JP2018205559A - レーザ光調整・制御装置 - Google Patents

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孝之 沼田
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Abstract

【課題】レーザ出力制御、レーザビームのプロファイル調整装置の小型化、低コスト化、応答性の向上を実現するとともに、レーザビームのプロファイルの調整を可能にする。
【解決手段】 本発明のレーザ光調整・制御装置は、2つのプリズムA、Bと、プリズムA、Bの両対向面間に介在され、印加される電気信号に応じてプリズムA、Bの対向部における近接場光の結合比率を調整する透明フィルム状のシート部材1と、プリズムA、Bを出射するレーザ光の出力状態に基づいて、シート部材に印加する電気信号を調整し、プリズムA、Bを出射するレーザ光の出力状態を調整する駆動回路2から構成されている。
【選択図】 図4

Description

本発明は、加工装置、医療機器として利用されているレーザ機器のための調整・制御装置に関し、特に、使用するレーザ光の出力や強度分布(ビームプロファイル)を設定あるいは制御するための調整・制御装置に関する。
レーザ光は、加工装置や医療機器などの分野で広く活用されており、技術の高度化や安全の確保のため、レーザの出力(パワー・エネルギー)を精密に制御することが求められている。
一般に、レーザ出力を制御するには、レーザ装置本体において励起電流を調整することでレーザ発振状態を制御したり、レーザ装置の外部に設置した光減衰器を調整することで所望の出力になるよう制御することが知られている。
レーザ発振の制御では、制御分解能の制限により得られるレーザ出力が階段状の変化を生じたり、レーザ装置自身の発熱が出力の不安定化の原因となるなど、高精度な制御を実現するのは困難である。
そこで、精密な出力調整を必要とする場合には、レーザ装置から出射した後の光路中に吸収フィルタ、反射板、偏光分離素子などの、光を減衰させる素子を設置し、素子を通過するレーザ光の出力を変化させ、所望の値へ調整するのが一般的である。
また、これらの減光素子をアクチュエータ等と組み合わせ、外部信号によって光の減衰量を制御することで、素子を通過する光の強度を能動的に変化させるシステムも提案されている。
こうしたシステムでは、濃度に勾配をつけた吸収フィルタを動かしてレーザ光の入射位置を変化させたり、基板を回転させレーザ光の入射角度を変化させたり、光の偏光方位を回転させつつ偏光分離素子を透過させるなどして、光の量を変化させるが、いずれも高強度なレーザ光への適用は困難であった。
すなわち、吸収フィルタ型は、レーザ光の吸収による発熱により容易に損傷するため、高強度なレーザ光の減衰装置としては適していない。
また、透明基板を回転させ基板材料と周囲の屈折率差により生じる反射率の角度依存性を利用するタイプは、耐久性は高いものの、角度の変化に伴って光軸が変化してしまうことから高精度な減衰器として機能し得ない。
光の偏光方位を回転させるタイプは、偏光素子の耐久性が低いうえ、対象が直線偏光に制限されるため、ランダム偏光や無偏光が一般的な産業用高出力レーザへの適用は難しい。仮にレーザ耐力が高い偏光素子が存在したとしても、事前に直線偏光成分のみを分離抽出することで、利用できるレーザ出力は必然的に元のレーザ出力の半分以下となる。このような出力の損失は、レーザ加工など、より高いレーザ出力が求められるアプリケーションではエネルギー効率の観点からも望ましくない。
このように、既存のレーザ出力の調整・制御技術は、いずれも耐久性の低さや制御対象を限定するなどの技術的な課題があり、現時点では、産業用高出力レーザの出力を高精度に制御するための有効な手段が存在していない。
このため、例えばレーザ加工の現場では、朝晩や季節による温度変化、装置の運転状況や余熱の具合によって時々刻々と起こるレーザ出力の変動を抑制することは困難とされていた。レーザ加工においてその出力が不安定になれば、加工状態も不安定になり、製品の品質や歩留まりの低下を招くことから、加工用等の高出力レーザ光を高精度に安定化する技術、所望の値に自在かつ精密に制御する技術が強く求められていた。
ところで、高強度なレーザ光に対し耐久性の高い光学素子を構築するには、光吸収の小さい材料を用いて素子自体の発熱を低減すればよい。すなわち、減光の原理を光吸収ではなく素子の反射・透過に基づくものとすればよく、このように光の減衰量を可変とする手段として、プリズム等を利用した近接場光の結合特性を利用することが考えられる。
特許文献1には、ビームスプリッタからモニタ光を光検出器で検出し、レーザ出力を安定化させることが記載されている。
特許文献2には、凸レンズと直角プリズムとの間でエバネッセント光を発生させ、凸レンズの凸面形状に応じたレーザ強度分布を得ることが記載されている。非特許文献1には、波長が数センチメートルの電波を用い、エバネッセント波(光)の発生・結合により透過率と反射率を可変させることが記載されている。
特開平5−145163号公報 特開2009−27325号公報
J.J. Brady, et al., "Penetration of Microwaves into the Rarer Medium in Toral Reflection", J. Opt. Soc. Am, Vol.50, No.11, pp.1080-1084, 1960.
