JP2018061462A - ヒトの薬物代謝酵素誘導及び薬物動態予測が可能な新規薬物代謝酵素誘導評価方法 - Google Patents

ヒトの薬物代謝酵素誘導及び薬物動態予測が可能な新規薬物代謝酵素誘導評価方法 Download PDF

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【課題】ヒトにおける薬物代謝酵素誘導及び/又は薬物動態予測が可能である薬物代謝酵素誘導評価方法を提供することを課題とする。【解決手段】ヒト化遺伝子改変モデル動物に少なくとも1つの薬物を経口投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、又はリンパ管投与するステップ、該動物から門脈血、肝静脈血、全身循環血、尿及び胆汁からなる群から選択される少なくとも1つのサンプルを採取するステップ、該サンプルを用いて代謝酵素誘導による該薬物の未変化体及び代謝物の量及び/又は薬物動態を測定するステップ、ならびに、その測定値を用いて小腸及び肝臓における代謝酵素の誘導を評価するステップを含む、ヒトにおける薬物代謝酵素誘導及び/又は薬物動態予測が可能である薬物代謝酵素誘導評価方法。【選択図】図12

Description

本発明は、特定動物の薬物動態関連遺伝子をヒトの対応する遺伝子と置換したヒト化遺伝子改変非ヒト動物へ薬物投与した後の該動物の血液(門脈血、全身循環血など)、肝組織もしくは肝細胞、又は小腸組織もしくは小腸細胞を用いる薬物代謝酵素誘導評価方法に関する。この方法により、ヒトの薬物代謝酵素誘導及び薬物動態予測が可能となるため、ヒト臨床予測をかなり正確に行うことができる。
近年、薬物代謝酵素誘導試験の重要性が認識され、2012年公表のFDAガイダンス(非特許文献1)、EMAガイドライン(非特許文献2)では、候補化合物の主要なチトクロムP450(CYP)分子群に対する酵素誘導の検討が求められることとなった。それらの指針における酵素誘導試験では、ヒト初代培養肝細胞を用いたin vitro試験系が提案されており、これまでの創薬研究における代謝酵素誘導評価は主に肝臓モデルが用いて行われてきた。しかしながら、代謝酵素は身体の広範に発現し、代謝酵素誘導によって影響を受ける臓器は肝臓に限らない(非特許文献3、非特許文献4)。こうした肝細胞モデルが使用される背景には、代謝酵素誘導に関わる主要なCYP分子種の多くが主に肝臓に発現しているという理由だけでなく、小腸(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)などのCYP発現を有する他の臓器モデルの開発が十分に進んでいないことが考えられる(非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)。
小腸では上皮細胞を透過する際にほぼすべての薬物が代謝酵素に暴露されるため、代謝酵素の絶対量以上に小腸の寄与は大きく、CYP3Aで代謝される医薬品の体内動態や薬物相互作用に小腸の初回通過代謝が大きく関わることが近年知られるようになってきた(非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14、非特許文献15)。特に、同じ薬物応答受容体PXR(pregnane X receptor)によって誘導を受けるCYP3AとMDR1/P-gpに対して重複する基質においては相乗的な相互作用が報告されている(非特許文献16、非特許文献17、非特許文献18)。従って、CYP以外の薬物動態関連因子も考慮した総合的な小腸代謝評価の重要性が高まってきている (非特許文献19、非特許文献20)。現在までに経口バイオアベイラビリティーを予測する方法は、in silicoでの手法やin vitroの実験結果を生理学的モデルに組み込むことにより、ある程度可能である(非特許文献21)。しかし、薬物代謝関連酵素やトランスポーターの相互作用のため、吸収と初回通過代謝の結果が決定される経口バイオアベイラビリティーのより正確な予測には、より高性能なモデルの開発が望まれる。
薬の薬効や安全性を調べる上で、病態モデルやモデル動物の使用は不可欠である。薬物代謝酵素誘導においては、動物の種差による代謝酵素の違いが大きな問題となっており、ヒト臨床試験段階で初めて問題が表面化し、開発コストを押し上げる要因となっている。そのため、現在種差を克服したヒト化モデルマウスの作製が求められている。薬物代謝に関わるヒト化モデルマウスに関しては、遺伝子改変モデルマウスと臓器移植モデルマウスに大別される。
臓器移植モデルマウスとして、例えば肝臓移植マウスが知られている。このマウスは、アルブミン(Alb)プロモーターにウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(Plau)遺伝子を連結したコンストラクト(Alb-Plau)を搭載した遺伝子改変マウス(非特許文献22)であり、その後、Tg(Alb-Plau)の中で系統の樹立に成功し、肝細胞が分裂中にAlb-Plau遺伝子を欠損した肝細胞によって肝臓が再生されたことが報告されている(非特許文献23)。さらに、Tatenoらは、肝臓に障害を持つアルブミンエンハンサー/プロモーター・ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター・トランスジェニックマウス(uPAマウス)とSCIDマウスとを掛け合わせ、どちらの形質もホモ接合体であるuPA/SCIDトランスジェニックマウスを作製し(非特許文献24)、ヒト肝細胞をTg(Alb-Plau;SCID)へ移植することによってヒト化モデルマウスを作製した。
その他、遺伝子は異なるが同様に肝機能異常を引き起こす遺伝子をターゲットとした遺伝子改変を行い、代償的に移植したヒト肝細胞を置換することによって作製されるヒト肝キメラマウスの開発が行われてきた。そのようなヒト肝キメラマウスの例は、FRG(非特許文献25)、TK-NOG(非特許文献26)、AFC8(非特許文献27)、Alb-TRECK/SCID(非特許文献28)などである。
一方、薬物代謝をヒト化した遺伝子改変モデル動物(一般的にマウスが知られる。)は、それが本来もつ代謝酵素遺伝子をヒトの代謝酵素遺伝子に置換した動物である。そのような遺伝子改変モデル動物は、例えば特許文献1〜6、非特許文献29、非特許文献30などに記載されている。
特許第4027803号 特許第4446603号 特許第4572320号 特許第4997544号 特許第5543771号 特許第5557217号
FDAガイダンス, Drug Interaction Studies, 2012 EMAガイドライン、Guideline on the Investigation of Drug Interactions,2012 Kolars JC et al. J Clin Invest 90:1871-1878,1992 Burk O et al. J Biol Chem 279:38379-38385,2004 Guzelian PS. J Clin Invest 80:1029-1036,1987 Kolars JC et al. J Clin Invest 90:1871-1878,1992 Kolars JC et al. Pharmacogenetics 4:247-59, 1994 Hartley DP, Pharmacogenet Genom 16:579-599,2006 Pfrunder A et al. J Pharm Pharmacol 55:59-66, 2003 Schuetz EG et al. Mol Pharmacol 49:311-318, 1996 Maier A et al. Br J Pharmacol 150:361-368, 2007 Kolars JC et al. Lancet 338:1488-1490, 1991 Hebert MF et al. Clin Pharmacol Ther 52:453-457, 1992 Wu CY et al. Clin Pharmacol Ther 58:492-497, 1995 Doherty MM et al. Clin Pharmacokinet 41:235-253, 2002 Benet LZ et al. Int J Pharm 277:3-9, 2004 Siissalo S and Heikkinen AT. Curr Drug Metab 14:102-111, 2013 Srinivas NR. Drugs R D 16:141-148, 2016 Komura H and Iwaki M. Drug Metab Rev 43:476-498, 2011 Karlsson FH et al. Drug Metab Dispos 41, 2033-2046, 2013 Ripp SL et al. Drug Metab Dispos 34:1742-1748, 2006 Heckel JL et al. Cell 62:447-456, 1990 Sandgren EP et al. Cell 66:245-256, 1991 Tateno et al. Amer J Pathol 165:901-912, 2004 Azuma H et al. Nat. Biotechnol. 25:903-910, 2007 Hasegawa M et al. Biochem Biophys Res Commun 405:405-410, 2011 Washburn ML et al. Gastroenterology 140:1334-1344, 2011 Zhang RR et al. Stem Cell Res Ther 6:49, 2015 Scheer N and Wilson ID. Drug Discovery Today 21(2): 250-262, 2016 Hasegawa M et al. Mol Pharmacol 80:518-528, 2011
上記の非特許文献29に記載されるように、薬物代謝及び毒性の研究又は試験のためのヒト肝移植モデルマウスとヒト化遺伝子改変モデルマウスには、以下のような欠点及び利点がある。
ヒト肝移植モデルマウスの共通の欠点として次のことが挙げられる。
マウス作製には臓器・細胞移植を行うことで随時作製を行わなければならない。生産コストが高い。マウス肝機能は移植したヒト肝細胞に依存し個体差が多い。移植した組織でのみヒト特異的遺伝子発現を示し、それ以外の組織はマウス由来である。100%置換されるのではなく、マウス由来肝細胞が残存し、マウス遺伝子を発現する。免疫不全マウスを使用しているため系統維持が難しい。
それに対し、ヒト化遺伝子改変モデルマウスの利点として次のことが挙げられる。
雌雄交配によって、個体を繁殖することが可能であり、半永久的に利用可能なモデルである。そのため臓器移植モデルマウスと比較して生産コストが低い。系統化可能で個体差が少ない。搭載したヒト遺伝子を発現可能な様々な組織でヒト特異的遺伝子発現を示す。中でもヒト肝臓移植ヒト化マウスと比較すると、全ての肝細胞でヒト遺伝子を発現する。ノックアウト動物をコントロールに置くことができる。免疫が損なわれていない。さらに、事業化・産業利用を考える上では、コストが安く、生産性が良く、再現性が高いことから非常に有用なツールとみなすことができる。
一方、ヒト化遺伝子改変モデルマウスの欠点としては次のことが挙げられる。
従来法による遺伝子導入では複数種類の遺伝子を導入することが難しく、また特定の遺伝子をヒト化するのみであった。またそのため、複数の遺伝子間相互作用を見ることが困難であり、ヒト予測には工夫が必要であり、予測系の開発が困難であった。
これら全ての課題を解決することは、既存の遺伝子改変技術やベクター技術では不可能であった。本発明者らは、これまでに哺乳動物の染色体を利用し、不要な翻訳・調節領域を取り除き、セントロメアとテロメアを最小単位として利用する人工染色体を開発してきた。この人工染色体は、従来のベクター技術では達成不可能な次の性質をもつ。
1)導入可能なDNAの長さに制限がない。したがって、必要な種類の遺伝子を全て導入可能である。
2)一定のコピー数で安定に保持される。したがって、発現させたい遺伝子量を厳密に制御可能である。
3)宿主核内に半永久的に保持される。したがって、半永久的に持続利用可能なモデルを作製可能である。
4)宿主染色体に挿入されない。したがって、宿主機能を損なわず遺伝子導入可能である。
この安定ヒト遺伝子導入技術は、種々のヒト薬物動態関連遺伝子を複数導入可能であることから、よりヒトに近い薬物代謝・薬物動態を示すモデル細胞を作製し、改良していくことが可能である。そのうえ、動物モデルとしてマウスだけでなく、人工染色体をトランスファーすることによって作製可能なラット、ウサギ、イヌ、ブタ、サルなどの理論上全ての動物(ただし、ヒトを除く。)の作製が可能である。
上述したように薬物代謝の中心の場は肝臓であると考えられてきたため、ヒト化モデルの利用は主に肝臓をターゲットに行われてきた。一方で、腸管も薬物の吸収と代謝の重要な場であるが、腸管モデルとしての有用性については今まで議論されてこなかった。特に薬物動態において代謝酵素には種差があることが知られており、動物を用いた試験は、ヒトサンプルを用いた試験の補助的利用に限られる。そのため、ヒト化遺伝子改変モデルマウスは、その未知の領域を克服可能なモデルとして期待されるが、いまだ開発途上の段階である。
本発明の目的は、ヒト化遺伝子改変モデル動物を利用したヒト薬物動態利用可能なモデルを開発することであり、とりわけ、従来未開発であった小腸モデルを開発し、それを第一の基盤技術とし、さらにそのヒト化遺伝子改変モデル動物を利用した肝臓モデルやin vivoモデルとしての利用法を提供することである。
本発明者らは今回、鋭意研究の結果、ヒト化遺伝子改変モデル動物(例えば、マウス、ラットなどのげっ歯類)を利用したヒト薬物動態利用可能な小腸モデル、肝臓モデル及びin vivoモデルからなる非常に高い相関性をもつヒト薬物代謝酵素誘導及びヒト薬物動態予測のための薬物代謝酵素誘導評価系及び評価方法を見出し、本発明を完成させた。
したがって、本発明は、以下の特徴を含む。
(1)少なくとも1つのヒト薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターを含む薬物動態関連遺伝子を含み、かつ対応する内在性の薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターを欠損するヒト化遺伝子改変モデル非ヒト哺乳動物に少なくとも1つの薬物を経口投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、又はリンパ管投与するステップ、該動物から門脈血、肝静脈血、全身循環血、尿及び胆汁からなる群から選択される少なくとも1つのサンプルを採取するステップ、該サンプルを用いて代謝酵素誘導による該薬物の未変化体及び代謝物の量及び/又は薬物動態を測定するステップ、ならびに、その測定値を用いて小腸及び肝臓における代謝酵素の誘導を評価するステップを含むことを特徴とする、ヒトにおける薬物代謝酵素誘導及び/又は薬物動態予測が可能である薬物代謝酵素誘導評価方法。
(2)上記ヒト薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターが、チトクロムP450(CYP)ファミリーに属する酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターを含む、(1)に記載の方法。
(3)上記ヒト薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターが、ヒトにおける薬物代謝の第二相反応に関わる酵素の遺伝子もしくは遺伝子クラスターを含む、(1)に記載の方法。
(4)上記CYPファミリーに属する酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターが、CYP1A、CYP1B、CYP2A、CYP2B、CYP2C、CYP2D、CYP2E、CYP2J、CYP3A、CYP4A、CYP4B、あるいは、それらのサブファミリーの遺伝子もしくは遺伝子クラスターである、(2)に記載の方法。
(5)上記第二相反応に関わる酵素の遺伝子もしくは遺伝子クラスターが、UGT、あるいは、そのサブファミリーの遺伝子である、(3)に記載の方法。
(6)上記CYPファミリーに属する酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターが、ヒトCYP3A遺伝子クラスターを含む、(2)又は(4)に記載の方法。
(7)上記薬物動態関連遺伝子がヒト化核内受容体(Xenobiotic receptor)遺伝子をさらに含む、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)上記ヒト化核内受容体遺伝子が、AHR、CAR、CAR/PXR、PXR及びPPARαの遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子である、(7)に記載の方法。
(9)上記薬物動態関連遺伝子がヒト化薬物トランスポーター遺伝子をさらに含む、(1)〜(8)のいずれかに記載の方法。
(10)上記ヒト化薬物トランスポーター遺伝子が、MDR、MRP、OAT、OATP、OCT、BCRP、PEPT、及びそれらのサブファミリーからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子である、(9)に記載の方法。
(11)上記薬物動態関連遺伝子が、ヒトCYP3A遺伝子クラスター及びヒト化PXR遺伝子を含む、(1)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12)上記非ヒト哺乳動物がげっ歯類である、(1)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13)上記げっ歯類がマウス又はラットである、(12)に記載の方法。
