以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るレーザ加工装置10の構成を示す概略図である。
図1に示すように、レーザ加工装置10は、レーザ電源12と、レーザ発振器14と、ワークテーブル16と、ワークテーブル移動部18と、液体供給手段20と、ヘッドユニット22と、レーザ光分布観察装置26と、制御部30とを備えている。
レーザ電源12は、信号ケーブルを介してレーザ発振器14に接続され、レーザ発振器14に電力を供給する。
レーザ発振器14は、レーザ電源12から供給される電力を用いてレーザ光Lを出力する。レーザ光Lとしては、水に吸収されにくい波長域のレーザ光が用いられる。
ワークテーブル16は、ワークW(被加工物)を吸着して保持する保持面16aを有する。この保持面16aには、ワークWを吸着保持するための吸着穴が複数設けられ、吸着穴は不図示の真空吸着源に接続されている。
ワークテーブル移動部18は、Xテーブル32と、θ回転テーブル34とを備えている。Xテーブル32は、水平に設置されており、図示しないX駆動機構によってX方向に移動可能に構成される。θ回転テーブル34は、Xテーブル32上に配設され、図示しないθ駆動機構によってθ方向(Z方向の軸を中心とした回転方向)に移動可能に構成される。そして、θ回転テーブル34上にはワークテーブル16が載置固定される。したがって、ワークテーブル16は、X方向及びθ方向にそれぞれ移動可能に構成される。なお、ワークテーブル移動部18は、移動手段の一例である。
液体供給手段20は、液体供給路を介してヘッドユニット22の加工ヘッド40に接続され、加工ヘッド40に加圧液体(例えば、加圧水)を供給する。
ヘッドユニット22は、偏向部36と、ビーム形状整形手段38と、加工ヘッド40とを備えている。このヘッドユニット22は、図示しないZ駆動機構によってZ方向に移動可能に構成されるZテーブルに配設される。Zテーブルは、図示しないY駆動機構によってY方向に移動可能に構成されるYテーブルに配設される。したがって、ヘッドユニット22は、Y方向及びZ方向に移動可能に構成される。
偏向部36は、レーザ光Lの光路上に設けられており、レーザ発振器14から出力されたレーザ光Lを加工ヘッド40に向けて反射する。この偏向部36は、相互に直交する軸線回りに揺動可能な2つのガルバノミラー(不図示)を対向させて構成されており、2つのガルバノミラーを揺動させてレーザ光Lを偏向することで、加工ヘッド40(液体ジェット噴射ノズル48)から噴射される液体ジェットJに対する入射角度及び入射位置を変化させることができるようになっている。偏向部36は、低速偏向手段の一例である。
ビーム形状整形手段38は、偏向部36と加工ヘッド40との間に配置され、レーザ発振器14から偏向部36を介して入力されたレーザ光Lを整形する。このビーム形状整形手段38は、例えば、可変アパーチャー(矩形、円形)やアキシコンレンズ、ビームホモジナイザ、及びこれらをレーザ光Lと直交する方向へ微小移動する機構などで構成されており、加工ヘッド40に入射する前のレーザ光Lを所定の形状、サイズ、強度分布に整形する。また、AOD(音響光学偏向素子)、SLM(空間変調素子)、DMD(Digital Mirror Device)、回折素子ならびに方解石などを用いて、レーザ光Lの分岐を含め、静的もしくは動的にレーザ光Lを整形することも可能である。
加工ヘッド40は、液体供給手段20から供給された加圧液体を液体ジェットJにてワークWに向けて噴射するとともに、液体ジェットJの中にレーザ光Lを導光することにより、液体ジェットJにより誘導されたレーザ光LをワークWに照射する。加工ヘッド40の具体的な構成は、以下のとおりである。
加工ヘッド40は、集光レンズ42と、ヘッド本体44とを備えている。
集光レンズ42は、ヘッド本体44の前段(上方)に配置され、レーザ発振器14から偏向部36及びビーム形状整形手段38を介して入射したレーザ光Lをヘッド本体44の内部に向けて集光する。
ヘッド本体44の内部には、液体チャンバ46が区画形成されている。液体チャンバ46は、液体供給手段20から供給された高圧液体を収容する。また、ヘッド本体44の下部には、液体ジェット噴射ノズル48が設けられており、液体ジェット噴射ノズル48は液体チャンバ46に連通している。したがって、液体供給手段20から加工ヘッド40に対して高圧液体が供給されると、その加圧液体は液体チャンバ46に収容され、さらに液体ジェット噴射ノズル48からワークW(又は後述するレーザ光分布観察装置26の遮蔽板52)に向けて液体ジェットJが噴射される。
ヘッド本体44の上部には、窓部50が設けられている。窓部50は、レーザ光Lに対して光学的に透明な光透過性部材(例えば、石英ガラス)により構成されており、液体チャンバ46を密閉しかつレーザ光Lを透過する。したがって、集光レンズ42から出射したレーザ光Lは、窓部50を透過してヘッド本体44の内部(液体チャンバ46)に入射し、液体ジェット噴射ノズル48へ集光する。
なお、本実施形態では、一例として、ワークテーブル16がX方向及びθ方向に移動可能に構成され、ヘッドユニット22がY方向及びZ方向に移動可能に構成される態様を示したが、ワークテーブル16とヘッドユニット22とがX方向、Y方向、Z方向、及びθ方向に相対的に移動可能に構成されていればよく、本実施形態とは異なる他の態様を適宜採用することができる。後述する他の実施形態においても同様である。
レーザ光分布観察装置26は、ワークWの表面(レーザ光照射面)における液体ジェットJ内のレーザ光Lの分布(レーザ光分布)を観察するものである。
レーザ光分布観察装置26は、液体ジェットJ内のレーザ光分布を観察する際に、ワークテーブル16に代えて、加工ヘッド40に対向する位置に配置される。
レーザ光分布観察装置26は、図示しない観察装置駆動機構を備えており、X方向、Y方向、及びZ方向に移動可能に構成される。これにより、レーザ光分布観察装置26は、加工ヘッド40に対向する観察位置と、その観察位置から離間した退避位置との間で移動することができる。
レーザ光分布観察装置26は、遮蔽板52と、液体除去手段54と、結像レンズ56と、光検出器58とを備えている。
遮蔽板52は、レーザ光分布観察装置26の上面(加工ヘッド40に対向する面)に設けられる。遮蔽板52は、レーザ光Lに対して光学的に透明な光透過部材(例えば、石英ガラス)により構成されており、液体ジェットJを遮蔽しかつレーザ光Lを透過する。したがって、加工ヘッド40の液体ジェット噴射ノズル48から噴射された液体ジェットJの液体は遮蔽板52により遮蔽される一方で、液体ジェットJに誘導されるレーザ光Lは遮蔽板52を透過し、レーザ光分布観察装置26を構成する本体部60の内部に入射する。
