JP2018140886A - 二酸化バナジウムの製造方法及び他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】製造工程が単純で工程数が少なく、焼成や加熱等の熱エネルギーを与える工程が不要であり、製造コストも低廉な二酸化バナジウムあるいは他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法を提供する。【解決手段】五酸化バナジウムと、パラフィンワックス(PW化学式CnH2n+2:n=18〜46、分子量:254〜646、融点:56〜58℃)とを30:1の重量割合で秤取り、遊星ボールミルによる摩砕を行った(摩砕工程S11)。摩砕工程S11終了後、摩砕物をふるいにかけて摩砕粉とボールを分離し、分離した摩砕粉をヘキサンで洗浄し、固液分離し(洗浄工程S12)。二酸化バナジウム粉末を得た。【選択図】図2
Description
本発明は二酸化バナジウムの製造方法及び他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法に関する。
二酸化バナジウム(VO2)は、周囲温度(約68℃)において単斜晶系の結晶相から正方晶系の結晶相に相転移する(金属-絶縁体転移(MIT)あるいはMott 絶縁体相転移と言われる現象)特異な性質を有している。また、二酸化バナジウムに4f電子を有する金属(例えばW, Mo等)を添加することにより、相転移温度を制御することも可能となる。このため、二酸化バナジウムは蓄熱材料、調光材料、感熱センサー、電気・光スイッチなどenergy management 分野やoptoelectronics 分野で注目されている。
二酸化バナジウムや、他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法については、従来より、様々方法が開発されている。
例えば特許文献1では、タングステンでドープされた二酸化バナジウムの製造方法が記載されている。すなわち、V2O5粉末を水素とアルゴンの混合ガス中において700℃まで昇温し、48時間保持することにより、前駆体であるV2O3粉末を得る。そして、得られたV2O3粉末にV2O5粉末とWO3粉末とを加え混合し、この混合物(粉末)を石英管内に入れ、真空封入する。そして、石英管ごと1000℃まで昇温し、48時間保持する。以上の工程を経て、V1-xWxO2の粉末試料を合成している。また、WO3の代わりに、Ta2O5、Nb2O5、RuO2、MoO2、ReO3をそれぞれ用いることにより、V1-xTaxO2、V1-xNbxO2、V1-xRuxO2、V1-xMoxO2、V1-xRexO2を合成することにも成功している。
例えば特許文献1では、タングステンでドープされた二酸化バナジウムの製造方法が記載されている。すなわち、V2O5粉末を水素とアルゴンの混合ガス中において700℃まで昇温し、48時間保持することにより、前駆体であるV2O3粉末を得る。そして、得られたV2O3粉末にV2O5粉末とWO3粉末とを加え混合し、この混合物(粉末)を石英管内に入れ、真空封入する。そして、石英管ごと1000℃まで昇温し、48時間保持する。以上の工程を経て、V1-xWxO2の粉末試料を合成している。また、WO3の代わりに、Ta2O5、Nb2O5、RuO2、MoO2、ReO3をそれぞれ用いることにより、V1-xTaxO2、V1-xNbxO2、V1-xRuxO2、V1-xMoxO2、V1-xRexO2を合成することにも成功している。
また特許文献2〜5にはサーモクロミック材料用の二酸化バナジウムの製造方法が記載されている
例えば、特許文献2では、バナジウムとタングステンとを過酸化水素水に溶解させたヒドロゾルを基板上にスピンコーティングした後、数100℃で還元焼成して二酸化バナジウムのガラス状被膜を形成する方法や、酸化バナジウムと酸化タングステンとを溶融法により合成した材料をビーズミルで粉砕して酸化バナジウムの微粒子を得る方法や、バナジウム化合物を過酸化水素水に含有させたバナジウム含有液からバナジウム酸化物を析出させ、更に水素還元処理した後に加熱処理して二酸化バナジウムを製造する方法が記載されている。
例えば、特許文献2では、バナジウムとタングステンとを過酸化水素水に溶解させたヒドロゾルを基板上にスピンコーティングした後、数100℃で還元焼成して二酸化バナジウムのガラス状被膜を形成する方法や、酸化バナジウムと酸化タングステンとを溶融法により合成した材料をビーズミルで粉砕して酸化バナジウムの微粒子を得る方法や、バナジウム化合物を過酸化水素水に含有させたバナジウム含有液からバナジウム酸化物を析出させ、更に水素還元処理した後に加熱処理して二酸化バナジウムを製造する方法が記載されている。
また、特許文献3では、五酸化二バナジウム、バナジン酸アンモニウム、三塩化酸化バナジウム、メタバナジン酸ナトリウム等と、ヒドラジンまたはその水和物との水溶液を水熱反応させる方法が記載されている。
さらに、特許文献4では、五酸化二バナジウムと、シュウ酸やその水和物等の還元剤と、水とを含む混合液を水熱反応させることで二酸化バナジウムのロッド状ナノ粒子を作製する方法が記載されている。
また、特許文献5では、バナジウムアルコキシド及びアルコールを含有するバナジウムアルコキシド溶液と塩基性水溶液とを反応させて酸化バナジウム前駆体と酸化バナジウム前駆体とを焼成した後に水素雰囲気中で還元することで二酸化バナジウムを得ている。
さらに、特許文献6では、五酸化バナジウムをカーボン又はパラフィン等の有機化合物によって還元して二酸化バナジウムとする製法が記載されている。
なお、二酸化バナジウムの製造方法ではないが、本発明者は、本発明と関連する技術としてメカノケミカル現象を利用してSiO2を還元することにより、SiO系化合物を製造する方法を開発している(特許文献7参照)。
しかし、上記従来の二酸化バナジウムや他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法では、次のような問題があった。
特許文献1の製造方法では、五酸化バナジウムを水素−アルゴン雰囲気で熱処理してV2O3前駆体を形成し、更にV2O5及びWO3等をともに石英管に真空封入して熱処理するという二回の熱処理が必要であり、かつ二回目の熱処理では試料を石英管に封入することになるので工程が複雑であるという問題がある。
