JP2018129236A - 電気化学セル用空気極、およびそれを含む電気化学セル - Google Patents

電気化学セル用空気極、およびそれを含む電気化学セル Download PDF

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Abstract

【課題】電流−電圧特性に優れた電気化学セル用空気極、およびそれを含む電気化学セルを提供すること。【解決手段】本発明の電気化学用空気極は、燃料極、電解質層、空気極をこの順に配置してなる電気化学セル用空気極であって、上記空気極は、厚みが3μm以上、幅500μm以上であり、上記空気極の断面の、上記空気極と上記電解質層との界面から、上記空気極の上記電解質層が形成されていない面方向へ、上記界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域について、互いに重なり合わない10か所以上の上記長方形領域において、気孔に面した複数の空気極成分粒子の気孔との各界面長さを走査型電子顕微鏡で80個以上測定した前記界面長さの分布が2つ以上のピークを有することを特徴とする。【選択図】なし

Description

本発明は、電気化学セル用空気極、およびそれを含む電気化学セルに関する。
近年、電気化学セルがクリーンエネルギー源として注目されている。電気化学セルのうち、電解質に固体のセラミックを使用している固体酸化物形燃料電池や固体酸化物形電解セルは、作動温度が高いため排熱を利用でき、さらに高効率で電力や水素燃料を得ることができる等の長所を有しており、幅広い分野での活用が期待されている。電気化学セルは、基本構造として、燃料極と空気極との間に電解質層が配置された構造を有する。
特許文献1には、カソードと、当該カソードに隣接する層(電解質層等)との間で生じる剥離を抑制することを目的として、電解質層側に配置され、且つイオン伝導性を有する第1粉体材料で作製された多孔体によって形成された活性層と、前記活性層上に当該活性層と接して配置され、且つ電子伝導性を有する第2粉体材料で作製された多孔体によって形成された集電層と、を含んでおり、第2粉体材料の平均粒径が、第1粉体材料の平均粒径よりも大きい2層構造のカソードを有する固体酸化物形燃料電池が記載されている。
特許文献2には、空気極を構成する活性層と集電層との界面における、電気的な接合性を向上させることを目的として、空気極が、電解質層の他方の面の側に形成された活性層と、この活性層の上に接して形成された第1集電層と、この第1集電層の上に接して形成された第2集電層とを少なくとも備え、活性層は、イオン伝導性を有する材料から構成された粉体の焼結体から構成され、第1集電層は、電子伝導性を有する材料から構成されて平均粒径が0.8μmより小さい粉体の焼結体から構成され、第2集電層は、電子伝導性を有する材料から構成されて平均粒径が0.8μmより大きい粉体の焼結体から構成されている固体酸化物形燃料電池が記載されている。
しかしながら、固体酸化物形燃料電池や固体電解質形電気化学セル等の電気化学セルの効率(出力)については、改善の余地があった。
特開2013−77397号公報 特開2011−19178号公報
従って、本発明の課題は、電流−電圧特性に優れた電気化学セル用空気極、およびそれを含む電気化学セルを提供することにある。
本発明者は、電気化学セル用空気極について、空気極の構造を制御することにより、電流−電圧特性に優れた電気化学セル用空気極、およびそれを含む電気化学セルを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の電気化学セル用空気極は、燃料極、電解質層、空気極をこの順に配置してなる電気化学セル用空気極であって、上記空気極は、厚みが3μm以上、幅500μm以上であり、上記空気極の断面の、上記空気極と上記電解質層との界面から、上記空気極の上記電解質層が形成されていない面方向へ、上記界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域について、互いに重なり合わない10か所以上の上記長方形領域において、気孔に面した複数の空気極成分粒子の気孔との各界面長さを走査型電子顕微鏡で80個以上測定した上記界面長さの分布が2つ以上のピークを有することを特徴とする。
また、本発明の電気化学セルは、燃料極、電解質層、上記空気極をこの順に配置してなる。
さらに、本発明の電気化学セル用空気極は、燃料極、電解質層、バリア層、空気極をこの順に配置してなる電気化学セル用空気極であって、上記空気極は、厚みが3μm以上、幅500μm以上であり、上記空気極の断面の、上記空気極と上記バリア層との界面から、上記空気極の上記バリア層が形成されていない面方向へ、上記界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域について、互いに重なり合わない10か所以上の上記長方形領域において、気孔に面した複数の空気極成分粒子の気孔との各界面長さを走査型電子顕微鏡で80個以上測定した上記界面長さの分布が2つ以上のピークを有することを特徴とする。
さらにまた、本発明の電気化学セルは、燃料極、電解質層、バリア層、上記空気極をこの順に配置してなる。
本発明によれば、電流−電圧特性に優れた電気化学セル用空気極、およびそれを含む電気化学セルを提供できる。
本発明の電気化学セルの一形態である。 本発明の電気化学セルの他の一形態である。 本発明の電気化学セル用空気極の一形態における断面において、空気極と電解質層またはバリア層との界面から、空気極の電解質層および/またはバリア層が形成されていない面方向Sへ、上記界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域1を模式的に表す図である。 本発明の電気化学セル用空気極の一形態における断面において、空気極と電解質層またはバリア層との界面から、空気極の電解質層および/またはバリア層が形成されていない面方向Sへ、上記界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域1、ならびに、空気極の、電解質層および/またはバリア層が形成されていない面から、空気極と電解質層またはバリア層との界面方向Tへ、上記面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域2を模式的に表す図である。 本発明の電気化学セル用空気極の一形態における断面において、空気極と電解質層またはバリア層との界面から、空気極の電解質層および/またはバリア層が形成されていない面方向Sへ、上記界面と垂直方向にW1離れた位置までの範囲3を模式的に表す図である。 本発明の電気化学セル用空気極の一形態における断面において、空気極と電解質層またはバリア層との界面から、空気極の電解質層および/またはバリア層が形成されていない面方向Sへ、上記界面と垂直方向にW1離れた位置までの範囲3、ならびに、空気極の、電解質層および/またはバリア層が形成されていない面から、空気極と電解質層またはバリア層との界面方向Tへ、上記面と垂直方向にW2離れた位置までの範囲4を模式的に表す図である。 実施例の電気化学セル用空気極の断面において走査型電子顕微鏡で測定された、長方形領域1を示した図である(サンプルを適当な大きさに破断し、樹脂包埋後に観察個所まで研磨を行い、研磨面を観察した図)。 実施例の電気化学セル用空気極の断面において走査型電子顕微鏡で測定される、長方形領域1における気孔と空気極成分粒子との界面長さを求める方法を示した図である(サンプルを適当な大きさに破断し、樹脂包埋後に観察個所まで研磨を行い、研磨面を観察した図)。 実施例の電気化学セル用空気極の断面において走査型電子顕微鏡で測定された、長方形領域1における気孔と空気極成分粒子との界面長さの分布を示すヒストグラムである。 実施例の電気化学セル用空気極の断面において走査型電子顕微鏡で測定される、範囲3における気孔の面積円相当径ならびに周長円相当径を求める方法を示した図である(サンプルを適当な大きさに破断し、樹脂包埋後に観察個所まで研磨を行い、研磨面を観察した図)。 実施例の電気化学セル用空気極の断面の走査型電子顕微鏡写真の一例を示す図である(サンプルを観察個所で破断し、その破断面を観察した図)。 実施例の電気化学セル用空気極の断面において走査型電子顕微鏡で観察される、範囲3における空気極成分粒子の面積円相当径ならびに周長円相当径を求める方法を示した図である(サンプルを観察個所で破断し、その破断面を観察した図)。
1.電気化学セル
本発明の電気化学セルは、燃料極、電解質層、空気極をこの順に配置してなる。上記空気極は、厚みが3μm以上、幅500μm以上であり、上記空気極の断面の、上記空気極と上記電解質層との界面から、上記空気極の上記電解質層が形成されていない面方向へ、上記界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域について、互いに重なり合わない10か所以上の上記長方形領域において、気孔に面した複数の空気極成分粒子の気孔との各界面長さを走査型電子顕微鏡で80個以上測定した上記界面長さの分布が2つ以上のピークを有することを特徴とする。
また、本発明の電気化学セルは、燃料極、電解質層、バリア層、上記空気極をこの順に配置してなる。上記空気極は、厚みが3μm以上、幅500μm以上であり、上記空気極の断面の、上記空気極と上記バリア層との界面から、上記空気極の上記バリア層が形成されていない面方向へ、上記界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域について、互いに重なり合わない10か所以上の上記長方形領域において、気孔に面した複数の空気極成分粒子の気孔との各界面長さを走査型電子顕微鏡で80個以上測定した上記界面長さの分布が2つ以上のピークを有することを特徴とする。
本発明の電気化学セルとしては、例えば固体酸化物形燃料電池や固体酸化物形電解セルが挙げられ、固体酸化物形燃料電池が好ましい形態である。上記電気化学セルは、燃料極を支持体とする燃料極支持型セル、電解質層を支持体とする固体電解質支持型セル、空気極を支持体とする空気極支持型セルであってもよい。また、上記電気化学セル用単セルは、金属隔壁から構成され複数の貫通孔を備えた支持基板上に、燃料極と上記電解質層と空気極とが、この順に配置されたメタルサポートセルであってもよいし、あるいは燃料極と、上記電解質層とバリア層と空気極とが、この順に配置されたメタルサポートセルであっても良い。
本発明の電気化学セルは、固体酸化物形燃料電池として用いた場合には、好ましくは、空気極における過電圧が低く、固体酸化物形燃料電池の出力を高めることができる。また、本発明の電気化学セルは、固体酸化物形電解セルとして用いた場合には、好ましくは、低消費電力で高効率の電気分解反応を進めることができる。
図1に、本発明の電気化学セルの一形態としての電気化学セル10を示す。電気化学セル10は、燃料極18、電解質層16、空気極12をこの順に配置してなる電気化学セルである。
