以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。但し本発明は以下の実施形態に限定されない点に留意されたい。
[装置構成]
図1は、本実施形態の排気浄化装置が適用された内燃機関を示す。内燃機関(エンジンともいう)1は、車両(図示せず)に搭載された多気筒(直列4気筒)ディーゼルエンジンである。本実施形態の車両は、PTO(Power Take Off:動力取り出し装置)装置19を備えた車両すなわちPTO車両であり、例えば消防車等の作業車両である。なおエンジン1はガソリンエンジンであってもよく、その気筒数、形式等に特に制限はない。
エンジン1は、エンジン本体2と、エンジン本体2に接続された吸気通路3および排気通路4と、ターボチャージャ14と、燃料噴射装置5とを備える。エンジン本体2は、シリンダヘッド、シリンダブロック、クランクケース等の構造部品と、その内部に収容されたピストン、クランクシャフト、バルブ等の可動部品とを含む。
燃料噴射装置5は、コモンレール式燃料噴射装置からなり、各気筒に設けられた第1燃料噴射弁すなわちインジェクタ7と、インジェクタ7に接続されたコモンレール8とを備える。インジェクタ7は、シリンダ9内すなわち燃焼室内に燃料を直接噴射する筒内インジェクタである。コモンレール8は、インジェクタ7から噴射される燃料を高圧状態で貯留する。
吸気通路3は、エンジン本体2(特にシリンダヘッド)に接続された吸気マニホールド10と、吸気マニホールド10の上流端に接続された吸気管11とにより主に画成される。吸気マニホールド10は、吸気管11から送られてきた吸気を各気筒の吸気ポートに分配供給する。吸気管11には、上流側から順に、エアクリーナ12、エアフローメータ13、ターボチャージャ14のコンプレッサ14C、インタークーラ15、および電子制御式の吸気スロットルバルブ16が設けられる。エアフローメータ13は、エンジン1の単位時間当たりの吸入空気量すなわち吸気流量を検出するためのセンサであり、マスエアフロー(MAF)センサ等とも称される。
排気通路4は、エンジン本体2(特にシリンダヘッド)に接続された排気マニホールド20と、排気マニホールド20の下流側に接続された排気管21とにより主に画成される。排気マニホールド20は、各気筒の排気ポートから送られてきた排気ガスを集合させる。排気管21、もしくは排気マニホールド20と排気管21の間には、ターボチャージャ14のタービン14Tが設けられる。タービン14Tより下流側の排気通路4には、上流側から順に、酸化触媒22、フィルタ23、選択還元型NOx触媒24およびアンモニア酸化触媒26が設けられる。これらは排気後処理を実行する後処理部材をなす。フィルタ23とNOx触媒24の間の排気通路4には、還元剤としての尿素水を添加する添加弁25が設けられる。
酸化触媒22は、排気中の未燃成分(炭化水素HCおよび一酸化炭素CO)を酸化して浄化すると共に、このときの反応熱で排気ガスを加熱昇温する。フィルタ23は、連続再生式ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)とも称され、排気中に含まれる粒子状物質(PMとも称す)を捕集すると共に、その捕集したPMを貴金属と反応させて連続的に燃焼除去する。フィルタ23には、ハニカム構造の基材の両端開口を互い違いに市松状に閉塞した所謂ウォールフロータイプのものが用いられる。
NOx触媒24は、SCRとも称され、添加弁25から添加された尿素水に由来するアンモニアを還元剤として排気中のNOxを還元浄化する。アンモニア酸化触媒26は、NOx触媒24から排出された余剰アンモニアを酸化して浄化する。なおNOx触媒24は吸蔵還元型NOx触媒(LNT)であってもよい。
エンジン1はEGR装置30をも備える。EGR装置30は、排気通路4内(特に排気マニホールド20内)の排気ガスの一部(EGRガスという)を吸気通路3内(特に吸気マニホールド10内)に還流させるためのEGR通路31と、EGR通路31を流れるEGRガスを冷却するEGRクーラ32と、EGRガスの流量を調節するためのEGR弁33とを備える。
また、本実施形態は、それぞれ排気通路4に設けられた電子制御式の排気スロットルバルブ37と、第2燃料噴射弁としての排気インジェクタ38とを備える。本実施形態において、これらはタービン14Tと酸化触媒22の間の排気通路4に設けられ、排気スロットルバルブ37より下流側に排気インジェクタ38が配置される。但しこれらの設置位置は変更可能である。排気インジェクタ38は、後述するフィルタ再生の際、排気通路4内に燃料を噴射する。
このエンジン1を制御するための制御装置が車両に搭載されている。制御装置は、制御ユニットもしくはコントローラをなす電子制御ユニット(ECUと称す)100を有する。ECU100はCPU、ROM、RAM、入出力ポートおよび記憶装置等を含む。ECU100は、筒内インジェクタ7、吸気スロットルバルブ16、添加弁25、EGR弁33、排気スロットルバルブ37および排気インジェクタ38を制御するように構成され、プログラムされている。なお特に断らない限り、吸気スロットルバルブ16および排気スロットルバルブ37は全開に制御されているものとする。
制御装置は、以下のセンサ類も有する。このセンサ類に関して、上述のエアフローメータ13の他、エンジンの回転速度、具体的には毎分当たりの回転数(rpm)を検出するための回転速度センサ40と、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサ41とが設けられる。また、酸化触媒22、フィルタ23、NOx触媒24およびアンモニア酸化触媒26の各々の入口部の排気ガス温度(入口ガス温度)を検出するための排気温センサ42,43,44,46が設けられている。また、フィルタ23の入口部および出口部における排気圧の差圧(前後差圧)を検出するための差圧センサ45が設けられている。また、運転者により手動操作される手動再生スイッチ47が設けられている。これらセンサ類の出力信号はECU100に送られる。
ところでエンジン本体2は、クラッチ17を介して変速機18に接続されている。変速機18にはエンジン動力を取り出すためのPTO装置19が付設されている。PTO装置19には図示しない作業機器が接続可能であり、作業機器が接続された場合、取り出されたエンジン動力により作業機器が駆動される。
