本発明の組成物は、炎症(例えば、COPD等の炎症性肺疾患)の治療で有用な2又は3以上の活性薬剤を含み得る製剤(例えば、医薬品又は生理学的に許容される製剤)を含む。医薬組成物/製剤は、少なくとも1つの活性薬剤を含む非天然型の組成物であると、当技術分野では理解され、またそのような組成物は、規定用量において無毒性であることから、生理学的に許容されると考えられる。本発明の組成物は、任意の特別な作用機序により所望の転帰を実現する組成物に限定されないが、該組成物は、PDE4ファミリーメンバーの発現又は活性を阻害する第1の薬剤と、1又は2以上の「Bファミリー」に属するPDE(すなわち、PDE4B2等のPDE4B)の発現又は活性を阻害する第2の薬剤とを含み得る。疑問に思われる場合、2つの薬剤が互いに異なることを示唆するために、用語「第1の薬剤」及び「第2の薬剤」が使用される。さらに、選択性が好まれる場合もあるが、第1及び第2の薬剤のそれぞれは、2以上のPDE4ファミリーメンバーを阻害する場合もあれば、また1又は2以上の同じPDE4ファミリーメンバーを阻害する場合もある。例えば、第1及び第2の薬剤の両方は、ファミリー4、サブファミリーBに属するホスホジエステラーゼを阻害する場合もあるが、また第1及び第2の薬剤の両方は、サブファミリー内の2以上のスプライスバリアントを阻害する場合もある。例えば、第1及び第2の薬剤の両方は、PDE4B1及びPDE4B2を阻害し得る。いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2の薬剤は、その他のファミリー又はサブファミリーに属するPDEを除き、ファミリー4、サブファミリーBに属するホスホジエステラーゼを阻害する。例えば、第1及び/又は第2の薬剤は、1又は2以上のPDE4Bのスプライスバリアントを阻害し得るが、PDE4Dのスプライスバリアントのいずれも阻害しない。
用語「活性(active)」及び「薬学的に活性(pharmaceutically active)」は、薬剤がインビボでその標的に影響を及ぼす(例えば、活性化させる、阻害する、上方制御する、又は下方制御する)能力を意味するために使用される。「活性」であるには、薬剤がその標的に対して有する効果は、特定の患者又は一般的に患者母集団に対して臨床的有用性を付与するのに十分でなければならない(但し、応答は個人々々で変化し得ること、及び一部の個人では有効ではない可能性があることを認識しつつ)。
用語「インヒビター(inhibitor)」、「阻害すること(inhibiting)」、「阻害する(inhibit)」等は、記載された標的(ここでは、一般的にPDE4ファミリーに属する酵素)の発現又は活性を低下させる薬剤の能力を意味するために使用される。阻害は、標的の発現又は活性を完全且つ全面的に低下させる必要はないが、低下は、特定の患者又は一般的に患者母集団に対して有用性を付与する程度に生じなければならない(但し、応答は個人々々で変化し得ること、及び一部の個人では有効ではない可能性があることを認識しつつ)。このケースでは、当該有用性は、例えば、PDE4インヒビター、例えばロフルミラスト、シロミラスト等、又は本明細書に開示する別のPDE4インヒビターによる治療に対する反応の改善であり得る。本明細書で別途記載するように、インヒビターは、その作用を標的に対して直接(例えば、標的そのものの転写、翻訳、又は活性を阻害することにより)、又は間接的に(例えば、標的の上流又は下流に位置する細胞経路内で作用する部分を阻害することにより)発揮し得る。第1の薬剤及び第2の薬剤は、独立的に、化学的化合物(例えば、約1,000g/mol未満の分子質量を有する炭素に基づく小分子;化学的化合物は、本明細書では「薬物」と呼ばれる場合もある)、核酸(例えば、RNAi、マイクロRNA、又はアンチセンスオリゴヌクレオチドと関係する核酸)、又はポリペプチド(例えば、抗体)であり得る。
様々な実施形態では、組成物及び方法は、2以上の種類の第1の薬剤、及び2以上の種類の第2の薬剤を含み得る。
第1の薬剤:いくつかの実施形態では、第1の薬剤は、PDE4インヒビターであり得る。第1の薬剤は、PDE4A(例えば、PDE4A1、PDE4A5、PDE4A8、PDE4A10、PDE4A11、及びPDE4A7)、PDE4B(例えば、PDE4B1、PDE4B2、PDE4B3、及びPDE4B4)、PDE4C(例えば、PDE4C1)、及びPDE4D(例えば、PDE4D1、PDE4D2、PDE4D3、PDE4D4、PDE4D5、PDE4D6、PDE4D7、PDE4D8、及びPDE4D9)を含む、1又は2以上のPDE4アイソフォームのインヒビターであり得る。
1つの実施形態では、第1の薬剤は、米国特許第5,712,298号明細書に記載されている式Iに相当し得るが、
同号の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。式Iにおいて、置換基R1及びR2のうちの一方は、水素、1−6C−アルコキシ、3−7C−シクロアルコキシ、3−7C−シクロアルキルメトキシ、ベンジルオキシ、又はフッ素により完全若しくは部分的に置換された1−4C−アルコキシであり、また他方は、フッ素により完全若しくは部分的に置換された1−4C−アルコキシであり;
R3は、フェニル、ピリジル、R31、R32、及びR33により置換されたフェニル、又はR34、R35、R36、及びR37により置換されたピリジルであり、
R31は、ヒドロキシル、ハロゲン、シアノ、カルボキシル、トリフルオロメチル、1−4C−アルキル、1−4C−アルコキシ、1−4C−アルコキシカルボニル、1−4C−アルキルカルボニル、1−4C−アルキルカルボニロキシ、アミノ、モノ−若しくはジ−1−4C−アルキルアミノ、又は1−4C−アルキルカルボニルアミノであり;
R32は、水素、ヒドロキシル、ハロゲン、アミノ、トリフルオロメチル、1−4C−アルキル、又は1−4C−アルコキシであり;
R33は、水素、ハロゲン、1−4C−アルキル、又は1−4C−アルコキシであり;
R34は、ヒドロキシル;ハロゲン、シアノ、カルボキシル、アルキル、1−4C−アルコキシ、1−4C−アルコキシカルボニル、又はアミノであり;
R35は、水素、ハロゲン、アミノ、又は1−4C−アルキルであり;
R36は、水素又はハロゲンであり;及び
R37は、水素又はハロゲンであり、
これらの化合物の塩、及びピリジンのN−酸化物、及びその塩。
特定の実施形態では、R1は、フッ素により完全又は部分的に置換された1−4C−アルコキシである。
その他の実施形態では、R1は、フッ素により完全又は部分的に置換されたメトキシである。
特別な実施形態では、R1は、ジフルオロメトキシである。
特定の実施形態では、R2は、3−5C−シクロアルコキシ、又は3−5C−シクロアルキルメトキシである。
別の実施形態では、R2は、3−5C−シクロアルキルメトキシである。
特別な実施形態では、R2は、シクロプロピルメトキシである。
特定の実施形態では、R3は、ピリジル、又はR34、R35、R36、及びR37により置換されたピリジルである。
その他の実施形態では、R3は、R34、R35、R36、及びR37により置換されたピリジルである。
特別な実施形態では、R3は、3,5−ジクロロピリド−4−イルである。
特定の実施形態では、R1は、フッ素により完全又は部分的に置換された1−4C−アルコキシであり;R2は、3−5C−シクロアルコキシ、又は3−5C−シクロアルキルメトキシであり;並びにR3は、ピリジル、又はR34、R35、R36、及びR37により置換されたピリジルである。
その他の実施形態では、R1は、フッ素により完全又は部分的に置換されたメトキシであり;R2は、3−5C−シクロアルキルメトキシであり;並びにR3は、R34、R35、R36、及びR37により置換されたピリジルである。
特定の特別な実施形態では、R34は、ハロゲン又は1−4C−アルキルであり;R35は、水素、ハロゲンであり;R36は、水素又はハロゲンである。
特別な実施形態では、R1は、ジフルオロメトキシであり;R2は、シクロプロピルメトキシであり;及びR3は、3,5−ジクロロピリド−4−イルである。
1−6C−アルコキシは、酸素原子に加えて、1〜6個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状のアルキルラジカルを含有するラジカルである。この文脈において記載され得る1〜6個の炭素原子を有するアルキルラジカルとして、例えばヘキシル、イソヘキシル(2−メチルペンチル)、ネオヘキシル(2,2−ジメチルブチル)、ペンチル、イソペンチル(3−メチルブチル)、ネオペンチル(2,2−ジメチルプロピル)、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、プロピル、イソプロピル、エチル、及びメチルラジカルが挙げられる。
3−7C−シクロアルコキシとして、例えばシクロプロピルオキシ、シクロブチルオキシ、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシ、及びシクロヘプチルオキシが挙げられる。
3−7C−シクロアルキルメトキシとして、例えばシクロプロピルメトキシ、シクロブチルメトキシ、シクロペンチルメトキシ、シクロヘキシルメトキシ、及びシクロヘプチルメトキシが挙げられる。
フッ素により完全又は部分的に置換された1−4C−アルコキシとして、例えば1,2,2−トリフルオロエトキシ、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロポキシ、パーフルオロエトキシ、及び特に1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ、トリフルオロメトキシ、2,2,2−トリフルオロエトキシ、及びジフルオロメトキシラジカルが挙げられる。
本発明が意図するハロゲンは、臭素、塩素、及びフッ素である。
1−4C−アルキルは、1〜4個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状のアルキルラジカルである。例として、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、プロピル、イソプロピル、エチル、及びメチルラジカルが挙げられる。
1−4C−アルコキシは、酸素原子に加えて、上記1−4C−アルキルラジカルのうちの1つを含有するラジカルである。例として、メトキシ及びエトキシラジカルが挙げられる。
1−4C−アルコキシカルボニルは、上記1−4C−アルコキシラジカルのうちの1つが結合したカルボニル基である。例として、メトキシカルボニル(CH3O−CO−)及びエトキシカルボニルラジカル(CH3CH2O−CO−)が挙げられる。
1−4C−アルキルカルボニルは、上記1−4C−アルキルラジカルのうちの1つが結合したカルボニル基である。例として、アセチルラジカル(CH3CO−)が挙げられる。
1−4C−アルキルカルボニロキシラジカルは、酸素原子に加えて、上記1−4C−アルキルカルボニルラジカルのうちの1つを含む。例として、アセトキシラジカル(CH3CO−O−)が挙げられる。
モノ−又はジ−1−4C−アルキルアミノラジカルは、例えばメチルアミノ、ジメチルアミノ、及びジエチルアミノラジカルである。
1−4C−アルキルカルボニルアミノラジカルは、例えばアセタミドラジカル(−NH−CO−CH3)である。
R31、R32、及びR33により置換された代表的なフェニルラジカルとして、2−アセチルフェニル、2−アミノフェニル、2−ブロモフェニル、2−クロロフェニル、2,3−ジクロロフェニル、2,4−ジクロロフェニル、4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル、4−ブロモ−2−トリフルオロメチルフェニル、2−カルボキシ−5−クロロフェニル、3,5−ジクロロ−2−ヒドロキシフェニル、2−ブロモ−4−カルボキシ−5−ヒドロキシフェニル、2,6−ジクロロフェニル、2,5−ジクロロフェニル、2,4,6−トリクロロフェニル、2,4,6−トリフルオロフェニル、2,6−ジブロモフェニル、2−シアノフェニル、4−シアノ−2−フルオロフェニル、2−フルオロフェニル、2,4−ジフルオロフェニル、2,6−ジフルオロフェニル、2−クロロ−6−フルオロフェニル、2−ヒドロキシフェニル、2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル、2,4−ジヒドロキシフェニル、2−メトキシフェニル、2,3−ジメトキシフェニル、2,4−ジメトキシフェニル、2,6−ジメトキシフェニル、2−ジメチルアミノフェニル、2−メチルフェニル、2−クロロ−6−メチルフェノール、2,4−ジメチルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、2,3−ジメチルフェニル、2−メトキシカルボニルフェニル、2−トリフルオロメチルフェニル、2,6−ジクロロ−4−メトキシフェニル、2,6−ジクロロ−4−シアノフェニル、2,6−ジクロロ−4−アミノフェニル、2,6−ジクロロ−4−メトキシカルボニルフェニル、4−アセチルアミノ−2,6−ジクロロフェニル、及び2,6−ジクロロ−4−エトキシカルボニルフェニルの各ラジカルが挙げられる。