遮蔽板52は、加工ヘッド40に対してワークテーブル16に保持されるワークWと相対的に同一の高さに配置される。なお、加工ヘッド40と遮蔽板52との間の距離が加工ヘッド40とワークWとの間の距離と等しければよい。すなわち、加工ヘッド40からワークWに液体ジェットJが噴射されるときの液体ジェットJの長さと、加工ヘッド40から遮蔽板52に液体ジェットJが噴射されるときの液体ジェットJの長さとが互いに等しければよく、ワークWと遮蔽板52とが絶対座標的に同一高さであることは必ずしも必要ではない。例えば、ワークWと遮蔽板52とが絶対座標的に異なる高さである場合でも、加工ヘッド40に対する相対的な高さが互いに同一であればよい。加工ヘッド40と遮蔽板52との間の距離は、ヘッドユニット22(加工ヘッド40)又はレーザ光分布観察装置26のZ方向の移動により、加工ヘッド40とワークWとの間の距離と等しくなるように調整される。
液体除去手段54は、遮蔽板52により遮蔽された液体ジェットJの液体(残留液体)を除去する。液体除去手段54としては、例えば、残留液体を吸収により除去する液体吸収手段、残留液体を吸引により除去する液体吸引手段、残留液体を送風により除去する液体送風手段、あるいはこれらを組み合わせたものを適宜採用することができる。なお、液体吸収手段としては、布などの繊維質の帯状部材を遮蔽板52の表面に当接させることにより、毛細管現象を利用して残留液体を帯状部材に吸収させる構成を好ましく採用することができる。
結像レンズ56は、本体部60の内部において遮蔽板52と光検出器58との間に配置される。結像レンズ56は、複数枚のレンズから構成されており、液体ジェットJ内のレーザ光分布を光検出器58の受光面に投影する。すなわち、遮蔽板52と光検出器58とは結像レンズ56に対して互いに共役な位置関係に配置されており、液体ジェットJと遮蔽板52との接面における液体ジェットJ内のレーザ光分布が結像レンズ56により光検出器58の受光面に忠実に再現される。
光検出器58は、結像レンズ56により結像された液体ジェットJ内のレーザ光分布を示す投影像を受光する。光検出器58は、2次元的に配置された複数の受光素子を有し、各受光素子は受光した光量に応じた出力信号(電気信号)をレーザ光分布データとして出力する。光検出器58としては、例えば、CCDイメージセンサ(Charge Coupled Device Image Sensor)やCMOSイメージセンサ(Complementary Metal Oxide Semiconductor Image Sensor)などの固体撮像素子が好適に用いられる。
ここで、レーザ光分布観察装置26によって、液体ジェットJ内のレーザ光分布の観察が行われるときの動作について説明する。
まず、レーザ光分布観察装置26は、図示しない観察装置駆動機構により観察位置(加工ヘッド40に対向する位置)に移動する。なお、遮蔽板52は、加工ヘッド40に対してワークテーブル16に保持されるワークWと相対的に同一の高さに配置される。
次に、液体供給手段20から加工ヘッド40に加圧液体を供給する。加工ヘッド40に供給された加圧液体は液体チャンバ46に収容され、さらに液体ジェット噴射ノズル48から遮蔽板52に向けて液体ジェットJが噴射される。
また、レーザ発振器14から出力されたレーザ光Lは、後述する高速偏向手段68を介して、偏向部36により加工ヘッド40に向けて偏向され、ビーム形状整形手段38により所定の形状、サイズ、強度分布に整形され、集光レンズ42に入射する。さらに、レーザ光Lは、集光レンズ42により窓部50を介して液体ジェット噴射ノズル48へ集光される。これにより、レーザ光Lは、液体ジェットJに導光され、液体ジェットJにより誘導されて遮蔽板52に向けて照射される。
一方、液体ジェット噴射ノズル48から噴射された液体ジェットJは遮蔽板52で遮蔽されるとともに、液体ジェットJにより誘導されたレーザ光Lは、遮蔽板52を透過して、結像レンズ56により光検出器58の受光面に結像される。その際、遮蔽板52と光検出器58とは結像レンズ56に対して互いに光学的に共役な位置関係に配置されるので、液体ジェットJと遮蔽板52との接面における液体ジェットJ内のレーザ光分布が結像レンズ56により光検出器58の受光面に忠実に再現される。
このようにして光検出器58の受光面に液体ジェットJ内のレーザ光分布を示す投影像が結像されると、光検出器58の各受光素子はそれぞれ受光量に応じた出力信号をレーザ光分布データとして制御部30に対して出力する。制御部30では、入力されたレーザ光分布データに各種処理を施し、当該処理が施されたレーザ光分布データに基づく画像をモニタ64に表示する。
このように本実施形態のレーザ光分布観察装置26によれば、液体ジェットJと遮蔽板52との接面(すなわち、ワークWの表面)における液体ジェットJ内のレーザ光分布を観察することが可能となる。
また、レーザ光分布観察装置26によって液体ジェットJ内のレーザ光分布の観察が行われる際、遮蔽板52により遮蔽された液体ジェットJの液体(残留液体)は、液体除去手段54により除去されるので、遮蔽板52上の残留液体によるレーザ光Lの散乱の影響を受けることなく、液体ジェットJ内のレーザ光分布を安定して精度よく観察することが可能となる。
本実施形態のレーザ加工装置10は、上述した構成に加え、さらに、高速偏向手段68と、加工形状測定手段72とを備えている。
高速偏向手段68は、レーザ発振器14から加工ヘッド40に向かう途中(すなわち、液体ジェットJに入射する手前)でレーザ光Lを高速偏向するものである。すなわち、高速偏向手段68は、レーザ発振器14から出力されたレーザ光Lを所定の角度範囲内で偏向して、レーザ光Lの偏向角度及び出射方向を高速に切り替えるものである。高速偏向手段68としては、例えば、AOD(音響光学偏向素子)が好ましく用いられる。AODは、印加する高周波信号(RF信号)の周波数を変えることによりレーザ光Lを高速偏向するものである。なお、高速偏向手段68の偏向条件(偏向角度、偏向方向、及び偏向タイミング)は、制御部30(高速偏向制御手段の一例)により制御される。
高速偏向手段68の切替速度(周波数)は数MHz程度まで出せるものが望ましい。また、高速偏向手段68としては、回折光学素子など、レーザ光Lを分岐させる手段と併用してもよい。
加工形状測定手段72は、加工ヘッド40に隣接した位置に配置される。加工形状測定手段72は、加工ヘッド40によりワークWの表面に形成された加工形状を3次元的に測定する手段である。加工形状測定手段72としては、ワークWの表面に接触しないで測定を行う非接触型のものが好ましく、例えば、レーザ顕微鏡や白色干渉顕微鏡などを好ましく採用することができる。加工形状測定手段72により測定された加工形状の3次元データ(加工形状データ)は制御部30に出力される。
