以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
本発明の自己修復性導電性材料は、第1の高分子化合物と、第2の高分子化合物とを構成成分として含有する導電性高分子で形成され、前記導電性高分子は、高分子鎖どうしが一種又は異なる二種以上の可逆的結合を形成するための官能基を有している。言い換えれば、前記導電性高分子は、導電性高分子鎖間で一種又は異なる二種以上の可逆的結合が形成され得る。本発明の自己修復性導電性材料は、優れた導電性を有しており、しかも自己修復性を備えた材料である。なお、以下では、本発明の自己修復性導電性材料を単に「導電性材料」と表記することがある。
導電性高分子は、2種類の高分子化合物、すなわち、第1の高分子化合物と、第2の高分子化合物とを構成成分として含む。導電性高分子鎖どうしの可逆的結合が形成される態様としては、第1の高分子化合物どうしで可逆的結合が形成される態様、第2の高分子化合物どうしで可逆的結合が形成される態様、あるいは、第1の高分子化合物と第2の高分子化合物とで可逆的結合が形成される態様を挙げることができる。導電性高分子鎖間での可逆的結合が形成される態様は、これら3種類の態様のいずれか1種類の場合及び2種以上が組み合わされる場合があり得る。
なお、本明細書において「高分子化合物どうし」なる記載は、第1の高分子化合物どうし、第2の高分子化合物どうし、及び、第1の高分子化合物と第2の高分子化合物どうし、を包含する。
可逆的結合は、可逆的結合を形成するための官能基どうしが対になって形成される。可逆的結合の種類は特に限定されず、例えば、結合及び解離が可逆的に繰り返し起こり得る結合を選択することができる。導電性高分子は、高分子化合物どうしが可逆的結合で結合していることで、高分子化合物どうしの結合及び解離が可逆的に起こり得るものとなる。これにより、導電性材料に自己修復性能が発揮され得る。つまり、導電性材料に傷が付いたとしても、傷口部分に存在する一方の高分子化合物と、他方の高分子化合物とが可逆的結合によって再度の結合(又は相互作用)が起こり、これにより、傷口が塞がれて元の状態と同一の状態若しくは近い状態に修復され得る。
また、導電性材料が仮に切断されたとしても、切断面どうしを再度接触させることによっても、高分子化合物どうしが可逆的結合によって再度の結合(又は相互作用)が起こる。これにより、一度切断された導電性材料が再度接着し、導電性材料が自己修復し得る。
可逆的結合は、例えば、静電相互作用、ホスト−ゲスト相互作用、疎水性相互作用、水素結合、イオン結合、配位結合、π電子相互作用及びこれら以外の分子間相互作用からなる群より選ばれる少なくとも1種の非共有結合であることが好ましい。これらの非共有結合は可逆的な結合であり、容易に結合及び解離が起こり得るので、導電性材料の自己修復性がより高く発揮されやすい。
なお、念のための注記に過ぎないが、非共有結合を2種以上含むとは具体的に、高分子化合物どうしが互いに2箇所以上の部分で非共有結合を形成しており、かつ、それぞれの非共有結合の種類が、互いに異なる2種以上であるということを意味する。
非共有結合を形成するための官能基(以下、「非共有結合性官能基」と略記する)としては、前述の各種の非共有結合を形成できる限りは特に限定されない。
非共有結合が静電相互作用である場合、非共有結合性官能基の組み合わせとしては、スチレンスルホン酸骨格と、チオフェン骨格とを挙げることができる。この場合、スチレンスルホン酸骨格のスルホン酸部位(SO3 −)が負電荷、チオフェン骨格のチオフェン部位が正電荷としての役割を果たし、これにより静電相互作用が形成され得る。
その他、静電相互作用を形成するための官能基としては、一方が正電荷、他方が負電荷の各種官能基の組み合わせを採用できる。正電荷を付与できる官能基としては、ピロール、アニリン等を例示でき、負電荷を付与できる官能基としては、水酸基、カルボキシ基等の他、ホウ酸、リン酸、砒酸、ボロン酸由来の官能基を例示できる。
非共有結合がホスト−ゲスト相互作用である場合、非共有結合性官能基の組み合わせとしては、ホスト基及びゲスト基を挙げることができる。ホスト−ゲスト相互作用とは、ホスト基とゲスト基との間で形成される結合のことをいう。
ホスト基は、例えば、ホスト分子によって形成される基である。つまり、ホスト基とは、ホスト分子から一つの原子又は置換基(例えば、水素、水酸基等)が除されて形成される基である。
ホスト分子としては、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、カリックス[6]アレーンスルホン酸、カリックス[8]アレーンスルホン酸、12−クラウン−4、18−クラウン−6、[6]パラシクロファン、[2,2]パラシクロファン、ククルビット[6]ウリル及びククルビット[8]ウリル、ククルビット[7]ウリル及びピラー[n]アレーン(nは5〜15の整数)の群から選ばれる少なくとも1種が例示される。ホスト分子はさらに置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基、保護されていてもよい水酸基等が挙げられる。
ホスト基は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリンから一つの水素原子又は水酸基が除された基であることが好ましい。この場合、より安定なホスト−ゲスト相互作用が形成されやすいことから、最終的に得られる導電性材料の自己修復性が発揮されやすい。
ゲスト基は、ゲスト分子によって形成される基である。つまり、ゲスト基とは、ゲスト分子から一つの原子又は置換基(例えば、水素、水酸基等)が除されて形成される基である。
ゲスト基としては、炭素数1〜30の直鎖又は分岐状の炭化水素基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基及び有機金属錯体等が挙げられ、これらは一以上の置換基を有していてもよい。より具体的なゲスト基としては、炭素数4〜18の鎖状又は環状のアルキル基が挙げられる。環状のアルキル基は、かご型の構造であってもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基、保護されていてもよい水酸基等が挙げられる。
ゲスト基は、その他、例えば、アルコール誘導体;アリール化合物;カルボン酸誘導体;アミノ誘導体;環状アルキル基又はフェニル基を有するアゾベンゼン誘導体;桂皮酸誘導体;芳香族化合物及びそのアルコール誘導体;アミン誘導体;フェロセン誘導体;アゾベンゼン;ナフタレン誘導体;アントラセン誘導体;ピレン誘導体:ペリレン誘導体;フラーレン等の炭素原子で構成されるクラスター類;ダンシル化合物の群から選ばれる少なくとも1種が例示されるゲスト分子から形成された基であってもよい。
ゲスト基としては、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、t−ブチル基、イソボルニル基及びアダマンチル基の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
ホスト基及びゲスト基の組み合わせとしては、ホスト基を構成するホスト分子がα−シクロデキストリンである場合、ゲスト基はn−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基及びn−ドデシル基の群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ホスト基を構成するホスト分子がβ−シクロデキストリンである場合、ゲスト基はアダマンチル基、ヒドロキシル基置換アダマンチル基、エチル基置換アダマンチル基、及びイソボルニル基の群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ホスト基を構成するホスト分子がγ−シクロデキストリンである場合、ゲスト基はn−オクチル基、n−ドデシル基及びシクロドデシル基等の群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
可逆的結合のその他の種類として、ボロン酸とカテコールとの相互作用、アルコキシアミン結合、ジスルフィド結合、イミン結合、Diels−Alder反応で形成される結合、オレフィンクロスメタセシス反応で形成される結合等を挙げることができる。Diels−Alder反応で形成される結合は、例えば、共役ジエンとジエノフィルとの反応で形成される。
非共有結合は、静電相互作用と、ホスト−ゲスト相互作用とを少なくとも含むことが好ましい。言い換えれば、導電性高分子は、高分子化合物どうしが、少なくとも静電相互作用及びホスト−ゲスト相互作用の両方の非共有結合によって結合していることが好ましい。この場合、ホスト−ゲスト相互作用の優れた可逆性によって、自己修復性がさらに高まり、加えて、導電性もより高くなり得る。非共有結合が、静電相互作用と、ホスト−ゲスト相互作用とを少なくとも含む場合であっても、その他の非共有結合を含むことができる。あるいは、導電性高分子は、高分子化合物どうしが、静電相互作用及びホスト−ゲスト相互作用のみの非共有結合によって形成されていてもよい。
なお、本発明の効果が阻害されない程度であれば、高分子化合物どうし化学的に架橋した構造を有していてもよい。
導電性高分子は、導電性を付与することができる単量体単位を含む。つまり、導電性高分子を形成する第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物は、導電性を付与することができる単量体単位を含む。なお、本明細書でいう単量体単位とは、単量体が重合した場合に形成される重合体中の繰り返し構造単位を示し、単量体そのものを示すわけではない。また、本明細書でいう「単量体Aに由来する単量体単位」とは、単量体Aを重合して得られる重合体を構成している繰り返しの構成単位を意味する。
導電性を付与することができる単量体単位(以下、「導電性単量体単位」と略記する)としては特に限定されず、例えば、公知の導電性高分子を形成するために用いられている単量体単位を広く適用することができる。導電性単量体単位としては、例えば、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位、チオフェン骨格を有する単量体単位、アニリン骨格を有する単量体単位、フェニレンビニレン骨格を有する単量体単位及びアセチレン骨格を有する単量体単位を挙げることができる。なお、本明細書でいう導電性単量体単位は、後記するホスト基を有する単量体単位及びゲスト基を有する単量体単位は除くものである。
スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位としては、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸カリウム等のスチレンスルホン酸塩に由来する単量体単位が挙げられる。これらは、置換基を有することもできる。スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位は、例えば、スチレンのパラ位にスルホン酸が結合した単量体単位を挙げることができる。
チオフェン骨格を有する単量体単位としては、例えば、チオフェン、2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン(別名、3,4−エチレンジオキシチオフェンでありEDOTと称される)等に由来する単量体単位が挙げられる。これらは、置換基を有することもできる。
アニリン骨格を有する単量体単位としては、例えば、アニリンに由来する単量体単位が挙げられる。アニリンは置換基を有することもできる。
フェニレンビニレン骨格を有する単量体単位としては、フェニレンビニレンに由来する単量体単位が挙げられる。フェニレンビニレンは置換基を有することもできる。
アセチレン骨格を有する単量体単位としては、アセチレンに由来する単量体単位が挙げられる。フェニレンビニレンは置換基を有することもできる。