(14)上記門脈血の採取及び測定を薬物投与後に行う、好ましくは薬物投与後24時間以内に行う、(1)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15)上記門脈血の採取及び測定を、連日の薬物投与後に行う、あるいは連日の薬物投与後試験の24時間以内に追加投与した後に行う、(1)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(16)上記動物から小腸を切り出し、該小腸の内側と外側を反転させたのち切断して得られた断片化サンプル中の遺伝子発現解析、タンパク質解析、該小腸サンプルと薬物を共存させることで行われる反応、ならびに/あるいは、上記薬物の未変化体及び代謝物を測定すること、をさらに含む、(1)〜(15)のいずれかに記載の方法。
(17)上記動物から小腸組織あるいは細胞を取り出して得られた小腸サンプルを用いて遺伝子発現解析を行う、該小腸サンプルと薬物を共存させることで行われる反応、ならびに、該小腸サンプルを用いた上記薬物の未変化体及び代謝物を測定すること、をさらに含む、(1)〜(15)のいずれかに記載の方法。
(18)上記小腸サンプルが凍結された小腸サンプルである、(16)又は(17)に記載の方法。
(19)上記動物から肝臓組織あるいは細胞を取り出して得られた肝臓サンプルを用いて遺伝子発現解析及び/又はタンパク質発現解析を行う、ならびに、該肝臓サンプルと薬物を共存させることで行われる反応、該肝臓サンプルを用いた上記薬物の未変化体及び代謝物を測定することをさらに含む、(1)〜(15)のいずれかに記載の方法。
(20)上記肝臓サンプルが凍結された肝臓サンプルである、(19)に記載の方法。
(21)上記動物から全身循環血を採取し、該全身循環血を用いて代謝酵素誘導による上記薬物の未変化体及び代謝物の量及び/又は薬物動態を測定し、肝臓及び小腸における代謝酵素誘導を評価すること、ならびに上記薬物の薬物動態パラメーターを算出すること、をさらに含む、(1)〜(20)のいずれかに記載の方法。
(22)上記動物からの小腸サンプルにおいて、上記薬物代謝酵素遺伝子の発現量、タンパク質の発現量又は酵素活性を測定し、小腸及びin vivoにおける代謝酵素誘導を評価することをさらに含む、(1)〜(21)のいずれかに記載の方法。
(23)上記動物からの肝組織又は肝細胞からなる肝サンプルにおいて、上記薬物代謝酵素遺伝子の発現量、タンパク質の発現量又は酵素活性を測定し、肝臓及びin vivoにおける代謝酵素誘導を評価すること、ならびに薬物動態パラメーターを算出することをさらに含む、(1)〜(21)のいずれかに記載の方法。
(24)上記動物からの肝サンプル及び小腸サンプルにおいて、上記薬物代謝酵素遺伝子の発現量、タンパク質の発現量又は酵素活性を測定し、in vivoにおける代謝酵素誘導を評価することをさらに含む、(1)〜(21)のいずれかに記載の方法。
(25)薬物の全身循環血中濃度の時間変化を測定して決定された血中濃度-時間曲線下部面積(AUC)、クリアランス(CL)、平均体内貯留時間(MRT)、半減期(t1/2)、及び分布体積(V)からなる群から選択される少なくとも1つの薬物動態パラメーターを用いてヒトへ外挿し及び評価することをさらに含む、(1)〜(24)のいずれかに記載の方法。
(26)薬物の全身循環血中濃度の時間変化を測定して決定された血中濃度−時間曲線下部面積(AUC)減少率(%)及び上記薬物動態パラメーターの使用を含む薬物動態学的解析を行うことをさらに含む、(1)〜(25)のいずれかに記載の方法。
(27)上記の測定によって得られたデータを、ヒトにおける薬物代謝酵素誘導及び/又は薬物動態との相関性を確認し、ヒト臨床へ外挿することをさらに含む、(1)〜(26)のいずれかに記載の方法。
本発明により、ヒト化遺伝子改変モデル動物を用いた薬物代謝酵素誘導評価系によって、非常に高い相関性をもつヒト薬物代謝酵素誘導及びヒト薬物動態予測が可能になり、ヒト臨床予測をかなり正確に行うことができる。
この図は、ヒト化CYP3A/PXRマウスの作製を示す。 この図は、種特異的PXR応答による肝臓CYP3A4発現変動を示す。図中の略字は、(A)hCYP3A/mPXR; CYP3Aクラスター保持/マウスPXR保持マウス,(B) hCYP3A/hPXR; CYP3Aクラスター保持/ヒト化PXR保持マウス、oil; コントロール群、PCN; pregnenolone 16a-carbonitrile、RIF; リファンピシンである。データは全て、平均値±SEで示した。n=3-5。 この図は、種特異的PXR応答によるミクロソームCYP3A4活性測定の結果を示す。肝臓(A)および小腸(B)におけるミクロソームにおけるトリアゾラム水酸化代謝活性を測定した。図中の略字は、hCYP3A/mPXR; CYP3Aクラスター保持/マウスPXR保持マウス、hCYP3A/hPXR; CYP3Aクラスター保持/ヒト化PXR保持マウス、α-OH, 4-OH;トリアゾラムα位及び4位水酸化体代謝物、Vehicle;コントロール群、RIF;リファンピシン投与群である。データは全て、平均値±SEで示した。n=3。 この図は、リファンピシン前投与時におけるトリアゾラム薬物動態変動を示す。(A) hCYP3A/mPXR; CYP3Aクラスター保持/マウスPXR保持マウス、(B) hCYP3A/hPXR; CYP3Aクラスター保持/ヒト化PXR保持マウス。データは、平均値±SDで示した。hCYP3A/hPXR Vehicleはn=1、他はすべてn=3である。 この図は、様々な化合物を処置した時のCYP3A4誘導のEC50値の比較を示す。横軸はヒト化マウスを用いた際のEC50値、縦軸はヒト肝細胞におけるEC50値を示す。ヒト化マウス由来のデータは全て3個体の平均値で示す。ヒト肝細胞のEC50値は論文(Fahmi OA et al. Drug Metab Dispos. 2008 Sep;36(9):1971-4;Fahmi OA et al. Drug Metab Dispos. 2009 Aug;37(8):1658-66;Zhang JG et al. Drug Metab Dispos. 2014 Sep;42(9):1379-91)より取得した。 この図は、ヒト化マウス由来肝細胞を用いたヒト臨床予測モデルを示す。横軸はヒト化マウスを用いた際のRIS値、縦軸はヒト臨床におけるミダゾラムAUC減少率を示す。ヒト化マウス由来のデータは全て3個体の平均値で示す。ミダゾラムAUC減少率は論文(Ripp et al. Drug Metab Dispos 34:1742-1748, 2006)より取得した。R2=0.998。 この図は、様々な化合物を処置した時のCYP3A4誘導のRIS値の比較を示す。横軸はヒト化マウスを用いた際のRIS値、縦軸はヒト肝細胞におけるRIS値を示す。ヒト化マウス由来のデータは全て3個体の平均値で示す。ヒト肝細胞のRIS値は論文(Fahmi OA et al. Drug Metab Dispos. 2008 Sep;36(9):1971-4;Fahmi OA et al. Drug Metab Dispos. 2009 Aug;37(8):1658-66;Zhang JG et al. Drug Metab Dispos. 2014 Sep;42(9):1379-91)より取得した。 この図は、リファンピシン投与による小腸各部位におけるCYP3A4発現変動を示す。横軸は左から胃直下(小腸上部)から盲腸直前(小腸下部)までを30等分にした。縦軸はCYP3A4の発現量を表し、ハウスキーピング遺伝子であるNat1にてノーマライズした。また、未処置における小腸最上部を基準(=1)とし、それぞれの発現量を相対値として表した。 この図は、リファンピシン投与による消化管から門脈へのトリアゾラム吸収への影響を示す。(A)は、門脈血漿中のトリアゾラム及びその代謝物について定量した結果である。(B)は、門脈血漿中におけるトリアゾラム類縁体の存在比を表した結果である。平均値±SD、n=3。略字TRZはトリアゾラム、1-OH TRZ及び4-OH TRZは1位水酸化及び4位水酸化トリアゾラムを表す。 この図は、様々な誘導剤による小腸及び肝臓におけるCYP3A4代謝酵素誘導への影響を示す。図中の略字は、CON; コントロール、PLE;プレコナリル、PIO; ピオグリタゾン、TRO; トログリタゾン、CAR; カルバマゼピン、RIF; リファンピシン、である。データは全てコントロールを基準(=1)とした。平均値±SD、n=3。 この図は、様々な誘導剤によるヒト化マウスを用いたin vivo薬物動態試験結果を示す。(A)、(B)は、それぞれ誘導剤を3日間連続投与した後のミダゾラム(A)及びトリアゾラム(B)の血中濃度推移である。平均値±SD、n=3。 この図は、様々な化合物を処置した時のヒト化マウスとヒト臨床のAUC変化の比較を示す。横軸はヒト化マウスを用いた際のAUC減少率、縦軸はヒト臨床におけるAUC減少率を示す。ヒト化マウス由来のデータは全て3個体の平均値で示す。ヒト肝細胞のAUC減少率は論文(Ripp et al. Drug Metab Dispos 34:1742-1748, 2006)より取得した。R2=0.977。 この図は、小腸各部位におけるCYP3A4発現を示す。横軸は左から胃直下(小腸上部)から盲腸直前(小腸下部)までを30等分にした。縦軸はCYP3A4の発現量を表し、ハウスキーピング遺伝子であるNat1にてノーマライズした。また、小腸最上部を基準(=1)とし、それぞれの発現量を相対値として表した。 この図は小腸上部、中部、下部における反応時間60分における代謝試験の結果を表す。それぞれの群は、リファンピシン投与から1、2、4、8、12、16、あるいは24時間後時点における結果である。縦軸は発光基質の発光量を示す。リファンピシン未処置(0h)において最も活性が低かった。また誘導時間によって、小腸におけるCYP3A4による代謝は傾向をもって、活性が変化した。特にリファンピシン投与後8時間(8h)では最も高くなり、その後24時間経過したマウス小腸(24h)では低下する傾向が認められた。 この図はトリアゾラム投与から15分後における門脈血中(A)及び全身循環血中(B)のトリアゾラム及びその代謝物の占める割合を示す。それぞれの群は、リファンピシン投与から1、2、4、8、12、16、あるいは24時間後時点における結果である。0hはリファンピシン未処置である。n=3。 この図はトリアゾラム投与から15分後における小腸上部(A)、小腸中部(B)及び小腸下部(C)のトリアゾラム及びその代謝物の占める割合を示す。それぞれの群は、リファンピシン投与から1、2、4、8、12、16、あるいは24時間後時点における結果である。0hはリファンピシン未処置である。n=3。 この図は、誘導剤リファンピシン投与後のCYP3A4発現の時間変化を示す。(A)は代謝酵素誘導後のCYP3A4免疫染色の結果を示す。CYP3A4は絨毛部先端に高発現するが、リファンピシンを投与することでその発現はさらに上昇する。 (B)は代謝酵素誘導後のCYP3A4 mRNA発現変動の結果を示す。上述の免疫染色の結果と同様にリファンピシン処置によってCYP3A4遺伝子発現は上昇した。また、誘導剤投与後の時間経過による発現誘導は、24時間前に投与するよりも4時間前に投与するほうが大きくなった。平均値±SD、n=3。 この図は、誘導剤リファンピシン投与後のPXRの核内移行の時間変化を示す。(A)は代謝酵素誘導後のPXR免疫染色の結果を示す。誘導剤リファンピシンを投与することでPXRの染色(褐色部)が核部(紫)に強く検出された。矢印は核内移行したPXR陽性細胞を示す。(B)はPXR免疫染色時のPXR核内移行した細胞の割合を示す。いずれの細胞においてもPXRを発現することが確認できた。またリファンピシンを投与することでPXR核内移行した陽性細胞の割合が増加した。また、リファンピシン投与後の時間経過によるPXR核内移行率は、24時間前に投与するよりも4時間前に投与するほうが高くなった。平均値±SD、n=3。 この図は、誘導剤リファンピシン投与後の門脈におけるトリアゾラム代謝・吸収の相加的影響を示す。具体的にはトリアゾラム投与から15分後における門脈中のトリアゾラム及びその代謝物の濃度を示す。A、B、Cは、それぞれリファンピシン処置なし(A)、リファンピシンを3日間連続投与の24時間後(B)、リファンピシンを3日間連続投与し、さらに解剖4時間前に投与した(C)の結果を示す。リファンピシン投与なしの場合、未変化体及びその代謝物の量(モル比)はおおよそ同程度であったのに対し、リファンピシンが投与されることによって、未変化体比は全体の30%以下にまで低下した。このとき、リファンピシン投与の影響は24時間以内に追加投薬することで代謝誘導効果の相加効果が認められた。 この図は、誘導タイミングが与えるin vivo薬物動態への相加的影響を示す。平均値±SD、n=3。
本発明をさらに詳細に説明する。
上記の通り、本発明は、特定動物の薬物動態関連遺伝子をヒトの対応する遺伝子と置換したヒト化遺伝子改変非ヒト動物へ薬物投与した後の該動物の血液(門脈血、肝静脈血、心血もしくは全身循環血)、肝組織もしくは肝細胞、小腸組織もしくは小腸細胞又は被検投与物質及びその代謝物が分布する体組織を用いる薬物代謝酵素誘導評価方法を提供する。この方法により、ヒトの薬物代謝酵素誘導及び薬物動態予測が可能となるため、ヒト臨床予測をかなり正確に行うことができるという利点が強調されうる。
1.ヒト化遺伝子改変モデル動物
1.1 薬物動態関連ヒト遺伝子
本発明で使用可能な薬物動態関連ヒト遺伝子は、例えば上記の非特許文献29(Scheer, N. and Wilson, I.D. Drug Discovery Today 21(2), 250-262, 2016)に記載されるものを包含する。
薬物動態に関与するタンパク質及び遺伝子は、例えば、核内受容体(Xenobiotic receptors)、薬物代謝酵素(第一相反応に関わる酵素及び第二相反応に関わる酵素)、薬物トランスポーター、あるいは、それらの任意の組み合わせからなる複合型でありうる。本発明では、それらのいずれも使用しうる。薬物動態関連ヒトタンパク質もしくは遺伝子の非限定的な例は、以下のとおりである。
(1)ヒト化核内受容体(Xenobiotic receptors)
核内受容体は、種々の薬物をリガンドとすることが可能であり、この受容体を介して薬物代謝酵素あるいは薬物トランスポーターが誘導される。また核内受容体の多くはそれ単独で転写活性能を有するのではなく、複数のタンパクと複合体を形成することではじめて転写活性を有するものがある。それゆえ、核内受容体遺伝子及び核内受容体と複合体を形成する遺伝子を薬物代謝酵素遺伝子と組み合わせてヒト化モデル動物の体内で発現させることによって代謝酵素誘導及び薬物動態関連遺伝子誘導が効率化される可能性が高い。
核内受容体には、例えばAHR、CAR、CAR/PXR、PXR、PXR/RXR、CAR/RXR、AHR/Arnt、PPARα、PPARα/RXRなどが含まれるが、これらに限定されない。
本発明によれば、核内受容体遺伝子は、ヒト化核内受容体遺伝子であることが好ましい。
本明細書中で使用される「ヒト化」なる用語は、特に断らないかぎり、完全ヒト化、ヒト化又は部分ヒト化のいずれか又はその組み合わせを表し、ここで、完全ヒト化は、プロモーター領域を含めてヒト遺伝子全長(もしくは遺伝子クラスター)を導入し、内在遺伝子(もしくは遺伝子クラスター)を破壊したような場合を指し、ヒト化は、遺伝子のコーディング領域のみヒト化したような場合(一方、例えばプロモーターは非ヒト動物(例えばマウス)由来又は外来であるか、あるいは内在領域へのノックイン又は内在遺伝子破壊されている)を指し、部分ヒト化は、遺伝子のコーディング領域の一部(機能ドメインなど)のみヒト化(例えばリガンド結合ドメイン(LBD)のみヒト配列と置換される)をいう。また、上記の完全ヒト化、ヒト化又は部分ヒト化を組み合わせる場合、すなわち上記の薬物動態関連遺伝子が上記の複合型モデルを構成する場合、該複合型モデルを構成する遺伝子もしくは遺伝子クラスターが、完全ヒト化、ヒト化又は部分ヒト化のうち互いに同じヒト化もしくは異なるヒト化を有してもよい。さらにまた、例えば「ヒト(の)薬物代謝酵素遺伝子」などのように表現するときは、特に断らないかぎり完全ヒト化をいう。
(2)ヒト化薬物代謝酵素
薬物代謝酵素は、第一相反応に関わる酵素と第二相反応に関わる酵素を含む。
第一相反応に関わる酵素は、例えば、CYP1A、CYP1B、CYP2A、CYP2B、CYP2C、CYP2D、CYP2E、CYP2J、CYP3A、CYP4A、CYP4B、これらのサブファミリー、例えばCYP1A1、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C18、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7など並びに、CESなどであるが、これらに限定されない。
第二相反応に関わる酵素は、例えばグルクロン酸抱合に関与するUGT1、UGT2、これらのサブファミリー、例えばUGT1A、UGT2B7など、グリシン抱合(NAT)、グルタチオン抱合(GST)、アセチル化抱合(N-アセチルトランスフェラーゼ、胆汁酸CoA:アミノ酸N−アシル転移酵素)、メチル化抱合(メチルトランスフェラーゼ)、並びに硫酸抱合(SLUT)であるが、これらに限定されない。
染色体上では、薬物代謝酵素遺伝子はクラスターを形成している場合があるので、本発明では、そのような遺伝子クラスターを使用してもよい。そのような遺伝子クラスターの例は、CYP1A1/1A2、CYP2A13/2B6/2F1、CYP2C18/2C19、CYP3A4/2D6などであるが、これらに限定されない。
