成が必ず一致するという意味ではない。むしろ、マイクロ流体装置の流体連結された異なる領域内の流体は、溶質がそれぞれの濃度勾配に従って移動し、かつ/又は流体が装置の中を流れるため組成が流動的であり、組成が異なるものとなり得る(例えば、タンパク質、炭水化物、イオンをはじめとする分子などの溶質の濃度が異なり得る)。
[0065] マイクロ流体(又はナノ流体)装置は、「通過」領域と「非通過」領域とを含み得る。本明細書で使用される「通過」領域は、マイクロ流体回路の1つ又は複数の相互に流体連結された回路要素からなり、流体がマイクロ流体回路の中を流れる際に各回路要素に培地が流れる。通過領域の回路要素は、例えば、領域、チャネル及びチャンバの全部もしくは一部分を含み得る。本明細書で使用される「非通過」領域は、マイクロ流体回路の1つ又は複数の相互に流体連結された回路要素からなり、流体がマイクロ流体回路の中を流れる際に各回路要素には実質的に流体が流れない。非通過領域は通過領域と流体連結されていてよいが、ただし、流体連結は、通過領域と非通過領域との間で拡散は可能であるが、培地の流れは実質的に可能ではない構造を有する。したがって、マイクロ流体装置は、実質的に通過領域内の培地の流れから非通過領域を分離するが、実質的に通過領域と非通過領域との間の拡散性の流体連絡は可能な構造を有し得る。例えば、マイクロ流体装置のフローチャネルは通過領域の一例であり、マイクロ流体装置の隔離領域(のちにさらに詳細に説明する)は非通過領域の一例である。
[0066] 本明細書で使用される「流路」は、培地流の経路を定め、培地流に曝される1つ又は複数の流体連絡された回路要素(例えば、チャネル(1つ又は複数)、領域(1つ又は複数)、チャンバ(1つ又は複数)など)を指す。したがって、流路はマイクロ流体装置の通過領域の一例である。ほかの回路要素(例えば、非通過領域)が、流路の培地流に曝されずに流路を含む回路要素と流体連絡されていてよい。
[0067] 本明細書で使用される場合、μmはマイクロメートルを意味し、μm3は立方マイクロメートルを意味し、pLはピコリットルを意味し、nLはナノリットルを意味し、μL(又はuL)はマイクロリットルを意味する。
[0068] 本明細書で使用される「胚」は、受精卵から生じ、着床前の任意の発生段階にあるものである。したがって、胚という用語は、接合子、桑実胚、胞胚などを包含する。
[0069] 本発明の諸実施形態は、胚、精子又は卵細胞などの生物学的微小物体の状態のモニタリングを可能にするものであり、生物学的微小物体はマイクロ流体(又はナノ流体)装置内に位置する。モニタリングは、光学的分析、化学的分析及び/又は電気的分析を含み得る。モニタリングはさらに生物学的微小物体の調整処理を含んでよく、この調整処理は生物学的微小物体の光学的分析、化学的分析及び/又は電気的分析の前及び/又は後に実施してよい。生物学的微小物体の状態は、ほかの対応する生物学的微小物体と比較して判定することができる。あるいは、所定の特徴と比較して生物学的微小物体の状態を判定してもよい。このような所定の特徴は、健康状態及び生存能と相関するものであり得る。
[0070] いくつかの実施形態では、生物学的微小物体の状態をモニタする前に、生物学的微小物体をマイクロ流体装置内又は装置内の隔離囲いなどの特定の領域内に負荷する。マイクロ流体装置は、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルと1つ又は複数(例えば、複数)の隔離囲いとを含む第一の領域を有し、ここでは、囲いがチャネルに開口している。各囲いは隔離領域と接続領域とを有するよう設計されていてよく、ここでは、隔離領域は、拡散によってのみ隔離領域内の流体培地の成分と、チャネル内の流体培地の成分とを交換する。マイクロ流体装置の第一の領域は、卵母細胞、卵細胞又は胚などの生物学的微小物体が各隔離囲い内に1個ずつ維持され得る場所となり得る。いくつかの実施形態では、精子も隔離囲い内に保管され得るが、隔離囲い内にグループとして維持されるか、隔離囲い内に個別に維持され得る。
[0071] いくつかの実施形態では、マイクロ流体装置は第二の領域をさらに含み得る。第二の領域は、選択領域であり得、第一の領域の上流に位置し得る。選択領域は、第一の領域のチャネル(存在する場合)と連結され得る少なくとも1つのチャネルを含み得る。任意選択で、選択領域は隔離囲いを含まないものであり得る(例えば、選択領域は、チャネルからなるもの又はチャネルから実質的になるものであり得る)。選択領域内のチャネルの長さは第一の領域のチャネルの長さと同じであり得るか、選択領域内のチャネルの長さは、第一の領域内のチャネルの長さの1倍、2倍、3倍、5倍、7倍、9倍又は25であり得る。選択領域は、入口と隔離領域との間に配置され得る。
[0072] 選択領域を用いて、取り込まれた生物学的微小物体のうち隔離領域内の選択された隔離囲い内に配置するもの又は選択領域そのものの中で検査するものを選択し得る。選択領域内の延長チャネルを用いて、マイクロ流体装置内に導入された精子の遊泳領域を設け得る。遊泳領域(延長チャネル)は、最も運動性の高い(適応性のある)精子を選択し得る。最も速い精子は、遅く適応性のない精子が卵細胞に到達する前に卵細胞の入った隔離囲いに到達する(参照により全体が本明細書に組み込まれるGarciaら,米国特許第9,079,189号を参照されたい)。
[0073] 生物学的微小物体又は微小物体、例えば、特に限定されないがビーズなどの負荷には、流体流動、重力、誘電泳動(DEP)力、エレクトロウェッティング、磁力又はその任意の組合せを用いることができる。DEP力は、光電子ピンセット(OET)構造などによって光学的に、かつ/又は時間的/空間的パターンで電極/電極領域を活性化させることなどによって電気的に発生させることができる。同じように、エレクトロウェッティング力をオプトエレクトロウェッティング(OEW)構造などによって光学的に、かつ/又は電極/電極領域を時間的空間的パターンで活性化させることなどによって電気的に生じさせ得る。
[0074] いくつかの実施形態では、マイクロ流体装置内で生物学的微小物体が形成された(例えば、マイクロ流体装置内での卵細胞の受精による胚形成)後に、その状態をモニタする。このような実施形態では、受精前に卵細胞及び/又は精子をモニタし、胚形成後に生じた胚をモニタすることができる。
[0075] モニタリング。いくつかの実施形態では、生物学的微小物体のモニタリングは、生物学的微小物体がマイクロ流体装置内にある間にその形態及び/又は運動を検出することを含む。このような検出は、顕微鏡による観察あるいは生物学的微小物体を1回もしくは複数回(例えば、定期的に)又は継続的に(例えば、ビデオで録画する)撮像することを含み得る。胚では、このような観察又は撮像を用いて、大きさ、形状及び細胞分裂の時期を判定することができる。細胞分裂の時期は胚生存能の指標として用いることができる。卵細胞では、このような観察又は撮像を用いて、大きさ及び形状を評価することができる。精子では、このような観察又は撮像を用いて、大きさ、形状、運動能及び/又は走化性反応を評価することができる。卵細胞及び精子の両方には、隔離囲い内又はその上流の選択領域内のチャネル内で形態及び/又は運動をモニタすることによって可能な評価(例えば、卵細胞又は精子の状態の確認)により、調整処理(刺激をはじめとする増強処理を含み得る)を実施して卵細胞又は精子の生存能及び/又は活性を増大させる判断が下され得る。モニタリング及び/又は評価は、受精処置過程の1つ、2つ、3つ、4つ又はそれ以上の時点で実施し、受精後の1つ、2つ、3つ、4つ又はそれ以上の時点で継続し得る。卵細胞の状態は、隔離囲いの隔離領域内に卵細胞を配置する前に(例えば、マイクロ流体チャネル内で)確認しても、あるいは卵細胞が既に隔離囲いの隔離領域内に配置されているときに確認してもよい。
[0076] 形態学的検査。本明細書に記載されるマイクロ流体装置及び隔離囲いの中での可視化を容易であれば、精子及び/又は胚の形態学的評価及び順位付けを実施する機会が増える。目視検査は、顕微鏡を用いる目視検査、マイクロ流体装置を含む機器の光学系による撮像又はビデオ画像の取得を含んでよく、これらは遠隔で映写又はアクセスし得る。1つの非限定的な例では、科学作業グループの合意によって確立された評価を用いて、卵母細胞、卵細胞又は胚の品質の評価及び順位付けを実施し得る。「The Istanbul consensus workshop on embryo assessment:proceedings of an expert meeting」,Human Reproduction,vol.26,No.6.pp1270−1283(内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)には順位付けの基準がいくつか記載されている。細胞質の特徴、前核の特徴、極体の挙動(例えば、第二極体の位置)及び胚の分裂に関して標準比較を実施してもよい。さらに、形態運動的(morphokinetic)変数を用いて生存可能な胚を判定してもよい。いくつかの有用な比較物は、5細胞に分裂するのにかかる時間(約48〜約57時間);3細胞から4細胞に分裂するまでの時間(約0.76時間未満);及び細胞分裂の第二周期の持続時間(2細胞への分裂から3細胞への分裂までの時間、約12時間未満)であり得る(Milachich,BioMed Res.Intl.2014,Article ID 306505)。いくつかの実施形態では、分裂の程度が胚発生の質に逆相関することがあり、そのような分裂を厳密に調べることができることが、本明細書に記載されるマイクロ流体装置での胚培養の利点である。
[0077] 非侵襲的分析。いくつかの実施形態では、生物学的微小物体の状態のモニタリングは、生物学的微小物体の1つ又は複数の分泌物を分析することを含む。分泌物は、タンパク質、核酸、炭水化物、代謝産物、上記のもののいずれかのフラグメント又はその任意の組合せを含み得る。分析は例えば、このような分泌物のプロテオミクス評価及び/又はゲノム評価を含み得る。いくつかの実施形態では、分泌物がマイクロ流体装置内に位置する間に、その一部又は全部を分析することができる。他の実施形態では、分泌物がマイクロ流体装置から排出された後、その一部又は全部を分析することができる。例えば、隔離囲い内の流体のアリコートを採取し、その中に存在する分泌物を分析することができる。アリコートをマイクロ流体装置内で、又はそこから排出された後で、適切な試薬(例えば、アリコート中の分泌物と反応して検出可能なシグナルを発生する試薬)と組み合わせることができる。上記のものに代えて、又はこれに加えて、隔離囲い内の生物学的微小物体(1つ又は複数)の分泌物を1つ又は複数の捕捉ビーズで捕捉し、マイクロ流体装置内で、又はそこから排出された後、その捕捉ビーズに結合した分泌物を分析することができる。いくつかの実施形態では、分泌物の分析を経時的に繰り返し、隔離囲い内の生物学的微小物体の時間分解分泌プロファイルを作成することができる。
[0078] いくつかの実施形態では、分泌分析(例えば、単一時点の分泌プロファイル又は時間分解分泌プロファイル)及び/又はその他の情報(例えば、単一時点又は時間分解の形態学的データ及び/又は運動能に関するデータ)を用いて、さらに処理を実施する生物学的微小物体を選択することができる。例えば、分泌分析及び/又はその他の情報を用いて、受精させる卵細胞及び/又は精子を選択したり、着床させる胚を選択したりすることができる。米国特許出願公開第2015/0151298号(2014年10月22日に出願された米国特許出願第14/520,568号)及び米国特許出願公開第2015/0165436号(2014年10月22日に出願された米国特許出願第14/521,447号)(全体が参照により本明細書に組み込まれる)には、マイクロ流体装置、具体的にはマイクロ流体装置100、200、240、290のいずれかで培養した細胞の分泌物を分析する例示的な方法が記載されている。
[0079] 本発明のいくつかの実施形態の利点としては、胚、精子、卵細胞又は卵母細胞などの生物学的微小物体の生存能を維持したままそれを限られた空間内に置き、その形態及び運動能の検出及び/又は追跡を可能にし、精確にアッセイするのに十分な濃度の分泌物を生じさせることが可能であることが挙げられる。マイクロ流体装置の隔離囲い内で卵細胞、胚又は精子が占める限られた空間の大きさは、ヒトの卵細胞又は胚の大きさの約5〜約50倍の範囲内(例えば、約2nL〜約10nL、約2nL〜約20nL、約5nL〜約15nL、約5nL〜約20nL、約5〜約25nL、約10nL〜約20nL、約10nL〜約30nL、約10〜約40nL又は約10nL〜約50nL)であり得る。その他の利点としては、ビーズを使用するか少量の培地を採取して分泌の時間応答を測定し;生物学的微小物体の局所環境を乱さずに培地のアリコート及び/又はビーズを移し;分泌又は放出された物質(例えば、タンパク質、核酸、炭水化物、代謝産物及び/又はそのフラグメント)を分析して生物学的微小物体の状態及び品質に関する情報を収集し、それにより好ましい(例えば、健常である、生存可能であるなど)生物学的微小物体の選択が可能になることが挙げられる。本明細書に記載されるマイクロ流体装置を用いて複数個の生物学的微小物体のうち1個のみを選択することが可能であるのは、マイクロ流体装置内の限定された場所の中に高い選択性で配置し、微小物体の状態と位置とを相関させることができる点で有利である。さらに、生物学的微小物体の取込み及び排出も同様に高度に選択的かつ特異的なものとなり得、本明細書に記載される方法の別の有利な態様となる。モニタリング及び撮像が容易であることは、この方法のさらなる有利な態様となる。さらに、物質を特異的かつ選択的に捕捉するアッセイビーズの取込みが容易であるため、生物学的微小物体を非侵襲的にアッセイが極めて柔軟性に富むものとなる。このほか、互いに十分に分離された極めて少量の培養物を使用することが可能であるため、特定の生物学的微小物体の状態をモニタし、任意選択でその生殖適応度を高めることが極めて特異的かつ選択的に可能である。あるいは、本明細書に記載される方法の上記の特性により、生殖補助の過程を進行させることから除外するべき生物学的微小物体の特定をより早い段階で、かつより正確に実施することが可能となり得る。上記の性能はいずれも、生殖補助(例えば、ヒトの生殖補助)の分野で、さらに範囲を広げれば生殖技術の分野で満たされていない喫緊の必要性に応えるものである。
[0080] 捕捉ビーズ。本明細書に記載される分析に使用するビーズは、ガラス、ポリマー材料及び磁性材料を含めた任意の適切な材料で作られたものであり得る。ビーズはさらに、捕捉物質、例えばオリゴヌクレオチド、タンパク質、抗体、抗原、多糖類又は卵細胞、精子もしくは胚から分泌又は放出される生体分子と結合するよう設計された合成分子などを結合させるための基質となるコーティング又はシェルを基材表面に有し得る。捕捉物質は、可溶性のものをはじめとする細胞外胚物質、例えばタンパク質、核酸、炭水化物、代謝産物及び/又はそのフラグメントなどと結合し得る。検出は、可溶性又は細胞外の胚分泌物又はそのフラグメント全体を検出することを含み得る。
[0081] 分析。卵母細胞、卵細胞、精子又は胚などの生物学的微小物体に関して様々な非侵襲的分析を実施し得る。マイクロ流体装置内でin vitroで実施する分析は、(例えば、母親由来の)DNAの混入による交絡作用を排除し、着床前に実施することが可能であり;目的とする単一胚を取り囲み、又は隣接し、典型的なIVF条件のものよりもはるかに少ない量の培地中で実施することが可能である点で有利である。したがって、胚遊離DNAをはじめとする分泌物質の濃度が大幅に増大することにより、目的とする細胞を取り囲む培地から効果的な被験物質を捕捉する確率が増大し得る。本明細書に記載される分析は、マイクロ流体装置内での分析物の収集を含む。マイクロ流体装置内で分析物を処理して、生物学的微小物体の状態又は評価した状態を得てもよい。あるいは、捕捉した分析物の処理(例えば、捕捉した核酸の増幅及びそれに続く増幅産物の検出)をマイクロ流体装置の外で実施してもよい。
[0082] 細胞遊離DNA。目的とする欠陥に特異的な捕捉オリゴヌクレオチドを有する捕捉ビーズ上に細胞遊離DNAを捕捉することによって、卵母細胞、卵細胞、精子又は卵細胞の単一遺伝子欠陥の検出が可能となり得る。卵細胞もしくは胚を収納している隔離囲い内又は隔離囲いの近位開口部に隣接するマイクロ流体チャネル内で単一の卵細胞又は胚から、捕捉ビーズ上に捕捉できる程度の量のDNAが放出され得る。捕捉ビーズは、全核酸を補足するか、核酸の1つ又は複数の特定のサブセット(例えば、gDNA、mDNA、mRNA、rRNA、miRNAなど)を補足し得るよう設計されたビーズと結合又は会合した捕捉物質を有し得る。捕捉物質は、特に限定されないが電荷親和性又は配列相補性などの相互作用に基づくものであり得る。マイクロリットル量の使用済み細胞培地には、捕捉し、蛍光間隙ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析によりαサラセミアの原因となるαグロビン遺伝子欠失を検出する分析に供するのに十分な細胞遊離DNAが含まれていることが明らかにされている(Wuら,Medicine 2015;94;e669)。標的遺伝子の1つ又は複数の領域に特異的な捕捉オリゴヌクレオチドを設計することによって、ほかの単一遺伝子欠陥(例えば、テイ・サックス病、BRCA又は嚢胞性線維症)も検出し得る。このような結合オリゴヌクレを有する捕捉ビーズは、大量並列シーケンシング(次世代シーケンシング(NGS))、定量的PCR(qPCR)、デジタルPCR(dPCR)、二重分子ビーコンレポータープローブを用いるリアルタイムPCR又はマイクロアレイ検出による検出に十分なDNAを捕捉し得る。ネステッドPCRを用いて、捕捉したDNAを十分に増幅すると同時に高サイクル数によるエラーを減らし得る。PCR反応に標識の異なる対照試料を用いて比較ゲノムハイブリダイゼーションを実施することにより、バイアスのかかったPCRの影響を抑え得る。