導電性高分子は、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位、チオフェン骨格を有する単量体単位、アニリン骨格を有する単量体単位、フェニレンビニレン骨格を有する単量体単位及びアセチレン骨格を有する単量体単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体単位を含むことが好ましい。この場合、導電性高分子は高い導電率を有することができ、導電性材料の導電性能がさらに高まる。
導電性高分子は、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位及びチオフェン骨格を有する単量体単位の両方を有していることが好ましい。より具体的に言えば、導電性高分子を形成する第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物の一方がスチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位を有しており、他方がチオフェン骨格を有する単量体単位を有していることが好ましい。この場合、導電性材料の導電性能がさらに高まることに加えて、スチレンスルホン酸骨格とチオフェン骨格との静電相互作用(つまり、非共有結合)も効果的に作用するので、自己修復性も発揮されやすい。また、導電性高分子は、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位及びチオフェン骨格を有する単量体単位の両方を有する場合は、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物への非共有結合可能な官能基の導入も製造上容易になりやすいという利点もある。
導電性高分子が、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位及びチオフェン骨格を有する単量体単位の両方を有する場合の具体例としては、例えば、スチレンスルホン酸骨格がスチレンスルホン酸塩単位、チオフェン骨格がEDOT単位である組み合わせである。スチレンスルホン酸塩としては、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸カリウム等が挙げられる。例えば、スチレンスルホン酸ナトリウム単位は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSSNa)を形成し、導電性高分子におけるいわゆる「ドーパント」としての機能を発揮する。
第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物は、例えば、導電性単量体単位のみで形成することができる。この場合、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物の一方は、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位のみで形成され、他方は、チオフェン骨格を有する単量体単位のみで形成することができる。この形態の具体例としては、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物の一方がポリスチレンスルホン酸ナトリウム(PSSNa)、他方が前記EDOTのポリマー(PEDOT)が挙げられる。なお、以下ではこの形態を「第1形態」と略記する。
第1形態において、PSSNaは、スルホン酸に起因する陰イオン性を示し、PEDOTは、チオフェン骨格に起因する陽イオン性を示すことから、PSSNa及びPEDOT間で静電相互作用がはたらく。これにより、PSSNaとPEDOTとが非共有結合で結合して導電性高分子が形成される。第1形態の導電性高分子は、PSSNa及びPEDOTを有することで、優れた導電性を有し、しかも、両者間の静電相互作用によって、自己修復性が発揮され得る。前述のように、PSSNaは、導電性高分子における「ドーパント」としての機能を発揮する。第1形態の導電性高分子材料では、例えば、PSSNaのスルホン酸イオン及びチオフェン骨格それぞれが、導電性高分子における可逆的結合を形成するための官能基である。
PSSNa及びPEDOTはいずれも公知の方法で製造することができる。例えば、PSSNaはスチレンスルホン酸ナトリウムの重合反応により得ることができる。PEDOTはスチレンスルホン酸ナトリウムの重合反応により得ることができる。PSSNa及びPEDOTは。市販のPSSNa及びPEDOTを使用することもできる。
第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物はそれぞれ、導電性単量体単位に加えて、他の単量体単位、特に、可逆的結合(例えば、非共有結合)を形成することが可能な官能基を有する単量体単位を有することができる。この場合、導電性高分子は、導電性単量体単位の存在によって、前述のように導電性及び自己修復性が優れることに加えて、他の非共有結合の存在により、さらに自己修復性能が補強され得る。他の非共有結合としては、例えば、ホスト−ゲスト相互作用を挙げることができる。
例えば、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物の一方は、ホスト基を有する単量体単位を有し、ゲスト基を有する単量体単位を有さず、他方は、ゲスト基を有する単量体単位を有し、ホスト基を有する単量体単位を有していない形態にすることができる。なお、以下ではこの形態を「第2形態」と略記する。ホスト基及びゲスト基はそれぞれ可逆的結合を形成するための官能基である。
第2形態において、第1の高分子化合物及び前記第2の高分子化合物はいずれも導電性単量体単位も有する。例えば、第2形態において、1の高分子化合物及び第2の高分子化合物の一方は、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位を含み、他方は、チオフェン骨格を有する単量体単位を含む構造とすることができる。スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位を含む方の高分子化合物は、導電性高分子における「ドーパント」としての機能を発揮する。
第2形態において、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位を含む高分子化合物は、製造が容易である観点から、ホスト基又はゲスト基を有する単量体単位の主鎖はC−C結合であることが好ましい。また、第2形態において、チオフェン骨格を有する単量体単位を含む高分子化合物は、製造が容易である観点から、ホスト基又はゲスト基を有する単量体単位の主鎖は、同様のチオフェン骨格であることが好ましい。
第2形態では、第1の高分子化合物と第2の高分子化合物との間に導電性単量体単位に起因する静電相互作用がはたらくことに加えて、ホスト基とゲスト基との結合、すなわちホスト−ゲスト相互作用も非共有結合の役割を果たし得る。つまり、第2形態では、導電性高分子の高分子鎖どうしが静電相互作用及びホスト−ゲスト相互作用の2種類の非共有結合で結合し得る。これにより、導電性高分子材料の自己修復性能がさらに高まる。従って、第2形態の導電性高分子材料では、例えば、PSSNaのスルホン酸イオン及びチオフェン骨格それぞれが、導電性高分子における可逆的結合を形成するための官能基であることに加えて、ホスト基及びゲスト基も可逆的結合を形成するための官能基である。
導電性高分子のさらなる他例として、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物のいずれか一方は、ホスト基を有する単量体単位及びゲスト基を有する単量体単位の両方を有する形態とすることもできる。なお、以下ではこの形態を「第3形態」と略記する。
第3形態において、第1の高分子化合物及び前記第2の高分子化合物はいずれも導電性単量体単位も有する。例えば、第3形態において、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物の一方は、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位を含み、他方は、チオフェン骨格を有する単量体単位を含む構造とすることができる。
第3形態において、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位を含む高分子化合物がホスト基及びゲスト基を有する単量体単位を含む場合は、製造が容易である観点から、ホスト基及びゲスト基を有する単量体単位の主鎖はC−C結合であることが好ましい。また、第3形態において、チオフェン骨格を有する単量体単位を含む高分子化合物がホスト基及びゲスト基を有する単量体単位を含む場合は、製造が容易である観点から、ホスト基及びゲスト基を有する単量体単位の主鎖は、チオフェン骨格であることが好ましい。
第3形態では、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物のうち、ホスト基を有する単量体単位及びゲスト基を有する単量体単位を含む方の高分子化合物はさらに、導電性単量体単位を含み、他方の高分子化合物は導電性単量体単位のみで形成することが好ましい。この場合、ホスト基を有する単量体単位及びゲスト基を有する単量体単位を含む方の高分子化合物どうしで、ホスト−ゲスト相互作用が起こり、さらに、ホスト基を有する単量体単位及びゲスト基を有する単量体単位を含む方の高分子化合物と、他方の高分子化合物との間で静電相互作用も起こる。つまり、導電性高分子の高分子鎖どうしが静電相互作用及びホスト−ゲスト相互作用の2種類の非共有結合で結合し得る。これにより、導電性高分子材料の自己修復性能がさらに高まる。
第3形態では、ホスト基を有する単量体単位及びゲスト基を有する単量体単位を含む方の高分子化合物が、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位を含み、他方の高分子化合物がチオフェン骨格を有する単量体単位を含むことが好ましい。この場合、自己修復率が特に向上しやすい。スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位を含む方の高分子化合物は、導電性高分子における「ドーパント」としての機能を発揮する。第3形態の導電性高分子材料では、例えば、スルホン酸イオン及びチオフェン骨格それぞれが、導電性高分子における可逆的結合を形成するための官能基であることに加えて、ホスト基及びゲスト基も可逆的結合を形成するための官能基である。
さらなる他例として、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物はいずれも、ホスト基を有する単量体単位及びゲスト基を有する単量体単位の両方を有する形態とすることもできる。なお、以下ではこの形態を「第4形態」と略記する。
第4形態において、第1の高分子化合物及び前記第2の高分子化合物はいずれも導電性単量体単位も有する。例えば、第4形態において、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物の一方は、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位を含み、他方は、チオフェン骨格を有する単量体単位を含む構造とすることができる。
第4形態において、スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位を含む高分子化合物は、製造が容易である観点から、ホスト基及びゲスト基を有する単量体単位の主鎖もC−C結合であることが好ましい。また、第4形態において、チオフェン骨格を有する単量体単位を含む高分子化合物は、製造が容易である観点から、ホスト基及びゲスト基を有する単量体単位の主鎖も、同様のチオフェン骨格であることが好ましい。スチレンスルホン酸骨格を有する単量体単位を含む方の高分子化合物は、導電性高分子における「ドーパント」としての機能を発揮する。第4形態の導電性高分子材料では、例えば、スルホン酸イオン及びチオフェン骨格それぞれが、導電性高分子における可逆的結合を形成するための官能基であることに加えて、ホスト基及びゲスト基も可逆的結合を形成するための官能基である。