(3)ヒト化薬物トランスポーター
異物であると認識された薬物が細胞膜を細胞内から細胞外へ、又は細胞外から細胞内へ通過する際に必要な生体内因子が薬物トランスポーターという膜タンパク質である。薬物トランスポーターは、有機薬物トランスポーター(OCT、OCTNなど)ファミリー、ABCトランスポーターファミリー(MDR,MRPなど)、ペプチドトランスポーター(PEP)ファミリー、肝由来有機アニオントランスポーターファミリー(OAT)、アミノ酸・ポリアミン・コリントランスポーター(LAT、BATなど)ファミリーに分類されることが知られている(遠藤仁,日薬理誌,116, 114-124, 2000)。
薬物トランスポーターには、例えばMDR、MRP、OAT、OATP、OCT、BCRP、PEPTなど、これらのサブファミリー、例えばMRP1、MRP2、OATP1A2、OATP1B1、OATP1B3、OATP1B1/1B3、PEPT1などが含まれるが、これらに限定されない。
(4)複合型モデル
本発明では、ヒト化モデル動物において薬物代謝を効率的に行うようにするために、ヒト薬物代謝酵素の遺伝子と、ヒト化核内受容体遺伝子及び/又はヒト化薬物トランスポーター遺伝子とを組み合わせて複合型ヒト化遺伝子を発現するモデル動物を作製することができる。そのような複合型モデルは、例えばCYP3A4/PXR、CYP3A4/PXR/CAR、CYP3A4/PXR/PXR、CAR/PXR/CYP3A4/3A7、CYP2C9/CYP2C19/PXR、CYP1A2/AHR、CYP2B6/CAR、CYP3A/PXR/CYP1A2/AHR/CYP2B6/CAR、CYP3A4/MDR、CYP3A4/MDR/PXR、CYP3A4/MDR/PXR/CAR、CYP3A4/MDR/PXR/RXR、CYP3A4/UGT、CYP3A4/UGT/PXR/CAR、CYP3A4/UGT/PXR/RXR、などであるが、これらに限定されない。
1.2 ヒト化モデル動物の作製
上記の薬物動態関連ヒト酵素の遺伝子もしくは遺伝子クラスターをベクターに組み込む工程、該遺伝子もしくは遺伝子クラスターを含むベクターを非ヒト動物のES細胞又はiPS細胞に導入する工程、該ベクターを含む細胞を上記動物と同種のメス動物の受精卵内に顕微注入し、該受精卵を該メス動物の子宮に移植する工程、該メス動物からキメラ動物を出産させ、上記ヒト酵素の遺伝子もしくは遺伝子クラスターを保持する動物を選抜する工程を含む方法によって、上記薬物動態関連ヒト酵素の遺伝子もしくは遺伝子クラスターを保有する非ヒト動物を作製する。この非ヒト動物を、同じ薬物動態関連の対応する非ヒト動物酵素の遺伝子もしくは遺伝子クラスターを欠損する同種の非ヒト動物と交配させて子動物を出産させ、完全ヒト化動物を選抜する。Kazuki Y et al. Hum Mol Genet 22:578-92, 2013及び特許第5557217号参照。
さらに上記と同様の方法によって、ヒト核内受容体遺伝子を保有する上記のヒト化動物と同種の動物を作製し、この動物を、上記の完全ヒト化薬物動態関連酵素の遺伝子もしくは遺伝子クラスターを保有する非ヒト動物と交配させて子動物を出産させ、2種類の、ヒト薬物代謝酵素遺伝子もしく遺伝子クラスターとヒト核内受容体遺伝子とを保有する目的の完全ヒト化モデル動物を選抜する。Igarashi et al. J Toxicol Sci 37: 373-380, 2012参照。
非ヒト動物の例は、哺乳動物、例えばサル、チンパンジーなどの霊長類、あるいは、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、あるいは、マウス、ラット、ハムスターなどのげっ歯類、などを含み、好ましくはげっ歯類であり、さらに好ましくはマウスもしくはラットである。
ヒト化モデル動物としては、上記のヒト薬物代謝酵素遺伝子もしくはそのクラスターと、ヒト化核内受容体(Xenobiotic receptors)遺伝子、ヒト化薬物トランスポーター遺伝子もしくはそれらの両方のヒト化遺伝子との複合型モデルが好ましい。そのような複合型モデルは、例えば、以下のヒト薬物代謝酵素の遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子もしくは遺伝子ファミリーと、以下に例示の核内受容体の遺伝子及び/又は薬物トランスポーターの遺伝子群から選択される少なくとも1つの遺伝子とを含む複合型である。
ヒト薬物代謝酵素の遺伝子の非限定的な例は、CYPファミリーに属する酵素の遺伝子であり、以下のとおりである。
薬物代謝には、CYPファミリーなどの第一相反応に関わる酵素、第二相反応に関わる酵素などが含まれており、それらの酵素の例は以下の通りである。
第一相反応に関わる酵素の例は、CYP1A、CYP1B、CYP2A、CYP2B、CYP2C、CYP2D、CYP2E、CYP2J、CYP3A、CYP4A、CYP4B、これらのサブファミリー(例えば、CYP1A1、CYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C18、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7など)、CES、あるいは、それらの任意の組み合せである。組み合せの例は、非限定的にCYP1A1/1A2、CYP2A13/2B6/2F1、CYP2C18/2C19、CYP3A4/2D6、CYP3A4/CYP1A1、CYP3A4/CYP1A2、CYP3A4/CYP2C9、CYP3A4/CYP2C19、CYP3A4/CYP2C9/CYP2C19、CYP3A4/CYP2C8/CYP2C9/CYP2C18/CYP2C19、CYP3A4/CYP2E1などである。
第二相反応に関わる酵素の例は、UGT1、UGT2、UGT1A、UGT2B7など、NAT、SLUT、GSTなどのサブファミリー、あるいは、それらの任意の組み合せである。また、前述の第一相反応との任意の組み合せを含む。組み合せの例は、UGT1/UGT2、UGT1/UGT2/UGT1A/UGT2B7、UGT1/UGT2/CYP3A4、UGT1/UGT2/CYP3A4/2D6、UGT1/Nat1、UGT2/Nat1、などである。
本発明におけるヒト薬物代謝酵素は、薬物代謝の第一相反応に関わる酵素、第二相反応に関わる酵素、あるいは、それらの組み合せである。
Xenobiotic receptors(核内受容体)及びその複合体形成タンパクの遺伝子の非限定的な例は、AHR、CAR、PXR、PPARα、RXR、Arntなどである。
薬物トランスポーターの遺伝子の非限定的な例は、MRP2、OATP1A2、OATP1B1、OATP1B3、OATP1B1/1B3、PEPT1、MDR1、MRP2、OAT、OATP、OCT、BCRPなどである。
上で例示したヒト遺伝子の塩基配列等を含むその他の情報は、NCBI(米国、GenBank)、上記の文献等から入手可能である。
本発明では、ヒト化遺伝子改変モデル動物を用いてヒトの薬物代謝酵素誘導及び薬物動態予測が可能であるようにヒトの薬物代謝にできるだけ近い、すなわちヒト臨床予測が出来る限り正確に行うことができるようにする必要があるため、上記のヒト薬物動態関連遺伝子もしくは遺伝子クラスターを可能な限り多く含む複合型モデルとすることが好ましい。
そのような複合型モデルの例は、すべてヒト由来である、CYP3A4/PXR、CYP3A4/PXR/CAR、CYP3A4/PXR/PXR、CAR/PXR/CYP3A4/3A7、CYP2C9/CYP2C19/PXR、CYP1A2/AHR、CYP2B6/CAR、CYP3A/PXR/CYP1A2/AHR/CYP2B6/CAR、CYP3A4/MDR、CYP3A4/MDR/PXR、CYP3A4/MDR/PXR/CAR、CYP3A4/MDR/PXR/RXR、CYP3A4/UGT、CYP3A4/UGT/PXR/CAR、CYP3A4/UGT/PXR/RXR、などであるが、これらに限定されない。特に好ましい複合型モデルは、少なくともヒトCYP3Aクラスターとヒト化PXRを含むモデルである。
以下に、本発明者らが開発した人工染色体ベクターを利用するヒト化モデル動物の作製法について説明する。特にMACベクターの詳細については、本発明者らに対する特許5557217号に記載されている。また、HACベクターについては、特許4997544号に記載されている。
CYPクラスターなどの比較的大きなサイズの遺伝子断片を利用する場合には人工染色体ベクターを使用することが好ましい。そのような人工染色体には、本発明者らが開発したヒト人工染色体(HAC)、マウス人工染色体(MAC)などが例として挙げられる(Kazuki Y et al. Hum Mol Genet 22:578-92, 2013及び特許第5557217号)。例えばヒト7番染色体上の薬物代謝酵素CYP3A遺伝子クラスターは約1Mbのサイズを有するため、BACベクターやYACベクターへの組み込みは実質的に難しく、代わりに上記のHACやMACなどの人工染色体ベクターを用いることによって1Mb以上の染色体断片を容易に組み込むことが可能である。また、HACベクターとMACベクターを比べた場合、特殊なHACベクターを除いて、通常、マウスなどのげっ歯類に導入した場合、世代交代を繰り返すごとに染色体保持安定性(ジャームライン・トランスミッション率)が低下するという欠点があるが、MACベクターでは、そのような不安定性はなく90%を超す高い染色体保持安定性が認められるためより好ましい。
上記の「保持安定性」は、細胞分裂の際に染色体ベクターの脱落を起こし難く、すなわち、分裂後であっても細胞内で安定に保持されること、それゆえに、染色体ベクターが娘細胞や子孫マウスに効率よく子孫伝達されることを意味する。
MACベクターの作製に使用するためのマウス染色体は、マウス染色体1〜19、X及びYのいずれでもよいが、好ましくは1番〜19番染色体のいずれかである。例えばマウス11番染色体断片由来の人工染色体ベクターの場合には、上記長腕断片は、非限定的に例えば、該11番染色体の長腕のAL671968、或いはBX572640(AL671968よりセントロメア側に位置する。)、CR954170(AL671968及びBX572640よりセントロメア側に位置する。)又はAL713875(AL671968よりセントロメア側に位置する。)、よりも遠位の領域が削除された長腕断片からなる。あるいは、上記長腕断片は、寄託細胞株DT40 B6bT-1(FERM BP-11128)に含まれるマウス人工染色体を基本構造として含んでもよい。その他、例えばマウス15番染色体断片由来のMACベクターの場合、上記長腕断片は、例えば、AC121307、AC161799などの位置よりも遠位の領域が削除された長腕断片からなる。マウス16番染色体断片由来のMACベクターの場合、上記長腕断片は、例えば、AC127687、AC140982などの位置よりも遠位の領域が削除された長腕断片からなる。これらの基本構造には、外来DNA又は遺伝子もしくは遺伝子クラスターを挿入するための、loxP(Creリコンビナーゼ認識部位)、FRT(Flpリコンビナーゼ認識部位)、φC31attB及びφC31attP(φC31リコンビナーゼ認識部位)、R4attB及びR4attP(R4リコンビナーゼ認識部位)、TP901-1attB及びTP901-1attP(TP901-1リコンビナーゼ認識部位)、或いはBxb1attB及びBxb1attP(Bxb1リコンビナーゼ認識部位)などのDNA配列挿入部位をさらに含むことができる。また、MACベクターは、外来DNA又は遺伝子配列を挿入するための部位を含むことができるため、この部位に、目的の外来DNA又は遺伝子もしくは遺伝子クラスターを組み込むことによって、該ベクターが任意の細胞に導入されたときに該目的の外来DNA又は遺伝子もしくは遺伝子クラスターを発現することが可能となる。本発明では、そのようなDNA、遺伝子、遺伝子クラスターとして、上記の薬物動態関連遺伝子もしくは遺伝にクラスターを使用することができる。
本発明のMACベクターにおける外来遺伝子又は外来DNAの挿入部位の近傍又は挿入部位の両側には、少なくとも1つのインスレーター配列を存在させることができる。インスレーター配列は、エンハンサーブロッキング効果(すなわち、隣り合う遺伝子が互いに影響を受けない)又は染色体バウンダリー効果(遺伝子発現を保証する領域と遺伝子発現が抑制される領域を隔て区別する)を有する。このような配列には、例えばヒトβグロビンHS1〜HS5、ニワトリβグロビンHS4などが包含されてもよい。
外来遺伝子、遺伝子クラスターもしくはDNAを含むMACベクターやHACベクターは、任意の細胞に移入又は導入することができる。そのための手法には、例えば、微小核細胞融合法、リポフェクション、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション、エレクトロポレーションなどが含まれるが、好ましい手法は微小核細胞融合法である。
微小核細胞融合法は、人工染色体ベクターを含有する微小核形成能を有する細胞(例えばCHO細胞、マウスA9細胞など)と、他の所望の細胞との微小核融合によって該ベクターを該他の細胞に移入する方法である。微小核形成能を有する細胞は、倍数体誘発剤(例えばコルセミド、コルヒチンなど)で処理して微小核多核細胞を形成し、サイトカラシン処理により微小核体を形成する処理を行ったのちに、所望の細胞との細胞融合を行う。
上記のベクター導入可能な細胞は、動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞、例えば卵母細胞、精子細胞などの生殖系列細胞、胚性幹(ES)細胞、精子幹(GS)細胞、体性幹細胞などの幹細胞、体細胞、胎児細胞、成体細胞、正常細胞、疾患細胞、初代培養細胞、継代細胞又は株化細胞など、を包含する。幹細胞には、例えばES細胞、胚性生殖(EG)細胞、胚性癌腫(EC)細胞、mGS細胞、ヒト間葉系幹細胞などの多能性幹細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、核移植クローン胚由来胚性幹(ntES)細胞などが含まれる。好ましい細胞は、哺乳動物(好ましくは、マウスを含むげっ歯類)由来の体細胞、非ヒト生殖系列細胞、幹細胞及び前駆細胞からなる群から選択される。細胞がげっ歯類などの哺乳類由来の細胞である場合、本発明のベクターが導入された哺乳類(例えばマウスなどのげっ歯類)の細胞又は組織において、ベクターがより安定に保持される、すなわち細胞からのベクターの脱落が有意に低下する、又は脱落が起こらない。
細胞は、例えば、肝細胞、腸細胞、腎細胞、脾細胞、肺細胞、心臓細胞、骨格筋細胞、脳細胞、骨髄細胞、リンパ球細胞、巨核球細胞、精子、卵子などである。
組織は、例えば肝臓、腸、腎臓、脾臓、肺、心臓、骨格筋、脳、骨髄、精巣、卵巣などの組織である。
ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、マイトマイシンC処理マウス胎仔線維芽細胞をフィーダーにして樹立し維持することができる(M.J.Evans and M.H.Kaufman(1981)Nature 292:154-156)。
iPS細胞は、体細胞(体性幹細胞を含む)に、ある特定の再プログラム化因子(DNA又はタンパク質)を導入し、適当な培地にて培養、継代培養することによって約3〜5週間でコロニーを生成する。再プログラム化因子は、例えばOct3/4、Sox2、Klf4及びc-Mycからなる組み合わせ;Oct3/4、Sox2及びKlf4からなる組み合わせ;Oct4、Sox2、Nanog及びLin28からなる組み合わせ;あるいは、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc、Nanog及びLin28からなる組み合わせなどが知られている(K.Takahashi and S.Yamanaka,Cell 126:663-676(2006);WO 2007/069666;M.Nakagawa et al.,Nat.Biotechnol.26:101-106(2008);K.Takahashi et al.,Cell 131:861-872(2007);J.Yu et al.,Science 318:1917-1920(2007);J.Liao et al.,Cell Res.18,600-603(2008))。培養例は、マイトマイシンC処理したマウス胎仔線維芽細胞株(例えばSTO)をフィーダー細胞とし、このフィーダー細胞層上でES細胞用培地を用いて、ベクター導入体細胞(約104〜105細胞/cm)を約37℃の温度で培養することを含む。フィーダー細胞は必ずしも必要ではない(Takahashi,K.et al.,Cell 131:861-872(2007))。基本培地は、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF-12培地、それらの混合培地などであり、ES細胞用培地は、マウスES細胞用培地、霊長類ES細胞用培地(リプロセル社)などを使用することができる。
ES細胞及びiPS細胞は、生殖系列に寄与することが知られているので、目的の遺伝子、遺伝子クラスター又はDNAを含む本発明の人工染色体ベクターを導入したこれらの細胞を、該細胞が由来する同種の哺乳動物の胚の胚盤胞に注入し、この胚を仮親の子宮に移植し、出産させることを含む手法によって、非ヒト動物(又は、トランスジェニック動物(ヒトを除く))を作出することができる。さらにまた、得られた雌雄のトランスジェニック動物を交配することによって、ホモ接合性動物、さらにその子孫動物を作出することができる。
2.薬物代謝酵素誘導評価方法
一般にヒトにおける薬物代謝について、例えば経口投与された薬物(すなわち、医薬、食品成分等)が消化管(食道、胃及び小腸)を通って小腸から吸収され、血液を介して門脈、肝臓へと運搬され、そのあと血液によって全身へと送られ、薬効を発揮したのち、水溶性の代謝物等が尿として腎臓から排出される。このとき、肝臓及び小腸は、薬物を代謝するための薬物代謝酵素を発現する。
