本発明は、負極活物質にマグネシウム又はマグネシウム合金を用い、正極に活物質として酸素を用いるマグネシウム空気電池に関する。
従来、マグネシウム空気電池において、実用に耐えうる程度の電流を取り出そうとしたとき、その内部抵抗が問題となって十分な電流値が得られにくいという課題があった。このため、内部抵抗の低減が必要となるのであるが、例えば、特開2017−21923号公報に、金属又は合金からなる負極活物質を含む負極を備える金属空気電池に備えられる金属空気電池用正極であって、炭素を含む正極集電体と、炭素を含む多孔質体とを備え、前記正極集電体と前記多孔質体とが、密着するように積層されており、さらに、前記多孔質体と前記正極集電体とが、導電性接着剤で接着されている金属空気電池用正極が開示されている。
特許文献1に開示されている技術では、当該文献の明細書段落番号「0058」「0059」に記載されているように、前記正極集電体と前記多孔質体とが一体化されていることから、前記正極集電体と前記多孔質体の全面に導電性接着剤を塗布していると考えられる。しかし、この様に正極集電体と多孔質体(正極活物質)とを、その全面に導電性接着剤を塗布して接着すると、接着面において酸素の供給が妨げられ、必要な電流を得られにくいという課題があった。
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、導電性接着剤を正極活物質と正極集電体との間の一部に用いることで、電気抵抗を低減させつつ必要な酸素を正極活物質に供給し、実用に耐えうる電流を取り出すことができるマグネシウム空気電池を提供することを目的とする。また、導電性接着剤の塗布を、正極活物質と正極集電体との間の一部とすることで、製造コストの低減を図ることを目的とする。
(1)本発明のマグネシウム空気電池は、
マグネシウム又はマグネシウム合金を含むシート状の負極活物質と、
前記負極活物質に接続された負極端子と、
前記負極活物質に当接される、イオン化反応材が含浸されたシート状のセパレータと、
前記セパレータのうち前記負極活物質と反対側の面に当接される、シート状の正極活物質と、
前記正極活物質のうち前記セパレータと反対側の面に当接される、通気性を有する正極集電体と、
前記正極集電体に接続された正極端子と、
前記正極活物質と前記正極集電体との当接される面の一部を接着する導電性接着剤と、
を備えることを特徴とする。
本発明のマグネシウム空気電池によれば、導電性接着剤によって、正極活物質と正極集電体との当接される面の一部が接着されるため、正極活物質と正極集電体との間に電気的な回路が形成されるとともにこれらの密着が良好になされ、正極活物質と正極集電体との間の電気抵抗が低減される。また、導電性接着剤は、正極活物質と正極集電体との当接される面の一部にしか設けられておらず、かつ、正極集電体も通気性を有するため、酸素が正極活物質に十分に供給され、使用時にセパレータに含浸される電解液と酸素との反応を阻害することがない。また、導電性接着剤の塗布面積を低減させることができる。
(2)本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例は、
前記負極活物質1つに対して前記セパレータ、前記正極活物質、及び前記正極集電体を2つ備え、前記セパレータ、前記正極活物質、及び前記正極集電体が前記負極活物質の両面に設けられていることを特徴とする。
本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例によれば、負極活物質の両面を用いてそれぞれの面で発電するため、電流が略2倍となり、さらに大電流を取り出すことができる。また、電流を2倍としながら、負極活物質が1セルあたり1枚で済むため、部品点数の削減が可能となり、製造コストの低減を図ることができる。
(3)本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例は、
前記負極活物質の両面に設けられた前記正極活物質の前記導電性接着剤との接着面のそれぞれの位置が、前記負極活物質の面に直交する方向から見て異なる位置にあることを特徴とする。
本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例によれば、負極活物質の両面に設けられた正極活物質の、導電性接着剤との接着面のそれぞれの位置が、負極活物質の面に直交する方向から見て異なる位置にある。これは、負極活物質のうち、面に直交する方向から見て導電性接着剤の接着面に対応する場所は、イオン化反応が鈍くなる傾向があるのだが、前記接着面の位置が負極活物質の両面で異なる位置にあるため、当該場所の反対側の面からは問題なくイオン化反応がなされ、負極活物質を満遍なく活用することができる。
(4)本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例は、
前記負極端子に接続されるとともに、前記負極活物質が前記セパレータに当接されるよう前記負極活物質の表面に隙間を設けて這わされた導体からなる負極集電体を備えることを特徴とする。
本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例によれば、負極集電体が、負極端子に接続されるとともに、負極活物質が露出してセパレータに当接されるよう負極活物質の表面に隙間を設けて這わされる。このため、負極集電体の面積を負極活物質に対して小さなものとしながら負極の略全域を覆うことが可能となり、集電性能を犠牲にすることなく内部抵抗をさらに低減させることができる。また、負極集電体の隙間から負極活物質が露出しており、負極活物質のイオン化反応を妨げることなく、さらに、マグネシウム空気電池の寿命の終期において、負極活物質が分断されても、残存する負極活物質の略全てから電力を得ることができる。
(5)本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例は、
前記負極集電体が、前記負極活物質に螺旋状に巻着されていることを特徴とする。
本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例によれば、負極集電体が、負極活物質に螺旋状に巻着されている。このため、負極集電体を負極活物質の略全域に設けながら、負極集電体の本数を減らすことができる。例えば、負極集電体が1本の導体であっても負極活物質の略全域から集電することができる。
(6)本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例は、
前記負極集電体が、前記負極活物質の面に直交する方向から見て前記導電性接着剤の接着面に対応する位置に設けられていることを特徴とする。
本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例によれば、負極集電体が、負極活物質の面に直交する方向から見て導電性接着剤の接着面に対応する位置に設けられている。これは、負極活物質のうち、面に直交する方向から見て導電性接着剤の接着面に対応する場所については、イオン化反応が鈍くなる傾向があり、マグネシウム空気電池の寿命の終期まで当該場所の負極活物質が残存する可能性があるのだが、本発明のマグネシウム空気電池は、この残存した箇所の負極活物質からも電力を得ることができる。