第4形態では、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物のいずれもホスト基を有する単量体単位及びゲスト基を有する単量体単位の両方を有するので、第1の高分子化合物どうし、第2の高分子化合物どうし、及び、第1の高分子化合物と第2の高分子化合物どうしのいずれの組み合わせにおいても、ホスト−ゲスト相互作用が生じる。また、第4形態では、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物どうしの静電相互作用が生じる。つまり、導電性高分子の高分子鎖どうしが静電相互作用及びホスト−ゲスト相互作用の2種類の非共有結合で結合し得る。この結果、第4形態では、導電性及び自己修復性能が特に優れる。
本発明において、導電性高分子に含まれるホスト基を有する単量体単位の種類は特に限定されず、公知の単量体単位を広く採用することができる。
ホスト基を有する単量体単位としては、例えば、後記一般式(h3)で表される重合性単量体(以下、「ホスト基含有重合性単量体」と略記する)に由来する単量体単位が挙げられる。
式(h3)中、Raは水素原子またはメチル基を表し、R1はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表し、RHはホスト基を表す。ホスト基の種類は前記と同様である。
式(h3)中、R1がアルコキシ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該アルコキシ基として炭素数1〜10のアルコキシ基が例示され、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられ、これらは直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。
式(h3)中、R1がチオアルコキシ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該チオアルコキシ基として炭素数1〜10のチオアルコキシ基が例示され、具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプピルチオ基、ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基等が挙げられ、これらは直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。
式(h3)中、R1がアルキル基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基である場合、当該アルキル基として炭素数1〜30のアルキル基が例示され、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、これらは直鎖状及び分枝鎖状のいずれであってもよい。
式(h3)中、R1が1個の置換基を有していてもよいアミノ基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アミノ基の窒素原子が主鎖(C=C結合)の炭素原子と結合し得る。
式(h3)中、R1が1個の置換基を有していてもよいアミド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アミド基の炭素原子が主鎖(C=C結合)の炭素原子と結合し得る。
式(h3)中、R1がアルデヒド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、アルデヒド基の炭素原子が主鎖(C=C結合)の炭素原子と結合し得る。
式(h3)中、R1がカルボキシル基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基であれば、カルボキシル基の炭素原子が主鎖(C=C結合)の炭素原子と結合し得る。
式(h3)中、R1としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、1個の置換基を有していてもよいアミド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基、すなわち、それぞれ−O−(エーテル結合)、−COO−(エステル結合)及び−CO−NH−(アミド結合)のいずれかであることが好ましく、特に、1個の置換基を有していてもよいアミド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基(−CO−NH−)であることが好ましい。
ホスト基含有重合性単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体であることが好ましい。その具体例としては、6−(メタ)アクリルアミド−α−シクロデキストリン、6−(メタ)アクリルアミド−β−シクロデキストリン、α−シクロデキストリン(メタ)アクリレート、β−シクロデキストリン(メタ)アクリレート、α−シクロデキストリン(メタ)アクリレート、β−シクロデキストリン(メタ)アクリレート、スチレンが挙げられる。ホスト基含有重合性単量体は、公知の方法で製造することができる。本明細書では「(メタ)アクリル」とは「アクリルもしくはメタクリル」を意味する。つまり、例えば、「(メタ)アクリル酸」との記載は「アクリル酸もしくはメタクリル酸」との記載と同義である。
ゲスト基を有する単量体単位としては、例えば、後記一般式(g3)で表される重合性単量体(以下、「ゲスト基含有重合性単量体」と略記する)に由来する単量体単位が挙げられる。
式(g3)中、Raは水素原子またはメチル基を表し、R2はヒドロキシル基、チオール基、1個以上の置換基を有していてもよいアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいチオアルコキシ基、1個以上の置換基を有していてもよいアルキル基、1個の置換基を有していてもよいアミノ基、1個以上の置換基を有していてもよいアミド基、アルデヒド基及びカルボキシル基からなる群より選択される1価の基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基を表し、RGはゲスト基を表す。ゲスト基の種類は前記と同様である。
式(g3)中、R2の定義は上記式(h3)中のR1と同義であり、主鎖(C=C結合)への結合の仕方も同様である。
式(g3)中、R2としては、1個の置換基を有していてもよいアミド基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基、すなわち、−CO−NH−、あるいは、カルボキシル基から1個の水素原子を除去することにより形成される2価の基、すなわち、−COO−であることが好ましい。
ゲスト基含有重合性単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸エステル誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体であることが好ましい。その具体例としては、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、1−アクリルアミドアダマンタン、N−ドデシル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、1−アクリルアミドアダマンタン、N−(1−アダマンチル)(メタ)アクリルアミド、N−ベンジル(メタ)アクリルアミド、N−1−ナフチルメチル(メタ)アクリルアミド、エトキシ化o−フェニルフェノールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、イソステアリルアクリレート、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、イソボルニルアクリレート等が挙げられる。ホスト基含有重合性単量体は、公知の方法で製造することができる。ゲスト基含有重合性単量体は、公知の方法で製造することができる。
ホスト基を含有する単量体単位の他例として、後記一般式(H1)で表される単量体単位が挙げられる。
式(H1)中、CDはシクロデキストリンから一つの水素原子又は水酸基が除された基を示し、シクロデキストリンは、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリンである。
一般式(H1)で表される単量体単位は、ホスト基(CD)を有する。加えて一般式(H1)で表される単量体単位は、チオフェン骨格を有することから、導電性を付与できると共に正電荷としても機能する。つまり、一般式(H1)で表される単量体単位は、前記前記式(h3)で表されるホスト基含有重合性単量体に由来する単量体単位に比べて、導電性高分子に高い導電性を付与でき、かつ、静電相互作用及びホスト−ゲスト相互作用の2種の非共有結合を形成させることができる。このような単量体単位を有する導電性高分子は、優れた導電性を導電性材料に付与できると共に、自己修復性も高めることができる。
一般式(H1)で表される単量体単位は、例えば、下記式(h1)
(式(h1)中、CDはシクロデキストリンから一つの水素原子又は水酸基が除された基を示し、シクロデキストリンは、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン又はγ−シクロデキストリンである)
で表される重合性単量体の重合で形成され得る。
式(h1)で表される重合性単量体を製造する方法は特に限定されない。例えば、一般式(h1)で表される重合性単量体は、3,4−チオフェンジカルボン酸無水物と、アミノシクロデキストリンとの反応によって製造することができる。反応条件は特に限定されず、例えば、公知の酸無水物とアミン化合物との反応条件を採用することができる。アミノシクロデキストリンとしては、例えば、6−アミノ−β−シクロデキストリンが挙げられる。
ホスト基を含有する単量体単位のさらなる他例として、後記一般式(H2)で表される単量体単位が挙げられる。
式(H2)中、CDは前記式(H1)のCDと同義である。
一般式(H2)で表される単量体単位は、ホスト基(CD)を有する。加えて一般式(H2)で表される単量体単位は、チオフェン骨格を有することから、導電性を付与できると共に正電荷としても機能する。つまり、一般式(H2)で表される単量体単位は、前記前記式(h3)で表されるホスト基含有重合性単量体に由来する単量体単位に比べて、導電性高分子に高い導電性を付与でき、かつ、静電相互作用及びホスト−ゲスト相互作用の2種の非共有結合を形成させることができる。このような単量体単位を有する導電性高分子は、優れた導電性を導電性材料に付与できると共に、自己修復性も高めることができる。
一般式(H2)で表される単量体単位は、例えば、下記式(h2)
(式(h2)中、CDは前記式(h1)のCDと同義である)
で表される重合性単量体の重合で形成され得る。
導電性高分子に含まれるホスト基を含有する単量体単位は、1種単独であってもよいし、異なる2種以上を含んでもよい。
ゲスト基を含有する単量体単位の他例として、後記一般式(G1)で表される単量体単位が挙げられる。
(式(G1)中、RGはゲスト基を示す)
ゲスト基(RG)の種類は、前述のゲスト基と同様である。
一般式(G1)で表される単量体単位は、ゲスト基を有する。加えて一般式(G1)で表される単量体単位は、チオフェン骨格を有することから、導電性を付与できると共に正電荷としても機能する。つまり、一般式(G1)で表される単量体単位は、前記一般式(g3)で表されるゲスト基含有重合性単量体に由来する単量体単位に比べて、導電性高分子に高い導電性を付与でき、かつ、静電相互作用及びホスト−ゲスト相互作用の2種の非共有結合を形成させることができる。このような単量体単位を有する導電性高分子は、導電性材料に優れた導電性を付与できると共に、自己修復性も高めることができる。
