JP2018056391A - 磁気抵抗効果素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来のトンネルバリア層の材料であるやMgAlを用いたTMR素子よりも低いRAにおいて高いMR比を生じる磁気抵抗効果素子を提供する。
【解決手段】下地層と、第一の強磁性金属層と、トンネルバリア層と、第二の強磁性金属層と、がこの順に積層された積層体を有し、前記下地層は、TiN、NbN、TaN、ZrNまたはこれらの混晶で構成され、前記トンネルバリア層は、スピネル構造を有する下記の組成式(1)で表される化合物で構成されていることを特徴とする磁気抵抗効果素子。(1):AIn、式中、Aは、非磁性の二価の陽イオンであり、マグネシウム及び亜鉛からなる群から選択された1種以上の元素の陽イオンを表し、xは、0<x≦2を満足する数を、yは、0<y≦4を満足する数を表す。
【選択図】図1

Description

本発明は、磁気抵抗効果素子に関するものである。
強磁性層と非磁性層の多層膜からなる巨大磁気抵抗(GMR)素子、及び非磁性層に絶縁層(トンネルバリア層、バリア層)を用いたトンネル磁気抵抗(TMR)素子が知られている(特許文献1〜2、非特許文献1〜4)。一般的に、TMR素子はGMR素子に比べて素子抵抗が高いものの、TMR素子の磁気抵抗(MR)比はGMR素子のMR比よりも大きい。TMR素子は2種類に分類することができる。一つ目は強磁性層間の波動関数の浸み出し効果を利用したトンネル効果のみ利用したTMR素子である。2つ目は前述のトンネル効果を生じた際に、トンネルする非磁性絶縁層の特定の軌道の伝導を利用したコヒーレントトンネルを利用したTMR素子である。コヒーレントトンネルを利用したTMR素子はトンネルのみ利用したTMR素子よりも大きいMR比が得られることが知られている。このコヒーレントトンネル効果を引き起こすためには強磁性層と非磁性絶縁層が互いに結晶質であり、強磁性層と非磁性絶縁層の界面が結晶学的に連続になっている場合に生じる。
磁気抵抗効果素子は様々な用途で用いられている。例えば、磁気センサとして、磁気抵抗効果型磁気センサが知られており、ハードディスクドライブにおける再生機能において磁気抵抗効果素子がその特性を決定している。磁気抵抗効果型磁気センサは磁気抵抗効果素子の磁化の向きが外部からの磁場よって変化する効果を磁気抵抗効果素子の抵抗変化として検出する磁気センサである。非特許文献4によると、磁気ヘッドに代表される微小領域の磁場を検出するための磁気抵抗効果型磁気センサにおいては高周波応答を考慮して、磁気抵抗効果素子の面積抵抗(RA)が0.1〜0.2Ω・μm程度の場合に最も高い再生能力が得られることが知られている。
今後期待されるデバイスは磁気抵抗変化型ランダムアクセスメモリ(MRAM)である。MRAMでは二層の強磁性の磁気の向きを平行と反平行に適宜変化させ、磁気抵抗を0と1というデジタル信号に読み込むメモリである。
特許第5586028号公報 米国特許出願公開第2013/0221461号明細書
Hiroaki Sukegawa,Huixin Xiu,Tadakatsu Ohkubo,Takao Furubayashi,Tomohiko Niizeki,Wenhong Wang,Shinya Kasai,Seiji Mitani,Koichiro Inomata, and Kazuhiro Hono、APPLIED PHYSICS LETTERS 96, 212505 (2010) Thomas Scheike,Hiroaki Sukegawa,Takao Furubayashi,Zhenchao Wen,Koichiro Inomata、Tadakatsu Ohkubo、Kazuhiro Hono, and Seiji Mitani、Applied Physics Letters,105,242407 (2014) Yoshio Miura,Shingo Muramoto,Kazutaka Abe, and Masafumi Shirai、Physical Review B 86, 024426 (2012) Masayuki Takagishi,Kenichiro Yamada,Hitoshi Iwasaki,Hiromi N.Fuke, and Susumu Hashimoto、IEEE Trans Magn.,Vol.46、No.6,2086 (2010)
近年までこのコヒーレントトンネルを生じるためには非磁性絶縁層としてMgOを使う必要があった。しかしながら、MgOを非磁性絶縁層として利用した場合、RAを0.1〜0.2Ω・μm程度に下げることが困難であり、RAが下がってもMR比が十分でないという課題があった。
今後の磁気センサやMRAMなどのデバイスにおいて、高いバイアス電圧下でも十分なMR比が得られることが必要となっている。磁気センサにおいては地磁気や生体磁気など微小な磁場を観測するために、回路上で抵抗変化として得られる電気信号を増幅しなければならない。従来よりも高感度を実現するためにはMR比だけではなく、出力電圧、あるいは、出力電流も増大させる必要があり、高いバイアス電圧での駆動が必要になってくる。MRAMの場合は書き込む動作において高い電圧駆動が必要である。スピントランスファートルク型(STT)MRAMでは強磁性層の磁化の向きが変化するほど高い電流密度を磁気抵抗効果素子に印加する必要がある。強磁性層の磁化の向きはスピン偏極電流が強磁性層のスピンに作用する効果である。書き換え電流はMR比と同様に、強いスピン偏極電流によって生じるため、STT−MRAMでも同様に高いバイアス電圧下において高いMR比が必要である。
特許文献1及び非特許文献1にはMgOに代わる材料としてはスピネル構造のトンネルバリアが有効であると報告されている。MgAlの組成式で表されるスピネルトンネルバリアはMgOと同等のMR比を得ることが可能であり、同時に、高いバイアス電圧下ではMgOよりも高いMR比を得られることが知られている。また、特許文献2及び非特許文献2及び3には高いMR比を得るためにはMgAlが不規則化したスピネル構造である必要があることが記載されている。ここで言う不規則化したスピネル構造とは、スピネル構造のO原子の配列はスピネルとほぼ同等の最密立方格子を取っているものの、MgとAlの原子配列が乱れた構造を持ち、全体として立方晶である構造を指す。本来のスピネルでは、酸素イオンの四面体空隙及び八面体空隙にMgとAlは規則正しく配列する。しかし、不規則化したスピネル構造ではこれらがランダムに配置されているため、結晶の対称性が変わり、実質的に格子定数がMgAlの約0.808nmから半減した構造となっている。特許文献2には、組成式がABとAB’Oで表されるスピネルが例示されている。