また、図2に、本発明の電気化学セルの他の一形態としての電気化学セル20を示す。電気化学セル20は、燃料極28、電解質層26、バリア層24、空気極22をこの順に配置してなる電気化学セルである。
1−1 電解質層
上記電解質層16、26を構成する電解質成分としては、特に限定されず公知の酸化物イオン伝導性材料が使用できるが、ジルコニア系酸化物を主成分として含んでいることが好ましい。本明細書においては、「主成分として含む」とは、電解質100質量%中、例えば50質量%以上、好ましくは60質量%以上含んでいることを指す。
上記電解質層16、26を構成する酸化物イオン伝導性材料としては、例えば、Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属元素、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Ybなどの希土類元素、Inなどのその他の金属元素などを1種または2種以上含有するジルコニア、好ましくはこれらの元素の1種または2種以上を安定化剤として固溶している安定化ジルコニア;さらには、上記ジルコニア(好ましくは安定化ジルコニア)に、Al、TiO、Ta、Nbなどが分散強化剤として添加されたジルコニア等のジルコニア系酸化物;イットリウム、サマリウム、ガドリニウム、イッテルビウム等を含有するセリア等のセリア系酸化物、中でも好ましくはこれらの元素の1種または2種以上が固溶しているドープドセリア;ランタンガレート、およびランタンガレートのランタンまたはガリウムの一部がストロンチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅等で置換されたランタンガレート型ペロブスカイト構造酸化物;などを例示することができる。
上記の中でも、ジルコニア系酸化物が好適であり、より高度な熱的特性、機械的特性、化学的特性および酸化物イオン伝導特性を有する安定化ジルコニアとして、スカンジウム、イットリウム、セリウム、およびイッテルビウムから選択される少なくとも1種の元素で安定化されたものがより好ましい。また、結晶構造として正方晶または立方晶を含む(部分)安定化ジルコニアが好ましい。
ジルコニア系酸化物の中でも、イットリウム、スカンジウム、イッテルビウム等の希土類元素の少なくとも1種の元素(安定化元素ともいう)が固溶することにより結晶構造が安定化している安定化ジルコニアが好ましい。
より好ましい形態としては、安定化ジルコニアを構成するジルコニウムの原子数100モル%に対し、スカンジウムを原子数換算で7.0〜27.5モル%の割合で含有するジルコニア(スカンジア安定化ジルコニア)、原子数換算でスカンジウムを17.0〜25.0モル%、セリウムを0.5〜2.5モル%の割合で含有するジルコニア(スカンジア、セリア安定化ジルコニア)、イットリウムを原子数換算で6.0〜28.0モル%の割合で含有するジルコニア(イットリア安定化ジルコニア)、又はイッテルビウムを原子数換算で6.0〜35.5モル%の割合で含有するジルコニア(イッテルビア安定化ジルコニア)が挙げられる。
さらに好ましい形態としては、安定化ジルコニアを構成するジルコニウムの原子数100モル%に対し、スカンジウムを原子数換算で13.0〜25.0モル%の割合で含有するジルコニア、原子数換算でスカンジウムを17.0〜24.0モル%、セリウムを0.5〜2.0モル%の割合で含有するジルコニア(スカンジア、セリア安定化ジルコニア)、イットリウムを原子数換算で12.0〜28.0モル%の割合で含有するジルコニア、イッテルビウムを原子数換算で12.0〜28.0モル%の割合で含有するジルコニアが好ましい。
特に安定化ジルコニアを構成するジルコニウムの原子数100モル%に対し、イッテルビウムを原子数換算で12.0〜28.0モル%の割合で含有するジルコニアが好ましい。
上記電解質層16、26は、ジルコニア系酸化物(好ましくは安定化ジルコニア)を50質量%以上含んでいることが好ましく、80質量%以上含んでいることがより好ましく、85質量%以上含んでいることが一層好ましく、90質量%以上含んでいることが特に好ましい。
上記電解質層16、26の膜厚は、例えば1〜1000μm、好ましくは1〜500μm、より好ましくは1〜300μmである。電極支持型セルまたは金属支持型セルに使用する場合には、1〜50μmが好ましく、1μm以上30μm未満がより好ましく、1〜20μmがさらに好ましい。膜厚を薄くすることにより、酸化物イオン伝導性をより向上できる。
1−2 燃料極
上記燃料極18、28は、ニッケル、コバルト、銅、鉄、ルテニウム等の、電気化学セルで燃料極触媒活性を有する金属やその前駆体である金属酸化物のうち1種類以上を含む層であれば、特に制限はされない。燃料極触媒活性を有する金属の前駆体である金属酸化物は、電気化学セルの運転雰囲気下では還元されて、該層は燃料極触媒活性を有する金属が含まれる層となる。燃料極は、さらに、上記ジルコニア系酸化物(好ましくは安定化ジルコニア)、セリア系酸化物(好ましくはドープドセリア)、安定化ビスマスやランタンガレートなどの酸化物イオン伝導性金属酸化物や酸化物イオンと電子との混合伝導性金属酸化物のうち1種類以上が混合された層であることが好ましい。
燃料極18、28としては、NiまたはNiOとジルコニア系酸化物とが混合された層;または、NiまたはNiOとセリア系酸化物とが混合された層がより好ましい。NiまたはNiOと酸化物(ジルコニア系酸化物またはセリア系酸化物)との体積比は、NiまたはNiOについてはNiO換算でNiO/酸化物=40/60〜70/30が好ましい。これらの体積比は、NiOと各酸化物のバルクの比重から重量比に換算できる。燃料極は、直接に接している電解質層と共通する化合物を含んでいることが好ましい。
燃料極18、28は、燃料ガス透過性が高いという観点から、運転時の条件において気孔を有する層であることが好ましい。膜厚は3〜30μmが好ましく、4〜25μmがより好ましい。
1−3 空気極
空気極12、22の組成としては、電気化学セルの反応時に空気極触媒活性を有する金属酸化物を含む層であれば、特に制限されない。空気極を構成する材料としては伝導性材料が好ましく、電子導電性材料を含むことがより好ましく、特に混合伝導性(イオン伝導性、電子導電性)を有する材料が好ましい。具体的には、La、Pr、Sm、Sr、Ba、Co、Fe、Mn、Ni等のうちの少なくとも1種を含有する各種の複合酸化物(例えば、ストロンチウムを固溶したランタンマンガナイト、ランタンフェライト、ランタンコバルトフェライトやランタンコバルタイト、ランタンストロンチウムコバルタイト等)が挙げられる。空気極は、さらに、上記安定化ジルコニア、ドープドセリア、安定化ビスマスやランタンガレートなどの酸化物イオン伝導性金属酸化物や酸化物イオンと電子との混合伝導性金属酸化物のうち1種類以上が混合された層であることが好ましいが、空気極に混合伝導性を有する材料を用いた場合で、酸化物イオン導電性が十分である場合には、無くても構わない。
混合伝導性材料の中でも、ペロブスカイト型酸化物が好ましく、SrとCoを含有する複合酸化物がより好ましい。Fe含有量は少ないことが好ましく、例えば、Fe/(Co+Fe)(原子比)が0.7未満が好ましく、0.5未満がより好ましく、0.3未満がさらに好ましく、0.1未満が特に好ましく、実質的に0であることが最も好ましい。Fe含有量を少なくすることにより、空気極触媒活性と焼結性を向上させることができる。
上記空気極12、22の膜厚は3μm以上であり、5〜100μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。上記空気極は、好ましくは、2層以上の層から構成されていてもよい。第1層と第2層は組成が同じ伝導性材料を含むことが好ましく、第1層と第2層は組成が同じであることがより好ましい。また、第1層と第2層とで構成する粒子や気孔についての形状や大きさが異なることが好ましい。なお、第1層は電解質層16またはバリア層24に隣接する層をいい、第2層は、第1層における電解質層16またはバリア層24が形成されていない面に隣接する層である。
1−3−1 所定領域における気孔と空気極成分粒子との界面長さの分布
本発明の電気化学セル用空気極は、燃料極、電解質層、空気極をこの順に配置してなる電気化学セル用空気極であって、断面の、上記空気極と上記電解質層との界面から、上記空気極の上記電解質層が形成されていない面方向へ、上記界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域について、互いに重なり合わない10か所以上の上記長方形領域において、気孔に面した複数の空気極成分粒子の気孔との各界面長さを走査型電子顕微鏡で80個以上測定した上記界面長さの分布が2つ以上のピークを有することを特徴とする。
また、本発明の電気化学セル用空気極は、燃料極、電解質層、バリア層、空気極をこの順に配置してなる電気化学セル用空気極であって、断面の、上記空気極と上記バリア層との界面から、上記空気極の上記バリア層が形成されていない面方向へ、上記界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域について、互いに重なり合わない10か所以上の上記長方形領域において、気孔に面した複数の空気極成分粒子の気孔との各界面長さを走査型電子顕微鏡で80個以上測定した上記界面長さの分布が2つ以上のピークを有することを特徴とする。
空気極の断面における上記界面長さの分布をこのようにした場合に、電気化学セルに用いた場合に、電流−電圧特性に優れた電気化学セルとなる。
図3を用いて説明すると、空気極12、22の断面において、相互に重ならないように、例えば、10視野分程度を電子顕微鏡にて観察し、これらの視野において、上記空気極12、22と、上記電解質層16またはバリア層24との界面8から、上記空気極12、22の上記電解質層16またはバリア層24が形成されていない面9へ、黒塗り矢印Sで示す方向に、上記界面8と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間において5μm幅の2μm×5μmの複数の長方形領域1を、相互に重ならないように、少なくとも10か所以上選択して、それぞれの長方形領域1における、気孔に面した個々の空気極成分粒子の気孔との個々の界面長さを取得する。このようにして得られた80か所以上の各界面長さをヒストグラムにした場合に、2つ以上のピークを有する。好ましくは、3以上である。また上限は特に限定されないが6以下が好ましく、5以下がより好ましい。
気孔と空気極成分粒子との個々の界面長さが80か所以上に満たない場合には、観察する視野数を増やしたり、解析する長方形領域を増やすなどして、界面長さが80か所以上になるようにすれば良い。好ましくは100か所以上である。界面長さの数は多ければ多いほど、空気極の構造を反映していると言えるので、より好ましい。
ただし、1000か所以上の界面長さを取得、解析するには労力が必要であり、そこまで多くの界面長さの数でなくても、空気極の構造を反映しているので、1つの目安として、500か所の界面長さがあれば十分である。