[0083] 単一遺伝子欠陥以外にも、卵母細胞、卵細胞又は胚の異数性分析に、効率的に増幅した低投入量の試料を用いるSNPアレイを用い得る。異数性分析にはdPCRを用いてもよく、この場合、目的とする染色体の多型対立遺伝子に対するプライマーにより、異数体の卵母細胞、卵細胞又は胚に正倍数体のものとは異なるバランスのシグナルを付与することができる。多重定量蛍光PCR(QF−PCR)にショートタンデムリピート(STR)マイクロサテライトフラグメント解析を用いて異数性を検出し得る。X染色体及びY染色体の異数性に対する10重QF−PCRパネルが明らかにされている。このパネルは2つの常染色体STRを含むものである(Xie,PLOS one 2014:9:e106307)。最近開発された別のパネルは、13番染色体、18番染色体、21番染色体、X染色体及びY染色体異数性を対象とし、相同遺伝子定量的PCR(HGQ−PCR)を用いて、より時間のかかる核型分析法と同じコピー数に関する情報を得るものである(Long,Mol.Med.Reports:2013:8:1601−1605)。同胞の組織適合性を検査する際に、STR解析を用いてヒト白血球抗原の一致を判定し得る。PCR増幅のエラーが少ない場合、全ゲノム分析(WGA)によって最大量の情報が得られる。着床前又は受精の判定に関する遺伝情報に主眼を置くパネルをマイクロ流体スケールで得られた使用済みの培地又は胚の分泌物の試料に用いれば、極めて重要な情報が得られる。
[0084] 胚の適応度の全般的な測定は、全DNAを捕捉し、次いでmtDNA/gDNA比を検出することによって実施し得る。初期胚では、mtDNAの存在量の増大が分裂速度と強く相関し得る。分裂速度が速いことは、発生及び着床が成功する可能性が低いことを示し得る。
[0085] タンパク質。オートクリン分泌物又はパラクリン分泌物は、ビーズ上での抗体捕捉によってモニタし得る。リポカリン−1のレベルの増大と胚の異数性との間には相関があることがわかっており、このタンパク質に対する抗体を含むビーズは、チップ外での分析に十分なタンパク質(例えば、卵細胞を保持する隔離囲いの中で、又はそこから分散するもの)を捕捉し得る。この方法で多数のタンパク質産物が検出されれば、定量化が促進され得る。ほかにも、(胚セクレトームから)可溶性の腫瘍壊死因子(TNF)、インターロイキン−10(IL−10)、マクロファージ刺激タンパク質α(MSP−α);幹細胞因子(SCF)、ケモカイン(CXC−モチーフ)リガンド13(CXCL13)、TNF関連アポトーシス誘導リガンド受容体3(TRAILR3)、マクロファージ炎症性タンパク質1β(MIP−1β)及びGM−CSFを含めた他のタンパク質と異数性との相関を分析し得る。
[0086] 層化法としての電場下での物理的挙動の非侵襲的分析。いくつかの実施形態では、マイクロ流体装置内の誘電泳動場を用いて品質の高い卵母細胞、卵細胞又は胚を識別し得る。これらの細胞は分極性であるため、誘電泳動場を用いて、特定の細胞が導電率の低い培地(例えば、0.3Mソルビトール)中、場の影響下で移動する速度を分類し得る。いくつかの実施形態では、卵母細胞、卵細胞又は胚などの微小物体は、より完全に発生したものの方が比較的発生の進んでいない微小物よりも相対的に速く移動する。これは、遺伝子発現の差によって転写レベルに差が生じることによると考えられる。本明細書に記載されるマイクロ流体装置では、必要に応じて迅速に培地の交換を遂行することができる。微小物体を囲い内又はチャネル内で検査し、既知の場所に戻し、その位置を検査結果と相関させることができる(Garciaら,米国特許第9,079,189号)。
[0087] フィーダー細胞に近接した培養。本発明の諸実施形態はほかにも、適切な成長及び発生を促進し、生存妊娠の可能性を増大させ、かつ/又は生存妊娠が生じないと思われる胚に負の選択圧をかけやすくするフィーダー細胞に近接して生物学的微小物体(例えば、胚、卵細胞、卵母細胞)を培養することを可能にする。フィーダー細胞は、生物学的微小物体がフィーダー細胞の分泌物をサンプリングできるようにマイクロ流体装置の外部又は内部に位置し得る。例えば、マイクロ流体装置の内部に位置する場合、フィーダー細胞は、培地がマイクロ流体装置に入る前に流れるチャンバ内に位置し得る。マイクロ流体装置の内部に位置する場合、フィーダー細胞は、生物学的微小物体がフィーダー細胞の分泌物をサンプリングするように、共通流路の生物学的微小物体の上流にある領域(例えば、チャンバ)内に位置し得る。あるいは、フィーダー細胞は、生物学的微小物体と同じ隔離囲い内に位置し得る。フィーダー細胞は、例えば、子宮細胞、子宮内膜細胞、無線毛分泌細胞もしくは卵管(例えば、輸卵管又はファロピウス管)由来のPEG細胞の集団、卵巣(卵丘細胞)又はその組合せであり得る。フィーダー細胞としての卵丘細胞は、グルコース及びシステインをそれぞれ含有する標準培地から卵母細胞、卵細胞又は胚が代謝することが不可能な濃度で不可欠なピルビン酸及びシステインの濃度を供給し得る。卵丘細胞と任意選択で組み合わせた子宮細胞(又は子宮内膜細胞、無線毛分泌細胞及び/又はPEG細胞)は、正常な胚発生を維持する栄養素及び/又はシグナルを供給し得る。フィーダー細胞は、例えば将来の母親(例えば、生物学的母親又は代理母)から抽出することができる。あるいは、フィーダー細胞は、in vitro又はex vivoの細胞増殖を維持するのに従来用いられている線維芽細胞をはじめとする種類の細胞であり得る。
[0088] 培地。本発明の実施形態はほかにも、胚の初期発生の間(例えば、着床前培養相)の培地の最適化を可能にする。胚をマイクロ流体装置の囲い内で培養する場合、胚は還流される培地を拡散を介してサンプリングする。したがって、胚のモニタリング及び/又は上記の胚からの分泌物のサンプリングに応じて培地の組成を変化させることができる。培地の組成は、胚の培養期間中2回、3回、4回又はそれ以上変化させ得る。胚の培養期間に使用する培地の組成は、受精期間に使用した培地の組成から変化させてよく、受精期間に使用した培地自体は2回、3回又はそれ以上変化させ得る。胚が単細胞胚から桑実胚又は胞胚に発生するにつれて、培地の組成を1回又はそれ以上変化させ得る。例えば、胚発生過程の時期によってpHが異なるのが好ましいことが明らかにされている。したがって、培地を切り替えれば、観察される胚の特性に応じたpHの最適化が可能になる。
[0089] 受精前の評価から胚の着床前後までのワークフロー全体を通じて単一の培地を使用してもよく、任意選択で、卵母細胞活性化処置にも単一の培地を使用してよい。「汎用」培地の非限定的な例としては、G−TL(商標)(Vitrolife社)及びContinuous Single Culture(登録商標)Complete(CSC−C、Irvine Scientific社)が挙げられる。他の実施形態では、培地を自然に連続になるよう設計し、卵母細胞/卵細胞/胚発生の特定の時間枠に使用し得る。連続培地系の一例には、Vitrolife社のG−GAMETE(商標)、G−1(商標)(核形成前から第2〜3日)、G−2(商標)(第3日から胚盤胞)のシリーズがある。いくつかの実施形態では、OET構造又はOEW構造を有するマイクロ流体装置内で使用するのに導電率が最適になるよう培地を設計し得る。適切な培地は、考え得る成分の中でもとりわけ、グルコース、フルクトース、ピルビン酸塩、デキストラン、タウリン、緩衝剤(特に限定されないが、炭酸水素塩、クエン酸塩、リン酸塩、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)又はモルホリノプロパン−1−スルホン酸(MOPS)を含む)、レチノイン酸、ヒアルロナン及び/又はヒアルロン酸/その塩、アミノ酸(全アミノ酸、ただし、ある特定の用途には、システイン及び非必須アミノ酸、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸、アラニンなど)、抗酸化剤(特に限定されないが、システアミン、ビタミン(特に限定されないが、ビタミンBに関連するナイアシンアミド、チアミン、ピリドキシン及び/又はリボフラビン、ビタミンEに関連するトコフェロール及びトコトリエノールを含む)を含む)、サイトカイン(特に限定されないが、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を含む)、抗菌剤(例えば、ゲンタマイシン、テトラサイクリン)ならびに/あるいはキレート剤(非限定的な一例にエチレンジアミン四酢酸(EDTA)がある)のうちの1つ又は複数のものを含有し得る。
[0090] いくつかの実施形態では、培地はシステインを含むものであり得、この場合、システインは、約1マイクロモル〜約500マイクロモル;約10マイクロモル〜約250マイクロモル;約50マイクロモル〜約150マイクロモルの範囲又はそのいずれかに含まれる任意の値の濃度で存在する。種々の実施形態では、培地はシステアミンを含むものであり得、この場合、システアミンは、約5マイクロモル〜約1000マイクロモル、約50マイクロモル〜約500マイクロモル、約100マイクロモル〜約300マイクロモルの範囲又はそのいずれかに含まれる任意の値の濃度で存在する。
[0091] いくつかの実施形態では、培地は、卵母細胞/卵細胞/胚/精子と同じ種の血清を含有し得る。いくつかの実施形態では、卵母細胞/卵細胞/胚/精子とは異なる種の血清を含有し得る。異なる種は異なる哺乳動物種であり得る。他の実施形態では、培地は無血清のものであり得る。
[0092] 培地中にカチオン塩(特に限定されないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム又は乳酸ナトリウムを含む)が存在してよく、培養期間中に導電率を様々なレベルに制御し得る。特に、誘電泳動力又はオプトエレクトウェッティング(optoelectowetting)を使用しない培養期間中に導電率を増大させ得る。誘電泳動又はエレクトロウェッティングを用いて操作する期間に塩含有量を低下させて低導電率の培地を供給し得る。異なる種類の培地中を容易に流れることができることにより、都合に合わせて導電率を変化させることが可能になり、したがって、生物学的微小物体の低導電率の培地への曝露が短期間に限定される。
[0093] 多数の様々な培地が市販されており、マイクロ流体装置内で使用するのに適したものもある。市販の培地としては、特に限定されないが:G−IVF(商標)及びG−IVF(商標)PLUS(Vitrolife社);G−TL(商標)(Vitrolife社);G−MOPS(商標)(Vitrolife社);G−GAMETE(商標)(Vitrolife社);ヒト卵管液(HTF)、改変HTF及び(Serum Substitute Supplement)SSS(商標)含有完全HTF(Irvine Scentific社);改変Ham F10又はF15基本培地(Irvine Scientific社);Continuous Single Culture(登録商標)Complete(Irvine Scientific社);Multipurpose Handling Medium(登録商標)Complete(Irvine Scientific社);Complete Multiblast(登録商標)培地(Irvine Scientific社);Complete PI(登録商標)培地(Irvine Scientific社);SSS(商標)含有Complete Early Cleavage(登録商標)培地(Irvine Scientific社);(Dextran Serum Supplement)DSS含有Complete Early Cleavage(登録商標)培地(Irvine Scientific社);Quinn’s Advantage(登録商標)(Sage(登録商標)培地);global(登録商標)培地(LifeGlobal(登録商標)Group社);G−1(商標)及びG−2(商標)シリーズ(Vitrolife社);Sequential Fert(商標)(ORIGIO(登録商標)社);Sequential Fert(商標)/Cleav(商標)(ORIGIO(登録商標)社);Sequential Cleav(商標)/Blast(商標)(ORIGIO(登録商標)社);Sequential Blast(商標)(ORIGIO(登録商標)社);Universal IVF(ORIGIO(登録商標)社);BlastGen(商標)(ORIGIO(登録商標)社);ISM1(商標)(ORIGIO(登録商標)社);EmbryoGen(登録商標)(ORIGIO(登録商標)社);BlastAssist(商標)(ORIGIO(登録商標)社);EllioStep 2(Ellios BioMedia社);BMI(Ellios BioMedia社);SMART2(Ellios BioMedia社);GM501(Gynemed社);InVitroCare(登録商標)HTF(InVitroCare社);InVitroCare(登録商標)IVC−ONE(商標)(InVitroCare社);InVitroCare(登録商標)IVC−TWO(商標)(InVitroCare社);InVitroCare(登録商標)IVC−THREE(商標)(InVitroCare社);ならびにSydney IVF卵割/胚盤胞培地(Cook社)が挙げられる。
[0094] 活性化処置の培地。活性化のための培地は、上記の培地のうちの1つを用いるものであり得る。いくつかの実施形態では、培地は、改変Ham培地、G−GAMETE(商標);Multipurpose Handling Medium(登録商標)Complete又はこれと同様のいずれかの培地であり得る。いくつかの実施形態では、培地は、さらに血清が存在するものであり得る。あるいは、培地は無血清のものであり得る。いくつかの実施形態では、培地は無タンパク質、無ヒポキサンチン及び無抗生物質のものである。
[0095] 動的培養条件。いくつかの実施形態では、培養期間の一部又は全体にわたって動的条件を用いて、胚発生を促進することができる穏やかな刺激を加え得る。動的条件は、傾斜、灌流、回転又は振動のうちの1つ又は複数のものを含み得る。
[0096] マイクロ流体装置内の隔離囲いの配置。本発明の諸実施形態はほかにも、例えば子宮細胞又は子宮内膜細胞に近接させて囲いを整列又は配置することのほか、任意選択で、囲いに細胞を付着させ胚をとどまらせることを含み得る。次いで、胚からの分泌物及び胚の形態をモニタして、生存能が最も高い胚を特定することができる。評価に基づき、 胚(例えば、胞胚)を隔離囲いから排出し、マイクロ流体装置から排出して、将来の母親の中に着床させる。このようにして、モニタリングを進めながら好ましい胚の健康状態及び健全性を達成することができる。
[0097] 本発明の諸実施形態はほかにも、精子及び/又は卵細胞(又は卵母細胞)を個別に又はグループとして囲いの中に隔離すること、その分泌物及び形態を測定することならびにそれぞれの分泌物及び/又は形態に基づいて選択した精子と卵細胞を組み合わせて受精卵を形成させることを含み得る。次いで、上記のように、分泌及び/又は形態の適合性によって発生中の胚をモニタすることができる。これを精子、卵及び/又は胚を選択する既知の方法を利用するワークフローとして統合し、妊娠転帰を改善することができる。
[0098] 本発明の諸実施形態はほかにも、ある期間にわたって卵管及び/又は子宮の環境を刺激する微小環境をもたらすことができる。このことは、例えば、子宮細胞、子宮内膜細胞又は輸卵管もしくは卵管由来の細胞;このような細胞型の分泌物;培地のpHの調節;培地中の増殖因子の調節;ならびに/あるいはその他の当該技術分野で公知の条件の導入し環境を制御することによって達成することができる。
[0099] さらに、隔離囲いは、生物学的微小物体(1つ又は複数)から精確な分析が可能な程度の濃度の分泌物が得られるようにする大きさであり得る。したがって、例えば、隔離囲いは少なくとも2×106μm3、3×106μm3、4×106μm3、5×106μm3、6×106μm3、7×106μm3、8×106μm3、9×106μm3、1×107μm3又はそれ以上の容積を含み得る。隔離囲いは、x、y及びzの各寸法が少なくとも隔離囲いが保持するよう設計された微小物体の直径とほぼ同じである、立方体などの形状を有し得る。例えば、ヒト卵細胞は直径が約120ミクロンであり、したがって、ヒト卵細胞を保持するよう設計された隔離囲いのx、y、zの各寸法は少なくとも100ミクロン、110ミクロン、120ミクロン、130ミクロン、140ミクロン、150ミクロン又はそれ以上であり得る。