制御部30は、CPU、メモリ、入出力回路部、及び各種制御回路部等からなり、レーザ加工装置10の各部の動作を制御する。すなわち、制御部30は、レーザ発振器14、ワークテーブル移動部18、液体供給手段20、ヘッドユニット22、高速偏向手段68、及び加工形状測定手段72などの動作を制御する。
なお、詳細については後述するが、制御部30は、高速偏向手段68の偏向条件を制御する高速偏向制御手段として機能する。また、制御部30は、レーザ光分布観察装置26が観察したレーザ光分布に基づいて、加工ヘッド40によりワークWに加工した場合の予想加工形状を算出する予想加工形状算出手段として機能する。また、制御部30は、加工形状測定手段72が測定したワークWの加工形状とワークWの目標加工形状との比較に基づいて、ワークWの表面における液体ジェットJ内のレーザ光分布を調整するレーザ光分布調整手段として機能する。
ここで、本実施形態のレーザ加工装置10で行われるレーザ加工の動作原理について説明する。以下では、まず、液体ジェットJ内のレーザ光分布について説明し、次いで、高速偏向手段68によって液体ジェットJ内のレーザ光分布を複数の分布に切り替えながらレーザ加工を行った場合の作用効果について説明する。
図2は、液体ジェットJの中心軸と同軸にレーザ光Lが入射する場合の液体ジェットJ内のレーザ光経路を示した簡略図である。なお、液体ジェットJは、いわばSI型マルチモード光ファイバと同様の機能を有するため、実際には液体ジェットJへの進入角度ごとに液体ジェットJの中心軸方向(長手方向)の移動速度が変わり、それらが干渉し、さらに液体ジェットJの円柱状の外周面(円柱表面)の微小凹凸により発生するスペックルノイズにより複雑化していると考えられるが、ここでは説明を簡単にするために簡略図を用いて説明する。
図2に示すように、集光レンズ42により集光されたレーザ光Lが液体ジェットJの中心軸と同軸に入射する場合、レーザ光Lは液体ジェットJの中で全反射により拡縮を繰り返しながら中心軸方向に沿って誘導される。例えば、図2のaで示した位置ではレーザ光経路の腹部分(レーザ光Lが拡大した部分)にあたるため、その位置におけるレーザ光Lの断面形状(液体ジェットJの中心軸に垂直な断面形状)は液体ジェット径全体に一様に広がっている。一方、図2のbで示した位置ではレーザ光経路の節部分(レーザ光Lが縮小した部分)にあたるため、液体ジェットJの中心の狭い範囲のみにレーザ光Lが集まった状態となる。
図3は図2のaに示した位置、図4は図2のbに示した位置にそれぞれ相当する位置でレーザ光Lの分布を実際に観察した結果を示した図である。また、図5は図3と同じ条件で、図6は図4と同じ条件でそれぞれワークWに直線状の加工溝を形成したときの加工溝の深さプロファイルを示した図である。
これらの図から分かるように、液体ジェットJ内のレーザ光分布は、液体ジェットJの中心軸方向の位置、すなわち、液体ジェットJの長さによって変化し、さらに液体ジェットJ内のレーザ光分布の変化に応じて加工形状も変化する。
したがって、ワークWの表面(レーザ光照射面)における液体ジェットJ内のレーザ光分布を変化させる制御を行うことによって、液体ジェットJ内のレーザ光分布の変化に応じた加工形状を得ることができる。
次に、高速偏向手段68によって液体ジェットJ内のレーザ光分布を複数の分布に切り替えながらレーザ加工を行った場合の作用効果について説明する。
図7は、液体ジェットJ内のレーザ光分布を一定にした状態でレーザ加工を行った場合を模式的に示した説明図である。また、図8〜図10は、液体ジェットJ内のレーザ光分布を複数の分布に切り替えながらレーザ加工を行った場合を模式的に示した説明図である。なお、これらの図の左側には、液体ジェットJをワークWに対して加工送り方向(切断予定ラインに沿った方向)Mに相対的に移動させてワークWに直線状の加工溝Kを形成したときに、液体ジェットJにより誘導されたレーザ光Lのピーク位置Q(ワークWの表面においてレーザ光Lの光強度が最も高くなる位置)の軌跡を示している。また、これらの図の右側には、ワークWに形成された加工溝Kの深さプロファイルを示している。
なお、各図では、説明を簡単にするため、液体ジェットJ内におけるレーザ光Lのピーク位置Qはいずれも強度が一様であるものとしている。また、液体ジェットJ内におけるレーザ光Lのピーク位置Q同士を十分離して描写しているが、加工送り方向Mに対して一様な加工溝を形成したい場合には、空間的に90%以上重なる条件でレーザ加工が行われることが好ましい。
図7に示すように、液体ジェットJ内のレーザ光分布を一定にした状態でレーザ加工を行った場合には、液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qは加工送り方向Mに沿って一列に配列された状態となる。そのため、加工溝Kは、液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qに対応する位置の加工深さが他の位置の加工深さに比べて深くなる。このような場合、加工溝Kの加工深さをその幅方向の全体にわたって均一なものとするためには、1つの加工パスにおいて複数回の加工を重ねる必要があり、全体のスループットを低下させる要因となる。
これに対し、図8に示すように、高速偏向手段68によって液体ジェットJ内のレーザ分布を複数の分布に切り替えながらレーザ加工を行った場合には、液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qを加工送り方向Mに直交する方向(加工溝の幅方向)に変化させることが可能となる。
図8に示した例では、液体ジェットJをワークWに対して加工送り方向Mに相対的に移動させながらレーザ加工が行われる際、液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qを加工送り方向Mに直交する方向の互いに異なる位置に所定の間隔(ピッチ)Pで順次変化させながらレーザ加工を行っている。この場合、加工溝Kの加工深さをその幅方向の全体的にわたって均一にすることができる。したがって、図7に示した例と比較して、1つの加工パスにおいて繰り返し加工を行うことなく、所望の加工形状を得ることができ、全体のスループットを向上させることが可能となる。
なお、図8に示した例では、液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qが加工送り方向Mに直交する方向(加工溝Kの幅方向)の一方側(図8の上側)から他方側(図8の下側)に向かって一定の間隔Pで順次変化し、液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qが加工送り方向Mに直交する方向の他方側の端部(図8の下端部)に到達した場合には、液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qは加工送り方向Mに直交する方向の一方側の端部に切り替えられ、その後は同様の順序で液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qが順次変化する。