以上、説明したように、本発明のマグネシウム空気電池によれば、導電性接着剤を正極活物質と正極集電体との間の一部に用いることで、電気抵抗を低減させつつ必要な酸素を正極活物質に供給し、実用に耐えうる電流を取り出すことができる。また、導電性接着剤の塗布を、正極活物質と正極集電体との間の一部とすることで、製造コストの低減を図ることができる。
本発明の一実施形態に係るマグネシウム空気電池の正面図である。
図1に示すマグネシウム空気電池の左側面図である。
図2のA−A線断面図である。
負極活物質及び負極集電体の右側面図において、導電性接着剤の位置を説明する図である。
負極活物質及び負極集電体の左側面図において、導電性接着剤の位置を説明する図である。
負極端子を示す図である。
負極活物質のイオン化反応の進行状態を説明する図である。
負極活物質の他の例を示す図である。
本発明の他の実施形態に係るマグネシウム空気電池の正面図である。
以下、本発明のマグネシウム空気電池10の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1ないし図6に示すように、本実施形態のマグネシウム空気電池10は、負極活物質20と、負極端子22と、負極集電体21と、セパレータ30,31と、正極活物質40,41と、正極集電体42,43と、導電性接着剤50,51とを備える。また、これらの構成は、図示しない電池ケースに内蔵される。なお、図中においての各構成要素は模式的に表わしており、実際の厚さや大きさとは相違する場合がある(その他の図においても同様。)。
負極活物質20は、シート状のマグネシウム又はマグネシウム合金を含む金属板であり、1セルあたり1枚設けられる。この負極活物質20は、セパレータ30,31と当接され発電のためにイオン化反応がなされる反応部24と、セパレータ30,31が当接されずにセパレータ30,31の上側の辺縁32から突出する端子接続部25とを備える。また、この端子接続部25は、反応部24と同じ幅wを備える全幅部26と、幅が狭められた狭小部27とを備える。
負極端子22は、負極活物質20に電気的に接続されるもので、上記狭小部27に接続される。この負極端子22の接続であるが、負極活物質20と負極端子22とを重ね合わせた状態で、これらを厚さ方向にカシメ加工することで直接に接続される導電性の端子が好ましく、負極端子22のうち負極活物質20と接続される側の一端が、例えばハトメやグロメットと呼ばれるものやリベット状となっているものが採用できる。本実施形態に用いられる負極端子22は、図6に示すように筒部23を備え、その筒部23が負極活物質20を貫通し、その後、図中の矢印の方向にカシメ加工されることによって接続される。
この負極端子22の材質としては、銅、真鍮等の銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金等の導電性材料が採用できるが、この中でもアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、「アルミニウム等」と称することがある。)が好ましい。これは、負極端子22の材質にアルミニウム等を採用すると、負極活物質20のマグネシウム又はマグネシウム合金と、アルミニウム等との酸化還元電位が近いために、マグネシウム空気電池10の使用中に負極端子22の周囲の負極活物質20が局部的に消耗することがない。これにより、負極活物質20が分断され難くなり、マグネシウム空気電池10の寿命の終期まで安定して発電できるからである。
なお、負極活物質20の端子接続部25は、上記の様にその上部に狭小部27を備えることは必須ではなく、例えば、図8に示すように、反応部24から全幅部のまま延伸される端子接続部125を備える負極活物質120としてもよい。また、負極端子22も図6に示す例に限られず、負極端子22のうちカシメ加工される筒部23とは反対の他端に、さらに別のリード線を接続する等することができる。また、負極端子と負極活物質との接続にカシメ加工をすることなく、負極端子又は導体を負極活物質の端子接続部25に当接させて図示しない電池ケースで押圧させる、負極端子をクリップ状にして端子接続部25を挟む等、様々な態様を採用することができる。
なお、端子接続部25をセパレータ30,31の辺縁32から突出させる理由であるが、端子接続部25にセパレータ30,31が当接されると、負極端子22周りの厚さの変化により当該部分の負極活物質20とセパレータと30,31との接触が悪くなり、イオン化反応にムラが発生し易くなる。すると、局部的な負極活物質20の反応が進み、当該部分又はその周辺で負極活物質20が分断されてしまうおそれがある。一方、本実施形態のマグネシウム空気電池10では、セパレータ30,31は反応部24のみに当接されているため、そのようなムラが発生し難くなり、負極活物質20全体で満遍なくイオン化反応がなされる。また、負極端子22によってセパレータ30,31、正極活物質40,41、正極集電体42,43が押されてマグネシウム空気電池10全体の厚さが変化することがない。これにより、図示しない電池ケースに収納することが容易となる。
また、端子接続部25のうち全幅部26にセパレータ30,31の上側の辺縁32が接しており、狭小部27との境28までセパレータ30,31の辺縁32が当接していない理由であるが、狭小部27との境28までセパレータ30,31が当接されると、境28において電流密度が上昇し局部的なイオン化反応がなされる。これにより、境28で負極活物質20が分断されてしまうおそれがあるからである。一方、本実施形態のマグネシウム空気電池10では、境28にセパレータ30,31が当接されておらず、境28でのイオン化反応は起きない。このため、境28において負極活物質20が分断されることがない。また、端子接続部25に負極端子22を接続するための狭小部27を設けているため、全幅部26の長さを短くすることができ、負極活物質20の面積(量)を減らすことができる。
また、負極端子22には、導体からなる負極集電体21の一端が、負極活物質20とともにカシメ加工によって接続されている。この負極集電体21は、負極活物質20のイオン化反応を阻害しないよう、負極活物質20の表面に隙間sを設けて、負極活物質20に螺旋状に巻着される。この、負極活物質20が露出するように隙間sを設けて負極集電体21を設けることにより、負極活物質20の表面が十分にセパレータ30,31に当接されるとともに、負極活物質20の両面を活用することができる。
また、負極集電体21は、当接されるセパレータ30,31によって負極活物質20に押し付けられているが、負極集電体21の占める面積が少ないため、負極活物質20に対して十分な面圧で接触することができる。このため、負極活物質20と負極集電体21とを導電性接着剤で接着することは特に必要ではない。また、負極集電体21を負極活物質20の略全域に這わしているため、負極活物質20における部分的な電流密度の上昇、及び電流密度の上昇による局部的なイオン化反応が抑制され、負極活物質20全体で満遍なくイオン化反応がなされる。これにより、マグネシウム空気電池10の寿命の中期以降における負極活物質20の分断を抑制することができる。