なお、上記空気極12、22と、上記電解質層16またはバリア層24との界面8は、例えば、空気極成分が最も電解質層16またはバリア層24へ入り込んでいる箇所と、その箇所から2μm以上離れて、空気極成分が電解質層16またはバリア層24へ入り込んでいる箇所の2か所を結んだ直線から求めることができる。
上記界面長さの分布におけるピーク数を求めるにあたって、階級と階級間隔については、界面長さの最大値:Pmax、最小値:Pminの差:ΔP=Pmax−Pminを求め、ΔPを20に近い数で割りその値を参考に決めれば良い[応用統計ハンドブック:応用統計ハンドブック編集委員会(代表:奥野忠一)編、株式会社養賢堂、1978発行 第1版、p12〜15(第1章 分布と検定・推定、1.1データの要約、1.1.1度数分布)を参照]。
また、上記空気極12、22の断面の走査型電子顕微鏡による観察は、2次電子像で観察することが好ましい。2次電子像であれば、反射電子像よりも、取得できる像が鮮明になるので、1つ1つの粒子を判別しやすくなる。ただし、粒子が判別できるのであれば、2次電子像ではなく、反射電子像であっても構わない。
上記長方形領域1は、空気極全体の代表的な個所を測定することを目的として、少なくとも10か所以上のうちの3か所については、界面8と平行な方向において、空気極12、22の中央部付近7を含む1か所と、空気極12、22がともに重なって形成されている端部から距離L以上中央方向へ離れている領域2か所を選択することが好ましい。
空気極12、22が形成されている最末端(L=0.0mm)近傍は、中央部付近に比べて厚みにムラが生じるなど、構造上違いが生じやすい。一方で、可能な限り、端部に近い領域を含むことが好ましい。そのため、上記Lは、0.3mm以上4.0mm以下であることが好ましく、0.8mm以上3.0mm以下であることがより好ましく、1.0mm以上2.5mm以下であることがさらに好ましい。
両端部における2つのLは、同じ値であってもよいし、異なった値であってもよい。後述の長方形領域2および範囲3、4についても同様である(図4〜6参照)。
所定領域における気孔と空気極成分粒子との界面長さの分布が2つ以上のピークを有するようにするためには、本発明の空気極を形成する際、電解質層側(電解質層の表面上またはバリア層の表面上)に形成する層の形成に用いるスラリーとして、「所定の金属を含む混合溶液から得られた固形物等の原料粉末を、さらに成形して焼成して焼成成形体(ペレット)を調製し、これを解砕して得られる、微粒と粗粒とを含むスラリー」を用いることが好ましい。所定領域における気孔と空気極成分粒子との界面長さの分布が2つ以上のピークを有するようにすることで、空気極触媒活性を最大に発揮しつつ、空気極中の電解質層(あるいはバリア層)に近い領域まで、酸素が不足せずに供給されるようにすることができる。
他にも、焼成前の原料粉末と、焼成後の空気極の構造の関係を調べて、原料粉末の大きさを調整しても良いが、一度焼成成形体を調整し、これを解砕した粉末を使用することにより、界面長さなどの構造的な特徴を制御しやすくなる。
また、他の空気極の構造を制御する方法として、空気極を焼成する際の焼成条件(昇降温の速度、焼成温度や焼成時間等)をコントロールする方法や、カーボンブラック、有機微粒子等の公知の炭素材料、いわゆる造孔材を添加してコントロールする方法、を挙げることができる。
1−3−2 所定領域における気孔と空気極成分粒子との界面長さの分布におけるピーク数の比
好ましくは、本発明の電気化学セル用空気極では、厚みが6μm以上、幅500μm以上であり、上記界面長さの分布におけるピーク数Pa1と、後述する長方形領域2において同様に求めた各界面長さの分布におけるピーク数Pa2との比Pa1/Pa2が1より大きい。より好ましくは2以上であり、さらに好ましくは3以上である。Pa1/Pa2をこのようにした場合に、より、空気極中の電解質層(あるいはバリア層)に近い領域まで、酸素が不足せずに供給することができ、酸素の供給不足によるガス拡散抵抗が増加するのを抑制するという効果が得られる。
長方形領域2における各界面長さは、図4に模式的に示すように、上記空気極12、22の、上記電解質層16またはバリア層24が形成されていない面9から、上記空気極12、22と、上記電解質層16またはバリア層24との界面8方向へ黒塗り矢印Tで示す方向に、上記面9と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間において5μm幅の2μm×5μmの長方形領域2における気孔と空気極成分粒子との界面長さを、複数の長方形領域2において求め、これらの複数の界面長さをヒストグラムにし、ピークの数を数える。ヒストグラムの階級と階級間隔については、上記と同様である。
1−3−3 所定領域における気孔と空気極成分粒子との界面長さの合計値
好ましくは、本発明の電気化学セル用空気極では、上記長方形領域1における気孔と空気極成分粒子との界面長さの合計値データを複数か所(好ましくは10か所以上)の長方形領域1について取得し、それらの合計値データの平均値t1(以下、単に界面長さの合計値t1という場合がある)が18μm以上80μm以下である。
空気極の断面における上記界面長さの合計値t1をこのような範囲にした場合、電気化学セルに用いた場合に、電流−電圧特性により優れた電気化学セルとなる。
上記長方形領域1における界面長さの合計値t1は、20μm以上70μm以下であることがより好ましく、25μm以上60μm以下であることがさらに好ましい。
1−3−4 所定領域における気孔と空気極成分粒子との界面長さの合計値の比
好ましくは、本発明の電気化学セル用空気極では、厚みが6μm以上、幅500μm以上であり、上記長方形領域1で求めた気孔と空気極成分粒子との界面長さの合計値データt1と、上記長方形領域2で求めた気孔と空気極成分粒子との界面長さの合計値データの平均値t2(以下、単に界面長さの合計値t2という場合がある)との比t1/t2が1.2以上である。t1/t2をこのようにした場合に、より(空気中の)酸素が空気極中の電解質層(あるいはバリア層)に近い領域まで不足せずに供給されるという効果が得られる。
1−3−5 所定領域における気孔と空気極成分粒子との界面長さの合計値データの標準偏差
好ましくは、本発明の電気化学セル用空気極では、上記t1を求めた複数の長方形領域1における、気孔と個々の空気極成分粒子との界面長さの合計値データの標準偏差d1が、8.0μm以下である。さらに、標準偏差d1は1.7μm以上であることが好ましい。より好ましくは1.8μm以上7.0μm以下であり、2.0μm以上5.0μm以下であることがさらに好ましい。標準偏差が上記範囲であれば、空気極触媒活性を最大に発揮しつつ、空気極中の電解質層(あるいはバリア層)に近い領域まで、酸素がより不足せずに供給されやすくなるため、より高活性な空気極となる。
1−3−6 所定領域における気孔と空気極成分粒子との界面長さの合計値データの標準偏差の比
好ましくは、本発明の電気化学セル用空気極では、上記t2を求めた複数の長方形領域2における、気孔と個々の空気極成分粒子との界面長さの合計値データの標準偏差d2に対する、上記t1を求めた複数の長方形領域1における、気孔と個々の空気極成分粒子との界面長さの合計値データの標準偏差d1の比d1/d2が1.1以上である。より好ましくは1.2以上であり、1.3以上であることがさらに好ましい。d1/d2をこのようにした場合に、空気極の全領域でより偏りなく、より均一に酸素の供給と反応が進行しやすくなるため、局所的な熱の影響を受けて、失活することをより効果的に防ぐことができる。
1−3−7 所定領域における気孔と空気極成分粒子との界面長さの合計値データの変動係数
好ましくは、本発明の電気化学セル用空気極では、上記t1を求めた複数の長方形領域1における、気孔と個々の空気極成分粒子との界面長さの合計値データの変動係数cv1が、11%以上30%以下であり、12%以上25%以下であることがより好ましく、13%以上20%以下であることが特に好ましい。ここで、変動係数は標準偏差を平均値で割った値である。変動係数をこのようにした場合に、空気極触媒活性を最大に発揮しつつ、空気極中の電解質層(あるいはバリア層)に近い領域まで、酸素がより不足せずに供給されるようにすることができるため、より高活性な空気極となる。
1−3−8 所定領域における気孔と空気極成分粒子との界面長さの合計値データの変動係数の比
好ましくは、本発明の電気化学セル用空気極では、上記t2を求めた複数の長方形領域2における、気孔と個々の空気極成分粒子との界面長さの合計値データの変動係数cv2に対する、上記t1を求めた複数の長方形領域1における、気孔と個々の空気極成分粒子との界面長さの合計値データの変動係数cv1の比cv1/cv2が1.1以上5.0以下であり、1.2以上4.0以下であることがより好ましく、1.3以上3.0以下であることがさらに好ましい。cv1/cv2をこのようにした場合に、空気極の全領域でより偏りなく、より均一に反応が進行しやすくなるため、局所的な熱の影響を受けて、失活することをより効果的に防ぐことができる。
1−3−9 気孔の周長円相当径の平均値Dと気孔の面積円相当径の平均値Dの比D/D
上記空気極12、22は、図5に示すように、断面において、上記空気極12、22と、上記電解質層16またはバリア層24との界面8から、上記空気極12、22の上記電解質層16またはバリア層24が形成されていない面9の方へ、黒塗り矢印Sで示す方向に、上記界面8と垂直方向にW1以内の範囲3において走査型電子顕微鏡で観測される、複数の気孔の周長円相当径の平均値Dと、上記複数の気孔の面積円相当径の平均値Dとの比D/Dが1.72以上であることが好ましく、より好ましくは1.75以上である。
なお、明細書において、面積円相当径は、気孔面積より求めた、面積と等しい円面積を持つ円の直径を示し、周長円相当径は、気孔とそれと接する各空気極成分との界面長さより求めた、界面長さに等しい円周をもつ円の直径を示す。
上記W1は、3μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。
すなわち、上記範囲3は、上記空気極12、22と、上記電解質層16またはバリア層24との界面8から、上記空気極12、22の上記電解質層16またはバリア層24が形成されていない面9の方へ、黒塗り矢印Sで示す方向に、上記界面8と垂直方向に3μm以上離れた位置までの範囲であることが好ましく、3μm以内の範囲であることがより好ましく、4μm以内の範囲であることがさらに好ましく、5μm以内の範囲であることが特に好ましい。
空気極における上記D/Dの値が上記範囲である場合には、より空気極触媒活性を最大に発揮しつつ、空気極中の電解質層(あるいはバリア層)に近い領域でも、酸素がより不足せずに供給されるようにすることができるため、電気化学セルに用いた場合に、電流−電圧特性により優れた電気化学セルとなる。
上記空気極の断面の気孔の走査型電子顕微鏡による観察は、観察される気孔測定数が好ましくは80個以上、より好ましくは100個以上になるよう測定することが好ましく、気孔測定数が上記個数に満たない場合は、取得する断面観察画像を増やしたり、倍率を8000倍にするなどして、気孔測定数が上記個数以上になるようにすることが好ましい。
