JP2018089370A - 神経癒着防止ラッピング材 - Google Patents
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Abstract
Description
例えば、正中神経は、手関節の掌側の中央部の手根管の中に存在している。手根管は骨性の壁や靱帯によって囲まれたスペースである。正中神経は該手根管中で周りから圧迫されないようにゆったり通過しているが、何らかの原因で手根管の内圧が高くなり、正中神経が圧迫されたときに、痛みやしびれを引き起こす(手根管症候群)。手根管症候群を治療するための手術では、靱帯の切離や正中神経剥離術を行い、神経圧迫の原因となっている組織を取り除くことが行われる。しかしながら、手術自体は成功しながらも、術後に神経が手根管を構成する壁や靱帯に癒着してしまい、癒着を剥離するための手術が必要になることがあった。また、神経と癒着している周囲組織を剥離する手術は非常に高度であり、剥離の際に神経を損傷する危険性が非常に高くなる。
しかしながら、神経の癒着防止の場合、癒着防止膜自体が神経を圧着してしまうことがあるという独特の課題があることから、他の生体組織用の癒着防止膜を用いても、充分に機能しない。現在、コラーゲンからなる神経用の癒着防止膜が市販されているが、強度が低く屈曲したときに狭窄して神経を圧迫してしまうことがあるうえ、短期間で分解してしまうことから、神経の癒着を充分には防止できないことがあるという問題があった。
以下に本発明を詳述する。
上記発泡体は、本発明の神経癒着防止ラッピング材を神経に巻き付ける際に神経側に配置されるものであり、神経が他の生体組織に癒着するのを防止するとともに、神経癒着防止ラッピング材が神経を圧迫するのを防止するクッション材の役割を果たす。一方、上記補強材は、神経が他の生体組織に癒着するのを防止するとともに、本発明の神経癒着防止ラッピング材に充分な強度を付与する役割を果たす。特に神経癒着防止ラッピング材が屈曲したときに、その内径が狭窄してしまうと神経が圧迫されてしまう。上記補強材を有することにより、そのような狭窄による神経の圧迫を防止することができる。
更に、本発明の神経癒着防止ラッピング材を、上記発泡体が神経側になるように神経に巻き付けることにより、炎症性マクロファージの神経内浸潤を軽減することができ、神経が他の生体組織に癒着するのをよりいっそう防止することができる。
なお、上記発泡体の平均孔径は、例えば、水銀圧入法や画像解析法等の従来公知の方法により測定することができる。
上記熱処理の温度としては、上記補強材を構成する生体吸収性材料の種類に応じて、そのガラス転移温度よりも高く、融解温度よりも低い条件に設定すればよい。例えば、上記補強材がポリラクチド(D、L、DL体)からなる場合には、該ポリラクチド(D、L、DL体)のガラス転移温度よりも10℃以上高く、融解温度よりも10℃以上低い温度で、0.5〜24時間程度の処理時間で熱処理を行うことが好ましい。
なお、上記ガラス転移温度及び融解温度は、熱示差走査熱量計(DSC)を用いた方法等の従来公知の方法により測定することができる。
本発明の神経癒着防止ラッピング材であるチューブ状体の内径の好ましい下限は0.1mm、好ましい上限は30.0mmであり、より好ましい下限は0.5mm、より好ましい上限は20.0mmである。
図1に、縦割りしたチューブ状体の神経癒着防止ラッピング材の一例を示す模式図を示した。図1の神経癒着防止ラッピング材1は、内層として発泡体11と、外層である補強材12とが積層した層構造を有し、縦割りがされている。
また、図2に、縦割りしたチューブ状体を用いて神経の癒着を防止する方法を示す模式図を示した。図2では、縦割りしたチューブ状体の神経癒着防止ラッピング材4を神経3に巻き付けた後、該縦割りしたチューブ状体の神経癒着防止ラッピング材4の縦割り部分を縫合糸5により縫合することにより固定している。
ポリラクチド(L体)からなる16フィラメントのマルチ糸を4本合糸した後、撚糸し、組紐機を用いて製紐して、チューブ状の補強材を得た。得られた補強材を、140℃、13時間熱処理した。
