以下に、実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
(第1及び第2の実施形態)
第1の実施形態によると、チタン含有酸化物を含む活物質を含んだ活物質含有層と、前記活物質含有層の表面を被覆し且つF、Si、金属イオン及び有機系原子を含んだ被膜とを具備し、前記被膜が、式(1):0.05≦F1/F2<0.18を満たし、F1及びF2は、前記被膜についてのX線光電子分光測定によるX線光電子分光スペクトルから得られ、F1は、前記X線光電子分光スペクトルにおける、前記被膜に含まれたFに帰属されるピーク成分の積分強度に対する、前記有機系原子に結合したFに帰属されるピーク成分の積分強度の割合(%)であり、F2は、前記X線光電子分光スペクトルにおける、前記被膜に含まれたFに帰属される前記ピーク成分の前記積分強度に対する、前記金属イオンに結合したFに帰属されるピーク成分の積分強度の割合(%)である。
また、第2の実施形態によると、非水電解質電池が提供される。この非水電解質電池は、正極と、負極と、非水電解質とを具備する。負極は、チタン含有酸化物を含む負極活物質を含んだ負極活物質含有層と、負極活物質含有層の表面を被覆した被膜とを具備する。被膜は、F、Si、金属イオン及び有機系原子を含む。被膜は、式(1):0.05≦F1/F2<0.18を満たす。F1及びF2は、被膜についてのX線光電子分光測定によるX線光電子分光スペクトルから得られる。F1は、被膜についてのX線光電子分光スペクトルにおける、被膜に含まれたFに帰属されるピーク成分の積分強度に対する、有機系原子に結合したFに帰属されるピーク成分の積分強度の割合(%)である。F2は、被膜についてのX線光電子分光スペクトルにおける、被膜に含まれたFに帰属されるピーク成分の積分強度に対する、金属イオンに結合したFに帰属されるピーク成分の積分強度の割合(%)である。
非水電解質電池を充放電すると、充電の際に正極から放出されるリチウムは、非水電解質との副反応を生じ得る。副反応を生じると、負極に吸蔵されるべきリチウムがこの副反応により消費されてしまうため、負極には適切な量のリチウムが吸蔵されなくなる。こうして、電荷のみが正極から負極へ向けて流れる状態となる。この状態では、充電によって正極の電位が過度に上昇するため、満充電になる前に、電池電圧が所定の電圧に到達し、充電が終了する。要約すれば、負極と非水電解質との界面で副反応が生じると、電池の容量が低下する。
さて、負極活物質として、単斜晶系β型構造を持つチタン系酸化物(TiO2(B))を用いて作製した非水電解質は、充電状態(SOC:state of charge)の電池電圧依存性が比較的高い。それ故、TiO2(B)を用いることは、SOCに基づく電圧管理が容易な電池を実現できるという利点を有する。しかしながら、TiO2(B)を負極に用いた電池に充放電サイクルを施すと、負極の副反応に起因するSOCずれが生じ、容量が徐々に低下するという問題がある。また、電池内で負極の副反応に起因したガスが発生し、電池が膨張するという問題がある。
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意研究した結果、本実施形態に係る非水電解質電池を見出した。以下に詳細に説明するが、本実施形態に係る非水電解質電池は、負極の副反応を防ぐことができ、それにより、容量低下及び電池膨れを防ぐことができる。
本実施形態に係る非水電解質電池が具備する負極は、負極活物質含有層の表面を被覆した被膜を含む。この被膜は、F、Si、金属イオン及び有機系原子を含む。そして、被膜は、式(1):0.05≦F1/F2<0.18を満たす。F1及びF2は、被膜のX線光電子分光(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)測定によるX線光電子分光スペクトル(XPSスペクトル)から得られる。F1は、被膜についてのXPSスペクトルにおける、被膜が含んだFに帰属されるピーク成分の積分強度に対する、有機系原子に結合したFに帰属されるピーク成分の積分強度の割合(%)である。F2は、被膜についてのXPSスペクトルにおける、被膜が含んだFに帰属されるピーク成分の積分強度に対する、金属イオンに結合したFに帰属されるピーク成分の積分強度の割合(%)である。
有機系原子は、例えば、炭素及び/又はリンである。Fは、有機系原子と、例えば共有結合を形成し、フッ素含有有機系化合物を形成することができる。金属イオンは、例えば、負極活物質に含まれる金属元素のイオンである。Fは、金属イオンと、例えばイオン結合し、フッ化物を形成することができる。金属イオンと結合しているFは、フッ化物イオン(F-)として被膜中に存在することができる。金属イオンとしては、例えばリチウムイオン及びアルミニウムイオン等が挙げられる。
したがって、比F1/F2は、有機系原子と結合したFの量の、金属イオンと結合したFの量に対する比に対応している。比F1/F2が0.05以上0.18未満である被膜の金属フッ化物の含有量は、比F1/F2が0.18以上である被膜のそれよりも大きいということができる。
本実施形態に係る負極(電極)が含むこのような被膜は、負極と非水電解質との界面における副反応を抑制することができる。また、このような被膜は、Siと比較的多くの金属フッ化物とを含むことにより、優れた耐久性を示すことができ、それにより充放電サイクルの繰り返しに伴う劣化を小さくすることができる。特に、このような被膜は、比較的高い温度(例えば45℃以上)での優れた耐久性を示すことができる。
これらの結果、本実施形態に係る非水電解質電池は、充放電サイクルにおいて、及び比較的高い温度環境下において、負極の副反応を抑制することができる。それにより、本実施形態に係る非水電解質電池は、副反応に起因する容量低下及び副反応によるガス発生に起因する電池膨れを防ぐことができ、ひいては優れた寿命特性を示すことができる。
Siを含み且つ比F1/F2が0.05以上である被膜は、副反応を抑制するために十分な量のフッ素含有有機系化合物を含んでいるということができる。しかしながら、比F1/F2が0.18以上であると、被膜におけるフッ素含有有機系化合物の含有量が大き過ぎ、負極の被膜抵抗が高くなる。また、比F1/F2が0.18以上である被膜は、過度に厚い可能性がある。被膜抵抗が高い負極を具備した非水電解質電池は、出力性能に劣り、出力、特に大電流での出力を繰り返すと負極の劣化をもたらす。また、出力の際の電流値は抵抗値に反比例するため、被膜抵抗が高い負極を具備した非水電解質電池は、放電容量が小さくなる。電池抵抗を大きくしないために、また、電池の放電容量及び出力特性などを低下させないために、比F1/F2を0.18未満とする。比F1/F2は、より好ましくは、0.08以上0.15以下である。
なお、比F1/F2が0.05以上0.18未満であっても被膜がSiを含んでいない場合、負極の副反応を十分に抑えることができない。この点については、実施例において実証する。
被膜が含むFがどのような結合状態で存在しているかは、例えば、後段で説明するX線光電子分光測定結果を分析することにより判断することが可能である。
Fを含んだ被膜についてのXPS測定により得られるXPSスペクトルは、680eV〜692eVの結合エネルギー範囲に、Fの1s軌道に帰属されるピークF1Sを含む。ピークF1Sは、後述する方法で、684eV〜692eVの結合エネルギー範囲に存在するピーク成分PF1と、680eV〜692eVの結合エネルギー範囲に存在するピーク成分PF2とに分けることができる。ピーク成分PF1は、有機系原子に結合したFに帰属される成分である。一方、ピーク成分PF2は、金属イオンに結合したFに帰属される成分である。
被膜に含まれるFについてのF1は、ピーク成分PF1の面積をピークF1Sの面積に対する百分率で表した数値であり、被膜に含まれるFについてのF2は、ピーク成分PF2の面積をピークF1Sの面積に対する百分率で表した数値である。よって、被膜に含まれるFについての比F1/F2は、ピーク成分PF1の面積をピーク成分PF2の面積で割ることによって得ることができる。
また、負極活物質含有層を被覆した被膜は、Oを更に含むことが望ましい。このOは、例えば、有機系原子に結合したOを含むことができる。このような被膜は、式(2):4.5≦O1A/O1Bを満たすことが好ましい。比O1A/O1Bがこのような数値範囲にあると、容量低下をより抑制できる傾向にある。比O1A/O1Bは、4.8以上の範囲内にあることがより好ましく、5以上であることが更に好ましい。また、比O1A/O1Bは、7以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。
ここで、O1A及びO1Bは、被膜についてのXPSスペクトルから得られる。O1Aは、XPSスペクトルにおける、被膜に含まれ且つ有機系原子に結合したOに帰属されるピーク成分の積分強度に対する、528eV〜538eVの結合エネルギー範囲に現れるOに帰属されるピーク成分の積分強度の割合(%)である。O1Bは、被膜についてのXPSスペクトルにおける、被膜が含んだ有機系原子に結合したOに帰属されるピーク成分の積分強度に対する、532eV〜538eVの結合エネルギー範囲に現れるOに帰属されるピーク成分の積分強度の割合(%)である。各ピーク成分については、後述する。
或いは、被膜に含まれるOは、例えば、有機系原子に結合したOと、金属イオンに結合したOとを含むこともできる。このような被膜は、式(3):8≦O1/O2を満たすことが好ましい。比O1/O2がこのような数値範囲内にあると、容量低下をより抑制できる傾向にある。比O1/O2は、10以上であることがより好ましく、12以上であることが更に好ましい。また、比O1/O2は、16.5以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましい。
ここで、O1は、被膜についてのXPSスペクトルにおける、被膜に含まれるOに帰属されるピーク成分の積分強度に対する、有機系原子に結合したOに帰属されるピーク成分の積分強度の割合(%)である。O2は、被膜についてのXPSスペクトルにおける、被膜に含まれるOに帰属されるピーク成分の積分強度に対する、金属イオンに結合したOに帰属されるピークの積分強度の割合(%)である。被膜についての比O1/O2がこのような数値であると、容量低下をより抑制できる傾向にある。
有機系原子に結合したOと金属イオンに結合したOとを含む被膜についても、先に説明した比O1A/O1Bが式(2):4.5≦O1A/O1Bで表される範囲内にあることが好ましい。
被膜に含まれるOがどのような結合状態で存在しているかの傾向は、Oを含んだ被膜についてのXPS測定結果を分析することにより知ることができる。
Oを含んだ被膜についてのXPSスペクトルは、528eV〜538eVの結合エネルギー範囲に、Oの1s軌道に帰属されるピークO1Sを含む。このピークO1Sも、ピークF1Sと同様に、後述する方法で、528eV〜538eVの結合エネルギー範囲に存在するピーク成分PO1と、528eV〜533eVの結合エネルギー範囲に存在するピーク成分PO2とに分けることができる。ピーク成分P01は、有機系原子に結合したOに帰属される成分である。また、ピーク成分PO2は、金属イオンに結合したOに帰属される成分である。
更に、ピーク成分PO1は、低結合エネルギー側の成分であるピーク成分PO1-Aと、高結合エネルギー側の成分であるピーク成分PO1-Bに分割することができる。ピーク成分PO1をこれら2つの成分に分割する理由は、さまざまな結合形態を持つ有機系原子に結合したOをこれら2つのピーク成分に代表させて、ピーク成分の形状の変化を観察するためである。具体的には、528eV〜538eVの結合エネルギー範囲に存在するピーク成分PO1-Aと、532eV〜538eVの結合エネルギー範囲に存在するピーク成分PO1-Bとに分けることができる。なお、ピーク成分PO1-A及びPO1-BのそれぞれをOの具体的な結合状態に特定することは困難である。