ABで表されるスピネルは、AがMg、Zn、Cu、Cd、Li、Ni、Fe、Co、Mn、Cr、HgおよびVから選ばれる1つ以上の元素で、BがAl、Ga、In、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Rh、IrおよびCoから選ばれる1つ以上の元素であるとされている。AB’Oで表されるスピネルは、AがMg、Zn、Cu、Cd、Li、Ni、Fe、Co、Mn、Cr、Hg、AgおよびVから選ばれる1つ以上の元素で、B’がTi、Mn、Si、Ge、MoおよびSnから選ばれる1つ以上の元素であるとされている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、従来のトンネルバリア層の材料であるやMgAlを用いたTMR素子よりも低いRAにおいて高いMR比を生じる磁気抵抗効果素子を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するため、本発明にかかる磁気抵抗効果素子は、下地層と、第一の強磁性金属層と、トンネルバリア層と、第二の強磁性金属層と、がこの順に積層された積層体を有し、前記下地層は、TiN、NbN、TaN、ZrNまたはこれらの混晶で構成され、前記トンネルバリア層は、スピネル構造を有する下記の組成式(1)で表される化合物で構成されていることを特徴とする。
(1):AIn
式中、Aは、非磁性の二価の陽イオンであり、マグネシウム及び亜鉛からなる群から選択された1種以上の元素の陽イオンを表し、xは、0<x≦2を満足する数を、yは、0<y≦4を満足する数を表す。
三価のインジウム(In)と酸素を含むスピネル材料は、MgAlなどの三価の陽イオンとしてAlを用いた従来のスピネル材料よりもバンドギャップが小さい。このため、上記本発明の磁気抵抗効果素子は、従来の磁気抵抗効果素子と比較して、トンネルバリア層の抵抗が低く、低い面積抵抗(RA)において高い磁気抵抗(MR)比の発現が可能となる。
さらに、下地層がTiN、NbN、TaN、ZrNまたはこれらの混晶からなる構成にしたことで、低RAでのMR比がより大きくなっていると考えられる。この理由は明確ではないが、発明者は、トンネルバリア層を構成する材料の結晶の格子定数と、下地層を構成する窒化物がとりうる結晶の格子定数をn倍した数(nは、自然数または1/自然数)との差が小さいほど、MR比が大きくなっていることを見出した。従って、下地層がトンネルバリア層の結晶性に影響を及ぼしていると考えざるを得ない。これは従来の常識を覆す結果である。すなわち、一般に、反応性スパッタ法によって成膜される窒化物膜はアモルファスであると言われている。そうすると、実施例で用いた反応性スパッタ法によって成膜されたTiN膜、NbN膜、TaN膜及びZrN膜はアモルファスであるということになる。しかし、下地層が完全なアモルファスであるならば、その上の層との結晶学的相関はないはずであり、発明者が得た上記結果は従来の常識を覆すものなのである。この理由を推測するに、本発明の下地層についてもTEMで観察しても原子像が得られていないので、完全に結晶化しているということではないが、一方で、これは完全にアモルファスであるということではなく、TEMによって原子像が得られるほどではないが、局所的には結晶的な部分を有しているという描像が現実に近いのではないかと考えている。反応性スパッタ法によって成膜される窒化物膜はアモルファスであるとしていた現状に対して、本発明は、磁気抵抗効果素子のMR比向上の新しい方向性を開くものである。
なお、上記結果は、後述の実施例で述べるように、磁気抵抗効果素子の下地層を構成する窒化物(TiN、NbN、TaN、ZrN及びこれらの混晶)がとりうる結晶の格子定数及びトンネルバリア層の格子定数から求めた格子整合度と、MR比とを対比することによって説明することができる。TiN、NbN、TaN、ZrN及びこれらの混晶がとりうる結晶構造は、一般に正方晶構造(NaCl構造)で、空間群がFm−3mの結晶構造であり、この構造をもつ結晶の格子定数は、例えば、「国立研究開発法人物質・材料研究機構、”AtomWork”、[平成28年8月23日検索]、インターネット<URL:http://crystdb.nims.go.jp/>.」に開示されている。
またさらに、TiN、NbN、TaN及びZrNは導電性を有するので、これらの窒化物で下地層を構成することによって、下地層を介して磁気抵抗効果素子に電圧を印加することができ、素子の構成を簡略にできる。TiN、NbN、TaN、ZrNなどの窒化物は従来磁気抵抗効果素子の電極で用いられている金属(例えば、銅やタンタル)よりも電気抵抗率が高いため、磁気抵抗効果素子の抵抗が高くなる。しかしながら、窒化物の膜厚を十分薄くすることで下地層の抵抗の影響を軽減することができる。例えば、窒化物の膜厚を20.0nm以下(特に10.0nm以下)とすれば磁気抵抗効果素子の下地層の抵抗の影響を軽減させることができる。
上記磁気抵抗効果素子において、トンネルバリア層は、第一の強磁性金属層と第二の強磁性金属層の両方と格子整合している格子整合部と、第一の強磁性金属層と第二の強磁性金属層の少なくとも一方と格子整合していない格子不整合部と、を有していてもよい。
上記磁気抵抗効果素子において、トンネルバリア層は原子配列が不規則化したスピネル構造であってもよい。原子配列が不規則化したスピネル構造を持つことで電子バンドの折りたたみの効果によってコヒーレントトンネル効果が増大し、MR比が増大する。
上記磁気抵抗効果素子において、複数の非磁性元素の二価の陽イオンのイオン半径の差が0.2Å以下であってもよい。イオン半径の差が小さいと陽イオンが秩序化しにくくなり、一般的なスピネル構造の格子定数よりも小さい格子定数になるため、イオン半径が近い2種類以上の元素の場合にMR比がより増大する。
xは、x<1を満足する数であってもよい。二価の陽イオンの構成元素数を三価の陽イオンの半分未満にすることで、陽イオンに空孔を生じて、空孔と2種類以上の非磁性元素が陽イオンを占めることになり、格子の周期性が乱れることになるため、MR比が増大する。
上記磁気抵抗効果素子において、前記第二の強磁性金属層の保磁力は、前記第一の強磁性金属層の保磁力よりも大きくてもよい。
第一の強磁性金属層と第二の強磁性金属層の保磁力が異なることでスピンバルブとして機能し、デバイス応用が可能となる。
上記磁気抵抗効果素子において、前記トンネルバリア層の膜厚が0.7nm以上1.7nm以下であってもよい。
この場合、高いMR比が得られ、高感度の磁気センサ、ロジックインメモリ及びMRAMなどの高いバイアス電圧が印加されるデバイスにおいても磁気抵抗効果素子が利用可能になる。
上記磁気抵抗効果素子において、前記下地層の膜厚は1.0nm以上20.0nm以下であってもよい。
下地層の膜厚がこの範囲にあることによって、トンネルバリア層の結晶サイズの均一性および配向性を確実に向上させることが可能となる。また、一般的に窒化物は金属に比べて電気抵抗率が高いため、下地層として窒化物を用いる場合には窒化物の膜厚が薄い方が好ましい。窒化物の膜厚を薄くすることで磁気抵抗効果素子を含む回路の抵抗が下がり、実効的な磁気抵抗比を増大させることができる。