新薬を開発する過程では、実験動物を用いて薬物動態・安全試験が進められているが、実験動物とヒトでは、肝臓や小腸で発現する薬物代謝酵素やその関連因子の特性に種差があるため、実験動物で得られた結果からヒトでの薬物動態や安全性(毒性等)を予測することができないことが多い。したがって、ヒト臨床予測をいかに正確に行うことができる実験動物を用いた評価系を作製するかが課題となっている。
以下に、本発明の薬物代謝酵素誘導評価方法について説明する。
本発明は、少なくとも1つのヒト薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターを含む薬物動態関連遺伝子を含み、かつ対応する内在性の薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターを欠損するヒト化遺伝子改変モデル非ヒト哺乳動物に少なくとも1つの薬物を経口投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、又はリンパ管投与するステップ、該動物から門脈血、肝静脈血、全身循環血、尿及び胆汁からなる群から選択される少なくとも1つのサンプルを採取するステップ、該サンプルを用いて代謝酵素誘導による該薬物の未変化体及び代謝物の量及び/又は薬物動態を測定するステップ、ならびに、その測定値を用いて小腸及び肝臓における代謝酵素の誘導を評価するステップを含むことを特徴とする、ヒトにおける薬物代謝酵素誘導及び/又は薬物動態予測が可能である薬物代謝酵素誘導評価方法を提供する。
本発明の実施形態について以下に説明する。
2.1 門脈血での薬物の未変化体及び代謝物の測定
本発明は、小腸領域における薬物代謝酵素誘導による代謝変動が、門脈血における薬物の未変化体及び代謝物の測定によって解析できるという知見に基づいている。本発明の方法で測定すると、小腸での代謝酵素誘導がない場合、肝臓へ到達する薬物の約50%が小腸で代謝を受ける、一方小腸での代謝酵素誘導が起こる場合、薬物の約70%が代謝を受ける。
したがって、本発明の方法は、少なくとも1つのヒト薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターを含む薬物動態関連遺伝子を含み、かつ対応する内在性の薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターを欠損するヒト化遺伝子改変モデル非ヒト哺乳動物に薬物を経口投与するステップ、該動物から門脈血を採取するステップ、該門脈血を用いて代謝酵素誘導による該薬物の未変化体及び代謝物の量及び/又は薬物動態を測定するステップ、並びに、測定値を用いて小腸における代謝酵素の誘導を評価するステップを含むことを特徴とする、ヒトにおける薬物代謝酵素誘導及び/又は薬物動態予測が可能である薬物代謝酵素誘導評価方法を提供する。
本発明の方法では、少なくとも1つのヒト薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターを含む薬物動態関連遺伝子を含み、かつ対応する内在性の薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターを欠損するヒト化遺伝子改変モデル非ヒト哺乳動物を使用し、in vivoでの評価及び、場合によりin vitroでの評価を行うことができる。
薬物動態関連遺伝子については、上記1で例示されたすべての遺伝子が対象である。本発明者らにより、1Mb以上の大きなサイズの染色体断片を挿入可能なヒト人工染色体ベクター(HAC)及びマウス人工染色体ベクター(MAC)が開発されているため、そのようなベクターを利用する場合には、種々の遺伝子又は遺伝子クラスターを含むモデル動物を作製することができる。
上記のヒト薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターには、好ましい例としてチトクロムP450(CYP)ファミリーに属する酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターが含まれる。CYPファミリーに属する酵素群は、上記薬物代謝の第一相反応において脂溶性物質を極性化するなどの重要な作用を有する。
上記のヒト薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターはさらに、ヒトにおける薬物代謝の第二相反応に関わる酵素の遺伝子もしくは遺伝子クラスターを含んでもよい。第二相反応は、第一相反応で薬物が代謝された後、グルクロン酸や硫酸塩、アミノ酸などの水溶性物質と結合させる抱合反応をいい、CYP以外の酵素類(例えばグルタチオン-S-トランスフェラーゼ、UDP-グルクロン酸転移酵素などの転移酵素)が知られている。
上記のCYPファミリーに属する酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターには、非限定的に例えばCYP1A、CYP1B、CYP2A、CYP2B、CYP2C、CYP2D、CYP2E、CYP2J、CYP3A、CYP4A、CYP4B、あるいは、それらのサブファミリーの遺伝子もしくは遺伝子クラスターなどが含まれる。サブファミリーやクラスターについては、上で例示したものが含まれる。好ましくは、CYPファミリーに属する酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターは、ヒトCYP3A遺伝子クラスターを含む。
また、上記第二相反応に関わる酵素の遺伝子もしくは遺伝子クラスターには、UGT(UDP-グルクロン酸転移酵素)、あるいは、そのサブファミリーの遺伝子などが含まれる。サブファミリーについては、上で例示したものが含まれる。
さらにまた、上記の薬物動態関連遺伝子は、核内受容体(Xenobiotic receptor)遺伝子及びその複合体形成タンパクをさらに含むことが好ましい。核内受容体遺伝子は、非限定的に、例えばAHR、CAR、PXR、PPARα、RXR及びArntの遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子である。
さらにまた、上記薬物動態関連遺伝子は、薬物トランスポーター遺伝子をさらに含むことができる。薬物トランスポーター遺伝子は、非限定的に、例えばMDR、MRP、OAT、OATP、OCT、BCRP、PEPT、並びにそれらのサブファミリーからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子である。
本発明では、上述した通り、ヒト化モデル動物において薬物代謝を効率的に行うようにするために、ヒト薬物代謝酵素の遺伝子と、ヒト化核内受容体遺伝子及び/又はヒト化薬物トランスポーター遺伝子とを組み合わせて複合型ヒト化遺伝子を発現するモデル動物が好ましい。例えば、そのような複合型モデルは、例えばCYP3A4/PXR、CYP3A4/PXR/CAR、CYP3A4/PXR/PXR、CAR/PXR/CYP3A4/3A7、CYP2C9/CYP2C19/PXR、CYP1A2/AHR、CYP2B6/CAR、CYP3A/PXR/CYP1A2/AHR/CYP2B6/CAR、CYP3A4/MDR、CYP3A4/MDR/PXR、CYP3A4/MDR/PXR/CAR、CYP3A4/MDR/PXR/RXR、CYP3A4/UGT、CYP3A4/UGT/PXR/CAR、CYP3A4/UGT/PXR/RXR、などであるが、これらに限定されない。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記の薬物動態関連遺伝子は、ヒトCYP3Aクラスター及びヒト化PXR遺伝子を含み、ヒトCYP3Aクラスターとヒト化PXR遺伝子からなっていてもよいし、あるいは、ヒトCYP3Aクラスターとヒト化PXR遺伝子の他に、上記のような、他のヒトCYPファミリーの遺伝子もしくはクラスター、ヒト化核内受容体遺伝子、及び/又は、ヒト化薬物トランスポーター遺伝子を適宜含んでもよい。
本発明で使用される非ヒト哺乳動物は、上で例示した動物を含み、好ましくはマウス、ラットなどのげっ歯類である。このような動物の作製法についても上述したとおりである。
後述の実施例では、ヒトCYP3A遺伝子クラスターを使用したが、このクラスターは、ゲノムサイズが約700kbであり、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7、CYP3A43の分子種を含み、そして市販の薬物の約50%を代謝することができる。このようなヒトCYP3A遺伝子クラスターとヒト化PXR遺伝子を発現する、ただしマウスCYP3Aクラスターを欠損させたことを特徴とするヒト化モデルマウスは、ヒト臨床予測をかなり正確に行うことができることが今回分かった。
次に、本発明の方法の各ステップについて説明する。
(第1ステップ)
第1ステップでは、ヒト化遺伝子改変モデル非ヒト哺乳動物に薬物を経口投与する。
薬物は、経口製剤からなる医薬、食品成分、麻薬等の有害物質、あるいはそれと同様の性質をもつ物質や候補物質であり、既知の物質だけでなく開発中の物質も包含する。薬物は、親水性又は脂溶性のいずれでもよく、また、1種類もしくは2種類以上の薬物を同時に又は間隔をとって投与してもよい。2種類以上の薬剤の投与は、併用投与による薬物間相互作用を予測することができる場合がある。
動物における薬物の投与量は、致死量を超えないかぎり制限はない。
薬物を含む製剤についても、動物が食べやすいような形態であれば制限はない。
(第2ステップ)
第2ステップでは、上記動物から門脈血サンプルを採取する。
本明細書で使用する「門脈」という用語は、肝門脈を指す。肝臓に流入する血液の70%が門脈血であり、残りが動脈血である。
マウスへの薬物投与後24時間以内、特に本実施例の図14ではリファンピシン投与から8時間辺りを中心とする4〜24時間、好ましくは4〜12時間で小腸における代謝酵素活性が大きくなることから、マウスでの門脈血の採取は、このような時間で行うことが好ましい。薬物投与後の各時点における門脈血中の薬物の未変化体及び代謝物の量を測定することによって、小腸での代謝酵素誘導のタイミングを決定することができるため、マウス以外の動物でもこのような試験方法によって最適のタイミングを決定しておくことが必要である。また、誘導剤の影響は、24時間にて完全に消失するのではなく、連日の連続投与によって相加的な代謝酵素活性の上昇が認められたことから(実施例の図19)、投与条件に合わせ24時間以降の誘導についても検討することが適宜必要となる。
門脈血を採取するときには、動物を麻酔し、開腹し、門脈を露出したのち、採血することができる。
(第3ステップ)
第3ステップは、上記門脈血を用いて代謝酵素誘導による該薬物の未変化体及び代謝物の量を測定する。
上記の第2ステップで得られた門脈血サンプルから血漿を分離し、等量のアセトニトリルを加え、遠心分離したのち、高速液体クロマトグラフィー、質量分析などの分析装置を用いて薬物の未変化体及び代謝物の量を測定することができる(後述の実施例参照)。上述したように、門脈血は、小腸を通して吸収された薬物の未変化体及び代謝物を含むため、それらを測定することによって、小腸における代謝酵素誘導を評価することができる。
後述するように、小腸反転代謝試験によって、小腸における代謝酵素誘導を代替的に調べることもできる。したがって、このような方法と、門脈血を用いる方法とを組み合わせることも可能である。
(第4ステップ)
第4ステップは、上記測定値を用いて小腸における代謝酵素の誘導を評価する。
本明細書で使用する「小腸」という組織部位の分類は、本来組織学的に十二指腸・空腸・回腸の3箇所に区分されるが、本明細書では簡便のため小腸は胃直下部から盲腸までを3等分にし、「小腸上部」、「小腸中部」、「小腸下部」と呼称する。また、小腸各部位はさらに10等分にし、上部から順にナンバリングを行った。
上記第3ステップで決定された測定値から小腸における代謝酵素誘導及び薬物動態を評価することができる。この評価を、後述の全身循環血での代謝物及び未変化体の測定による小腸及び肝臓における代謝酵素誘導の評価、並びに薬物クリアランスを示す動態評価と組み合わせることによって、ヒト化モデル動物での薬物代謝及び安全性を、ヒトでの薬物代謝及び安全性と相関させることが可能である。
2.2 全身循環血での薬物の未変化体及び代謝物の測定
本発明の実施形態により、上記方法は、上記ヒト化モデル動物から全身循環血を採取し、該全身循環血を用いて代謝酵素誘導による薬物の未変化体及び代謝物の量及び/又は薬物動態を測定し、肝臓における代謝酵素誘導を評価することをさらに含む。
測定手順は、上記の門脈血に代えて全身循環血を採取する以外は、上記と同様に薬物の未変化体及び代謝物の量を測定することができる。
全身循環血は、末梢血でもあり、全身を循環する血液を指す。具体的には、腹部大静脈血、心血、眼窩静脈血、尾静脈血などであるが、これらに限定されない。薬物代謝は、主に肝臓と小腸で行われるため、全身循環血において薬物の未変化体及び代謝物の量を測定することによってヒトでの代謝酵素誘導及び薬物動態とより高く相関させることができる。
2.3 小腸及び肝臓における初回通過効果の測定
摂取された薬物は、消化管などから吸収され門脈に入ると、全身を循環する前に肝臓を通過する。このとき、小腸及び肝臓などの代謝酵素によって、服用した薬物が代謝されることを初回通過効果という。この過程は薬物が薬効を示すために末梢血へ移行可能な化合物量を表し、バイオアベイラビリティーを表すための指標として用いられる。従って、小腸全長における薬物代謝酵素誘導による代謝変動及びそれを経由して行われる肝臓における薬物代謝酵素誘導による代謝変動による総合的な代謝変動が、肝静脈血における薬物の未変化体及び代謝物の測定によって解析できる。
測定手順は、上記の門脈血及び全身循環血に代えて肝静脈血を採取する以外は、上記と同様に薬物の未変化体及び代謝物の量を測定することができる。
2.4 尿中及び胆汁での薬物の未変化体及び代謝物の測定
薬物代謝とは、体外から取り込んだ、あるいは体内で産生された、からだにとって有害な物質(すなわち異物(Xenobiotic))を分解し排出するための代謝反応の総称である。有害物質を分解し親水性(水溶性)の代謝物に変換することによって腎臓から尿として排出するため、一種の解毒作用も有する。そのため、尿中及び胆汁中における未変化体及びその代謝物を測定することは、化合物の毒性及び安全性評価にも重要な知見を与える。
測定手順は、上記の採血に代えて尿あるいは胆汁を採取する以外は、上記と同様に薬物の未変化体及び代謝物の量を測定することができる。
2.5 その他投与経路での薬物の未変化体及び代謝物の測定
代謝酵素の発現は肝臓と小腸が中心であるが、全身の細胞に薬物動態関連遺伝子は存在することから、その代謝部位は肝臓及び小腸に制限されない。そのことから、被検物質である薬物の投与方法としても特に制限されず、経口投与以外の投与経路を例示することも可能である。したがって、本発明の方法は、上記動物への薬物の投与方法を経口投与から変更し、静脈内投与、動脈内投与、リンパ管内投与、筋肉内投与、腹腔内投与するなどのステップ、該動物から門脈血、肝静脈血、心血、全身循環血、尿及び胆汁などのサンプルを採取するステップを含み、測定手順は、上記と同様に薬物の未変化体及び代謝物の量を測定することができる。
2.6 小腸反転代謝評価系又は遺伝子発現
これまで小腸における代謝酵素誘導を評価系に使用することは提案されたことがないため、ヒト小腸における代謝酵素誘導にかかる時間や影響を解析することができなかった。本発明者らは、小腸における薬物投与のタイミングによる薬物代謝変動への影響を、小腸反転法を用いて解析できることを見出した。このとき小腸を一定間隔で輪切りにし、CYP発現測定により小腸上部、小腸中部、小腸下部での代謝酵素活性を調べた結果、常時高発現する上部では、代謝酵素誘導変化は相対的に小さいが、一方、常時低発現である下部では、代謝酵素誘導変化は相対的に大きいことが分かった(図10)。また、小腸における代謝酵素誘導は、小腸部位によって大きく異なり、全体として均一な発現分布をとる(図8)。
したがって、本発明の方法は、上記動物から小腸を切り出し、該小腸の内側と外側を反転させたのち切断して断片化し、並びに、該断片中の上記薬物の未変化体及び代謝物を測定することをさらに含むことができる。
小腸反転法による測定値は、上記の門脈血における測定値からの小腸における代謝酵素誘導を評価系の裏付けとして利用できる。
2.7 腸細胞又は肝細胞での代謝評価系又は遺伝子発現
本発明の方法は、上記動物からの腸細胞及び/又は肝細胞の少なくとも1つのサンプルにおいて、上記薬物の代謝酵素遺伝子の発現量を測定し、小腸及び/又は肝臓における代謝酵素誘導を評価することをさらに含むことができる。
本発明で使用可能な好ましいヒト化モデル動物(実施例ではマウス使用)では、薬物投与後に摘出された肝臓組織から調製された肝細胞における代謝酵素の発現量を測定したとき、上記の式によって計算されるRelative Induction Score(RIS)、すなわちヒト臨床予測パラメーター(ヒト臨床有効血中濃度とin vitroの結果から定まる定数)は、ヒト肝細胞とヒト化モデル動物の肝細胞との間で、高い相関係数で相関した(図5及び図7)。これら方法は、同様に肝細胞に変えて腸細胞を用いて解析も可能である。
2.8 凍結小腸組織・細胞
本発明の方法は、上記動物からの小腸組織サンプル及び腸細胞を凍結保存することで、in vitroの代謝酵素誘導評価及び薬物動態評価に利用可能な方法を提供することが可能である。凍結保存法の具体的な方法としては、既存のCELLBANKER(日本全薬工業)を用いた凍結保存法及びガラス化凍結法などであるが、これらに限定されない。