上記空気極の断面の走査型電子顕微鏡による観察は、2次電子像で観察することが好ましい。2次電子像であれば、反射電子像よりも、取得できる像が鮮明になるので、1つ1つの粒子を判別しやすくなる。ただし、粒子と気孔とが判別できるのであれば、2次電子像ではなく、反射電子像であっても構わない。
1−3−10 気孔の面積円相当径の分布
好ましくは、本発明の電気化学セル用空気極では、上記範囲3における上記複数の気孔の面積円相当径を、ヒストグラムにした場合に、2つ以上のピークを有する。これにより、より空気極触媒活性を最大に発揮しつつ、空気極中の電解質層(あるいはバリア層)に近い領域でも、酸素がより不足せずに供給されるようにすることができるという効果が得られる。ヒストグラムの階級と階級間隔については、上記と同様である。
1−3−11 気孔の面積円相当径の分布のピーク数比
好ましくは、本発明の電気化学セル用空気極では、厚みが6μm以上であり、上記複数の気孔の面積円相当径を、ヒストグラムにした場合に得られるピーク数Pb1と、同じく断面において、上記空気極12、22の上記電解質層16またはバリア層24が形成されていない面から、上記空気極12、22と上記電解質層16またはバリア層24との界面方向へ、上記面と垂直方向にW2以内の範囲4(図6参照)において走査型電子顕微鏡で観測される、複数の気孔の面積円相当径を、ヒストグラムにした場合に得られるピーク数Pb2との比、Pb1/Pb2が1より大きい。より好ましくは2以上であり、さらに好ましくは3以上である。
これにより、より空気極触媒活性を最大に発揮しつつ、空気極中の電解質層(あるいはバリア層)に近い領域でも、酸素がより不足せずに供給されるようにすることができるという効果が得られる。
上記W2は、3μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることがさらに好ましい。上記W1と上記W2は、共に5μmであることが特に好ましい。
上記範囲4は、上記範囲3とは重ならないように設定し、上記空気極12、22の上記電解質層16またはバリア層24が形成されていない面9から、上記空気極12、22と、上記電解質層16またはバリア層24との界面8へ、黒塗り矢印Tで示す方向に、上記空気極12、22と上記電解質層16またはバリア層24との界面8の方へ、上記面9と垂直方向に3μm以上離れた位置までの範囲であることが好ましく、3μm以内の範囲であることがより好ましく、4μm以内の範囲であることがさらに好ましく、5μm以内の範囲であることが特に好ましい。
空気極の膜厚は6μm以上であることが好ましく、上記範囲3は、上記空気極12、22と、上記電解質層16またはバリア層24との界面8から、上記空気極12、22の上記電解質層16またはバリア層24が形成されていない面9の方へ、黒塗り矢印Sで示す方向に、上記界面8と垂直方向に3μm離れた位置までの範囲であることが好ましく、上記範囲4は、上記空気極12、22の上記電解質層16またはバリア層24が形成されていない面9から、上記空気極12、22と、上記電解質層16またはバリア層24との界面8へ、黒塗り矢印Tで示す方向に、上記面9と垂直方向に3μm離れた位置までの範囲であることが好ましい。
1−3−12 空気極成分粒子の、各所定領域間における面積円相当径の平均値と周長円相当径の平均値との比の、各所定領域間の比(LS1/LS2)
好ましくは、本発明の電気化学セル用空気極では、上記範囲3において測定される空気極成分粒子の周長円相当径の平均値と面積円相当径の平均値との比LS1(周長円相当径の平均値/面積円相当径の平均値)と、上記範囲4において測定される空気極成分粒子の周長円相当径の平均値と面積円相当径の平均値との比LS2(周長円相当径の平均値/面積円相当径の平均値)と、の比LS1/LS2が0.3以上1.0未満であり、0.4以上0.95以下であることがより好ましく、0.5以上0.90以下であることがさらに好ましい。これにより、空気極触媒活性を最大に発揮しつつも、電子導電性が良好な効果が得られ、電気化学セルに用いた場合に、電流−電圧特性により優れた電気化学セルとなる。
1−3−13 所定領域における空気極成分粒子の面積円相当径の変動係数の比
好ましくは、本発明の電気化学セル用空気極では、上記範囲3において測定される空気極成分粒子の面積円相当径の変動係数CVLS1と、範囲4において測定される空気極成分粒子の面積円相当径の変動係数CVLS2と、の比CVLS1/CVLS2が0.3以上0.9以下であり、0.5以上0.8以下であることがより好ましい。これにより、
・より空気極触媒活性を最大に発揮しつつ、空気極中の電解質層(あるいはバリア層)に近い領域でも、酸素がより不足せずに供給されるようにすることができる
・電子導電性をより十分に確保させることができる
という効果が得られ、電気化学セルに用いた場合に、電流−電圧特性により優れた電気化学セルとなる。
1−4 バリア層
本発明の電気化学セルは、電気化学セルの作製時や反応時に、空気極と電解質層とが直接接していることで絶縁物質を作りやすく、この絶縁物質の生成を抑制することを目的として、バリア層を備えていてもよい。上記バリア層は、上記電解質層と上記燃料極ならびに上記空気極の少なくとも一方との間に配置されることが好ましい。本発明の電気化学セルの一形態としての電気化学セル20では、上記電解質層26と上記空気極22との間に配置される。絶縁層の生成が十分に抑制されている場合には、本発明の電気化学セルの一形態としての電気化学セル10のように、バリア層は無くても構わない。
上記バリア層を構成する成分としては特に制限はされないが、酸化物イオン伝導性材料であり、電気化学セルの作製時や反応時にバリア層と空気極あるいは、電解質層との間で酸素イオン伝導性を阻害する成分を生成しにくい成分であることが好ましい。
上記バリア層を構成する成分としては特に制限はされないが、セリア系酸化物を主成分として含むことが好ましく、Sc、Y、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Ybなどの希土類元素を含有するセリアを主成分として含むことが好ましく、該セリアがこれらの元素と固溶体を構成していることがより好ましい。上記希土類元素は1種または2種以上含まれていてもよい。該セリア系酸化物を主成分として含むとは、バリア層100質量%中、該セリア系酸化物を50質量%以上含むことを意味し、好ましくは60質量%以上含み、70質量%以上含んでいることがさらに好ましい。また、バリア層において、希土類元素/Ceのモル比が0.01〜0.40であることが好ましく、0.05〜0.30であることがより好ましい。
上記希土類元素としては、Y、Gd、Sm、Ybがより好ましく、Gd、Smがさらに好ましい。また、Gd、Smに加えて、2種目の希土類元素としてYbが含まれていることが特に好ましい。
上記バリア層は、上記希土類元素を、セリウム元素100モル%に対して、合計で、5〜50モル%含んでいることが好ましく、7〜40モル%含んでいることがより好ましく、8〜35モル%含んでいることがさらに好ましい。
バリア層の厚みは特に限定されないが、例えば0.2〜20μmであることが好ましい。
1−5 支持体
本発明における好ましくは支持体を有する電気化学セルとしては、燃料極を支持体とする形態(燃料極支持型セル)、電解質層を支持体とする形態(固体電解質支持型セル)、空気極を支持体とする形態(空気極支持型セル)、あるいは金属隔壁から構成され複数の貫通孔を備えた支持基板を支持体とする形態(メタルサポートセル)、セラミックス材料を基材として導電物質を混合、または修飾したものを支持体とする形態、等が挙げられる。
中でも好ましい支持体の形態としては、燃料極支持基板が挙げられ、一般的に、安定化ジルコニアと導電性成分とを含むものが好ましく使用できる。燃料極支持基板における安定化ジルコニアと導電性成分の割合は適宜調整すればよいが、例えば、安定化ジルコニアと導電性成分の合計に対する導電性成分の質量割合で40質量%以上80質量%以下程度とすることができる。
燃料極支持基板を構成する安定化ジルコニアとしては、イットリウム、スカンジウム、イッテルビウム、カルシウム、マグネシウムおよびランタンからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素(安定化元素ともいう)が固溶することにより結晶構造が安定化しているジルコニア(安定化ジルコニア)が好ましい。
当該安定化ジルコニアにおけるイットリウム等の元素の含有割合、好ましくは固溶量としては、原子数換算で、安定化ジルコニアに含まれるジルコニウム100モル%に対して4.0モル%以上35.5モル%以下であることが好ましい。当該割合が4.0モル%以上であれば、結晶相の安定化効果などの効果がより確実に得られる。一方、当該割合が過剰になると強度が低下するおそれがあり得るので、当該割合としては35.5モル%以下が好ましい。当該割合としては、5.0モル%以上27.0モル%以下がより好ましい。
電解質層、燃料極、燃料極支持基板に使用される安定化ジルコニアは、イットリウム、スカンジウム、イッテルビウム等の特に好ましい安定化元素に加えてさらに他の金属元素を含んでいてもよい。さらなる金属元素の添加により、酸素イオン伝導性、強度、耐久性などの特性がより一層向上する可能性がある。かかる金属元素としては、例えば、Mg、Ca、Sr、Baなどのアルカリ土類金属元素;Ce、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Erなどの希土類元素;Al、Inなどの第13族元素;Si、Ge、Snなどの第14族元素;Bi、Sbなどの第15族元素;Ti、Hfなどの第4族元素;Nb、Taなどの第5族元素などを挙げることができる。これらの中でも、ランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、アルミニウム(Al)およびチタン(Ti)からなる群より選択される1種以上の金属元素が特に好ましい。これらその他の金属元素は、いずれか1種のみであってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。また、これらの他の金属元素の割合としてはこれらの合計含有量が、原子数換算で、安定化ジルコニアに含まれるジルコニウム100モル%に対して0.05モル%以上5.0モル%以下が好ましい。
燃料極支持基板は、燃料極へ水素などの燃料ガスを不均一にならないよう供給し、反応により生じる電子をインターコネクタへ受け渡し、電解質層やカソード層を支持する役割を有する。よって、燃料極支持基板は、安定化ジルコニアに加え、発電時の還元的条件下で還元されて導電性を示す導電性成分を含むことが好ましい。かかる導電性成分としては、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅などを用いることができ、酸化ニッケルが最も一般的である。