なお、本実施形態のマグネシウム空気電池10では、負極集電体21に銅からなる直径0.01mm〜0.3mm、好ましくは0.05mm〜0.15mmの導線を用いている。この様な細い導線を用いることで、負極活物質20とセパレータ30,31との間に空間ができることを防止し、イオン化反応のムラを防止するとともに効率の良い発電をすることができる。もっとも、負極集電体21はこれに限られず、発電される電流に応じた太さであればよい。また形状もこれに限られず、例えば帯状の導体を巻着させてもよい。また、負極集電体21は、負極活物質20の表面に隙間sを空けながら略全域にわたって設けられていればよく、上記の螺旋状に限られず、例えば、負極端子22から数本の導線等を負極活物質20の両面に垂らすようにして設けることもできる。また、負極集電体21の材質としては、銅、真鍮等の銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、金、銀等の電気抵抗の少ない導体が用いられることが好ましい。なお、負極集電体21は、既に述べたように負極活物質20に対して占める面積が小さい。このため、負極集電体21に、負極活物質20と酸化還元電位が離れた銅又は真鍮等の銅合金を用いても特に問題はない。
セパレータ30,31は、本実施形態では1セルあたり2枚設けられており、それぞれのセパレータ30,31が上記負極活物質20の両面の反応部24に当接される。このセパレータ30,31は、吸水性に富んだ不織布等で構成され、イオン化反応材が含浸され流通時には乾燥された状態となっている。そして、使用時には水分が供給されることで湿潤し、負極活物質20及び正極活物質40,41とイオン化反応がなされ発電する。
正極活物質40,41は、本実施形態では1セルあたり2枚設けられており、それぞれの正極活物質40,41が、上記セパレータ30,31のうち負極活物質20と反対側の面に当接される。この正極活物質40,41は、導電性を有しつつ酸素を透過しやすい多孔質体で構成されることが好ましく、例えば炭素を含むシート状のものが採用できる。なお、本実施形態では正極活物質40,41として炭素繊維シートを採用している。
正極集電体42,43は、本実施形態では1セルあたり2つ設けられており、それぞれの正極集電体42,43が、上記正極活物質40,41のうちセパレータ30,31と反対側の面に当接される。この正極集電体42,43は、多くの空気が正極活物質40,41に触れ、さらにマグネシウム空気電池10の使用中に空気が入れ替わり、常に新鮮な空気が正極活物質40,41に触れるよう通気性を有するように構成されることが好ましい。詳しくは、正極集電体42,43の面に直交する方向に空気を通過させるのみならず、正極集電体42,43の面に沿った方向にも空気が流れるようにすることが好ましい。本実施形態では、これらの面に直交する方向と面に沿った方向の両方の通気性を有するものとして、波状に形成された導線を網状に織り込んだメッシュ素材を採用している。なお、正極集電体42,43の材質としては、銅、真鍮等の銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、金、銀等の電気抵抗の少ない導体が用いられることが好ましい。
また、2枚ある正極集電体42,43は、ジャンパー線45等で電気的に接続される。さらに、正極集電体42,43のうち1枚の上端部には、正極端子44が接続される。この正極集電体42,43と正極端子44との接続であるが、はんだ付け、又は負極端子22同様のカシメ加工による接続等の方法でなされる。
導電性接着剤50,51は、正極活物質40,41と正極集電体42,43との当接される面の一部を接着するものである。この導電性接着剤50,51は、負極活物質20の一方の面側に設けられた正極活物質40と正極集電体42の一部、及び他方の面側に設けられた正極活物質41と正極集電体43の一部を接着するのである。これらの負極活物質20の一方の面側の導電性接着剤50の接着面52と、他方の面側の接着面53は、図1、図3、図4、及び図5に示すように、負極活物質20の面に直交する方向から見て異なる位置にあることが好ましい。
これは、導電性接着剤50,51が接着された接着面52,53に対応する箇所の負極活物質20は、イオン化反応が起きにくく、マグネシウム空気電池10の寿命の終期まで残存する可能性がある。このため、負極活物質20の一方の面側に接着された導電性接着剤50の接着面52と、他方の面側に接着された導電性接着剤51の接着面53とが、負極活物質20の面に直交する方向から見て同じ位置にあると、当該部分の負極活物質20が最後まで残り、有効な発電容量を確保し難くなるからである。一方、本実施形態のマグネシウム空気電池10のように、負極活物質20の一方の面側の接着面52と、他方の面側に設けられた接着面53とが、負極活物質20の面と直交する方向から見て異なる位置に設けられていると、残存した負極活物質20は、導電性接着剤50,51の接着面52,53とは反対側の面からのイオン化反応によって発電を続けることができる。
また、負極活物質20の面に直交する方向から見た導電性接着剤50,51の接着面52,53の位置は、負極集電体21がある位置であることが好ましい。本実施形態では、図4及び図5に示すように、負極活物質20の面に直交する方向から見て接着面52,53に対応する位置に、負極活物質20の表面に巻着された負極集電体21が存在するように構成される。これは、既に述べたように、負極活物質20において、導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する箇所は、マグネシウム空気電池10の寿命の終期まで残存する可能性がある。この負極活物質20が残存する可能性がある場所に負極集電体21を存在させることで、マグネシウム空気電池10の寿命の終期において、残存した負極活物質20によって発電される電力を有効に回収することができる。なお、図4及び図5において導電性接着剤50,51の接着面52,53を表わす円は、実線が負極活物質20の手前側に導電性接着剤50,51の接着面52,53が存在し、破線は裏側に接着面52,53が存在することを示している。
また、導電性接着剤50,51の接着面52,53の、正極活物質40,41の広い面に占める面積は、1〜30%が好ましく、2〜10%がより好ましい。これは、接着面52,53の面積が狭すぎると電池の内部抵抗が増大してしまうおそれがあるからであり、広すぎると正極集電体42,43からの酸素の供給を阻害してしまうとともに、導電性接着剤の使用量が増えて製造コストが増大してしまうからである。本発明のマグネシウム空気電池では、さらに好ましい例として、接着面52,53占める面積を、正極活物質40,41の広い面の面積の4〜8%の範囲としている。
次に、図7を参照しながら、本発明のマグネシウム空気電池10の使用時の負極活物質20の状態を説明する。図7(A)はマグネシウム空気電池10の寿命の中期のときの負極活物質20を模式的に示した図、図7(B)はマグネシウム空気電池10の寿命の終期のときの負極活物質20を模式的に示した図である。
マグネシウム空気電池10のセパレータ30,31に水分を供給し、セパレータ30,31を湿潤させると、セパレータ30,31に含浸されたイオン化反応剤によって、負極活物質20及び正極活物質40,41でイオン化反応がなされ、発電がなされる。このとき、正極は空気中の酸素とで反応がなされるため、正極活物質40,41は消耗しない。一方、負極では負極活物質20であるマグネシウム又はマグネシウム合金が、水酸化マグネシウムへと変化することで、負極活物質20は図7(A)に示すように、当初の厚さから減少していく。