R34、R35、R36、及びR37により置換された代表的なピリジルラジカルとして、3,5−ジクロロピリド−4−イル、2,6−ジアミノピリド−3−イル、4−アミノピリド−3−イル、3−メチルピリド−2−イル、4−メチルピリド−2−イル、5−ヒドロキシピリド−2−イル、4−クロロピリド−3−イル、3−クロロピリド−2−イル、3−クロロピリド−4−イル、2−クロロピリド−3−イル、2,3,5,6−テトラフルオロピリド−4−イル、3,5−ジクロロ−2,6−ジフルオロピリド−4−イル、3,5−ジブロモピリド−2−イル、3,5−ジブロモピリド−4−イル、3,5−ジクロロピリド−4−イル、2,6−ジクロロピリド−3−イル、3,5−ジメチルピリド−4−イル、3−クロロ−2,5,6−トリフルオロピリド−4−イル、及び2,3,5−トリフルオロピリド−4−イルの各ラジカルが挙げられる。
本明細書に記載する化合物(例えば、式Iの化合物)の適する塩は、置換に応じて、すべての酸付加塩であるが、但し特にすべての塩基との塩である。特に、塩は、薬理学的に許容される、薬局で通常使用される無機又は有機の酸と塩基であり得る。例えば工業スケールでの化合物の調製期間中に、プロセス生成物として取得され得る薬理学的に許容されない塩は、当業者にとって公知のプロセスにより薬理学的に許容される塩に変換される。適する塩として、例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硝酸、硫酸、酢酸、クエン酸、D−グルコン酸、安息香酸、2−(4−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、酪酸、スルホサリチル酸、マレイン酸、ラウリン酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、シュウ酸、酒石酸、エンボン酸、ステアリン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、及び3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の酸との水溶性及び水不溶性の酸付加塩が挙げられ、酸は、塩の調製において、等モル量比で、又は一塩基酸若しくは多塩基酸のいずれが関係するかに応じて、及びどの塩が望ましいかに応じてそれとは異なる量比で利用される。その他の適する塩は、塩基との塩である。塩基との塩の例として、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、チタン、アンモニウム、メグルミン、トロメタミン、又はグアニジニウムの塩が挙げられる。塩基との塩の調製で利用される塩基は、等モル量比又はそれとは異なる量比で存在し得る。
1つの実施形態では、第1の薬剤は、ロフルミラスト又はその塩である:
1つの実施形態では、第1の薬剤は、ロリプラム又はその塩である:
本発明の組成物及び方法で有用な化学的化合物は、購入され得る、又は当技術分野において公知の方法により合成、単離、若しくは精製され得る。第1の薬剤として利用され得るその他の化合物として、シロミラスト(GlaxoSmithKline社により開発された;Christensen et al., J. Med. Chem. 41:821-835, 1998を参照);BAY19−8004(Bayer PLC社により開発された;Grootendorst et al., Pulm. Pharmacol. Ther. 16:341-347, 2003を参照);AWD12−281(Elbion AG/GlaxoSmithKline社により開発された;Gutke et al., Curr. Opin. Investig. Drugs 6:1149-1158, 2005を参照);シパムフィリン、FRL−61063(Leo Pharmaceuticals社により開発された;Kucharekova et al., Arch. Dermatol. Res. 295:29-32, 2003を参照);メソプラム、SH−636(Schering AG社により開発された;Loher et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 305:549-556, 2003を参照);CC−10004(Celgene社により開発された;Baumer et al., Inflamm. Allergy Drug Targets 6:17-26, 2007を参照);オグレミラスト、GRC−3886(Glenmark社により開発された;Enefer, Inflammation 2005 - Seventh World Congress. Highlights I. IDrugs, 8:788-790, 2005を参照)、テトミラスト、OPC−6535(Otsuka社により開発された;Chihiro et al., J. Med. Chem. 38:353-358, 1995を参照);トフィミラスト、CP−325366(Pfizer社により開発された;Duplantier et al., J. Med. Chem. 50:344-349, 2007を参照);ONO−6126(Ono Pharmaceuticals社により開発された;Furuie et al., Eur. Respir. J. 22(Suppl 45):395s, 2003を参照);CI−1044(Pfizer社により開発された;Ouagued et al., Pulm. Pharmacol. Ther. 18:49-54, 2005を参照);HT−0712(Inflazyme/Helicon社により開発された;MacDonald et al., Neurorehabil. Neural Repair 21:486-496, 2007を参照);イブジラスト(Merck-Frosst社により開発された;Huang et al., Life. Sci. 78:2663-2668, 2006を参照);MK−0873(Merck社により開発された; Boot et al., Pulm. Pharmacol. Ther. 2008を参照);アロフィリン、LAS−31025(Almirall社により開発された;Beleta et al., Third International Conference on Cyclic Nucleotide Phosphodiesterases: From Genes to Therapies, Glasgow, 1996を参照);CI−1018(Pfizer社により開発された;Burnouf et al., J. Med. Chem. 43:4850-4867, 2000を参照);T−2585(Tanabe社により開発された; Ukita et al., J. Med. Chem. 42:1088-1099, 1999を参照);YM−976(Yamanouchi社により開発された;Aoki et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 295:255-260, 2000を参照);V−11294A(Napp社により開発された;Gale et al., Br. J. Clin. Pharmacol. 54:478-484, 2002を参照);ピクラミラスト、RP−73401(Rohne-Poulenc-Rorer社により開発された;Chen et al., Acta Pharmacol. Sin. 25:1171-1175, 2004を参照);アチゾラム、CP−80633(Pfizer社により開発された;Wright et al., Can. J. Physiol. Pharmacol. 75:1001-1008, 1997を参照);フィラミナスト、WAY−PDA−641(Wyeth-Ayerst社により開発された;Heaslip et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 268:888-896, 1994を参照);SCH351591(Schering-Plough社により開発された;Billah et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 302:127-137, 2002を参照);IC−485(ICOS Corporation社により開発された);リリミラスト、BAY−19−8004(Bayer社により開発された;Sturton and Fitzgerald, Chest 121:192S-196S, 2002を参照)、D4418(Celltech/Schering-Plough社により開発された;Buckley et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 10:2137-2140, 2000を参照);CDP−840(Celltech/Merck-Frosst社により開発された;Alexander et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 12:1451-1456, 2002を参照);L−826,141(Celltech/Merck-Frosst社により開発された;Claveau et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 310:752-760, 2004を参照);AN2728(Anacor Pharmaceuticals社にて開発中);アプレミラスト(Celgene社により開発された);ジアゼパム(Hoffmann-La Roche社により1963年に開発された);ルテオリン(IGF−1特性も有する、ピーナッツから抽出されたサプリメント);及びメセンブレノン(ハーブであるスケレチウム・トルトゥオスム(Sceletium tortuosum)由来のアルカロイド)が挙げられる。
特定の実施形態では、第1の薬剤は、それ自体、又は生物学的環境内でその他の因子と呼応して、PDE4Bアイソフォームを含む1又は2以上のPDE4アイソフォームの発現を上方制御し得る、又はその活性を高め得る。PDE4Bアイソフォームは、PDE4B1、PDE4B2、PDE4B3、又はPDE4B4であり得、また生物学的環境内の因子として、1又は2以上の環状アデノシンモノホスフェート(cAMP,cyclic adenosine monophosphate)エレベーター、リポ多糖類(LPE,lipopolysaccharide)、又は細菌を挙げることができる。細菌は、無莢膜型インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)(NTHi)であり得る。
第2の薬剤:本明細書に記載する第1の薬剤のいずれも、PDE4B(例えば、PDE4B2)の発現又は活性を直接又は間接的に阻害する1又は2以上の第2の薬剤と共に製剤化、包装、又は投与され得る。特定の実施形態では、第2の薬剤は、PDE4B2に替わる又はPDE4B2に付加する1又は2以上のその他のPDE4Bアイソフォームを阻害し得る。上記のように、第2の薬剤は、PDE4Dのスプライスバリアントのすべてを阻害するのではなく、PDE4Bのスプライスバリアントのうちの1又は2以上を阻害し得る。
第2の薬剤は、PDE4Bアイソフォーム(例えば、PDE4B2)の発現を上方制御し得る1又は2以上の遺伝子及び/又は酵素を阻害し得る。例えば、第2の薬剤は、IκBキナーゼβ(IKKβ,IκB kinase β)、IκBα、転写因子の核内因子−κβ(NFκB)、又はそのサブユニット(例えば、p50若しくはp65)、又はプロテインキナーゼA−Cβ(PKA−Cβ,protein kinase A-Cβ)の発現、或いは発現したタンパク質の活性を阻害し得る(例えば、p50及びp65を含む複合体(例えば、図1に示すIκBα−p50−p65複合体又はp50−p65−PKA−Cβ複合体)の形成を阻害し得る)。
第2の薬剤は、PDE4B(例えば、PDE4B2)が上方制御し得る1又は2以上の細胞経路を阻害し得る。該経路は、酵素活性に依存して、又は酵素活性に依存しないで機能している可能性がある。
第2の薬剤は、グルココルチコイド、例えば、デキサメタゾン又は生物学的に活性なその誘導体であり得る:
その他の有用なグルココルチコイドとして、コルチゾール、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、フルドロコルチゾンアセテート、デオキシコルチコステロンアセテート(DOCA,deoxycorticosterone acetate)、アルドステロン、ブデソニド、ヒドロコルチゾン、トリアムシノロン、及び薬学的に許容されるその塩が挙げられる。
第2の薬剤は、HIF−1αインヒビターでもあり得る。例えば、第2の薬剤は、低酸素誘導因子−1αインヒビター、ジメチルオキサロイルグリシン(DMOG,dimethyloxaloylglycine)、クリシン、ケトミン、YC−1、ジメチル−ビスフェノールA、2−メトキシエストラジオール、IOX2、BAY87−2243、PX−478 2HCI、FG−2261、KC7F2、クリプトタンシノン、EF−24、FM19G11、又はPX12であり得る。特定の実施形態では、第2の薬剤は、17−ジメチルアミノエチルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−DMAG,17-dimethylaminoethylamino-17-demethoxygeldanamycin)、又はその誘導体若しくは塩であり得る:
第2の薬剤は、クルクミン(すなわち、(1E,6E)−1,7−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−1,6−ヘプタジエン−3,5−ジオン)又はその誘導体又は塩でもあり得る:
第2の薬剤は、ADAM5又はADAM6(Cullen et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 18:1530-1533, 2008)、又は薬学的に活性なその誘導体又は塩であり得る、又はそれを含み得る:
第2の薬剤は、化合物33又は薬学的に活性なその誘導体又は塩を含む、Naganuma et al.が記載するリード化合物である2−アリールピリミジン誘導体から開発された化合物A−33でもあり得る、又はそれも含み得る(Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 19(12):3174-3176, 2009):
トリアジン誘導体も、PDE4Bの強力なインヒビターであることが公知であり、また本発明の様々な実施形態で第2の薬剤として利用可能である(Hagen et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 24(16):4031-4034, 2014)。当技術分野において公知の構造解析により、強力で選択的なPDE4Bインヒビターは、CR3(コントロール領域3,Control Region 3、触媒ドメインのカルボキシル側に位置する)に結合し、これにより閉じた立体構造に酵素をロックすることが実証された。PDE4Bの選択性は、活性部位上に接近したときに、ドメインのヘリカルレジストレーションを選択するCR3内の単一アミノ酸多型に起因すると考えられている。PDE4B CR3のロイシンが、PDE4Dのグルタミンと交換すると、インヒビター選択性において70〜80倍の変化が生ずる。これを踏まえ、Hagen et al(前出)は、CR3に同様に結合し、これによりPDE4B特異性を引き起こす一連のトリアジンアナログについて記載する(Hagen et al、前出)。
第2の薬剤は式IIに相当し得る:
式IIでは、R4、R5、及びR6のそれぞれは、水素、ハロゲン、シアノ、カルボキシル、アルキル、アリール、又はヘテロ環であり、また1又は2以上のハロゲン、シアノ、カルボキシル、アルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル)、アリール、又はヘテロ環で置換されていてもよい。
特定の実施形態では、R4は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、又はシクロプロピルであり得る。R5は、ハロゲン(例えば、F又はCl)で置換されていてもよいアリール、又はハロゲン(例えば、F若しくはCl)で置換されていてもよいヘテロ環(例えば、フラン若しくはチオフラン)であり得る。R6は、カルボン酸、アルキルカルボン酸(例えば、CH2CO2H、CH2(CH3)CO2H、CH2(CH3)2CO2H)、ハロゲン(例えば、F又はCl)、ヘテロ環(例えば、ピペリジノン、イミダゾリジノン、テトラゾール)、シアノ、アルキルシアノ(例えば、CH2CN)、アルキルヘテロ環、スルホンアミド、若しくはアミノスルホンアミド、又はそれらの誘導体で置換されていてもよいアリールであり得る。
第2の薬剤として有用なその他の化合物として、Donnell et al.が記載する置換型ピリダジノ[4,5−b]インドリジンが挙げられる(Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 20(7):2163-2167, 2010)。例えば、下記の化合物:
又は薬学的に活性なその誘導体若しくは塩を利用することができる。
第2の薬剤が核酸である場合、同薬剤は、PDE4B2又は本明細書に記載する別の標的、例えばPKA−Cβ等の発現を標的とし、阻害することによりRNAi(例えば、siRNA又はshRNA)と関係する核酸であり得る。その他の有用な核酸に基づくインヒビターとして、マイクロRNA及びアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる。阻害性のRNA分子を生成するための関連する配列及び方法は、当技術分野において公知である。参照の便を図り、ヒトPDE4BのmRNA配列を図8に示す。様々なPDE4Bアイソフォームの生成に有用なプライマー、及び配列比較を含む、1.6kbの部分的なPDE4B cDNAに関する情報が、ヒトPDE4B3のクローニングに関する報告に、必要に応じて見出され得る(Huston et al., Biochem. J., 328:549-558, 1997; Bolger et al., Mol. Cell. Biol., 136558-6571, 1993; McLaughlin et al., J. Biol. Chem., 268:6470-6476, 1993; 及び Obernolte et al., Gene, 129:239-247, 1993も参照)。PDE4B2を標的とする際には、選択された薬剤(例えば、PDE4B2を阻害するsiRNA)は、選択的に(すなわち、薬剤は、その他のPDE4Bバリアント又はその他のPDE4ファミリーメンバーを除き、PDE4B2のみの発現を阻害し得る)、又は非選択的に(すなわち、薬剤は、PDE4B2、並びにその他のPDE4Bバリアント又はその他のPDE4ファミリーメンバーを阻害し得る)そうすることができる。PKA−CβのmRNA配列は、例えばNCBI「GenBank」ウェブサイトを通じて入手可能である(例えば、受託番号NM−002731、及びTaylor et al., Annu. Rev. Biochem., 59:971-1005, 1990を参照)。
高度に選択的なPDE4Bインヒビターが、活性部位外の配列差異を利用することにより設計可能であることが、当技術分野において明らかにされている(Fox et al., Cellular Signalling 26:657-663, 2014を参照)。特に、PDE4Bの選択性は、cAMPによるアクセスを阻止する立体構造において、CR3(コントロール領域3)と呼ばれるC末端制御ヘリックスを、活性部位を含めて確保することにより達成され得る。
PKA−CβのmRNA配列は、例えばNCBI「GenBank」ウェブサイトを通じて入手可能である(例えば、受託番号NM−002731、及びTaylor et al., Annu. Rev. Biochem., 59:971-1005, 1990を参照)。
第2の薬剤は、siRNA又はその断片であり得る。第2の薬剤として有用なsiRNA(すなわち、PDE4B2の発現又は活性を直接又は間接的に阻害する薬剤)が、例えば、Santa Cruz Biotechnology, Inc.社(現行カタログ番号sc−41599)、及びGE HealthCare社から市販されている。siRNA、shRNA、マイクロRNA、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドは、多くの場合長さ19〜21個のヌクレオチドであり、当技術分野において公知の方法に基づき合成し、阻害される標的の配列に基づき望むようにカスタマイズし得る。第2の薬剤が、阻害性のRNAである場合、すべての薬剤は、単一の配列を有し得る、又は異なる配列のプールであり得る(例えば、PDE4B2、PKA−Cβ、又は本明細書に記載する別の標的の発現を阻害する3〜7個のsiRNAからなるプール)。
第2の薬剤は、ポリペプチド又はその断片であり得る。第1又は第2の薬剤として有用なポリペプチドとして、本明細書に記載する、標的と特異的に結合する抗体が挙げられ、また標的がPKA−Cβである場合は、ポリペプチドは、TTYADFIASGRTGRRNAIHD(配列番号3)、又はその活性断片若しくはその他のバリアントであり得る。
下記の実施例に記載するように、IKKβインヒビターは、NTHi及びロフルミラストによるPDE4B2の相乗的誘発を顕著に阻害したが、ロフルミラスト単独によるPDE4B2の誘発には影響を及ぼさなかった。したがって、NTHi感染により、又はそれと関連してCOPDが増悪した患者では、治療は、例えばロフルミラストとIKKβインヒビターを用いて実施され得る。
製剤:様々な実施形態では、第1の薬剤及び第2の薬剤は、同時に又は分離して投与するように製剤化され得る。第1の薬剤及び/又は第2の薬剤は、丸薬、カプセル、顆粒、錠剤、パレット、懸濁液、注射液、輸液、坐薬、連続送達系、シロップ、チンキ剤、軟膏、クリーム、点眼薬、点耳薬、フラッシュ、ラバージュ、低速吸収性デポ、ドレッシング材、ロゼンジ、若しくは任意の薬学的に許容されるアプリケーションの形態で、又は栄養補助食品として製剤化され得る。
第1の薬剤及び/又は第2の薬剤は、本明細書に開示するように、治療の対象となる状態に適する任意の経路により投与され得る。適する経路として、経口、吸入、非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、髄腔内、及び硬膜外を含む)、直腸、鼻腔、局所的、膣腔等の経路を挙げることができる。
経口投与用として用いられるとき、製剤は、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性若しくは油性の懸濁液、分散性の粉末若しくは顆粒、エマルジョン、ハード若しくはソフトカプセル、シロップ、又はエリキシル剤であり得る。
吸入投与用として用いられるとき、製剤は、小粒子を含むエアゾール又は乾燥粉末を含み得る。また製剤は、懸濁液(例えば、液化噴霧剤に懸濁された第1及び/又は第2の薬剤粒子)、又は溶液(例えば、液化噴霧剤に溶解した第1及び/又は第2の薬剤)でもあり得る。粒径は約10μm以下であり得る。好ましくは、粒径は、5μm未満であり得る(例えば、2〜3μm)。製剤は、従来法に基づき調製され得るが、またその他の治療薬と共に送達され得る。製剤は、1又は2以上のHFA噴霧剤、界面活性剤共溶媒、及び/又は賦形剤をさらに含み得る。
非経口投与用として用いられるとき、製剤は、抗酸化剤、バッファー、静菌薬、及び製剤を意図するレシピエントの血液と等張にせしめる溶質を含有し得る水性及び非水性の無菌注射溶液;及び懸濁剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性の無菌懸濁液を含み得る。注射用として用いられるとき、第1の薬剤及び/又は第2の薬剤の医薬組成物は、無菌の注射用調製物(例えば、無菌の水性又は油性の注射用懸濁液)の形態であり得る。また無菌の注射用調製物は、無毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の無菌の注射液又は懸濁液でもあり得る(例えば、1,3−ブタン−ジオールに溶解した溶液、又は凍結乾燥粉末として調製される)。
キット:本発明のキットは、すぐに投与できる、又はさらに操作を行った後(例えば、稀釈若しくは再懸濁した後)に投与可能な製剤中に、本明細書に記載する第1及び第2の薬剤を含有する医薬組成物を含め、本明細書に記載する任意の1又は2以上の組成物を含み得る。いくつかの実施形態では、第1の薬剤及び第2の薬剤は、分離した容器内にあり、またキット内に共に包装される。任意の実施形態では、キットは、使用説明書を含み得る(例えば、文書化された書類、ウェブアドレスの開示、又はオーディオ若しくはビジュアルプレゼンテーション)。任意の実施形態では、キットは、キットに収納された組成物を投与するのに有用な付属品(例えば、針、シリンジ、チューブ、滅菌剤、手袋、マスク、ネブライザー、点滴器、ガーゼ、テープ、又はドレッシング材)を含み得る。キットは、1又は2以上の吸入デバイス、例えば、アトマイザー、ネブライザー、ベーパライザー、定量吸入器(MDI,metered dose inhaler)、乾燥粉末吸入器等を含み得る。
治療に適する状態:本発明の組成物は、治療薬としてヒトの医学及び獣医学で採用され得るが、例えば下記の疾患を治療及び予防するために利用可能である:様々な起源を有する急性及び慢性(特に炎症性及びアレルゲン誘発性の)気道障害(気管支炎、アレルギー性気管支炎、気管支喘息);皮膚疾患(特に増殖性、炎症性、及びアレルギー性のタイプ)、例えば乾癬(尋常性の)、毒性及びアレルギー性の接触性湿疹、アトピー性湿疹、脂漏性湿疹、単純苔癬、日焼け、肛門生殖器部位の掻痒、円形脱毛症、肥厚性瘢痕、円板状エリテマトーデス、濾胞性及び広汎性の膿皮症、内因性及び外因性の痛み、酒土性座瘡、及びその他の増殖性、炎症性、及びアレルギー性皮膚障害等;TNF(例えば、TNFα)及びロイコトリエンの過剰放出に基づく障害、例えば関節炎型の障害(リウマチ性関節炎、リウマチ性脊椎炎、骨関節炎、及びその他の関節炎の状態、及び関節の炎症)、免疫系の障害(AIDS)、ショックのタイプ(敗血症性のショック、内毒素ショック、グラム陰性セプシス、毒素ショック症候群、及びARDS(成人呼吸窮迫症候群,adult respiratory distress syndrome))、及び胃腸領域の広汎性の炎症(クローン病及び潰瘍性大腸炎);上気道領域(咽頭、鼻)、及び隣接領域(副鼻腔、眼)内のアレルギー性及び/又は慢性の免疫学的誤反応に基づく障害、例えばアレルギー性鼻炎/副鼻腔炎、慢性鼻炎/副鼻腔炎、アレルギー性結膜炎、及び鼻ポリープ等;中耳炎、及びその他の耳や副鼻腔の感染症;さらにPDEインヒビターにより治療され得る心臓の障害、例えば心不全等、又はPDEインヒビターの組織弛緩作用により治療され得る障害、例えば腎臓結石と関連する腎臓及び尿管の疝痛等。眼及び眼の周囲を取り巻き、それに影響を及ぼす組織の炎症も治療され得る。本発明は、何らかの特別な分子機構に起因する状態の治療に限定されないが、治療可能な状態は、ヒスタミン、血小板活性化因子(PAF,platelet-activating factor)、アラキドン酸誘導体、例えばロイコトリエンやプロスタグランジン等、サイトカイン、例えばIL−1〜IL−12のいずれか、アルファ−、ベータ−、又はガンマー−インターフェロン、腫瘍壊死因子(TNF,tumor necrosis factor)等の誤発現(例えば、過剰発現)、又は酸素フリーラジカル、及びプロテアーゼと関連しているものと認識され得る。呼吸器系(鼻から肺胞にわたる呼吸器管の任意の部分を含む)、耳、又は洞に影響を及ぼす状態では、治療の対象となる状態は、粘液が過剰産生される状態であり得る。