上記磁気抵抗効果素子において、第一の強磁性金属層と第二の強磁性金属層の少なくともいずれか一方が積層方向に対して垂直な磁気異方性を持っていてもよい。
バイアス磁界を印加させる必要がないため、デバイスの縮小化が可能である。また、高い熱擾乱耐性を持つため、記録素子として機能させることができる。
上記磁気抵抗効果素子において、第一の強磁性金属層と第二の強磁性金属層の少なくともいずれか一方がCoMn1−aFeAlSi1−b(0≦a≦1,0≦b≦1)であってもよい。
CoMn1−aFeAlSi1−bはスピン分極率が高い強磁性金属材料であり、他の強磁性金属材料を用いた場合よりも高いMR比を得ることができる。
本発明によれば、従来のトンネルバリア層の材料であるやMgAlを用いたTMR素子よりも低いRAにおいて高いMR比を生じる磁気抵抗効果素子を提供することができる。
磁気抵抗効果素子の積層構造を説明する断面図である。 本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層を構成する規則スピネルの結晶構造の一例の模式図である。 本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層を構成する不規則化スピネルの結晶構造の一例の模式図である。 本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層を構成する不規則化スピネルの結晶構造の別の一例の模式図である。 本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層を構成する不規則化スピネルの結晶構造のさらに別の一例の模式図である。 本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層を構成する不規則化スピネルの結晶構造のさらに別の一例の模式図である。 本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層を構成する不規則化スピネルの結晶構造のさらに別の一例の模式図である。 本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子を備える磁気抵抗効果デバイスの平面図である。 図8のIX−IX線断面図である。 トンネルバリア層と強磁性金属層が格子整合している部分の一例である。 トンネルバリア層の積層方向に平行な方向を含む断面の構造図である。
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子100について説明する。磁気抵抗効果素子100は、下地層2と、第一の強磁性金属層6と、トンネルバリア層3と、第二の強磁性金属層7と、がこの順に積層された積層体を有する。下地層2は、TiN、VNまたはこれらの混晶で構成されている。トンネルバリア層3は、スピネル構造を有する下記の組成式(1)で表される化合物で構成されていることを特徴とする。
(1):AIn
式中、Aは、非磁性の二価の陽イオンであり、マグネシウム、亜鉛及びカドミウムからなる群から選択された1種以上の元素の陽イオンを表し、xは、0<x≦2を満足する数、好ましくはx<1を満足する数を、yは、0<y≦4を満足する数を表す。
(基本構造)
図1に示す例では、磁気抵抗効果素子100は、基板1上に設けられており、基板1より順に下地層2、第一の強磁性金属層6、トンネルバリア層3、第二の強磁性金属層7、及び、キャップ層4を備えた積層構造である。
(下地層)
下地層2は、TiN、NbN、TaN、ZrNまたはこれらの混晶で構成されている。ここで、「混晶」という語は便宜的に用いたが、下地層が結晶になっていることを意味していない。TiNおよびTaNの混晶を例に挙げれば、単に、TiNおよびTaNを合せて用いて成膜された膜を意味する。TiNおよびTaNの混合膜とも言ってもよい。TiNおよびTaNはそれぞれ、TiとNからなる材料、TaとNからなる材料を意味しており、金属元素とNとの原子比が1:1である必要はない。金属元素とNとの原子比は、1:0.5〜1:2(=金属元素:N)の範囲にあることが好ましい。下地層2の膜厚は、1.0nm以上20.0nm以下であることが好ましく、1.0nm以上10.0nm以下であることがより好ましい。
(トンネルバリア層)
トンネルバリア層3は非磁性絶縁材料からなる。一般的にトンネルバリア層の膜厚は3nm以下の厚さであり、好ましくは0.7nm以上1.7nm以下の厚さである。金属材料によってトンネルバリア層3を挟み込むと金属材料の原子が持つ電子の波動関数がトンネルバリア層3を超えて広がるため、回路上に絶縁体が存在するにも関わらず電流が流れることができる。磁気抵抗効果素子100は、トンネルバリア層3を強磁性金属材料で挟み込む構造であり、挟み込んだ強磁性金属のそれぞれの磁化の向きの相対角によって抵抗値が決定される。磁気抵抗効果素子100において、通常のトンネル効果とトンネル時の軌道が限定されるコヒーレントトンネル効果がある。通常のトンネル効果では強磁性材料のスピン分極率によって磁気抵抗効果が得られる。一方、コヒーレントトンネルではトンネル時の軌道が限定されるため、強磁性材料のスピン分極率以上の効果が期待できる。したがって、コヒーレントトンネル効果を発現するためには、強磁性材料とトンネルバリア層3が結晶化し、特定の方位で接合する必要がある。
(スピネル構造)
トンネルバリア層3を構成する非磁性絶縁材料は、スピネル構造を有する上記の組成式(1)で表される化合物である。ここで、本実施形態において、スピネル構造は、規則スピネル構造と、原子配列が不規則化したスピネル構造(規則スピネル構造)とを含む。規則スピネル構造は、図2に示すように、酸素原子が陽イオンに4配位するAサイトと酸素原子が陽イオンに6配位するBサイトを有し、酸素原子の配列が最密立方格子を取り、全体として立方晶である構造を意味する。不規則スピネル構造は、酸素原子の配列は規則スピネル構造とほぼ同等の最密立方格子を取っているものの、陽イオンの原子配列が乱れた構造を意味する。すなわち、規則スピネル構造では、酸素原子の四面体空隙及び八面体空隙に陽イオンは規則正しく配列する。一方、不規則スピネル構造ではこれらがランダムに配置されているため、結晶の対称性が変わり、実質的に格子定数が半減した構造となっている。例えば、MgAlに代表される規則スピネル構造の空間群はFd−3mであるが、格子定数が半減した不規則スピネル構造の空間群はFm−3mもしくはF−43mとなることが知られている。この不規則スピネル構造としては全部で、図3〜図7に示す5つの構造の可能性があるが、これらの構造のいずれか、もしくはこれらが混ざり合った構造であればよい。不規則スピネル構造は、スケネル(Sukenel)構造と呼ばれることがある。