これに対し、図9に示した例では、液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qが加工送り方向Mに直交する方向の一方側(図9の上側)から他方側(図9の下側)に向かって一定の間隔Pで順次変化し、液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qが加工送り方向Mに直交する方向の他方側の端部に到達した場合には、液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qは加工送り方向Mに直交する方向の他方側から一方側に向かって一定の間隔Pで順次変化し、その後は同様の順序で液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qが順次変化する。図9に示した例によれば、加工送り方向Mに直交する方向に隣接するレーザ光Lのピーク位置Q同士の間隔Pが常に一定となるので、図8に示した例に比べて、レーザ光Lのピーク位置Qの切替痕が現われにくくなり、レーザ加工における加工品質を更に向上させることが可能となる。
図10に示した例は、図8に示した例に比べて、加工送り方向Mに直交する方向の両端部におけるレーザ光Lのピーク位置Qの回数を多く配分した場合である。この場合、加工溝Kの幅方向の両端部における加工深さを中央部と比べて深く加工することができる。また、図示は省略するが、加工送り方向Mに直交する方向の中央部におけるレーザ光Lのピーク位置Qの回数を多く配分した場合には、加工溝Kの幅方向の中央部における加工深さを両端部と比べて深く加工することができる。
このように本実施形態のレーザ加工装置10では、高速偏向手段68によってレーザ光Lを高速偏向することにより、ワークWの表面における液体ジェットJ内のレーザ光分布を複数の分布に切り替えながらレーザ加工を行うことができる。これにより、液体ジェットJ内のレーザ光分布を能動的に制御することができ、1つの加工パスにおいて繰り返し加工を行うことなく、任意の加工形状(目標加工形状)を得ることができる。
なお、このとき、高速偏向制御手段として機能する制御部30は、液体ジェットJ内のレーザ分布におけるレーザ光Lのピーク位置Qが加工送り方向に直交する方向に走査されるように、高速偏向手段68の偏向条件(偏向角度、偏向方向、及び偏向タイミング)を変化させる制御を行う。
図11〜図13は、高速偏向手段68によって液体ジェットJ内のレーザ光分布を2つの分布に切り替えながらレーザ加工を行ったときの加工結果を説明するための図である。なお、ここでは、シングルモードのレーザ光Lを用いたときの結果を示している。
図11は、高速偏向手段68による切替対象とした2つのレーザ光分布をレーザ光分布観察装置26によって観察した結果を示した図である。また、図12は、図11に示した2つのレーザ光分布をそれぞれ加工送り方向に直交する方向(図11の左右方向)へ射影した射影データを示したものである。なお、各図における(a)及び(b)はそれぞれ対応したものである。
図13は、図11及び図12に示した2つのレーザ光分布を同じ割合(本例では1:1の使用比率)で交互に切り替えながら直線状の加工溝を形成したときに得られた加工溝の深さプロファイルを示したものである。ここでは、高速偏向手段68によって2つのレーザ光分布を15kHzで切り替えながら、ワークWの加工送り方向(X方向)の移動速度(加工送り速度)を30mm/sで搬送しながらレーザ加工を行ったときの結果を示している。これは、加工距離(加工送り方向のワークWの移動距離)が2μm進む毎に液体ジェットJ内のレーザ光分布を切り替えていることに相当するものであり、図13に示すように、加工溝の加工深さは加工幅の幅方向に全体にわたって平均化された形状となる。
なお、液体ジェットJ内のレーザ光分布の切替速度が遅い場合、加工送り方向に対して、液体ジェットJ内のレーザ光分布の切り替えに伴う液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qが変化するときの切替痕が現われ、加工溝に凹凸のある形状が形成されてしまう。例えば、2つのレーザ光分布を交互に切り替えるとき、加工送り速度を50mm/sとし、2つのレーザ光分布の切替速度を500Hzとする条件でレーザ加工が行われた場合には、1つのレーザ光分布あたりの加工距離は100μmとなるため(すなわち、加工距離が100μm進む毎にレーザ光分布が切り替えられるため)、加工送り方向(加工溝の長手方向)に100μm毎の凹凸が形成される。
これに対して、加工送り速度を50mm/sとし、2つのレーザ光分布の切替速度を50kHzとする条件でレーザ加工が行われた場合には、連続加工距離が1μmとなり、加工溝の凹凸は判別できなくなる。
次に、本実施形態に係るレーザ加工装置10を用いたレーザ加工方法について図14を参照して説明する。図14は、本実施形態に係るレーザ加工装置10を用いたレーザ加工方法の一例を示すフローチャートである。なお、特に断らない限り、各処理は制御部30の制御により実行される。
(ステップS10:目標加工形状設定工程)
まず、レーザ加工装置10に予め登録された複数の加工形状の中から1つの加工形状がユーザにより選択されると、制御部30は、選択された加工形状を目標加工形状として設定する。なお、ユーザによる選択に代えて、レーザ加工装置10が予め定められたデフォルト形状を目標加工形状として自動的に設定してもよい。なお、レーザ加工装置10には、図15に一例を示すように、複数の加工形状(K1〜K3)と、各加工形状にそれぞれ対応する複数のレーザ光分布(PT1〜PT9)と、各レーザ光分布の使用比率と、各レーザ光分布にそれぞれ対応する、高速偏向手段68の偏向パターン(C1〜C9)との対応関係を示す参照テーブル(ルックアップテーブル)がメモリ(不図示)に記憶されている。また、同一の加工形状に対応する複数のレーザ光分布(例えば、レーザ光分布PT1、PT2)は、高速偏向手段68の偏向パターン(偏向角度及び偏向方向)を変化させることによって実現可能なものとする。
(ステップS12:レーザ光分布設定工程)
次に、制御部30は、目標加工形状設定工程(ステップS10)で設定された目標加工形状に対応したレーザ光分布が実現されるように、装置各部の加工条件(例えば、偏向部36のミラー角度など)を設定する。なお、レーザ加工装置10は、各加工形状に対応した装置各部の加工条件を内部値としてメモリ(不図示)に予め記憶しているものとする。