PTO装置19の作動状態を切り替えるためのPTOスイッチ48と、PTO装置19に送られるエンジン動力の大きさを調節するためのPTOアクセル49とが設けられる。これらPTOスイッチ48およびPTOアクセル49の出力信号もECU100に送られる。ECU100は、PTOスイッチ48がオンのとき、PTO装置19を、エンジン動力取出可能な作動状態とし、PTOスイッチ48がオフのとき、PTO装置19を、エンジン動力取出不可の停止状態とする。またECU100は、PTOスイッチ48がオンのとき、PTOアクセル49の操作量に応じて筒内インジェクタ7の燃料噴射量を制御し、エンジン1を制御する。すなわちPTOアクセル49は車両のアクセルペダルの代わりに用いられる。
[フィルタ再生]
次に、本実施形態のフィルタ再生について説明する。
ECU100は、フィルタ23に堆積したPMを燃焼除去し、フィルタ23を再生するために、フィルタ再生(またはフィルタ再生制御、以下同様)を実行する。ここでフィルタ再生は、手動再生スイッチ47がドライバによりオンされたことにより実行される手動再生と、手動再生スイッチ47がオンされない状態(オフの状態)で自動的に実行される自動再生とに大別される。また自動再生は、PTO装置19の停止時(PTO停止時という)、具体的にはPTOスイッチ48のオフ時に行われる通常再生と、PTO装置19の作動時(PTO作動時という)、具体的にはPTOスイッチ48のオン時に行われるPTO再生とに分類される。通常再生は車両の通常運転中(走行中または停止中)に行われる。他方PTO再生は、作業機器によるPTO作業中に行われるため、車両の停止中に行われる。本実施形態は自動再生、すなわち通常再生とPTO再生について特徴がある。
まず、通常再生とPTO再生の開始条件について説明する。図2には、再生開始タイミングを決定するためのマップを示し、このマップはECU100に記憶されている。横軸は、前回の再生終了時期からの車両の走行距離L(km)である。縦軸は、フィルタ23の前後の差圧Pである。図中の線aは、走行距離Lに応じて変化する差圧閾値Pthを示し、線bは、差圧Pに拘わらず一定の走行距離閾値Lthを示す。あくまで一例であるが、走行距離閾値Lthは例えば750(km)である。
基本的に、差圧センサ45により検出された実際の差圧Pが差圧閾値Pth以上となるか、または前回の再生終了時期から計測される車両の実際の走行距離Lが距離閾値Lth以上に達した時、通常再生とPTO再生は開始される。例えば点cから出発して、走行距離Lが増えず(車両停止中)、差圧Pが差圧閾値Pthに達した時(点d)、再生が開始される。あるいは、差圧Pがほぼ一定のまま走行距離Lが距離閾値Lthに達した時(点e)、再生が開始される。このように通常再生とPTO再生は差圧条件と距離条件のいずれか一方が満たされたときに開始されるようになっている。
再生が開始されると、ECU100は、図3に示すスケジュールマップに従って再生を実行し、終了する。このスケジュールマップもECU100に記憶されている。横軸は、再生開始時からの経過時間t(min)である。縦軸は温度T(℃)である。
図中の線aは、通常再生時におけるフィルタ23の目標入口ガス温度TGN1を示し、線bは、PTO再生時におけるフィルタ23の目標入口ガス温度TGP1を示す。再生中、ECU100は、排気温センサ43により検出された実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfが目標入口ガス温度TGN1,TGP1に近づくよう、実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfを昇温制御する。具体的にはECU100は、排気インジェクタ38から昇温用燃料を噴射させ、この昇温用燃料を酸化触媒22で燃焼させて、フィルタ23に供給される排気ガスを昇温する。これによりフィルタ23自体が昇温され、フィルタ内部に蓄積したPMが燃焼除去される。なお、排気インジェクタ38から昇温用燃料を噴射することに代えてもしくは加えて、筒内インジェクタ7から昇温用燃料を追加で噴射するポスト噴射またはアフタ噴射を行ってもよい。
まず通常再生時について説明する。通常再生時の目標入口ガス温度TGN1は経過時間tに応じて変化し、本実施形態では、経過時間tが大きくなるにつれ段階的に上昇する。すなわち、0≦t<t1のときTGN1=T1で一定であり、t1≦t<t2のときTGN1はT1からT2まで比例的に上昇する。t2≦t<t3のときTGN1=T2で一定であり、t3≦t<t4のときTGN1はT2からT3まで比例的に上昇する。t4≦t<t5のときTGN1=T3で一定であり、t=t5に達した時点で再生が終了する。あくまで一例であるが、T2は例えば600(℃)である。
ECU100は、排気温センサ43により検出された実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfと、目標入口ガス温度TGN1との温度差ΔT=TGN1−Tdpfに基づき、排気インジェクタ38の燃料噴射量をフィードバック制御する。具体的には温度差ΔTが大きいほど燃料噴射量を増加し、実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfを目標入口ガス温度TGN1に早く近づけるようにする。これにより、スケジュールマップに従って再生を実行する限り、再生終了と同時にフィルタ23内に蓄積したPMを漏れなく除去することができる。なおフィードバック制御は公知のPID制御等によりなされる。
経過時間tはECU100に内蔵のタイマもしくはカウンタによりカウントされるが、このカウントは、温度差ΔTが所定値以内のときのみ実行される。その理由は、温度差ΔTが過大であるときには実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfが目標入口ガス温度TGN1に比べて著しく低く、PM燃焼量が少ないため、このときの時間も経過時間tに含めてしまうと再生終了時にPMの燃え残りが発生する可能性があるからである。
図中の線cは、カウントが実行される最小のフィルタ入口ガス温度Tdpfminを示す。この最小フィルタ入口ガス温度Tdpfminは、目標入口ガス温度TGN1から所定の温度差を減じて得られる。この最小フィルタ入口ガス温度Tdpfminは図示の如くスケジュールマップに入力されていてもよいが、計算によって求めてもよい。