上記燃料極支持基板の厚さは、特に限定されないが、例えば100μm以上が好ましく、120μm以上がより好ましく、150μm以上がさらに好ましい。また、燃料極支持基板の厚さは、3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましく、1mm以下がさらに好ましい。燃料極支持基板の厚さが上記範囲内であれば、燃料極支持基板の機械的強度とガス通過性とをバランス良く両立しやすくなる。
2.電気化学セルの製造方法
本発明の電気化学セルにおいて、燃料極、電解質層、空気極をこの順に配置して、または燃料極、電解質層、バリア層、空気極をこの順に配置して製造する方法としては、特に限定されず、公知の方法が使用できる。
好ましくは、本発明の電気化学セルの製造方法(A)は、
(i) 支持体または支持体前駆体層上へ、電極前駆体層を形成する工程と、
(ii) 上記電極前駆体層上へ、電解質層前駆体層を形成する工程と、
(iii)上記工程で形成した電解質層前駆体層上へ、バリア層前駆体層を形成する工程と、
(iv) 上記支持体または支持体前駆体層と、上記電極前駆体層と、上記電解質層前駆体層とバリア層前駆体層を共焼成する焼成工程と、
(v) 上記工程で形成したバリア層上へ、他の電極前駆体層を形成する工程と、
(vi) 上記支持体と、上記電極と、上記電解質層と、上記バリア層と、上記他の電極前駆体層とを共焼成する焼成工程と
を含んでいてもよい。
上記電極と他の電極とは、それぞれ燃料極と空気極のどちらでもよいが、上記電極が燃料極で、上記他の電極が空気極であることが好ましい。空気極前駆体層としての他の電極前駆体層は、組成は同一で焼成温度の異なる原料粒子を用いた2種以上の空気極前駆体層用ペーストを重ね塗りして形成してもよいし、組成は同一で粒子径の異なる原料粒子を用いた2種以上の空気極前駆体層用ペーストを重ね塗りして形成してもよい。この点は、以下の製造方法においても同様である。
なお、上記製造方法において、本発明の燃料極と電解質層と空気極とをこの順に配置してなる電気化学セルでは、電解質層と空気極との間のバリア層前駆体層及びバリア層の形成は省略する。この点は、以下の製造方法においても同様である。
上記の電気化学セルの製造方法(A)は、支持体を有する電気化学セルの製法として、好ましく採用し得る。
また好ましくは、本発明の電気化学セルの製造方法(B)は、
(1)電極または電極前駆体層上へ、電解質層前駆体層を形成する工程と、
(2)上記電極または電極前駆体層と、上記電解質層前駆体層とを共焼成する焼成工程と、
(3)上記工程で形成した電解質層上へ、バリア層前駆体層を形成する工程と、
(4)上記工程で形成したバリア層前駆体層上へ、他の電極前駆体層を形成する工程と、
(5)上記電極と、上記電解質層と、上記バリア層前駆体層と、上記他の電極前駆体層とを共焼成する焼成工程と
を含むか、または、
(11)電極または電極前駆体層上へ、電解質層前駆体層を形成する工程と、
(12)上記工程で形成した電解質層前駆体層上へ、バリア層前駆体層を形成する工程と、
(13)上記工程で形成したバリア層前駆体層上へ、他の電極前駆体層を形成する工程と、
(14)上記電極または電極前駆体層と、上記電解質層前駆体層と、上記バリア層前駆体層と、上記他の電極前駆体層とを共焼成する焼成工程と
を含んでいてもよい。
上記電極前駆体層、上記電解質層前駆体層、および上記バリア層前駆体層の焼成は、工程(12)と工程(13)の間に行って、上記電極前駆体層、上記電解質層前駆体層、および上記バリア層前駆体層を工程(13)の前に、電極、電解質層およびバリア層としておいてもよい。
上記電極前駆体層、上記電解質層前駆体層、および上記バリア層前駆体層の焼成は、工程(12)と工程(13)の間に行なうことが好ましい。
上記の電気化学セルの製造方法(B)は、燃料極または空気極を支持体とする電極支持型セル(燃料極支持型セル、空気極支持型セル)の製法として、またメタルサポートセルの製法として、好ましく採用し得る。
また好ましくは、本発明の電気化学セルの製造方法(C)は、
(20)電解質スラリーをドクターブレード法などにより電解質層前駆体層を作製する工程と、
(21)電解質層前駆体層を焼成して電解質層を製造する工程と、
(22)上記電解質層上に電極前駆体層を形成する工程と、
(23)上記電解質層の上記電極前駆体層が形成された面とは反対側の表面上にバリア層前駆体層を形成する工程と、
(24)上記バリア層前駆体層の表面上に他の電極前駆体層を形成する工程と、
(25)上記電解質層と、上記電極前駆体層と、上記バリア層前駆体層と、上記他の電極前駆体層とを焼成する工程と
を含んでいてもよい。
上記電極前駆体層、および上記バリア層前駆体層の焼成は、工程(23)と工程(24)の間に行って、上記電極前駆体層、および上記バリア層前駆体層を工程(24)の前に、電極、およびバリア層としておいてもよい。
上記電極前駆体層、および上記バリア層前駆体層の焼成は、工程(23)と工程(24)の間に行なうことが好ましい。
また好ましくは、本発明の電気化学セルの製造方法(D)は、
(31)電解質層前駆体層を製造する工程と、
(32)上記電解質層前駆体層上に電極前駆体層を形成する工程と、
(33)上記電解質層前駆体層の上記電極前駆体層が形成された面とは反対側の表面上にバリア層前駆体層を形成する工程と、
(34)上記バリア層前駆体層上に他の電極前駆体層を形成する工程と、
(35)上記電解質層前駆体層と、上記電極前駆体層と、上記バリア層前駆体層と、上記他の電極前駆体層とを焼成する工程と
を含んでいてもよい。
上記電解質層前駆体層、上記電極前駆体層、および上記バリア層前駆体層の焼成は、工程(33)と工程(34)の間に行って、上記電解質層前駆体層、上記電極前駆体層、および上記バリア層前駆体層を工程(34)の前に、電解質層、電極、およびバリア層としておいてもよい。
上記電解質層前駆体層、上記電極前駆体層、および上記バリア層前駆体層の焼成は、工程(33)と工程(34)の間に行なうことが好ましい。
上記の電気化学セルの製造方法(C)、(D)は、固体電解質支持型セルの製法として、特に好ましく採用し得る。
上記の各前駆体層(グリーン層)の形成方法としては、各原料粉末を、公知のバインダーおよび/または溶剤(分散媒)、必要により更に分散剤や可塑剤等と混合して塗布用インク(ペースト、スラリーとも言う)とし、これら塗布用インクを、ドクターブレード法、カレンダーロール法、押出し法等によってポリエステルシート等の平滑な基板上に塗布し、乾燥して分散媒を揮発除去することによって、シート(グリーンシート)を形成してもよい。また、上記塗布用インクをブレードコート、スリットダイコート等のコーティング法やスクリーン印刷等により塗布し、乾燥して分散媒を揮発除去することによって塗膜を形成してもよい。
また、上記各層は溶射法やパウダージェットデポジション法等の粉体成膜法を用いて層形成してもよく、この場合には、前駆体層形成工程、脱脂工程および焼成工程を省略できる。
本発明の電気化学セル用空気極の製造では、上記1−3 空気極12、22のところで記載した金属酸化物の粉体材料を原料として使用できる。上記金属酸化物の粉体材料は、市販の金属酸化物の粉末を所定の組成になるように混合して使用してもよく、また、所定の金属を含む溶液を乾燥・焼成することにより製造してもよい。なかでも、本発明の電気化学セル用空気極において、より確実に、上記所定の領域における気孔と空気極成分との界面長さの各合計値の分布において、2つ以上のピークを有するようにするために、所定の金属を含む混合溶液から得られた固形物を、以下の所定の方法により乾燥・焼成することにより製造することが好ましい。
具体的には、本発明の空気極を形成する際、空気極が単層であっても複数の前駆体層を塗布、焼成することが好ましい。空気極を構成する上記複数の前駆体層のうち、電解質層側(電解質層の表面上またはバリア層の表面上)に形成する層の形成に用いるスラリーとして、微粒と粗粒とを含むスラリーを用いることが好ましい。また好ましくは、上記スラリーから形成された前駆体層の上に形成する前駆体層の形成に用いるスラリーとして、粗粒を含むスラリーを用いて形成することが好ましい。
なお、焼成前の原料粉末と、焼成後の空気極中の気孔と空気極成分との界面長さを調べて、原料粉末の大きさを調整しても良いが、一度焼成成形体(ペレット)を調整し、これを解砕した粉末を使用することにより、界面長さなどの構造を制御しやすくなる。このため、所定の金属を含む混合溶液から得られた固形物等の原料粉末や、所定の金属酸化物を、さらに成形して焼成して焼成成形体(ペレット)を調製し、これを解砕した微粒粉末や粗粒粉末を用いることがより好ましい。
本発明の空気極用の原料粉末の製造方法としては、より具体的には、例えば、下記の工程が例示できる。
(1)所定の金属を含む混合溶液から得られた固形物からある程度の水分を留去した後、蒸発皿に移して150℃以下の温度で乾燥する。
(2)得られた固形物について、乳鉢で解砕した後、350〜450℃で4〜6時間熱分解する。
(3)さらに、(2)で得られた固形物を、750〜850℃で4〜6時間仮焼する。
(4)さらに、(3)で得られた固形物を、900〜1100℃で8〜12時間焼成する。
なお、熱分解、仮焼、焼成の温度および時間は、(1)で得られた固形物について、示差熱−熱重量同時測定装置(TG−DTA)などの測定結果や、一度の処理量に応じて、決定すればよく、使用する固形物の種類や処理量に応じて、適宜調整することが好ましい。
(5)(4)で得られた固形物にエタノールの溶媒を加え、ボールミルで解砕してから乾燥する。エタノールの他にも、メタノールやイソプロパノール、トルエンやヘキンサ等の通常の湿式解砕で使用される有機溶媒であれば、効率良く解砕を行うことができる。
(6)(5)で得られた粉末を錠剤成形器を用い、成形後の大きさが、Φ20mm厚さ1.5〜5μm程度になるように1.5t/cm程度で5分間程度圧縮成形する。
(7)(6)で得られた成形物を1000〜1200℃で5〜7時間焼成して均一な組成からなるペレットを得る。
(8)得られたペレットについて、目開き100μmのふるい下になるまで解砕する。
(9)さらにその後、容器に得られた粉末とエタノールとYSZボールを入れ、所定の平均粒子径(D50)ならびに比表面積となるように、YSZボール径と回転数と時間を調整しながらボールミルで解砕し、乾燥させる。
上記で得られた原料粉末を用いた空気極前駆体層用ペースト(空気極用スラリー)としては、電解質層または好ましくは備えていてもよいバリア層側に設ける第1層用スラリーと、該層上であり、上記電解質層または好ましくは備えていてもよいバリア層と反対側に設ける第2層用スラリーを用いることが好ましい。
第1層用スラリーとしては、微粒の原料粉末と、粗粒の原料粉末とを混合して用いることが好ましい。
微粒粉末は、平均粒子径(D50、以下同じ)が1.0μm未満であることが好ましく、0.6μm未満であることがより好ましい。また、平均粒子径は0.2μm以上であることが好ましい。比表面積は5〜10m/gであることが好ましい。
粗粒粉末は、平均粒子径が1.2μm超であることが好ましく、1.5μm以上であることがより好ましい。比表面積は1〜5m/gであることが好ましい。