また、不規則スピネル構造では、格子繰返しの単位が変わることで、強磁性層材料との電子構造(バンド構造)との組み合わせが変化する。このため、不規則スピネル構造は、規則スピネル構造と比較してコヒーレントトンネル効果による大きなTMRエンハンスが現れる。そして、トンネルバリア層3が不規則スピネル構造を有することで、電子バンドの折りたたみの効果によってコヒーレントトンネル効果が増大し、MR比が増大する。
なお、本実施形態において不規則スピネル構造は、必ずしも全体として立方晶である必要はない。トンネルバリア層3を構成する非磁性絶縁材料の結晶構造は、下地の材料の結晶構造の影響を受け、部分的に格子が歪む。それぞれの材料はバルクの結晶構造を持つが、薄膜にした場合はバルクの結晶構造を基本とし、部分的に歪んだ結晶構造を取りうる。特に、本実施形態におけるトンネルバリア層3は非常に薄い薄膜であり、トンネルバリア層3に接する層の結晶構造の影響を受けやすい。但し、不規則スピネル構造を有する材料は、バルクの結晶構造は基本的に立方晶であり、本実施形態における不規則スピネル構造は立方晶でない場合も立方晶からわずかにずれた構造を含む。一般的に、本実施形態における不規則スピネル構造における立方晶からのずれはわずかであり、結晶構造を評価する測定方法の精度に依存する。
トンネルバリア層3に含まれる非磁性元素の中で二価の陽イオン、即ち組成式(1)のAは、スピネル構造のAサイトを形成する。Aサイトを形成する二価の陽イオンは、マグネシウム及び亜鉛からなる群から選択された1種以上の非磁性元素の陽イオンである。マグネシウム及び亜鉛は、二価が安定状態であり、トンネルバリア層の構成元素となった場合にコヒーレントトンネルが実現でき、MR比が増大する。
トンネルバリア層3に含まれる酸素は、二価の陽イオンに対して4配位してAサイトを形成し、三価の陽イオンに対して6配位してBサイトを形成する。酸素は欠損していてもよい。このため、組成式(1)においてyは0<y≦4を満足する数となる。但し、トンネルバリア層3は、組成式(1)のyが4を超えている部分を有していてもよい。
トンネルバリア層3に含まれる非磁性元素の中でインジウムは、スピネル構造のBサイトを形成する。Bサイトがインジウムと酸素を含むことによって、価電子帯とのギャップが狭くなり、低いRAを実現することが可能である。
(下地層とトンネルバリア層との関係)
下地層2とトンネルバリア層3とは、格子定数の差が小さいことが好ましい。すなわち、下地層2がとりうる結晶構造の格子定数と、トンネルバリア層3の格子定数との差が小さいことが好ましい。具体的には、下記の式で定義される格子整合度が5%以内となるように選択され、3%以内となるように選択されることが好ましい。
格子整合度(%)=(C−nD)の絶対値/nD×100
ここで、Cはトンネルバリア層3の格子定数であり、Dは下地層2がとりうる結晶構造の格子定数である。nは、自然数または1/自然数であり、通常は1、1/2もしくは2のいずれかである。
「下地層2がとりうる結晶構造」とは、下地層2を構成するTiN、NbN、TaN、ZrNまたはこれらの混晶をバルクにした際にとりうる結晶構造であり、下地層2が有していると考えられる結晶構造を意味する。上述のように、下地層2は完全な結晶状態とアモルファスの中間のような状態を有していると考えられる。そのため、下地層2の結晶構造がどのような構造であるということは明確に定義できない。一方で、現実の下地層2の結晶構造が、下地層2を構成する材料をバルクにした際にとりうる結晶構造と著しく異なっているとは考えられない。下地層2がとりうる結晶構造としては、正方晶構造がある。
下地層2とトンネルバリア層3との格子定数の差が小さくなると、磁気抵抗効果素子100のMR比が向上する。上述のように、反応性スパッタ法によって成膜される下地層2はアモルファスと考えられていた。そのため、トンネルバリア層3の結晶構造と下地層2がとりうる結晶構造との整合性が、磁気抵抗効果素子100のMR比向上に影響を及ぼすことは、新たな発見である。
(第一の強磁性金属層)
第一の強磁性金属層6の材料として、強磁性材料、特に軟磁性材料が適用され、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、前記群の金属を1種以上含む合金、又は、前記群から選択される1又は複数の金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金が挙げられる。具体的には、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Feが例示できる。
第一の強磁性金属層6の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、第一の強磁性金属層6の膜厚を2.5nm以下とすることが好ましい。第一の強磁性金属層6とトンネルバリア層3の界面で、第一の強磁性金属層6に垂直磁気異方性を付加することができる。また、垂直磁気異方性は第一の強磁性金属層6の膜厚を厚くすることによって効果が減衰するため、第一の強磁性金属層6の膜厚は薄い方が好ましい。
(第二の強磁性金属層)
第二の強磁性金属層7の材料として、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、前記群の金属を1種以上含む合金、又は、前記群から選択される1又は複数の金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金が挙げられる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが例示できる。さらに、高い出力を得るためにはCoFeSiなどのホイスラー合金が好ましい。ホイスラー合金は、XYZの化学組成をもつ金属間化合物を含み、Xは、周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、Yは、Mn、V、CrあるいはTi族の遷移金属でありXの元素種をとることもでき、Zは、III族からV族の典型元素である。例えば、CoFeSi、CoMnSiやCoMn1−aFeAlSi1−bなどが挙げられる。また、第一の強磁性金属層6よりも保磁力を大きくするために、第二の強磁性金属層7と接する材料としてIrMn,PtMnなどの反強磁性材料を用いても良い。さらに、第二の強磁性金属層7の漏れ磁場を第一の強磁性金属層6に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としても良い。
第二の強磁性金属層7の磁化の向きを積層面に対して垂直にする場合には、CoとPtの積層膜を用いることが好ましい。第二の強磁性金属層7は例えば、[Co(0.24nm)/Pt(0.16nm)]/Ru(0.9nm)/[Pt(0.16nm)/Co(0.16nm)]/Ta(0.2nm)/FeB(1.0nm)とすることで、磁化の向きを垂直にすることができる。