0≦t<t1のとき、最小フィルタ入口ガス温度Tdpfminは、目標入口ガス温度T1から温度差ΔT1を減じて得られるT1Cで一定とされる。またt2≦t<t3のとき、最小フィルタ入口ガス温度Tdpfminは、目標入口ガス温度T2から温度差ΔT2を減じて得られるT2Cで一定とされる。またt4≦t<t5のとき、最小フィルタ入口ガス温度Tdpfminは、目標入口ガス温度T3から温度差ΔT3を減じて得られるT3Cで一定とされる。
t1≦t<t2のとき、最小フィルタ入口ガス温度Tdpfminは、T1CからT2Cまで比例的に上昇する。ここでΔT1<ΔT2であり、最小フィルタ入口ガス温度Tdpfminの上昇勾配は目標入口ガス温度TGN1の上昇勾配より小さい。
同様に、t3≦t<t4のとき、最小フィルタ入口ガス温度Tdpfminは、T2CからT3Cまで比例的に上昇する。ここでΔT2<ΔT3であり、最小フィルタ入口ガス温度Tdpfminの上昇勾配は目標入口ガス温度TGN1の上昇勾配より小さい。
このように、経過時間tが大きくなるほど、あるいは目標入口ガス温度TGN1が高くなるほど、経過時間tがカウントされる最大温度差ΔT1〜ΔT3は拡大される。再生が進むにつれフィルタ温度は上昇するが、本実施形態はこうした傾向を踏まえて最大温度差ΔT1〜ΔT3を徐々に拡大し、経過時間tのカウントの適正化を図っている。
次に、PTO再生時について説明する。PTO再生時は通常再生時より単純であり、PTO再生時の目標入口ガス温度TGP1は経過時間tに拘わらずT4で一定である。PTO再生時の目標入口ガス温度TGP1は通常再生時の目標入口ガス温度TGN1より低く、T4<T1である。またPTO再生は、通常再生より長い時間実行される。すなわち通常再生は経過時間tがt5に達するまで実行されるが、PTO再生は経過時間tがt5より長いt6に達するまで実行される。あくまで一例であるが、例えばT4は550(℃)、t6は28(min)である。
PTO再生時の目標入口ガス温度TGP1が通常再生時の目標入口ガス温度TGN1より低い理由は、熱害を防止または抑制するためである。すなわち、PTO再生時には車両が停止しているため、排気管21の下流端(テールパイプ)21Aから過度に高温の排気ガスが排出されると、その下流端付近の物体(タイヤ、路面等)が熱で溶損し、熱害を被る可能性がある。従ってこの熱害を抑制するため、PTO再生時の目標入口ガス温度TGP1を通常再生時の目標入口ガス温度TGN1より低下させている。
また、この目標温度低下分を補うため、PTO再生の再生時間(t6)を通常再生の再生時間(t5)より長くしている。
フィルタ入口ガス温度Tdpfの具体的な昇温方法は通常再生時と同じである。ECU100は、排気温センサ43により検出された実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfと、目標入口ガス温度TGP1との温度差ΔT=TGP1−Tdpfに基づき、排気インジェクタ38の燃料噴射量をフィードバック制御する。
また、経過時間tのカウントも、温度差ΔTが所定値以内のときのみ実行される。図中の線dは、カウントが実行される最小のフィルタ入口ガス温度Tdpfminを示す。0≦t<t6の全期間に亘って、最小フィルタ入口ガス温度Tdpfminは、目標入口ガス温度T4から温度差ΔT4を減じて得られるT4Cで一定とされる。
[本実施形態の第1の特徴]
次に、本実施形態の第1の特徴について説明する。この第1の特徴は通常再生に関する。
図3に示したように、通常再生時の目標入口ガス温度TGN1は経過時間tが大きくなるにつれ上昇する。しかしこのとき、目標入口ガス温度TGN1の最大値T3が、下流側のNOx触媒24にとって不都合であることが判明した。
すなわち、NOx触媒24の入口ガス温度(SCR入口ガス温度という)Tscrにはハード上の要請から定まる許容上限値が存在し、この許容上限値は、目標入口ガス温度TGN1の最大値T3より低い。このため、実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfが最大値T3に等しく制御され、フィルタ23から最大値T3に近い温度の排気ガスが排出されたとき、これが温度低下しないままNOx触媒24に流入し、NOx触媒24に熱的ダメージを与える可能性がある。
他方、フィルタ側から見れば、フィルタ入口ガス温度Tdpfをできるだけ高くする方が有利である。その理由は、フィルタ温度を上昇させてPM燃焼速度を高めることができるからである。また同時に酸化触媒22自体の温度が高くなることにより、その前面部へのPM付着を抑制できるからである。
ところで、図4に示すように、フィルタ入口ガス温度Tdpfがエンジン回転数Neに拘わらず一定であるとき、SCR入口ガス温度Tscrはエンジン回転数Neの上昇につれ上昇し、フィルタ入口ガス温度Tdpfに近づく傾向がある。すなわち、高回転側では、排気ガスの流速が速く、排気ガスがフィルタ23からNOx触媒24に至るまでの間に排気管21に伝達する放熱量が少ない。このため、フィルタ入口ガス温度TdpfからSCR入口ガス温度Tscrへの温度低下量は少なくなり、SCR入口ガス温度Tscrはフィルタ入口ガス温度Tdpfより僅かに低い、比較的高い値となる。他方、低回転側では、排気ガスの流速が遅く、排気ガスがフィルタ23からNOx触媒24に至るまでの間に排気管21に伝達する放熱量が多い。このため、フィルタ入口ガス温度TdpfからSCR入口ガス温度Tscrへの温度低下量は多くなり、SCR入口ガス温度Tscrはフィルタ入口ガス温度Tdpfより顕著に低い、比較的低い値となる。
本実施形態の場合、SCR入口ガス温度Tscrの許容上限値は、目標入口ガス温度TGN1の中間値T2に等しい。従って、エンジンの高回転側で目標入口ガス温度TGN1を最大値T3に定めてしまうと、SCR入口ガス温度Tscrが最大値T3付近の許容上限値を超えた値となってしまい、NOx触媒24にダメージを与える可能性がある。
しかしながら、目標入口ガス温度TGN1の最大値T3を一律に中間値T2に変更してしまうと、NOx触媒24のダメージを抑制できる代わりに、フィルタ昇温にとって不利である。
他方、エンジンが低回転側であれば、目標入口ガス温度TGN1が最大値T3であっても、SCR入口ガス温度Tscrはそれより大分低下した値となるため、許容上限値を超えず、NOx触媒24にとって問題のない値となる可能性がある。
そこで本実施形態では、フィルタ昇温とNOx触媒24へのダメージ抑制との両立の観点から、エンジン運転状態に応じた別のフィルタ目標入口ガス温度TGN2を定め、この目標入口ガス温度TGN2にも基づいて通常再生を行うようにした。