[0100] いくつかの実施形態では、胚、精子、卵母細胞又は卵細胞などの生物学的微小物体の健康状態及び生存能を高めるようマイクロ流体装置の内部表面(例えば、隔離囲いの内部表面)を調整することができる。例えば、内部表面を天然ポリマー(例えば、ラミニン、フィブロネクチン、マトリゲル又はヒアルロン酸)、合成ポリマー(例えば、PEG又は天然ポリマーセグメントで修飾したPEG)、タンパク質、多糖類、上記のいずれかのものの誘導体又はその組合せなどのポリマーでコートすることができる。上記のものに代えて、又はこれに加えて、上皮細胞又は線維芽細胞などの支持細胞の分泌物で内部表面を調整することができる。このような細胞の例としては、卵丘細胞、子宮内膜細胞、無線毛分泌細胞及び卵管由来のPEG細胞が挙げられる。
[0101] 生物学的微小物体の調整処理。いくつかの実施形態では、卵細胞と1つ又は複数の精子とを接触させる際の受精の成功を促進するため、調整処理を実施する。
[0102] 電気処理。いくつかの実施形態では、1つ、複数又は全部の隔離囲いをさらに、そこに位置する微小物体に電気刺激が加えられるよう設計し得る。電気刺激は、配置された位置でDEP(OET)基板又はエレクトロウェッティング基板を調節することによって加え得る。あるいは、囲いが、フォトリソグラフィーにより作製され得る二次元平面又は三次元電極を有していても、ワイヤー型電極(白金、塩化銀/銀など)を有していてもよい。いくつかの実施形態では、マイクロ流体装置がDEP(OET)構造又はエレクトロウェッティング(OEW)構造を有する底基板と、通常は上部電極とを有するものである場合、下部の基板に電圧を加える。基板は、光が当たるとすぐに低抵抗状態に切り替わる。隔離囲い中の培地は、導電率が照らされる基板のものよりも高い約0.01S/Mとなるよう構成してよく、囲いを満たす培地全体にわたって、加えた場の大部分が低下する。隔離囲い内のチャンバの高さが約30〜約150ミクロンである場合、卵細胞をマイクロポレートするのに必要な電場は、約0.1〜約5.0kV/cmkV/cm、約0.1kV/cm、0.3kV/cm、0.5kV/cm、0.7kV/cm、0.9kV/cm、1.0kV/cm、1.2kV/cm、1.4kV/cm、1.6kV/cm、1.8kV/cm、2.0.2.4kV/cm、2.6kV/cm、2.8kV/cm、3.0kV/cm、3.3kV/cm、3.5kV/cm、3.7kV/cm、4.0kV/cm、4.3kV/cm、4.5kV/cm、4.7kV/cmもしくは約5.0kV/cmの範囲内又はその範囲内の任意の値であり得る。いくつかの実施形態では、電場は約1.4kV/cmであり得る。2電極間にかける必要のある電位は、チャンバの高さによって異なる。電気活性化時に使用する培地は、卵母細胞、卵細胞又は胚の培養に使用する培地によって異なり得る。
[0103] 種々の実施形態で電気刺激を加え得る。一実施形態では、卵細胞を精子に曝露した後に電気刺激を加え得る。例えば、卵細胞が精子の侵入によって活性化されず、このため、胚発生を進行させることができないことがある。精子が、胚発生を促進するのに必要な細胞内カルシウム濃度の上昇を引き起こすことができないことがある。電気インパルスの印加は、受精卵細胞の発生を惹起するのに必要な細胞内カルシウムイオン濃度の上昇を引き起こし得る。いくつかの実施形態では、電気刺激時又は電気刺激後にイオノフォアも存在し得る。電気インパルスが引き起こすマイクロポレーションによってイオノフォア及び/又はカルシウムイオンが通過し、正常に機能する精子による受精が引き起こすカルシウム(Ca+2)過渡電流の代わりになるか、これを引き起こす。
[0104] 他の実施形態では、精子の不在下で電気刺激を加えて卵母細胞の単為発生を惹起し得る。このように人為的に始動させた細胞は、細胞分裂を経ない減数分裂を再開する。これは、イオノマイシン及び/又はカルシウム2+イオンなどのイオノフォアの存在下で実施しても、電気刺激のみで刺激してもよい。これは、電気融合に特異的に設計した培地中で実施し得る。例えば、マイクロ流体装置の基板内にDEP(例えば、OET)構造又はエレクトロウェッティング(例えば、OEW)構造が存在する場合、エレクトロポレーション培地の導電率は約0.01S/Mであるか、約0.001〜1S/Mの範囲内であり得る。ヒト卵母細胞の単為発生を誘導する場合、発生は満期までは進行しない。しかし、単為発生させたヒト胚は、桑実胚期を経て胚盤胞の状態(32〜64細胞、第4〜5日)まで達し得る。この単為発生胚盤胞を用いてヒト胚性幹細胞系を確立し得る。胚盤胞を孵化させ、内部細胞塊(ICM)を分離し、しかるべきフィーダー細胞(例えば、順次実施し得る脾細胞、線維芽細胞)と共培養し得る。共培養後、初代胚性幹細胞のコロニーが確立され得る。hESC細胞を分離し培養し得る。
[0105] 単為発生胚盤胞から胚性幹細胞に変換する段階は、マイクロ流体装置内で実施し得る。他の実施形態では、単為発生胚盤胞をマイクロ流体装置から排出させて、残りの段階を他の機器内で実施し得る。また別の実施形態では、ICMを孵化胚盤胞からチップ外に分離した後、刺激を実施したものと同じマイクロ流体チップ又はこれと同様のマイクロ流体チップ上でICMとフィーダー細胞との共培養を実施し得る。ICMは隔離囲いの隔離領域内に配置してよく、フィーダー細胞は同じ隔離囲い又は隣接する隔離囲いの中で共培養してよい。
[0106] 胚性幹細胞コロニーに変換した後、マイクロ流体装置からhESCを排出させて、さらに拡大、保存又は使用し得る。
[0107] 特に限定されないが他の哺乳動物(例えば、マウス)を含めた他の種の胚細胞系を確立するには、非ヒト卵母細胞からの単為発生胚にこれと同じ段階を用いる。
[0108] 卵母細胞の発生段階のいずれの時期に刺激を加えるかによって、単為発生hESCは実質的にホモ接合型又は実質的にヘテロ接合型になり得、通常は二倍体になり得る。中期Iの段階で減数分裂を阻止して卵母細胞を刺激すると、実質的にヘテロ接合型のhESCが得られる。第二極体排出後に減数分裂を阻止して刺激を加えると、実質的にホモ接合型のhESCが得られる。卵母細胞の発生段階の中期1から第二極体排出前の間に刺激を加えると、ヘテロ接合型とホモ接合型が混在するhESCが得られる。
[0109] いくつかの実施形態では、ヒト未授精卵母細胞の単為発生を用いて多能性幹細胞を作成し得る。いくつかの実施形態では、hESCは、卵母細胞ドナーとHLA(ヒト白血球抗原)が一致したものであり得る。あるいは、電気刺激で単為発生させて誘導したhESCから遺伝子を操作せずに疾患hESC細胞系を確立し、変異を有する二倍体ホモ接合型のhESCを生じさせ得る。
[0110] 化学処理。いくつかの実施形態では、受精段階での成功の確率を高めるため、卵細胞又は卵母細胞を化学物質で処理し得る。化学物質は、小分子物質であっても生体分子物質であってもよい。いくつかの実施形態では、精子に曝露する前、卵細胞又は卵母細胞の培地に化学物質、例えば特に限定されないが、イオノマイシン、カルシマイシン、塩化ストロンチウム及び/又は塩化カルシウムなどを添加し得る。
[0111] いくつかの実施形態では、精子をホスホリパーゼCζに曝露して、精子が正常な胚発生を惹起するのに必要なCa+2過渡電流を引き起こす能力を回復させることにより、受精能のない精子に正常な機能を回復させることが可能であり得る。ほかの隔離囲いの中に存在する卵細胞から分離された隔離囲いの中で精子を上記のように処理してもよく、あるいはチップ外で精子を処理してもよい。精子の運動に関与することが知られている環状アデノシン一リン酸の分解を阻害するホスホジエステラーゼ阻害剤の1つであるペントキシフィリン(pentoxifyline)で処理することにより、精子の運動能を増大させ得る。いくつかの実施形態では、精子に十分な運動能も侵入能もみられない場合、OETによって発生させたDEP力を用いて精子を卵細胞内に侵入させ得る。
[0112] 体細胞への曝露。いくつかの実施形態では、調整処理は体細胞への曝露を含んでよく、このような体細胞としては、特に限定されないが、子宮細胞、子宮内膜細胞、卵丘顆粒膜細胞、介在性PEG細胞及び卵管の無線毛分泌細胞が挙げられ、いずれの細胞も高濃度のカリウム、炭酸水素塩、アルギニン、アラニン及びグルタミン酸塩ならびに/あるいは生理学的に適切な濃度及び発生に適切な濃度のプロスタグランジンを産生し得る。精子を導入する前に卵細胞又は卵母細胞を卵丘顆粒膜細胞に曝露し得る。卵細胞と精子から胚が形成された後の調整処理は、卵丘顆粒膜細胞、子宮細胞、子宮内膜細胞、介在性PEG細胞、無線毛非分泌細胞又はその任意の組合せへの曝露を含み得る。いくつかの実施形態では、卵丘顆粒膜細胞ならびに子宮内膜細胞、介在性PEG細胞及び無線毛非分泌細胞からなる群のうちの1つへの曝露を含み得る調整処理を胚に実施し得る。体細胞への曝露は、直接的なもの(例えば、同じ隔離囲い内)であっても間接的なもの(例えば、隣接又は近接した隔離囲いの中)であってもよく、この場合、体細胞からの分泌物が拡散により、卵細胞、卵母細胞又は胚が収納された隔離囲いの中に移行し得る。
[0113] 活性化のレスキュー。いくつかの実施形態では、最初の受精を卵細胞上で試み、撮像及び/又は検査によるモニタリングで胚発生が進行していないことが明らかになり得る。このような場合、上記の調整処理の一部又は全部を用いて活性化をレスキューし、第二減数分裂を開始させ、前核を形成させ、胚の正常な発生まで進行させる。
[0114] in vitroでの活性化及びin vitroでの成熟。いくつかの実施形態では、調整処理を実施して卵母細胞/卵細胞又は精子を活性化し、続く生物学的変化を起こさせる。例えば、マイクロ流体装置内に導入した卵母細胞又は卵細胞を本明細書に記載される通りにモニタ及び検査し、受精する機会が十分にある程度までは発生していないことが明らかになり得る。
[0115] 上記のように、特に限定されないがホスホリパーゼCζ又はペントキシフィリン(pentoxifyline)などの薬剤で精子を処理して、精子の受精を活性化し得る。
[0116] 調整処理を実施して、卵母細胞又は卵細胞を胚発生能が増強され受精しやすいさらに成熟した状態に進行させ得る。卵母細胞又は卵細胞をさらに成熟した状態(中期I、中期II)まで進行させ得る調整処理のいくつかの非限定的な例としては、include ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、レチノイド(レチノイン酸を含む)、上皮成長因子(EGF)、エストラジオール17β(E2)、卵胞液減数分裂活性化ステロール(4,4−ジメチル−5α−コレステ−8,14,24−トリエン−3β−オール)、脳由来向神経因子、インスリン様成長因子1、メラトニン、ホスホリパーゼCζ及び/又はリゾホスファチジン酸(LPA)が挙げられる。いくつかの実施形態では、調整用化学物質への卵母細胞又は卵細胞の曝露を卵丘顆粒膜細胞の存在下で実施し得る。
[0117] 共培養。いくつかの実施形態では、卵母細胞と子宮細胞、子宮内膜細胞、卵丘顆粒膜細胞、介在性PEG細胞、卵官の無線毛分泌細胞又はその組合せとを共培養することによって、卵母細胞のin vitroでの成熟を実施し得る。
[0118] マイクロ流体装置ならびにそのような装置を稼働及び観察するシステム。マイクロ流体装置100ならびに卵細胞、卵母細胞及び/又は精子の選択及び評価を含めたin vitroでの胚作成に使用することができるシステム150を図1に示す。図中のマイクロ流体装置100の斜視図は、マイクロ流体装置100内部の部分図を示すため、そのカバーを一部切り取った状態で示されている。マイクロ流体装置100は概略的には、流体培地180が流れることができる流路106を含むマイクロ流体回路120を含み、流体培地180は任意選択で、1つ又は複数の微小物体(不掲載)をマイクロ流体回路120に運び込み、かつ/又は同回路の中を運ぶ。図1には単一のマイクロ流体回路120が示されているが、適切なマイクロ流体装置は、このようなマイクロ流体回路を複数(例えば、2つ又は3つ)含み得る。いずれにしても、マイクロ流体装置100をナノ流体装置になるよう設計することができる。図1に示される実施形態では、マイクロ流体回路120は複数のマイクロ流体隔離囲い124、126、128及び130を含み、各囲いは流路106と流体連絡した1つ又は複数の開口部を有する。のちにさらに記載するように、マイクロ流体隔離囲いは、培地180が流路106を流れるときにも微小物体をマイクロ流体装置100などのマイクロ流体装置内に保持するよう最適化された様々な特徴及び構造を含む。ただし、上記の内容に戻る前に、マイクロ流体装置100及びシステム150について簡潔に説明する。
[0119] 図1に概略的に示されるように、マイクロ流体回路120は筺体102によって画定される。筺体102は物理的に様々な構造をとり得るが、図1に示される例では、筺体102は支持構造物104(例えば、土台)と、マイクロ流体回路構造108と、カバー110とを含むものとして図示されている。支持構造物104、マイクロ流体回路構造108及びカバー110は互いに接着していてよい。例えば、マイクロ流体回路構造108は支持構造物104の内表面109上に配置されていてよく、カバー110はマイクロ流体回路構造108の上に配置されていてよい。マイクロ流体回路構造108は、支持構造物104及びカバー110とともにマイクロ流体回路120の諸要素を画定し得る。
[0120] 図1に示されるように、支持構造物104はマイクロ流体回路120の底部にあってよく、カバー110はマイクロ流体回路120の頂部にあってよい。あるいは、支持構造物104及びカバー110はほかの向きに配置されていてよい。例えば、支持構造物104がマイクロ流体回路120の頂部にあってよく、カバー110がマイクロ流体回路120の底部にあってよい。いずれにしても、それぞれが筺体102に入る、又は筺体102を出る通路を含む1つ又は複数の出入口107が存在し得る。通路の例としては、バルブ、ゲート、通過穴などが挙げられる。図のように、出入口107は間隙によって形成される通過穴である。しかし、出入口107は、筺体102のカバー110などの他の構成要素に位置していてもよい。図1には出入口107が1つのみ示されているが、マイクロ流体回路120は出入口107を2つ以上有し得る。例えば、マイクロ流体回路120に入る流体の入口として機能する第一の出入口107が存在してよく、マイクロ流体回路120を出る流体の出口として機能する第二の出入口107が存在してよい。出入口107が入口として機能するか出口として機能するかは、流体が流路106を流れる方向によって決まり得る。
[0121] 支持構造物104は、1つ又は複数の電極(不掲載)と基板又は複数の相互接続された基板とを含み得る。例えば、支持構造物104は、それぞれが電極に電気的に接続された1つ又は複数の半導体基板を含み得る(例えば、半導体基板の全部又は一部が単一の電極に電気的に接続されていてよい)。支持構造物104はさらに、プリント回路基板アセンブリ(「PCBA」)を含み得る。例えば、半導体基板(1つ又は複数)がPCBA上に取り付けられてよい。
[0122] マイクロ流体回路構造108は、マイクロ流体回路120の回路要素を画定し得る。このような回路要素は、マイクロ流体回路120が流体で満たされたときに互いに流体連結され得る空間又は領域、例えばフローチャネル、チャンバ、囲い、トラップなどを含み得る。図1に示されるマイクロ流体回路120では、マイクロ流体回路構造108は、フレーム114とマイクロ流体回路材料116とを含む。フレーム114は、マイクロ流体回路材料116を部分的に又は完全に囲っていてよい。フレーム114は、例えば、実質的にマイクロ流体回路材料116を取り囲む比較的堅固な構造物であり得る。例えば、フレーム114は金属材料を含み得る。
[0123] マイクロ流体回路材料116には、空洞などによる模様があり、マイクロ流体回路120の回路要素及び相互連結を画定し得る。マイクロ流体回路材料116は、ガス透過性であり得る可変ポリマー(例えば、ゴム、プラスチック、エラストマー、シリコーン、ポリジメチルシロキサン(「PDMS」)など)などの軟質材料を含み得る。マイクロ流体回路材料116を構成し得る材料のその他の例としては、成形ガラス、シリコーン(例えば、感光性シリコーン又は「PPS」)などのエッチング可能な材料、フォトレジスト(例えば、SU8)などが挙げられる。いくつかの実施形態では、このような材料、ひいてはマイクロ流体回路材料116は、堅固であり、かつ/又は実質的にガス不透過性であり得る。いずれにしても、マイクロ流体回路材料116は、支持構造物104の上、フレーム114の内側に配置され得る。
[0124] カバー110は、フレーム114及び/又はマイクロ流体回路材料116と一体になった部分であり得る。あるいは、図1に示されるように、カバー110は構造的に異なる要素であり得る。カバー110は、フレーム114及び/又はマイクロ流体回路材料116と同じ材料又は異なる材料を含み得る。支持構造物104も同じく、図のようにフレーム114又はマイクロ流体回路材料116と分離した構造物であっても、フレーム114又はマイクロ流体回路材料116と一体になった部分であってもよい。フレーム114及びマイクロ流体回路材料116も同じく、図1に示されるように別個の構造物であっても、同じ構造物の一体となった部分であってもよい。