このとき、既に述べたように、負極集電体21によって負極活物質20における部分的な電流密度の上昇が抑制されるため、負極活物質20は略満遍なく反応していくのであるが、導電性接着剤50,51の接着面52,53において、部分的に負極活物質20が残存する場合がある。これは、負極活物質20のうち、導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する場所以外のところでは、負極活物質20の両面からイオン化反応がなされ、負極活物質20が両面から減少する。これに対し、図中の破線d1,d2で示す導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する場所では、イオン化反応が鈍く、主に接着面52,53が存在する側とは反対側の面でイオン化反応がなされる。これによって、負極活物質20のうち、導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する場所は、残存しやすい傾向にある。なお、負極集電体21は、セパレータ30,31によって負極活物質20に押し付けられているため、負極活物質20の厚みが減少してもともに移動し、負極活物質20の表面に接触している。
次に、図7(B)に示すように、さらに発電がなされると、負極活物質20は分断されることがある。このとき、負極活物質20のうち導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する場所では、上記の様に負極活物質20の主に片面からしかイオン化反応がなされないため、マグネシウム空気電池10の寿命の終期まで残存する可能性がある。また、負極活物質20のうち、導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する場所以外のところでも、必ずしも一律に厚さが減少する訳ではなく、分断されながら一部は残存することがある。このとき、負極集電体21が、負極活物質20の表面に螺旋状に巻着され、さらに負極活物質20のうち導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する場所に設けられているため、残存する負極活物質20から効率的に電力を回収することができる。
また、負極活物質20の分断された箇所を通じて、2枚のセパレータ30,31が接触し、電解液が多いセパレータ30,31から少ないセパレータ30,31に供給される。これらにより、マグネシウム空気電池10の寿命の終期においても、安定した発電が期待できる。なお、既に述べたように、負極活物質20の表面積に対して負極集電体21の占める面積は小さく、セパレータ30,31と負極活物質20とは十分な面積で接触しているため、負極集電体21によってイオン化反応が妨げられることはない。
なお、図9に示すように、他の実施形態のマグネシウム空気電池100として、1つの負極活物質20に対して1つずつのセパレータ30、正極活物質40、正極集電体42としてもよいし、このマグネシウム空気電池100を、複数積層させてもよい。
以上、説明したように、これらの本実施形態のマグネシウム空気電池によれば、負極端子22を負極集電体21とともに直接に負極活物質20にカシメ加工によって接続しているため、当該部分の電気抵抗を低減させることができるとともに、製造コストの低減を図ることができる。また、負極活物質20に狭小部27を設けることにより、負極活物質20の面積を減らすことができ、製造コストの低減を図ることができる。また、セパレータ30,31の辺縁32が当接される部分は、負極活物質20の全幅部26であるため、全幅部26と狭小部27との境28において、電流密度の上昇によるイオン化反応の促進が起きず、この境28において負極活物質20が分断されることがない。また、負極端子22及び端子接続部25がセパレータ30,31から突出しているため、当該部分の厚さが変化せず、電池ケース等に収納することが容易となる。
また、負極集電体21が負極活物質20の表面に隙間sを設けて巻着されているため、負極集電体21を設けながら負極活物質20の両面を用いて発電することができる。このため、取り出せる電流が2倍となり、実用に耐え得る電流を取り出すことができる。また、負極集電体21が、負極活物質20の略全域に巻着されているため、電池の内部抵抗を低減させることができるとともに、負極活物質20の一部分に電流が集中することなく、負極活物質20の局部的な反応が避けられ、負極活物質20全体で略均一な発電をすることができる。
また、負極集電体21は、負極活物質20の表面積の一部のみを覆っているため、負極集電体21自体の材料コストを低減できるとともに、負極集電体21が比較的高い面圧で負極活物質20と接触できる。このため、負極活物質20と負極集電体21とを導電性接着剤で必ずしも接着する必要がなく、負極集電体21を設けるコストを低減させることができる。さらに、負極集電体21の占める面積が、負極活物質20の面積に対して狭いため、負極集電体21に酸化還元電位の離れた銅又は銅合金を用いても実質的に問題とならず、製造が容易となる。
また、負極集電体21が、負極活物質20のうち導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する位置に設けられているため、マグネシウム空気電池10の寿命の終期において、当該部分の負極活物質20が分断された状態で残存しても、残存した部分から効率よく電力を回収することができる。さらに、負極活物質20が分断された場所に置いて、負極活物質20を挟んで向かい合う2枚のセパレータ30,31が接触し、互いに電解液を供給するため、2枚のセパレータ30,31の電解液の量が均一となる。
また、導電性接着剤50,51の接着面52,53が、負極活物質20の一方の面側と他方の面側とで、負極活物質20の面に直交する方向から見て異なる位置にあるため、負極活物質20のうち導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応するイオン化反応が起きにくい場所であっても、その反対側の面からイオン化反応がなされ、問題なく発電することができる。
また、導電性接着剤50,51によって、正極活物質40,41と正極集電体42,43との当接される面の一部を接着するため、正極活物質40,41と正極集電体42,43との間の内部抵抗を低減させることができ、大電流を取り出すことができる。また、導電性接着剤50,51の接着面52,53が、負正極活物質40,41と正極集電体42,43との当接される面の一部であること、及び正極集電体42,43が通気性を有するため、酸素の供給を阻害することがない。
これらにより、マグネシウム空気電池の寿命の終期まで、大電流を取出しながら安定した発電をするとともに、低コストなマグネシウム空気電池とすることができる。
なお、上述のマグネシウム空気電池は本発明の例示であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、その構成を適宜変更することができる。
10,100・・マグネシウム空気電池、
20,120・・負極活物質、21・・負極集電体、22・・負極端子、23・・筒部、24・・反応部、25,125・・端子接続部、26・・全幅部、27・・狭小部、28・・境、w・・幅、s・・隙間、