熱処理後の補強材をステンレス製ロッドにはめ、ラクチド(L体)/ε−カプロラクトン共重合体(モル比50/50)のジオキサン溶液(5重量%)に浸漬後、−40℃にて凍結してから30℃で24時間凍結乾燥した。このようにして、内層にラクチド(L体)/ε−カプロラクトン共重合体からなる発泡体、外層にラクチド(L体)の組紐からなる強化材を有する、内径2.0mm、外径3.0mm、長さ15mmのチューブ状の神経癒着防止ラッピング材を得た。
また、得られた神経癒着防止ラッピング材の断面の写真を図4に示した。図4(A)は、神経癒着防止ラッピング材の断面を30倍の倍率で撮影した写真であり、図4(B)は、神経癒着防止ラッピング材の断面を150倍の倍率で撮影した写真である。
Fischer 344ラット雄の坐骨神経を一時的に剥離し、以下の各群の処置を行った。
(A)Sham群:神経の剥離のみを行った。図5(A)に、神経剥離(Sham手術)後の状態の写真を示した。
(B)癒着群:神経を剥離した後に双極式電気メスで神経の床を形成する大腿二頭筋を焼灼することにより、神経と筋との間で癒着が生じやすいようにした。図5(B)に、筋を焼灼した後の状態の写真を示した。
(C)ラッピング群:神経を剥離した後に双極式電気メスで神経の床を形成する大腿二頭筋を焼灼した後、縦割りした実施例で得られた神経癒着防止ラッピング材を神経に巻き付けた。図5(C)に、神経癒着防止ラッピング材を神経に巻き付けた後の状態の写真を示した。
(D)HA群:神経を剥離した後に双極式電気メスで神経の床を形成する大腿二頭筋を焼灼した後、更に神経癒着予防として剥離した神経に直接ヒアルロン酸溶液を注射器で散布した。
結果を表2に示した。
術後6週間後に剥離した神経の部位の癒着性、剥離性を以下の表1に示した定義によるスコア値として評価した。
各群において剥離した神経の近位部の片端を切断し、神経と周囲筋との間の癒着の強度を測定するために、引張試験機(日本電産シンポ社製、デジタルフォースゲージFGP−0.2)にて、引張速度2cm/minの条件で引張強度(N)を測定し、これを剥離強度とした。
筋電計を用いて、各群において神経剥離の処置をした神経の近位と遠位部で電気刺激を行い、腓腹筋の誘発筋電図から運動神経伝導速度(Nerve conduction velocity:NCV)を測定した。
なお、NCVは、刺激した2点間の距離(15mm)を得られた活動電位の潜時差で除した値であり、下記式により算出される。
NCV(m/s)=2点間の距離(mm)/潜時差Δt(ms)
各群において、坐骨神経の支配筋である腓腹筋を取出し、腓腹筋湿重量(g)を測定した。
術後6週間後にて摘出した坐骨神経とその周囲筋の切片を作製し、CD68及びCCR7を用いた免疫染色を行った。図7に各染色像を示した。なお、染色の比較対象として脾臓組織を免疫染色した像もあわせて示した。
図7より、(B)癒着群及び(D)HA群では茶色に染色された炎症性マクロファージが多数認められた。これに対して、(C)ラッピング群では、茶色に染色された炎症性マクロファージが明らかに少なく、(A)Sham群に近い染色像を示した。
11 発泡体
12 補強材
3 神経
4 縦割りしたチューブ状体の神経癒着防止ラッピング材
5 縫合糸
Claims (4)
- 神経に巻き付けることにより神経が他の生体組織に癒着するのを防止する神経癒着防止ラッピング材であって、
生体吸収性材料からなる発泡体と、前記発泡体を補強する生体吸収性材料からなる補強材とからなるチューブ状体であって、
前記補強材は、前記発泡体の中心又は外面に位置し、内面が前記発泡体である
ことを特徴とする神経癒着防止ラッピング材。 - 発泡体を構成する生体吸収性材料は、グリコリド−ε−カプロラクトン共重合体又はラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体であることを特徴とする請求項1記載の神経癒着防止ラッピング材。
- 補強材は、組紐であることを特徴とする請求項1又は2記載の神経癒着防止ラッピング材。
- 補強材を構成する生体吸収性材料は、ポリラクチド(D、L、DL体)であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の神経癒着防止ラッピング材。
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