また、特許文献2〜5の製造方法では、加熱工程が必要であり、さらにはヒドラジン、シュウ酸等の高価な還元剤を使用するため、低コストで製造できるような効率の良い二酸化バナジウムの製造方法ではないという問題がある。
また、特許文献6の製造方法では、焼成工程が必要であり、多くの熱エネルギーを必要とする。
特許文献1の製造方法では、五酸化バナジウムを水素−アルゴン雰囲気で熱処理してV2O3前駆体を形成し、更にV2O5及びWO3等をともに石英管に真空封入して熱処理するという二回の熱処理が必要であり、かつ二回目の熱処理では試料を石英管に封入することになるので工程が複雑であるという問題がある。
また、特許文献2〜5の製造方法では、加熱工程が必要であり、さらにはヒドラジン、シュウ酸等の高価な還元剤を使用するため、低コストで製造できるような効率の良い二酸化バナジウムの製造方法ではないという問題がある。
また、特許文献6の製造方法では、焼成工程が必要であり、多くの熱エネルギーを必要とする。
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、製造工程が単純で工程数が少なく、焼成や加熱等の熱エネルギーを与える工程が不要であり、製造コストも低廉な二酸化バナジウムあるいは他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
従来から、有機物がメカノケミカル的に活性化された場合に酸化分解することが知られている。ここで、「メカノケミカル的に活性化される」とは、粒子が粉砕などによって衝撃応力やせん断応力を受け、化学結合や電子密度の分布の変化が起こり、電荷移動による多様な化学反応が局部的に生じたり、熱的過程での励起状態と違って電子エネルギーの励起が起こったりして、化学的に活性な状態になっていることをいう。有機物の結晶には各格子点が存在し、メカノケミカル的な活性化によって、結晶の不可逆的なひずみは分子のひずみを引き起こす。このため、ひずみが一定の限界を超えると結晶格子が破壊され、分子の破断、すなわち分解が起こってラジカルが発生する。そしてこのラジカルが酸素と結びついてペルオキシラジカル(ROO・)となり、さらに連鎖反応によって酸化されていくのである。
本発明者は、このメカノケミカル的に活性化された有機物が大気中の酸素によって酸化される反応において、有機物は酸素を還元する還元剤として働いていることに注目した。そして、この反応における酸素の代わりに、五酸化バナジウムを存在させて、メカノケミカル的に有機物を活性化させ、さらには五酸化バナジウムをも活性化させれば、五酸化バナジウムが還元されて二酸化バナジウムが生成するのではないかと考え、鋭意研究を行った結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明の二酸化バナジウムの製造方法は、五酸化バナジウムと常温で固体の有機物との混合物を乾式において摩砕することによって該五酸化バナジウムを還元することを特徴とする。
前記有機物は常温で固体の炭化水素及び/又は常温で個体の脂肪族アルコールであることが好ましい。
また、前記混合物における(前記有機物の質量)/(前記五酸化バナジウムの質量)は0,01以上であることが好ましい。発明者の試験結果によれば、(前記有機物の質量)/(前記五酸化バナジウムの質量)の値が0.2を超えると有機物による五酸化バナジウムの還元がかえって進行し難くなる。また、0,01未満では還元物としての有機物の量が少なくて、やはり五酸化バナジウムの還元が進行し難くなる。さらに好ましいのは0.02以上0.15以下であり、最も好ましいのは0.03以上0.1以下である。
また、本発明の二酸化バナジウムの製造方法における摩砕はアルゴンやネオンやキセノンや窒素などの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。摩砕を大気中で行うと、メカノケミカル的に活性化された有機物が酸素と化合し、五酸化バナジウムの還元が進行し難くなるおそれがあるからである。
さらに本発明者は、二酸化バナジウムと有機物との混合物を摩砕する際、ドーピングしようとする他元素化合物を添加すれば、他元素ドープされた二酸化バナジウムを製造できることを見出した。すなわち、本発明の他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法は、上記本発明の二酸化バナジウムの製造方法における前記混合物に、さらにドーピングしようとする他元素化合物を添加し、乾式において摩砕することを特徴とする。
前記他元素化合物は4f電子を有する金属の化合物であることが好ましい。こうであれば、二酸化バナジウムの格子中のバナジウム元素に代わって4f電子を有する金属が置換されるため、相転移温度を制御することができる。
ここで他元素化合物はタングステン化合物や、モリブデン化合物や、クロム化合物とすることができる。さらに具体的には、タングステン酸化物やモリブデン酸化物やクロム酸化物を用いることができる。
ここで他元素化合物はタングステン化合物や、モリブデン化合物や、クロム化合物とすることができる。さらに具体的には、タングステン酸化物やモリブデン酸化物やクロム酸化物を用いることができる。
<原 料>
本発明の二酸化バナジウムの製造方法では、原料として五酸化バナジウムと常温で固体の有機物とを用いる。
常温で固体の有機物としては、特に限定はなく、常温で固体の有機ポリマーや常温で個体の脂肪族アルコール、芳香族アルコール、カルボン酸、カルボン酸エステル、アミン、アミド等を用いることができる。
常温で固体の有機ポリマーとしては、炭化水素(パラフィンワックス)やポリオレフィン系高分子(例えばポリエチレンやポリプロピレン等)、セルロース系高分子、フッ素置換炭化水素(例えばポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等)、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、アクリル系樹脂等が挙げられる。
本発明の二酸化バナジウムの製造方法では、原料として五酸化バナジウムと常温で固体の有機物とを用いる。
常温で固体の有機物としては、特に限定はなく、常温で固体の有機ポリマーや常温で個体の脂肪族アルコール、芳香族アルコール、カルボン酸、カルボン酸エステル、アミン、アミド等を用いることができる。