[0125] いくつかの実施形態では、カバー110は剛体材料を含み得る。剛体材料は、ガラス又はこれと類似した特性を有する材料であり得る。いくつかの実施形態では、カバー110は変形可能な材料を含み得る。変形可能な材料は、PDMSなどのポリマーであり得る。いくつかの実施形態では、カバー110は、剛体材料及び変形可能な材料の両方を含み得る。例えば、カバー110の1つ又は複数の部分(例えば、隔離囲い124、126、128、130の上に位置する1つ又は複数の部分)は、カバー110の剛体材料と接合する変形可能な材料を含み得る。いくつかの実施形態では、カバー110はさらに、1つ又は複数の電極を含み得る。1つ又は複数の電極は酸化インジウムスズ(ITO)などの導電性酸化物を含んでよく、導電性酸化物はガラス又はこれと同様に絶縁性の材料に塗布されていてよい。あるいは、1つ又は複数の電極は柔軟な電極、例えば、ポリマー(例えば、PDMS)などの変形可能な材料に単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、ナノワイヤ、導電性ナノ粒子の塊又はその組合せを埋め込んだものなどであり得る。マイクロ流体装置に使用することができる柔軟な電極は、例えば米国特許出願公開第2012/0325665号(Chiouら)(その内容が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。いくつかの実施形態では、細胞の付着、生存能及び/又は成長を支えるよう(例えば、マイクロ流体回路120に向かって内向きの表面の一部又は全部を調整することによって)カバー110を改変し得る。改変は、合成又は天然のポリマーを塗布することを含み得る。いくつかの実施形態では、カバー110及び/又は支持構造物104は光を透過させるものであり得る。カバー110はこのほか、ガス透過性の材料(例えば、PDMS又はPPS)を少なくとも1つ含み得る。
[0126] 図1にはほかにも、マイクロ流体装置100などのマイクロ流体装置を稼働及び制御するシステム150が示されている。図のように、システム150は電源192と、撮像装置194と、傾動装置190とを含む。
[0127] 電源192は、マイクロ流体装置100及び/又は傾動装置190に電力を供給し、必要に応じてバイアス電圧又はバイアス電流を加え得る。電源192は、例えば1つ又は複数の交流(AC)及び/又は直流(DC)の電圧源又は電流源を含み得る。撮像装置194は、マイクロ流体回路120内部の画像を捕捉するデジタルカメラなどの装置を含み得る。いくつかの場合には、撮像装置194はさらに、高フレーム率かつ/又は(例えば、微光用途に)高感度の検出器を含む。撮像装置194はこのほか、マイクロ流体回路120内に刺激用の放射線ビーム及び/又は光ビームを当て、マイクロ流体回路120(又はそこに含まれる微小物体)から反射又は放射された放射線ビーム及び/又は光ビームを収集する機構を含み得る。放射される光ビームは、可視スペクトルの含まれるものであってよく、例えば蛍光放射を含み得る。反射される光ビームは、LED又は水銀灯(例えば、高圧水銀灯)もしくはキセノンアーク灯ランプなどの広域スペクトルランプから発生し反射された放射光を含み得る。図3に関して記載するように、撮像装置194はさらに、接眼レンズの有無を問わず顕微鏡(又は光学縦列)を含み得る。
[0128] システム150はさらに、マイクロ流体装置100を1つ又は複数の回転軸の周りに回転させるよう設計された傾動装置190を含む。いくつかの実施形態では、傾動装置190は、マイクロ流体装置100(ひいてはマイクロ流体回路120)を水平方向(すなわち、x軸及びy軸に対して0°)、垂直方向(すなわち、x軸及びy軸に対して90°)又はその間の任意の方向に保持できるように、マイクロ流体回路120を含む筺体102を少なくとも1つの軸の周囲で支え、かつ/又は保持するよう設計されている。軸に対するマイクロ流体装置100(及びマイクロ流体回路120)の方向のことを本明細書ではマイクロ流体装置100(及びマイクロ流体回路120)の「傾き」と呼ぶ。例えば、傾動装置190は、マイクロ流体装置100をx軸に対して0.1°、0.2°、0.3°、0.4°、0.5°、0.6°、0.7°、0.8°、0.9°、1°、2°、3°、4°、5°、10°、15°、20°、25°、30°、35°、40°、45°、50°、55°、60°、65°、70°、75°、80°、90°又はその間の任意の角度に傾けることができる。水平方向(ひいてはx軸及びy軸)とは、重力によって定められる縦軸に対して垂直であることと定義される。傾動装置はこのほか、マイクロ流体装置100(及びマイクロ流体回路120)をx軸及び/又はy軸に対して90°を超える任意の角度に傾けたり、マイクロ流体装置100(及びマイクロ流体回路120)をx軸又はy軸に対して180°傾けて完全に反転させたりすることができる。同様に、いくつかの実施形態では、傾動装置190は、マイクロ流体回路120の流路106をはじめとする一部分によって定められる回転軸の周りにマイクロ流体装置100(及びマイクロ流体回路120)を傾ける。
[0129] いくつかの場合には、マイクロ流体装置100を1つ又は複数の隔離囲いの上方又は下方に位置するように垂直方向に傾ける。ここで使用される「上方」という用語は、流路106が、重力によって定められる縦軸上で1つ又は複数の隔離囲いよりも高い位置にあることを表す(すなわち、流路106の上方にある隔離囲い内の物体は、流路内の物体よりも重力ポテンシャルエネルギーが大きいことになる)。ここで使用される「下方」という用語は、流路106が、重力によって定められる縦軸上で1つ又は複数の隔離囲いよりも低い位置にあることを表す(すなわち、流路106の下方にある隔離囲い内の物体は、流路内の物体よりも重力ポテンシャルエネルギーが小さいことになる)。
[0130] いくつかの場合には、傾動装置190は、マイクロ流体装置100を流路106に平行な軸の周りに傾ける。さらに、流路106が1つ又は複数の隔離囲いの真上又は真下に位置せずにその上方又は下方に位置するように、マイクロ流体装置100を90°未満の角度に傾けることができる。別の場合には、傾動装置190は、マイクロ流体装置100を流路106に垂直な軸の周りに傾ける。また別の場合には、傾動装置190は、マイクロ流体装置100を流路106に平行でも垂直でもない軸の周りに傾ける。
[0131] システム150はさらに、培地供給源178を含み得る。培地供給源178(例えば、容器、貯蔵器など)は、それぞれが異なる流体培地180を保持する複数の区画又は容器を含み得る。したがって、培地供給源178は、図1に示されるように、マイクロ流体装置100の外部にあるか、同装置から切り離されている装置であり得る。あるいは、培地供給源178は、全体又は一部がマイクロ流体装置100の筺体102の内部に位置し得る。例えば、培地供給源178は、マイクロ流体装置100の一部である貯蔵器を含み得る。
[0132] 図1にはほかにも、システム150の一部を構成しマイクロ流体装置100と連動させて使用することができる制御/モニタリング装置152の例の簡略ブロック図が示されている。図のように、このような制御/モニタリング装置152の例は、培地供給源178を制御する培地モジュール160と、マイクロ流体回路120内の微小物体(不掲載)及び/又は培地(例えば、培地の液滴)の移動及び/又は選択を制御する動力モジュール162と、画像(例えば、デジタル画像)を捕捉する撮像装置194(例えば、カメラ、顕微鏡、光源又はその任意の組合せ)を制御する撮像モジュール164と、傾動装置190を制御する傾動モジュール166とを含む、主制御装置154を含む。制御装置152はほかにも、マイクロ流体装置100に関するその他の機能を制御、モニタリング又は実行するその他のモジュール168を含み得る。図のように、装置152はさらに、ディスプレイ装置170及び入力/出力装置172を含み得る。
[0133] 主制御装置154は、制御モジュール156とデジタル記憶装置158とを含み得る。制御モジュール156は、例えば、記憶装置158に一時的でないデータ又はシグナルとして保存されている機械実行可能命令(例えば、ソフトウェア、ファームウェア、ソースコードなど)に従って稼働するよう設計されているデジタル処理装置を含み得る。上記のものに代えて、又はこれに加えて、制御モジュール156は、ハードウェアに組み込まれたデジタル回路及び/又はアナログ回路を含み得る。培地モジュール160、動力モジュール162、撮像モジュール164、傾動モジュール166及び/又はその他のモジュール168も同様に設計されていてよい。したがって、本明細書でマイクロ流体装置100又はその他の任意のマイクロ流体装置に関して実行されるものとして記載される機能、処理作業、動作又は処理の諸段階は、上記のように設計された主制御装置154、培地モジュール160、動力モジュール162、撮像モジュール164、傾動モジュール166及び/又はその他のモジュール168のいずれか1つ又は複数のものによって実行され得る。同様に、主制御装置154、培地モジュール160、動力モジュール162、撮像モジュール164、傾動モジュール166及び/又はその他のモジュール168は、本明細書に記載される任意の機能、処理、作業、動作又は段階に使用するデータを送信及び受信するよう伝達可能に接続されていてよい。
[0134] 培地モジュール160は培地供給源178を制御する。例えば、培地モジュール160は、選択された流体培地180を(例えば、入口107から)筺体102に投入するよう制御することができる。培地モジュール160はこのほか、筺体102から(例えば、出口(不掲載)から)の培地の除去を制御することができる。このように、マイクロ流体回路120に1つ又は複数の培地を選択的に投入し除去することができる。培地モジュール160はほかにも、マイクロ流体回路120内の流路106の流体培地180の流れを制御することができる。例えば、いくつかの実施形態では、傾動モジュール166が傾動装置190にマイクロ流体装置100を所望の傾斜角度に傾けさせる前に、培地モジュール160が流路106内の培地180及び筺体102を通る培地180の流れを停止させる。
[0135] 動力モジュール162は、マイクロ流体回路120内の微小物体(不掲載)の選択、捕捉及び移動を制御するよう設計され得る。のちに図2A及び図2Bに関して記載するように、筺体102は、誘電泳動(DEP)構造、光電子ピンセット(OET)構造及び/又はオプトエレクトロウェッティング(OEW)構造(図1には不掲載)を含んでよく、動力モジュール162は、電極及び/又はトランジスタ(例えば、フォトトランジスタ)の活性化を制御して、流路106及び/又は隔離囲い124、126、128、130の中の微小物体(不掲載)及び/又は培地の液滴(不掲載)を選択し移動させることができる。
[0136] 撮像モジュール164は撮像装置194を制御することができる。例えば、撮像モジュール164は、撮像装置194の画像データを受信し処理することができる。撮像装置194の画像データは、撮像装置194によって捕捉された任意の種類の情報(例えば、微小物体、培地の液滴、蛍光標識などの標識の蓄積などの有無)を含み得る。撮像モジュール164はさらに、撮像装置194によって捕捉された情報を用いて、マイクロ流体装置100内での対象物(例えば、微小物体、培地の液滴)の位置及び/又はそのような対象物の移動速度を算出することができる。
[0137] 傾動モジュール166は、傾動装置190の傾動動作を制御することができる。上記のようにものに代えて、又はこれに加えて、傾動モジュール166は、重力による微小物体の1つ又は複数の隔離囲いへの移行が最適になるよう傾動の速度及びタイミングを制御することができる。傾動モジュール166は、撮像モジュール164と伝達可能に接続されており、マイクロ流体回路120内の微小物体及び/又は培地の液滴の動きを表すデータを受信する。傾動モジュール166は、このデータを用いてマイクロ流体回路120の傾きを調節し、微小物体及び/又は培地の液滴がマイクロ流体回路120内を移動する速度を調節し得る。傾動モジュール166はこのほか、このデータを用いて、マイクロ流体回路120内の微小物体及び/又は培地の液滴の位置を繰り返し調節し得る。
[0138] 図1に示される例では、マイクロ流体回路120は、マイクロ流体チャネル122と隔離囲い124、126、128、130とを含むものとして示されている。各囲いはチャネル122への開口部を含むが、それ以外にも、囲いが流体培地180及び/又はチャネル122の流路106もしくはほかの囲いの中の微小物体から微小物体を囲いの内側に実質的に隔離することができるよう取り囲まれている。いくつかの場合には、囲い124、126、128、130は、マイクロ流体回路120内で1つ又は複数の微小物体を物理的に囲うよう設計されている。本発明による隔離囲いは、のちに詳細に記載及び図示するように、DEP、OET、OEW、流体流動及び/又は重力とともに使用するのに最適化された様々な形状、表面及び特徴を含み得る。
[0139] マイクロ流体回路120は、任意の数のマイクロ流体隔離囲いを含み得る。5つの隔離囲いが示されているが、マイクロ流体回路120の隔離囲いは、これより少なくても多くてもよい。図のように、マイクロ流体回路120のマイクロ流体隔離囲い124、126、128及び130は、それぞれ異なる特徴及び形状を含み、胚の作成に有用な1つ又は複数の利益、例えば1個の卵細胞を隣接する卵細胞から分離することなどをもたらし得る。検査、刺激及び受精はいずれも個別に実施してよく、いくつかの実施形態では、個々の時間尺度で実施し得る。いくつかの実施形態では、マイクロ流体回路120は、複数の同一のマイクロ流体隔離囲いを含む。いくつかの実施形態では、マイクロ流体回路120は複数のマイクロ流体隔離囲いを含み、ここでは、2つ以上の隔離囲いが、胚作成に異なる利益をもたらす異なる構造及び/又は特徴を含む。非限定的な1つの例は、ある種類の囲い内で卵細胞を維持し、これと異なる囲い内で精子を維持することを含み得る。別の実施形態では、少なくとも1つの隔離囲いが、卵細胞を電気により活性化するのに適した電気的接触を有するよう設計されている。さらに別の実施形態では、周囲の隔離囲いからの分泌物が、それぞれの囲いから卵細胞が収納された囲いの中に拡散し得るように、異なる種類の細胞(例えば子宮細胞、子宮内膜細胞、卵管(例えば、輸卵管又はファロピウス管)由来のPEG(介在性)細胞、卵丘細胞又はその組合せ)が、卵細胞が収納された隔離囲いに隣接した隔離囲い内に配置されてよく、これは、マクロスケールのin vitroでの培養及び受精では不可能なことである。胚作成に有用なマイクロ流体装置は、隔離囲い124、126、128及び130又はその変形のいずれかを含むか、図4及び図5A〜Cに示される囲い430のように設計された囲いを含み得る。
[0140] 図1に示される実施形態では、単一のチャネル122及び流路106が示されている。しかし、他の実施形態は、それぞれが流路106を含むよう設計された複数のチャネル122を含み得る。マイクロ流体回路120はさらに、流路106及び流体培地180と流体連通した注入バルブ又は入口107を含んでよく、それにより、流体培地180は入口107からチャネル122に入ることができる。いくつかの場合には、流路106は単一の経路を含む。いくつかの場合には、単一の経路がジグザグ模様に配置されており、それにより、流路106がマイクロ流体装置100の中を交互方向に2回以上通る。
[0141] いくつかの場合には、マイクロ流体回路120は平行な複数のチャネル122及び流路106を含み、ここでは、各流路106内の流体培地180が同じ方向に流れる。いくつかの場合には、各流路106内の流体培地が、順方向又は逆方向のうちの少なくとも一方に流れる。いくつかの場合には、複数の隔離囲いが(例えば、チャネル122に対して)、目的の微小物体を平行に負荷することができるよう設計されている。
[0142] いくつかの実施形態では、マイクロ流体回路120はさらに、1つ又は複数の微小物体トラップ132を含む。トラップ132は一般に、チャネル122の境界をなす壁面の中に形成され、1つ又は複数のマイクロ流体隔離囲い124、126、128、130の開口部の反対側に位置し得る。いくつかの実施形態では、トラップ132は、流路106から単一の微小物体を受け取るか捕捉するよう設計されている。いくつかの実施形態では、トラップ132は、流路106から複数の微小物体を受け取るか捕捉するよう設計されている。いくつかの場合には、トラップ132は、単一の目的微小物体とほぼ同じ容積を含む。
[0143] トラップ132はさらに、目的微小物体がトラップ132内に流れ込みやすくするよう設計された開口部を含み得る。いくつかの場合には、トラップ132は、単一の目的微小物体の寸法とほぼ同じ高さ及び幅を有する開口部を含み、それにより、開口部より大きい微小物体は微小物体トラップに侵入できない。トラップ132はさらに、目的微小物体をトラップ132内に保持しやすくするよう設計されたほかの特徴を含み得る。いくつかの場合には、トラップ132は、マイクロ流体装置100をチャネル122に平行な軸の周りに傾けると、捕捉された微小物体が微小物体を隔離囲いの開口部に流れ込ませる経路上のトラップ132に存在するように、マイクロ流体隔離囲いの開口部に対してチャネル122の反対側に一直線に位置する。いくつかの場合には、トラップ132は、トラップ132を通る流れを促進し、それによりトラップ132に微小物体が捕捉される可能性を増大させるため、目的微小物体よりも小さい支通路134を含む。