一般的に、第一の強磁性金属層6は磁化の向きが第二の強磁性金属層7よりも容易に外部磁場やスピントルクによって可変することができるため、自由層と呼ばれる。また、第二の強磁性金属層7は、磁化の向きが固定される構造となっており、第一の強磁性金属層6は固定層と呼ばれる。
(基板)
本発明に係る磁気抵抗効果素子は基板上に形成してもよい。
その場合、基板1は、平坦性に優れた材料を用いることが好ましい。基板1は目的とする製品によって異なる。例えば、MRAMの場合、磁気抵抗効果素子の下にはSi基板で形成された回路を用いることができる。あるいは、磁気ヘッドの場合、加工しやすいAlTiC基板を用いることができる。
(キャップ層)
本発明に係る磁気抵抗効果素子においては、第二の強磁性金属層7のトンネルバリア層3側とは反対側の表面(図1において、第二の強磁性金属層7の上面)に、キャップ層を形成してもよい。
キャップ層4は第二の強磁性金属層7の積層方向の上部に設置され、第二の強磁性金属層7の結晶配向性、結晶粒径などの結晶性や元素の拡散を制御するために用いられる。第二の強磁性金属層7の結晶構造がbcc構造の場合には、キャップ層4の結晶構造はfcc構造、hcp構造またはbcc構造のいずれでもよい。第二の強磁性金属層7の結晶構造がfcc構造の場合には、キャップ層4の結晶構造はfcc構造、hcp構造またはbcc構造のいずれでもよい。キャップ層4の膜厚は、歪緩和効果が得られ、さらにシャントによるMR比の減少が見られない範囲であればよい。キャップ層4の膜厚は、好ましくは1nm以上、30nm以下である。
(素子の形状、寸法)
本発明を構成する第一の強磁性金属層6、トンネルバリア層3及び第二の強磁性金属層7からなる積層体は柱状の形状であり、積層体を平面視した形状は、円形、四角形、三角形、多角形等の種々の形状をとることができるが、対称性の面から円形であることが好ましい。すなわち、積層体は円柱状であることが好ましい。
積層体が円柱状である場合、平面視した円の直径が80nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましい。直径が60nm以下であると、強磁性金属層中にドメイン構造ができにくくなり、強磁性金属層におけるスピン分極と異なる成分を考慮する必要が無くなる。さらに、30nm以下であると、強磁性金属層中に単一ドメイン構造となり、磁化反転速度や確率が改善する。また小型化された磁気抵抗効果素子において、特に低抵抗化の要望が強い。
(使用時の構成)
図8および図9に、本実施形態の磁気抵抗効果素子を備える磁気抵抗効果デバイスを例示する。
図8は、磁気抵抗効果デバイス200の平面図(磁気抵抗効果デバイス200を積層方向から平面視した図)であり、図9は、図8のIX−IX線断面図である。図8および図9に示す磁気抵抗効果デバイス200において、磁気抵抗効果素子100のキャップ層4の上部にはx方向に延びた電極層5が形成されている。下地層2はz方向に、第一の強磁性金属層6の端部を超えるように延長されていて、その延長部分の上部に電極パッド8が形成されている。電極層5と電極パッド8との間には電流源71と電圧計72が備えられている。電流源71により下地層2と電極層5に電圧を印加することにより、第一の強磁性金属層6、トンネルバリア層3及び第二の強磁性金属層7からなる積層体の積層方向に電流が流れる。この際の印加電圧は電圧計72でモニターされる。
(評価方法)
磁気抵抗効果素子100の評価方法について、図8と図9を例に説明する。例えば、図8のように電流源71と電圧計72を配置し、一定の電流、あるいは、一定の電圧を磁気抵抗効果素子100に印加し、電圧、あるいは電流を外部から磁場を掃引しながら測定することによって、磁気抵抗効果素子100の抵抗変化を観測することができる。
MR比は一般的に以下の式で表される。
MR比(%)={(RAP−R)/R}×100
は第一の強磁性金属層6と第二の強磁性金属層7の磁化の向きが平行の場合の抵抗であり、RAPは第一の強磁性金属層6と第二の強磁性金属層7の磁化の向きが反平行の場合の抵抗である。
面積抵抗(RA)は、印加されるバイアス電圧を磁気抵抗効果素子の積層方向に流れた電流で割ることで得られる抵抗値を、各層が接合される面の面積で割り、単位面積における抵抗値に規格化したものである。印加するバイアス電圧及び磁気抵抗効果素子の積層方向に流れる電流値を電圧計及び電流計で計測し、求めることができる。
磁気抵抗効果素子100では強い電流が流れると、STTの効果によって磁化の回転が起こり、磁気抵抗効果素子100の抵抗値が急激に変化する。この抵抗値が急激に変化する電流値は反転電流値(Jc)と呼ばれる。
(その他)
本実施形態では、磁気抵抗効果素子100として、第一の強磁性金属層6が磁化自由層とされ、第二の強磁性金属層7が磁化固定層とされている、いわゆるトップピン構造の例を挙げたが、磁気抵抗効果素子100の構造は特に限定されるものではない。磁化固定層は複数の層で構成されるのが通常なので、第一の強磁性金属層6を磁化固定層としてしまうと、下地層2とトンネルバリア層3との間に多くの層を挟むことにより、本発明の効果が小さくなってしまう。これに対して、トップピン構造の場合には、第一の強磁性金属層6の保磁力は小さくなるが、下地層2とトンネルバリア層3との間に単層である磁化自由層を挟むだけなので本発明の効果が十分大きく、よりMR比を増大させることが可能である。磁気抵抗効果素子100の構造は、第一の強磁性金属層6が磁化固定層とされ、第二の強磁性金属層7が磁化自由層とされている、いわゆるボトムピン構造であってもよい。
磁気センサとして磁気抵抗効果素子を活用するためには、外部磁場に対して抵抗変化が線形に変化することが好ましい。一般的な強磁性層の積層膜では磁化の方向が形状異方性によって積層面内に向きやすい。この場合、例えば外部から磁場を印加して、第一の強磁性金属層6と第二の強磁性金属層7の磁化の向きを直交させることによって外部磁場に対して抵抗変化を線形に変化させる。但し、この場合、磁気抵抗効果素子の近くに磁場を印加させる機構が必要となるため、集積を行う上で望ましくない。強磁性金属層自体が垂直な磁気異方性を持っている場合、外部から磁場を印加するなどの方法が必要なく、集積を行う上で有利である。
本実施形態を用いた磁気抵抗効果素子は磁気センサやMRAMなどのメモリとして使用することが可能である。特に、従来の磁気センサやMRAMでは素子のサイズが小さくなることによって、磁場解像度あるいは集積度を良くするためにRAを下げる必要があり、本実施形態は効果的である。
(製造方法)
磁気抵抗効果素子100を構成する下地層2、第一の強磁性金属層6、トンネルバリア層3、第二の強磁性金属層7およびキャップ層4は、例えば、マグネトロンスパッタ装置を用いて形成することができる。