すなわちECU100は、図3に示した前述のスケジュールマップから、経過時間tに応じた第1目標温度である第1目標入口ガス温度TGN1を決定する。その一方でECU100は、図5に示す所定のマップから、エンジン運転状態に応じた第2目標温度である第2目標入口ガス温度TGN2を決定する。ECU100は、第1目標入口ガス温度TGN1および第2目標入口ガス温度TGN2のうちいずれか低い方を目標入口ガス温度TGNに設定する。そしてこの目標入口ガス温度TGNに近づくよう、実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfを制御する。これが本実施形態の第1の特徴である。
図5に示すマップはECU100に記憶されている。マップの横軸はエンジン回転数Neであり、縦軸は燃料噴射量、特にインジェクタ7への指示噴射量としての目標燃料噴射量Qである。Qmaxは目標燃料噴射量Qの最大値である。
なおECU100は、回転速度センサ40およびアクセル開度センサ41によりそれぞれ検出されたエンジン回転数Neおよびアクセル開度Acに基づき、図示しない燃料噴射量マップに従って、目標燃料噴射量Qを算出する。目標燃料噴射量Qは、エンジン負荷を表すパラメータであり、このパラメータについては目標燃料噴射量Q以外にもアクセル開度等の任意のパラメータを採用できる。次いでECU100は、エンジン回転数Neおよび目標燃料噴射量Qに基づき、図5のマップに従って、第2目標入口ガス温度TGN2を決定する。
図5のマップにおいては、エンジンの全運転領域がほぼ回転数方向に複数(六つ)の領域に分割され、各領域に、高回転側から低回転側に向かって徐々に高くなる第2目標入口ガス温度TGN2の値T5,T6,T7,T8,T9,T10が入力されている。このうち、最も高回転側の領域の値T5は、第2目標入口ガス温度TGN2の最小値である。最小値T5は、SCR入口ガス温度Tscrの許容上限値に等しく、第1目標入口ガス温度TGN1の中間値T2にも等しい。なお最小値T5は、SCR入口ガス温度Tscrの許容上限値にほぼ等しい値であればよく、許容上限値に等しい値であってもよいし、許容上限値付近の値であってもよい。最小値T5は当然に、第1目標入口ガス温度TGN1の最大値T3より低い値である。最も低回転側の領域の値T10は、第2目標入口ガス温度TGN2の最大値である。最大値T10は本実施形態の場合、第1目標入口ガス温度TGN1の最大値T3と等しくされている。
例えば、図3に示すt4〜t5の期間内では、第1目標入口ガス温度TGN1として値T3が決定される。このときにエンジン運転状態が図5に示す最も高回転側のT5領域にある場合、第2目標入口ガス温度TGN2としては値T5が決定される。T3とT5が比較され、T5の方が低いので、T5が目標入口ガス温度TGNに設定され、T5に近づくよう実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfが制御される。
すると、実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfが最高でもT5までしか上昇しないため、実際のSCR入口ガス温度Tscrも許容上限値以下に抑えられる。従って、NOx触媒24への熱的ダメージを回避できる。
他方、t4〜t5の期間内で、エンジン運転状態が図5に示す最も低回転側のT10領域にある場合、第2目標入口ガス温度TGN2としては値T10が決定される。T3とT10が比較され、両者は等しいので、T3(T10でもよい)が目標入口ガス温度TGNに設定され、T3に近づくよう実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfが制御される。
すると、実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfが最高でT3まで上昇する。これはSCR入口ガス温度Tscrの許容上限値を超える温度である。しかしながら、エンジン運転状態が最も低回転側であり、排気ガスの流速が遅く、排気ガスがフィルタ23からNOx触媒24に至るまでの間に、排気管21に比較的多く放熱し、排気ガス温度が大きく低下し、実際のSCR入口ガス温度Tscrは許容上限値以下に抑えられる。従って、フィルタ23には高温の排気ガスを供給してフィルタ昇温を確保する一方、NOx触媒24には許容上限値以下の温度の排気ガスを供給して、NOx触媒24への熱的ダメージを回避できる。
このように本実施形態の第1の特徴によれば、フィルタ昇温とNOx触媒24へのダメージ抑制との両立が可能となる。
上述の説明では、理解容易のため、t4〜t5の期間内で第1目標入口ガス温度TGN1がT3であり、且つ、エンジン運転状態が最も高回転側で第2目標入口ガス温度TGN2がT5の場合と、エンジン運転状態が最も低回転側で第2目標入口ガス温度TGN2がT10の場合とだけを説明した。しかしながら、他の期間やエンジン運転状態のときにも同様の作用効果および利点を生じることが理解されるであろう。
本実施形態では、第2目標入口ガス温度TGN2の最小値T5が第1目標入口ガス温度TGN1の中間値T2に等しいので、実際上、上記の制御が効いてくるのは、第1目標入口ガス温度TGN1がその中間値T2以上となるt3以降の期間である。但し制御上は、上記の制御が常に実行されている。
本実施形態では、上記の制御を通常再生時にのみ行い、PTO再生時には行わないようにしている。しかしながら必要であれば、上記の制御をPTO再生時にも行い、すなわち自動再生時に常に行うようにしても構わない。この場合、通常再生時とPTO再生時とで各パラメータの値をそれぞれに適した値に変更するのが好ましい。仮に経過時間tが長くなるにつれPTO再生時の目標入口ガス温度TGP1が増大し、SCR入口ガス温度Tscrの許容上限値を超える場合、上記の制御は有益である。
本実施形態では、上記の制御をPTO車両に適用したが、PTO車両以外の車両に適用してもよい。
図6は、上記の制御の効果を確認するために行った試験の結果を示す。横軸は時間t、縦軸は温度Tである。試験に際し、エンジン回転数Neが所定時間毎に段階的に増加され、そのエンジン回転数Neが一定となる期間中に、エンジン負荷すなわち目標燃料噴射量Qが高い値から低い値まで減少されている。
第1目標入口ガス温度TGN1(図示せず)はT3に固定されている。第2目標入口ガス温度TGN2(図示せず)は、エンジン回転数Neと目標燃料噴射量Qに基づき図5のマップから決定された値である。これらのうちいずれか低い方の値が、目標入口ガス温度TGNとして図中に表示されている。