被膜に含まれるOについてのO1Aは、ピーク成分PO1Aの面積をピーク成分PO1の面積に対する百分率で表した数値であり、被膜に含まれるOについてのO1Bは、ピーク成分PO1Bの面積をピーク成分PO1の面積に対する百分率で表した数値である。よって、被膜が含んだOについての比O1A/O1Bは、ピーク成分PO1Aの面積をピーク成分PO1Bの面積で割ることによって得ることができる。
また、被膜に含まれるOについてのO1は、ピーク成分PO1の面積をピークO1Sの面積に対する百分率で表した数値であり、被膜に含まれるOについてのO2は、ピーク成分PO2の面積をピークO1Sの面積に対する百分率で表した数値である。よって、被膜に含まれるOについての比O1/O2は、ピーク成分PO1の面積をピーク成分PO2の面積で割ることによって得ることができる。
上記各ピーク成分PF1、PF2、PO1-A、PO1-B及びPO2は、それぞれ、687eV〜690eVの位置、684eV〜688eVの位置、530eV〜534eVの位置、532.5eV〜535eVの位置、及び529eV〜532eVの位置にメインピーク(ピークトップ)を有しており、それぞれの半値幅は、2.1eV〜2.3eV、2.1eV〜2.3eV、2.3eV〜2.4eV、2.3eV〜2.4eV及び1.4eV〜1.6eVである。
これらピークは、以下の手順で実測のスペクトルのピークから分割することができる。まず、実測のXPSスペクトルに対して、ガウスカーブ:ローレンツカーブ=90:10で近似スペクトルを生成する。次に、この近似スペクトルを実測のXPSスペクトルへのフィッティング処理に供して、フィッティングスペクトルを得る。このフィッティングスペクトルのピークを上記各ピーク成分の重ね合わせとみなし、上記各ピーク成分の強度を割り振る。なお、測定条件によっては、ピーク成分PF1及びPF2のピーク位置及び半値幅は、それぞれ±0.3eV程度変化する場合がある。同様に、測定条件によっては、ピーク成分PO1-A及びPO1-Bのピーク位置及び半値幅は、0.5eV程度変化する場合があり、ピーク成分PO2のピーク位置及び半値幅は0.3eV程度変化する場合がある。
次に、図面を参照しながら、本実施形態に係る一例の非水電解質電池が具備する負極の被膜についてのXPSスペクトルを説明する。
図1は、本実施形態に係る一例の非水電解質電池が具備する負極の表面の1つのXPSスペクトルである。図2は、本実施形態に係る一例の非水電解質電池が具備する負極の表面の他の1つのXPSスペクトルである。
ここで説明する一例の非水電解質電池が具備する負極は、単斜晶型の結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2(B))、グラファイト及びポリフッ化ビニリデンを含む負極活物質含有層を含む。
図1に実線で示すスペクトルは、678eV〜698eVの結合エネルギー範囲で測定した、負極の表面の実測のXPSスペクトルである。図1に示すXPSスペクトルは、680eV〜692eVの結合エネルギー範囲に、Fの1s軌道に帰属されるピークF1Sを含む。
図1に点線で示す曲線は、実測のXPSスペクトルをガウスカーブ:ローレンツカーブ=90:10で近似して得られる近似スペクトルを、再度実測のXPSスペクトルへのフィッティング処理に供して得られたフィッティングスペクトルである。
図1に一点鎖線で示す2つの曲線は、先に説明したピーク成分PF1及びPF2である。これらのピーク成分は、点線で示すフィッティングスペクトルを分割したものである。ピーク成分PF1及びPF2は、ピーク位置(ピークトップの位置)をそれぞれ689.1eV及び687.3eVとみなし、それぞれの半値幅を2.3eVであるとみなしてフィッティングしたものである。
一方、図2に実線で示すスペクトルは、524eV〜544eVの結合エネルギー範囲で測定した、負極の表面の実測のXPSスペクトルである。図2に示すXPSスペクトルは、528eV〜538eVの結合エネルギー範囲に、Oの1s軌道に帰属されるピークO1Sを含む。
図2に点線で示す曲線(実線の実測スペクトルに重なり合っており、一部しか視認できない)は、実測のXPSスペクトルをガウスカーブ:ローレンツカーブ=90:10で近似して得られる近似スペクトルを、再度実測のXPSスペクトルへのフィッティング処理に供して得られたフィッティングスペクトルである。
図2に一点鎖線で示す2つの曲線は、先に説明したピーク成分PO1-A及びPO1-Bである。なお、図示していないが、ピーク成分PO1-A及びPO1-Bの面積の合計が、先に説明したピーク成分PO1である。一方、図2に二点鎖線で示す曲線は、先に説明したピーク成分P02である。ピーク成分PO1-A、PO1-B及びPO2は、点線で示すフィッティングスペクトルを分割したものである。ピーク成分PO1-A、PO1-B及びPO2は、ピーク位置(ピークトップの位置)をそれぞれ533.06eV、534.5eV及び530.5eVとみなし、それぞれの半値幅を1.6eV、2.3eV及び2.3eVであるとみなしてフィッティングしたものである。
図1に示すXPSスペクトルにおいて、比F1/F2は0.1であり、比O1A/O1Bは4.5であり、比O1/O2は10.5である。
負極活物質含有層の表面を被覆する被膜にSiが含まれていることは、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy:TEM)に付属したエネルギー分散型X線分光装置(Energy dispersive X-ray spectrometer:EDX)(TEM−EDX)を用いることにより視覚的に確認することができる。また、負極に含まれているSiの含有量は、負極を誘導結合プラズマ発光分光法(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry:ICP−AES)によって分析することによって知ることができる。ICP−AESによると、負極における比Si/Tiを知ることができる。比Si/Tiは、0.02≦Si/Ti≦0.06を満たすことが好ましく、0.025≦Si/Ti≦0.045を満たすことがより好ましい。比Si/Tiは、負極活物質含有層及び負極に含まれるSiとTiとの原子数の比である。
続いて、本実施形態に係る非水電解質電池を、より詳細に説明する。
本実施形態に係る非水電解質電池は、正極、負極及び非水電解質を具備する。非水電解質電池は、セパレータ、外装部材、正極端子及び負極端子を更に具備していてもよい。
正極及び負極は、間にセパレータを介在させて、電極群を構成することができる。非水電解質は、電極群に保持されることができる。外装部材は、電極群及び非水電解質を収容することができる。正極端子は、正極に電気的に接続することができる。負極端子は、負極に電気的に接続することができる。
以下、正極、負極、非水電解質、セパレータ、外装部材、正極端子及び負極端子について詳細に説明する。
1)正極
正極は、正極集電体と、正極集電体上に担持された正極活物質含有層とを含むことができる。
正極集電体は、例えば、アルミニウム箔、又はMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の平均結晶粒径は、50μm以下であることが好ましい。この平均結晶粒径は、より好ましくは30μm以下であり、更に好ましくは5μm以下である。平均結晶粒径が50μm以下であることにより、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の強度を飛躍的に増大させることができる。この結果、正極を高いプレス圧で高密度化することが可能になり、電池容量を増大させることができる。
平均結晶粒径は次のようにして求められる。集電体表面の組織を光学顕微鏡で組織観察し、1mm×1mm内に存在する結晶粒の数nを求める。このnを用いてS=1x106/n(μm2)から平均結晶粒子面積Sを求める。得られたSの値から下記(A)式により平均結晶粒子径d(μm)を算出する。
d=2(S/π)1/2 (A)
アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の平均結晶粒径は、材料組織、不純物、加工条件、熱処理履歴、ならびに焼鈍条件など複数の因子から複雑な影響を受けて変化する。結晶粒径は、集電体の製造工程の中で、前記諸因子を組合せて調整することが可能である。
アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の厚さは、例えば20μm以下であり、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99質量%以上であることが好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素、などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1%以下であることが好ましい。
正極活物質含有層は、正極集電体の片面又は両面に担持されることができる。正極集電体は、正極活物質含有層を担持していない部分を含むこともできる。正極活物質含有層は、例えば、活物質粒子、導電剤及び結着剤を含むことができる。
正極活物質は、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物を含むことが好ましい。オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物は、例えば、組成式LixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、又はLixCoPO4(式中、0≦x≦1であり、0≦y≦1である)で表される化合物である。正極活物質がオリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物を含んでいる正極は、正極活物質の結晶構造が安定であるため、内部短絡等による電池の爆発及び燃焼を有効に抑制できる効果がある。
なお、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物を含む正極活物質を含んだ正極と、リチウムチタン酸化物(例えば、スピネル型の結晶構造を有するチタン酸リチウム:LTO)を含んだ負極とを含んだ電池では、電池電圧に基づく電池のSOC管理が困難である。なぜなら、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物及びLTOは、いずれも大部分のSOC領域において、2相共存領域、即ち電位がフラットになる領域でリチウムの挿入及び脱離が行われるためである。しかしながら、正極がオリビン構造を有するリン酸化合物を含み且つ負極が単斜晶型の結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2(B))を含んでいる場合、TiO2(B)は2相共存領域を含んでいない。それゆえ、この場合、電池電圧による電池のSOC管理が容易である。
正極活物質は、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物以外の他の正極活物質を含んでいてもよい。正極活物質の全量に占める、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物の割合は、60質量%以上であることが好ましい。
他の正極活物質としては、例えば、リチウムを挿入脱離することが可能な酸化物、複合酸化物及びポリマーが挙げられる。