近接場光の結合特性を利用した光の減衰について、図1を用いて説明する。
プリズムAの内部から斜面に対し全反射となる角度で光を入射すると、斜面の外側には近接場光(エバネセント光)が発生する。この近接場光は、斜面(近接場光の発生面)近傍から波長程度の範囲に局在し、発生面の法線方向へは伝搬しない性質を持っている。近接場光の強度はプリズムAの発生面の表面で最も大きく、発生面からの距離に従って指数関数的に減衰する。ここで近接場光の到達距離(浸み出し長)dは、光の波長をλ、プリズムの屈折率をn、周囲の屈折率をn、プリズム斜面へのレーザ光の入射角をθinとすると、次式で与えられる。
=λ/2π/(n ・sinθin−n 1/2
ところで、近接場光の存在する領域に光を散乱させる物体を近づけると、近接場光は物体に結合し、局在性を失って空間を伝搬するようになる。この空間伝搬光の強度は、散乱体の位置に於ける近接場光の強度に依存する。このときプリズムA内に反射する光の出力は、入射光の出力から上記伝搬光の出力を差し引いた値となる。すなわち、プリズム材料の光吸収が無視できる場合、入射光の出力をPin、反射光の出力をP、散乱された伝搬光の出力をPとすると、次の関係が成り立つ。
in=P+P
散乱体としてプリズムBを導入し、その斜面を結合面とすると、プリズムAへの入射光Pinを、プリズムAへの反射光PとプリズムBへの透過光Pとに分岐する光分配器(ビームスプリッタ)が形成される。
近接場光を発生、結合させるプリズムA、Bの斜面を一対の「対向面」と呼ぶこととすると、この対向面の間の距離を変化させることで、プリズムAへの反射率、およびプリズムBへの透過率を、原理的にはそれぞれ、100%〜0%および0%〜100%の間で調整することが可能となる。
また、プリズムA内部から斜面への光の入射角θinを変化させると、近接場光の浸み出し長が変化し、プリズムBの結合面に到達する光の強度が変化する。これによっても同様に、反射率および透過率の調整が可能である。
図2は、プリズムA、Bを光学ガラスBK7からなる直角プリズムとし、レーザ波長1.1μmとした場合の、プリズムA、Bの対向面間の距離[nm]に対する反射率および透過率の変化を示すもので、線は理論値、プロットは実験値を示す。入射角は45°に設定している。
一方、図3は、プリズムAの斜面への入射角の調整によって近接場光の浸み出し長を変化させた場合の透過率の変化(線:理論値、プロット:実験値)を示す。
この原理に基づけば、光吸収の無い透明な材料で、透過率や反射率を調整する光減衰器を構築できることから、従来の課題であった高強度なレーザ光に対する耐久性が期待できる。すなわち、上記の間隔や角度を調整する機構を用い、レーザ光の出力を検出し減衰量の設定にフィードバックするシステムを構築すれば、レーザ光の出力を高い精度で一定値に維持したり、所望の値に迅速に変化させるなどの操作が可能となり、高強度なレーザ光にも適用可能な減衰器やレーザ出力制御装置が実現できる。
そこで発明者らは、対向面を直接あるいは所定の厚さを有するスペーサを介して密着させることで、対向面間の距離が初期設定された2つのプリズムA、Bと、プリズムA、Bの対向面間における近接場光の発生と結合によって、プリズムA、Bを出射する光出力の比率を調節する調節機構と、プリズムA、Bを出射する光の出力値を検出する光センサと、この光センサの検出信号に基づいて、調節機構を制御し、プリズムA、Bを出射する光出力の比率を変化させるようにしたレーザ出力制御装置や減衰装置を提案した(特願2016−2240955号、特願2017−012500号)。
これにより、プリズムA、Bにおける近接場光の発生面と結合面を、高精度に、しかも、高度な熟練技術を要することなくアライメントすることができ、産業需要の高い可視〜近赤外波長の高強度レーザにも適用可能な、耐久性の高い減衰量可変の光減衰器、ならびにこれを用いたレーザ出力制御装置の小型化、低コスト化を実現することができる。