常温で固体の有機ポリマーとしては、炭化水素(パラフィンワックス)やポリオレフィン系高分子(例えばポリエチレンやポリプロピレン等)、セルロース系高分子、フッ素置換炭化水素(例えばポリテトラフルオロエチレンやポリフッ化ビニリデン等)、ナイロン、ビニロン、ポリアセタール、ポリビニルアルコール、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、アクリル系樹脂等が挙げられる。
<二酸化バナジウムの製造方法>
原料となる五酸化バナジウムと、常温で固体の有機物とを乾式で摩砕する。これにより、図1に示すように、五酸化バナジウム粒子1bの外側にメカノケミカル的に活性化された活性化層1aが形成された活性化五酸化バナジウム粒子1となる。活性化層1aでは五酸化バナジウムの結晶構造が切断されてラジカルとなっていたり、水酸基が形成されたりしており、化学的に安定であった五酸化バナジウムが化学的に不安定な状態となっている。一方、常温で固体の有機物の結晶構造も、摩砕によって表面がメカノケミカル的に活性化される。すなわち、有機物結晶には各格子点が存在し、結晶の不可逆的なひずみは分子のひずみを引き起こす。限界を超えた変形は分子の破断、すなわち分解が起こる。例えば有機物が有機ポリマーの場合には、下式の(1)や(2)の反応が生ずる(図中Rは炭化水素鎖を示し、Xは置換基を示す)。
原料となる五酸化バナジウムと、常温で固体の有機物とを乾式で摩砕する。これにより、図1に示すように、五酸化バナジウム粒子1bの外側にメカノケミカル的に活性化された活性化層1aが形成された活性化五酸化バナジウム粒子1となる。活性化層1aでは五酸化バナジウムの結晶構造が切断されてラジカルとなっていたり、水酸基が形成されたりしており、化学的に安定であった五酸化バナジウムが化学的に不安定な状態となっている。一方、常温で固体の有機物の結晶構造も、摩砕によって表面がメカノケミカル的に活性化される。すなわち、有機物結晶には各格子点が存在し、結晶の不可逆的なひずみは分子のひずみを引き起こす。限界を超えた変形は分子の破断、すなわち分解が起こる。例えば有機物が有機ポリマーの場合には、下式の(1)や(2)の反応が生ずる(図中Rは炭化水素鎖を示し、Xは置換基を示す)。
またラジカルが発生すると、水素原子をもつポリマーは式(3)〜(7)にみられるような反応をする。これを酸化分解反応という。
さらに、酸化分解反応の停止反応として下記式(8)(9)のような反応が起こる。すなわち、式(8)ではラジカル同士が再び結合し、式(9)では分子鎖切断がおこる。
このようにしてメカノケミカル的に活性化された有機物により、メカノケミカル的に活性化された五酸化バナジウムがどのような反応機構で還元されるかは、必ずしも明確にはなっていないが、上記のような各種の活性種と、メカノケミカル的に表面が活性化されたが五酸化バナジウムとが反応することにより、五酸化バナジウムは二酸化バナジウムまで還元される。
五酸化バナジウムと、常温で固体の有機物との混合物の摩砕は、乾式で行うことを要する。メカノケミカル的な活性化を行うために、摩砕は衝撃、摩擦、圧縮、剪断等の各種の力を複合的に作用させることが効果的である。このような作用を行うことができる装置としては、ボールミル、振動ミル、遊星ミル、媒体攪拌型ミル等の混合装置ボール媒体ミル、ローラーミル、乳鉢等の粉砕機などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、被粉砕物に対し、主として衝撃、摩砕等の力を作用させることができるジェット粉砕機等も用いることができる。ジェット粉砕機で粉砕すれば、圧縮力、せん断力、衝撃力等を加えることができ、メカノケミカル的な活性化を効果的に行うことができる。
また、摩砕においては、粒度分布の経時変化がなくなるまで、摩砕することが好ましい。粒度分布の経時変化がなくなるまで摩砕するということは、粒子が摩砕によって細かくできる限界に達していると考えられ、粒子表面のメカノケミカル的な活性化が最も進行した状態となっている。
混合物の摩砕が終了したら、有機物を取り除くために、これを溶解することができる有機溶媒で洗浄し、ろ過を行う。洗浄とろ過を繰り返したのち、乾燥させることにより、二酸化バナジウムを得る。有機溶媒としては、エタノール、メタノール、アセトン、ヘキサン、トルエンなどが挙げられる。
<他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法>
他元素ドープされた二酸化バナジウムを製造するには、五酸化バナジウムと、常温で固体の有機物の他に、ドープしようとする元素の化合物を添加し、乾式で摩砕すればよい。このことにより、極めて容易に、他元素でドープされた二酸化バナジウムを得ることができる。他元素としては4f電子を有する金属の化合物が好ましい。こうであれば、二酸化バナジウムの相転移温度を下げることができるため、相転移温度の制御が可能となり、さらには蓄熱材料として適切な相転移温度まで引き下げることも可能となる。4f電子を有する金属の化合物としては、例えばタングステン化合物や、モリブデン化合物や、クロム化合物が挙げられる。さらに具体的には、タングステン酸化物、タングステン酸、タングステン酸塩、モリブデン酸化物、モリブデン酸、モリブデン酸塩、クロム酸化物、クロム酸、クロム酸塩等を用いることができる。
他元素ドープされた二酸化バナジウムを製造するには、五酸化バナジウムと、常温で固体の有機物の他に、ドープしようとする元素の化合物を添加し、乾式で摩砕すればよい。このことにより、極めて容易に、他元素でドープされた二酸化バナジウムを得ることができる。他元素としては4f電子を有する金属の化合物が好ましい。こうであれば、二酸化バナジウムの相転移温度を下げることができるため、相転移温度の制御が可能となり、さらには蓄熱材料として適切な相転移温度まで引き下げることも可能となる。4f電子を有する金属の化合物としては、例えばタングステン化合物や、モリブデン化合物や、クロム化合物が挙げられる。さらに具体的には、タングステン酸化物、タングステン酸、タングステン酸塩、モリブデン酸化物、モリブデン酸、モリブデン酸塩、クロム酸化物、クロム酸、クロム酸塩等を用いることができる。
以下、本発明を具体化した実施例について、詳細に説明する。