このような酸化物及び複合酸化物の例としては、二酸化マンガン(MnO2)、酸化鉄、酸化銅及び酸化ニッケル、マンガン酸リチウム並びに、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2-yMyO4又はLixMn1-yMyO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNi1-xMyO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCo1-yMyO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1-y-zCoyMzO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMn1-y-zCoyMzO2)、リチウムマンガンニッケル複合化合物(例えばLixMnaNibMcO2(ここで、a+b+c=1)、例えばLixMn1/3Ni1/3Co1/3O2及びLixMn1/2Ni1/2O2)、スピネル型の結晶構造を有するリチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiyO4)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、及びバナジウム酸化物(例えばV2O5)から選択される少なくとも1種の化合物を用いることができる。他の正極活物質として、これらの化合物を単独で用いてもよく、これらの化合物の中の2種類以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
なお、上記化合物について特に定義されていない場合、xは0以上1.2以下であり、yは0以上0.5以下であり、zは0以上0.1以下であることが好ましい。また、Mは、Co、Mn、Ni、Al、Cr、Fe、Mg、Zn、Zr、Sn、Cu及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す。ここで、Mは、Co、Mn、Ni、Al、Cr、Fe、Mg、Zn、Zr、Sn、Cu及びFeよりなる群から選択される1種の元素でもよい。あるいは、Mは、Co、Mn、Ni、Al、Cr、Fe、Mg、Zn、Zr、Sn、Cu及びFeよりなる群から選択される2種以上の元素の組み合わせでもよい。
他の正極活物質としては、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムマンガンニッケル複合化合物、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物、及びリチウムマンガンコバルト複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これら化合物を他の正極活物質として使用することにより、高い電池電圧を得ることができる。
ポリマーは、例えばポリアニリンやポリピロールのような導電性ポリマー材料、又はジスルフィド系ポリマー材料を用いることができる。硫黄(S)、フッ化カーボンもまた活物質として使用できる。
正極活物質は、例えば、粒子の形状を有する。粒子は、一次粒子でもよいし、又は一次粒子が凝集してなる二次粒子を含んでもよい。正極活物質の一次粒子の平均粒子径は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、0.1μm以上10μm以下であることがより好ましい。一次粒子の平均粒子径が0.1μm以上10μm以下にある正極活物質粒子は、取り扱い性に優れ、且つ優れたレート性能を実現できる。また、正極活物質の二次粒子の平均粒子径は、0.5μm以上50μm以下であることが好ましく、0.5μm以上30μm以下であることがより好ましい。二次粒子の平均粒子径が0.5μm以上50μm以下である正極活物質粒子は、取り扱い性に優れ、且つ高い密度を示す正極活物質含有層を実現できる。
正極活物質の粒子のBET比表面積は、0.1m2/g以上10m2/g以下であることが好ましい。0.1m2/g以上の比表面積を有する正極活物質粒子は、リチウムイオンの吸蔵及び放出サイトを十分に確保できる。10m2/g以下の比表面積を有する正極活物質粒子は、工業生産の上で取り扱い易く、かつ良好な充放電サイクル性能を確保できる。BET比表面積の測定方法は、後述する。
導電剤は、集電性能を高め、且つ活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために、必要に応じて配合される。導電剤の例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛及び/又はコークスなどの炭素質物が含まれる。
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、セルロース系部材、例えばカルボキシルメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、フッ素系ゴム又はスチレンブタジエンゴムを用いることができるが、これらに限定されない。
正極活物質、導電剤及び結着剤は、それぞれ73質量%以上95質量%以下、3質量%以上20質量%以下、及び2質量%以上7質量%以下の割合で配合することが好ましい。導電剤は、3質量%以上の量にすることにより上述した効果を発揮することができる。導電剤は、20質量%以下の量にすることにより高温保存下での導電剤表面での非水電解質の分解を低減することができる。結着剤は、2質量%以上の量にすることにより十分な電極強度が得られる。結着剤は、7質量%以下の量にすることにより、電極中の絶縁材料である結着剤の配合量を減少させ、内部抵抗を減少できる。
正極は、例えば、以下のように作製することができる。まず、上述した正極活物質、導電剤及び結着剤を用意する。次に、これらを適当な溶媒に懸濁させて、懸濁液を調製する。この懸濁液をアルミニウム箔などの集電体に塗布し、塗膜を乾燥させる。次いで、乾燥させた塗膜を集電体ごとプレスに供する。かくして、正極集電体と正極集電体上に形成された正極活物質含有層とを具備する正極を作製する。得られる正極は、例えば、帯状の電極である。
2)負極
負極は、負極活物質含有層を含む。負極活物質含有層は、チタン含有酸化物を含む。
負極は、負極集電体を更に含むことができる。負極集電体は、その片面又は両面に、負極活物質含有層を担持することができる。負極集電体は、表面に負極活物質含有層を担持していない部分を含むこともできる。
負極集電体は、アルミニウム箔又はMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu及びSiから選択される少なくとも1種の元素を含むアルミニウム合金箔であることが好ましい。アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の平均結晶粒径は、50μm以下であることが好ましい。これにより、集電体の強度を飛躍的に増大させることができるため、負極を高いプレス圧で高密度化することが可能となり、電池容量を増大させることができる。また、高温環境下(40℃以上)における過放電サイクルでの負極集電体の溶解及び腐食による劣化を防ぐことができるため、負極インピーダンスの上昇を抑制することができる。更に、出力特性、急速充電、充放電サイクル特性も向上させることができる。負極集電体の平均結晶粒径のより好ましい範囲は30μm以下であり、更に好ましい範囲は5μm以下である。
アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の上記平均結晶粒子径は、材料組成、不純物、加工条件、熱処理履歴及び焼なましの加熱条件などの多くの因子に複雑に影響される。アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の上記平均結晶粒子径(直径)は、製造工程の中で、これらの諸因子を組み合わせて、50μm以下に調整することができる。
アルミニウム箔及びアルミニウム合金箔の厚さは、20μm以下、より好ましくは15μm以下である。アルミニウム箔の純度は99質量%以上が好ましい。アルミニウム合金としては、マグネシウム、亜鉛、ケイ素などの元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル、クロムなどの遷移金属の含有量は1質量%以下にすることが好ましい。
負極活物質含有層は、負極活物質、導電剤及び結着剤を含むことができる。チタン含有酸化物は、負極活物質に含まれることができる。
チタン含有酸化物は、例えば、チタン酸化物及びチタン含有酸化物を含むことができる。チタン酸化物には、チタン酸化物のTiの一部が異種元素に置換された酸化物も含まれ得る。
チタン含有酸化物としては、リチウムを吸蔵放出可能なものであれば特に限定されるものではない。例えば、スピネル型の結晶構造を有するチタン酸リチウム、ラムスデライト型の結晶構造を有するチタン酸リチウム、チタンニオブ複合酸化物(例えば、TiNb2O7)、その他のチタン含有金属複合酸化物、単斜晶系の結晶構造を有する二酸化チタン(TiO2(B))、及びアナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンなどを用いることができる。これらの中でもTiO2(B)及び/又はTiNb2O7を負極において使用して非水電解質電池は、電池のSOCの電池電圧依存性が高く、電池電圧を制御することによって、SOCを管理することが容易になる。更に、TiO2(B)及び/又はTiNb2O7を使用した場合、高エネルギー密度の電池を作製することができるため好ましい。特に、本実施形態に係る非水電解質電池は負極の副反応を抑制することができるので、負極がTiO2(B)を含んでいる態様の非水電解質電池は、負極の副反応に起因するSOCずれ及び電池膨れを抑制することができる。
スピネル型の結晶構造を有するチタン酸リチウムとしては、一般式Li4+xTi5O12(xは充放電反応により−1≦x≦3の範囲で変化する)で表される化合物などが挙げられる。ラムスデライト型の結晶構造を有するチタン酸リチウムとしては、一般式Li2+yTi3O7(yは充放電反応により−1≦y≦3の範囲で変化する)で表される化合物などが挙げられる。TiO2(B)及びアナターゼ型二酸化チタンは、例えば、一般式Li1+zTiO2で表すことができ、上記一般式において、zは充放電反応により−1≦z≦0の範囲で変化する。
チタンニオブ複合酸化物には、例えば、一般式LixTi1-yM1yNb2-zM2zO7で表される化合物群が含まれる。ここで、xは充放電反応により0≦x≦5の範囲で変化する値である。また、M1は、Zr、Si及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、M2はV、Ta及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、yは0≦y<1を満たす値であり、zは0≦z≦2を満たす値である。M1は、Zr、Si及びSnからなる群より選ばれる1種であってもよいし、Zr、Si及びSnからなる群より選ばれる2種を含んでいてもよいし、或いはZr、Si及びSnを含んでいてもよい。同様に、M2は、V、Ta及びBiからなる群より選ばれる1種でもよいし、V、Ta及びBiからなる群より選ばれる2種を含んでいてもよいし、或いはV、Ta及びBiを含んでいてもよい。
その他のチタン含有金属複合酸化物としては、例えば、Tiと、P、V、Sn、Cu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素とを含有する金属複合酸化物などが挙げられる。このような金属複合酸化物としては、例えば、TiO2-P2O5、TiO2-V2O5、TiO2-P2O5-SnO2、TiO2-P2O5-MeO(MeはCu、Ni及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種類の元素)などを挙げることができる。
このような金属複合酸化物は、結晶性が低く、結晶相とアモルファス相とが共存しているか、又は、アモルファス相が単独で存在しているミクロ構造であることが好ましい。ミクロ構造であることにより、サイクル性能を大幅に向上させることができる。
負極活物質はチタン含有酸化物単独であってもよく、チタン含有酸化物と他の一以上の負極活物質との混合物であってもよい。負極活物質の全量に占める、チタン含有酸化物の割合は、60質量%以上であることが好ましい。
他の負極活物質としては、リチウムを吸蔵放出可能な化合物を用いることができる。この化合物には、酸化物、硫化物、窒化物などが含まれる。これらの中には、未充電状態ではリチウムを含まないが、充電によりリチウムを含むようになる金属化合物も含まれる。