[0144] いくつかの実施形態では、1つ又は複数の電極(不掲載)を介して(例えば、流路内及び/又は隔離囲い内の)流体培地180全体に誘電泳動(DEP)力をかけて、そこに位置する微小物体を操作、輸送、分離及び選別する。例えば、いくつかの実施形態では、マイクロ流体回路120の1つ又は複数の部分にDEP力をかけて、単一の微小物体を流路106から所望のマイクロ流体隔離囲いの中に移行させる。いくつかの実施形態では、DEP力を用いて、隔離囲い(例えば、隔離囲い124、126、128又は130)の中の微小物体がそこから移動しないようにする。さらに、いくつかの実施形態では、DEP力を用いて、既に本発明の教示に従って収集した微小物体を選択的に隔離囲いから除去する。いくつかの実施形態では、DEP力は光電子ピンセット(OET)力を含む。
[0145] 他の実施形態では、1つ又は複数の電極(不掲載)を介してマイクロ流体装置100の支持構造物104(及び/又はカバー110)の1つ又は複数の位置(例えば、流路及び/又は隔離囲いを画定している位置)にオプトエレクトロウェッティング(OEW)力をかけて、マイクロ流体回路120内に位置する液滴を操作、輸送、分離及び選別する。例えば、いくつかの実施形態では、OEW力を支持構造物104(及び/又はカバー110)の1つ又は複数の位置にかけて、単一の液滴を流路106から所望のマイクロ流体隔離囲いの中に移動させる。いくつかの実施形態では、OEW力を用いて、隔離囲い(例えば、隔離囲い124、126、128又は130)の中の液滴がそこから移動しないようにする。さらに、いくつかの実施形態では、OEW力を用いて、既に本発明の教示に従って収集した液滴を選択的に隔離囲いから除去する。
[0146] いくつかの実施形態では、DEP力及び/又はOEW力を流動力及び/又は重力などのほかの力と組み合わせて、マイクロ流体回路120の中の微小物体及び/又は液滴を操作、輸送、分離及び選別する。例えば、流路106及びその中に位置する微小物体がマイクロ流体隔離囲いの上方に位置するよう(例えば、傾動装置190によって)筺体102を傾け、重力により微小物体及び/又は液滴を囲いの中に輸送することができる。いくつかの実施形態では、ほかの力をかける前にDEP力及び/又はOEW力をかけることができる。他の実施形態では、ほかの力をかけた後にDEP及び/又はOEW力をかけることができる。また別の場合には、DEP力及び/又はOEW力をほかの力と同時にかけたり、ほかの力と交互にかけたりすることができる。
[0147] 図2A〜図2Fに、本発明の実施に用いることができるマイクロ流体装置の種々の実施形態を示す。図2Aは、マイクロ流体装置200が光学作動式動電型装置として設計された実施形態を示している。光学作動式動電型装置は、光電子ピンセット(OET)構造を有する装置及びオプトエレクトロウェッティング(OEW)構造を有する装置を含め様々なものが当該技術分野で公知である。適切なOET構造の例は以下の米国特許文献(それぞれ全体が参照により本明細書に組み込まれる):米国再発行特許第44,711号(Wuら)(最初に米国特許第7,612,355号として発行された);及び米国特許第7,956,339号(Ohtaら)で説明されている。OEW構造の例は米国特許第6,958,132号(Chiouら)及び米国特許出願公開第2012/0024708号(Chiouら)(ともにその全体が参照により本明細書に組み込まれる)で説明されている。光学作動式動電型装置のまた別の例としては、OET/OEW構造の組合せが挙げられ、その例が米国特許出願公開第20150306598号(Khandrosら)及び同第20150306599号(Khandrosら)ならびにそれに対応するPCT出願、国際公開第2015/164846号及び国際公開第2015/164847号(いずれもその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に示されている。
[0148] 卵母細胞、卵細胞又は胚を配置、培養及び/又はモニタすることができる囲いを有するマイクロ流体装置の例が、例えば、米国特許出願公開第2014/0116881号(出願番号第14/060,117号、2013年10月22日に出願)、米国特許出願公開第2015/0151298号(出願番号第14/520,568号、2014年10月22日に出願)及び米国特許出願公開第2015/0165436号(出願番号第14/521,447号、2014年10月22日に出願)(それぞれその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に既に記載されている。このほか、米国特許出願第14/520,568号及び同第14/521,447号には、マイクロ流体装置で培養した細胞の分泌物を分析する例示的な方法が記載されている。上記の各出願にはさらに、光電子ピンセット(OET)などの誘電泳動(DEP)力を発生するよう設計されたマイクロ流体装置又はオプトエレクトロウェッティング(OEW)を発生するよう設計されたマイクロ流体装置が記載されている。例えば、米国特許出願公開第2014/0116881号の図2に示されている光電子ピンセット装置は、本発明の実施形態に用いて個々の生物学的微小物体又は1群の生物学的微小物体を選択し移動させることができる装置の一例である。
[0149] マイクロ流体装置動力構造。上記のように、システムの制御/モニタリング装置は、マイクロ流体装置のマイクロ流体回路内の微小物体又は液滴などの対象物を選択し移動させる動力モジュールを含み得る。マイクロ流体装置は、移動させる対象物をはじめとする考慮事項の種類に応じて様々な動力構造を有し得る。例えば、マイクロ流体回路内の微小物体を選択し移動させるのに誘電泳動(DEP)構造を用いることができる。したがって、マイクロ流体装置100の支持構造物104及び/又はカバー110は、マイクロ流体回路120内の流体培地180中の微小物体に選択的にDEP力を誘導し、それにより個々の微小物体又は微小物体の集団を選択し、捕捉し、かつ/又は移動させるDEP構造を含み得る。あるいは、マイクロ流体装置100の支持構造物104及び/又はカバー110は、マイクロ流体回路120内の流体培地180中の液滴に選択的にEW力を誘導し、それにより個々の液滴又は液滴の集団を選択し、捕捉し、かつ/又は移動させるエレクトロウェッティング(EW)構造を含み得る。
[0150] DEP構造を含むマイクロ流体装置200の一例を図2A及び図2Bに示す。簡略化のため、図2A及び図2Bには、開口領域/チャンバ202を有するマイクロ流体装置200の筺体102の一部分の垂直横断面図及び水平横断面図がそれぞれ示されているが、領域/チャンバ202は、成長チャンバ、隔離囲い、流動領域又はフローチャネルなどのさらに詳細な構造を有する流体回路要素の一部であり得ることを理解するべきである。さらに、マイクロ流体装置200は、ほかの流体回路要素を含み得る。例えば、マイクロ流体装置200は、本明細書でマイクロ流体装置100に関して記載したような複数の成長チャンバもしくは隔離囲い及び/又は1つもしくは複数の流動領域もしくはフローチャネルを含み得る。マイクロ流体装置200の任意のこのような流体回路要素又はその選択部分にDEP構造を組み込んでもよい。さらに、上記又は下記のマイクロ流体装置の構成要素及びシステム構成要素をマイクロ流体装置200に組み込み、かつ/又は同装置と組み合わせて使用してもよいことが理解されるべきである。例えば、上記の制御/モニタリング装置152を含むシステム150を、培地モジュール160、動力モジュール162、撮像モジュール164、傾動モジュール166及びその他のモジュール168のうちの1つ又は複数のものを含むマイクロ流体装置200とともに使用してもよい。
[0151] 図2Aからわかるように、マイクロ流体装置200は、底部電極204と底部電極204を覆う電極活性化基板206とを有する支持構造物104及び上部電極210を有するカバー110を含み、上部電極210と底部電極204は相隔たっている。上部電極210及び電極活性化基板206は、領域/チャンバ202の対向する表面を画定する。したがって、領域/チャンバ202に含まれる培地180が上部電極210と電極活性化基板206との間に抵抗接続をもたらす。このほか、底部電極204及び上部電極210と接続され、領域/チャンバ202内にDEP力を発生させる必要があるときに電極間にバイアス電圧を生じさせるよう設計された電源212が示されている。電源212は、例えば交流(AC)電源であり得る。
[0152] ある特定の実施形態では、図2A及び図2Bに示されるマイクロ流体装置200は光学作動式DEP構造を有し得る。したがって、動力モジュール162によって制御され得る光源220からの光222のパターンを変化させることにより、電極活性化基板206の内表面208の領域214にあるDEP電極のパターン変化を活性化及び不活性化することができる(以降、DEP構造を有するマイクロ流体装置の領域214を「DEP電極領域」と呼ぶ)。図2Bに示されるように、電極活性化基板206の内表面208に当てた光パターン222により、選択したDEP電極領域214a(白で示した部分)を正方形などのパターンで照らすことができる。以降、照らされていないDEP電極領域214(クロス斜線で影を付けた部分)を「暗い」DEP電極領域214と呼ぶ。暗いDEP電極領域214それぞれにおいて、DEP電極活性化基板206の端から端まで(すなわち、底部電極204から流動領域106の培地180と接している電極活性化基板206の内表面208まで)の相対電気インピーダンスは、領域/チャンバ202内の培地180の端から端まで(すなわち、電極活性化基板206の内表面208からカバー110の上部電極210まで)の相対電気インピーダンスよりも大きい。一方、照らされるDEP電極領域214aはそれぞれの領域において、電極活性化基板206の端から端までの相対インピーダンスが、領域/チャンバ202内の培地180の端から端までの相対インピーダンスよりも小さい。
[0153] 電源212が稼働すると、上記のDEP構造により、照らされたDEP電極領域214aと隣接する暗いDEP電極領域214との間の流体培地180に電場勾配が生じ、次いでこれにより局所DEP力が生じて、流体培地180中の付近の微小物体(不掲載)を引き付けたり遠ざけたりする。したがって、光源220からマイクロ流体装置200内に投射される光パターン222を変化させることによって、領域/チャンバ202の内表面208にある多数の異なるこのようなDEP電極領域214において、流体培地180中の微小物体を引き付けたり遠ざけたりするDEP電極を選択的に活性化及び不活性化することができる。DEP力が付近の微小物体を引き付けるか遠ざけるかは、電源212の周波数ならびに培地180及び/又は微小物体不掲載)の誘電特性などのパラメータに左右され得る。
[0154] 図2Bに示した照らされるDEP電極領域214aの正方形パターン224は一例にすぎない。装置200内に投射する光のパターン222によって、任意のパターンのDEP電極領域214を照らす(それにより活性化する)ことができ、光パターン222を変化又は移動させることによって、照らす/活性化するDEP電極領域214のパターンを繰り返し変化させることができる。
[0155] いくつかの実施形態では、電極活性化基板206は、光伝導材料を含むか、これよりなるものであり得る。このような実施形態では、電極活性化基板206の内表面208は単調なものであり得る。例えば、電極活性化基板206は、水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)の層を含むか、これよりなるものであり得る。a−Si:Hは、例えば水素を約8%〜40%(100×水素原子数/水素原子とケイ素原子の総数で算出される)含み得る。a−Si:Hの層は、厚さが約500nm〜約2.0μmであり得る。このような実施形態では、光パターン222に従って、電極活性化基板208の内表面208の任意の場所に任意のパターンでDEP電極領域214を生じさせることができる。したがって、DEP電極領域214の数及びパターンは固定されたものである必要はないが、光パターン222に対応するものであり得る。上記のような光伝導層を含むDEP構造を有するマイクロ流体装置の例は、例えば米国再発行特許第44,711号(Wuら)(最初に米国特許第7,612,355号として発行された)(内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)に既に記載されている。
[0156] 他の実施形態では、電極活性化基板206は、複数のドープ層、電気絶縁層(又は電気絶縁領域)及び半導体の分野で知られているような半導体を組み込んだ回路を形成する導電層を含む基板を含み得る。例えば、電極活性化基板206は、例えば側面双極性フォトトランジスタを含めた複数のフォトトランジスタを含んでよく、各フォトトランジスタはDEP電極領域214に対応している。あるいは、電極活性化基板206は、フォトトランジスタスイッチによって制御される電極(例えば、導電性金属電極)を含んでよく、このような電極はそれぞれDEP電極領域214に対応している。電極活性化基板206は、このようなフォトトランジスタ又はフォトトランジスタによって制御される電極のパターンを含み得る。このパターンは例えば、図2Bに示されるような、フォトトランジスタ又はフォトトランジスタに制御され行と列の形で配置された実質的に正方形の電極の配列であり得る。あるいは、このパターンは、フォトトランジスタ又はフォトトランジスタに制御され六方格子を形成する実質的に六角形の電極の配列であり得る。パターンを問わず、電気回路要素が電極活性化基板206の内表面208にあるDEP電極領域214と底部電極210との間に電気的接続を形成してよく、光パターン222によって、これらの電気的接続(すなわち、フォトトランジスタ又は電極)を選択的に活性化及び不活性化することができる。活性化されない場合、各電気的接続のインピーダンスが高いため、対応するDEP電極領域214において、電極活性化基板206の端から端まで(すなわち、底部電極204から領域/チャンバ202内の培地180と接する電極活性化基板206の内表面208まで)の相対インピーダンスが、培地180の端から端まで(すなわち、電極活性化基板206の内表面208からカバー110の上部電極210まで)の相対インピーダンスよりも大きくなり得る。一方、光パターン222の光によって活性化すると、上記のように、照らされるDEP電極領域214それぞれにおいて、電極活性化基板206の端から端までの相対インピーダンスが培地180の端から端までの相対インピーダンスよりも小さくなり、それにより、対応するDEP電極領域214のDEP電極が活性化される。したがって、光パターン222によって決定する形で、領域/チャンバ202内の電極活性化基板206の内表面208にある多数の異なるDEP電極領域214において、培地180中の微小物体(不掲載)を引き付けたり遠ざけたりするDEP電極を選択的に活性化及び不活性化することができる。
[0157] フォトトランジスタを含む電極活性化基板を有するマイクロ流体装置の例は、例えば米国特許第7,956,339号(Ohtaら)(例えば、図21及び図22に示される装置300ならびにその説明を参照されたい)(内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)に既に記載されている。フォトトランジスタスイッチによって制御される電極を含む電極活性化基板を有するマイクロ流体装置の例は、例えば米国特許出願公開第2014/0124370号(Shortら)(例えば、図面全体を通じて示される装置200、400、500、600及び900ならびにその説明を参照されたい)(内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)に既に記載されている。
[0158] DEP構造を有するマイクロ流体装置のいくつかの実施形態では、上部電極210が筺体102の第一の壁(又はカバー110)の一部となっており、電極活性化基板206及び底部電極204が筺体102の第二の壁(又は支持構造物104)の一部となっている。第一の壁と第二の壁との間が領域/チャンバ202となり得る。他の実施形態では、電極210が第二の壁(又は支持構造物104)の一部となっており、電極活性化基板206及び/又は電極210の一方又は両方が第一の壁(又はカバー110)の一部となっている。さらに別法として、光源220を用いて筺体102を下から照らしてもよい。
[0159] DEP構造を有する図2A〜図2Bのマイクロ流体装置200では、動力モジュール162は、装置200内に光パターン222を投射し、電極活性化基板206の内表面208のDEP電極領域214aにおいて、微小物体を取り囲んで捕捉するパターン(例えば、正方形パターン224)で1つ又は複数のDEP電極の第一のセットを活性化することにより、領域/チャンバ202内の培地180中の微小物体(不掲載)を選択することができる。次いで、動力モジュール162は、光パターン222を装置200に対して相対的に移動させ、DEP電極領域214において1つ又は複数のDEP電極の第二のセットを活性化することにより、捕捉した微小物体を移動させることができる。別法として、装置200を光パターン222に対して相対的に移動させてもよい。