<二酸化バナジウムの製造>
(実施例1〜3)
実施例1〜3では、図2に示す工程によって二酸化バナジウムを製造した。すなわち、五酸化バナジウム(V2O5 関東化学株式会社製試薬)と、パラフィンワックス(PW化学式CnH2n+2:n=18〜46、分子量:254〜646、融点:56〜58℃、関東化学株式会社製)とを所定の重量割合(実施例1ではV2O5:PW=10:1、実施例2では20:1、実施例3では30:1)で秤取り、80mlジルコニア製容器に入れ、φ15mm及びφ5mmのジルコニア製ボールを6個ずつ入れて遊星ボールミルによる摩砕を行った(摩砕工程S11)。摩砕工程S11終了後、摩砕物をふるいにかけて摩砕粉とボールを分離し、分離した摩砕粉をビーカーに入れ、さらにヘキサン(又はジエチルエーテル)を加えてスターラーで30分撹拌した後、遠心分離により固液分離した(洗浄工程S12)。この洗浄工程S12を2回繰り返した後、洗浄後の粉体を一晩120℃で真空乾燥を行い、実施例1の二酸化バナジウム粉末を得た。
<二酸化バナジウムの製造>
(実施例1〜3)
実施例1〜3では、図2に示す工程によって二酸化バナジウムを製造した。すなわち、五酸化バナジウム(V2O5 関東化学株式会社製試薬)と、パラフィンワックス(PW化学式CnH2n+2:n=18〜46、分子量:254〜646、融点:56〜58℃、関東化学株式会社製)とを所定の重量割合(実施例1ではV2O5:PW=10:1、実施例2では20:1、実施例3では30:1)で秤取り、80mlジルコニア製容器に入れ、φ15mm及びφ5mmのジルコニア製ボールを6個ずつ入れて遊星ボールミルによる摩砕を行った(摩砕工程S11)。摩砕工程S11終了後、摩砕物をふるいにかけて摩砕粉とボールを分離し、分離した摩砕粉をビーカーに入れ、さらにヘキサン(又はジエチルエーテル)を加えてスターラーで30分撹拌した後、遠心分離により固液分離した(洗浄工程S12)。この洗浄工程S12を2回繰り返した後、洗浄後の粉体を一晩120℃で真空乾燥を行い、実施例1の二酸化バナジウム粉末を得た。
[評 価]
上記のようにして製造した実施例1〜3の二酸化バナジウムについて、XRD測定、DSC測定及びTG-DTA測定を行った。XRDについてはX線回折装置(RINT1000,Rigaku社製)を用い,印加電圧40 kV, 印加電流 40mA, 測定範囲 10〜90 °, アタッチメント回転速度60 rpmの条件で測定を行った。また、DSCについては示差走査熱量計(Thermo Plus DSC8230,Rigak社製)を用い、昇温・降温速度 10 ℃/min、サイクル数3回の条件で測定を行った。さらに、TG-DTAについては熱重量分析-示差熱分析装置熱重量分析-示差熱分析装置(Thermo Plus TG8120,Rigak社製)を用い、純空気ガスフローしながら昇温速度10℃/minで測定を行った。
上記のようにして製造した実施例1〜3の二酸化バナジウムについて、XRD測定、DSC測定及びTG-DTA測定を行った。XRDについてはX線回折装置(RINT1000,Rigaku社製)を用い,印加電圧40 kV, 印加電流 40mA, 測定範囲 10〜90 °, アタッチメント回転速度60 rpmの条件で測定を行った。また、DSCについては示差走査熱量計(Thermo Plus DSC8230,Rigak社製)を用い、昇温・降温速度 10 ℃/min、サイクル数3回の条件で測定を行った。さらに、TG-DTAについては熱重量分析-示差熱分析装置熱重量分析-示差熱分析装置(Thermo Plus TG8120,Rigak社製)を用い、純空気ガスフローしながら昇温速度10℃/minで測定を行った。
実施例1の二酸化バナジウム粉末についての摩砕時間ごとのXRD測定結果を図3に示す。なお、比較のために市販VO2製のナノワイヤー(シグマ アルドリッチ社製)と市販の五酸化バナジウム(V2O5 関東化学株式会社製)のXRDも測定した。図3から、摩砕時間が3時間において、すでにV2O5のピークがほぼ消失し、VO2に変化していることが分かった。以上の結果から、五酸化バナジウムV2O5とパラフィンワックスPWを遊星ボールミルで摩砕することにより、五酸化バナジウムは二酸化バナジウムに還元されることが分かった。
また、実施例1及び市販の五酸化バナジウムについての昇温条件及び降温条件におけるDSCの測定結果を図4に示す。さらに、DSCの測定結果から求められた相転移温度及び潜熱について表1に示す。
図4に示すように、市販のVO2では、昇温時では50℃、降温時では70℃にピークが認められた。これは、VO2における単斜晶系の結晶相−正方晶系の結晶相間の相転移に基づくものである。また、その時の潜熱は約18J/gであった(表1)。また、実施例1においても、摩砕時間が長くなるにつれて、VO2の場合とほぼ同じ位置にピークが現れており、V2O5とパラフィンワックスPWの混合物を摩砕することによってV2O5がVO2に還元されることが支持された。また、VO2の生成が進行するにしたがって、潜熱もVO2の値に近づいた(表1参照)。
V2O5とパラフィンワックスPWの混合比を変えた実施例1〜3におけるXRD測定結果を図5に示す(摩砕時間はすべて3時間とした)。この図から、V2O5とパラフィンワックスPWの質量混合比が10:1の実施例1では、原料V2O5のピークが確認できるが、20:1の実施例2及び30:1の実施例3では、VO2のピーク以外は確認できなかった。これは、パラフィンワックスPWの混合割合が大きいと、パラフィンワックスPWが緩衝材となり、V2O5粉体に機械的エネルギーが伝わり難く、メカノケミカル効果による表面の活性化が進行し難く、このため、V2O5の還元がされ難かったものと考えられる。これに対して、パラフィンワックスの混合比を小さくした場合、V2O5粉体に機械的エネルギーが伝わり易く、メカノケミカル効果による表面の活性化が迅速に進行した結果、V2O5の還元がより進んだものと考えられる。
また、実施例1〜3及び市販のV2O5についての昇温条件及び降温条件におけるDSCの測定結果を図6に示す(摩砕時間はすべて3時間とした)。さらに、DSCの測定結果から求められた相転移温度及び潜熱について表2に示す。