そのような酸化物としては、例えば、例えばSnB0.4P0.6O3.1などのアモルファススズ酸化物、例えばWO3などのタングステン酸化物、並びに酸化ニオブ及びその複合酸化物などが挙げられる。
硫化物としては、例えばTiS2のような硫化チタン、例えばMoS2のような硫化モリブデン、並びに、例えば、FeS、FeS2及びLixFeS2のような硫化鉄などが挙げられる。
窒化物としては、例えば、リチウムコバルト窒化物(例えば、LixCoyN、0<x<4、0<y<0.5)などが挙げられる。
負極活物質は、例えば、粒子の形状を有する。粒子は、一次粒子でもよいし、又は一次粒子が凝集してなる二次粒子を含んでもよい。負極活物質の一次粒子の平均粒子径は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であるとさらに望ましい。また、負極活物質の二次粒子の平均粒子径は、1μm以上30μm以下であることが望ましく、5μm以上15μm以下にあることがさらに望ましい。
負極活物質の粒子のBET比表面積は、5m2/g以上100m2/g以下にあることが好ましい。BET比表面積が5m2/g以上である負極活物質粒子は、非水電解質との反応場が比較的多い。そのため、このような比表面積を有する負極活物質粒子を含んだ負極を具備した非水電解質電池は、負極活物質含有層の表面に先に説明した被膜が形成されることによる容量低下を抑制する効果が大きい。また、負極活物質粒子のBET比表面積が100m2/g以下であれば、先に説明した被膜により、負極活物質粒子と非水電解質との副反応を十分に抑えることができる。
導電剤は、集電性能を高め、且つ活物質と集電体との接触抵抗を抑えるために、必要に応じて配合される。導電剤の例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛及び/又はコークスなどの炭素質物が含まれる。
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、セルロース系部材、例えばカルボキシルメチルセルロースナトリウム(CMC)、フッ素系ゴム又はスチレンブタジエンゴムを用いることができるが、これらに限定されない。
負極活物質、導電剤及び結着剤は、それぞれ80質量%以上98質量%以下、0質量%以上20質量%以下、及び2質量%以上7質量%以下の割合で配合することが好ましい。結着剤量を2質量%以上にすることにより、負極活物質含有層と負極集電体の結着性が十分となり、高いサイクル特性が得られる。一方、高容量化の観点から、導電剤量は20質量%以下であることが好ましく、結着剤量は7質量%以下であることが好ましい。
負極は、負極活物質含有層の表面を被覆した被膜を更に含む。この被膜は、負極活物質含有層の表面のうち、負極集電体に接していない表面を被覆することができる。そのため、負極の表面は、この被膜を含むことができる。
被膜は、F、Si及び有機系原子を含む。被膜は、Oを更に含むことができる。この被膜の成分についての詳細は、先の説明を参照されたい。
負極の作製方法は、後述する。
3)非水電解質
非水電解質は、例えば、電解質(支持塩)を非水溶媒に溶解することにより調製される、常温(20℃)及び1気圧で液体の非水電解質である。例えば、非水電解液を用いることができる。電解質は、1mol/L以上3mol/L以下の濃度で非水溶媒に溶解することが好ましい。
電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、六フッ化アンチモンリチウム(LiSbF6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO2)2]、ビスペンタフルオロエタンスルホニルイミドリチウム[Li(C2F5SO2)2N]、ビスオキサラトホウ酸リチウム[LiB(C2O4)2]、及び、ジフルオロ(トリフルオロ−2−オキシド−2−トリフルオロ−メチルプロピオナト(2−)−0,0)ホウ酸リチウム[LiBF2(OCOOC(CF3)2]などのリチウム塩を使用することができる。電解質としては、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。電解質は、高電位でも酸化し難いものであることが好ましく、LiBF4又はLiPF6が最も好ましい。特に、オリビン型の結晶構造を有するリン酸化合物を正極に用いた場合であって、負極目付が50m2/g以上の場合は、電池抵抗の増加を抑制できることから、LiPF6又はLiBF4とLiPF6とを混合した電解質を使用するのが好ましい。負極目付が50m2/g未満の場合は、高温環境で電池を使用した場合の電池内でのガス発生を抑制できることからLiBF4を使用するのが好ましい。
1つの好ましい態様では、電解質として、LiPF6若しくはLiBF4又はその混合塩を用いる。LiFF6とLiBF4との混合塩を用いると、エージング後や電池を使用した際のSOCずれが小さく、容量低下を抑制でき、かつ、非水電解質に起因する電池抵抗の上昇も抑制することができる。混合塩におけるLiPF6とLiBF4との質量比は、10:2〜4:8の範囲内にあることが好ましく、9:3〜5:7の範囲内にあることがより好ましい。
電解質塩の濃度は、1M以上3M以下であることが好ましい。これにより、非水電解質の粘度を適度なものとし、高負荷電流を流した場合にも優れた性能を達成できる。
非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジプロピルカーボネート(DPC)及びビニレンカーボネートのような環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、及びメチルエチルカーボネート(MEC)のような鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、及びジオキソラン(DOX)のような環状エーテル、ジメトキシエタン(DME)及びジエトキシエタン(DEE)のような鎖状エーテル、γ−ブチロラクトン(GBL)、アセトニトリル(AN)又はスルホラン(SL)からなる群より選択される1種を単独で用いてもよいし、又この群から選択される2種以上を含む混合溶媒を用いることもできる。
非水電解質は添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、特に限定されるものではないが、ビニレンアセテート(VA)、ビニレンブチレート、ビニレンヘキサネート、ビニレンクロトネート、及びカテコールカーボネート等が挙げられる。添加剤の濃度は、添加剤を添加する前の非水電解質の質量に対して0.1質量%以上3質量%以下であることが好ましい。更に好ましい範囲は、0.5質量%以上1質量%以下である。
電気化学的手法で負極活物質含有層の表面にFを含んだ被膜を形成する場合には、非水電解質がフッ化物を含んでいることが好ましい。フッ化物としては、HF、LiPF6、LiBF4、LiTFSI、LiTFS、LiBETI、及びLiBOBからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
4)セパレータ
セパレータは、正極と負極との間に配置されることができる。
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、又はポリフッ化ビニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、又は、合成樹脂製不織布などを単独で又は組み合わせて使用することができる。
セパレータは、水銀圧入法による細孔メディアン径が0.15μm以上2.0μm以下であることが好ましい。細孔メディアン径を0.15μm以上にすることにより、セパレータの膜抵抗が小さく、高出力が得られる。また、2.0μm以下であると、セパレータのシャットダウンが均等に起こるため、高い安全性が実現できる。その他、毛細管現象による非水電解質の拡散が促進され、その結果、非水電解質の枯渇によるサイクル劣化が防止される。細孔メディアン径のより好ましい範囲は0.18μm以上0.40μm以下である。
セパレータは、水銀圧入法による細孔モード径が0.12μm以上1.0μm以下であることが好ましい。細孔モード径が0.12μm以上であることにより、セパレータの膜抵抗が小さく、高出力が得られ、さらに高温及び高電圧環境下でのセパレータの変質が防止され、高出力が得られる。また、1.0μm以下であることにより、セパレータのシャットダウンが均等に起こるため、高い安全性が実現できる。細孔モード径のより好ましい範囲は0.18μm以上0.35μm以下である。
セパレータの気孔率は45%以上75%以下であることが好ましい。気孔率が45%以上であることにより、セパレータ中のイオンの絶対量が十分であり高出力が得られる。気孔率が75%以下であることにより、セパレータの強度が高く、また、シャットダウンが均等に起こるため高い安全性が実現できる。気孔率のより好ましい範囲は、50%以上65%以下である。
5)外装部材
外装部材としては、例えば、肉厚0.2mm以下のラミネートフィルム、又は、肉厚1.0mm以下の金属製容器を用いることができる。金属製容器の肉厚は、0.5mm以下であるとより好ましい。
外装部材の形状は、本実施形態に係る非水電解質電池の用途に応じて、扁平型、角型、円筒型、コイン型、ボタン型、シート型、又は積層型であってよい。本実施形態に係る非水電解質電池の用途は、例えば、携帯用電子機器等に積載される小型電池、二輪乃至四輪の自動車等の車両に積載される大型電池であり得る。
ラミネートフィルムは、金属層と金属層を被覆する樹脂層とからなる多層フィルムである。軽量化のために、金属層はアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、金属層を補強するためのものであり、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、及びポリエチレンテレフタレート(PET)のような高分子を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装部材の形状に成形することができる。
金属製容器は、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることができる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛及びケイ素のような元素を含む合金が好ましい。一方、鉄、銅、ニッケル及びクロムのような遷移金属の含有量は、1質量%以下にすることが好ましい。これにより、高温環境下での長期信頼性、放熱性を飛躍的に向上させることが可能となる。
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属製容器、例えば金属缶は、平均結晶粒径が50μm以下であることが好ましい。より好ましくは30μm以下である。更に好ましくは5μm以下である。平均結晶粒径を50μm以下とすることによって、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属缶の強度を飛躍的に増大させることができる。また、缶をより薄肉化することができる。その結果、軽量かつ高出力で長期信頼性に優れた、車載用に適した電池を提供することができる。
6)負極端子
負極端子は、リチウムに対する電位が0.4V(vs Li/Li+)以上3V(vs Li/Li+)以下である電気的安定性と導電性とを備える材料から形成することができる。具体的には、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金、アルミニウムが挙げられる。接触抵抗を低減するために、負極集電体と同様の材料が好ましい。
7)正極端子
正極端子は、リチウムに対する電位が3V(vs Li/Li+)以上5V(vs Li/Li+)以下である電気的安定性と導電性とを備える材料から形成することができる。具体的には、Mg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金、アルミニウムが挙げられる。接触抵抗を低減するために、正極集電体と同様の材料が好ましい。