下地層2は公知の方法で作製することができる。例えば、スパッタガスとしてArと窒素とを含む混合ガスを用いた反応性スパッタ法により作製することができる。
トンネルバリア層3は公知の方法で作製することができる。例えば、第一の強磁性金属層6上に金属薄膜をスパッタし、プラズマ酸化あるいは酸素導入による自然酸化を行い、その後の熱処理によって形成される。成膜法としてはマグネトロンスパッタ法のほか、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法など通常の薄膜作製法を用いることもできる。
第一の強磁性金属層6、第二の強磁性金属層7、キャップ層4は、それぞれ公知の方法で作製することができる。
下地層2、第一の強磁性金属層6、トンネルバリア層3、第二の強磁性金属層7およびキャップ層4は、この順で成膜して積層する。得られた積層膜は、アニール処理することが好ましい。反応性スパッタ法によって成膜されるNbN、TaNまたはこれらの混晶からなる窒化物の層(下地層2)は、通常はアモルファスである。アニール処理して製造した磁気抵抗効果素子100は、アニール処理しないで製造した磁気抵抗効果素子100と比較して、MR比が向上する。これは、アニール処理によって、下地層2が部分的に結晶化し、これによりトンネルバリア層3のトンネルバリア層の結晶サイズの均一性および配向性が向上するためであると考えられる。アニール処理としては、Arなどの不活性雰囲気中で、300℃以上500℃以下の温度で、5分以上100分以下の時間加熱した後、2kOe以上10kOe以下の磁場を印加した状態で、100℃以上500℃以下の温度で、1時間以上10時間以下の時間加熱することが好ましい。
(第2実施形態)
第2実施形態は、トンネルバリア層の形成方法のみが第1実施形態と異なる。第1実施形態では、トンネルバリア層は金属膜の形成、酸化、金属膜の形成、酸化を繰り返して形成している。第2実施形態では酸化の工程において基板温度を−70〜−30℃に冷却した後、酸化を行っている。基板を冷却することで、基板と真空の間、あるいは、基板とプラズマの間に温度勾配が生ずる。まず、酸素が基板表面に触れると金属材料と反応して酸化するが、温度が低いため酸化が進まなくなる。これにより、トンネルバリア層の酸素量を調整することが容易になる。また、温度勾配を形成することによって、エピタキシャル成長(格子整合した成長)を調整しやすくなる。結晶成長は温度勾配によって進むため、基板の温度を十分に冷却すると、エピタキシャル成長がし易くなる。また、基板温度が上昇すると、ドメインが形成されて面内に結晶核が複数形成され、結晶核のそれぞれが独立してエピタキシャル成長するため、結晶成長したドメイン同士が接触する部分で格子が整合しない部分が形成される。
トンネルバリア層は、第一の強磁性金属層と第二の強磁性金属層の両方と格子整合している格子整合部分が部分的に存在することが好ましい。一般的には、トンネルバリア層は、第一の強磁性金属層と第二の強磁性金属層の両方と全てが格子整合している方が良い。しなしながら、全てが格子整合しているとトンネルバリア層を通過する際のスピン偏極した電子がお互いに干渉するためトンネルバリア層を通過しにくくなる。逆に、格子整合している格子整合部分が部分的に存在すると、格子整合していない部分でトンネルバリア層を通過する際のスピン偏極した電子の干渉が適度に切断され、スピン偏極した電子がトンネルバリア層を通過しやすくなる。トンネルバリア層全体の体積に対する、トンネルバリア層における格子整合部分の体積比は70〜95%であることが好ましい。トンネルバリア層における格子整合部分の体積比が70%未満である場合には、コヒーレントトンネルの効果が減少するためにMR比が減少してしまうおそれがある。また、トンネルバリア層における格子整合部分の体積比が95%を超える場合には、トンネルバリア層を通過する際のスピン偏極した電子がお互いに干渉する効果を弱められず、スピン偏極した電子がトンネルバリア層を通過する効果の増大が十分に得られないおそれがある。
(格子整合部の体積比の算出方法)
トンネルバリア層3全体の体積における格子整合部分(格子整合部)の体積比は、例えば、TEM像から見積ることができる。格子整合しているかの有無は断面TEM像において、トンネルバリア層3と第一の強磁性金属層6と第二の強磁性金属層7の部分をフーリエ変換して電子線回折像を得る。フーリエ変換して得られた電子線回折像において、積層方向以外の電子線回折スポットを除去する。その図を逆フーリエ変換すると積層方向のみの情報が得られた像となる。この逆フーリエ像における格子線において、トンネルバリア層が第一の強磁性金属層6および第二の強磁性金属層7の両方に連続的に繋がっている部分を格子整合部とする。また、格子線において、トンネルバリア層3が第一の強磁性金属層6および第二の強磁性金属層7のうちの少なくとも一方に連続的に繋がっていないか、格子線が検出されない部分を格子不整合部とする。格子整合部は、逆フーリエ像における格子線において、第一の強磁性金属層6からトンネルバリア層を介して第二の強磁性金属層7まで連続的に繋がっているため、TEM像から格子整合部の幅(L)を計測できる。一方、同様に、格子不整合部は逆フーリエ像における格子線において、連続的に繋がっていないため、TEM像から格子不整合部の幅(L)を計測できる。格子整合部の幅(L)を分子とし、格子整合部分の幅(L)と格子整合されていない部分の幅(L)の和を分母とすることで、トンネルバリア層全体の体積に対する格子整合部の体積比を求めることができる。なお、TEM像は断面像であるが、奥行きを含んだ情報を含んでいる。よって、TEM像から見積られた領域は体積に比例すると考えることができる。
図10はトンネルバリア層と強磁性金属層が格子整合している部分の一例である。図10(a)は高分解能の断面TEM像の例であり、図10(b)は電子線回折像において積層方向以外の電子線回折スポットを除去した後に逆フーリエ変換を行って得られ像の例である。図10(b)では積層方向と垂直な成分は除去され、積層方向に格子線が観測できる。トンネルバリア層と強磁性金属層が界面で途切れることなく、連続的に繋がっていることを示している。
図11はトンネルバリア層3の積層方向に平行な方向を含む断面の構造模式図である。図11に示すように、トンネルバリア層3の格子整合している部分の膜面に対して平行方向の大きさ(幅:L)は、いずれの部分でも30nm以下であることが好ましい。30nmはおよそ第一の強磁性金属層6及び第二の強磁性金属層7の材料であるCoFe合金の格子定数の約10倍であり、コヒーレントトンネルの前後においてトンネルする方向と垂直な方向のスピン偏極電子の相互干渉が格子定数の約10倍程度を目途に増強されると考えることができる。
(実施例1)