ところで、加工装置や医療機器でのレーザ光の活用において、更なる技術の高度化や安全性を実現するには、レーザ出力制御を高精度化に加え、応答性を高めるとともに、レーザビームの強度分布(ビーム形状、プロファイル)を最適化することが求められる。レーザ光のビーム形状は、一般的な工作機械における切断刃や切削刃の刃形状に相当するものであり、照射部位毎にスポット形状が異なると、加工痕に微小な凹凸が発生し、製品の形状や品質に大きな影響を及ぼす。また、レーザ焼き入れ等の熱処理においては、加工対象の温度分布を考慮したビーム形状の最適化が課題であった。
また、先の提案では、レーザの出力を高精度に制御しつつも、出力以外のパラメータには影響を及ぼさないようにするため、プリズム対向面の多軸アライメントを高精度に設定しこの状態を維持した状態で機構を稼働させ、レーザ光のビーム形状はそのまま維持されるようにしている。
そこで、本発明の目的は、先に提案したレーザ出力制御装置のさらなる小型化、低コスト化、高精度化を実現するとともに、出力制御の応答性を高めつつ、レーザビームのプロファイルをも調整できるレーザ光調整・制御装置を実現することにある。
この課題を解決するため、本発明のレーザ光調整・制御装置は、2つのプリズムA、Bと、プリズムA、Bの両対向面間に介在され、印加される電気信号に応じてプリズムA、Bの対向部における近接場光の結合比率を調整する透明フィルム状のシート部材と、プリズムA、Bを出射するレーザ光の出力状態に基づいて、シート部材に印加する電気信号を調整し、プリズムA、Bを出射するレーザ光の出力状態を調整する駆動回路から構成されている。
本発明によれば、駆動回路によりプリズムA、Bの対向部における近接場光の結合量を調整・制御することで、小型化、低コスト化、高精度化を実現するとともに、出力制御の応答性を高めることができる。さらにシート部材を複数のセルに分割することにより、レーザビームのプロファイルの調整・制御も可能となる。
図1は、近接場光の発生と結合による反射・透過率の制御の基本原理を示す図である。 図2は、プリズムA、Bのアライメントにおける対向面間距離[nm]に対する系の反射・透過率の変化を示す図である。 図3は、プリズム対向面への入射角[°]に対する系の透過率の変化を示す図である。 図4は、実施例1の概要を示す図である。 図5は、実施例1におけるプリズムA、Bのアライメントにおけるの平面図である。 図6は、実施例1におけるプリズムA、Bのアライメントを対向面に沿った方向からの側面図である。 図7は、実施例1における減衰器の対向面間隔dを調整する調整機構と、減衰量を測定するレーザ光源と光センサからなる計測システムの平面図である。 図8は、実施例1において、所望の減衰量で得られた状態でプリズムA、Bを固定した状態を示す図である。 図9は、実施例1において、シート部材1としては、ポリ乳酸フィルムを用いた場合の減衰量調整メカニズムを示す図である。 図10は、シート部材1を複数のセルに分割した実施例2の概要を示す図である。 図11は、実施例2において、中央のセル1eのプリズムBへの透過量を増大させた例を示す図である。 図12は、実施例2において、フィードバック制御を導入した際のシステムを示す図である。 図13は、プリズムA対向面に、プラズモン励起条件に整合した金属薄膜6を形成した実施例4の概要を示す図である。
[実施例1]
図4は、フィルム状のシート部材として透明な圧電性素材を利用した実施例1の概要を示すものである。
プリズムAとBの対向面のうち、いずれか一方に圧電性材料からなり、透明で所定の屈折率を有するフィルム状のシート部材1が貼付などによって載置されている。図では、フィルム状のシート部材1をプリズムBに貼付した例を示している。