[0160] 他の実施形態では、マイクロ流体装置200は、電極活性化基板206の内表面208におけるDEP電極の光活性化に依存しないDEP構造を有し得る。例えば、電極活性化基板206は、少なくとも1つの電極を含む表面(例えば、カバー110)と反対側に位置し選択的に位置を指定して通電することが可能な電極を含み得る。スイッチ(例えば、半導体基板内のトランジスタスイッチ)を選択的に開閉してDEP電極領域214のDEP電極を活性化又は不活性化し、それにより領域/チャンバ202内の活性化DEP電極付近に存在する微小物体(不掲載)に対して正味のDEP力を生じさせ得る。電源212の周波数ならびに及び領域/チャンバ202内の培地(不掲載)及び/又は微小物体の誘電特性などの特徴に応じて、DEP力が付近の微小物体を引き付けたり遠ざけたりし得る。(例えば、正方形パターン224を形成するDEP電極のセットにおいて)DEP電極のセットを選択的に活性化及び不活性化することにより、領域/チャンバ202内の1つ又は複数の微小物体を捕捉し、領域/チャンバ202内を移動させることができる。図1の動力モジュール162は、このようなスイッチを制御し、それにより個々の1つのDEP電極を活性化及び不活性化して、領域/チャンバ202周辺のある特定の微小物体(不掲載)を選択し、捕捉し、移動させることができる。選択的に位置を指定して通電することが可能な電極を含むDEP構造を有するマイクロ流体装置は当該技術分野で公知であり、例えば米国特許第6,294,063号(Beckerら)及び同第6,942,776号(Medoro)(内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)に既に記載されている。
[0161] また別の例として、マイクロ流体装置200はエレクトロウェッティング(EW)構造を有してもよく、EW構造は、DEP構造に代わるものであっても、マイクロ流体装置200のDEP構造を有する部分とは別個の部分に位置するものであってもよい。EW構造はオプトエレクトロウェッティング構造であっても誘電体上のエレクトロウェッティング(EWOD)構造であってもよく、ともに当該技術分野で公知のものである。いくつかのEW構造では、支持構造物104は、誘電体層(不掲載)と底部電極204との間に挟まれた電極活性化基板206を有する。誘電体層は、疎水材料を含み、かつ/又は疎水材料でコートされたものであり得る。EW構造を有するマイクロ流体装置200では、支持構造物104の内表面208が誘電体層又はその疎水コーティングの内表面となる。
[0162] 誘電体層(不掲載)は、1つ又は複数の酸化物層を含んでよく、厚さが約50nm〜約250nm(例えば、約125nm〜約175nm)であり得る。ある特定の実施形態では、誘電体層は、金属酸化物(例えば、酸化アルミニウム又は酸化ハーフニウム(halfnuim oxide))などの酸化物の層を含み得る。ある特定の実施形態では、誘電体層は金属酸化物以外の誘電材料、例えば酸化ケイ素又は窒化物などを含み得る。正確な組成及び厚さに関係なく、誘電体層はインピーダンスが約10kOhm〜約50kOhmであり得る。
[0163] いくつかの実施形態では、領域/チャンバ202に向かって内側に面する誘電体層の表面を疎水材料でコートする。疎水材料は、例えばフッ素化炭素分子を含み得る。フッ素化炭素分子の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(例えば、TEFLON(登録商標))又はポリ(2,3−ジフルオロメチレニル−ペルフルオロテトラヒドロフラン)(例えば、CYTOP(商標))などのペルフルオロ−ポリマーが挙げられる。疎水材料を構成する分子を誘電体層の表面と共有結合させることができる。例えば、疎水材料の分子をシロキサン基、ホスホン酸基又はチオール基などのリンカーによって誘電体層の表面と共有結合させることができる。したがって、いくつかの実施形態では、疎水材料は、アルキル終端化シロキサン、アルキル終端化ホスホン酸又はアルキル終端化チオールを含み得る。アルキル基は、長鎖炭化水素(例えば、炭素が少なくとも10個又は少なくとも16個、18個、20個、22個もしくはそれ以上の鎖を有する)であり得る。あるいは、アルキル基の代わりにフッ素化(又は過フッ素化)炭素鎖を用いてもよい。したがって、例えば、疎水材料はフルオロアルキル終端化シロキサン、フルオロアルキル終端化ホスホン酸又はフルオロアルキル終端化チオールを含み得る。いくつかの実施形態では、疎水コーティングは、厚さが約10nm〜約50nmである。他の実施形態では、疎水コーティングは、厚さが10nm未満(例えば、5nm未満又は約1.5〜3.0nm)である。
[0164] いくつかの実施形態では、エレクトロウェッティング構造を有するマイクロ流体装置200のカバー110も疎水材料(不掲載)でコートする。疎水材料は、支持構造物104の誘電体層をコートするのに用いるものと同じ疎水材料であってよく、疎水コーティングは、実質的に支持構造物104の誘電体層上の疎水コーティングと同じ厚さであってよい。さらに、カバー110は、支持構造物104のように、誘電体層と上部電極210との間に挟まれた電極活性化基板206を含み得る。電極活性化基板206及びカバー110の誘電体層は、支持構造物104の電極活性化基板206及び誘電体層と組成及び/又は寸法が同じであってよい。したがって、マイクロ流体装置200は、エレクトロウェッティング表面を2つ有し得る。
[0165] いくつかの実施形態では、電極活性化基板206は、上記のような光伝導材料を含み得る。したがって、ある特定の実施形態では、電極活性化基板206は、水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)の層を含むか、これよりなるものであり得る。a−Si:Hは、例えば水素を約8%〜40%(100×水素原子数/水素原子とケイ素原子の総数で算出される)含み得る。a−Si:Hの層は、厚さが約500nm〜約2.0μmであり得る。あるいは、電極活性化基板206は、上記のように、フォトトランジスタスイッチによって制御される電極(例えば、導電性金属電極)を含み得る。オプトエレクトロウェッティング構造を有するマイクロ流体装置は当該技術分野で公知であり、かつ/又は当該技術分野で公知の電極活性化基板で構築することができる。例えば、米国特許第6,958,132号(Chiouら)(内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)には、a−Si:Hなどの光伝導材料を有するオプトエレクトロウェッティング構造が開示されており、上で参照した米国特許出願公開第2014/0124370号(Shortら)には、フォトトランジスタスイッチによって制御される電極を有する電極活性化基板が開示されている。
[0166] したがって、マイクロ流体装置200はオプトエレクトロウェッティング構造を有してよく、光パターン222を用いて電極活性化基板206内の光伝導EW領域又は光応答EW電極を活性化することができる。このように活性化された電極活性化基板206のEW領域又はEW電極は、支持構造物104の内表面208(すなわち、被覆誘電体層又はその疎水コーティングの内表面)でエレクトロウェッティング力を生じさせ得る。光パターン222を変化させて(又はマイクロ流体装置200を光源220に対して相対的に移動させて)電極活性化基板206への入射を変化させることにより、支持構造物104の内表面208に接触している(例えば、水性媒体、溶液又は溶媒を含有する)液滴に領域/チャンバ202中に存在する不混和流体(例えば、油媒体)の中を移動させることができる。
[0167] 他の実施形態では、マイクロ流体装置200はEWOD構造を有してよく、電極活性化基板206は、活性化を光に依存せず選択的に位置を指定して通電することが可能な電極を含み得る。したがって、電極活性化基板206は、このようなエレクトロウェッティング(EW)電極のパターンを含み得る。このパターンは例えば、図2Bに示されるような、行と列の形で配置された実質的に正方形のEW電極の配列であり得る。あるいは、このパターンは、六方格子を形成する実質的に六家系のEW電極の配列であり得る。EW電極は、パターンを問わず、電気スイッチ(例えば、半導体基板内のトランジスタスイッチ)によって選択的に活性化することができる。電極活性化基板206内のEW電極を選択的に活性化及び不活性化することによって、被覆誘電体層又はその疎水コーティングの内表面208に接触している液滴(不掲載)を領域/チャンバ202内で移動させることができる。図1の動力モジュール162は、このようなスイッチを制御し、それにより個々のEW電極を活性化及び不活性化して、領域/チャンバ202周辺の特定の液滴を選択して移動させることができる。選択的に位置を指定して通電することが可能な電極を有するEWOD構造を有するマイクロ流体装置は当該技術分野で公知であり、例えば米国特許第8,685,344号(Sundarsanら)(内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)に既に記載されている。
[0168] マイクロ流体装置200の構造に関係なく、電源212を用いて、マイクロ流体装置200の電気回路に電力を供給する電位(例えば、AC電圧電位)を発生させることができる。電源212は、図1で参照される電源192と同じものであっても、その構成要素であってもよい。電源212は、上部電極210及び底部電極204にAC電圧及び/又は電流を供給するよう設計することができる。AC電圧に関しては、電源212は、上記のように領域/チャンバ202内の個々の微小物体(不掲載)を捕捉し移動させるのに十分な大きさの正味のDEP力(又はエレクトロウェッティング力)を発生させ、かつ/又は同じく上記のように、領域/チャンバ202内の支持構造物104の内表面208(すなわち、誘電体層及び/又は誘電体層上の疎水コーティング)のウェッティング特性を変化させるのに十分な範囲の周波数及び電力(例えば、電圧又は電流)平均値又はピーク値をもたらすことができる。このような周波数の範囲及び電力平均値又はピーク値の範囲は当該技術分野で公知である。例えば、米国特許第6,958,132号(Chiouら)、米国再発行特許第44,711号(Wuら)(最初に米国特許第7,612,355号として発行)のほか、米国特許出願公開第2014/0124370号(Shortら)、同第2015/0306598号(Khandrosら)及び同第2015/0306599(Khandrosら)を参照されたい。
[0169] 隔離囲い。一般的な隔離囲い244、246及び248の非限定的な例が、図2C及び図2Dに図示されるマイクロ流体装置240の内部に示されている。隔離囲い244、246及び248はそれぞれ、隔離領域258及び隔離領域258とチャネル122とを流体連結する接続領域254を画定する隔離構造250を含み得る。接続領域254は、チャネル122への近位開口部252と隔離領域258への遠位開口部256とを含み得る。接続領域254は、チャネル122から隔離囲い244、246、248に流れ込む流体培地(不掲載)の流れの最大侵入深度が隔離領域258の中に及ばないように設計することができる。したがって、接続領域254により、隔離囲い244、246、248の隔離領域258内に配置されている微小物体(不掲載)をはじめとする物質(不掲載)をチャネル122内の培地180の流れから隔離し、実質的にその影響を受けないようにすることができる。
[0170] したがって、チャネル122は通過領域の一例となり得、隔離囲い244、246、248の隔離領域258は非通過領域の一例となり得る。上記のように、チャネル122及び隔離囲い244、246、248は、1つ又は複数の流体培地180を含むように設計することができる。図2C〜図2Dに示される例では、出入口242がチャネル122と連結されており、流体培地180をマイクロ流体装置240内に導入したり、そこから除去したりすることを可能にしている。流体培地180を導入する前に、二酸化炭素ガスなどのガスでマイクロ流体装置に前処理を施してもよい。マイクロ流体装置240に流体培地180が入った後、チャネル122内の流体培地180の流れ260を選択的に発生及び停止させることができる。例えば、図のように、出入口242をチャネル122の異なった位置(例えば、両端)に配置し、入口として機能する一方の出入口242から出口として機能する他方の出入口242へ培地の流れ260を生じさせることができる。
[0171] 図2Eに、本発明による隔離囲い244の一例の詳細な図を示す。ほかにも微小物体270を示す。
[0172] 図からわかるように、隔離囲い244の近位開口部252を通過するマイクロ流体チャネル122内の流体培地180の流れ260により、隔離囲い244に入り、かつ/又はそこを出る培地180の二次流262が生じ得る。隔離囲い244の隔離領域258内の微小物体270を二次流262から隔離するには、隔離囲い244の接続領域254(すなわち、近位開口部252から遠位開口部256までの)長さLconを二次流262の接続領域254内への侵入深度Dpよりも長くするべきである。二次流262の侵入深度Dpは、チャネル122を流れる流体培地180の速度のほか、チャネル122及び接続領域254のチャネル122への近位開口部252の構造に関連する様々なパラメータに左右される。所与のマイクロ流体装置では、チャネル122及び開口部252の構造が固定されるのに対し、チャネル122内の流体培地180の流れ260の速度は変化する。したがって、隔離囲い244それぞれに対して、二次流262の侵入深度Dpが接続領域254の長さLconを超えないようにできるチャネル122内の流体培地180の流れ260の最大速度Vmaxを特定することができる。チャネル122内の流体培地180の流れ260の速度が最大速度Vmaxを超えない限り、生じる二次流262をチャネル122及び接続領域254に限定し、隔離領域258に入らないようにすることができる。このようにして、チャネル122内の培地180の流れ260によって微小物体270が隔離領域258から出ることはなくなる。むしろ、隔離領域258内に位置する微小物体270は、チャネル122内の流体培地180の流れ260に関係なく隔離領域258内にとどまることになる。
[0173] さらに、チャネル122内の培地180の流れ260の速度がVmaxを超えない限り、チャネル122内の培地180の流れ260によって雑多な粒子(例えば、微粒子及び/又はナノ粒子)がチャネル122から隔離囲い244の隔離領域258内に移動することはない。したがって、接続領域254の長さLconが二次流262の最大侵入深度Dpよりも長いと、ある隔離囲い244がチャネル122又は別の隔離囲い(例えば、図2Dの隔離囲い246、248)の雑多な粒子に汚染されるのを防ぐことができる。
[0174] チャネル122及び隔離囲い244、246、248の接続領域254は、チャネル122内の培地180の流れ260の影響を受け得るため、チャネル122及び接続領域254をマイクロ流体装置240の通過(又は流動)領域と見なすことができる。一方、隔離囲い244、246、248の隔離領域258は非通過(又は非流動)領域と見なすことができる。例えば、チャネル122内の第一の流体培地180中の成分(不掲載)は、実質的に第一の培地180の成分がチャネル122から接続領域254を通って隔離領域258内の第二の流体培地280内に拡散することのみによって、隔離領域258内の第二の流体培地280と混ざり合うことができる。同じように、隔離領域258内の第二の培地280の成分(不掲載)は、実質的に第二の培地280の成分が隔離領域258から接続領域254を通ってチャネル122内の第一の培地180内に拡散することのみによって、チャネル122内の第一の培地180と混ざり合うことができる。第一の培地180は、第二の培地280と同じ培地であっても異なる培地であってもよい。さらに、第一の培地180と第二の培地280は、最初は同じ培地であり、のちに(例えば、隔離領域258内の1つもしくは複数の細胞によって第二の培地280を調整することによって、又はチャネル122を流れる培地180を変えることによって)異なる培地になり得る。
[0175] チャネル122内の流体培地180の流れ260によって生じる二次流262の最大侵入深度Dpは、上記のようにいくつかのパラメータに左右され得る。このようなパラメータの例としては、チャネル122の形状(例えば、チャネルによって、培地が接続領域254内に向ったり、培地が接続領域254からそれたり、培地が実質的に接続領域254のチャネル122への近位開口部252に垂直の方向に向かったりし得る);近位開口部252でのチャネル122の幅Wch(又は断面積);及び近位開口部252での接続領域254の幅Wcon(又は断面積);チャネル122内の流体培地180の流れ260の速度V;第一の培地180及び/又は第二の培地280の粘度などが挙げられる。
[0176] いくつかの実施形態では、チャネル122及び隔離囲い244、246、248の寸法がチャネル122内の流体培地180の流れ260のベクトルに従う方向に向かい:チャネル幅Wch(又はチャネル122の断面積)が実質的に培地180の流れ260に垂直であり;開口部252での接続領域254の幅Wcon(又は断面積)が実質的にチャネル122内の培地180の流れ260に平行であり;かつ/又は接続領域の長さLconが実質的にチャネル122内の培地180の流れ260に垂直であり得る。上記のものは単なる例であって、チャネル122と隔離囲い244、246、248の相対的な位置は、互いに別の方向であってもよい。