以下に、第1実施形態に係る磁気抵抗効果素子の製造方法の一例について説明する。熱酸化珪素膜が設けられた基板1上に、マグネトロンスパッタ法を用いて成膜を行った。先ず、基板1の上面に、下地層2としてTiN 4nmを形成した。下地層2は、ターゲットとしてTiターゲットを使用し、スパッタガスとしてArと窒素とを体積比1対1で含む混合ガスを用いた反応性スパッタ法により10nm程度の膜を形成し、CMP法を用いて研磨して上記厚みの厚みとすることによって得た。次いで、下地層2の上に第一の強磁性金属層6として、CoFe 5nmを形成した。
次に、第一の強磁性金属層6の上に、トンネルバリア層3を形成した。トンネルバリア層3の形成方法を示す。MgIn合金組成のターゲットをスパッタしてMgIn 0.4nmを成膜した。その後、超高真空1×10−8Pa以下に保持された酸化チャンバーに上記試料を移動させ、Arと酸素を導入して自然酸化を行った。自然酸化の時間は10秒、Arと酸素の分圧比は1対25、全ガス圧は0.05Paであった。その後、成膜チャンバーに戻してMgIn 0.4nmを成膜した。さらに、超高真空1×10−8Pa以下に保持された酸化チャンバーに上記試料を移動させ、Arと酸素を導入して自然酸化及び誘導結合プラズマ酸化を行った。自然酸化の時間は30秒、誘導結合プラズマ酸化の時間は5秒であり、Arと酸素の分圧比は1対20、全ガス圧は0.08Paであった。
上記積層膜を再び成膜チャンバーに移動し、第二の強磁性金属層7として、IrMn 12nm/CoFe 10nm/Ru 0.8nm/CoFe 7nmを順に形成した。さらに、キャップ層4としてRu 3nm/Ta 5nmを形成した。
上記積層膜をアニール装置に設置し、Ar中で350℃の温度で10分処理した後、8kOeを印加した状態で250℃の温度で6時間処理した。
次に図8、9に示す構成の磁気抵抗効果デバイスを作製した。まず、キャップ層4の上に、電極層5を形成した。次いで、電極層5の90度回転した向きになるように電子線描画を用いてフォトレジストの形成を行った。イオンミリング法によってフォトレジスト下以外の部分を削り取り、基板である熱酸化珪素膜を露出させ、下地層2の形状を形成した。さらに、下地層2の形状の括れた部分に、電子線描画を用いて80nmの円柱状になる様にフォトレジストを形成し、イオンミリング法によってフォトレジスト下以外の部分を削り取り、下地層2を露出させた。その後、SiOxを絶縁層としてイオンミリングによって削られた部分に形成した。80nmの円柱状のフォトレジストはここで除去した。図8、9の電極パッドの部分だけ、フォトレジストが形成されないようにし、イオンミリング法によって絶縁層を除去し、下地層2を露出させた。その後、Auを形成した。この電極パッド8が上記積層膜の下地層2とのコンタクト電極として機能する。続いて、図8、9の電極層になるように、フォトレジストとイオンミリング法によって形状を形成し、Auを形成した。これが上記積層膜の電極層とのコンタクト電極として機能する。
得られた磁気抵抗効果素子の物性と、トンネルバリア層の組成と構造を下記のようにして評価した。
(特性評価)
上述の評価方法に準じて、得られた磁気抵抗効果素子のMR比及び面積抵抗(RA)を測定した。なお、MR比は、バイアス電圧が0.1Vの条件で測定した。
(トンネルバリア層の組成分析)
トンネルバリア層の組成分析はエネルギー分散型X線分析(EDS)を用いて行った。トンネルバリア層の組成は、Alの含有量(原子個数)を2として、二価の陽イオン(Mg、Zn)の相対量を測定することによって決定した。なお、Oの含有量は測定しなった。但し、一般的に酸化物においてOの量は定量比からずれていても結晶構造を維持することができる。
(トンネルバリア層の構造分析)
トンネルバリア層の構造分析として、結晶構造と格子定数を評価した。
結晶構造は、透過型電子線を用いた電子回折像によって評価した。この手法によってバリア層の構造を調べたところ、規則スピネル構造で現れる{022}面からの反射がない場合は、このバリア層は立方晶の陽イオンが不規則化したスピネル構造(スケネル構造)であるとした。
格子定数は、4軸X線回折装置を用いて評価を行った。格子定数の評価において、実施例のトンネルバリア層の膜厚では格子定数を決定することが困難である。
そのため、トンネルバリア層の格子定数を求めるために熱酸化膜付きSi基板上にトンネルバリア層(厚み100nm)を形成した基板を用いた。熱酸化膜付きSi基板は表面がアモルファスのSiOxであり、トンネルバリア層を形成する際の影響を受けにくい。また、トンネルバリア層(厚み100nm)は基板による格子歪みの影響が十分緩和される膜厚であり、十分な構造解析のためのX線強度を得ることができる膜厚である。
(実施例2)
下地層2としてNbN 4nmを形成したこと以外は、実施例1と同様にして磁気抵抗効果素子を作製し、得られた磁気抵抗効果素子の物性と、トンネルバリア層の組成と構造を評価した。下地層は、ターゲットとしてNbターゲットを使用し、スパッタガスとしてArと窒素とを体積比1対1で含む混合ガスを用いた反応性スパッタ法により10nm程度の膜を形成し、CMP法を用いて研磨して上記の厚みとすることによって得た。
(実施例3)
下地層2としてTaN 4nmを形成したこと以外は、実施例1と同様にして磁気抵抗効果素子を作製し、得られた磁気抵抗効果素子の物性と、トンネルバリア層の組成と構造を評価した。下地層は、ターゲットとしてTaターゲットを使用し、スパッタガスとしてArと窒素とを体積比1対1で含む混合ガスを用いた反応性スパッタ法により10nm程度の膜を形成し、CMP法を用いて研磨して上記の厚みとすることによって得た。
(実施例4)
下地層2としてZrN 4nmを形成したこと以外は、実施例1と同様にして磁気抵抗効果素子を作製し、得られた磁気抵抗効果素子の物性と、トンネルバリア層の組成と構造を評価した。下地層は、ターゲットとしてZrターゲットを使用し、スパッタガスとしてArと窒素とを体積比1対1で含む混合ガスを用いた反応性スパッタ法により10nm程度の膜を形成し、CMP法を用いて研磨して上記の厚みとすることによって得た。
(実施例5)
下地層2としてTaNとTiNを含む混晶であるTa60Ti40N 4nmを形成したこと以外は、実施例1と同様にして磁気抵抗効果素子を作製し、得られた磁気抵抗効果素子の物性と、トンネルバリア層の組成と構造を評価した。下地層は、ターゲットとしてTa−Ti合金ターゲットを使用し、スパッタガスとしてArと窒素とを体積比1対1で含む混合ガスを用いた反応性スパッタ法により10nm程度の膜を形成し、CMP法を用いて研磨して上記の厚みとすることによって得た。
(実施例6)
トンネルバリア層3を下記のようにして形成したこと以外は、実施例2と同様にして磁気抵抗効果素子を作製し、得られた磁気抵抗効果素子の物性と、トンネルバリア層の組成と構造を評価した。