この状態で、プリズムA、Bのアライメントを行う。図5、図6はアライメントの一例を示しており、図5はプリズムA、Bのアライメントにおける平面図、図6は対向面に沿った方向からの側面図である。なお、この実施例では、プリズムA、Bとして、同形状の直角プリズムを用い、図5において斜辺を形成するプリズムA、Bの面(底面)を介して互いに対向させて配置し、プリズムAの対向面とプリズムBに貼付されたシート部材1の対向面を、それぞれ近接場光の発生面及び結合面としている。
アライメントを行う際は、まず、プリズムの対向面外を保持する保持装置により、プリズムAの対向面と、プリズムBに貼付されたシート部材1の対向面同士を互いに密着させる。この実施例では、保持装置は、プリズムA、Bの頂角部及び脚面部の形状に沿って対向面に向かって保持する上下一対のL型保持部HA、HBと、このL型保持部HA、HBの上側、下側において互いに対向する両端部に螺合するネジ部品F、F’とで構成され、着脱・調整可能な締結機構として機能する。
すなわち、L型保持部HA、HBをネジ部品F、F’により互いに近接するように引き付けることで、L型保持部HA、HBの内側に保持されたプリズムAとプリズムBに貼付されたシート部材1の対向面同士を互いに密着させることができる。
この状態は、プリズムA、Bの対向面が、透明で所定の屈折率を有するシート部材1を介して互いに密着し、プリズムAの近接場光発生面と、プリズムBに貼付されたシート部材1の近接場光結合面の間で各軸のアライメントが最適化され、対向面間の距離(以下、「対向面間隔」という。)が最小で、かつ対向面間の平行度が最大の理想的な状態に相当する。
これによりプリズムAと、プリズムBに貼付されたシート部材1の対向面間隔d及び両対向面間のなす角度は原理的に零となるが、本発明ではこの状態を、対向面の位置関係を調整するための距離及び角度の原点と位置付け、この操作をアライメントにおける「初期設定」と呼ぶことにする。
次いで、上記のようにアライメントが最適化された状態のプリズムA、Bを、調整機構であるステージSA、SBにそれぞれ設置する。本実施例によれば、このときステージSA、SBのアライメントは整っている必要がなく、プリズムA、Bを設置した際に生じる各ステージとプリズムの間に生じる間隙は、図6に示すように充填層Sを形成することで補完する。この実施例では、充填層Sを形成する未硬化のジェル状接着剤を、ステージSA、SBの固定面に適量塗布したのち、L型保持部HA、HBによりプリズムA、Bの対向面の密着を維持した状態のまま、プリズムAをステージSA上に、そして、プリズムBをステージSB上に配置する。この状態で接着剤を硬化させると、プリズムA、Bは、最適なアライメント、すなわち、対向面間隔d≒0かつ両対向面間のなす角度≒0を保った状態でそれぞれステージSA、SB上に固定される。
通常の手順では、ステージSA、SB上にプリズムA、Bをそれぞれ固定したのち、ステージSA、SBのアライメントを調整・最適化していくが、この作業は、人が行う場合、熟練者による高度な技能や時間を要し、自動で行う場合も、多軸ステージやアクチュエータ、それらを制御する計算機や最適化プログラム等の高コストな設備が不可欠である。
これに対し、本実施例では、プリズムA、BをそれぞれステージSA、SBに固定する前段階で、前述のようにL型保持部HA、HBを用いて、プリズムA、Bの対向面をシート部材1を介在させて密着させることにより、アライメントを整えた状態を作り出しておく。そして、この状態のプリズムA、BとステージSA、SBとの間に残るミスアライメントは、充填層Sによって補完することで、前述したような煩雑で高コストなアライメント技術が不要となる。なおこの実施例では、厳密には、プリズムA、Bを通る光軸とステージの稼働軸の間に若干ずれが生じるおそれがあるが、これは光減衰器の性能に影響するものではない。