(ステップS14:レーザ光分布取得工程)
次に、レーザ光分布観察装置26によって液体ジェットJ内のレーザ光分布を観察する。この際、レーザ光分布観察装置26がレーザ光分布の観察位置(加工ヘッド40に対向する位置)にない場合には、図示しない観察装置駆動機構により観察位置に移動する。また、レーザ光分布を観察する際、加工ヘッド40からレーザ光分布観察装置26に向かって照射されるレーザ光Lの強度が、レーザ光分布観察装置26の観察可能範囲を超えている場合、ビーム形状整形手段38によりレーザ光Lの強度を低くするように調整する。レーザ光分布観察装置26によって観察された液体ジェットJ内のレーザ光分布を示すレーザ光分布データは、制御部30に対して出力される。なお、レーザ光分布観察装置26による液体ジェットJ内のレーザ光分布の観察は、目標加工形状に対応する全てのレーザ光分布についてそれぞれ行われる。
(ステップS16:予想加工形状算出工程)
次に、制御部30は、予想加工形状算出手段として機能し、レーザ光分布取得工程(ステップS14)で観察したレーザ光分布に基づいて、加工ヘッド40によりワークWに加工を施した場合の予想加工形状を算出する。具体的には、レーザ光分布観察装置26によって観察された各レーザ光分布を示すレーザ光分布データを、それぞれ、加工送り方向に直交する方向へ射影した射影データへと変換する。そして、各レーザ光分布の射影データのそれぞれに対し、各レーザ光分布の使用比率(図15参照)を掛けたデータを足し合わせることで、予想加工形状を算出する。なお、制御部30により算出された予想加工形状はモニタ64に表示される。これにより、ユーザは、加工後の予想加工形状を容易に把握することができる。
ここで、予想加工形状の算出方法について、図16〜図23を参照して説明する。
図16及び図17は、予想加工形状の算出方法の第1例を示した図である。
図16の(a)及び(b)に示した2つのレーザ光分布100A、100Bは、加工送り方向に直交する方向へ射影した射影データをグラフとして示したものであり、横軸はレーザ光Lの分布横幅(加工送り方向に直交する方向)であり、縦軸はレーザ光Lの分布強度(レーザ光強度)である。
図16の(a)に示したレーザ光分布100Aは分布横幅の一方側(図の左側)にレーザ光Lのピーク位置が偏っているのに対し、図16の(b)に示したレーザ光分布100Bは分布横幅の他方側(図の右側)にレーザ光Lのピーク位置が偏っている。また、2つのレーザ光分布100A、100Bのピーク強度は同じとなっている。
このようなレーザ光分布100A、100Bを用いて、1つの加工パス内において1:1の使用比率でレーザ光分布100A、100Bを切り替えながらレーザ加工を行った場合の予想加工形状200Aの算出結果を図17に示す。図17に示した予想加工形状200Aは、図16の(a)及び(b)に示した2つのレーザ光分布100A、100Bのそれぞれに対し、1:1の使用比率を掛けたデータを足し合わせることで得ることができる。
図18〜図20は、予想加工形状の算出方法の第2例を示した図である。
図18の(a)及び(b)に示した2つのレーザ光分布100C、100Dは、図16の(a)及び(b)に示した2つのレーザ光分布100A、100Bと同様な偏り形状となっているが、ピーク強度の比が1:2となっている点が異なっている。
このようなレーザ光分布100C、100Dを用いて、1つの加工パス内において1:1の使用比率でレーザ光分布100C、100Dを切り替えながらレーザ加工を行った場合の予想加工形状200Bの算出結果を図19に示す。この場合、2つのレーザ光分布100C、100Dのピーク強度が異なっているため、使用比率を1:1とした場合には、図19に示すように、予想加工形状200Bは、加工溝の底面が幅方向(図の左右方向)に均一とはならない。
また、1つの加工パス内において2:1の使用比率でレーザ光分布100C、100Dを切り替えながらレーザ加工を行った場合の予想加工形状200Cの算出結果を図20に示す。2つのレーザ光分布100C、100Dのピーク強度が異なる場合、ピーク強度が低い方のレーザ光分布100Cの使用比率を増やすことにより、図20に示した予想加工形状200Cは、図19に示した予想加工形状200Bに比べて、加工溝の底面を幅方向にわたって均一なものとすることができる。
図21〜図23は、予想加工形状の算出方法の第3例を示した図である。
図21の(a)〜(c)に示した3つのレーザ光分布100E、100F、100Gは、分布横幅の一方側(図の左側)、中央、他方側(図の右側)にそれぞれレーザ光Lのピーク位置が偏っている。また、3つのレーザ光分布100E、100F、100Gのピーク強度は同じとなっている。
このようなレーザ光分布100E、100F、100Gを用いて、1つの加工パス内において1:1:1の使用比率でレーザ光分布100E、100F、100Gを切り替えながらレーザ加工を行った場合の予想加工形状200Dの算出結果を図22に示す。図22に示した予想加工形状200Dは、上述したように、3つのレーザ光分布100E、100F、100Gのそれぞれに対し、1:1:1の使用比率を掛けたデータを足し合わせることで得ることができる。
また、1つの加工パス内においてレーザ光分布100E、100F、100Gの使用比率を2:1:2として、レーザ光分布100E、100F、100Gを切り替えながらレーザ加工を行った場合の予想加工形状200Eの算出結果を図23に示す。3つのレーザ光分布100E、100F、100Gのピーク強度が異なる場合、積算割合が高くなる中央のレーザ光分布100Fの使用比率を少なくすることで、図23に示した予想加工形状200Eは、図22に示した予想加工形状200Dに比べて、加工溝の底面を幅方向にわたって均一なものとすることができる。
このように、複数のレーザ光分布のピーク強度が異なる場合でも、それらの使用比率を調整することにより、任意の加工形状を得ることができる。
また、1つの加工パス内において3つ以上のレーザ光分布を切り替えながらレーザ加工を行うとき、それぞれを任意の比率で振り分けることで、より細かい加工形状の調整が可能となる。
なお、ここでは説明を簡単にするため、各レーザ光分布の足し合わせがそのまま加工形状に反映されるものとして説明したが、一般的に加工レート(R)は照射フルーエンス(F)に対して比例ではなく、次式で表されることが知られている。
R=C1×ln(F/C2)
なお、lnは自然対数を示し、C1及びC2は定数を示している。
図24は、照射フルーエンスと加工レートとの対応関係の一例を示した両対数グラフであり、横軸は照射フルーエンスの対数を表し、縦軸は加工レートの対数を表している。ここで、特に注意すべき点としては、図24から分かるように、ワーク材質にはそれぞれ照射フルーエンスに閾値が存在する点である。レーザ光分布(光強度分布)の一部がその閾値以下の照射フルーエンスである場合、その部分は加工への寄与が無くなり、単純な足し合わせによる予想加工形状の算出結果とは差異が発生することに注意が必要である。