第1の薬剤がロフルミラストである実施形態:ロフルミラストは、肺の炎症状態(例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性気管支炎と関連したCOPD、及びCOPDの増悪)を治療する際に有用である。インフルエンザ菌(NTHi)は、COPD増悪における細菌性の主要原因である。したがって、本発明の組成物及び方法は、慢性気管支炎、増悪の履歴、及びNTHiによる感染と関連した重度のCOPDを有する患者を対象として、COPD増悪のリスクを低減するために、ロフルミラストを含み得る。治療は、中等度〜重度の肝臓障害(チャイルド・ピュー分類B又はC)を有する患者では禁忌であり得る。
本明細書に記載する併用療法は、ロフルミラスト治療に関係して報告された1又は2以上の副作用を改善し得る(例えば、胃腸の問題、例えば、腹痛、下痢、悪心等;関連する兆候、例えば体重減少及び食欲不振等;頭痛;背部痛;インフルエンザ;浮動性めまい;不眠症;不安、鬱病、自殺念慮、又はその他の気分変動;鼻炎及び副鼻腔炎;並びに尿路感染症)。
COPD患者に対するロフルミラストの現在推奨される投薬量は、食物を摂取しながら又は摂取しないで1日当たり500mcg錠剤1錠である。この用量は、本発明の組成物及び方法において維持、増量、減量され得る(例えば、450〜499mcg/日;400〜450mcg/日;300〜400mcg/日;又は300mcg/日未満(例えば、100〜300mcg/日))。その他の実施形態では、皮膚疾患治療用の局所適用形態(例えば、軟膏等)は、例えば、0.1〜99%の濃度で第1及び/又は第2の活性薬剤を含み得る。吸入投与用の用量は、通常0.01〜0.5mg/kgである。全身療法の場合の通常の用量は、1日当たり0.05〜2mgである。
補助的な薬剤も含まれる場合があり、本発明の組成物は、1又は2以上の溶媒、ゲル形成剤、軟膏ベース、及びその他の活性化合物の賦形剤(例えば、酸化防止剤、分散剤、乳化剤、防腐剤、可溶化剤、又は浸透プロモーター)、又はこれらの任意の組合せと共に製剤化され得る。適する不活性化成分として、ラクトース一水和物、コーンスターチ、ポビドン、及びステアリン酸マグネシウムが挙げられる。適する医薬製剤として、例えば、粉末、エマルジョン、懸濁液、スプレー、油、軟膏、脂肪性の軟膏、クリーム、ペースト、ゲル、錠剤、丸薬、カプセル、及び溶液が挙げられる。
本明細書に記載する第1及び第2の薬剤の一方又は両方は、炎症部位に直接送達されるように製剤化され得る。例えば、患者が呼吸器系内の炎症(例えば、肺の炎症)と関連した疾患に罹患している場合、第1及び/又は第2の薬剤は、吸入により送達される多孔性の粒子として製剤化され得る。例えば、薬剤は、粉末として(好ましくは微粒子化した形態で)直接、又はその粉末を含む溶液又は懸濁液を噴霧することにより投与され得る。第1及び/又は第2の薬剤は、エアゾールとして製剤化され得る。いくつかの実施形態では、本発明の薬剤は、Aradigm社により現在販売されているAERx Essence(登録商標)肺送達デバイス及びAERx(登録商標)システムにより送達され得る。
本明細書に記載する第1及び第2の薬剤の一方又は両方は、送達プロファイル及び標的特異的組織、例えば肺組織等を改善し得るナノ粒子(例えば、治療用ナノ粒子)に組み込み可能である。ナノ粒子は、Sung et al.(Trends Biotechnol., 25(12):563-570, 2007)、又はAzarmi et al.(Advanced Drug Delivery Reviews, 60(8):863-876, 2008)に記載されているようなミクロンスケール乾燥粉末及びナノ粒子の形態であり得るが、また脂質ベース(例えば、リポソーム又はミセル)、又は非脂質ベースであり得る。リポソーム及びミセルに加え、第1及び第2の薬剤は、(例えば、共有結合した、又は非共有結合した)メソポーラスシリカナノ粒子(MSN,mesoporous silica nanoparticle)、ポリプロピレンイミン(PPI,poly propyleneimine)、量子ドット、及びポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)とも会合させ得る。本明細書に記載する第1及び第2の薬剤を含むこれら送達媒体のそれぞれは、本発明の範囲内にあり、また本明細書に記載する治療方法は、任意のそのような送達媒体と会合させた第1及び/又は第2の薬剤の投与を利用し得る。ナノ粒子を調製及び投与する方法は、当技術分野において周知されている(例えば、Garbuzenko et al., Cancer Biol. Med., 11(1):44-55, 2014を参照)。
本明細書では、病気を記載するのに用語「疾患」を使用する傾向があり、また本明細書で用いる場合、用語「疾患」には、疾病、状態、障害、感染、症候群等として文献により頻繁に記載され得る様々な病気が含まれる。
本発明の組成物及び方法は、第3の薬剤、例えばチトクロームP450酵素誘導物質(例えば、リファンピシン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、及びフェニトイン)、CYP3A4のインヒビター、又はCYP3A4とCYP1A2のデュアルインヒビター(例えば、エリスロマイシン、ケトコナゾール、フルボキサミン、エノキサシン、及びシメチジン)等を組み込むことができる。慣習的に、これらの薬剤は、ロフルミラストへの患者の全身的曝露を増加させ、したがって、有害反応の増加を引き起こすと考えられているので、そのような薬剤とロフルミラストとの併用は避けられている。但し、そのような同時使用と関連したリスクは、組成物及び治療がPDE4B2のインヒビターを含むような本発明の文脈において低下している。
[実施例]
複雑な病因及びCOPDの薬物治療の文脈において、PDE4Bがどのように上方制御されているのか、並びにこの上方制御を抑えれば、ロフルミラストの有効性を改善し、またおそらくはロフルミラストに対する耐性を緩和するのに役立つ可能性があるかより深く理解したいと考えた。下記の研究において、ロフルミラストは、COPD増悪における細菌性の主要原因である無莢膜型インフルエンザ菌(NTHi)と協働して、ヒト気道上皮細胞内のPDE4B2発現をインビトロ及びインビボで上方制御することを示す。上方制御されたPDE4B2は、酵素活性に依存する様式及び依存しない様式の両方で、ある種の重要なケモカインの誘発に寄与する。またプロテインキナーゼA触媒サブユニットβ(PKA−Cβ)及び核内因子−κB(NF−κB)p65サブユニットが、PDE4B2の相乗的誘発に必要とされることも見出した。PKA−Cβは、cAMPに依存してp65をリン酸化する。さらに、p65のSer276は、PKA−Cβに誘発されたp65のリン酸化及びPDE4B2の相乗的誘発との関わりにおいて重要である。まとめとして、本発明のデータは、PKA−Cβ及びp65間の相互応答を介したPDE4B2の相乗的上方制御の基礎をなす新規の機構を明らかにし、またPDE4インヒビター、例えばロフルミラスト等の有効性を改善する新規治療戦略の開発根拠を提供する(図1を参照)。
下記の材料及び方法が、以下に記載する実施例で採用された。
試薬及び抗体。アクチノマイシンD及びプロテアーゼインヒビターカクテル(PIC,protease inhibitor cocktail)を、Sigma-Aldrich社からを購入した。ミリストイル化PKAインヒビター及びIKKβインヒビターIVをEMD Millipore社から購入した。ロフルミラストを、Santa Cruz Biotechnology社から購入した。N6−フェニル−cAMP(6−Phe−cAMP)、8−pCPT−2’−O−Me−cAMP、及びRp−8−CPT−cAMPSを、BioLog社から購入した。ホルスコリンを、Enzo Life Sciences社から購入した。Phos−tagアクリルアミドを、Wako Chemicals USA社から購入した。組換えp65タンパク質を、Active Motif社から購入した。組換えPKA−Cβタンパク質を、R&D systems社から購入した。PKA−Cβ(sc−904)、p65(sc−8008)、β−アクチン(sc−8432)、α−チューブリン(sc−69969)、PDE4B(sc−25812)、及びTFIIB(sc−225)に対する抗体を、Santa Cruz Biotechnology社から購入し、またPKA−Cβ(#4782)及びc−Rel(#4727)に対する抗体を、Cell Signaling社から購入した。
菌株及び培養条件。NTHi株12の臨床分離株を、本研究で用いた(Ishinaga et al., EMBO J., 26(4):1150-1162, 2007)。細菌をチョコレート寒天プレート上、37℃にて、5%CO2の大気中、一晩増殖させ、そしてその後、3.5μg/mLのNAD及びヘモグロビンが補充されたブレーンハートインフュージョン(BHI,brain heart infusion)ブロス(BD Biosciences社)内でイノキュレーションした。一晩インキュベーションした後、細菌を、新鮮なブロス内で継代培養し、そして対数期の細菌を、光学濃度(OD,optical density)値を測定することによりモニタリングし、インビトロ細胞実験用としてそれをDMEMで洗浄、懸濁し、またインビボ動物実験用として等張性の生理食塩水中に懸濁した。用量依存性実験を除くすべてのインビトロ実験では、NTHiによる処理は、感染多重度(MOI,multiplicity of infection)50で行った。
細胞培養。以下に記載するすべての培地には、10%ウシ胎仔血清(Sigma-Aldrich社)が補充された。ヒト気管支上皮BEAS−2B細胞を、RPMI培地(Life technologies社)(ATCC(登録商標)CRL−9609(商標))内で維持した。ヒト一次気管支上皮NHBE(Lonza社)細胞を、BEGM SingleQuotsが補充された気管支上皮増殖培地(BEGM,bronchial epithelial growth media)内で維持した(Jono et al., J. Biol. Chem. 277(47):45547-45557, 2002)。ヒトPDE4B2を安定的に発現するBEAS−2B細胞(PDE4B2−安定細胞)を、ジェネテシン選択(300μg/mL)後のプラスミドトランスフェクションにより取得した。細胞を加湿された5%CO2の大気中、37℃で培養した。
リアルタイム定量及び半定量RT−PCR分析。全RNAを、TRIzol試薬(Life technologies社)を用いて、製造業者の指示に従い単離した。逆転写反応では、TaqMan逆転写試薬(Life technologies社)を、これまでの記載のとおり用いた。定量的RT−PCR分析では、PCR増幅を、SYBR Green Universal Master Mix(Life technologies社)を用いて実施した。要するに、2×Universal Master Mix、1μLのテンプレートcDNA、及び500nMのプライマーを含む、最終容積12.5μL中で、反応を3回実施し、そして反応を、96穴光学反応プレート(USA Scientific社)内で分析した。StepOnePlus Real-Time PCRシステム、及び製造業者の対応するソフトウェア(StepOnePlusソフトウェアv2.3;Life technologies社)を用いて、反応を増幅及び定量化した。比較Ct法を用いて、mRNAの相対量を取得し、そして内在性コントロールとしてヒトシクロフィリン又はマウスグリセルアルデヒド−3−ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH,glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)を用いて標準化した。半定量RT−PCR分析では、PrimeSTAR Maxポリメラーゼ(Takara社)を用いて、製造業者の指示に従いPCR増幅を実施した。用いたプライマー配列を下記の表に記載する。