充填層としての接着剤が硬化した後、L型保持部HA、HBを取り外し、この状態を基準として調整機構であるステージSBを並進運動させることで、プリズムAとプリズムBに貼付されたシート部材1の間の対向面間隔dを、高い平行度を維持したまま変化させることが可能である。特に、プリズムB側を移働させることで、プリズムAへの反射率及びプリズムBへの透過率を計測・調整する際、反射もしくは透過により出射するビームの光軸を一定に維持することができ、高精度な調整が可能となる。
なお、この実施例では、プリズムA、Bとして同形状の直角プリズムを採用しているが、他の形態のプリズムや大小異なるプリズムを採用してもよいし、さらに各プリズムの対向面を種々選択してもよい。
また、充填層の材料としては、上記未硬化の接着剤の他、プリズムA、BとステージSA、SBの隙間の形状に沿うように塑性変形する粘土状の材料を充填層として用い、それらを介して治具により外力を加えて固定する方式でもよい。
次に、駆動回路から送られる電気信号と、それに基づきプリズムAとプリズムBに貼付されたシート部材1との対向面間隔dを調整することで変化する減衰量との関係を、計測・校正するシステムについて、図面を用いて説明する。
図7は、本発明に基づいて作製しようとするレーザ光調整・制御装置の対向面間隔dを調整する調整機構と、減衰量を測定するレーザ光源と光センサからなる計測システムの平面図を示している。プリズムAから、対向面の臨界角以上の角度θa(減衰量測定レーザの対向面入射角度)で減衰量評価用のレーザLaを入射し、プリズムの対向面において全反射させ、近接場光を発生させる。
ここで、プリズムAに対し所定の対向面間隔dに設定されたプリズムBに貼付されたシート部材1の対向面に到達した近接場光の一部は伝搬光に変換され、対向面を透過して、プリズムBから出射する。ここでは、この透過光を対象に減衰量を設定するため、プリズムBから出射した透過光の出力を、光センサKaを用いて検出するシステムとしている。
駆動回路の電圧を一定値に設定し、シート部材の形状を保持した状態で、対向面を密着させ対向面間のアライメントの初期設定を行う。次いで、ステージSBを稼働し、対向面の平行度を維持したまま、対向面間距離dを増大(数μm程度)させシート部材の対向面をプリズムAの対向面における近接場光の発生領域から退避させる。その後、駆動回路の電圧信号を任意の幅で増減させシート部材に微細な伸縮変位を与えながら、ステージSBによって、先程とは逆に対向面間距離dを徐々に近づけていく。すると、シート部材1の対向面が、プリズムA対向面における近接場光発生領域に到達し、駆動回路の電圧信号の増減、すなわちシート部材1の伸縮運動に応じて、センサKaで検出される透過光強度信号に変化が現れるようになる。そこで、所望の減衰量の制御幅(例えば10%〜90%)が得られるように、駆動回路2の電圧振幅およびステージSBの位置を設定する。この状態で、入力電圧信号に対する減衰量の値を記録することで、制御に用いる特性曲線を導出する。
このように、減衰量の値が所望の調整代で得られた後、図8に示すように対向面の外周部など、プリズムA、B内を透過する光路を遮らない位置に、保持具3を介して、接着剤Sを塗布し硬化させる。接着剤としては、十分な機械的堅牢性が確保できるエポキシ系や透明度が高い光学接着剤が好適である。
この接着剤が硬化し、プリズムA、Bの位置関係が固定化されたのち、プリズムA、BとステージSA、SBとの間の充填層を取り除く。これにより、シート部材1に印加する電気信号に応じて、レーザ光の反射・透過量を高レスポンスで調整可能なレーザ光制御素子を構築することができる。