ZnIn合金組成のターゲットをスパッタしてZnIn 0.4nmを成膜した。その後、超高真空1×10−8Pa以下に保持された酸化チャンバーに上記試料を移動させ、Arと酸素を導入して自然酸化を行った。自然酸化の時間は10秒、Arと酸素の分圧比は1対25、全ガス圧は0.05Paであった。その後、成膜チャンバーに戻してZnIn 0.4nmを成膜した。さらに、超高真空1×10−8Pa以下に保持された酸化チャンバーに上記試料を移動させ、Arと酸素を導入して自然酸化及び誘導結合プラズマ酸化を行った。自然酸化の時間は30秒、誘導結合プラズマ酸化の時間は5秒であり、Arと酸素の分圧比は1対20、全ガス圧は0.08Paであった。
(実施例7)
トンネルバリア層3と第二の強磁性金属層7とを下記のようにして形成したこと以外は、実施例3と同様にして磁気抵抗効果素子を作製し、特性評価、トンネルバリア層の構造解析を行った。
トンネルバリア層3は次のようにして形成した。Mg0.77In合金組成のターゲットをスパッタしてMg0.77In 0.4nmを成膜した。その後、超高真空1×10−8Pa以下に保持された酸化チャンバーに上記試料を移動させ、Arと酸素を導入して自然酸化を行った。自然酸化の時間は10秒、Arと酸素の分圧比は1対25、全ガス圧は0.05Paであった。その後、成膜チャンバーに戻してMg0.77In合金組成のターゲットをスパッタしてMg0.77In 0.4nmを成膜した。さらに、超高真空1×10−8Pa以下に保持された酸化チャンバーに上記試料を移動させ、Arと酸素を導入して自然酸化及び誘導結合プラズマ酸化を行った。自然酸化の時間は30秒、誘導結合プラズマ酸化の時間は5秒であり、Arと酸素の分圧比は1対20、全ガス圧は0.08Paであった。
第二の強磁性金属層7は、CoMn0.7Fe0.3Si0.66Al0.36合金組成をCoFeの代わりに成膜した。第二の強磁性金属層7として、IrMn 12nm/CoFe 10nm/Ru 0.8nm/CoFe 2nm/CoMn0.7Fe0.3Si0.66Al0.36 5nmを順に形成した。但し、CoMn0.7Fe0.3Si0.66Al0.36合金組成を成膜する時のみ、450℃に基板を温めて形成した。
(比較例1)
下地層2としてVN 4nmを形成したこと以外は、実施例1と同様にして磁気抵抗効果素子を作製し、得られた磁気抵抗効果素子の物性と、トンネルバリア層の組成と構造を評価した。下地層は、ターゲットとしてVターゲットを使用し、スパッタガスとしてArと窒素とを体積比1対1で含む混合ガスを用いた反応性スパッタ法により10nm程度の膜を形成し、CMP法を用いて研磨して上記の厚みとすることによって得た。
(実施例と比較例の比較)
表1に実施例1〜7と比較例1で作製した磁気抵抗効果素子の各層の組成、下地層2を構成する窒化物の格子定数、トンネルバリア層3を構成する化合物の格子定数、下地層2とトンネルバリア層3の格子整合度、MR比、面積抵抗(RA)を示す。なお、窒化物の格子定数は、結晶構造が正方晶構造(NaCl構造)で、空間群がFm−3mであるときの値である。また、格子整合度は、前述の計算式のnを1として算出した値である。
なお、実施例1〜7および比較例1で作製した磁気抵抗効果素子のトンネルバリア層3は、いずれも不規則化したスピネル構造(スケネル構造)であった。
実施例1〜7で作製した磁気抵抗効果素子は、比較例1で作製した磁気抵抗効果素子と比較してMR比が高く、RAが低いことがわかる。これは、実施例1〜7の磁気抵抗効果素子は、比較例1の磁気抵抗効果素子と比較してトンネルバリア層を構成する材料の結晶の格子定数と下地層を構成する窒化物がとりうる結晶の格子定数との格子整合度が小さいためであると考えられる。
特に、トンネルバリア層が不規則スピネル構造(Mg0.77In)で構成され、第一の強磁性金属層にホイスラー合金を用いた実施例7の磁気抵抗効果素子は、MR比が高く、RAが低いことがわかる。
以上の実施例の結果から、本発明によれば、低いRAにおいて高いMR比を生じる磁気抵抗効果素子が得られることが確認された。
100…磁気抵抗効果素子、200…磁気抵抗効果デバイス、1…基板、2…下地層、3…トンネルバリア層、4…キャップ層、5…電極層、6…第一の強磁性金属層、7…第二の強磁性金属層、8…電極パッド、71…電流源、72…電圧計

Claims (8)

  1. 下地層と、
    第一の強磁性金属層と、
    トンネルバリア層と、
    第二の強磁性金属層と、がこの順に積層された積層体を有し、
    前記下地層は、TiN、NbN、TaN、ZrNまたはこれらの混晶で構成され、
    前記トンネルバリア層は、スピネル構造を有する下記の組成式(1)で表される化合物で構成されていることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
    (1):AIn
    式中、Aは、非磁性の二価の陽イオンであり、マグネシウム及び亜鉛からなる群から選択された1種以上の元素の陽イオンを表し、
    xは、0<x≦2を満足する数を、yは、0<y≦4を満足する数を表す。
  2. 前記トンネルバリア層は、前記第一の強磁性金属層と前記第二の強磁性金属層の両方と格子整合している格子整合部と、
    前記第一の強磁性金属層と前記第二の強磁性金属層の少なくとも一方と格子整合していない格子不整合部と、
    を有していることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素子。
  3. 前記トンネルバリア層は原子配列が不規則化したスピネル構造であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
  4. 前記第二の強磁性金属層の保磁力は、
    前記第一の強磁性金属層の保磁力よりも大きいことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
  5. 前記トンネルバリア層の膜厚が0.7nm以上1.7nm以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
  6. 前記下地層の膜厚は1.0nm以上20.0nm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
  7. 前記第一の強磁性金属層と前記第二の強磁性金属層の少なくともいずれか一方が積層方向に対して垂直な磁気異方性を持っていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
  8. 前記第一の強磁性金属層と前記第二の強磁性金属層の少なくともいずれか一方がCoMn1−aFeAlSi1−b(0≦a≦1,0≦b≦1)であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
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