プラスミド、トランスフェクション、及びルシフェラーゼアッセイ。発現プラスミド、構成的活性型のIKKα(IKKα−CA、S176E/S180E)、及びIKKβ(IKKβ−CA、S177E/S181E)、及びドミナントネガティブ型のIκBα(IκBα−DN、S32A/S36A)は、これまでに記載されている(Shuto et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(15):8774-8779, 2001; Ishinaga et al.、前出)。NF−κB(pGL4.32)のルシフェラーゼレポーター構築物を、Promega社から購入した。ヒトPDE4B2、p65(RelA)、及びPKA−Cβ1/2cDNA配列を作製し、そしてpcDNA3.1/mycHis(−)ベクターのBamHI及びHindIII部位に挿入した。PrimeSTAR Max(Takara社)を用いて、変異体p65及びPDE4B2−D392Aを作製した。空ベクターを対照として用い、また必要な場合には、インプットDNAの量が等しいことを保証するために追加した。すべての一過性トランスフェクションを、TransIT-LT1試薬(Mirus社)を用いて、製造業者の指示に従い、3回実施した。
siRNAにより媒介されたノックダウン。ヒトの妥当性確認されたsiRNAオリゴを、GE Healthcare社から取得した(陰性対照、D001810−10;PDE4B、L007648−01;PKA−Cα、M004649−01;PKA−Cβ、M004650−00;p65、L003533−00;c−Rel、L004768−00)。DharmaFECT-4(Thermo Scientific社)を用いて、細胞に50nMのsiRNAをトランスフェクトし、そして48時間後に収集又は処理した。DNAと共にsiRNAを共トランスフェクトする際には、Lipofectamine 3000(Life technologies社)を用いて、細胞に10nMのsiRNAをトランスフェクトした。
細胞成分分画。細胞を2回洗浄し、氷冷PBSで矯正し、そして3,000×gで5分間遠心分離した。次に、細胞をバッファーA(1mMのNa3VO4及びPICが補充された10mMのHEPES(pH7.4)、10mMのKCl、0.1mMのEDTA、0.1mMのEGTA、1mMのDTT)に懸濁し、そして氷上で10分間インキュベーションした(Schreiber et al., Nucleic Acids Res. 17(15):6419, 1989)。NP40(0.5%)を添加し、15秒間ボルテックス処理することにより細胞を溶解し、次に、3,000×gで5分間遠心分離した後、上清を除去した(サイトゾル画分)。析出物を、バッファーB(1mMのNa3VO4及びPICが補充された20mMのHEPES(pH7.5)、5mMのNaCl、1mMのEDTA、1mMのEGTA、1mMのDTT)中に再懸濁し、そして氷上で10分間インキュベーションした後、ボルテックス処理し、16,000×gで15分間遠心分離して上清を回収した(核画分)。
ウェスタンブロット。全細胞抽出物及びマウス肺組織抽出物を、溶解バッファー(1mMのNa3VO4及びPICが補充された50mMのトリス−HCl(pH7.4)、1%のNP40、0.25%のデオキシコール酸塩、150mMのNaCl、1mMのEDTA、1mMのNaF)を用いて回収した。PDE4Bタンパク質では、細胞抽出物を、上記バッファーAを用いて回収した。細胞又は組織抽出物を8%のSDS−PAGEゲル上で分離し、そして二フッ化ポリビニリデン(PVDF,polyvinylidene difluoride)膜(GE Healthcare Life Sciences社)に転写した。膜を、0.1%のツイーン20(TBS−T)及び5%の脱脂粉乳を含有するTBS溶液でブロックした。次に、一次抗体を5%のBSA−TBS−Tで1:1,000〜1:2,000に稀釈した中で、膜をインキュベーションした。TBS−Tで洗浄後(×3)、対応する二次抗体を2.5%の脱脂粉乳−TBS−Tで1:5,000に稀釈して、膜をインキュベーションした。Amersham ECL Prime Regent(GE Healthcare Life Sciences社)を用いて、各タンパク質を可視化した。
免疫沈降法。細胞抽出物を、一次抗体1μgと共に、4℃、一晩インキュベーションし、その後、プロテインG PLUS−アガロースビーズ(Santa Cruz Biotechnology社)と共に2時間インキュベーションした。次に、免疫沈降物を試料バッファーに懸濁し、8%のSDS−PAGEゲル上で分離し、PVDF膜に転写し、そして上記のようにイムノブロット分析法により検出した。
PDE4活性。PDE4B2構築物をトランスフェクトした細胞から得られた全細胞抽出物のPDE4活性を、環状ヌクレオチドPDEアッセイキット(Enzo Life Sciences社)を用い、製造業者の指示に従って測定した。総PDE活性及びロフルミラスト耐性PDE活性間の差異から、PDE4活性を見積もった。
Phos−tag PAGE。EDTA/EGTAを用いないで回収した組換えp65タンパク質又は核抽出物を、製造業者の指示に従い、50μMのMn2+−Phos−tagアクリルアミドを含有する6%のゲルを用いてSDS−PAGEにより分離し、そしてPVDF膜に転写した(Kinoshita et al., Mol. Cell. Proteomics 5(4):749-757, 2006)。
インビトロキナーゼアッセイ。組換えp65タンパク質(70ng)及び組換えPKA−Cβ(50ng)を、キナーゼアッセイバッファー(20mMのHEPES(pH7.5)、1MのMgCl2、1mMのDTT、10mMのATP)中で混合し、そして30℃で0.5時間インキュベーションした。4×SDS試料バッファー(0.24Mのトリス−HCl(pH6.8)、40%のグリセロール、8%のSDS、20%の2−メルカプトエタノール、0.04%のブロモフェノールブルー)を添加して反応を停止した。
マウス及び動物実験。C57BL/6Jマウス(7週齢)におけるNTHi誘発型の炎症では、麻酔下のマウスの気管内に、マウス1匹当たり5×107CFUの濃度でNTHiをイノキュレーションし、また対照として生理食塩水をイノキュレーションした。次に、NTHiイノキュレーション後5時間経過して、イノキュレーションされたマウスを屠殺した。阻害試験では、NTHiイノキュレーション前2時間において、マウスの腹腔内にロフルミラストで事前処理を行った。すべての動物実験は、ジョージア州立大学の動物管理使用委員会(IACUC,Institutional Animal Care and Use Committee)より承認を受けた。
免疫蛍光染色。ホルマリン固定、パラフィン包埋されたマウス肺組織を切片化し(4μm)、そしてPDE4Bタンパク質を、ウサギ抗PDE4B及びFITC結合型ヤギ抗ウサギIgG(Santa Cruz Biotechnology社)を用いて検出した。次に、染色した切片を画像化し、そして光学及び蛍光−顕微鏡検査システム(AxioVert 40 CFL、AxioCam MRC、及びAxioVision LE Image system、Carl Zeiss社)の下で画像を記録した。
統計分析。すべての実験を少なくとも3回反復して一貫した結果を得た。データは、平均値±SDとして示した。統計分析を不対の両側スチューデントのt検定により実施し、p<0.05は、統計的に有意とみなした。
実施例1:ロフルミラストは、NTHiと協働して、インビトロ及びインビボでPDE4B2の発現を上方制御する。PDE4アイソフォームの発現は、PDE4インヒビターにより誘発され(Campos-Toimil et al., Br. J. Pharmacol. 154(1):82-92, 2008; Dlaboga et al., Brain Res., 1096(1):104-112, 2006; Giorgi et al., Behav. Brain Res. 154(1);99-106, 2004)、またPDE4BもNTHiにより誘発されるので(Komatsu et al., Nat. Commun. 4:1684, 2013)、ロフルミラストは、NTHiと協働して、ヒト気道上皮細胞(BEAS−2B細胞)内でPDE4Bの発現を誘発するかどうか、その解明を試みた。図2A及びBに示すように、定量PCR(Q−PCR)分析により評価されたとおり、ロフルミラストは、確かにNTHiと協働して、ヒト気管支上皮BEAS−2B細胞において、mRNAレベルで、PDE4Bの発現を用量に依存して上方制御した。類似した結果を、一次の正常ヒト気管支上皮(NHBE,normal human bronchial epithelial)細胞においても確認した(図2C)。その他のPDE4ファミリーメンバーの発現についても、同一条件下で分析し、PDE4A及び4Cは、NTHi又はロフルミラストにより上方制御されないことを見出した。PDE4Dは、NTHi又はロフルミラストにより上方制御されたが、有意な相乗的効果は認められなかった。これから、PDE4Bが特にNTHi及びロフルミラストによって相乗的に制御されることが示唆される。PDE4Bの相乗的誘発が転写レベルで生ずるかさらに決定するために、BEAS−2B細胞を、転写インヒビターであるアクチノマイシンD(ActD)で処理した(転写開始複合体のDNAに結合し、そしてRNAポリメラーゼによりRNAの伸長を阻止することにより転写を阻害すると考えられている;Sobell, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82(16):5328-5331, 1985)。ActDは、NTHi及びロフルミラストによるPDE4Bの誘発を完全に阻止し、PDE4Bの相乗的誘発が転写レベルで生ずることが示唆される(図2D)。次に、ロフルミラストが、NTHiと協働してPDE4Bの発現をインビボで上方制御するか確認した。インビトロでの結果と整合して、ロフルミラストは、マウス肺において、NTHi誘発型のPDE4B発現を、mRNAレベルで相乗的に増強した(図2E)。
どのPDE4BアイソフォームがNTHi及びロフルミラストにより上方制御されるか決定するために、半定量RT−PCR分析も実施した。ヒトPDE4B遺伝子は、いくつかの異なるアイソフォーム、いわゆる長尺型のPDE4B1及びPDE4B3、短尺型のPDE4B2、及び超短尺型のPDE4B5をコードする(Huston et al., Biochem. J. 328(Pt 2):549-558, 1997; Cheung et al., J. Pharmacol. Exp. Ther. 322(2):600-609, 2007; Bolger et al., Mol. Cell Biol. 13(10):6558-6571, 1993; Colicelli et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86(10):3599-3603, 1989; Zhang, Curr. Pharm. Des. 15(14):1688-1698, 2009)。別の長尺型のPDE4B4については、そのcDNAはラットでのみクローン化されており、このアイソフォームは、ヒトゲノムによりコードされていないと思われるので、検討することはできなかった(Shepherd et al., Biochem. J., 370(Pt 2):429-438, 2003)。図2Fに示すとおり、PDE4B2の発現は、ロフルミラスト及びNTHi又はTNF−αにより相乗的に上方制御された。PDE4B1、PDE4B3、及びPDE4B5については、BEAS−2B細胞内で40サイクルの増幅を行った後でさえも、増幅後のPCRバンドは検出されなかった。
PDE4B2発現の相乗的誘発は、タンパク質レベルでも、インビトロ及びインビボで確認された(図2G〜I)。気道上皮細胞抽出物及びマウス肺組織抽出物のウェスタンブロット分析により、NTHi及びロフルミラストは、過剰発現したヒトPDE4B2タンパク質と共に泳動される約70kDaのPDE4Bアイソフォームの増加を誘発することが判明した(図2G及び2H)(Huston et al., Biochem. J. 328(Pt 2):549-558, 1997; Marquette et al., Nat. Struct. Mol. Biol., 18(5):584-591, 2011; Millar et al., Science, 310(5751):1187-1191, 2005; Yougbare et al., Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol., 301(4):L441-L450)。免疫蛍光染色は、高強度のPDE4B免疫蛍光シグナルが、マウス肺組織の気管支上皮に主として検出されたことを示した(図2I、矢印)。やはり、ロフルミラスト及びNTHiにより引き起こされたPDE4B2タンパク質発現の上方制御に起因して、PDE4Bの酵素活性も増加した。総じて、本発明のデータから、ロフルミラストは、mRNAレベル及びタンパク質レベルの両方において、インビトロ及びインビボで、NTHiと協働して、PDE4B2の発現を特異的に上方制御することが示唆される。