シート部材1としては、ポリ乳酸フィルム等、光学透明度が高く、印加電圧の増減によって収縮・伸張等、形状が変形をするフィルムを用い、図9に示すように、収縮(実線で示す自然長)状態では近接場光が結合しない距離(数μm)まで退避し、電圧印加により破線に示すように伸張した状態では、プリズムAとプリズムBに貼付されたシート部材1の間の対向面間隔dがほぼ零(レーザ光のほとんどがプリズムBを透過する状態)となるものを使用する。
プリズムAの対向面で反射するレーザ光の出力を調整する装置として利用する際は、プリズムAの対向面に入射するビームの断面全体がシート部材1の貼付範囲に収まるよう、シート部材1を挟んで一体化したプリズムA、Bの位置を調整する。
そして、駆動回路2を介してシート部材1に印加する電圧を調整することで、プリズムAとプリズムBに貼付されたシート部材1の間の対向面間隔dを増減させ、プリズムBへの透過量を調整し、プリズムAの対向面を反射して得られるレーザ出力を所望の値になったところで、シート部材1に印加する電圧を固定する。
もちろん、プリズムAの対向面で反射されるレーザ出力を常時検出し、駆動回路2からの印加電圧をフィードバック制御するようにしてもよい。
[実施例2]
この実施例では、図10に示すように、実施例1と同様の素材からなるシート部材1を、複数のセル(図10では、縦3×横3の1a〜1iからなる9個のセル)に分割し、駆動回路2により個々のセルを独立に制御することにより、場所毎に減衰量を調整可能とし、レーザビームのプロファイルを制御するものである。
すなわち、図11に示すように、シート部材1として、ポリ乳酸フィルム等、光学透明度が高く、電気信号によって伸縮変形可能な素材を用い、これを対向面内の各位置に分割して設置している。この例では、中央のセル1eに印加する電圧を周囲のセルと比べて上昇させることにより、プリズムAとプリズムBに貼付されたシート部材1のセル1a〜1iのうち、中央部のセル1eのみ対向面間隔dを減少させ、プリズムBへ透過する光の比率を増大させている。これによって、プリズムAに入射した円形のレーザビームプロファイルを、出射側ではドーナツ状のプロファイルに変形している。
ドーナツ状以外にも、シート部材1のセル1a〜1iに印加する電圧をさまざまに調整することにより、ビーム全体の出力の制御に加え、ビーム内の強度分布(ビーム形状、プロファイル)を所望の形状に調整することができる。本実施例においても、もちろん、プリズムBを出射する透過側のレーザビームを調整の対象としてもよい。さらに、ビーム形状をカメラ等で検出することにより、目標の形状となるようフィードバック制御を導入することができる。
その際、図12に示すように、ビームサンプラ4を介して、画像センサ5により、レーザビームのプロファイルを撮像する。演算制御装置6は、画像センサ5が撮像したプロファイルに基づいて、分割したシート部材1の個々のセルに対し、印加する電圧を決定し、駆動回路2を介して出力させる。
[実施例3]
シート部材1として、実施例1、2のような機械的変位を生じる材料のほか、電圧等の外部信号に応じて屈折率を調整することができる機能材料を用いて、近接場光の浸み出し長を可変することにより、レーザ光調整・制御装置を構成するもできる。
このようなシート部材1としては、電界(電圧)の印加によって屈折率を調整可能な液晶その他の電気光学材料、また歪(音波)によって屈折率を制御可能な音響光学材料が挙げられる。このような機能材料を用いれば、レーザ光の調整・制御において機械的な動作を伴わないため、更なる応答の高速化が期待できる。
[実施例4]
実施例3のようにシート部材の屈折率を制御することでプリズムAの反射率と可変する場合、屈折率あたりの反射率変化を大きくとることで、より高い制御性能を実現できる。