30,31・・セパレータ、32・・辺縁、
40,41・・正極活物質、42,43・・正極集電体、44・・正極端子、45・・ジャンパー線、
50,51・・導電性接着剤、52,53・・接着面、
本発明は、負極活物質にマグネシウム又はマグネシウム合金を用い、正極に活物質として酸素を用いるマグネシウム空気電池に関する。
従来、マグネシウム空気電池において、実用に耐えうる程度の電流を取り出そうとしたとき、その内部抵抗が問題となって十分な電流値が得られにくいという課題があった。このため、内部抵抗の低減が必要となるのであるが、例えば、特開2017−21923号公報に、金属又は合金からなる負極活物質を含む負極を備える金属空気電池に備えられる金属空気電池用正極であって、炭素を含む正極集電体と、炭素を含む多孔質体とを備え、前記正極集電体と前記多孔質体とが、密着するように積層されており、さらに、前記多孔質体と前記正極集電体とが、導電性接着剤で接着されている金属空気電池用正極が開示されている。
特許文献1に開示されている技術では、当該文献の明細書段落番号「0058」「0059」に記載されているように、前記正極集電体と前記多孔質体とが一体化されていることから、前記正極集電体と前記多孔質体の全面に導電性接着剤を塗布していると考えられる。しかし、この様に正極集電体と多孔質体(正極)とを、その全面に導電性接着剤を塗布して接着すると、接着面において酸素の供給が妨げられ、必要な電流を得られにくいという課題があった。
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、導電性接着剤を正極と正極集電体との間の一部に用いることで、電気抵抗を低減させつつ必要な酸素を正極に供給し、実用に耐えうる電流を取り出すことができるマグネシウム空気電池を提供することを目的とする。また、導電性接着剤の塗布を、正極と正極集電体との間の一部とすることで、製造コストの低減を図ることを目的とする。
(1)本発明のマグネシウム空気電池は、
マグネシウム又はマグネシウム合金を含むシート状の負極活物質と、
前記負極活物質に接続された負極端子と、
前記負極活物質に当接される、イオン化反応材が含浸されたシート状のセパレータと、
前記セパレータのうち前記負極活物質と反対側の面に当接される、シート状の正極と、
前記正極のうち前記セパレータと反対側の面に当接される、通気性を有する正極集電体と、
前記正極集電体に接続された正極端子と、
前記正極と前記正極集電体との当接される面の一部を接着する導電性接着剤と、
を備えることを特徴とする。
本発明のマグネシウム空気電池によれば、導電性接着剤によって、正極と正極集電体との当接される面の一部が接着されるため、正極と正極集電体との間に電気的な回路が形成されるとともにこれらの密着が良好になされ、正極と正極集電体との間の電気抵抗が低減される。また、導電性接着剤は、正極と正極集電体との当接される面の一部にしか設けられておらず、かつ、正極集電体も通気性を有するため、酸素が正極に十分に供給され、使用時にセパレータに含浸される電解液と酸素との反応を阻害することがない。また、導電性接着剤の塗布面積を低減させることができる。
(2)本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例は、
前記負極活物質1つに対して前記セパレータ、前記正極、及び前記正極集電体を2つ備え、前記セパレータ、前記正極、及び前記正極集電体が前記負極活物質の両面に設けられていることを特徴とする。
本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例によれば、負極活物質の両面を用いてそれぞれの面で発電するため、電流が略2倍となり、さらに大電流を取り出すことができる。また、電流を2倍としながら、負極活物質が1セルあたり1枚で済むため、部品点数の削減が可能となり、製造コストの低減を図ることができる。
(3)本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例は、
前記負極活物質の両面に設けられた前記正極の前記導電性接着剤との接着面のそれぞれの位置が、前記負極活物質の面に直交する方向から見て異なる位置にあることを特徴とする。
本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例によれば、負極活物質の両面に設けられた正極の、導電性接着剤との接着面のそれぞれの位置が、負極活物質の面に直交する方向から見て異なる位置にある。これは、負極活物質のうち、面に直交する方向から見て導電性接着剤の接着面に対応する場所は、イオン化反応が鈍くなる傾向があるのだが、前記接着面の位置が負極活物質の両面で異なる位置にあるため、当該場所の反対側の面からは問題なくイオン化反応がなされ、負極活物質を満遍なく活用することができる。
さらに、本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例は、
前記負極端子に接続されるとともに、前記負極活物質が前記セパレータに当接されるよう前記負極活物質の表面に隙間を設けて這わされた導体からなる負極集電体を備えることを特徴とする。
本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例によれば、負極集電体が、負極端子に接続されるとともに、負極活物質が露出してセパレータに当接されるよう負極活物質の表面に隙間を設けて這わされる。このため、負極集電体の面積を負極活物質に対して小さなものとしながら負極の略全域を覆うことが可能となり、集電性能を犠牲にすることなく内部抵抗をさらに低減させることができる。また、負極集電体の隙間から負極活物質が露出しており、負極活物質のイオン化反応を妨げることなく、さらに、マグネシウム空気電池の寿命の終期において、負極活物質が分断されても、残存する負極活物質の略全てから電力を得ることができる。
さらに、本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例は、
前記負極集電体が、前記負極活物質に螺旋状に巻着されていることを特徴とする。
本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例によれば、負極集電体が、負極活物質に螺旋状に巻着されている。このため、負極集電体を負極活物質の略全域に設けながら、負極集電体の本数を減らすことができる。例えば、負極集電体が1本の導体であっても負極活物質の略全域から集電することができる。
さらに、本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例は、
前記負極集電体が、前記負極活物質の面に直交する方向から見て前記導電性接着剤の接着面に対応する位置に設けられていることを特徴とする。
本発明のマグネシウム空気電池の好ましい例によれば、負極集電体が、負極活物質の面に直交する方向から見て導電性接着剤の接着面に対応する位置に設けられている。これは、負極活物質のうち、面に直交する方向から見て導電性接着剤の接着面に対応する場所については、イオン化反応が鈍くなる傾向があり、マグネシウム空気電池の寿命の終期まで当該場所の負極活物質が残存する可能性があるのだが、本発明のマグネシウム空気電池は、この残存した箇所の負極活物質からも電力を得ることができる。