[製造方法]
本実施形態に係る非水電解質電池、すなわち負極活物質含有層とこの負極活物質含有層の表面を被覆する被膜とを含む負極を具備した非水電解質電池は、例えば、以下の手順に従い、電池ユニットを組立て、このユニットをエージングに供することによって得ることができる。
まず、先に説明した方法で、正極を作製する。
次いで、以下の手順で、負極活物質含有層を含んだ部材を作製する。
まず、チタン含有酸化物を含む負極活物質、導電剤及び結着剤を用意する。これらの材料としては、先に説明したものを使用することができる。次に、これらを適当な溶媒に懸濁させて、懸濁液を調製する。この懸濁液をアルミニウム箔などの集電体に所望の目付けで塗布し、塗膜を乾燥させる。かくして、負極集電体と負極集電体上に形成された負極活物質含有層とを具備する部材を作製する。得られる部材は、例えば、帯状である。ここで得られた部材を、第1の中間部材と呼ぶ。第1の中間部材の負極活物質含有層を、以下に説明するシリケート処理の前に、集電体ごとプレスに供することができる。或いは、このプレスは、シリケート処理の後に行ってもよい。
一方で、シリコンアルコキシドを準備する。シリコンアルコキシドとしては、例えば、正ケイ酸エチル、正ケイ酸メチル、及び縮合シリケート等を用いることができる。これらは、単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物でもよい。例えば、正ケイ酸エチル及び正ケイ酸メチルの少なくとも一方のオルトシリケートと、縮合シリケートとの混合シリケートを用いることができる。この場合、混合シリケートに対する縮合シリケートの量は、5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
次に、プレス前又はプレス後の第1の中間部材を、シリコンアルコキシドに浸漬させ、負極活物質含有層にシリコンアルコキシドを含浸させる。
次に、第1の中間部材を、シリコンアルコキシドから引き揚げ、電極に過剰に付着したシリコンアルコキシドを拭い去る。次いで、第1の中間部材を乾燥に供する。乾燥は、60℃以上130℃以下の温度で行うことが好ましく、90℃以上120℃以下の温度で行うことがより好ましい。かくして、負極活物質含有層上にシリケート成分を含有した被膜が形成した第2の中間部材を得ることができる。
以上に説明した浸漬及び含浸は、繰り返して行うこともできる。
それぞれ以上に説明した第1の中間部材のシリコンアルコキシドへの浸漬から第1の中間部材の乾燥までは、負極に過剰のシリケート成分が残存することを避ける観点から、低湿度環境で行うことが望ましい。望ましい環境としては、露点が−10℃以下である環境が挙げられ、さらに望ましい環境は、露点が−20℃以下である環境である。このような環境でシリケート成分を負極活物質含有層上に被覆することで、過剰なシリケート成分が負極活物質含有層上に残存することによって生じる電池抵抗の上昇、容量低下及びサイクル寿命の低下を回避することができる。
第1の中間部材への適切なシリケート成分の被膜形成は、シリケート処理前後の質量増加率で管理することができる。シリケート処理による質量増加率が2.0〜4.0質量%であると、負極上の副反応を抑制でき、かつ、電池抵抗の上昇や容量低下やサイクル寿命の低下を適切に抑制することができる負極を作製することができる。シリケート処理による質量増加率が2.5〜3.5質量%であると、電池抵抗の上昇や容量低下をさらに抑制でき、かつ、サイクル寿命の低下を更に防ぐことができるので、より望ましい。ここでのシリケート処理による質量増加率は、以下の式で算出できる。
シリケート処理による質量増加率(wt%)=((シリケート処理後の正味の負極重量−シリケート処理前の正味の負極重量)/(シリケート処理前の正味の負極重量))×100
以上に説明したシリケート処理は、具体的には、以下のいずれかの方法で行うことが特に好ましい:
(a)正ケイ酸エチル等の単量体を用いて、複数回含浸及び乾燥の工程を行う方法;
(b)正ケイ酸エチル等の単量体と縮合シリケート等の多量体とを所定量混合させた溶液を用いて、含浸及び乾燥工程を行う方法;
(c)縮合シリケート等の多量体をエタノール等の溶媒を用いて所定量濃度に希釈した溶液を用いて、含浸及び乾燥工程を行う方法。
シリケート処理は、方法(a)〜(c)の手法のいずれでも構わない。含浸及び乾燥工程を短縮する観点からは、方法(b)又は(c)が望ましい。
なお、負極活物質含有層上への被膜の形成は、負極活物質の粒子の表面上に被膜を形成する場合に比べて、より均一な厚さの被膜を形成することができる。また、表面に被膜を形成した負極活物質を用いた場合には、電極作製工程において、被膜が壊れたり、活物質粒子が電極副部材(例えば、導電剤やバインダー)との混合時に活物質粒子の解砕が起こって、未被覆の新表面が発生する可能性がある。一方、上記手法を用いれば、活物質上の被膜を電極内で健全な状態で維持することができる。
次に、セパレータを準備する。準備したセパレータを、それぞれ先に説明した正極及び第2の中間部材との間、具体的には正極活物質含有層と第2の中間部材のシリケート成分を含有した被膜との間に挟んで、電極群を構成する。電極群は、積層型でもよいし、或いは捲回型でもよい。積層型の電極群は、複数の正極、複数の第2の中間部材、及び複数のセパレータをそれぞれ準備し、正極と第2の中間部材を、間にセパレータを挟んで交互に積層させることによって得られる。捲回型の電極群は、正極と第2の中間部材とを間にセパレータを挟んで積層して得られた積層体を捲回することによって得られる。捲回体はプレスに供されてもよい。
一方で、外装部材を準備する。準備した外装部材内に、電極群を入れ、正極に正極端子を、第2の中間部材に負極端子をそれぞれ接続する。
次に、先に説明した非水電解質を調整する。調製した非水電解質を外装部材内に入れ、電極群に非水電解質を含浸(保持)させる。次いで、外装部材を封止する。かくして、電池ユニットを得ることができる。
次に、電池ユニットを、初回充放電に供する。初充電の手順は、特に限定されないが、例えば、電池ユニットに対し、所定の電位まで0.2Cの電流値で定電流充電を行い、次いでその電圧で総充電時間が10時間になるまで定電圧充電を行うことができる(CC-CVモード)。初回放電は、初充電した電池ユニットに対し、所定の電位まで0.2Cの電流値で定電流放電を行う(CCモード)。
次に、初回充放電後の電池ユニットを、20%以上100%以下の充電状態(SOC)、好ましくは30%以上70%以下のSOCに調整する。なお、ここでのSOCは、電池ユニットを推奨電圧内で充放電した際の放電容量を1Cとし、電池ユニットを推奨放電状態から0.2C以上1C以下の電流値で充電した際の電池ユニットの充電量の先の1C放電容量に対する割合を100分率で示したものとする。例えば、電池ユニットの充電量が先の1C放電容量に対して30%であった場合、この電池ユニットは、SOC30%の状態にあるとする。
次に、SOCを調整した電池ユニットを、例えば60℃以上90℃以下の温度に保たれた恒温槽内に保持する。この工程をエージングと呼ぶ。このエージングにより、第2の中間部材の表面に被覆した被膜を、F、Si及び有機系原子を含み且つ比F1/F2が0.05以上0.18未満である被膜に変換することができる。すなわち、このエージングによって、第2の中間部材を負極に変換することができ、結果として、本実施形態に係る非水電解質電池を得ることができる。
保持時間(エージング時間)は、例えば10時間以上100時間以内である。エージング前の電池ユニットのSOCが高い場合又はエージング温度が高い場合は、保持時間を比較的短くすることができる。エージング温度が60℃より低いと、F、Si及び有機系原子を含み且つ比F1/F2が0.05以上0.18未満である被膜が形成されるまでの時間が著しく長くなるか、又はこのような被膜が形成されない。また、エージング温度が90℃より高いと、被膜の形成速度が大きくなり、比F1/F2が0.18以上になってしまう。それに伴い、電池抵抗が増加し、その結果出力特性等が低下するため、好ましくない。このような60℃以上90℃以下の温度でのエージングは、例えば、100℃以上の温度でのエージングを行うことができる装置を用いずとも行うことができる。このようなエージングによると、高温でのエージングにより起こり得る電池抵抗の増大を抑制することもできる。
エージングは、連続的に行ってもよく、或いは断続的に行ってもよい。エージング後には、必要に応じて、電池の開封を行うことにより、電池内に発生したガスを抜くことができる。このガス抜き後に、任意に真空引きを行ってもよい。ガス抜きを行う場合、ガス抜き後に電池を再封止する。
[各種測定方法]
以下、調査対象の非水電解質電池が本実施形態に係る非水電解電池であるか否かを判断するための各種測定方法を説明する。
<X線光電子分光(XPS)測定>
X線光電子分光(XPS)測定は、以下の手順で放電状態にした負極に対して行う。ここで、放電状態とは、電池の場合はその電池の推奨充放電仕様に従って放電した後の状態を意味する。但し、電池の放電状態は、ここでは、電池のSOCが0%以上30%以下のである状態を包含する。電池を放電状態にする場合、未使用の電池を使用する。
未使用の電池以外に含まれる負極については、以下の手順に従って、負極を電池から取り出して、取り出した負極を放電に供する。なお、未使用の電池に含まれる負極も、電池から取り出して放電してもよい。まず、測定対象の非水電解質電池を、アルゴンを充填したグローブボックス内で解体する。解体した電池から、負極を取り出す。取り出す際、負極と正極とが接触しないように留意する。次に、取り出した負極を、例えば、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート溶媒で洗浄して、Li塩などを除去する。次いで、洗浄した負極を乾燥する。次に、乾燥後の負極を作用極とし、リチウム金属を対極及び参照極として用い、三極式電気化学セルを作製する。ここで、三極式電気化学セルの電解質は特に限定されるものではないが、例えば、体積比が1:1のエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートとの混合溶媒に1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を溶解させた溶液を用いることができる。
このように準備した三極式電気化学セルを、作用極の電位が3.0V(vs.Li/Li+)に達するまで充電する。その後、このセルを、作用極の電位が1.4V(vs.Li/Li+)に達するまで放電し、このときの電気容量C[mAh]を測定する。次に、作用極の電位が2.0V(vs.Li/Li+)以上2.5V(vs.Li/Li+)以下の電位に達するまで充電する。なお、SOCを調整する際に流す電流の電流値は、0.1C以上1C以下の値とする。かくして、負極を放電状態にすることができる。
上述した手順で放電状態とした負極を、例えば以下に説明する手順に従って、XPS測定に供する。この測定に使用する装置には、SCIENTA社製ESCA300、又はこれと同等な機能を有する装置を用いることができる。励起X線源には、単結晶分光Al−Kα線(1486.6eV)を用いる。X線出力は4kW(13kV×310mA)とし、光電子検出角度は90°とし、分析領域は約4mm×0.2mmとする。
まず、先に説明した何れかの手順で放電状態とした負極を、非水電解質電池又は三極式電気化学セルから、アルゴン雰囲気中で取り出す。次に、取り出した電極を、例えばメチルエチルカーボネートで洗浄し、負極表面に付着しているLi塩を取り除く。Li塩除去後の負極を乾燥した後、試料ホルダーに装着する。試料搬入は、不活性雰囲気、例えば窒素雰囲気下で行う。装着した試料について、XPS測定を行う。スキャンは0.10eV/stepで行う。
先に説明したように、F、Si及び有機系原子を含んだ被膜は、負極活物質含有層の表面のうち、集電体に面していない表面、すなわち負極の表面に位置している。そのため、負極の表面をXPS測定を行うことにより、上記被膜の情報を得ることができる。
<透過電子型顕微鏡(TEM)観察>