加えて、本発明の方法は、融解後の該小腸の被検化合物による遺伝子発現変化への検討、及び代謝試験による上記薬物の未変化体及び代謝物を測定することを含むことができる。さらに誘導化合物、阻害化合物と被代謝化合物との組み合わせによる遺伝子発現変化への検討、及び代謝試験による上記薬物の未変化体及び代謝物を測定することを含むことができる。
さらに本発明の方法は、上記の門脈血における測定値からの小腸における代謝酵素誘導を評価系の裏付けとして利用できる。
2.9 薬物動態
薬物動態は、投与された薬物が、吸収、分布、代謝、排泄されるまでの、体内での薬物の動きを指し、通常、最高血中濃度、最高血中濃度到達時間、血中濃度半減期及び血中濃度曲線下部面積から薬物の動態を評価する(実施例の表3、表4参照)。
本発明の方法は上記動物を利用し、薬物の全身循環血中濃度の時間変化を測定して決定された血中濃度-時間曲線下部面積(AUC)、クリアランス(CL)、平均体内貯留時間(MRT)、半減期(t1/2)、分布体積(V)、などを用いてヒトへ外挿する評価方法することを含む。特に、代謝酵素誘導時におけるAUC及びクリアランスの変化は、ヒトの臨床投与時における強弱関係を再現することが可能であり(実施例の表3)、本試験動物を用いれば、未知の化合物におけるヒト薬物体内動態を予測することが可能であると考えられる。さらにヒトの既知の薬物動態臨床値を用いることで、それを指標とし、未知化合物の上記動物における外挿試験を行うことで、より詳細な予測値を求めることが可能となる。特に代謝酵素誘導時におけるAUC減少率(%)と上記動物のAUC減少率(%)はR2=0.977の非常に高い相関値を推定できることを見出した(実施例の図12)。
2.10 in vitroからin vivoヒト臨床への外挿評価
後述の実施例では、6種類の化合物におけるCYP3A4誘導性化合物のRIS値(in vitro)と臨床におけるミダゾラムのAUC変化(in vivo)についてシグモイドプロットを作成し、ヒト肝細胞でこの近似曲線から未知化合物のRIS値を算出し、臨床におけるAUC変化を非常に高い相関で推定できることを見出した(図6)。
したがって、本発明の方法は、上記の測定によって得られたデータを、ヒトにおける薬物代謝酵素誘導及び/又は薬物動態との相関性を確認し、ヒト臨床へ外挿することをさらに含むことができる。さらに本発明の方法は、実施例に示した肝細胞のみならず、小腸や腎臓などのヒト化遺伝子の発現を有する組織を用いた評価方法を含み、使用組織及び細胞は限定されない。
2.11 本試験で使用されることが予想される化合物(薬物)
本試験で使用されることが予想される化合物(薬物)は、既知のもの、あるいは新たに見いだされたものなどを含む。既知の化合物の例として、Cytochrome P450 database(URL:http://bioinformatics.charite.de/supercyp/)に記載される化合物が挙げられるが、これに限定しない。
本発明の方法の利用に関して、経口投与の薬物だけでなく、軟膏・点鼻薬・点眼薬・坐薬等のプロドラッグ&アンテドラッグについて、ドラッグデリバリーシステムの評価、薬物動態解析、安全性評価などにも利用可能である。
3.評価キット
本発明はさらに、上記2に記載した評価法に使用するための評価キットを提供する。
評価キットには、例えば、代謝酵素遺伝子発現量測定用キット、代謝酵素活性測定用キット、薬物動態パラメーター算出用ソフト、使用説明書など、場合によりヒト化遺伝子改変モデル非ヒト動物、を含めることができる。
また、評価キットには、受託評価試験で薬物投与を上記動物で行ったのみの場合、例えば、凍結された断片化小腸サンプル、及び/又は、肝細胞を播種した凍結プラスチックプレート、使用説明書などをさらに含めることができる。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、当該実施例は単なる例示であり、上で説明したように種々の態様に拡張することができるので、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1] 試験動物の作製
以下の実施例で用いられたヒト化CYP3Aクラスター/PXRマウスは、マウス内在性Cyp3aクラスターを破壊し、ヒトCYP3Aクラスターをマウス人工染色体ベクターにより導入されたTranschromosomic(Tc)マウス系統(Kazuki Y et al. Hum Mol Genet 22:578-92, 2013及び特許第5557217号参照)と、マウス内在性PXR(pregnane X receptor)のリガンド結合領域をヒト配列に置き換えられたマウス系統(Igarashi et al. J Toxicol Sci 37: 373-380, 2012参照)を交配して樹立した(図1)。
[実施例2] ヒト特異的CYP代謝酵素誘導の確認
実施例1で作製されたマウスが、種特異的な代謝酵素誘導能を獲得したことを確認するために、ヒト特異的PXRに作用するリファンピシン(RIF)あるいはマウス特異的PXRに作用するpregnenolone 16a-carbonitrile(PCN)を前投与し、それによってCYP3A4発現にどのような影響を与えるか検討した。
ヒトCYP3A/マウスPXR保持マウス(hCYP3A/mPXR、雄性、10週齢)あるいはヒトCYP3A/ヒト化PXR保持マウス(hCYP3A/hPXR、雄性、10週齢)は、組織摘出試験前の96、72、48、24時間前にCYP3A4誘導剤であるRIFを10mg/kgあるいはPCNを100mg/kg腹腔内投与した。また、誘導剤を溶解した溶媒(コーンオイル)のみを腹腔内投与したものをコントロールにおいた。解剖当日、マウスを安楽死処置し、直ちに開腹処置後に肝臓を摘出した。その後、回収した組織からmRNAの回収はRNA抽出キットRNeasy Mini Kit(Qiagen)のプロトコールに従って行った。次にRNA 2μgを用いて、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて逆転写を行い、cDNA合成を行った。リアルタイム(Real-time)PCR解析はサーマルサイクラーEco Real Time PCR system (Illumina, CA, USA)を使用した。遺伝子発現検出には、TaqMan Gene expression Assays (Applied Biosystems)を用いた(CYP3A4,Hs00604506)。遺伝子発現量は20×Pre-Developed TaqMan Assay Reagent for Mouse GAPDH (Applied Biosystems)をプローブとしてマウスGAPDH mRNA量にて補正した。
その結果、ヒトCYP3A/マウスPXR保持マウス(hCYP3As/mPXR)では、マウス型PXRに反応するPCN投与によって、CYP3A4発現の上昇が認められたが、ヒト型PXRに反応するRIF投与ではCYP3A4の発現上昇が認められなかった。一方で、ヒトCYP3A/ヒト化PXR保持マウス(hCYP3A/hPXR)では、マウス型PXRに反応するPCN投与ではCYP3A4発現上昇が認められなかったが、ヒト型PXRに反応するRIF投与によってCYP3A4の発現上昇が認められた。このことから、作製されたヒトCYP3A/ヒト化PXRマウスがヒト特異的な代謝酵素誘導能を有することを確認した(図2)。
次に、前述で認められたヒトCYP3A/ヒト化PXRマウスにおけるCYP3A4代謝酵素の発現上昇がCYP3A4代謝酵素の活性上昇にまで影響を与えるか検討した。本試験では、ヒトにてCYP3A4を高発現する肝臓及び小腸を対象として試験を行った。
ヒトCYP3A/マウスPXR保持マウス(hCYP3As/mPXR、雄性、10週齢)あるいはヒトCYP3A/ヒト化PXR保持マウス(hCYP3A/hPXR、雄性、10週齢)は、組織摘出試験前の96、72、48、24時間前にCYP3A4誘導剤であるリファンピシン30mg/kg経口投与した。また、誘導剤を溶解した溶媒(0.5% カルボキシメチルセルロース)のみを経口投与したものをコントロールにおいた。解剖当日、マウスを安楽死処置し、肝臓を灌流液(300mM塩化カリウム、0.25mM EDTA in MilliQ)で脱血した後、直ちに開腹処置後に肝臓及び小腸を摘出した。
摘出した肝臓を氷上にてハサミで切断し、2mL/g Liver重量となるようにTris緩衝液(50mM Tris-HCl、150mM塩化カリウム、2mM EDTA、pH7.4 in MilliQ)を含む、氷冷したホモジナイザー内にて肝臓を破砕した。破砕した肝臓溶液を遠心チューブに移し、9,000×g、20分、4℃にて遠心した。その後、上清を超遠心用チューブへ移し、105,000×g、60分、4℃にて遠心した。遠心後に上清を除去し、26G針を使い沈殿物をリンス溶液(50mM Tris-HCl、pH7.4 in MiliiQ)1mLにて再懸濁した。懸濁液を超遠心チューブに移し、105,000×g、60分、4℃にて遠心した。遠心後、上清を除去し、沈殿物を最初の組織重量の0.25倍量のスクロース溶液(250mMスクロース in MilliQ)に再懸濁し、肝臓ミクロソーム溶液とした。サンプルは試験まで液体窒素あるいは-80℃にて保存した。
摘出した小腸は胃直下から10cmの部分を切除及び切開し、冷やしたPBSで内容物をすすいで除去した。切開した小腸はice-cold PBS(1.5mMEDTA、3U/mLへパリン、0.5mM DTT、プロテアーゼ阻害剤を含む冷PBS)3mL/匹の条件で浸し、20分間氷上にて静置した。その後、カバーガラスを使い、切開小腸から内部細胞をこそぎとり、15mL遠心チューブに回収し、2,000×g、10分、4℃にて遠心した。上清を除去し、洗浄液(50mM Tris-HCl、150mM塩化カリウム、20%グリセロール、トリプシン阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、pH7.4 in MilliQ) 4mLを加え遠心管の内壁を洗うようにリンスし、上清を捨てた。その後、洗浄液(50mM Tris-HCl、150mM塩化カリウム、20%グリセロール、トリプシン阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、pH7.4 in MilliQ)5mLチューブ/tubeに回収し、ホモジナイズ後に、9,000×g、20分、4℃にて遠心した。その後、上清を超遠心用チューブへ移し、105,000×g、60分、4℃にて遠心した。遠心後、上清を除去し、沈殿物をスクロース(250mM スクロース in MilliQ)1mLに再懸濁し、小腸ミクロソーム溶液とした。サンプルは試験まで液体窒素あるいは-80℃にて保存した。
ミクロソーム代謝試験は、まず丸底エッペンチューブ内にて、以下の反応組成条件にてサンプルを37℃、5分間インキュベートを行い、NADP+生成系を活性化させた。
反応組成条件:
100mM Potassium phosphate buffer(pH7.4) 316μL
300mM MgCl2 4μL
5×NADPH regenerating system(XenoTech) 80μL
トリアゾラム(最終濃度200μM) 0.4μL
合計 400.4μL
次に、氷上にて融解したミクロソーム溶液 100μL(最終濃度100μg/mg protein)を、前述の反応液に入れた。サンプルは37℃、30分間、振とう反応させた。30分後、3倍量のアセトニトリルを添加し、ボルテックス後、再度10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。その後、上清を別のチューブに移し、HPLCによる測定まで-80℃にて保存した。
前述の除タンパクした血清上清は高速液体クロマトグラフィーWaters Alliance HPLC system (Waters, Milford, MA)、紫外光検出器L-7400 UV detector、分離カラムCAPCELL PAK C18 UG120 column(4.6mm×250mm, 5mm; Shiseido, Tokyo, Japan)を用いて定量した。移動相には10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4):アセトニトリル:メタノールをトリアゾラム=60/30/10(v/v/v)の条件に設定した。流速は1.0mL/min、カラム温度は40℃とした。サンプルは測定までHPLCオートサンプラー内にて4℃に保たれた。
試験の結果、遺伝子発現の結果(図2)と同様に、リファンピシンを前投与することで、肝臓及び小腸においてhCYP3A/hPXRマウスでは、トリアゾラムの水酸化代謝物であるα位水酸化体(α-OH)及び4位水酸化体(4-OH)の生成が促進した。この結果から、化合物によって代謝酵素誘導を起こし、遺伝子発現上昇を与えた場合、肝臓及び小腸の活性にまで影響することを示した(図3)。
次に、ヒト特異的なPXR刺激がヒトCYP3A/ヒト化PXRマウスにおけるin vivo薬物動態変化にまで影響を与えるか検討した。本試験では、CYP3Aの代謝基質であるトリアゾラムを投与することで、その血中体内動態を指標に薬物代謝酵素誘導を評価した。
ヒトCYP3A/マウスPXR保持マウス(hCYP3As/mPXR、雄性、10週齢)あるいはヒトCYP3A/ヒト化PXR保持マウス(hCYP3A/hPXR、雄性、10週齢)は、採血試験の72、48、24時間前にCYP3A4誘導剤であるリファンピシン10又は30mg/kg経口投与した。また、誘導剤を溶解した溶媒(0.5%ヒドロキシメチルセルロース)のみを経口投与したものをコントロールにおいた。試験当日にトリアゾラムを1mg/kg条件にて尾静脈投与し、5、15、30分、1、2、4、6時間後にヘパリンナトリウム処理したガラス毛細管(Drummond Scientific. Company, PA, USA)を用いて眼窩静脈叢より採血した。血液は、10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。得られた血漿は、別のチューブに移した。その後、血漿と等量のアセトニトリルを添加し、ボルテックス後、再度10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。その後、上清を別のチューブに移し、HPLCによる測定まで-80℃にて保存した。
上述の除タンパクした血清上清は高速液体クロマトグラフィーWaters Alliance HPLC system (Waters, Milford, MA)、紫外光検出器L-7400 UV detector、分離カラムACQUITY UPLC(R) BEH C18 columnを用いて定量した。移動相には10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.4):アセトニトリル:メタノールをトリアゾラム=60/30/10(v/v/v)の条件に設定した。流速は1.0mL/min、カラム温度は40℃とした。サンプルは測定までHPLCオートサンプラー内にて4℃に保たれた。
血中濃度推移を各採血時間においてプロットした結果、ヒト特異的なPXRに応答するリファンピシン投与によってヒトCYP3A/マウスPXR保持マウス(hCYP3As/mPXR)ではコントロール群と比較して血中濃度推移に変化が認められなかったが、ヒトCYP3A/ヒト化PXR保持マウス(hCYP3A/hPXR)ではリファンピシン濃度依存的に血中濃度が低下した(図4)。また、血中濃度推移を表す薬物動態パラメーターである血中濃度-時間下部面積(AUC)の低下、体内からの消失時間を表す薬物動態パラメーターである半減期(t1/2)の低下、体内からの消失速度を表す薬物動態パラメーターであるクリアランス(CL)の上昇、肝臓での抽出率(Eh)の上昇が認められたことからも、本試験動物がヒト特異的な薬物代謝酵素誘導を示し、トリアゾラムの体内動態に影響することを示した(表1)。これことから、我々が作製したヒトCYP3A/ヒト化PXRマウスがヒト特異的な薬物動態を反映することが可能なモデルであることを確認した。
Figure 2018061462
以下、ヒトCYP3Aクラスター/ヒト化PXR保持マウスを、「ヒト化マウス」と呼称する。
[実施例3] ヒト化マウス由来肝細胞を用いたヒトin vivo予測系の確立
ヒト化マウス(雄性、10週齢)に、40-50mg/kgペントバルビタール麻酔薬を腹腔内投与し、開腹後、肝静脈を露出させた。あらかじめ37℃に温めた肝細胞調製液I(5g/L NaCl、0.4g/L KCl、0.21g/L MgCl2・6H2O、0.21g/L MgSO4・7H2O、0.08g/L NaH2PO4・2H2O、0.06g/L Na2HPO4、2.88g/L HEPES、0.19g/L EGTA、0.35g/L NaHCO3、0.9g/L D (+)-Glucose、pH7.2)を5-10分間還流することで、肝臓中の血液を置換した。次にあらかじめ37℃に温めた肝細胞調製液II(8g/L NaCl、0.4g/L KCl、0.74g/L CaCl2・2H2O、0.08g/L NaH2PO4・2H2O、0.06g/L Na2HPO4、2.38g/L HEPES、0.35g/L NaHCO3、0.1g/L type I collagenase、0.1g/L trypsin inhibitor、pH7.5)を5-10分間還流した。前述のコラゲナーゼ処理によって肝細胞が軽くほぐれることを確認した後に、マウスから肝臓を摘出した。摘出した肝臓は、あらかじめ肝臓一時保存培地(Williams E medium、10% fetal bovine serum、1% dimethyl sulfoxide、10nM dexamethasone、100IU/mL penicillin、100μg/mL streptomycin)を9mL加えた100mm dishへと移し、ハサミを使い細切した。培地が軽く濁ることを確認した後、培地を40μmフィルターへ通すことで単離した細胞を分取した。その後、細胞は室温にて、500×g、1分間遠心し、上清をアスピレートした。このとき肝細胞播種用培地を適当量加え、懸濁したあと、一部細胞を使いトリパンブルー染色を行った。前述のトリパンブルー染色の結果から求められた細胞数から、細胞が肝細胞播種用培地に対して1×105 cells/mLとなるように濃度を調製した。その後、肝細胞はtype-I collagen-coated 24-well plates (BD Bioscience, San Jose, CA)上に500μLずつ播種し、37℃、4時間、5%CO2インキュベーターにて静置した。4時間後、プレートを取り出し、非接着細胞をアスピレートすることで取り除き、肝細胞培養培地(Williams E medium、10% fetal bovine serum、1% dimethylsulfoxide、100IU/mL penicillin、100μg/mL streptomycin)に培地交換し、試験まで48時間、37℃、5%CO2インキュベーター内に静置した。