以上、説明したように、本発明のマグネシウム空気電池によれば、導電性接着剤を正極と正極集電体との間の一部に用いることで、電気抵抗を低減させつつ必要な酸素を正極に供給し、実用に耐えうる電流を取り出すことができる。また、導電性接着剤の塗布を、正極と正極集電体との間の一部とすることで、製造コストの低減を図ることができる。
本発明の一実施形態に係るマグネシウム空気電池の正面図である。
図1に示すマグネシウム空気電池の左側面図である。
図2のA−A線断面図である。
負極活物質及び負極集電体の右側面図において、導電性接着剤の位置を説明する図である。
負極活物質及び負極集電体の左側面図において、導電性接着剤の位置を説明する図である。
負極端子を示す図である。
負極活物質のイオン化反応の進行状態を説明する図である。
負極活物質の他の例を示す図である。
本発明の他の実施形態に係るマグネシウム空気電池の正面図である。
以下、本発明のマグネシウム空気電池10の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1ないし図6に示すように、本実施形態のマグネシウム空気電池10は、負極活物質20と、負極端子22と、負極集電体21と、セパレータ30,31と、正極40,41と、正極集電体42,43と、導電性接着剤50,51とを備える。また、これらの構成は、図示しない電池ケースに内蔵される。なお、図中においての各構成要素は模式的に表わしており、実際の厚さや大きさとは相違する場合がある(その他の図においても同様。)。
負極活物質20は、シート状のマグネシウム又はマグネシウム合金を含む金属板であり、1セルあたり1枚設けられる。この負極活物質20は、セパレータ30,31と当接され発電のためにイオン化反応がなされる反応部24と、セパレータ30,31が当接されずにセパレータ30,31の上側の辺縁32から突出する端子接続部25とを備える。また、この端子接続部25は、反応部24と同じ幅wを備える全幅部26と、幅が狭められた狭小部27とを備える。
負極端子22は、負極活物質20に電気的に接続されるもので、上記狭小部27に接続される。この負極端子22の接続であるが、負極活物質20と負極端子22とを重ね合わせた状態で、これらを厚さ方向にカシメ加工することで直接に接続される導電性の端子が好ましく、負極端子22のうち負極活物質20と接続される側の一端が、例えばハトメやグロメットと呼ばれるものやリベット状となっているものが採用できる。本実施形態に用いられる負極端子22は、図6に示すように筒部23を備え、その筒部23が負極活物質20を貫通し、その後、図中の矢印の方向にカシメ加工されることによって接続される。
この負極端子22の材質としては、銅、真鍮等の銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金等の導電性材料が採用できるが、この中でもアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、「アルミニウム等」と称することがある。)が好ましい。これは、負極端子22の材質にアルミニウム等を採用すると、負極活物質20のマグネシウム又はマグネシウム合金と、アルミニウム等との酸化還元電位が近いために、マグネシウム空気電池10の使用中に負極端子22の周囲の負極活物質20が局部的に消耗することがない。これにより、負極活物質20が分断され難くなり、マグネシウム空気電池10の寿命の終期まで安定して発電できるからである。
なお、負極活物質20の端子接続部25は、上記の様にその上部に狭小部27を備えることは必須ではなく、例えば、図8に示すように、反応部24から全幅部のまま延伸される端子接続部125を備える負極活物質120としてもよい。また、負極端子22も図6に示す例に限られず、負極端子22のうちカシメ加工される筒部23とは反対の他端に、さらに別のリード線を接続する等することができる。また、負極端子と負極活物質との接続にカシメ加工をすることなく、負極端子又は導体を負極活物質の端子接続部25に当接させて図示しない電池ケースで押圧させる、負極端子をクリップ状にして端子接続部25を挟む等、様々な態様を採用することができる。
なお、端子接続部25をセパレータ30,31の辺縁32から突出させる理由であるが、端子接続部25にセパレータ30,31が当接されると、負極端子22周りの厚さの変化により当該部分の負極活物質20とセパレータと30,31との接触が悪くなり、イオン化反応にムラが発生し易くなる。すると、局部的な負極活物質20の反応が進み、当該部分又はその周辺で負極活物質20が分断されてしまうおそれがある。一方、本実施形態のマグネシウム空気電池10では、セパレータ30,31は反応部24のみに当接されているため、そのようなムラが発生し難くなり、負極活物質20全体で満遍なくイオン化反応がなされる。また、負極端子22によってセパレータ30,31、正極40,41、正極集電体42,43が押されてマグネシウム空気電池10全体の厚さが変化することがない。これにより、図示しない電池ケースに収納することが容易となる。
また、端子接続部25のうち全幅部26にセパレータ30,31の上側の辺縁32が接しており、狭小部27との境28までセパレータ30,31の辺縁32が当接していない理由であるが、狭小部27との境28までセパレータ30,31が当接されると、境28において電流密度が上昇し局部的なイオン化反応がなされる。これにより、境28で負極活物質20が分断されてしまうおそれがあるからである。一方、本実施形態のマグネシウム空気電池10では、境28にセパレータ30,31が当接されておらず、境28でのイオン化反応は起きない。このため、境28において負極活物質20が分断されることがない。また、端子接続部25に負極端子22を接続するための狭小部27を設けているため、全幅部26の長さを短くすることができ、負極活物質20の面積(量)を減らすことができる。
また、負極端子22には、導体からなる負極集電体21の一端が、負極活物質20とともにカシメ加工によって接続されている。この負極集電体21は、負極活物質20のイオン化反応を阻害しないよう、負極活物質20の表面に隙間sを設けて、負極活物質20に螺旋状に巻着される。この、負極活物質20が露出するように隙間sを設けて負極集電体21を設けることにより、負極活物質20の表面が十分にセパレータ30,31に当接されるとともに、負極活物質20の両面を活用することができる。
また、負極集電体21は、当接されるセパレータ30,31によって負極活物質20に押し付けられているが、負極集電体21の占める面積が少ないため、負極活物質20に対して十分な面圧で接触することができる。このため、負極活物質20と負極集電体21とを導電性接着剤で接着することは特に必要ではない。また、負極集電体21を負極活物質20の略全域に這わしているため、負極活物質20における部分的な電流密度の上昇、及び電流密度の上昇による局部的なイオン化反応が抑制され、負極活物質20全体で満遍なくイオン化反応がなされる。これにより、マグネシウム空気電池10の寿命の中期以降における負極活物質20の分断を抑制することができる。