負極の表面を、エネルギー分散型X線分光装置(EDX)が付属した透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより、負極表面に位置した被膜にSiが含まれていることを確認することができる。
測定対象たる負極は、先に説明した手順で、放電状態にした非水電解質電池から取り出すか、又は非水電解質電池から取り出した負極を放電することによって準備することができる。
TEMとしては、例えば、透過型電子顕微鏡(日立社製 H9000UHR III)を用いることができる。加速電圧は、例えば300kVに設定することができる。
TEM−EDX観察において、活物質粒子のエッジ部に電子線を照射して元素分析を行うと、同じ活物質粒子の中央部分で元素分析を行った場合と比べて、Siの大きなピークが観測され得る。これは、活物質粒子のエッジ部に電子線を照射すると、活物質の最表面部分を電子線が透過するので、最表面に偏在するSiのピークが強調されるからであると考えられる。
<誘導結合プラズマ分光法(ICP)による負極に含まれている元素の定量>
電極に含まれている元素は、以下の手順で定量することができる。
まず、先に説明した手順により、非水電解質電池から、測定対象たる負極を取り出し、洗浄する。
次に、洗浄した電極の一部を、適切な溶媒中に入れて超音波を照射する。例えば、ガラスビーカー中に入れたエチルメチルカーボネートに電極体を入れ、超音波洗浄機中で振動させることで、集電体から、表面に被膜が形成された負極活物質含有層を剥離することができる。次に、減圧乾燥を行い、剥離した負極活物質含有層を乾燥する。得られた負極活物質含有層を乳鉢などで粉砕することで、負極活物質、導電剤、バインダ、被膜の成分などを含む粉末となる。この粉末を、酸で溶解することで、液体サンプルを調製できる。このとき、酸としては塩酸、硝酸、硫酸、フッ化水素などを使用できる。この液体サンプルをICP発光分光分析に供することで、負極活物質含有層及び被膜に含まれていた元素の濃度を知ることができる。
この手順により、比Si/Tiを知ることができる。なお、ここでの負極は、先の説明から明らかなように、負極集電体を含まない、負極活物質含有層及びその表面に形成された被膜から構成された負極複合体である。
なお、正極についても、同様の手順で、正極に含まれる元素の情報を得ることができる。
<電極のX線回折(XRD)測定>
電極に含まれる活物質の結晶構造は、粉末X線回折(XRD)測定により確認することができる。
電極についてのXRD測定は、測定対象の電極を、広角X線回折装置のホルダーの面積と同程度切り出し、直接ガラスホルダーに貼り付けて行うことができる。このとき、電極集電体の金属箔の種類に応じてあらかじめXRDを測定しておき、どの位置に集電体由来のピークが現れるかを把握しておく。また、導電剤や結着剤といった合剤のピークの有無もあらかじめ把握しておく。集電体のピークと活物質のピークが重なる場合、集電体から活物質を剥離して測定することが望ましい。これは、ピーク強度を定量的に測定する際、重なったピークを分離するためである。もちろん、これらを事前に把握できているのであれば、この操作を省略することができる。電極を物理的に剥離しても良いが、溶媒中で超音波をかけると剥離しやすい。このようにして回収した電極を測定することで、活物質の広角X線回折測定を行うことができる。
粉末X線回折測定の装置としては、Rigaku社製SmartLabを用いる。測定条件は以下の通りとする:Cuターゲット;45kV 200mA;ソーラスリット:入射及び受光共に5°;ステップ幅:0.02deg;スキャン速度:20deg/分;半導体検出器:D/teX Ultra 250;試料板ホルダ:平板ガラス試料板ホルダー(厚さ0.5mm);測定範囲:5°≦2θ≦90°の範囲。その他の装置を使用する場合は、上記と同等の測定結果が得られるように、粉末X線回折用標準Si粉末を用いた測定を行い、ピーク強度及びピークトップ位置が上記装置と一致する条件で行う。
粉末X線回折測定では、XRD測定により得られる回折ピークの位置から散乱角2θの値を求め、ブラッグの法則から結晶の面間隔dを算出し、解析により結晶構造(晶系)を特定することができる。
<活物質のBET比表面積の測定方法>
活物質のBET比表面積は、例えば以下で説明する方法で測定することができる。
まず、ICP分析と同様の手順により、非水電解質電池から、測定対象の活物質を含む電極を取り出し、洗浄する。続いて、ICP分析と同様の手順により、取り出した電極から、活物質、導電剤及びバインダなどの成分を含む粉末を取り出す。続いて、この粉末を遠心分離器にかけることにより、導電剤等から活物質を分離することができる。かくして、活物質の粉末を取り出すことができる。この活物質の粉末を測定試料として用いる。
活物質質量は4gとする。評価用セルは、例えば1/2インチのものを使用する。前処理方法として、この評価用セルを、温度約100℃以上で15時間の減圧乾燥することにより、脱ガス処理を実施する。測定装置としては、例えば島津製作所‐マイクロメリティックス社トライスターII3020を用いる。圧力を変化させながら窒素ガスを吸着させていき、相対圧を横軸、N2ガス吸着量を縦軸とする吸着等温線を求める。この曲線がBET理論に従うと仮定し、BETの式を適応することによって、活物質の粉末の比表面積を算出することができる。
次に、図面を参照しながら、本実施形態に係る非水電解質電池の幾つかの例を説明する。
まず、図3及び図4を参照しながら、本実施形態に係る非水電解質電池の一例である、扁平型非水電解質電池について説明する。
図3は、本実施形態に係る扁平型非水電解質電池の一例を示す断面模式図である。図4は、図3のA部の拡大断面図である。
図3及び図4に示す非水電解質電池10は、扁平状の捲回電極群1を具備する。
扁平状の捲回電極群1は、図4に示すように、負極3、セパレータ4及び正極5を備える。セパレータ4は、負極3と正極5との間に介在している。このような扁平状の捲回電極群1は、負極3、セパレータ4及び正極5を積層して形成した積層物を、図4に示すように負極3を外側にして渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成できる。この積層物は、負極3と正極5との間にセパレータ4が介在するように積層されている。
負極3は、負極集電体3aと負極活物質含有層3bとを含む。負極3の最外殻に位置する部分は、図4に示すように負極集電体3aの内面側の片面のみに負極活物質含有層3bを形成した構成を有する。負極3のその他の部分は、負極集電体3aの両面に負極活物質含有層3bが形成されている。なお、負極活物質含有層3bのうちセパレータ4に面する表面には、F、Si及び有機系原子を含んだ被膜が形成されている。しかしながら、この被膜は非常に厚さが小さいため、図4では図示できない。
正極5は、正極集電体5aの両面に正極活物質含有層5bが形成されている。
図3及び4に示すように、捲回電極群1の外周端近傍において、負極端子6が負極3の最外殻の部分の負極集電体3aに接続され、正極端子7が内側の正極5の正極集電体5aに接続されている。
捲回型電極群1は、2枚の樹脂層の間に金属層が介在したラミネートフィルムからなる袋状容器2内に収納されている。
負極端子6及び正極端子7は、袋状容器2の開口部から外部に延出されている。例えば液状非水電解質は、袋状容器2の開口部から注入されて、袋状容器2内に収納されている。
袋状容器2の開口部を負極端子6及び正極端子7を挟んでヒートシールすることにより、捲回電極群1及び液状非水電解質が袋状容器2内に完全密封されている。
次に、図5及び図6を参照しながら、本実施形態に係る非水電解質電池の他の例について説明する。
図5は、本実施形態に係る非水電解質電池の他の例を模式的に示す切欠斜視図である。図6は、図5のB部の断面模式図である。
図5及び図6に示す非水電解質電池10は、積層型電極群11を具備する。図5に示すように、積層型電極群11は、2枚の樹脂フィルムの間に金属層を介在したラミネートフィルムからなる外装部材12内に収納されている。図6に示すように、積層型電極群11は、正極13と負極14とをその間にセパレータ15を介在させながら交互に積層した構造を有する。正極13は複数枚存在し、それぞれが正極集電体13aと、正極集電体13aの両面に担持された正極活物質含有層13bとを備える。負極14は複数枚存在し、それぞれが負極集電体14aと、負極集電体14aの両面に担持された負極活物質含有層14bとを備える。各負極14の負極集電体14aは、一辺が負極14から突出している。突出した負極集電体14aは、帯状の負極端子16に電気的に接続されている。帯状の負極端子16の先端は、外装部材12から外部に引き出されている。また、図示していないが、正極13の正極集電体13aは、負極集電体14aの突出辺と反対側に位置する辺が正極13から突出している。こちらも図示していないが、正極13から突出した正極集電体13aは、帯状の正極端子17に電気的に接続されている。帯状の正極端子17の先端は、負極端子16とは反対側に位置し、外装部材12の辺から外部に引き出されている。
なお、負極活物質含有層14bのうちセパレータ15に面する表面には、F、Si及び有機系原子を含んだ被膜が形成されている。しかしながら、この被膜は非常に厚さが小さいため、図6では図示できない。
第1の実施形態に係る電極は、チタン含有酸化物を含む活物質を含んだ活物質含有層と、活物質含有層の表面を被覆した被膜とを具備する。被膜は、F、Si、金属イオン及び有機系原子を含む。被膜は、式(1):0.1≦F1/F2<0.18を満たす。活物質含有層の表面を被覆したこの被膜は、電極の副反応を防ぐことができ、且つ優れた耐久性を示すことができる。また、第2の実施形態に係る非水電解質電池では、負極が、チタン含有酸化物を含む負極活物質を含んだ負極活物質含有層と、負極活物質含有層の表面を被覆した被膜とを具備する。被膜は、F、Si、金属イオン及び有機系原子を含む。被膜は、式(1):0.1≦F1/F2<0.18を満たす。負極活物質含有層の表面を被覆したこの被膜は、負極の副反応を防ぐことができ、且つ優れた耐久性を示すことができる。その結果、第1の実施形態に係る電極及び第2の実施形態に係る非水電解質電池は、充放電を繰り返した際の容量低下を抑制することができると共に、ガス発生に起因する電池膨れも抑制でき、ひいては優れた寿命特性を示すことができる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態によれば、電池パックが提供される。この電池パックは、第2の実施形態に係る非水電解質電池を備える。
本実施形態に係る電池パックは、1個の非水電解質電池を備えてもよく、複数個の非水電解質電池を備えてもよい。電池パックに含まれ得る複数の非水電解質電池は、電気的に直列、並列、又は直列及び並列を組み合わせて接続されることができる。複数の非水電解質電池は、電気的に接続されて組電池を構成することもできる。電池パックは、複数の組電池を含んでいてもよい。
電池パックは、保護回路を更に具備することができる。保護回路は、非水電解質電池の充放電を制御するものである。また、電池パックを電源として使用する装置(例えば、電子機器、自動車等)に含まれる回路を、電池パックの保護回路として使用することができる。
また、電池パックは、通電用の外部端子を更に具備することもできる。通電用の外部端子は、非水電解質電池からの電流を外部に出力するため、及び非水電解質電池に電流を入力するためのものである。言い換えれば、電池パックを電源として使用する際、電流が通電用の外部端子を通して外部に供給される。また、電池パックを充電する際、充電電流(自動車の動力の回生エネルギーを含む)は通電用の外部端子を通して電池パックに供給される。
次に、本実施形態に係る電池パックの一例を、図面を参照しながら説明する。
図7は、本実施形態に係る電池パックの一例を示す分解斜視図である。図8は、図7に示す電池パックの電気回路を示すブロック図である。
図7及び図8に示す電池パック20は、図3及び図4に示した構造を有する複数個の扁平型単電池21を含む。