実施例2:PDE4B2は、炎症促進性メディエーターのNTHi誘発型の発現に必要とされる。次に、ヒト気道上皮細胞に生ずるNTHi誘発型の炎症反応において、PDE4B2の発現が果たす役割について、その解明を試みた。サイトカイン及びケモカインを含む炎症促進性メディエーターは、気道の炎症性疾患において、白血球が循環系から肺に導入され、そして活性化される際に、重要な役割を演ずる(Donnelly and Barnes, Trends Pharmacol. Sci., 27(10):546-553, 2006; Le et al., Cell Mol. Immunol., 1(2):95-104, 2004; Quint and Wedzicha, J. Allergy Clin. Immunol., 119(5):1065-1071, 2007)。気道上皮細胞は、病原性微生物により誘発された炎症促進性メディエーターの重要な供給源である(Hallstrand et al., Clin. Immunol., 161(1):1-15, 2014)。したがって、NTHiは、COPDの病因において重要であることが明らかにされているいくつかの重要な炎症促進性メディエーターの発現を誘発するか、最初に確認した。NTHiは、BEAS−2B細胞において、CCL5、CCL7、CXCL10、CXCL11、インターロイキン−8(IL−8,Interleukin-8/CXCL8)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF,granulocyte-macrophage colony-stimulating factor)、及びTNF−αの発現を有意に上方制御することを見出した。興味深いことに、ロフルミラストは、これらの炎症促進性メディエーターのNTHi誘発型発現を、様々な程度で阻害した。ロフルミラストは、TNF−α及びGM−CSFの誘発を顕著に阻害したが、CCL5、CCL7、及びIL−8の誘発に対しては、中程度に抑制した。対照的に、ロフルミラストは、より高濃度であっても、CXCL10及びCXCL11の誘発に対しては阻害効果をほとんど示さなかった。このような興味深い結果から、これらの炎症促進性メディエーターの抑制において、ロフルミラストの有効性は低い又は限定的であるが、それはNTHiの存在下で、ロフルミラストはPDE4B2の発現を上方制御することに起因し得るという仮説が導かれる。したがって、PDE4B siRNAを用いて、NTHiによるこれらの炎症促進性メディエーターの誘発に対するPDE4B2枯渇の効果を評価することによりPDE4B2の寄付を決定した。予期したとおり、PDE4B siRNAは、BEAS−2B細胞におけるPDE4B2発現を顕著に枯渇させた(図3)。PDE4B2の枯渇は、ロフルミラスト単独によって中程度又は最低限度で阻害されたCCL5、CCL7、CXCL10、及びCXCL11(グループA)の誘発をさらに有意に阻害した。対照的に、PDE4B2の枯渇は、ロフルミラスト単独によって中程度又は顕著に阻害されたIL−8、GM−CSF、及びTNF−α(グループB)の誘発に対しては最低限度で影響を及ぼすに過ぎなかった。
PDE4Dは、NTHi及びロフルミラストによっても上方制御されたが、また過去の研究では、PDE4Dは、PDE4Bとは異なる、非冗長的な役割を有することが示唆された(Ariga et al., J. Immunol., 173(12):753107538, 2004; Blackman et al., J. Biol. Chem., 286(14):12590-12601, 2011)。したがって、炎症促進性メディエーターのNTHi誘発型発現に対するPDE4Dの枯渇の効果についても評価した。グループAに属するケモカインの誘発は、PDE4Dの枯渇により弱められるが、その程度はPDE4Bの枯渇と比較してかなり小さい。グループBに属するケモカイン及びサイトカインの誘発は、PDE4Dの枯渇により影響を受けなかった、又はわずかながらも増強された。まとめとして、これらの結果から、炎症促進性メディエーターが異なれば、PDE4B及び4Dによる制御も異なり、そしてPDE4Bの発現は、気管支上皮細胞内で生ずるCCL5、CCL7、CXCL10、及びCXCL11のNTHi誘発型発現においてより重要な役割を演ずることが示唆される。
ケモカインのNTHi誘発型発現におけるPDE4B2の上方制御の役割をさらに確認するために、野生型PDE4B2を安定的に過剰発現する細胞を開発した(PDE4B2−安定細胞)。PDE4B2−安定細胞におけるPDE4B2の発現は、模擬的にトランスフェクトされた(模擬的)細胞と比較してそれよりも高かった(図4A)。CCL5、CCL7、CXCL10、及びCXCL11のNTHi誘発型発現は、模擬的細胞と比較して、PDE4B2−安定細胞において有意に増強された(図4B)。興味深いことに、ロフルミラストは、試験した最高濃度(10μM)であっても、PDE4B2−安定細胞において、これらケモカインのNTHi誘発型発現を完全に阻害することはできなかった。とりわけ、CXCL10及びCXCL11のNTHi誘発型の発現は、PDE4B2−安定細胞において、低用量のロフルミラスト(1μM未満)により、わずかにではあるが増強された(図4B)。PDE4Bの枯渇から得られた結果と整合して、PDE4B2が過剰発現しても、ロフルミラストの存在下でNTHiにより誘発されたIL−8、GM−CSF、及びTNF−αの発現は顕著に増加しなかった。総じて、これらの結果から、PDE4B2は、NTHi及びロフルミラストにより相乗的に上方制御されるが、気管支上皮細胞内で生ずるCCL5、CCL7、CXCL10、及びCXCL11の誘発抑制において、ロフルミラストの有効性低下に、少なくとも部分的に寄与する可能性があることが示唆される。
PDE4の酵素活性は、炎症反応を制御するのに重要であることが、これまでに明らかにされている(Bender and Beavo, Pharmacol. Rev., 58(3):488-520, 2006; Lipworth, Lancet, 365(9454):167-175, 2005; Karlsson et al., Int. Arch. Allergy Immunol., 107(1-3):426-426, 1995; Michalski et al., Clin. Pharmacol. Ther., 91(1):134-142, 2012)。但し、本発明のデータより、上方制御されたPDE4B2は、高用量のロフルミラストによっても克服することができないような方式で(最大10μM;IC50は1nM未満と見積もられているので、この薬物においては非常に高レベル)、特定の炎症促進性メディエーターを誘発することが判明した(Bender and Beavo、前出)。これらの非常に興味深いが、かなり予期せぬ結果から、したがって、PDE4B2は、その良く知られた酵素活性とは独立に、例えばアダプタータンパク質として作用することにより、これらケモカインの発現を少なくともある程度制御し得るという仮説が導かれる。この仮説を検証するために、野生型PDE4B2(PDE4B2−WT)及び触媒的に不活性化型のPDE4B2(PDE4B2−D392A)の発現が、NF−κB依存性プロモーター活性及びケモカイン誘発に与える効果を比較した(Mongillo et al., Circ. Res., 95(1):67-75, 2004; Xu et al., Science, 288(5472):1822-1825, 2000)。PDE4B2−WT及びPDE4B2−D392Aの両方は、トランスフェクトされたBEAS−2B細胞内で同じように発現されたが、PDE4活性は、PDE4B2−D392A変異体をトランスフェクトした細胞では、PDE4B2−WTをトランスフェクトした細胞よりも有意に低かった。PDE4B2−WTは、NF−κB(IκB)キナーゼβ(IKKβ−CA)の構成的活性型インヒビターにより誘発されたNF−κBプロモーターの活性を、用量依存的に顕著に増強し、またIKKβ−CAにより誘発されたグループA−ケモカインの発現も増強したことが見出された。興味深いことに、PDE4B2−D392Aは、IKKβ−CAにより誘発されたNF−κBプロモーター活性及びケモカインの発現を、PDE4B2−WTと比較して程度こそ小さいものの増強した。さらに、ロフルミラスト(最大10μM)は、PDE4B2−D392Aをトランスフェクトした細胞内で、IKKβ−CAにより誘発されたNF−κBプロモーターの活性、及びグループA−ケモカインの発現を完全に阻害することはできなかった。総じて、これらの結果から、PDE4B2は、PDE酵素活性に依存する様式及び依存しない様式の両方で炎症反応を増強し、ロフルミラストに対する耐性に寄与している可能性があることが示唆される。
実施例3:PKA−CαではなくPKA−Cβが、PDE4B2の相乗的誘発に必要とされる。PDE4B2の相乗的誘発の基礎をなす機構を調べるために、ロフルミラストによって増加するcAMPがPDE4B2の相乗的誘発に関与するかどうか最初に検討した。強力なcAMPエレベーターであるホルスコリン(FSK)は、NTHiと協働してPDE4B2の発現を上方制御した。これから、cAMPがBEAS−2B細胞におけるPDE4B2の相乗的誘発に関与していることが示唆される。したがって、普遍的に発現した2つの細胞内cAMPエフェクター、すなわちPKA及びcAMPにより直接活性化される交換タンパク質(Epac,exchange protein directly activated by cAMP)の関与についてさらに調べた。特異的PKAインヒビター(PKI,PKA inhibitor)は、NTHi及びロフルミラストによるPDE4B2の相乗的誘発を有意に抑制した。ポリペプチドTTYADFIASGRTGRRNAIHD(配列番号3)であるこのインヒビターは容易に合成可能であるが、またSanta Cruz Biotechnologies社からも入手可能である。PKI及びその活性断片又は変異体(例えば、それと少なくとも80%(例えば、85%、90%、又は95%)同一であるポリペプチド)は、PKA−Cβを阻害する本発明の組成物及び方法で利用可能である。この結果と整合して、Epacを活性化させないPKA−選択的活性化因子6−Phe−cAMPは、NTHi誘発型のPDE4B2発現を相乗的に増強した。対照的に、Epac−選択的活性化因子8−pCPT−2’−O−Me−cAMPは、PDE4B2の発現を誘発するのに、NTHiとそれほど顕著に協働することはなかった。これらの結果から、EpacではなくPKAのcAMP依存性の活性化が、気管支上皮細胞におけるPDE4B2の相乗的誘発に必要とされることが示唆される。
PKAは、2つの触媒(C)サブユニットと2つの制御(R)サブユニットからなる四量体酵素である。cAMPがRサブユニットと結合すると、CサブユニットのRサブユニットによる阻害が緩和され、そして多種多様なタンパク質基質がリン酸化される(Krebs and Beavo, Annu. Rev. Biochem., 48:923-959, 1979; Levitan, Annu. Rev. Physiol., 56:193-212, 1994; Montminy et al., Trends Neurosci., 13(5):184-188, 1990; Gamm et al., J. Biol. Chem., 271(26):15736-15742, 1996; Padmanabhan et al., J. Biol. Chem., 288(20):14158-14169, 2013)。3つのCサブユニットアイソフォーム、PKA−Cα、−Cβ、及び−Cγは、ヒトにおいて識別されたが、但し、Cγは精巣特異的である(Beebe et al., Mol. Endocrinol., 4(3):465-475, 1990)。次に、特異的siRNAを用いてPKA−Cα及び−Cβを枯渇させることにより、どのPKAアイソフォームがPDE4B2の相乗的誘発に関与するかを決定した。ウェスタンブロット解析により、PKA−Cα及びCβのタンパク質発現が、siRNAをトランスフェクトした細胞において、効果的且つ選択的にそれぞれ減少したことが判明した(図5)。興味深いことに、NTHi及びロフルミラストによるPDE4B2の相乗的誘発は、PKA−Cβの枯渇により有意に弱められたが、一方PKA−Cα枯渇細胞では、わずかながらも抑制が認められた。次に、ロフルミラストの存在下でNTHiにより誘発される、炎症促進性メディエーターの上方制御に対するPKA−Cβ枯渇の効果を決定した。炎症促進性メディエーターの発現に対するPKA−Cβ枯渇の阻害効果は、PDE4B2枯渇効果ときわめて整合するが、但し、PKA−Cβの枯渇は、CCL7及びGM−CSFの上方制御を弱めたが、その程度はPDE4B2枯渇よりも大きかった点を除く。これらの結果から、PKA−Cβは、NTHi及びロフルミラストにより誘発されたPDE4B2及び炎症促進性メディエーターの相乗的上方制御において、重要なポジティブレギュレーターとして作用することが示唆される。NTHi誘発型の炎症促進性メディエーターの一部は、PKA−Cαの枯渇により増加さえしたが、それは、その他の細胞型で報告されたPKA−Cαの抗炎症効果と整合する(Ollivier et al., J. Biol. Chem., 271(34):20828-20835, 1996)。