(ステップS18:判定工程)
次に、制御部30は、予想加工形状算出工程(ステップS16)で算出した予想加工形状と目標加工形状とを比較して誤差を算出し、その誤差が予め設定した許容誤差範囲内であると判定された場合には次のステップS20に進む。一方、誤差が許容誤差範囲内でないと判定された場合にはステップS26に進む。
(ステップS20:テスト加工工程)
次に、テスト加工用ワークを用いて、判定工程(ステップS18)において両者の形状の差異を示す誤差が許容誤差囲内であると判定されたときの加工条件にてテスト加工用ワークに対してテスト加工を行う。
(ステップS22:加工形状測定工程)
次に、加工形状測定手段72によって、テスト加工用ワークに形成された加工溝の加工形状を測定する。この際、加工形状測定手段72の測定位置(加工形状測定手段72に対向する位置)にテスト加工用ワークがない場合には、テスト加工用ワークを保持するワークテーブル16を測定位置に移動する。加工形状測定手段72によって測定された加工形状を示す加工形状データ(3次元形状データ)は、制御部30に対して出力される。
(ステップS24:加工形状比較工程)
次に、制御部30は、加工形状測定工程(ステップS22)で得られた加工形状データと目標加工形状データとを比較して誤差を算出し、その誤差が予め設定した許容誤差範囲内であると判定された場合にはステップS28に進む。一方、誤差が許容誤差範囲内でないと判定された場合にはステップS26に進む。
(ステップS26:レーザ光分布調整工程)
判定工程(ステップS18)において、予想加工形状算出工程(ステップS16)で算出された予想加工形状と目標加工形状との差異を示す誤差が許容誤差範囲内でないと判定された場合、又は、加工形状比較工程(ステップS24)において、加工形状測定工程(ステップS22)で得られた加工形状データと目標加工形状データとの差異を示す誤差が許容誤差範囲内でないと判定された場合には、制御部30は、レーザ光分布調整手段として機能し、その誤差が小さくなるように、液体ジェットJ内のレーザ光分布を調整する。その後、ステップS12に戻り、調整後のレーザ光分布が実現されるように、装置各部の加工条件を設定(変更)して、同様の処理を繰り返し行う。なお、レーザ光分布調整工程では、目標加工形状に対応するレーザ光分布が複数存在する場合には、各レーザ光分布の使用比率を変更することも含むものとする。
(ステップS28:本加工工程)
加工形状比較工程(ステップS24)において、加工形状測定工程(ステップS22)で得られた加工形状データと目標加工形状データとの差異を示す誤差が許容誤差範囲内であると判断された場合には、制御部30は、それまでに調整された加工条件で本加工工程を実施する。なお、本加工工程が行われる場合には、レーザ光分布観察装置26は退避位置に移動する。
本加工工程では、制御部30は、ワークテーブル16の保持面16aに吸着保持されたワークWと加工ヘッド40とを加工送り方向(X方向)に相対的に移動させながら(移動工程の一例)、加工ヘッド40の液体ジェット噴射ノズル48からワークWに向かって液体ジェットJが噴射されるとともに、液体ジェットJにより誘導されたレーザ光LがワークWに照射される(レーザ光照射工程の一例)。これにより、膜剥がれやバリ等が発生することなく、ワークWには所定深さの加工溝が分割予定ラインに沿って形成される。
また、このとき、制御部30は、高速偏向手段68によってレーザ光Lを高速偏向することにより、液体ジェットJ内のレーザ光分布を複数の分布に切り替えながらレーザ加工を行う(高速偏向工程及び高速偏向制御工程の一例)。これにより、1つの加工パスにおいて繰り返し加工を行うことなく、目標加工形状を得ることができる。
1ラインの加工溝の形成が終了すると、ヘッドユニット22が取り付けられたYテーブルがY方向にインデックス送りされ、次のラインも同様に加工溝が形成される。
全てのX方向と平行な切断予定ラインに沿って加工溝が形成されると、θ回転テーブル34が90°回転され、先程のラインと直交するラインも同様にして全て加工溝が形成される。
以上のとおり、本実施形態によれば、高速偏向手段68によってレーザ光Lを高速偏向することにより、ワークWの表面における液体ジェットJ内のレーザ光分布を複数の分布に切り替えながらレーザ加工を行うことができる。これにより、液体ジェットJ内のレーザ光分布を能動的に制御することができ、1つの加工パスにおいて繰り返し加工を行うことなく、目標加工形状を得ることが可能となる。
また、本実施形態では、加工形状測定手段72によって測定された加工形状(加工ヘッド40から照射されたレーザ光によって実際に加工された加工形状)が目標加工形状に近づくように、ワークWの表面における液体ジェットJ内のレーザ光分布を自動的に調整するフィードバック制御が行われる。したがって、目標加工形状を得るために、レーザ光分布の調整や加工形状の評価を手動で数サイクル繰り返す必要がないので、目標加工形状を得るまでの判断や手間、時間を減らし、レーザ加工に要する時間短縮により作業工数の削減及び生産効率の向上を図ることが可能となるとともに、目標加工形状を精度良く得ることが可能となる。
また、本実施形態では、レーザ光分布観察装置26によって観察したレーザ光分布に基づいて、加工ヘッド40によりワークWに加工を施した場合の予想加工形状を算出することができるので、加工後の予想加工形状を容易に把握することができる。また、予想加工形状が目標加工形状に近づくように、ワークWの表面における液体ジェットJ内のレーザ光分布を調整するフィードバック制御が行われるので、目標加工形状を短時間で効率良く得ることが可能となる。
なお、本実施形態において、レーザ光Lとしてパルスレーザを使用する場合には、高速偏向手段68の切替速度(周波数)に対してパルスレーザの繰り返し周波数が十分に速いことが好ましい。
また、本実施形態では、高速偏向手段68がレーザ光Lを高速偏向する角度範囲が、液体ジェットJ内に入射可能な角度範囲(液体ジェット入射角度範囲)内に設定されているが、これに限らず、液体ジェット入射角度範囲よりも広く設定されていてもよい。この場合、高速偏向手段68によってレーザ光Lを高速偏向する際、液体ジェットJ内にレーザ光Lを入射させるパターン(レーザ光分布)だけでなく、液体ジェットJ内にレーザ光Lを入射させないパターン(レーザ光分布)も含めることが可能となる。これにより、ワークWに照射されるレーザ光Lの実質的な強度を下げることが可能となるので、より広範囲かつ精細に加工形状を制御することができるとともに、加工形状はそのままに、構造物の有無に応じて加工レート自体を制御することが可能となる。