一般式(G1)で表される単量体単位は、例えば、下記式(g1)
(式(g1)中、RGはゲスト基を示す)
で表される重合性単量体の重合で形成され得る。RGは式(G1)のRGと同義である。
式(g1)で表される重合性単量体を製造する方法は特に限定されない。例えば、一般式(g1)で表される重合性単量体は、3,4−チオフェンジカルボン酸無水物と、RG−NH2との反応によって製造することができる。反応条件は特に限定されず、例えば、公知の酸無水物とアミン化合物との反応条件を採用することができる。RG−NH2としては、例えば、1−アダマンチルアミン等が挙げられる。
ゲスト基を含有する単量体単位の他例として、後記一般式(G2)で表される単量体単位が挙げられる。
(式(G2)中、RGはゲスト基を示す)
ゲスト基(RG)の種類は、前述のゲスト基と同様である。
一般式(G2)で表される単量体単位は、ゲスト基を有する。加えて一般式(G2)で表される単量体単位は、チオフェン骨格を有することから、導電性を付与できると共に正電荷としても機能する。つまり、一般式(G2)で表される単量体単位は、前記一般式(g3)で表されるゲスト基含有重合性単量体に由来する単量体単位に比べて、導電性高分子に高い導電性を付与でき、かつ、静電相互作用及びホスト−ゲスト相互作用の2種の非共有結合を形成させることができる。このような単量体単位を有する導電性高分子は、導電性材料に優れた導電性を付与できると共に、自己修復性も高めることができる。
一般式(G2)で表される単量体単位は、例えば、下記式(g2)
(式(g2)中、RGはゲスト基を示す)
で表される重合性単量体の重合で形成され得る。RGは式(G2)のRGと同義である。
導電性高分子に含まれるゲスト基を含有する単量体単位は、1種単独であってもよいし、異なる2種以上を含んでもよい。
第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物において、各々の高分子化合物に含まれる各単量体単位の含有量は、適宜選択することができる。
例えば、第2形態、第3形態及び第4形態の導電性高分子である場合、ホスト基を有する単量体単位は、高分子化合物の単量体単位の全モル数に対して、0.5〜10モル%とすることができ、1〜5モル%であることが好ましく、2〜4モル%であることがより好ましい。これらの場合、導電性高分子は、特に優れた導電性と自己修復性能を有することができる。
また、第2形態、第3形態及び第4形態の導電性高分子である場合、ゲスト基を有する単量体単位は、高分子化合物の単量体単位の全モル数に対して、0.5〜10モル%とすることができ、1〜5モル%であることが好ましく、2〜4モル%であることがより好ましい。これらの場合、導電性高分子は、特に優れた導電性と自己修復性能を有することができる。
第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物を製造する方法は特に限定されず、例えば、公知の重合反応を広く採用することができる。例えば、単量体単位を構成するための単量体がラジカル重合性の単量体であれば、公知のラジカル重合と同様の条件を採用することができる。
ラジカル重合では、例えば、水性溶媒中、重合開始剤の存在下で重合性単量体を含む混合物を重合反応すればよい。導電性高分子が前記第2形態である場合、重合性単量体を含む混合物としては、スチレンスルホン酸塩と前記式(h3)との混合物、あるいは、スチレンスルホン酸塩と前記式(g3)との混合物が例示される。導電性高分子が前記第3形態又は第4形態である場合、重合性単量体を含む混合物としては、スチレンスルホン酸塩と、前記式(h3)と、前記式(g3)との混合物が例示される。スチレンスルホン酸塩としては、例えば、スチレンスルホン酸ナトリウムである。
ラジカル重合で使用する水性溶媒は、例えば、水である。その他、上記水性溶媒は低級アルコールであってもよく、低級アルコールと水との混合溶媒であってもよい。
水性溶媒の使用量は特に限定されず、例えば、重合反応に使用する全重合性単量体の濃度が0.01M以上となるように水性溶媒を使用することが好ましく、0.1M以上となるように水性溶媒を使用することがより好ましく、0.2M以上となるように水性溶媒を使用することが特に好ましい。良好な重合反応性を維持しやすいという点では、重合反応に使用する全重合性単量体の濃度が10M以下となるように水性溶媒を使用することが好ましい。
ラジカル重合で使用する重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム(以下、APSと称することもある)、過硫酸カリウム及び過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNと称することもある)、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(以下、VA−044と称することもある)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、光重合開始剤(イルガキュア(登録商標)シリーズ等)等が挙げられる。ラジカル重合で使用する重合開始剤は、好ましくは、APS、過硫酸カリウム及び過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、並びにVA−044のいずれか1種である。
ラジカル重合で使用する混合物において、重合開始剤の濃度は、重合性単量体の総量に対し、0.5〜5モル%とすることができる。ラジカル重合反応を行うにあたり、必要に応じて、その他の添加剤を添加してもよい。その他の添加剤としては、重合促進剤、架橋剤等が例示される。上記重合促進剤としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン等である。重合促進剤の濃度は、例えば、重合性単量体の総量に対し、0.5〜5モル%とすることができる。
ラジカル重合反応の条件は、使用する単量体の重合性や使用量、重合開始剤の半減期温度等に応じて適宜の条件で行うことができる。例えば、上記混合物を、0〜100℃、好ましくは、20〜25℃で撹拌することで行える。重合反応の時間は、1〜24時間とすることができ、好ましくは、12〜24時間とすることができる。なお、重合開始剤として、光重合開始剤を用いる場合は、例えば、上記混合物に波長200〜400nmのUV光を照射することにより重合反応を行うことができる。
ラジカル重合反応では、重合反応を開始させる前にあらかじめ、前記式(h3)等で表されるホスト基を有する重合性単量体等の単量体と、前記式(g3)等で表されるゲスト基を有する重合性単量体等の単量体との混合物を加熱する工程(加熱工程)を有することができる。この加熱工程により、ホスト基とゲスト基との相互作用が起こって、単量体どうしの包接化合物(包接錯体)が形成され得る。これにより重合性単量体の混合物が均一になりやすく、速やかに重合反応が進行し、また、導電性高分子におけるホスト−ゲスト相互作用も形成されやすくなる。
包接化合物が形成されたか否かについては、例えば、加熱後の状態を目視することで判定することができる。具体的には、包接化合物が形成されていなければ、混合物は懸濁した状態あるいは静置すると相分離した状態であるが、包接化合物が形成されると、ジェル状又はクリーム状等の粘性を有する状態となり得る。
前記加熱工程において、加熱温度は、例えば、20〜100℃とすることができ、好ましい加熱温度は、50〜80℃である。また、加熱工程での加熱時間は、例えば、1分〜12時間とすることができ、より好ましい反応時間は15分〜1時間である。加熱手段も特に限定されず、例えば、ホットスターラーを用いる方法、恒温槽を用いる方法等が挙げられる。加熱と共に又は加熱に替えて超音波処理を施すこともできる。
加熱工程において、ホスト基を有する重合性単量体及びゲスト基を有する重合性単量体以外の単量体が含まれる場合、該単量体は加熱工程の終了後に添加することができるし、あるいは、加熱工程の前に重合性単量体の混合物に添加することもできる。水性溶媒、重合開始剤等の重合反応に使用する原料の重合性単量体の混合物への添加も、加熱工程の前及び加熱工程の後のいずれでもよい。
第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物を製造する方法は、ラジカル重合以外の方法で製造することもできる。例えば、高分子化合物が、チオフェン骨格を有する場合は、チオフェン骨格を有する単量体の混合物を有機金属塩触媒の存在下で重合反応を行うことで製造することができる。以下、この重合反応を、「第2の重合法」と略記する。
第2の重合法では、例えば、アルコール溶媒中、触媒の存在下で重合性単量体を含む混合物を重合反応すればよい。導電性高分子が前記第2形態である場合、重合性単量体を含む混合物としては、前記式(h1)で表される重合性単量体又は前記式(g1)で表される重合性単量体と、チオフェン骨格を有する化合物(ただし、式(h1)で表される重合性単量体及び式(g1)で表される重合性単量体を除く)との混合物が例示される。導電性高分子が前記第3形態又は第4形態である場合、重合性単量体を含む混合物としては、式(h1)で表される重合性単量体及び式(g1)で表される重合性単量体と、チオフェン骨格を有する化合物(ただし、式(h1)で表される重合性単量体及び式(g1)で表される重合性単量体を除く)との混合物が例示される。チオフェン骨格を有する化合物としては、例えば、EDOTを挙げることができる。第2の重合法において、式(h1)で表される重合性単量体に替えて又は組み合わせて式(h2)で表される重合性単量体を使用できる。また、第2の重合法において、式(g1)で表される重合性単量体に替えて又は組み合わせて式(g2)で表される重合性単量体を使用できる。
第2の重合法において、触媒としては、例えば、パラトルエンスルホン酸鉄(III)等の有機金属塩;APS、過硫酸カリウム及び過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;等を挙げることができる。有機金属塩及び過硫酸塩のいずれの触媒を使用したとしても、最終的に得られる導電性高分子は同等の性能を有することができる。
第2の重合法では、アルコールとしては、メタノール、エタノール等の低級アルコールを例示できる。
第2の重合法の重合条件は特に限定されず、例えば、有機金属塩触媒の存在下で行われるチオフェン化合物の公知の重合方法、例えば、電解重合等の公知の方法を広く採用することができる。
第2の重合法においても、前記ラジカル重合と同様、加熱工程によって、包接化合物を形成させてもよい。加熱工程の条件は、前記ラジカル重合の場合と同様である。
第2の重合法によって得られる高分子化合物は、一例として、前記式(H1)で表される単量体単位及び前記式(G1)で表される単量体単位の一方又は両方と、下記式(C1)
で表される単量体単位と、を構成単位として含み得る。以下、このような構造を有する高分子化合物を「高分子化合物A」と表記する。
高分子化合物Aは、構成単位中にチオフェン骨格を有することから、それ自体が導電性高分子化合物となり得る。この場合、スチレンスルホン酸ナトリウム等のスチレンスルホン酸骨格を有する単量体を備える高分子化合物をドーパントとして用いることで、優れた導電性が発揮され得る。
高分子化合物Aが、式(H1)で表される単量体単位及び式(C1)で表される構成単位の一方の構成単位を含む場合は、この高分子化合物Aは、第2形態の導電性高分子を構成する第1の高分子化合物又は第2の高分子化合物となり得る。この場合において、式(H1)で表される単量体単位に替えて又は組み合わせて式(H2)で表される単量体単位を使用できる。
高分子化合物Aが、式(H1)で表される単量体単位及び式(G1)で表される単量体単位の両方の構成単位を含む場合は、この高分子化合物Aは、第3形態の導電性高分子を構成する第1の高分子化合物又は第2の高分子化合物となり得る。この場合において、式(H1)で表される単量体単位に替えて又は組み合わせて式(H2)で表される単量体単位を使用でき、また、式(G1)で表される単量体単位に替えて又は組み合わせて式(G2)で表される単量体単位を使用できる。