複数個の単電池21は、外部に延出した負極端子6及び正極端子7が同じ向きに .えられるように積層され、粘着テープ22で締結されており、それにより組電池23を構成している。これらの単電池21は、図8に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
プリント配線基板24が、複数の単電池21の負極端子6及び正極端子7が延出している側面に対向して配置されている。プリント配線基板24には、図8に示すサーミスタ25、保護回路26及び外部機器への通電用端子27が搭載されている。プリント配線基板24の組電池23と対向する面には、組電池23の配線との不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
組電池23の最下層に位置する単電池21の正極端子7に正極側リード28が接続されており、その先端は、プリント配線基板24の正極側コネクタ29に挿入されて電気的に接続されている。組電池23の最上層に位置する単電池21の負極端子6に負極側リード30が接続されており、その先端は、プリント配線基板24の負極側コネクタ31に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ29及び31は、プリント配線基板24に形成された配線32及び33をそれぞれ通して保護回路26に接続されている。
サーミスタ25は、単電池21の各々の温度を検出し、その検出信号を保護回路26に送信する。保護回路26は、所定の条件で保護回路26と外部機器への通電用端子27との間のプラス側配線34a及びマイナス側配線34bを遮断することができる。所定の条件の例は、サーミスタ25から、単電池21の温度が所定温度以上であるとの信号を受信したときである。また、所定の条件の他の例は、単電池21の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池21又は組電池23について行われる。個々の単電池21を検出する場合、電池電圧を検出してもよく、正極電位又は負極電位を検出してもよい。後者の場合、参照極として用いるリチウム電極を個々の単電池21に挿入する。図7及び図8の電池パックでは、単電池21それぞれに電圧検出のための配線35が接続されており、これら配線35を通して検出信号が保護回路26に送信される。
組電池23の四側面のうち、正極端子7及び負極端子6が突出している側面を除く三側面には、ゴム又は樹脂からなる保護シート36がそれぞれ配置されている。
組電池23は、各保護シート36及びプリント配線基板24と共に収納容器37内に収納されている。上記保護シート36は、収納容器37の長辺方向の両方の内側面と、短辺方向の内側面とに配置されている。保護シート36が配置されている、収納容器37の短辺方向の内側面と対向する反対側の内側面に、プリント配線基板24が配置されている。組電池23は、保護シート36及びプリント配線基板24で囲まれた空間内に位置している。蓋38は、収納容器37の上面に取り付けられている。
なお、組電池23の固定には、粘着テープ22に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
図7及び図8に示した電池パック20は複数の単電池21を直列接続した形態を有するが、電池パックは、電池容量を増大させるために、複数の単電池21を並列に接続してもよい。或いは、電池パックは、直列接続と並列接続とを組合せて接続された複数の単電池21を備えてもよい。電池パック20同士を、更に電気的に直列又は並列に接続することもできる。
また、図7及び図8に示した電池パック20は複数の単電池21を備えているが、電池パックは、1つの単電池21を備えるものでもよい。
また、電池パックの実施形態は用途により適宜変更される。本実施形態に係る電池パックは、大電流を取り出したときにサイクル特性が優れていることが要求される用途に好適に用いられる。具体的には、例えば、デジタルカメラの電源として、又は、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、及び、アシスト自転車の車両の車載用電池として、又は定置用電池として、又は鉄道用車両用の電池として用いられる。特に、車載用電池として好適に用いられる。
本実施形態に係る電池パックを搭載した自動車等の車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。
第3の実施形態に係る電池パックは、第2の実施形態に係る非水電解質電池を備えている。それ故、この非水電解質電池の負極における副反応が抑制され、充放電を繰り返した際の容量低下を抑制することができる。また、副反応で発生するガスに起因したセル膨れを抑制することができる。その結果、第3の実施形態に係る電池パックは、優れた寿命特性を示すことができる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態によると、車両が提供される。この車両は、第3の実施形態に係る電池パックを搭載する。
第4の実施形態に係る車両において、電池パックは、例えば、車両の動力の回生エネルギーを回収するものである。
第4の実施形態に係る車両の例としては、例えば、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、及び、アシスト自転車及び電車が挙げられる。
第4の実施形態に係る車両における電池パックの搭載位置は、特には限定されない。例えば、電池パックを自動車に搭載する場合、電池パックは、車両のエンジンルーム、車体後方又は座席の下に搭載することができる。
次に、本実施形態の車両の幾つかの例を図面を参照しながら説明する。
図9は、実施形態に係る一例の車両の概略断面図である。
図9に示す車両41は、自動車である。この自動車41は、車体前方のエンジンルーム内に、電池パック42を搭載している。
次に、本実施形態に係る他の例の車両の構成を、図10を参照しながら説明する。
図10は、実施形態に係る他の例の車両の構成を示している。図10に示した車両300は、電気自動車である。
図10に示す車両300は、車両用電源301と、車両用電源301の上位制御手段である車両ECU(ECU:Electric Control Unit)380と、外部端子370と、インバータ340と、駆動モータ345とを備えている。
車両300は、車両用電源301を、例えばエンジンルーム、自動車の車体後方又は座席の下に搭載している。しかしながら、図10では、車両300への非水電解質電池の搭載箇所は概略的に示している。
車両用電源301は、複数(例えば3つ)の電池パック312a、312b及び312cと、電池管理装置(BMU:Battery Management Unit)311と、通信バス310と、を備えている。
3つの電池パック312a、312b及び312cは、電気的に直列に接続されている。電池パック312aは、組電池314aと組電池監視装置(VTM:Voltage Temperature Monitoring)313aと、を備えている。電池パック312bは、組電池314bと組電池監視装置313bと、を備えている。電池パック312cは、組電池314cと組電池監視装置313cと、を備えている。電池パック312a、312b、及び312cは、それぞれ独立して取り外すことが可能であり、別の電池パックと交換することができる。
組電池314a〜314cのそれぞれは、直列に接続された複数の非水電解質電池を備えている。各非水電解質電池の各々は、第2の実施形態に係る非水電解質電池である。組電池314a〜314cは、それぞれ、正極端子316及び負極端子317を通じて充放電を行う。すなわち、電池パック312a、312b、及び312cは、第3の実施形態に係る電池パックである。
電池管理装置311は、車両用電源301の保全に関する情報を集めるために、車両用電源301に含まれる組電池314a〜314cの非水電解質電池の電圧、温度などの情報を組電池監視装置313a〜313cとの間で通信を行い収集する。
電池管理装置311と組電池監視装置313a〜313cとの間には、通信バス310が接続されている。通信バス310は、1組の通信線を複数のノード(電池管理装置と1つ以上の組電池監視装置と)で共有するように構成されている。通信バス310は、例えばCAN(Control Area Network)規格に基づいて構成された通信バスである。
組電池監視装置313a〜313cは、電池管理装置311からの通信による指令に基づいて、組電池314a〜314cを構成する個々の非水電解質電池の電圧及び温度を計測する。ただし、温度は1つの組電池につき数箇所だけで測定することができ、全ての非水電解質電池の温度を測定しなくてもよい。
車両用電源301は、正極端子と負極端子との接続を入り切りするための電磁接触器(例えば図10に示すスイッチ装置333)を有することもできる。スイッチ装置333は、組電池314a〜314cへの充電が行われるときにオンするプリチャージスイッチ(図示せず)、電池出力が負荷へ供給されるときにオンするメインスイッチ(図示せず)を含む。プリチャージスイッチおよびメインスイッチは、スイッチ素子の近傍に配置されたコイルに供給される信号によりオンおよびオフされるリレー回路(図示せず)を備える。
インバータ340は、入力した直流電圧をモータ駆動用の3相の交流(AC)の高電圧に変換する。インバータ340は、電池管理装置311あるいは車両全体動作を制御するための車両ECU380からの制御信号に基づいて、出力電圧が制御される。インバータ340の3相の出力端子は、駆動モータ345の各3相の入力端子に接続されている。
駆動モータ345は、インバータ340から供給される電力により回転し、その回転を例えば差動ギアユニットを介して車軸および駆動輪Wに伝達する。
また、図示はしていないが、車両300は、車両300を制動した際に駆動モータ345を回転させ、運動エネルギーを電気エネルギーとしての回生エネルギーに変換する回生ブレーキ機構を備えている。回生ブレーキ機構で回収した回生エネルギーは、インバータ340に入力され、直流電流に変換される。直流電流は、車両用電源301に入力される。
車両用電源301の負極端子317には、接続ラインL1の一方の端子が、電池管理装置311内の電流検出部(図示せず)を介して接続されている。接続ラインL1の他方の端子は、インバータ340の負極入力端子に接続されている。
車両用電源301の正極端子316には、接続ラインL2の一方の端子が、スイッチ装置333を介して接続されている。接続ラインL2の他方の端子は、インバータ340の正極入力端子に接続されている。
外部端子370は、電池管理装置311に接続されている。外部端子370は、例えば、外部電源に接続することができる。
車両ECU380は、運転者などの操作入力に応答して電池管理装置311を他の装置と協調制御して、車両全体の管理を行なう。電池管理装置311と車両ECU380との間で、通信線により、車両用電源301の残容量等の車両用電源301の保全に関するデータ転送が行われる。
図9及び図10にそれぞれ示す車両は、第3の実施形態に係る電池パックを具備するので、優れた寿命特性を示すことができる。
すなわち、第4の実施形態に係る車両は、第3の実施形態に係る電池パックを具備するので、優れた寿命特性を示すことができる。
[実施例]
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、以下の手順で実施例1の非水電解質電池を作製した。
<正極の作製>
正極活物質としてLiMn0.7Fe0.3PO4(LMFP)及びコバルト酸リチウムLiCoO2(LCO)をそれぞれ80質量%:20質量%の割合で混合した正極活物質粉末を用意し、導電剤として黒鉛粉末及びアセチレンブラックを用意し、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用意した。正極活物質粉末、黒鉛粉末、アセチレンブラック及びPVdFの量は、正極活物質含有層全体に対して、それぞれ86質量%、3質量%、3質量%及び8質量%となるように調整した。これら原料を、全てN−メチルピロリドン(NMP)溶媒に加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを、集電体としての厚さが15μmであるアルミニウム箔の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた。次いで、乾燥させた塗膜を集電体ごとプレス成型した。かくして、密度が2.0g/cm3である正極活物質含有層を具備した正極を作製した。