エンジン回転数Neが低い初期のうちは、目標入口ガス温度TGNが、SCR入口ガス温度Tscrの許容上限値T2より高い最大値T3に設定されている。そしてエンジン回転数Neが高くなるにつれ、目標入口ガス温度TGNは最終的にT2まで段階的に低下し、これに対応して実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfも最終的にT2まで段階的に低下する。
しかしながら、SCR入口ガス温度Tscrは、常に許容上限値T2以下またはその近傍に保たれ、許容上限値T2を超えることが抑制されている。従って上記の制御は、フィルタ昇温とNOx触媒24へのダメージ抑制との両立を図る上で有効であることが確認された。
[本実施形態の第2の特徴]
次に、本実施形態の第2の特徴について説明する。この第2の特徴はPTO再生に関する。
図3に示したように、PTO再生時には、基本的に目標入口ガス温度TGP1が一定のT4に設定される。
しかし、試験を行った結果、ある特定のエンジン運転領域においてのみ、目標入口ガス温度TGP1がT4だと温度が高過ぎ、熱害が発生することが判明した。
従って本実施形態では、その特定運転領域においてのみ、目標入口ガス温度をT4より低い温度に設定し、熱害を防止するようにしている。
すなわちECU100は、図3に示した前述のスケジュールマップから、経過時間tに応じた第1目標温度である第1目標入口ガス温度TGP1を決定する。なお第1目標入口ガス温度TGP1は実際には経過時間tによらない一定のT4である。その一方でECU100は、図7に示す所定のマップから、エンジン運転状態に応じた第2目標温度である第2目標入口ガス温度TGP2を決定する。ECU100は、第1目標入口ガス温度TGP1および第2目標入口ガス温度TGP2のうちいずれか低い方を目標入口ガス温度TGPに設定する。そしてこの目標入口ガス温度TGPに近づくよう、実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfを制御する。第2目標入口ガス温度TGP2は、熱害が発生するエンジンの特定運転領域において、第1目標入口ガス温度TGP1=T4より低い温度に設定されている。これが本実施形態の第2の特徴である。
図7に示すマップはECU100に記憶されている。マップの横軸はエンジン回転数Ne、縦軸は目標燃料噴射量Qである。Qmaxは目標燃料噴射量Qの最大値である。ECU100は、実際のエンジン回転数Neおよび目標燃料噴射量Qに基づき、図7のマップに従って、第2目標入口ガス温度TGP2を決定する。
図7のマップにおいて、エンジンの全運転領域は、PTO再生が実行される実行領域Aと、PTO再生が停止もしくは禁止される停止領域Bとに二分割される。停止領域Bは実行領域Aよりも高回転側に設定される。そして前述の特定運転領域Cは、実行領域A内に設定されている。本実施形態の特定運転領域Cは、実行領域A内における停止領域Bとの隣接箇所であって、中程度のエンジン負荷域に相当する極く限られた狭い領域とされる。狭い領域ではあるが、試験の結果、熱害が懸念された箇所である。但し特定運転領域Cをどこにどのように定めるかは任意であり、試験結果に応じて適切に設定される。
本実施形態では、実行領域A内に、特定運転領域Cを含み且つ特定運転領域Cよりやや拡大された領域D(便宜上、小インターバル領域という)が設定されている。この小インターバル領域Dについては後に詳述する。
実行領域Aのうち、特定運転領域C以外の領域(通常運転領域といい、便宜上Eで表す)では、目標入口ガス温度TGP2が、T4に等しいT11に設定されている。他方、特定運転領域Cでは、目標入口ガス温度TGP2が、T4より低いT12に設定されている。本実施形態において、T11(=T4)とT12の温度差は僅かであり、熱害を回避し得る最小限の温度差に設定されている。かかる温度差に設定することにより、特定運転領域Cでも可能な限り目標入口ガス温度TGP2を高め、PM燃焼速度の低下を最小限に止めることができる。
エンジン運転状態が実行領域Aにあり、PTO再生が実行されているとき、エンジン運転状態が通常運転領域Eにあれば、第2目標入口ガス温度TGP2は第1目標入口ガス温度TGP1=T4と等しいT11に決定される。T4とT11が比較され、両者は等しいので、T4(T11でもよい)が目標入口ガス温度TGPに設定され、T4に近づくよう実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfが制御される。つまり、エンジン運転状態が通常運転領域Eにあるときには、目標入口ガス温度TGPが、通常通り、第1目標入口ガス温度TGP1と等しく設定される。
他方、エンジン運転状態が特定運転領域Cにあれば、第2目標入口ガス温度TGP2は第1目標入口ガス温度TGP1=T4より低いT12に決定される。T4とT12が比較され、T12の方が低いので、T12が目標入口ガス温度TGPに設定され、T12に近づくよう実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfが制御される。
つまり、エンジン運転状態が特定運転領域Cにあるときには、目標入口ガス温度TGPが、第1目標入口ガス温度TGP1より低い値に設定される。これにより、実際のフィルタ入口ガス温度Tdpf、ひいては最終的に排気管21の下流端21Aから排出される排気ガスの温度を低下させることができ、熱害を防止することができる。
このように本実施形態の第2の特徴によれば、エンジン運転状態が特定運転領域にあるときの熱害を抑制することが可能となる。
[本実施形態の第3の特徴]
次に、本実施形態の第3の特徴について説明する。この第3の特徴もPTO再生に関する。
前述したように、エンジン運転状態が特定運転領域Cにあるときには、目標入口ガス温度TGPが、通常の第1目標入口ガス温度TGP1より低い値に設定される。
しかしこうすると、エンジン運転状態が特定運転領域Cにある条件下でPTO再生を実行したときに、エンジン運転状態が通常運転領域Eにある条件下でPTO再生を実行した場合に比べ、PMの焼却量が減少することが試験により判明した。
図8は、エンジン運転状態が通常運転領域Eにある場合(線a)と特定運転領域Cにある場合(線b)とでPM焼却量を比較した結果である。横軸はPTO再生開始時からの経過時間t(min)、縦軸はフィルタ内のPM堆積量M(g/L)である。いずれの場合も、PTO再生開始時(t=0)における初期PM堆積量M1は、図2を参照して説明した、PTO再生開始条件が成立した時点でのPM堆積量に略等しい。つまり本実施形態では、フィルタ内のPM堆積量Mが初期PM堆積量M1まで増加したときに自動再生を開始するようにしている。