なお、本実施形態のマグネシウム空気電池10では、負極集電体21に銅からなる直径0.01mm〜0.3mm、好ましくは0.05mm〜0.15mmの導線を用いている。この様な細い導線を用いることで、負極活物質20とセパレータ30,31との間に空間ができることを防止し、イオン化反応のムラを防止するとともに効率の良い発電をすることができる。もっとも、負極集電体21はこれに限られず、発電される電流に応じた太さであればよい。また形状もこれに限られず、例えば帯状の導体を巻着させてもよい。また、負極集電体21は、負極活物質20の表面に隙間sを空けながら略全域にわたって設けられていればよく、上記の螺旋状に限られず、例えば、負極端子22から数本の導線等を負極活物質20の両面に垂らすようにして設けることもできる。また、負極集電体21の材質としては、銅、真鍮等の銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、金、銀等の電気抵抗の少ない導体が用いられることが好ましい。なお、負極集電体21は、既に述べたように負極活物質20に対して占める面積が小さい。このため、負極集電体21に、負極活物質20と酸化還元電位が離れた銅又は真鍮等の銅合金を用いても特に問題はない。
セパレータ30,31は、本実施形態では1セルあたり2枚設けられており、それぞれのセパレータ30,31が上記負極活物質20の両面の反応部24に当接される。このセパレータ30,31は、吸水性に富んだ不織布等で構成され、イオン化反応材が含浸され流通時には乾燥された状態となっている。そして、使用時には水分が供給されることで湿潤し、負極活物質20及び正極活物質である酸素とでイオン化反応がなされ発電する。
正極40,41は、本実施形態では1セルあたり2枚設けられており、それぞれの正極40,41が、上記セパレータ30,31のうち負極活物質20と反対側の面に当接される。この正極40,41は、導電性を有しつつ酸素を透過しやすい多孔質体で構成されることが好ましく、例えば炭素を含むシート状のものが採用できる。なお、本実施形態では正極40,41として炭素繊維シートを採用している。
正極集電体42,43は、本実施形態では1セルあたり2つ設けられており、それぞれの正極集電体42,43が、上記正極40,41のうちセパレータ30,31と反対側の面に当接される。この正極集電体42,43は、多くの空気が正極40,41に触れ、さらにマグネシウム空気電池10の使用中に空気が入れ替わり、常に新鮮な空気が正極40,41に触れるよう通気性を有するように構成されることが好ましい。詳しくは、正極集電体42,43の面に直交する方向に空気を通過させるのみならず、正極集電体42,43の面に沿った方向にも空気が流れるようにすることが好ましい。本実施形態では、これらの面に直交する方向と面に沿った方向の両方の通気性を有するものとして、波状に形成された導線を網状に織り込んだメッシュ素材を採用している。なお、正極集電体42,43の材質としては、銅、真鍮等の銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金、金、銀等の電気抵抗の少ない導体が用いられることが好ましい。
また、2枚ある正極集電体42,43は、ジャンパー線45等で電気的に接続される。さらに、正極集電体42,43のうち1枚の上端部には、正極端子44が接続される。この正極集電体42,43と正極端子44との接続であるが、はんだ付け、又は負極端子22同様のカシメ加工による接続等の方法でなされる。
導電性接着剤50,51は、正極40,41と正極集電体42,43との当接される面の一部を接着するものである。この導電性接着剤50,51は、負極活物質20の一方の面側に設けられた正極40と正極集電体42の一部、及び他方の面側に設けられた正極41と正極集電体43の一部を接着するのである。これらの負極活物質20の一方の面側の導電性接着剤50の接着面52と、他方の面側の接着面53は、図1、図3、図4、及び図5に示すように、負極活物質20の面に直交する方向から見て異なる位置にあることが好ましい。
これは、導電性接着剤50,51が接着された接着面52,53に対応する箇所の負極活物質20は、イオン化反応が起きにくく、マグネシウム空気電池10の寿命の終期まで残存する可能性がある。このため、負極活物質20の一方の面側に接着された導電性接着剤50の接着面52と、他方の面側に接着された導電性接着剤51の接着面53とが、負極活物質20の面に直交する方向から見て同じ位置にあると、当該部分の負極活物質20が最後まで残り、有効な発電容量を確保し難くなるからである。一方、本実施形態のマグネシウム空気電池10のように、負極活物質20の一方の面側の接着面52と、他方の面側に設けられた接着面53とが、負極活物質20の面と直交する方向から見て異なる位置に設けられていると、残存した負極活物質20は、導電性接着剤50,51の接着面52,53とは反対側の面からのイオン化反応によって発電を続けることができる。
また、負極活物質20の面に直交する方向から見た導電性接着剤50,51の接着面52,53の位置は、負極集電体21がある位置であることが好ましい。本実施形態では、図4及び図5に示すように、負極活物質20の面に直交する方向から見て接着面52,53に対応する位置に、負極活物質20の表面に巻着された負極集電体21が存在するように構成される。これは、既に述べたように、負極活物質20において、導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する箇所は、マグネシウム空気電池10の寿命の終期まで残存する可能性がある。この負極活物質20が残存する可能性がある場所に負極集電体21を存在させることで、マグネシウム空気電池10の寿命の終期において、残存した負極活物質20によって発電される電力を有効に回収することができる。なお、図4及び図5において導電性接着剤50,51の接着面52,53を表わす円は、実線が負極活物質20の手前側に導電性接着剤50,51の接着面52,53が存在し、破線は裏側に接着面52,53が存在することを示している。
また、導電性接着剤50,51の接着面52,53の、正極40,41の広い面に占める面積は、1〜30%が好ましく、2〜10%がより好ましい。これは、接着面52,53の面積が狭すぎると電池の内部抵抗が増大してしまうおそれがあるからであり、広すぎると正極集電体42,43からの酸素の供給を阻害してしまうとともに、導電性接着剤の使用量が増えて製造コストが増大してしまうからである。本発明のマグネシウム空気電池では、さらに好ましい例として、接着面52,53占める面積を、正極40,41の広い面の面積の4〜8%の範囲としている。
次に、図7を参照しながら、本発明のマグネシウム空気電池10の使用時の負極活物質20の状態を説明する。図7(A)はマグネシウム空気電池10の寿命の中期のときの負極活物質20を模式的に示した図、図7(B)はマグネシウム空気電池10の寿命の終期のときの負極活物質20を模式的に示した図である。
マグネシウム空気電池10のセパレータ30,31に水分を供給し、セパレータ30,31を湿潤させると、セパレータ30,31に含浸されたイオン化反応剤によって、負極活物質20及び正極活物質である酸素とでイオン化反応がなされ、発電がなされる。このとき、正極は空気中の酸素とで反応がなされるため、正極40,41は消耗しない。一方、負極では負極活物質20であるマグネシウム又はマグネシウム合金が、水酸化マグネシウムへと変化することで、負極活物質20は図7(A)に示すように、当初の厚さから減少していく。