また、高分子化合物Aが、式(H1)で表される単量体単位と、式(G1)で表される単量体単位と、式(C1)で表される構成単位とを含む場合は、この高分子化合物Aは、第4形態の導電性高分子を構成する第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物となり得る。この場合において、式(H1)で表される単量体単位に替えて又は組み合わせて式(H2)で表される単量体単位を使用でき、また、式(G1)で表される単量体単位に替えて又は組み合わせて式(G2)で表される単量体単位を使用できる。
導電性高分子は、例えば、第1の高分子化合物と、第2の高分子化合物とをそれぞれ個別に製造し、得られた第1の高分子化合物と、第2の高分子化合物とをそれぞれ混合することで調製することができる。第1の高分子化合物と、第2の高分子化合物とを混合するにあたっては、例えば、両者とも固体状態で混合することができるし、あるいは、両者を溶液にした状態で混合させることができる。また、一方の高分子化合物の溶液に、他方の高分子化合物を固体状態で添加する方法でもよい。
導電性高分子は、第1の高分子化合物が有する導電性単量体単位と、第2の高分子化合物が有する導電性単量体単位とが任意のモル比となるように調製される。例えば、一方の導電性単量体単位がスチレンスルホン酸ナトリウム単位(以下、「NaSS単位」と略記)、他方の導電性単量体単位がEDOT単位(EDOT単位)である場合、NaSS単位/EDOT単位(モル比)は0.1〜20が好ましく、0.2〜10がより好ましく、0.3〜5がさらに好ましく、0.4〜1が特に好ましい。
第1の高分子化合物と、第2の高分子化合物とを混合させる条件は特に限定されない。例えば、混合時の温度、混合時間、混合手段等は適宜の条件で行うことができる。
導電性高分子は、高分子化合物どうしが可逆的結合(例えば、非共有結合)を形成することで、高分子鎖どうしの一種又は異なる二種以上の可逆的結合(例えば、非共有結合)が形成され得る。例えば、導電性高分子は、前述したように、スルホン酸の負電荷とチオフェンの正電荷との静電相互作用が作用し、さらに、ホスト基とゲスト基との結合によるホスト−ゲスト相互作用が作用し得る。
導電性高分子には、本発明の効果が阻害されない程度であれば、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物以外の高分子化合物を含むことができる。
本発明の自己修復性導電性材料は、前記導電性高分子で形成される。自己修復性導電性材料は、導電性高分子のみで形成することができるし、本発明の効果が阻害されない限りは、導電性高分子以外の添加剤等を含むことができる。
添加剤としては、導電性材料に含まれ得る公知の添加剤を広く採用でき、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、分散安定剤、滑剤等が挙げられる。
自己修復性導電性材料は、導電性高分子を、自己修復性導電性材料の全質量に対して50質量%以上含み、80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、99質量%以上含むことが特に好ましい。
自己修復性導電性材料は、膜状に形成することができる。自己修復性導電性材料が膜状であれば、膜、フィルム等の形態で使用される各種の用途に使用することができる。自己修復性導電性材料が膜状である場合の厚みは特に制限されず、用途に応じて適宜の厚みに設定することができる。例えば、自己修復性導電性材料は、1nm〜1cmに調節することができ、成膜性が良好であるという点では1μm〜100μmに調節することができる。
膜状の自己修復性導電性材料を形成する方法は特に限定されず、例えば、公知の膜形成方法を広く採用することができる。例えば、導電性高分子の溶液又は分散液を調製し、この溶液又は分散液を用いた塗布法、キャスト法、スピンコート法等の各種成膜手段によって、膜状の自己修復性導電性材料を形成できる。溶液又は分散液を調製するための溶媒は特に限定されず、水、アルコール等の有機溶媒等を広く使用することができる。
自己修復性導電性材料が膜状である場合、基板上に該基板と共有結合して成膜されていることが好ましい。具体的には、膜状の自己修復性導電性材料が、基板表面に存在する官能基と共有結合を形成していることが好ましい。この場合、膜状の自己修復性導電性材料と基板との接着力(密着性)を向上させることができる。
基板と膜状の自己修復性導電性材料との共有結合は、例えば、自己修復性導電性材料に含まれる前記導電性高分子中の単量体単位が有する官能基と、基板表面に存在する官能基とが反応することで形成される。
導電性高分子が基板表面の前記官能基と共有結合をより形成しやすいという観点から、導電性分子に含まれる構成単位には、基板表面に存在する官能基とが反応して共有結合を形成することが可能な単量体単位を含むことが好ましい。
より好ましくは、自己修復性導電性材料において、前記第1の高分子化合物及び前記第2の高分子化合物の少なくともいずれか一方が、前記基板と前記共有結合を形成可能な官能基を有する単量体単位を含み、前記共有結合を形成可能な官能基と、基板表面の官能基とが共有結合を形成していることである。前記基板と前記共有結合を形成可能な官能基を有する単量体単位を、以下では「アンカー含有単量体単位」と表記する。
導電性高分子が基板表面の前記官能基と共有結合をより形成しやすいという観点から、アンカー含有単量体単位としては、酸無水物由来の化合物、ハロゲン基(例えば、F、Cl、Br、I)を有する化合物、カルボン酸ハロゲン化物(例えば、COCl基を有する化合物、COBr基を有する化合物)、イソシアネート基(NCO)を有する化合物、トリフレート基(CF3SO3 −基)を有する化合物、エポキシ基を有する化合物、p−トルエンスルホン酸基を有する化合物、及び、メタンスルホン酸基を有する化合物等に由来する単量体単位を挙げることができる。
アンカー含有単量体単位(前記共有結合を形成可能な官能基を有する単量体単位)の一例として、下記式(A1)
を挙げることができる。この場合、第1の高分子化合物及び/又は第2の高分子化合物へのアンカー含有単量体単位の導入が容易であり、また、基板との共有結合も形成しやすくなる。式(A1)で表されるアンカー含有単量体単位は、例えば、3,4−チオフェンジカルボン酸無水物に由来する構成単位である。
第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物において、各々の高分子化合物に含まれるアンカー含有単量体単位の含有量は、適宜選択することができる。
例えば、アンカー含有単量体単位は、基板との密着性が特に高まるという観点から、第1の高分子化合物又は第2の高分子化合物の単量体単位の全モル数に対して、0.5〜10モル%とすることができ、1〜5モル%であることがより好ましい。
第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物がアンカー含有単量体単位を含む場合、高分子化合物の製造方法は特に限定されない。例えば、第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物を製造するための重合性単量体に、アンカー含有単量体単位を形成するための化合物(「アンカー分子」ということもある)を所定量混合させて重合反応を行う。これにより、アンカー含有単量体単位を含む高分子化合物を得ることができる。
一方、基板表面に存在する官能基としては、例えば、アルケニル基、ビニル基、−OH、−SH、−NH2、−COOH、−SO3H、−PO4H、イソシアネート基、グリシジル基、アジド基、ボロン酸基、アルキニル基等が挙げられる。特に、基板表面に存在する官能基としては、−OH、−NH2、−COOH等が好ましく、この場合、導電性高分子との共有結合が形成されやすく、また、これらの官能基は、後記する基板の表面処理によって容易に基板表面に修飾させることが可能である。
基板表面における共有結合可能な官能基の形成方法は特に限定されず、例えば、公知の方法を広く採用することができる。あるいは、既に表面に共有結合可能な官能基を備えた市販の基板を採用することもできる。
基板表面における共有結合可能な官能基の形成する方法としては、基板表面をシランカップリング剤で処理する方法、プラズマ照射する方法、オゾン処理する方法、塩基処理する方法、酸処理する方法等を挙げることができる。これらの方法ではいずれも公知の方法と同様の条件で行うことができる。
プラズマ照射する方法において、プラズマの種類は特に限定されず、マイクロ波プラズマ、プラズマジェット、誘導結合型プラズマ、電子サイクロトロン共鳴プラズマ等の種々の高密度プラズマを挙げることができ、その他、酸素プラズマ、窒素プラズマ、アルゴンプラズマ等も例示される。
プラズマ照射する方法においては、公知のプラズマ照射装置を使用することができる。プラズマを照射するにあたっては、ノズルを回転させながら照射してもよいし、定点吹き付けによりプラズマを照射してもよい。出力及び照射時間等のプラズマ照射条件も適宜設定される。
プラズマの照射は、例えば、大気圧下、窒素雰囲気下、窒素及び水素の混合気体雰囲気下の各種雰囲気下で行うことができる。窒素及び水素の混合気体雰囲気下の場合は、窒素と水素の混合割合は安全性等の観点から適宜設定すればよく、例えば、窒素100〜97vol%及び水素0〜3vol%の混合割合とすることができる。窒素雰囲気下、窒素及び水素の雰囲気下でプラズマ照射をするには、例えば、基板をガラス等の容器内に収容し、ガラス内を所定のガスでパージした後に、プラズマ照射すればよい。
プラズマ照射条件を適宜変更することで、基板の表面状態が変化し得る。例えば、雰囲気中に存在する気体の種類、基板の種類、プラズマ照射時間、プラズマ照射条件(ノズルを回転させるか、定点吹き付けするか)によって、基板の表面状態(例えば、表面の親水性)が変化し得る。例えばプラズマ照射前後のXPS測定において、炭素原子由来のピークの強度が減少し、酸素原子由来のピークの強度が増大し得る。さらに、窒素雰囲気下でプラズマ照射した場合は、窒素原子由来のピーク強度が増大し得る。
オゾン処理の方法は、特に限定されず、公知のオゾン処理の方法を採用することができる。例えば、基板を市販のオゾンクリーナー内に静置させ、酸素雰囲気下で紫外線を照射する方法によって、オゾン処理を行うことができる。基板がオゾン処理されると、基板のオゾン処理された部分は酸素原子の割合が大きくなり、また、親水性が向上し得る。
塩基処理の方法は、特に限定されず、公知の塩基処理の方法を採用することができる。例えば、基板を塩基が溶解した液体中に所定時間浸漬させる方法によって、塩基処理を行うことができる。塩基の種類は限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等を挙げることができる。塩基を溶解させる溶媒は、例えば、水、低級アルコール、水及びアルコールの混合溶媒を挙げることができる。基板が塩基処理されると、基板の塩基処理された部分の親水性が向上し得る。
酸処理の方法は、特に限定されず、公知の酸処理の方法を採用することができる。例えば、基板を酸が溶解した液体中に所定時間浸漬させる方法によって、酸処理を行うことができる。酸の種類は限定されず、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等の有機酸等を挙げることができる。酸を溶解させる溶媒は、前記塩基を溶解させる溶媒と同様とすることができる。基板が酸処理されると、基板の酸処理された部分の親水性が向上し得る。
基板の表面に官能基が導入されたどうかは、例えば、接触角測定、XPS、IR、蛍光X線、ICP発光分析、TOF−SIMS等を使用した分析により判断することができる。例えば、基板の表面に官能基が導入されると、接触角が変化するので、これにより官能基の導入の有無が確認され得る。
基板の種類は、基板表面が共有結合可能な官能基を有している基板又は前記表面処理で官能基を導入できる基板を使用することが好ましく、例えば、ガラス基板、金属基板、樹脂基板、無機板等の各種基板が挙げられる。