微粒粉末と粗粒粉末の平均粒子径比は、粗粒粉末の平均粒子径/微粒粉末の平均粒子径が3倍以上であることが好ましく、3.5倍以上であることがより好ましく、4倍以上であることがさらに好ましい。
微粒粉末と粗粒粉末の混合割合は、微粒粉末と粗粒粉末の混合物100質量%に対して、粗粒粉末が5質量%以上30質量%以下が好ましい。
第1層用スラリーは、気孔と空気極成分との界面長さやその構造を調整することを目的として、カーボンブラック、有機微粒子等の公知の造孔剤を、微粒粉末と粗粒粉末の混合物100質量部に対して、1〜10質量部添加してもよい。造孔材は、気孔と空気極成分との界面長さやその構造を調整することが目的であるので、空気極が焼成後に目的の構造となっていれば良く、造孔材が添加されていない場合でも、目的の構造に調整できている場合には無くても構わない。
第2層用スラリーとしては、上記粗粒の原料粉末を用いることが好ましい。
第1層用スラリーと第2層用スラリーは、組成が同じ伝導性材料を含むことが好ましく、第1層用スラリーと第2層用スラリーに含まれる伝導性材料の原料粉末は、組成が同じであることがより好ましい。
空気極用スラリーの調製で使用するバインダーおよび/または溶剤としては、公知のものを公知の使用量で使用できる。
空気極用スラリーの塗工方法は特に制限されず、ドクターブレード法、カレンダーロール法、印刷法などの常法を用いることができる。空気極用スラリーの塗布は、空気極前駆体層1用スラリー(第1層用スラリー)と空気極前駆体層2用スラリー(第2層用スラリー)との2種のスラリーを重ねて塗布し、空気極前駆体層1と空気極前駆体層2を隙間なく密着させることが好ましい。たとえば、電解質層またはバリア層の表面に第1層用スラリーをスクリーン印刷法により塗布し乾燥した後、第2層用スラリーをスクリーン印刷法により塗布し乾燥することにより2層からなる空気極前駆体層が得られる。空気極前駆体層1を形成後に空気極前駆体層2を重ねて塗布し、2層からなる空気極前駆体層の層と層の間に剥離が少ないと、電子導電性のより高い空気極となり、内部抵抗がより削減される。
空気極用スラリーの乾燥条件は、使用した溶媒の種類などに応じて適宜調整すればよいが、通常は40℃以上150℃以下程度とする。乾燥は一定温度で行ってもよいし、50℃、80℃、120℃の様に順次連続的に昇温して加熱乾燥してもよい。
焼成条件は適宜調整すればよいが、例えば、十分量の酸素の存在下、800℃以上1200℃以下程度で焼成する。950℃以上で焼結すれば十分な焼成効果が得られ、十分な強度が得られるため、より好ましい。一方、焼成温度が高過ぎると焼結が進行し粒子の粒径が過大となったり、気孔が減少しやすくなり、所定領域における気孔と空気極成分粒子との界面長さの分布が2つ以上のピークを有するようにすることが難しくなるおそれがある。
本発明では、空気極に使用する原料粉末を、所定の乾燥・焼成条件で製造し、所定の平均粒子径(D50)ならびに比表面積を有する粉末とすることにより、所定領域における気孔と空気極成分粒子との界面長さの分布が、より確実に2つ以上のピークを有するようにすることができ、電流−電圧特性に優れた電気化学セル用空気極、およびそれを含む電気化学セルとすることができる。
本発明の電気化学セルが有していてもよい支持体の形成は従来公知の方法を採用できるが、たとえば、上記燃料極支持基板の製造では、上記安定化ジルコニアの粉末と上記導電性成分の粉末とを含むものが好ましく使用できる。スラリーを基材上に塗工した後に乾燥することにより作製する。当該スラリーは、少なくとも、安定化ジルコニア粉末、導電性成分粉末、溶媒およびバインダーを含み、その他に、例えば可塑剤、分散剤、空孔形成材、消泡剤などを添加してもよい。
スラリー調製に用いる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−ヘキサノール、α−テルピネオールなどのアルコール類;アセトン、2−ブタノンなどのケトン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類などを例示することができ、これらから適宜選択して使用する。これらの溶媒は単独で使用し得る他、2種以上を混合して使用することができる。
溶媒の使用量は、グリーンシート成形時におけるスラリーの粘度を加味して調節するのがよく、好ましくはスラリー粘度が1Pa・s以上80Pa・s以下、より好ましくは1Pa・s以上50Pa・s以下の範囲となるように調整するのがよい。
スラリーを製造する際に用いられるバインダーの種類は、焼成により分解したり燃焼することで除去されるものであれば格別の制限はなく、従来から知られた有機質のバインダーを適宜選択して使用することができる。有機質バインダーとしては、例えばエチレン系共重合体、スチレン系共重合体、(メタ)アクリレート系共重合体、酢酸ビニル系共重合体、マレイン酸系共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ビニルアセタール系樹脂、ビニルホルマール系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ワックス類、エチルセルロースなどのセルロース類などが例示される。
これらの中でも特に好ましいのは、数平均分子量が5,000以上200,000以下、より好ましくは10,000以上100,000以下の(メタ)アクリレート系共重合体である。これらの有機質バインダーは、単独で使用し得る他、必要により2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。特に好ましいのは、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレートおよび/または2−エチルヘキシルアクリレートを60質量%以上含むモノマーの重合体である。
バインダーの使用量は適宜調整すればよいが、安定化ジルコニア粉末と導電性成分粉末の合計100質量部に対して10質量部以上50質量部以下程度が好ましい。
可塑剤を、グリーンシートに柔軟性を付与するために添加してもよい。可塑剤としては、例えば、低分子可塑剤、コオリゴマー可塑剤および高分子可塑剤がある。低分子可塑剤としては、例えば、フタル酸ジブチルやフタル酸ジオクチルなどフタル酸エステル類を挙げることができる。コオリゴマー可塑剤および高分子可塑剤としては、ポリエステル類が挙げられる。可塑剤の配合量は、使用するバインダーのガラス転移温度にもよるが、安定化ジルコニア粉末と導電性成分粉末の合計100質量部に対して0.5質量部以上10質量部以下程度とすることが好ましい。
スラリーの調製に当たっては、固体電解質材料の解膠や分散を促進し、スラリーの流動性を増加せしめ、スラリー中での固体電解質材料の沈降を抑制するため、分散剤を添加してもよい。分散剤の配合量は、安定化ジルコニア粉末と導電性成分粉末の合計100質量部に対して0.5質量部以上5質量部以下程度とすることが好ましい。
空孔形成材は、支持体や電極における気孔の形成を促進し、支持体や電極内部のガスの拡散を促進するために添加されるものであり、焼成により分解したり燃焼することで除去されたりするものであれば特に制限はない。従来から知られた空孔形成材としては、例えばカーボンブラック、有機微粒子等の公知の炭素材料を挙げることができる。空孔形成材の配合量は、安定化ジルコニア粉末と導電性成分粉末の合計100質量部に対して0.01質量部以上20質量部以下程度とすることが好ましいが、支持体や電極内部におけるガスの拡散が十分である場合には添加しなくても良い。
上記各成分は、常法により混合すればよい。例えば、ディスパーなどを用いて混合したり、或いはボールミルなどを用いて原料粉末の凝集粒子を解砕しつつ混合してもよい。
基材上へのスラリーの塗工方法は特に制限されず、ドクターブレード法、カレンダーロール法、印刷法などの常法を用いることができる。具体的には、例えば、スラリーを塗工ダムへ輸送し、ドクターブレードやスクリーン印刷機などにより均一な厚さとなるようPETフィルムなどの基材上にキャスティングし、乾燥することにより、燃料極支持基板グリーンシートとする。
グリーンシートの乾燥条件は、使用した溶媒の種類などに応じて適宜調整すればよいが、通常は40℃以上150℃以下程度とする。乾燥は一定温度で行ってもよいし、50℃、80℃、120℃の様に順次連続的に昇温して加熱乾燥してもよい。
燃料極支持基板グリーンシートは、所望の形状に切断してもよい。燃料極支持基板グリーンシートの形状は特に制限されず、例えば、目的のハーフセルまたは単セルの形状に合わせればよい。例えば、円形、楕円形、R(アール)を持った角形などとすることができ、また、これらのシート内に円形、楕円形、Rを持った角形などの穴を有するものであってもよい。
上記燃料極支持基板グリーンシートは、焼成することにより単独の燃料極支持基板としてもよい。但し本発明では、この段階で燃料極支持基板グリーンシートを焼成せず、その上に燃料極用グリーン層などを形成するなどし、所望の形状に切断した上でまとめて共焼成してもよい。また、以降の工程の説明において、グリーン層の上に別のグリーン層を形成することのみが記載されていても、グリーン層を適宜焼成した上で別のグリーン層を形成してもよいものとする。以降の焼成条件は、いずれの層の焼成や共焼成にも適用することができる。
焼成条件は適宜調整すればよいが、例えば、十分量の酸素の存在下、1200℃以上1500℃以下程度で焼成する。1200℃以上で焼結すれば十分な焼成効果が得られ、十分な強度が得られる。一方、焼成温度が高過ぎると各層の粒子の粒径が過大となって靭性がかえって低下するおそれがあるため、上限を1500℃とする。より好ましくは1250℃以上1450℃以下である。
焼成温度に至るまでの加熱速度は適宜調整すればよいが、通常、0.05℃/分以上4℃/分以下程度とすることができる。
以下では、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
<粉体の粒子径の評価>
ピロリン酸ナトリウム[和光純薬工業(株)製、商品名「ピロりん酸ナトリウム+水和物」]を0.2重量%になるように純水に溶解し、分散媒とした。この分散媒に粉体を分散させ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置[(株)堀場製作所製、型番LA−920]を用いて、粉体の粒子径を測定した。
<比表面積の評価>
BET比表面積測定装置[Macsorb製、型番Model−HM1210]を用いて、粉体の比表面積を測定した。
<実施例1>
(支持基板グリーンシートの作製)
導電性成分としての酸化ニッケル[正同化学工業(株)製]60質量部、骨格成分としての3モル%イットリア安定化ジルコニア粉末[東ソー(株)製、商品名「TZ3Y」]40質量部、空孔形成材としてのカーボンブラック[SECカーボン(株)製、SGP−3]10質量部、メタクリレート系共重合体からなるバインダー(分子量:30,000、ガラス転移温度:−8℃、固形分濃度:50質量部)30質量部、可塑剤としてジブチルフタレート2質量部及び分散媒としてトルエン/イソプロピルアルコール(質量比=3/2)の混合溶剤80質量部を、ボールミルにより混合して、スラリーを調製した。得られたスラリーを使用し、ドクターブレード法によりシート成形し、70℃で5時間乾燥させて、燃料極支持基板グリーンシートを作製した。なお、グリーンシートの厚みについては、同じ組成のスラリーを用いて、予備実験を行い、グリーンシートと焼成後の厚みを考慮して、焼成後の厚みが400μmになるようにコントロールして作製を行った。