<負極の作製>
負極活物質として、BET比表面積が12m2/gであるTiO2(B)の粒子を用意し、導電剤として、グラファイトを用意し、結着剤としてPVdFを用意した。負極活物質、グラファイト及びPVdFの量は、負極活物質含有層全体に対して、それぞれ85質量%、7質量%及び8質量%となるように調整した。これら原料を、全てN−メチルピロリドン(NMP)溶媒に加えて混合し、スラリーを調製した。このスラリーを、集電体としての厚さが15μmであるアルミニウム箔の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた。スラリーの目付量は、100g/cm2とした。次いで、乾燥させた塗膜を集電体ごとプレス成型した。かくして、密度が2.1g/cm3である負極活物質含有層を具備した第1の中間部材を作製した。
次に、第1の中間部材を、以下の手順に従うシリケート処理に供した。まず、第1の中間部材を、露点が−30℃である室内(室温:25℃)で、正ケイ酸エチル(多摩化学工業製、正ケイ酸エチル、SiO2:28質量%)と縮合シリケート(多摩化学工業製、シリケートM45、エチルポリシリケート、SiO2:45質量%)との混合シリケート(質量比3:1)に1〜3分間浸漬して、シリケートを負極活物質含有層に含浸させた。その後、第1の中間部材を混合溶液から引き揚げ、負極活物質含有層の表面の過剰な溶液を除去した。次いで、第1の中間部材を、室内で常温乾燥処理に供した。その後、第1の中間部材を、120℃の真空乾燥器内で24時間乾燥処理を行った。かくして、負極活物質含有層の集電体に接していない方の表面にシリケート被膜が形成された第2の中間部材を得た。第2の中間部材の一部を取り出して第1の中間部材と比較したところ、質量が、シリケート処理により、シリケート処理前の電極質量を基準として3.0質量%程度増加したことを確認した。
<非水電解質の調製>
プロピレンカーボネート(PC)とジメチルエチルカーボネート(DEC)とを体積比で、PC:DEC=1:2の割合で混合して混合溶媒を調製した。この混合溶媒に、支持塩として、LiPF6及びLiBF4を、0.9M:0.6Mの濃度比で溶解させた。かくして、非水電解質を調製した。
<電池ユニットの作製>
ポリプロピレンからなるセパレータを2枚準備した。次に、これらのセパレータで正極の両面を覆った。次いで、一枚のセパレータの上に、これを介して正極と対向するように第2の中間部材を重ねて、積層体を形成した。この積層体を渦巻状に捲回し、電極群を作製した。
次に、この電極群を、アルミニウム製の金属缶に挿入した。次いで、金属缶の開口部分に、注液孔が開けられたキャップを取り付けた。この状態で、電極群を乾燥させた。その後、注液孔から金属缶内に非水電解質を注入した。その後、注液孔を封止した。かくして、容量が1Ahの未初充放電の電池ユニットを製造した。
<電池の充放電処理>
作製した電池ユニットを、25℃の環境下において、200mA/2.7Vの定電流定電圧条件で充電し、満充電状態とした。その後、200mAで電池電圧が1.5Vとなるまで放電した。所定の放電容量が得られるかを確認した後、500mAhの充電を行い、半充電状態とした。
<エージング処理>
半充電状態にある電池ユニットを、追加の充放電を行うことでSOCが60%になるまで充電した。この状態で、電池ユニットを85℃に設定した乾燥機内に48時間に亘り放置した。かくして、実施例1の非水電解質電池を得た。
実施例1についての正極活物質粉末におけるLMFP及びLCOの混合比、負極活物質の組成及びBET比表面積、並びに支持塩の種類(混合比)を、以下の表1に示す。また、実施例1についてのシリケート処理の条件及びエージング条件を以下の表2に示す。表1中、「BET比表面積」と、負極活物質のBET比表面積を示している。また、表2中、「SOC」とは、上記エージング処理における追加充電後のSOCを示している。
(実施例2〜32)
実施例2〜32では、正極活物質粉末におけるLMFP及びLCOの混合比、負極活物質の組成及びBET比表面積、支持塩の種類(混合比)、シリケート処理の条件(正ケイ酸エチルと縮合シリケートの混合比、及びシリケート処理による電極活物質層の質量増加率)、及び/又はエージング条件(追加充電後のSOC、エージング温度及びエージング時間)を下記表1及び表2に従って変更したことを除いては実施例1と同様の方法で、実施例2〜32の各非水電解質電池の作製を行った。
実施例25で使用したアナターゼ型TiO2の粉末のBET比表面積は15m2/gであった。実施例26〜28で使用したTiNb2O7のBET比表面積は12〜15m2/gであった。
(比較例1)
比較例1では、エージング処理を行わなかったことを除いては実施例1と同様の方法で、比較例1の非水電解質電池の作製を行った。下記表3及び表4に、比較例1の非水電解質電池の作製条件を示す。
(比較例2〜6)
比較例2〜6では、正極活物質粉末におけるLMFP及びLCOの混合比、負極活物質の組成及びBET比表面積、支持塩の種類(混合比)、シリケート処理の条件(正ケイ酸エチルと縮合シリケートの混合比、及びシリケート処理による電極活物質層の質量増加率)、及び/又はエージング条件(追加充電後のSOC、エージング温度及びエージング時間)を下記表3及び表4に従って変更したことを除いては実施例1と同様の方法で、比較例2〜6の各非水電解質電池の作製を行った。
[評価]
実施例1〜32及び比較例1〜6の各非水電解質電池を、以下の手順で評価した。なお、以下では、代表として、実施例1の非水電解質電池の評価手順を説明する。実施例2〜32及び比較例1〜6の各非水電解質電池も、実施例1の非水電解質電池と同様に評価した。
<容量維持率の評価>
エージング処理後に、実施例1の非水電解質電池について、以下の手順で、0.2C容量及び1C容量の容量確認を行った。まず、実施例1の非水電解質電池を、1.0Aで電池電圧が2.7Vに達するまで定電流充電(CC充電)し、次いで2.7Vで3時間に亘って定電圧充電(CV充電)した。0.2C容量の確認においては、この状態の非水電解質電池を200mAの定電流で電池電圧が1.5Vに達するまで放電に供して、この放電での放電容量を0.2C容量とした。1C容量の確認においては、放電を1Aで行った。1C容量の確認後、非水電解質電池を200mAhで充電して半充電状態にした。この状態での電池抵抗(R1)を測定した。その後、45℃〜60℃の環境下で、非水電解質電池に対し、1Aでの充放電試験を行って、放電容量の変化を調べた。100サイクル後の容量変化と電池抵抗(R2)を測定した。この結果を下記表5に示す。表5中、「容量維持率」は、初期容量に対する100サイクル後の容量を百分率で示しており、「R2/R1」は、100サイクル前後での電池抵抗の変化を比で表した数値である。
<X線光電子分光(XPS)>
実施例1の非水電解質電池が具備する負極について、先に説明したようにXPS測定を行った。
まず、以下の手順で、実施例1の非水電解質電池から負極を取り出した。まず、第1の実施形態で説明したように、この電池を放電状態とした。次に、放電状態とした電池をアルゴン雰囲気中に移動させ、この電池を解体した。解体した電池から、負極を取り出した。次に、取り出した負極を、メチルエチルカーボネートで洗浄し、負極表面に付着しているLi塩を取り除いた。洗浄後、負極を乾燥させた。乾燥させた負極の試料を、窒素雰囲気下でXPS装置に搬入し、試料ホルダーに装着した。この試料について、先に説明したXPS測定を行った。
装置としては、SCIENTA社製ESCA300を用いた。励起X線源には、単結晶分光Al−Kα線(1486.6eV)を用いた。X線出力は4kW(13kV×310mA)とし、光電子検出角度は90°とし、分析領域は約4mm×0.2mmとした。スキャンは0.10eV/stepで行った。
図1及び図2は、実施例1の非水電解質電池が具備する負極の表面のXPSスペクトルである。
XPS測定により得られたXPSスペクトルから、先に説明した方法により、比F1/F2、比O1A/O1B及び比O1/O2をそれぞれ算出した。実施例1の非水電解質電池についての結果を、以下の表5に示す。
実施例2〜32の各非水電解質電池の評価結果も下記表5に合わせて示す。また、比較例1〜6の各非水電解質電池の評価結果を下記表6に示す。
<結果>
[実施例1と比較例1とのXPSスペクトルの比較]
比較例1の非水電解質電池が具備する負極のスペクトルデータを図11及び図12に示す。
図11は、比較例1に係るピークF1sのスペクトルデータを示している。図11のスペクトルは、678eV〜698eVの結合エネルギー範囲で測定したスペクトルである。図11には、ピーク成分PF1及びPF2も合わせて示している。ピーク成分PF1及びPF2は、先に説明した手順で得たものである。すなわち、ピークF1sをガウスカーブ:ローレンツカーブ=90:10で近似して近似スペクトルを得、この近似スペクトルを実測のスペクトルへフィッティングしてフィッティングスペクトルを得、このフィッティングスペクトルを分割して、ピーク成分PF1及びPF2を得た。
図12は、比較例1に係るピークO1Sのスペクトルデータを示している。図11のスペクトルは、526eV〜544eVの結合エネルギー範囲で測定したスペクトルである。図12には、ピーク成分PO1-A、PO1-B及びPO2も合わせて示している。ピーク成分PO1-A、PO1-B及びPO2は、先に説明した手順で得たものである。すなわち、ピークO1sをガウスカーブ:ローレンツカーブ=90:10で近似して近似スペクトルを得、この近似スペクトルを実測のスペクトルへフィッティングしてフィッティングスペクトルを得、このフィッティングスペクトルを分割して、ピーク成分PO1-A、PO1-B及びPO2を得た。
図1に示すスペクトルと図11に示すスペクトルを比較すると、ピーク成分PF1の面積のピーク成分PF2の面積に対する比が、図11に示すスペクトルよりも図1に示すスペクトルの方が大きいことが分かる。
[評価結果の比較]
表5及び表6に示した結果から以下のことがわかる。
比F1/F2が0.05以上0.18未満である実施例1〜32の各非水電解質電池は、比F1/F2が0.18以上である比較例1〜3の各非水電解質電池と比較して、容量維持率が顕著に高かった。実施例1〜32の各非水電解質電池は、100サイクル後も電池膨れが見受けられなかった。これも容量低下を抑制できた一因として挙げられる。なお、比較例1及び2に係る電池のみ、100サイクル後に電池が膨れていた。実施例1〜32の各非水電解質電池は、比O1A/O1Bも4以上であった。
また、例えば、正極活物質としてLMFPのみを用いた実施例21〜24は、正極活物質としてLMFP及びLCOの混合物を用いた実施例1〜20と同様に、優れた容量維持率を示すことができた。更に、実施例1と実施例25〜28との比較から、負極活物質をTiO2(B)からアナターゼ型TiO2又はTiNb2O7に変更しても、高い容量維持率を達成できたことがわかる。
例えば、各実施例の非水電解質電池に含まれる負極を用いて新たに作製した電池によっても優れた寿命特性を得ることができる。
以上に説明した1つ以上の実施形態及び実施例によると、非水電解質電池が提供される。この非水電解質電池では、負極が、チタン含有酸化物を含む負極活物質を含んだ負極活物質含有層と、負極活物質含有層の表面を被覆した被膜とを具備する。被膜は、F、Si、金属イオン及び有機系原子を含む。被膜は、式(1):0.1≦F1/F2<0.18を満たす。負極活物質含有層の表面を被覆した被膜は、負極の副反応を防ぐことができ、且つ優れた耐久性を示すことができる。その結果、この非水電解質電池は、充放電を繰り返した際の容量低下を抑制することができると共に、ガス発生に起因する電池膨れも抑制でき、ひいては優れた寿命特性を示すことができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。