エンジン運転状態が通常運転領域Eにある場合(線a)、図3に示したような再生スケジュールに則り、所定時間t6までPTO再生を実行すると、t6の時点でPM堆積量Mはゼロとなり、初期PM堆積量M1のPMは全量焼却される。
しかしながら、エンジン運転状態が特定運転領域Cにある場合(線b)だと、所定時間t6までPTO再生を実行しても、初期PM堆積量M1のPMが全量焼却されず、燃え残りが生じる。この場合、t6の時点でPM堆積量Mはゼロより大きいM2であり、ΔM=M1−M2のPMしか焼却されておらず、M2の燃え残りが生じる。
このようにPM焼却量が減少する理由は必ずしも明らかでないが、一つには目標入口ガス温度TGPの低下が予想以上に効いていること、もう一つには、特定運転領域Cにおける排気ガスのPMの組成が燃え難い組成になっていることが考えられる。
この燃え残った状態でPTO再生を終了し、引き続きPTO作動を伴うエンジン運転(PTO作動運転)を実行したとする。すると、フィルタ23に次第にPMが蓄積していく。次回のPTO再生開始条件は、図2を参照して説明したように、P≧PthまたはL≧Lthが成立することである。つまり、差圧Pが次第に上昇して差圧閾値Pth以上に達するか、または走行距離Lが増えて距離閾値Lth以上に達することである。
燃え残り状態からPM蓄積が開始された場合、その後、差圧Pが差圧閾値Pth以上に達して、通常より早いインターバルですなわちΔMだけPMが溜まった時点で、次回のPTO再生が開始されれば、特段問題はない。予定通り、初期PM堆積量M1になった時点でPTO再生を開始できるからである。
しかし、そのPM蓄積中はPTO作動中であり、車両が停止している。従って走行距離Lは増えず、もう一方の開始条件L≧Lthを担保できない。仮に、差圧センサ45が故障するなど、何等かの理由でP≧Pthになったことを正確に検知できなくなった場合、初期PM堆積量M1を超えて多量のPMがフィルタ内に蓄積する可能性があり、所望のフィルタ再生を実行できなくなる可能性がある。
図2に示すように、PTO作動時における燃え残り状態からのPM蓄積が例えばc点から開始したとする。この場合、c点から差圧上昇方向(上)に進み、差圧閾値Pth上のd点に達すれば、次回のPTO再生が開始され問題はない。しかし、車両停止中なので走行距離増大方向(右)に進むことはなく、距離閾値Lth上のe点に到達せず、一方の再生開始条件を担保できない。仮に差圧センサ45の故障等によりP≧Pthを正確に検知できなくなれば、フィルタ内に過剰な量のPMが蓄積する虞がある。
同様に、PM蓄積が例えばf点から開始しても、差圧上昇方向(上)のg点には到達し得るものの、走行距離増大方向(右)のe点には到達できず、一方の再生開始条件を担保できない。
そこで、本実施形態においてECU100は、特定運転領域CにおいてPTO再生が実行された場合、通常運転領域EにおいてPTO再生が実行された場合よりも、短いインターバルで、次回のPTO再生を開始する。これが本実施形態の第3の特徴である。
こうすると、特定運転領域CにおけるPTO再生によりPM焼却量が減少しても、その分、より早いタイミングで次回のPTO再生を開始することができ、次回のPTO再生開始までの間に過剰な量のPMが蓄積されるのを防止もしくは抑制し、所望のフィルタ再生を実行することができる。なおインターバルとは、あるフィルタ再生の終了時期から次のフィルタ再生の開始時期までの期間をいう。このインターバル中にフィルタへのPM蓄積がなされる。
本実施形態において、ECU100は、特定運転領域CにおいてPTO再生が実行された後にも、差圧Pおよび走行距離Lに基づいて、図2のマップに従い、次回のPTO再生開始タイミングを決定する。但し前述したように、PTO再生実行後にも引き続きPTO作動中だと、車両が停止状態にあり、走行距離Lが増加しない。そこでECU100は、PTO再生終了時からの経過時間と仮想車速とに基づいて走行距離を計算する。
そしてECU100は、計算した走行距離が距離閾値Lthに達した時に次回のPTO再生を開始する。なお距離閾値Lthは、通常運転領域EにおいてPTO再生が行われた場合の距離閾値Lthと同じである。
ここでは、車両が走行していないにも拘わらず、車両が走行していると仮定し、そのときの擬似的車速である仮想車速を予め実験的に求めておき、この仮想車速と、PTO再生終了時からの経過時間とに基づいて走行距離を計算する点に特徴がある。
この点を詳細に説明する。まず図8に示すように、初期PM堆積量M1から特定運転領域CでのPTO再生が行われると、これにより焼却されるPM量はΔMで、PMの燃え残り量すなわち残存量はM2である。この状態から、特定運転領域CでのPTO作動運転が行われると、次第にフィルタ内にPMが蓄積していく。ΔM蓄積するとM1に達するので、ΔM蓄積した時点で次回のPTO再生を開始すればよいことになる。
試験を通じ、特定運転領域CでのPTO作動運転により、ΔM蓄積する時間がtm(h)と判明している。従って距離閾値Lth(km)を蓄積時間tm(h)で除することにより、仮想車速Vi(km/h)を計算できる。Vi=Lth/tmである。時間tmは、例えば8(Hr)であり、通常運転領域EでのPTO作動運転により初期PM堆積量M1が蓄積する時間(例えば20(Hr))よりも短い。
こうすると、図2に示すように、仮にc点から、特定運転領域CでのPTO作動運転によるPM蓄積が開始した場合、L=Vi×tなので、経過時間tの増大に伴って走行距離Lが増加し、走行距離増大方向(右)に進む。そして差圧条件を無視すると、時間tmが経過した時、走行距離Lは距離閾値Lthに達し、e点に到達し、PTO再生が開始される。この時間tmの経過時点で蓄積したPM量はΔMである。従って本実施形態では、エンジン運転状態が特定運転領域Cにある場合、通常のM1より少ないΔMが蓄積された時点で、PTO再生が開始されることとなる。そしてエンジン運転状態が通常運転領域Eにある場合に比べ、短いインターバルで、次回のPTO再生が開始されることとなる。
因みに、エンジン運転状態が引き続き特定運転領域Cにあれば、次回のPTO再生によりΔMのPMが焼却され、その後のインターバルでΔMのPMが蓄積される。このように、ΔMのPMの蓄積と焼却が繰り返され、通常運転領域Eにある場合に比べ高い頻度でPTO再生が実行される。