また、本実施形態では、1つの加工パスにおいて液体ジェットJ内のレーザ光分布を複数の分布に切り替えながらレーザ加工を行う場合について説明したが、1つの加工パスにおいてレーザ光分布を切り替えずに、レーザ光分布を一定にした状態でレーザ加工を行う場合を含んでいてもよい。
図25は、1つの加工パスにおいて液体ジェットJ内のレーザ光分布を一定にした状態でレーザ加工を行う場合(すなわち、1種類のレーザ光分布を使用する場合)についてのレーザ加工方法を説明するための概念図である。以下、図25を参照しながら説明する。
まず、図25の(a)に示すように、レーザ加工装置10に予め設定された複数の加工形状(加工溝)の中から1つの加工形状がユーザにより選択されると、制御部30は、選択された加工形状を目標加工形状として設定する。ここでは、図中破線で囲んだ部分である矩形状の加工溝を示す加工形状が目標加工形状として選択され設定されるものとする。
次に、図25の(b)及び(c)に示すように、制御部30は、目標加工形状に対応したレーザ光分布(目標レーザ光分布)が実現されるように、装置各部の加工条件を設定する。なお、図25の(b)は、目標レーザ光分布を加工送り方向に直交する方向へ射影した射影データを示したものである。また、図25の(c)は、目標レーザ光分布の平面図であり、横軸は加工送り方向に直交する方向の位置を表し、縦軸は加工送り方向の位置を表している。また、図25の(b)において、図中の濃度が高い部分(暗い部分)はレーザ光強度が高い部分に相当し、図中の濃度が低い部分(明るい部分)はレーザ光強度が低い部分に相当する。後述する図25の(g)においても同様である。
次に、レーザ光分布観察装置26によって液体ジェットJ内のレーザ光分布を観察する。図25の(d)は、レーザ光分布観察装置26によって観察されたレーザ光分布の射影データ(実測値)を示したものである。なお、図中破線は、図25の(b)に示した目標レーザ光分布の射影データ(目標値)である。
次に、制御部30は、レーザ光分布観察装置26によって観察されたレーザ光分布と目標レーザ光分布とを比較して誤差を算出し、その誤差が予め設定した許容誤差範囲内であるか否かを判定する。誤差が許容誤差範囲内でないと判定された場合には、その誤差が小さくなるように(すなわち、レーザ光分布観察装置26によって観察されたレーザ光分布が目標レーザ光分布に近づくように)、制御部30は、レーザ光分布を調整した後、誤差が許容範囲内と判定されるまで同様の処理を繰り返し行う。
一方、図25の(d)に示すように、レーザ光分布観察装置26によって観察されたレーザ光分布が目標レーザ光分布に近似しており、両者の比較による誤差が許容誤差範囲内であると判定された場合、その判定が行われたときの加工条件にてテスト加工用ワークに対してテスト加工を行う。
次に、加工形状測定手段72によって、テスト加工用ワークに形成された加工形状(加工溝)を測定する。図25の(e)は、加工形状測定手段72により測定された加工形状の測定結果の一例を示している。なお、図中実線は、加工形状測定手段72により測定された加工形状(実測値)を示し、図中破線は、目標加工形状(測定値)を示したものである。
次に、制御部30は、加工形状測定手段72により測定された加工形状と目標加工形状とを比較して誤差を算出し、その誤差が予め設定した許容誤差範囲内であるか否かを判定する。誤差が許容誤差範囲内であると判定された場合には、その判定が行われたときの加工条件で本加工工程を実施する。
一方、図25の(e)に示すように、加工形状測定手段72により測定された加工形状と目標加工形状との誤差が近似しておらず、両者の比較による誤差が許容誤差範囲内でないと判定された場合には、制御部30は、加工形状測定手段72により測定された加工形状と目標加工形状とを比較した結果に基づいて、両者の比較による誤差が大きい位置ほど誤差が小さい位置に比べてレーザ光強度が相対的に大きくなるように、目標レーザ光分布を調整する。調整後の目標レーザ光分布の一例を図25の(f)及び(g)に示す。図25の(e)に示した場合では、図中左側の位置に比べて図中右側の位置における誤差が相対的に大きいので、図25の(f)及び(g)に示すように、図中右側の位置におけるレーザ光強度の方が相対的に大きくなるように目標レーザ光分布を調整している。
このようにして制御部30は、目標レーザ光分布を調整した後、加工形状測定手段72により測定された加工形状と目標加工形状との誤差が許容範囲内と判定されるまで同様の処理を繰り返し行う。
すなわち、図25の(h)に示すように、レーザ光分布観察装置26によって観察されたレーザ光分布(実測値)が修正後の目標レーザ光分布(目標値)に近づくまで調整が行われた後、さらにテスト加工が行われ、図25の(i)に示すように、加工形状測定手段72により測定された加工形状(実測値)が目標加工形状(測定値)に近づくまで調整が行われる。そして、加工形状測定手段72により測定された加工形状と目標加工形状との誤差が許容誤差範囲内であると判定された場合には、その判定が行われたときの加工条件で本加工工程を実施する。
以上のとおり、1つの加工パスにおいて液体ジェットJ内のレーザ光分布を一定にした状態でレーザ加工を行う場合においても、加工形状測定手段72によって測定された加工形状が目標加工形状に近づくように、ワークWの表面における液体ジェットJ内のレーザ光分布を自動的に調整するフィードバック制御が行われる。したがって、目標加工形状を得るために、レーザ光分布の調整や加工形状の評価を手動で数サイクル繰り返す必要がないので、目標加工形状を得るまでの判断や手間、時間を減らし、レーザ加工に要する時間短縮により作業工数の削減及び生産効率の向上を図ることが可能となるとともに、目標加工形状を精度良く得ることが可能となる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。以下、第1の実施形態と共通する部分については説明を省略し、本実施形態の特徴的部分を中心に説明する。
図26は、第2の実施形態に係るレーザ加工装置10Aの構成を示す概略図である。図26中、図1と共通又は類似する構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図26に示すように、第2の実施形態に係るレーザ加工装置10Aは、レーザ発振器14と高速偏向手段68との間に反射ミラー37及び空間光位相変調器70を備えている点が、第1の実施形態と異なっている。
反射ミラー37は、レーザ発振器14から出力されたレーザ光Lを空間光位相変調器70に向けて反射する。