自己修復性導電性材料は、膜状の他、各種の形状とすることができ、基板状、シート状、ブロック状、粉末状、繊維状等が挙げられる。
本発明の自己修復性導電性材料は、前記導電性高分子を含むことで、優れた導電性と自己修復性能を有する。例えば、自己修復性導電性材料が前記膜状であれば、膜表面に切り傷が生じたとしても、あるいは、切断されたとしても、自己修復性能によって、傷口が塞がれ、あるいは、切断部どうしが接着して、元の状態と同一の状態若しくは近い状態に修復され得る。このような自己修復する性質は一度のみに限定されず、複数回の自己修復自己修復が可能である。
本発明の自己修復性導電性材料は、自然治癒で自己修復させることができ、その他、傷の付いた自己修復性導電性材料を高湿環境下(例えば、湿度60%RH以上の環境下)に置く方法、傷口に水を付着させて自己修復させる方法を採用することもできる。水を付着させる方法は、例えば、傷口へ水を滴下する方法、傷口へ水を吹き付ける方法を例示できる。自然治癒で自己修復させる場合及び水を付着させて自己修復させる場合のいずれにおいても、高湿環境下で行うことが好ましい。
本発明の自己修復性導電性材料は、例えば、自己修復率が20%以上となり得る。好ましい自己修復率は25%以上、より好ましい自己修復率は30%以上、更に好ましい自己修復率は40%以上、特に好ましい自己修復率は50%以上である。本発明の自己修復性導電性材料では、自己修復率は100%となる場合もある。
本発明の自己修復性導電性材料は、電気伝導度(導電率)は、1.0×10−5S/cm以上となり得る。自己修復性導電性材料は、好ましくは4.2×10−5S/cm、より好ましくは、5.4×10−5S/cm以上、特に好ましくは8.0×10−5S/cm以上である。
本発明の自己修復性導電性材料は、種々の用途に応用可能である。例えば、自己修復材料は、燃料電池、太陽電池、コンデンサー、タッチパネル、電磁波シールド、帯電防止フィルム、有機LED、トランジスタ等のエレクトロニクス分野の各種用途に好適に使用できる。
本発明の自己修復性導電性材料の応用例として、燃料電池、二次電池等の各種電池のセパレータ用の部材を挙げることができる。セパレータは、燃料電池のセルの間に挟んで積層(スタック)させる部材であり、燃料ガスや空気を遮断する役割を果たす。各セルをシールする機能の他、ガスが流れる流路を作りこんで,燃料ガスや空気を送り込む機能を担う。
本発明の自己修復性導電性材料の膜を、セパレータに貼り付けることで、セパレータに導電性を付与することができ、しかも、自己修復性導電性材料による自己修復性により、セパレータの耐久性を向上させることもできる。従来、セパレータには高分子膜等が貼り合わされることがあるが、この場合、使用時間が長くなると、高分子膜の劣化等で、剥がれ、ピンホール発生等の現象が起こり、導電性の低下を招くことが問題となっていた。しかし、セパレータが本発明の自己修復性導電性材料の膜を有する場合は、自己修復性により、膜の均一状態を保持できること、また、電池を組み立てる作業において、膜に傷が入っても修復されることから、従来の問題を解決し得るものであり、セパレータの耐久性のみならず、燃料電池、二次電池電極の耐久性をも向上させることができる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
(製造例1)
p−スチレンスルホン酸ナトリウム(SSNa)と、ホスト基を有する重合性単量体である6−アクリルアミド−βCD(AAm−βCD)とを、SSNa:AAm−βCDのモル比が98:2となるように混合し、単量体の総濃度が1Mとなる水溶液を調製した。この水溶液に、重合開始剤であるVA−044を5.0mMになるように加えて、50℃で12時間撹拌した。その後、前記溶液にメタノールを加えて再沈殿を行い、得られた沈殿物を乾燥して、下記式(1−1)で表される構造を有するポリマー(数平均重合度nは約500)を得た。
得られたポリマーは、AAm−βCD/PSSNa(x,y)と表記した。x、yはそれぞれホスト基を有する重合性単量体及びゲスト基を有する重合性単量体のモル比であり、ここではx=2、y=0であった。
(製造例2)
下記スキーム(2−1)に従い、3,4−チオフェンジカルボン酸無水物(TDCA)を154mg(1mmol)と、1−アダマンチルアミン(NH2−Ad)を151mg(1mmol)とを乾燥DMF10mLに溶解し、窒素雰囲気下にて80℃で一晩撹拌した。その後、溶媒を留去し、生成した沈殿物を室温でアセトンへ溶解した後、ここへ沈殿が生じない量のヘキサンを加え、4℃にて一晩静置した。析出した沈殿物を回収することで目的物(Thio−Ad)を収率56%で得た。
次いで、エタノール中にて3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)と、ゲスト基を有する重合性単量体としてThio−Adとを、EDOT:Thio−Adのモル比が98:2となるように混合し、単量体の総濃度が60mMとなるような溶液を調製し、パラトルエンスルホン酸鉄(III)を濃度が160mMとなるように加えた後、室温にて24時間撹拌した。その後、エタノールを除去することにより、下記式(2−2)で表される構造を有するポリマーを得た。
得られたポリマーは、Thio−Ad/PEDOT(x,y)と表記した。x、yはそれぞれホスト基を有する重合性単量体及びゲスト基を有する重合性単量体のモル比であり、ここではx=0、y=2であった。
(製造例3)
水中にて、ホスト基を有する重合性単量体である6−アクリルアミド−βCD(AAm−βCD)と、ゲスト基を有する重合性単量体であるアダマンタンアクリルアミド(Ad−AAm)とをそれぞれ当モル量混合し、密封して50℃にて3時間加熱撹拌した。得られた溶液を室温まで放冷し、そこへp−スチレンスルホン酸ナトリウム(SSNa)を、SSNa:AAm−βCD:Ad−AAmのモル比が96:2:2となるように混合し、単量体の総濃度が1Mとなるような溶液を調製した。この溶液に、重合開始剤であるVA−044を5.0mMになるように加えて、50℃で12時間撹拌した。その後、前記溶液にメタノールを加えて再沈殿を行い、得られた沈殿物を乾燥して、下記式(3−1)で表される構造を有するポリマー(数平均重合度nは約500)を得た。
得られたポリマーは、βCD/Ad/PSSNa(x,y)と表記した。x、yはそれぞれホスト基を有する重合性単量体及びゲスト基を有する重合性単量体のモル比であり、ここではx=2、y=2であった。
(製造例4)
下記スキーム(4−1)に従い、TDCA62mg(0.4mmol)と6−アミノ−β−シクロデキストリン(NH2−β−CD)454mg(0.4mmol)を乾燥DMF4mLに溶解し、窒素雰囲気下にて80℃で一晩撹拌した。その後、溶媒を留去し、生成した沈殿物を室温で水10mLに溶解してDIAION社のHP−20により精製した(水:メタノール=50:50にて溶出した)。生成後の液体をエバポレートした後、凍結乾燥した。得られた固体を再度水に溶解し、アセトンによって再沈殿させた。沈殿物を回収し、減圧乾燥を行うことで目的物(Thio−βCD)を収率55%で得た。
次いで、エタノール中にて3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)と、ホスト基を有する単量体としてThio−βCDと、ゲスト基を有する単量体としてThio−Adとを、EDOT:Thio−βCD:Thio−Adのモル比が96:2:2となるように混合し、単量体の総濃度が60mMとなるような溶液を調製し、パラトルエンスルホン酸鉄(III)を濃度が160mMとなるように加えた後、室温にて24時間撹拌した。その後、エタノールを除去することにより、下記式(4−2)で表される構造を有するポリマーを得た。
得られたポリマーは、βCD/Ad/PEDOT(x,y)と表記した。x、yはそれぞれホスト基を有する重合性単量体及びゲスト基を有する重合性単量体のモル比であり、ここではx=2、y=2であった。
(実施例1−1)
第1の高分子化合物として公知の方法で製造したPEDOTを、第2の高分子化合物として公知の方法で製造したPSSNaとを準備し、これらを、SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が0.5:1の割合となるように混合した水溶液を調製した。この水溶液は、PEDOTの濃度が90mMとなるように調製した。次いで、必要に応じて超音波を照射し、懸濁液を得た。得られた懸濁液から、ドロップキャスト法により、厚みが約100μmである導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例1−2)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が1:1の割合となるように混合したこと以外は実施例1−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例1−3)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が5:1の割合となるように混合したこと以外は実施例1−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例1−4)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が10:1の割合となるように混合したこと以外は実施例1−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例1−5)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が20:1の割合となるように混合したこと以外は実施例1−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例2−1)
第1の高分子化合物として製造例2で得られたThio−Ad/PEDOT(x,y)を、第2の高分子化合物として製造例1で得られたAAm−βCD/PSSNa(x,y)とを準備し、これらを、SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が0.5:1の割合となるように混合した水溶液を調製した。この水溶液は、Thio−Ad/PEDOT(x,y)の濃度が90mMとなるように調製した。次いで、必要に応じて超音波を照射し、懸濁液を得た。得られた懸濁液から、ドロップキャスト法により、厚みが約100μmである導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例2−2)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が1:1の割合となるように混合したこと以外は実施例2−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例2−3)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が5:1の割合となるように混合したこと以外は実施例2−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例2−4)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が10:1の割合となるように混合したこと以外は実施例2−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例2−5)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が20:1の割合となるように混合したこと以外は実施例2−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例3−1)