仮に差圧センサ45が故障してP≧Pthを正確に検知できなくなった場合でも、仮想車速Viによる走行距離Lの計算が実行されるので、長くとも時間tmが経過するまでの間に1回、PTO再生を実行することができ、フィルタにおけるPMの過剰蓄積を防止もしくは抑制できる。
なお、図2のf点まで通常の車両走行がなされ、f点からPTO作動が開始することがある。この場合、PTO作動中の仮想車速Viによる走行距離の計算は、f点から開始される。このとき、通常の車両走行時に計測されたf点までの走行距離と、PTO作動中に計算された走行距離とを合算してトータルの走行距離Lを計算するのが好ましい。
ところで、上記の制御(便宜上、小インターバル制御という)は、PTO再生が特定運転領域Cで行われた場合に必須と考えられる。よってPTO再生が特定運転領域C外で行われた場合には必ずしも必須でないが、本実施形態では、万全を期し、図7に示す如き、特定運転領域Cを含んでより拡大された小インターバル領域DにおいてPTO再生が行われた場合、小インターバル制御を実行する。これにより、特定運転領域Cの周囲でPTO再生が行われた場合も、インターバルを短くして再生頻度を高め、信頼性を向上することができる。
また本実施形態では、小インターバル領域DでPTO再生が行われた後、引き続き小インターバル領域DでPTO作動運転が行われた場合、仮想車速Viと経過時間tを用いて擬似的な走行距離L(=Vi×t)を計算し、差圧Pだけでなく、この走行距離Lにも基づいて、次回のPTO再生開始タイミングを決定する。これにより、特定運転領域Cの周囲でPTO作動運転が行われた場合にも、PTO再生開始タイミングを早めて信頼性を向上することができる。
なお、仮想車速Viは現実的な値を有し、例えば、車両が所定の排ガスモードで運転されエンジンが小インターバル領域D内の所定点で運転されているときの車速値を有する。
[フィルタ自動再生の処理]
次に、本実施形態のフィルタ自動再生に関してECU100が行う演算処理の内容をより具体的に説明する。
図9は、自動再生(通常再生およびPTO再生を含む)の開始を決定するためのルーチンである。図示するルーチンはECU100により所定の演算周期τ(例えば10msec)毎に繰り返し実行される。図9のルーチンは、自動再生が実行されていないインターバル期間中に実行されるものである。
まずステップS101において、ECU100は、判別フラグFGが1(オン)か否かが判断される。判別フラグFGは、後に理解されるが、前回行われた自動再生が小インターバル領域DでのPTO再生であるとき1とされ、そうでないとき0(オフ)とされるフラグである。
FG=1の場合、ECU100は、ステップS102に進んで、現在のエンジン運転状態が小インターバル領域Dにあり、かつ、PTO作動中であるか否か、すなわち小インターバル領域DでのPTO作動運転中であるか否かが判断される。
イエスの場合、ECU100は、ステップS103で、予め記憶しておいた一定値である仮想車速Viと、前回のPTO再生終了時からの経過時間tとを読み出す。なお経過時間tはECU100に内蔵のタイマまたはカウンタで常時計測されている。そしてECU100は、ステップS104で、それら仮想車速Viと経過時間tを互いに乗じて擬似的な走行距離Lを算出する。このステップは、本実施形態の第3の特徴に関連する。
他方、ステップS101でFG=0の場合、またはステップS102でノーの場合、ECU100は、ステップS105に進んで、図示しない走行距離計(トリップメーター)の検出値に基づき、前回の自動再生終了時から現時点までの走行距離Lを算出する。
ステップS104またはS105の後、ステップS106に進み、ECU100は、図2のマップから、走行距離Lに対応した差圧閾値Pthを算出する。
そしてステップS107において、ECU100は、差圧センサ45により検出された実際の差圧Pを取得する。
次いでステップS108において、ECU100は、走行距離Lが距離閾値Lth以上か否かを判断する。
イエスの場合、ステップS110に進んで、ECU100は直ちに自動再生を開始し、ルーチンを終える。
他方、ステップS108がノーの場合、ECU100は、ステップS109に進んで、実際の差圧Pが差圧閾値Pth以上か否かを判断する。
イエスの場合、ステップS110に進んで、ECU100は自動再生を開始し、ルーチンを終える。
他方、ノーの場合、ECU100は、ステップS110をスキップし、自動再生を開始することなくルーチンを終える。この場合、本ルーチンが再度繰り返し実行される。
このように、本ルーチンが、本実施形態の第3の特徴を含むことが理解されるであろう。
次に、図10および図11を参照して、自動再生開始後に実行される自動再生実行ルーチンを説明する。このルーチンもECU100により所定の演算周期τ(例えば10msec)毎に繰り返し実行される。
まず最初に、ECU100は、ステップS201において、PTO作動中であるか否か、すなわち現在行われている自動再生がPTO再生か否かを判断する。
ノーの場合は通常再生と判断してステップS202に進む。他方、イエスの場合はPTO再生と判断してステップS302に進む。
通常再生と判断した場合、ECU100はステップS202において、現時点における再生開始時からの経過時間CTを取得する。この経過時間CTは、ECU100に内蔵のカウンタにより計測されている。なお経過時間CTは図3のtと同義である。
次にECU100は、ステップS203において、図3に示したマップから、経過時間CTに対応した第1目標入口ガス温度TGN1を算出する。
次にECU100は、ステップS204において、回転速度センサ40およびアクセル開度センサ41によりそれぞれ検出されたエンジン回転数Neおよびアクセル開度Acを取得し、ステップS205において、取得したエンジン回転数Neおよびアクセル開度Acに対応した目標燃料噴射量Qを、図示しない目標燃料噴射量マップから算出する。
次いでECU100は、ステップS206において、エンジン回転数Neおよび目標燃料噴射量Qに対応した第2目標入口ガス温度TGN2を、図5のマップから算出する。
次いでECU100は、ステップS207において、第1目標入口ガス温度TGN1および第2目標入口ガス温度TGN2のうち低い方を目標入口ガス温度TGNに決定する。このステップは、本実施形態の第1の特徴に関連する。