図6に示すように、市販のVO2では、昇温時では50℃、降温時では70℃に結晶相間の相転移に基づくピークが認められた。また、実施例1〜3においても、VO2の場合とほぼ同じ位置にピークが現れており、V2O5とパラフィンワックスPWの混合物を摩砕することによってV2O5がVO2に還元されることが支持されたが、ピーク強度は実施例1(V2O5:PW=10:1)<実施例2(V2O5:PW=20:1)<実施例3(V2O5:PW=30:1)となった。これは、先にも述べたように、パラフィンワックスPWの混合割合が大きいと、パラフィンワックスPWが緩衝材となり、V2O5粉体に機械的エネルギーが伝わり難く、メカノケミカル効果による表面の活性化が進行し難く、このため、V2O5の還元がされ難かったものと考えられる。これに対して、パラフィンワックスの混合比を小さくした場合、V2O5粉体に機械的エネルギーが伝わり易く、メカノケミカル効果による表面の活性化が迅速に進行した結果、V2O5の還元がより進んだものと考えられる。 また、VO2の生成に起因すると考えられる潜熱の値も、実施例1(V2O5:PW=10:1)<実施例2(V2O5:PW=20:1)<実施例3(V2O5:PW=30:1)となった(表2)。
また、実施例3において遊星ボールミルによる摩砕時間ごとのXRD及びDSCの測定を行った。その結果、XRD測定においては図7に示すように、摩砕時間が長くなるにつれてV2O5に起因するピークが徐々に小さくなり、2時間の摩砕でV2O5はすべてVO2に変化することが分かった。また、DSC測定においては、図8に示すように、摩砕時間が長くなるにつれてVO2の相転移に起因するピークが大きくなっており、V2O5がVO2に変化するというXRDの測定結果を裏付ける結果となった。また、VO2の生成が進行するにしたがって、VO2に起因すると考えられる潜熱も大きくなった(表3参照)。
また、実施例3の二酸化バナジウムVO2と、市販のVO2ナノワイヤーについて大気雰囲気下でのTG-DTA測定を繰り返し行った。
その結果、実施例3の二酸化バナジウムVO2では、図9に示すように、50℃〜200℃の1回目及び2回目とも吸熱ピークあり相転移が起こっていることが確認できた。したがって、50℃〜200℃の温度域ならば純空気中でも酸化せずに安定であることが確認できた。一方、50℃〜500℃の1回目では約300℃以上で重量が増加して発熱ピークが確認でき、2回目の結果では相転移の吸熱ピークが確認できなかった。このことから、実施例3の二酸化バナジウムVO2は300℃以上で酸化が起こることが推定された。
また、市販のVO2ナノワイヤーについても、図10に示すように、50℃〜200℃の温度範囲では、実施例3の二酸化バナジウムVO2と同様の温度で1回目及び2回目とも吸熱ピークあり相転移が起こっていることが確認できるのに対し、50℃〜500℃の1回目では約300℃以上で重量が増加して発熱ピークが確認でき、2回目の結果では相転移の吸熱ピークが確認できなかった。
以上の結果から、実施例3の二酸化バナジウムVO2は、市販のVO2ナノワイヤーと同様の熱的挙動を示すことが分かった。
その結果、実施例3の二酸化バナジウムVO2では、図9に示すように、50℃〜200℃の1回目及び2回目とも吸熱ピークあり相転移が起こっていることが確認できた。したがって、50℃〜200℃の温度域ならば純空気中でも酸化せずに安定であることが確認できた。一方、50℃〜500℃の1回目では約300℃以上で重量が増加して発熱ピークが確認でき、2回目の結果では相転移の吸熱ピークが確認できなかった。このことから、実施例3の二酸化バナジウムVO2は300℃以上で酸化が起こることが推定された。
また、市販のVO2ナノワイヤーについても、図10に示すように、50℃〜200℃の温度範囲では、実施例3の二酸化バナジウムVO2と同様の温度で1回目及び2回目とも吸熱ピークあり相転移が起こっていることが確認できるのに対し、50℃〜500℃の1回目では約300℃以上で重量が増加して発熱ピークが確認でき、2回目の結果では相転移の吸熱ピークが確認できなかった。
以上の結果から、実施例3の二酸化バナジウムVO2は、市販のVO2ナノワイヤーと同様の熱的挙動を示すことが分かった。
(実施例4及び実施例5)
実施例4及び実施例5では、遊星ボールミルによる摩砕工程をアルゴン雰囲気下において行った。以下、詳述する。
五酸化バナジウム(V2O5 関東化学株式会社製試薬)と、パラフィンワックス(PW化学式CnH2n+2:n=18〜46、分子量:254〜646、融点:56〜58℃、関東化学株式会社製)とを所定の重量割合(実施例4ではV2O5:PW=10:1、実施例5では30:1)で秤取り、実施例1〜3の場合と同様の条件でジルコニア製容器内で遊星ボールミルによる摩砕を行い(摩砕工程S11)、さらに洗浄工程S12を行い、実施例4及び実施例5の二酸化バナジウム粉末を得た。
実施例4及び実施例5では、遊星ボールミルによる摩砕工程をアルゴン雰囲気下において行った。以下、詳述する。
五酸化バナジウム(V2O5 関東化学株式会社製試薬)と、パラフィンワックス(PW化学式CnH2n+2:n=18〜46、分子量:254〜646、融点:56〜58℃、関東化学株式会社製)とを所定の重量割合(実施例4ではV2O5:PW=10:1、実施例5では30:1)で秤取り、実施例1〜3の場合と同様の条件でジルコニア製容器内で遊星ボールミルによる摩砕を行い(摩砕工程S11)、さらに洗浄工程S12を行い、実施例4及び実施例5の二酸化バナジウム粉末を得た。
[評 価]
上記のようにして製造した実施例4及び5について、XRD測定及びDSC測定を行った。測定条件は実施例1〜3の場合と同様である。
上記のようにして製造した実施例4及び5について、XRD測定及びDSC測定を行った。測定条件は実施例1〜3の場合と同様である。
実施例4及び5の二酸化バナジウム粉末についての摩砕時間ごとのXRD測定結果を図11に示す。この図から、実施例4(すなわち質量比V2O5:PW=10:1)及び実施例5(すなわち質量比V2O5:PW=30:1)ともに、V2O5のピークがほぼ消失し、V2O5に変化していることが分かった。以上の結果を大気雰囲気下で摩砕を行った実施例1〜3の場合(図5及び図6参照)と比較すると、大気雰囲気下で摩砕を行う場合よりもアルゴンガス雰囲気下で摩砕を行った方が、二酸化バナジウムに還元され易いことが分かった。