(8YbSZ原料粉末の作製)
塩化イッテルビウム(III)水和物[和光純薬工業(株)製]および、塩化ジルコニウム(IV)[和光純薬工業(株)製]、を焼成後に8モル%イッテルビア安定化ジルコニア[8YbSZ:(Yb0.08(ZrO0.92]になるように計量した。純水を用意し、加温機能付きのマグネチックスターラーを用いて水温が20℃になるようにコントロールし、上記塩化物を溶解させた。なお、30分経っても溶解しない場合には、さらに純水を加え、目視で、塩化物が溶解するまで溶解させた。目視で塩化物が溶解したことを確認した後、それまで溶解に必要とした純水の1割に当たる量を加え、さらに、水溶液を25℃になるように加温・保温しながら、1時間撹拌し、塩化物を完全に溶解させた。得られた水溶液をアンモニア水に滴下して得られた沈殿物を洗浄、乾燥後、800℃で1時間仮焼した。仮焼した粉末にエタノールを加え、ボールミルで10時間解砕してから乾燥させて、さらに乳鉢にて、解砕を行い、解砕した粉を1200℃で焼成して8YbSZ原料粉末を得た。ポリ容器に得られた原料粉末とエタノールとYSZボールを入れ、回転数と時間を調整しながらボールミルで解砕し、乾燥させることで、平均粒子径が0.49μmの8YbSZ原料粉末を得た。
(YbGdDC原料粉末の作製)
塩化イッテルビウム(III)水和物[和光純薬工業(株)製]および、塩化ガドリニウム(III)水和物[和光純薬工業(株)製]、塩化セリウム(III)水和物[和光純薬工業(株)製]を、焼成後に10モル%イッテルビア10モル%ガドリニアを固溶させたセリア[YbGdDC:(YbO1.50.10(GdO1.50.10(CeO0.80、別表記:Yb0.10Gd0.10Ce0.80Ox]になるように計量した。
純水を用意し、加温機能付きのマグネチックスターラーを用いて水温が20℃になるようにコントロールし、上記塩化物を溶解させた。なお、30分経っても溶解しない場合には、さらに純水を加え、目視で、塩化物が溶解するまで溶解させた。目視で塩化物が溶解したことを確認した後、それまで溶解に必要とした純水の1割に当たる量を加え、さらに、水溶液を25℃になるように加温・保温しながら、1時間撹拌し、塩化物を完全に溶解させた。得られた水溶液をアンモニア水に滴下して得られた沈殿物を洗浄、乾燥後、800℃で1時間仮焼した。仮焼した粉末にエタノールを加え、ボールミルで10時間解砕してから乾燥させて、さらに乳鉢にて、解砕を行い、解砕した粉を1200℃で焼成して焼成粉末を得た。得られた焼成粉末にエタノールを加え、ボールミルで0.5μm以下になるように回転数と時間を調整し解砕し、乾燥させてYbGdDC原料粉末を得た。
(燃料極用ペーストの作製)
ポリ容器に、導電性成分としての酸化ニッケル[日興リカ(株)製、商品名「高純度酸化ニッケルF」]60質量部、イオン伝導成分としての調整した8YbSZ原料粉末40質量部、さらに分散媒としてのエタノールとYSZボールを加え、これをボールミルで解砕・混合してから乾燥させて、ボールミル処理したNiO/8YbSZ混合粉末を得た。
NiO/8YbSZ混合粉末60質量部、溶剤としてのα−テルピネオール[和光純薬工業(株)製]36質量部、バインダーとしてのエチルセルロース[和光純薬工業(株)製]4質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート[和光純薬工業(株)製]6質量部及び分散剤としてのソルビタン脂肪酸エステル系界面活性剤4質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質:アルミナ)を用いて解砕し、燃料極用ペーストを作製した。
(電解質層用ペーストの作製)
8YbSZ原料粉末60質量部、バインダーとしてエチルセルロース[和光純薬工業(株)製]を5質量部、溶剤としてα−テルピネオール[和光純薬工業(株)製]を40質量部、可塑剤としてジブチルフタレート[和光純薬工業(株)製]を6質量部及び分散剤としてソルビタン酸エステル系界面活性剤[三洋化成工業(株)製、商品名「イオネットS−80」]5質量部を、乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」ロール材質:アルミナ)を用いて解砕し、8YbSZ電解質層用ペーストを作製した。
(バリア層用のペーストの作製)
上記で得たYbGdDC原料粉末60質量部、バインダーとしてのエチルセルロース[和光純薬工業(株)製]5質量部、溶剤としてのα−テルピネオール[和光純薬工業(株)製]40質量部、可塑剤としてのジブチルフタレート[和光純薬工業(株)製]6質量部及び分散剤としてのソルビタン酸エステル系界面活性剤[三洋化成工業(株)製、商品名「イオネットS−80」]5質量部、を乳鉢を用いて混合した後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質;アルミナ)を用いて解砕した。これにより、バリア層用ペーストを得た。
(燃料極用グリーン層の形成)
上記で得た燃料極用ペーストをスクリーン印刷により、上記で得た支持基板グリーンシートに、焼成後の厚さが16μmとなるように印刷し、100℃で30分間乾燥させ、燃料極用グリーン層を形成した。
(電解質層用グリーン層の形成)
上記で得た燃料極用グリーン層上に、上記で得た電解質層用ペーストをスクリーン印刷により、焼成後の厚さが8μmとなるように印刷し、100℃で30分間乾燥させ、電解質層用グリーン層を形成した。
(バリア層用グリーン層の形成)
上記で得た、電解質層のグリーン層上に上記のバリア層用ペーストを、スクリーン印刷により厚さ2μmとなるように印刷した。これを100℃で30分間乾燥させることによって、バリア層用グリーン層を形成した。
(焼成)
バリア層用ペーストの乾燥後、上記で得たバリア層用グリーン層、電解質層用グリーン層、燃料極用グリーン層が形成された支持基板用のグリーンシートを、焼成後の1辺が60mmの正方形になるように打ち抜いた。打ち抜いた後、1300℃で2時間焼成してバリア層を有するハーフセルを得た。
(LSCの粉体材料の調製)
LSC空気極の原料となる粉体材料として、硝酸ランタン(III)水和物、硝酸ストロンチウム、硝酸コバルト(II)水和物[いずれも和光純薬工業(株)製]を焼成後にLa0.6Sr0.4CoOxとなるように純水に溶解させた。溶解後、この溶液を0.1モル/Lになるように純水を加えて調整した(溶液:A)。調整した溶液:Aに対する量論比が1.2倍のシュウ酸アンモニウム水和物[関東化学(株)製]を純水に溶かした溶液(溶液:B)を用意し、スターラーにて撹拌させた状態の溶液:Bに溶液:Aを滴下させた。
滴下後の混合溶液をロータリーエバポレータにてある程度の水分を留去した後、蒸発皿に移して100℃で乾燥を行った。得られた固形物について、乳鉢で解砕した後、400℃で5時間熱分解、800℃で5時間仮焼、1000℃で10時間焼成を行なった。
得られた粉末にエタノールを加え、さらにボールミルで解砕してから乾燥させて、得られた粉末を2.00gずつ秤量し、それぞれをφ20mmの錠剤成形器を用い、1.5t/cmで5分間圧縮成形した。できた成形物を1100℃で6時間焼成してLSC(6−4−10)からなるペレットを得た。なお、得られたペレットは、X線回折によって、ペロブスカイトからなる単一相であることを確認した[未反応物質(酸化ランタン、酸化ストロンチウム、酸化コバルト)がないことを確認した]。得られたペレットについては、乳鉢を用いて粗解砕した後、スタンプミルを用いて目開き100μmのふるい下になるまで解砕した。さらにその後、ポリ容器に得られた粉末とエタノールとYSZボールを入れ、ボール径と回転数と時間を調整しながらボールミルで解砕し、乾燥させることで、平均粒子径(D50)が0.31μm、比表面積が7.8m/gのLSC粉末:Aと、平均粒子径(D50)が1.92μm、比表面積が2.5m/gのLSC粉末:Bを得た。
(空気極用スラリーの調製)
上記の方法で調製されたLSC粉末:Aを90質量部、LSC粉末:Bを10質量部に対して、空孔形成材としての平均粒子径3μmのカーボンブラック2質量部、バインダーとしてのエチルセルロースが3質量部、溶剤としてのα−テルピネオールが30質量部の割合となるように加え、これを乳鉢を用いて混合した。その後、3本ロールミル(EXAKT technologies社製、型式「M−80S」、ロール材質:アルミナ)を用いて混練し、空気極用スラリー:Aを得た。
同様に、使用するLSC粉末として、LSC粉末:Bを100質量部使用し、空孔形成材を使用しなかったこと以外は同様の方法で、空気極用スラリー:Bを得た。
(LSC空気極の形成)
上記バリア層を有するハーフセルのバリア層面に、スクリーン印刷により、上記空気極用スラリー:Aを1cm×1cmで、焼成後の厚みが10μm程度になるように、正方形に塗布し、90℃で1時間乾燥させた。乾燥後に、上記空気極用スラリー:Bを1cm×1cmで、焼成後の厚みが10μm程度になるように正方形に塗布し、90℃で1時間乾燥させ、2層からなる空気極用グリーン層を形成した。この空気極用グリーン層を、1050℃で2時間焼成し、実施例1に係る電気化学セルを得た。
<実施例2>
実施例1における空気極用スラリーの調製において、空気極用スラリー:Aの作製に当たり、空孔形成材として、平均粒子径2μmの樹脂粒子2質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で作製を行い、実施例2に係る電気化学セルを得た。
<比較例1>
実施例1における、LSC空気極の形成において、上記空気極用スラリー:Bを1cm×1cmで、焼成後の厚みが20μm程度になるように正方形に塗布した以外は実施例1と同様の方法で作製を行い、比較例1に係る電気化学セルを得た。
<比較例2>
実施例1における、LSC空気極の形成において、上記空気極用スラリー:Aを1cm×1cmで、焼成後の厚みが20μm程度になるように正方形に塗布した以外は実施例1と同様の方法で作製を行い、比較例2に係る電気化学セルを得た。なお、この方法で作製した空気極は表面から見た時にひび割れ、剥離が観察された。
<電気化学セルの電気性能評価(電池性能評価試験)>
各実施例及び比較例の電気化学セルについて以下の方法で電池性能を評価した。電気化学セルの燃料極に100mL/分の窒素を、空気極に100mL/分の空気を供給しつつ、100℃/時間の速度で測定温度(750℃)まで昇温した。昇温後、燃料極、空気極の出口側のガスについて、流量計で、流量を測定し、漏れが無いことを確認した。