その後ECU100は、ステップS208において、排気温センサ43により検出された実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfと、目標入口ガス温度TGNとの温度差ΔT=TGN−Tdpfを算出すると共に、この温度差ΔTに基づき、排気インジェクタ38を制御する。より具体的には、温度差ΔTに基づき、排気インジェクタ38の燃料噴射量をフィードバック制御する。
次にECU100は、ステップS209において、算出した温度差ΔTが、図3に示した経過時間CTに対応した最大温度差ΔTn以下か否かを判断する。ここで最大温度差ΔTnの最小値はΔT1、最大値はΔT3である。
イエスの場合、ステップS210に進んで経過時間CTをカウントアップし、ステップS211に進む。他方、ノーの場合、ステップS210をスキップして経過時間CTをカウントアップすることなく、ステップS211に進む。
ステップS211でECU100は、経過時間CTが終了時間CTfinN以上に達したか否かを判断する。この終了時間CTfinNは図3のt5と同義である。達してなければそのままルーチンを終える。達していれば、ステップS212で再生を終了し、すなわち排気インジェクタ38による燃料噴射を終了する。そしてステップS213で経過時間CTと走行距離Lを初期化、すなわちゼロにリセットして、ルーチンを終える。
次に、ステップS201でイエスと判断した場合、すなわちPTO再生の場合を説明する。このときはまず、図11に示すステップS302が実行される。
PTO再生の場合も通常再生の場合とほぼ同様である。従って同一内容のステップについては符号を300番台に変更して詳細な説明を割愛する。以下、相違点を中心に説明する。
ECU100はステップS302において経過時間CTを取得し、ステップS303において図3に示したマップから、経過時間CTに対応した第1目標入口ガス温度TGP1を算出する。もっとも本実施形態の場合、第1目標入口ガス温度TGP1は経過時間CTによらず一定である。
次にECU100は、ステップS304においてエンジン回転数Neおよびアクセル開度Acを取得し、ステップS305において目標燃料噴射量Qを算出する。
次にECU100は、ステップS305Aにおいて、エンジン運転状態が図7に示した実行領域Aにあるか否かを判断する。ノーの場合、実行領域Aになく停止領域Bにあることを意味するから、ECU100はステップS314に進んで、排気インジェクタ38を無噴射の停止状態とし、PTO再生を停止し、ルーチンを終える。なお、高回転側の停止領域Bでは、元々高温の排気ガスが少ない放熱量で排気管下流端から排出されがちなので、熱害防止の観点からPTO再生自体を停止している。
他方、ステップS305Aがイエスの場合、すなわち実行領域Aにある場合、ステップS305Bに進んでECU100は、エンジン運転状態が図7に示した小インターバル領域Dにあるか否かを判断する。
小インターバル領域Dにあれば、ステップS305Cに進んで判別フラグFGが1(オン)とされ、小インターバル領域Dになければ、ステップS305Dに進んで判別フラグFGが0(オフ)とされる。
つまり、小インターバル領域DでPTO再生が実行されている場合は、判別フラグFGがオンとなり、その結果が図9のステップS101に反映され、小インターバル制御の実行トリガとされる。
他方、小インターバル領域D以外でPTO再生が実行されている場合は、判別フラグFGがオフとなり、その結果が図9のステップS101に反映される。その結果、通常通り、実際の走行距離Lに基づいて再生が開始される。
この後のステップは通常再生と同様で、ECU100は、ステップS306において、エンジン回転数Neおよび目標燃料噴射量Qに対応した第2目標入口ガス温度TGP2を、図7のマップから算出する。
次いでECU100は、ステップS307において、第1目標入口ガス温度TGP1および第2目標入口ガス温度TGP2のうち低い方を目標入口ガス温度TGPに決定する。このステップは、本実施形態の第2の特徴に関連する。
その後ECU100は、ステップS308において、排気温センサ43により検出された実際のフィルタ入口ガス温度Tdpfと、目標入口ガス温度TGPとの温度差ΔT=TGP−Tdpfを算出すると共に、この温度差ΔTに基づき、排気インジェクタ38を制御する。
次にECU100は、ステップS309において、算出した温度差ΔTが、図3に示した最大温度差ΔT4以下か否かを判断する。
イエスの場合、ステップS310に進んで経過時間CTをカウントアップし、ステップS311に進む。他方、ノーの場合、ステップS310をスキップして経過時間CTをカウントアップせずステップS311に進む。
ステップS311でECU100は、経過時間CTが終了時間CTfinP以上に達したか否かを判断する。この終了時間CTfinPは図3のt6と同義である。達してなければそのままルーチンを終え、達していれば、ステップS312で再生を終了し、ステップS313で経過時間CTと走行距離Lを初期化してルーチンを終える。
ここで、小インターバル領域DでPTO再生が実行された場合(ステップS305B:イエス)、判別フラグFGがオンとなり、次のインターバル期間中に図9のステップS101がイエスとなる。よってインターバル期間中に小インターバル領域DでのPTO作動運転がなされている場合には(ステップS102:イエス)、仮想車速Viと経過時間tに基づき走行距離Lを計算する小インターバル制御が実現されることとなる。
他方、小インターバル領域D以外の領域でPTO再生が実行された場合だと(ステップS305B:ノー)、判別フラグFGがオフなので、次のインターバル期間中に図9のステップS101がノーとなる。よってインターバル期間中には原則通り、実際の走行距離に基づき走行距離Lが計算される(ステップS105)。
以上述べたように本発明の一の態様は、本実施形態の第1の特徴に関する。本実施形態では、自動再生開始時からの経過時間tに応じて第1目標温度TGN1を決定すると共に、内燃機関の運転状態に応じて第2目標温度TGN2を決定し、第1目標温度TGN1および第2目標温度TGN2のうちいずれか低い方を目標温度TGNに設定し、フィルタの入口ガス温度Tdpfが目標温度TGNに近づくようフィルタの入口ガス温度Tdpfを制御する。従って、フィルタ昇温とNOx触媒24へのダメージ抑制との両立を好適に図ることができる。
以上、本発明の実施形態を詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々考えられる。例えば、上述の各数値はあくまで一例であり、変更可能である。
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。