肝細胞を播種してから48時間後、CYP誘導剤0.1、1、5、10、50又は100μMを含む培地にて交換し、24時間後に再度同じ培地にて交換した。尚、溶解に用いたDMSOのみを添加したものをコントロールとした。細胞は最初に誘導剤処置してから48時間後にRNA回収を行い、RNA抽出キットRNeasy Mini Kit(Qiagen)のプロトコールに従い、RNAを回収した。次にRNA2μgを用いて、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて逆転写を行い、cDNA合成を行った。Real-time PCR解析はサーマルサイクラーABI 7500 Fast Real-Time PCR SYBR greenを使用し、ΔΔCt法を用いて解析を行った。試験に使用したプライマー配列は次の通りである。
CYP3A4_F, CTGTGTGTTTCCAAGAGAAGTTAC(配列番号1)
CYP3A4_R, TGCATCAATTTCCTCCTGCAG(配列番号2)
Nat1-U283, ATTCTTCGTTGTCAAGCCGCCAAAGTGGAG(配列番号3)
Nat1-L476: AGTTGTTTGCTGCGGAGTTGTCATCTCGTC(配列番号4)
今回使用した化合物の検討対象の濃度範囲は、in vivoの肝細胞で予測される最高濃度を含む3濃度以上で評価を行っており、それぞれに対して誘導パラメーター(EC50及びEmax)を算出した。このとき各濃度における誘導倍率は誘導剤添加しない場合でノーマライズし、このときの誘導剤濃度及びCYP3A4発現倍率からプロットし、容量反応曲線を引いた。容量反応曲線の近似にはSigma Prot ver13を使用した。肝酵素に影響を及ぼす薬物に関しては、最大治療用量を投与したときの定常状態で得られるCmax(結合形+非結合形)の10倍以上を含む濃度設定とした。また本課題では既存の論文(Fahmi OA et al. Drug Metab Dispos. 2008 Sep;36(9):1971-4;Fahmi OA et al. Drug Metab Dispos. 2009 Aug;37(8):1658-66;Zhang JG et al. Drug Metab Dispos. 2014 Sep;42(9):1379-91)からヒト肝細胞のデータを取得し、それを比較対象に置き、上記と同様に評価を行った。評価はmRNAレベルを対照 (溶媒(DMSO)のみ添加)と比較し、上述した濃度の被験化合物処理によりその増加が濃度依存的であり、増加率が100%を超える場合には、in vitro試験での酵素誘導作用があるとみなした。観察された濃度依存的なmRNA増加が100%未満の場合は、そのmRNAの増加が陽性対照による反応の20%未満である場合に限り、in vitro試験での酵素誘導作用がないとみなした。これら試験評価方法は、創薬研究ガイドラインに準拠した評価方法である。
ヒトへの外挿方法はRippら(Drug Metab Dispos 34:1742-1748, 2006)のrelative induction score (RIS)を用いて行った。RISは次の式で求めた。
RIS = (Ceff・free × Emax)/(Ceff・free + EC50)
式中、RISは相対誘導スコアを表し、Ceff・freeは血中有効濃度を表し、Emaxは最大誘導倍率を表し、EC50は50%効果濃度を表す。
このときEmax及びEC50は肝細胞におけるデータから算出した。血中有効濃度(Ceff・free)はFahmiらの報告(Drug Metab Dispos 36:1971-1974, 2008)を用いた。ヒトにおけるミダゾラムのAUC変化はFahmiらの報告(Drug Metab Dispos 40:2204-2211, 2012)を参照した。
in vitroの解析は、表2に表示した15種類の化合物について行った。
試験の結果いずれの化合物においても誘導剤濃度依存的な遺伝子発現の上昇が認められた(表2)。
Figure 2018061462
Figure 2018061462
得られた誘導パラメーターEC50について、既存のヒト肝細胞を用いた結果と類似した値が得られた。例えば、非常に誘導性の高い化合物であるリファンピシンを用いた場合、ヒト化マウスの場合0.73±0.19μMであったのに対し、既存のヒト肝細胞の結果では0.57〜2.6μMの範囲であった(表2)。また、臨床的に弱い誘導作用を示すピオグリタゾンの場合、ヒト化動物の場合10±6μMであったのに対し、既存のヒト肝細胞の結果では2.0〜13.3μMの範囲であった(表2)。さらに使用した化合物に対する相関性を調べたところ、非常に強い正の相関性が認められた(図5)。一方でEmaxについては、ヒト化マウス-ヒト間のみならず、異なる論文間(Fahmi OA et al. Drug Metab Dispos. 2008 Sep;36(9):1971-4;Fahmi OA et al. Drug Metab Dispos. 2009 Aug;37(8):1658-66;Zhang JG et al. Drug Metab Dispos. 2014 Sep;42(9):1379-91)におけるヒト-ヒト間においても非常に大きなばらつきが認められた。特に誘導性の強いリファンピシンにおける最大誘導倍率はヒト肝細胞を用いた既存の結果では0.65〜33の非常に大きい範囲で報告されており、ヒト化マウスを用いた結果では692±95と最も高い値を示した(表2)。
一般にヒト肝細胞はロット間差が大きく、試験のためには複数ロットなどを用いることが推奨される。ヒト肝細胞の保存には、それを目的として試験が行われるのではなく、肝臓移植の際の余剰組織を調製するなどして、保存される。従って、保存される肝細胞は必ずしも新鮮であるとは限らず、細胞調製から保存までに肝細胞機能が低下し、場合によってはほとんど目的の性質を有しない可能性もある。また凍結保存される肝細胞はプレートへの接着性を必ずしも有するのではなく、非接着性のロットも存在する。そうした比接着性の肝細胞では、接着性の肝細胞と比較し、肝機能が低いのみならず、試験操作を行う上でも手間であり、作業に時間を要するようになる。それらのことを鑑みると、本試験で用いたヒト化マウスから要時サンプルを調製できる方法は、最も安価で簡便にヒト肝細胞誘導を評価可能な新鮮なサンプルを調製できる方法と考えられる。
ヒト肝細胞を用いたin vivoへの外挿は、Rippら(上記)が報告したrelative induction score (RIS)を求めて行われる場合がある。これは、in vitroの肝細胞の試験結果(Emax, EC50)とヒト臨床有効血中濃度を考慮した式(上記)で求められる。従って非臨床試験の段階で有効薬効濃度からRIS値を算出し、臨床におけるAUC変化をプロットすることで得られる検量線から、CYP誘導性を有する未知化合物のヒト臨床におけるAUC変化を推量することが可能である。本発明のモデルにおいても従来の報告と同様に、ミダゾラムのAUC変化とヒト肝細胞から得られたRIS値についてプロットすると、R2=0.998と非常に強い相関性が得られた(図6)。またヒト化モデルマウスと既存のヒト肝細胞から得られたRIS値について相関性を調べると最も高いものでR2=0.855の正の相関性が得られた(図7)。これらの結果から、ヒト化マウスを用いた誘導試験法は、ヒト肝細胞を用いる試験の代替法として用いることが可能と考えられる。さらに、ヒト化マウスの結果がヒト肝細胞の結果を非常によく反映したことは、ヒト化マウスがヒトin vivoをより詳細に求めるモデルとしての利用の可能性を示唆した。そこで、次に十分な評価モデルが存在しない小腸における代謝酵素誘導を、このヒト化モデルを用いて評価可能かについて検討した。
[実施例4] 小腸における代謝酵素誘導評価
上記ヒト化マウス(雄性、10週齢)に、組織摘出試験前の72、48、24時間前にCYP3A4誘導剤であるリファンピシンを10mg/kg経口投与した。また、誘導剤を溶解した溶媒(0.5% カルボキシメチルセルロース)のみを経口投与したものをコントロールにおいた。解剖当日、マウスを安楽死処置し、直ちに開腹処置後に小腸を摘出した。さらに小腸は30等分にし、胃直下から順にナンバリングを行った。その後、回収した組織からmRNAの回収はRNA抽出キットRNeasy Mini Kit(Qiagen)のプロトコールに従って行った。次にRNAを2μg用いて、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて逆転写を行い、cDNA合成を行った。Real-time PCR解析はサーマルサイクラーABI 7500 Fast Real-Time PCR SYBR greenを使用し、ΔΔCt法を用いて解析を行った。試験に使用したプライマー配列は次の通りである。
CYP3A4_F, 前述配列番号1
CYP3A4_R, 前述配列番号2
Nat1-U283, 前述配列番号3
Nat1-L476: 前述配列番号4
臨床において非常に強い誘導活性を示すリファンピシンを投与することで小腸全体における代謝酵素誘導によるCYP3A4遺伝子発現変動を評価した結果、3日間の誘導剤処置により、小腸の全域においてCYP3A4の発現上昇が認められた(図8)。さらに代謝酵素誘導による影響は、小腸の中央付近にて最もCYP3A4の発現量が高くなった。一方で、小腸各部位におけるコントロールとの比較では、基礎発現が高い小腸上部において相対的に低く、反対に小腸下部において高くなった。これらの代謝酵素誘導による遺伝子変化は、消化管を介して吸収される化合物の薬物動態に非常に大きな影響を与え、その結果の薬効及び安全性にも非常に大きな影響を与える可能性がある。そこで次に、小腸にて誘導が起きた際の血中への未変化体変化量について検討した。
[実施例5] 小腸における代謝に伴う吸収への影響
上記ヒト化マウス(雄性、10週齢)に、採血試験の72、48、24時間前にCYP3A4誘導剤であるリファンピシンを10mg/kg経口投与した。また、誘導剤を溶解した溶媒(0.5%カルボキシメチルセルロース)のみを経口投与したものをコントロールにおいた。試験当日に誘導剤にて処置したヒト化マウスにトリアゾラムを1mg/kg条件にて経口投与した。その12分後にペントバルビタール麻酔薬40-50mg/kg腹腔投与し、開腹後に小腸を腹腔外部へ摘出することで門脈を露出させた。先端をヘパリン充填した24G針にて採血した。血液は、10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。得られた血漿は、別のチューブに移した。その後、血漿と等量のアセトニトリルを添加し、ボルテックス後、再度10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。その後、上清を別のチューブに移し、HPLCによる測定まで-80℃にて保存した。
上述の除タンパクした血清上清は高速液体クロマトグラフィーWaters Alliance HPLC system (Waters, Milford, MA)、紫外光検出器L-7400 UV detector、分離カラムCAPCELL PAK C18 UG120 column(4.6mm×250mm, 5mm; Shiseido, Tokyo, Japan)を用いて定量した。移動相には10mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.4):アセトニトリル:メタノールをトリアゾラム=60/30/10(v/v/v)の条件に設定した。流速は1.0mL/min、カラム温度は40℃とした。サンプルは測定までHPLCオートサンプラー内にて4℃に保たれた。
代謝酵素誘導によって変化したCYP3A代謝能力の変化が、小腸における未変化体吸収量にどれほど影響を与えるのかについて検討した結果、リファンピシン投与なしの場合の血漿中トリアゾラム、1-OHトリアゾラム、4-OHトリアゾラムの濃度は2.8±0.4μM、0.63±0.20μM、0.47±0.04μMであったことに対し、リファンピシンを投与群では1.4±0.3μM、1.4±0.2μM、0.7±0.1μMであった(図9A)。加えて、吸収されるトリアゾラム及びその代謝物の割合についてみてみると、コントロール群では未変化体として70%が吸収されるのに対し、リファンピシン投与によって未変化体吸収が40%以下まで減少した(図9B)。これらの結果から、誘導剤処置により、小腸を通して吸収される未変化体が減少し、吸収された化合物は代謝促進されて、代謝物として増加することが認められた。従って、本動物モデルを用いればin vivoにおける小腸の代謝酵素誘導を評価することが可能であることが示唆された。
[実施例6] 様々な誘導剤による小腸及び肝臓におけるCYP3A4代謝酵素誘導への影響
上記ヒト化マウス(雄性、10週齢)に、組織摘出試験前の72、48、24時間前にヒト臨床にて知られている強さが異なるCYP3A4誘導剤であるプレコナリル、ピオグリタゾン、トログリタゾン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、リファンピシンをそれぞれ10mg/kgを経口投与した。また、誘導剤を溶解した溶媒(0.5%カルボキシメチルセルロース)のみを経口投与したものをコントロールにおいた。解剖当日、ヒト化マウスを安楽死処置し、小腸及び肝臓を摘出した。さらに小腸は3等分にし、小腸上部、中部、下部とした。その後、回収した組織からmRNAの回収はRNA抽出キットRNeasy Mini Kit (Qiagen)のプロトコールに従って行った。次にRNAを2μg用いて、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて逆転写を行い、cDNA合成を行った。Real-time PCR解析はサーマルサイクラーABI 7500 Fast Real-Time PCR SYBR greenを使用し、ΔΔCt法を用いて解析を行った。試験に使用したプライマー配列は次の通りである。
CYP3A4_F, 前述配列番号1
CYP3A4_R, 前述配列番号2
Nat1-U283, 前述配列番号3
Nat1-L476: 前述配列番号4
臨床的に誘導の強さが異なる5種類の化合物(プレコナリル、ピオグリタゾン、トログリタゾン、カルバマゼピン、リファンピシン)を投与したときの小腸及び肝臓におけるCYP3A4遺伝子発現変化について検討した結果、いずれの組織においてもヒトで認められるような誘導剤の強さ依存的なCYP3A4の発現量の上昇が認められた。つまり、異なる強弱の誘導剤による各臓器へのCYP3A4発現上昇の関係性は、肝臓で成り立っていたことが小腸においても成り立ち、一般にヒト予測評価に用いられる肝細胞のin vitro試験系は、小腸における発現誘導の結果を反映することを支持した。これら結果から、本発明のモデルはヒト臨床で認められるin vivoにおける代謝酵素誘導の強弱を反映すると考えられる(図10)。一方で、小腸における誘導倍率はコントロールを基準としているため、相対的に生理条件で発現が低い小腸下部で相対的に高くなる。また小腸と肝臓を比較しても、各誘導剤による誘導倍率は影響が大きく異なり、誘導倍率を特定の組織を用いて一律に決定することが困難であることも示した。つまり、ヒト臨床予測には、特定の臓器由来細胞を用いた誘導倍率のみを用いて外挿することは推量の域を出ず、詳細な予測にはin vivo試験を用いた総合的な評価が必要であることを示唆した。
[実施例7] 様々な誘導剤によるヒト化マウスを用いたin vivo薬物動態試験
上記のヒト化マウス(雄性、10週齢)に、採血試験の72、48、24時間前にヒト臨床にて知られている強さが異なるCYP3A4誘導剤であるプレコナリル、ピオグリタゾン、トログリタゾン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、リファンピシンをそれぞれ10mg/kgを経口投与した。また、誘導剤を溶解した溶媒(0.5%カルボキシメチルセルロース)のみを経口投与したものをコントロールにおいた。試験当日にあらかじめ誘導剤にて処置したヒト化マウスへミダゾラムあるいはトリアゾラムを1mg/kg条件にて経口投与した。その後に、0.5、1、2、4、6時間後にヘパリンナトリウム処理したガラス毛細管(Drummond Scientific. Company, PA, USA)を用いて眼窩静脈叢より採血した。血液は、10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。得られた血漿は、別のチューブに移した。その後、血漿と等量のアセトニトリルを添加し、ボルテックス後、再度10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。その後、上清を別のチューブに移し、HPLCによる測定まで-80℃にて保存した。