このとき、既に述べたように、負極集電体21によって負極活物質20における部分的な電流密度の上昇が抑制されるため、負極活物質20は略満遍なく反応していくのであるが、導電性接着剤50,51の接着面52,53において、部分的に負極活物質20が残存する場合がある。これは、負極活物質20のうち、導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する場所以外のところでは、負極活物質20の両面からイオン化反応がなされ、負極活物質20が両面から減少する。これに対し、図中の破線d1,d2で示す導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する場所では、イオン化反応が鈍く、主に接着面52,53が存在する側とは反対側の面でイオン化反応がなされる。これによって、負極活物質20のうち、導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する場所は、残存しやすい傾向にある。なお、負極集電体21は、セパレータ30,31によって負極活物質20に押し付けられているため、負極活物質20の厚みが減少してもともに移動し、負極活物質20の表面に接触している。
次に、図7(B)に示すように、さらに発電がなされると、負極活物質20は分断されることがある。このとき、負極活物質20のうち導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する場所では、上記の様に負極活物質20の主に片面からしかイオン化反応がなされないため、マグネシウム空気電池10の寿命の終期まで残存する可能性がある。また、負極活物質20のうち、導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する場所以外のところでも、必ずしも一律に厚さが減少する訳ではなく、分断されながら一部は残存することがある。このとき、負極集電体21が、負極活物質20の表面に螺旋状に巻着され、さらに負極活物質20のうち導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する場所に設けられているため、残存する負極活物質20から効率的に電力を回収することができる。
また、負極活物質20の分断された箇所を通じて、2枚のセパレータ30,31が接触し、電解液が多いセパレータ30,31から少ないセパレータ30,31に供給される。これらにより、マグネシウム空気電池10の寿命の終期においても、安定した発電が期待できる。なお、既に述べたように、負極活物質20の表面積に対して負極集電体21の占める面積は小さく、セパレータ30,31と負極活物質20とは十分な面積で接触しているため、負極集電体21によってイオン化反応が妨げられることはない。
なお、図9に示すように、他の実施形態のマグネシウム空気電池100として、1つの負極活物質20に対して1つずつのセパレータ30、正極40、正極集電体42としてもよいし、このマグネシウム空気電池100を、複数積層させてもよい。
以上、説明したように、これらの本実施形態のマグネシウム空気電池によれば、負極端子22を負極集電体21とともに直接に負極活物質20にカシメ加工によって接続しているため、当該部分の電気抵抗を低減させることができるとともに、製造コストの低減を図ることができる。また、負極活物質20に狭小部27を設けることにより、負極活物質20の面積を減らすことができ、製造コストの低減を図ることができる。また、セパレータ30,31の辺縁32が当接される部分は、負極活物質20の全幅部26であるため、全幅部26と狭小部27との境28において、電流密度の上昇によるイオン化反応の促進が起きず、この境28において負極活物質20が分断されることがない。また、負極端子22及び端子接続部25がセパレータ30,31から突出しているため、当該部分の厚さが変化せず、電池ケース等に収納することが容易となる。
また、負極集電体21が負極活物質20の表面に隙間sを設けて巻着されているため、負極集電体21を設けながら負極活物質20の両面を用いて発電することができる。このため、取り出せる電流が2倍となり、実用に耐え得る電流を取り出すことができる。また、負極集電体21が、負極活物質20の略全域に巻着されているため、電池の内部抵抗を低減させることができるとともに、負極活物質20の一部分に電流が集中することなく、負極活物質20の局部的な反応が避けられ、負極活物質20全体で略均一な発電をすることができる。
また、負極集電体21は、負極活物質20の表面積の一部のみを覆っているため、負極集電体21自体の材料コストを低減できるとともに、負極集電体21が比較的高い面圧で負極活物質20と接触できる。このため、負極活物質20と負極集電体21とを導電性接着剤で必ずしも接着する必要がなく、負極集電体21を設けるコストを低減させることができる。さらに、負極集電体21の占める面積が、負極活物質20の面積に対して狭いため、負極集電体21に酸化還元電位の離れた銅又は銅合金を用いても実質的に問題とならず、製造が容易となる。
また、負極集電体21が、負極活物質20のうち導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応する位置に設けられているため、マグネシウム空気電池10の寿命の終期において、当該部分の負極活物質20が分断された状態で残存しても、残存した部分から効率よく電力を回収することができる。さらに、負極活物質20が分断された場所に置いて、負極活物質20を挟んで向かい合う2枚のセパレータ30,31が接触し、互いに電解液を供給するため、2枚のセパレータ30,31の電解液の量が均一となる。
また、導電性接着剤50,51の接着面52,53が、負極活物質20の一方の面側と他方の面側とで、負極活物質20の面に直交する方向から見て異なる位置にあるため、負極活物質20のうち導電性接着剤50,51の接着面52,53に対応するイオン化反応が起きにくい場所であっても、その反対側の面からイオン化反応がなされ、問題なく発電することができる。
また、導電性接着剤50,51によって、正極40,41と正極集電体42,43との当接される面の一部を接着するため、正極40,41と正極集電体42,43との間の内部抵抗を低減させることができ、大電流を取り出すことができる。また、導電性接着剤50,51の接着面52,53が、正極40,41と正極集電体42,43との当接される面の一部であること、及び正極集電体42,43が通気性を有するため、酸素の供給を阻害することがない。
これらにより、マグネシウム空気電池の寿命の終期まで、大電流を取出しながら安定した発電をするとともに、低コストなマグネシウム空気電池とすることができる。
なお、上述のマグネシウム空気電池は本発明の例示であり、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、その構成を適宜変更することができる。
10,100・・マグネシウム空気電池、
20,120・・負極活物質、21・・負極集電体、22・・負極端子、23・・筒部、24・・反応部、25,125・・端子接続部、26・・全幅部、27・・狭小部、28・・境、w・・幅、s・・隙間、
30,31・・セパレータ、32・・辺縁、
40,41・・正極、42,43・・正極集電体、44・・正極端子、45・・ジャンパー線、
50,51・・導電性接着剤、52,53・・接着面、