第1の高分子化合物として製造例4で得られたβCD/Ad/PEDOT(x,y)を、第2の高分子化合物としてPSSNaとを準備し、これらを、SSNa単量体単位とEDOT単量体単位との0.5:1の割合となるように混合した水溶液を調製した。この水溶液は、βCD/Ad/PEDOTの濃度が90mMとなるように調製した。次いで、必要に応じて超音波を照射し、懸濁液を得た。得られた懸濁液から、ドロップキャスト法により、厚みが約100μmである導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例3−2)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が1:1の割合となるように混合したこと以外は実施例3−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例3−3)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が5:1の割合となるように混合したこと以外は実施例3−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例3−4)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が10:1の割合となるように混合したこと以外は実施例3−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例3−5)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が20:1の割合となるように混合したこと以外は実施例3−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例3−6)
第1の高分子化合物としてPEDOTを、第2の高分子化合物として製造例3で得られたβCD/Ad/PSSNa(x,y)とを準備し、これらを、SSNa単量体単位とEDOT単量体単位との0.5:1の割合となるように混合した水溶液を調製した。この水溶液は、PEDOTの濃度が90mMとなるように調製した。次いで、必要に応じて超音波を照射し、懸濁液を得た。得られた懸濁液から、ドロップキャスト法により、厚みが約100μmである導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例3−7)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が1:1の割合となるように混合したこと以外は実施例3−6と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例3−8)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が5:1の割合となるように混合したこと以外は実施例3−6と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例3−9)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が10:1の割合となるように混合したこと以外は実施例3−6と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例3−10)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が20:1の割合となるように混合したこと以外は実施例3−6と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例4−1)
第1の高分子化合物として製造例4で得られたβCD/Ad/PEDOT(x,y)を、第2の高分子化合物として製造例3で得られたβCD/Ad/PSSNa(x,y)とを準備し、これらを、SSNa単量体単位とEDOT単量体単位との0.5:1の割合となるように混合した水溶液を調製した。この水溶液は、βCD/Ad/PEDOTの濃度が90mMとなるように調製した。次いで、必要に応じて超音波を照射し、懸濁液を得た。得られた懸濁液から、ドロップキャスト法により、厚みが約100μmである導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例4−2)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が1:1の割合となるように混合したこと以外は実施例4−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例4−3)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が5:1の割合となるように混合したこと以外は実施例4−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例4−4)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が10:1の割合となるように混合したこと以外は実施例4−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(実施例4−5)
SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が20:1の割合となるように混合したこと以外は実施例4−1と同様の方法で導電性高分子の膜をガラス基板上に形成した。
(導電性評価)
4探針法により、得られた導電性高分子膜の導電性を評価した。測定には、三菱ケミカルアナリテック社「ロレスターGP」又は「ロレスターGX」を使用し、プローブタイプは、PSPプローブとし、端子間距離を1.5mm、端子ピン先を0.26R、端子バネ圧を70g/本として導電率を測定した。
(自己修復性評価)
各実施例及び比較例で得られた導電性高分子の膜(膜面積3〜5cm2)に、長さ5〜20mm、幅10〜30μm、深さ2〜20μmの範囲となるようにカッターナイフで傷をつけた。その後、25℃にて、Keyence社の3次元レーザー顕微鏡「VK−X250」を用いて、傷を観察し、傷の面積S0を計測した。この計測は、3次元レーザー顕微鏡に附属の「VK−X解析アプリケーション」にて行った。
次いで、傷を付けた導電性高分子の膜を、容積が190cm3であるシャーレ内に収容し、さらに水(20〜30mL)を十分に含ませたキムワイプをシャーレの淵に置き、蓋をして12時間(ただし、実施例5−1〜5−9では10分)、室温(25℃)で静置した。このときシャーレ内の相対湿度は60〜80%RHであった。その後、3次元レーザーレーザー顕微鏡にて傷の面積S1をS0と同様の方法で計測した。
自己修復率は、自己修復前後の傷の面積、具体的に、計算式{(S0−S1)/S0}×100によって自己修復率を算出した。
表1は、導電性評価及び自己修復性評価の結果を示す。
実施例1(第1形態)では、導電性高分子の高分子鎖どうしが静電相互作用により非共有結合を形成しており、実施例2(第2形態)、実施例3(第3形態)及び実施例4(第4形態)では静電相互作用及びホスト−ゲスト相互作用により非共有結合を形成していることから、優れた自己修復性能が発揮されていることもわかった。また、いずれの導電性高分子も導電性単量体単位を有していることから、優れた導電性を有していることも認められた。特に、実施例3−6、実施例4−1では、静電相互作用と、ホスト−ゲスト相互作用が効果的に作用していると考えられることから、顕著な自己修復性能が見られた。
図1は、実施例3−6で得られた導電性高分子膜の自己修復試験の結果であって、(a)は、修復前の膜表面の画像、(b)は、修復後の膜表面の画像を示し、(c)は修復前の傷の面積の計測結果、(d)は修復後の傷の面積の計測結果を示す。図1(a)及び(b)の比較、並びに(c)及び(d)の比較から、実施例3−6で得られた導電性高分子膜は、自己修復機能により、傷がほぼ消失していることがわかる。
(アンカー含有単量体単位の導入)
(実施例5−1)
公知の方法で製造したPSSNaを第2の高分子化合物として準備し、このPSSNaが40mMである水溶液中にて、EDOTと、TDCA(TDCAとは、アンカー含有単量体単位を形成するための化合物としての3,4−チオフェンジカルボン酸無水物である)との総濃度が40mMとなるように溶解した。なお、EDOTと、TDCAとのモル比は98:2とした。そこへ過硫酸アンモニウムを80mMの濃度となるように添加し、室温(25℃)にて24時間撹拌した。これにより第1の高分子化合物を生成させ、第1の高分子化合物と第2の高分子化合物とを含む導電性高分子を得た。
次いで、第2の高分子化合物の濃度が90mMとなるように導電性高分子の水溶液を調製し、必要に応じて超音波を照射することで懸濁液を得た。得られた懸濁液を、あらかじめ表面処理した基板Sに塗布し、厚みが約100μmである導電性高分子の膜を基板S上に形成した。基板Sはステンレス基板であり、懸濁液を塗布する前にあらかじめ、窒素/水素混合ガスによる大気圧プラズマ処理を行った。この処理後のXPS分析から、窒素原子と酸素原子の存在比率がプラズマ処理前よりも上昇していることから、プラズマ処理によって基板Sの表面には水酸基及びアミノ基が形成されていることが示唆された。
(実施例5−2)
第1の高分子化合物として式(4−2)で表されるポリマーであるβCD/Ad/PEDOT(2,2)を、第2の高分子化合物として公知の方法で製造したPSSNaとを準備した。
次いで、第1の高分子化合物と第2の高分子化合物とを、SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が0.5:1の割合となるように混合した水溶液を調製した。この水溶液は、βCD/Ad/PEDOT(2,2)の濃度が90mMとなるように調製した。次いで、必要に応じて超音波を照射し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を、あらかじめ表面処理した基板Sに塗布し、厚みが約100μmである導電性高分子の膜を基板S上に形成した。基板Sはステンレス基板であり、懸濁液を塗布する前にあらかじめ、窒素/水素混合ガスによる大気圧プラズマ処理を行った。この処理後のXPS分析から、窒素原子と酸素原子の存在比率がプラズマ処理前よりも上昇していることから、プラズマ処理によって基板Sの表面には水酸基及びアミノ基が形成されていることが示唆された。
(実施例5−3)
公知の方法で製造したPSSNa(第2の高分子化合物)を準備し、このPSSNaが40mMである水溶液中にて、EDOTと、式(4−1)で表されるThio−βCDと、式(2−1)で表されるThio−Adと、TDCAとの総濃度が40mMとなるように溶解した。そこへ過硫酸アンモニウムを80mMの濃度となるように添加し、室温(25℃)にて24時間撹拌することで、第1の高分子化合物を生成させ、第1の高分子化合物と第2の高分子化合物とを含む高分子材料を得た。得られた第1の高分子化合物は、下記式(5−3)
で示されるものであり、PEDOT(y,y,z)と表記した(以降も同様である)。PEDOT(y,y,z)における括弧内のy、y,zは順にホスト基を有する重合性単量体、ゲスト基を有する重合性単量体及びアンカー含有単量体単位のモル比を示し、ここではy=2、y=2,z=5、すなわち、PEDOT(2,2,5)であった。
次いで、PEDOT(2,2,5)の濃度が90mMとなるように第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物を含む水溶液を調製し、必要に応じて超音波を照射することで懸濁液を得た。得られた懸濁液を、あらかじめ表面処理した基板Sに塗布し、厚みが約100μmである導電性高分子の膜を基板S上に形成した。基板Sはステンレス基板であり、懸濁液を塗布する前にあらかじめ、窒素/水素混合ガスによる大気圧プラズマ処理を行った。この処理後のXPS分析から、窒素原子と酸素原子の存在比率がプラズマ処理前よりも上昇していることから、プラズマ処理によって基板Sの表面には水酸基及びアミノ基が形成されていることが示唆された。