また、アルゴン下で摩砕を行った実施例4及び実施例5、大気雰囲気下で摩砕を行った実施例3及び市販の五酸化バナジウムについての昇温条件及び降温条件におけるDSCの測定結果を図12に示す。さらに、DSCの測定結果から求められた相転移温度及び潜熱について表4に示す。
図12から、V2O5とパラフィンワックスPWの混合物をアルゴン雰囲気下において摩砕を行っても、大気雰囲気下における摩砕と同様、昇温時ではおよそ70℃、降温時ではおよそ50℃に、結晶相間の相転移に基づくピークが認められた。また、VO2の生成に起因すると考えられる潜熱の値も、認められた(表4参照)。
(実施例6〜8)
実施例6〜8では、五酸化バナジウムV2O5を還元するための有機物として、1−ヘキサデカノールを用いた。以下、詳述する。
五酸化バナジウム(V2O5 関東化学株式会社製試薬)と、1−ヘキサデカノール(HD 和光純薬株式会社製)とを所定の重量割合(実施例6ではV2O5:1−ヘキサデカノール=10:1、実施例7では20:1、実施例8では30:1)で秤取り、実施例1〜3の場合と同様の条件でジルコニア製容器内で遊星ボールミルによる摩砕をボールミルの回転数を300rpmとして3時間行い(摩砕工程S11)、さらに洗浄工程S12を行い、実施例6〜8の二酸化バナジウム粉末を得た。
実施例6〜8では、五酸化バナジウムV2O5を還元するための有機物として、1−ヘキサデカノールを用いた。以下、詳述する。
五酸化バナジウム(V2O5 関東化学株式会社製試薬)と、1−ヘキサデカノール(HD 和光純薬株式会社製)とを所定の重量割合(実施例6ではV2O5:1−ヘキサデカノール=10:1、実施例7では20:1、実施例8では30:1)で秤取り、実施例1〜3の場合と同様の条件でジルコニア製容器内で遊星ボールミルによる摩砕をボールミルの回転数を300rpmとして3時間行い(摩砕工程S11)、さらに洗浄工程S12を行い、実施例6〜8の二酸化バナジウム粉末を得た。
[評 価]
上記のようにして製造した実施例6〜8の二酸化バナジウム粉末についてXRD測定を行った。また、市販VO2ナノワイヤーと市販V2O5のXRD測定結果を示した。測定条件は実施例1〜3の場合と同様である。
その結果、図13に示すように、V2O5:1−ヘキサデカノール=10:1の実施例6ではV2O5のピークのみが確認され、VO2のピークは僅かにしか確認されなかった。これに対してV2O5:1−ヘキサデカノール=20:1の実施例7及びV2O5:1−ヘキサデカノール=30:1の実施例8では、V2O5のピークが消失し、VO2のピークのみが確認された。V2O5に対する1−ヘキサデカノールの仕込み割合が大きい方がVO2への還元がされ難い理由については、必ずしも解明されているわけではないが、V2O5に対する1−ヘキサデカノールの仕込み割合が大きい方場合には、柔らかい1−ヘキサデカノールが緩衝材として働き、機械的エネルギーがV2O5粉体に伝わり難いためであると考えられる。なお、V2O5の還元剤としてパラフィンワックスPWを用いた実施例2(V2O5:PW= 20:1)と、還元剤として1−ヘキサデカノールを用いた実施例7(V2O5:HD= 20:1)とを比較した場合、実施例2ではで未反応のV2O5のピークは確認できないのに対し、実施例7では未反応のV2O5のピークが確認されたことから、パラフィンワックスの方が1−ヘキサデカノールよりもV2O5の還元剤としての機能に優れているといえる。
上記のようにして製造した実施例6〜8の二酸化バナジウム粉末についてXRD測定を行った。また、市販VO2ナノワイヤーと市販V2O5のXRD測定結果を示した。測定条件は実施例1〜3の場合と同様である。
その結果、図13に示すように、V2O5:1−ヘキサデカノール=10:1の実施例6ではV2O5のピークのみが確認され、VO2のピークは僅かにしか確認されなかった。これに対してV2O5:1−ヘキサデカノール=20:1の実施例7及びV2O5:1−ヘキサデカノール=30:1の実施例8では、V2O5のピークが消失し、VO2のピークのみが確認された。V2O5に対する1−ヘキサデカノールの仕込み割合が大きい方がVO2への還元がされ難い理由については、必ずしも解明されているわけではないが、V2O5に対する1−ヘキサデカノールの仕込み割合が大きい方場合には、柔らかい1−ヘキサデカノールが緩衝材として働き、機械的エネルギーがV2O5粉体に伝わり難いためであると考えられる。なお、V2O5の還元剤としてパラフィンワックスPWを用いた実施例2(V2O5:PW= 20:1)と、還元剤として1−ヘキサデカノールを用いた実施例7(V2O5:HD= 20:1)とを比較した場合、実施例2ではで未反応のV2O5のピークは確認できないのに対し、実施例7では未反応のV2O5のピークが確認されたことから、パラフィンワックスの方が1−ヘキサデカノールよりもV2O5の還元剤としての機能に優れているといえる。
<他元素がドープされた二酸化バナジウムVO2の製造>
二酸化バナジウムVO2の相転移温度は他元素ドープによって変動することが知られており、蓄熱材として利用する場合には、低温から高温まで幅広い温度域での利用が望まれている。このため、メカノケミカル反応を利用した本発明において、二酸化バナジウムVO2の他元素によるドーピングを行い、相転移温度の変化を調べた。
二酸化バナジウムVO2の相転移温度は他元素ドープによって変動することが知られており、蓄熱材として利用する場合には、低温から高温まで幅広い温度域での利用が望まれている。このため、メカノケミカル反応を利用した本発明において、二酸化バナジウムVO2の他元素によるドーピングを行い、相転移温度の変化を調べた。
(実施例9〜11)
実施例9〜11では、図14に示す工程によって他元素がドープされた二酸化バナジウムを製造した。以下、詳述する。
五酸化バナジウム(V2O5 関東化学株式会社製試薬)と、パラフィンワックス(PW化学式CnH2n+2:n=18〜46、分子量:254〜646、融点:56〜58℃、関東化学株式会社製)と、ドープしようとする元素の化合物(実施例9では酸化タングステンWO3 関東化学株式会社製、実施例10では酸化モリブデンMoO3 関東化学株式会社製、実施例11では酸化クロムCr2O3 関東化学株式会社製) を表5に示す重量割合で秤取り、80mlジルコニア製容器に入れ、φ15mm及びφ5mmのジルコニア製ボールを6個ずつ入れて遊星ボールミルによる摩砕を行った(摩砕工程S21)。摩砕工程S11終了後、摩砕物をふるいにかけて摩砕粉とボールを分離し、分離した摩砕粉をビーカーに入れ、さらにヘキサン(又はジエチルエーテル)を加えてスターラーで30分撹拌した後、遠心分離により固液分離した(洗浄工程S22)。この洗浄工程S12を2回繰り返した後、洗浄後の粉体を一晩120℃で真空乾燥を行い、実施例9〜11の他元素でドープされた二酸化バナジウム粉末を得た。