空間光位相変調器70は、レーザ発振器14から反射ミラー37を介して入射したレーザ光Lの位相を調整(変調)する手段であり、その動作は制御部30によって制御される。空間光位相変調器70としては、例えば、LCOS−SLM(Liquid Crystal on Silicon - Spatial Light Modulator)などを好ましく採用することができる。空間光位相変調器70によって位相が調整されたレーザ光Lは、高速偏向手段68に入射する。なお、空間光位相変調器70の構成及び動作については公知であるため、ここでは具体的な説明を省略する。
図27は、空間光位相変調器70による位相調整の効果を説明するための図である。図27は、集光レンズ42によって集光されるレーザ光Lが液体ジェットJに入射する様子を示しており、(a)は空間光位相変調器70を設けない場合(位相調整なし)、(b)は空間光位相変調器70を設けた場合(位相調整あり)を示したものである。
図27の(a)に示すように、集光レンズ42により液体ジェットJに入射するようにレーザ光Lを集光する際、レーザ光Lに収差が発生する場合がある。これに対し、本実施形態では、図27の(b)に示すように、空間光位相変調器70によってレーザ光Lの位相を調整することにより、液体ジェットJへの入射時のレーザ光Lの収差を補正することが可能となる。これにより、加工位置(ワークWの表面)における液体ジェットJ内のレーザ光分布を精度よく調整することができる。
このように第2の実施形態に係るレーザ加工装置10Aによれば、空間光位相変調器70によってレーザ光Lの位相を調整することにより、液体ジェットJ内のレーザ光分布を調整し、加工形状をより詳細に調整することができる。
また、空間光位相変調器70によってレーザ光Lの位相を調整することによって、レーザ光Lを複数のレーザ光に分岐させることも可能である。これにより、レーザ光Lを複数のレーザ光に分岐させたパターン(レーザ光分布)も含めて切り替えることが可能となり、任意の加工形状を詳細かつ効率的に形成することが可能となる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。以下、上述した各実施形態と共通する部分については説明を省略し、本実施形態の特徴的部分を中心に説明する。
図28は、第3の実施形態に係るレーザ加工装置10Bの構成を示す概略図である。図28中、図1と共通又は類似する構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
図28に示すように、第3の実施形態に係るレーザ加工装置10Bは、加工ヘッド40に隣接した位置にワーク表面状態測定手段74を備えている点が、第1の実施形態と異なっている。
ワーク表面状態測定手段74は、ワークWの表面の状態を測定する手段である。ワーク表面状態測定手段74としては、ワークWの表面に接触しないで測定を行う非接触型のものが好ましく、例えば、分光干渉レーザ変位計やナイフエッジ法を用いたセンサ、カメラなどを採用することができる。なお、ワーク表面状態測定手段74としては、ワークWの表面の状態(例えば、ワークWの表面の高さや反射強度など)を測定することができるものであればよい。また、ワーク表面状態測定手段74は、ワークWの表面に接触しないで測定を行う非接触型のものに限らず、ワークWの表面に接触してワークWの表面の状態を測定するものであってもよい。
かかる構成によれば、ワーク表面状態測定手段74によってワークWの表面の状態を測定することにより、ワークWの表面における切断予定ライン上の構造物(例えば、メタルパッド)の位置を検知することができる。このようにして検知された切断予定ライン上の構造物の位置はメモリ部(不図示)に記憶される。これにより、レーザ加工が行われる際、切断予定ライン上の構造物の有無に応じて加工条件を変化させることが可能となる。すなわち、構造物がある部分では構造物がない部分に比べてレーザ光Lの強度が高くなるように、液体ジェットJ内のレーザ光分布を複数の分布に切り替えながらレーザ加工を行うことによって、切断予定ライン上に構造物が存在する場合(すなわち、同一の切断予定ラインで加工レートが一様でない場合)でも、加工深さを一様(幅方向にわたって均一な深さ)にすることが可能となる。すなわち、ワーク表面状態測定手段74により測定した構造物の位置に応じて、ワークWに照射される実質的なレーザ光Lの強度を変化させることで、加工溝などの加工形状全体の加工レートを均一に保つことが可能となる。
図29及び図30は、第3の実施形態の効果を説明するための図であり、ワークWに切断予定ラインに沿って加工溝Kを形成する際、切断予定ライン上の構造物の有無によって互いに異なる材質(硬度)が存在する場合における照射光量(レーザ光強度)、加工レート、及び加工深さの関係の一例を示したものである。なお、ここでは、ワーク材質G1はワーク材質G2よりも硬度が高いものとする。また、図8に示したように、液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qを加工送り方向Mに直交する方向に順次変化させながらレーザ加工を行った場合を示している。なお、ここでの硬度とは、使用する加工条件(レーザ光Lの波長など)に対する加工されにくさをいう。
図29は、切断予定ライン上の構造物の有無にかかわらず加工条件を一定とした場合を示している。図29の(a)及び(b)に示すように、ワークWの表面に照射されるレーザ光Lの照射光量を加工送り方向Mに沿って一定とした場合、図29の(c)に示すように、ワーク材質G1とワーク材質G2との違いによって加工レートが変化する。そのため、図29の(d)に示すように、加工溝Kにおける加工深さは、ワーク材質G1とワーク材質G2とで互いに異なる深さとなり、全体で不均一な加工深さとなる。
図30は、切断予定ライン上の構造物の有無に応じて加工条件を変化させた場合を示している。図30の(a)及び(b)に示すように、液体ジェットJ内のレーザ光Lのピーク位置Qの加工送り方向の間隔をワーク材質G1に比べてワーク材質G2の方を大きくした場合、ワークWの表面に照射されるレーザ光Lの照射光量はワーク材質G1よりもワーク材質G2の方が小さくなる。この場合、図30の(c)に示すように、加工レートはワーク材質G1よりもワーク材質G2の方が大きくなる。そのため、図30の(d)に示すように、加工溝Kにおける加工深さは、ワーク材質G1とワーク材質G2とで同じ深さとなり、全体で均一な加工深さとなる。なお、ワークWの表面に照射されるレーザ光Lの照射光量は、ワーク表面状態測定手段74によって測定されたワークWの表面の状態に応じて調整されることが好ましい。
このように第3の実施形態に係るレーザ加工装置10Bによれば、ワーク表面状態測定手段74により測定した構造物の位置に応じて、ワークWに照射される実質的なレーザ光Lの強度を変化させることで、所望の加工形状を得ることが可能となる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。