[0177] 図2Eに示されるように、接続領域254の幅Wconは、近位開口部252から遠位開口部256まで均一であり得る。したがって、遠位開口部256での接続領域254の幅Wconは、近位開口部252での接続領域254の幅Wconに関して本明細書で確認されるいずれかの範囲内であり得る。あるいは、遠位開口部256での接続領域254の幅Wconは、近位開口部252での接続領域254の幅Wconより大きくてもよい。
[0178] 図2Eに示されるように、遠位開口部256での隔離領域258の幅は、実質的に近位開口部252での接続領域254の幅Wconと同じであり得る。したがって、遠位開口部256での隔離領域258の幅は、近位開口部252での接続領域254の幅Wconに関して本明細書で確認されるいずれかの範囲内であり得る。あるいは、遠位開口部256での隔離領域258の幅は、近位開口部252での接続領域254の幅Wconより大きくても小さくてもよい。さらに、遠位開口部256は近位開口部252より小さくてもよく、接続領域254の幅Wconは近位開口部252と遠位開口部256との間で狭くなっていてもよい。例えば、種々の異なる形状を用いて(例えば、接続領域に面取りを施して、接続領域をはすに切って)、接続領域254を近位開口部と遠位開口部との間で狭くし得る。さらに、接続領域254の任意の部分又はサブ部分を狭くしてもよい(例えば、接続領域の近位開口部252に隣接する部分)。
[0179] 隔離囲い(例えば、124、126、128、130、244、246又は248)の種々の実施形態では、複数の微小物体を収納するよう隔離領域(例えば、258)を設計する。他の実施形態では、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又はこれと同程度の比較的少数の微小物体のみを収納するよう隔離領域を設計し得る。したがって、隔離領域の容積は、例えば少なくとも4×105立方ミクロン、8×105立方ミクロン、1×106立方ミクロン、2×106立方ミクロン、4×106立方ミクロン、6×106立方ミクロン又はそれ以上であり得る。
[0180] 隔離囲いの種々の実施形態では、近位開口部(例えば、252)でのチャネル122の幅Wchは、以下のいずれかの範囲内にあり得る:50〜1000ミクロン、50〜500ミクロン、50〜400ミクロン、50〜300ミクロン、50〜250ミクロン、50〜200ミクロン、50〜150ミクロン、50〜100ミクロン、70〜500ミクロン、70〜400ミクロン、70〜300ミクロン、70〜250ミクロン、70〜200ミクロン、70〜150ミクロン、90〜400ミクロン、90〜300ミクロン、90〜250ミクロン、90〜200ミクロン、90〜150ミクロン、100〜300ミクロン、100〜250ミクロン、100〜200ミクロン、100〜150ミクロン及び100〜120ミクロン。上記のものは単なる例であり、チャネル122の幅Wchはこれ以外の範囲(例えば、上記のいずれかの終点によって定められる範囲)内であってもよい。さらに、隔離囲いの近位開口部以外のチャネルの領域において、チャネル122のWchを上記のいずれかの範囲内になるよう選択することができる。
[0181] いくつかの実施形態では、隔離囲いは、断面高さが約30〜約200ミクロン又は約50〜約150ミクロンである。いくつかの実施形態では、隔離囲いは、断面積が約100,000〜約2,500,000平方ミクロン又は約200,000〜約2,000,000平方ミクロンである。いくつかの実施形態では、接続領域は、断面高さが対応する隔離囲いの断面高さと一致する。いくつかの実施形態では、接続領域は、断面幅が約50〜約500ミクロン又は約100〜約300ミクロンである。
[0182] 隔離囲いの種々の実施形態では、近位開口部252でのチャネル122の高さHchは、以下のいずれかの範囲内であり得る:20〜100ミクロン、20〜90ミクロン、20〜80ミクロン、20〜70ミクロン、20〜60ミクロン、20〜50ミクロン、30〜100ミクロン、30〜90ミクロン、30〜80ミクロン、30〜70ミクロン、30〜60ミクロン、30〜50ミクロン、40〜100ミクロン、40〜90ミクロン、40〜80ミクロン、40〜70ミクロン、40〜60ミクロン又は40〜50ミクロン。上記のものは単なる例であり、チャネル122の高さHchはこれ以外の範囲(例えば、上記のいずれかの終点によって定められる範囲)内であってもよい。隔離囲いの近位開口部以外のチャネルの領域において、チャネル122の高さHchを上記のいずれかの範囲内になるよう選択することができる。
[0183] 隔離囲いの種々の実施形態では、近位開口部252でのチャネル122の断面積は、以下のいずれかの範囲内であり得る:500〜50,000平方ミクロン、500〜40,000平方ミクロン、500〜30,000平方ミクロン、500〜25,000平方ミクロン、500〜20,000平方ミクロン、500〜15,000平方ミクロン、500〜10,000平方ミクロン、500〜7,500平方ミクロン、500〜5,000平方ミクロン、1,000〜25,000平方ミクロン、1,000〜20,000平方ミクロン、1,000〜15,000平方ミクロン、1,000〜10,000平方ミクロン、1,000〜7,500平方ミクロン、1,000〜5,000平方ミクロン、2,000〜20,000平方ミクロン、2,000〜15,000平方ミクロン、2,000〜10,000平方ミクロン、2,000〜7,500平方ミクロン、2,000〜6,000平方ミクロン、3,000〜20,000平方ミクロン、3,000〜15,000平方ミクロン、3,000〜10,000平方ミクロン、3,000〜7,500平方ミクロン又は3,000〜6,000平方ミクロン。上記のものは単なる例であり、近位開口部252でのチャネル122の断面積はこれ以外の範囲(例えば、上記のいずれかの終点によって定められる範囲)内であってもよい。
[0184] 隔離囲いの種々の実施形態では、接続領域254の長さLconは、以下のいずれかの範囲内であり得る:1〜200ミクロン、5〜150ミクロン、10〜100ミクロン、15〜80ミクロン、20〜60ミクロン、20〜500ミクロン、40〜400ミクロン、60〜300ミクロン、80〜200ミクロン及び100〜150ミクロン。上記のものは単なる例であり、接続領域254の長さLconは上記の例と異なる範囲(例えば、上記のいずれかの終点によって定められる範囲)内であってもよい。
[0185] 隔離囲いの種々の実施形態では、近位開口部252での接続領域254の幅Wconは、以下のいずれかの範囲内であり得る:20〜500ミクロン、20〜400ミクロン、20〜300ミクロン、20〜200ミクロン、20〜150ミクロン、20〜100ミクロン、20〜80ミクロン、20〜60ミクロン、30〜400ミクロン、30〜300ミクロン、30〜200ミクロン、30〜150ミクロン、30〜100ミクロン、30〜80ミクロン、30〜60ミクロン、40〜300ミクロン、40〜200ミクロン、40〜150ミクロン、40〜100ミクロン、40〜80ミクロン、40〜60ミクロン、50〜250ミクロン、50〜200ミクロン、50〜150ミクロン、50〜100ミクロン、50〜80ミクロン、60〜200ミクロン、60〜150ミクロン、60〜100ミクロン、60〜80ミクロン、70〜150ミクロン、70〜100ミクロン及び80〜100ミクロン。上記のものは単なる例であり、近位開口部252での接続領域254の幅Wconは上記の例とは異なるもの(例えば、上記のいずれかの終点によって定められる範囲)であってもよい。
[0186] 隔離囲いの種々の実施形態では、近位開口部252での接続領域254の幅Wconは、少なくとも隔離囲いが目的とする微小物体(例えば、卵母細胞、卵細胞、胚、精子)の最大寸法と同じ大きさであり得る。例えば、中に卵母細胞、卵細胞又は胚が配置される隔離囲いの近位開口部252での接続領域254の幅Wconは、以下のいずれかの範囲内であり得る:約100ミクロン、約110ミクロン、約120ミクロン、約130ミクロン、約140ミクロン、約150ミクロン、約160ミクロン、約170ミクロン、約180ミクロン、約190ミクロン、約200ミクロン又は約100−200ミクロン、約120−200ミクロンもしくは約140−200ミクロン。上記のものは単なる例であり、近位開口部252での接続領域254の幅Wconは上記の例と異なるもの(例えば、上記のいずれかの終点によって定められる範囲)であってもよい。
[0187] 隔離囲いの種々の実施形態では、近位開口部252での接続領域254の幅Wconに対する接続領域254の長さLconの比は、以下のいずれかの比以上であり得る:0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0又はそれ以上。上記のものは単なる例であり、近位開口部252での接続領域254の幅Wconに対する接続領域254の長さLconの比は、上記の例と異なるものであってもよい。
[0188] マイクロ流体装置100、200、240、290の種々の実施形態では、Vmaxを0.2μL/秒、0.3μL/秒、0.4μL/秒、0.5μL/秒、0.6μL/秒、0.7μL/秒、0.8μL/秒、0.9μL/秒、1.0μL/秒、1.1μL/秒、1.2μL/秒、1.3μL/秒、1.4μL/秒又は1.5μL/秒前後に設定し得る。
[0189] 隔離囲いを有するマイクロ流体装置の種々の実施形態では、隔離囲いの隔離領域258の容積は、例えば少なくとも5×105立方ミクロン、8×105立方ミクロン、1×106立方ミクロン、2×106立方ミクロン、4×106立方ミクロン、6×106立方ミクロン、8×106立方ミクロン、1×107立方ミクロン又はそれ以上であり得る。隔離囲いを有するマイクロ流体装置の種々の実施形態では、隔離囲いの容積は、約5×105立方ミクロン、6×105立方ミクロン、8×105立方ミクロン、1×106立方ミクロン、2×106立方ミクロン、4×106立方ミクロン、8×106立方ミクロン、1×107立方ミクロン、3×107立方ミクロン、5×107立方ミクロンもしくは約8×107立方ミクロン又はそれ以上であり得る。
[0190] 種々の実施形態では、マイクロ流体装置は、本明細書に記載されるいずれかの実施形態と同じように設計された隔離囲いを有し、ここでは、マイクロ流体装置は、隔離囲いを約5〜約10個、約10〜約50個、約100〜約500個;約200〜約1000個又は約500〜約1500個有する。このような隔離囲いは全部が同じ大きさである必要はない。
[0191] 図2Fに、一実施形態によるマイクロ流体装置290を示す。図2Fに示されるマイクロ流体装置290はマイクロ流体装置100の定型略図である。実際には、マイクロ流体装置290及びその構成回路要素(例えば、チャネル122及び隔離囲い128)は本明細書に記載される寸法を有する。図2Fに示されるマイクロ流体回路120には、2つの出入口107、4つの異なるチャネル122及び4つの異なる流路106がある。マイクロ流体装置290はさらに、各チャネル122に通じる複数の隔離囲いを含む。図2Fに示されるマイクロ流体装置では、隔離囲いは図2Eに示される囲いとほぼ同じ幾何学的形状を有し、したがって、接続領域及び隔離領域の両方を有する。したがって、マイクロ流体回路120は、通過領域(例えば、チャネル122及び二次流262の最大侵入深度Dp以内の接続領域254の部分)及び非通過領域(例えば、隔離領域258及び二次流262の最大侵入深度Dp以内の接続領域254の部分)の両方を含む。
[0192] 図3A〜図3Bに、本発明によるマイクロ流体装置(例えば、100、200、240、290)を稼働及び観察するのに用いることができるシステム150の種々の実施形態を示す。図3Aに示されるように、システム150は、マイクロ流体装置100(不掲載)をはじめとする本明細書に記載の任意のマイクロ流体装置を保持するよう設計された構造物(「ネスト」)300を含み得る。ネスト300は、マイクロ流体装置360(例えば、光学作動式動電型装置100)と連動し、電源192からマイクロ流体装置360に電気的接続をもたらすことが可能なソケット302を含み得る。ネスト300はさらに、組み込まれた電気シグナル発生サブシステム304を含み得る。電気シグナル発生サブシステム304は、電極対がソケット302に保持されている場合、ソケット302にバイアス電圧を供給し、マイクロ流体装置360内の電極対の間にバイアス電圧をかけるように設計され得る。したがって、電気シグナル発生サブシステム304は電源192の一部となり得る。マイクロ流体装置360にバイアス電圧をかけることができるというのは、マイクロ流体装置360がソケット302に保持されている場合に常にバイアス電圧がかかるという意味ではない。むしろほとんどの場合、バイアス電圧は間欠的に、例えば、マイクロ流体装置360内で誘電泳動又はエレクトロウェッティングなどの動電力の発生を促進する必要があるときに限りかかる。
[0193] 図3Aに示されるように、ネスト300はプリント回路基板アセンブリ(PCBA)320を含み得る。電気シグナル発生サブシステム304は、PCBA320内に取り付けられ電気的に組み込まれていてよい。例示的な支持物は、PCBA320に取り付けられたソケット302も含む。
[0194] 電気シグナル発生サブシステム304は通常、波形発生器(不掲載)を含む。電気シグナル発生サブシステム304はさらに、波形発生器から受け取った波形を増幅するよう設計されたオシロスコープ(不掲載)及び/又は波形増幅回路(不掲載)を含み得る。オシロスコープが存在する場合、それは、ソケット302に保持されているマイクロ流体装置360に供給される波形を測定するよう設計されていてよい。ある特定の実施形態では、オシロスコープは、マイクロ流体装置360の近位にある(かつ波形発生器の遠位にある)位置の波形を測定し、したがって、実際に装置に加えられた波形の測定の精度をさらに高くする。オシロスコープによる測定から得たデータを、例えば波形発生器にフィートバックすることができ、そのようなフィートバックに基づいて出力を調節するよう波形発生器を設計することができる。波形発生器とオシロスコープとの組み合わせの適切な例にはRed Pitaya(商標)がある。
[0195] ある特定の実施形態では、ネスト300はさらに、電気シグナル発生サブシステム304の検知及び/又は制御に使用するマイクロプロセッサなどの制御装置308を含む。適切なマイクロプロセッサの例としては、Arduino Nano(商標)などのArduino(商標)マイクロプロセッサが挙げられる。制御装置308を用いて、機能及び解析を実行しても、外部の主制御装置154(図1に示されるもの)と通信して機能及び解析を実行してもよい。図3Aに示される実施形態では、制御装置308は、インターフェース310(例えば、プラグ又はコネクタ)を介して主制御装置154と通信する。
[0196] いくつかの実施形態では、ネスト300は、Red Pitaya(商標)波形発生器/オシロスコープユニット(「Red Pitayaユニット」)と、Red Pitayaユニットにより発生した波形を増幅し、増幅された電圧をマイクロ流体装置100に送る波形増幅回路とを含む、電気シグナル発生サブシステム304を含み得る。いくつかの実施形態では、Red Pitayaユニットは、増幅された電圧をマイクロ流体装置360において測定し、次いで必要に応じて、マイクロ流体装置360において測定された電圧が所望の値になるようそれ自体の出力電圧を調節するよう設計されている。いくつかの実施形態では、波形増幅回路は、PCBA320に取り付けられた1対のDC−DCコンバータの対により発生する電力供給が+6.5V〜−6.5Vであり、マイクロ流体装置100において最大13Vppのシグナルを発生し得る。
[0197] 図3Aに示されるように、支持構造物300はさらに、温度制御サブシステム306を含み得る。温度制御サブシステム306は、支持構造物300によって保持されるマイクロ流体装置360の温度を調節するよう設計することができる。例えば、温度制御サブシステム306は、ペルチェ電熱素子(不掲載)と冷却ユニット(不掲載)とを含み得る。ペルチェ電熱素子は、マイクロ流体装置360の少なくとも1つの表面と連動するよう設計された第一の表面を有し得る。冷却ユニットは、例えば液体冷却アルミニウムブロックなどの冷却ブロックであり得る。ペルチェ電熱素子の第二の表面(例えば、第一の表面の反対側の表面)をこのような冷却ブロックと連動するよう設計することができる。冷却ブロックは、冷却された流体が冷却ブロックの中を循環するよう設計された流体通路330と連結されていてよい。図3Aに示される実施形態では、支持構造物300は、外部の貯蔵器(不掲載)から冷却された流体を受け取り、それを流体通路330に導入して冷却ブロックの中を通過させた後、それを外部の貯蔵器に戻すための入口332と出口334とを含む。いくつかの実施形態では、ペルチェ電熱素子、冷却ユニット及び/又は流体通路330を支持構造物300の枠340に取り付けることができる。いくつかの実施形態では、ペルチェ電熱素子の温度を調節してマイクロ流体装置360を目的の温度するよう温度制御サブシステム306を設計する。ペルチェ電熱素子の温度調節は、例えばPololu(商標)熱電電源(Pololu Robotics and Electronics社)などの熱電電源によって実施することができる。温度制御サブシステム306は、アナログ回路によって得られる温度値などのフィードバック回路を含み得る。あるいは、フィードバック回路は、デジタル回路によって得られるものであってもよい。