除タンパクした血清上清は高速液体クロマトグラフィーWaters Alliance HPLC system (Waters, Milford, MA)、紫外光検出器L-7400 UV detector、分離カラムCAPCELL PAK C18 UG120 column(4.6mm×250mm, 5mm; Shiseido, Tokyo, Japan)を用いて定量した。移動相には10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.4):アセトニトリル:メタノールをトリアゾラム=60/30/10、ミダゾラム=50/30/20(v/v/v)の条件に設定した。流速は1.0mL/min、カラム温度は40℃とした。サンプルは測定までHPLCオートサンプラー内にて4℃に保たれた。
誘導剤投与時の被代謝化合物の薬物動態の影響を検証するため、前述の試験と同様に臨床的に誘導の強さが異なる5種類の化合物(プレコナリル、ピオグリタゾン、トログリタゾン、カルバマゼピン、リファンピシン)を投与し、その際のCYP3A4の基質の薬物動態を解析した結果、コントロール群と比較して、各誘導剤処置群においてミダゾラム及びトリアゾラム血中濃度が低下した(図11)。このときの2つの薬物の薬物動態を詳細にするため、薬物動態パラメーター解析を行ったところ、AUC及びCmaxについて、ミダゾラム及びトリアゾラムのどちらも誘導剤の強さ依存的に低下した。特に、カルバマゼピン及びリファンピシン投与時のミダゾラムAUCは、コントロール群と比較して、90%以上の低下を示した(表3)。
Figure 2018061462
そこで本試験の結果が、ヒト臨床における代謝酵素誘導を反映していることを確認するために、ヒト臨床におけるデータと比較した。図12は、横軸にヒト化マウスのAUC減少率、縦軸にヒト臨床におけるAUC減少率をそれぞれプロットしたものである。ヒト臨床データは、Fahmiら(2012)の報告(Drug Metab Dispos 40:2204-2211, 2012)を参考にした。その結果、ヒト化動物とヒト臨床では、R2=0.977の非常に強い相関性が認められ、本試験動物がヒト臨床における代謝酵素誘導を反映する有用なモデルであることが示された。また本試験において、非常に面白い点として、AUC及びCmaxについては誘導剤の強さ依存的に変化が認められたことに対し、t1/2については各誘導剤で変化が認められなかった。これは、代謝酵素誘導によるAUC変化が、曲線の下りを示す消失期による影響よりも、血中濃度上昇を示す初回通過代謝によってもたらされた結果であると考えられる。既存の報告では、ミダゾラムやトリアゾラムなどの睡眠導入剤では、肝臓よりも小腸代謝によって代謝を受けやすいことが知られている。小腸では肝臓とは異なり、ほぼすべての化合物が暴露される。その結果、非常に代謝を受けやすい化合物の場合、小腸における代謝酵素誘導の影響は、肝臓における影響よりも相対的に大きくなると考えられる。上記の結果が臨床におけるデータと非常に相関性が高く得られたことは、in vivoにおける小腸及び肝臓におけるCYP3A4誘導を極めて良く再現できた結果であると考えられる。
[実施例8] 誘導剤投与量差異によるヒト化マウスを用いたin vivo薬物動態試験
上記のヒト化マウス(雄性、10週齢)に、採血試験の72、48、24時間前にCYP3A4誘導剤であるリファンピシンを10、30、あるいは60mg/kgの用量で経口投与した。また、誘導剤を溶解した溶媒のみを経口投与したものをコントロールにおいた。試験当日にトリアゾラムを1mg/kg条件にて経口投与し、0.5、1、2、4、6時間後にヘパリンナトリウム処理したガラス毛細管(Drummond Scientific. Company, PA, USA)を用いて眼窩静脈叢より採血した。血液は、10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。得られた血漿は、別のチューブに移した。その後、血漿と等量のアセトニトリルを添加し、ボルテックス後、再度10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。その後、上清を別のチューブに移し、HPLCによる測定まで-80℃にて保存した。
上述の除タンパクした血清上清は、高速液体クロマトグラフィーWaters Alliance HPLC system (Waters, Milford, MA)、紫外光検出器L-7400 UV detector、分離カラムCAPCELL PAK C18 UG120 column(4.6mm×250mm, 5mm; Shiseido, Tokyo, Japan)を用いて定量した。移動相には10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4):アセトニトリル:メタノールをトリアゾラム=60/30/10(v/v/v)の条件に設定した。流速は1.0mL/min、カラム温度は40℃とした。サンプルは測定までHPLCオートサンプラー内にて4℃に保たれた。
誘導剤の投与量の違い(リファンピシンを0、10、30、あるいは60mg/kgのいずれかの投与量でそれぞれ3日間経口投与)による薬物動態パラメーターへの影響について検討した結果、リファンピシン未処置群と比較していずれも誘導剤投与群においてAUC及びCmaxは大きく低下した(表4)。
Figure 2018061462
一方でt1/2については、10mg/kgではコントロール群と比較して、大きな差を与えなかったことに対し、30及び60mg/kg投与時に初めて減少した。このことは、代謝酵素誘導によってt1/2は減少するが、それによるAUC低下への影響については大きな影響を及ぼさないことを示した。従って、背理的ではあるが、この結果からも初回通過代謝が経口投与され化合物の血中濃度に大きな影響を与え、特に小腸における代謝酵素誘導による影響が代謝酵素誘導評価に重要であると考えられた。
[実施例9] 小腸誘導時間の差異による代謝酵素誘導変動の検証試験
[1] 小腸におけるCYP3A4発現分布の確認
上記のヒト化マウス(雄性、10週齢)を安楽死処置し、小腸及び肝臓を摘出した。さらに小腸は30等分にし、胃直下から順にナンバリングを行った。その後、回収した組織からmRNAの回収はRNA抽出キットRNeasy Mini Kit (Qiagen)のプロトコールに従って行った。次にRNAを2μg用いて、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて逆転写を行い、cDNA合成を行った。Real-time PCR解析はサーマルサイクラーABI 7500 Fast Real-Time PCR SYBR greenを使用し、ΔΔCt法を用いて解析を行った。試験に使用したプライマー配列は次の通りである。
CYP3A4_F, 前述配列番号1
CYP3A4_R, 前述配列番号2
Nat1-U283, 前述配列番号3
Nat1-L476: 前述配列番号4
CYP3Aクラスター/PXRヒト化マウスの小腸におけるCYP3A4の発現局在について検討した結果(図13)、胃直下から#1〜#5にかけて約10倍の発現量範囲で段階的に上昇した。その後、#5から#20については、発現量変化として3倍の範囲で遺伝子発現が保たれていた。その後#30まで下降するに従い、CYP3A4の発現は相対比として#20の約1/1000まで低下した。この結果をふまえ、本研究では小腸上部#5〜#8、小腸中部#12〜#15、小腸下部#23〜#26とし、試験に使用した。
[2] 腸管反転法による小腸誘導タイミングによる代謝試験
上記のヒト化マウス(雄性、10週齢)に、組織摘出試験前の1、2、4、8、12、16あるいは24時間前のいずれかの時間にCYP3A4誘導剤であるリファンピシンを10mg/kg経口投与した。また、また、リファンピシンを投与しないものをコントロールに置き、誘導剤投与0hとした。解剖当日、マウスを安楽死処置し、直ちに開腹処置後に小腸を摘出した。以下の操作は断りが無い限り、すべて氷上で行った。まず小腸は3等分に切断し、上段、中断、下段と分類した。その後、小腸直径に収まる大きさのシリコンチューブを、小腸管腔に挿入し、シリコンチューブを這わせることで反転させた。これを上段、中断、下段すべてに行った。次に反転した小腸サンプルは、それぞれ10等分した。最終的に合計30個の小腸断片を入手し、胃直下部(上部)から順にナンバリングを行い、サンプル回収用エッペンにいれ、液体窒素に急速凍結を行った。サンプルは試験まで液体窒素あるいは-80℃にて保存した。
丸底エッペンチューブ内にて、以下の反応組成条件にてサンプルを37℃、5分間インキュベートを行い、NADP+生成系を活性化させた。
反応組成条件:
100mM Potassium phosphate buffer(pH7.4) 316μL
300mM MgCl2 4μL
5×NADPH regenerating system (XenoTech) 80μL
1000×substrate 0.4μL
合計 400.4μL
次に、氷上にて融解した反転小腸断片を、前述の反応液に入れ、CYP3A4発光検出試薬(P450-GloTM CYP3A4 assay with Luciferin-IPA、Promegaから購入)をキットプロトコールに従い、添加した。サンプルは60分後に上清20μL回収した。回収したサンプルは発光測定まで氷上あるいは4℃にて遮光保存した。回収したサンプル上清の発光検出は、キットプロトコールに従った。ルシフェラーゼの発光は、蛍光プレートリーダーinfinite F500 TECAN (Wako)を用い、測定時間1秒間の発光量として測定した。
CYP3A4誘導剤リファンピシンを投薬し、投与の0、1、2、4、8、12、16あるいは24時間後に解剖した小腸反転サンプルを使用して薬物代謝解析を行った結果、いずれの小腸部位においても時間経過に従い、経時的に上昇することが認められた(図14)。このとき誘導時間による代謝活性はリファンピシン処置なしのときに最も低く、その後8時間経過するまで活性が上昇した。一方で、この代謝活性誘導は誘導時間に対して一過性に上昇することが認められ、リファンピシン投与から24時間後の代謝活性は誘導投与8時間後と比較して低下した。また、このリファンピシン処置後の時間タイミングの差異による各群の上昇の傾向は、小腸の上部、中部、下部にて時間変化に対して同様の傾向が認められた。これらの結果から小腸における代謝酵素誘導には、時間依存的に変動することが認められ、その誘導のピークは24時間以内に認められることを示唆した。
[3] 門脈血及び腹部大静脈血における代謝に伴う吸収変化への影響
上記のヒト化マウス(雄性、10週齢)に、組織摘出試験前の1、2、4、8、12、16あるいは24時間前のいずれかの時間にCYP3A4誘導剤であるリファンピシンを10mg/kg経口投与した。また、リファンピシンを投与しないものをコントロールに置き、誘導剤投与0hとした。試験当日にヒト化マウスにトリアゾラムを1mg/kg条件にて経口投与した。その12分後にペントバルビタール麻酔薬40-50mg/kg腹腔投与し、開腹後に小腸を腹腔外部へ摘出することで門脈を露出させた。先端をヘパリン充填した24G針にて門脈より採血した。その後、腹部大静脈より、同様に先端をヘパリン充填した24G針にて門脈より採血した。血液は、10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。得られた血漿は、別のチューブに移した。その後、血漿と等量のアセトニトリルを添加し、ボルテックス後、再度10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。その後、上清を別のチューブに移し、HPLCによる測定まで-80℃にて保存した。
上述の除タンパクした血清上清は高速液体クロマトグラフィーWaters Alliance HPLC system (Waters, Milford, MA)、紫外光検出器 L-7400 UV detector、分離カラムCAPCELL PAK C18 UG120 column (4.6 mm × 250 mm, 5 mm; Shiseido, Tokyo, Japan)を用いて定量した。移動相には10 mM リン酸カリウム緩衝液 (pH 7.4):アセトニトリル:メタノールをトリアゾラム=60/30/10 v/v/vの条件に設定した。流速は1.0mL/min、カラム温度は40℃とした。サンプルは測定までHPLCオートサンプラー内にて4℃に保たれた。
誘導タイミングによる代謝酵素誘導の影響が、消化管における医薬品の吸収にどの程度影響を与えるかについて、CYP3A4基質であるトリアゾラムを経口投与し、15分後の門脈中及び全身循環血中における未変化体及び代謝物の量を比較することで検証した。図15はその時の未変化体及びその代謝物の存在量をモル比としてグラフ化した。門脈中においてリファンピシン投与なしの場合、未変化体の存在比は約90%、代謝物(1-OH体及び4-OH体)は約10%程度であった。それに対して、リファンピシンが投与されることによって、未変化体比は減少し、相対的に代謝物比は上昇した。代謝物の締める割合は、4時間において最も高くなり、その後減少する傾向が認められた。腹部大静脈血においても同様の傾向が認められ、投与後8時間において最も高くなったものの、その後減少する傾向が認められた。これらの結果から、小腸を介した誘導には、誘導時間として4時間から8時間の時間タイミングが重要であることが示唆された。さらに末梢血を示す腹部大静脈血中のトリアゾラム存在比にも影響を与えたことから経口バイオアベイラビリティーにも影響することが示唆された。このことから誘導剤処置時における小腸における代謝酵素誘導は、経口吸収の際の代謝にまで影響を与え、このときの未変化体吸収量の低下は、全身における医薬品の薬物動態、ひいては投薬された医薬品の薬効、あるいは代謝活性化されてあらわれる代謝毒性にまで影響を与える可能性を示唆した。
[4] 誘導時間が及ぼす小腸各部位におけるトリアゾラム代謝変動
上記のヒト化マウス(雄性、10週齢)に、組織摘出試験前の0、1、2、4、8、12、16あるいは24時間前のいずれかの時間にCYP3A4誘導剤であるリファンピシンを10mg/kg経口投与した。また、リファンピシンを投与しないものをコントロールに置き、誘導剤投与0hと表記した。試験当日にヒト化マウスにトリアゾラムを1mg/kg条件にて経口投与した。その12分後にペントバルビタール麻酔薬40-50mg/kg腹腔投与し、開腹後に小腸を腹腔外部へ露出させた。その後、15分後に小腸各部位(上部、中部、下部)を1 cm程度切り出した。切り出した小腸断片は、冷MilliQを500μL中にて、ホモジナイザーを用いて、組織を完全にすり潰した。その後、4℃、15,000×gの条件にて遠心を10分間行い、上清400μLを回収した。サンプルはHPLC用除タンパク操作あるいはタンパク定量操作まで、-80℃で保存した。
上述のように得られたサンプル25μLを使い、タンパク定量を行った。方法はBCA Protein assaykit (Termo, Japan)の添付プロトコールに従って行った。つまりキット反応液(WR液)200μLに対して、サンプルを25μL添加し、37℃、30分間インキュベートした。また検量線用牛血清アルブミン標準液も同様に操作を行った。30分後、プレートリーダーinfinite F500 TECAN (Wako)を使い、562 nmにおける吸光度を測定した。サンプル中のタンパク濃度は、前述の牛血清アルブミン標準液を基準として求めた。
上述のように得られたサンプルを、100μLのサンプルチューブに移した。その後、サンプルの4倍量のアセトニトリルを添加し、ボルテックス後、再度10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。その後、上清を別のチューブに移し、HPLCによる測定まで-80℃にて保存した。前述の除タンパクした血清上清は高速液体クロマトグラフィーWaters Alliance HPLC system (Waters, Milford, MA)、紫外光検出器 L-7400 UV detector、分離カラムCAPCELL PAK C18 UG120 column (4.6mm × 250mm, 5mm; Shiseido, Tokyo, Japan)を用いて定量した。移動相には10 mM リン酸カリウム緩衝液 (pH 7.4):アセトニトリル:メタノールをトリアゾラム=60/30/10 v/v/vの条件に設定した。流速は1.0 mL/min、カラム温度は40℃とした。サンプルは測定までHPLCオートサンプラー内にて4℃に保たれた。
誘導タイミングによる代謝酵素誘導の影響が、小腸における代謝にどれほどの影響を与えるか確認した。図16は、各小腸断片における単位タンパク量あたりのモル比としてグラフ化した。
小腸各部位における代謝への影響を検討するために小腸各断片におけるトリアゾラム及びその代謝物を定量した。その結果、門脈の結果と同様に、24時間以内の一過性の代謝活性化が認められ、誘導時間4時間から8時間にて最も代謝物量割合が増加した。これらの結果は、小腸における代謝酵素誘導評価には、24時間以内における活性評価が薬物動態に最も影響を与える条件であることを示唆した。
[5] 小腸におけるCYP3A4遺伝子発現への影響