実施例9〜11では、図14に示す工程によって他元素がドープされた二酸化バナジウムを製造した。以下、詳述する。
五酸化バナジウム(V2O5 関東化学株式会社製試薬)と、パラフィンワックス(PW化学式CnH2n+2:n=18〜46、分子量:254〜646、融点:56〜58℃、関東化学株式会社製)と、ドープしようとする元素の化合物(実施例9では酸化タングステンWO3 関東化学株式会社製、実施例10では酸化モリブデンMoO3 関東化学株式会社製、実施例11では酸化クロムCr2O3 関東化学株式会社製) を表5に示す重量割合で秤取り、80mlジルコニア製容器に入れ、φ15mm及びφ5mmのジルコニア製ボールを6個ずつ入れて遊星ボールミルによる摩砕を行った(摩砕工程S21)。摩砕工程S11終了後、摩砕物をふるいにかけて摩砕粉とボールを分離し、分離した摩砕粉をビーカーに入れ、さらにヘキサン(又はジエチルエーテル)を加えてスターラーで30分撹拌した後、遠心分離により固液分離した(洗浄工程S22)。この洗浄工程S12を2回繰り返した後、洗浄後の粉体を一晩120℃で真空乾燥を行い、実施例9〜11の他元素でドープされた二酸化バナジウム粉末を得た。
[評 価]
上記のようにして製造した実施例9〜11について、XRD測定、DSC測定及びTG-DTA測定を行った。測定条件は実施例1〜3の場合と同様であり、説明を省略する
上記のようにして製造した実施例9〜11について、XRD測定、DSC測定及びTG-DTA測定を行った。測定条件は実施例1〜3の場合と同様であり、説明を省略する
実施例9〜11についてのXRD測定結果を図15に示す。なお、比較のためにドープ元素酸化物を添加していない前述の実施例3、市販VO2製のナノワイヤー(シグマ アルドリッチ社製)、及び市販の五酸化バナジウム(V2O5 関東化学株式会社製)のXRDも測定した。この図から、他元素ドープした実施例9〜11とドープ酸化物の添加がなかった実施例3との間に相違はなく、VO2の結晶構造が保持されていることが分かった。
また実施例3、9〜11及び市販の五酸化バナジウムについての昇温条件及び降温条件におけるDSCの測定結果を図16に示す。
図16から、WO3やMoO3やCr2O3でドーピンされた実施例9〜11では、ドーピングされていない実施例3よりも昇温時における相転移温度が低くなることが分かった。すなわち、WO3やMoO3やCr2O3でドーピンすることにより相転移温度を制御できることが分かった。
図16から、WO3やMoO3やCr2O3でドーピンされた実施例9〜11では、ドーピングされていない実施例3よりも昇温時における相転移温度が低くなることが分かった。すなわち、WO3やMoO3やCr2O3でドーピンすることにより相転移温度を制御できることが分かった。
(実施例12)
前述の実施例9では他元素化合物としてWO3を1at%としたが、実施例12では、WO3の添加量を5at%とした。その他の製造条件については実施例9と同じであり、説明を省略する。
前述の実施例9では他元素化合物としてWO3を1at%としたが、実施例12では、WO3の添加量を5at%とした。その他の製造条件については実施例9と同じであり、説明を省略する。
[評 価]
上記のようにWO3の添加量を5at%として製造した実施例12について、XRD測定及びDSC測定を行った。また、比較のためにドーピングをしていない実施例3及びWO3の添加量を1at%として製造した実施例9についても測定を行った。測定条件は実施例1〜3の場合と同様であり、説明を省略する
上記のようにWO3の添加量を5at%として製造した実施例12について、XRD測定及びDSC測定を行った。また、比較のためにドーピングをしていない実施例3及びWO3の添加量を1at%として製造した実施例9についても測定を行った。測定条件は実施例1〜3の場合と同様であり、説明を省略する
実施例3、9及び12についてのXRD測定結果を図17に示す。なお、比較のためにドープ元素酸化物を添加していない前述の実施例3、市販VO2製のナノワイヤー(シグマ アルドリッチ社製)のXRDも測定した。この図から、WO3の添加量を5at%として製造した実施例12も、WO3の添加量を1at%として製造した実施例9と同様、ドープ酸化物の添加がなかった実施例3との場合と相違はなく、VO2の結晶構造が保持されていることがわかった。
また、実施例3、9及び12についての昇温条件及び降温条件におけるDSCの測定結果を図18に示す。さらに、DSCの測定結果から求められた相転移温度及び潜熱について表6に示す。
図18及び表6から、WO3でドーピングされた実施例3、9では、ドーピングされていない実施例3よりも相転移温度が低くなることが分かった。また、WO3の添加量を5at%として製造した実施例12は、WO3の添加量を1at%として製造した実施例9よりも昇温時における相転移温度が低くなることが分かった。
(実施例13)
実施例13では、図19に示すように、まずWO3とV2O5とを遊星ボールミルで3時間摩砕を行った後(摩砕工程S31)、さらにパラフィンワックスPWを添加して遊星ボールミルによる摩砕を行った(摩砕工程S32)。その後、ヘキサンで洗浄し(洗浄工程S33)Wでドープされた二酸化バナジウムを製造した。原料の仕込み比は実施例9と同様であり、摩砕工程S31、S32及び洗浄工程S33の工程も実施例9と同様である。
実施例13では、図19に示すように、まずWO3とV2O5とを遊星ボールミルで3時間摩砕を行った後(摩砕工程S31)、さらにパラフィンワックスPWを添加して遊星ボールミルによる摩砕を行った(摩砕工程S32)。その後、ヘキサンで洗浄し(洗浄工程S33)Wでドープされた二酸化バナジウムを製造した。原料の仕込み比は実施例9と同様であり、摩砕工程S31、S32及び洗浄工程S33の工程も実施例9と同様である。
(実施例14)