[0198] いくつかの実施形態では、ネスト300は、抵抗器(例えば、抵抗1kOhm+/−0.1%、温度係数+/−0.02ppm/C0のもの)とNTCサーミスタ(例えば、名目抵抗1kOhm+/−0.01%のもの)とを含むアナログ分圧回路(不掲載)であるフィードバック回路を有する、温度制御サブシステム306を含み得る。いくつかの場合には、温度制御サブシステム306は、フィードバック回路からの電圧を測定し、次いで計算温度値を内蔵PID制御ループアルゴリズムへの入力データとして用いる。PID制御ループアルゴリズムからの出力データは、例えばPololu(商標)モータードライブ(不掲載)上の方向指示シグナルピン及びパルス幅調節シグナルピンの両方を駆動し、熱電電源を稼働させることにより、ペルチェ電熱素子を制御することができる。
[0199] ネスト300は、制御装置308のマイクロプロセッサがインターフェース310を介して外部の主制御装置154と通信することを可能にするシリアルポート350を含み得る。さらに、制御装置308のマイクロプロセッサは、(例えば、Plinkツール不掲載)を通じて)電気シグナル発生サブシステム304及び温度制御サブシステム306と通信することができる。したがって、制御装置308とインターフェース310とシリアルポート350との組合せを介して、電気シグナル発生サブシステム308及び温度制御サブシステム306は外部の主制御装置154と通信することができる。このようにして、主制御装置154は、出力電圧を調節するためのスケーリング計算を実行することによって、とりわけ電気シグナル発生サブシステム308を補助することができる。外部の主制御装置154と接続されたディスプレイ装置170を介してもたらされるグラフィカルユーザインターフェース(GUI)(不掲載)を、温度制御サブシステム306及び電気シグナル発生サブシステム308からそれぞれ得られた温度及び波形に関するデータをプロットするよう設計することができる。上記のものに代えて、又はこれに加えて、GUIにより制御装置308、温度制御サブシステム306及び電気シグナル発生サブシステム304をアップデートすることが可能である。
[0200] 上記のように、システム150は撮像装置194を含み得る。いくつかの実施形態では、撮像装置194は光調節サブシステム404を含む。光調節サブシステム404はデジタルミラーデバイス(DMD)又はマイクロシャッタアレイシステム(MSA)を含んでよく、そのいずれかは、光源402から光を受け取り、その一部を顕微鏡400の光学縦列内に送るよう設計されていてよい。あるいは、光調節サブシステム404は、それ自体の光を発する(したがって、光源402の必要がなくなる)装置、例えば有機発光ダイオードディスプレイ(OLED)、液晶オンシリコン(LCOS)装置、強誘電性液晶オンシリコン装置(FLCOS)又は透過型液晶ディスプレイ(LCD)などを含み得る。光調節サブシステム404は、例えばプロジェクタであり得る。したがって、光調節サブシステム404は、構造化された光及び構造化されていない光の両方を放射することが可能なものであり得る。適切な光調節サブシステム404の一例には、Andor Technologies(商標)社のMosaic(商標)システムがある。ある特定の実施形態では、システム150の撮像モジュール164及び/又は動力モジュール162は光調節サブシステム404を制御することができる。
[0201] ある特定の実施形態では、撮像装置194はさらに顕微鏡400を含む。このような実施形態では、ネスト300と光調節サブシステム404が顕微鏡400に取り付けられるよう別個に設計されていてよい。顕微鏡400は、例えば標準的な研究グレードの光顕微鏡又は蛍光顕微鏡であり得る。したがって、ネスト300を顕微鏡400のステージ410に取り付けられるよう設計し、かつ/又は光調節サブシステム404を顕微鏡400のポートに取り付けられるよう設計することができる。他の実施形態では、本明細書に記載されるネスト300及び光調節サブシステム404は、顕微鏡400と一体になった構成要素であり得る。
[0202] ある特定の実施形態では、顕微鏡400はさらに、1つ又は複数の検出器422を含み得る。いくつかの実施形態では、検出器422は撮像モジュール164によって制御される。検出器422は、接眼レンズ、電荷結合素子(CCD)、カメラ(例えば、デジタルカメラ)又はその任意の組合せを含み得る。少なくとも2つの検出器422が存在する場合、一方の検出器が例えば高フレーム率のカメラであり、もう一方の検出器が高感度のカメラであり得る。さらに、顕微鏡400は、マイクロ流体装置360から反射及び/又は放射された光を受け取り、その少なくとも一部を1つ又は複数の検出器422に集めるよう設計された光学縦列を含み得る。顕微鏡の光学縦列はほかにも、各検出器上の最終倍率が異なるものになるよう検出器ごとに異なるチューブレンズ(不掲載)を含み得る。
[0203] ある特定の実施形態では、撮像装置194は、少なくとも2つの光源を用いるよう設計されている。例えば、第一の光源402は、(例えば、光調節サブシステム404と通して)構造化された光を発するために使用し、第二の光源432は、構造化されていない光を発するよう使用することができる。第一の光源402は、光学作動式電動及び/又は蛍光励起のための構造化された光を発し、第二の光源432は、明視野照明を得るために使用するものであり得る。これらの実施形態では、動力モジュール164を用いて第一の光源404を制御し、撮像モジュール164を用いて第二の光源432を制御し得る。顕微鏡400の光学縦列は、(1)装置が支持構造物200によって保持されている場合、光調節サブシステム404から構造化された光を受け取り、それを光学作動式動電型装置などのマイクロ流体装置内の少なくとも1つの第一の領域に集め、(2)マイクロ流体装置から反射及び/又は放射された光を受け取り、その少なくとも一部を検出器422上に集めるよう設計されていてよい。光学縦列はさらに、装置が支持構造物300によって保持されている場合、第二の光源から構造化されていない光を受け取り、それをマイクロ流体装置の少なくとも1つの第二の領域に集めるよう設計されていてよい。ある特定の実施形態では、マイクロ流体装置の第一の領域と第二の領域は重なり合う領域であってよい。例えば、第一の領域は第二の領域の一部であってよい。
[0204] 図3Bでは、第一の光源402は、光調節サブシステム404に光を供給し、それにより顕微鏡400の光学縦列に構造化された光を供給するよう示されている。第二の光源432は、ビームスプリッタ436を介して光学縦列に構造化されていない光を供給するよう示されている。光調節サブシステム404からの構造化された光及び第二の光源432からの構造化されていない光はともに、ビームスプリッタ436から光学縦列の中を伝わり、第二のビームスプリッタ436(又は光調節サブシステム404が供給する光に応じてダイクロイックフィルタ406)に到達し、そこで下に向かって反射されて対物レンズ408を通り試料平面412に達する。次いで、試料平面412から反射及び/又は放射された光は、対物レンズ408の中を上に向かって伝わり、ビームスプリッタ及び/又はダイクロイックフィルタ406を通ってダイクロイックフィルタ424まで伝わる。ダイクロイックフィルタ424に到達する光のごく一部がこれを通過して検出器422に到達する。
[0205] いくつかの実施形態では、第二の光源432は青色光を放射する。しかるべきダイクロイックフィルタ424を用いれば、試料平面412から反射された青色光がダイクロイックフィルタ424を通過し、検出器422に到達することができる。これに対し、光調節サブシステム404から出る構造化された光は試料平面412から反射するが、ダイクロイックフィルタ424は通過しない。この例では、ダイクロイックフィルタ424は波長が495nmを超える可視光を除去する。光調節サブシステムから放射される光が495nmよりも短い波長を一切含まなければ、このような光調節サブシステム404からの光の除外が(図のように)完全になるだけである。実際には、光調節サブシステム404から出る光が495nmよりも短い波長(例えば、青色波長)を含む場合、光調節サブシステムからの光の一部がフィルタ424を通過し、検出器422に到達することになる。このような実施形態では、フィルタ424は、第一の光源402から検出器422に到達する光の量と第二の光源432から検出器422に到達する光の量と間のバランスを変化させるよう作用する。このことは、第一の光源402が第二の光源432よりも大幅に強力である場合に有益であり得る。他の実施形態では、第二の光源432が赤色光を放射し、ダイクロイックフィルタ424が赤色光以外の可視光(例えば、波長が650nmよりも短い可視光)を除去し得る。
[0206] 実施例1.高生存能の胚のモニタリング。図4に示されるように、マイクロ流体装置100、200、240又は290のいずれかのように設計され得るマイクロ流体装置の隔離囲い430の隔離領域458に胚が配置され得る。マイクロ流体装置は流路を有してよく、この例では、流路は流れ260の向きが左から右に向かって示されているチャネル122である。隔離囲いは流路と流体連絡されており、隔離囲いの近位開口部452は、新鮮な培地が隔離囲いの中に流れ込み胚を運び去ることなくチャネルから隔離囲い(及び胚)の周囲一帯に新鮮な培地が供給されるようにチャネルに開口している。チャネル壁414は流路の境界となり、マイクロ流体装置の内表面208は、DEP構造(光電子ピンセット(OET)構造を含む)又はエレクトロウェッティング構造(オプトエレクトウェッティング(optoelectowetting)(OEW)構造を含む)のいずれかとして設計され得る基板の上面になっていても、そのような基板を覆っていてもよい。隔離囲い内への胚の配置は、流体流動、重力、DEPもしくはエレクトロウェッティング力又はその組合せによって実行され得る。隔離領域は、胚の培養を支えるのに十分な大きさ、例えば、胚に有毒となる老廃物が蓄積されない程度に大きく、細胞が分泌する生存シグナル伝達因子が過剰に希釈されない程度に小さい大きさを有するよう設計し得る。培地の流れ260は、隔離囲い43の隔離領域458から接続領域454まで領域からの拡散により必要な栄養素を供給し、老廃物を除去するのに効果的な速度で間欠的であっても一定であってもよい。培地はContinuous Single Culture(登録商標)Complete(Irvine Scientific社)であってよく、実験全体を通じてこれを使用することができる。
[0207] 図5Aでは、特に限定されないが流体流動260、重力、DEP又はエレクトロウェッティングを含めた任意のしかるべき手段によって、捕捉ビーズ574が囲い430の近位開口部452に隣接するチャネル122内に取り込まれ得る。胚分泌物510は拡散によって囲い430から出る。通常、ビーズ574及び分泌物510がチャネル122を移動して囲い430から離れるのを防ぐため、流れ260を停止させる。胚分泌物510は捕捉ビーズ574によって捕捉され、隔離囲い430に隣接する位置に移動するか、隔離囲い430そのものの中に入り得る(不掲載)。第一の捕捉ビーズ574の組を所定の位置(例えば、流路内)で、又はマイクロ流体装置から排出された後にアッセイすることができる。上記のものに代えて、又はこれに加えて、胚272の形態の画像を1つ又は複数取得してもよい。このような撮像及び/又は分泌物に関するデータを時間1で収集し得る。時間1は、図5Aに示されるように単一細胞接合子期であり得る。図5A〜5Cのチャネル壁414、チャネル122、囲い430、隔離領域458、接続領域454、近位開口部452及び内表面208は、それぞれ図4に記載されているものである。
[0208] 次いで、胚分泌物512は第二の捕捉ビーズ576の組によって捕捉され、隔離囲い430に隣接して位置するか、隔離囲いそのものの中に入り得る(不掲載)。同じく、第二の捕捉ビーズ576を所定の位置(例えば、流路内)で、又はマイクロ流体装置から排出された後にアッセイすることができる。上記のものに代えて、又はこれに加えて、胚274の形態の画像をさらに1つ又は複数取得してもよい。このような撮像及び分泌物に関するデータを時間2で収集し得る。時間2は、図5Bに示されるように二細胞期であり得る。第二の捕捉ビーズ576の組で実施する分泌物アッセイは、第一の捕捉ビーズ574の組で実施するものと同じアッセイであり得る。
[0209] さらにその後、胚分泌物514が第三の捕捉ビーズ578の組によって捕捉され、隔離囲いに隣接する位置又は隔離囲いそのものの中に移動し得る(不掲載)。第三の捕捉ビーズ578の組を所定の位置(例えば、流路内)又はマイクロ流体装置から排出された後にアッセイすることができる。上記のものに代えて、又はこれに加えて、胚276の形態の画像をさらに1つ又は複数取得してもよい。このような撮像及び分泌物に関するデータを時間3で収集し得る。時間3は、図5Cに示されるように四細胞期であり得る。第三の捕捉ビーズ578の組で実施する分泌物アッセイは、第一(574)又は第二(576)の捕捉ビーズの組で実施したものと同じアッセイであっても、第一及び第二の捕捉ビーズの組の一方又は両方のものと異なるものであってもよい。例えば、ビーズ574は、テイ・サックス病の原因となる単一遺伝子の核酸を捕捉するよう設計されていてよい。チップ外での解析により、胚272が標的変異を有するかどうかを明らかにし得る。ビーズ576は、TNF、IL−10、MSP−α、SCF、CXCL13、TRAILR3、MIP−1β、GM−CSF及び1種類又は2種類のハウスキーピングタンパク質を含めたタンパク質のパネルに対する抗体を有する複数のビーズを含み得る。ビーズはチップ外でさらに処理しても、あるいはチップ上で多重蛍光標識二次抗体を用いることによって同定を実施してもよい。パネルタンパク質の蛍光シグナルの割合がハウスキーピングタンパク質よりも大きいことが明らかになった場合、さらに異数性を検討し得る。ビーズ574、574及び578のセットのうちの1つは、DNA全般を捕捉するよう設計されていてよい。非限定的な一例では、このようなビーズのセットはビーズ578であり得、これを用いてmtDNAとgDNAの比を求め得る。この比を4細胞の発生時点の胚の適応度の尺度とし、着床への適応度を判定し得る。
[0210] 任意選択で、胚が着床に適した発生段階(例えば、第3日、第4日又は第5日の胞胚)に達するまで胚の分泌物及び形態を定期的にモニタしてもよい。分泌物及び/又は形態に関して収集したデータに基づき、胚が着床後も生存する可能性があるかどうかを判定することができる。胚が生存する可能性がある(又は1群の胚の中でも最も生存能が高いと予測される(不掲載))場合に限り、胚276(又は細胞数がさらに多い次の段階のこの胚)を将来の母親の中に着床させることができる。
[0211] 実施例2.受精前の卵細胞のモニタリング、検査及び調整。実施例1と同じように、卵細胞672を隔離囲い430の隔離領域458に配置することができる。マイクロ流体装置は、実施例1に記載されるように設計することができる。培地(G−GAMETE(商標)(VitroLife社))を流す。培地の流れ260は、拡散によって隔離囲い430の隔離領域458から接続領域454までの中に(から)必要な栄養素を供給する(かつ老廃物を除去する)のに効果的な速度で間欠的であっても一定であってもよい。隔離囲い430内の中の卵細胞672の配置は、流体流動、重力、DEP(OETを含む)、エレクトロウェッティング力(OEWを含む)又はその組合せによって実行され得る。
[0212] 卵細胞672(不掲載)の画像を取得し、卵細胞672の形態を解析し得る。上記のものに加えて、又はこれに代えて、受精に使用する精子を同じように解析して精子の生存能及び運動能の有無を判定してもよい。その解析の結果に基づき(例えば、卵細胞又は精子の一方に生理又は機能に欠陥がある)、体外受精時に活性化処理を実施する。精子はチャネル122に流し込んでよく、隔離囲いに侵入させる。活性化培地(BTXpress(商標)Cytoporation(商標)培地(Thermo Fisher Scientific社の一部であるFisher Scientific))を流して最初の培地と入れ換えてもよい。活性化培地はさらに、塩化カルシウムを約0.05mMの濃度で含有し得る。精子の導入から約30分以内にイオノマイシン又はカルシマイシンなどの活性化イオノフォアを約1マイクロモル〜約15マイクロモルの範囲内であり得る有効濃度でマイクロ流体チャネル122に流れ込む。イオノフォア物質に一定時間(約30分であり得る)の間曝露した後、流れ260によって第二の培地(例えば、G−FERTTM(VitroLife社))が流れ込み、活性化培地と入れ替わる。この時点で卵細胞を可視化して受精の有無を判定する。次いで、受精に成功した卵細胞を上の実施例1に記載した通りにモニタし検査することができる。
[0213] 本明細書に本発明の特定の実施形態及び応用を記載してきたが、これらの実施形態及び応用は単に例示的なものであり、多数の変形形態が可能である。