上記のヒト化マウス(雄性、10週齢)に、組織摘出試験前の72、48、24時間及び0、4あるいは24時間前のいずれかの時間にCYP3A4誘導剤であるリファンピシンを10mg/kg経口投与した。また、リファンピシンを溶解した溶媒のみを経口投与したものをコントロールにおいた。解剖当日、マウスを安楽死処置し、直ちに開腹処置後に小腸を摘出した。まず小腸は3等分に切断し、上段、中断、下段と分類した。その後小腸各部位を1 cm程度に輪切りし、10%ホルムアルデヒドに浸し、組織を固定した。固定サンプルはキシレンにて5分間、3回すすぐことで脱パラフィン操作を行った。その後100% エタノール、90% エタノール、80% エタノール、70% エタノール、MilliQの順番にて5分間洗浄した。次に3% Hydrogen Peroxideを10分間、室温にて反応させて、その後MilliQにて5分間洗浄した。次に1% BSA in TPBS(0.1% Tween20)にて25分間、室温にて反応させた。一次抗体CYP3A4(Human),(Rabbit Polyclonal, dilution 1:1500 Diluent: 1%BSA in MilliQ)あるいはPXR (Human)(Rabbit Polyclonal, dilution 1:1500 Diluent: 1%BSA in MilliQ)を室温にて1時間反応させ、その後MilliQにて5分間洗浄した。次に、室温にて10分間DABし、その後MilliQにて簡単に洗浄した。化学染色後のサンプルはHematoxylinに室温で1分間染色し、その後MilliQにてよく洗浄した。最後にサンプルは脱水し、封入操作を行うことで免疫染色標本スライドとした。
誘導後4時間、24時間及びコントロールとしてリファンピシン処置なしの時の小腸におけるCYP3A4発現について検討した結果(図17A)、リファンピシンを投与することで小腸絨毛部におけるCYP3A4の発現が上昇することが認められた。このとき、小腸各部位におけるCYP3A4遺伝子発現をreal-time PCRにて測定した(図17B)。その結果、リファンピシンを投与することによって、CYP3A4発現が上昇したが、リファンピシン投与から4時間と24時間を比較すると4時間の方が高くなった。
リファンピシンのCYP3A4発現誘導には一般的核内受容体であるPXRに調節されることが知られている。そこでリファンピシン処置におけるPXRの核内移行性を免疫染色にて観察した(図18)。図18の矢印は、PXRの核内移行を示す細胞を現す。そこでその計数すると、リファンピシン処置から4時間において最もPXRが核内移行した細胞の割合が上昇していることが認められた。このことから、リファンピシンによる小腸CYP3A4の発現誘導は、核内レセプターPXRを介して行われることが示唆された。
[6] 門脈における代謝に伴う吸収変化への相加的影響
本試験では、上述の誘導時間の影響がすでに連続投与された誘導された代謝酵素変動に相加的な上昇を与えるかについて検討した。上記のヒト化マウス(雄性、10週齢)は、組織摘出試験前の3日間(72、48、24時間前)、3日間+4時間前(72、48、24、4時間前)いずれかの条件にてCYP3A4誘導剤であるリファンピシンを10mg/kg経口投与した。また、リファンピシンを溶解した溶媒のみを経口投与したものをコントロールにおいた。試験当日にヒト化マウスにトリアゾラムを1mg/kg条件にて経口投与した。その12分後にペントバルビタール麻酔薬40-50mg/kg腹腔投与し、開腹後に小腸を腹腔外部へ摘出することで門脈を露出させた。先端をヘパリン充填した24G針にて採血した。血液は、10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。得られた血漿は、別のチューブに移した。その後、血漿と等量のアセトニトリルを添加し、ボルテックス後、再度10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。その後、上清を別のチューブに移し、HPLCによる測定まで-80℃にて保存した。
上述の除タンパクした血清上清は高速液体クロマトグラフィーWaters Alliance HPLC system (Waters, Milford, MA)、紫外光検出器L-7400 UV detector、分離カラムCAPCELL PAK C18 UG120 column(4.6mm×250mm, 5mm; Shiseido, Tokyo, Japan)を用いて定量した。移動相には10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4):アセトニトリル:メタノールをトリアゾラム=60/30/10(v/v/v)の条件に設定した。流速は1.0mL/min、カラム温度は40℃とした。サンプルは測定までHPLCオートサンプラー内にて4℃に保たれた。
誘導タイミングによる代謝酵素誘導の影響が、すでに代謝酵素誘導を受けた消化管における医薬品の吸収にどの程度影響を与えるかについて、CYP3A4基質であるトリアゾラムを経口投与し、15分後の門脈中における未変化体及び代謝物の量を比較することで検証した。図19はその時の結果をモル比としてグラフ化した。リファンピシン投与なしの場合、未変化体及びその代謝物の量(モル比)はおおよそ同程度であったのに対し、リファンピシンが投与されることによって、未変化体比は全体の30%以下にまで低下した。このとき、リファンピシンの投与時間の影響は24時間前に投薬するよりも4時間前に追加投薬する方が未変化体吸収比は低下した。このことから誘導剤処置時における小腸における代謝酵素誘導は、経口吸収の際受けた代謝酵素誘導に相加的上昇を与え、このときの未変化体吸収量の低下は、全身における医薬品の薬物動態、ひいては投薬された医薬品の薬効、あるいは代謝活性化されてあらわれる代謝毒性にまで影響を与える可能性を示唆した。
[7] 誘導タイミングが与えるin vivo薬物動態への相加的影響
本試験では、前述の相加的代謝変動の影響がin vivo薬物動態に対しても相加的な影響を与えるのかについて検討した。上記のヒト化マウス(雄性、10週齢)は、組織摘出試験前の3日間(72、48、24時間前)、3日間+4時間前(72、48、24、4時間前)いずれかの条件にてCYP3A4誘導剤であるリファンピシンを10mg/kg経口投与した。また、リファンピシンを溶解した溶媒のみを経口投与したものをコントロールにおいた。試験当日にトリアゾラムを1mg/kg条件にて経口投与し、0.5、1、2、4、6時間後にヘパリンナトリウム処理したガラス毛細管(Drummond Scientific. Company, PA, USA)を用いて眼窩静脈叢より採血した。血液は、10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。得られた血漿は、別のチューブに移した。その後、血漿と等量のアセトニトリルを添加し、ボルテックス後、再度10,000×g、4℃の条件で、10分間の遠心分離を行った。その後、上清を別のチューブに移し、HPLCによる測定まで-80℃にて保存した。
上述の除タンパクした血清上清は高速液体クロマトグラフィーWaters Alliance HPLC system (Waters, Milford, MA)、紫外光検出器L-7400 UV detector、分離カラムCAPCELL PAK C18 UG120 column(4.6mm×250mm, 5mm; Shiseido, Tokyo, Japan)を用いて定量した。移動相には10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.4):アセトニトリル:メタノールをトリアゾラム=60/30/10(v/v/v)の条件に設定した。流速は1.0mL/min、カラム温度は40℃とした。サンプルは測定までHPLCオートサンプラー内にて4℃に保たれた。
最後に、小腸における誘導タイミングの差異が小腸におけるCYP3A代謝変動の増減に相加的な影響を与えることを示したが、この代謝変動が、in vivoにおける薬物動態にまで影響を与えるかについて検討した(図20)。マウスは、薬物投与日まで、3日間リファンピシンの連続投与を行い、その上でCYP3A4基質投薬試験の1又は2時間前に追加で、リファンピシンを経口投与した。その後、眼窩静脈叢から採血を行い、血中のトリアゾラム濃度及びその代謝物(1-OHトリアゾラム、4-OHトリアゾラム、1,4-OHトリアゾラム)について定量した。また血中濃度推移を、各採血時間においてプロットし、その化合物の暴露量・時間を示す薬物動態パラメーターである血中濃度-時間曲線下部面積(AUC)について求めた。その結果、未変化体トリアゾラムはリファンピシンを追加投与することによって低下した。一方で、その代謝物のAUCは増加することが認められた。このことから、被代謝化合物投与の24時間以内における誘導剤の追加投与は併用するその被代謝化合物の薬物動態に大きな影響を与えることを示唆した。
本発明の方法は、従来知られていなかった小腸における薬物代謝酵素誘導評価とそれに伴う薬物動態評価により、ヒト臨床予測をかなり正確に行うことが可能となり、したがって薬物のヒトでの代謝や安全性の予測において大きな役割を果たすと考えられる。

Claims (27)

  1. 少なくとも1つのヒト薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターを含む薬物動態関連遺伝子を含み、かつ対応する内在性の薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターを欠損するヒト化遺伝子改変モデル非ヒト哺乳動物に少なくとも1つの薬物を経口投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、又はリンパ管投与するステップ、該動物から門脈血、肝静脈血、全身循環血、尿及び胆汁からなる群から選択される少なくとも1つのサンプルを採取するステップ、該サンプルを用いて代謝酵素誘導による該薬物の未変化体及び代謝物の量及び/又は薬物動態を測定するステップ、ならびに、その測定値を用いて小腸及び肝臓における代謝酵素の誘導を評価するステップを含むことを特徴とする、ヒトにおける薬物代謝酵素誘導及び/又は薬物動態予測が可能である薬物代謝酵素誘導評価方法。
  2. 前記ヒト薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターが、チトクロムP450(CYP)ファミリーに属する酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターを含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記ヒト薬物代謝酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターが、ヒトにおける薬物代謝の第二相反応に関わる酵素の遺伝子もしくは遺伝子クラスターを含む、請求項1に記載の方法。
  4. 前記CYPファミリーに属する酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターが、CYP1A、CYP1B、CYP2A、CYP2B、CYP2C、CYP2D、CYP2E、CYP2J、CYP3A、CYP4A、CYP4B、あるいは、それらのサブファミリーの遺伝子もしくは遺伝子クラスターである、請求項2に記載の方法。
  5. 前記第二相反応に関わる酵素の遺伝子もしくは遺伝子クラスターが、UGT、あるいは、そのサブファミリーの遺伝子である、請求項3に記載の方法。
  6. 前記CYPファミリーに属する酵素遺伝子もしくは遺伝子クラスターが、ヒトCYP3A遺伝子クラスターを含む、請求項2又は4に記載の方法。
  7. 前記薬物動態関連遺伝子がヒト化核内受容体(Xenobiotic receptor)遺伝子をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 前記ヒト化核内受容体遺伝子が、AHR、CAR、CAR/PXR、PXR及びPPARαの遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子である、請求項7に記載の方法。
  9. 前記薬物動態関連遺伝子がヒト化薬物トランスポーター遺伝子をさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 前記ヒト化薬物トランスポーター遺伝子が、MDR、MRP、OAT、OATP、OCT、BCRP、PEPT、及びそれらのサブファミリーからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子である、請求項9に記載の方法。
  11. 前記薬物動態関連遺伝子が、ヒトCYP3A遺伝子クラスター及びヒト化PXR遺伝子を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 前記非ヒト哺乳動物がげっ歯類である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 前記げっ歯類がマウス又はラットである、請求項12に記載の方法。
  14. 前記門脈血の採取及び測定を薬物投与後に行う、好ましくは薬物投与後24時間以内に行う、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記門脈血の採取及び測定を、連日の薬物投与後に行う、あるいは連日の薬物投与後試験の24時間以内に追加投与した後に行う、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
  16. 前記動物から小腸を切り出し、該小腸の内側と外側を反転させたのち切断して得られた断片化サンプル中の遺伝子発現解析、タンパク質解析、該小腸サンプルと薬物を共存させることで行われる反応、ならびに/あるいは、前記薬物の未変化体及び代謝物を測定すること、をさらに含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
  17. 前記動物から小腸組織あるいは細胞を取り出して得られた小腸サンプルを用いて遺伝子発現解析を行う、該小腸サンプルと薬物を共存させることで行われる反応、ならびに、該小腸サンプルを用いた前記薬物の未変化体及び代謝物を測定すること、をさらに含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
  18. 前記小腸サンプルが凍結された小腸サンプルである、請求項16又は17に記載の方法。
  19. 前記動物から肝臓組織あるいは細胞を取り出して得られた肝臓サンプルを用いて遺伝子発現解析及び/又はタンパク質発現解析を行う、ならびに、該肝臓サンプルと薬物を共存させることで行われる反応、該肝臓サンプルを用いた前記薬物の未変化体及び代謝物を測定することをさらに含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
  20. 前記肝臓サンプルが凍結された肝臓サンプルである、請求項19に記載の方法。
  21. 前記動物から全身循環血を採取し、該全身循環血を用いて代謝酵素誘導による前記薬物の未変化体及び代謝物の量及び/又は薬物動態を測定し、肝臓及び小腸における代謝酵素誘導を評価すること、ならびに前記薬物の薬物動態パラメーターを算出すること、をさらに含む、請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
  22. 前記動物からの小腸サンプルにおいて、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現量、タンパク質の発現量又は酵素活性を測定し、小腸及びin vivoにおける代謝酵素誘導を評価することをさらに含む、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
  23. 前記動物からの肝組織又は肝細胞からなる肝サンプルにおいて、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現量、タンパク質の発現量又は酵素活性を測定し、肝臓及びin vivoにおける代謝酵素誘導を評価すること、ならびに薬物動態パラメーターを算出することをさらに含む、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
  24. 前記動物からの肝サンプル及び小腸サンプルにおいて、前記薬物代謝酵素遺伝子の発現量、タンパク質の発現量又は酵素活性を測定し、in vivoにおける代謝酵素誘導を評価することをさらに含む、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
  25. 薬物の全身循環血中濃度の時間変化を測定して決定された血中濃度-時間曲線下部面積(AUC)、クリアランス(CL)、平均体内貯留時間(MRT)、半減期(t1/2)、及び分布体積(V)からなる群から選択される少なくとも1つの薬物動態パラメーターを用いてヒトへ外挿し及び評価することをさらに含む、請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
  26. 薬物の全身循環血中濃度の時間変化を測定して決定された血中濃度−時間曲線下部面積(AUC)減少率(%)及び前記薬物動態パラメーターの使用を含む薬物動態学的解析を行うことをさらに含む、請求項1〜25のいずれか1項に記載の方法。
  27. 前記の測定によって得られたデータを、ヒトにおける薬物代謝酵素誘導及び/又は薬物動態との相関性を確認し、ヒト臨床へ外挿することをさらに含む、請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法。
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