実施例14では、図20に示すように、まずWO3のみを遊星ボールミルで3時間摩砕を行った後(摩砕工程S41)、さらにV2O5 とパラフィンワックスPWを添加して遊星ボールミルによる摩砕を行った(摩砕工程S42)を遊星ボールミルで3時間摩砕を行った。その後、ヘキサンで洗浄し(洗浄工程S43)Wでドープされた二酸化バナジウムを製造した。原料の仕込み比は実施例9と同様であり、摩砕工程S41、S42及び洗浄工程S43の工程も実施例9と同様である。
実施例14では、図20に示すように、まずWO3のみを遊星ボールミルで3時間摩砕を行った後(摩砕工程S41)、さらにV2O5 とパラフィンワックスPWを添加して遊星ボールミルによる摩砕を行った(摩砕工程S42)を遊星ボールミルで3時間摩砕を行った。その後、ヘキサンで洗浄し(洗浄工程S43)Wでドープされた二酸化バナジウムを製造した。原料の仕込み比は実施例9と同様であり、摩砕工程S41、S42及び洗浄工程S43の工程も実施例9と同様である。
(実施例15)
実施例15では、図21に示すように、まずWO3とパラフィンワックスPWとを添加して遊星ボールミルで3時間摩砕を行った後(摩砕工程S51)、さらにV2O5 とパラフィンワックスPWとを添加して遊星ボールミルによる摩砕を行った(摩砕工程S42)を遊星ボールミルで3時間摩砕を行った。その後、ヘキサンで洗浄し(洗浄工程S43)Wでドープされた二酸化バナジウムを製造した。原料の仕込み比は実施例9と同様であり、摩砕工程S51、S52及び洗浄工程S53の工程も実施例9と同様である。なお、2回のパラフィンワックスの投入量は同じ量とした。
実施例15では、図21に示すように、まずWO3とパラフィンワックスPWとを添加して遊星ボールミルで3時間摩砕を行った後(摩砕工程S51)、さらにV2O5 とパラフィンワックスPWとを添加して遊星ボールミルによる摩砕を行った(摩砕工程S42)を遊星ボールミルで3時間摩砕を行った。その後、ヘキサンで洗浄し(洗浄工程S43)Wでドープされた二酸化バナジウムを製造した。原料の仕込み比は実施例9と同様であり、摩砕工程S51、S52及び洗浄工程S53の工程も実施例9と同様である。なお、2回のパラフィンワックスの投入量は同じ量とした。
また、実施例13〜15について、XRD測定及びDSC測定を行った。測定条件は実施例3の場合と同様である。その結果、XRD測定及びDSC測定ともに、実施例3の場合と特に変わりは認められず、同様にWによるドーピングが可能であり、相転移温度を下げることができた。
(実施例16及び実施例17)
実施例16では、タングステン源としてタングステン酸H2WO4を用いた。また、実施例17では、タングステン源としてタングステン酸ナトリウムNa2WO4を用いた。その他の製造条件については実施例3と同様であり、説明を省略する。
実施例16では、タングステン源としてタングステン酸H2WO4を用いた。また、実施例17では、タングステン源としてタングステン酸ナトリウムNa2WO4を用いた。その他の製造条件については実施例3と同様であり、説明を省略する。
実施例16及び実施例17についてXRD測定及びDSC測定を行った。測定条件は実施例3の場合と同様である。XRD測定の結果を実施例3の結果も含めて図22に示す。実施例16及び実施例17も実施例3の場合と同様、VO2の回折パターンと同様の結果となった。
また、DSC測定結果は、図23に示すように、実施例3よりも相転移温度がさらに低くなった。このことから、タングステンのドーピング剤として酸化タングステンWO3以外にタングステン酸H2WO4やタングステン酸ナトリウムNa2WO4も使用可能であることが分かった。
また、DSC測定結果は、図23に示すように、実施例3よりも相転移温度がさらに低くなった。このことから、タングステンのドーピング剤として酸化タングステンWO3以外にタングステン酸H2WO4やタングステン酸ナトリウムNa2WO4も使用可能であることが分かった。
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本発明の二酸化バナジウムの製造方法によれば、蓄熱材料として利用できる二酸化バナジウムを単純な製造工程で、しかも焼成や加熱等の熱エネルギーを与える工程無に提供することができる。また、本発明の他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法によれば、二酸化バナジウムの相転移温度を制御することができるため、目的に応じた、適切な相転移温度を有する二酸化バナジウムを提供することができる。
S11,S21,S31,S32,S41,S42…摩砕工程
S12,S22,S33,S43…洗浄工程
S12,S22,S33,S43…洗浄工程
Claims (8)
- 五酸化バナジウムと常温で固体の有機物との混合物を乾式において摩砕することによって該五酸化バナジウムを還元することを特徴とする二酸化バナジウムの製造方法。
- 前記有機物は常温で固体の炭化水素及び/又は常温で個体の脂肪族アルコールである請求項1に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
- 前記混合物における(前記有機物の質量)/(前記五酸化バナジウムの質量)は0,01以上0.2以下である請求項1又は2に記載の二酸化バナジウムの製造方法。
- 前記摩砕は不活性ガス雰囲気下で行う請求項1乃至3のいずれか1項記載の二酸化バナジウムの製造方法。
- 請求項1の二酸化バナジウムの製造方法における前記混合物に、さらにドーピングしようとする他元素化合物を添加し、乾式において摩砕することを特徴とする、他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法。
- 前記他元素化合物は4f電子を有する金属の化合物である請求項5に記載の他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法。
- 前記他元素化合物はタングステン化合物、モリブデン化合物又はクロム化合物である請求項5又は6に記載の他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法。
- 前記他元素化合物はタングステン酸化物、モリブデン酸化物又はクロム酸化物である請求項5乃至7に記載の他元素ドープされた二酸化バナジウムの製造方法。
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