そこで、表面プラズモン共鳴効果を利用することが考えられる。
図13のようにプリズムA対向面に、プラズモン励起条件に整合した金属薄膜7を形成しておくことで、プリズムA対向面で発生する近接場光の強度が増幅され、近接して置かれたプリズムB上のシート部材1の屈折率変化に対する感度を増大させることが可能である。
金属薄膜としては、制御対象のレーザ波長に応じ、厚さ数十ナノメートル程度の、金や銀などの貴金属材料が有効である。このような配置とすることで、単位屈折率変化あたりの反射率(透過率)変化量を増幅させ、さらに高効率な制御を行うことが考えられる。
以上説明したように本発明によれば、レーザ光の出力の調整・制御装置の小型化、低コスト化、高精度化を実現し、出力制御の応答性を高めることが可能となる。さらに、シート部材を複数のセルに分割することにより、レーザビームのプロファイルの調整・制御も可能となるので、加工装置用レーザ機器、医療機器レーザ機器などに広く採用されることが期待できる。
A、B・・・プリズム SA、S B・・・ステージ
1・・・シート部材 1a〜1i・・・シート部材1のセル
2・・・駆動回路 3・・・保持具
4・・・ビームサンプラ 5・・・画像センサ
6・・・演算制御装置


Claims (6)

  1. 2つのプリズムA、Bと、
    前記プリズムA、Bの両対向面間に介在され、印加される電気信号に応じて前記プリズムA、Bの対向部における近接場光の結合比率を調整する透明フィルム状のシート部材と、
    前記プリズムA、Bを出射するレーザ光の出力状態に基づいて、前記シート部材に印加する電気信号を調整し、前記プリズムA、Bを出射するレーザ光の出力状態を調整する駆動回路からなることを特徴とする、レーザ光の出力状態を調整するレーザ光調整・制御装置。
  2. 前記シート部材は、前記プリズムA、Bの一方に載置され、電気信号を印加しない状態で前記プリズムA、Bの両対向面間におけるレーザ光の透過率を最小にするものであり、
    前記シート部材に最大電圧の電気信号を印加することにより、前記プリズムA、Bの両対向面間におけるレーザ光の透過率を最大にするようにしたことを特徴とする請求項1に記載されたレーザ光調整・制御装置。
  3. 前記シート部材を複数のセルに分割し、前記駆動回路が各セルに印加する電気信号を個別に調整することで、レーザ光のプロファイルを調整・制御するようにしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載されたレーザ光調整・制御装置。
  4. 前記シート部材は、印加電圧によって変形する透明フィルムからなり、
    前記シート部材に電気信号を印加しない状態で、前記透明フィルムの対向面と前記プリズムA、Bの他方の対向面との間の対向面間隔が最大となり、
    前記シート部材を透過するレーザ光を最小とし、前記透明フィルムに最大電圧の電気信号を印加することにより、前記対向面間隔が最小となり、前記シート部材を透過するレーザ光を最大とするようにしたことを特徴とする請求項2または3に記載されたレーザ光調整・制御装置。
  5. 前記シート部材は、電圧印加時に屈折率が変化する機能材料からなり、前記プリズムA、Bの両対向面間におけるレーザ光の近接場光の浸み出し長を可変するものであることを特徴とする請求項2または3に記載されたレーザ光調整・制御装置。
  6. 前記プリズムA、Bの一方に、プラズモン励起条件に整合した金属薄膜を前記シート部材に対向するよう形成したことを特徴とする請求項5に記載されたレーザ光調整・制御装置。



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