次いで、水素を6mL/分、窒素を194mL/分の水温25℃で、バブラーにより加湿した混合ガスを燃料極へ、400mL/分の空気を空気極へ供給した。10分以上経過後に起電力が発生し、漏れが無いことを再度確認した後、燃料極側のガスを、水温25℃でバブラーにより加湿した水素を194mL/分の流量で燃料極へ供給し、起電力が安定してから、10分以上経過後に電流密度(負荷)を1.0A/cmに変更し、電気特性としての電圧を得た。結果を表1、2に記載する。
<空気極の観察A>
各実施例、比較例で作製した電気性能評価後サンプルについて、空気極が塗布されている面の中央付近の部分を含むように、長さ:10mm、幅:6mmになるように破断し、エポキシ樹脂で樹脂包埋後、空気極の中央部分が観察できるように研磨し、断面観察用のサンプルとした。観察には電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子社製「JSM−7600F」)を用い、断面観察用の1.5万倍の倍率の画像を取得した。なお、取得した画像は、作製した断面観察用サンプルの、空気極の中央付近を1点、各両端部より1mm付近の2点、それら以外の部分で同じ観察個所を含まないように7点、の合計10点について取得した。
上記10点の取得した画像について、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製「Image Pro Plus バージョン4.0」)を用いて、
・空気極とバリア層との界面から空気極の表面方向へ、上記界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間において5μm幅の2μm×5μmの長方形領域1(図4参照)における、気孔と空気極成分粒子との界面長さの合計値データを上記10点の取得した画像毎に求め、これらについての平均値t1、標準偏差d1ならびに変動係数cv1
・空気極の表面からバリア層との界面方向へ、上記表面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間において5μm幅の2μm×5μmの長方形領域2(図4参照)における、気孔と空気極成分粒子との界面長さの合計値データを上記10点の取得した画像毎に求め、これらについての平均値t2、標準偏差d2ならびに変動係数cv2
・上記t1とt2、上記d1とd2、上記cv1とcv2の各比
について、値を求めた。結果を表1に示す。なお、表1中では、t1、t2は「界面長さ」と略記する。
なお、長方形領域1および2は、それぞれ10か所以上測定して各値を取得した。図7、8に取得画像の一例を示す。図8中、T1,T2,T3,...は、気孔と個々の空気極成分粒子との各界面長さであり、これらの合計を界面長さの合計値データとした。
なお、空気極とバリア層の境界については、空気極成分が最もバリア層へ(電解質層方向へ)入り込んでいる箇所と、その箇所から2μm以上離れて、空気極成分がバリア層へ入り込んでいる箇所の2か所を結んだ直線を空気極/バリア層界面とした。また、空気極と表面の境界については、空気極成分が表面へ最も突出している部分と、その箇所から2μm以上離れて、空気極成分が最も突出している部分の2か所を結んだ直線を空気極/表面の境界とした。以下においても同様とした。
実施例1、2および比較例1、2の空気極の長方形領域1および2でそれぞれ得られた各100個以上の気孔と空気極成分粒子との界面長さを、長方形領域1および2でそれぞれヒストグラムとした。階級と階級間隔については、界面長さの最大値:Pmax、最小値:Pminの差:ΔP=Pmax−Pminを求め、ΔPを20に近い数で割りその値を参考に決定した。図9に、実施例1の、長方形領域1における気孔と空気極成分粒子との界面長さをヒストグラムにしたものを示す。図9中の横軸の界面長さの範囲は、例えば0.0〜0.1は0.0μm以上0.1μm未満であり、他も同様である。図9中の矢印で示すように、長方形領域1における界面長さをヒストグラムにした際のピークは、2つ存在した(Pa1=2)。
実施例2の長方形領域1で得られた界面長さのヒストグラムにおいては、3つのピークがみられた。比較例1、2の長方形領域1で得られた界面長さのヒストグラムにおいては、ピークは1つであった。また、同様に、実施例1、2および比較例1の空気極の長方形領域2で得られた界面長さのヒストグラムにおいては、全てピークは1つであった。
長方形領域1におけるヒストグラムでのピーク数Pa1、長方形領域2におけるヒストグラムでのピーク数Pa2、ならびにPa1/Pa2の値を表1に示す。
同様に、上記10点の取得した画像について、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製「Image Pro Plus バージョン4.0」)を用いて、
・空気極とバリア層との界面から空気極表面方向への垂直方向に5μm以内の範囲3(図6参照)における複数の気孔の周長円相当径の平均値D(μm)、ならびに面積円相当径の平均値D(μm)および、上記複数の面積円相当径についてのヒストグラムのピーク数Pb1
・空気極の表面からバリア層との界面方向への5μm以内の範囲4(図6参照)における複数の気孔の、面積円相当径についてのヒストグラムのピーク数Pb2
・上記DとD、上記Pb1とPb2の各比
について、値を求めた。範囲3および4において、取得した断面観察画像から得られる気孔の測定数が100個に満たない場合には、取得する断面観察画像を増やしたり、倍率を8000倍にするなどして、測定数が100個以上になるようにした。
図10に取得画像の一例を示す。図10中のPG1,PG2,PG3,...は、各気孔の周縁部であり、これらから各気孔の面積円相当径ならびに周長円相当径を得た。結果を表2に示す。
<空気極の観察B>
各実施例、比較例で作製した電気性能評価後サンプルについて、空気極が塗布されている面の中央付近の部分を含むように、長さ:10mm、幅:6mmになるように破断し、そのまま断面観察用のサンプルとした。観察には電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子社製「JSM−7600F」)を用い、断面観察用の1.5万倍の倍率の画像を取得した。なお、取得した画像は、作製した断面観察用サンプルの、空気極の中央付近を1点、各両端部より1mm付近の2点、それら以外の部分で同じ観察個所を含まないように7点、の合計10点について取得した。
上記10点の取得した画像について、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製「Image Pro Plus バージョン4.0」)を用いて、
・範囲3における、複数の空気極成分粒子の(周長円相当径の平均値)/(面積円相当径の平均値)である比LS1
・範囲4における、複数の空気極成分粒子の(周長円相当径の平均値)/(面積円相当径の平均値)である比LS2
・範囲3における、複数の空気極成分粒子の面積円相当径の変動係数CVLS1(%)
・範囲4における、複数の空気極成分粒子の面積円相当径の変動係数CVLS2(%)
・変動係数CVLS1と変動係数CVLS2の比
について、値を求めた。範囲3および4において、取得した断面観察画像から得られるそれぞれの測定数が100個に満たない場合には、取得する断面観察画像を増やしたり、倍率を8000倍にするなどして、測定数が100個以上になるようにした。
図11、12に取得画像の一例を示す。図12中のPG1,PG2,PG3,...は、各空気極成分粒子の周縁部であり、これらから各空気極成分粒子の面積円相当径ならびに周長円相当径を得た。結果を表2に示す。
表1ならびに図9に示すように、空気極の断面の、空気極とバリア層との界面から、空気極のバリア層が形成されていない面方向へ、界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域について、互いに重なり合わない10か所以上の上記長方形領域において、気孔に面した複数の空気極成分粒子の気孔との各界面長さを走査型電子顕微鏡で80個以上測定した上記界面長さの分布が2つ以上のピークを有する実施例1、2の電気化学セルでは、優れた電流−電圧特性を示した。
本発明の電気化学セルは、電流−電圧特性に優れている。したがって、本発明の電気化学セル用空気極、およびそれを含む電気化学セルは、電気化学セルの高性能化および高信頼性化に寄与できるものである。
10、20 電気化学セル
12、22 空気極
24 バリア層
16、26 電解質層
18、28 燃料極
1、2 長方形領域
3、4 範囲
7 空気極の、電解質層またはバリア層との界面方向の中央部付近
8 空気極と、電解質層またはバリア層との界面
9 空気極の、電解質層および/またはバリア層が形成されていない面
L 空気極の、電解質層またはバリア層との界面方向の端部からの距離
S 空気極と電解質層との界面から、空気極の電解質層および/またはバリア層が形成されていない面方向へ、上記界面と垂直な方向
T 空気極の電解質層および/またはバリア層が形成されていない面から、空気極と電解質層との界面方向へ、上記面と垂直な方向
W1 空気極と電解質層またはバリア層との界面から、空気極の電解質層および/またはバリア層が形成されていない面方向へ、界面と垂直方向に離れた距離
W2 空気極の電解質層および/またはバリア層が形成されていない面から、空気極と電解質層またはバリア層との界面方向へ、面と垂直方向に離れた距離


Claims (4)

  1. 燃料極、電解質層、空気極をこの順に配置してなる電気化学セル用空気極であって、
    前記空気極は、厚みが3μm以上、幅500μm以上であり、
    前記空気極の断面の、前記空気極と前記電解質層との界面から、前記空気極の前記電解質層が形成されていない面方向へ、前記界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域について、互いに重なり合わない10か所以上の上記長方形領域において、気孔に面した複数の空気極成分粒子の気孔との各界面長さを走査型電子顕微鏡で80個以上測定した前記界面長さの分布が2つ以上のピークを有することを特徴とする
    電気化学セル用空気極。
  2. 燃料極、電解質層、バリア層、空気極をこの順に配置してなる電気化学セル用空気極であって、
    前記空気極は、厚みが3μm以上、幅500μm以上であり、
    前記空気極の断面の、前記空気極と前記バリア層との界面から、前記空気極の前記バリア層が形成されていない面方向へ、前記界面と垂直方向に1μm離れた位置と3μm離れた位置との間における5μm幅の2μm×5μmの長方形領域について、互いに重なり合わない10か所以上の上記長方形領域において、気孔に面した複数の空気極成分粒子の気孔との各界面長さを走査型電子顕微鏡で80個以上測定した前記界面長さの分布が2つ以上のピークを有することを特徴とする
    電気化学セル用空気極。
  3. 燃料極、電解質層、請求項1に記載の空気極をこの順に配置してなる電気化学セル。
  4. 燃料極、電解質層、バリア層、請求項2に記載の空気極をこの順に配置してなる電気化学セル。
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