(実施例5−4)
製造例1で得られた式(1−1)式で表されるAAm−βCD/PSSNa(2,0)(第2の高分子化合物)と、式(2−2)で表されるThio−Ad/PEDOT(0,2)(第1の高分子化合物)とを、SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が0.5:1の割合となるように混合した水溶液を調製した。この水溶液は、PEDOT(0,2,0)の濃度が90mMとなるように調製した。次いで、必要に応じて超音波を照射し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を、あらかじめ表面処理した基板Sに塗布し、厚みが約100μmである導電性高分子の膜を基板S上に形成した。基板Sはステンレス基板であり、懸濁液を塗布する前にあらかじめ、窒素/水素混合ガスによる大気圧プラズマ処理を行った。この処理後のXPS分析から、窒素原子と酸素原子の存在比率がプラズマ処理前よりも上昇していることから、プラズマ処理によって基板Sの表面には水酸基及びアミノ基が形成されていることが示唆された。
(実施例5−5)
製造例1で得られた式(1−1)式で表されるAAm−βCD/PSSNa(2,0)(第2の高分子化合物)が40mMである水溶液中にて、EDOTと、式(2−1)で表されるThio−Adと、TDCAとの総濃度が40mMとなるように溶解した。そこへ過硫酸アンモニウムを80mMの濃度となるように添加し、室温(25℃)にて24時間撹拌撹拌することで、第1の高分子化合物を生成させ、第1の高分子化合物と第2の高分子化合物とを含む高分子材料を得た。得られた第1の高分子化合物は、PEDOT(y,y,z)と表記した。PEDOT(y,y,z)における括弧内のy、y,zは順にホスト基を有する重合性単量体、ゲスト基を有する重合性単量体及びアンカー含有単量体単位のモル比を示し、ここではy=0、y=2,z=5、すなわち、PEDOT(0,2,5)であった。
次いで、PEDOT(0,2,5)の濃度が90mMとなるように90mMとなるように第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物を含む水溶液を調製し、必要に応じて超音波を照射することで懸濁液を得た。得られた懸濁液を、あらかじめ表面処理した基板Sに塗布し、厚みが約100μmである導電性高分子の膜を基板S上に形成した。基板Sはステンレス基板であり、懸濁液を塗布する前にあらかじめ、窒素/水素混合ガスによる大気圧プラズマ処理を行った。この処理後のXPS分析から、窒素原子と酸素原子の存在比率がプラズマ処理前よりも上昇していることから、プラズマ処理によって基板Sの表面には水酸基及びアミノ基が形成されていることが示唆された。
(実施例5−6)
製造例3で得られた式(3−1)式で表されるβCD/Ad/PSSNa(2,2)(第2の高分子化合物)と、公知の方法で製造したPEDOT(第1の高分子化合物)とを、SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が0.5:1の割合となるように混合した水溶液を調製した。この水溶液は、PEDOTの濃度が90mMとなるように調製した。次いで、必要に応じて超音波を照射し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を、あらかじめ表面処理した基板Sに塗布し、厚みが約100μmである導電性高分子の膜を基板S上に形成した。基板Sはステンレス基板であり、懸濁液を塗布する前にあらかじめ、窒素/水素混合ガスによる大気圧プラズマ処理を行った。この処理後のXPS分析から、窒素原子と酸素原子の存在比率がプラズマ処理前よりも上昇していることから、プラズマ処理によって基板Sの表面には水酸基及びアミノ基が形成されていることが示唆された。
(実施例5−7)
製造例3で得られた式(3−1)式で表されるβCD/Ad/PSSNa(2,2)(第2の高分子化合物)が40mMである水溶液中にて、EDOTと、TDCAとの総濃度が40mMとなるように溶解した。なお、EDOTと、TDCAとのモル比は98:2とした。そこへ過硫酸アンモニウムを80mMの濃度となるように添加し、室温(25℃)にて24時間撹拌した。これにより第1の高分子化合物を生成させ、第1の高分子化合物と第2の高分子化合物とを含む導電性高分子を得た。
次いで、第2の高分子化合物の濃度が90mMとなるように導電性高分子の水溶液を調製し、必要に応じて超音波を照射することで懸濁液を得た。得られた懸濁液を、あらかじめ表面処理した基板Sに塗布し、厚みが約100μmである導電性高分子の膜を基板S上に形成した。基板Sはステンレス基板であり、懸濁液を塗布する前にあらかじめ、窒素/水素混合ガスによる大気圧プラズマ処理を行った。この処理後のXPS分析から、窒素原子と酸素原子の存在比率がプラズマ処理前よりも上昇していることから、プラズマ処理によって基板Sの表面には水酸基及びアミノ基が形成されていることが示唆された。
(実施例5−8)
製造例3で得られた式(3−1)式で表されるβCD/Ad/PSSNa(2,2)(第2の高分子化合物)と、式(4−2)で表されるポリマーであるβCD/Ad/PEDOT(2,2)(第1の高分子化合物)とを、SSNa単量体単位とEDOT単量体単位とのモル比が0.5:1の割合となるように混合した水溶液を調製した。この水溶液は、βCD/Ad/PEDOT(2,2)の濃度が90mMとなるように調製した。次いで、必要に応じて超音波を照射し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を、あらかじめ表面処理した基板Sに塗布し、厚みが約100μmである導電性高分子の膜を基板S上に形成した。基板Sはステンレス基板であり、懸濁液を塗布する前にあらかじめ、窒素/水素混合ガスによる大気圧プラズマ処理を行った。この処理後のXPS分析から、窒素原子と酸素原子の存在比率がプラズマ処理前よりも上昇していることから、プラズマ処理によって基板Sの表面には水酸基及びアミノ基が形成されていることが示唆された。
(実施例5−9)
製造例3で得られた式(3−1)式で表されるβCD/Ad/PSSNa(2,2)(第2の高分子化合物)が40mMである水溶液中にて、EDOTと、式(4−1)で表されるThio−βCDと、式(2−1)で表されるThio−Adと、TDCAとの総濃度が40mMとなるように溶解した。そこへ過硫酸アンモニウムを80mMの濃度となるように添加し、室温(25℃)にて24時間撹拌することで、第1の高分子化合物を生成させ、第1の高分子化合物と第2の高分子化合物とを含む高分子材料を得た。得られた第1の高分子化合物は、前記式(5−3)と同様であり、PEDOT(y,y,z)と表記した。PEDOT(y,y,z)における括弧内のy、y,zは順にホスト基を有する重合性単量体、ゲスト基を有する重合性単量体及びアンカー含有単量体単位のモル比を示し、ここではy=2、y=2,z=5、すなわち、PEDOT(2,2,5)であった。
次いで、PEDOT(2,2,5)の濃度が90mMとなるように第1の高分子化合物及び第2の高分子化合物を含む水溶液を調製し、必要に応じて超音波を照射することで懸濁液を得た。得られた懸濁液を、あらかじめ表面処理した基板Sに塗布し、厚みが約100μmである導電性高分子の膜を基板S上に形成した。基板Sはステンレス基板であり、懸濁液を塗布する前にあらかじめ、窒素/水素混合ガスによる大気圧プラズマ処理を行った。この処理後のXPS分析から、窒素原子と酸素原子の存在比率がプラズマ処理前よりも上昇していることから、プラズマ処理によって基板Sの表面には水酸基及びアミノ基が形成されていることが示唆された。
表2には、実施例5−1〜5−9の導電率、自己修復率及び密着力を測定した。導電率、自己修復率は、実施例1−1等と同様の方法で測定した。
なお、密着力はスクラッチ試験にて評価した。圧子の先端に曲率半径15μmのダイヤモンドを取り付け、励振振幅100μm、スクラッチ速度10μm/S、荷重印加速度300mN/minにて、垂直方向の圧力センサーの感知する圧力を測定し、導電性高分子の膜と基板との剥離エネルギーを「密着力」とした。測定には、レスカ社の「CSR−5000」を使用した。
(実施例6−1)
第1の高分子化合物として式(4−2)で表されるポリマーであるβCD/Ad/PEDOT(2,2)を、βCD/Ad/PEDOT(5,5)に変更したこと以外は実施例5−2と同様の方法で導電性高分子の膜を基板S上に形成した。
(実施例6−2)
第1の高分子化合物としてPEDOT(2,2,5)の代わりにPEDOT(5,5,5)を製造したこと以外は実施例5−3と同様の方法で導電性高分子の膜を基板S上に形成した。
(実施例6−3)
製造例1で得られた式(1−1)式で表されるAAm−βCD/PSSNa(2,0)をAAm−βCD/PSSNa(5,0)(第2の高分子化合物)に、PEDOT(0,2,0)をPEDOT(0,5,0)(第1の高分子化合物)に変更したこと以外は実施例5−4と同様の方法で導電性高分子の膜を基板S上に形成した。
(実施例6−4)
製造例1で得られた式(1−1)式で表されるAAm−βCD/PSSNa(2,0)をAAm−βCD/PSSNa(5,0)(第2の高分子化合物)に変更し、また、PEDOT(0,2,5)の代わりにPEDOT(0,5,5)(第1の高分子化合物)を生成させることに変更したこと以外は実施例5−5と同様の方法で導電性高分子の膜を基板S上に形成した。
(実施例6−5)
製造例3で得られた式(3−1)式で表されるβCD/Ad/PSSNa(2,2)をβCD/Ad/PSSNa(5,5)(第2の高分子化合物)に変更したこと以外は実施例5−6と同様の方法で導電性高分子の膜を基板S上に形成した。
(実施例6−6)
製造例3で得られた式(3−1)式で表されるβCD/Ad/PSSNa(2,2)をβCD/Ad/PSSNa(5,5)(第2の高分子化合物)に変更し、また、EDOTと、TDCAとのモル比は95:5となるように第1の高分子化合物を生成したこと以外は実施例5−7と同様の方法で導電性高分子の膜を基板S上に形成した。
(実施例6−7)
製造例3で得られた式(3−1)式で表されるβCD/Ad/PSSNa(2,2)をβCD/Ad/PSSNa(5,5)(第2の高分子化合物)に変更し、また、式(4−2)で表されるポリマーであるβCD/Ad/PEDOT(2,2)をβCD/Ad/PEDOT(5,5)(第1の高分子化合物)に変更したこと以外は実施例5−8と同様の方法で導電性高分子の膜を基板S上に形成した。
(実施例6−8)
製造例3で得られた式(3−1)式で表されるβCD/Ad/PSSNa(2,2)をβCD/Ad/PSSNa(5,5)(第2の高分子化合物)に変更し、PEDOT(2,2,5)の代わりにPEDOT(5,5,5)を生成させることに変更したこと以外は実施例5−9と同様の方法で導電性高分子の膜を基板S上に形成した。
表3には、実施例6−1〜6−8の抵抗値、自己修復率及び密着力を測定した。自己修復率及び密着力は、実施例5−1等と同様の方法で測定した。
なお、抵抗値はCUSTOM社「デジタルマルチメータCDM−11D」を用いて測定した。測定サンプル(導電性高分子の膜)は、膜厚を3〜5μm、幅1.5mm、長さ8mmとした。
表2及び表3に示すように、実施例5−6と実施例5−7との対比、実施例5−8と実施例5−9との対比、実施例6−5と実施例6−6との対比、実施例6−7と実施例6−8との対比から、導電性高分子にアンカー含有単量体単位が導入されることで、導電性高分子は基板Sにより高い密着力で成膜されることがわかった。この結果は、導電性高分子が基板Sと共有結合して成膜されていることを支持するものといえる。
図2に示すように、第1の高分子化合物が有するアンカー含有単量体単位中の共有結合を形成可能な官能基(酸無水物部位)と、基板S表面の官能基(水酸基又はアミノ基)とが反応して共有結合を形成していると推測される。なお、図2のように共有結合している状態では、アンカー含有単量体単位中の酸無水物部位が開環し、カルボキシ基とエステル(又はアミド)へと変化している。