cAMP応答エレメント(CRE,cAMP response element)は、ラットニューロン内で生ずるPDE4B2発現の上方制御において特に重要な役割を演じていることが明らかにされているので(D’Sa et al., J. Neurochem., 81(4):745-757, 2002)、普遍的に発現した2つのPKA依存性転写因子であるCRE結合タンパク質(CREB,CRE-binding protein)、及び活性化転写因子1(ATF1、activating transcription factor 1)(Mayr and Montminy, Nat. Rev. Mol. Cell Biol., 2(8):599-609, 2001)について、BEAS−2B細胞内で生ずるNTHi及びロフルミラストによるPDE4B2の相乗的誘発に対するその関与を検討した。興味深いことに、CREB又はATF1が枯渇すると、PDE4B2の相乗的誘発が低下したが、その程度はPKA−Cβの枯渇と比較してかなり小さかった。これらの結果から、PKA−Cβのその他の下流分子が、気管支上皮細胞内で生ずるPDE4B2の相乗的誘発においてより重要な役割を演じている可能性があることが示唆される。それにもかかわらず、本発明のデータは、PKA−CαではなくPKA−Cβが、NTHi及びロフルミラストによるPDE4B2の相乗的誘発において重要であることを示唆する。
実施例4:c−RelではなくIKKβ−p65が、PDE4B2の相乗的誘発に必要とされる。NTHiは、IKKβの強力な活性化因子として公知(IKK2としても公知)であり、NF−κB依存性の炎症反応の活性化を引き起こすので(Shuto et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98(15):8774-8779, 2001; Oeckinghaus and Ghosh, Cold Spring Harb. Perspect. Biol., 1(4):a000034, 2009; Chen et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 324(3):1087-1094, 2004)、PDE4B2の相乗的誘発におけるIKKβ−NF−κBシグナリングの必要性について検討した。IKKβの役割について最初に評価した。IKKβインヒビターは、NTHi及びロフルミラストによるPDE4B2の相乗的誘発を有意に阻害したが、ロフルミラスト単独によるPDE4B2の誘発には影響を及ぼさなかった。IKKβが活性化すると、その活性化がロフルミラストと相乗的に作用してPDE4B2の相乗的上方制御を確かに誘発するか、さらに決定するために、BEAS−2B細胞に、構成的に活性型のIKKα(IKKα−CA)及びIKKβ(IKKβ−CA)をトランスフェクトした。PDE4B2の発現は、IKKα−CA−トランスフェクト細胞ではなくIKKβ−CA−トランスフェクト細胞において、ロフルミラスト又はPKA活性化因子6−Phe−cAMPにより相乗的に増強されることが見出された。さらに、IKKβの下流分子であるIκBαのドミナントネガティブ変異体(IκBα−DN,dominant-negative mutant of IκBα)が発現すると、IKKβ−CA−トランスフェクト細胞において、IKKβ−CAにより誘発されたPDE4B2の発現、及びロフルミラストによるPDE4B2の相乗的誘発が完全にブロックされることも実証された。これらの結果から、IKKβ−IκBαシグナリング経路が、PDE4B2の相乗的誘発に必要とされることが示唆される。
IκBαは、p65及びc−Relを含むNF−κB複合体の活性化及び核移行を阻止するが、NF−κB複合体は、PKA−Cα及びPKA−Cβによりそれぞれ活性化されることがこれまでに知られている(Gerlo et al., Cell Mol. Life Sci., 68(23):3823-3841, 2011; Yu et al., J. Mol. Med. (Berl.), 82(9):621-628, 2004; Zhong et al., Cell, 89(3);413-424, 1997; Zhong et al., Mol. Cell., 1(5):661-671, 1998)。したがって、NTHiがp65及びc−Relの核移行を誘発するかどうか、最初に調べた。BEAS−2B細胞において、p65及びc−Relの両方が、NTHi処理後60分以内に、核に移行することを見出した。これらの結果から、siRNAを用いてp65又はc−Relを選択的に枯渇させることにより、PDE4B2の相乗的誘発に対するp65及びc−Relの必要性をさらに決定することにした。c−Relではなくp65の枯渇が、NTHi及びロフルミラストの両方によるPDE4B2の相乗的誘発、又はロフルミラスト単独によるのではなく、NTHi単独によるPDE4B2の誘発を有意に阻害することが見出されたが、これによりNTHi誘発型のPDE4B2発現におけるp65の重要な役割が示唆される。p65の過剰発現が、ロフルミラストと協働してPDE4B2を誘発するかどうかさらに決定した。ロフルミラストは、p65−トランスフェクト細胞において確かにPDE4B2の発現を相乗的に増強した。まとめとして、本発明のデータから、IKKβ−IκBα−p65シグナリング経路が、気管支上皮細胞内で生ずるPDE4B2の相乗的誘発に必要であることが実証される。
実施例5:PKA−Cβはp65をリン酸化する。PKA−Cβがp65とどのように相互作用し、またこれらの分子がどのように協働してPDE4B2の発現を上方制御するかさらに決定するために、最初に、共免疫沈降実験を実施してp65がPKA−Cβと物理的に会合しているか調べた。p65及びPKA−Cβは、p65及びPKA−Cβの両方をトランスフェクトしたBEAS−2B細胞において、物理的に相互に会合していることを見出した。さらに、そのような相互作用は、NTHiと共にロフルミラストで同時処理することにより増強された。ロフルミラストは、BEAS−2B細胞において、p65又はPKA−Cβの核発現レベルに影響を及ぼさないことを見出した。したがって、次に、PKA−Cβがp65のリン酸化に影響を及ぼすかどうか検討した。p65の複数の残基におけるリン酸化は、p65の様々な機能、例えばDNA結合及び転写活性等を制御することが明らかにされている(Huang et al., Cell Signal, 22(9):1282-1290, 2010; Chaturvedi et al., Oncogene, 30(14):1615-1630, 2011)。但し、p65のリン酸化を制御する際のPKA−Cβの役割は、なおも不明のままである。p65のリン酸化を評価するために、リン酸結合型のtagに基づく新規方法であるリン酸アフィニティー(Phos−tag)PAGEを実施したが、同方法は、リン酸化されたタンパク質が、リン酸化されないタンパク質から分離可能となるように、リン酸化されたタンパク質の移動スピードが特に低下するように開発された(Kinoshita et al., Mol. Cell. Proteomics, 5(4):749-757, 2006)。NTHiと共にロフルミラストで同時処理すると、p65のリン酸化を誘発したが、それはcAMP依存性のPKA活性化の特異的インヒビターであるRp−8−CPT−cAMPSにより阻害された。PKA−Cβの枯渇又はH89処理は、類似した阻害効果を示した。これらの結果と整合して、cAMP依存性のPKA選択的活性化因子6−Phe−cAMPも、このリン酸化を誘発した。とりわけ、NTHi単独では、BEAS−2B細胞において類似したリン酸化は誘発されなかった。これから、cAMPによるPKA−Cβの活性化が、p65のリン酸化に必要とされることが示唆される。また、BEAS−2B細胞内のCβの主要なサブタイプであるPKA−Cβ1が過剰発現すると、p65のリン酸化が誘発されたが、その誘発は、p38インヒビター(SB203580)でも、またERKインヒビター(PD98059)でもなく、H89により阻害されことも見出された。これらの結果から、PKA−Cβ1は、p38、ERK、又はp65をリン酸化することが明らかにされているその下流キナーゼMSK1(マイトジェン活性化及びストレス活性化キナーゼ1,mitogen- and stress-activated kinase 1)の活性化とは独立に、p65を直接リン酸化することが示唆される(Gerits et al., Cellular Signalling, 20(9):1592-1607, 2008; Joo and Jetten, J. Biol. Chem., 283(24):16391-16399, 2008; Reber et al., PloS one 4(2):e4393, 2009)。PKAコンセンサスリン酸化配列(RRXS/T)について調査すると、セリン第276番残基(Ser276)が、潜在的PKAリン酸化部位であることが判明し(Songyang et al., Curr. Biol., 4(11):973-982, 1994)、PKA−CαはSer第276番残基でp65をリン酸化することを示した過去の試験成績と整合する(Zhong et al., 1998 and Zhong et al., 1998、前出)。p65が、PKA−CβによってもSer276においてリン酸化されるか決定するために、BEAS−2B細胞にp65のリン酸化欠損変異体(S276A)をトランスフェクトし、そしてPhos−tag PAGEにより分析した。その他のキナーゼによりリン酸化されることが公知の、その他のセリン残基が突然変異したp65構築物(S468A、S529A、及びS536A)についても分析した。PKA−Cβにより誘発されたリン酸化の強度比は、野生型p65−トランスフェクト細胞と比較して、S276A−及びS536A−トランスフェクト細胞で低下した。PDE4B2を誘発する際の、これら残基におけるp65のリン酸化について、その機能的関与をさらに決定するために、異なるこれらのp65リン酸化部位変異体をトランスフェクトした細胞内で生ずるPDE4B2の発現について検討した。ロフルミラスト及びNTHiは、p65変異体S276Aではなく、S468A、S529A、及びS536Aをトランスフェクトした細胞内で、PDE4B2の発現を相乗的に増強した。次に、p65の転写活性に対する、PKA−CβによるSer276のリン酸化の効果を、NF−κBプロモーター活性分析を実施することにより決定した。PKA−Cβ1と共に共トランスフェクトすると、p65により誘発されたNF−κBプロモーター活性が有意に増強したが、p65のS276A変異体を同時発現させることにより阻止された。総じて、これらの結果から、ロフルミラスト及びNTHiは、PKA−Cβとp65との物理的相互作用を高め、それは次にSer276におけるp65のリン酸化、そしてその後、p65依存性の転写活性の上方制御を引き起こすことが示唆される。
実施例6:デキサメタゾンは、NTHi及びRofによるPDE4Bの誘発を抑制し、またインビトロでの肺上皮細胞及びマウス肺におけるNTHi誘発型の炎症を抑制する際のRofの有効性を改善する。BEAS−2B細胞を、Rof(1μM)、FSK(1μM)、Iso(0.1μM)、及びDEX(10nM)で1時間事前処理し、その後にNTHiで1.5時間刺激し、そしてPDE4B mRNA発現をQ−PCRにより分析した(図7A及び7B)。BEAS−2B細胞も、Rof(0.1μM)及びDEX(6.5nM)で1時間事前処理し、その後にNTHiで1.5時間刺激し、そしてPDE4B2 mRNA発現を、半定量RT−PCRにより分析した(図7C)。タンパク質の発現を評価するために、BEAS−2B細胞を、Rof(0.1μM)及びDEX(100nM)で1時間事前処理し、その後にNTHiで5時間刺激し、そしてPDE4Bタンパク質の発現を、免疫ブロットにより分析した(図7D)。各標的データをNTHi処理で標準化した。データは、平均値±SDである(n=3);*p<0.05、但しNTHiに対する;†p<0.05、但しRof+NTHiに対する。マウスに、Rof(5mg/kg i.p.)及び/又はDEX(2mg/kg i.p.)を2時間イノキュレーションし、その後NTHi(5×107CFU/肺)を気管内にイノキュレーションした(図7E及び7G)。5時間後、PDE4B又は様々な炎症促進性メディエーターの発現を評価するために、肺組織内のmRNA発現をQ−PCRにより分析し、また肺組織をPDE4Bについて対比染色し(倍率×200、スケールバー、100μm)(図7F)、そしてH&E染色法を用いて炎症を評価した(図7H)。
注釈:PDE4Bは、様々な炎症性の刺激により上方制御されることが明らかにされており、炎症反応の媒介において重要な役割を演ずる(Gobejishvili et al., Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol., 294(4):G718-G724, 2008; Gobejishvili et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 337(2):433-443, 2011; Jin and Conti, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99(11):7628-7633, 2002; Ma et al., Mol. Pharmacol., 55(1):50-57, 1999; Cohen et al., J. Biol. Chem., 275(15):11181-11190, 2000; Borysiewicz et al., Metab. Brain Dis., 24(3):481-491, 2009; Christiansen et al., Neurochem. Int., 59(6):837-846, 2011)。PDE4BはバクテリアNTHiにより誘発されることも最近見出された(Komatsu et al., Nat. Commun., 41684, 2013)。PDE4アイソフォームの発現レベルは、PDE4インヒビターそのものを含む、cAMPエレベーターにより誘発されることも公知であり(Jin and Conti, 前出; Mehats et al., Endorinology, 140(7):3228-3237, 1999; Campos-Toimil et al., Br. J. Pharmacol., 154(1):82-92, 2008; D’Sa, 前出; Dlaboga et al., Brain Res., 1096(1):104-112, 2006; Giorgi et al., Behav. Brain Res., 154(1):99-106, 2004)、cAMPシグナリングのネガティブフィードバック制御において重要と考えられている。但し、PDE4がどのように病原性微生物及びcAMPエレベーターの両方が存在する下で制御を受けるのか、その様式についてはなおも不明確なままである。この研究では、ロフルミラスト(COPD増悪について臨床承認されたPDE4インヒビター)が、複雑な病因及びCOPDの薬物治療の文脈において、cAMP/PKA−Cβ及びp65間の相互応答を介して、NTHi(COPD増悪の主要な細菌性の原因)と協働することにより、PDE4B2の発現を誘発することを初めて示した(図1)。PDE4B2の相乗的誘発は、その他の炎症性の刺激、例えばTNF−αやIL−1β、及びcAMPエレベーター等が存在した場合にも認められた。PDE4B2の発現は、ケモカインCCL5、CCL7、CXCL10、及びCXCL11のNTHi誘発型発現において重要な役割を演じており、COPD増悪の病因において重要であることがこれまでに明らかにされている。これらのケモカインは、COPD患者の誘発喀痰、気管支肺胞洗浄(BAL)液、又は末梢気道において増加しており(Saetta et al., Am. J. Resp & Crit. Care Med., 165(10):1404-1409, 2002; Fujimoto et al., Eur. Respiratory J., 25(4):640-646, 2005; Costa et al., Chest, 133(1):26-33, 2008; Hacievliyagil et al., Respiratory Med., 100(5):846-854, 2006; Frankenberger et al., Mol. Med., 17(7-8):762-770, 2011)、またマクロファージ、CD8+T細胞、B細胞、好酸球、及び好中球の気道管腔への導入において重要な役割を演じている(Donnelly and Barnes, Trends Pharmacol Sci., 27(10):546-553, 2006; Le et al., Cell Mol. Immunol., 1(2):95-104, 2004; Quint and Wedzicha, J. Allergy Clin. Immunol., 119(5):1065-1071, 2007; Michalec et al., J. Immunol., 168(2):846-852, 2002; Gross, Chest, 142(5):1300-1307, 2012)。
この研究の第2の重要所見は、PDE4B2は、酵素活性に依存する様式及び依存しない様式の両方で特定のケモカインの発現を制御することである。これは、相乗的に上方制御されたPDE4B2に起因する特定の臨床状態の下で炎症を抑制する際に、ロフルミラストの有効性を低下させる可能性がある。例えば、気管支上皮細胞内では、NTHi誘発型のCCL5、CCL7、CXCL10、及びCXCL11(グループA−ケモカインと命名される)の抑制におけるロフルミラストの効果は、いくつかのその他の炎症促進性メディエーター、例えばGM−CSF及びTNF−α等の抑制におけるその効果よりも低いことが観察された。さらに、ロフルミラストは、PDE4D枯渇細胞ではなく、PDE4B枯渇細胞内のグループA−ケモカインの抑制においてより有効となった。これらの結果と整合して、ロフルミラスト(10μMであっても)は、PDE4B2を過剰発現する安定細胞株では、グループA−ケモカインのNTHi誘発型の発現を完全に阻害することはできなかった。さらに、PDE4B2−D392Aが、NF−κBの活性化及びケモカインの発現を増強する程度は、PDE4B2−WTと比較してそれより小さいものの、PDE4B2−WT及びPDE4B2−D392A(酵素活性を有さない変異体)のいずれも、NF−κBプロモーターの活性及びグループA−ケモカインの発現を顕著に増強した。ロフルミラスト(最大10μM)は、PDE4B2−WT又はPDE4B2−D392Aを過剰発現する細胞において、IKKβ−CAにより誘発されたNF−κBプロモーター活性及びグループA−ケモカインの発現を完全に阻害することはできなかった点にも留意すべきである。総じて、これらの結果から、上方制御されたPDE4B2は、酵素活性に依存する様式及び依存しない様式の両方でこれらのケモカインの上方制御に寄与する可能性があることが実証され、これにより、炎症反応の制御において、PDE4B2は非酵素的アダプタータンパク質として作用し得る、というエビデンスが初めて提供される。将来的な試験が、基礎となる機構をさらに明らかにするために正当化される。
本研究の第3の重要所見は、PKA−CαではなくPKA−Cβが、PDE4B2の相乗的誘発、及びその結果生じたヒト気道上皮細胞における炎症反応との関わりにおいて特に必要とされることである。これまでに、PKA−Cαは、cAMPとは独立して、p65をSer276でリン酸化することにより、NF−κBシグナリングを活性化させることが明らかにされている(Zhong et al., Cell, 89(3):413-424, 1997)。PKA−Cαは、IκB複合体と会合することにより、不活性状態に維持されていることが明らかにされている。IκBの分解を引き起こすシグナルは、PKA−Cαの活性化、及び後続するp65のSer276におけるリン酸化を引き起こす。これまでのこのような研究は、cAMPに依存しないPKA活性化機構は、炎症性の刺激、例えばLPS、マイトジェン、サイトカイン、及びウイルス等に応答して生ずるNF−κBの活性化及び炎症に関与することを示唆する。本研究では、病原性微生物及びcAMP上昇剤の両方が存在する文脈において、PKA−CαではなくPKA−Cβにより媒介されるp65のSer276におけるリン酸化を通じて、cAMPがNF−κBシグナリングと協働してPDE4B2を上方制御する新規の異なる機構を報告した。PKA−Cα及びPKA−Cβが、p65リン酸化のcAMP非依存性及びcAMP依存性の制御についてそれぞれ特異的に媒介するか、さらに決定する将来的な研究が必要とされる。
PDE4B2の発現制御におけるPKA−Cα及びPKA−Cβの異なる役割に加え、PKA−Cα及びPKA−Cβは、炎症促進性メディエーターの発現を差次的に調節しているとも考えられる。例えば、NTHi誘発型の炎症促進性メディエーターの一部は、PKA−Cαをノックダウンすると増加することが見出されたが、それは、その他の細胞型でこれまでに報告されたPKA−Cαの抗炎症的役割と整合する(Ollivier et al., J. Biol. Chem., 271(34):20828-20835, 1996)。炎症反応に関わるPKA−Cβの役割は、なおもほとんど不明確なままである。この研究では、PKA−Cβをノックダウンすることにより、炎症促進性メディエーターの発現が低下したことが見出され、PKA−Cβの炎症促進的役割が示唆される。これらのデータは、PKA−Cβの選択的阻害は、PKA−Cαにより媒介される抗炎症効果を損なわずに炎症促進性メディエーターを抑制する有望な戦略を代表し得ることを示唆する。PDE4B2及び炎症促進性メディエーターの制御におけるPKA−Cα及びCβの異なる役割を前提とすれば、PKAは、生理学的及び病理学的な応答制御において、アイソフォーム特異的に関与し得る可能性が高い(Padmanabhan et al., J. Biol. Chem., 288(20):14158-14169, 2013)。したがって、PKAの関与を決定することを目的する試験では、PKAの様々なアイソフォームの役割に対して特別な注意を払う必要がある。
NF−κBシグナリング制御におけるPKAの役割及びその基礎となる機構は、かなり複雑にみえる。いくつかのモデル系では、PKAが活性化すると、NF−κBの核移行が阻害される。例えば、TNF−αにより媒介されるp65の核移行は、HeLa細胞において、siRNAを用いたPKAの枯渇により増強される(King et al., PloS ONE, 6(4):e18713, 2011)。ホルスコリンは、Jurkat T−リンパ球においてp65の核移行を妨害する(Neumann et al., EMBO J., 14(9):1991-2004, 1995)。NF−κBの核移行とは独立した機構も存在する。例えば、ヒト単球及び内皮細胞では、cAMPは、NF−κB複合体の核移行を妨害しないでNF−κBにより媒介される転写を阻害する。むしろ、cAMP/PKAが、CREBのリン酸化によりNF−κB依存性の転写活性を阻害するが、CREBは、限定量のNF−κB活性化補助因子であるCREB結合タンパク質(CBP,CREB-binding protein)に対してp65と競合する(Parry and Mackman, J. Immunol., 159(11):5450-5456, 1997)。Jurkat T−リンパ球内のNF−κBの転写活性に対するcAMP/PKA経路の阻害作用は、p65のC末端トランスアクチベーションドメインの直接又は間接的修飾により発揮され、CREB及びSer276におけるp65のリン酸化とは独立していることも明らかにされている(Takahashi et al., Eur. J. Biochem., 269(18):4559-4565, 2002)。上記研究のいずれも、NF−κB転写活性に対するcAMP/PKAの阻害効果についてエビデンスを提供する。しかし、PKAは、NF−κBシグナリングを活性化させることができるというエビデンスも存在し、その場合、Ser276におけるp65のリン酸化は重要に思える。例えば、PKAによるNF−κBのSer276におけるリン酸化は、NF−κBの活性化補助因子CBP/p300との相互作用を促進することにより、NF−κBの転写活性を刺激する(Zhong et al., 1998、前出)。PKAによるNF−κB p65のSer276におけるリン酸化は、NF−κBを活性化し、また頭部及び頸部のがんの悪性表現型に寄与する(Arun et al., Clin. Cancer Res., 15(19):5974-5984, 2009)。PKA−Cαは、Ser276においてp65をリン酸化することにより、IKKβに依存して、但しcAMPには依存しないでNF−κBシグナリングを活性化させることも明らかにされている(Zhong et al., 1997、前出)。本研究では、PKA−Cβも、Ser276においてp65を、但しcAMPに依存してリン酸化することが明らかにされるが、これは気管支上皮細胞におけるNTHi及びロフルミラストによるPDE4B2の相乗的誘発にとって重要である。これらを総じて考慮すると、これらの一連の実験的エビデンスは、cAMP及び/又はPKAは、NF−κBの活性化/不活性化について、様々な機構を経由して調節可能であることを示唆するが、これは、細胞型及びcAMP及びPKAの供給源、並びに異なるシグナリング複合体中に存在するNF−κBサブユニットに依存し得る。さらに、様々な細胞型又は状態におけるAキナーゼ相互作用タンパク質1(AKIP1,A kinase-interacting protein 1)の発現レベルも、NF−κB活性に対するPKAの効果に関して重要と思われる。AKIP1のレベルが低い細胞では、PKA活性化剤は、NF−κB転写活性を阻害することが明らかにされている。対照的に、AKIP1のレベルが高い細胞では、PKAの活性化は、Ser276におけるp65のリン酸化を増加させ、NF−κBの活性化と協働して作用する(Gao et al., J. Biol. Chem., 285(36):28097-28104, 2010)。
まとめとして、本発明者らの研究は、複雑な病因及びCOPDの薬物治療の文脈において、PDE4B2発現の相乗的誘発の基礎となる分子機構のみならず、cAMPに依存したPKA−Cβ及びp65間のシグナリング相互応答についても新たな見識を提供する。また、本発明者らの結果は、PDE4B2は、炎症反応の制御において、少なくとも部分的に、非酵素的アダプタータンパク質として作用し得るというエビデンスを初めて提供する。ロフルミラストとPKA−Cβ選択的インヒビター(及び/又は本明細書に記載するその他のインヒビター)を併用投与すれば、PDE4B2の望ましくない上方制御を弱め、これにより、有効性を改善し、有効用量を減少させ、そしておそらくはCOPDが増悪した患者のPDE4インヒビターに対する耐性を緩和する有望な治療戦略を提示するのに役立つ可能性がある。